説明

半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバー

【課題】耐食性と強度に優れ、腐食環境下に晒される半導体製造装置チャンバーに好適なガラス状炭素製チャンバーを提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂を成形して得た円筒状成形体1を加熱しつつ組成変形させて異形管を得、これを不活性雰囲気中1000℃に加熱して得られるガラス状炭素からなる半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーであり、その軸心線方向と垂直な断面の形状がレーストラック形状をなしていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置用のチャンバーとして好適な、ガラス状炭素からなる半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス状炭素は、不活性雰囲気では2000℃以上の耐熱性を有し、フッ化水素やフッ素に対しても優れた耐蝕性を示す。このため、半導体製造装置、なかでもCVD装置など、腐食性ガスを扱い、しかも不純物の発生の少ないことが要求される装置部品へ適用することが考えられている。ガラス状炭素製成形体は、一般に、フラン樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂の成形体を高温で炭化焼成して製造される。その製造に際しての製造技術上の問題は、原料である前記熱硬化性樹脂の成形性が低いことと、炭化焼成において20%前後の収縮が起こることである。ゆえに、複雑な形状の部品を精度よく成形することは、容易ではない。
【0003】
ところで、本発明が対象とするガラス状炭素製のものは、その軸心線方向と垂直な断面の形状が平行をなす2つの直線部と、これらの直線部を繋ぐ2つの円弧状部とを有するレーストラック形状をなしているものである(図2,図3参照)。
【0004】
断面が単純な円形のガラス状炭素製成形体(円筒体)であれば、熱硬化性樹脂を用い遠心成形など常法に従って成形した断面円形で円筒状をなす熱硬化性樹脂製成形体を炭素化することで製造することができるが、半導体成膜装置用など多様な部品をガラス状炭素で製作するためには、断面が円形でない、前記の断面がレーストラック形状で筒状をなすガラス状炭素製成形体も必要とされる。しかし、該ガラス状炭素製成形体の製造に際し、断面がレーストラック形状で筒状をなす熱硬化性樹脂製成形体を遠心成形で製造することは原理的に不可能である。
【0005】
円筒体や、断面がレーストラック形状の筒状体のガラス状炭素部品を製造する際には、製品の寸法精度を確保するために、一般には中子が使用される。ここで、中子とは、製品形状を保持するための部品であり、その寸法の少なくとも一部は、炭化処理後、すなわち収縮した後の製品の寸法の一部にほぼ等しくなるように設計される。そして、炭化処理前の熱硬化性樹脂製成形体の内部に挿入して使用され、製品を内側から支えることにより製品形状と寸法を所定の範囲に抑える機能を有する(特開2002−179463号公報(特許文献1)参照)。
【0006】
例えば、円筒状のガラス状炭素部品を製造する際には、熱硬化性樹脂円筒の内部に、その内径より小さく、炭化処理後のガラス状炭素製円筒の内径にほぼ等しい内径を有する、黒鉛円筒を中子として挿入した状態で炭化処理を行う。
【0007】
特開2000−313666号公報(特許文献2)には、円筒を分割した形状の熱硬化性樹脂製成形体を作り、それらを接合して円筒状成形体とし、それを炭化処理する、というガラス状炭素製円筒の製造方法が提案されている。しかしながら、特許文献2には、断面形状が楕円であったり、部分円と直線部からなるような筒状体の製造については触れられていない。また、前記提案の製造方法の要領で、分割部分を高い寸法精度で製作し、それらを正確に位置決めして接合することはそもそも困難である。また、半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーでは、接合された部分はできるだけ少ないか、ないことが望ましい。なぜなら、接合線は、寸法歪み、残留応力や、発塵の原因となることが多いからである。
【0008】
また、寸法精度の問題については、中子も問題である。中子を使用する方式の欠点は、炭化処理を開始する時点において、中子と製品である熱硬化性樹脂製成形体の間の空隙が大きいため、中子による寸法矯正効果が十分でないことである。すなわち、中子と製品が接触するのは炭化処理が概ね完了する時点であるので、それまでに製品が大きく変形した場合には、中子によっても寸法を十分矯正することは困難であった。このような困難は、製品が断面がレーストラック形状をなす筒状体の場合に顕著になる。
【特許文献1】特開2002−179463号公報
【特許文献2】特開2000−313666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、耐食性と強度に優れ、腐食環境下に晒される半導体製造装置用チャンバーに好適な部品として、チャンバー軸心線方向と垂直な断面の形状がレーストラック状をなす、半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーを提供することにある。ここで、半導体製造装置用チャンバーとは、半導体ウエハに種々の処理を施すための装置に使用され、半導体ウエハをその内部に収容し、かつ、その内部を所定の雰囲気(真空を含む)に保持する機能を有するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明は次のような構成としている。すなわち、請求項1の発明は、ガラス状炭素からなる半導体製造装置用チャンバーであって、チャンバー軸心線方向と垂直な断面の形状がレーストラック形状をなしていることを特徴とする半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、チャンバー軸心線方向と垂直な断面の形状がレーストラック状をなし、耐食性と強度に優れ、腐食環境下に晒される半導体製造装置用チャンバーとして好適な、半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明の半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーを製造する工程は、熱硬化性樹脂を成形して熱硬化性樹脂製円筒状成形体を得る工程と、熱硬化性樹脂製円筒状成形体を加熱しつつ塑性変形して断面がレーストラック形状の熱硬化性樹脂製筒状成形体を得る工程と、得られた前記熱硬化性樹脂製筒状成形体を炭素化する工程と、を含むものである。
【0013】
前記熱硬化性樹脂製円筒状成形体を得る工程では、原料樹脂を円筒形に成形するが、この場合の成形法は特に限定されず、遠心成形法、射出成形法、押出成形法など公知の技術を採用することができる。これらの成形法のうち、特に遠心成形法を採用することが好ましい。その理由としては、遠心成形法では、遠心力により溶融状態の原料樹脂を成形型の内面側に流動させて硬化させるため、円筒状物の成形が容易で成形体の寸法精度も高く、更には成形時において内面側が開放されているのでガス抜きも良好に実施できること、更には最終製品である半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーの態様からして接合線は少ないほど有利であることが挙げられる。なお、原料樹脂としては、例えば、フェノール樹脂やフラン樹脂など、公知の熱硬化性樹脂を好適に採用できる。
【0014】
前記の断面がレーストラック形状の熱硬化性樹脂製筒状成形体を得る工程では、熱硬化性樹脂製円筒状成形体を加熱しつつ塑性変形するが、その塑性変形の手段は特に限定されず、例えば、チャンバー形状を備える割り型を用い加熱しつつプレスにより荷重を加えて型に嵌めるか、あるいは、熱硬化性樹脂製円筒状成形体の内周面に少なくとも2本の棒状治具を設け、加熱しつつ前記棒状治具を径方向に押し開く手段を挙げることができる。図1は、その後者の塑性加工方法の一態様を示す説明図である。この図1に示す塑性加工は、熱硬化性樹脂製円筒状成形体1の内周面に2本の丸棒治具2を設ける(図1(a)参照)。次いで、熱硬化性樹脂製円筒状成形体1を所定温度に加熱しながら丸棒治具2を、図示省略する押し開き手段によって径方向に押し開く(図1(b)参照)ことで加工が行われる。このように加工して得られる断面がレーストラック形状の熱硬化性樹脂製筒状成形体3を図2に示す。
【0015】
前記の塑性加工について更に詳細に説明する。一般に、熱硬化性樹脂製円筒状成形体は、靭性に乏しいので、機械加工は容易でないことが知られている。したがって、複雑な形状の成形体を複数の部品を接合することによって製造することは容易ではない。そこで、本発明者等は、断面がレーストラック形状の熱硬化性樹脂製筒状成形体の製造について種々検討した結果、熱硬化性樹脂製円筒状成形体をそのガラス転移点(以下Tgという)以上に加熱して力を加えると、容易に塑性変形させられることを見出した。
【0016】
塑性変形させる温度としては、Tgより5℃以上高い温度が好ましい。温度差が5℃より小さい場合には、塑性変形に大きな力を必要とし、しばしば破断に至る。また、その温度の差の上限は、100℃、より好ましくは50℃とする。100℃を超えると、熱硬化性樹脂製円筒状成形体の硬化反応が急速に進行して塑性変形させることができなくなるからである。
【0017】
塑性変形に供する熱硬化性樹脂製円筒状成形体はそのTgが100℃以下、好ましくは60℃以下であることが望ましい。Tgが高い場合は、塑性変形のためにより高温に熱する必要がある。このため、変形操作が困難であるばかりでなく、塑性変形操作中に硬化反応が急速に進むため、変形させることが難しくなるためである。Tgの下限は特になく、一般に低い方が望ましい。ただし、過剰に低い場合には室温での強度が不足して取り扱いが困難となるため、室温近傍以上、25℃以上のTgを有することが望ましい。
【0018】
塑性変形は、前述したように、熱硬化性樹脂製円筒状成形体を、チャンバー形状を備える割り型を用い加熱しつつプレスにより荷重を加えて型に嵌めるか、あるいは、加熱しつつ内周面に設けた少なくとも2本の棒状治具を径方向に押し開く加工手段によって行われるが、熱硬化性樹脂製円筒状成形体を塑性変形させられる範囲にはもちろん限りがある。つまり、その限界を超えて塑性変形させると、破断や亀裂などの欠陥が生じるような変形限界である。塑性変形前後の曲率半径をそれぞれR、R´、その比(R´/R)をt、肉厚と塑性変形前の半径Rの比(肉厚/R)をwとする。肉厚の中心部が変形に対して中立(寸法が変化しない)で、外側と内側で均等に塑性変形が発生し、肉厚の変化が無視できると仮定すると、外周部、内周部の周方向の長さの変化率lo、liは、次式で表される。
lo=(t+w/2)/[t(1+w/2)]
li=(t−w/2)/[t(1−w/2)]
【0019】
樹脂の性状によっても異なるが、一般に、変化率loないしliが、10%以下、好ましくは5%以下とすることが望ましい。例えば、肉の中心直径が320mm、肉厚が3mmの円筒の一部を、肉の中心直径が60mmの円弧を有する筒状体に塑性変形するとき、外周、内周の変化率は、およそ4%となる。
【0020】
前記の式に記したとおり、外周、内周の変化率は肉厚とRの比にも影響を受ける。端的には肉厚が大きいほど変化率が大きくなる。上記の例において、肉厚を3mmから6mmにすると同一の変形で約2倍の変化を生じる。つまり、肉厚は、部品設計上、問題のない範囲で、比較的薄い方が望ましい。10%以上の大きな塑性変形を起こす場合には、樹脂成形体に欠陥が生じるおそれが高いので好ましくない。塑性変形の速度はとくに限定されないが、一般には数分から数時間にわたって荷重をかけておこなうことがよい結果を与える。急激な変形をおこすと、樹脂の劣化が進むことがある
【0021】
このように塑性変形させた後は、さらに高い温度でキュアリング(化学反応を促進するための加熱)を行なうことで、それ以上の好ましくない変形を防止させることができる。キュアリング条件は、塑性変形温度によって異なるが、例えばフェノール樹脂を用いる場合では、空気中で、温度:180〜350℃、時間:10〜100時間、とすることができる。
【0022】
次に、断面がレーストラック形状の熱硬化性樹脂製筒状成形体を炭素化する工程について説明する。この炭素化工程では、前記塑性変形して得た熱硬化性樹脂製筒状成形体に対して炭素化処理を施し、ガラス状炭素製チャンバーとする。炭素化処理の条件としては、例えば、非酸素雰囲気中(不活性ガス雰囲気中など)で、温度:800〜2500℃で熱処理することが一般的である。
【0023】
このようにして、図2に示す断面がレーストラック形状をなす熱硬化性樹脂製筒状成形体3と同形状であって炭化処理にて収縮した、断面がレーストラック形状の筒状をなすガラス状炭素製チャンバーを得ることができる。
【0024】
ところで、前記ガラス状炭素製チャンバーをより寸法精度よく得るためには、製品(ガラス状炭素製チャンバー)前駆体である前記熱硬化性樹脂製筒状成形体と実質的に同一の炭化収縮率を有する中子を使用するのが好ましい。この場合、中子の寸法は、製品前駆体の内径(内側形状)の少なくとも一部と実質的に同一の寸法とすることができる。なぜなら、中子も製品前駆体と同様に炭化収縮を生じるためである。この中子は、炭化処理の開始時から終了時まで製品形状をその内部から保持する効果を有する。
【0025】
ここで実質的に「同一の炭化収縮率」とは、炭化処理前後の寸法収縮率(%)が、およそ±2ポイント以内、好ましくは1ポイント以内であることを意味する。たとえば100mmの熱硬化性樹脂製成形体を炭化すると概ね80%まで炭化収縮する(樹脂によって多少異なる)。この場合、2ポイントの収縮率差は2mmの寸法差となる。この差より小さければ中子としての効能を発揮する。大きい場合には、その形状を支える効能が十分でなかったり、あるいは製品(ガラス状炭素製チャンバー)を破損させたりすることがある。
【0026】
更に、中子を同じ材質としてその炭化収縮率を製品とほぼ同じくするだけでなく、黒鉛と熱硬化性樹脂など、2種以上の材質を組合せて中子を作り、中子全体としての収縮率を製品に合わせることでも同じ効能を得ることができる。
【0027】
また、「実質的に同じ材質」とは、同じ樹脂系の材質を意味する。例えば、ガラス状炭素製チャンバーの出発原料がフェノール樹脂であり、中子は安価でほぼ同じ炭化収縮率の発泡フェノール樹脂を使用することができる。
【0028】
前記中子は、断面がレーストラック形状をなす熱硬化性樹脂製筒状成形体の中空部分と同じ断面形状であって、該熱硬化性樹脂製筒状成形体の長手方向に延びる柱状体であっても良いが、高さが熱硬化性樹脂製筒状成形体の平行平面間距離を有し、任意の幅を有して熱硬化性樹脂製筒状成形体の長手方向に延びる直方体形状であって、該熱硬化性樹脂製筒状成形体の平行平面間に任意の間隔で断面長手方向に複数個配されるものであると、中子用の樹脂が少量で済むと共に、炭素化後に取り出すのが容易になるために、好ましい。
【0029】
また、中子と製品の間に、黒鉛製フェルトや軟質のセラミックシートなど、可撓性を有する材料を挟みこむことは、中子と製品の過剰な接触、更には中子の破損を防ぐために有効である。
【0030】
また、半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーは、一方の端部又は両方の端部にフランジが形成されてあってもよく、そのフランジを形成する工程について説明する。フランジの成形は、公知の方法、例えば下記3法が使える。
【0031】
(1)プレス成形ないし射出成形
フランジ形状の金型を用いて、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を高圧成形し、フランジ部を成形する。それを、既に塑性変形された断面がレーストラック形状をなす熱硬化性樹脂製筒状成形体の端部に接着する。
【0032】
(2)遠心成形
熱硬化性樹脂(粒状または液体)を遠心成形し、フランジ部と同じ厚さの樹脂パイプを成形し、当該パイプを平面に展開し、その後、加熱しながら上記塑性変形と同様の条件で荷重をかけて、平板状に塑性変形させる。その平板からフランジ形状の部品を切り出す。それを、既に塑性変形された熱硬化性樹脂製筒状成形体の管端に接着する。
【0033】
(3)注型成形
フランジ部のキャビティを有する金型に液状熱硬化性樹脂を注入し、熱硬化させてフランジ部を形成する。そのフランジ部品を、既に塑性変形された熱硬化性樹脂製筒状成形体の端部に接着する。あるいは、熱硬化性樹脂製筒状成形体を前記金型に挿入してから液状熱硬化性樹脂を注入して、熱硬化させることにより、フランジ部を熱硬化性樹脂製筒状成形体の端部に一体化させることもできる。
【0034】
前記のフランジ部と熱硬化性樹脂製筒状成形体との接着は、液状熱硬化性樹脂を接着剤として使用する方法や、粉体樹脂を接合部に充填して、荷重をかけながら加熱して溶融させる方法など、公知の技術を用いて行なうことができる。また、前記3つの成形法いずれも、フランジ部、熱硬化性樹脂製筒状成形体、接着材の材質は、それぞれ異なる熱硬化性樹脂を用いてもよいが、炭化時の収縮率ができるだけ近くなるように、同じ樹脂を使うことが望ましい。そうすることによって、炭素化処理時の寸法の不均一な変化(精度の低下)を防ぐことができる。
【0035】
このように、本発明による半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーは、チャンバー軸心線方向と垂直な断面の形状がレーストラック形状をなし、かつ、前記断面に接合部を有しないもの(チャンバー長手方向と平行な方向に接合線のないもの)であることから、前記断面に接合部を有しないことで耐食性と強度に優れたものとなる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
市販の液状フェノール樹脂(群栄化学製レジトップPL−4804)を、減圧下100℃で1時間熱処理して、水分率を調整し、ガラス状炭素の原料とした。この原料を、内径325mm×長さ1600mmの遠心成形金型を用いて遠心成形法により成形し、直径320mm、厚さ3.5mmのフェノール樹脂製円筒状成形体を得た。ガラス転移点は65℃であった。
【0037】
前記得られたフェノール樹脂製円筒状成形体を長さ600mmに切断した。この切断されたフェノール樹脂製円筒状成形体の内部に、図1に示すように、外径60mm×長さ600mmのステンレス管(棒状治具)2本を入れた。1本は、フェノール樹脂製円筒状成形体を支えるごとく、他の1本は、該円筒状成形体の内側底部に荷重として置いた(図1a参照)。この状態にて90℃で5時間加熱を行って、断面がレーストラック形状をなすフェノール樹脂製筒状成形体が得られた(図1(b)参照)。そして、この後、前記フェノール樹脂製筒状成形体を常法により炭素化処理を行って、断面における半円部の半径が24mm、断面における平行部の長さ(平行をなす2つの各直線部の長さ)が340mm、全長が480mmの、断面に接合部を有しない(長さ方向に接合線のない)、半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーを得ることができた。
【0038】
(実施例2)端部にフランジを接合した場合の例
前記実施例1と同様の製造方法で、断面がレーストラック形状をなすフェノール樹脂製筒状成形体を得た。一方、前記実施例1と同じ原料を用いて、遠心成形法により厚さ3mmのフェノール樹脂製の管状体を成形し、これを切り開いて展開し、厚さ3mmのフェノール樹脂製の板状体を得た。この板状体から、幅86mm×平行部の長さ425mm×半円部の半径33mmで、その中心部に中空部(孔)が形成され、該中空部の周縁形状が前記フェノール樹脂製筒状成形体の外形と等しい形状である、レーストラック型ドーナツ状の樹脂板を切り出した。これら二つの部品をフェノール樹脂で接合し、前記実施例1と同様に常法により炭素化処理したところ、断面における半円部の半径が24mm、断面における平行部の長さが340mm、全長が480mmで、片端に幅8mmのフランジを有する、半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーを得ることができた。
【0039】
(実施例3)中子を用いた場合の例
市販の液状フェノール樹脂(群栄化学製レジトップPL−4804)を、減圧下100℃で1時間熱処理して、水分率を調整し、ガラス状炭素の原料とした。この原料を、内径325mm×長さ1600mmの遠心成形金型を用いて遠心成形法により成形し、直径320mm、厚さ3.5mmのフェノール樹脂製円筒状成形体を得た。
【0040】
前記得られたフェノール樹脂製円筒状成形体を長さ500mmに切断した。この切断されたフェノール樹脂製円筒状成形体の内部に、図1に示すように、外径60mm×長さ600mmのステンレス管(棒状治具)2本を入れた。1本は、フェノール樹脂製円筒状成形体を支えるごとく、他の1本は、該円筒状成形体の内側底部に荷重として置いた(図1(a)参照)。この状態にて90℃で5時間加熱を行って、断面がレーストラック状をなすフェノール樹脂製筒状成形体を得た(図1(b)参照)。
【0041】
前記フェノール樹脂製筒状成形体の内部に、中子として、厚さ3mm×幅60mm×長さ500mmのフェノール樹脂製の板状体8枚を図3に示すように所定間隔で挿入した。この後、これらの中子とともにフェノール樹脂製筒状成形体を不活性雰囲気中1000℃に加熱処理して炭素化させ、半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーを得た。得られた該ガラス状炭素製チャンバーは、平行部の間隔が48mmの平均値に対して±0.6mm以内に収まっており、半導体製造装置用チャンバーとして好適であった。なお、図3(a)は炭素化処理前、図3(b)は炭素化処理後を示す。また、図において、4はフェノール樹脂製筒状成形体、5はフェノール樹脂製板状体(中子)、6は中子が取り外される前の、半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーを示す。
【0042】
また、比較のため、厚さ48mm×幅320mm×長さ400mmの直方体に形成した黒鉛製中子7を、前記フェノール樹脂製筒状成形体4の内部に図4に示すように挿入し、黒鉛製中子7とともにそのフェノール樹脂製筒状成形体4を不活性雰囲気中1000℃に加熱処理して炭化させ、ガラス状炭素製筒状成形体8を得た。得られたガラス状炭素製筒状成形体8は、平行部の幅が45mmの平均値に対して±1.6mmもの変動があり、半導体製造装置用チャンバーとして使用するには寸法精度の点で満足のいく寸法ものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーを製造するあたり、熱硬化性樹脂製円筒状成形体を加熱しつつ塑性変形して断面の形状がレーストラック形状をなす熱硬化性樹脂製筒状成形体を得る工程の一態様を示す説明図であって、その(a)は塑性変形前の状態を示し、その(b)は組成変形後の状態を示すものである。
【図2】本発明に係る断面がレーストラック状をなす熱硬化性樹脂製筒状成形体の斜視図である。
【図3】本発明に係る熱硬化性樹脂製筒状成形体から半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバーを得る炭素化工程の一態様を示す説明図であって、その(a)は炭素化処理前の状態を示し、その(b)は炭素化処理後の状態を示すものである。
【図4】比較例を説明するための、熱硬化性樹脂製筒状成形体からガラス状炭素製筒状成形体を得る炭素化工程の一態様を示す説明図であって、その(a)は炭素化処理前の状態を示し、その(b)は炭素化処理後の状態を示すものである。
【符号の説明】
【0044】
1…熱硬化性樹脂製円筒状成形体
2…丸棒治具
3…熱硬化性樹脂製筒状成形体
4…フェノール樹脂製筒状成形体
5…フェノール樹脂製板状体(中子)
6…中子が取り外される前の、半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバー
7…黒鉛製中子
8…ガラス状炭素製筒状成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス状炭素からなる半導体製造装置用チャンバーであって、チャンバー軸心線方向と垂直な断面の形状がレーストラック形状をなしていることを特徴とする半導体製造装置用ガラス状炭素製チャンバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−131526(P2007−131526A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304251(P2006−304251)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【分割の表示】特願2004−87196(P2004−87196)の分割
【原出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】