説明

反応装置および反応方法

【課題】液滴を導入し得る微小流路に、気体を供給しつつ液滴同士の反応を行う反応装置を提供する。
【解決手段】液滴を微小流路中で接触させて反応を行う反応装置であって、微小流路と、前記微小流路に第1の液体を液滴として導入する第1の液滴導入手段と、前記微小流路に第2の液体を液滴として導入する第2の液滴導入手段と、前記第1及び第2の液滴導入手段により前記微小流路に導入された第1及び第2の液滴が接触して生成した混合液滴を前記微小流路に気体を導入して移動させる気体導入手段を有する反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小流路を用いた微量な液体の反応装置および反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板などの上に幅と深さがサブμmから数百μmの微小流路を有する反応装置を用いて、種々の化学反応を起こさせる技術が近年注目されている。微小流路での反応には、流路断面積が微小であることから、試薬や検体の体積が少量で済むことに加え、流路での流体の比表面積(単位体積当たりの表面積)が大きくなるので高い除熱効率が得られ反応を効率的に行なわせることができるなどのメリットがある。このため、微小流路は、所定物質の生産を目的とした合成反応や、検査を目的とした試薬と検体との反応を行なわせるための手段としての使用が検討されている。
【0003】
前記の如き微小流路での反応の一例として、微小流路中に生成させた液滴を反応場として用いる技術が検討されている。液滴は単位体積当たりの表面積が大きいことや、強い表面張力による内部流動が生じるなどの特徴があり、例えば微小反応場として極めて有望と考えられている。
【0004】
前記のような液滴を生成させる技術の一例として、非特許文献1には、微小流路に水を流し、該微小流路に設置した導入口から有機溶媒(ブチルアセテート)を流入させることにより、水相に挟まれた有機溶媒からなる液滴を、微小流路中に生成させる方法が開示されている。
【非特許文献1】第11回化学とマイクロ・ナノシステム研究会予稿集,p53,2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、種々の生化学反応を微小流路中で行なう技術が近年注目されている。例えば、医療診断などへの応用を目指して、抗原抗体反応や酵素反応などを微小流路中で行なう試みが知られている。また、動物や微生物などの細胞を微小流路中で培養し、薬物刺激に対する応答などを計測する「細胞チップ」の開発が進められている。
【0006】
このような生化学反応を、前記のような微小流路中の液滴を反応場として行なうことができれば、ハイスループットな分析ツールなどとして幅広い応用が期待できる。従来の有機溶媒を用いて液滴を生成させる方法では、抗体や酵素をつくるタンパク質の有機溶媒による変性や、細胞への有機溶媒によるダメージなどが懸念されるため、有機溶媒を使用しない液滴の生成方法の開発が望まれていた。
【0007】
また、特に細胞や酸化還元酵素を用いる場合は、液滴への酸素の供給が重要な場合が多く、また、細胞培養用の培地のpH維持には一定濃度の二酸化炭素の供給が重要であり、このような、反応場としての液滴にガス成分を容易に供給可能な微小流路の開発が望まれていた。
【0008】
さらに、水と有機溶媒の不混和性を利用して、流路中に液滴を生成させる方法では、有機溶剤への親和性がより高い試薬や検体は有機溶媒相に、水への親和性がより高い試薬や検体は水相に分配され、同一の液滴中に両者が並存し難いため、その用途は、有機溶媒相に分配されるもの同士(または水相に分配されるもの同士)の化学・生化学反応などに限定される。また、例えば固定化担体などとして、微粒子などの固体を含む液滴の作製する場合、水溶性の固体は水相に、油溶性の固体は有機溶媒相に、それぞれ溶解するため、使用できる固体は一部の金属等のみで、極めて限定される。上記の理由から、より適用範囲の広い、液滴を反応場とする微小流路の開発が望まれていた。
【0009】
また、液滴を微小反応場として用いようとする場合、組成の異なる複数の液滴を微小流路中で接触させることができればなお望ましい。例えば、酵素を含む第1の液滴と、基質を含む第2の液滴とを微小流路中で接触することができれば、微小流路中で所望の反応を開始させることができ、反応の制御が容易となる上、短時間での反応やリアルタイムで反応経過を計測する際にも極めて有効である。
【0010】
さらに、1つの流路中に複数個の液滴を生成させることができれば、同一流路中で複数の反応を並行して行なうことができ、ハイスループットな分析ツールなどとして幅広い応用が期待できる。また、液滴を微小流路中に導入する手段が一定の定量性を備えていれば、複数の液滴の接触による反応の際の、反応液の組成の制御に極めて有用である。
【0011】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、液滴を導入し得る微小流路に、気体を供給しつつ液滴同士の反応を行う反応装置および反応方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する反応装置は、液滴を微小流路中で接触させて反応を行う反応装置であって、微小流路と、前記微小流路に第1の液体を液滴として導入する第1の液滴導入手段と、前記微小流路に第2の液体を液滴として導入する第2の液滴導入手段と、前記第1及び第2の液滴導入手段により前記微小流路に導入された第1及び第2の液滴が接触して生成した混合液滴を前記微小流路に気体を導入して移動させる気体導入手段を有することを特徴とする。
【0013】
上記の課題を解決する反応方法は、液滴を微小流路中で接触させて反応を行う反応方法であって、前記微小流路に第1の液体を液滴として導入する第1の液滴導入工程と、前記微小流路に第2の液体を液滴として導入する第2の液滴導入工程と、前記第1及び第2の液滴導入工程により前記微小流路に導入された第1及び第2の液滴を接触して混合液滴を生成する工程、前記微小流路に気体を導入し前記混合液滴を移動させる気体導入工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生化学反応等において、微小流路中の液滴を反応場として反応を行なうことができ、かつ、抗体や酵素をつくるタンパク質の有機溶媒による変性や、細胞への有機溶媒によるダメージなどの懸念がない反応装置および反応方法が提供される。
【0015】
また、反応場としての液滴にガス成分を容易に供給可能な反応装置が提供される。さらに、有機溶媒相への試薬の溶出等の懸念のない、より適用範囲の広い、液滴を反応場とする反応装置および反応方法が提供される。
【0016】
また、液滴を微小反応場として用いようとする場合に、組成の異なる複数の液滴を微小流路中で接触させることができる反応装置および反応方法が提供される。さらに、1つの流路中に複数個の液滴を生成させることができ、同一流路中で複数の反応を並行して行なうことができる反応装置および反応方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る反応装置は、液滴を微小流路中で接触させて反応を行う反応装置であって、微小流路と、前記微小流路に第1の液体を液滴として導入する第1の液滴導入手段と、前記微小流路に第2の液体を液滴として導入する第2の液滴導入手段と、前記第1及び第2の液滴導入手段により前記微小流路に導入された第1及び第2の液滴が接触して生成した混合液滴を前記微小流路に気体を導入して移動させる気体導入手段を有することを特徴とする。
【0018】
前記気体導入手段が、前記第1及び第2の液滴導入手段よりも微小流路の上流側に配置されていることが好ましい。
前記第1及び第2の液滴導入手段が微小流路の同じ位置に配置されており、前記第1及び第2の液滴導入手段から微小流路に導入された第1及び第2の液滴を接触させることが好ましい。
【0019】
前記第1及び第2の液滴導入手段が、インクジェット法により液滴を微小流路に導入する吐出手段であることが好ましい。
本発明に係る反応方法は、液滴を微小流路中で接触させて反応を行う反応方法であって、前記微小流路に第1の液体を液滴として導入する第1の液滴導入工程と、前記微小流路に第2の液体を液滴として導入する第2の液滴導入工程と、前記第1及び第2の液滴導入工程により前記微小流路に導入された第1及び第2の液滴を接触して混合液滴を生成する工程、前記微小流路に気体を導入し前記混合液滴を移動させる気体導入工程を有することを特徴とする。
【0020】
気体が導入された微小流路に、第1の液滴と第2の液滴とを導入し、第1及び第2の液滴を接触して混合液滴を生成し、前記微小流路に気体を導入することにより、気体で両端が満たされた混合液滴を流路中に生成させることが好ましい。
【0021】
前記微小流路に、第1の液滴と第2の液滴とを同時に導入し、第1及び第2の液滴を接触して混合液滴を生成することが好ましい。
前記微小流路に、混合液滴を生成する工程および前記微小流路に気体を導入する気体導入工程を繰り返して、前記気体で混合液滴間が満たされた複数個の混合液滴を微小流路中に生成させることが好ましい。
【0022】
第1の液滴と第2の液滴の導入量を制御することにより、組成が異なる複数の混合液滴を微小流路中に生成させることが好ましい。
前記気体中の二酸化炭素濃度が20%以下であり、酸素濃度が30%以下であることが好ましい。
【0023】
前記気体が空気であることが好ましい。
第1の液体が細胞を含む液体であり、第2の液体が細胞と反応させる成分を含む液体であることが好ましい。
【0024】
次に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明において用いられる微小流路とは、流路断面の相当直径(=(4×流路断面積)/流路断面周囲長)は、0.01mm以上2mm以下の範囲にあることが好ましく、0.05mm以上1mm以下の範囲にあることがさらに好ましい。
【0025】
微小流路の代表的な形成方法としては、基板に溝を設けて形成する方法と、所定形状の貫通穴が形成された基板を貫通穴のない基板に貼り付けて形成する方法とがある。また、光造形法などの一体成型により基板と一体に形成する方法もある。
【0026】
基板に溝を形成する方法としては、例えば、機械加工、射出成型および圧縮成型に代表される転写技術、ドライエッチング(RIE、IE、IBE、プラズマエッチング、レーザーエッチング、レーザーアブレーション、ブラスト加工、放電加工、LIGA、電子ビームエッチング、FAB)、ウエットエッチング(化学浸食)などによる流路あるいは溝部分のエッチング、光造形やセラミックス敷詰等の一体成型、各種物質を層状にコート、蒸着、スパッタリング、堆積し部分的に除去することにより微細構造物を形成する表面マイクロマシニング(Surface Micro−machining)等がある。
【0027】
また、基板を貼り付けて流路を形成する場合の貼り付け方法としては、接着剤による接着、プライマーによる樹脂接合、拡散接合、陽極接合、共晶接合、熱融着、超音波接合、レーザー溶融、溶剤・溶解溶媒による貼り合わせ、粘着テープ、接着テープ、圧着、自己吸着剤による結合、物理的な保持、凹凸による組み合わせが挙げられる。
【0028】
本発明の微小流路が形成される基板の材質は、樹脂、セラミックス、ガラス、金属など、その種類は特に限定されないが、液滴が水系の液滴である場合、微小流路の表面は疎水的な表面であることが好ましい。微小流路の表面が親水的である場合、流路表面に液体が残留する恐れがあり、複数の液滴を形成させる場合に液滴間のコンタミネーションにつながる可能性がある。同様に、液体が有機溶媒などである場合は、微小流路の表面は親水的であることが好ましい。
【0029】
基板に、ガラス、金属、セラミックスなどの親水性材料を用いる場合、これを疎水化する方法としては、接着剤、ロウなどの疎水性物質の表面コーティング、表面グラフト法、加工雰囲気に依存する疎水性官能基または疎水性分子の表面への付与を伴う方法(プラズマ法、イオン注入法、レーザー処理等)が挙げられる。
【0030】
基板に、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、シリコン、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、熱可塑性エラストマーなどの疎水性材料を用いる場合、これを親水化する方法としては、表面コーティング、湿式化学的改質、ガス改質、界面活性剤処理、コロナ放電、疎面化、金属の蒸着、金属のスパッタリング、紫外線処理、加工雰囲気に依存する親水性官能基または親水性分子の表面への付与を伴う方法(プラズマ法、イオン注入法、レーザー処理等)が挙げられる。
【0031】
本発明の気体を導入するための気体導入手段としては、例えば、ガスボンベやガス発生器、エアーポンプ、シリンジポンプなどのガス供給手段を微小流路に接続して用いることができる。また、微小流路の上流側に接続された気体導入口を開放し、微小流路の下流側に接続された排出口より真空ポンプなどで吸引することにより、反応装置の周囲のガスを微小流路中に導入しても良い。
【0032】
本発明の反応装置を用いて、液滴を反応場として用いるためには、液滴を導入するための手段を複数個備えていることが望ましい。例えば、液滴を導入するための手段を2個設置し、第1の液体を液滴として導入する第1の液滴導入手段から第1の液滴を、第2の液体を液滴として導入する第2の液滴導入手段から第2の液滴を、微小流路中に導入し、両液滴を接触させることにより、微小流路中で反応を開始させることができる。例えば、酵素を含む第1の液滴と、基質を含む第2の液滴とを微小流路中で接触することにより、微小流路中で酵素反応を開始させることができる。このことは、反応の制御を容易とする上、特に短時間での反応やリアルタイムでの反応経過の計測に用いるのにも優れている。
【0033】
上記の液滴を接触は、第1の液滴を導入するための第1の液滴導入手段から微小流路に導入された第1の液滴に向けて、その下流側に設置された第2の液滴を導入するための第2の液滴導入手段から第2の液滴を導入することによって実現することができる。また、第1の液滴を導入するための第1の液滴導入手段と、第2の液滴を導入するための第2の液滴導入手段とを、微小流路の流れ方向の同じ位置に設置し、第1の液滴と第2の液滴とを同時に微小流路中に導入することによって、微小流路中で両液滴を衝突させて接触させることができる。3つ以上の液滴を接触させる場合も同様の方法で実現することができる。
【0034】
液滴を導入するための手段としては、例えば、微小流路にシリンジポンプ、マイクロピペット、マイクロディスペンサー、インクジェット法による吐出装置などの、微量の送液が可能な導入手段を接続して用いることができる。特に、安価に作製・入手でき、微小な液滴を制御された液量で吐出できる点で、インクジェット法を用いた吐出装置を特に好適に用いることができる。インクジェット法による吐出手段は、その吐出量や吐出のタイミングを容易に制御できるため、本発明の反応装置を用いた微量な液体の取り扱いには特に好適である。例えば、第1の液滴と第2の液滴との混合比率の制御や、液滴を微小流路中で衝突させて接触させる際の、液滴導入のタイミングの制御を図る上で極めて有効である。さらにインクジェット法の中でも、サーマルインクジェット方式とピエゾインクジェット方式を好適に用いることができ、サーマルインクジェット法による吐出装置は、吐出口の微細加工が容易で、液滴を所定の量およびタイミングで吐出することができる。また、ピエゾインクジェット法による吐出装置は、圧電素子の変位により吐出エネルギーを発生させるので、生物活性物質に熱的なストレスを付加することがなく、液滴を安定して吐出できる。
【0035】
サーマルインクジェット法による、微小流路への液滴の供給手段を微小流路に接続する方法は適宜選択して用いることができる。例えば、微小流路と同一の基板上に、微小なヒーター等の電気信号を熱に変換する電気熱変換体を設置する方法を採用することができる。電気熱変換体としては、例えば、Ta2N、RuO2、Ta、Ta−Al合金を始めとする様々な金属、合金、金属化合物からなる発熱抵抗体を備えた電気熱変換体を用いることが出来る。前記の発熱抵抗体は公知の方法、例えばDCスパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法、真空蒸着法、あるいはCVD法等によって形成することができる。係る電気熱変換体は、微細孔の内部にあっても、微細孔の外部にあってもよく、また、基板の表面にあっても、基板内部に埋め込まれていても良い。例えば、プリント配線基板を用いて、これをヒーターとし、基板に貼り合わせることで、基板上の任意の場所を所定の温度に設定する電気熱変換体を例示することができ、他方、冷却についても、ペルチェ素子を同様に貼り合わせることで、基板上の任意の場所を所定の温度に設定する電気熱変換体を例示することができる。
【0036】
図1はサーマルインクジェット法による、微小流路への液滴の供給手段の一例を示す模式図である。基板1に、微小流路2と、液滴を導入するための導入流路3が設けられており、導入流路3は液体4で満たされており、かつ、ヒーター5が設けられている。微小流路2に気体6が供給された状態で、ヒーター5に通電すると、液体4が加熱されて気化し、気泡7が発生する。このとき、液体4の一部が気泡7によって微小流路2内に押し出され、気体6に押されて微小流路2中に導入され、液滴8が形成される。なお、ピエゾインクジェット法についても、ヒーター5がピエゾ素子に置き換わるのみで、液滴形成の基本的な原理は同様である。
【0037】
本発明の反応装置において、気体が導入された微小流路に、第1の液滴と第2の液滴とを導入し、第1の液滴と第2の液滴とを前記微小流路中で接触させることにより、気体で両端が満たされた混合液滴を流路中に生成させることができる。また、本発明の反応装置を用いれば、気体で液滴間が満たされた複数個の混合液滴を微小流路中に生成させることができる。従って、同一流路中で複数の反応を並行して行なうことができ、ハイスループットな分析ツールなどとして幅広い応用が期待できる。
【0038】
本発明の反応装置および反応方法は、各種の化学・生化学反応のツールとして用いることができる。例えば、本発明の液滴として、酵素を含む液滴を用いれば、酵素反応の分析や微量物質生産のツールとして用いることができる。この時、例えば、グルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4)に代表されるある種の酸化酵素は、その反応に酸素を必要とするので、任意の気体雰囲気を液滴周囲に形成させることができる本発明の反応装置は、上記のようなガスを要求する反応にも広く使用することができる、用途の広い方法である。
【0039】
本発明の反応装置および反応方法を用いれば、このような特定のガスの供給を要求する化学・生化学反応にも適用することが可能であり、従来技術と比較して応用範囲が広い。
また、本発明の液滴として、細胞が懸濁された液滴を用いることができる。細胞培養には、前記の通り、酸素や二酸化炭素の供給やその濃度制御が不可欠である。また、嫌気性の微生物等を培養する場合は、例えば窒素雰囲気下での培養が必要となる。本発明の反応装置は、任意の気体雰囲気を液滴周囲に形成させることができるため、細胞を用いた各種の分析には特に好適に用いることができる。
【0040】
一般に、細胞を用いた分析の場合、二酸化炭素濃度が20%以下であり、酸素濃度が30%以下である気体を用いるのが好適であるが、その種類や濃度は、用途に応じて任意に設定することができる。例えば、動物細胞を使用する場合は、その緩衝液のpHを最適に維持するために、一般に5%程度の二酸化炭素を含む空気を気体として用いればよい。また、好気性の微生物を使用する場合は空気を気体として用いればよく、また、嫌気性の微生物を使用する場合は酸素濃度0%の気体を用いればよい。
【0041】
本発明において用いることのできる細胞としては、原核および真核細胞であればどんなものでも用いることができる。たとえば、細菌細胞、酵母細胞、ニューロン、繊維芽細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、グリア細胞、胎性幹細胞、造血幹細胞、肥満細胞、脂肪細胞、原生動物細胞、神経幹細胞、ならびにT細胞およびB細胞を含む免疫細胞などの細胞全体(例えば、形質転換細胞または非形質転換細胞)、細胞塊などを適宜選択して使用できる。
【0042】
上記の細胞は、懸濁液として、液滴を導入するための手段の一つより微小流路中に供給される。この液滴が、他の液滴を導入するための手段より導入された、例えば各種の薬剤を含む液滴と接触することにより、該細胞が該薬剤に暴露される。微小流路の下流側または排出口の先に検出・分析手段を設置することによって、多数の細胞分析を微小量で実施することが可能となる。この方法は、例えば、薬剤の細胞への影響や効果を調べる分析や、細胞からの分析対象物の抽出など、幅広い用途に使用可能である。
【0043】
次に、本発明の反応装置の実施形態について説明する。図2乃至図4は、各々本発明の反応装置の実施形態の反応装置を示す概略図である。図2に示すように、本発明の第1の実施形態としての反応装置は、微小流路12に第1の液体を液滴として導入する第1の液滴導入手段10と、第2の液体を液滴として導入する第2の液滴導入手段11と、前記第1及び第2の液滴導入手段により前記微小流路に導入された第1及び第2の液滴が接触して生成した混合液滴を前記微小流路12に気体を導入して移動させる気体導入手段30、さらに、気体導入手段の気体導入口9、前記第1の液滴と第2の液滴とを接触させ前記気体により移動させ排出するための微小流路12及び排出口13とを少なくとも備えて構成されている。
【0044】
前記の気体導入口9、第1の液滴導入手段10、第2の液滴導入手段11び排出口13が前記の微小流路12に接続されている。また、前記の気体導入口9は、第1の液滴導入手段10、第2の液滴導入手段11および排出口13よりも微小流路12の上流側に接続されている。第1の液滴導入手段10と第2の液滴導入手段11は微小流路12の流れ方向の同じ位置に接続されている。
【0045】
微小流路12は、図3に示すように、所定形状の溝14が設けられた基板15に対し、この溝14がある側に基板16を取り付けることにより、基板15と基板16との間に形成される矩形の横断面を有する閉空間として形成される。あるいは、図4に示すように所定形状の貫通穴17が形成された基板18を基板19に貼り付け、基板18の基板19に接しない側にさらに基板20を取り付けることにより、基板18乃至20の間に形成される閉空間を微小流路12として形成するようにしても良い。
【0046】
本発明の第1の実施形態としての、反応装置を用いた反応方法を図5に示す。微小流路12には気体導入口9に接続された気体を導入するための気体導入手段より気体が導入されている。第1の液体21と第2の液体22とが、第1の液滴を導入するための第1の液滴導入手段10および第2の液滴を導入するための第2の液滴導入手段11によって、微小流路12に同時に供給される。これは、例えば液滴を導入する手段としてインクジェット法を用いる場合には、第1の液滴導入手段10と第2の液滴導入手段11に同時に通電することによって行われる。第1の液滴導入手段10によって導入された第1の液滴と、第2の液滴導入手段11によって導入された第2の液滴とは、合流点23で衝突して接触し、一つの混合液滴となる。この時点で混合液滴中での反応が開始される。混合液滴は、導入口9より導入される気体によって微小流路12中を移動して、該気体に挟まれた混合液滴24になる。混合液滴24は、微小流路12中を移動しながら反応するので、この部分に検出手段を設置すれば、反応のモニタリング等が可能である。反応が終了した混合液滴24は、排出口13から微小流路12の外に排出される。この排出された混合液滴を分析対象とすることもできる。また、第1の液滴導入手段10および第2の液滴導入手段11から次々と液滴を導入することによって、微小流路12中に複数個の混合液滴24を形成させることができる。
【0047】
次に、本発明の第2の実施形態としての反応装置について説明する。図6は本実施形態の反応装置について示す図である。本発明の第2の実施形態としての反応装置は、図6に示すように、気体導入口25と、第1の液滴を導入するための第1の液滴導入手段26と、第2の液滴を導入するための第2の液滴導入手段27と、前記第1の液滴と第2の液滴とを接触させ前記気体により移動させ排出するための微小流路28及び排出口29とを少なくとも備えて構成されており、前記の気体導入口25、第1の液滴導入手段26、第2の液滴導入手段27及び排出口29が前記の微小流路28に接続されている。また、前記の気体導入口25は、第1の液滴導入手段26、第2の液滴導入手段27および排出口29よりも微小流路28の上流側に接続されており、かつ、前記の気体を導入するための手段と接続されている。第1の液滴導入手段26は第2の液滴導入手段27よりも、微小流路12の流れ方向の上流側の位置に接続されている。
【0048】
本発明の第2の実施形態としての、反応装置を用いた微量液体の反応方法の概要は、第1の実施形態と同様である。ただし、第1の液滴と第2の液滴との接触は、まず第1の液滴導入手段26によって第1の液滴を導入し、次にこの液滴に向けて、第2の液滴導入手段27によって第2の液滴を吐出して衝突させることによって実現する。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明する。
実施例1
図2および図4に示した反応装置を作製した。ガラス基板上に流路の幅0.3mm、高さ0.5mmの微小流路12と、サーマルインクジェット法による液滴を導入するための第1の液滴導入手段10、第2の液滴導入手段11としてのヒーターを形成した、反応装置を作製する。貫通穴17は厚さ0.5mmのガラス基板18上にブラストマスクを設置し、サンドブラスト加工により貫通させたのち、厚さ0.5mmのガラス基板20に同様にして導入および排出のための貫通孔を形成させたものを上面に、貫通孔のない厚さ0.5mmのガラス基板19を下面に、それぞれ接着剤で貼り合わせて作製する。この際、Ta2Nからなる発熱抵抗体を電源に接続したものをヒーターとして第1の液滴導入手段10、第2の液滴導入手段11の部位に組み込む。また、微小流路12の表面は、前記の接着剤で予めコーティングして疎水化しておく。
【0050】
図5に示すように、気体導入口9にシリンジポンプを接続して空気を導入し、手段10より0.5μLの1g/Lグルコース溶液を、手段11より0.5μLのグルコース測定用呈色試薬(グルコースC−IIテストワコー、和光純薬工業社製:グルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ発色系)を、同時に微小流路12に導入すると、合流点23において両液滴が接触し、酵素反応および呈色反応が開始する。この液滴24は、微小流路12中を移動しながら反応を進行させ、排出口13に至るまでに、反応が進行したことを示す赤色を呈する。なお、空気の導入量は、液滴24が導入されてから排出口13に至るまでの時間が5分間となるよう、流量を調整する。
【0051】
実施例2
サーマルインクジェット法による液滴を導入するための手段の替わりに、ピエゾインクジェット法による吐出装置を第1の液滴導入手段10、第2の液滴導入手段11として用いる以外は、実施例1と同様にして酵素反応および呈色反応を行う。排出口13に至るまでに、液滴24は実施例1と同様の赤色を呈する。
【0052】
実施例3
サーマルインクジェット法による液滴を導入するための手段の替わりに、シリンジポンプを接続して第1の液滴導入手段10、第2の液滴導入手段11とする以外は、実施例1と同様にして酵素反応および呈色反応を行う。排出口13に至るまでに、液滴24は実施例1と同様の赤色を呈する。
【0053】
比較例1
気体導入口9に接続したシリンジポンプより、空気の替わりにブチルアセテートを導入する以外は、実施例3と同様にして酵素反応および呈色反応を行う。排出口13に至るまでに、液滴24は、実施例3と比較して弱い赤色しか呈しないので、有機溶媒による酵素活性阻害や酸素不足、有機溶媒相への呈色試薬等の溶出等による反応阻害が起こることが示される。
【0054】
実施例4
実施例1と同様の方法で、液滴24を連続して微小流路12中に形成させれば、微小流路12中の複数個の液滴24が実施例1と同様の赤色を呈する。
【0055】
実施例5
図2および図4に示した反応装置の替わりに、図6に示した反応装置を用いて、手段26より導入されたグルコース溶液の液滴が手段27の位置に移動した時点で、手段27よりグルコース測定用呈色試薬を導入し液滴を接触させる以外は、実施例1と同様にして酵素反応および呈色反応を行なえば、排出口29に至るまでに、液滴は実施例1と同様の赤色を呈する。
【0056】
実施例6
1g/Lグルコース溶液の替わりにHepG2細胞の懸濁液(2×104個/ml)を用い、グルコース測定用呈色試薬の替わりにアデノシン三リン酸(ATP)測定用試薬(東洋ビーネット社製;ホタルルシフェラーゼ発光法)を用いる以外は、実施例1と同様にして酵素反応および呈色反応を行なえば、排出口13に至るまでに、液滴24は細胞が生細胞であることを示す発光を呈する。
【0057】
実施例7
サーマルインクジェット法による液滴を導入するための手段の替わりに、シリンジポンプを接続して第1の液滴導入手段10、第2の液滴導入手段11とする以外は、実施例6と同様にして反応を行なえば、排出口13に至るまでに、液滴24は実施例6と同様に発光する。
【0058】
比較例2
気体導入口9に接続したシリンジポンプより、空気の替わりにブチルアセテートを導入する以外は、実施例6と同様にして酵素反応および呈色反応を行なえば、排出口13に至るまでに、液滴24は発光しないので、有機溶媒の毒性や酸素不足による細胞の死滅、有機溶媒によるルシフェラーゼ反応の阻害、有機溶媒相への呈色試薬等の溶出等による反応阻害が起こることが示される。
【0059】
実施例8
HepG2細胞の替わりにHL60細胞を用いる以外は、実施例6と同様にして反応を行なえば、排出口13に至るまでに、液滴24は実施例6と同様に発光する。
【0060】
実施例9
HepG2細胞の替わりに大腸菌を用いる以外は、実施例6と同様にして反応を行なえば、排出口13に至るまでに、液滴24は実施例6と同様に発光する。
【0061】
実施例10
第1の液滴導入手段10、第2の液滴導入手段11の下流に第三の液滴を導入するための手段を設置し、手段10により被検薬剤の溶液を、第三の液滴を導入するための手段によりATP測定用試薬を導入するよう構成し、かつ、手段10のサーマルインクジェットの吐出量を、連続的な吐出とその回数制御によって変化させる以外は、実施例6と同様にして反応を行なえば、前記被検薬剤の細胞に及ぼす影響、即ち、細胞の生死や活性の判断基準であるATP量への影響を、複数の暴露濃度設定で調べることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の反応装置によれば、生化学反応等において、微小流路中の液滴を反応場として反応を行なうことができ、かつ、抗体や酵素をつくるタンパク質の有機溶媒による変性や、細胞への有機溶媒によるダメージなどの懸念がないので、ハイスループットな分析ツールなどとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の反応装置におけるサーマルインクジェット法による微小流路への液滴の供給手段を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態としての反応装置の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態としての反応装置の構成を示す模式的な横断面図であり、図2のX−Y断面に相当する模式図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態としての反応装置の構成を示す模式的な横断面図であり、図2のX−Y断面に相当する模式図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態としての反応装置を用いた微量液体の反応方法を示す概略図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態としての反応装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1 基板
2 微小流路
3 導入流路
4 液体
5 ヒーター
6 気体
7 気泡
8 液滴
9 気体導入口
10 第1の液滴導入手段
11 第2の液滴導入手段
12 微小流路
13 排出口
14 溝
15 基板
16 基板
17 貫通穴
18 基板
19 基板
20 基板
21 第1の液体
22 第2の液体
23 合流点
24 混合液滴
25 気体導入口
26 第1の液滴導入手段
27 第2の液滴導入手段
28 微小流路
29 排出口
30 気体導入手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を微小流路中で接触させて反応を行う反応装置であって、微小流路と、前記微小流路に第1の液体を液滴として導入する第1の液滴導入手段と、前記微小流路に第2の液体を液滴として導入する第2の液滴導入手段と、前記第1及び第2の液滴導入手段により前記微小流路に導入された第1及び第2の液滴が接触して生成した混合液滴を前記微小流路に気体を導入して移動させる気体導入手段を有することを特徴とする反応装置。
【請求項2】
前記気体導入手段が、前記第1及び第2の液滴導入手段よりも微小流路の上流側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の反応装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の液滴導入手段が微小流路の同じ位置に配置されており、前記第1及び第2の液滴導入手段から微小流路に導入された第1及び第2の液滴を接触させることを特徴とする請求項1または2に記載の反応装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の液滴導入手段が、インクジェット法により液滴を微小流路に導入する吐出手段であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の反応装置。
【請求項5】
液滴を微小流路中で接触させて反応を行う反応方法であって、前記微小流路に第1の液体を液滴として導入する第1の液滴導入工程と、前記微小流路に第2の液体を液滴として導入する第2の液滴導入工程と、前記第1及び第2の液滴導入工程により前記微小流路に導入された第1及び第2の液滴を接触して混合液滴を生成する工程、前記微小流路に気体を導入し前記混合液滴を移動させる気体導入工程を有することを特徴とする反応方法。
【請求項6】
気体が導入された微小流路に、第1の液滴と第2の液滴とを導入し、第1及び第2の液滴を接触して混合液滴を生成し、前記微小流路に気体を導入することにより、気体で両端が満たされた混合液滴を流路中に生成させることを特徴とする請求項5に記載の反応方法。
【請求項7】
前記微小流路に、第1の液滴と第2の液滴とを同時に導入し、第1及び第2の液滴を接触して混合液滴を生成することを特徴とする請求項5または6に記載の反応方法。
【請求項8】
前記微小流路に、混合液滴を生成する工程および前記微小流路に気体を導入する気体導入工程を繰り返して、前記気体で混合液滴間が満たされた複数個の混合液滴を微小流路中に生成させることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかの項に記載の反応方法。
【請求項9】
第1の液滴と第2の液滴の導入量を制御することにより、組成が異なる複数の混合液滴を微小流路中に生成させることを特徴とする請求項5乃至8のいずれかの項に記載の反応方法。
【請求項10】
前記気体中の二酸化炭素濃度が20%以下であり、酸素濃度が30%以下であることを特徴とする請求項5乃至9のいずれかの項に記載の反応方法。
【請求項11】
前記気体が空気であることを特徴とする請求項5乃至10のいずれかの項に記載の反応方法。
【請求項12】
第1の液体が細胞を含む液体であり、第2の液体が細胞と反応させる成分を含む液体であることを特徴とする請求項5乃至11のいずれかの項に記載の反応方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−290027(P2008−290027A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139628(P2007−139628)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】