説明

反射電子線検出装置

【課題】反射電子線検出装置において、結晶粒界とその方位情報を得る他に、磁性材料解析機能や、特定結晶方位の分布検査機能を付加し、より広範な解析を行うことがでるようにする。
【解決手段】操作部14を使ったオペレータの操作により、解析情報の取得領域が電子線照射軸に対して垂直とされたとき、システム制御部15の制御に基づいて、前記電子線像における前記取得領域の縦方向に画素の輝度を積算し、解析情報として試料の磁区パターン情報を得、システム制御部15に送る。システム制御部15は、前記磁区パターン情報に応じた画像を表示部13に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性の試料に照射した電子線が試料中で散乱/回折を受けて試料外部に反射して形成した画像から試料の解析情報を取得する反射電子線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料特性の評価には、構成元素だけでない結晶粒の大きさや形状およびその結晶方位などの組織構造の解析が必要とされる。後方散乱電子線回折(EBSD)法は、結晶性の試料に走査型電子顕微鏡(SEM)等で電子線を照射した際に、電子線が試料中で散乱/回折を受け後方散乱し、この際に電子線回折像としていわゆる菊池パターンを形成する現象である。この方法は、0.2μm程度、またはそれ以下の領域から情報を得ることができ、X線分析と組み合わせることにより、分析中の物質をより正確に特定することを可能とする。この方法は、結晶性材料の方位や粒界の結晶学的な解析に使用することができる。
【0003】
下記特許文献1には、露出した半導体膜の表面に電子線を照射し、EBSD法により結晶方位を測定する技術が開示されている。
【0004】
ところで、磁性材料の磁区の解析において、磁性材料の磁束密度や磁気応答の評価に方向性磁性材料の面内磁区や磁壁の観察が行われる。また、磁気記録材料の評価に1軸異方性磁性材料の垂直軸の観察が行われる。
【0005】
下記特許文献2には、走査型電子顕微鏡(SEM)により、回転磁化過程での磁区挙動の観察に関する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−5857号公報
【特許文献2】特開平5−34427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記EBSDは、結晶粒界とその方位情報は得られるが磁区の情報は得られなかった。磁区情報を得るための専用の装置によれば磁区の情報を得ることはできるが、本来は結晶性材料の方位や粒界の結晶学的な解析に使用する前記EBSDに、前記磁区情報の検査機能を付加することによるユーザ側のコストダウンの効果は大きいはずである。
【0008】
また、前記EBSDにより結晶材料の方位を解析する場合、Hough変換(米国特許第3069654号 1962年)を使用して電子線の回折線(菊池バンド)を検出する。Hough変換は式ρ=x×cosθ+y×sinθに、取得した画像上の位置x、yを代入し、θを0〜180°の範囲で1°づつ変化させたときのρの値を求めてx,y座標における画像情報をHough空間座標(θ,ρ)に変換する。これを最大xのy倍計算する。このように時間のかかる処理を行っていた。
【0009】
ところで、最近では、解析の目的として、ある特定の方位の分布を高速に得たいという要求が品質管理の現場から出てきた。結晶材料の方位を全て解析するのではなく、同一結晶方位を持つ粒界の分布を品質管理の対象とするような場合である。
【0010】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、本来は結晶粒界とその方位情報を得るための反射電子線検出装置に、磁性材料解析機能や、特定結晶方位の分布検査機能を付加し、より広範な解析を行うことができる反射電子線検出装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するために、本発明に係る反射電子線検出装置は、試料に電子線を照射する電子線照射手段と、前記電子線照射手段から照射された電子線を試料上で2次元的に走査する手段と、前記電子線照射手段から照射された電子線が前記試料に入射する角度を調節可能にするために前記試料を傾斜して保持する保持手段と、前記保持手段によって保持された試料から反射された電子の強度コントラストを表す電子線像を撮影する撮像手段と、前記撮像手段によって撮影された電子線像に各種解析処理を施す解析処理手段と、前記解析処理手段によって各種解析処理が施された解析データを画像化して表示する表示手段と、前記表示手段に表示された電子線像上で試料の解析情報の取得領域を指定するために使われる操作手段と、前記操作手段を使った操作によって前記電子線像上に指定された解析情報の取得領域について、前記解析処理手段に前記取得領域中の各画素の輝度を積算させ、積算された輝度を前記試料上の電子線照射位置に対応して画像化する制御手段とを備える。
【0012】
前記操作手段は、前記取得領域として前記表示手段において磁区の分布のコントラストが最も良く得られる部分を任意に設定でき、前記制御手段は、前記解析情報として試料の磁区コントラスト情報から得られる磁区分布を画像化することが好ましい。
【0013】
前記操作手段は前記取得領域を前記電子線像の特定回折線に沿って設け、前記制御手段は前記解析情報として同一の結晶方位を持つ粒界の結晶方位を画像化することが好ましい。
【0014】
前記撮像手段は、半導体2次元撮像素子または蛍光体に投影された電子線像を半導体2次元撮像素子で電気信号として取得することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る反射電子線検出装置によれば、本来は結晶粒界とその方位情報を得るための反射電子線検出装置に、磁性材料解析機能や、特定結晶方位の分布検査機能を付加し、より広範な解析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。この実施の形態は、後方散乱電子線回折(EBSD)法により、電子線回折像を得る反射電子線検出装置である。この反射電子線検出装置は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、試料中で電子線が散乱/回折を受けて試料から後方散乱された電子線により形成される画像から解析情報を取得するものである。
【0017】
結晶材料に入射した電子線は出射するときに結晶面方位によってその強度の空間分布が異なる。蛍光体を設置して取得した二次元像において、結晶格子面に応じて輝度の高い直線、いわゆる菊池パターンが現れる。同一結晶材料において方位が同一の結晶粒界は、対応した菊池パターンの位置は略同一画像上の位置に現れる。従って特定の菊池バンドの出現する領域の画素を積算して表示する事によって高速に特定の面方位を持った粒界分布割合を求める事ができる。
【0018】
磁性材料においては試料の磁気モーメントの方向によって反射電子線強度の空間分布が変わることから、試料上の一定領域を電子線走査し、試料上の電子線照射位置に対応して一定方向の反射電子線強度を輝度に変換して表示すれば表面の磁区構造情報を得ることができる。磁区コントラストが最も大きくなるように二次元電子線検出器の領域の一部を指定して積算し、試料上の電子線照射位置に対応して表示する。均一な材料の反射電子線強度は、電子線の入射方向に対して試料法線対称方向が最も強くなるので、それに相当する二次元検出器上の領域を積算する。このとき、電子線照射軸と同一方向に広い領域を指定すると空間分解能が悪くなり、狭い領域とすると感度が悪くなる。そのバランスを考慮しながら積算領域の指定を行うことになる。
【0019】
図1は、EBSD法に基づいた反射電子線検出装置の構成を示す図である。反射電子線検出装置は、結晶性又は磁性の材料1を傾斜して保持し、かつ保持したまま試料1をx軸−y軸の2次元方向に移動するx−yステージ2と、x−yステージ2によって保持された試料1に電子線を照射する電子線照射部4と、x−yステージ2によって保持された試料1から反射された電子線による電子線回折像を投影する蛍光板9と、蛍光板9に投影された電子線回折像を撮影するCCDカメラ10とを備える。試料1は、真空容器3内でx−yステージ2に保持されている。
【0020】
また、反射電子線検出装置は、CCDカメラ10によって撮影された電子の強度コントラストを表す電子線像に、結晶構造の解析や、磁性材料の磁区観察、特定結晶方位の分布検出等の各種解析処理を施す解析処理部12と、解析処理部12による解析処理で得られた解析データを画像化して表示する表示部13とを備える。
【0021】
また、反射電子線検出装置は、表示部13に表示された画像上で試料の解析情報の取得領域を指定するためにオペレータによって操作される操作部14としてのキーボード14a及びポインティングデバイスであるマウス14bと、操作部14を使ったオペレータの操作によって電子線回折像上に解析情報の取得領域が指定されたときには、解析処理部12に前記取得領域中の画素を積算させ、積算された画素の輝度を前記試料上の電子線照射位置に対応して画像化するシステム制御部15とを備える。ここで、画素の輝度とは、CCDカメラ10の各画素において検出された電子線の強度に対応するものであって、電子線の強度に相当するものであれば輝度に限られない。
【0022】
一般に画像情報はシステム制御部15のメモリに保存され、解析処理ソフトウェアに処理される。
【0023】
また、反射電子線検出装置は、システム制御部15の制御に基づいて電子線照射部4の電子線走査等を制御する顕微鏡制御部16と、x−yステージ2のx−y方向への移動、或いは傾斜角度を制御するステージ制御部17と、CCDカメラ10のフォーカスや絞りなどを制御するカメラ制御部11を備える。
【0024】
さらに、反射電子線検出装置は、エネルギー分散型X線分光(EDS)装置から試料の元素組成情報を得る手段を有し、この分光法により試料から出る蛍光X線又は特性X線の波長やエネルギーの違いを検出する。本実施の形態の反射電子線検出装置では、エネルギー分散型X線分光装置を組み合わせることにより、分析中の物質をより正確に特定することを可能とする。
【0025】
x−yステージ2は、x軸、y軸の2次元方向に移動できる水平移動機構と、z軸方向に移動できる高さ移動機構と、傾斜機構と、回軸機構とを備えている。x−yステージ2は、ステージ制御部17を通じてシステム制御部15により、前記x−yの2次元方向、傾斜が制御される。
【0026】
電子線照射部4は、電子銃5から電子線を発生する。電子線は、集束レンズ6、対物レンズ7によって試料1表面上に細く集束され、走査コイル8によって試料1上で走査される。電子線の照射によって試料1からは、電子線が後方散乱し、この弾性散乱反射電子は蛍光板9に達する。この弾性散乱反射電子線の反射方向は、試料1への電子線の入射方向に対して角度依存性がある。そこで、最適な入射角度となるように、オペレータは操作部14を操作し、前記x−yステージ2により傾斜角度を設定する。
【0027】
蛍光板9は、前記弾性散乱反射電子が到達すると、電子線回折像を投影する。この電子線回折像は、高感度CCDカメラ10で撮影され、得られた電子線回折像信号はカメラ制御部11を介して解析処理部12に送られる。これら蛍光板9及びCCDカメラ10は、回折像を撮影する撮像手段を構成している。
【0028】
システム制御部15は、解析処理部12を兼ねてパーソナルコンピュータが使用される。
【0029】
解析処理部12は、前記電子線回折像信号に対して操作部14を用いたオペレータの操作に基づき、結晶解析処理を施す。結晶解析処理としては、結晶方位測定、粒界抽出、粒界サイズとその分布、粒界方位マップ測定などがある。これらの結晶解析処理は、圧延材料の集合組織の解析、配向性材料の方位解析、再結晶材料の方位や粒界解析、半導体チップ配線材料の方位解析、応力腐食割れの粒界解析、セラミックの粒界解析に応用される。
【0030】
さらに、解析処理部12は、操作部14を使ったオペレータの操作により、解析情報の取得領域が角度依存性に基づいて電子線照射軸に対して垂直とされたとき、システム制御部15の制御に基づいて、前記電子線像における前記取得領域の縦方向に各画素の輝度を積算し、解析情報として試料の磁区パターン情報を得、システム制御部15に送る。システム制御部15は、前記磁区パターン情報に応じた画像を表示部13に表示する。
【0031】
また、解析処理部12は、操作部14を使ったオペレータの操作により、解析情報の取得領域が角度依存性に基づいて前記電子線回折像の特定回折線に合わせられたとき、システム制御部15の制御に応じて、前記電子線回折像の前記取得領域の画素について輝度を積算させ、同一の方位を持つ粒界の分布を得、システム制御部15は、前記特定結晶方位の分布情報に応じた画像を表示部13に表示する。
【0032】
図2は、表示部13上に表示された後方散乱電子線の電子線回折像(電子線回折パターン)を示す。
【0033】
本実施の形態では、電子線照射部4が試料1を電子線で走査し、試料1の各点について電子線回折像を撮像する。試料の結晶構造が既知であることを前提として、電子線回折像の特定回折線と結晶構造の方位との対応関係を利用するものとする。そして、電子線回折像の特定回折線によって各点の結晶構造の方位を求め、この結果を解析処理部12で試料1の表面にマップすることにより、試料1の表面における粒界の結晶方位を求めるものである。
【0034】
図中には、磁区観察時の積算領域A1が示されている。磁性材料においては、磁化の向きによって反射電子線の1次電子線照射軸方向強度は異なるものとなる。この性質を利用すると、試料の各点における反射電子線の強度を測定することで磁区を観察することができる。
【0035】
本実施の形態では、CCDの1次電子線照射軸と垂直方向の1〜数画素を積算領域A1としている。この積算領域A1において、横方向に積算し試料1上の電子線照射位置の強度としている。各点について求めた強度をマップすることにより、試料1の表面における磁区の分布をコントラストとして表示することができる。
【0036】
ここで、積算領域A1は、表示部13において最もコントラストが良く得られる部分を任意に設定することができ、これによって磁区表示のコントラストを高めることができる。
【0037】
また、図中には、結晶材料の特定方位情報取得時の積算領域A2を示す。図のように特定回折線に沿って積算領域A2を設定すると、この積算領域A2の積算値は、試料1の電子線照射点における当該回折線に対応する特定方位の結晶構造に対応することになる。したがって、各点について求めた輝度でマップすることにより、試料1の表面における特定方位の結晶構造の分布を求めることができる。この特定方位の結晶構造の分布によって、結晶の粒界を観察することができる。複数の領域を指定し、各々に異なる色を付けてもよい。
【0038】
本実施の形態の方法によると、方位解析の複雑な計算処理を行わず、試料の各点について積算領域A2を積算するだけで足りるので、特定方向に向いた粒界を高速に抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】反射電子線検出装置の構成を示す図である。
【図2】後方散乱電子線回折パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 試料、2 x−yステージ、4 電子線照射部、9 蛍光板、10 CCDカメラ、12 解析処理部、13 表示部、14 操作部、15 システム制御部、16 顕微鏡制御部、17 ステージ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に電子線を照射する電子線照射手段と、
前記電子線照射手段から照射された電子線を試料上で2次元的に走査する手段と、
前記電子線照射手段から照射された電子線が前記試料に入射する角度を調節可能にするために前記試料を傾斜して保持する保持手段と、
前記保持手段によって保持された試料から反射された電子の強度コントラストを表す電子線像を撮影する撮像手段と、
前記撮像手段によって撮影された電子線像に各種解析処理を施す解析処理手段と、
前記解析処理手段によって各種解析処理が施された解析データを画像化して表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された電子線像上で試料の解析情報の取得領域を指定するために使われる操作手段と、
前記操作手段を使った操作によって前記電子線像上に指定された解析情報の取得領域について、前記解析処理手段に前記取得領域中の各画素の輝度を積算させ、積算された輝度を前記試料上の電子線照射位置に対応して画像化する制御手段と
を備えることを特徴とする反射電子線検出装置。
【請求項2】
前記操作手段は、前記取得領域として前記表示手段において磁区の分布のコントラストが最も良く得られる部分を任意に設定でき、前記制御手段は、前記解析情報として試料の磁区コントラスト情報から得られる磁区分布を画像化することを特徴とする請求項1記載の反射電子線検出装置。
【請求項3】
前記操作手段は前記取得領域を前記電子線像の特定回折線に沿って設け、前記制御手段は前記解析情報として同一の結晶方位を持つ粒界の結晶方位を画像化することを特徴とする請求項1記載の反射電子線検出装置。
【請求項4】
前記撮像手段は、半導体2次元撮像素子または蛍光体に投影された電子線像を半導体2次元撮像素子で電気信号として取得することを特徴とする請求項3又は4記載の反射電子線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−112921(P2006−112921A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300540(P2004−300540)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【出願人】(000232324)日本電子エンジニアリング株式会社 (11)
【Fターム(参考)】