説明

単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法

【課題】単列ラジアル玉軸受6のラジアル隙間を能率良く測定できる方法を実現する。
【解決手段】外輪4と内輪2との間に所定のアキシアル荷重を加える事により各玉5、5に予圧を付与した状態で、これら内輪2と外輪4とを相対回転させ、上記単列ラジアル玉軸受6の振動を測定する。そして、この振動の周波数から上記各玉5、5の接触角を求め、更にこの接触角から、外輪軌道3と内輪軌道1とこれら各玉5、5の転動面との間に存在する、ラジアル方向の隙間を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種機械装置の回転支持部に、予圧を付与した状態で組み込む、単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法の改良に関し、このラジアル隙間の測定を能率良く行なえる測定方法の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
各種機械装置の回転支持部を構成する転がり軸受として、深溝型或いはアンギュラ型等の単列ラジアル玉軸受が、広く使用されている。この様な単列ラジアル玉軸受は、本発明の実施の形態を示す図1に示す様に、外周面に内輪軌道1を有する内輪2と、内周面に外輪軌道3を有する外輪4と、これら内輪軌道1と外輪軌道3との間に転動自在に設けられた複数個の玉5、5とを備える。これら各玉5、5は、図示しない保持器により保持する場合も多い。この様な単列ラジアル玉軸受6により上記回転支持部を構成する場合、一般的には、1対の単列ラジアル玉軸受6を軸方向に離隔した状態で互いに同心に設け、これら両単列ラジアル玉軸受6を構成する上記各玉5、5に予圧を付与した状態で使用する。
【0003】
この様に、1対の単列ラジアル玉軸受6を、これら各玉5、5に予圧を付与する事により、複列玉軸受ユニットとして使用する状態では、これら各玉5、5に接触角が付与される。又、この複列玉軸受ユニットの負荷容量やモーメント剛性は、この接触角の大きさに影響を及ぼされる。接触角が大きい程、ラジアル方向の負荷容量が小さくなる代わりにアキシアル方向の負荷容量が大きくなる。又、複列玉軸受ユニットに付与されている接触角の方向が背面組み合わせ型である場合には、上記接触角が大きくなる程、上記モーメント剛性が大きくなる。更に、この接触角の大きさは、各単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間により定まる。具体的には、ラジアル隙間が大きい程接触角が大きくなる。
【0004】
これらの事情を考慮すれば、1対の単列ラジアル玉軸受6を組み合わせて成る複列玉軸受ユニットに所望の性能を発揮させる為には、この単列ラジアル玉軸受6として、ラジアル隙間の値が適正なものを使用する必要がある。単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法としては、JIS B 1515に規定されている様に、外輪と内輪とのうちの一方を固定したまま他方をラジアル方向に変位させ、その変位量から求める方法が知られている。但し、この様な従来方法では、多数の単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間を、短時間で自動的に測定する事が難しく、実際にはロット毎の抜き取り検査を行なっているのが現状である。
【0005】
上述の様な複列玉軸受ユニットの性能を安定させる為には、全部の単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間を測定できる(工業的に全数測定が可能な)測定方法の実現が望まれる。特許文献1、2には、複列玉軸受ユニットの共振周波数を測定する事により、この複列玉軸受ユニットを構成する玉に付与されている予圧を求める方法が記載されている。又、特許文献3には、複列玉軸受ユニットを構成するナットの緊締前後での、この複列玉軸受ユニットの内部隙間を測定して、この複列玉軸受ユニットの良否を判定する方法が記載されている。更に、特許文献4には、単列ラジアル玉軸受を構成する外輪と内輪とを同心乃至は中心軸同士を傾斜させた状態で回転させる事により、この単列ラジアル玉軸受の転動面や軌道面に傷等の欠陥があるか否かを測定する方法に関する発明が記載されている。但し、上記特許文献1〜4の何れにも、単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間を能率良く測定する方法に就いては記載されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−10835号公報
【特許文献2】特開2000−74788号公報
【特許文献3】特開2002−333016号公報
【特許文献4】特開2004−361390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間を能率良く測定できる方法の実現を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法は、内周面に単列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に単列の内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉とを備えた、単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法である。
この様な、本発明の単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法は、上記外輪と上記内輪との間に所定のアキシアル荷重を加える事により、上記各玉に予圧を付与した状態で、上記外輪と上記内輪とのうちの一方の軌道輪を回転させて、上記ラジアル玉軸受の振動を測定する。そして、この振動の周波数から上記各玉の接触角を求め、更にこの接触角から、上記外輪軌道と上記内輪軌道と上記各玉の転動面との間に存在するラジアル方向の隙間を求める。
【0009】
上述の様な本発明の単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法を実施する場合に、例えば請求項2に記載した様に、求めたラジアル隙間の値若しくはこのラジアル隙間に関連して変化する値を、適正なラジアル隙間の値若しくはこの適正なラジアル隙間に見合う値と比較する事で、単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の適否を判定する。尚、上記ラジアル隙間に関連して変化する値としては、このラジアル隙間を求める為に使用した、振動から求めた共振周波数が適切である。この場合に、上記適正なラジアル隙間に見合う値としては、適正なラジアル隙間を有する単列玉軸受に予圧を付与した状態で運転した場合に於ける、この単列玉軸受の共振周波数を使用する。
【発明の効果】
【0010】
上述の様な本発明の単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法によれば、単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間を能率良く測定できる。単列ラジアル玉軸受の共振周波数は各玉の公転速度により変化し、この公転速度はこれら各玉の接触角により変化し、この接触角はラジアル隙間により変化する。従って、ラジアル玉軸受の振動を測定し、この振動の周波数からこのラジアル玉軸受の共振周波数を求めれば、この共振周波数から上記各玉の接触角を求め、更にこの接触角から上記外輪軌道と上記内輪軌道と上記各玉の転動面との間に存在するラジアル方向の隙間を求める事ができる。
例えば、請求項2に記載した方法によれば、適切なラジアル隙間を有する単列玉軸受のみを出荷する事が可能になる。
この様にして行なう、このラジアル方向の隙間の測定は、能率良く(短時間で)行なえる為、工業的に全数測定が可能になって、例えば、1対の単列ラジアル玉軸受を組み合わせて成る複列玉軸受ユニットの性能を安定させる事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[実施の形態の第1例]
図1〜2は、本発明の実施の形態の第1例を示している。先ず、図1〜2に示した、ラジアル隙間の測定装置の構成に就いて説明する。本例は、単列ラジアル玉軸受6のうちの内輪2を静止したまま外輪4を回転させ、この単列ラジアル玉軸受6の振動を測定する様に構成している。この為に、互いに同心に、且つ、軸方向に離隔した状態で配置した静止軸7と回転軸8とのうち、回転軸8の先端部(図1の左端部)に、有底円筒状のホルダ9を、この回転軸8と同心に結合固定している。上記外輪4は、このホルダ9にがたつきなく(径方向に変位しない様に)内嵌された状態で、このホルダ9と共に回転する。尚、上記回転軸8は、回転はするが、軸方向に関して変位する事はない。
【0012】
一方、上記静止軸7の先端部に固定した鍔板23の片面(図1の右端面)と上記内輪2の軸方向片端面(図1の左端面)との間に、この鍔板23の側から順番に、円筒状のスリーブ10と、略円板状の加圧板11とを設けている。この加圧板11は、上記内輪2の軸方向片端部に内嵌自在な小径部12と、この内輪2の内径よりも大きな外径を有する大径部13とを、段差面14で連続させた、段付形状を有する。この大径部13のうちで、少なくとも上記内輪2の軸方向片端面と上記スリーブ10とにより挟持される部分には、圧電素子を組込んで、この部分の厚さ寸法T13を調節可能としている。そして、この圧電素子に印加する電圧を調節してこの厚さ寸法T13を調節する事により、上記内輪2を上記回転軸8に向けて押圧し、各玉5、5に所望の予圧を付与する様にしている。尚、上記ホルダ9のうちで上記内輪2の軸方向他端面(図1の右端面)に対向する部分は、上記外輪4を設置した部分よりも凹ませて、上記内輪2を上記回転軸8に向け、押圧可能としている。
【0013】
又、上記加圧板11の軸方向片面(図1の左側面)で、上記スリーブ10により周囲を囲まれた部分には、振動センサ15を設置している。そして、この振動センサ15により、上記回転軸8の回転に伴って上記単列ラジアル玉軸受6部分で発生する振動を測定可能としている。更に、上記振動センサ15の測定信号は、増幅器16を介して周波数分析器17に送る。そして、この周波数分析器17により、高速フーリエ変換(FFT)による分析を行ない、上記単列ラジアル玉軸受6の共振周波数を求める。更に、この求めた共振周波数から上記各玉5、5の接触角を求め、更にこの接触角から、上記外輪4の内周面に設けた外輪軌道3と、上記内輪2の外周面に設けた内輪軌道1と、上記各玉5、5の転動面との間に存在する、ラジアル方向の隙間を求める。
【0014】
この様にして求めた、上記単列ラジアル玉軸受6のラジアル方向の隙間は、予め設定しておいた適正値と比較し、当該単列ラジアル玉軸受6の良否を判定する。尚、この良否の判定に使用する値は、上記ラジアル方向の隙間の値そのものでも良いが、この隙間の値に応じて変化する別の値、例えば上記共振周波数の値でも良い。即ち、上述の説明から明らかな通り、この共振周波数の値と上記隙間の値との間には一定の相関関係がある(両値は1対1で対応する)。従って、予め、適正なラジアル方向の隙間の値に対応する共振周波数の値である、適正共振周波数を設定しておけば、この適正共振周波数と各単列ラジアル玉軸受6の共振周波数の値とを比較する事で、当該単列ラジアル玉軸受6の良否を判定できる。
【0015】
図2は、この様にして、単列ラジアル玉軸受6(図1参照)のラジアル方向の隙間の適否を判定する回路の1例を示している。振動センサ15の検出信号は、増幅器16を介して周波数分析器17に送り、上記単列ラジアル玉軸受6の共振周波数を求める。そして、求めた共振周波数の値を、比較器18により、メモリ19中に記録している共振周波数の値と比較し、判定器20により、当該単列ラジアル玉軸受6の良否を判定する。この判定結果は、表示器21に表示する他、記録器22に記録する。
この様にして、上記単列ラジアル玉軸受6のラジアル隙間を測定し、その良否を判定すれば、多数の単列ラジアル玉軸受6のラジアル隙間を、工業的に全数測定する事が可能になって、例えば、1対の単列ラジアル玉軸受を組み合わせて成る複列玉軸受ユニットの性能を安定させる事ができる。
【0016】
[実施の形態の第2例]
図3は、本発明の実施の形態の第2例を示している。上述の実施の形態の第1例が、内輪2を静止した状態のまま外輪4を回転させる、所謂外輪回転型の場合に就いて説明したのに対して、本例は、外輪4を静止した状態のまま内輪2を回転させる、所謂内輪回転型の場合に就いて示している。この為に本例の場合には、回転軸8aの先端部(図3の左端部)に上記内輪2を外嵌して、この内輪2を回転駆動自在としている。更に、静止軸7aの先端部に固定した鍔板23aの片面(図3の右側面)と上記外輪4の軸方向一端面(図3の左端面)との間に、この鍔板23aの側から順番に、スリーブ10aと、加圧板11aと、スリーブ10bとを、軸方向に関して互いに直列に設けている。
【0017】
この様な本例の場合には、上記回転軸8aにより上記内輪2を回転させつつ、上記加圧板11aに設置した振動センサ15により単列ラジアル玉軸受6の共振周波数を求める。そして、この共振周波数からこの単列ラジアル玉軸受6のラジアル隙間を求めたり、このラジアル隙間の適否の判定を行なう。
その他の部分の構成に就いては、上述した第1例の場合と同様である。
【実施例1】
【0018】
本発明により、単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間を、必要とする精度を確保しつつ求められる事を確認した実験に就いて、図4を参照しつつ説明する。実験には、呼び番号が6201である単列深溝型のラジアル玉軸受(外径:32mm、内径:12mm、幅10mm)で、ラジアル隙間の値がそれぞれ9μmと26μmである、2種類のものを使用した。このラジアル隙間の値は、それぞれJIS B 1515に規定されている方法により測定した、実測値である。この様な、ラジアル隙間の値のみが異なる、2種類の単列ラジアル玉軸受6を、図1に示した構造で、外輪4を回転させる状態で運転した。この際、内輪2に40Nのアキシアル荷重を加える事で、各玉5、5に予圧を付与し、上記外輪4を1800min-1 で回転させた。この状態での、上記2種類のラジアル玉軸受6の共振周波数の理論値(計算値)は、それぞれ2567Hz、3721Hzである。一方、図1に示した構造で上記2種類の単列ラジアル玉軸受6の共振周波数を測定したところ、図4の(A)(B)に示す様な振動が測定され、この測定結果をFFT処理したところ、それぞれの共振周波数は2500Hz、3800Hzであった。実験条件、並びに、共振周波数の実測値及び測定値を、次の表1に示す。
【0019】
【表1】

この表1から、本発明の測定方法により、各単列ラジアル玉軸受6の共振周波数、延てはラジアル隙間を精度良く測定できる事を確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、測定装置の略断面図。
【図2】ラジアル隙間の適否を判定する回路のブロック図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、測定装置の略断面図。
【図4】本発明の効果を確認する為に行なった実験での、単列ラジアル玉軸受の振動の測定結果を示す線図。
【符号の説明】
【0021】
1 内輪軌道
2 内輪
3 外輪軌道
4 外輪
5 玉
6 単列ラジアル玉軸受
7、7a 静止軸
8、8a 回転軸
9 ホルダ
10、10a、10b スリーブ
11、11a 加圧板
12 小径部
13 大径部
14 段差面
15 振動センサ
16 増幅器
17 周波数分析器
18 比較器
19 メモリ
20 判定器
21 表示器
22 記録器
23、23a 鍔板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に単列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に単列の内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉とを備えた単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法であって、上記外輪と上記内輪との間に所定のアキシアル荷重を加える事により上記各玉に予圧を付与した状態で、上記外輪と上記内輪とのうちの一方の軌道輪を回転させて上記ラジアル玉軸受の振動を測定し、この振動の周波数から上記各玉の接触角を求め、更にこの接触角から上記外輪軌道と上記内輪軌道と上記各玉の転動面との間に存在するラジアル方向の隙間を求める、単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法。
【請求項2】
求めたラジアル隙間の値若しくはこのラジアル隙間に関連して変化する値を、適正なラジアル隙間の値若しくはこの適正なラジアル隙間に見合う値と比較する事で、単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の適否を判定する、請求項1に記載した単列ラジアル玉軸受のラジアル隙間の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−70305(P2008−70305A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250823(P2006−250823)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】