説明

双方向通信機能付車輪用軸受

【課題】 回転側に各種のセンサを設けた場合に、その回転側で回転位置の検出を行うことができて、そのセンサ情報と回転位置情報を組み合わせた判断等が可能となり、また回転側と固定側間の双方向に通信が行えて、部品点数の削減、設計の自由度向上が図れ、かつ回転中,回転停止時を問わず通信が行え、配線も容易な車輪用軸受を提供する。
【解決手段】 固定輪である外方部材1と回転輪である内方部材2との間に複列の転動体5を介在させる。外方部材1と内方部材2の間で、非接触で双方向に通信する双方向通信手段21を設ける。回転輪である内方部材2に回転センサ82を設ける。双方向通信手段21は、例えば、固定輪に設置された1次コイル22と、回転輪に設置された2次コイル24とを有し、交流電流の印加により電磁誘導で電力やデータを伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転輪と固定輪との間で非接触で信号や電力の受け渡しを行う双方向通信機能、および回転輪の回転位置を検出する機能を備えた双方向通信機能付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安定性向上のために、回転側に種々のセンサを設けることが行われている。例えば、タイヤに異常が発生した時にその異常を検出し、必要に応じてドライバに警報を発するタイヤ異常検出装置の開発が盛んに行われている。具体例を挙げると、タイヤ接地力を検出する手段として回転側に荷重センサを設けた構造(特許文献1)や、タイヤの各部位の摩耗等の状態を検出する手段としてタイヤに多数の温度センサを設けた構造(特許文献2)が提案されている。この他に、制動時に駆動輪に加わるトルクの測定のために、ハブフランジ等に歪みゲージを設けた構造が提案されている(特許文献3)。このように、回転側へセンサを設置する場合には、センサや送信機を駆動するための電力を回転側へ供給する必要がある。
【0003】
このような要望に応えるものとして、タイヤ内部に空気圧変動により形状変形を生じて発電を行う発電板を有するものが提案されている(特許文献4)。また、タイヤの回転側に電磁コイル、非回転側に磁界発生手段を設けたタイヤ電源供給装置が提案されている(特許文献5)。また、車輪用軸受に発電装置を組み込んだ車輪用軸受装置が提案されている(特許文献6)。軸受に非接触信号伝達機構を設けた非接触信号伝達機構付き軸受も提案されている(特許文献7)。その他、スリップリングや無線給電などの方法で回転側へ電力を供給する手段が挙げられる。
【特許文献1】特開2005−082010号
【特許文献2】特開2005‐212696号
【特許文献3】特開2003‐246201号
【特許文献4】特開2006−329772号
【特許文献5】特開2006‐232195号
【特許文献6】特開2002‐055113号
【特許文献7】特開2002‐130262号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3の構造では、いずれも回転部にセンサを設けており、回転位置によってセンサ出力値が異なる。そのため、精度の良い検出や判定を行うためには、回転位置情報を持たせる必要がある。センサが単独で回転位置を検出する機能を持つものとすることが考えられるが、その場合、センサの構造が複雑になり、実現が難しい。
【0005】
また、特許文献4のタイヤの空気圧変動で発電を行うものや、特許文献5の回転側に電磁コイル,非回転側に磁界発生手段を設けたタイヤ電源供給装置、特許文献6の車輪用軸受に発電装置を組み込んだものでは、いずれも、回転側への電力供給しか行えない。そのため、別途に光や無線等でセンサ出力を伝達する手段を設ける必要があり、部品点数が多くなり、設計の自由度が狭くなる。特許文献6では、車輪用軸受で発電しているが、回転側への電力供給や通信手段として用いられていない。また、特許文献4〜6の構成は、いずれも回転中しか電力を供給することができない。特許文献7の構成ではコネクタを搭載していないため、回転側での配線が困難である。また、スリップリングを利用した場合、摩擦や配線の取り回しが問題となる。
【0006】
この発明の目的は、回転側に各種のセンサを設けた場合に、その回転側で回転位置の検出を行うことができて、そのセンサ情報と回転位置情報を組み合わせた判断等が可能となり、また回転側と固定側間の双方向に通信が行えて、部品点数の削減、設計の自由度向上が図れ、かつ回転中,回転停止時を問わず通信が行え、配線も容易で、通信のための摩擦の増大の問題のない双方向通信機能付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の双方向通信機能付車輪用軸受は、複列の転走面が形成された固定輪と、この固定輪の転走面と対向する転走面を形成した回転輪と、対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、前記固定輪と前記回転輪の間で、非接触で双方向に通信する双方向通信手段を設け、前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、前記双方向通信手段に接続されたコネクタを設け、前記固定輪に対する回転輪の相対回転の回転位置を検出する回転センサを、前記回転輪または固定輪に設けたことを特徴とする。
【0008】
この構成によると、次の各作用が得られる。すなわち、回転側に荷重やその他の状態検出用のセンサが取付けられた場合に、回転中の位置を知りたい場合があるが、その回転位置を、固定輪もしくは回転輪に設けられた回転センサから与えることができる。これにより、状態検出用のセンサが単独で回転位置を検出する機能を備える必要がなくなり、システムの無駄を省くことができる。状態検出用のセンサの情報と回転位置情報を組み合わせた場合、例えば、ホイールのアンバランス検出や、特定の箇所で発生する異音の位置の検出等が行え、また回転位置や回転速度によって特性が異なるセンサ類の場合に補正処理を行うことが可能となる。
【0009】
また、固定輪と回転輪の間で双方向の通信を行う双方向通信手段を設けたため、例えばタイヤ等の回転側に取付けたセンサの信号を、双方向通信手段を介して固定側に伝達することで、センサの信号を無線で送信する手段を設けることが不要となる。多数のセンサがあっても、中継機でまとめてバスにデータを流すことも可能であるため、必要な数だけのセンサを少ない配線で接続することができる。その場合、例えば通信データをCAN(Controller Area Network)バスなどのシリアル通信プロトコルに基づくインタフェース等を使用することで、やり取りすれば良い。また、双方向通信手段を利用することで、固定側から回転側への電力供給を容易に行うことができる。双方向通信手段は、発電機と異なり、回転しなくても電力の供給が可能となる。そのため、タイヤなどに取り付けたセンサに必要な無線給電機能、電池、単体での発電機能、などを不要にできる。また、固定輪または回転輪の少なくとも一方にコネクタを設けたため、車輪用軸受と車体側の配線または車輪用軸受とタイヤやホイール側への配線が容易となる。車輪用軸受を車体やホイールに組み込んだ後でも配線できるため、組立てが容易になる。双方向通信手段は非接触で通信を行うものであるため、摩擦の増大の問題も生じない。
このように、回転側と固定側間の双方向に通信が行えて、部品点数の削減、設計の自由度向上が図れ、また回転中,回転停止時を問わず通信が行え、配線も容易で、通信のための摩擦の増大の問題も生じない。
前記回転センサを回転輪側に設けた場合は、回転側に設けた状態検出センサ等と組み合わせて検出信号の処理を行う場合に、信号の処理が容易で、また誤差が生じ難い。
【0010】
この発明において、前記回転センサは、一定回転角度毎に発生する回転パルス、および回転輪の1回転で1回の零相信号を出力する機能を有するものであっても良い。また、前記回転センサは、絶対角度信号を出力するものであっても良い。
絶対角度信号が得られると、初期化処理を行うことなく絶対角度が正確に検出されるため、タイヤやホイールにセンサ類を設けた場合に、円周方向部位を特定した各種検出が行える。
【0011】
この発明において、前記回転輪がコネクタを有し、このコネクタが、前記双方向通信手段および回転センサに接続されたものであっても良い。なお、このコネクタは、回転輪に固定されている必要はなく、配線を介して引き出されていても良い。
回転輪に設けたコネクタに双方向通信手段および回転センサが接続されていると、配線や組立がより一層容易に行える。
【0012】
この発明において、前記双方向通信手段は、前記固定輪に設けられるコアに巻回された1次コイルと、前記回転輪に設けられるコアに巻回された2次コイルとでなり、前記1次コイルと前記2次コイルとで磁気回路を構成するものであっても良い。いわゆるロータリトランスとする。これにより、回転体である回転輪を有する車輪用軸受に適した構造となる。
【0013】
このように、1次コイルおよび2次コイルを用いた場合に、前記双方向通信手段は、データの通信と電力の伝達とを互いに異なる周波数で行うものとしても良い。例えば、電力の伝送を低周波側で行い、データの伝送を高周波側で行う。これにより、共通の1次コイルおよび2次コイルを用いて、データと電力の通信が行える。
【発明の効果】
【0014】
この発明の双方向通信機能付車輪用軸受は、複列の転走面が形成された固定輪と、この固定輪の転走面と対向する転走面を形成した回転輪と、対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、前記固定輪と前記回転輪の間で、非接触で双方向に通信する双方向通信手段を設け、前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、前記双方向通信手段に接続されたコネクタを設け、前記固定輪と回転輪との相対回転の回転位置を検出する回転センサを、前記固定輪または回転輪に設けたため、回転側に各種のセンサを設けた場合に、その回転側で回転位置の検出を行うことができて、そのセンサ情報と回転位置情報を組み合わせた判断等が可能となる。また、回転側と固定側間の双方向に通信が行えて、部品点数の削減、設計の自由度向上が図れ、かつ回転中,回転停止時を問わず通信が行え、配線も容易で、通信のための摩擦の増大の問題が生じないという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。図1は図2のI−O−I′線に沿う断面図である。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
この双方向通信機能付車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、各転走面3,4は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、密封装置となるシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0016】
外方部材1は固定輪であり、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックルに取付ける車体取付用のフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所に車体取付用のボルト孔14が設けられている。
内方部材2は回転輪であって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルトの圧入孔16が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0017】
この車輪用軸受に、固定輪である外方部材1と回転輪である内方部材2の間で非接触で電力を伝達する双方向通信手段21が設けられ、また固定輪である外方部材1と回転輪である内方部材2との相対回転の回転位置を検出する回転検出器80が設けられている。双方向通信手段21は、外方部材1と内方部材2との間の軸受空間内で、複列の転走面3,3(4,4)間に配置されている。回転検出器80は、上記軸受空間内で、アウトボード側列の転走面3,4とアウトボード側のシール7との間に設けられている。
【0018】
回転検出器80は、固定輪である外方部材1の内周面に取付けられた被検出体81と、回転輪である内方部材2の外周面に取付けられて前記被検出体81を検出する回転センサ82とでなる。回転検出器80は、外方部材1に対する内方部材2の相対回転の回転位置を検出できるものであれば良く、磁気式や光学式等、任意の形式のもので良いが、封入グリースや外部から侵入した泥水や埃等の影響を考慮すると、磁気式のものが好ましい。
また、回転検出器80は、回転によって単にパルス列を出力するものであっても良く、この他に、回転輪の1回転で1回の零相信号を出力する機能を有するものや、絶対角度信号を出力するものが使用される。
回転検出器80については、後に図5,図6と共に各具体例を説明する。
【0019】
双方向通信手段21は、1次コイル22、ステータコア23、2次コイル24、ロータコア25、および配線26,27から構成される。1次コイル22および2次コイル24は互いに一つの磁気回路を構成するように設けられる。ステータコア23は、内径面に溝があるリング状部材からなり、その溝部内に1次コイル22が巻かれている。ロータコア25は外径面に溝があるリング状部材からなり、その溝部内に2次コイル24が巻かれている。ステータコア23およびロータコア25の一部には、配線を通すための配線孔(図示せず)が設けられている。ステータコア23および1次コイル22は、固定輪である外方部材1の内径面に、またロータコア25および2次コイル24は、回転輪である内方部材2の外径面に、お互いがラジアル方向に対向するように設置されている。ステータコア23およびロータコア25は、外方部材1および内方部材2に対して圧入または接着などの方法で固定される。なお、ステータコア23およびロータコア25のアキシャル方向の位置決めをするために、外方部材1の内径面や内方部材2の外径面に、段差や突起(図示せず)などを設けてもよい。
【0020】
固定輪である外方部材1には、1次コイル22に接続された配線26を通す配線孔28が、内径面から外径面に貫通して設けられている。回転輪である内方部材2のハブ輪9には、2次コイル24に接続された配線27を通す配線孔29が外径面から内径面に貫通して設けられ、内径面の円周方向の一部に、上記配線27を軸方向に沿って内部に這わす配線溝30が設けられている。1次コイル22およびステータコア23を組立てる場合、配線26を予め配線孔28を通した状態で、軸方向から外方部材1の内径面に嵌合すれば良い。
【0021】
各配線26,27の先端には、車体側およびタイヤやホイール側に配線26,27を接続するためのコネクタ31,32を設けている。タイヤやホイール側へ連結するコネクタ32は、内方部材2におけるハブ輪9の、パイロット部13よりも内径部でアウトボード側端面に固定されている。車体側へ連結するためのコネクタ31は、外方部材1の外径面に固定されない状態で設けられている。
タイヤ,ホイール側のコネクタ32には、上記配線27の他に、回転検出器80の回転センサ82の配線27Aが接続されている。配線27Aは、回転センサ82の電源供給および信号出力を行う配線である。この配線27Aは、回転センサ82の取付箇所で内方部材2に軸方向に貫通して設けられた配線孔29Aに挿通されている。この配線孔29Aは内径側端が上記配線溝30に開口している。
【0022】
コネクタ31,32は、上記配線26,27として、固定側から回転側へ電力を供給する場合は電源線、回転側から固定側へ状態検出センサ90等の出力信号を送信する場合は信号線を接続している。電源線および信号線の両方を接続しても良い。
【0023】
コネクタ31,32は、一対のコネクタを互いに差し込み接続する差し込み接続型のコネクタ対における片方のものであり、プラグ型およびソケット型のうちのいずれであっても良い。コネクタ31,32は、多極のものであっても、同軸のものであっても良い。
図3は、ハブ輪9に固定したコネクタ32と、このコネクタ32に接続されるタイヤ側の配線34のコネクタ33の一例を、概略図で示す。
【0024】
上記固定側のコネクタ31および回転側のコネクタ32は、これら各コネクタ31,32に差し込み接続されたコネクタ35,33およびその配線37,34を介して、固定側および回転側の双方向通信補助手段38,39に接続される。これら双方向通信補助手段38,39を介して、電源や状態検出センサ90等に接続される。
【0025】
双方向通信補助手段38,39は、双方向通信手段21を機能させて双方向通信を行うための電気回路などであり、例えば電力を伝達するための交流電圧を発生する手段や、データを送信するための搬送波の発生および搬送波への信号の重畳等の処理を行う。
例えば、固定側から回転側へ電力を送信し、回転側から状態検出センサ90のデータを送信する場合の例を説明する。この場合、固定側の双方向通信補助手段38は、電源(図示せず)の直流電流を、双方向通信手段21を介して伝達するための周波数の交流電流に変換する交流電流発生機能部と、受信した電流から信号成分を抽出する復調手段等を備えるものとされる。回転側の双方向通信手段39は、受信した交流電流を状態検出センサ90の電源として利用するために直流電流に変換する整流手段と、状態検出センサ90の出力信号を搬送波に重畳させる変調手段とを有するものとされる。
双方向通信補助手段38,39は、この例では、データの通信と電力の伝達とを互いに異なる周波数で行うものとされる。この場合に、電力を低周波側で、データを高周波側で行うようにする。
【0026】
また、回転側に状態検出センサ90を多数設ける場合は、回転側の双方向通信補助手段39に中継機を設け、この中継機に、複数のセンサ出力等の通信データをシリアル通信で受信するためのインタフェースを設ける。このインタフェースとしては、例えば、CANなどのシリアル通信プロトコルを用いるものとされる。固定側の双方向通信補助手段38には、シリアル通信で送信された信号を個々の状態検出センサ90の出力として抽出する手段を設ける。
なお、固定側の双方向通信補助手段38は、独立して設けられたものであっても、また自動車の電気制御ユニット(ECU)等に組み込まれたものであっても良い。また、回転側の双方向通信補助手段39は、独立して設けられたものであっても、状態検出センサ90と一体の部品として組まれたものであっても良い。
【0027】
また、前記双方向通信手段21による通信が正常に確立されているか否かを確認する確認手段49を設けても良い。確認手段49は、例えば、固定側の双方向通信補助手段38に設けても良く、また固定側のコネクタ31や、このコネクタ31と1次コイル22との間等に設けても良い。
【0028】
上記回転側のコネクタ32に接続される状態検出センサ90は、例えば、タイヤ空気圧センサ、タイヤ異常検出センサ、荷重センサ等である。この状態検出センサ90は、例えば、回転センサ82により検出される回転位置を用いて、ホイール回転位置に応じた検出結果や、出力補正をする機能を持つものとされる。
【0029】
なお、図1において、上記状態検出センサ90として複数設ける具体例としては、例えば、タイヤ接地力の検知手段となるトレッドセンサとして、感圧導電ゴム体等の感圧センサを、タイヤのトレッド部に、タイヤ幅方向および円周方向に並べて複数埋設するものが挙げられる。また、タイヤ異常の検出のために、タイヤ内に複数の温度センサを設ける例がある。この他に、歪みゲージをタイヤやホイールの複数箇所に設ける例や、振動センサ等をタイヤの各部に設ける例などが挙げられる。
また、コネクタ32には、センサ類の他に、タイヤやホイール等に埋め込まれたICタグを接続しても良い。
【0030】
回転検出器80の具体例を説明する。図5は、零相信号出力付きの回転検出器80の一例を示す。この例では、被検出体81として、同図(A)に示すリング状の第1の被検出体81aと、同図(B)に示すリング状の第2の被検出体81bとが、軸方向に並べて設けられる。第1の被検出体81aは、円周方向に交互に磁極N,Sが設けられた多極磁石からなる。第2の被検出体81bは、円周方向の1箇所に磁極が設けられたものである。回転センサ82としては、第1の被検出体81aの内周側に対向する第1,第2の磁気センサ82a,82bと、第2の被検出体81bに対向する零相検出用の磁気センサ82cとが設けられている。第1,第2の磁気センサ82a,82bは、互いに第1の被検出体81aの磁極ピッチに対して90°位相がずれて配置されている。これら各磁気センサ82a〜82cは、リング状のセンサ取付部材82dに取付けられ、このセンサ取付部材82dを介して内方部材2の外周面に取付けられる。
同図の構成の回転検出器80は、第1,第2の磁気センサ82a,82bが回転輪と共に回転することで、第1の被検出体81aの磁極を検出し、回転パルスを発生する。第1,第2の磁気センサ82a,82bは、互いに90°位相の異なる回転パルスを発生するため、両磁気センサ82a,82bの出力を用いることで、回転方向も検出される。また、零相検出用の磁気センサ82cが回転輪と共に回転することで、回転輪の1回転で1回の零相信号がパルス等で出力される。この零相信号と上記回転パルスを用いることで、回転輪の回転位置を絶対位置で検出することができる。
【0031】
図6は、絶対角度信号を出力する回転検出器80Aの一例を示す。この回転検出器80Aは、図1の回転検出器80の代わりに上記と同様に設けられる。この例では、被検出体81Aとして、同図(A),(B)に示すリング状の第1,第2の被検出体81Aa,81Abが軸方向に並べて設けられている。これら第1,第2の被検出体81Aa,81Abは互いに異なる磁極ピッチで、円周方向に交互に磁極N,Sが等配されている。各被検出体81Aa,81Abに対して、回転センサ82Aを構成する2つの磁気センサ82A1,82A2が設けられている。
この構成の回転検出器80Aの場合、2つの磁気センサ82A1,82A2が回転輪と共に回転すると、第1,第2の被検出体81Aa,81Abを検出することで、互いにピッチの異なる回転パルスを出力する。これら両回転パルスを処理することで、絶対角度が検出される。
【0032】
上記構成の双方向通信機能付車輪用軸受によると、次の各作用が得られる。回転側に上記のようにタイヤ空気圧,タイヤ異常,作用荷重などの検出用等の状態検出センサ90が取付けられた場合に、回転中の位置を知りたい場合がある。この場合に、その回転位置を、回転輪を構成するハブ輪9に設けられた回転センサ82から与えることができる。これにより、状態検出センサ90が単独で回転位置を検出する機能を備える必要がなくなり、システムの無駄を省くことができる。この場合、状態検出センサ90またはこれに組み合わせて使用される配線基板等に、状態検出センサ90の検出情報と回転センサ82とを用いて処理する信号処理回路を設けておく。この信号処理回路は上記双方向通信手段39に設けても良い。
状態検出センサ90のセンサの情報と回転位置情報を組み合わせた場合、例えば、ホイールのアンバランスを検出することができ、また特定の箇所で発生する異音の位置を検出可能である。この他に、上記のように、状態検出センサ90として荷重センサやトレッドセンサを設ける場合に、回転センサ82から得られる回転位置の基準角度を使って処理することができる。状態検出センサ90において、回転速度によって特性が異なるような場合は、補正処理によって回転速度による特性差を補正することができる。
タイヤやホイールにICタグを埋め込んだ場合は、タイヤやホイール等の製品の情報をICタグに記録しておいて、コネクタ32および双方向通信手段21を介して検出することにより、トレーサビリティを向上させることができる。
【0033】
また、上記構成の双方向通信機能付車輪用軸受によると、双方向通信手段21を設けたため、例えば、固定輪である外方部材1側から回転輪である内方部材2側に電力を供給する場合、1次コイル22に交流電圧を加えると、コア23,25に発生した磁束により、誘導電力として2次コイル24に伝達される。そのため、非接触で電力の供給を行うことができる。この場合に、双方向通信手段21は、発電機と異なり、回転しなくても電力の供給が可能となる。そのため、タイヤなどに取り付けたセンサに必要な無線給電機能、電池、単体での発電機能、などを不要にできる。
【0034】
また、双方向通信手段21により、例えばタイヤ等の回転側に取付けたセンサ(図示せず)の信号を、双方向通信手段21を介して固定側に伝達することで、センサの信号を無線で送信する手段を設けることが不要となる。多数のセンサがあっても、上記のように中継機でまとめてバスにデータを流すことも可能であるため、必要な数だけのセンサを少ない配線で接続することができる。その場合、上記のように通信データをCANバスなどのシリアル通信プロトコルに基づくインタフェース等を使用することで、やり取りすれば良い。
【0035】
さらに、コネクタ32を介してタイヤやホイールと連結することにより、車輪用軸受をホイールへ設置する際に配線が邪魔にならず、車輪用軸受を設置する前でもタイヤ内での配線を行うことが可能になる。コネクタ31,32は、嵌合状態となる差し込み接続状態で防水性を有するものを使用すると良い。そうすることで、自動車の足回りのような環境が悪い条件でも使用できる。また、ハブ輪9側の配線27は、配線溝30に固定しておくと良い。そうすれば、等速ジョイントを組み込む際にも、配線27が邪魔にならず、断線することなく組み込むことが可能となる。配線孔28,29や配線溝30の一部をモールド樹脂(図示せず)等でモールドしておけば、軸受内部へ水などが浸入することを防止できる。1次コイル22および2次コイル24には、保護用の隔壁となる樹脂等のカバー(図示せず)で覆っても良く、これによりコイル22,24を保護することが出来る。
【0036】
なお、この実施形態では、双方向通信手段21として1次コイル22と2次コイル24からなるロータリトランス構造を示しているが、双方向通信手段21は、非接触でデータの通信や電力の供給が可能なものであれば良く、この他に、赤外線、光、電波、超音波、容量カップリング、磁気結合、などを利用して電力を伝送するものであっても良い。ただし、車輪用軸受のような回転体の場合は、この実施形態のようなロータリトランス構造が適していると考えられる。
【0037】
図4は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この双方向通信機能付車輪用軸受は、双方向通信手段21が、ステータコア23に設けられた送信用1次コイル22aおよび受信用1次コイル22bと、ロータコア25に設けられた送信用2次コイル24aおよび受信用2次コイル24bとでなる。
ステータコア23は、内周に2本の溝があるリング状部材であり、各溝内に送信用1次コイル22aおよび受信用1次コイル22bが収容されて、これら送信用および受信用の1次コイル22a,22bに共通のものとされている。ロータコア25は、外周に2本の溝があるリング状部材であり、各溝内に送信用2次コイル24aおよび受信用2次コイル24bが収容されて、これら送信用および受信用の1次コイル24a,24bに共通のものとされている。
【0038】
ステータコア23は、固定輪である外方部材1の内周面に取付けられ、ロータコア25は回転輪を構成するハブ輪9の外周面に取付けられている。ステータコア23の送信用1次コイル22aとロータコア25の送信用2次コイル24aとが互いに対向して磁気回路を構成し、またステータコア23の受信用1次コイル22bとロータコア25の受信用2次コイル24bとが互いに対向して磁気回路を構成する。
【0039】
固定側の配線26は電力配線およびデータ配線を有し、電力配線が送信用1次コイル22aに接続され、データ配線が受信用1次コイ22bに接続されている。回転側の配線27は、電源線および信号線を有し、電源線が送信用2次コイル24aに接続され、信号線が受信用2次コイ24bに接続されている。
【0040】
また、この実施形態では、回転検出器80が、双方向通信手段21の隣で、外方部材1と内方部材2の間に設置されている。この回転検出器80は、回転輪である内方部材2の外周に設けられた被検出体81と、固定輪である外方部材1の内周に取付けられた回転センサ82とでなる。回転センサ82の配線26Aは、双方向通信手段21の1次コイル22a(または22b)に接続されている。配線26Aは、外方部材1に設けられた配線孔26A内に挿通さる。この回転検出器80としては、例えば、図5,図6に示した回転検出器80,80Aにつき、被検出体81と回転センサ82とを、内外逆の位置関係としたものが用いられる。
なお、この実施形態においても、第1の実施形態と同様に、回転輪である内方部材2側に回転センサ82を設けても良い。
【0041】
この実施形態の場合、電力が1次コイル22a,2次コイル24a間で伝達され、データが1次コイル22b,2次コイル24b間で伝送される。この実施形態におけるその他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0042】
なお、上記各実施形態では、双方向通信手段21を複列の転走面3,3間か、または車輪用軸受装置のアウトボード側端に配置したが、車輪用軸受装置のインボード側部に双方向通信手段21を設け、等速ジョイントに設置したセンサに対して電力供給および出力信号の伝達を行うようにしても良い。その場合、固定輪となる外方部材1のインボード側端面に1次コイル22を設置し、内輪10に2次コイル24を設けても良い。
また、上記各実施形態は、外方部材1が固定輪としたが、この発明は内方部材が固定輪で外方部材が回転輪となる車輪用軸受装置にも適用することができる。
さらに、この発明は、駆動輪用の車輪用軸受に限らず、従動輪用の車輪用軸受に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる双方向通信機能付車輪用軸受の断面図である。
【図2】同双方向通信機能付車輪用軸受をインボード側から見た側面図である。
【図3】コネクタの一例を示す概略図である。
【図4】この発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】(A),(B)は、それぞれ回転検出器の一例を示す各部の部分側面図である。
【図6】(A),(B)は、それぞれ回転検出器の他の一例を示す各部の部分側面図である。
【符号の説明】
【0044】
1…外方部材(固定輪)
2…内方部材(回転輪)
3,4…転走面
5…転動体
21…双方向通信手段
22…1次コイル
23…ステータコア
24…2次コイル
25…ロータコア
26,27…配線
28,29…配線孔
30…配線溝
31,32…コネクタ
38,39…双方向通信補助手段
80,80A…回転検出器
81,81A…被検出体
82,82A…回転センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が形成された固定輪と、この固定輪の転走面と対向する転走面を形成した回転輪と、対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
前記固定輪と前記回転輪の間で、非接触で双方向に通信する双方向通信手段を設け、前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、前記双方向通信手段に接続されたコネクタを設け、固定輪に対する回転輪の相対回転の回転位置を検出する回転センサを、前記回転輪または固定輪に設けたことを特徴とする双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記回転センサは、前記回転輪に設けた双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記回転センサは、一定回転角度毎に発生する回転パルス、および回転輪の1回転で1回の零相信号を出力する機能を有するものである双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記回転センサは、絶対角度信号を出力するものである双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記回転輪がコネクタを有し、このコネクタが、前記双方向通信手段および回転センサに接続された双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記双方向通信手段は、前記固定輪に設けられるコアに巻回された1次コイルと、前記回転輪に設けられるコアに巻回された2次コイルとでなり、前記1次コイルと前記2次コイルとで磁気回路を構成することを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項6において、前記双方向通信手段は、データの通信と電力の伝達とを互いに異なる周波数で行うものである双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記双方向通信手段に固定輪側から回転輪側へ電力を伝達するための交流電圧を発生する手段を有する固定側の双方向通信補助手段、および前記双方向通信手段に回転輪側から固定輪側へデータを送信するための搬送波の発生および搬送波への信号の重畳の処理を行う手段を有する回転側の双方向通信補助手段を設けた双方向通信機能付車輪用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−267422(P2008−267422A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107971(P2007−107971)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】