説明

半導体素子の製造方法

【課題】結晶成長装置へ負担をかけず、かつデバイス特性の劣化やばらつきを生じさせずに、凹型形状を表面に有する半導体部の表面にその凹型形状を維持して半導体層を成長した半導体素子を製造できる半導体素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】(001)面を有する底面と低指数面を有する内側面とで形成された凹型形状を表面に有する凹型半導体部を形成する凹型半導体部形成工程と、前記凹型半導体部の表面に、エチル基を有する成長原料を用いて、前記成長原料の再蒸発領域の温度で半導体層を成長する半導体層成長工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凹型形状を有する半導体素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、完全分離閉じ込め構造(DCH:Decoupled Confinement Heterostructure)を有する自己整合型(SAS:Self-aligned Structure)の半導体レーザ素子(以下、DCH−SAS型半導体レーザ素子という)が開示されている(特許文献1参照)。以下、従来のDHC−SAS型半導体レーザ素子の構造とその製造方法について説明する。
【0003】
図8は、従来のDHC−SAS型半導体レーザ素子の断面構造の一例を模式的に表した図である。この半導体レーザ素子400を製造する場合、表面が結晶面の(001)面で導電型がn型のGaAs基板401上に、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法、有機金属分子ビームエピタキシー(Metal Organic Molecular Beam Epitaxy:MOMBE)法、あるいはガスソースMBE法により、導電型がn型のn−GaAsバッファー層402、n−AlGaAsクラッド層403、n−GaAs光導波路層404、n−AlGaAsキャリアブロック層405を成長させる。つぎに、n−AlGaAsキャリアブロック層405上に、InGaAsからなる井戸層とGaAsからなる障壁層とを有するInGaAs/GaAs量子井戸層406を成長する。つぎに、InGaAs/GaAs量子井戸層406上に、導電型がp型のp−AlGaAsキャリアブロック層407、p−GaAs光導波路層408を成長する。
【0004】
つぎに、p−GaAs光導波路層408上にn−GaAs層を成長し、フォトリソグラフィーとエッチングによりこのn−GaAs層の一部を除去して、奥行き方向に延びたストライプ状の電流ブロック層409a、409bを形成する。このとき、エッチングにより露出したp−GaAs光導波路層408の表面がストライプ状の底面を構成し、電流ブロック層409a、409bの側面が内側面を構成する凹型形状が形成される。p−GaAs光導波路層408の表面は(001)面である。一方、電流ブロック層409a、409bの側面は(111)面などの低指数面であり、(001)面に対して傾斜を有する。なお、本明細書において低指数面とは、(111)面ないし(311)面の結晶面を意味する。そして、(001)面に対する傾斜角度が(311)面より小さい(511)面、(711)などの結晶面を高指数面という。
【0005】
つぎに、p−GaAs光導波路層408の露出した表面ならびに電流ブロック層409a、409bの表面および側面にp−AlGaAsクラッド層412、p−GaAsクラッド層413、p−GaAsコンタクト層414を順次成長する。そして、GaAs基板401の底面にAuGeNi/Auからなるn側電極を形成し、p−GaAsコンタクト層414の表面にTi/Pt/Auからなるp側電極を形成した後、所定の大きさに切断して、半導体レーザ素子400とする。電極からの電流注入によりInGaAs/GaAs量子井戸層406から発生する光は、n−GaAs光導波路層404とp−GaAs光導波路層408とにより積層方向に閉じ込められ、電流ブロック層409a、409bにより積層方向と垂直の方向に閉じ込められる。
【0006】
しかし、従来は、p−AlGaAsクラッド層412、p−GaAsクラッド層413、p−GaAsコンタクト層414の形状が所望の形状にならない場合があった。図9は、図8に示すp−AlGaAsクラッド層412の形状を説明する図である。p−GaAs光導波路層408の表面が底面410cを構成し、電流ブロック層409a、409bの側面が内側面410a、410bを構成する凹型形状410を有する部分の上にp−AlGaAsクラッド層412を成長する場合を考える。すると、p−AlGaAsクラッド層412の表面の凹型形状は、凹型形状410の形状が維持されず、p−AlGaAsクラッド層412のように内側面が底面に対して傾斜角度が小さい高指数面となって底面の幅が狭くなったり、p−AlGaAsクラッド層412´のように内側面と底面が同じ厚さで成長することにより底面の幅が狭くなったりする場合があった。
【0007】
このようにp−AlGaAsクラッド層412の表面が底面が狭い凹型形状になると、素子の特性が所望の特性にならない場合がある。
【0008】
そこで、凹型形状を表面に有する半導体部の表面にその凹型形状を維持して半導体層を成長させるために、高温で半導体層を成長したり、成長原料においてIII族元素であるGaに対するV族元素であるAsの比を高くしたいわゆる高V/III比として半導体層を成長したりするなどの方法が取られていた。
【0009】
【特許文献1】特開2003−152279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、高温や高V/III比の成長条件下では、結晶成長装置への負荷が非常に大きくなる。また、高V/III比の成長条件下では、結晶成長装置に備えらえた下流配管やフィルターへのAsなどを含むV族化合物の付着が激しくなり、装置のメンテナンス周期が非常に短い物となり、製造効率の低下を引き起こすという問題があった。また、高温での成長条件下では、成長した異なる半導体層間でのドーパントの拡散や混晶化が促進され、その結果製造する素子の特性の劣化やばらつきが生じるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、結晶成長装置に負担をかけず、かつ素子特性の劣化やばらつきを生じさせずに、凹型形状を表面に有する半導体部の表面にその凹型形状を維持して半導体層を成長した半導体素子を製造できる半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る半導体素子の製造方法は、(001)面を有する底面と低指数面を有する内側面とで形成された凹型形状を表面に有する凹型半導体部を形成する凹型半導体部形成工程と、前記凹型半導体部の表面に、エチル基を有する成長原料を用いて、前記成長原料の再蒸発領域の温度で半導体層を成長する半導体層成長工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記半導体層は、GaAsまたはAlGaAsのいずれかからなることを特徴とする。
【0014】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記成長原料は、トリエチルガリウムまたはトリエチル砒素であることを特徴とする。
【0015】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記半導体層成長工程は、ジエチル亜鉛を用いて前記半導体層に亜鉛を添加することを特徴とする。
【0016】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記半導体層に炭素を5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下の濃度で添加することを特徴とする。
【0017】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記半導体層成長工程は、有機金属気相成長法、有機金属分子ビームエピタキシー法、ガスソース分子ビームエピタキシー法のいずれか一つを用いることを特徴とする。
【0018】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記凹型半導体部形成工程は、半導体基板上に該半導体基板と同一の導電型を有する下部クラッド層および下部光導波路層を成長し、前記下部光導波路層上に活性層を成長し、前記活性層上に前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部光導波路層を成長する積層成長工程と、前記上部光導波路層上に、前記半導体基板と同一の導電型を有する電流ブロック層を、前記上部光導波路層の表面が前記凹型形状の底面を構成し、該電流ブロック層の側面が前記凹型形状の内側面を構成するように形成する電流ブロック層形成工程と、を含み、前記半導体層成長工程は、前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部クラッド層を成長することを特徴とする。
【0019】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記凹型半導体部形成工程は、半導体基板上に前記凹型形状を形成し、前記半導体層成長工程は、前記半導体基板上に該半導体基板と同一の導電型を有する下部クラッド層および下部光導波路層を成長し、前記下部光導波路層上に活性層を成長し、前記活性層上に前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部光導波路層を成長する積層成長工程と、前記上部光導波路層上に、前記半導体基板と同一の導電型を有する電流ブロック層を、前記上部光導波路層の表面が凹型形状の底面を構成し、該電流ブロック層の側面が凹型形状の内側面を構成するように形成する電流ブロック層形成工程と、前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部クラッド層を成長する上部クラッド層成長工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記積層成長工程は、前記下部光導波路層と前記活性層との間に前記半導体基板と同一の導電型を有する下部キャリアブロック層を成長し、前記活性層と前記上部導波路層との間に前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部キャリアブロック層を成長するキャリアブロック層成長工程を含むことを特徴とする。
【0021】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記電流ブロック層形成工程は、前記上部光導波路層上に成長した半導体層をエッチングして前記電流ブロック層を形成することを特徴とする。
【0022】
また、この発明に係る半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記電流ブロック層形成工程は、前記上部光導波路層上の所定の領域に半導体層を選択的に成長して前記電流ブロック層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、エチル基を有する成長原料を用いてこの成長原料の再蒸発領域の温度で半導体層を成長するので、従来より成長温度が低温で成長原料が低V/III比であっても、凹型形状を表面に有する半導体部の表面にその凹型形状を維持して半導体層を成長することができる。その結果、結晶成長装置へ負担をかけず、かつ素子特性の劣化やばらつきを生じさせずに半導体素子を製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明に係る半導体素子の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る半導体素子の製造方法を説明する図である。本実施の形態1に係る半導体素子の製造方法は、DCH−SAS型の半導体レーザ素子を製造する方法である。
【0026】
まず、MOCVD法を用いて、(001)面を有し導電型がn型のGaAs基板101上に、導電型がn型のn−GaAsバッファー層102、n−AlGaAsクラッド層103、n-GaAs光導波路層104、n−AlGaAsキャリアブロック層105を成長し、InGaAsからなる井戸層とGaAsからなる障壁層とを有するInGaAs/GaAs量子井戸層106を成長し、導電型がp型のp−AlGaAsキャリアブロック層107、p−GaAs光導波路層108を成長する(ステップS11)。InGaAs/GaAs量子井戸層106における井戸層は1層あるいは2層以上の複数層のいずれでもよい。このときの成長原料はトリメチルガリウム(TMGa:(CH33Ga)、アルシン(AsH3)、トリメチルアルミニウム(TMA:(CH33Al)、トリメチルインジウム(TMI:(CH33Al)などを用いる。
【0027】
つぎに、p−GaAs光導波路層108上にSiO2またはSiNxからなるパッシベーション膜を形成し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、電流経路となる領域に奥行き方向に延びたストライプ状のパッシベーション膜を残す。つぎに、パッシベーション膜を除去した領域にn−AlGaAs層およびn−GaAs層の2層からなる電流ブロック層109a、109bを選択的に成長する。その後、p−GaAs光導波路層108の表面に残したパッシベーション膜を除去する。その結果、p−GaAs光導波路層108の表面を底面110cとし、電流ブロック層109a、109bの側面を内側面110a、110bとするストライプ状の凹型形状110を有する凹型半導体部111が形成される(ステップS12)。内側面110a、110bは低指数面である(111)面であり、(100)面に対して約55度の傾斜を有する。
【0028】
つぎに、凹型半導体部111の表面に、TMGa、AsH3と、エチル基を有する成長原料であるトリエチルガリウム(TEGa:(C253Ga)、トリエチル砒素(TEAs:(C253As)とp型ドーパントである亜鉛を含むジエチル亜鉛(DEZn:(C252Zn)、ジメチル亜鉛(DMZn:(CH32Zn)を用いて、TEGaの再蒸発領域の温度である600℃から700℃でp−AlGaAsクラッド層112、p−GaAsクラッド層113、p−GaAsコンタクト層114を成長する。そして、GaAs基板101の底面にAuGeNi/Auからなるn側電極を形成し、p−GaAsコンタクト層114の表面にTi/Pt/Auからなるp側電極を形成した後、所定の大きさに切断して、半導体レーザ素子100とする(ステップS13)。
【0029】
エチル基を有する成長原料を用いて、成長原料の再蒸発領域の温度でp−AlGaAsクラッド層112、p−GaAsクラッド層113、p−GaAsコンタクト層114を成長すると、これらの成長した半導体層の表面においても凹型半導体部111が有する凹型形状110の形状が維持される。この作用について以下に説明する。
【0030】
図2は、MOCVD法を用い、成長原料をTEGaとTMGaとしてGaAsからなる半導体層を成長する場合の、成長温度と(001)面の成長速度との関係を示す図である。半導体層の成長温度は反応律則領域、供給律則領域、再蒸発領域に分類される。反応律則領域とは、成長速度が成長原料の分解速度により律則される温度領域である。また、供給律則領域とは、成長原料が100%分解され、成長速度が成長原料の供給速度により律則される温度領域である。また、再蒸発領域とは、基板表面に堆積したGaが再蒸発することにより成長速度が低下する温度領域である。
【0031】
TEGaはエチル基の性質により分解温度が低いので、図2に示すように、TEGaの反応律則領域T1、供給律則領域T2、再蒸発領域T3は、それぞれTMGaの反応律則領域T4、供給律則領域T5、再蒸発領域T6よりも小さい。TMGaの再蒸発領域T6の下限は約830℃であり、上限はMOCVD装置に依存するが例えば950℃である。一方、TEGaの再蒸発領域T3の下限は約600℃であり、再蒸発領域T6の下限より230℃程度低い。
【0032】
従来は、特に大型の結晶成長装置においては、半導体層の成長速度が速いTMGaを成長原料として用いていたので、再蒸発領域の温度で半導体層を成長する場合は成長温度を高くする必要があった。しかし、本実施の形態1においては、再蒸発領域の温度が低いTEGaを用いて、再蒸発領域の温度で半導体層を成長する。その結果、従来より成長温度が低温で成長原料が低V/III比であっても、凹型半導体部111上に成長したp−AlGaAsクラッド層112、p−GaAsクラッド層113、p−GaAsコンタクト層114の各表面において、凹型半導体部111の凹型形状110が維持される。
【0033】
なお、図3に示すように、半導体層の成長は、TEGa分子M1が基板表面Sの近傍でGa原子M2とエチル基M3に分解し、Ga原子M2が基板表面S上に堆積することにより起こる。しかし、TEGaの再蒸発領域T3の温度においては、Ga原子M2の一部が基板表面Sの近傍に存在するエチル基M3と再び結合して、TEGa分子M4として再蒸発すると考えられる。発明者は、鋭意検討した結果、このような再蒸発がおこることにより、成長する半導体層において凹型形状の内側面がもとの内側面よりも傾斜の緩やかな結晶面にはならないと考えた。
【0034】
なお、本実施の形態1のように、成長原料がTEGaとTMGaとを混合させたものでも、上記のようなエチル基によるGaの再蒸発が起きるので本発明の効果が得られる。図2に示すようにTEGaとTMGaとでは成長速度に差があるが、例えば3μm/hの成長速度を得るための成長原料の供給量は、TEGaの場合は毎分500〜1000mlであり、TMGaの場合は毎分50mlである。したがって、所望の成長速度に応じて、TEGaとTMGaの混合比を調整することができる。たとえば、3μm/hの成長速度を得るために、TEGaとTMGaの混合比は6:4程度とすることができる。
【0035】
本発明の効果を確認するために、本実施の形態1に係る製造方法で製造される表面の凹型形状を維持して半導体層を成長する半導体レーザ素子と、従来例の製造方法で製造される成長する半導体層の凹型形状の底面が狭くなる半導体レーザ素子のそれぞれから放出されるレーザ光のビーム形状について、シミュレーションにより計算した。
【0036】
図4は、シミュレーションに用いた半導体レーザ素子120の構造を示す図である。シミュレーションに用いた主なパラメータは以下のとおりである。電流ブロック層122a、122bのn−Al0.09GaAs層およびn−GaAs層の厚さ:180nmおよび50nm、p−GaAsクラッド層123の厚さ:350nm、p−Al0.16GaAsクラッド層124の厚さ:50nm、p−Al0.32GaAsコンタクト層125の厚さ:780nmである。また、本実施の形態1の場合は、底面の幅126の値を3.2μm、内側面の積層面方向の幅127の値を0μmとし、従来例の場合は、底面の幅126の値を2.0μm、内側面の積層面方向の幅127の値を0.6μmとした。なお、積層部121は、図1に示す半導体レーザ素子と同様にGaAs基板ないしp−GaAs光導波路層が積層された構造を有する。
【0037】
図5は、本実施の形態1に係る製造方法と従来例の製造方法のそれぞれを用いて製造される半導体レーザ素子から放出されるレーザ光のビーム形状を示す図である。なお、横軸はレーザ光の光強度が最大となる中心位置からの距離であり、縦軸は光強度である。図5に示すように、本実施の形態1に係る製造方法で製造される半導レーザ素子は、ビーム形状が望ましい単峰型となるが、従来例の製造方法で製造される半導体レーザ素子は、ビーム形状が二つに分離したピークを有する望ましくない形状となることが確認された。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法によれば、TEGaを成長原料としてTEGaの再蒸発領域の温度で半導体層を成長するので、従来より成長温度が低温で成長原料が低V/III比であっても、凹型形状を表面に有する半導体部の表面にその凹型形状を維持ながら半導体層を成長して半導体レーザ素子を製造することができる。その結果、半導体レーザ素子の製造の際に結晶成長装置へ負担をかけないので、装置のメンテナンス周期を長くでき、製造効率の低下を防止できる。また、成長した異なる半導体層間でのドーパントの拡散や混晶化が抑制され、その結果製造する素子の特性の劣化やばらつきが生じない。さらに、層方向の光閉じ込めを行うための電流ブロック層とp−AlGaAsクラッド層との屈折率差を安定化させることができるため、素子の製造歩留まりの安定化を図ることも可能となる。
【0039】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る半導体素子の製造方法について説明する。本実施の形態2に係る半導体素子の製造方法は、実施の形態1に係るDCH−SAS型の半導体レーザ素子の製造方法とほぼ同様であるが、半導体層を成長しそれをエッチングして電流ブロック層を形成する点が異なる。
【0040】
図6は、本実施の形態2に係る半導体素子の製造方法を説明する図である。まず、実施の形態1と同様に、MOCVD法を用いて、(001)面を有し導電型がn型のGaAs基板201上に、n−GaAsバッファー層202、n−AlGaAsクラッド層203、n-GaAs光導波路層204、n−AlGaAsキャリアブロック層205、InGaAs/GaAs量子井戸層206、p−AlGaAsキャリアブロック層207、p−GaAs光導波路層208を成長する。そして、p−GaAs光導波路層208上に、n−GaAs層209を成長する(ステップS21)。
【0041】
つぎに、n−GaAs層209上にSiO2またはSiNxからなるパッシベーション膜を形成し、フォトリソグラフィーとエッチングにより電流経路となるストライプ状の領域のパッシベーション膜を除去し、さらにパッシベーション膜を除去した領域のn−GaAs層209をエッチングにより除去して電流ブロック層209a、209bを形成し、その後電流ブロック層209a、209b上のパッシベーション膜を除去する。その結果、p−GaAs光導波路層208の露出した表面を底面210cとし、電流ブロック層209a、209bの側面を内側面210a、210bとするストライプ状の凹型形状210を有する凹型半導体部211が形成される(ステップS22)。内側面210a、210bは低指数面である(111)面である。
【0042】
つぎに、凹型半導体部211の表面に、TMGa、AsH3、DMZn、TEGa、TEAs、DEZnを用いて、TEGaの再蒸発領域の温度である600℃から700℃でp−AlGaAsクラッド層212、p−GaAsクラッド層213、p−GaAsコンタクト層214を成長する(ステップS23)。そして、GaAs基板201の底面にAuGeNi/Auからなるn側電極を形成し、p−GaAsコンタクト層214の表面にTi/Pt/Auからなるp側電極を形成した後、所定の大きさに切断して、半導体レーザ素子200とする。
【0043】
本実施の形態2に係る半導体レーザ素子の製造方法によれば、実施の形態1の場合と同様に、半導体レーザ素子の製造の際に結晶成長装置へ負担をかけないので、装置のメンテナンス周期を長くでき、製造効率の低下を防止できる。また、製造する素子の特性の劣化やばらつきが生じない。また、素子の製造歩留まりの安定化を図ることも可能となる。
【0044】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3に係る半導体素子の製造方法について説明する。本実施の形態3に係る半導体素子の製造方法は、実施の形態1に係るDCH−SAS型の半導体レーザ素子の製造方法とほぼ同様であるが、GaAs基板の表面を凹型形状に加工してから半導体層の積層を行う点と、p型ドーパントとして炭素を添加する点が異なる。
【0045】
図7は、本実施の形態3に係る半導体素子の製造方法を説明する図である。まず、(001)面を有し導電型がn型のGaAs基板301上にSiO2またはSiNxからなるパッシベーション膜を形成し、フォトリソグラフィーとエッチングにより所定のストライプ状の領域のパッシベーション膜を除去し、さらにパッシベーション膜を除去した領域のGaAs基板301をエッチングにより加工することによって、(001)面を有する底面310cと、(111)面を有する内側面310a、310bとで形成されたストライプ状の凹型形状310を表面に複数有する凹型半導体部311を形成する(ステップS31)。
【0046】
つぎに、実施の形態1と同様に、MOCVD法を用いて、GaAs基板301の凹型半導体部311の表面に、TMGa、AsH3、TEGa、TEAsを用いて、TEGaの再蒸発領域の温度である600℃から700℃でn−GaAsバッファー層302、n−AlGaAsクラッド層303、n-GaAs光導波路層304、n−AlGaAsキャリアブロック層305、InGaAs/GaAs量子井戸層306を成長する。さらに、上記成長原料およびp型ドーパントである炭素を含む四臭化炭素(CBr4)を用いて、p−AlGaAsキャリアブロック層307、p−GaAs光導波路層308を成長する。そして、実施の形態1と同様の方法で、p−GaAs光導波路層308上に、電流ブロック層309a、309bを形成する(ステップS32)。その結果、実施の形態1と同様に、p−GaAs光導波路層308の露出した表面を底面とし、電流ブロック層309a、309bの側面を内側面とするストライプ状の凹型形状が形成される。
【0047】
つぎに、p−GaAs光導波路層308の露出した表面と電流ブロック層309a、309bの表面および側面との上に、TMGa、AsH3、TEGa、TEAs、CBr4を用いて、TEGaの再蒸発領域の温度である600℃から700℃でp−AlGaAsクラッド層312、p−GaAsクラッド層313、p−GaAsコンタクト層314を成長する。そして、GaAs基板301の底面にAuGeNi/Auからなるn側電極を形成し、p−GaAsコンタクト層314の表面にTi/Pt/Auからなるp側電極を形成した後、所定の大きさに切断して、半導体レーザ素子300とする(ステップS33)。
【0048】
本実施の形態3に係る半導体レーザ素子の製造方法によれば、実施の形態1の場合と同様に、半導体レーザ素子の製造の際に結晶成長装置へ負担をかけないので、装置のメンテナンス周期を長くでき、製造効率の低下を防止できる。また、製造する素子の特性の劣化やばらつきが生じない。また、素子の製造歩留まりの安定化を図ることも可能となる。
【0049】
さらに、p型ドーパントである炭素は拡散係数が小さく、他の半導体層に拡散しにくいので、成長する各半導体層を所定のキャリア濃度に保つことができる。その結果、製造する素子の特性の劣化やばらつきが一層抑制される。また、TEGaの再蒸発領域である600〜700℃は、半導体層に炭素を高濃度で効率的に添加できる温度領域である。その結果、炭素を5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下という好ましい濃度で添加して各半導体層を成長することができる。
【0050】
なお、上記の実施の形態1または2においては、p型ドーパントとして亜鉛を用いるが、実施の形態3と同様に炭素を用いてもよい。また、実施の形態3においては、実施の形態1と同様に電流ブロック層を選択成長により形成するが、実施の形態2と同様に、エッチングにより形成してもよい。また、実施の形態1〜3においては、MOCVD法を用いて半導体層を成長するが、MOMBE法やガスソースMBE法を用いてもよい。また、実施の形態1〜3においては、成長原料としてTEGa、TEAsにTMGa、AsH3を混合したものを用いるが、TEGa、TEAsなどのエチル基を有する成長原料のみを用いてもよい。また、実施の形態1〜3においては、DCH構造を有する半導体レーザ素子を製造するが、SHC(Separate Confinement Heterostructure)構造を有する半導体レーザ素子を製造する場合は、各キャリアブロック層を成長しなくてもよい。また、実施の形態1〜3は、半導体レーザ素子を製造する製造方法であるが、本発明によれば、凹型の表面形状を有する凹型半導体部の表面に凹型形状を維持したまま半導体層を成長した構造を有する様々な電子デバイス用の半導体素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態1に係る半導体素子の製造方法を説明する図である。
【図2】成長温度と(001)面の成長速度との関係を示す図である。
【図3】TEGaの最蒸発を説明する図である。
【図4】シミュレーションに用いた半導体レーザ素子の構造を示す図である。
【図5】実施の形態1に係る製造方法と従来例の製造方法のそれぞれを用いて製造される半導体レーザ素子から放出されるレーザ光のビーム形状を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る半導体素子の製造方法を説明する図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る半導体素子の製造方法を説明する図である。
【図8】従来のDHC−SAS型半導体レーザ素子の断面構造の一例を模式的に表した図である。
【図9】図8に示すp−AlGaAsクラッド層の形状を説明する図である。
【符号の説明】
【0052】
100〜400 半導体レーザ素子
101〜401 GaAs基板
102〜402 n−GaAsバッファー層
103〜403 n−AlGaAsクラッド層
104〜404 n-GaAs光導波路層
105〜405 n−AlGaAsキャリアブロック層
106〜406 GaAs/InGaAs量子井戸層
107〜407 p−AlGaAsキャリアブロック層
108〜408 p−GaAs光導波路層
109a〜409a、109b〜409b 電流ブロック層
110〜410 凹型形状
110a〜410a、110b〜410b 内側面
110c〜410c 底面
111〜411 凹型半導体部
112〜412、412´ p−AlGaAsクラッド層
113〜413 p−GaAsクラッド層
114〜414 p−GaAsコンタクト層
209 n−GaAs層
M1、M4 TMGa分子
M2 Ga原子
M3 エチル基
S 基板表面
T1、T4 反応律則領域
T2、T5 供給律則領域
T3、T6 再蒸発領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(001)面を有する底面と低指数面を有する内側面とで形成された凹型形状を表面に有する凹型半導体部を形成する凹型半導体部形成工程と、
前記凹型半導体部の表面に、エチル基を有する成長原料を用いて、前記成長原料の再蒸発領域の温度で半導体層を成長する半導体層成長工程と、
を含むことを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記半導体層は、GaAsまたはAlGaAsのいずれかからなることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記成長原料は、トリエチルガリウムまたはトリエチル砒素であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記半導体層成長工程は、ジエチル亜鉛を用いて前記半導体層に亜鉛を添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記半導体層成長工程は、前記半導体層に炭素を5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下の濃度で添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記半導体層成長工程は、有機金属気相成長法、有機金属分子ビームエピタキシー法、ガスソース分子ビームエピタキシー法のいずれか一つを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記凹型半導体部形成工程は、
半導体基板上に該半導体基板と同一の導電型を有する下部クラッド層および下部光導波路層を成長し、前記下部光導波路層上に活性層を成長し、前記活性層上に前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部光導波路層を成長する積層成長工程と、
前記上部光導波路層上に、前記半導体基板と同一の導電型を有する電流ブロック層を、前記上部光導波路層の表面が前記凹型形状の底面を構成し、該電流ブロック層の側面が前記凹型形状の内側面を構成するように形成する電流ブロック層形成工程と、
を含み、
前記半導体層成長工程は、前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部クラッド層を成長することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記凹型半導体部形成工程は、半導体基板上に前記凹型形状を形成し、
前記半導体層成長工程は、
前記半導体基板上に該半導体基板と同一の導電型を有する下部クラッド層および下部光導波路層を成長し、前記下部光導波路層上に活性層を成長し、前記活性層上に前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部光導波路層を成長する積層成長工程と、
前記上部光導波路層上に、前記半導体基板と同一の導電型を有する電流ブロック層を、前記上部光導波路層の表面が凹型形状の底面を構成し、該電流ブロック層の側面が凹型形状の内側面を構成するように形成する電流ブロック層形成工程と、
前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部クラッド層を成長する上部クラッド層成長工程と、
を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記積層成長工程は、前記下部光導波路層と前記活性層との間に前記半導体基板と同一の導電型を有する下部キャリアブロック層を成長し、前記活性層と前記上部導波路層との間に前記半導体基板とは反対の導電型を有する上部キャリアブロック層を成長するキャリアブロック層成長工程を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記電流ブロック層形成工程は、前記上部光導波路層上に成長した半導体層をエッチングして前記電流ブロック層を形成することを特徴とする請求項7〜9のいずれか一つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記電流ブロック層形成工程は、前記上部光導波路層上の所定の領域に半導体層を選択的に成長して前記電流ブロック層を形成することを特徴とする請求項7〜9のいずれか一つに記載の半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−250888(P2007−250888A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73148(P2006−73148)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】