説明

可動ナット取付構造

【課題】内部へのアクセスが困難な中空構造体に可動ナットを容易に取り付けることができる可動ナット取付構造を提供する。
【解決手段】可動ナット取付構造を、閉断面を有し一体に形成された中空構造体11と、中空構造体の外表面11dと間隔を隔てて対向する保持面部210を有するナットプレート保持部材200と、中空構造体の外表面とナットプレート保持部材の保持面部との間に配置されたプレート部110及びナット部120を有し、中空構造体に対してネジ部の中心軸とほぼ直交する方向に相対変位可能とされたナットプレート100とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空構造体に可動式のナットを取り付ける可動ナット取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の自動車において、車体にサブフレーム等の中空構造体を装着するとともに、ディファレンシャルキャリア等の部品をサブフレームに取り付けられたナットを用いて固定することが知られている。
例えば、特許文献1には、井形形状に形成され車体に取り付けられる車両のリアサブフレームにディファレンシャル装置を取り付けるディファレンシャル装置の支持構造が記載されている。
【0003】
このようなディファレンシャル装置等を、離間した複数個所でサブフレームに締結する場合、各部品の寸法公差等に起因して締結箇所間のスパンにずれが生じる場合がある。これに対し、サブフレームに対して所定の範囲内で相対変位可能な可動ナット(ガタナット)を用いて寸法誤差を吸収することが知られている。
従来の可動ナット取付構造の一例として、サブフレームを上下2分割していわゆるモナカ状に形成するとともに、その内部にガタナット及びその脱落を防止するカバーを設けるものが知られている(後述する本発明の比較例を参照)。カバーはサブフレームの下側部材の内面に溶接され、ガタナットはカバーの内部で変位可能となっている。このようなガタナット及びカバーは、サブフレームの上下部材を接合する前にあらかじめ配置されている。
【0004】
また、特許文献2には、車両用の中空構造体の一種であるフロントサイドメンバとして、ハイドロフォームによって一体に形成された筒状体を用いたものが記載されている。
このような一体成型品を用いることによって、部品点数の低減、強度の向上、軽量化等を図ることができるが、この場合には、部品の配置や溶接等の工程における内部へのアクセスが困難であることから、上述したようなガタナットを内部に配置することは困難である。
【0005】
特許文献3には、一体成型の中空構造体の内部にナットを設ける構造として、目の字断面を有するバンパビームの開口端からナットを挿入することが記載されている。
しかし、このような構造は、バンパビームのように形状が比較的単純であり、端部が開口しており、かつ、ナットが開口端の近傍に設けられる場合には適用可能であるが、例えば井桁状のサブフレームのフロントメンバのように両端部が閉塞された部材に設けられるナットには適用が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−238547号公報
【特許文献2】特開2002−337730号公報
【特許文献3】実開平1−174262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サブフレーム等のように内部へのアクセスが困難な中空構造体であっても可動ナットを容易に取り付けることができれば、一体成型品を適用することによって部品点数の低減や軽量化を図ることが可能となる。
本発明の課題は、内部へのアクセスが困難な中空構造体に可動ナットを容易に取り付けることができる可動ナット取付構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、閉断面を有しかつ一体に形成された中空構造体と、前記中空構造体の外部に固定されかつ前記中空構造体の外表面と間隔を隔てて対向する保持面部を有するナットプレート保持部材と、前記中空構造体の前記外表面と前記ナットプレート保持部材の前記保持面部との間に配置されたプレート部及び前記プレート部の法線方向に略沿ってボルトが挿入されるネジ部が形成されたナット部を有し、前記中空構造体に対して前記ネジ部の中心軸とほぼ直交する方向に相対変位可能とされたナットプレートとを有することを特徴とする中空構造体の可動ナット取付構造である。
【0009】
請求項2の発明は、前記ナットプレートは、金属板からなるプレート部の前記中空構造体側の面にナット部を固定して構成されることを特徴とする請求項1に記載の中空構造体の可動ナット取付構造である。
請求項3の発明は、前記ナットプレート保持部材は、前記中空構造体から前記保持面部にわたして設けられ前記保持面部を支持する支持部と、前記支持部に形成され、前記ナットプレートが外部から挿入される挿入開口とを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可動ナット取付構造である。
請求項4の発明は、前記ナットプレート保持部材の前記保持面部は、前記中空構造体の前記外表面との間隔が前記プレート部の厚さより大きくかつ前記プレート部の厚さと前記ナット部の厚さの和より小さく形成され、前記中空構造体の前記外表面に前記ナット部の少なくとも一部が挿入される開口が形成され、前記ナットプレートは、前記ナットプレート保持部材を前記中空構造体に固定する際に予め前記中空構造体と前記ナットプレート保持部材との間に配置されることを特徴とする請求項2に記載の可動ナット取付構造である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えばハイドロフォーム等によって一体に形成された中空構造体であっても、内部に部品配置や溶接等のためにアクセスする必要がなく容易に可動ナットを取り付けることができる。このため、可動ナットを取り付ける必要があるために従来は一体成型を適用しにくかった中空構造体であっても、一体成型を適用して部品点数の低減及び軽量化を図ることができる。
また、ナット部に挿入されるボルトからの荷重が負荷されるナットプレート保持部材は、中空構造体のうちナットプレートが設けられる箇所の近傍にのみ設ければよいことから、中空構造体が直接荷重を受ける既存の構造のように中空構造体を全体的に補強して重量が増加することがない
さらに、中空構造体とナットプレート保持部材とを固定した後にナットプレートを挿入可能な構成とすることによって、中空構造体及びナットプレート保持部材に塗装等を施す場合であっても、塗料によって可動ナットが固着したり、ネジ部に塗装が入り込んで品質が損なわれることがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した可動ナット取付構造の実施例1を有する車両用サブフレームの外観斜視図である。
【図2】実施例1の可動ナット取付構造の横断面図である。
【図3】図2のIII−III部矢視図である。
【図4】実施例1の可動ナット取付構造の外観斜視図である。
【図5】実施例1の可動ナット取付構造におけるナットプレートの部品図である。
【図6】本発明の比較例である可動ナット取付構造の横断面図である。
【図7】図6のVII−VII部矢視図である。
【図8】比較例の可動ナット取付構造の外観斜視図である。
【図9】比較例の可動ナット取付構造におけるガタナット及びカバーの部品図である。
【図10】本発明を適用した可動ナット取付構造の実施例2の横断面図である。
【図11】図10のXI−XI部矢視図である。
【図12】実施例2の可動ナット取付構造の外観斜視図である。
【図13】実施例2の可動ナット取付構造におけるナットプレートの部品図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、内部へのアクセスが困難な中空構造体に可動ナットを容易に取り付けることができる可動ナット取付構造を提供する課題を、ハイドロフォームによって形成されたサブフレームのフロントメンバ下部にロワメンバを溶接し、サブフレーム下面とロワメンバの間に、鉄板にウェルディングナットを固定したナットプレートを変位可能に挟み込むことによって解決した。
【実施例1】
【0013】
以下、本発明を適用した可動ナット取付構造の実施例1について説明する。実施例1において、例えば、車両は例えば乗用車等の自動車であって、可動ナット取付構造は車体後部の下部に取り付けられるサブフレームに設けられ、ディファレンシャルキャリアの前端部の固定に用いられる。
図1は、実施例1におけるサブフレーム周辺部の外観斜視図である。
サブフレーム10は、ハウジング20を支持するサスペンション30の各リンク等の車体側の端部、及び、ディファレンシャルキャリア40を支持するものである。
なお、以下の説明において、前後左右上下等の方向は、特記ない限り車両装着状態における方向を示すものとする。
【0014】
サブフレーム10は、フロントメンバ11、リアメンバ12、サイドメンバ13を有し、車両上方から見た平面形がほぼ矩形または井桁状に形成されている。
フロントメンバ11は、サブフレーム10の前部に設けられ、車幅方向にほぼ沿って延びた梁状の部材である。
リアメンバ12は、サブフレーム10の後部に設けられ、車幅方向にほぼ沿って延びた梁状の部材である。
サイドメンバ13は、フロントメンバ11の左右端部近傍から、リアメンバ12の左右端部近傍にかけてそれぞれ設けられ、前後方向にほぼ沿って延びた梁状の部材である。
これらの各メンバ11〜13は、例えば、鋼製の筒状体をハイドロフォーミングすること等によって、閉断面を有する中空体として形成されている。
サブフレーム10は、フロントメンバ11及びリアメンバ12の両端部にそれぞれ設けられたマウント50を介して図示しない車体に固定されている。マウント50は、例えば中心軸を鉛直方向に略沿わせて配置された円筒ゴムブッシュである。
【0015】
ハウジング20は、図示しない車輪を支持するハブ21を、車軸回りに回転可能に支持するハブベアリングが収容される部材である。
サスペンション30は、ハウジング20をサブフレーム10に対して、略上下方向にストローク可能に支持するものである。サスペンション30は、フロントラテラルリンク31、図示しないリアラテラルリンク、アッパアーム32、トレーリングリンク33等を備えている。
フロントラテラルリンク31及びリアラテラルリンクは、それぞれ車幅方向にほぼ沿って延びるとともに、前後方向に離間して配置され、サイドメンバ13の下部とハウジング20の下部とを連結する部材である。
アッパアーム32は、車幅方向にほぼ沿って延びるとともに、サイドメンバ13の上部とハウジング20の上部とを連結する部材である。
トレーリングリンク33は、前後方向にほぼ沿って延びるとともに、フロントメンバ11の端部とハウジング20の下部とを連結する部材である。
上述した各リンク、アームのサブフレーム10側の端部は、それぞれ円筒ブッシュ等を介してサブフレーム10に対して揺動可能に接続されている。
【0016】
ディファレンシャルキャリア40は、図示しないプロペラシャフトの回転を減速して左右のドライブシャフト41に伝達する最終減速機構、及び、左右輪の回転数差を吸収する差動機構等を収容する例えば鋳物製の部材である。
ディファレンシャルキャリア40の後端部は、水平方向に車両後方側から挿入されるボルトによって、サブフレーム10のリアメンバ12に締結されている。
また、ディファレンシャルキャリア40の前端部は、鉛直方向に車両下方側から挿入されるボルトによって、サブフレーム10のフロントメンバ11に締結されている。
実施例1の可動ナット取付構造は、このディファレンシャルキャリア40の前端部が締結されるフロントメンバ11の中央部に設けられている。
【0017】
以下、実施例1の可動ナット取付構造について、より詳細に説明する。
図2は、実施例1の可動ナット取付構造の横断面図(フロントメンバ11の長手方向と直交する断面で切ったもの)であり、図1及び図3のII−II部矢視断面を示すものである。
図3は、実施例1の可動ナット取付構造を車両前方側から見た正面図であって、図2のIII−III部矢視図である。
図4は、実施例1の可動ナット取付構造の外観斜視図であって、車両前方側の斜め上側から見た図である。
図5は、実施例1の可動ナット取付構造におけるナットプレートの部品図である。図5において、図5(a)は外観斜視図であり、図5(b)は車両装着状態における上方から見た平面図である。また、図5(c)及び図5(d)は、それぞれ図5(b)のb−b部矢視図及びd−d部矢視図である。
【0018】
図2に示すように、フロントメンバ11は、ハイドロフォームによって一体に形成された上面部11a、下面部11b、前面部11c、後面部11dを有し、略矩形の横断面形状を有する。下面部11bには、ボルトの逃げ孔11eが形成されている。
実施例1の可動ナット取付構造は、ナットプレート100及びロワメンバ200を備えて構成されている。
【0019】
ナットプレート100は、プレート部110、ナット部120を備えている。
プレート部110は、例えば、鋼板をプレス加工して形成されている。プレート部110は、図5等に示すように、一体に形成された中央部111、先端部112、後端部113を備えている。
中央部111は、車両前後方向(フロントメンバ11を横断する方向)にほぼ沿って水平に延びた帯状の平板部である。中央部111には、図示しないボルトが挿入される開口が形成されている。
先端部112は、ナットプレート110をロワメンバ200に差し込む際の先端となる部分である。実施例1においては、車両前方側から後方側へナットプレート110を挿入するため、中央部111の車両後方側の端部から延びて形成され、中央部111と同じ幅の帯状に形成されている。なお、ナットプレート110の挿入方向はこれに限定されず、他の方向から挿入してもよい。
後端部113は、中央部111の車両前方側の端部に設けられ、中央部111に対してサブフレーム11の長手方向における幅が広く形成された部分である。この後端部113は、ロワメンバ200へのナットプレート100の挿入深さを規制するストッパとして機能する。
【0020】
これらの中央部111、先端部112、後端部113を有することによって、プレート部110を上方から見た平面形は、図5(b)等に示すように略T字状に形成されている。
また、先端部112及び後端部113は、図2、図5(c)等に示すように、中央部111に対して段状に上方(フロントメンバ11側)に張り出して形成されている。
ここで、中央部111と先端部112との間の段差、及び、中央部111と後端部113との間の段差の水平方向距離(間隔)は、後述するロワメンバ200の前面部220と後面部230との間隔よりも小さく設定されている。
【0021】
ナット部120は、プレート部110の中央部111の上面に溶接により固定された汎用のウェルディングナットである。
ナット部120は、その中央部に中心軸が鉛直方向に沿って配置されたネジ部が形成され、図示しないボルトを締結される。ナット部120の外径は、上方及び側方から見た形状が略矩形であるキューブ状に形成されている。
【0022】
ロワメンバ200は、例えば鋼板をプレス加工して形成されている。ロワメンバ200は、ナットプレート100を保持する本発明にいうナットプレート保持部材として機能する。図2等に示すように、ロワメンバ200は、一枚の板材を曲げ加工して一体に形成された下面部210、前面部220、後面部230を備えている。この結果、ロワメンバ200を車幅方向から見た横断面形状は、上方に開いた略コの字状に形成されている。
下面部210は、略水平に配置された平板状の部分であって、フロントメンバ11の下面部11dと間隔を隔てて対向して配置されている。この下面部210は、ナットプレート100を保持する本発明にいう保持面部として機能する。ここで、フロントメンバ11の下面部11dと、下面部210との間隔は、ナットプレート100のプレート部110及びナット部120の厚さの和よりも大きく設定され、その結果、ナットプレート100の挿入を妨げないようになっている。
また、下面部210の中央部には、ボルトが挿入される開口211が形成されている。
【0023】
前面部220及び後面部230は、下面部210の車両前方側及び後方側の端縁より上方へ立ち上げられた平板状の部分である。これらの前面部220及び後面部230は、フロントメンバ11に対して下面部210を支持する本発明にいう支持部として機能する。
前面部220及び後面部230の上部は、フロントメンバ11の前面部11c及び後面部11dにそれぞれ沿わせて配置され、前面部11c、後面部11dと例えば溶接等によって接合され固定されている。
【0024】
前面部220の下部には、ナットプレート100が挿入される開口221が形成されている。開口221は、略矩形に形成された貫通穴である。開口221の高さ方向の寸法は、ナットプレート100の最も厚い部分が通過するのに支障ないように設定されている。開口221の下端部は、下面部210よりも高い位置(フロントメンバ11側の位置)に配置されている。開口221の下端部と下面部210との段差は、ナットプレート100のプレート部110における中央部111と後端部113との段差よりも小さく設定されている。開口221の車幅方向(フロントメンバ11の長手方向)における寸法は、ナットプレート100のプレート部110における中央部111及び先端部112の幅よりも所定の隙間だけ大きく、かつ、後端部113の幅よりも小さくなるように設定されている。
【0025】
後面部230の下部には、ナットプレート100が所定の締結位置に配置された際に、プレート部110の先端部112が突き出す開口231が形成されている。開口231は、略矩形に形成された貫通穴である。開口231の高さ方向の寸法は、ナットプレート100の先端部112が挿入されるのに支障ないように設定されている。開口231の下端部は、下面部210よりも高い位置に配置されている。開口231の下端部と下面部210との段差は、ナットプレート100のプレート部110における中央部111と先端部112との段差よりも小さく設定されている。開口231の車幅方向における寸法は、ナットプレート100の先端部112の幅よりも所定の隙間だけ大きくなるように設定されている。
【0026】
上述したロワメンバ200は、図3、図4等に示すように、フロントメンバ11のうちナットプレート100が配置される領域にのみ部分的に設けられている。
【0027】
次に、上述した実施例1の可動ナット取付構造の製造工程について説明する。
先ず、例えば鉄系金属からなる電縫管等の筒状体を型内に配置して内径側に液圧をかけ、ハイドロフォーミングによってサブフレーム10のフロントメンバ11等を形成する。その後、冶具を用いて各メンバを組み上げて溶接等によって接合し、その他の部品等を装着してサブフレーム10を形成する。
次に、フロントメンバ11の下部にロワメンバ200を溶接して固定する。
そして、防錆等のため、サブフレーム10及びロワメンバ200にカチオン電着塗装等の塗装を施す。
【0028】
塗装の乾燥後、サブフレーム10にディファレンシャルキャリア40を搭載するのに先立ち、ロワメンバ200の前面部220の開口221から、ナットプレート100を先端部112側から挿入し、図2等に示すように、先端部112が後面部230の開口231から突出した状態とする。
そして、サブフレーム10にディファレンシャルキャリア40をあてがい、ボルトをディファレンシャルキャリア40の図示しないボルト孔を経由してナットプレート100のナット部120に挿入する。このとき、ボルトがナット部120のネジ部と同心となるように、ナットプレート100はロワメンバ200の下面部210と摺動して水平方向に変位し、その位置を調整される。この位置調整は、ロワメンバ200の下面部210の開口211からナット部120に工具等を差し込んで行ってもよく、また、作業者がナットプレート100のうちロワメンバ200から突出した部分を把持して行っても良い。
【0029】
このとき、ナットプレート100は、車両の前後方向には、プレート部110の段差の間隔L1(図2参照)とロワメンバ200の前面部220と後面部230との間隔L2との差であるガタの範囲内でフロントメンバ11に対して相対移動可能となっている。
また、ナットプレート100は、車幅方向には、プレート部110の幅W1(図3参照)と開口221,231の幅W2との差であるガタの範囲内でフロントメンバ11に対して相対移動可能となっている。
【0030】
そして、ボルトをナット部120に締結することによって、ディファレンシャルキャリア40の前端部は、サブフレーム10のフロントメンバ11に結合される。
このとき、ナットプレート100は、プレート部110の側端縁部が前面部220及び後面部230の開口221,231の側縁部と当接することによって回り止めがなされる。
また、ナットプレート100のプレート部110の中央部111は、締結対象物であるディファレンシャルキャリア40の図示しないボルト孔部と協働して、ボルトの張力によってロワメンバ200の下面部210を挟持する。このとき、ロワメンバ200はディファレンシャルキャリア40の重量等の荷重を支えることになる。
【0031】
以下、上述した実施例1の効果を、以下説明する本発明の比較例と対比して説明する。なお、比較例及び後述する実施例2においては、上述した実施例1と実質的に同様の箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図6は、比較例の可動ナット取付構造の横断面図であって、図7のVI−VI部矢視断面図である。
図7は、比較例の可動ナット取付構造を車両前方側から見た図であって、図6のVII−VII部矢視図である。
図8は、比較例の可動ナット取付構造の外観斜視図である。
図9は、比較例の可動ナット取付構造におけるガタナット及びカバーの部品図である。
【0032】
比較例においては、実施例1のフロントメンバ11に変えて、上下2分割のフロントメンバ510を備えている。フロントメンバ510は、上側部材511及び下側部材512をいわゆるモナカ状に溶接して中空梁状に形成されている。
フロントメンバ510の内部には、ガタナット520及びナットカバー530が設けられている。
【0033】
ガタナット520は、比較的肉厚の矩形のプレートの中央部にネジ部を形成したものである。ガタナット520は、フロントメンバ510の底面部に非固定状態で載せられている。
ナットカバー530は、フロントメンバ510内におけるガタナット520の変位可能範囲を規制してガタナット520の脱落を防止するとともに、ガタナット520の回り止めをするものである。
ナットカバー530は、カバー部531及び溶接しろ532を例えばプレス成型によって一体に形成したものである。
カバー部531は、下側に開口したトレイ状に形成され、その内寸はガタナット520の外形よりも大きく形成されている。カバー部531には、図9に示すように、ボルトが挿入される逃げ孔533が形成されている。
溶接しろ532は、カバー部531の下端部から突き出して設けられ、ナットカバー530をフロントメンバ510の底面に溶接するのにもちいられるタブ状の部分である。
【0034】
比較例においては、ガタナット520は、その外寸とカバー部531の内寸との差の範囲内でフロントメンバ510に対して相対変位可能となっている。
比較例のようにガタナット520とナットカバー530を用いて、ナットカバー530をフロントメンバ510の内面に溶接する構造とした場合、フロントメンバ510をハイドロフォーム等による一体成型とすることは難しい。仮に溶接トーチ等を挿入できる程度の大きな開口をフロントメンバに設ければ施工は不可能ではないが、この場合フロントメンバの強度が著しく低下してしまう。
また、比較例のようにフロントメンバ510を上下2分割とした場合、部品点数が増加するとともに、フロントメンバ510の全長にわたって上側部材511と下側部材512との溶接を行う必要があることから、重量が増加するとともに、溶接時の熱等による寸法精度低下等の弊害も懸念される。
さらに、下側部材512にはガタナット520及び図示しないボルトからの荷重が負荷されることから、例えば板厚をある程度大きくしたり、複数枚のパネルを重ねた構造とするなどして補強する必要が生じ、さらに重量が増加してしまう。
また、比較例の場合サブフレームをカチオン電着塗装する際に、ガタナット520が下側部材512やナットカバー530に固着するおそれがあり、ネジ部への塗料の付着を防止するためには例えば捨てボルトを挿入してマスキングするなどの対策が必要となる。
また、ナットカバー530の溶接しろ532が下側部材512に溶接される溶接部は、サブフレームの完成後には外側から確認することが困難であり、溶接品質の確認が難しい。
また、ガタナット520及びナットカバー530は、通常汎用品を用いることが困難であり、専用品を準備する必要があるから、コストが増加してしまう。
【0035】
これに対し、実施例1によれば、サブフレーム10のフロントメンバ11をハイドロフォームによって一体に形成し、部品点数の低減、強度向上、軽量化を図った場合であっても、その外部からロワメンバ200を固定し、これにナットプレート100を挿入することによって、容易に可動ナット取付構造を設けることができる。
このようなロワメンバ200は、可動ナット取付構造が設けられる箇所にのみ配置すればよく、比較例のようにフロントメンバの下面部を全体的に補強する場合と比較してさらに軽量化することができる。
さらに、ナットプレート100のプレート部110もロワメンバ200を補強する部材として機能することから、ロワメンバ200はより強固となる。
また、ロワメンバ200とフロントメンバ11との溶接個所は、サブフレーム10の完成後においても外側から容易に目視できることから、溶接品質の確認が容易である。
さらに、ナットプレート100をサブフレーム10のカチオン電着塗装後に挿入することによって、ナットプレート100が塗料によって固着したり、ネジ部の品質が損なわれることがない。
また、ナットプレート100のナット部120は汎用のウェルディングナットを用いることができるので、コストを低減することができる。
【実施例2】
【0036】
次に、本発明を適用した可動ナット取付構造の実施例2について説明する。
図10は、実施例2の可動ナット取付構造の横断面図であって、実施例1における図2に相当する断面を示すものである。
図11は、実施例2の可動ナット取付構造を下側から見た図であって、図10のXI−XI部矢視図である。
図12は、実施例2の可動ナット取付構造の外観斜視図である。
図13は、実施例2におけるナットプレートの部品図である。
【0037】
実施例2の可動ナット取付構造は、実施例1のナットプレート100及びロワメンバ200に代えて、以下説明するナットプレート300及びロワメンバ400を備えている。
図13に示すように、ナットプレート300は、プレート部310、ナット部320を備えている。
プレート部310は、略矩形に形成された平板状の部材である。
ナット部320は、実施例1のナット部120と同様のウェルディングナットである。
ナットプレート300は、プレート部310の長辺方向をフロントメンバ11の長手方向と略沿わせて配置されるとともに、その一方の端部は、ロワメンバ400から突き出して配置されている。
【0038】
ロワメンバ400は、例えば鋼板をプレス加工して形成されたナットプレート保持部材である。
ロワメンバ400は、下面部410、前面部420、後面部430、爪部440,450等を備えている。ロワメンバ400は、車幅方向から見た横断面形状が、上方に開いた略コの字状に形成されている。
【0039】
下面部410は、略水平に配置された平板状の部分であって、フロントメンバ11の下面部11dと間隔を隔てて対向して配置されている。下面部410には、ボルトが挿入される開口411が形成されている。ロワメンバ400の下面部410とフロントメンバ11の下面部11dとの間隔は、ナットプレート300のプレート部310の厚さより大きく、かつ、プレート部310とナット部320との厚さの和より小さく形成されている。
このため、ナット部320は、フロントメンバ11の下面部11bに形成された開口11f(図11参照)から、その上端部がフロントメンバ11の内部に挿入されている。
この開口11fは、ナット部320の外形よりも大きく形成されるとともに、ナットプレート300の変位可能な範囲を規制している。すなわち、ナットプレート300は、ナット部320の外形と開口11fとの間に形成されるガタの範囲内で変位可能となっている。
また、実施例2では、ナットプレート300は、実施例1のようにロワメンバ400の固定後に挿入できないことから、ロワメンバ400をフロントメンバ11に溶接する際に、予めフロントメンバ11とロワメンバ400との間に挟み込まれる。
【0040】
前面部420及び後面部430は、下面部410の車両前方側及び後方側の端縁より上方へ立ち上げられた平板状の部分である。
前面部420及び後面部430の上部は、フロントメンバ11の前面部11c及び後面部11dにそれぞれ沿わせて配置され、前面部11c、後面部11dと例えば溶接等によって接合され固定されている。
【0041】
爪部440,450は、フロントメンバ11の長手方向におけるロワメンバ400の一方の端部に設けられている。
爪部440は、前面部420の下端部から、フロントメンバ11の下面部11bに沿って車両後方側に突き出した部分である。
爪部450は、後面部430の下端部から、フロントメンバ11の下面部11bに沿って車両前方側に突き出した部分である。
爪部440,450の突端部は、図11に示すように、ナットプレート300のプレート部310の側縁部と対向して配置されている。爪部440,450の間隔は、ナットプレート300の変位を妨げないように、プレート部310の幅より大きく設定されている。これらの爪部440,450は、ボルトをナットプレート300のナット部320に締結する際に、ナットプレート300の回り止めを行うものである。
【0042】
また、爪部440,450は、ロワメンバ400をフロントメンバ11に溶接する際に、フロントメンバ11の下面部11bとロワメンバ400の下面部410との間隔を位置決めする位置決め手段としても機能する。
なお、このような爪部440,450は、ロワメンバ400の両端部に設けてもよく、この場合、上述した位置決め効果を向上することができる。
以上説明した実施例2においても、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果(ナットプレートへの塗料の付着に関するものを除く)を得ることができる。また、可動ナット取付構造のフロントメンバ11からの張り出し量が低減されることから、スペース効率が向上する。
【0043】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
各実施例では中空構造体は例えば車両のリアサブフレームであるが、本発明はこれに限らず、一体に形成された他の中空構造体への可動ナット取付にも適用することができる。例えば、中空構造体は一体に形成されたフロントサブフレーム、クロスメンバ、ピラー等であってもよく、締結対象となる部品等も特に限定されない。また、中空構造体を形成する手法もハイドロフォームに限定されず、例えばアルミニウム合金等の押し出し材を用いて中空構造体を形成してもよい。
また、ナットプレート及びその保持部材の形状や構造、材質等も特に限定されない。
【符号の説明】
【0044】
10 サブフレーム 11 フロントメンバ
11a 上面部 11b 下面部
11c 前面部 11d 後面部
11e 逃げ孔 11f 開口
12 リアメンバ 13 サイドメンバ
20 ハウジング 21 ハブ
30 サスペンション 31 フロントラテラルリンク
32 アッパアーム 33 トレーリングリンク
40 ディファレンシャルキャリア 41 ドライブシャフト
50 マウント
100 ナットプレート 110 プレート部
111 中央部 112 先端部
113 後端部 120 ナット部
200 ロワメンバ
210 下面部 211 開口
220 前面部 221 開口
230 後面部 231 開口
300 ナットプレート
310 プレート部 320 ナット部
400 ロワメンバ 410 下面部
420 前面部 430 後面部
440 爪部 450 爪部
510 フロントメンバ
511 上側部材 512 下側部材
520 ガタナット 530 ナットカバー
531 カバー部 532 溶接しろ
533 逃げ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面を有しかつ一体に形成された中空構造体と、
前記中空構造体の外部に固定されかつ前記中空構造体の外表面と間隔を隔てて対向する保持面部を有するナットプレート保持部材と、
前記中空構造体の前記外表面と前記ナットプレート保持部材の前記保持面部との間に配置されたプレート部及び前記プレート部の法線方向に略沿ってボルトが挿入されるネジ部が形成されたナット部を有し、前記中空構造体に対して前記ネジ部の中心軸とほぼ直交する方向に相対変位可能とされたナットプレートと
を有することを特徴とする中空構造体の可動ナット取付構造。
【請求項2】
前記ナットプレートは、金属板からなるプレート部の前記中空構造体側の面にナット部を固定して構成されること
を特徴とする請求項1に記載の中空構造体の可動ナット取付構造。
【請求項3】
前記ナットプレート保持部材は、前記中空構造体から前記保持面部にわたして設けられ前記保持面部を支持する支持部と、
前記支持部に形成され、前記ナットプレートが外部から挿入される挿入開口と
を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可動ナット取付構造。
【請求項4】
前記ナットプレート保持部材の前記保持面部は、前記中空構造体の前記外表面との間隔が前記プレート部の厚さより大きくかつ前記プレート部の厚さと前記ナット部の厚さの和より小さく形成され、
前記中空構造体の前記外表面に前記ナット部の少なくとも一部が挿入される開口が形成され、
前記ナットプレートは、前記ナットプレート保持部材を前記中空構造体に固定する際に予め前記中空構造体と前記ナットプレート保持部材との間に配置されること
を特徴とする請求項2に記載の可動ナット取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−163068(P2010−163068A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7325(P2009−7325)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】