説明

反応性スパッタリング装置及び成膜方法

【課題】スパッタリングで形成される薄膜の成膜速度をリアルタイムかつ高精度にモニターでき、該薄膜の膜厚や光学特性を制御可能な反応性スパッタリング装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】反応ガスの活性種存在下で金属ターゲット1,2をキャリアガスによりスパッタリングして基板11上に前記金属化合物の薄膜を形成する成膜室S1,S2を備え、外部から成膜室S1,S2内の成膜中のプラズマ発光について発光スペクトルを検知するプラズマ検知器5,6により、成膜中のプラズマ発光について前記金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって前記薄膜の成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と成膜速度との関係に基づいて、該成膜中の成膜速度が検出され、所望の膜厚の薄膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性スパッタリング装置及び該反応性スパッタリング装置を使用した成膜方法に関するものであり、とくに光学膜を形成するための反応性スパッタリング装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置は、スパッタリング現象を利用して半導体ウェハ、ガラス基板などのウェハに薄膜形成する装置である。すなわち、真空中にArなど不活性ガスを導入し、グロー放電させ、プラズマ中のArがターゲットに衝突してターゲット原子をはじき出し(スパッタし)、スパッタされた原子が陽極に置かれたウェハ表面に沈着して薄膜を形成する。
【0003】
ターゲットは、スパッタリングにより消耗し、とくにマグネトロンスパッタリング装置ではマグネトロン運動に伴う電子の軌道上の消耗が激しい(エロージョン領域)。ここで、このターゲット消耗によりターゲットとウェハ表面の距離、あるいはターゲット表面の平坦性が失われていき、スパッタ効率(成膜速度)がターゲット消耗の進行につれて変化していくようになる。
【0004】
スパッタリングにおける成膜速度は、前記ターゲット消耗のほかにターゲット電圧やガス導入量といった各種条件により制御されており、成膜速度を精度良く制御するには、これら全てについて厳密にコントロールする必要がある。
【0005】
スパッタリング装置の膜厚は、通常プラズマを発生させている時間で管理されている。しかしながら、ターゲットの消耗や成膜条件のばらつきや変化が複合的にスパッタリング状態に作用し、成膜速度が予測不可能な状態で変化することから、前記時間制御による方法では成膜速度を精度良く制御することは困難であった。また、光学素子(ビームスプリッター、フィルター等)においては該光学素子を構成する光学膜の膜厚誤差が±5%以内になるように制御する必要があった。
【0006】
以上のように、スパッタリングによる成膜において膜厚をリアルタイムかつ高精度に制御を行うことのできる方式が望まれており、詳しくは成膜速度を容易に且つ精度良くリアルタイムにモニタリングし、制御する方法及び装置が望まれていた。
【0007】
ここで、スパッタリング装置において膜厚をモニタリングする方法としては、装置に検出用の窓を設けて、成膜室外部からプラズマガス中の所定の原子または分子の発光スペクトルもしくはマススペクトルを測定し、その積分値を求め、その積分値が所定値に達したことを検知する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法により成膜初期のモニターは可能であるが、成膜中にターゲット分子が検出用の窓に次第に沈着し光学的な透過特性の変化が生じてしまい、見かけ上の発光スペクトルの発光強度シグナルが増減し正確な膜厚制御が困難であった。
【0008】
また、近年では高度な光学素子を生産性よく製造する目的で、屈折率の異なる複数のターゲットを用いて所望の屈折率の薄膜を成膜する装置が提案されている。しかしながら、複数のターゲットごとの成膜について、それぞれ精度良くリアルタイムに成膜速度を制御することは困難であった。
【0009】
【特許文献1】特開平5−175165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、スパッタリングにより形成される薄膜の成膜速度をリアルタイムかつ高精度にモニターでき、該薄膜の膜厚や光学特性を制御可能な反応性スパッタリング装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために提供する請求項1の発明は、反応ガスの活性種存在下で金属ターゲットをキャリアガスによりスパッタリングして基板上に前記金属の化合物からなる薄膜を形成する成膜室を備える反応性スパッタリング装置において、前記成膜室は、外部から該成膜室内の成膜中のプラズマ発光について発光スペクトルを検知する検知手段を有し、該検知手段により成膜中のプラズマ発光について前記金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって前記薄膜の成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と成膜速度との関係に基づいて、該成膜中の成膜速度が検出され、所望の膜厚の薄膜が形成されることを特徴とする反応性スパッタリング装置である。
【0012】
また、前記課題を解決するために提供する請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記成膜速度の検出結果に基づいて、前記キャリアガスの流量、反応ガスの流量、投入電力の少なくともいずれか1つを調整して前記成膜速度が制御されることを特徴とする反応性スパッタリング装置である。
【0013】
前記課題を解決するために提供する請求項3の発明は、反応ガスの活性種存在下で金属ターゲットをキャリアガスによりスパッタリングして基板上に前記金属の不完全反応物からなる中間薄膜を形成する複数の成膜室と、前記反応ガスの活性種と前記中間薄膜とを反応させて光学膜を形成させるラジカル反応室とを備える反応性スパッタリング装置において、前記成膜室それぞれは、該成膜室ごとに種類が異なり、屈折率の異なる光学膜を形成することのできる金属ターゲットと、外部から該成膜室内の成膜中のプラズマ発光について発光スペクトルを検知する検知手段を有し、該検知手段により成膜中のプラズマ発光について前記金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって前記光学膜としての成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と成膜速度との関係に基づいて、該成膜中の成膜速度が検出されるものであり、前記成膜室の1つで成膜速度を検出しながら中間薄膜を形成し、該中間薄膜について前記反応ラジカル室で前記反応ガスの活性種と反応させることにより所定膜厚の光学膜を形成することを、同一基板上に前記成膜室ごとで繰り返して行って、屈折率の異なる光学膜が積層された光学多層膜が作製されることを特徴とする反応性スパッタリング装置である。
【0014】
また、前記課題を解決するために提供する請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記同一基板上に前記成膜室ごとに成膜速度を検出しながらそれぞれの薄膜を積層することを繰り返すことで1つの中間薄膜を形成し、該中間薄膜について前記反応ラジカル室で前記反応ガスの活性種と反応させて、所望の屈折率の光学膜が形成されることを特徴とする反応性スパッタリング装置である。
【0015】
前記課題を解決するために提供する請求項5の発明は、反応ガスの活性種存在下で金属ターゲットをキャリアガスによりスパッタリングして基板上に前記金属の化合物からなる薄膜を形成する成膜工程を有する成膜方法において、前記成膜工程では、成膜中のプラズマ発光について前記金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって前記薄膜の成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と前記成膜速度との関係に基づいて、該成膜中の成膜速度を検出することを特徴とする成膜方法である。
【0016】
また、前記課題を解決するために提供する請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記成膜速度の検出結果に基づいて、前記キャリアガスの流量、反応ガスの流量、投入電力の少なくともいずれか1つを調整することにより前記成膜速度を制御することを特徴とする成膜方法である。
【0017】
また、前記課題を解決するために提供する請求項7の発明は、請求項5の発明において、前記金属ターゲットはNbからなり、前記成膜された薄膜に対して前記反応ガスの活性種をさらに反応させてNbからなる光学膜を形成することを特徴とする成膜方法である。
【0018】
また、前記課題を解決するために提供する請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記金属のスペクトル強度は、表面が金属状態にあるNbターゲットをスパッタリングし酸素ガスの活性種と反応させてNb酸化物膜を形成するとき(メタルモード成膜時)のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトル強度と、表面が酸化物状態にあるNbターゲットをスパッタリングしてNb酸化物膜を形成するとき(酸化モード成膜時)のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトル強度との合計強度であり、ベースとなるスペクトル強度はNb及びキャリアガスの重畳スペクトルが現れる波長のスペクトル強度であることを特徴とする成膜方法である。
【0019】
また、前記課題を解決するために提供する請求項9の発明は、請求項8の発明において、前記メタルモード成膜時のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトル強度と、前記酸化モード成膜時のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトル強度との比に基づいて、前記Nb光学膜の屈折率を検知することを特徴とする成膜方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の効果として、請求項1,2の発明によれば、光学的な膜厚がリアルタイムかつ高精度に制御された光学膜を作製することができる。
また、請求項3の発明によれば、各層の光学膜について膜厚をリアルタイムかつ高精度に制御することにより、設計者の意図する光学特性を容易に得ることができ、高精度かつ高品質な光学多層膜を作製することができ、高精度且つ高品質な光学素子(ビームスプリッター、フィルター等)の生産に大きく寄与することができる。
また、請求項4の発明によれば、屈折率、膜厚がリアルタイムかつ高精度に制御された中間屈折率膜を作製することができる。前記光学多層膜の層の一部に任意の中間屈折率を有する光学膜(中間屈折率膜)を形成することで、光学多層膜の積層数を削減することができたり、従来実現できなかった光学特性を有する光学素子を容易に生産したりすることが可能となる。
請求項5〜9の発明によれば、成膜中の成膜速度をリアルタイムに制御することにより、光学膜などの薄膜量産時にターゲット消耗によるエロージョン変化等による成膜速度への影響を排除することができ、光学特性の安定した薄膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係る反応性スパッタリング装置の構成について説明する。なお、本発明では、マグネトロンスパッタ、マグネトロン放電を用いない2極スパッタ、ECRスパッタ、バイアススパッタ等、種々の公知のスパッタ方式が適用可能である。
【0022】
本発明に係る反応性スパッタリング装置は、反応ガスの活性種存在下で金属ターゲットをキャリアガスによりスパッタリングして基板上に前記金属の化合物からなる薄膜を形成する成膜室を備え、前記成膜室は、外部から該成膜室内の成膜中のプラズマ発光について発光スペクトルを検知する検知手段を有し、該検知手段により成膜中のプラズマ発光について前記金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって前記薄膜の成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と成膜速度との関係に基づいて、該成膜中の成膜速度が検出され、所望の膜厚の薄膜が形成される装置である。
【0023】
より具体的には、本発明に係る反応性スパッタリング装置は、反応ガスの活性種存在下で金属ターゲットをキャリアガスによりスパッタリングして基板上に前記金属の不完全反応物からなる中間薄膜を形成する複数の成膜室と、前記反応ガスの活性種と前記中間薄膜とを反応させて光学膜を形成させるラジカル反応室とを備え、前記成膜室それぞれは、該成膜室ごとに種類が異なり、屈折率の異なる光学膜を形成することのできる金属ターゲットと、外部から該成膜室内の成膜中のプラズマ発光について発光スペクトルを検知する検知手段を有し、該検知手段により成膜中のプラズマ発光について前記金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって前記光学膜としての成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と成膜速度との関係に基づいて、該成膜中の成膜速度が検出されるものであり、前記成膜室の1つで成膜速度を検出しながら中間薄膜を形成し、該中間薄膜について前記反応ラジカル室で前記反応ガスの活性種と反応させることにより所定膜厚の光学膜を形成することを、同一基板上に前記成膜室ごとで繰り返して行って、屈折率の異なる光学膜が積層された光学多層膜が作製される装置である。
【0024】
図1に、本発明の反応性スパッタリング装置の構成例を示す。
図1に示すように、反応性スパッタリング装置10は、真空槽8内に、薄膜が形成される基板11を保持する基板ホルダ3と、基板ホルダ3を駆動するための駆動手段(図示せず)と、仕切壁W及び基板ホルダ3により仕切られ薄膜を形成するための空間である第1の成膜室S1,第2の成膜室S2,ラジカル反応室Rとを備えている。
【0025】
真空槽8は、該真空槽8内を排気するための真空ポンプ(図示せず)が接続されており、真空槽8内を任意の真空度に調整できるように構成されている。
【0026】
基板ホルダ3は、ドラム形状であり、真空槽8内の略中央に配置され、基板11を保持した状態でドラムの長手方向の中心軸を中心に回転する。また、基板ホルダ3が図中時計回り方向に回転し、それに伴って基板11は第1の成膜室S1、ラジカル反応室R、第2の成膜室S2を順に通るように搬送される。
【0027】
第1の成膜室S1には、基板ホルダ3の外周面に対向するように平板形状のターゲット1が配置され、該ターゲット1はスパッタ電源に接続されたスパッタ電極(図示せず)上に固定されている。また、第2の成膜室S2でも同様に、基板ホルダ3の外周面に対向するように平板形状のターゲット2が配置され、該ターゲット2はスパッタ電源に接続されたスパッタ電極(図示せず)上に固定されている。なお、ターゲット1,2は、金属ターゲットであり、例えばSi,Nb,Sn,In,Znあるいはこれらの合金からなるものである。
【0028】
また、第1の成膜室S1、第2の成膜室S2それぞれには、室内にガスを導入するための配管が接続されており、図示していないマスフローコントローラにより流量調整されたキャリアガス各室内に導入されるようになっている。また、第1の成膜室S1、第2の成膜室S2それぞれには、隣接するラジカル反応室Rから反応ガスの活性種が仕切壁Wと基板ホルダ3との間隙を通って入ってくるようになっている。あるいは、第1の成膜室S1、第2の成膜室S2それぞれに、配管によりキャリアガスを導入するとともに、及び反応ガスの活性種を発生する反応装置を設けて該反応装置から反応ガスの活性種を供給するようにしてもよい。いずれの場合にも、第1の成膜室S1、第2の成膜室S2では、それぞれ反応ガスの活性種存在下でターゲット1,2がキャリアガスによってスパッタリングされることとなる。
【0029】
なお、キャリアガスは不活性ガスであり例えばアルゴンガスが使用される。また、反応ガスは、例えば酸素ガス、窒素ガス、フッ素ガス、オゾンガスなどが使用される。
【0030】
また、第1の成膜室S1には石英などからなる透明な測定窓w1が設けられており、該測定窓w1外部からターゲット1と対向する基板8との間の中間位置からの光を導入する光導入口を設置し、さらに該光導入口を通して第1の成膜室S1内に発生するプラズマ発光P1の発光スペクトルの分光強度を測定するプラズマ検知器5を備えている。
【0031】
また、第2の成膜室S2には石英などからなる測定窓w2が設けられており、該測定窓w2外部からターゲット2と対向する基板8との間の中間位置からの光を導入する光導入口を設置し、さらに該光導入口を通して第2の成膜室S2内に発生するプラズマ発光P2の発光スペクトルの分光強度を測定するプラズマ検知器6を備えている。
【0032】
ラジカル反応室Rには反応ガスの活性種(イオンやラジカル)を発生する反応装置(図示せず)が基板ホルダ3の外周面に対向するように設置されている。また、前記反応装置は、公知の反応ガスの活性種を発生する装置であり、例えばマスフローコントローラにより流量調整された反応ガスを供給する供給手段、該反応ガスのプラズマを発生させる反応ガスプラズマ発生室からなるラジカル源と、前記プラズマの構成要素を選択するグリッドとからなり、反応ガスプラズマ中の活性種であるラジカル、励起状態のラジカル、原子、分子などを選択的にラジカル反応室Rに供給するようになっている。
【0033】
また、ラジカル反応室Rにも石英などからなる測定窓w3が設けられており、該測定窓w3外部からラジカル反応室Rの中央位置からの光を導入する光導入口を設置し、さらに該光導入口を通してラジカル反応室R内に発生するプラズマ発光の発光スペクトルの分光強度を測定するプラズマ検知器7を備えている。
【0034】
ここで、本発明の根幹をなす成膜中の成膜速度の検出機構について第1の成膜室S1を例に説明する。
すなわち、反応性スパッタリング装置10の成膜速度の検出機構とは、プラズマ検知器5(検知手段)により測定窓w1を通してターゲット1を用いた成膜中のプラズマ発光の発光スペクトルの分光強度を測定するが、この発光スペクトルのうちターゲット1を構成する金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって成膜している薄膜の成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と成膜速度との関係に基づいて、成膜中の成膜速度を検出するものである。
【0035】
前記成膜速度の検出機構について、より詳しく説明するために、ターゲット1を金属Nbターゲットとし、キャリアガスをアルゴンガス、反応ガスを酸素ガスとし、Nb膜を形成する場合の第1の成膜室S1における成膜速度の検出機構を例にとり説明する。
【0036】
この場合のプラズマ発光の分光発光強度を測定した例を図2に示す。
Nbターゲットからの発光スペクトルは400〜420nmの波長領域においていくつかのピークスペクトルが発生する。ここでは、波長406nm(Nb1)、408nm(Nb2)、410nm(Nb3)、416nm(Nb4)にNbに由来するピークスペクトルがあり、波長420nm(Nb5)にNb及びキャリアガスの重畳ピークスペクトルが現れている。
【0037】
このうち、波長406nm(Nb1)、408nm(Nb2)、410nm(Nb3)のピークスペクトルは、表面が金属状態にあるNbターゲットをスパッタリングし酸素ガスの活性種と反応させてNb酸化物膜を形成するとき(メタルモード成膜時)のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトルである。また、波長416nm(Nb4)のピークスペクトルは、表面が酸化物状態にあるNbターゲットをスパッタリングしてNb酸化物膜を形成するとき(酸化モード成膜時)のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトルである。
【0038】
本事例では、成膜中に波長406nm(Nb1)、408nm(Nb2)、410nm(Nb3)のピークスペクトルのいずれかのスペクトル強度と、波長416nm(Nb4)のピークスペクトルのスペクトル強度との合計強度(金属のスペクトル強度)と、波長420nm(Nb5)のピークスペクトルのスペクトル強度(ベースとなるスペクトル強度)との比(スペクトル強度比)をモニターする。このスペクトル強度比は、常に成膜している薄膜(Nb酸化物膜)の成膜速度に比例した一定値を示すものである。
【0039】
成膜中に測定窓w1に膜が付着し該測定窓w1の透過特性が変化するため、従来のように測定窓w1を通してプラズマ発光の発光スペクトルを測定し該発光スペクトルの絶対値を積分して膜厚を求める方法では、その測定窓w1の透過ロスの影響を受けて膜厚の測定誤差を生じることになる。
【0040】
これに対して、本発明においては、前記スペクトル強度比は相対値であるため、成膜中に測定窓w1に膜が付着し該測定窓w1の透過特性が変化してもその影響を受けない。そのため、予め前記スペクトル強度比と成膜速度との関係を求めておけば、成膜中の薄膜の成膜速度をリアルタイムに精度良くモニターすることができる。
【0041】
本事例の場合の成膜速度を求める式の例(式(1))を以下に示す。
(成膜速度)=[Nb3(410nm)+Nb4(416nm)]/Nb5(420nm)×a ・・・ (1)
ここで、Nb3、Nb4、Nb5は各波長のスペクトル強度、aは補正係数である。
【0042】
なお、上式(1)において、スペクトル強度Nb3に代えて、スペクトル強度Nb1(406nm)、Nb2(408nm)を用いてもよい。
【0043】
表1に、本事例の条件で実際に成膜速度をモニターした結果を示す。
ここで、実際の成膜速度は得られたNb酸化物膜の分光反射率から求められた実膜厚を成膜時間で除したものであり、モニター成膜速度は式(1)においてa=1/7.7743とした場合の演算結果である。実際の成膜速度ごとに前記スペクトル強度比は一定値を示し、かつ実際の成膜速度の増加に比例して該スペクトル強度比も増加する。
【0044】
【表1】

【0045】
また、別事例としてターゲット1をSiターゲットとし、キャリアガスをアルゴンガス、反応ガスを酸素ガスとし、SiO膜を形成する場合の第1の成膜室S1における成膜速度の検出機構を考えると、成膜中に、波長707nm(Si)のピークスペクトルのスペクトル強度(金属のスペクトル強度)と、波長750nm(Ar)のピークスペクトルのスペクトル強度と波長810nm(O)のピークスペクトルのスペクトル強度の合計強度(ベースとなるスペクトル強度)との比(スペクトル強度比)をモニターする。このスペクトル強度比は、常に成膜している薄膜(Si酸化物膜)の成膜速度に比例した一定値を示すものである。
【0046】
また、本事例の場合の成膜速度を求める式の例(式(2))を以下に示す。
(成膜速度)=Si(707nm)/{[Ar(750nm)+O(810nm)]/2}×b ・・・ (2)
ここで、Si、Ar、Oは各波長のスペクトル強度、bは0.1〜10の範囲内の数値をとる補正係数である。
【0047】
表2に、本事例の条件で実際に成膜速度をモニターした結果を示す。
ここで、実際の成膜速度は得られたSi酸化物膜の分光反射率から求められた実膜厚を成膜時間で除したものであり、モニター成膜速度は式(2)においてb=1.20748とした場合の演算結果である。
【0048】
【表2】

【0049】
なお、第2の成膜室S2も、以上のような成膜中の成膜速度の検出機構を備えている。
【0050】
つぎに、前記成膜速度のモニター結果に基づいてリアルタイムに成膜速度を制御する方式について説明する。
【0051】
反応性スパッタリング装置10は、前記のようにプラズマ検知器5の成膜中のプラズマ発光の発光スペクトルの分光強度測定結果に基づき、リアルタイムで成膜速度を検出する検出部と、検出された成膜速度の信号を受けて成膜速度を制御する成膜速度制御ユニットとを備える。成膜速度制御ユニットは、複数のターゲットを有する場合、それぞれのターゲットについて独立して成膜速度を制御することが可能である。
【0052】
この成膜速度制御ユニットは、例えば成膜速度の検出信号を基にスパッタ電極への投入電力(RF電力)、キャリアガス流量、反応ガス流量、真空槽内圧力といったスパッタパラメータを可変させて成膜速度が所望の値になるようフィードバック制御回路を有する。このような制御機構は従来よりすでにいくつか提案されているが、本発明では成膜速度の設定値とモニター成膜速度(実測値)の差の大きさによって、変更するスパッタパラメータを逐次選択する方式をとる。
【0053】
図3に本方式の検証結果を示す。図3ではターゲット1を金属Nbターゲットとし、キャリアガスをアルゴンガス、反応ガスを酸素ガスとし、Nb膜を形成する場合の第1の成膜室S1における成膜速度の制御の様子を示している。また、図中の(1)で囲まれた領域は第2の成膜室S2におけるAr流量を5%増加、減少させた場合、(2)は第1の成膜室S1におけるAr流量を5%増加、減少させた場合、(3)はラジカル反応室Rにおける酸素流量を5%増加させた場合、(4)はラジカル反応室Rにおける酸素流量を5%減少させた場合、(5)は投入電力(RF電力)を5%増加させた場合、(6)は投入電力(RF電力)を5%減少させた場合のそれぞれの成膜速度の変化を示している。
【0054】
図中、成膜速度を最も大きく変化させることができたのは投入電力(RF電力)であったが、スパッタリング状態は急激に変化し不安定な状態となった。このような不安定なスパッタリング状態は成膜される光学膜の光学特性や膜組成に悪影響を与えるため、成膜中の投入電力の調整はなるべく避けるべきである。一方、キャリアガスであるAr流量によっては成膜速度はわずかに変化する程度であったが、スパッタリング状態が不安定になることはなかった。さらに、反応ガスである酸素ガス流量を増減させると成膜速度の変化やスパッタリング状態の変化は、投入電力を増減させた場合とキャリアガス流量を増減させた場合との中間的な挙動を示した。これらの結果に基づいて、成膜速度の設定値とモニター成膜速度のずれ量に応じて、投入電力(RF電力)、キャリアガス流量、反応ガス流量のいずれかを選択し調整することで、実際の成膜速度が設定した成膜速度となるようスパッタリング状態を安定させたまますばやく成膜速度を変化させることができた。
【0055】
前述のように反応性スパッタリング装置10において成膜速度の検出機構及び制御機構を用いることで、第1の成膜室S1(ターゲット1がNbターゲット)で成膜速度を検出し該成膜速度が設定値となるようにスパッタパラメータを制御しながら中間薄膜(Nb酸化物膜)を形成し、該中間薄膜について反応ラジカル室Rで酸素ガスの活性種と反応させることにより所定膜厚のNb光学膜を形成し、ついで第2の成膜室S2(ターゲット2がSiターゲット)で成膜速度を検出し該成膜速度が設定値となるようにスパッタパラメータを制御しながら中間薄膜(Si酸化物膜)を形成し、該中間薄膜について反応ラジカル室Rで酸素ガスの活性種と反応させることにより所定膜厚のSiO光学膜を形成することを、同一基板上に前記成膜室S1,S2ごとで繰り返して行って、屈折率の異なる光学膜が積層された高品質の光学多層膜を作製することができる。
【0056】
また、同一基板上に前記成膜室S1,S2ごとに成膜速度を検出しそれぞれの成膜速度が設定値となるようにスパッタパラメータを制御しながらそれぞれの薄膜(Nb酸化物膜、Si酸化物膜)を積層することを繰り返すことで1つの中間薄膜を形成し、該中間薄膜について前記反応ラジカル室で前記反応ガスの活性種と反応させて、所望の屈折率の光学膜が形成される。この場合の光学膜の屈折率は、それぞれのターゲット単独で作製される光学膜の屈折率が既知であれば、それぞれの成膜速度の比を調整すること所望の屈折率とすることができる。すなわち、第2の成膜室S2及びラジカル反応室Rにより形成される光学膜(例えばSiO光学膜)の屈折率から、第1の成膜室S1及びラジカル反応室Rにより形成される光学膜(例えばNb光学膜)の屈折率までの屈折率範囲内で所望の屈折率(中間屈折率)とすることができる。
【0057】
なお、中間屈折率の光学膜作製の際、ターゲット単独で作製される光学膜の屈折率がスパッタ条件により変化するものである場合には、成膜中の該当する薄膜の屈折率の検知が必要となる。ここでは、Nb光学膜を例にとり、屈折率検知機構(成膜モード検知機構)について説明する。
【0058】
酸素ガスの活性種存在下でNbターゲットをArガスによりスパッタリングする際には、Nbターゲットの表面状態により成膜速度が大きく変わる。図4にその様子を示す。ターゲット表面が金属状態にあるNbターゲットをスパッタリングし酸素ガスの活性種と反応させてNb酸化物膜を形成するとき(メタルモード成膜時)はその成膜速度は大きく(メタルモード成膜領域)、ターゲット表面が酸化物状態にあるNbターゲットをスパッタリングしてNb酸化物膜を形成するとき(酸化モード成膜時)の成膜速度は小さい(酸化モード成膜領域)。またそれらの中間領域は成膜速度が大きく変化する遷移領域となっている。
【0059】
また、Nb光学膜として膜の光吸収や光散乱が小さい(光ロスが少ない)安定した組成(ストイキオメトリ)となる領域は前記遷移領域に属することが知られている。しかしながら、遷移領域では成膜速度の変動が大きく、成膜速度からのプロセス制御は困難である。そこで成膜中の成膜モードの状態を検知すれば遷移領域内でも安定したプロセス制御が期待できる。
【0060】
前述の通り、成膜中のプラズマ発光について、Nbターゲットからの発光スペクトルは波長400〜420nmの領域で複数のピークスペクトルが発生しており、メタルモード成膜では波長408nmのピークスペクトル、酸化モード成膜では波長416nmのピークスペクトルがそれぞれの成膜モードの主スペクトルである(図5)。ここで、メタルモード成膜の主スペクトル(波長408nm)と酸化モード成膜の主スペクトル(波長416nm)の発光強度比から成膜領域を判断することが可能である。また、メタルモード成膜の主スペクトル(波長408nm)に代えて、波長406nm(Nb1)、410nm(Nb3)のピークスペクトルのいずれかを用いてもよい。
【0061】
表3に、本事例の条件で投入電力と酸素ガス/Arガス比とを調整することにより屈折率を変更して成膜した結果を示す。
ここで、屈折率は、得られたNb酸化物膜について波長510nmの光に対する屈折率を測定したものであり、スペクトル強度比は成膜中にモニターしたスペクトル強度Nb2(波長408nm)とNb4(波長416nm)の比である。成膜されるNb酸化物膜の屈折率とスペクトル強度比との間には一定の相関関係があることから、成膜中のプラズマ発光について検知される発光スペクトルからNb光学膜の屈折率のリアルタイム検知が可能である。したがって、検知された屈折率に基づいて該屈折率が設定値となるように前記成膜速度制御機構を用いてスパッタパラメータを制御しながらNb光学膜を形成することも可能である。
【0062】
【表3】

【0063】
つぎに、本発明の反応性スパッタリング装置10を用いた成膜方法の第1の実施の形態について説明する。本発明の成膜方法によれば、つぎの手順で薄膜を製造することができる。ここでは、ターゲット1を金属Nbターゲットとした第1の成膜室S1とラジカル反応室Rを使用し、5酸化ニオブ(Nb)の光学膜を形成する場合を説明する。
【0064】
(S11)基板11を基板ホルダ3に保持させ、ターゲット1をスパッタ電極の所定位置に配置する。
(S12)真空槽8内を真空排気し第1の成膜室S1及びラジカル反応室R内を所定圧力以下にするとともに、基板ホルダ3を回転させる。
(S13)第1の成膜室S1内にキャリアガスとしてArガスを流量調整しながら導入し、所定圧力とする。
(S14)ラジカル反応室Rの反応装置に酸素ガスを導入し、該反応装置から酸素ガスの活性種をラジカル反応室R内に供給する。このとき、酸素ガスの活性種は第1の成膜室S1にも供給される。
(S15)つぎに、第1の成膜室S1のスパッタ電極に電力を投入する。これにより、ターゲット1上にはプラズマが発生し、該ターゲット1のスパッタが開始される。
【0065】
(S16)測定窓w1を通して第1の成膜室S1内に発生するプラズマ発光P1の発光スペクトルの分光強度をプラズマ検知器5が測定し、上式(1)に基づいて成膜速度をリアルタイムで検出する。同時に、成膜速度制御ユニットが検出された成膜速度の信号を受けて設定された成膜速度となるようにスパッタパラメータを制御する。
(S17)第1の成膜室S1のスパッタリング状態が安定し、成膜速度が設定値となったら、基板ホルダ3上の基板11に成膜を開始する。
【0066】
(S18)成膜としては、まず第1の成膜室S1にて基板11上にNbの不完全酸化物からなる中間薄膜が形成される。
(S19)ついで、基板11がラジカル反応室Rに搬送され、基板11上の中間薄膜に対して酸素ガスの活性種をさらに反応させてNb光学膜を形成させる。
(S1a)基板ホルダ3を連続して回転させ、ステップS18,S19を繰り返して行い、所定膜厚のNb光学膜を得る。この間、ステップS16と同様に成膜速度を検出し、成膜速度が設定値となるようにスパッタパラメータを制御する。これにより、設計膜厚通りのNb光学膜が得られる。詳しくは、Nb光学膜量産時にNbターゲット消耗によるエロージョン変化等による成膜速度への影響を排除することができる。
【0067】
なお、前記工程の中で成膜速度制御と合わせて、成膜中の成膜モードの状態を検知し、遷移領域の成膜モードとなるようにスパッタパラメータを制御すれば膜厚精度が良くかつ高品質のNb光学膜が得られる。
【0068】
つぎに、本発明の反応性スパッタリング装置10を用いた成膜方法の第2の実施の形態について説明する。本発明の成膜方法によれば、つぎの手順で光学多層膜を製造することができる。ここでは、ターゲット1を金属Nbターゲット、ターゲット2をSiターゲットとし、第1の成膜室S1、第2の成膜室S2、ラジカル反応室Rを使用し、5酸化ニオブ(Nb)光学膜と酸化シリコン(SiO)光学膜の光学多層膜を形成する場合を説明する。
【0069】
(S21)基板11を基板ホルダ3に保持させ、ターゲット1(Nbターゲット)を第1の成膜室S1のスパッタ電極の所定位置に、ターゲット2(Siターゲット)を第2の成膜室S2のスパッタ電極の所定位置に配置する。
(S22)真空槽8内を真空排気し第1の成膜室S1、第2の成膜室S2、ラジカル反応室R内を所定圧力以下にするとともに、基板ホルダ3を回転させる。
(S23)第2の成膜室S2内にキャリアガスとしてArガスを流量調整しながら導入し、所定圧力とする。
(S24)ラジカル反応室Rの反応装置に酸素ガスを導入し、該反応装置から酸素ガスの活性種をラジカル反応室R内に供給する。このとき、酸素ガスの活性種は第2の成膜室S2にも供給される。
(S25)つぎに、第2の成膜室S2のスパッタ電極に電力を投入する。これにより、ターゲット2上にはプラズマが発生し、該ターゲット2のスパッタが開始される。
【0070】
(S26)測定窓w2を通して第2の成膜室S2内に発生するプラズマ発光P2の発光スペクトルの分光強度をプラズマ検知器6が測定し、上式(2)に基づいて成膜速度をリアルタイムで検出する。同時に、成膜速度制御ユニットが検出された成膜速度の信号を受けて設定された成膜速度となるようにスパッタパラメータを制御する。
(S27)第2の成膜室S2のスパッタリング状態が安定し、成膜速度が設定値となったら、基板ホルダ3上の基板11に成膜を開始する。
【0071】
(S28)成膜としては、まず第2の成膜室S2にて基板11上にSiの不完全酸化物からなる中間薄膜が形成される。
(S29)ついで、基板11がラジカル反応室Rに搬送され、基板11上の中間薄膜に対して酸素ガスの活性種をさらに反応させてSiO光学膜を形成させる。
(S2a)基板ホルダ3を連続して回転させ、ステップS28,S29を繰り返して行い、所定膜厚のSiO光学膜を得る。この間、ステップS26と同様に成膜速度を検出し、成膜速度が設定値となるようにスパッタパラメータを制御する。これにより、設計膜厚通りのSiO光学膜が得られる。
【0072】
(S2b)つぎに前記ステップS13〜S1aの処理を行い、前記SiO光学膜上にNb光学膜を形成する。
(S2c)ステップS23〜S2bの処理を繰り返して行い、所定積層数の光学多層膜を得る。これにより各層が設計膜厚通りとなった高品質の光学多層膜を得ることができる。
【0073】
なお、前記光学多層膜のうち、例えば1層が中間屈折率膜となるように成膜してもよい。この場合、ステップS23〜S2b処理の繰り返しの中の一部をつぎの手順に代えることで中間屈折率膜を製造することができる。
【0074】
(S31)第1の成膜室S1、第2の成膜室S2それぞれの室内にキャリアガスとしてArガスを流量調整しながら導入し、所定圧力とする。
(S32)ラジカル反応室Rの反応装置に酸素ガスを導入し、該反応装置から酸素ガスの活性種をラジカル反応室R内に供給する。このとき、酸素ガスの活性種は、第1の成膜室S1及び第2の成膜室S2にも供給される。
(S33)つぎに、第1の成膜室S1、第2の成膜室S2それぞれのスパッタ電極に電力を投入する。これにより、ターゲット1、ターゲット2上にはそれぞれプラズマが発生し、ターゲット1、ターゲット2のスパッタが開始される。
【0075】
(S34)測定窓w1を通して第1の成膜室S1内に発生するプラズマ発光P1の発光スペクトルの分光強度をプラズマ検知器5が測定し、上式(1)に基づいて成膜速度をリアルタイムで検出する。同時に、成膜速度制御ユニットが検出された成膜速度の信号を受けて設定された成膜速度となるようにスパッタパラメータを制御する。同時に、測定窓w2を通して第2の成膜室S2内に発生するプラズマ発光P2の発光スペクトルの分光強度をプラズマ検知器6が測定し、上式(2)に基づいて成膜速度をリアルタイムで検出する。同時に、成膜速度制御ユニットが検出された成膜速度の信号を受けて設定された成膜速度となるようにスパッタパラメータを制御する。この場合、目標の中間屈折率となるように前記式(1)に基づいた成膜速度、前記式(2)に基づいた成膜速度はそれぞれ設定されている。
(S35)第1の成膜室S1、第2の成膜室S2のスパッタリング状態が安定し、それぞれの成膜速度が設定値となったら、基板ホルダ3上の基板11に成膜を開始する。
【0076】
(S36)成膜としては、まず第2の成膜室S2にて基板11上にSiの不完全酸化物からなる中間薄膜Aが形成される。
(S37)ついで基板11は第1の成膜室S1に搬送され、中間薄膜A上にNbの不完全酸化物からなる中間薄膜Bが形成される。ここで、中間薄膜A,Bはそれぞれごく薄い膜であるため、Si酸化物とNb酸化物を同時スパッタした場合と同じような薄膜となっている。
(S38)ついで、基板11がラジカル反応室Rに搬送され、基板11上の中間薄膜A,Bに対して酸素ガスの活性種をさらに反応させてSiO+Nbからなる中間屈折率膜を形成させる。
(S39)基板ホルダ3を連続して回転させ、ステップS36〜S38の処理を繰り返して行い、所定膜厚の中間屈折率膜を得る。
【実施例】
【0077】
本発明の反応性スパッタリング装置を用いて、実際に成膜した例を以下に示す。
(実施例1)
本発明の反応性スパッタリング装置10を用い、ターゲット1を金属Nbターゲットとした第1の成膜室S1とラジカル反応室Rを使用して、前記ステップS11〜S1aによる成膜方法にて5酸化ニオブ(Nb)の光学膜を形成した。ここでは、目標膜厚を3水準とし、得られたNb膜の実膜厚を分光反射率から求め、モニター膜厚を式(1)に基づいたモニター成膜速度の成膜時間による積分値として求めた。
【0078】
その結果を図6に示す。
成膜速度検知機構により求めたモニター膜厚と実膜厚(物理膜厚)とはほぼ一致していた。
【0079】
なお、前述した屈折率検知機構(成膜モード検知機構)によりリアルタイムで成膜中の光学膜の屈折率をモニターすることが可能であることから、本実施例のようなモニター膜厚と組み合わせることにより、以下のように光学膜厚をリアルタイムで算出することも可能である。
(光学膜厚(nd))=(モニター屈折率)×(モニター膜厚(物理膜厚))
【0080】
(実施例2)
本発明の反応性スパッタリング装置10を用い、ターゲット1を金属Nbターゲット、ターゲット2をSiターゲットとし、第1の成膜室S1、第2の成膜室S2、ラジカル反応室Rを使用して、前記ステップS21〜S2c及びS31〜39による成膜方法にてPBS(キュービック型偏光ビームスプリッター(Cubic polarization beam splitter))膜を作製した。
【0081】
図7に、PBS膜の光学特性の概要を示す。ここでいうPBS膜100は、少なくとも波長788nm,660nm,405nmを含む波長領域のP偏光について高透過特性を有し、波長788nm,660nm,405nmを含む波長領域のS偏光について高反射特性を有する光学多層膜であり、CD(Compact Disc)(波長788nm)、DVD(Digital Versatile Disc)(波長660nm)、BD(Blue−ray Disc)(波長405nm)の3種類の光学記録媒体のすべてについて読み書きできる第三世代型光学ピックアップ装置に使用される光学多層膜である。
【0082】
本実施例では、PBS膜として、Nb光学膜(屈折率2.45)/SiO光学膜(屈折率1.48)の交互層を層数24となるよう積層し、第22層目のみNb光学膜に代えて中間屈折率層(屈折率1.96)とする構成とした。
【0083】
本実施例では、まずターゲット1,2を新品状態のものを使用し、反応性スパッタリング装置10のアイドル時間を10分とした条件で、前記ステップS21〜S2cにより積層数24の光学多層膜を形成し、途中22層目についてのみ前記ステップS31〜39により中間屈折率膜を形成して前記PBS膜サンプル(初期ターゲットサンプル)を得た。ついで、ターゲット1,2を500時間使用後のものを使用し、反応性スパッタリング装置のアイドル時間を8時間とした条件で、同様の手順で前記PBS膜サンプル(消耗ターゲットサンプル)を得た。
【0084】
図8に、得られた実施例サンプルのS偏光に対する反射特性を示す。
初期ターゲットサンプル、消耗ターゲットサンプルともに同等の高反射特性を示した。
【0085】
つぎに、比較例として、まずターゲット1,2を新品状態のものを使用し、反応性スパッタリング装置10のアイドル時間を10分とした条件で、前記ステップS21〜S2cのうちステップS26(S16)に示す成膜速度制御を行わず、各層のスパッタ条件は一定として成膜時間を管理して所定膜厚とする方法により積層数24の光学多層膜を形成し、途中22層目についてのみ前記ステップS31〜39のうちステップS34に示す成膜速度制御を行わず、スパッタ条件は一定として成膜時間を管理して所定膜厚とする方法により中間屈折率膜を形成して前記PBS膜サンプル(初期ターゲットサンプル)を得た。ついで、ターゲット1,2を500時間使用後のものを使用し、反応性スパッタリング装置のアイドル時間を8時間とした条件で、同様の手順で前記PBS膜サンプル(消耗ターゲットサンプル)を得た。
【0086】
図9に、得られた比較例サンプルのS偏光に対する反射特性を示す。
初期ターゲットサンプルでは高反射特性を示したが、消耗ターゲットサンプルでは反射特性の劣化が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る反応性スパッタリング装置の構成を示す概略図である。
【図2】Nb光学膜形成時のプラズマ発光の分光発光強度を測定した例である。
【図3】スパッタパラメータの成膜速度への影響度合を示す図である。
【図4】Nb光学膜の成膜モードごとの成膜速度及び光ロスの関係を示す概略図である。
【図5】Nb光学膜形成時の成膜モードごとのプラズマ発光の分光発光強度を測定した例である。
【図6】実施例1の結果を示す図である。
【図7】PBS膜の光学特性の概要を示す図である。
【図8】実施例2の反射特性を示す図である。
【図9】比較例の反射特性を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1,2…ターゲット、3…基板ホルダ、5,6,7…プラズマ検知器、8…真空槽、10…反応性スパッタリング装置、11…基板、100…PBS膜、P1,P2…プラズマ、R…ラジカル反応室、S1,S2…成膜室、w1,w2,w2…測定窓、W…仕切壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスの活性種存在下で金属ターゲットをキャリアガスによりスパッタリングして基板上に前記金属の化合物からなる薄膜を形成する成膜室を備える反応性スパッタリング装置において、
前記成膜室は、外部から該成膜室内の成膜中のプラズマ発光について発光スペクトルを検知する検知手段を有し、該検知手段により成膜中のプラズマ発光について前記金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって前記薄膜の成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と成膜速度との関係に基づいて、該成膜中の成膜速度が検出され、所望の膜厚の薄膜が形成されることを特徴とする反応性スパッタリング装置。
【請求項2】
前記成膜速度の検出結果に基づいて、前記キャリアガスの流量、反応ガスの流量、投入電力の少なくともいずれか1つを調整して前記成膜速度が制御されることを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタリング装置。
【請求項3】
反応ガスの活性種存在下で金属ターゲットをキャリアガスによりスパッタリングして基板上に前記金属の不完全反応物からなる中間薄膜を形成する複数の成膜室と、前記反応ガスの活性種と前記中間薄膜とを反応させて光学膜を形成させるラジカル反応室とを備える反応性スパッタリング装置において、
前記成膜室それぞれは、該成膜室ごとに種類が異なり、屈折率の異なる光学膜を形成することのできる金属ターゲットと、外部から該成膜室内の成膜中のプラズマ発光について発光スペクトルを検知する検知手段を有し、該検知手段により成膜中のプラズマ発光について前記金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって前記光学膜としての成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と成膜速度との関係に基づいて、該成膜中の成膜速度が検出されるものであり、
前記成膜室の1つで成膜速度を検出しながら中間薄膜を形成し、該中間薄膜について前記反応ラジカル室で前記反応ガスの活性種と反応させることにより所定膜厚の光学膜を形成することを、同一基板上に前記成膜室ごとで繰り返して行って、屈折率の異なる光学膜が積層された光学多層膜が作製されることを特徴とする反応性スパッタリング装置。
【請求項4】
前記同一基板上に前記成膜室ごとに成膜速度を検出しながらそれぞれの薄膜を積層することを繰り返すことで1つの中間薄膜を形成し、該中間薄膜について前記反応ラジカル室で前記反応ガスの活性種と反応させて、所望の屈折率の光学膜が形成されることを特徴とする請求項3に記載の反応性スパッタリング装置。
【請求項5】
反応ガスの活性種存在下で金属ターゲットをキャリアガスによりスパッタリングして基板上に前記金属の化合物からなる薄膜を形成する成膜工程を有する成膜方法において、
前記成膜工程では、成膜中のプラズマ発光について前記金属のスペクトル強度とベースとなるスペクトル強度との比であって前記薄膜の成膜速度に比例した一定値を示すスペクトル強度比をモニターし、予め求めておいた前記スペクトル強度比と前記成膜速度との関係に基づいて、該成膜中の成膜速度を検出することを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
前記成膜速度の検出結果に基づいて、前記キャリアガスの流量、反応ガスの流量、投入電力の少なくともいずれか1つを調整することにより前記成膜速度を制御することを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記金属ターゲットはNbからなり、前記成膜された薄膜に対して前記反応ガスの活性種をさらに反応させてNbからなる光学膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記金属のスペクトル強度は、表面が金属状態にあるNbターゲットをスパッタリングし酸素ガスの活性種と反応させてNb酸化物膜を形成するとき(メタルモード成膜時)のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトル強度と、表面が酸化物状態にあるNbターゲットをスパッタリングしてNb酸化物膜を形成するとき(酸化モード成膜時)のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトル強度との合計強度であり、ベースとなるスペクトル強度はNb及びキャリアガスの重畳スペクトルが現れる波長のスペクトル強度であることを特徴とする請求項7に記載の成膜方法。
【請求項9】
前記メタルモード成膜時のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトル強度と、前記酸化モード成膜時のプラズマ発光におけるNbの主スペクトルとなる波長のスペクトル強度との比に基づいて、前記Nb光学膜の屈折率を検知することを特徴とする請求項8に記載の成膜方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−224322(P2007−224322A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43346(P2006−43346)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】