説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】ダイボンディングフィルムによって接着された半導体チップを有する半導体装置の製造において、得られる半導体装置の吸湿リフロー耐性を改善すること。
【解決手段】半導体チップ10を、支持部材5及び/又は他の半導体チップ10に、ダイボンディングフィルム2を介して熱圧着する工程と、ダイボンディングフィルム2を0.2〜0.5MPaの加圧雰囲気70下で加熱し、ダイボンディングフィルムの硬化を進行させる工程と、半導体チップ10を封止樹脂により封止する工程と、をこの順に備え、半導体チップを熱圧着する工程においてダイボンディングフィルム2が到達する温度におけるダイボンディングフィルム2の溶融粘度が20000〜100000Pa・sであり、100〜120℃におけるダイボンディングフィルム2のずり粘度が5000Pa・s以下である、半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの小型化及び高性能化に伴い、使用される支持部材にも小型化及び細密化が要求されている。さらに、携帯機器等の小型化及び高密度化の要求に伴って、内部に複数の半導体チップを積層した半導体装置が開発及び量産されている。
【0003】
従来、半導体チップと半導体チップ搭載用支持部材との接合には、主に、銀ペーストが使用されていた。しかし、銀ペーストによれば、はみ出し又は半導体チップの傾きに起因するワイヤボンディング時の不具合の発生、接着剤層の膜厚制御の困難性、および接着剤層のボイド発生などにより、近年の要求に対処しきれなくなっている。そのため、近年、フィルム状のダイボンディング材(以下、「ダイボンディングフィルム」という。)が使用されるようになってきた。
【0004】
携帯機器に搭載されるメモリの容量が加速度的に増加していることから、半導体チップを複数積層した半導体パッケージのチップ積層段数が増大する傾向にある。携帯電話及び携帯音楽プレイヤーなどに用いられている半導体パッケージにおいて、パッケージ内部に複数の半導体チップを積層するスタックドパッケージが主流となっている。しかも、携帯機器重量の増加を回避するために、半導体パッケージの容積及び重量を増加させることなく、半導体チップの積層枚数のみを増加する必要がある。その結果、半導体チップが薄肉化する傾向にあり、100μm厚以下の半導体チップが使用されるようになってきた。
【0005】
直径8インチの半導体ウエハは、一般に、700μm程度の厚みで切り出してから、裏面を研削することで所望の厚みまで薄く加工される。従来、半導体ウエハを薄く研削するバックグラインドの際に、ウエハ回路面を保護するバックグラインドテープを貼付け、研削後にこのバックグラインドテープを剥離してから、半導体ウエハにダイボンディングフィルム等のダイシング基材を貼り付けていた。ところが、半導体ウエハが薄くなるにしたがって、搬送時にウエハが割れるリスクが高まっていることから、バックグラインドテープを剥離せずにダイボンディングフィルムをラミネートし、ラミネート後にバックグラインドテープを剥離する方法が一般的に採用されている。
【0006】
しかし、バックグラインドテープの耐熱性の上限は80℃程度であるため、特にダイボンディングフィルムをウエハ裏面に貼付ける際は、80℃以下のラミネート温度で十分な密着性を確保する必要がある。
【0007】
ダイボンディングフィルムは、一般に、下記のいずれかの方法により用いられる。
(1)任意のサイズに切り出したダイボンディングフィルムを、配線付基材又は半導体チップに貼り付け、貼り付けられたダイボンディングを介して半導体チップを支持部材等に熱圧着する。
(2)ダイボンディングフィルムを半導体ウエハ裏面全体に貼り付け、次いでダイボンディングフィルムの裏面にダイシング基材を貼り付けた後、半導体ウエハをダイボンディングフィルムとともに回転刃によって個片化する。得られたダイボンディングフィルム付き半導体チップを、ダイシング基材から剥離してピックアップし、ピックアップされた半導体チップを、ダイボンディングフィルムを介して配線付き支持部材又は半導体チップに熱圧着する。
【0008】
半導体装置作製工程の簡略化を目的として、(2)の方法が採用されることが多い。半導体ウエハの薄肉化に伴って、個片化したダイボンディングフィルム付き半導体チップを割らずにピックアップすることが困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−74067号公報
【特許文献2】特開2008−98608号公報
【特許文献3】特開2010−118636号公報
【特許文献4】特開2010−118640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、半導体チップの積層段数が増加するにしたがって、半導体装置の特に吸湿時の十分な耐リフロー性を維持することが困難になっており、この点で改善が求められている。
【0011】
そこで、本発明の主な目的は、ダイボンディングフィルムによって接着された半導体チップを有する半導体装置の製造において、得られる半導体装置の吸湿リフロー耐性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、半導体チップを、支持部材及び/又は他の半導体チップに、ダイボンディングフィルムを介して熱圧着する工程と、ダイボンディングフィルムを0.2〜0.5MPaの加圧雰囲気下で加熱し、前記ダイボンディングフィルムの硬化を進行させる工程と、半導体チップを封止樹脂により封止する工程と、をこの順に備える、半導体装置の製造方法に関する。半導体チップを熱圧着する工程においてダイボンディングフィルムが到達する温度におけるダイボンディングフィルムの溶融粘度は20000〜100000Pa・sである。100〜120℃におけるダイボンディングフィルムのずり粘度は5000Pa・s以下である。
【0013】
本発明に係る方法によれば、良好な吸湿リフロー耐性を有する半導体装置を製造することができる。通常、配線を有する支持部材においては、配線に起因する段差が生じている。従来、樹脂封止の際に加わる高い荷重によりダイボンディングフィルムを流動させて、支持部材の配線段差を充てんする封止充てん方式が主流である。しかし、チップ積層段数が増加するにしたがって、樹脂封止前にフィルムに加わるワイヤボンドなどの熱履歴が増大してフィルムの硬化が進行するため、封止充てん方式により配線段差を埋め込むことが困難になる傾向がある。封止時の充てん性が低下すると、吸湿後のリフロー処理時に未充填部位を起点とした剥離が生じて、吸湿リフロー耐性が低下すると考えられる。これに対して、本発明によれば、特定の溶融粘度及びずり粘度を有するダイボンディングフィルムを用い、更に、封止工程の前にダイボンディングフィルムを加圧雰囲気下で加熱してダイボンディングフィルムの硬化を進行させたことにより、配線段差の充てん性が向上し、その結果、半導体装置の吸湿リフロー耐性が改善されたと考えられる。
【0014】
0.2〜0.5MPaの加圧雰囲気下で加熱される前のダイボンディングフィルムのガラス転移温度は10〜80℃であることが好ましい。
【0015】
ダイボンディングフィルムは、20000〜100000の重量平均分子量を有するポリイミド樹脂と、熱硬化性樹脂と、無機フィラーとを含有することが好ましい。
【0016】
ダイボンディングフィルムの厚みが5〜80μmであり、0.2〜0.5MPaの加圧雰囲気下で加熱される前のダイボンディングフィルムの40℃におけるタック力が1000mN以下であることが好ましい。これにより、ダイボンディングフィルム付き半導体チップのピックアップ性が更に改善される。
【0017】
本発明はまた、本発明に係る製造方法により得ることのできる、半導体装置に関る。本発明に係る半導体装置は、吸湿リフロー耐性等の点で高い信頼性を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ダイボンディングフィルムによって接着された半導体チップを有する半導体装置の製造において、得られる半導体装置の吸湿リフロー耐性を改善することができる。
【0019】
本発明に係る方法は、特に、100μm以下の薄いチップを有する半導体装置の場合でも、吸湿リフロー耐性等の点で優れた効果を奏することができるため、近年の薄型ウエハを用いた小型化及び薄型化の半導体装置の開発に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ダイボンディングフィルム付き半導体チップの一実施形態を示す断面図である。
【図2】支持部材の一実施形態を示す断面図である。
【図3】半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
【図4】半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
【図5】半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本実施形態に係る方法は、半導体チップを、ダイボンディングフィルムを介して支持部材又は他の半導体チップに熱圧着する工程と、ダイボンディングフィルムを加圧雰囲気下で加熱してダイボンディングフィルムの硬化を進行させる工程と、半導体チップを封止樹脂により封止する工程とを主として備える。
【0023】
図1は、ダイボンディングフィルム付き半導体チップの一実施形態を示す断面図である。図1に示すダイボンディングフィルム付き半導体チップ3は、半導体チップ10と、半導体チップ10の回路面上に設けられたチップ側配線11とを有する配線付き半導体チップ1と、半導体チップ10の裏面側に積層されたダイボンディングフィルム2とを有する。
【0024】
ダイボンディング付き半導体チップ3は、例えば、半導体ウエハにダイボンディングフィルムを貼り合わせる工程と、半導体ウエハをダイボンディングフィルムとともに半導体チップに切り分ける工程とを含む方法により得ることができる。
【0025】
半導体ウエハは特に限定されない。吸湿リフロー耐性に優れた半導体装置を作製することができる観点から、ウエハの厚さは100μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。
【0026】
ダイボンディングフィルム上に、ダイシングテープ(粘着剤層)を更に積層してもよい。その場合、例えば、基材フィルム付きのダイボンディングフィルムを半導体ウエハと貼り合わせた後、基材フィルムを剥がし、半導体ウエハに貼り付けられたダイボンディングフィルムにダイシングテープを貼り合せる方法、又は、基材フィルム付きのダイボンディングフィルムにダイシングテープを貼り合わせた後、基材フィルムを剥がし、ダイボンディングフィルムを半導体ウエハに貼り合せる方法により、ダイボンディングフィルム及びダイシングテープが貼り付けられた半導体ウエハを準備することができる。
【0027】
ダイシングテープは特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム及びポリイミドフィルムなどのプラスチックフィルムから選ばれる。必要に応じて、ダイシングテープに対して、プライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理及びエッチング処理などの表面処理が施されていてもよい。
【0028】
ダイボンディングフィルムが貼り付けられた半導体ウエハは、ダイシングにより半導体チップに切り分けられる。ダイシングは、例えば、切断装置(ダイサー)の回転刃により所望の大きさのチップに切断する方法により行われる。ダイシングにおいて、ダイボンディングフィルムは完全に切断されてもよいが、一部が切断されずに残っていてもよい。ダイボンディングフィルムを完全に切断する工法をフルカット、ダイボンディングフィルムを完全に切断せず一部を残す工法をハーフカットと記す。
【0029】
ハーフカット工法の場合、切断されずに残ったダイボンディングフィルムは、次工程の半導体チップのピックアップの際に、ダイシングテープを引き伸ばすこと(以下、「エキスパンド」という。)、及び、/又は、突き上げ針などの治具で押し上げることにより、切込みが形成された部分を起点として分割することもできる。
【0030】
ダイボンディングフィルムを切断する際に使用するダイサーや回転刃(ブレード)は一般に上市されているものから適宜選択することができる。例えば、ダイサーは、株式会社ディスコ製のフルオートマチックダイシングソー6000シリーズ及びセミオートマチックダイシングソー3000シリーズなどが、ブレードは、株式会社ディスコ製のダイシングブレードNBC−ZH05シリーズ及びNBC−ZHシリーズなどが使用できる。
【0031】
半導体ウエハをダイボンディングフィルムとともに切断する工程において、株式会社ディスコ製のフルオートマチックダイシングソー6000シリーズのような回転刃を用いて切断するダイサーだけではなく、株式会社ディスコ製のフルオートマチックレーザソー7000シリーズのようなレーザを用いて切断する方法、すなわち、レーザーアブレーション加工又はステルスダイシング加工も適用可能である。
【0032】
半導体チップ10を熱圧着する工程においてダイボンディングフィルム2が到達する温度におけるダイボンディングフィルム2の溶融粘度は、好ましくは20000〜100000Pa・sである。この溶融粘度が100000Pa・sを超えると、熱圧着工程のみで支持部材表面の配線段差を十分に充填されずに、完成した半導体装置内部にボイドが残存し易くなる傾向がある。同様の観点から、ダイボンディングフィルムの溶融粘度は、より好ましくは20000〜50000Pa・sである。
【0033】
半導体チップを支持部材に熱圧着する際、典型的には、支持部材は80〜120℃に加熱され、ダイボンディングフィルムの温度は、通常、55〜85℃に到達する。この場合、ダイボンディングフィルムの溶融粘度が55〜85℃において20000〜100000Pa・sであることが好ましい。
【0034】
ダイボンディングフィルムの溶融粘度は、Journal of Applied Physics (17) P458 (1946)に示される、平行平板プラストメータ法により測定される。例えば、直径6mmの円形のダイボンディングフィルムを厚さ150μmの2枚のスライドガラスで挟んで試験用サンプルを準備し、この試験用サンプルに対して、ダイボンディングフィルムを所定の温度まで加熱しながら、所定の圧力(例えば1MPa)を例えば3秒間付加し、加圧前後のダイボンディングフィルムの厚さから、下記式にしたがって、所定の温度におけるダイボンディングフィルムの溶融粘度η(Pa・s)を求めることができる。
【0035】
【数1】


(m):加圧前のダイボンディングフィルムの厚さ
Z(m):加圧後のダイボンディングフィルムの厚さ
V(m):ダイボンディングフィルムの体積
F(Pa):加えた荷重の大きさ
t(秒):荷重を加えた時間
【0036】
100〜120℃におけるBステージ又はCステージ状態のダイボンディングフィルムのずり粘度は、好ましくは5000Pa・s以下、より好ましくは3000Pa・s以下である。ずり粘度がこのような範囲内にあることにより、熱圧着の後、加圧雰囲気下でダイボンディングフィルムを加熱硬化させる工程において、熱圧着において未充填であった部位を容易に埋め込むことができる。ずり粘度の下限値は特に限定されないが、ずり粘度が低すぎると、加熱時にフィルムが発泡したり、フィルムの硬化が遅くなり生産性が低下する可能性があるため、ずり粘度は500Pa・s以上であることが好ましい。同様の観点から、100℃におけるBステージ又はCステージ状態のダイボンディングフィルムのずり粘度は、好ましくは1000Pa・sを超えて5000Pa・s以下、より好ましくは2000Pa・s〜4000Pa・sである。
【0037】
ダイボンディングフィルムのずり粘度は、複数のダイボンディングフィルムを積層して総厚300±50μmの多層フィルムを準備し、この多層フィルムから13±1mm角の試験片を切り出す工程と、試験片を平行円板(例えば直径12mm)に挟み、周波数1Hz、ひずみ1%、昇温速度5℃/分及び測定温度30〜200℃の条件で粘弾性測定を行い、100〜120℃における複素粘度の値(Pa・s)をずり粘度として記録する工程とを含む方法により、測定される。
【0038】
ダイボンディングフィルムの厚さは、3〜80μmであることが好ましい。ダイボンディングフィルムの厚さが5μm未満であると、成膜性及び取り扱いが低下する傾向があり、80μmを超えると、経済的に不利であるとともに、成形性が低下する傾向がある。同様の観点から、ダイボンディングフィルムの厚みはより好ましくは5〜60μm、更に好ましくは5〜40μmである。
【0039】
ダイボンディングフィルムの厚みが5〜80μmであるとき、加熱硬化される前のダイボンディングフィルムの40℃におけるタック力は、好ましくは1000mN以下、より好ましくは500mN以下である。これにより、ダイボンディングフィルム付き半導体チップのピックアップ性が更に改善される。タック力が大きすぎると、ピックアップの際、隣り合うチップのダイボンディングフィルム同士が付着して、複数のチップが同時にピックアップされ易くなる傾向がある。タック力の下限は特に限定されないが、通常は100mN程度である。
【0040】
加熱硬化される前のBステージ状態のダイボンディングフィルムのタック力は、押し込み速度:2mm/秒、引き上げ速度:10mm/秒、停止加重:100gf/cm、停止時間:1秒の条件で、40℃のステージにサンプルの測定面を上にして固定し、40℃のプローブ(直径5.1mm(φ)のSUS304)に対するタック強度を測定する方法により求めることができる。測定面は、ダイシングテープが貼り付られる面である。
【0041】
加熱硬化される前のダイボンディングフィルムのガラス転移温度は、好ましくは10〜80℃である。このガラス転移温度が60℃を超えると、ダイボンディングフィルムの硬化前(Bステージ状態)の溶融粘度が高くなり、加熱時のフィルムの流動性が不足する傾向がある。同様の観点から、ダイボンディングフィルムのガラス転移温度はより好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは10〜60℃である。
【0042】
以上のような物性を有するダイボンディングフィルムは、例えば、基材フィルムに接着剤ワニスを塗布し、塗布された接着剤ワニスを乾燥する方法により、得ることができる。接着剤は、好ましくは以下に説明するような組成を有する。
【0043】
ダイボンディングフィルムを形成する接着剤は、好ましくは、熱可塑性樹脂と、熱硬化性成分と、無機フィラーとを含有する。
【0044】
熱可塑性樹脂は、好ましくはポリイミド樹脂である。特に、2種以上の酸無水物と3種以上のアミンとから形成されるポリイミド樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の重量平均分子量は20000〜100000であることが好ましい。熱可塑性樹脂の重量平均分子量が20000未満であると、接着剤の流動性が増加するものの、硬化時の熱で発泡が発生し易くなる可能性がある。熱可塑性樹脂の重量平均分子量が100000を超えると、接着剤の粘度が増加し、ダイボンディング直後及びフィルムの加熱硬化後に支持部材の配線段差を十分に充填できなくなる可能性がある。同様の観点から、熱可塑性樹脂の重量平均分子量はより好ましくは20000〜70000、更に好ましくは20000〜50000である。ここでいう重量平均分子量は、GPC測定により求められる標準ポリスチレン換算値である。
【0045】
熱可塑性樹脂の含有割合は、接着剤(ダイボンディングフィルム)全体に対して、好ましくは20〜50質量%である。
【0046】
熱硬化性成分は、熱により架橋反応を起こす反応性化合物である熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ビスアリルナジイミド、2官能以上の(メタ)アクリレート化合物、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、レゾルシノールホルムアルデヒド樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ケトン樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、ポリイソシアネート樹脂、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌラートを含有する樹脂、トリアリルトリメリタートを含有する樹脂、シクロペンタジエンから合成された熱硬化性樹脂、芳香族ジシアナミドの三量化により形成される熱硬化性樹脂から選ばれる。これら熱硬化性樹脂は単独で又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
熱硬化性樹脂の含有量は、低アウトガス性とフィルム形成性(靭性)との両立、及び硬化後の耐熱性当の観点から、適宜調整される。熱硬化性樹脂の含有割合は、接着剤(ダイボンディングフィルム)全体に対して、好ましくは10〜40質量%である。
【0048】
熱硬化性樹脂の硬化のために、熱硬化性成分は、硬化剤又は触媒を含むことができる。必要に応じて、硬化剤と硬化促進剤、又は触媒と助触媒を併用することができる。
【0049】
無機フィラーは、例えば、酸化ケイ素フィラー及び窒化ホウ素フィラーから選ばれる。無機フィラーは、粒径の異なる2種のフィラーから構成されていてもよい。無機フィラーの含有割合は、接着剤(ダイボンディングフィルム)全体に対して、好ましくは20〜50質量%である。
【0050】
接着剤は、以上のような各成分を有機溶媒中で混合及び混練することにより、接着剤ワニスとして調製することができる。ワニスの調製に用いる有機溶媒は、各成分を均一に溶解、混練又は分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。このような溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N―メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらのなかでも、乾燥速度が速く、価格が安い点でメチルエチルケトン及びシクロヘキサノンが好ましい。
【0051】
ワニスの調製に用いられる有機溶媒の量に特に制限はない。有機溶媒は加熱乾燥等によりダイボンディングフィルムから除去される。ダイボンディングフィルム作製後の有機溶媒量(残存揮発分)は、全質量基準で0.01〜3質量%であることが好ましく、耐熱信頼性の観点からは全重量基準で、0.01〜2質量%であることがより好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
ワニスの調製のための混合及び混練は、通常の撹拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜、組み合わせて行うことができる。
【0053】
ワニスが塗布される基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム及びメチルペンテンフィルム等が挙げられる。基材フィルムは、2種以上のフィルムから構成される多層フィルムであってもよい。基材フィルムの表面がシリコーン系、シリカ系等の離型剤などで処理されていてもよい。
【0054】
ワニスの塗布は、例えばアプリケータ自動塗工機を用いて行うことができる。塗工厚みは、最終的なダイボンディングフィルムの厚さを考慮して決定されるが、好ましくは3〜100μmである。
【0055】
塗布されたワニスの加熱乾燥の条件は、ワニス中の有機溶媒が充分に揮散する条件であれば特に制限はないが、通常、50〜200℃、0.1〜90分間の加熱によりワニスが乾燥される。
【0056】
加熱乾燥後、基材フィルムを除去してダイボンディングフィルム(Bステージ状態のフィルム)を得ることができる。
【0057】
ダイボンディングフィルムは、通常は、基材フィルム上に設けられた状態で供給される。同一又は異なる2枚以上のダイボンディングフィルムが積層されていてもよい。
【0058】
ダイボンディングフィルム付き半導体チップ3は、例えば一般に上市されているピックアップダイボンダーを用いてピックアップされて、図2に示す支持部材5に対して、ダイボンディングフィルムを間に挟んで熱圧着される。例えば、ルネサス東日本セミコンダクタ社製のフレキシブルダイボンダーDB−730又はDB−700、株式会社新川製のダイボンダーSPA−300又はSPA−400、キャノンマシナリ株式会社製BESTEM−D02を使用して、半導体チップをピックアップすることができる。
【0059】
支持部材5は、基板50と、基板50を貫通するはんだボール等の端子51と、端子51に接続された配線52とから構成される。支持部材5の一方の主面には、配線52に起因する段差が形成されている。
【0060】
支持部材5に半導体チップを熱圧着した後、図3に示すように更に他の半導体チップを熱圧着して、支持部材5及び支持部材5に搭載された複数の半導体チップから構成される構造体が得られる。
【0061】
半導体チップを熱圧着するための加熱温度(支持部材の温度)は、60〜150℃が好ましく、80〜130℃がより好ましく、80〜110℃がさらに好ましい。圧着温度が60℃より下回るとフィルムの粘度が下がらず配線段差を埋め込むことが難しくなる可能性がある。圧着温度が150℃を超えると、支持部材側の反りが増大し、ダイボンダーなどにより構造体を搬送することが難しくなる可能性がある。荷重は0.01〜1MPa、加熱時間は0.1〜3秒の範囲で熱圧着が通常行われる。半導体チップを熱圧着するときにダイボンディングフィルムが到達する温度は、好ましくは40〜110℃、より好ましくは55〜95℃、更に好ましくは55〜80℃である。
【0062】
半導体チップを熱圧着により積層した後、樹脂による封止の前は、図3に示すように、ダイボンディングフィルムと支持部材との界面近傍に、空隙9が残存することがある。図4に示すように、ダイボンディングフィルム2を加圧雰囲気70下で加熱硬化させることにより、空隙9を消失させて、配線段差を十分に埋め込むことができる。
【0063】
加圧雰囲気70は、例えば加圧オーブン7中に形成される。加圧雰囲気70は、大気であってもよいし、窒素ガス雰囲気であってもよい。加圧雰囲気70の圧力は、常圧に対し好ましくは0.05〜0.5MPa、より好ましくは0.2〜0.5MPaの静圧である。
【0064】
加圧雰囲気下での加熱温度は、ダイボンディングフィルムのずり粘度が5000Pa・s以下となるように、調整することができる。これにより、配線段差を完全に埋め込むことが特に容易になる。加熱温度は、好ましくは室温〜170℃、より好ましくは80〜150℃、更に好ましくは100〜120℃である。このときの昇温速度は1.0〜5.0℃/分が好ましく、1.5〜3.5℃/分がより好ましく、1.7〜2.5℃/分がさらに好ましい。
【0065】
続いて、各半導体チップをワイヤボンド8により支持部材5の配線に接続した後、半導体チップが封止樹脂9により封止して、半導体装置が得られる。図5は、半導体装置の一実施形態を示す断面図である。図5に示す半導体装置100は。支持部材4と、支持部材4上に積層された複数の半導体チップ10と、半導体チップ10と支持部材4との間及び半導体チップ10同士の間にそれぞれ介在し、これらを接着するダイボンディングフィルム2と、半導体チップ10を封止する封止樹脂9とを主として備える。半導体装置100内のダイボンディングフィルム2は、半導体チップの熱圧着及びその後の加熱により、硬化している。
【0066】
図5に本発明の半導体装置の一態様の断面図を示す。支持部材4の配線6面上に、半導体チップ1が、ダイボンディングフィルム2によって接着されている。半導体チップ1と支持部材4の配線6とは、ボンディングワイヤ8によって電気的に接続されている。支持部材4の配線6面、半導体チップ1及びボンディングワイヤ8は、封止用樹脂9によって封止されている。支持部材4の外面には、はんだボール等の端子5が設けられている。半導体装置内のダイボンディングフィルム2は、半導体チップ1の加熱圧着時やその後の加圧加熱により、硬化している。
【0067】
半導体装置において、支持部材の配線段差が十分に埋め込まれていることが好ましい。半導体装置の主面の垂線方向から見たときに、ダイボンディングフィルムのうち空隙以外の部分の面積の、半導体チップ全体の面積に対する割合(%)、配線段差の埋込性の指標とすることができる。熱圧着後、加圧雰囲気下の加熱硬化の前において、この割合は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。この割合が60%以下であると、加圧雰囲気下での加熱硬化によって空隙を完全に消失させることが困難になる可能性がある。加圧雰囲気下の加熱硬化後には、上記割合は95%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。この割合が95%未満であると、残存する空隙が起点となって吸湿リフロー時に剥離が生じてしまい、信頼性が損なわれる可能性が高い。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<ダイボンディングフィルムの作製>
【0069】
熱可塑性樹脂であるベース樹脂A、B及びCを以下に示す手順で準備し、それらを他の成分とともに用いて、表1の配合表に示す組成を有する接着剤ワニスを調合した。ワニスの溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いた。
1.熱可塑性成分
【0070】
ベース樹脂A
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(マナック社製、ODPA−M)7.6g(0.7mol)、デカメチレンビストリメリテート二無水物(黒金化成社製)6.5g(0.3mol)、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(東レダウコーニングシリコーン社製、BY16−871EG)5g(0.5mol)及びN−メチル−2−ピロリドン30gを仕込んで反応液を調製した。反応液を攪拌し、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共に50%のN−メチル−2−ピロリドンを共沸除去し、「ベース樹脂A」としてのポリイミド樹脂を得た。得られたポリイミド樹脂のGPCを測定したところ、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が52800であった。得られたポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、72℃であった。
【0071】
ベース樹脂B
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、デカメチレンビストリメリテート二無水物(黒金化成社製)386g(1.0mol)、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(和歌山精化製、BAPP)153g(0.5mol)、4,9−ジオキサデカン−1,12−ジアミン(BASF製、B−12)76.5g(0.5mol)及びN−メチル−2−ピロリドン500gを仕込んで反応液を調製した。反応液を攪拌し、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共に50%のN−メチル−2−ピロリドンを共沸除去し、「ベース樹脂B」としてのポリイミド樹脂を得た。得られたポリイミド樹脂のGPCを測定したところ、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が53800であった。得られたポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、38℃であった。
【0072】
ベース樹脂C
温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸二無水物)(黒金化成社製)105g(1.0mol)、ポリオキシプロピレンジアミン(三井化学ファイン社製、D2000)111g(0.7mol)、1,12−ジアミノドデカン(DDO)東京化成30g(0.3mol)及びN−メチル−2−ピロリドン300gを仕込んで反応液を調製した。反応液を攪拌し、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共に50%のN−メチル−2−ピロリドンを共沸除去し、「ベース樹脂B」としてのポリイミド樹脂を得た。得られたポリイミド樹脂のGPCを測定したところ、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が48100であった。得られたポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、20℃であった。
【0073】
2.熱硬化成分
エポキシ樹脂
VG−3010:三井化学、下記構造を有する多官能エポキシ樹脂
【0074】
【化1】

【0075】
硬化促進剤
TPPK:東京化成、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボラート
【0076】
ナジイミド樹脂
BANI−X:丸善石油化学、下記構造を有するキシリレン型ビスアリルナジイミド
【0077】
【化2】

【0078】
アクリレート
R−712:日本化薬、エトキシ化ビスフェノールFジアクリレート
硬化剤
カヤハードNHN:日本化薬、フェノール樹脂(クレゾールナフトールホルムアルデヒド重縮合物)
ビスマレイミド
BMI−80:ケイ・アイ化成、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン
【0079】
3.フィラー
H26:CIKナノテック、酸化ケイ素(平均粒径5μm)
H27:CIKナノテック、酸化ケイ素(平均粒径0.5μm)
HPP1:水島合金鉄、窒化ホウ素(平均粒径3μm)(比較例3)
【0080】
【表1】

【0081】
実施例及び比較例の接着剤ワニスを、それぞれ基材フィルム(剥離剤で処理したポリエチレンテレフタレートフィルム)上に、20μmの厚さでアプリケータ自動塗工機を用いて塗布した。塗布されたワニスを、オーブン中での120℃で10分間の加熱により乾燥した。乾燥後、基材フィルムを除去してダイボンディングフィルム(Bステージ状態のフィルム)を得た。
【0082】
<ダイボンディングフィルムの物性>
タック力
未硬化のダイボンディングフィルムの40℃におけるタック力を、株式会社レスカ製のタッキング試験器を用いて測定した。測定条件は、フィルム厚:20μm、押し込み速度:2mm/秒、引き上げ速度:10mm/秒、停止加重:100gf/cm、停止時間:1秒に設定した。40℃のステージに、ダイボンディングフィルムのサンプルの測定面を上にして固定し、40℃のプローブ(直径5.1mm(φ)のSUS304)に対するタック強度を測定した。ダイシングテープに貼り付ける側の面を測定面とした。未硬化のダイボンディングフィルムとは、Bステージ状態のフィルムを示す。
【0083】
圧着温度におけるフィルム溶融粘度
厚さ100μmの未硬化のダイボンディングフィルムから、打ち抜き型を用いて直径6mmのサンプルを切り出した。サンプルの両面に厚さ150μmのスライドガラスを貼り付けて試験サンプルを作製した。この試験サンプルをCOBボンダ(日立化成工業株式会社製、AC−SC−400B)を用いて、フィルム温度70〜100℃、1MPa/3秒の条件で圧着した。加圧前後のサンプルをスキャナで取り込み、画像解析ソフトで面積を計算し、圧着前後のフィルム厚みを算出した。算出された値から、上述の計算式に従って、ダイボンディングフィルムの溶融粘度(η)を求めた。すなわち、比較例1〜3、実施例2についてはフィルム温度が80℃であるときの溶融粘度、比較例4についてはフィルム温度が65℃であるときの溶融粘度、比較例5、実施例1、4についてはフィルム温度が70℃であるときの溶融粘度、実施例3についてはフィルム温度が55℃であるときの溶融粘度を求めた。
【0084】
硬化温度におけるフィルムのずり粘度
複数のダイボンディングフィルムを、ローラーを用いて重ね合わせて、総厚300±50μmの多層フィルムを作製した。得られた多層フィルムから打ち抜いた13±1mm角の試験片を用いて、ずり粘度の測定を行った。モジュラーコンパクトレオメーターPhysica MCR301(Anton Paar社製)を用いて、多層フィルムの試験片を平行円板(直径12mm)に挟み、周波数1Hz、昇温速度5℃/分及び測定温度30〜200℃の条件で粘弾性測定を行い、100〜120℃における複素粘度の値(Pa・s)を、硬化温度におけるずり粘度とした。
【0085】
<ダイボンディングフィルムの組立性>
ピックアップ性
Bステージ状態のダイボンディングフィルムから打ち抜いた直径210mmのフィルムを、厚さ80μmのダイシングテープ(電気化学工業株式会社製、商品名T−80MW)に、ダイアタッチフィルムマウンター(株式会社ジェーシーエム製、商品名DM−300−H)を用いて室温(25℃)で貼り合わせた。塗工時の開放面(ポリエチレンテレフタレートフィルムの逆側)とダイシングテープとが貼り合わされた、ダイボンディングフィルム・ダイシングテープ積層品を得た。
ダイボンディングフィルム・ダイシングテープ積層品に対して、50μm厚の半導体ウエハを熱板上でラミネートし、半導体ウエハとダイボンディングフィルム・ダイシングテープ積層品とから構成されるダイシングサンプルを作製した。ラミネート時の熱板表面温度は60〜120℃に設定した。
【0086】
次いで、株式会社ディスコ製、商品名フルオートマチックダイシングソーDFD−6361を用いて、ダイシングサンプルを切断した。ダイシングサンプルの切断は、ブレード1枚で加工を完了するシングルカット方式で、株式会社ディスコ製、商品名ダイシングブレードNBC−ZH104F−SE 27HDBBを用い、ブレード回転数45000min−1、切断速度50mm/秒の条件で行った。切断時のブレードハイトは、ダイシングテープを20μm切り込む設定(60μm)とした。半導体ウエハのサイズが10×10mmとなるようにダイシングサンプルを切断して、ダイボンディングフィルム付き半導体チップを得た。
【0087】
得られたダイボンディングフィルム付き半導体チップのピックアップ性を、株式会社ルネサス東日本セミコンダクタ製、商品名フレキシブルダイボンダーDB−730を使用して評価した。ピックアップ用コレットとして、マイクロメカニクス社製、商品名RUBBER TIP 13−087E−33(サイズ:10×10mm)を、突上げピンとしてマイクロメカニクス社製、商品名EJECTOR NEEDLE SEN2−83−05(直径:0.7mm、先端形状:直径350μmの半円)を用いた。
【0088】
突上げピンは、ピン中心間隔4.2mmで9本配置した。ピンの突上げ速度:10mm/秒、突上げ高さ:500μmの条件で半導体チップをピックアップしたときのピックアップ性を評価した。半導体チップの支持部材への圧着条件は、熱板温度120℃、荷重0.1MPa、時間1秒とした。連続して100チップをピックアップし、チップ割れ、ピックアップミス等が発生しない場合を「良好」、1チップ以上のチップ割れ、ピックアップミス等が発生した場合を「不良」と判定した。
【0089】
配線段差の埋込性
「ピックアップ性」の評価において作製したダイボンディングフィルム・ダイシングテープ積層品に、50μm厚の半導体ウエハを熱板上でラミネートして、半導体ウエハとダイボンディングフィルム・ダイシングテープ積層品から構成されるダイシングサンプルを作製した。ラミネート時の熱板表面温度は60〜120℃に設定した。得られたダイシングサンプルを、株式会社ディスコ社製、商品名フルオートマチックダイシングソーDFD−6361を用いて切断した。ダイシングサンプルの切断は、ブレード1枚で加工を完了するシングルカット方式で、株式会社ディスコ社製、商品名ダイシングブレードNBC−ZH104F−SE 27HDBBを用い、ブレード回転数45000min−1、切断速度50mm/秒の条件で行った。切断時のブレードハイトは、ダイシングテープを20μm切り込む設定(60μm)とした。半導体ウエハのサイズが7.5×7.5mmとなるようにダイシングサンプルを切断して、ダイボンディングフィルム付き半導体チップを得た。
【0090】
得られたダイボンディングフィルム付き半導体チップを、株式会社ルネサス東日本セミコンダクタ製、商品名フレキシブルダイボンダーDB−730を使用して、表面段差10μmの配線付き支持部材に圧着した。圧着条件は、熱板温度80〜120℃、荷重0.1MPa、時間1秒とした。その後、0.5MPaの加圧雰囲気下で、室温から120℃まで30分間で昇温した後、120℃で1時間加熱する条件によりダイボンディングフィルムを硬化した。比較例5では、加圧雰囲気下ではなく、常圧雰囲気下でダイボンディングフィルムを硬化させた。
【0091】
半導体チップ及び支持部材を接着しているダイボンディングを、超音波映像診断システム(インサイト(株)社製 Insight−300 Scanning Acoustic Microscope:SAM)を用いて観察して、ダイボンディングフィルムと支持部材との界面近傍におけるボイドの有無に基づいて、配線段差の埋込性を評価した。観察には周波数200MHz、焦点距離3mmのプローブを用いた。圧着後及びフィルム硬化後のサンプルをそれぞれ12個ずつ作製し、それらサンプルについて配線段差の埋込性を評価した。SAM画像を画像解析ソフトを用いて解析し、ダイボンディングフィルムの主面の垂線方向から見たときに、ダイボンディングフィルムのうち空隙以外の部分の面積の、半導体チップ全体の面積に対する割合(%)を段差埋込性とした。
【0092】
吸湿リフロー耐性
「配線段差の埋込性」の評価において作製した、支持部材及びこれに搭載された半導体チップから構成される積層体上に、日立化成工業株式会社製の封止材(商品名CEL−9750ZHF)を成型し、175℃で5時間の硬化処理を行い、半導体パッケージを得た。
【0093】
超音波映像診断システム(インサイト(株)社製、Insight−300 Scanning Acoustic Microscope:SAM)により、半導体パッケージ内部の剥離、ボイドの有無を観察した後、125℃で12時間乾燥した。
【0094】
乾燥後の半導体パッケージを85℃、60%RH及び168時間の吸湿処理を行った後、最大温度265℃、30秒の設定でリフロー処理を3回行った。リフロー処理後の半導体パッケージを再度、超音波映像診断システムで観察し、半導体パッケージ内部の剥離、ボイドの有無を観察した。リフロー処理後について、12パッケージを観察し、半導体パッケージ内部の剥離、ボイドが存在しなかったものを吸湿リフロー耐性「良好」、1パッケージでも剥離、ボイドが存在したものを吸湿リフロー耐性「不良」と判定した。
【0095】
表2に評価結果を示す。実施例1〜4では、薄い半導体ウエハを割れなくピックアップでき、圧着工程で配線段差を95%以上の高い割合で充填可能であるとともに、フィルム硬化を加圧雰囲気下で行ったことにより圧着工程で未充填により形成された空隙を完全に充填することもできた。加えて、得られた半導体パッケージが良好な吸湿リフロー耐性を有していた。
比較例1及び3のダイボンディングフィルムの圧着温度における溶融粘度は100000Pa・sを超えており、また、その100〜120℃におけるずり粘度が10000Pa・s以上と高く、圧着工程及び加圧加熱工程において配線段差が十分に埋め込まれなかった。そのため、吸湿後のリフロー処理時に未充填部位を起点とした剥離が生じて、良好な吸湿リフロー耐性が得られなかったと考えられる。
【0096】
比較例2においては、ダイボンディングフィルムの圧着温度における溶融粘度は20000〜100000Pa・sの範囲内であり、圧着後の配線段差埋込性は85%であった。しかし、100〜120℃におけるずり粘度が5000Pa・sを超えていることから、硬化後の埋込性は十分でなかった。そのため、吸湿後のリフロー処理時に未充填部位を起点とした剥離が生じて、良好な吸湿リフロー耐性が得られなかったと考えられる。
【0097】
比較例3においては、ダイボンディングフィルムの40℃におけるタック力が1000mN以上であることから、ダイボンディングフィルム付半導体チップのピックアップ性も良好でなかった。
【0098】
比較例4においては、ダイボンディングフィルムの圧着温度における溶融粘度が100000Pa・sを超えており、硬化後の埋込性が95%以上に到達しない。そのため、吸湿後のリフロー処理時に未充填部位を起点とした剥離が生じて、良好な吸湿リフロー耐性が得られなかったと考えられる。
【0099】
比較例5においては、ダイボンディングフィルムの圧着温度における溶融粘度が100000Pa・sを超えており、圧着後の埋込性は60%以上であった。しかし、硬化後に加圧処理を行っていないために、硬化後の埋込性が95%以上に到達しない。そのため、吸湿後のリフロー処理時に未充填部位を起点とした剥離が生じて、良好な吸湿リフロー耐性が得られなかったと考えられる。
【0100】
【表2】

【符号の説明】
【0101】
1…配線付き半導体チップ、2…ダイボンディングフィルム、3…ダイボンディングフィルム付き半導体チップ、5…支持部材、7…加圧オーブン、9…空隙、8…ボンディングワイヤ、10…半導体チップ、11…チップ側配線、9…封止樹脂。50…基板、51…端子、52…支持部材側配線、70…加圧雰囲気、100…半導体装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップを、支持部材及び/又は他の半導体チップに、ダイボンディングフィルムを介して熱圧着する工程と、
前記ダイボンディングフィルムを0.2〜0.5MPaの加圧雰囲気下で加熱し、前記ダイボンディングフィルムの硬化を進行させる工程と、
前記半導体チップを封止樹脂により封止する工程と、
をこの順に備え、
前記半導体チップを熱圧着する工程において前記ダイボンディングフィルムが到達する温度における前記ダイボンディングフィルムの溶融粘度が20,000〜100,000Pa・sであり、
100〜120℃における前記ダイボンディングフィルムのずり粘度が5,000Pa・s以下である、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
0.2〜0.5MPaの加圧雰囲気下で加熱される前の前記ダイボンディングフィルムのガラス転移温度が10〜80℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ダイボンディングフィルムが、20,000〜100,000の重量平均分子量を有するポリイミド樹脂と、熱硬化性樹脂と、無機フィラーとを含有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ダイボンディングフィルムの厚みが5〜80μmであり、
0.2〜0.5MPaの加圧雰囲気下で加熱される前の前記ダイボンディングフィルムの40℃におけるタック力が1000mN以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法により得ることのできる、半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−253278(P2012−253278A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126573(P2011−126573)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】