反応処理装置
【課題】温度制御を高精度で行なうことができる反応処理装置を提供すること。
【解決手段】複数の反応領域と、該反応領域ごとに設けられた複数の加熱部と、を備え、前記加熱部は、熱源と、前記加熱部を選択するための走査線と、前記加熱実施時の加熱量情報を前記熱源へ伝達するデータ線と、前記データ線から伝達された前記加熱量情報を取得する書き込み部と、前記走査線が非選択となった後も加熱量情報を記憶しておく保持部と、前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する発熱制御部と、を備える反応処理装置とすること。
【解決手段】複数の反応領域と、該反応領域ごとに設けられた複数の加熱部と、を備え、前記加熱部は、熱源と、前記加熱部を選択するための走査線と、前記加熱実施時の加熱量情報を前記熱源へ伝達するデータ線と、前記データ線から伝達された前記加熱量情報を取得する書き込み部と、前記走査線が非選択となった後も加熱量情報を記憶しておく保持部と、前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する発熱制御部と、を備える反応処理装置とすること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応処理装置に関する。より詳しくは、高精度の温度制御が可能な反応処理装置に関する。
【0002】
温度条件に基づいて反応を制御する必要がある場合には、前記温度条件をより高精度に制御できることが望まれる。液体、固体、気体に関わらず反応を行なう反応処理装置において高精度に温度制御可能であることが望まれる。例えば、遺伝子解析等の技術分野でもこのような要請はある。
【0003】
一例として、遺伝子増幅を行なうPCR法(polymerase chain reaction;ポリメラーゼ連鎖反応)を用いる場合が挙げられる。PCR法は、微量核酸の定量分析の標準的手法ともいえる。
【0004】
PCR法は、「熱変性→プライマーとのアニーリング→ポリメラーゼ伸長反応」という増幅サイクルを連続的に行うことで、DNA等を数十万倍にも増幅させることができる。このようにして得られるPCR増幅産物をリアルタイムでモニタリングして前記微量核酸の定量分析を行うこともできる。
【0005】
しかし、PCR法では前記増幅サイクルを正確に制御することが必要である。そのためには高精度の温度制御が必要となる。温度制御が不十分である場合には、無関係なDNA配列を増幅してしまったり、増幅が全く見られなかったりする。
【0006】
このように、前記した装置等については、いずれも反応処理装置として高精度の熱制御ができることが重要となる。これに関する技術として、特許文献1や特許文献2には前記反応処理装置の温度制御に関する技術が開示されている。また、微小領域の発熱制御として半導体素子等を用いることも行なわれている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−298068号公報。
【特許文献2】特開2004−025426号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の反応処理装置において半導体素子等を用いて温度制御を行なう場合であっても、以下の問題等がある。
【0009】
半導体素子は一般に製造上のばらつきがあるため、各反応領域で同じ温度制御を行なった場合であっても、基板ごとに、あるいは同一基板上であっても加熱部ごとに、加熱量のばらつきが生じてしまう。その結果、反応処理装置としての高精度の温度制御が困難となってしまう。
【0010】
また、半導体素子は、一般に温度によって特性が変化する性質がある。例えば、単結晶シリコンを用いたMOSトランジスタは負の温度特性を持ち、同じ電圧値を印加しても、温度が高くなると流れる電流が減少する。従って、同じ電圧値であっても温度によって加熱量が変化する結果となり、高精度の温度制御が困難となっていた。
【0011】
そこで、本発明は、温度制御を高精度で行なうことができる反応処理装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、単に半導体素子等を熱制御系に用いるといった着想ではなく、熱制御系の回路構造等に着目した。その結果、各ヒートユニットを制御できるアクティブマトリクス構造を熱制御系に取り込むことに着想を得て本発明を完成させた。
まず、本発明は、複数の反応領域と、該反応領域ごとに設けられた複数の加熱部と、を備え、前記加熱部は、熱源と、前記加熱部を選択するための走査線と、前記加熱実施時の加熱量情報を前記熱源へ伝達するデータ線と、前記データ線から伝達された前記加熱量情報を取得する書き込み部と、前記走査線が非選択となった後も加熱量情報を記憶しておく保持部と、前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する発熱制御部と、を備える反応処理装置を提供する。
反応処理装置の反応領域ごとに加熱部を設けることで、個別に加熱制御できる。そして、走査線を選択した瞬間にのみ加熱を実施させるのではなく、発熱させたい夫々の加熱部(ヒートユニット)の発熱量情報を一度書き込んだ後、再び情報を書き換むまで、この発熱量情報を保持させることができる。その結果、加熱が実施される時間が、前記走査線の選択期間という短い時間内に限定されることがなくなるので、加熱動作が容易かつ安定となる。
次に、本発明は、前記データ線から伝達される前記加熱量情報は信号電流であり、前記加熱部は、前記信号電流を電圧レベルに変換する変換部を備え、前記保持部は、前記加熱量情報を前記電圧レベルとして保持し、前記発熱制御部は、前記保持された電圧レベルを電流レベルに変換して発熱を制御する反応処理装置を提供する。
前記加熱量情報を信号電流から電圧レベルに変換することで、前記信号電流を電圧レベルとして前記保持部に一旦記憶させておくことができる。そして、前記電圧レベルを電流レベルへと変換することで、高精度の加熱制御することができる。
そして、本発明は、前記変換部は、ゲートとドレインとを電気的に接続した第1の電界効果トランジスタを備え、前記保持部は、前記第1の電界効果トランジスタに前記信号電流を流すことで発生するゲート・ソース間の電圧を保持するキャパシタを備え、前記発熱制御部は、前記ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を流す第2の電界効果トランジスタを備える反応処理装置を提供する。
前記第1の電界効果トランジスタを用いることで加えられた信号電流に応じて電圧を発生させることができる。そして、前記キャパシタにより前記ゲート・ソース間の電圧を保持させておくことができる。
また、本発明は、前記第1の電界効果トランジスタと、前記第2の電界効果トランジスタと、は同一のトランジスタであり、前記変換部による前記信号電流を前記電圧レベルに変換する変換動作と、前記発熱制御部による前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する制御動作と、を時分割的に行なう反応処理装置を提供する。
前記変換動作と前記制御動作とを時分割的に交互に行なうことで、より正確な加熱量情報を前記発熱制御部の発熱制御系に伝達することができる。その結果、より高精度に加熱量を制御することができる。
更に、本発明は、前記変換部は、前記第1の電界効果トランジスタと、ゲートとドレインとを電気的に接続された第3の電界効果トランジスタとを、含み、 前記第1の電界効果トランジスタのソースと、前記第3の電界効果トランジスタのドレインとを、電気的に接続させた反応処理装置を提供する。
前記第3の電界効果トランジスタを設けることで、駆動電流と信号電流との一致性をより高めることができる。その結果、より正確な加熱量情報を熱源に伝達することができるため、より高精度の加熱制御が可能となる。
そして、本発明は、前記加熱量情報が前記書き込み部により取得された後、次なる加熱量情報が取得されるまでの間に、前記駆動電流を遮断する手段を備える反応処理装置を提供する。
また、本発明は、前記反応領域は遺伝子増幅反応を行なうPCR装置とすることができる。
PCR装置とすることで、遺伝子増幅反応の加熱サイクルを、反応領域ごとに個別かつ高精度に温度制御できる。その結果、各反応領域に充填するサンプルの増幅量を一定倍数に制御することができる。従って、反応領域ごとに個別かつ高精度の温度制御を行なうことができるため、網羅的解析を高精度で行なうことができる。
そして、本発明は、前記反応領域に所定波長の励起光を照射する光学手段と、前記励起光照射により発生する蛍光を検出する蛍光検出部と、を備えるPCR装置とすることができる。
前記PCR装置に、更に光学手段と蛍光検出部を備えることで、前記遺伝子増幅反応をリアルタイムに解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明に係る反応処理装置の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
図1は、本発明に係る反応処理装置の一実施形態に含まれる加熱部の回路構成を示す回路図である。図2は、図1の回路動作の一状態を示す回路図である。図3は、図1の回路動作の別の一状態を示す回路図である。
【0015】
図1のトランジスタT1は、Nチャネル絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(以下、単にトランジスタと記することがある)である。符号SWは、スイッチをそれぞれ示している。また、符号gはゲートを、符号dはドレインを、符号sはソースを示している。符号Csはコンデンサを示している。
【0016】
駆動電流は、電源電位VDDと接地電位GND間を、トランジスタT1を介して流れる。そして、トランジスタT1とスイッチSW3の抵抗成分によって発生するジュール熱を熱源として使用することができる。なお、トランジスタT1をNチャネルとしたのは一例であり、本発明ではPチャネルのトランジスタも適宜使用することができる。
【0017】
本発明では、データ線から伝達される加熱量情報は信号電流であり、この信号電流を信号電圧に変換して熱制御する回路構成とすることが望ましい。以下、図1の回路の動作について、図2、図3を参照しながら説明する。
【0018】
図2は、加熱部回路に電流レベルの形の加熱量情報(即ち、信号電流)を書き込む動作を示している。この書き込み動作においては、スイッチSW1,SW2がオン状態であり、スイッチSW3がオフ状態である。
【0019】
トランジスタT1には、ドレインdとゲートgがスイッチSW2によって短絡された状態であり信号電流Isigが流れる(図2参照)。その結果、信号電流Isigの値に応じたゲート・ソース間の信号電圧Vgsが発生する。
【0020】
そして、トランジスタT1がエンハンスメント型トランジスタ(即ち、しきい値Vth>0)であれば、飽和領域で動作し、信号電流Isigと信号電圧Vgsとの間にはよく知られた下記の式(1)が成立する。
【0021】
【数1】
【0022】
ここで、μはキャリアの移動度、COXは単位面積当たりのゲート容量、Wはチャネル幅、Lはチャネル長をそれぞれ示している。
【0023】
回路が安定した時点でスイッチSW2をオフ状態とすると、ゲート・ソース間電圧VgsがコンデンサCsに保持されるので、スイッチSW1をオフ状態とすることで信号書き込み動作が完了する。
【0024】
その後、任意のタイミングで、図3に示したようにスイッチSW3をオン状態とすると、電源電圧VDDから接地電位GNDに向かって電流が流れる。このとき、トランジスタT1が飽和領域で動作するように、電源電圧VDDを十分に高く、スイッチSW3のオン抵抗を十分に低く設定すれば、トランジスタT1に流れる駆動電流Idrvは、ドレイン・ソース間電圧Vdsには依存せず下記式(2)で与えられる。そして、この駆動電流Idrvは、前記信号電流Isigに一致する。
【0025】
【数2】
【0026】
即ち、前記式(1)、(2)の右辺に表れる各パラメータは、一般に基板毎に、あるいは同一基板内であっても場所ごとにばらつくが、図2や図3に示した駆動を行なうことで、これらの各パラメータの値に関係なく、信号電流Isigと駆動電流Idrvとが一致する。
【0027】
そして、前記信号電流Isigはヒータマトリクス外部の制御回路等によって、正確な値で生成することが可能であるから、図1のヒータユニット回路から発生するジュール熱は、トランジスタの特性のばらつき等に影響を受けず、電源電圧VDDと信号電流Isigとの積(VDD×Isig)で決まる正確な値とすることができる。
【0028】
図4は、図1に示す回路構成の変形例である回路図である。
【0029】
図4に示す回路は、図1とスイッチの接続関係等が相違する。しかし、図4に示す回路は、図1に示す回路と同様に、信号書き込み時にはスイッチSW1とスイッチSW2をオン状態にし、スイッチSW3をオフ状態とする。そして、発熱動作時には、スイッチSW1とスイッチSW2をオフ状態にし、スイッチSW3をオン状態とする。各動作状態における等価回路はそれぞれ図2、図3と同様であり、図4の回路も図1の回路と同様の機能を発揮することができる。
【0030】
図5は、図1に示す回路構成の別の変形例である回路図である。
【0031】
図5では、トランジスタT1としてPチャネルトランジスタを用いており、電流の向きが逆転している点等で図1の回路と相違する。しかし、原理的には図1の回路と共通するものであり、同様の機能を発揮することができる。
【0032】
本発明において、低温ポリシリコン薄膜トランジスタ(低温ポリシリコンTFT)ではP型金属酸化膜半導体(PMOS)を用いることが好適である。低温ポリシリコンTFTでは、PMOSの方が特性が安定している点で望ましい。
【0033】
図6は、図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【0034】
図6の回路では、各スイッチSW1,SW2,SW3の制御は図1の回路と共通するが、トランジスタT1のソース側から信号電流Isigを引き出す点等で相違する。しかし、ゲート・ドレイン間を短絡した状態で信号電流Isigを流し、それに応じて発生したゲート・ソース間電圧VgsをコンデンサCs4に保持させるという動作原理は、図1の回路と共通するものであり、同様の機能を発揮することができる。
【0035】
そして、本発明において、前記変換部は、第1の電界効果トランジスタと、ゲートとドレインとを電気的に接続された第3の電界効果トランジスタとを備え、前記第1の電解効果トランジスタのソースと、前記第3の電解効果トランジスタのドレインとが、電気的に接続されていることが望ましい。この構成について、図7等を参照して説明する。
【0036】
図7は、図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。図7の回路では、図1の回路構成に、トランジスタT2、スイッチSW4、コンデンサCs2を追加した点等で相違する。スイッチSW4は、スイッチSW2と同様に制御する。この回路の動作を以下に説明する。
【0037】
図1の回路において、信号電流Isigは式(1)によって与えられ、駆動電流Idrvは式(2)によって与えられ、信号電流Isigと駆動電流Idrvが一致することは既に述べた。このことは、例えば、MOSトランジスタに流れる電流が、飽和領域動作においてはドレイン・ソース間電圧Vdsにはよらず、ゲート・ソース間電圧Vgsによってのみ決定されるという基本動作に沿うものである。
【0038】
しかるに、現実のトランジスタでは、ドレイン・ソース間電圧Vdsが増加すると、ドレイン・ソース間電流Idsも多少増加するのが普通である。この現象は、ドレインの電位がチャネルの導電状態に影響を与えるバックゲート効果や、ドレイン端の空乏層(欠乏層)がソース側に伸びることで実効的なチャネル長Lが短くなるショートチャネル効果等が原因であると考えられる。
【0039】
図1の回路を例にして説明すると、比較的小さな信号電流Isigを書き込む場合には、式(1)によって発生するゲート・ソース間電圧Vgsは比較的小さな値となり、ドレイン・ソース間電圧Vdsはゲート・ソース間電圧Vgsと等しい小さな値となる。
【0040】
一方、駆動時には、駆動電流Idrvが小さいためにスイッチSW3での電圧降下が小さく、トランジスタT1のドレイン・ソース間電圧Vdsは書き込み時より大きな値となる。このように、書き込み時と駆動時でのトランジスタT1のドレイン・ソース間電圧Vdsは一般に一致しない。従って、信号電流Isigと駆動電流Idrvも厳密には一致しない。このことが、所望の加熱量が得られない原因となる場合がある。
【0041】
これに対して、図7に示す回路構成の動作を考える。例えば、トランジスタT1については、図1の回路と同様に、書き込み時と駆動時とでトランジスタT1のドレイン・ソース間電圧Vdsは一般に一致しない。しかし、例えば駆動時のドレイン・ソース間電圧Vdsが大きい場合、信号電流Isigよりも駆動電流Idrvの方が大きくはなるものの、トランジスタT2が飽和状態で動作していれば(言い換えれば、定電流源に近い動作をしていれば)、その微分抵抗は非常に大きい値となる。
【0042】
これによって、駆動電流Idrvが僅かに増加しただけでもトランジスタT1のソース電位が大きく上昇する。これは、トランジスタT1のゲート・ソース間電圧Vgsを減少させ、駆動電流Idrvを減少させる方向に作用する。結果として、駆動電流Idrvは信号電流Isigに対してあまり増加することができず、信号電流Isigと駆動電流Idrvとの一致性は図1の例よりも良好になる。
【0043】
図8は、図1の具体的な構成例を示す回路図である。
【0044】
3個のスイッチはトランジスタT2,T3,T4で構成されている。このうちトランジスタT2がNチャネルトランジスタ、トランジスタT3,T4がPチャネルトランジスタである。前記3個のトランジスタT2,T3,T4のゲートを共通接続して走査線とすることで、この走査線が低レベルのときに信号書き込み動作を行い、高レベルのときに駆動動作を行なうようにさせることができる。後述するように、本発明において、トランジスタT2,T3,T4の各ゲートを共通接続しない形態とすることもできるが、構造が簡易である点で図8の回路図とすることが好適である。
【0045】
図9は、本発明に係る反応処理装置の一実施形態に含まれる加熱部のブロック回路図である。より詳しくは、前記加熱部(ヒータユニット)をヒータマトリクス構造とした形態である。このヒータマトリクス構造は、それぞれ複数の走査線1〜mとデータ線1〜nを有している。これらの交差部Uには、例えば、図8等に示す加熱部回路が設けられている。
【0046】
走査線駆動回路は、前記走査線を順次選択(即ち、低レベルに)する。これに同期してデータ線駆動回路が各データ線に信号電流を印加することで、各加熱部に対して行単位で加熱量情報を書き込むことができる。前記走査線は、前記加熱量情報を取得するタイミングを制御する。書き込み終了後は、走査線を非選択(即ち、高レベルに)にすることで、信号電流と同じ電流値の駆動電流を各加熱部(ヒータユニット)に流し続けることができる。このようにして、前記各加熱部に所望の大きさの電流を流すことができ、その結果、所望の熱量を発生させることができる。
【0047】
図10は、図8の回路構成の別の変形例である回路図である。
【0048】
図10に示す回路構成はトランジスタT4a,T4bを有する点等が、図8に示す回路構成と相違する。
【0049】
一般にTFTは製造過程等で欠陥が生じやすく、例えば、スイッチトランジスタがオフ状態において微小なリーク電流を流す不具合が確率的に発生する。図8の回路では、トランジスタT4にリーク電流が生じた場合、リーク電流によってコンデンサCsに保持された電圧が変化する。そのため、正しい発熱状態を維持することができない状況が発生する場合がある。
【0050】
これに対して、図10に示す回路では、図8に用いるトランジスタT4を、直列に接続した2個のトランジスタT4a,T4bで構成しているため、一方に不具合が生じたとしても、全体としては、リーク電流を抑えることができる。同様に、3個以上のトランジスタを直列に接続することや、トランジスタT2,T3について複数のトランジスタを接続する構成とすることも可能である。
【0051】
図11は、図1の回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【0052】
図11に示す回路図は、トランジスタT2の制御をトランジスタT3,T4の制御と独立させた構成例である。信号書き込み時は、書き込み走査線と駆動走査線とをともに低レベルとする。書き込み終了後(即ち、書き込み走査線を高レベルとした後)は、任意のタイミングで駆動走査線を高レベルとすることで、発熱動作させることができる。
【0053】
逆に、駆動走査線を低レベルにすれば、発熱動作を簡便に停止することができるので、速やかに温度を低下させたい場合等に好適である。また、発熱動作時間を調節することも可能であるので、例えば、信号電流源が小さな電流を正確に生成することが困難である場合であっても、正確な微小発熱動作をさせることができる。なお、このような動作によって加熱が間欠的になるのを避けたい場合は、加熱量情報が書き込まれてから次の加熱量情報が書き込まれるまでの期間内で、加熱・加熱の停止を複数回繰り返せば、より時間的に安定な加熱が可能である。
【0054】
図12は、図1の回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【0055】
図12では、電源電圧VDDは走査線と平行に配置されており、図1のスイッチSW3をダイオードD1で形成していること等が特徴である。信号書き込み時は前記電源電圧VDDを低レベルにすればダイオードD1がオフ状態となり、駆動時は前記電源電圧VDDを高レベルにすればダイオードD1がオン状態となるので、ダイオードD1はスイッチとして動作させることができる。従って、図12に示す回路構成は、図11に示す回路構成等とも同様の機能を有することができる。
【0056】
図13は、図1の回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【0057】
図13に示す回路では、信号電流Isigを電圧の形に変換するトランジスタT1と、発熱のための電流を流すトランジスタT2とが別に設けられている点等で図1に示す回路構成と異なる。
【0058】
信号書き込み時は、スイッチSW1,SW2がオン状態となり信号電流IsigをトランジスタT1に流す。このとき、下記式(3)が成立する。
【0059】
【数3】
【0060】
また、式(3)において、各パラメータの意味は、前記式(1)に準ずるが、トランジスタT1のチャネル幅をW1とした。駆動時は、2つのスイッチSW1,SW2はオフ状態となる。一方、コンデンサCsには、書き込み動作で生じたゲート・ソース間電圧Vgsが保持されているので、トランジスタT2に流れる駆動電流Idrvについては下記式(4)が成立する。
【0061】
【数4】
【0062】
ここで、トランジスタT2のチャネル幅はW2であり、トランジスタT1,T2は、微小な加熱部内に形成されるため、パラメータμ、COX、VthはトランジスタT1,T2について事実上等しいものと考える。また、チャネル長Lは等しい値に設計することができる。その結果、式(3),(4)により下記式(5)を導出することができる。
【0063】
【数5】
【0064】
式(3),(4)の右辺に現れる各パラメータは一般に基板ごとに、あるいは同一基板内であっても場所ごとにばらつく場合があるが、これらのパラメータの値に関係なく、信号電流Isigと駆動電流Idrvの比は、トランジスタT2とトランジスタT1のチャネル幅の比に一致することがわかる。
【0065】
この回路の特徴は、図1の回路とは異なり、信号電流Isigと駆動電流Idrvの比を任意に調節できることにある。例えば、微小な発熱をさせたい場合、外部回路が微小な電流を発生させることが困難であれば、式(5)の右辺が小さくなるようにチャネル幅を設計すればよい。逆に、微小な信号電流Isigによって、大きな駆動電流Idrvを制御できるよう設計することも容易である。
【0066】
このように、本発明によれば、高精度にかつ個別に熱制御できる反応処理装置とすることができる。この反応処理装置は、精密な熱制御を要する反応に用いる装置として、幅広い用途に用いることができる。そのなかでも、例えば、遺伝子増幅反応等を行なうPCR装置として好適に使用することができる。以下、PCR装置として用いた場合について説明する。
【0067】
従来のPCR装置では、サーマルサイクラーの温度制御が確かに行なわれているが、グラディエント機構であるため、各サンプルごとの個別の温度制御は困難である。また、遺伝子増幅反応時の温度制御も個別に行なうことができない。その結果、各サンプルの遺伝子増幅量を一定にすることができない等の問題が顕著であった。
【0068】
このようなPCR装置について、本発明に係る反応処理装置を応用することで、前記問題等を解決でき、かつ網羅的解析も可能となるPCR装置とすることができる。以下、本発明のPCR装置の形態について説明する。
【0069】
図14は、本発明に係る反応処理装置をPCR装置とした第1実施形態を側面視した概念図である。以下に使用する図面では、説明の便宜上、装置の構成等については簡素化して示している。
【0070】
図14中の符号1は、本発明に係るPCR装置を示している。このPCR装置1のサイズや層構造は、目的に応じて適宜選定可能であり、PCR装置1の形態構成についても本発明の目的に沿う範囲で設計又は変更可能である。
【0071】
PCR装置1は、複数の反応領域A1を有するウェル基板11と、光源12と、該光源12より発せられた励起光L1,L2を導く励起光走査板13とを備えている。そして、フィルター14と、蛍光L3を検出する蛍光検出部15と、前記反応領域A1を加熱する加熱部16と、が測定基板17に設けられている。この加熱部16について、前記した回路構成を用いることができるのは勿論である。
【0072】
PCR装置1では、光源12より発せられた励起光L1が、励起光走査板13を経て、励起光L2として各反応領域A1に照射される。そして、反応領域A1内から発せられた蛍光L3を蛍光検出部15により検出・測定される。
【0073】
PCR装置1では、特に、加熱部16を反応領域A1ごとに設け、かつ前記加熱部16の熱源近傍の温度を検出して電気的信号に変換する温度検出手段を備え、予め得られた前記電気的信号と熱源の加熱量との相関関係に基づいて加熱量を決定する手段を備えることで、各々の反応領域A1を個別に、かつ高精度に温度制御することもできる。
【0074】
各反応領域A1の温度情報を考慮した加熱量情報とすることで、より精度の高い温度制御を行なうこともできる。その結果、遺伝子発現量を高精度に解析することができる。以下、PCR装置1の各構成について詳細に説明する。
【0075】
ウェル基板11は、複数の反応領域(ウェル)A1を備えている。この反応領域A1で所定の反応を行う。例えば、このウェル基板11は、低蛍光発光プラスチック材料やガラスで形成し、人の遺伝子数に匹敵する数の反応領域A1をマトリクス状に配置することができる。
【0076】
本発明では、PCR反応のための反応領域(ウェル)A1はマイクロ空間であることが望ましい。例えば、ウェルを300μm×300μm×300μm(約30nL容量)とし、約4万個のウェルを並べるとすると、約6cm角の面積を有するデバイスとなる。
【0077】
ここで、個々の反応領域A1の形状は特に限定されず、反応溶液を保持できる形状であれば、どのような形状でもよい。励起光L1,L2を照射・導入する光路や、蛍光L3を検出する光路等を考慮して適宜好適な形状を選択することができる。PCR装置1では、反応領域A1内で前記蛍光L3を反射させるため、反応領域A1は曲面部分を有している。
【0078】
光散乱や外光の影響による検出感度の低下を抑制するために、反応領域A1は、遮光する材質(例えば、ダイヤモンドライクカーボン等)にてコーティングされていることが望ましい。
【0079】
本発明では、前記複数の反応領域A1全てに特定波長の励起光を照射可能な光学手段として、光源12や、励起光L1を各反応領域A1に導入するための励起光走査板13を用いることができる。
【0080】
光源12は、特定波長の光を発光するものであればよく、その種類は特に限定されないが、好適には、白色もしくは単色の発光ダイオード(LED)を用いることが望ましい。発光ダイオードを用いることで、不要な紫外線や赤外線を含まない光を簡便に得ることができる。
【0081】
本発明では、光源12の設置場所や光源数については特に限定されない。図示はしないが、各反応領域A1に対応するように光源12を複数設け、各光源12が対応する各反応領域A1に向かって励起光を直接照射する構造としてもよい。これにより各反応領域A1を光源12で直接照射できるため、励起光量をより多く採取でき、かつ励起光L1,L2の光量を個別に制御することができ、各反応領域A1に均一に励起光L1,L2を照射できる。
【0082】
励起光走査板13は、光源12から発せられる励起光L1をウェル基板11内の各反応領域A1に導くものである。前記励起光走査板13内部のスペーサ131に光源12から発せられる励起光L1が導入される。そして、前記励起光走査板13の底部には反射膜132が設けられており、ウェル基板11へ励起光L2を導入することができる。これにより、各反応領域A1内の反応液中の蛍光物質を均一な光量で励起させることができる。前記反射膜132の材料等については特に限定されないが、好適には、ダイクロックミラーを用いることが望ましい。
【0083】
また、本発明では、励起光走査板13の上部に、前記励起光L1,L2の波長光のみを透過するフィルター133を設けることが望ましい。これにより、光源12から発せられる光から励起光L2を効率よく取り出し、反応領域A1へ導くことができる。このフィルター133としては、例えば偏光フィルター等を用いることができる。
【0084】
反応領域A1に照射された励起光L2は、反応領域A1内の反応液中のプローブの蛍光物質等に照射されることで蛍光L3を発する。この蛍光L3は反応領域A1内の壁面で反射して、反応領域A1下方に設けられた蛍光検出部15で検出・測定される。
【0085】
また、本発明では、特定波長の光を取り出すことができるように、反応領域A1と蛍光検出部15との間にもフィルター14を配置できる。前記フィルター14は特定波長の光(蛍光L3等)を取り出すことができればよく、その材料は限定されないが、例えば、ダイクロイックミラーを用いることができる。
【0086】
蛍光検出部15は、反応領域A1に照射された励起光L2に応答して、インターカレートしたプローブ中の蛍光色素が励起することで発せられる蛍光を検出・測定する。
【0087】
PCR装置1では、加熱部16を各反応領域A1にそれぞれ設けている。前記加熱部16は温度制御機構を備えており、これにより前記加熱部16の反応領域A1の温度制御を行う。これにより、例えば、PCRサイクルを行う場合、熱変性→アニーリング→伸長反応のステップについてより高精度の温度制御を行うことができる。
【0088】
図15は、本発明に係る反応処理装置をPCR装置とした第2実施形態を側面視した概念図である。以下、図14に示す形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0089】
このPCR装置2は、反応領域(ウェル)A2ごとに蛍光検出部25や加熱部26を測定基板27上に備えている点では、第1の実施形態と共通する。しかし、励起光L2をウェル基板21の上方から照射して、反応領域A2内を透過した蛍光L3を検出する点等で相違する。
【0090】
PCR装置2では、光源22から発せられる励起光L1が、励起光走査板23によって反応領域A2に導かれる。励起光走査板23では、スペーサ231を励起光L1が通過し、反射膜232とフィルター233によりウェル基板21に励起光L2が導入される。
【0091】
そして、該励起光L2は、反応領域A2内の反応液中のプローブの蛍光物質等に照射されることで蛍光L3を発する。この蛍光L3は、反応領域A1の下方に設けられた蛍光検出部25で検出・測定される。
【0092】
また、温度制御は、反応領域A2下方に設けられた加熱部26により行われ、ペルチェ素子28等によって加熱サイクル等の温度制御を行なうことができる。
【0093】
一般的なPCR装置では、「熱変性→アニーリング→伸長反応」からなるサイクルを30サイクル程度行なうために25〜30分の反応時間を要する。その際、約2℃/秒の温度制御を行っている。これに対して、本発明のPCR装置では、20℃以上/秒の温度制御が可能であるため、1サイクルあたり40秒程度の時間短縮が可能となり、30サイクル全体ではおよそ25分以下の反応時間が達成できる。
【0094】
また、プライマーの設計に応じて、アニーリング時間、伸長反応時間をコントロールすることができるため、増幅率を一定倍率(例えば2倍等)に揃えることができるため、遺伝子発現量の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る反応処理装置の一実施形態に含まれる加熱部の回路構成を示す回路図である。
【図2】図1の回路動作の一状態を示す回路図である。
【図3】図1の回路動作の別の一状態を示す回路図である。
【図4】図1に示す回路構成の変形例である回路図である。
【図5】図1に示す回路構成の別の変形例である回路図である。
【図6】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図7】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図8】図1の具体的な構成例を示す回路図である。
【図9】本発明に係る反応処理装置の一実施形態に含まれる加熱部のブロック回路図である。
【図10】図8に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図11】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図12】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図13】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図14】本発明に係る反応処理装置をPCR装置として用いた第1実施形態を側面視した概念図である。
【図15】本発明に係る反応処理装置をPCR装置として用いた第2実施形態を側面視した概念図である。
【符号の説明】
【0096】
1 反応処理装置
2,3 PCR装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応処理装置に関する。より詳しくは、高精度の温度制御が可能な反応処理装置に関する。
【0002】
温度条件に基づいて反応を制御する必要がある場合には、前記温度条件をより高精度に制御できることが望まれる。液体、固体、気体に関わらず反応を行なう反応処理装置において高精度に温度制御可能であることが望まれる。例えば、遺伝子解析等の技術分野でもこのような要請はある。
【0003】
一例として、遺伝子増幅を行なうPCR法(polymerase chain reaction;ポリメラーゼ連鎖反応)を用いる場合が挙げられる。PCR法は、微量核酸の定量分析の標準的手法ともいえる。
【0004】
PCR法は、「熱変性→プライマーとのアニーリング→ポリメラーゼ伸長反応」という増幅サイクルを連続的に行うことで、DNA等を数十万倍にも増幅させることができる。このようにして得られるPCR増幅産物をリアルタイムでモニタリングして前記微量核酸の定量分析を行うこともできる。
【0005】
しかし、PCR法では前記増幅サイクルを正確に制御することが必要である。そのためには高精度の温度制御が必要となる。温度制御が不十分である場合には、無関係なDNA配列を増幅してしまったり、増幅が全く見られなかったりする。
【0006】
このように、前記した装置等については、いずれも反応処理装置として高精度の熱制御ができることが重要となる。これに関する技術として、特許文献1や特許文献2には前記反応処理装置の温度制御に関する技術が開示されている。また、微小領域の発熱制御として半導体素子等を用いることも行なわれている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−298068号公報。
【特許文献2】特開2004−025426号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の反応処理装置において半導体素子等を用いて温度制御を行なう場合であっても、以下の問題等がある。
【0009】
半導体素子は一般に製造上のばらつきがあるため、各反応領域で同じ温度制御を行なった場合であっても、基板ごとに、あるいは同一基板上であっても加熱部ごとに、加熱量のばらつきが生じてしまう。その結果、反応処理装置としての高精度の温度制御が困難となってしまう。
【0010】
また、半導体素子は、一般に温度によって特性が変化する性質がある。例えば、単結晶シリコンを用いたMOSトランジスタは負の温度特性を持ち、同じ電圧値を印加しても、温度が高くなると流れる電流が減少する。従って、同じ電圧値であっても温度によって加熱量が変化する結果となり、高精度の温度制御が困難となっていた。
【0011】
そこで、本発明は、温度制御を高精度で行なうことができる反応処理装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、単に半導体素子等を熱制御系に用いるといった着想ではなく、熱制御系の回路構造等に着目した。その結果、各ヒートユニットを制御できるアクティブマトリクス構造を熱制御系に取り込むことに着想を得て本発明を完成させた。
まず、本発明は、複数の反応領域と、該反応領域ごとに設けられた複数の加熱部と、を備え、前記加熱部は、熱源と、前記加熱部を選択するための走査線と、前記加熱実施時の加熱量情報を前記熱源へ伝達するデータ線と、前記データ線から伝達された前記加熱量情報を取得する書き込み部と、前記走査線が非選択となった後も加熱量情報を記憶しておく保持部と、前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する発熱制御部と、を備える反応処理装置を提供する。
反応処理装置の反応領域ごとに加熱部を設けることで、個別に加熱制御できる。そして、走査線を選択した瞬間にのみ加熱を実施させるのではなく、発熱させたい夫々の加熱部(ヒートユニット)の発熱量情報を一度書き込んだ後、再び情報を書き換むまで、この発熱量情報を保持させることができる。その結果、加熱が実施される時間が、前記走査線の選択期間という短い時間内に限定されることがなくなるので、加熱動作が容易かつ安定となる。
次に、本発明は、前記データ線から伝達される前記加熱量情報は信号電流であり、前記加熱部は、前記信号電流を電圧レベルに変換する変換部を備え、前記保持部は、前記加熱量情報を前記電圧レベルとして保持し、前記発熱制御部は、前記保持された電圧レベルを電流レベルに変換して発熱を制御する反応処理装置を提供する。
前記加熱量情報を信号電流から電圧レベルに変換することで、前記信号電流を電圧レベルとして前記保持部に一旦記憶させておくことができる。そして、前記電圧レベルを電流レベルへと変換することで、高精度の加熱制御することができる。
そして、本発明は、前記変換部は、ゲートとドレインとを電気的に接続した第1の電界効果トランジスタを備え、前記保持部は、前記第1の電界効果トランジスタに前記信号電流を流すことで発生するゲート・ソース間の電圧を保持するキャパシタを備え、前記発熱制御部は、前記ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を流す第2の電界効果トランジスタを備える反応処理装置を提供する。
前記第1の電界効果トランジスタを用いることで加えられた信号電流に応じて電圧を発生させることができる。そして、前記キャパシタにより前記ゲート・ソース間の電圧を保持させておくことができる。
また、本発明は、前記第1の電界効果トランジスタと、前記第2の電界効果トランジスタと、は同一のトランジスタであり、前記変換部による前記信号電流を前記電圧レベルに変換する変換動作と、前記発熱制御部による前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する制御動作と、を時分割的に行なう反応処理装置を提供する。
前記変換動作と前記制御動作とを時分割的に交互に行なうことで、より正確な加熱量情報を前記発熱制御部の発熱制御系に伝達することができる。その結果、より高精度に加熱量を制御することができる。
更に、本発明は、前記変換部は、前記第1の電界効果トランジスタと、ゲートとドレインとを電気的に接続された第3の電界効果トランジスタとを、含み、 前記第1の電界効果トランジスタのソースと、前記第3の電界効果トランジスタのドレインとを、電気的に接続させた反応処理装置を提供する。
前記第3の電界効果トランジスタを設けることで、駆動電流と信号電流との一致性をより高めることができる。その結果、より正確な加熱量情報を熱源に伝達することができるため、より高精度の加熱制御が可能となる。
そして、本発明は、前記加熱量情報が前記書き込み部により取得された後、次なる加熱量情報が取得されるまでの間に、前記駆動電流を遮断する手段を備える反応処理装置を提供する。
また、本発明は、前記反応領域は遺伝子増幅反応を行なうPCR装置とすることができる。
PCR装置とすることで、遺伝子増幅反応の加熱サイクルを、反応領域ごとに個別かつ高精度に温度制御できる。その結果、各反応領域に充填するサンプルの増幅量を一定倍数に制御することができる。従って、反応領域ごとに個別かつ高精度の温度制御を行なうことができるため、網羅的解析を高精度で行なうことができる。
そして、本発明は、前記反応領域に所定波長の励起光を照射する光学手段と、前記励起光照射により発生する蛍光を検出する蛍光検出部と、を備えるPCR装置とすることができる。
前記PCR装置に、更に光学手段と蛍光検出部を備えることで、前記遺伝子増幅反応をリアルタイムに解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明に係る反応処理装置の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
図1は、本発明に係る反応処理装置の一実施形態に含まれる加熱部の回路構成を示す回路図である。図2は、図1の回路動作の一状態を示す回路図である。図3は、図1の回路動作の別の一状態を示す回路図である。
【0015】
図1のトランジスタT1は、Nチャネル絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(以下、単にトランジスタと記することがある)である。符号SWは、スイッチをそれぞれ示している。また、符号gはゲートを、符号dはドレインを、符号sはソースを示している。符号Csはコンデンサを示している。
【0016】
駆動電流は、電源電位VDDと接地電位GND間を、トランジスタT1を介して流れる。そして、トランジスタT1とスイッチSW3の抵抗成分によって発生するジュール熱を熱源として使用することができる。なお、トランジスタT1をNチャネルとしたのは一例であり、本発明ではPチャネルのトランジスタも適宜使用することができる。
【0017】
本発明では、データ線から伝達される加熱量情報は信号電流であり、この信号電流を信号電圧に変換して熱制御する回路構成とすることが望ましい。以下、図1の回路の動作について、図2、図3を参照しながら説明する。
【0018】
図2は、加熱部回路に電流レベルの形の加熱量情報(即ち、信号電流)を書き込む動作を示している。この書き込み動作においては、スイッチSW1,SW2がオン状態であり、スイッチSW3がオフ状態である。
【0019】
トランジスタT1には、ドレインdとゲートgがスイッチSW2によって短絡された状態であり信号電流Isigが流れる(図2参照)。その結果、信号電流Isigの値に応じたゲート・ソース間の信号電圧Vgsが発生する。
【0020】
そして、トランジスタT1がエンハンスメント型トランジスタ(即ち、しきい値Vth>0)であれば、飽和領域で動作し、信号電流Isigと信号電圧Vgsとの間にはよく知られた下記の式(1)が成立する。
【0021】
【数1】
【0022】
ここで、μはキャリアの移動度、COXは単位面積当たりのゲート容量、Wはチャネル幅、Lはチャネル長をそれぞれ示している。
【0023】
回路が安定した時点でスイッチSW2をオフ状態とすると、ゲート・ソース間電圧VgsがコンデンサCsに保持されるので、スイッチSW1をオフ状態とすることで信号書き込み動作が完了する。
【0024】
その後、任意のタイミングで、図3に示したようにスイッチSW3をオン状態とすると、電源電圧VDDから接地電位GNDに向かって電流が流れる。このとき、トランジスタT1が飽和領域で動作するように、電源電圧VDDを十分に高く、スイッチSW3のオン抵抗を十分に低く設定すれば、トランジスタT1に流れる駆動電流Idrvは、ドレイン・ソース間電圧Vdsには依存せず下記式(2)で与えられる。そして、この駆動電流Idrvは、前記信号電流Isigに一致する。
【0025】
【数2】
【0026】
即ち、前記式(1)、(2)の右辺に表れる各パラメータは、一般に基板毎に、あるいは同一基板内であっても場所ごとにばらつくが、図2や図3に示した駆動を行なうことで、これらの各パラメータの値に関係なく、信号電流Isigと駆動電流Idrvとが一致する。
【0027】
そして、前記信号電流Isigはヒータマトリクス外部の制御回路等によって、正確な値で生成することが可能であるから、図1のヒータユニット回路から発生するジュール熱は、トランジスタの特性のばらつき等に影響を受けず、電源電圧VDDと信号電流Isigとの積(VDD×Isig)で決まる正確な値とすることができる。
【0028】
図4は、図1に示す回路構成の変形例である回路図である。
【0029】
図4に示す回路は、図1とスイッチの接続関係等が相違する。しかし、図4に示す回路は、図1に示す回路と同様に、信号書き込み時にはスイッチSW1とスイッチSW2をオン状態にし、スイッチSW3をオフ状態とする。そして、発熱動作時には、スイッチSW1とスイッチSW2をオフ状態にし、スイッチSW3をオン状態とする。各動作状態における等価回路はそれぞれ図2、図3と同様であり、図4の回路も図1の回路と同様の機能を発揮することができる。
【0030】
図5は、図1に示す回路構成の別の変形例である回路図である。
【0031】
図5では、トランジスタT1としてPチャネルトランジスタを用いており、電流の向きが逆転している点等で図1の回路と相違する。しかし、原理的には図1の回路と共通するものであり、同様の機能を発揮することができる。
【0032】
本発明において、低温ポリシリコン薄膜トランジスタ(低温ポリシリコンTFT)ではP型金属酸化膜半導体(PMOS)を用いることが好適である。低温ポリシリコンTFTでは、PMOSの方が特性が安定している点で望ましい。
【0033】
図6は、図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【0034】
図6の回路では、各スイッチSW1,SW2,SW3の制御は図1の回路と共通するが、トランジスタT1のソース側から信号電流Isigを引き出す点等で相違する。しかし、ゲート・ドレイン間を短絡した状態で信号電流Isigを流し、それに応じて発生したゲート・ソース間電圧VgsをコンデンサCs4に保持させるという動作原理は、図1の回路と共通するものであり、同様の機能を発揮することができる。
【0035】
そして、本発明において、前記変換部は、第1の電界効果トランジスタと、ゲートとドレインとを電気的に接続された第3の電界効果トランジスタとを備え、前記第1の電解効果トランジスタのソースと、前記第3の電解効果トランジスタのドレインとが、電気的に接続されていることが望ましい。この構成について、図7等を参照して説明する。
【0036】
図7は、図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。図7の回路では、図1の回路構成に、トランジスタT2、スイッチSW4、コンデンサCs2を追加した点等で相違する。スイッチSW4は、スイッチSW2と同様に制御する。この回路の動作を以下に説明する。
【0037】
図1の回路において、信号電流Isigは式(1)によって与えられ、駆動電流Idrvは式(2)によって与えられ、信号電流Isigと駆動電流Idrvが一致することは既に述べた。このことは、例えば、MOSトランジスタに流れる電流が、飽和領域動作においてはドレイン・ソース間電圧Vdsにはよらず、ゲート・ソース間電圧Vgsによってのみ決定されるという基本動作に沿うものである。
【0038】
しかるに、現実のトランジスタでは、ドレイン・ソース間電圧Vdsが増加すると、ドレイン・ソース間電流Idsも多少増加するのが普通である。この現象は、ドレインの電位がチャネルの導電状態に影響を与えるバックゲート効果や、ドレイン端の空乏層(欠乏層)がソース側に伸びることで実効的なチャネル長Lが短くなるショートチャネル効果等が原因であると考えられる。
【0039】
図1の回路を例にして説明すると、比較的小さな信号電流Isigを書き込む場合には、式(1)によって発生するゲート・ソース間電圧Vgsは比較的小さな値となり、ドレイン・ソース間電圧Vdsはゲート・ソース間電圧Vgsと等しい小さな値となる。
【0040】
一方、駆動時には、駆動電流Idrvが小さいためにスイッチSW3での電圧降下が小さく、トランジスタT1のドレイン・ソース間電圧Vdsは書き込み時より大きな値となる。このように、書き込み時と駆動時でのトランジスタT1のドレイン・ソース間電圧Vdsは一般に一致しない。従って、信号電流Isigと駆動電流Idrvも厳密には一致しない。このことが、所望の加熱量が得られない原因となる場合がある。
【0041】
これに対して、図7に示す回路構成の動作を考える。例えば、トランジスタT1については、図1の回路と同様に、書き込み時と駆動時とでトランジスタT1のドレイン・ソース間電圧Vdsは一般に一致しない。しかし、例えば駆動時のドレイン・ソース間電圧Vdsが大きい場合、信号電流Isigよりも駆動電流Idrvの方が大きくはなるものの、トランジスタT2が飽和状態で動作していれば(言い換えれば、定電流源に近い動作をしていれば)、その微分抵抗は非常に大きい値となる。
【0042】
これによって、駆動電流Idrvが僅かに増加しただけでもトランジスタT1のソース電位が大きく上昇する。これは、トランジスタT1のゲート・ソース間電圧Vgsを減少させ、駆動電流Idrvを減少させる方向に作用する。結果として、駆動電流Idrvは信号電流Isigに対してあまり増加することができず、信号電流Isigと駆動電流Idrvとの一致性は図1の例よりも良好になる。
【0043】
図8は、図1の具体的な構成例を示す回路図である。
【0044】
3個のスイッチはトランジスタT2,T3,T4で構成されている。このうちトランジスタT2がNチャネルトランジスタ、トランジスタT3,T4がPチャネルトランジスタである。前記3個のトランジスタT2,T3,T4のゲートを共通接続して走査線とすることで、この走査線が低レベルのときに信号書き込み動作を行い、高レベルのときに駆動動作を行なうようにさせることができる。後述するように、本発明において、トランジスタT2,T3,T4の各ゲートを共通接続しない形態とすることもできるが、構造が簡易である点で図8の回路図とすることが好適である。
【0045】
図9は、本発明に係る反応処理装置の一実施形態に含まれる加熱部のブロック回路図である。より詳しくは、前記加熱部(ヒータユニット)をヒータマトリクス構造とした形態である。このヒータマトリクス構造は、それぞれ複数の走査線1〜mとデータ線1〜nを有している。これらの交差部Uには、例えば、図8等に示す加熱部回路が設けられている。
【0046】
走査線駆動回路は、前記走査線を順次選択(即ち、低レベルに)する。これに同期してデータ線駆動回路が各データ線に信号電流を印加することで、各加熱部に対して行単位で加熱量情報を書き込むことができる。前記走査線は、前記加熱量情報を取得するタイミングを制御する。書き込み終了後は、走査線を非選択(即ち、高レベルに)にすることで、信号電流と同じ電流値の駆動電流を各加熱部(ヒータユニット)に流し続けることができる。このようにして、前記各加熱部に所望の大きさの電流を流すことができ、その結果、所望の熱量を発生させることができる。
【0047】
図10は、図8の回路構成の別の変形例である回路図である。
【0048】
図10に示す回路構成はトランジスタT4a,T4bを有する点等が、図8に示す回路構成と相違する。
【0049】
一般にTFTは製造過程等で欠陥が生じやすく、例えば、スイッチトランジスタがオフ状態において微小なリーク電流を流す不具合が確率的に発生する。図8の回路では、トランジスタT4にリーク電流が生じた場合、リーク電流によってコンデンサCsに保持された電圧が変化する。そのため、正しい発熱状態を維持することができない状況が発生する場合がある。
【0050】
これに対して、図10に示す回路では、図8に用いるトランジスタT4を、直列に接続した2個のトランジスタT4a,T4bで構成しているため、一方に不具合が生じたとしても、全体としては、リーク電流を抑えることができる。同様に、3個以上のトランジスタを直列に接続することや、トランジスタT2,T3について複数のトランジスタを接続する構成とすることも可能である。
【0051】
図11は、図1の回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【0052】
図11に示す回路図は、トランジスタT2の制御をトランジスタT3,T4の制御と独立させた構成例である。信号書き込み時は、書き込み走査線と駆動走査線とをともに低レベルとする。書き込み終了後(即ち、書き込み走査線を高レベルとした後)は、任意のタイミングで駆動走査線を高レベルとすることで、発熱動作させることができる。
【0053】
逆に、駆動走査線を低レベルにすれば、発熱動作を簡便に停止することができるので、速やかに温度を低下させたい場合等に好適である。また、発熱動作時間を調節することも可能であるので、例えば、信号電流源が小さな電流を正確に生成することが困難である場合であっても、正確な微小発熱動作をさせることができる。なお、このような動作によって加熱が間欠的になるのを避けたい場合は、加熱量情報が書き込まれてから次の加熱量情報が書き込まれるまでの期間内で、加熱・加熱の停止を複数回繰り返せば、より時間的に安定な加熱が可能である。
【0054】
図12は、図1の回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【0055】
図12では、電源電圧VDDは走査線と平行に配置されており、図1のスイッチSW3をダイオードD1で形成していること等が特徴である。信号書き込み時は前記電源電圧VDDを低レベルにすればダイオードD1がオフ状態となり、駆動時は前記電源電圧VDDを高レベルにすればダイオードD1がオン状態となるので、ダイオードD1はスイッチとして動作させることができる。従って、図12に示す回路構成は、図11に示す回路構成等とも同様の機能を有することができる。
【0056】
図13は、図1の回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【0057】
図13に示す回路では、信号電流Isigを電圧の形に変換するトランジスタT1と、発熱のための電流を流すトランジスタT2とが別に設けられている点等で図1に示す回路構成と異なる。
【0058】
信号書き込み時は、スイッチSW1,SW2がオン状態となり信号電流IsigをトランジスタT1に流す。このとき、下記式(3)が成立する。
【0059】
【数3】
【0060】
また、式(3)において、各パラメータの意味は、前記式(1)に準ずるが、トランジスタT1のチャネル幅をW1とした。駆動時は、2つのスイッチSW1,SW2はオフ状態となる。一方、コンデンサCsには、書き込み動作で生じたゲート・ソース間電圧Vgsが保持されているので、トランジスタT2に流れる駆動電流Idrvについては下記式(4)が成立する。
【0061】
【数4】
【0062】
ここで、トランジスタT2のチャネル幅はW2であり、トランジスタT1,T2は、微小な加熱部内に形成されるため、パラメータμ、COX、VthはトランジスタT1,T2について事実上等しいものと考える。また、チャネル長Lは等しい値に設計することができる。その結果、式(3),(4)により下記式(5)を導出することができる。
【0063】
【数5】
【0064】
式(3),(4)の右辺に現れる各パラメータは一般に基板ごとに、あるいは同一基板内であっても場所ごとにばらつく場合があるが、これらのパラメータの値に関係なく、信号電流Isigと駆動電流Idrvの比は、トランジスタT2とトランジスタT1のチャネル幅の比に一致することがわかる。
【0065】
この回路の特徴は、図1の回路とは異なり、信号電流Isigと駆動電流Idrvの比を任意に調節できることにある。例えば、微小な発熱をさせたい場合、外部回路が微小な電流を発生させることが困難であれば、式(5)の右辺が小さくなるようにチャネル幅を設計すればよい。逆に、微小な信号電流Isigによって、大きな駆動電流Idrvを制御できるよう設計することも容易である。
【0066】
このように、本発明によれば、高精度にかつ個別に熱制御できる反応処理装置とすることができる。この反応処理装置は、精密な熱制御を要する反応に用いる装置として、幅広い用途に用いることができる。そのなかでも、例えば、遺伝子増幅反応等を行なうPCR装置として好適に使用することができる。以下、PCR装置として用いた場合について説明する。
【0067】
従来のPCR装置では、サーマルサイクラーの温度制御が確かに行なわれているが、グラディエント機構であるため、各サンプルごとの個別の温度制御は困難である。また、遺伝子増幅反応時の温度制御も個別に行なうことができない。その結果、各サンプルの遺伝子増幅量を一定にすることができない等の問題が顕著であった。
【0068】
このようなPCR装置について、本発明に係る反応処理装置を応用することで、前記問題等を解決でき、かつ網羅的解析も可能となるPCR装置とすることができる。以下、本発明のPCR装置の形態について説明する。
【0069】
図14は、本発明に係る反応処理装置をPCR装置とした第1実施形態を側面視した概念図である。以下に使用する図面では、説明の便宜上、装置の構成等については簡素化して示している。
【0070】
図14中の符号1は、本発明に係るPCR装置を示している。このPCR装置1のサイズや層構造は、目的に応じて適宜選定可能であり、PCR装置1の形態構成についても本発明の目的に沿う範囲で設計又は変更可能である。
【0071】
PCR装置1は、複数の反応領域A1を有するウェル基板11と、光源12と、該光源12より発せられた励起光L1,L2を導く励起光走査板13とを備えている。そして、フィルター14と、蛍光L3を検出する蛍光検出部15と、前記反応領域A1を加熱する加熱部16と、が測定基板17に設けられている。この加熱部16について、前記した回路構成を用いることができるのは勿論である。
【0072】
PCR装置1では、光源12より発せられた励起光L1が、励起光走査板13を経て、励起光L2として各反応領域A1に照射される。そして、反応領域A1内から発せられた蛍光L3を蛍光検出部15により検出・測定される。
【0073】
PCR装置1では、特に、加熱部16を反応領域A1ごとに設け、かつ前記加熱部16の熱源近傍の温度を検出して電気的信号に変換する温度検出手段を備え、予め得られた前記電気的信号と熱源の加熱量との相関関係に基づいて加熱量を決定する手段を備えることで、各々の反応領域A1を個別に、かつ高精度に温度制御することもできる。
【0074】
各反応領域A1の温度情報を考慮した加熱量情報とすることで、より精度の高い温度制御を行なうこともできる。その結果、遺伝子発現量を高精度に解析することができる。以下、PCR装置1の各構成について詳細に説明する。
【0075】
ウェル基板11は、複数の反応領域(ウェル)A1を備えている。この反応領域A1で所定の反応を行う。例えば、このウェル基板11は、低蛍光発光プラスチック材料やガラスで形成し、人の遺伝子数に匹敵する数の反応領域A1をマトリクス状に配置することができる。
【0076】
本発明では、PCR反応のための反応領域(ウェル)A1はマイクロ空間であることが望ましい。例えば、ウェルを300μm×300μm×300μm(約30nL容量)とし、約4万個のウェルを並べるとすると、約6cm角の面積を有するデバイスとなる。
【0077】
ここで、個々の反応領域A1の形状は特に限定されず、反応溶液を保持できる形状であれば、どのような形状でもよい。励起光L1,L2を照射・導入する光路や、蛍光L3を検出する光路等を考慮して適宜好適な形状を選択することができる。PCR装置1では、反応領域A1内で前記蛍光L3を反射させるため、反応領域A1は曲面部分を有している。
【0078】
光散乱や外光の影響による検出感度の低下を抑制するために、反応領域A1は、遮光する材質(例えば、ダイヤモンドライクカーボン等)にてコーティングされていることが望ましい。
【0079】
本発明では、前記複数の反応領域A1全てに特定波長の励起光を照射可能な光学手段として、光源12や、励起光L1を各反応領域A1に導入するための励起光走査板13を用いることができる。
【0080】
光源12は、特定波長の光を発光するものであればよく、その種類は特に限定されないが、好適には、白色もしくは単色の発光ダイオード(LED)を用いることが望ましい。発光ダイオードを用いることで、不要な紫外線や赤外線を含まない光を簡便に得ることができる。
【0081】
本発明では、光源12の設置場所や光源数については特に限定されない。図示はしないが、各反応領域A1に対応するように光源12を複数設け、各光源12が対応する各反応領域A1に向かって励起光を直接照射する構造としてもよい。これにより各反応領域A1を光源12で直接照射できるため、励起光量をより多く採取でき、かつ励起光L1,L2の光量を個別に制御することができ、各反応領域A1に均一に励起光L1,L2を照射できる。
【0082】
励起光走査板13は、光源12から発せられる励起光L1をウェル基板11内の各反応領域A1に導くものである。前記励起光走査板13内部のスペーサ131に光源12から発せられる励起光L1が導入される。そして、前記励起光走査板13の底部には反射膜132が設けられており、ウェル基板11へ励起光L2を導入することができる。これにより、各反応領域A1内の反応液中の蛍光物質を均一な光量で励起させることができる。前記反射膜132の材料等については特に限定されないが、好適には、ダイクロックミラーを用いることが望ましい。
【0083】
また、本発明では、励起光走査板13の上部に、前記励起光L1,L2の波長光のみを透過するフィルター133を設けることが望ましい。これにより、光源12から発せられる光から励起光L2を効率よく取り出し、反応領域A1へ導くことができる。このフィルター133としては、例えば偏光フィルター等を用いることができる。
【0084】
反応領域A1に照射された励起光L2は、反応領域A1内の反応液中のプローブの蛍光物質等に照射されることで蛍光L3を発する。この蛍光L3は反応領域A1内の壁面で反射して、反応領域A1下方に設けられた蛍光検出部15で検出・測定される。
【0085】
また、本発明では、特定波長の光を取り出すことができるように、反応領域A1と蛍光検出部15との間にもフィルター14を配置できる。前記フィルター14は特定波長の光(蛍光L3等)を取り出すことができればよく、その材料は限定されないが、例えば、ダイクロイックミラーを用いることができる。
【0086】
蛍光検出部15は、反応領域A1に照射された励起光L2に応答して、インターカレートしたプローブ中の蛍光色素が励起することで発せられる蛍光を検出・測定する。
【0087】
PCR装置1では、加熱部16を各反応領域A1にそれぞれ設けている。前記加熱部16は温度制御機構を備えており、これにより前記加熱部16の反応領域A1の温度制御を行う。これにより、例えば、PCRサイクルを行う場合、熱変性→アニーリング→伸長反応のステップについてより高精度の温度制御を行うことができる。
【0088】
図15は、本発明に係る反応処理装置をPCR装置とした第2実施形態を側面視した概念図である。以下、図14に示す形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0089】
このPCR装置2は、反応領域(ウェル)A2ごとに蛍光検出部25や加熱部26を測定基板27上に備えている点では、第1の実施形態と共通する。しかし、励起光L2をウェル基板21の上方から照射して、反応領域A2内を透過した蛍光L3を検出する点等で相違する。
【0090】
PCR装置2では、光源22から発せられる励起光L1が、励起光走査板23によって反応領域A2に導かれる。励起光走査板23では、スペーサ231を励起光L1が通過し、反射膜232とフィルター233によりウェル基板21に励起光L2が導入される。
【0091】
そして、該励起光L2は、反応領域A2内の反応液中のプローブの蛍光物質等に照射されることで蛍光L3を発する。この蛍光L3は、反応領域A1の下方に設けられた蛍光検出部25で検出・測定される。
【0092】
また、温度制御は、反応領域A2下方に設けられた加熱部26により行われ、ペルチェ素子28等によって加熱サイクル等の温度制御を行なうことができる。
【0093】
一般的なPCR装置では、「熱変性→アニーリング→伸長反応」からなるサイクルを30サイクル程度行なうために25〜30分の反応時間を要する。その際、約2℃/秒の温度制御を行っている。これに対して、本発明のPCR装置では、20℃以上/秒の温度制御が可能であるため、1サイクルあたり40秒程度の時間短縮が可能となり、30サイクル全体ではおよそ25分以下の反応時間が達成できる。
【0094】
また、プライマーの設計に応じて、アニーリング時間、伸長反応時間をコントロールすることができるため、増幅率を一定倍率(例えば2倍等)に揃えることができるため、遺伝子発現量の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る反応処理装置の一実施形態に含まれる加熱部の回路構成を示す回路図である。
【図2】図1の回路動作の一状態を示す回路図である。
【図3】図1の回路動作の別の一状態を示す回路図である。
【図4】図1に示す回路構成の変形例である回路図である。
【図5】図1に示す回路構成の別の変形例である回路図である。
【図6】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図7】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図8】図1の具体的な構成例を示す回路図である。
【図9】本発明に係る反応処理装置の一実施形態に含まれる加熱部のブロック回路図である。
【図10】図8に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図11】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図12】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図13】図1に示す回路構成の更に別の変形例である回路図である。
【図14】本発明に係る反応処理装置をPCR装置として用いた第1実施形態を側面視した概念図である。
【図15】本発明に係る反応処理装置をPCR装置として用いた第2実施形態を側面視した概念図である。
【符号の説明】
【0096】
1 反応処理装置
2,3 PCR装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応領域と、該反応領域ごとに設けられた複数の加熱部と、を備え、
前記加熱部は、
熱源と、
前記加熱部を選択するための走査線と、
前記加熱実施時の加熱量情報を前記熱源へ伝達するデータ線と、
前記データ線から伝達された前記加熱量情報を取得する書き込み部と、
前記走査線が非選択となった後も加熱量情報を記憶しておく保持部と、
前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する発熱制御部と、
を備える反応処理装置。
【請求項2】
前記データ線から伝達される前記加熱量情報は信号電流であり、
前記加熱部は、前記信号電流を電圧レベルに変換する変換部を備え、
前記保持部は、前記加熱量情報を前記電圧レベルとして保持し、
前記発熱制御部は、前記保持された電圧レベルを電流レベルに変換して発熱を制御することを特徴とする請求項1に記載の反応処理装置。
【請求項3】
前記変換部は、ゲートとドレインとを電気的に接続した第1の電界効果トランジスタを備え、
前記保持部は、前記第1の電界効果トランジスタに前記信号電流を流すことで発生するゲート・ソース間の電圧を保持するキャパシタを備え、
前記発熱制御部は、前記ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を流す第2の電界効果トランジスタを備えることを特徴とする請求項2に記載の反応処理装置。
【請求項4】
前記第1の電界効果トランジスタと、前記第2の電界効果トランジスタと、は同一のトランジスタであり、
前記変換部による前記信号電流を前記電圧レベルに変換する変換動作と、前記発熱制御部による前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する制御動作と、を時分割的に行なうことを特徴とする請求項3に記載の反応処理装置。
【請求項5】
前記変換部は、前記第1の電界効果トランジスタと、ゲートとドレインとを電気的に接続された第3の電界効果トランジスタとを、含み、
前記第1の電界効果トランジスタのソースと、前記第3の電界効果トランジスタのドレインとが、電気的に接続されていることを特徴とする請求項3に記載の反応処理装置。
【請求項6】
前記加熱量情報が前記書き込み部により取得された後、次なる加熱量情報が取得されるまでの間に、前記駆動電流を遮断する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の反応処理装置。
【請求項7】
前記反応領域で遺伝子増幅反応を行なうPCR装置であることを特徴とする請求項1に記載の反応処理装置。
【請求項8】
前記反応領域に所定波長の励起光を照射する光学手段と、
前記励起光照射により発生する蛍光を検出する蛍光検出部と、を備えることを特徴とする請求項7に記載の反応処理装置。
【請求項1】
複数の反応領域と、該反応領域ごとに設けられた複数の加熱部と、を備え、
前記加熱部は、
熱源と、
前記加熱部を選択するための走査線と、
前記加熱実施時の加熱量情報を前記熱源へ伝達するデータ線と、
前記データ線から伝達された前記加熱量情報を取得する書き込み部と、
前記走査線が非選択となった後も加熱量情報を記憶しておく保持部と、
前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する発熱制御部と、
を備える反応処理装置。
【請求項2】
前記データ線から伝達される前記加熱量情報は信号電流であり、
前記加熱部は、前記信号電流を電圧レベルに変換する変換部を備え、
前記保持部は、前記加熱量情報を前記電圧レベルとして保持し、
前記発熱制御部は、前記保持された電圧レベルを電流レベルに変換して発熱を制御することを特徴とする請求項1に記載の反応処理装置。
【請求項3】
前記変換部は、ゲートとドレインとを電気的に接続した第1の電界効果トランジスタを備え、
前記保持部は、前記第1の電界効果トランジスタに前記信号電流を流すことで発生するゲート・ソース間の電圧を保持するキャパシタを備え、
前記発熱制御部は、前記ゲート・ソース間の電圧に応じた電流を流す第2の電界効果トランジスタを備えることを特徴とする請求項2に記載の反応処理装置。
【請求項4】
前記第1の電界効果トランジスタと、前記第2の電界効果トランジスタと、は同一のトランジスタであり、
前記変換部による前記信号電流を前記電圧レベルに変換する変換動作と、前記発熱制御部による前記加熱量情報に基づいて前記熱源の発熱を制御する制御動作と、を時分割的に行なうことを特徴とする請求項3に記載の反応処理装置。
【請求項5】
前記変換部は、前記第1の電界効果トランジスタと、ゲートとドレインとを電気的に接続された第3の電界効果トランジスタとを、含み、
前記第1の電界効果トランジスタのソースと、前記第3の電界効果トランジスタのドレインとが、電気的に接続されていることを特徴とする請求項3に記載の反応処理装置。
【請求項6】
前記加熱量情報が前記書き込み部により取得された後、次なる加熱量情報が取得されるまでの間に、前記駆動電流を遮断する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の反応処理装置。
【請求項7】
前記反応領域で遺伝子増幅反応を行なうPCR装置であることを特徴とする請求項1に記載の反応処理装置。
【請求項8】
前記反応領域に所定波長の励起光を照射する光学手段と、
前記励起光照射により発生する蛍光を検出する蛍光検出部と、を備えることを特徴とする請求項7に記載の反応処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−6286(P2009−6286A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171262(P2007−171262)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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