説明

反射型回折格子ホログラム及びX線集光システム

【課題】軌道角運動量を持ったX線を回折波として発生させることができ、不要な0次の光を弱める又は完全に消すことができ、回折波の出射方向を容易に変えることができ、さらに、回折格子の拡大化が可能で、作成が容易な反射型回折格子ホログラムなどを提供する。
【解決手段】反射型回折格子ホログラム2は、入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期aが波長の2倍よりも大きく、かつ回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、入射波を反射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型回折格子ホログラム及びX線集光システムに関するものであり、特に、入射波及び反射波の波長の2倍よりも大きい格子周期の回折格子をホログラムとすることで、実験室で簡易に軌道角運動量を持ったX線を発生させることのできる反射型回折格子ホログラム及びX線集光システムに関する。
【背景技術】
【0002】
物質が磁性を示す主な原因は、物質を構成する原子の原子核及び電子が持つスピン角運動量の存在によるところが大きい。軌道角運動量を持ったX線(以下「角運動量を持ったX線」と記載する。非特許文献1参照)は、このスピン角運動量との間で相互作用を引き起こすので、従来から磁性や原子配列の立体像の解析には、角運動量を持ったX線が有効に用いられてきた。ところが、角運動量を持ったX線は放射光施設でしか作れないために、このような解析は実験室では行うことは困難であった。
【0003】
したがって、実験室で簡易に角運動量を持ったX線を発生させ、該角運動量を持ったX線を被検体である物質に集中的に照射させるためのX線集光システムの開発が望まれる。
【0004】
一方、角運動量を持った可視光を発生させることは、いわゆる透過型のフォーク型回折格子を用いることで可能であることは示されている。可視光の場合の透過型のフォーク型回折格子は、無偏光と角運動量光とを同時に照射してできる入射面上での干渉パターンをそのまま利用することによりホログラムとして作成することができる。また、波長がμm程度と長いので直接描画することもできる。
【0005】
しかし、X線の場合には、角運動量光を実験室レベルで発生させるのが困難なため無偏光と角運動量光とを同時に照射してできる入射面上での干渉パターンをそのまま利用することが困難であり、波長がnm程度と短いので直接描画することは困難であるという問題がある。
【0006】
ここで、ホログラムとは、光源から出る通常のレーザー光と参照光源から出る任意の光との2つの光波の干渉パターンを入射面上に記録したものである。こうして作成されたホログラムに対し、元のレーザー光と同一のレーザー光を入射させると、参照光源から出ていた光と同一の光が再生される。
【0007】
このホログラムによる光の再生は、作成したときとほぼ同じ波長の光で行う必要がある。このため、ホログラムの縞の間隔はほぼ光の波長のオーダーになり、軟X線を再生するときにはナノメートルのオーダーとなってしまうという問題がある。
【0008】
ところで、可視光を用いて格子周期の小さい回折格子を作成する場合には、通常紫外光が用いられる。この回折格子は、2つの方向から紫外光をホログラムに照射して、入射面上での干渉パターンを記録して作ることができる。紫外線を干渉させて作成する回折格子では、刻線数は2400本/mm、格子周期(刻線間隔)は400nm程度が限界である。
【0009】
X線の場合はさらに波長が可視光の1/1000と短いため、回折格子の加工が困難であり、イオンビームなどの特殊な微細加工で透過型のフォーク型の回折格子が作成できたとしても、回折格子の大きさはμmオーダー程度の小さいものしか作成することができないという問題がある。
【0010】
このような従来のフォーク型回折格子として透過型の回折格子ホログラムを用いて角運動量を持ったX線を発生させる技術が知られている。この透過型のフォーク型回折格子は特殊な加工技術を用いて作成されたものであり、その大きさはμmオーダー程度の小さいものである。
【非特許文献1】“MEASURING THE ORBITAL ANGULAR MOMENTUM OF SINGLE PHOTONS”,http//www.physics.gla.ac.uk/Optics/projects/singlePhotonOAM/
【非特許文献2】「先端光量子機能デバイス開発研究質グループ」HP,http://wwwapr.kansai.jaea.go.jp/jaea/j/01/group/dev/#report
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の透過型のフォーク型回折格子で角運動量を持ったX線を発生させる技術では、以下のような問題点がある。
【0012】
ここで、図6に基づき従来の透過型の回折格子の問題点について説明する。図6は可視光で作成された透過型の回折格子を含む回折波発生システム100を説明するための概念図である。回折波発生システム100は、図6に示すように、A点に配置されるレーザー光源101と、透過型の回折格子102と、任意の光を発生させるための参照光源103とを備えるものである。
【0013】
まず、A点に配置されたレーザー光源101から通常のレーザー光Ψを発生させるとともに、B点に配置された参照光源103から任意の光Ψを発生させ、これらの光をホログラムに照射する。レーザー光Ψは、A点から距離rだけ進み、透過型の回折格子102の表面上の原点Oに入射させる。一方、光ΨはB点から距離rだけ進み、透過型の回折格子102の表面上の原点Oに入射させる。
【0014】
この2つの光Ψ及び光Ψの干渉パターンを入射面上に記録したものが透過型の回折格子102である。透過型の回折格子102にA点から元のレーザー光Ψを照射すると、元のレーザー光Ψを延長したaの方向にレーザー光Ψが出て行き、元の光Ψを延長したbの方向に光Ψが出て行く。透過型の回折格子102上での干渉パターンでは、ΨとΨとの波が両方とも山になったところが透過するようになっている。
【0015】
紫外光で作成する透過型の回折格子102の場合も、A点に配置されたレーザー光源101とB点に配置された参照光源103とから紫外光ΨとΨとをホログラムに照射して、入射面上での干渉パターンを記録して作ることができる。紫外光を干渉させて作成する透過型の回折格子102では、上述したように、刻線数は2400本/mm、及び格子周期は400nm程度が限界である。
【0016】
上述した従来の透過型のフォーク型回折格子は、特殊な加工技術を用いてX線レベルの波長でも適用が可能となるように作成されたものである。しかし、従来の透過型のフォーク型回折格子は、格子周期の中に入る回折波の波の数が1程度であるため、格子周期と回折波の波長とが同程度の回折格子を作ることは、X線領域では難しく、小さいものしか作れないという問題点がある。したがって、X線領域の場合、回折格子の大きさは約1μm程度の大きさ程度となってしまい強い回折波が得られないという問題点も生じる。
【0017】
また、透過型の回折格子の場合は、不要な0次の光も透過してしまうので、回折波と比較して0次の光が強くなってしまい、角運動量を持ったX線を効率よく得ることができないという問題点もある。
【0018】
さらに、透過型の場合は原理的に回折格子の向きを変えても、次数の符号が異なる回折波は常に直進する0次の光の左右に分かれて発生するため、次数の符号が異なる回折波の両方を同じ場所で利用することが困難であるという問題点がある。
【0019】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、軌道角運動量を持ったX線を回折波として発生させることができ、不要な0次の光を弱める又は完全に消すことができ、回折波の出射方向を容易に変えることができ、さらに、回折格子の拡大化が可能で、作成が容易な反射型回折格子ホログラム及び該反射型回折格子ホログラムを備えるX線集光システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記課題を解決するために、入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期が入射波と回折波の波長の2倍よりも大きく、かつ前記回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、前記入射波を反射させることを特徴としている。
【0021】
前記構成によれば、反射型回折格子ホログラムの入射面は、入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されている。また、反射型回折格子ホログラムは、複数の凸部及び凹部がともに入射波を反射させる場合には(例えばラミナ型の回折格子などを用いた場合など。)、凹部と凸部との高さの差(凹部の最下部と凸部の最上部との差)である格子深さ(以下同様の説明は省略する。)を適宜調整することにより、0次の反射波を弱める又は完全に消すことができる。
【0022】
なお、複数の凸部のみが、入射波を反射させる場合や、複数の凹部のみが入射波を反射させる場合(例えばブレーズ型の回折格子を用いた場合など。)も本発明の範疇に含まれる。さらに、反射型の回折格子は、透過型の回折格子と異なり、回折格子の向きを変えれば、0次の光の方向も変えることができ、次数の符号が異なる回折波も同じ方向に出射させることができる。
【0023】
また、入射面側の凹凸部は、格子周期が回折波の波長と比較してかなり大きく(格子周期が波長の2倍よりも大きく)形成されている。この場合、入射波と回折波との重ね合わせによって生じるうなりの間隔の整数倍と、格子周期とが等しくなるという回折条件を満足するように回折波が形成されて回折波を再生できる。よって、回折格子の拡大化が可能であり、容易に作成することができる。
【0024】
また、入射面側の凹凸部は、回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、複数の凸部及び凹部の形状が形成されている。
【0025】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記構成に加えて、前記複数の凸部及び凹部の形状が、前記回折波の波長を、前記格子周期と前記回折波の出射角の正弦との積に等しい長さに伸ばしたときの波の波面の回転中心軸から該波面に沿って延びる半直線と前記入射面との交わりが描く軌跡に沿って形成されていることが好ましい。前記構成によれば、通常の平面波を入射させれば、軌道角運動量を持った回折波を発生させることができる。
【0026】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記課題を解決するために、入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期の中に入る回折波の波の数が1よりも大きい整数であり、かつ前記回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、前記入射波を反射させることを特徴としている。
【0027】
前記構成によれば、入射面側の凹凸部は、入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期の中に入る回折波の波の数が1よりも大きい整数であるという回折条件を満足するように形成されている。このため、格子周期を調整すれば、格子周期の中に入る波の数が1と異なっていても所望の回折波を再生できる。なお、それ以外の構成は上述したものと同様である。
【0028】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記課題を解決するために、入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期aが、入射波と反射波の波長の2倍よりも大きく、該回折波が、前記入射面をXY平面とするXYZ直交座標系における原点Oから、XZ平面上を進行方向とし、初期位相φ0、出射角β、及び波数k(=2π/asinβ)で、出射したと仮定した場合において、前記複数の凸部及び凹部の形状が、回折波の波長をasinβに伸ばしたときの波の波面の回転中心軸から該波面に沿って延びる半直線と前記入射面との交わりが描く軌跡に沿って形成されていると共に、
前記軌跡が、m(m≠0)及びnを整数として、次式(1)
【0029】
【数1】

【0030】
・・・(1)
を満たすような点P(x,y)の描く軌跡であり、前記入射波を反射させることを特徴としている。
【0031】
前記構成によれば、整数m(m≠0)は、回折波の軌道角運動量が、
【0032】
【数2】

【0033】
である場合に対応するものである。また、上式(1)を満たす軌跡に従って、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されている。それゆえ、通常の平面波を入射させれば、軌道角運動量を持った回折波を発生させることができる。それ以外の構成は上述したものと同様である。
【0034】
以上により、軌道角運動量を持ったX線を回折波として発生させることができ、不要な0次の光を弱める又は完全に消すことができ、回折波の出射方向を容易に変えることができ、さらに、回折格子の拡大化が可能で、作成が容易な反射型回折格子ホログラムを提供することができる。
【0035】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記構成に加えて、前記複数の凸部の凹凸方向の断面の形状が矩型形状であるラミナ型であることが好ましい。なお、本発明の適用範囲は、上述したように、ラミナ型の回折格子に限られず、ブレーズド型の回折格子など他の方式の反射型回折格子も含まれる。
【0036】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記構成に加えて、前記複数の凸部からの反射波と前記複数の凹部からの反射波との位相が180度異なるように、前記凸部と凹部との高さの差である格子の深さが決定されていることが好ましい。
【0037】
前記構成によれば、格子深さを適切に設定することにより0次の反射波を弱める又は完全に消すことができる。例えば、複数の凸部からの反射波と複数の凹部からの反射波との位相が180度異なるように、格子深さを設定すれば、両反射波が干渉すると、波の重ね合わせの原理により、互いに打ち消し合うので、0次の反射波を完全に消すことができる。
【0038】
なお、上述したように、「凸部と凹部との高さの差」は、凹部の最下部と凸部の最上部との差で与えられる。
【0039】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記構成に加えて、前記凸部及び凹部の凹凸方向の断面の形状が、前記格子周期と同一の周期を持つサインカーブに沿って形成されていることが好ましい。
【0040】
前記構成によれば、入射面側の凹凸部の断面の形状は、格子周期と同一の周期を持つサインカーブに沿って形成されている。このため、出射波は解析的に1次の波だけになるので、0次の回折波(反射波)や2次などの他の回折波が抑制されて、効率よく1次の回折波を得ることができる。
【0041】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記構成に加えて、前記入射波がBraggの反射条件を満たす間隔で、質量の大きい原子と質量の小さい原子とが交互に積層された多層膜が入射面側に形成されていることが好ましい。
【0042】
前記構成によれば、質量の大きい原子と質量の小さい原子とが交互に積層された多層膜が入射面側に形成され、ブラッグの反射条件を満足するように多層膜の間隔が決定されている。このため、X線を効率よく反射させることができる。
【0043】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記構成に加えて、入射波の光源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径と、
該ローランド円と直交する平面内の曲率半径とが、該ローランド円の直径と等しい球面として、入射面が形成されていることが好ましい。
【0044】
前記構成によれば、ローランド円を含む平面内の曲率半径と、該ローランド円と直交する平面内の曲率半径とが等しい球面として、入射面が形成されている。このため、回折光を集光点に効率良く収束させることができ、球面であるため加工が容易である。なお、この場合、ローランド円の円周方向は集光点に収束するが、ローランド円に垂直な方向については集光点に収束しない。
【0045】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記構成に加えて、入射波の光源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径と等しく、該ローランド円と直交する平面内の曲率半径は該ローランド円の直径とは異なるトロイダル面として、入射面が形成されていることが好ましい。
【0046】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、前記構成に加えて、入射波の光源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径と等しく、該ローランド円と直交する平面内の曲率半径は該ローランド円の直径とは異なる回転楕円面として、入射面が形成されていることが好ましい。
【0047】
前記構成によれば、入射面は、ローランド円を含む平面内の曲率半径と、該ローランド円と直交する平面内の曲率半径とが異なっている。したがって、発散型のX線光源であっても、ローランド円の円周方向及びローランド円に垂直な方向の両方について光を集光点に収束させるよう調整できるので、前記球面の場合と比較して収束効率が良い。
【0048】
なお、集光効率の観点からは、回転楕円面として、入射面が形成されていることが、より好ましい。
【0049】
なお、ローランド円を含む平面内の曲率半径は、常にローランド円の直径に等しい。一方、ローランド円と直交する平面内の曲率半径は、必ずしも、ローランド円の直径に等しくなくても良い。
【0050】
また、本発明のX線集光システムは、前記課題を解決するために、入射波の光源としてX線を発生するX線源と、前記入射波の入射により回折波を生じさせるための回折格子ホログラムとを備えるX線集光システムであって、前記回折格子ホログラムは、前記入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期が入射波と反射波の波長の2倍よりも大きく、かつ前記回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、前記入射波を反射させる反射型の回折格子ホログラムであり、前記X線源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記回折格子ホログラムの入射面上における前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径と等しいことを特徴としている。
【0051】
前記構成によれば、前記X線源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記回折格子ホログラムの入射面上における前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径と等しい。このため、X線源から回折格子の入射面を見込む立体角の範囲内のX線が回折することによって生じた軌道角運動量X線を効率良く集光点に集光させることができる。なお、本発明のX線集光システムには、上述した構成を有する回折格子ホログラムのすべてを使用することが可能である。
【0052】
なお、集光の基本は上記のものであるが、本発明の反射型回折格子ホログラムと他の光学素子を組み合わせて、上記とは異なる配置で集光することも可能であり、その場合も本発明の範疇に含まれるものである。
【0053】
以上より、軌道角運動量を持ったX線を回折波として発生させることができ、不要な0次の光を弱める又は完全に消すことができ、回折波の出射方向を容易に変えることができ、さらに、回折格子の拡大化が可能で、作成が容易な反射型回折格子ホログラムを備えるX線集光システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0054】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、以上のように、入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期が入射波と回折波の波長の2倍よりも大きく、かつ前記回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、前記入射波を反射させるものである。
【0055】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、以上のように、入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期の中に入る回折波の波の数が1よりも大きい整数であり、かつ前記回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、前記入射波を反射させるものである。
【0056】
また、本発明の反射型回折格子ホログラムは、以上のように、入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期aが、入射波と反射波の波長の2倍よりも大きく、該回折波が、前記入射面をXY平面とするXYZ直交座標系における原点Oから、XZ平面上を進行方向とし、初期位相φ0、出射角β、及び波数k(=2π/asinβ)で、出射したと仮定した場合において、前記複数の凸部及び凹部の形状が、回折波の波長をasinβに伸ばしたときの波の波面の回転中心軸から該波面に沿って延びる半直線と前記入射面との交わりが描く軌跡に沿って形成されていると共に、
前記軌跡が、m(m≠0)及びnを整数として、次式(1)
【0057】
【数3】

【0058】
・・・(1)
を満たすような点P(x,y)の描く軌跡であり、前記入射波を反射させるものである。
【0059】
それゆえ、軌道角運動量を持ったX線を回折波として発生させることができ、不要な0次の光を弱める又は完全に消すことができ、回折波の出射方向を容易に変えることができ、さらに、回折格子の拡大化が可能で、作成が容易な反射型回折格子ホログラムを提供することができるという効果を奏する。
【0060】
また、本発明のX線集光システムは、以上のように、入射波の光源としてX線を発生するX線源と、前記入射波の入射により回折波を生じさせるための回折格子ホログラムとを備えるX線集光システムであって、前記回折格子ホログラムは、前記入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期が入射波と反射波の波長の2倍よりも大きく、かつ前記回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、前記入射波を反射させる反射型の回折格子ホログラムであり、前記X線源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記回折格子ホログラムの入射面上における前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径と等しいシステムである。
【0061】
それゆえ、軌道角運動量を持ったX線を回折波として発生させることができ、不要な0次の光を弱める又は完全に消すことができ、回折波の出射方向を容易に変えることができ、さらに、回折格子の拡大化が可能で、作成が容易な反射型回折格子ホログラムを備えるX線集光システムを提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
本発明のX線集光システムの一実施形態について図1〜図5(c)に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0063】
〔1.X線集光システムの例〕
まず、図1及び図2(a)・図2(b)に基づき、X線集光システムの一例であるX線集光システム10の構成について説明する。
【0064】
X線集光システム10は、図1に示すように、X線源1と、反射型回折格子ホログラム2と、集光点3とを備えるものである。X線源1は、A点に配置されるX線の発生源であり、反射型回折格子ホログラム2にX線を照射するためのものである。X線源1は、通常の発散型のX線源を用いることで簡単に構成できるが、X線の発生源となるものであればこのような発散型のものに限られず、どのようなものであっても良い。
【0065】
反射型回折格子ホログラム2の入射面は、入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されている反射型の回折格子である。また、反射型回折格子ホログラム2は、複数の凸部及び凹部がともに入射波を反射させる場合には(例えばラミナ型の回折格子などを用いた場合など。)、凹部と凸部との高さの差(凹部の最下部と凸部の最上部との差)である格子深さd(以下同様の説明は省略する。)を適宜調整することにより、0次の反射波を弱める又は完全に消すことができる。
【0066】
なお、複数の凸部のみが、入射波を反射させる場合や、複数の凹部のみが入射波を反射させる場合(例えばブレーズ型の回折格子を用いた場合など。)も本発明の範疇に含まれる。さらに、反射型回折格子ホログラム2は、透過型の回折格子と異なり、回折格子の向きを変えれば、0次の光の方向も変えることができ、次数の符号が異なる回折波も同じ方向に出射させることができる。
【0067】
以下では、反射型回折格子ホログラム2の凹凸部の断面の形状が、格子周期a及び格子深さdのラミナ型の回折格子である場合について説明する。また、入射面側の凹凸部は、格子周期aが回折波の波長λと比較してかなり大きく(格子周期aが波長λの2倍よりも大きく)形成されている。この場合、入射波と回折波との重ね合わせによって生じるうなりの間隔の整数倍と、格子周期とが等しくなるという回折条件を満足するように回折波が形成されて回折波を再生できる。よって、回折格子の拡大化が可能であり、容易に作成することができる。
【0068】
なお、上述のように、本発明の適用範囲は、このようなラミナ型の回折格子に限られず、ブレーズド型など他の反射型の回折格子も含まれる。ここで、ラミナ型とは、図1の回折格子の断面の拡大図に示すように、複数の凸部の凹凸方向の断面の形状が矩型形状である回折格子のことである。
【0069】
なお、図1では、最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期aにおける凹凸の比率が、同じ割合のように示されているが、これらの割合は任意であっても良い。なお、凹凸の比率は1:1が好ましい。但し、角運動量光が作成可能な範囲であれば良く、好ましくは0.2〜0.8:0.8〜0.2、より好ましくは0.4〜0.6:0.6〜0.4である。
【0070】
また、反射型回折格子ホログラム2の凹凸部の形状のその他の例としては、凸部及び凹部の凹凸方向の断面の形状が、格子周期aと同一の周期を持つサインカーブに沿うように形成されているものや、のこぎり波状の形状のものが考えられる。なお、この断面の形状がサインカーブに沿うように形成されている場合には、出射波は解析的に1次の波だけになるので、0次の回折波(反射波)や2次などの他の回折波が抑制されて、効率よく1次の回折波を得ることができる。なお、上記のようなサインカーブの他、厳密なサインカーブでなくても良く、また、サインカーブに近い曲線に沿っている場合にも、同様な効果を発揮させることが可能である。
【0071】
次に、複数の凹凸部の形状は、いわゆるフォーク型と呼ばれる形状となっており、これにより反射型回折格子ホログラム2に通常の平面波を入射させれば、軌道角運動量を持ったX線を回折波として発生させることができる。なお、フォーク型の回折格子の複数の凸部及び凹部の形状は、回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面(ラゲール・ガウシアンビームの波面)に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状を形成すれば良い。
【0072】
詳細は後で説明するが、複数の凸部及び凹部の形状を、前記回折波の波長を、前記格子周期と前記回折波の出射角の正弦との積に等しい長さに伸ばしたときの波の波面の回転中心軸から該波面に沿って延びる半直線と入射面との交わりが描く軌跡に沿って形成させれば良い。このフォーク型の回折格子に、通常の平面波を入射させれば、軌道角運動量を持った回折波を発生させることができる。
【0073】
反射型回折格子ホログラム2の入射面は、いわゆるトロイダル面を形成している場合もあれば、球面を形成している場合も、また平面である場合もある。ここで、図2(a)・図2(b)を用いてまず、ローランド円と曲率半径との関係を説明し、次に球面とトロイダル面との関係について説明する。
【0074】
図2(a)の破線で示すように、点Oを中心とするローランド円は、入射波の光源であるX線源1が置かれる位置であるA点、反射型回折格子ホログラム2の入射面上における入射波のX線の進行方向の直線と、回折波の進行方向の直線との交点及び回折波が収束する点Bに位置する集光点3とを含んで描かれる円周で囲まれる円である。
【0075】
また、X線集光システム10においては、図2(a)に示すように、ローランド円を含む平面内の反射型回折格子ホログラム2の入射面の曲率半径が、該ローランド円の直径と等しくなっている。なお、図2(a)では、ローランド円の直径(曲率半径)を半径とする半円を描いている。
【0076】
以上のようなローランド円に沿った配置を採用し、反射型回折格子ホログラム2の入射面の形状を調整すれば、X線源1から回折格子の入射面を見込む立体角の範囲内のX線から、反射型回折格子ホログラム2で回折させることによって生じた軌道角運動量X線を効率良く集光点3に集光させることができる。なお、X線集光システム10には、本実施の形態において説明する回折格子ホログラム2のいずれの形態を使用することも可能である。
【0077】
反射型回折格子ホログラム2の入射面の形状を決定する曲率半径としては、ローランド円を含む平面内の第1の曲率半径と、ローランド円と直交する平面内の第2の曲率半径とが考えられる。ここで、第2の曲率半径は垂直半径と呼ばれ、図2(b)にその曲率中心Oと垂直半径との関係を示している。なお、第1の曲率半径はここでは図示していない。
【0078】
なお、第1の曲率半径は、常に、ローランド円の半径の2倍すなわち、ローランド円の直径に等しい。また、第2の曲率半径(垂直半径)は、必ずしも、ローランド円の直径に等しくなくても良く、点Aと点Bとの位置関係によって決まるが、図1に示すrとrとが等しく、αとβが等しい場合には、rcosβとなる。
【0079】
ここで、球面とトロイダル面との関係について説明する。第1の曲率半径がローランド円の直径に等しく、第2の曲率半径がローランド円の直径に等しい場合が球面である。この場合第1の曲率半径=第2の曲率半径となる。反射型回折格子ホログラム2の入射面の形状を球面とした場合には、回折光を集光点3に効率良く収束させることができ、球面であるため加工が容易である。
【0080】
一方、前記第1の曲率半径が、ローランド円の直径に等しく、第2の曲率半径がローランド円の直径と異なる場合がトロイダル面である。この場合、発散型のX線源1であっても、ローランド円の円周方向及びローランド円に垂直な方向の両方について光を集光点3に収束させるよう調整できるので、上記球面の場合と比較して収束効率がさらに良い。
【0081】
なお、ここでは、反射型回折格子ホログラム2の入射面がトロイダル面を形成している場合について説明するが、このような入射面に限られず、さまざまな入射面の形状を必要に応じて採用することが可能である。なお、なお、集光効率の観点からは、回転楕円面として、入射面が形成されていることが、より好ましい。
【0082】
なお、集光の基本は上記のものであるが、本実施の形態の反射型回折格子ホログラム10と他の光学素子を組み合わせて、上記とは異なる配置で集光することも可能であり、その場合も本発明の範疇に含まれるものである。
【0083】
反射型回折格子ホログラム2の回折条件は、入射波と回折波との重ね合わせによって生じるうなりの間隔の整数倍と、格子周期aとが等しいという条件であるとしても良い。これにより、格子周期aが回折波の波長と比較してかなり大きい場合でも所望の回折波を再生できる。
【0084】
また、回折条件は、格子周期aの中に入る回折波の波の数が1よりも大きい整数であるという条件であるとしても良い。このとき、格子周期aを製作が容易な大きさとして、出射角βを調整すれば、格子周期の中に入る波の数が1と異なっていても所望の回折波を再生できる。以上のどちらか一方の回折条件を満たせば、回折格子の拡大化が可能であり、容易に作成することができる。
【0085】
格子深さd(ラミナ型の場合はラミナ深さとも言う。以下同様の説明は省略する。)は、入射面側の凸部と凹部との高さの差(凹部の最下部と凸部の最上部との差)であり、格子深さdを調整すれば0次の反射波を弱める又は完全に消すことができる。例えば、複数の凸部からの反射波と複数の凹部からの反射波との位相が180度異なるように、格子の深さdを決定することが好ましい。このとき、両反射波が干渉すると、波の重ね合わせの原理により、互いに打ち消し合うので、0次の反射波を完全に消すことが可能である。よって、±1次の回折光の割合を0次の回折光(反射波)の割合よりも大きくして、角運動量を持ったX線を効率よく得ることができる。
【0086】
集光点3は、反射型回折格子ホログラム2による回折波が収束する点であり、図1では、この点の位置をB点としている。この集光点3に、特定の試料を置けば、該試料に角運動量を持ったX線を照射させることができる。試料に角運動量を持ったX線を照射させることによって、該試料の磁性や原子配列などの物性を解析する方法については従来から用いられている方法を用いれば良い。
【0087】
ここで、下記の表1に基づき、紫外光を用いて反射型回折格子ホログラム2を作成する場合の格子周期aなどのパラメータの具体例について説明する。本例では、X線源1としてAlKαX線(エネルギー1486.7eV、波長0.8340nm)を用いた場合について説明する。なお、各パラメータは下記の表1の数値に限られるものではなく、目的に合わせて適宜設定することができる。
【0088】
反射型回折格子ホログラム2としてラミナ型かつトロイダル型であるもの用いると、A点に実験室におけるX線源のように発散するX線を置いて、B点にある試料に回折波を収束して照射させることができる。パラメータは表1のようになる。
【0089】
【表1】

【0090】
ここで、表1に示されているパラメータのそれぞれについて説明する。X線源1と反射型回折格子ホログラム2とは十分な距離が採られているものとする。すると、反射型回折格子ホログラム2の中心(原点Oとする)付近では、発散するX線は平面波として考えることができる。この平面波の進行方向を反射型回折格子ホログラム2の中心に合わせることにする。
【0091】
まず、点Aと原点Oとの距離rは235mmに設定し、X線を反射型回折格子ホログラム2の入射面に入射角αで入射させた場合を考える。さらに、X線は出射角βで回折し、回折波である角運動量を持ったX線が集光点3で収束するものとする。
【0092】
表1では、集光点3の位置である点Bと原点Oとの距離rは235mmに設定し、rに等しくなっている。しかし、このような場合に限られず、上記のローランド円の条件さえ満たしていれば、r及びrはどのような値に設定しても良い。
【0093】
また、表1に示すように、X線が入射される入射角αを70度とした場合、角運動量が、
【0094】
【数4】

【0095】
のX線が回折波として出射される出射角βは、69.67度である。なお、
【0096】
【数5】

【0097】
は、プランク定数をh=6.626176×1034(Js:Jはエネルギーの単位であり、sは時間の単位で秒である。)とすると、h/(2π)で表される量である。
【0098】
一方、角運動量が1のX線が回折波として出射される出射角βは、70.34度である。よって、角運動量が1のX線と、−1のX線との開き角は、0.67度である。
【0099】
紫外線を用いて反射型回折格子ホログラム2を作成する場合の刻線数は1mmあたり2400本が限界であるので、この刻線数としたときの格子周期は417nmであり、数百ナノメートルのオーダーである。
【0100】
ローランド円を含む平面内の曲率半径(ローランド円面内の曲率半径)は、687.1mmであり、X線集光システム10の大きさは、r+r程度のスペース(470mm)となるので、通常の実験室で、X線集光システム10を使用することができる。垂直半径(ローランド円面垂直曲率半径)は80.37mmであり、ラミナ深さdは0.6096nmである。
【0101】
ここで、X線は通常の物質では透過してしまうため、反射効率を良くするために工夫が必要となる。ここでは、Bragg反射を利用した多層膜を用いる場合について説明する。この多層膜は、質量の大きい原子と質量の小さい原子とが交互に積層されたものである。質量の大きい原子の層と質量の小さい原子の層との間隔である多層膜の間隔はBraggの反射条件を満たす間隔とすれば良い。これにより、X線を効率よく反射させることができる。
【0102】
反射率は、原子の組合せなどによるが、最大で約40%程度である。なお、原子力研究所の小池雅人氏が開発した軟X線用の回折格子にタングステン原子と炭素原子とを交互に積層させた多層膜をコーティングしたもので、回折効率がエネルギー8keVで37%という結果が出ている(非特許文献2参照)。なお、本例では、シリコンとタングステンとを積層したものを用いている。なお、原子の例としては、この他カルシウム原子、タンタル原子など様々な原子を採用することができる。表1の例では、多層膜の間隔は1.219nmに設定している。
【0103】
次に、表1とは別の例を表2に示す。
【0104】
【表2】

【0105】
まず、距離rは500mmに、距離rは500mmに、設定している。表2に示すように、入射角αを80度とした場合、角運動量が−1であるX線が回折波として出射される出射角βは、79.52度であり、角運動量が1のX線が回折波として出射される出射角βは、80.50度となっている。よって、角運動量が1のX線と、−1のX線との開き角は、0.98度である。
【0106】
なお、従来の透過型のフォーク型回折格子では、格子周期aが同じであれば約0.09度程度である。そうすると、反射型回折格子ホログラム2では、従来の透過型の回折格子と比較して、符号の異なる回折波(角運動量が+1と−1の回折波など)の分離が容易である。刻線数は1mmあたり1200本であり、この刻線数としたときの格子周期は833nmである。
【0107】
ローランド円を含む平面内の曲率半径は、2879.4mmであり、垂直半径は86.82mmであり、ラミナ深さdは1.785nmである。表2の例では、多層膜の間隔は3.57nmに設定している。
【0108】
以上により、軌道角運動量を持ったX線を回折波として発生させることができ、不要な0次の光を弱める又は完全に消すことができ、回折波の出射方向を容易に変えることができ、さらに、回折格子の拡大化が可能で、作成が容易な反射型回折格子ホログラム2及び反射型回折格子ホログラム2を含むX線集光システム10を提供することができる。
【0109】
〔2.フォーク型の回折格子について〕
可視光の場合に、フォーク型の回折格子を用いれば、軌道角運動量を持った回折波が得られることは、従来から知られている。そこで、図3(a)〜図3(d)に基づき、フォーク型の回折格子の構造の概要について説明する。図3(a)〜図3(d)は、フォーク型回折格子の刻線の描く模様をコンピュータを用いてシミュレートしたものである。なお、この計算方法等の詳細については、後述する。
【0110】
図3(a)は、1次の回折光の角運動量が±1の場合の刻線の様子を示す図であり、図3(b)は、1次の回折光の角運動量が±2の場合の刻線の様子を示す図であり、図3(c)は、1次の回折光の角運動量が±3の場合の刻線の様子を示す図であり、図3(d)は、1次の回折光の角運動量が±4の場合の刻線の様子を示す図である。なお、ここでは、簡単のため、初期位相φは、0度としている。
【0111】
通常の回折格子は、複数の刻線同士は互いに平行な直線である。また、この回折格子の複数の凹凸部は、これらの刻線に沿って形成されるので、互いに平行に、凹凸方向に並んだ形状となる。
【0112】
一方、フォーク型の回折格子の複数の刻線が描く曲線は、図3(a)〜図3(d)に示されるように、中央付近で変曲し、中央付近から離れるにつれて平行線に近づいていく模様を形成している。
【0113】
図3(a)〜図3(d)に示されるように、フォーク型の回折格子の刻線は、タンジェントカーブのような複数の曲線が、ほぼ左右対称に並んだものとなっている。
【0114】
図3(a)の刻線の模様は、軌道角運動量が±1の場合に対応しており、上下の刻線数の差が1本であることが特徴である。なお、軌道角運動量が±m(mは整数)のものは、この本数の差がm本となる。例えば、角運動量が±2のものは、上下の刻線数の差が2本であり、図3(b)に示すような模様である。同様に、角運動量が±3及び±4のものは、上下の刻線数の差がそれぞれ、3及び4本であり、図3(c)・図3(d)に示すような模様である。これらの刻線の描く模様がフォークに類似していることから、図3(a)〜図3(d)の回折格子は、フォーク型回折格子と呼ばれている。また、反射型回折格子ホログラム2の複数の凹部及び凸部の形状は、上記の複数の刻線に沿うように形成させれば良い。
【0115】
〔3.フォーク型の回折格子の刻線が描く曲線の理論計算について〕
次に、フォーク型の回折格子の刻線が描く曲線を理論的な計算を行なって導出する。まず、図4(a)・図4(b)に基づき、±1及び±2の大きさの軌道角運動量を持つ回折波(以下「角運動量光」と呼ぶ場合がある)の波面の特徴について説明する。なお、入射光は図示されていないが、入射角0度でZ軸の上方から入射しており、xy平面上では位相が等しく、0度であるとしている。
【0116】
角運動量がmである角運動量光は、図4(c)のように螺旋階段のように位相が回転しながら進む波であり、出射角βでxy平面から上向きに進んでいるとする。図は、m=2の場合を示している。この螺旋階段のように位相が回転しながら進む波は、LGビーム(ラゲールガウシアンビーム)又は渦波と呼ばれ、下記の式(1)のような関数で表される光波である。
【0117】
【数6】

【0118】
・・・・・・・・・(1)
ここで、
【0119】
【数7】

【0120】
は、波の進行方向を示す波数ベクトルであり、その大きさをkとし、角運動量光の波長をλとするとk=2π/λで与えられる。
【0121】
【数8】

【0122】
・・・・・・・・・・・(2)
は、変位ベクトルであり、波面上の点を示している。
【0123】
さらに、φは図4(c)のy軸に平行な線から測ったPQの角の大きさであり、点Qは渦波の中心軸上の点である。なお、ここでは、初期位相をφとしている。また、点Rはx軸上の点であり、角OQR=90度を満足する点である。さらに、点Pは渦波の軸上の点である点Qから、波面に沿って半直線を引いたときに該半直線とxy平面とが交わる点であり、この点Pの描く軌跡が、フォーク型の回折格子の刻線を描く。
【0124】
次に、フォーク型の回折格子の刻線がどのような曲線を描くかについて説明する。P(x,y)点のxとyの関係を考える。(1)式が最大値1を取るのは、nを任意の整数とすると、括弧の中が2nπになったときである。その時のφをφとし、φとrとの関係を求める。
【0125】
【数9】

【0126】
・・・・・・・・・・(4)
【0127】
【数10】

【0128】
・・・(5)
なお、ここで、βは角運動量光の出射角である。
【0129】
rが一定の断面で考えると、(3)式が最大値1を取るφの値はm個あることが分かる。例えばr=0のとき
【0130】
【数11】

【0131】
・・・・・・・・・・・・(6)
となり、2πの中にm個あることが分かる。rの変化とともに、最大値を取るφは図4(c)のように回転する。これらをつなげると、m重の螺旋になる。m=2、φ=0の場合が図4(c)に示されている。同じφの時のxの間隔を考える。
【0132】
(4)式から
【0133】
【数12】

【0134】
・・・・・・・・・(7)
n番目のxをxとし、xn−1との差をΔxとすると、この間隔Δxが波の周期に相当する。
【0135】
【数13】

【0136】
・・・・・・・・・・・(8)
つまり、φが同じ時のxの間隔は
【0137】
【数14】

【0138】
・・・・・・・・・・・(9)
である。βは90°に近いので、刻線の間隔はほぼ波長の長さになる。Q点からφ方向に伸ばした線がxy平面と交わる点 P(x,y)のxとyの関係式を求める。
【0139】
まずnとxを決め、(5)式からφ を求め、それをφ=2π+φ’と表す。xが正のときπ<φ’<2π、xが負のとき0<φ’<πの範囲に入っていれば交点が存在する。図4より、xが負の場合、次式で表される。
【0140】
【数15】

【0141】
・・・・・・・・・・(10)
xが正の場合、次式で表される。
【0142】
【数16】

【0143】
・・・・・・・・・・(11)
つまり、xが正の場合も負の場合も同じ式で表すことができる。結局、次のようになる。
【0144】
【数17】

【0145】
ここで、
【0146】
【数18】

【0147】
・・・(12)
である。
【0148】
曲線の引き方をまとめると次のようになる。まず、nとxを求める。次に、(5)式からφを求め、それをφ=2π+φ’と表す。さらに、xが正のときπ<φ’<2π、xが負のとき0<φ’<πの範囲に入っていれば、(12)式を用いてyを求める。このようにして求めた(x,y)の点をつないでいく。
【0149】
電子線による直接描画法で作ることができる精度は数10nmであり、100nmの間隔のものは作成が容易である。軟X線の波長領域ではλは1nmのオーダーであるので、入射光は直入射(入射角90度)で、出射光はβが0.5度程度なら回折条件を満足する。
【0150】
〔4.回折条件と格子周期との関係について〕
次に、図5の(a)部分〜図5の(c)部分に基づき、反射型の回折格子の回折条件と格子周期との関係について説明する。なお、反射型の回折格子としての角運動量光を生成する回折格子の凹凸部の形状のパターンは、図3(a)〜図3(d)で示した模様の刻線に沿ったものであるが、刻線間隔(格子周期)は、紫外線露光によって作成が容易な400nm程度で作成する。
【0151】
回折波の出る方向は、回折格子の回折条件で決められており、aを格子周期とする。また、αを入射波の入射角とし、βを回折波の出射角とし、λを入射波及び回折波の波長であるとする。また、nは任意の整数値をとるものとする。そうすると、
【0152】
【数19】

【0153】
・・・・・・・・・・・(13)
で表される。
【0154】
ラミナの深さdの値は、鏡面反射光(0次光)を弱くする(計算上はゼロになる)という次の条件で求められる。
【0155】
【数20】

【0156】
n=0のとき、d=λ/(4cosα)となる。
軟X線の場合にはαとβとはほぼ等しいため、aの値は波長の500倍程度に大きくなり、回折格子の刻線を形成する溝には波の山が数百個程度入るために、通常の波面再生の解釈では理解することができない。以下では、反射型の回折格子の場合においては、回折条件が満たされていれば、回折波の波面再生の条件も満たされていることを証明する。
【0157】
なお、上記の回折条件は、入射波と回折波との重ね合わせによって生じるうなりの間隔の整数倍と、入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期とが等しいという条件であるとしても良い。
【0158】
また、別の観点からみれば、格子周期の中に入る、回折波の波の数が1よりも大きい整数であるという条件であるとしても良い。
【0159】
図5の(a)部分のように、紙面内で光波Ψが入射角αで入射して、光波Ψが出射角βで反射する場合を考える。それぞれの光波の波長は共にλであるとする。
【0160】
図5の(c)部分には、反射型回折格子ホログラム2が、ラミナ型の回折格子である場合を示している。この反射型回折格子ホログラム2の格子周期はaとする。図5の(a)部分〜図5の(c)部分のようにx軸とz軸とをとると、反射型回折格子ホログラム2の凹部はy方向に伸びている。光波Ψの波数ベクトルを、
【0161】
【数21】

【0162】
とし、次のようにx成分とz成分に分解する。
【0163】
【数22】

【0164】
・・・・・・・・(14)
z=0の平面で考えると、次のようになる。
【0165】
【数23】

【0166】
・・・・・・・・・(15)
ここで、αは入射角であり、kを波数ベクトルの大きさとしてk=ksinαが満たされることを用いた。この関数は、図5の(a)部分の破線で示した曲線で表されている。同様に、光波Ψは、z=0の平面では次のようになる。
【0167】
【数24】

【0168】
・・・・・・・・・・・(16)
この関数は、図5の(a)部分の実線で示した曲線で表されている。次に、光波Ψを回折格子に照射しただけで、(16)式のΨの関数で示される波が再生されることを証明する。
【0169】
この回折格子は、凸部(y=−a/4+maからy=a/4+maまで、mは整数)は反射するときに入射波と反射波との位相のずれはないが、凹部(y=a/4+maからy=3a/4+maまで、mは整数)は反射するときに入射波と反射波との位相のずれがπ(180度)だけあるものとする。
【0170】
このような回折格子は、反射型では多層膜などで、透過型では材質と厚さを選ぶことによって作成することができる。
【0171】
なお、上記のような構成としたのは、凸部と凹部とを反射する1次の回折波の位相をなるべく正確に再現するためであり、同時に0次の回折波(反射波)を打ち消し、計算結果に0次の反射波が出てこないようにするためである。ラミナ型の回折格子の場合は図5の(c)部分に示す格子の深さdを、凸部と凹部とを反射する光波の位相差が180度となるように調整しても良い。
【0172】
すると、回折波Ψの関数は次のように近似できる。
【0173】
【数25】

【0174】
・・・・・・・・・(17)
【0175】
【数26】

【0176】
の項は、図5の(c)部分に示すラミナ型の回折格子の断面の形状である矩型形状の線の関数を太い実線で示すサインカーブで近似したものである。
【0177】
(17)式を3角関数の公式を用いて変形して、
【0178】
【数27】

【0179】
・・・(18)
ここで、(13)式を変形して、
【0180】
【数28】

【0181】
・・・・・・・・・・・・(19)
より、(18)式は、
【0182】
【数29】

【0183】
・・・・・(20)
なお、sinβn=−1は、n=−1のときのsinβを示している(以下同様の説明は、省略する。)
となって、+1次と−1次の回折波の波面が再生されていることが証明された。
【0184】
次に、回折格子とホログラムとの関係について説明する。図5の(a)部分の2つの波である光波Ψと光波Ψとを重ね合わせたものが図5の(b)部分である。波長の少し違う波が干渉して、唸りが生じていることがわかる。なお、便宜上、図5の(b)部分の唸りでは、唸りの振動の中に振幅の小さい波が、7つ存在している図となっているが、実際は、振幅の小さい波が数百程度存在する場合を想定している。
【0185】
唸りの周期はa/2である。ホログラムは、この唸りの中の振幅の小さい波の波形をそのまま記録するものであるから、波長が短い軟X線の時には1nm以下の精度で加工する必要があり、現在の技術では不可能である。
【0186】
図5の(b)部分では、唸りの中の振幅の小さい波の位相が、隣り合う唸りでは反転していることがわかる。この唸りの関数は、図5の(c)部分の周波数の大きいサインカーブ(細い実線の曲線)と周波数の小さいサインカーブ(太い実線の曲線)とを掛け合わせたものになっている。
【0187】
この結果は、(17)式の近似式と同じ結果となっている。すなわち、位相反転の回折格子を用いることで、図5の(c)部分の周波数の小さいサインカーブの周期のオーダーの格子周期で、実質的にホログラムを作成することが可能であることを示している。そうすると、回折格子の間隔は、μmのオーダーとすることができるので、通常の紫外光で作成でき、従来の技術で作成可能である。
【0188】
角運動量光作成のための反射型の回折格子のパターンは、図3(a)〜図3(d)で示したものと同じもので格子周期が約500倍ほど大きいものであるため、yが正の領域と負の領域とにおける刻線の直線からのずれも波長の500倍ほど大きいものである。
【0189】
角運動量光の波面が再生されるためには、波面のずれが位相としては−π/2からπ/2程度、xの値は波長の−1/4から1/4まで程度変化することが必要であり、格子周期の変化よりも500分の1程度に小さい変化である。
【0190】
このような小さな位相の変化が、格子周期が波長の500倍ほど大きい回折格子の凹凸の形状のパターンでも可能であることを示す。
【0191】
刻線のずれを、格子周期を2πとしたときの位相のずれφとして表す。すなわち、刻線のずれをΔとすると、
【0192】
【数30】

【0193】
・・・・・・・・・・・(21)
(17)式の右側の余弦のカッコ内を次のように書いて、反射波の関数を計算すると、
【0194】
【数31】

【0195】
・・・・・・・(22)
【0196】
【数32】

【0197】
・・・(23)
(19)式より、(23)式は、
【0198】
【数33】

【0199】
・・・(24)
となって、+1次と−1次の波面が、位相φだけずれることが証明された。すなわち、格子周期の変化よりも500分の1程度に小さい変化を与えることが可能であることが証明された。
【0200】
以上により、反射型の回折格子によって、角運動量光の波面を再生することができ、通常のX線管から放出されるような発散型のX線でも、効率良く試料上に収束する角運動量光を作成できることが示された。
【0201】
なお、本発明は、上述したX線集光システムの例に限定されるものではなく、本発明を実施するための最良の形態の欄で説明した技術的手段の範囲内で種々の変更が可能であり、各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0202】
本発明は、軌道角運動量を持つX線を物質に照射させて通常のX線では得られない磁性状態や原子配列の立体像を得ることにより物質の構造を解析する構造解析の分野、及び物質の磁性状態などを解析する物性解析の分野の他、軌道角運動量を持つX線を利用することができる技術分野であればどのような分野であっても一般に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0203】
【図1】本発明におけるX線集光システムの実施の一形態を示す概要図である。
【図2】(a)は、本発明の反射型回折格子ホログラムに関するローランド円及び曲率半径について説明するための概要図であり、(b)はトロイダル面について説明するための概要図である。
【図3】(a)は、本発明の反射型回折格子ホログラムにおける1次の回折光の角運動量が±1の場合の刻線の様子を示す図であり、(b)は、1次の回折光の角運動量が±2の場合の刻線の様子を示す図であり、(c)は、1次の回折光の角運動量が±3の場合の刻線の様子を示す図であり、(d)は、1次の回折光の角運動量が±4の場合の刻線の様子を示す図である。
【図4】(a)は、角運動量が1である回折波の波面の様子を示す図であり、(b)は、角運動量が2である回折波の波面の様子を示す図である。(c)は、角運動量が2である回折波の波面に基づいて回折格子の刻線が描かれる様子を示す図である。
【図5】上記反射型回折格子ホログラムの格子周期と回折条件との関係を説明するための図である。
【図6】従来の透過型の回折格子の概要を説明するための概要図である。
【符号の説明】
【0204】
1 X線源
2 反射型回折格子ホログラム
3 集光点
10 X線集光システム
a 格子周期
d 格子の深さ
α 入射角
β 出射角
λ 波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、
前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期が入射波と回折波の波長の2倍よりも大きく、かつ前記回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、
前記入射波を反射させることを特徴とする反射型回折格子ホログラム。
【請求項2】
前記複数の凸部及び凹部の形状が、前記回折波の波長を、前記格子周期と前記回折波の出射角の正弦との積に等しい長さに伸ばしたときの波の波面の回転中心軸から該波面に沿って延びる半直線と前記入射面との交わりが描く軌跡に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型回折格子ホログラム。
【請求項3】
前記複数の凸部の凹凸方向の断面の形状が矩型形状であるラミナ型であることを特徴とする請求項1に記載の反射型回折格子ホログラム。
【請求項4】
前記複数の凸部からの反射波と前記複数の凹部からの反射波との位相が180度異なるように、前記凸部と凹部との高さの差である格子の深さが決定されていることを特徴とする請求項3に記載の反射型回折格子ホログラム。
【請求項5】
前記凸部及び凹部の凹凸方向の断面の形状が、前記格子周期と同一の周期を持つサインカーブに沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型回折格子ホログラム。
【請求項6】
前記入射波がBraggの反射条件を満たす間隔で、質量の大きい原子と質量の小さい原子とが交互に積層された多層膜が入射面側に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型回折格子ホログラム。
【請求項7】
入射波の光源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径と、
該ローランド円と直交する平面内の曲率半径とが、該ローランド円の直径と等しい球面として、入射面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型回折格子ホログラム。
【請求項8】
入射波の光源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径と等しく、
該ローランド円と直交する平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径とは異なるトロイダル面として、入射面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型回折格子ホログラム。
【請求項9】
入射波の光源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径と等しく、
該ローランド円と直交する平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径とは異なる回転楕円面として、入射面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型回折格子ホログラム。
【請求項10】
入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、
前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期の中に入る回折波の波の数が1よりも大きい整数であり、かつ前記回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、前記入射波を反射させることを特徴とする反射型回折格子ホログラム。
【請求項11】
入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、
前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期aが、入射波と反射波の波長の2倍よりも大きく、
該回折波が、前記入射面をXY平面とするXYZ直交座標系における原点Oから、XZ平面上を進行方向とし、初期位相φ0、出射角β、及び波数k(=2π/asinβ)で、出射したと仮定した場合において、
前記複数の凸部及び凹部の形状が、回折波の波長をasinβに伸ばしたときの波の波面の回転中心軸から該波面に沿って延びる半直線と前記入射面との交わりが描く軌跡に沿って形成されていると共に、
前記軌跡が、m(m≠0)及びnを整数として、次式(1)
【数1】

・・・(1)
を満たすような点P(x,y)の描く軌跡であり、
前記入射波を反射させることを特徴とする反射型回折格子ホログラム。
【請求項12】
入射波の光源としてX線を発生するX線源と、前記入射波の入射により回折波を生じさせるための回折格子ホログラムとを備えるX線集光システムであって、
前記回折格子ホログラムは、前記入射波の入射面側に複数の凸部と凹部とが交互に規則的に配列されており、
前記入射面側における最近接の凸部間の間隔と凹部間の間隔との和である格子周期が入射波と反射波の波長の2倍よりも大きく、かつ前記回折波が軌道角運動量を持つ場合の波面に基づいて、前記複数の凸部及び凹部の形状が形成されており、
前記入射波を反射させる反射型の回折格子ホログラムであり、
前記X線源が置かれる位置、回折波が収束する集光点、及び前記回折格子ホログラムの入射面上における前記入射波の進行方向の直線と、前記回折波の進行方向の直線との交点を含んで円周が描かれるローランド円を含む平面内の曲率半径が、該ローランド円の直径と等しいことを特徴とするX線集光システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−216602(P2008−216602A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53492(P2007−53492)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】