説明

単結晶製造装置及び単結晶製造方法、並びにシリコン単結晶及びシリコン単結晶ウエーハ

【課題】CZ法によりシリコン単結晶を育成する際に、引上げ速度Fを低速化させずにF/Gを所定の値で一定に制御して、所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を効率的に高い生産性で製造することができ、さらにFe及びCuの不純物汚染も防止して高品質のシリコン単結晶の製造が可能な単結晶製造装置を提供する。
【解決手段】チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成する単結晶製造装置であって、少なくとも、前記単結晶の育成を行うチャンバ1内でシリコン単結晶3を囲繞するように配置され、該チャンバに導入されるガスの流れを整えるガス整流筒17を具備し、該ガス整流筒の内側に石英材が設けられており、さらに該石英材の内側下部に断熱材が設けられている単結晶製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(Czochralski Method、以下CZ法と略称する)によりシリコン単結晶を製造する単結晶製造装置及び単結晶製造方法に関し、より詳しくは、単結晶を引上げる際に結晶成長軸方向における固液界面近傍の温度勾配の変化を抑制でき、それによって、所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を一定の引上げ速度で育成することのできる単結晶製造装置及び単結晶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板として用いられる単結晶には、例えばシリコン単結晶があり、主にCZ法により製造されている。近年、半導体デバイスでは高集積化が促進され、素子の微細化が進んでいる。それに伴い、シリコン単結晶の結晶成長中に導入されるグローンイン(Grown−in)欠陥の問題がより重要となっている。
【0003】
ここで、グローンイン欠陥について図7を参照しながら説明する。
一般に、シリコン単結晶を成長させるときに、結晶成長速度F(結晶引上げ速度)が比較的高速の場合には、空孔型の点欠陥が集合したボイド起因とされているFPD(Flow Pattern Defect)やCOP(Crystal Originated Particle)等のグローンイン欠陥が結晶径方向全域に高密度に存在する。これらのボイド起因の欠陥が存在する領域はV(Vacancy)領域と呼ばれている。
【0004】
また、結晶引上げ速度を低くしていくと成長速度の低下に伴いOSF(酸化誘起積層欠陥、Oxidation Induced Stacking Fault)領域が結晶の周辺からリング状に発生し、さらに成長速度を低速にすると、OSFリングがウエーハの中心に収縮して消滅する。一方、さらに成長速度を低速にすると格子間シリコンが集合した転位ループ起因と考えられているLSEPD(Large Secco Etch Pit Defect)、LFPD(Large Flow Pattern Defect)等の欠陥が低密度に存在し、これらの欠陥が存在する領域はI(Interstitial)領域と呼ばれている。
【0005】
近年、V領域とI領域の中間でOSFリングの外側に、ボイド起因のFPD、COP等の欠陥も、格子間シリコン起因のLSEPD、LFPD等の欠陥も存在しない領域の存在が発見されている。この領域はN(ニュートラル、Neutral)領域と呼ばれる。また、このN領域をさらに分類すると、OSFリングの外側に隣接するNv領域(空孔の多い領域)とI領域に隣接するNi領域(格子間シリコンが多い領域)とがあり、Nv領域では、熱酸化処理をした際に酸素析出量が多く、Ni領域では酸素析出が殆ど無いことがわかっている。
【0006】
さらに、熱酸化処理後、酸素析出が発生し易いNv領域の一部に、Cuデポジション処理で検出される欠陥が著しく発生するCuデポ欠陥領域があることが見出されており、これは酸化膜耐圧特性のような電気特性を劣化させる原因になることがわかっている。
【0007】
一般に、CZ法によりシリコン単結晶を製造する際には、例えば図6に示すような単結晶製造装置30を用いて単結晶の製造が行われる。
この単結晶製造装置30は、例えばシリコンのような原料多結晶を収容するルツボやヒーター及び熱を遮断するための断熱部材等を格納するメインチャンバ1を有している。このメインチャンバ1の上部には育成した単結晶3を収容し、取り出すための引上げチャンバ2が連接されており、この上部に単結晶3をワイヤー14で引上げる引上げ機構(不図示)が設けられている。
【0008】
メインチャンバ1内には、溶融された原料融液4を収容する石英ルツボ5とその石英ルツボ5を支持する黒鉛ルツボ6が設けられ、これらのルツボ5、6は駆動機構(不図示)によって回転昇降自在に支持軸13で支持されている。このルツボ5、6の駆動機構は、単結晶3の引上げに伴う原料融液4の液面低下を補償すべく、ルツボ5、6を液面低下分だけ上昇させるようにしている。
【0009】
そして、ルツボ5、6を囲繞するように、円筒形状の加熱ヒーター7が配置されている。この加熱ヒーター7の外側には、加熱ヒーター7からの熱がメインチャンバ1に直接輻射されるのを防止するために、断熱部材8がその周囲を取り囲むように設けられている。
【0010】
また、メインチャンバ1の内部にはガス整流筒31が設けられており、このガス整流筒31の下端には遮熱部材32が設置され、原料融液4の表面からの輻射をカットするとともに原料融液4の表面を保温するようにしている。さらに、ガス整流筒31の上方には冷却筒11が設置されており、冷媒導入口12から冷却媒体を流すことによって単結晶3を強制冷却できるようになっている。
【0011】
そして、このような単結晶製造装置30を用いてCZ法によりシリコン単結晶を育成する場合、先ず、石英ルツボ5に原料となる多結晶シリコンを収容し、加熱ヒーター7により石英ルツボ5内の多結晶シリコンを加熱し溶融する。次に、引上げチャンバ2の上部に設けられたガス導入口10からAr等の不活性ガスを導入しながら、原料融液4に種ホルダー15に固定された種結晶16を着液させ、その後、回転させながら静かに引上げることによって略円柱状のシリコン単結晶3を成長させることができる。このとき、ガス導入口10から導入された不活性ガスは、ガス整流筒31と引上げ中のシリコン単結晶3との間を通過して、ガス流出口9から排出することができる。
【0012】
このようなCZ法による単結晶の製造において、上記で説明したグローンイン欠陥は、単結晶を成長させるときの引上げ速度F(mm/min)と固液界面近傍のシリコンの融点から1400℃の間の引上げ軸方向の結晶温度勾配G(℃/mm)の比であるF/G(mm/℃・min)というパラメーターにより、その導入量が決定されると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0013】
通常、結晶成長軸方向の温度勾配は結晶長や残融液量等の変化によってCZ炉内の熱的な環境が徐々に変化するため、単結晶の育成中では単結晶の成長に伴い結晶成長軸方向の温度勾配Gが徐々に変化してしまう。そのため、例えば単結晶の成長に伴い引上げ速度FをF/Gが一定となるように温度勾配Gの変化に応じて調節することにより、単結晶直胴部の全域に亘り所望の欠陥領域或いは所望の無欠陥領域を有するシリコン単結晶を引上げることが可能となる(特許文献1参照)。
【0014】
しかしながら、従来の結晶成長軸方向の温度勾配Gは単結晶の成長に伴い小さくなる傾向があり、F/Gを一定にするためには、単結晶が成長するに従い引上げ速度Fを徐々に低速にする必要があった。
直胴部育成工程終了時の引上げ速度Fが低速になると、その後単結晶尾部を形成する丸め工程も低速で行わなければならなくなる。例えば、直胴部の全領域がN領域となるようにF/Gを制御してシリコン単結晶を成長させる場合、引上げ速度Fは極めて低速でしかも限定した範囲に制御しなければならないだけでなく、単結晶の成長に伴い引上げ速度はさらに低速にする必要があり、直胴部育成工程及び丸め工程に長時間を要する。そのため、生産性が極めて低く、製造コストへの負担が大きくなるという問題があった。
また、従来の装置では、結晶引上げ中は、コーンから肩の部分が、ガス整流筒から強制冷却筒内へ移動するまでの間、コーンから肩の部分が、強制冷却筒内通過の時よりも固液界面近傍における引上げ軸方向の温度勾配Gが低いため、無欠陥領域を形成する速度Fが一時的に低速となる。そこで、固液界面近傍における引上げ軸方向の温度勾配Gの変化に合わせて引上げ速度Fを変化させることにより、F/Gの値を一定となるようにしていた。
【0015】
一方、近年の素子製造における歩留り向上の重要な要素として、ウエーハの外周部における素子の収率向上が課題となっており、そのため、ウエーハの外周部においてもFe(鉄)及びCu(銅)などの重金属汚染を低減させることが重要となっている。このような単結晶に生じる重金属汚染の原因としては、原料及び炉内構成部品からFe及びCu元素が融液中に混入し、固液界面からシリコン単結晶に取り込まれることが知られているが、最近では、例えばガス整流筒などから放出されたFeやCu等が引上げ中の単結晶に付着することにより重金属等の不純物汚染が発生することが明らかにされている。
【0016】
特に200mm以上の直径を有する大口径のシリコン単結晶をCZ法により育成する場合には、原料融液から引上げた単結晶を囲むようにガス整流筒を設置した単結晶製造装置を使用することが多い。このガス整流筒は、育成中にチャンバ内に供給された不活性ガスを整流させ、融液から蒸発するシリコン酸化物を炉外へ効率的に排出させるためにも重要である。
【0017】
一般的に、このようなガス整流筒としては黒鉛部材等の炭素材が用いられ、結晶から10〜200mmの範囲の距離、さらには10〜100mmの距離で結晶に近接するように配置される。また、ガス整流筒の材料としては、タングステン、モリブデン等の高融点金属を用いることもある。さらに、適当な冷媒を用いる場合には、ステンレスや銅をガス整流筒の材料として用いることもできる。
【0018】
しかしながら、シリコン単結晶を育成する際にガス整流筒からFe及びCuなどの重金属成分が放出されると、それらの重金属成分が育成中の単結晶表面に付着し、その後の超高温から室温まで冷却される過程において結晶周辺からFe及びCuの拡散が生じ、単結晶周辺部に、特に単結晶の外周から直径10%以内の外周部に金属汚染が引き起こされてしまう。
【0019】
このようなガス整流筒に起因する不純物汚染の対策として、ガス整流筒の表面をFe濃度を低く抑えた熱分解炭素等の皮膜でコートすることが提案されている(特許文献2参照)。しかし、このようなガス整流筒を用いても、単結晶の外周部におけるFe濃度及びCu濃度を十分に低く抑えることは難しく、近年要求されているようなFe濃度が1×1010atoms/cm以下で、かつCu濃度が1×1011atoms/cm以下となるようなシリコン単結晶やシリコン単結晶ウエーハを製造することは非常に困難であった。そのため、例えば得られたシリコン単結晶ウエーハにその後半導体素子の作製を行った際に、歩留りを低下させるといった問題があった。
【0020】
【特許文献1】特開平8−330316号公報
【特許文献2】国際公開第WO 01/81661号パンフレット
【非特許文献1】V.V.Voronkov,Journal of Crystal Growth,vol.59(1982),pp.625〜643
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の主な目的は、CZ法によりシリコン単結晶を育成する際に、引上げ速度Fを低速化させずにF/Gを所定の値で一定に制御して、所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を効率的に高い生産性で製造することができ、さらにFe及びCuの不純物汚染も防止して高品質のシリコン単結晶の製造が可能な単結晶製造装置及び単結晶製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明によれば、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成する単結晶製造装置であって、少なくとも、前記単結晶の育成を行うチャンバ内でシリコン単結晶を囲繞するように配置され、該チャンバに導入されるガスの流れを整えるガス整流筒を具備し、該ガス整流筒の内側に石英材が設けられており、さらに該石英材の内側下部に断熱材が設けられていることを特徴とする単結晶製造装置が提供される(請求項1)。
【0023】
このようにチャンバ内でシリコン単結晶を囲繞するように配置されるガス整流筒として、ガス整流筒の内側に石英材が設けられており、さらにその石英材の内側下部に断熱材が設けられているものを具備する単結晶製造装置であれば、シリコン単結晶を育成する際にシリコン融液を加熱するヒーターからの熱輻射を遮断し、単結晶引上げ中の固液界面近傍における引上げ軸方向の結晶温度勾配Gの変化を非常に効果的に抑制することが可能となるので、引上げ速度Fを低速化させずにF/Gを所定の値に制御して、所望の欠陥領域、特に無欠陥領域を有するシリコン単結晶を効率的に高い生産性で製造できる単結晶製造装置とすることができる。また、ガス整流筒の内側に石英材が設けられているので、ガス整流筒からのFe及びCuの不純物汚染を効果的に防止して高品質のシリコン単結晶を安定して製造できる装置とすることができる。
【0024】
このとき、前記ガス整流筒の内側に設けられている石英材は、前記ガス整流筒の内側表面積に対する占有率が90%以上であり、かつ肉厚が3mm以上10mm以下であるものであることが好ましい(請求項2)。
このようにガス整流筒の内側に設けられている石英材が、ガス整流筒の内側表面積に対する占有率が90%以上であり、かつ肉厚が3mm以上10mm以下であるものであれば、ヒーターからの熱輻射を非常に効果的に遮断できるので、単結晶引上げ中の結晶温度勾配Gの変化を一層抑制し、所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を一定の引上げ速度で非常に安定して製造できる装置となるし、さらに、ガス整流筒からのFe及びCuの不純物汚染も一層効果的に防止することができる。
【0025】
特に、前記ガス整流筒の内側に設けられている石英材は、該石英材表面から深さ10μmまでの表面層領域におけるFe及びCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ石英材表面からの深さが10μmを超える領域におけるFe及びCuの平均不純物濃度が前記表面層領域よりも低いものであることが好ましい(請求項3)。
ガス整流筒の内側に設けられている石英材が、上記のようなFe及びCuの平均不純物濃度となるものであれば、ガス整流筒からのFe及びCuの不純物汚染を確実に防止することができる。
【0026】
また、前記石英材の内側下部に設けられている断熱材は、前記ガス整流筒の内側に設けられている石英材の内側表面積に対する占有率が20%以上60%以下であるものであることが好ましい(請求項4)。
石英材の内側下部に設けられている断熱材が、ガス整流筒の内側に設けられている石英材の内側表面積に対する占有率の20%以上60%以下となるものであれば、シリコン単結晶を育成する際に引上げ速度Fの高速化を図ることができ、所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を短時間で一層効率的に製造できる装置とすることができる。
【0027】
さらに、前記石英材の内側下部に設けられている断熱材が、黒鉛材または石英材からなる断熱材カバーで覆われていることが好ましく(請求項5)、特に、前記断熱材カバーの表面が熱分解炭素またはSiCにより被覆されており(請求項6)、また前記断熱材カバーの表面におけるFe及びCuの平均不純物濃度が0.05ppm以下であることが好ましい(請求項7)。
【0028】
このように石英材の内側下部に設けられている断熱材が黒鉛材または石英材からなる断熱材カバーで覆われていれば、断熱材からの不純物汚染を防止することができる。特に、この断熱材カバーの表面が熱分解炭素またはSiCにより被覆されていたり、また、断熱材カバーの表面におけるFe及びCuの平均不純物濃度が0.05ppm以下となるものであれば、シリコン単結晶への不純物汚染を確実に防止することができる。
【0029】
また、前記ガス整流筒の外側下部に、遮熱部材が設けられていることが好ましい(請求項8)。
ガス整流筒の外側下部に、原料融液と対向するような遮熱部材を設ければ、原料融液の表面からの輻射をカットするとともに原料融液の表面を保温する効果が増し、引上げ軸方向の結晶温度勾配Gをより確実に一定に保つことができる。
【0030】
また、本発明では、前記本発明の単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶を育成する単結晶製造方法を提供することができ(請求項9)、それによって、前記シリコン単結晶の育成を行う際に、前記シリコン単結晶の直胴部を成長させるときの引上げ速度をF(mm/min)、固液界面近傍の引上げ軸方向の結晶温度勾配をG(℃/mm)で表したとき、単結晶育成中の引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつ引上げ速度Fと結晶温度勾配Gの比F/G(mm/℃・min)を所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御してシリコン単結晶を引上げることができる(請求項10)。
【0031】
本発明によれば、前記本発明の単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶を育成することにより、シリコン単結晶を育成する際にシリコン融液を加熱するヒーターからの熱輻射を遮断し、単結晶引上げ中の固液界面近傍における引上げ軸方向の結晶温度勾配Gの変化を非常に効果的に抑制することが可能となるので、単結晶の引上げ速度Fを低速化させずに一定の値に制御し、かつ引上げ速度Fと結晶温度勾配Gの比F/Gを所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御してシリコン単結晶を引上げることができる。したがって、所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を短時間で効率的に製造でき、単結晶製造における生産性を向上させることができる。また、本発明は、単結晶の育成中にガス整流筒からFe及びCuの不純物汚染が生じるのを効果的に防止することができ、高品質のシリコン単結晶を高歩留まりで安定して製造することができる。
【0032】
このとき、前記シリコン単結晶の直胴部10cm以降を育成するときに、引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつF/Gを所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御することが好ましい(請求項11)。
本発明は、シリコン単結晶の直胴部10cm以降を育成するときに非常に好適に適用することができ、引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつF/Gを所定値に高精度に制御して、直胴部10cm以降で確実に所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を効率的に引上げることができる。
【0033】
この場合、前記F/Gを、前記育成するシリコン単結晶の欠陥領域が径方向の全面にわたってN領域となるように制御することが好ましい(請求項12)。
このように、F/Gをシリコン単結晶の欠陥領域が径方向全面でN領域となるように制御することによって、FPDやCOP等のボイド起因の欠陥も、またLSEPD、LFPD等の転位ループ起因の欠陥も存在しない非常に高品質のシリコン単結晶を高生産性、高歩留まりで製造することができる。
【0034】
また、前記引上げるシリコン単結晶の直径を200mm以上とすることが好ましい(請求項13)。
直径200mm以上の大口径のシリコン単結晶を製造する場合、従来ではF/Gを所望の欠陥領域の単結晶が育成できるように制御するため、直胴部後半の引上げ速度Fを低速にしなければならなかったが、本発明ではこのような直径200mm以上のシリコン単結晶を育成する場合でも、引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつF/Gを所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御して、高品質の大口径シリコン単結晶を高い生産性で製造することができる。
【0035】
そして、本発明によれば、前記本発明の単結晶製造方法により製造されたシリコン単結晶を提供することができ(請求項14)、さらに、該本発明のシリコン単結晶より切り出されたシリコン単結晶ウエーハを提供することができる(請求項15)。
このように本発明の単結晶製造方法により製造されたシリコン単結晶は、所望の欠陥領域を有し、不純物汚染の生じてない非常に高品質の単結晶とすることができる。さらに、本発明のシリコン単結晶は、従来のように単結晶を育成する際に引上げ速度を低速化させずに、短時間で効率的にまた高生産性で製造されたものであるので、従来のシリコン単結晶に比べて安価なものとなる。そして、このような本発明のシリコン単結晶より切り出されたシリコン単結晶ウエーハは、所望の欠陥領域を有する高品質で安価のシリコン単結晶ウエーハとすることができる。
【0036】
特に、本発明のシリコン単結晶ウエーハは、シリコン単結晶ウエーハの周辺10%におけるFe濃度が1×1010atoms/cm以下であり、かつCu濃度が1×1011atoms/cm以下である不純物汚染の生じてないウエーハとすることができるし(請求項16)、また、ウエーハ全面がN領域である低欠陥のウエーハとすることができる(請求項17)。
【0037】
このように、本発明のシリコン単結晶ウエーハは、ウエーハ周辺10%に不純物汚染が生じてなく、またFPDやCOP等のボイド起因の欠陥も、LSEPDやLFPD等の転位ループ起因の欠陥も存在しない非常に高品質のウエーハとすることができ、半導体デバイスの作製等に非常に好適なシリコン単結晶ウエーハとなる。尚、本発明でいうウエーハ周辺10%とは、ウエーハの最外周からウエーハの直径10%以内の外周部を意味し、例えば、直径200mmのシリコン単結晶ウエーハであれば、ウエーハの最外周から径方向に20mm以内の領域のウエーハ外周部を表している。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明は、ガス整流筒として、ガス整流筒の内側に石英材が設けられており、さらにその石英材の内側下部に断熱材が設けられているものを具備する単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶を製造することにより、単結晶育成中の引上げ速度Fを低速化させず一定の値に制御し、かつF/Gを所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御して、シリコン単結晶を効率的に高い生産性で製造することができる。また、単結晶の育成中にFe及びCuの不純物汚染が生じるのを効果的に防止して高品質のシリコン単結晶を高歩留まりで安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明者等は、CZ法により所望の欠陥領域、特にN領域を有するシリコン単結晶を製造する際に、工程時間の短縮を達成するため、単結晶の製造を行うチャンバ内でシリコン単結晶を囲繞するように配置され、チャンバに導入されるガスの流れを整えるガス整流筒の内側の構造に注目し、鋭意研究を重ねた。その結果、ガス整流筒として、ガス整流筒内側に石英材を設置し、さらに石英材の内側下部に断熱材を設置したものを具備した単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶を製造することにより、ヒーターからの熱輻射を遮断して単結晶引き上げ中の固液界面近傍における引上げ軸方向の温度勾配Gの変化を抑制でき、それによって、結晶育成中の引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつF/Gを所望の欠陥領域に制御してシリコン単結晶を効率的に製造できること、さらに、ガス整流筒の内側に石英材を設けることにより、ガス整流筒からのFe及びCuの不純物汚染を効果的に防止して高品質のシリコン単結晶を安定して製造できることを見出して、本発明を完成させた。
【0040】
先ず、本発明の単結晶製造装置について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。ここで、図1は、本発明の単結晶製造装置の一例を示す構成概略図である。
本発明に係る単結晶製造装置20は、例えばメインチャンバ1内に、原料融液4を収容する石英ルツボ5と、この石英ルツボ5を保護する黒鉛ルツボ6とがルツボ駆動機構(不図示)によって回転・昇降自在に支持軸13で支持されており、またこれらのルツボ5、6を取り囲むように加熱ヒーター7と断熱部材8が配置されている。メインチャンバ1の上部には育成したシリコン単結晶3を収容し、取り出すための引上げチャンバ2が連接されており、引上げチャンバ2の上部にはシリコン単結晶3をワイヤー14で回転させながら引上げる引上げ機構(不図示)が設けられている。
【0041】
また、メインチャンバ1の内部には育成されるシリコン単結晶3を囲繞するように黒鉛材からなるガス整流筒17が配置されており、チャンバ内に導入されるガスの流れを整えることができる。また、原料融液4の表面からの輻射をカットするとともに原料融液4の表面を保温するため、ガス整流筒17の外側下端には遮熱部材18が設けられている。遮熱部材18は、例えば、黒鉛、モリブデン、タングステン、炭化ケイ素、あるいは黒鉛の表面を炭化ケイ素で被覆したものを用いることができ、その形状や大きさは特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更することができる。さらに、ガス整流筒17の上方には、ガス整流筒と材質の異なる冷却筒11が設置されており、冷媒導入口12から冷却媒体を流すことによってシリコン単結晶3を強制冷却できるようになっている。尚、冷却筒11は必ずしも設置される必要はなく目的に応じて省略することができ、また、例えばガス整流筒に冷却媒体を流通させるようにして単結晶の強制冷却を行うようにしても良い。
【0042】
さらに、引上げチャンバ2の上部に設けられたガス導入口10からはAr等の不活性ガスを導入することができる。このガス導入口10から引上げチャンバ2及びメインチャンバ1に導入される不活性ガスは、ガス整流筒17によりガスの流れが整えられ、例えば引上げ中のシリコン単結晶3とガス整流筒17との間を通過させた後、遮熱部材18と原料融液4の融液面との間を通過させ、ガス流出口9から排出することができる。
【0043】
そして、本発明の単結晶製造装置20は、シリコン単結晶3を囲繞するように配置されるガス整流筒17として、例えば図2にガス整流筒の拡大図を示すように、ガス整流筒17の本体24の内側に石英材21が設けられており、さらにこの石英材21の内側下部に断熱材22が設けられているものが使用される。このとき、石英材21はガス整流筒の内側に円筒形状に設けられるが、例えば平板の石英材をガス整流筒の内側に被せるようにしても良い。また、石英材21の内側下部に設けられる断熱材22としては、例えば黒鉛材、またはカーボンフェルト等の炭素繊維からなるものを用いることができる。
【0044】
このような石英材21と断熱材22とが本体24の内側に設けられているガス整流筒17を具備する単結晶製造装置であれば、シリコン単結晶を育成する際に、加熱ヒーター7からの熱輻射を遮断して単結晶引上げ中の固液界面近傍における引上げ軸方向の結晶温度勾配Gの変化を非常に効果的に抑制することが可能となるので、引上げ速度Fを低速化させずにF/Gを所定の値で一定に制御して、所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を効率的に高い生産性で製造できる単結晶製造装置とすることができる。また、ガス整流筒17の内側には上記のように石英材21が設けられているので、単結晶育成中にガス整流筒からのFe及びCuの不純物汚染を効果的に防止して高品質のシリコン単結晶を安定して製造できる装置とすることができる。
【0045】
このとき、ガス整流筒17の内側に設置する石英材21は、ガス整流筒の内側表面積に対する占有率が高いほど、また石英材の肉厚が厚くなるほど、加熱ヒーターからの熱輻射をより効果的に遮断することができるので、石英材のガス整流筒内側表面積に対する占有率は90%以上、かつ肉厚は3mm以上となるようにすることが好ましく、それによって、単結晶引上げ中の結晶温度勾配Gの変化を一層抑制でき、引上げ速度Fを一定に制御して所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を非常に安定して製造することができる。一方、石英材の肉厚があまり厚過ぎると、石英材の重量が非常に重くなったり、また石英材の加工が困難になる恐れがあるため、ガス整流筒の内側に設ける石英材の肉厚は10mm以下となるようにすることが好ましい。さらに、このガス整流筒の内側に設けられている石英材が、上記のような占有率及び肉厚を有するものであれば、ガス整流筒からのFe及びCuの不純物汚染を一層効果的に防止することもできる。
【0046】
特に、このようなガス整流筒の内側に設けられている石英材は、石英材表面から深さ10μmまでの表面層領域におけるFe及びCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ石英材表面からの深さが10μmを超える領域におけるFe及びCuの平均不純物濃度がその表面層領域よりも低いものであることが好ましい。ガス整流筒の内側に設けられている石英材が、このようなFe及びCuの平均不純物濃度を有するものであれば、ガス整流筒からのFe及びCuの不純物汚染を確実に防止することができ、不純物汚染のない高品質のシリコン単結晶を非常に安定して製造することができる。
【0047】
また、このような石英材21の内側下部に設けられている断熱材22は、石英材21の内側表面積に対する占有率が20%以上60%以下であるものであることが好ましい。
断熱材における石英材の内側表面積に対する占有率が20%以上となるものであれば、シリコン単結晶を所望の欠陥領域で育成する際に引上げ速度Fの高速化を図ることができ、シリコン単結晶の製造時間を大幅に短縮して非常に効率的なシリコン単結晶の製造を行うことができる。一方、断熱材における石英材の内側表面積に対する占有率が60%以下となるものであれば、単結晶引上げ中に、引上げ速度Fを変化させずにF/Gを所望の値に非常に安定して制御することができるようになるので、所望の欠陥領域を有するシリコン単結晶を確実に製造することができる。
【0048】
さらにこの場合、石英材21の内側下部に設けられている断熱材22が黒鉛材または石英材からなる断熱材カバー23で覆われていることが好ましい。このように石英材の内側下部に設けられている断熱材が、黒鉛材または石英材、例えば等方性黒鉛材からなる断熱材カバーで覆われていれば、断熱材からの不純物汚染を防止することができる。特に、このような断熱材カバーの表面が熱分解炭素またはSiCにより被覆されていたり、また、断熱材カバーの表面におけるFe及びCuの平均不純物濃度が0.05ppm以下となるものであれば、育成されるシリコン単結晶への不純物汚染を確実に防止することができるのでより好ましい。
【0049】
尚、石英材21の内側下部に設けられる断熱材22、さらに断熱材カバー23は、例えば図3(a)に示すように、断熱材22(及び断熱材カバー23)の上面22aが石英材21の内周側に向かって傾斜するようにして設置されることが好ましい。断熱材22の上面22aがこのような傾斜を有することにより、単結晶育成中にガス整流筒17の内側を流れるArガス等の不活性ガスを乱すことなく、スムーズに上方からシリコン融液面に向かって流すことが可能となる。また、断熱材22の上面22aは、例えば図3(b)または(c)に示すような曲線状に形成することもできる。
【0050】
次に、上記の本発明の単結晶製造装置20を用いてシリコン単結晶を育成する本発明の単結晶製造方法について説明する。
上記単結晶製造装置20を用いてCZ法によりシリコン単結晶を育成する場合、先ず、種ホルダー15に種結晶16を保持するとともに、石英ルツボ5内にシリコンの高純度多結晶原料を収容し、加熱ヒーター7で融点(約1420℃)以上に加熱して融解する。そして、ガス導入口10からチャンバにAr等の不活性ガスを導入しながら、ワイヤー14を巻き出すことにより原料融液4の表面略中心部に種結晶16の先端を接触または浸漬させる。その後、ルツボ5,6を回転させるとともに、ワイヤー14を回転させながら種結晶16をゆっくり引上げて、例えば種絞りを形成してから所望の直径まで拡径してコーン部を形成した後、略円柱形状の直胴部を有するシリコン単結晶3を成長させることができる。
【0051】
本発明は、このようにしてシリコン単結晶3の育成を行う際に、前記で説明したような内側に石英材及び断熱材が設けられたガス整流筒17がシリコン単結晶3を囲繞するように配置されているので、シリコン融液を加熱する加熱ヒーター7からの熱輻射を遮断して、単結晶引上げ中の固液界面近傍のシリコンの融点から1400℃の間の引上げ軸方向の結晶温度勾配Gの変化を非常に効果的に抑制することができ、それによって、単結晶育成中の引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつ引上げ速度Fと結晶温度勾配Gの比F/Gを所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御してシリコン単結晶を引上げることができる。
【0052】
具体的に説明すると、例えばシリコン単結晶を欠陥領域が径方向の全面にわたってN領域となるように育成する場合、シリコン単結晶の直胴部がN領域で育成できるように単結晶の製造が行われる製造環境(例えば、単結晶製造装置のHZ等)に応じて引上げ速度Fを設定する。このとき、引上げ速度Fは、シリコン単結晶をN領域で育成できる範囲の最大値に設定することができる。
【0053】
そして、このように設定した引上げ速度Fでシリコン単結晶の直胴部を育成するときに、特にシリコン単結晶の直胴部10cm以降を育成するときに、従来ではシリコン単結晶が成長するに従い引上げ速度Fを徐々に低速化する必要があったが、本発明は前記のように結晶温度勾配Gの変化を非常に効果的に抑制して単結晶育成中の温度勾配Gがほぼ一定となるようにすることができるので、単結晶育成中の引上げ速度Fを一定の値に制御したまま、F/Gを所定値(N領域)に制御することが可能となる。特に、CZ法によるシリコン単結晶の育成では、例えば単結晶の引上げ中に単結晶を引上げる際の単結晶の回転速度、チャンバ内に導入する不活性ガスの流量、原料融液を加熱するヒーターの位置等を適切に変更することによって結晶温度勾配Gを制御することも可能であるが、本発明は、このような単結晶の回転速度、不活性ガスの流量、加熱ヒーターの位置等を、単結晶の製造環境に応じて結晶温度勾配Gが一定となるようにわざわざ故意に変化させなくても、単結晶育成中の引上げ速度Fを一定に制御したまま、F/Gを所望の欠陥領域、特に無欠陥領域に制御できるという利点がある。
【0054】
さらに、本発明では、ガス整流筒の内側に石英材が設けられているので、単結晶の育成中にガス整流筒からFe及びCuの不純物汚染が生じるのを効果的に防止して高品質のシリコン単結晶を高歩留まりで安定して製造することができる。特に、ガス整流筒の内側に設けられている石英材、さらに断熱材カバーの表面におけるFe及びCuの平均不純物濃度が前記で説明したように非常に低いものであれば、育成されるシリコン単結晶への不純物汚染を確実に防止することができる。
【0055】
尚、本発明の単結晶製造方法は、必ずしも単結晶直胴部の全長で実施する場合に限られず、一部の結晶長さに渡って引上げ速度Fを一定の値に制御したまま、F/Gを所望の欠陥領域に制御する場合を含む。特に、直胴部の育成の前半である単結晶肩部から10cmまでの領域では、引上げ速度や結晶直径が安定しないことがあるので、これが定常状態となり易い直胴部の10cm以降の育成を行う際に、引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつF/Gを所望の欠陥領域に制御することが好ましい。
【0056】
そして、このような本発明の単結晶製造方法を用いてシリコン単結晶を製造することにより、結晶径方向の全面がN領域となるような所望の欠陥領域を有する単結晶を引上げる際の平均結晶引上げ速度を向上できるので、従来よりも単結晶直胴部の育成を短時間で行うことができるし、さらに単結晶直胴部の成長終了時の引上げ速度が低速にならないので、その後の丸め工程における引上げ時間も短縮することができる。したがって、結晶径方向の全面がN領域となる非常に高品質のシリコン単結晶を高い生産性で効率的に製造することができる。また、製造時間が短縮されることにより、結晶が有転位化する可能性も低減し、また前記のようにシリコン単結晶への不純物汚染を防ぐことができるので、歩留りを向上させることができる。その結果、単結晶の生産性が一層向上して大幅なコストダウンを図ることができ、非常に安価にシリコン単結晶を提供することができる。
【0057】
特に、本発明の単結晶製造方法は、近年需要が増加している直径が200mm以上、さらには300mm以上となる大口径のシリコン単結晶を製造する場合に非常に好適に用いることができる。このような直径200mm以上の大口径シリコン単結晶を製造する場合、従来では所望の欠陥領域を有する単結晶を育成するために結晶の成長が進むにつれて引上げ速度Fを低速にしなければならなかったが、本発明では直径200mm以上のシリコン単結晶を育成する場合でも、引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつF/Gを所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御して、高品質の大口径シリコン単結晶を効率的に高い生産性で製造することができる。
【0058】
さらに、本発明では、前記のように単結晶育成中の結晶温度勾配Gの変化を非常に効果的に抑制することができるので、F/Gの制御性を向上させることができる。そのため、例えば図7に示すような、Cuデポ欠陥領域を含まないN領域中のNv領域やNi領域といった狭い領域にF/Gを高精度に制御してシリコン単結晶を安定して製造することが可能となる。
【0059】
したがって、本発明の単結晶製造方法により製造されたシリコン単結晶は、結晶成長軸方向の全域に渡って結晶径方向全面に所望の欠陥領域を有し、また、Fe及びCuの不純物汚染が生じていない非常に高品質のシリコン単結晶とすることができる。さらに、このような本発明のシリコン単結晶は、短時間で効率的に、また高生産性で製造されたものであるので、従来に比べて安価なものとなる。
【0060】
そして、このような本発明のシリコン単結晶より切り出されたシリコン単結晶ウエーハは、所望の欠陥領域を有する高品質で安価のシリコン単結晶ウエーハとすることができる。特に、本発明のシリコン単結晶ウエーハは、ウエーハの周辺10%におけるFe濃度が1×1010atoms/cm以下であり、かつCu濃度が1×1011atoms/cm以下である不純物汚染の生じてないウエーハとすることができるし、さらに、FPDやCOP等のボイド起因の欠陥も、LSEPDやLFPD等の転位ループ起因の欠陥も存在しないウエーハ全面がN領域となるものとすることができるので、例えばデバイス作製の際にウエーハ外周部における素子の収率が向上し、高歩留まりで半導体デバイスを作製することができるようなデバイス作製に非常に好適なシリコン単結晶ウエーハとなる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示した単結晶製造装置20を用いて、直径24インチ(600mm)の石英ルツボに原料多結晶シリコンを150kgチャージし、CZ法により、方位<100>、直径205mm、酸素濃度が22〜23ppma(ASTM’79)、単結晶直胴部の長さが約120cmとなるシリコン単結晶をCuデポジション欠陥が検出されないN領域で育成した。尚、この実施例1において、単結晶製造装置20に設置するガス整流筒17として、ガス整流筒本体(等方性黒鉛材)の内側表面積に対する石英材21の占有率が95%、また石英材21の内側表面積に対する断熱材(黒鉛)22の占有率が30%であり、さらに断熱材カバー23が熱分解炭素で被覆された等方性黒鉛材からなるものを使用した。
【0062】
また、シリコン単結晶の直胴部を育成する際には、直胴部10cm以降の引上げ速度を図4に示すように0.55mm/minで一定となる様に制御し、さらに、チャンバ内に導入するArガスの流量を100l/min、単結晶を引上げる際の結晶回転速度を14rpmに固定するとともに、加熱ヒーターの位置も固定した。
【0063】
次に、上記のようにして育成した単結晶の成長軸方向10cm毎の部位から約2mm厚のウエーハを切り出した後、平面研削及び研磨を行って検査用のサンプルを作製し、以下に示すような結晶品質特性の検査を行った。
【0064】
(1)FPD(V領域)及びLSEPD(I領域)の検査
検査用のサンプルに30分間のセコエッチングを無攪拌で施した後、ウエーハ面内を顕微鏡で観察することにより結晶欠陥の有無を確認した。
(2)OSFの検査
検査用のサンプルにウエット酸素雰囲気下、1100℃で100分間の熱処理を行った後、ウエーハ面内を顕微鏡で観察することによりOSFの有無を確認した。
(3)Cuデポジション処理による欠陥の検査
検査用のサンプルの表面に酸化膜を形成した後、Cuデポジション処理を行って酸化膜欠陥の有無を確認した。その際の評価条件は以下の通りである。
酸化膜:25nm
電界強度:6MV/cm
電圧印加時間:5分間
(4)酸化膜耐圧特性の検査
検査用のサンプルに乾燥雰囲気中で熱酸化処理を行って25nmのゲート酸化膜を形成し、その上に8mmの電極面積を有するリンをドープしたポリシリコン電極を形成した。そして、この酸化膜上に形成したポリシリコン電極に電圧を印加して酸化膜耐圧の評価を行った。このとき、判定電流は1mA/cmとし、8MV/cm以上の酸化膜耐圧を示したものを良品として判定した。
(5)Fe濃度の測定
検査用サンプルのウエーハ周辺10%、すなわちウエーハ最外周から径方向に20mm以内のウエーハ外周部におけるバルク中の平均Fe濃度をSPV法(Surface Photo−voltage method)により測定した。尚、Fe濃度の測定条件は次の通りである。
FeB解離温度:210℃
解離時間:3分間
測定装置:SDI社製CMS−IIIA
(6)Cu濃度の測定
検査用サンプルの酸蒸気による全溶解溶液を誘導結合プラズマ質量分析器(ICP−MS)で分析することにより、ウエーハ最外周から径方向に20mm以内のウエーハ外周部におけるバルク中の平均Cu濃度を測定した。
【0065】
実施例1で製造したシリコン単結晶に上記のような結晶品質特性の検査を行った結果、引上げ速度を一定に制御して育成した単結晶直胴部10cmから直胴部終端までの領域において、FPD、LSEPD、OSFの何れの欠陥も検出されず、またCuデポジション処理による欠陥も観察されなかった。また、酸化膜耐圧特性の評価では、酸化膜耐圧レベルは100%の良品率であった。
さらに、ウエーハ最外周から径方向に20mm以内のウエーハ外周部における平均Fe濃度は、図5に示したように、単結晶のどの領域でも1×1010atoms/cm以下であり、また平均Cu濃度は1×1011atoms/cm以下であった。
【0066】
(実施例2)
単結晶製造装置20に設置するガス整流筒17として、石英材21の内側表面積に対する断熱材22の占有率が50%であること以外は上記実施例1と同様の単結晶製造装置を用いて、単結晶直胴部の長さが約120cmとなるシリコン単結晶をCuデポジション欠陥が検出されないN領域で育成した。
また、シリコン単結晶の直胴部を育成する際には、直胴部10cm以降の引上げ速度を図4に示すように0.57mm/minで一定となる様に制御し、それ以外の単結晶育成条件については上記実施例1と同様となるようにした。
【0067】
次に、上記のようにして育成した単結晶の成長軸方向10cm毎の部位から約2mm厚のウエーハを切り出した後、平面研削及び研磨を行って検査用のサンプルを作製し、実施例1と同様の結晶品質特性の検査を行った。
【0068】
その結果、引上げ速度を一定に制御して育成した単結晶直胴部10cmから直胴部終端までの領域において、FPD、LSEPD、OSFの何れの欠陥も検出されず、またCuデポジション処理による欠陥も観察されなかった。また、酸化膜耐圧特性の評価では、酸化膜耐圧レベルは100%の良品率であった。
さらに、ウエーハ最外周から径方向に20mm以内のウエーハ外周部における平均Fe濃度は、図5に示したように、単結晶のどの領域でも1×1010atoms/cm以下であり、また平均Cu濃度は1×1011atoms/cm以下であった。
【0069】
(比較例)
図6に示した従来の単結晶製造装置30を用いて、直径24インチ(600mm)の石英ルツボに原料多結晶シリコンを150kgチャージし、CZ法により、方位<100>、直径205mm、酸素濃度が22〜23ppma(ASTM’79)、単結晶直胴部の長さが約120cmとなるシリコン単結晶を育成した。このとき、育成するシリコン単結晶がCuデポジション欠陥が検出されないN領域を有するようにするため、単結晶の製造が行われる製造環境でシミュレーション解析を行い、その結果に基づいて単結晶の引上げ速度を図4に示すように設定してシリコン単結晶の育成が行われた。
【0070】
次に、上記のようにして育成した単結晶の成長軸方向10cm毎の部位から約2mm厚のウエーハを切り出した後、平面研削及び研磨を行って検査用のサンプルを作製し、実施例1と同様の結晶品質特性の検査を行った。
【0071】
その結果、単結晶直胴部10cmから直胴部終端までの領域において、FPD、LSEPD、OSFの何れの欠陥も検出されず、またCuデポジション処理による欠陥も観察されなかった。また、酸化膜耐圧特性の評価では、酸化膜耐圧レベルは100%の良品率であった。
しかし、ウエーハ最外周から径方向に20mm以内のウエーハ外周部における平均Fe濃度は、図5に示したように、1.2×1011〜3.5×1011atoms/cm程度であり、また平均Cu濃度は1×1012〜2×1012atoms/cm程度であった。したがって、比較例のシリコン単結晶では、実施例1及び2のシリコン単結晶よりも高濃度の不純物汚染が検出されることがわかった。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の単結晶製造装置の一例を示す構成概略図である。
【図2】ガス整流筒の断面を拡大して示した拡大断面図である。
【図3】石英材の内側下部に設けられる断熱材の形状の例を示す拡大断面図である。
【図4】実施例1、2及び比較例においてシリコン単結晶を育成するときの単結晶直胴部の結晶成長軸方向の長さと結晶引上げ速度との関係を示したグラフである。
【図5】実施例1、2及び比較例で作製した検査用サンプルウエーハの外周部における平均Fe濃度を測定した結果を示すグラフである。
【図6】従来の単結晶製造装置の一例を示す構成概略図である。
【図7】F/Gと結晶欠陥分布の関係を表す説明図である。
【符号の説明】
【0074】
1…メインチャンバ、 2…引上げチャンバ、 3…単結晶(シリコン単結晶)、
4…原料融液(シリコン融液)、 5…石英ルツボ、
6…黒鉛ルツボ、 7…加熱ヒーター、 8…断熱部材、
9…ガス流出口、 10…ガス導入口、 11…冷却筒、
12…冷媒導入口、 13…支持軸、
14…ワイヤー、 15…種ホルダー、 16…種結晶、
17…ガス整流筒、 18…遮熱部材、
20…本発明の単結晶製造装置、 21…石英材、
22…断熱材、 22a…断熱材の上面、 23…断熱材カバー、
24…整流筒本体、 30…従来の単結晶製造装置、 31…ガス整流筒、
32…遮熱部材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成する単結晶製造装置であって、少なくとも、前記単結晶の育成を行うチャンバ内でシリコン単結晶を囲繞するように配置され、該チャンバに導入されるガスの流れを整えるガス整流筒を具備し、該ガス整流筒の内側に石英材が設けられており、さらに該石英材の内側下部に断熱材が設けられていることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
前記ガス整流筒の内側に設けられている石英材は、前記ガス整流筒の内側表面積に対する占有率が90%以上であり、かつ肉厚が3mm以上10mm以下であるものであることを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項3】
前記ガス整流筒の内側に設けられている石英材は、該石英材表面から深さ10μmまでの表面層領域におけるFe及びCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ石英材表面からの深さが10μmを超える領域におけるFe及びCuの平均不純物濃度が前記表面層領域よりも低いものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の単結晶製造装置。
【請求項4】
前記石英材の内側下部に設けられている断熱材は、前記ガス整流筒の内側に設けられている石英材の内側表面積に対する占有率が20%以上60%以下であるものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の単結晶製造装置。
【請求項5】
前記石英材の内側下部に設けられている断熱材が、黒鉛材または石英材からなる断熱材カバーで覆われていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の単結晶製造装置。
【請求項6】
前記断熱材カバーの表面が熱分解炭素またはSiCにより被覆されていることを特徴とする請求項5に記載の単結晶製造装置。
【請求項7】
前記断熱材カバーの表面におけるFe及びCuの平均不純物濃度が0.05ppm以下であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の単結晶製造装置。
【請求項8】
前記ガス整流筒の外側下部に、遮熱部材が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶を育成する単結晶製造方法。
【請求項10】
前記シリコン単結晶の育成を行う際に、前記シリコン単結晶の直胴部を成長させるときの引上げ速度をF(mm/min)、固液界面近傍の引上げ軸方向の結晶温度勾配をG(℃/mm)で表したとき、単結晶育成中の引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつ引上げ速度Fと結晶温度勾配Gの比F/G(mm/℃・min)を所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御してシリコン単結晶を引上げることを特徴とする請求項9に記載の単結晶製造方法。
【請求項11】
前記シリコン単結晶の直胴部10cm以降を育成するときに、引上げ速度Fを一定の値に制御し、かつF/Gを所望の欠陥領域を有する単結晶が育成できるように制御することを特徴とする請求項10に記載の単結晶製造方法。
【請求項12】
前記F/Gを、前記育成するシリコン単結晶の欠陥領域が径方向の全面にわたってN領域となるように制御することを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載の単結晶製造方法。
【請求項13】
前記引上げるシリコン単結晶の直径を200mm以上とすることを特徴とする請求項9ないし請求項12のいずれか一項に記載の単結晶製造方法。
【請求項14】
請求項9ないし請求項13のいずれか一項に記載の単結晶製造方法により製造されたシリコン単結晶。
【請求項15】
請求項14に記載のシリコン単結晶より切り出されたシリコン単結晶ウエーハ。
【請求項16】
シリコン単結晶ウエーハの周辺10%におけるFe濃度が1×1010atoms/cm以下であり、かつCu濃度が1×1011atoms/cm以下であることを特徴とする請求項15に記載のシリコン単結晶ウエーハ。
【請求項17】
ウエーハ全面がN領域であることを特徴とする請求項15または請求項16に記載のシリコン単結晶ウエーハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−27928(P2006−27928A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206085(P2004−206085)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】