説明

可変動弁機構の制御装置

【課題】 可変動弁機構の制御応答性を向上可能な可変動弁機構の制御装置を提供すること。
【解決手段】 バルブの開閉タイミングを所望のタイミングに変更可能なアクチュエータを備えた可変動弁機構と、エンジンの作動状態に基づいて基本位相操作量を演算する基本操作量演算手段と、前記カムシャフトに作用する負荷を検出する負荷検出手段と、前記負荷に基づいて前記基本位相操作量の負荷分補正量を演算する負荷分補正量演算手段と、前記基本位相操作量に前記負荷分補正量を加算して最終的な位相操作量を演算する位相操作量演算手段と、前記最終的な位相操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動するアクチュエータ駆動制御手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのバルブ開閉タイミングを変更可能な可変動弁機構の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのバルブ開閉タイミングを変更することで燃費の改善等を行なう可変動弁機構の技術として特許文献1に記載の技術が知られている。この公報には、エンジンの運転状態に応じて最適なバルブ開閉タイミングが得られるように所望の進角もしくは遅角位置に制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−138736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、バルブタイミングを変更する際、カムシャフトと連動して駆動するカムのクランク軸に対する位相をアクチュエータによって変更する。よって、アクチュエータには常にバルブスプリングによる力が作用する。この力は、カムの径が拡大するときには反力として、また、カムの径が縮小するときには付加力として作用するため、アクチュエータには交番トルクが作用する。エンジン回転数が高回転のときは、交番トルクが作用しても、実効値として平均的な値が作用するのみであるため、アクチュエータの作動力にオフセット値を与えて補正することは比較的容易である。しかしながら、エンジン回転数が低回転のときは、交番トルクが直接的に作用するため、アクチュエータ作動方向に対して同一方向と反対方向とにトルクが作用する。よって、目標とする位置に制御することが困難であった。
本発明の目的とするところは、可変動弁機構の制御応答性を向上可能な可変動弁機構の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の可変動弁機構の制御装置では、クランクシャフトと同期して回転するカムシャフトによりバルブスプリング力に抗して開閉動作を行なう吸気又は排気バルブと、前記クランクシャフトに対する前記カムシャフトの位相を進角又は遅角することで、前記バルブの開閉タイミングを所望のタイミングに変更可能なアクチュエータを備えた可変動弁機構と、エンジンの作動状態に基づいて基本位相操作量を演算する基本操作量演算手段と、前記カムシャフトに作用する負荷を検出する負荷検出手段と、前記負荷に基づいて前記基本位相操作量の負荷分補正量を演算する負荷分補正量演算手段と、前記基本位相操作量に前記負荷分補正量を加算して最終的な位相操作量を演算する位相操作量演算手段と、前記最終的な位相操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動するアクチュエータ駆動制御手段と、を備えた。
【発明の効果】
【0006】
よって、カムシャフトに作用する交番トルクの影響、言い換えると、アクチュエータに作用する交番トルクの影響を補正することで、制御の応答性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のエンジン始動制御装置の構成を表すシステム図である。
【図2】実施例1の筒内圧センサの構成を表す概略図である。
【図3】実施例1のホイートストンブリッジ回路を表す回路図である。
【図4】実施例1のひずみセンサとダミー抵抗の形状とシリコン基板の結晶方位との関係を示す図である。
【図5】実施例1のエンジン始動制御処理を表すフローチャートである。
【図6】実施例1の自爆始動時における燃料噴射量と筒内圧との関係を表す制御マップである。
【図7】実施例1の自爆始動時における点火ディレイと筒内圧との関係を表す制御マップである。
【図8】実施例1の自爆始動時におけるエギゾーストバルブ開閉タイミングと筒内圧との関係を表す制御マップである。
【図9】実施例1のエンジン始動制御処理を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
図1は実施例1の可変動弁機構の制御装置のシステム図である。エンジンのクランクシャフト1にはチェーンを介して吸気側スプロケット2と一体に回転する吸気側カムシャフト3と、可変動弁機構4と一体に回転する排気側カムシャフト5とを有する。吸気側カムシャフト3は、カムの径が拡大するときにバルブスプリングにより閉状態に付勢された吸気バルブ31を押し下げて開状態とし、カムの径が縮小するときにバルブスプリングにより閉状態となる。排気側カムシャフト5は、カムの径が拡大するときにバルブスプリングにより閉状態に付勢された排気バルブ51を押し下げて開状態とし、カムの径が縮小するときにバルブスプリングにより閉状態となる。尚、このように、カムシャフトの回転によってバルブスプリング力が回転を促進する方向と回転を阻害する方向とに交互に切り替わるトルクが作用するため、以下、これを交番トルクと記載する。
【0009】
排気側カムシャフト5を回転自在に支持するジャーナル軸受けには、排気側カムシャフト5に作用する負荷トルク(交番トルク)を検出するトルクセンサ7が設けられている。すなわち、排気側カムシャフト5が回転すると、カムが排気バルブ51をスプリング力に抗して押し下げる。このとき、排気側カムシャフト5の径方向にバルブスプリングによる付勢力が作用し、ジャーナル軸受けに歪を生じる。この歪は交番トルクと相関があることから、精度よく交番トルクを検出することができる。また、可変動弁機構4の動作位置を検出する位置検出センサ6が設けられている。
【0010】
クランクシャフト1が回転すると、この回転に同期して吸気側カムシャフト3と排気側カムシャフト5とが回転し、それぞれのシャフトに設けられたカム機構により吸気側バルブ及び排気側バルブの開閉動作を行なう。実施例1の可変動弁機構4は、外周にチェーンが巻回されたボディ部材と、ボディ部材内周において、ボディ部材と相対回動可能であって排気側カムシャフト5と一体に作動するインナ部材とから構成されている。また、ボディ部材とインナ部材との相対回動を制御するモータが内蔵されており、このモータに対し制御信号を出力し、相対回動量を制御することで、所望の進角位置もしくは遅角位置を達成する。尚、実施例1では可変動弁機構の構成としてモータを用いた例を示したが、インナ部材にベーン等を有する油圧式のタイプ等でも良く、特に限定しない。
【0011】
(制御構成について)
エンジンコントローラ10内には、可変動弁機構4を制御する構成が設けられている。以下、制御構成について説明する。
〔基本操作量演算構成〕
可変動弁目標位置演算部101では、エンジン状態(エンジン回転数等)に基づいて目標位置を演算する。例えば、エンジン回転数が低回転領域では、排気バルブを閉じ方向、すなわち遅角側の位置に制御する。また、エンジン回転数が高回転領域では、排気バルブを開き方向、すなわち進角側の位置に制御する。
可変動弁検出位置演算部102では、位置検出センサ6により検出された値に基づいて可変動弁機構の実際の位置(以下、検出位置)を演算する。
偏差演算部103では、目標位置と検出位置との偏差を演算する。
可変動弁機構基本操作量演算部104では、偏差演算部103で演算された偏差に基づいて、検出位置を目標位置に収束させるようなアクチュエータ操作量である基本位相操作量を演算する。
【0012】
〔負荷分補正量演算構成〕
カムトルク検出部105では、トルクセンサ7により検出された歪量に基づいて排気側カムシャフト5に作用するカムトルクを検出する。
カムトルク補正量演算部106では、検出されたカムトルクによりアクチュエータが影響を受ける分を補うための負荷分補正量を演算する。例えば、カムトルクがアクチュエータ作動方向に対して負荷方向に作用しているときには、負荷分補正量としてプラスの値が算出され、アクチュエータ作動方向に対して同方向に作用しているときには、負荷分補正量としてマイナスの値が算出される。
【0013】
〔位相操作量演算構成〕
位相操作量演算部107では、基本位相操作量に負荷分補正量を加算し、最終的な位相操作量をアクチュエータ駆動制御部108に出力する。
アクチュエータ駆動制御部108では、可変動弁機構4内に設けられたモータに対し、必要な電流制御を行って目標位置となるようにモータを駆動する。
【0014】
〔トルクセンサの構成について〕
ここで、トルクセンサ7の詳細について説明する。図2は実施例1の筒内圧センサの構成を表す概略図である。このトルクセンサ7は、同一の単結晶シリコン基板141上に、少なくともピエゾ抵抗効果を利用したひずみセンサ142とダミー抵抗142aを有するホイートストンブリッジ回路144、ひずみセンサアンプ群143、アナログ/デジタルコンバータ145、整流・検波・変復調回路部146、通信制御部147、接着部148、アンテナ149を備えている。尚、以下ではシリコン基板141と、シリコン基板141上に構成した薄膜群を総称してチップ140と記載する。アンテナ149は、電力を稼ぐために外部に大きなアンテナを形成しても良いが、ここではチップ140内に内蔵する場合を例に説明する。
【0015】
アンテナ149を内蔵している場合には、トルクセンサ7がチップ140に相当し、アンテナを外付けとした場合にはチップ140とアンテナ149を併せてトルクセンサ7とする。チップ140内にアンテナを内蔵しているため、外部接続用の電極パッドが不要となり、電極がチップ表面に露出することがなく、劣悪な環境下で用いる場合にも、電極パッドの腐食等が起こらず、信頼性が高い。トルクセンサ7は接着部148によりジャーナル軸受けに接着され、シリコン基板141にひずみが伝達される。シリコン基板141全体にひずみが付加されると、シリコン基板141中のひずみセンサ142の抵抗が変化し、ひずみセンサアンプ群143、アナログ/デジタルコンバータ145を通してデジタル信号に変換され、アンテナ149からリーダに送信される。一方、リーダから送られた電力用高周波信号をアンテナ149で受信し、整流・検波・変復調回路部146で平滑化し、一定電圧の直流電力にしてチップ140内の各回路に電源として供給する。尚、実施例1ではアンテナに誘導電磁界を形成する電磁誘導を用いたもの、もしくはマイクロ波を受信、復調して用いたもの、光を用いてエネルギ供給及び交信を行なってもよい。尚、シリコン基板裏面をジャーナル軸受けとの接着面とする。尚、実施例1では、トルクセンサ7に対する電力供給やセンサ信号の送受信を無線により行なうこととしたが、有線により行なってもよい。この場合は配線等の制約が生じるものの、無線関係機器等を削減することができるため、外乱ノイズへの耐性を確保しやすくなる。
【0016】
トルクセンサ7は素子形成面に対向したシリコン基板裏面に接着部148が配されている。そして、ジャーナル軸受けのひずみがシリコン基板全体に接着部148を通してひずみを与えることによってひずみを計測する。すなわち、ひずみセンサ142とその処理回路が同一のシリコン基板中に高集積されるため、コンパクトな構成を達成している。このとき、シリコン基板の厚さを100μm以下にすることが望ましく、その場合にはジャーナル軸受けのひずみの値とひずみセンサ142の位置でのひずみの値をほぼ一致させることができる。すなわち、シリコン基板141の厚さを100μm以下にすることによって測定精度を向上している。また、シリコン基板141の厚さを100μm以下にすると、ジャーナル軸受けとの接着面が曲面を持っていたとしても、破壊することなく該曲面に沿って貼り付けることができる。さらに、シリコン基板141は絶縁膜に比べて熱伝導率が高いため、シリコン基板141の裏面に接着部148を配したことによってジャーナル軸受けの温度がシリコン基板141の表面のひずみセンサ142に伝わりやすく、温度補正を行なった際にも温度不均一による精度の低下が発生しないという利点もある。また、ジャーナル軸受けに接着した状態で温度が上昇すると、チップ140とジャーナル軸受けの間に大きな熱応力が発生する場合がある。しかしながら、このトルクセンサ7は、シリコン基板裏面に接着部148を配しており、シリコン基板裏面のほうがガラス等で構成されているチップ表面よりも接着強度や破壊強度が大きいため、ジャーナル軸受けの温度が上昇した場合でも、接着部148での破壊や剥離が起きず、信頼性ある測定ができる。接着部148はシリコンの裏面を荒らした構造を有しており、凹凸の大きさは粗さで1ミクロン以上と、チップ表面の凹凸に比べて大きくする。これにより凹凸によるアンカー効果が発生し、ジャーナル軸受けとの接着性が更に向上する。
【0017】
また、同一のシリコン基板中にひずみセンサ142と、ひずみセンサアンプ群143及びアナログ/デジタルコンバータ145を形成し、更にこれらの回路をチップ内で配線した構造を持つため、ひずみセンサ142と他の部分をつなぐ配線の長さを非常に短くすることができ、これにより電磁誘導もしくはマイクロ波で供給された電力を用いて動作させた場合でも、ノイズの混入が非常に小さく出来る。誘導電流を電源に用いて回路の動作をさせる際にはセンサの消費電力の低減が必須であるが、この場合においてもセンサのデータがノイズに埋もれることなく正しい測定が可能となる。
【0018】
また、通常考えられるように、ひずみセンサのみを被測定物に接着し、他の回路はひずみを受けないように、センサとは別に形成した場合には、電磁誘導もしくはマイクロ波用の電波を受けた際にリード線からノイズが乗りやすく、特別な考慮なしでは実質はノイズに埋もれて測定は不可能となる。これはセンサとその他の回路が離れた場所に存在するために、電波照射時にセンサと他の回路で位相差が生じ、異なった電位となるためである。一方、実施例1では、ひずみ測定に関与する箇所は電波の広がりに対してほぼ点であるとみなせることから、位相のずれがなく、ノイズの混入が非常に小さく出来るため、正しい測定が可能となる。
【0019】
更に、実施例1では、ひずみセンサ142とひずみセンサアンプ群143が隣に形成され、さらにひずみセンサアンプ群143とアナログ/デジタルコンバータ145が隣に形成されている。ひずみセンサ142とひずみセンサアンプ群143、及びひずみセンサアンプ群143とアナログ・デジタルコンバータ145が整流・検波・変復調回路部146、通信制御部147に比べて近距離に配置されているため、配線長さが短く、電波照射時にもノイズが混入しにくいという利点がある。
【0020】
図3はホイートストンブリッジ回路を表す回路図である。ホイートストンブリッジ回路144において、ひずみセンサ142はシリコン基板141中に局所的にP型の不純物層を拡散して形成され、その長手方向は<110>方向とする。またダミー抵抗142aは同様にシリコン基板中に局所的にP型の不純物層を拡散して形成され、図2に示すようにV字型とし、そのV字型を形成する直線部分の長手方向は<100>となるようにする。さらにひずみセンサ142とダミー抵抗142aの抵抗値はほぼ同じ値となるように形成する。また、ダミー抵抗142aはV字型をしているが、V字を形成する二つの直線部分の長さが等しくなるように折れ曲がるようにする。
【0021】
図4はひずみセンサとダミー抵抗の形状とシリコン基板の結晶方位との関係を示す図である。ひずみセンサ142をP型不純物拡散層で形成し、<110>方向を長手とすることで、長手方向の応力感度が大きく出来る。また、ダミー抵抗142aをP型不純物拡散層で形成し、長手方向を<100>とすることで垂直応力に対する感度を打ち消すことができるので、更にダミー抵抗142aの感度を低下させることができる。
【0022】
このように、単結晶シリコン基板の(001)面に、互いに対向する2辺に設けられた二つのひずみセンサ142及び他の互いに対向2辺に設けられた二つのダミー抵抗142aからなる4辺のホイートストンブリッジ回路144を有し、ひずみセンサ142及びダミー抵抗142aをP型不純物拡散層で形成し、ひずみセンサ142の長手方向は<110>方向とし、ダミー抵抗142aはV字状をなし且つ当該V字を形成する直線部分の長手方向が<100>方向となるように形成したことで、ノイズの混入が非常に小さく、正しい測定ができる。
【0023】
尚、このセンサのひずみセンサ142とダミー抵抗142aの組み合わせと、各センサ及び抵抗の長手方向の関係は以下のように、
1)ひずみセンサをN型不純物拡散層で<100>方向を長手とし、ダミー抵抗をP型不純物拡散層で<100>方向を長手とし、二つのひずみセンサ及び二つのダミー抵抗が平行配置されているもの
2)ひずみセンサをN型不純物拡散層で<100>方向を長手とし、ダミー抵抗をN型不純物拡散層で、ダミー抵抗はV字形状でV字を形成する直線部分の長手方向が<110>方向とされているもの
3)ひずみセンサをP型不純物拡散層で、ダミー抵抗をN型不純物拡散層で形成し、ひずみセンサ及びダミー抵抗をともに<110>方向を長手とするように形成し、かつ、二つのひずみセンサ及び二つのダミー抵抗が平行配置されているもの
の組み合わせのいずれかであってもよい。
【0024】
(可変動弁機構の制御処理)
次に、上記トルクセンサ7を用いた可変動弁機構の制御処理について説明する。図5は実施例1の可変動弁機構制御処理を表すフローチャートである。
【0025】
ステップS1では、エンジン状態に基づいて目標位置を算出する。
ステップS2では、位置検出センサ6の検出信号より検出位置を算出する。
ステップS3では、検出位置を目標位置に収束させる基本操作量Vbasicを算出する。
ステップS4では、トルクセンサ7の検出信号によりカムトルクTcamを算出する。
ステップS5では、カムトルクに対する負荷分補正量Vcamを以下の式により算出する。
Vcam=Gain×Tcam
ここで、Gainは、可変動弁機構4の操作量とカムトルクの関係から決定する設計値である。
ステップS6では、基本操作量Vbasicに負荷分補正量Vcamを加算して最終的な位相操作量Vを算出する。
ステップS7では、最終的な位相操作量をアクチュエータ駆動制御部に出力する。
【0026】
図6は実施例1の可変動弁機構の制御処理を表すタイムチャートである。尚、図6(a)は負荷分補正量を加味しない比較例であり、図6(b)は実施例1の負荷分補正量を加算する場合を示す。エンジン回転数が高回転領域では、交番トルク自体が発生したとしても、実際に排気側カムシャフト5に作用するトルクは負荷方向に略一定の値が作用しているのと同じとみなすことができる。よって、基本操作量Vbasicにオフセット値を与えておくことである程度の対応は可能である。しかしながら、エンジン回転数が低回転領域では、交番トルクが直接的に作用するようになり、略一定の値ではなく、排気バルブからの作用方向が反転して作用するようになる。このとき、図9(a)に示すように、例えば進角側に目標位置があり、遅角側から何ら補正をかけずに制御すると、遅角側に働くカムトルクによってアクチュエータの作動が遅れてしまい、実際の位置である検出位置はなかなか目標位置に追従してこないという問題があった。これに対し、実施例1では、図6(b)に示すように、交番トルクに応じて負荷分補正量Vcamを加算しているため、アクチュエータの作動が遅れることがなく、目標位置への作動応答性を確保することができる。
【0027】
以上説明したように、実施例1にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(1)クランクシャフト1と同期して回転するカムシャフト5によりバルブスプリング力に抗して開閉動作を行なう排気バルブ51と、クランクシャフト1に対するカムシャフト5の位相を進角又は遅角することで、排気バルブ51の開閉タイミングを所望のタイミングに変更可能なアクチュエータを備えた可変動弁機構4と、エンジンの作動状態に基づいて基本位相操作量を演算する基本操作量演算部104(基本操作量演算手段)と、排気側カムシャフト5に作用する負荷を検出するトルクセンサ7(負荷検出手段)と、負荷に基づいて基本位相操作量の負荷分補正量を演算するカムトルク補正量演算部106(負荷分補正量演算手段)と、基本位相操作量に負荷分補正量を加算して最終的な位相操作量を演算する位相操作量演算部107(位相操作量演算手段)と、最終的な位相操作量に基づいてアクチュエータを駆動するアクチュエータ駆動制御部108(アクチュエータ駆動制御手段)と、を備えた。
よって、カムシャフトに作用する交番トルクの影響、言い換えると、アクチュエータに作用する交番トルクの影響を補正することで、制御の応答性を確保することができる。
【0028】
(2)トルクセンサ7は、カムシャフト5のジャーナル軸受けの歪を検出するセンサである。よって、回転体の歪と相関の高い部位において歪を検出することができ、検出精度を高めることができる。
【0029】
(3)トルクセンサ7は、単結晶シリコン基板の(001)面に、互いに対向する2辺に設けられた二つのひずみセンサ及び他の互いに対向2辺に設けられた二つのダミー抵抗からなる4辺のホイートストンブリッジ回路と、該ホイートストンブリッジ回路からの信号を増幅してデジタル信号に変換する変換回路と、該デジタル信号と前記シリコン基板の外部に電送するための電送回路と、前記シリコン基板の外部から受けた振動等に基づいて各回路に電源を供給する電源回路と、を有するセンサである。
よって、非常にコンパクトな構成でありながら、極めて高精度な歪量を検出することができ、カムトルクを精度良く検出することができる。
【0030】
〔実施例2〕
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。実施例1では、カムトルク補正量演算部106において、検出されたカムトルクによりアクチュエータが影響を受ける分を補うための負荷分補正量を演算し、常時、負荷分補正量を付与することでアクチュエータを制御した。これに対し、実施例2では、交番トルクがカムシャフトの回転によってバルブスプリング力により回転が阻害される方向の場合のみ負荷分補正量を付与することとした。
【0031】
図7は実施例2の可変動弁機構制御処理を表すフローチャートである。ステップS1〜S7は実施例1と同じであるため、異なるステップについてのみ説明する。
【0032】
ステップS21では、制御方向がカムトルクによる駆動方向と一致しているか否かを判断し、一致しているときはステップS22に進んで最終操作量として基本操作量のみ出力する。一方、一致していないときはステップS5に進んで負荷分補正量を加算する。ここで、制御方向とは、アクチュエータが制御指令に基づいて作動する方向を表し、カムトルクによる駆動方向とは、交番トルクによってカムシャフトに付与されるトルクがカムシャフトの回転方向に付与される方向か、回転方向に対して反対に付与される方向か否かを表す。言い換えると、カムシャフトが交番トルクによって回転を促進する方向の場合には、制御方向とカムトルクによる駆動方向とが一致した状態であり、カムシャフトが交番トルクによって回転を阻害する方向の場合には、制御方向とカムトルクによる駆動方向とが不一致の状態である。
【0033】
図8は実施例2の可変動弁機構制御を表すタイムチャートである。最終的な位相操作量として制御方向とカムトルクによる駆動方向とが不一致のときのみ負荷分を加算することで、可変動弁機構4の消費エネルギを抑制しつつ、制御応答性を確保できる。
【0034】
以上説明したように実施例2にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(4)位相操作量演算部107は、負荷の方向と位相操作量を達成するための制御方向とが不一致のときにのみ負荷分補正量を加算する。よって、可変動弁機構4の消費エネルギを抑制しつつ、制御応答性を確保することができる。
【0035】
〔実施例3〕
次に、実施例3について説明する。基本的な構成は実施例2と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図9は実施例3の可変動弁機構制御処理を表すフローチャートである。ステップS1〜S7及びS21は実施例1と同じであるため、異なるステップについてのみ説明する。
ステップS31では、エンジン回転数及び油温を読み込む。
ステップS32では、エンジン回転数に応じたゲインG_rpm及び油温に応じたゲインG_oilを算出し、負荷分補正量Vcamにこれらゲインを乗じて補正後の負荷分補正量Vcam2を算出する。ここで、エンジン回転数が低いほうがより負荷トルクによる影響を受けやすいため、エンジン回転数が低いほどG_rpmが大きくなるように設定されている。また、油温が低いほど粘性抵抗が高くカムトルクが大きくなる傾向にあることから、油温が低いほどG_oilが大きくなるように設定されている。これにより、エンジン回転数や油温によって可変動弁機構4が受けるカムトルクの影響変化を補正することができるため、より精度の高い補正ができる。
【0036】
以上説明したように実施例3にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(5)エンジン回転数及び油温に基づいて、G_rpm及びG_oil(補正ゲイン)を算出するステップS32(補正ゲイン算出手段)と、負荷分補正量VcamにG_rpm及びG_oilを乗算した最終補正量を演算するステップS32(最終補正量演算手段)と、を設け、位相操作量演算部107は、基本位相操作量V_basicに最終補正量Vcam2を加算して最終的な位相操作量を演算する。よって、エンジンの作動状態に応じて可変動弁機構4が受けるカムトルクの影響変化を補正することができるため、より精度の高い補正ができる。
【0037】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、具体的構成は上記に限定されない。実施例1ではジャーナル軸受けにトルクセンサ7を設けた例を示したが、カムシャフト等、カムトルクの影響によって変形が考えられる場所であれば適宜設定可能である。また、実施例では、可変動弁機構として、モータ駆動方式を採用したが、油圧方式であっても構わない。また、クランクシャフトとカムシャフトの位相を変更するタイプについて説明したが、同時にバルブリフト量を変更するタイプであっても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 クランクシャフト
2 吸気側スプロケット
3 吸気側カムシャフト
4 可変動弁機構
5 排気側カムシャフト
6 位置検出センサ
7 トルクセンサ
10 エンジンコントローラ
31 吸気バルブ
51 排気バルブ
140 チップ
141 シリコン基板
142 ひずみセンサ
142a ダミー抵抗
143 センサアンプ群
144 ホイートストンブリッジ回路
145 アナログ・デジタルコンバータ
146 整流・検波・変復調回路部
147 通信制御部
148 接着部
149 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトと同期して回転するカムシャフトによりバルブスプリング力に抗して開閉動作を行なう吸気又は排気バルブと、
前記クランクシャフトに対する前記カムシャフトの位相を進角又は遅角することで、前記バルブの開閉タイミングを所望のタイミングに変更可能なアクチュエータを備えた可変動弁機構と、
エンジンの作動状態に基づいて基本位相操作量を演算する基本操作量演算手段と、
前記カムシャフトに作用する負荷を検出する負荷検出手段と、
前記負荷に基づいて前記基本位相操作量の負荷分補正量を演算する負荷分補正量演算手段と、
前記基本位相操作量に前記負荷分補正量を加算して最終的な位相操作量を演算する位相操作量演算手段と、
前記最終的な位相操作量に基づいて前記アクチュエータを駆動するアクチュエータ駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする可変動弁機構の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の可変動弁機構の制御装置において、
位相操作量演算手段は、前記負荷の方向と前記位相操作量を達成するための制御方向とが不一致のときにのみ前記補正量を加算することを特徴とする可変動弁機構の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の可変動弁機構の制御装置において、
エンジン回転数及び油温に基づいて、補正ゲインを算出する補正ゲイン算出手段と、
前記負荷分補正量に前記補正ゲインを乗算した最終補正量を演算する最終補正量演算手段と、
を設け、
前記位相操作量演算手段は、前記基本位相操作量に前記最終補正量を加算して最終的な位相操作量を演算することを特徴とする可変動弁機構の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置において、
前記負荷検出手段は、前記カムシャフトのジャーナル軸受けの歪を検出するセンサであることを特徴とする可変動弁機構の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の可変動弁機構の制御装置において、
前記センサは、単結晶シリコン基板の(001)面に、互いに対向する2辺に設けられた二つのひずみセンサ及び他の互いに対向2辺に設けられた二つのダミー抵抗からなる4辺のホイートストンブリッジ回路と、該ホイートストンブリッジ回路からの信号を増幅してデジタル信号に変換する変換回路と、該デジタル信号と前記シリコン基板の外部に電送するための電送回路と、前記シリコン基板の外部から受けた振動等に基づいて各回路に電源を供給する電源回路と、を有するセンサであることを特徴とする可変動弁機構の制御装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−68211(P2013−68211A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209387(P2011−209387)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】