説明

半導体装置および半導体装置の製造方法

【課題】半導体素子が繰り返し高温で動作してヒートサイクルを受ける場合も、封止樹脂に亀裂が生じたり、基板から剥離を起こしたりし難い信頼性の高い半導体装置を提供する。
【解決手段】絶縁基板の片面に表面電極パターンが、および絶縁基板の他の面に裏面電極パターンが、それぞれ形成された半導体素子基板と、表面電極パターンの、絶縁基板とは反対側の面に接合材を介して固着された半導体素子と、この半導体素子および表面電極パターンを覆う第一の封止樹脂と、絶縁基板の表面で、少なくとも表面電極パターンまたは裏面電極パターンが形成されていない部分と第一の封止樹脂とを覆う第二の封止樹脂と、を備え、第二の封止樹脂の弾性率は、第一の封止樹脂の弾性率よりも小さくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置、特に高温で動作する半導体装置の実装構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業機器や電鉄、自動車の進展に伴い、それらに使用される半導体素子の使用温度も向上している。近年、高温でも動作する半導体素子の開発が精力的に行われ、半導体素子の小型化や高耐圧化、高電流密度化が進んでいる。特に、SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体は、Si半導体よりもバンドギャップが大きく、半導体装置の高耐圧化、小型化、高電流密度化、高温動作が期待されている。このような特徴を持つ半導体素子を装置化するためには、半導体素子が150℃以上の高温で動作する場合も、接合材のクラックや配線の劣化を抑えて半導体装置の安定な動作を確保する必要がある。
【0003】
一方、半導体装置において半導体素子を樹脂で封止する方法として、特許文献1には、ダム材を用いて半導体素子の周囲を囲い、その内側を部分的に樹脂封止する方法が提案されている。また、特許文献2には、半導体素子を覆う樹脂が流れ広がるのを防止するために、半導体素子の周囲にダムを設ける方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−124401号公報
【特許文献2】特開昭58−17646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている方法では、半導体素子がSiCなどワイドバンドギャップ半導体素子になって、これまで以上に高温で動作したり、これに対応してヒートサイクル試験の温度が高温になったりすると、ダム構造へのボイドの混入や、ダムと封止樹脂および絶縁基板の剥離により、半導体装置の絶縁耐性が低下し、破壊や誤動作など半導体装置の信頼性を損ねる課題があった。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、半導体素子が繰り返し高温で動作してヒートサイクルを受ける場合も、封止樹脂に亀裂が生じたり、基板から剥離を起こしたりし難い信頼性の高い半導体装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の半導体装置は、絶縁基板の片面に表面電極パターンが、および絶縁基板の他の面に裏面電極パターンが、それぞれ形成された半導体素子基板と、表面電極パターンの、絶縁基板とは反対側の面に接合材を介して固着された半導体素子と、この半導体素子および表面電極パターンを覆う第一の封止樹脂と、絶縁基板の表面で、少なくとも表面電極パターンまたは裏面電極パターンが形成されていない部分と第一の封止樹脂とを覆う第二の封止樹脂と、を備え、第二の封止樹脂の弾性率は、第一の封止樹脂の弾性率よりも小さいものである。
【0008】
また、この発明の半導体装置の製造方法は、少なくとも、絶縁基板の表面電極パターンおよび裏面電極パターンが形成されていない面を、絶縁基板の周辺部分には絶縁基板に垂直な面を有する仮設壁を形成するようマスキング樹脂で覆うマスキング樹脂被覆工程と、
表面電極パターンの、絶縁基板とは反対側の面に接合材を介して半導体素子を固着する半導体素子固着工程と、仮設壁の内部を第一の封止樹脂で満たした後、第一の封止樹脂を硬化させる第一の封止樹脂形成工程と、マスキング樹脂を除去するマスキング樹脂除去工程と、少なくとも第一の封止樹脂と、マスキング樹脂を除去して絶縁基板の表面が露出した部分を第二の封止樹脂で覆う第二の封止樹脂形成工程と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る半導体装置、および半導体装置の製造方法によれば、半導体素子基板の絶縁基板の表面が露出する部分が弾性率の小さい第二の封止樹脂で覆われるため、半導体素子が繰り返し高温で動作してヒートサイクルを受ける場合も、封止樹脂に亀裂が生じたり、基板から剥離を起こしたりし難い信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1による半導体装置の基本構造を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による半導体装置の基本構造を、部品の一部を取り除いて示す上面図である。
【図3】この発明の実施の形態1による半導体装置の別の基本構造を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法を示す第一の模式図である。
【図5】この発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法を示す第二の模式図である。
【図6】この発明の実施の形態3による半導体装置の基本構造を示す断面図である。
【図7】この発明の実施の形態3による半導体装置のモジュールを複数配置して一つの半導体装置とする基本構造を、封止樹脂や部品の一部を取り除いて示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による半導体装置の基本構造を示す断面図、図2は封止樹脂、配線、および端子を取り除いて示す本発明の実施の形態1による半導体装置の基本構造の上面図である。図1は図2のA−A位置に相当する位置で切断した断面図であり、封止樹脂、配線および端子を含めて示している。絶縁基板1の上面に表面電極パターン2、裏面に裏面電極パターン3が貼られた半導体素子基板4の表面電極パターン2の表面に半導体素子5、6がはんだなどの接合材7で固着されている。ここで、例えば半導体素子5は大電流を制御するMOSFETのような電力用半導体素子であり、半導体素子6は例えば電力用半導体素子5に並列に設けられる還流用のダイオードである。半導体素子基板4は裏面電極パターン3側がベース板10にはんだなどの接合材70で固着されており、このベース板10が底板となり、ベース板10とケース側板11とでケースが形成される。第一の封止樹脂12が、半導体素子5、6と表面電極パターン2を覆うように設けられている。また第一の封止樹脂12を含めて、ケース内のものを覆うように第二の封止樹脂120が設けられている。また、表面電極パターン2が無い部分(図1、図2において符号20で示す部分)も第二の封止樹脂120が注入され絶縁基板1の表面を覆っている。各半導体素子には各半導体素子の電極などを外部に電気接続するための配線13が接続され、配線13が端子14に接続されている。
【0012】
半導体素子基板4は、絶縁基板1の上面に表面電極パターン2、裏面に裏面電極パターン3が貼られたものであるが、絶縁基板1は、これら表面電極パターン2と裏面電極パターン3で完全に覆われておらず、半導体素子基板4単体では絶縁基板1が露出している部分がある。本実施の形態1では、この半導体素子基板4において、絶縁基板1が露出している部分(図1、図2において符号20で示す部分や絶縁基板1の周辺部分)も、第二の封止樹脂120で覆われている。ここで、第二の封止樹脂120は第一の封止樹脂12よりも弾性率が低い低弾性の樹脂である。
【0013】
第一の封止樹脂としては、例えばエポキシ樹脂を用いるが、これに限定するものではなく、所望の弾性率と耐熱性を有している樹脂であれば用いることが出来る。例えばエポキシ樹脂の他に、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、等が好適に用いられる。また、第一の封止樹脂12は、半導体素子5や6が動作中に高温となった場合でも、熱応力により表面電極パターン2との間の接合材7が剥がれないように半導体素子5や6を押さえつける機能を持たせている。このため、ある程度固い、すなわち弾性率が高い樹脂を用いる必要がある。
【0014】
第二の封止樹脂120には、例えばシリコーン樹脂を用いるが、これに限定するものではなく、ウレタン樹脂やアクリル樹脂なども用いる事ができる。また、Al2O3、SiO2など
のセラミック粉を添加して用いることもできるが、これに限定するものではなく、AlN、BN、Si3N4、ダイアモンド、SiC、B2O3などを添加しても良く、シリコーン樹脂やアクリル
樹脂などの樹脂製の粉を添加しても良い。粉形状は、球状を用いることが多いが、これに限定するものではなく、破砕状、粒状、リン片状、凝集体などを用いても良い。粉体の充填量は、必要な流動性や絶縁性や接着性が得られる量であれば良い。ただし、第二の封止樹脂120の弾性率は、第一の封止樹脂12の弾性率よりも小さくなければならない。
【0015】
本発明は、本実施の形態1のみならず他の実施の形態においても、電力用半導体素子として、150℃以上で動作する半導体素子に適用すると効果が大きい。特に、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)系材料またはダイアモンドといった材料で形成された、珪素(Si)に比べてバンドギャップが大きい、いわゆるワイドバンドギャップ半導体に適用すると効果が大きい。また、図2では、一つのモールドされた半導体装置に半導体素子が4個しか搭載されていないが、これに限定するものではなく、使用される用途に応じて必要な個数の半導体素子を搭載することができる。
【0016】
表面電極パターン2、裏面電極パターン3、ベース板10および端子14は、通常銅を用いるが、これに限定するものではなく、アルミや鉄を用いても良く、これらを複合した材料を用いても良い。また表面は、通常、ニッケルメッキを行うが、これに限定するものではなく、金や錫メッキを行っても良く、必要な電流と電圧を半導体素子に供給できる構造であれば構わない。また、銅/インバー/銅などの複合材料を用いても良く、SiCAl、CuMoなどの合金を用いても良い。また、端子14及び表面電極パターン2は、第一の封止樹脂12に埋設されるため、樹脂との密着性を向上させるため表面に微小な凹凸を設けても良く、化学的に結合するようにシランカップリング剤などで接着補助層を設けても良い。
【0017】
半導体素子基板4は、Al2O3、SiO2、AlN、BN、Si3N4などのセラミックの絶縁基板1に
銅やアルミの表面電極パターン2および裏面電極パターン3を設けてあるものを指す。半導体素子基板4は、放熱性と絶縁性を備えることが必要であり、上記に限らず、セラミック粉を分散させた樹脂硬化物、あるいはセラミック板を埋め込んだ樹脂硬化物のような絶縁基板1に表面電極パターン2および裏面電極パターン3を設けたものでも良い。また、絶縁基板1に使用するセラミック粉は、Al2O3、SiO2、AlN、BN、Si3N4などが用いられる
が、これに限定するものではなく、ダイアモンド、SiC、B2O3、などを用いても良い。ま
た、シリコーン樹脂やアクリル樹脂などの樹脂製の粉を用いても良い。粉形状は、球状を用いることが多いが、これに限定するものではなく、破砕状、粒状、リン片状、凝集体などを用いても良い。粉体の充填量は、必要な放熱性と絶縁性が得られる量が充填されていれば良い。絶縁基板1に用いる樹脂は、通常エポキシ樹脂が用いられるが、これに限定するものではなく、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などを用いても良く、絶縁性と接着性を兼ね備えた材料であれば構わない。
【0018】
配線13は、アルミまたは金でできた断面が円形の線体を用いるが、これに限定するものではなく、例えば断面が方形の銅板を帯状にしたものを用いても良い。また図1では、半導体素子に3本の配線しか施されていないが、これに限定するものではなく、半導体素子の電流密度などにより、必要な本数を設けることができる。また、配線13は、銅や錫などの金属片を溶融金属で接合しても良く、必要な電流と電圧を半導体素子に供給できる構造であれば構わない。
【0019】
さらに、配線に銅板配線130を用いた例を図3に示す。図3において、図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。銅板配線130の表面は、防錆のためにニッケル鍍金を用いてもよく、防錆剤などの化学的処理を行っても良い。また、各封止樹脂との密着性を高めるために、表面に凹凸を設けても良く、またプライマー処理等の密着性向上剤を設けても良い。密着性向上剤は、例えばシランカップリング剤やポリイミド、エポキシ樹脂等が用いられるが、用いる配線部材と、第一の封止樹脂との密着性を向上させるものであれば特に限定されない。ここでは、配線として銅板を用いた例を示したが、端子と電気的に接続することができ、半導体素子とも電気的に接続することができ、必要な電流容量を確保できる材料であれば、銅以外の金属を用いても良い事は言うまでも無い。
【0020】
本発明の実施の形態1による半導体装置の動作は以下のようである。半導体素子が高温で動作すると、半導体素子の周囲にある第一の封止樹脂12や半導体素子基板4が熱膨張し、半導体素子が動作を止めると、熱収縮が起こる。すなわちヒートサイクルが生じる。第一の封止樹脂12は、半導体素子基板4の材料のうち表面電極パターン2や裏面電極パターン3の材料(例えば銅)の線膨張係数に近い線膨張係数となるように調整されているため、絶縁基板1とは線膨張係数が異なる。従来の半導体装置では、半導体素子基板の表面電極パターン2や裏面電極パターン3が形成されていない部分は、第一の封止樹脂12と絶縁基板1が直接接しているため、ヒートサイクルを繰り返すうちに、両者の線膨張係数の違いにより、第一の封止樹脂12と絶縁基板1との接触部分で、第一の封止樹脂12の剥離や亀裂が発生し、半導体装置の信頼性を著しく低下させていた。しかしながら、図1に示す本発明の実施の形態1による半導体装置では、半導体素子基板4単体において絶縁基板1が露出している部分は、第一の封止樹脂12よりも弾性率が低い樹脂材料で形成された第二の封止樹脂120で覆われている。このため、ヒートサイクルが生じた場合、第一の封止樹脂12よりも低弾性、すなわち軟らかい第二の封止樹脂120の部分で、膨張係数の違いにより発生する応力が緩和され、第一の封止樹脂12の剥離や亀裂が生じ難く、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【0021】
さらに、図1や図3に示すように、第一の封止樹脂12の側面121の形状が、絶縁基板1に対して垂直な面で切り取った断面において直線となる形状である。この形状は、以下の実施の形態2で説明する製造方法によって実現されるものであり、従来行われていたように、材料となる樹脂を半導体素子の上に、いわゆるポッティングにより形成したものでは実現できない形状である。この形状により、従来のポッティングによって形成される樹脂の形状に比較して、第一の封止樹脂の底面積が小さくても絶縁距離を確保できる半導体装置が得られる。
【0022】
実施の形態2.
図4、図5は、本発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法を示す模式図である。図4、図5において、図1、図2と同一符号は同一または相当する部分を示す。本製造方法の概要は、以下のようである。まず、半導体素子基板4における絶縁基板1の表面電極パターン2または裏面電極パターン3が形成されていない面を、絶縁基板1の周辺部分においては半導体素子の厚みよりも高さが高い仮設壁9を形成するようマスキング樹脂で覆う(マスキング樹脂被覆工程)。次に、表面電極パターン2に半導体素子を固着して、仮設壁9の内部を第一の封止樹脂12で覆い(第一の封止樹脂形成工程)、マスキング樹脂を除去する(マスキング樹脂除去工程)。その後、絶縁基板1の表面電極パターン2または裏面電極パターン3が形成されていない面、および第一の封止樹脂12を覆うように第二の封止樹脂120を設ける(第二の封止樹脂形成工程)。マスキング樹脂は、注射器に未硬化の樹脂を入れて、必要な箇所に押し出しながら描画したり、スクリーンマスクを用いて印刷を行ったりして作製できる。しかし、これらの方法では作製に時間がかかる。半導体素子基板4の表面電極パターン2と裏面電極パターン3を、溝を設けた治具で挟み、その後に未硬化のマスキング樹脂を注入硬化すれば、溝の位置や形状を変えることで多様な仮設壁9を設けることができ、また絶縁基板1の表面電極パターンまたは裏面電極パターンが形成されていない面がマスキング樹脂で覆われた基板を作製できる。
【0023】
図4は、マスキング樹脂被覆工程を説明する模式図である。まず、絶縁基板1の片面に表面電極パターン2、他方の面に裏面電極パターン3、が貼りつけられた半導体素子基板4を準備する(図4(A))。また、テフロン(登録商標)で作製された上治具21と下治具22で構成される分割式の治具を準備する(図4(B))。上治具21にはマスキング樹脂を注入するための樹脂注入穴23が設けられている。下治具22の所定の位置に半導体素子基板4を置き、位置がずれない様に上治具21を用いて蓋をし、ねじ留めや油圧プレス等の方法を用いて、後にマスキング樹脂が注入された際に上下の治具からマスキング樹脂が漏れないよう十分締め付ける。上治具21および下治具22は、表面電極パターン2および裏面電極パターン3の表面にマスキング樹脂が流れないよう、十分な平面度をもって作製しておく。次に半導体素子基板4を内包した治具の内部を減圧チャンバー31等を用いて10torrまで減圧する(図4(C))。その後、図4(C)の矢印で示すように未硬化のマスキング樹脂41を上治具21の樹脂注入穴23から約1MPaの押圧力で注入
する。治具の空間部分の全部にマスキング樹脂が注入されたら、760torr(大気)に戻し
、マスキング樹脂を熱硬化させる。例えば、マスキング樹脂としてシリコーン樹脂である信越化学工業社製KE-1833を用いる場合は、120℃で1時間の硬化を行う。熱硬化後は、治
具を室温まで冷却してから、上下の治具を分割して基板を取り出せば、マスキング樹脂で形成された仮設壁9が成型され、また図4(C)に示す表面電極パターン2が存在しない部分20もマスキング樹脂90で満たされた基板が作製できる(図4(D))。
【0024】
この時、一か所の樹脂注入穴23から全ての空間部分に樹脂が注入されるよう、表面電極パターン2および裏面電極パターン3以外の表面、例えば図4(C)に示す表面電極パターン2がない部分20と、仮設壁9を設ける箇所は、治具内部の空間で繋がっていなければならない。ここで、治具には、脱気用の穴を設けても良い。また、治具の壁面に、脱型性を向上させるために、離型剤を塗布しても良いことは言うまでもなく、治具の材質もテフロン(登録商標)以外の材料を用いて良い事はいうまでもない。
【0025】
なお、実施の形態1および実施の形態2では、表面電極パターン2が、例えば図2で示すように分離されて、間に絶縁基板が露出している部分20があるものを例として説明したが、表面電極パターン2が分離せず1枚で、絶縁基板が露出している部分は周辺部分のみのものにも、本発明を適用できるのは言うまでもない。
【0026】
次に、仮設壁9が設けられた半導体素子基板4を用いて半導体装置を製造する製造方法を、図5を参照して説明する。端子14が取り付けられたケース側板11とベース板10とで形成されるケースを、仮設壁9が設けられた半導体素子基板4とは別に準備する。このケースの底板となったベース板に仮設壁9が設けられた半導体素子基板4を、はんだなどの接合材70により固着する。同時に半導体素子基板4の表面電極パターンに半導体素子5や6をはんだなどの接合材7により固着する(半導体素子固着工程)。その後、半導体素子5、6、表面電極パターン2、端子14の間を配線13で接続する(図5(A))。
【0027】
次に、仮設壁9内部を第一の封止樹脂12で満たして硬化させた(第一の封止樹脂形成工程、図5(B))後、マスキング樹脂で形成されている仮設壁9および表面電極パターン2が無い部分20のマスキング樹脂90を溶剤により除去する(マスキング樹脂除去工程、図5(C))。この時、マスキング樹脂を完全に除去するために、必要に応じて加温や、複数回の洗浄処理を行う。ここで、マスキング樹脂が除去された後、第一の封止樹脂12が仮設壁9と接していた面、すなわち第一の封止樹脂の側面121の形状は、絶縁基板1に垂直な断面である図5(C)において、直線となる形状になる。マスキング樹脂が完全に除去された後、ケース内に第二の封止樹脂を注入して全体をモールドする(第二の封止樹脂形成工程、図5(D))。この注入に際し、表面電極パターン2が無い部分20にも第二の封止樹脂120が完全に注入されるように、必要に応じて脱泡処理を行う。
【0028】
マスキング樹脂には、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂を用いることができる。マスキング樹脂材料は、半導体素子を覆う第一の封止樹脂が流れ広がるのを防止するダム壁として機能し、第一の封止樹脂の硬化温度領域において形状を維持できて、しかも第一の封止樹脂が硬化後に溶剤処理および熱処理等の方法で除去することが可能であれば特に限定されない。
【0029】
例えば、マスキング樹脂には、シリコーン樹脂を用いることができる。シリコーン樹脂で作製されたマスキング樹脂は、シリコーン溶解液により室温で除去が可能であることがわかった。また、マスキング樹脂には、熱可塑性のワックスを用いてもよい。熱可塑性のワックスを用いて、仮設壁を作製した場合は、ワックス溶解液もしくは、炭化水素系溶剤により除去が可能であることがわかった。熱可塑性ワックスをマスキング樹脂として仮設壁に用いる際は、第一の封止樹脂の硬化温度より熱可塑性ワックスの軟化温度が高ければ、第一の封止樹脂が半導体素子上を覆う際に、仮設壁としての役割を果たせることができた。また、熱可塑性ワックスの軟化温度が第一の封止樹脂の硬化温度より低い場合は、第一の封止樹脂の1段階目の硬化温度を熱可塑性ワックスの軟化温度より低い温度に設定し、第一の封止樹脂を半硬化させ、ワックス溶解液により熱可塑性ワックスを除去した後、第一の封止樹脂を所定の硬化温度でさらに硬化させることで、絶縁信頼性の高い半導体装置を作製できることがわかった。
【0030】
仮設壁9の高さは、第一の封止樹脂12が半導体素子5、6を覆うように、半導体素子5、6の高さ以上であれば、特に限定するものではないが、半導体装置のケース側板11の高さを超えない高さ程度が好ましい。また、仮設壁9の幅は、絶縁基板1の大きさが100mm×100mm以下のサイズが多い事から、1〜2mm程度が良いが、これに限定するものではなく、第一の封止樹脂を変形しないように区画するのに必要な幅であれば構わない。
【0031】
以上のように、本発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法においては、仮設壁を用いて第一の封止樹脂を形成するため、仮設壁の高さを変更することにより容易に、第一の封止樹脂の封止量を変更することができ、絶縁距離を調整することができる。また、仮設壁9を残したまま、第二の封止樹脂で覆うことも考えられるが、仮設壁9にボイドが発生していたり、仮設壁9と絶縁基板1の接触部の密着性が悪かったりすると、耐絶縁性が低下する恐れがある。これに対し本発明では、仮設壁を除去し、絶縁基板が露出する部分を弾性率が小さい第二の封止樹脂で覆うため、耐絶縁性が低下する恐れが小さい。したがって、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【0032】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3による半導体装置の構造を示す断面図である。図6において、図1、図3と同一符号は、同一または相当する部分を示す。本実施の形態3では、半導体素子5や6に配線を接続するためのソケット131を設けた。第一の封止樹脂12
で覆った後に外部からソケット131に配線を差し込むことができるよう、ソケット131は、第一の封止樹脂12の表面に露出するように設けられている。
【0033】
通常、ソケットは、パイプ上の金属に金属状のピンを挿入することで両者の電気的な接続を行うが、この方法に限定するものではなく、第一の封止樹脂12に埋め込まれた半導体素子5や6と配線を電気的に繋げる構造であれば構わない。また、ソケット131の表面は、第一の封止樹脂12や第二の封止樹脂120との密着性を向上させるために表面に凹凸を設けても良く、シランカップリング剤などの化学的な処理を行っても良い。半導体素子5や6とソケット131の電気的な接続は、通常、はんだ材を用いて接続するがこれに限定するものではなく、銀ペーストや焼結により金属結合する材料を用いても良い。図6では、ソケット131への配線は銅板配線130を用いているが、通常の線状の配線を用いても良いのは言うまでもない。
【0034】
図6の破線で囲んだ部分、すなわち第一の封止樹脂12で半導体素子5、6を封止したものをモジュール100として、このモジュール100をケース側板11内に複数個配置して一つの半導体装置とした構成の概念図を図7に示す。図7において、図6と同一符号は同一または相当する部分を示す。図7は、第二の封止樹脂120、端子14および銅板配線130を取り除き、さらに一部は第一の封止樹脂12も取り除き半導体素子が見える状態を示す斜視図である。図7において、各モジュールの間に設けられているバー110は、各モジュールからの配線を橋渡しするための端子(図7では取り除いて示している。)を取り付けるための部材である。
【0035】
この構造では、第一の封止樹脂12で半導体素子5、6を封止した後、第二の封止樹脂120でモジュールを封止する前に、ソケット131から通電することにより各モジュール100の動作試験を行うことができる。動作試験において不良モジュールが判明した場合、不良モジュールについては、半導体素子基板4とベース板10の間の接合を取り除き、良品モジュールと置き換えることができるため、半導体装置の歩留まりの向上が図れる。
【0036】
実施の形態4.
本実施の形態4では、試験用の半導体装置モジュールを、種々の材料を用いた封止樹脂により作製し、パワーサイクル試験およびヒートサイクル試験を行った結果を実施例として示す。パワーサイクル試験は、半導体素子の温度が200℃になるまで通電し、その温度に達したら通電を止め、半導体素子の温度が120℃になるまで冷却し、冷却された後に再び通電した。またヒートサイクル試験は、半導体装置全体を、温度制御が可能な恒温曹に入れ、恒温曹の温度を−40℃〜150℃の間で繰り返し変化させて実施した。
【0037】
実施例1.
表1には、図2に示した構造、すなわち半導体素子基板を封止する第一の封止樹脂の弾性率を変化させた時のパワーサイクル試験およびヒートサイクル試験の結果を示す。
【0038】
表1の例1−1について説明する。信越化学工業社製KER-4000-UVにガラスフィラーを
約50wt%添加し、弾性率を900MPaに調整した封止樹脂で封止した結果、パワーサイクル試
験では、90000サイクル後に封止樹脂に剥離が発生し、ヒートサイクル試験でも50サイク
ル後に封止樹脂の剥離と亀裂が発生して半導体装置が動作しなくなることがわかった。
【0039】
例1−2では、信越化学工業社製KER-4000-UVにガラスフィラーを約58wt%添加し、弾性率を1GPaに調整した封止樹脂で封止した結果、パワーサイクル試験では、160000サイクル、ヒートサイクル試験では、300サイクルまで改善することがわかった。
【0040】
例1−3では、サンユレック社製EX-550(弾性率7.0GPa)を第一の封止樹脂に用いた結果、パワーサイクル試験では、180000サイクル、ヒートサイクル試験では、800サイクル
まで改善することがわかった。
【0041】
例1−4では、サンユレック社製EX-550にシリカフィラーを15wt%添加し、弾性率を12GPaに調整した封止樹脂を使用した結果、パワーサイクル試験では、160000サイクル、ヒートサイクル試験では、600サイクルになることがわかった。
【0042】
例1−5では、サンユレック社製EX-550にシリカフィラーを20wt%添加し、弾性率を14GPaに調整した封止樹脂を使用した結果、パワーサイクル試験では、140000サイクル、ヒートサイクル試験では、500サイクルになることがわかった。
【0043】
例1−6では、サンユレック社製EX-550にシリカフィラーを36wt%添加し、弾性率を20GPaに調整した封止樹脂を使用した結果、パワーサイクル試験では、110000サイクル、ヒートサイクル試験では、450サイクルになることがわかった。
【0044】
例1−7では、サンユレック社製EX-550にシリカフィラーを40wt%添加し、弾性率を22 GPaに調整した封止樹脂を使用した結果、パワーサイクル試験では、100000サイクル、ヒ
ートサイクル試験では、200サイクルになることがわかった。
【0045】
以上の結果より、第一の封止樹脂の弾性率Mは、1GPa以上20GPa以下の範囲が適切であ
ることが判明した。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例2.
次に、第二の封止樹脂を種々の弾性率の樹脂により作製し、絶縁特性を評価した実施例について説明する。半導体装置には、ベース板のサイズが50×92×3mm、AlNを用いた絶縁基板のサイズが23.2×23.4×1.12mm、SiCを用いた半導体素子のサイズが5×5×0.35mm、
接合材には千住金属製M731、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いたケース、直径
が0.4mmのアルミを用いた配線を使用した。また、本試験では、モジュール内部にSiC半導体素子を1個のみ搭載し、ヒートサイクル試験およびコロナ開始電圧測定を行った。
【0048】
表2に、実施の形態2に示したプロセスにより作製した半導体装置、すなわち半導体素子基板外周に仮設壁を設け、第一の封止樹脂に弾性率が7.0GPaのサンユレック製EX-550を封止し、仮説壁を所定の溶剤により除去した後に、封止する第二の封止樹脂の弾性率を変化させたときのヒートサイクル試験および部分放電開始電圧(コロナ開始電圧)の結果を示す。
【0049】
例2−1について説明する。第二の封止樹脂として、東レダウコーニング製SE1886(弾性率30kPa)を用いて、半導体素子基板および第一の封止樹脂を封止し、半導体装置を作
製した場合、ヒートサイクル試験において、800サイクルまで半導体装置の特性が維持し
、コロナ開始電圧は6.0kV以上であることが判明した。
【0050】
例2−2では、第二の封止樹脂として信越化学製KE1833(弾性率3.5MPa)を用いて、半導体装置を作製した結果、ヒートサイクル試験において1200サイクル以上半導体装置の特性を維持し、コロナ開始電圧は6.0kV以上であることが判明した。
【0051】
例2−3では、第二の封止樹脂として信越化学製KER-4000-UVにガラスフィラーを約50wt%添加し、弾性率を900MPaに調整し、半導体装置を作製した結果、ヒートサイクル試験では1200サイクル以上半導体装置の特性が維持し、コロナ開始電圧は6.0kVであることが判明した。
【0052】
例2−4では、第二の封止樹脂として信越化学製SCR-1016(弾性率1.4GPa)を用いて、半導体装置を作製した結果、ヒートサイクル試験寿命は800サイクルに低下し、コロナ開始
電圧は4.5kVであることがわかった。
【0053】
例2−5では、第二の封止樹脂として信越化学製SCR-1016にガラスフィラーを約54wt%
添加し、弾性率を3GPaに調整し、半導体装置を作製した結果、ヒートサイクル試験寿命は200サイクルに低下し、コロナ開始電圧は2.5kVに低下することがわかった。
【0054】
以上のヒートサイクル試験寿命およびコロナ開始電圧の試験結果を総合的に判断することにより、第二の封止樹脂の弾性率Nは、30kPa以上1GPa以下の範囲が適切であることが
わかった。
【表2】

【符号の説明】
【0055】
1:絶縁基板 2:表面電極パターン
3:裏面電極パターン 4:半導体素子基板
5、6:半導体素子 7、70:接合材
9:仮設壁 10:ベース板
11:ケース側板 12:第一の封止樹脂
13、130:配線 14:端子
21:上治具 22:下治具
23:樹脂注入穴 120:第二の封止樹脂
121:第一の封止樹脂の側面 131:ソケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の片面に表面電極パターンが、および上記絶縁基板の他の面に裏面電極パターンが、それぞれ形成された半導体素子基板と、
上記表面電極パターンの、上記絶縁基板とは反対側の面に接合材を介して固着された半導体素子と、
この半導体素子および上記表面電極パターンを覆う第一の封止樹脂と、
上記絶縁基板の表面で、少なくとも上記表面電極パターンまたは上記裏面電極パターンが形成されていない部分と、上記第一の封止樹脂とを覆う第二の封止樹脂と、を備え、
上記第二の封止樹脂の弾性率は、上記第一の封止樹脂の弾性率よりも小さいことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
上記第一の封止樹脂の外形の側面形状が、上記絶縁基板に対して垂直な面での断面において直線となる形状であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
上記第二の封止樹脂の弾性率が30kPaから1GPaの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
第一の封止樹脂の弾性率が1GPaから20GPaの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
半導体素子がワイドバンドギャップ半導体により形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、ダイアモンドのうちいずれかの材料の半導体であることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
請求項2に記載の半導体装置の製造方法であって、
少なくとも、上記絶縁基板の表面電極パターンおよび裏面電極パターンが形成されていない面を、上記絶縁基板の周辺部分においては上記半導体素子の厚みよりも高さが高い仮設壁を形成するようマスキング樹脂で覆うマスキング樹脂被覆工程と、
上記表面電極パターンの、上記絶縁基板とは反対側の面に接合材を介して上記半導体素子を固着する半導体素子固着工程と、
上記仮設壁の内部を第一の封止樹脂で満たした後、上記第一の封止樹脂を硬化させる第一の封止樹脂形成工程と、
上記マスキング樹脂を除去するマスキング樹脂除去工程と、
少なくとも上記第一の封止樹脂と、上記マスキング樹脂を除去して上記絶縁基板の表面が露出した部分を第二の封止樹脂で覆う第二の封止樹脂形成工程と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
上記第一の封止樹脂形成工程において、上記第一の封止樹脂を硬化させる温度は上記マスキング樹脂の耐熱温度以下の温度であることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
上記マスキング樹脂被覆工程は、
半導体素子基板を、樹脂注入穴を有する上治具と下治具で挟む工程と、
上記上治具と上記下治具とで上記半導体素子基板を挟んだ状態で減圧環境に設置する工程と、
この減圧環境で上記樹脂注入穴から未硬化のマスキング樹脂を注入する工程と、
上記未硬化のマスキング樹脂を注入した後大気圧環境下に取り出し、注入した上記未硬化
のマスキング樹脂を硬化させた後、上記上治具と上記下治具を取り外して脱型する工程と、
を備えることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
上記マスキング樹脂の材料はシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
上記マスキング樹脂の材料は熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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