説明

可変動弁装置

【課題】内燃機関の低温始動性を向上させることができる可変動弁装置を提供する。
【解決手段】可変動弁装置(40)は、内燃機関(10)の吸気弁(16a,16b)のリフト量を変更することなく吸気弁の作用角を変更可能な可変動弁機構(50)と、内燃機関が所定温度よりも低温の状態で始動する低温始動時の場合には、内燃機関が低温始動時でない場合に比較して、吸気弁の閉弁時期が進角するように可変動弁機構を制御する制御装置(70)と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の吸気弁の作用角を変更可能な可変動弁装置が知られている。このような可変動弁装置として、特許文献1には吸気弁の作用角を増大または減少させるとともに作用角の増大または減少に併せて吸気弁のリフト量も増大または減少させる可変動弁装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−299594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に内燃機関の低温時においては、内燃機関の潤滑油の粘性が大きく内燃機関のフリクションが大きいため、内燃機関の始動性は良好とはいえない。そこで内燃機関の低温時における始動性を向上させるために、内燃機関の低温始動時において吸気弁の閉弁時期を進角させることによって吸気弁の作用角を減少させることが考えられる。この場合、低温始動時の圧縮時のトルクを減少させてクランキング回転数の低下を抑制できると考えられる。それにより、内燃機関の低温始動性の向上を図ることが可能と考えられる。
【0005】
しかしながら、低温始動時において吸気弁の作用角を減少させるために特許文献1に係る可変動弁装置を応用した場合には、吸気弁の作用角だけでなく吸気弁のリフト量も減少してしまう。吸気弁のリフト量が減少した場合、内燃機関に吸入される空気量も減少してしまう結果、内燃機関が発生するトルクも減少してしまう。内燃機関が発生するトルクが減少した場合、低温始動時におけるフリクションに対抗し得るトルクが得られなくなるおそれがある。したがって、特許文献1の技術を応用しても内燃機関の低温始動性を向上させることは困難である。
【0006】
本発明は、内燃機関の低温始動性を向上させることができる可変動弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る可変動弁装置は、内燃機関の吸気弁のリフト量を変更することなく前記吸気弁の作用角を変更可能な可変動弁機構と、前記内燃機関が所定温度よりも低温の状態で始動する低温始動時の場合には、前記内燃機関が前記低温始動時でない場合に比較して、前記吸気弁の閉弁時期が進角するように前記可変動弁機構を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る可変動弁装置によれば、内燃機関が低温始動時の場合には内燃機関が低温始動時でない場合に比較して、吸気弁のリフト量を変更することなく吸気弁の閉弁時期を進角させて吸気弁の作用角を減少させることができる。その結果、内燃機関が低温始動時の場合において、内燃機関に吸入される空気量の低下を抑制しつつ吸気弁の作用角を内燃機関が低温始動時でない場合に比較して減少させることができる。それにより、内燃機関が低温始動時の場合におけるフリクションに対抗し得るトルクを確保しつつクランキング回転数の低下を抑制できる。よって、内燃機関の低温始動性を向上させることができる。
【0009】
上記構成において、前記制御装置は、前記内燃機関に吸入される空気の圧力が小さくなるほど前記吸気弁の前記閉弁時期の進角量が小さくなるように前記可変動弁機構を制御してもよい。
【0010】
一般に、内燃機関に吸入される空気の圧力(以下、吸気圧と称する)が小さくなるほど内燃機関に空気が入り難くなる傾向がある。内燃機関に空気が入り難くなって内燃機関に吸入される空気量が不足した場合、低温始動時におけるフリクションに対抗し得るトルクを確保できなくなって内燃機関の低温始動性の向上が困難になるおそれがある。これに対して本構成によれば、吸気圧が小さくなるほど低温始動時における吸気弁の閉弁時期の進角量を小さくすることができる。その結果、吸気圧の減少に応じて吸気弁の作用角の減少量を小さくして、低温始動時における内燃機関に吸入される空気量を確保することができる。それにより、内燃機関の低温始動性を吸気圧の減少に応じて適切に向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内燃機関の低温始動性を向上させることができる可変動弁装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は内燃機関システムを示す模式図である。図1(b)は気筒を上方側から見た模式図である。
【図2】図2(a)〜図2(d)は可変動弁機構の詳細を説明するための模式図である。
【図3】図3は制御装置のフローチャートの一例を示す図である。
【図4】図4は、制御装置が吸気2弁の閉弁時期を進角させる前後における排気2弁および吸気2弁のバルブリフト曲線を示す図である。
【図5】図5は、吸気2弁の閉弁時期の進角量を吸気圧に関連付けて複数規定したマップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1に係る可変動弁装置40について説明する。まず可変動弁装置40が適用される内燃機関システム5の全体構成について説明し、次いで可変動弁装置40の詳細について説明する。図1(a)は、内燃機関システム5を示す模式図である。内燃機関システム5は、内燃機関10と可変動弁装置40とを備えている。内燃機関10の種類は特に限定されないが、本実施例に係る内燃機関10はディーゼルエンジンである。但し、本実施例に係る可変動弁装置40はガソリンエンジンにも適用することができる。
【0015】
内燃機関10は、シリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、ピストン13と、吸気通路14と、排気通路15と、吸気弁(吸気弁16aおよび吸気弁16b)と、排気弁(排気弁17aおよび排気弁17b)と、各種センサとを備えている。可変動弁装置40は、可変動弁機構50と制御装置70とを備えている。
【0016】
シリンダブロック11には気筒18が形成されている。本実施例において、気筒18の数は一つである。但しシリンダブロック11は複数の気筒18を有していてもよい。シリンダヘッド12は、シリンダブロック11の上方に配置されている。ピストン13は、気筒18に配置されている。シリンダブロック11とシリンダヘッド12とピストン13とによって囲まれた領域に、燃焼室19が形成されている。燃焼室19は、燃料と空気とが混合した混合気が燃焼するための空間である。ピストン13は、クランクシャフトにコンロッドを介して接続されている。ピストン13が気筒18内を上下動することで、クランクシャフトは回転する。なお、本実施例において上方および下方は、必ずしも重力方向における上方および下方と一致している必要はない。例えば、本実施例における上方および下方は水平方向であってもよい。
【0017】
吸気通路14は、燃焼室19に吸入される空気(以下、吸入空気と称する場合がある)が通過する通路である。排気通路15は、燃焼室19から排出される排気が通過する通路である。吸気弁16aおよび吸気弁16bは、吸気通路14を開閉する弁である。排気弁17aおよび排気弁17bは、排気通路15を開閉する弁である。
【0018】
図1(b)は、気筒18を上方側から見た模式図である。図1(b)において、内燃機関10のクランクシャフトの軸線であるクランク軸線20が図示されている。本実施例に係る内燃機関10は、一つの気筒18に対して2つの吸気弁(吸気弁16aおよび吸気弁16b)および2つの排気弁(排気弁17aおよび排気弁17b)を備えている。但し、可変動弁装置40が適用される内燃機関10の各気筒18に配置される吸気弁および排気弁の数は、これに限定されるものではない。例えば各気筒18に配置される吸気弁の数は1でもよく、3以上でもよい。また各気筒18に配置される排気弁の数は1でもよく、3以上でもよい。
【0019】
吸気弁16aおよび吸気弁16b(以下、両者を吸気2弁と総称する場合がある)は、気筒18のクランク軸線20を挟んで一方の側に配置されている。排気弁17aおよび排気弁17b(以下、両者を排気2弁と総称する場合がある)は、気筒18のクランク軸線20を挟んで他方の側に配置されている。但し吸気2弁および排気2弁の配置形態は、図1(b)の配置形態に限定されるものではない。
【0020】
図1(a)を参照して、各種センサは、制御装置70の動作に必要な情報を検出するためのセンサである。図1(a)においては各種センサの一例として、クランクポジションセンサ30、ポテンショメータ31、圧力センサ32および温度センサ33が図示されている。クランクポジションセンサ30は、内燃機関10のクランクシャフトの位置を検出し、検出結果を制御装置70に伝える。制御装置70は、クランクポジションセンサ30の検出結果に基づいて内燃機関10のクランク角を取得する。
【0021】
ポテンショメータ31は、可変動弁機構50の後述するカムシャフトの回転位置を検出し、検出結果を制御装置70に伝える。制御装置70は、ポテンショメータ31の検出結果に基づいて、吸気2弁の位相を取得する。なお、制御装置70が吸気2弁の位相を取得できるのであれば、内燃機関10はポテンショメータ31以外のセンサを備えていてもよい。例えば、内燃機関10は可変動弁機構50の後述するカムの位置を検出するカムポジションセンサを備えていてもよい。この場合、制御装置70は、カムポジションセンサの検出結果に基づいて吸気2弁の位相を取得する。
【0022】
圧力センサ32は、内燃機関10に吸入される空気の圧力(以下、吸気圧と称する場合がある)を検出し、検出結果を制御装置70に伝える。制御装置70は圧力センサ32の検出結果に基づいて、内燃機関10の吸気圧を取得する。すなわち、圧力センサ32は内燃機関10の吸気圧を検出する吸気圧検出手段としての機能を有している。なお、制御装置70が吸気圧を取得できるのであれば、内燃機関10は圧力センサ32以外のセンサを備えていてもよい。
【0023】
温度センサ33は、内燃機関10の温度を検出し、検出結果を制御装置70に伝える。制御装置70は、温度センサ33の検出結果に基づいて、内燃機関10が所定温度よりも低温の状態で始動した時(以下、低温始動時と称する)であるか否かを判定する。
【0024】
温度センサ33の具体的な温度検出箇所は、制御装置70が温度センサ33の検出結果に基づいて内燃機関10が低温始動時であるか否かを判定できる箇所であれば、特に限定されるものではない。本実施例に係る温度センサ33は、一例として、内燃機関10を冷却する冷却媒体(本実施例では冷却媒体の一例として不凍液を用いる)の温度を検出する。冷却媒体の温度は、内燃機関10の温度と相関を有しているとともに内燃機関10の潤滑油の温度とも相関を有している。制御装置70は、温度センサ33の検出結果に基づいて冷却媒体の温度を取得することで、内燃機関10が低温始動時であるか否かを高精度で判定することができる。なお、制御装置70は、内燃機関10が低温始動時であるか否かを、内燃機関10の温度以外の指標(内燃機関10の温度と相関を有する指標)に基づいて判定してもよい。
【0025】
可変動弁装置40の可変動弁機構50は、吸気弁のリフト量を変更することなく吸気弁の作用角を変更することができる可変動弁機構である。具体的には本実施例に係る可変動弁機構50は、吸気2弁のリフト量を変更することなく吸気2弁の作用角を変更する。可変動弁機構50は制御装置70によって制御される。可変動弁機構50の詳細は後述する。
【0026】
制御装置70は、各種センサの検出結果に基づいて可変動弁機構50を制御する制御部と、制御部の動作に必要な情報を記憶する記憶部とを備えている。制御部は、可変動弁機構50を制御することで、吸気2弁の位相を制御する。制御装置70として、電子制御装置(Electronic Control Unit)を用いることができる。本実施例においては、制御装置70の一例として、CPU(Central Processing Unit)71、ROM(Read Only Memory)72およびRAM(Random Access Memory)73を備える電子制御装置を用いる。制御部の機能は、CPU71によって実現される。記憶部の機能は、ROM72およびRAM73によって実現される。
【0027】
続いて可変動弁機構50の詳細について説明する。図2(a)〜図2(d)は可変動弁機構50の詳細を説明するための模式図である。具体的には、図2(a)は可変動弁機構50の要部を模式的に図示している。図2(b)は図2(a)のA−A線断面図であり、図2(c)は図2(a)のB−B線断面図である。図2(d)は可変動弁機構50の作動の様子を模式的に図示している。
【0028】
可変動弁機構50としては、吸気弁のリフト量を変更することなく吸気弁の作用角を変更することができる可変動弁機構であれば特に限定されるものではない。本実施例においては、可変動弁機構50の一例として、特開2006−336659号公報に開示されているような、内燃機関のクランクシャフトの回転に同期して回転する駆動軸と、駆動軸と同軸上に駆動軸に対して相対回転自在に設けられたカムシャフトと、の間に配置された接続部材の回転中心を偏心させることでカムシャフトの回転速度を変更する可変動弁機構を、吸気2弁の可変動弁機構として応用したものを用いる。この可変動弁機構50の構成の要部を説明すると、以下のようになる。
【0029】
図2(a)に示すように、可変動弁機構50は、駆動軸51と、カムシャフト52と、接続部材53と、アクチュエータ54とを備えている。図2(a)において、カムシャフト52の回転中心と接続部材53の回転中心と駆動軸51の回転中心とは一致している。図2(a)において、これらの回転中心は回転中心55によって図示されている。
【0030】
駆動軸51は、内燃機関10のクランクシャフトの回転に同期して回転する軸である。具体的には、駆動軸51は、軸受(図示せず)に軸支されており、クランクシャフトにタイミングチェーンまたはタイミングベルトを介して接続されている。これにより、駆動軸51はクランクシャフトの回転に同期して回転することができる。
【0031】
カムシャフト52は、軸受(図示せず)によって駆動軸51と同軸上に軸支されており、駆動軸51に対して相対回転自在に設けられている。カムシャフト52は、吸気弁16aを駆動するカム56aと、吸気弁16bを駆動するカム56bとをカムシャフト52の外周面に有している。なお、本実施例に係る吸気弁16aおよび吸気弁16bの位相は互いに同位相に設定されている。この場合、吸気弁16aおよび吸気弁16bは、同時に開弁し同時に閉弁する。
【0032】
カムシャフト52の端部には、フランジ部57aが設けられている。図2(b)を参照して、フランジ部57aには、その半径方向に沿って係合溝58aが形成されている。図2(a)を参照して、駆動軸51の外周にはスリーブ59が嵌合している。スリーブ59は駆動軸51と一体となっており、駆動軸51と同期して回転する。スリーブ59には、フランジ部57bが設けられている。具体的にはフランジ部57bは、フランジ部57aに対向するようにスリーブ59に設けられている。図2(c)を参照して、フランジ部57bには、その半径方向に沿って係合溝58bが形成されている。すなわち、本実施例においてクランクシャフトの回転に同期して回転する駆動軸(駆動軸51と駆動軸51に嵌合することで駆動軸51に一体化したスリーブ59とを総称した部材)には、係合溝58bが形成されたフランジ部57bがフランジ部57aに対向するように設けられている。
【0033】
図2(a)を参照して、接続部材53はフランジ部57aおよびフランジ部57bの間に配置されている。接続部材53の外観形状は特に限定されるものではないが、本実施例に係る接続部材53は、一例として環状のディクス形状を有している。図2(b)および図2(c)を参照して、接続部材53の一方の端部には、フランジ部57aの係合溝58aに係合するピン60aが突設され、他方の端部にはフランジ部57bの係合溝58bに係合するピン60bが突設されている。ピン60aおよびピン60bは、互いに反対方向に突設している。接続部材53のピン60aがフランジ部57aの係合溝58aに係合し、ピン60bがフランジ部57bの係合溝58bに係合することで、接続部材53はスリーブ59とカムシャフト52とを接続している。このようにして接続部材53は、駆動軸51とカムシャフト52とを接続している。
【0034】
アクチュエータ54は、制御装置70によって制御されることで作動して、接続部材53の回転中心を駆動軸51の回転中心に対して偏心させる。図2(d)は、接続部材53の回転中心が駆動軸51の回転中心に対して偏心量△だけ偏心した状態を示している。偏心後の接続部材53の回転中心は回転中心55aによって図示されている。このように本実施例に係る制御装置70は、アクチュエータ54を制御することで、接続部材53の偏心量を制御している。すなわち、本実施例に係る接続部材53は、制御装置70によって制御されることで接続部材53の回転中心を駆動軸51の回転中心に対して偏心させている。
【0035】
ここで、係合溝58aおよび係合溝58bの溝方向は、接続部材53の偏心方向と同じ方向になっている。この場合、接続部材53が偏心した場合、ピン60aは係合溝58aを摺動し、ピン60bは係合溝58bを摺動する。この構成によれば、接続部材53の回転中心が駆動軸51の回転中心に対して偏心しても、カムシャフト52の回転中心は駆動軸51の回転中心に対して偏心しない。すなわち、本実施例に係る接続部材53は、制御装置70によって制御されることで接続部材53の回転中心を駆動軸51の回転中心に対して偏心させるとともに、接続部材53の回転中心が偏心した場合にカムシャフト52の回転中心が駆動軸51の回転中心に対して偏心しないように駆動軸51とカムシャフト52とを接続している。
【0036】
上述した可変動弁機構50によれば、駆動軸51の回転はフランジ部57aの係合溝58aおよびフランジ部57bの係合溝58bを摺動するピン60aおよびピン60bと接続部材53とを介してカムシャフト52に伝達される。また接続部材53の回転中心が駆動軸51の回転中心と一致しているときには、駆動軸51とカムシャフト52とは等速で連動する。制御装置70が接続部材53の回転中心を駆動軸51の回転中心に対して偏心させた場合には、接続部材53は駆動軸51に対して不等速に回転する。その結果、接続部材53を介して駆動軸51に接続したカムシャフト52も駆動軸51に対して不等速に回転する。それにより、カムシャフト52と駆動軸51との間で、偏心量△に応じた位相差が与えられる。その結果、カム(カム56aおよびカム56b)の位相をクランクシャフトの回転に同期した駆動軸51の位相に対して変更することができる。それにより、吸気2弁の作用角を変更することができる。また、接続部材53の回転中心が偏心した場合でもカムシャフト52の回転中心は駆動軸51の回転中心に対して偏心しないことから、吸気2弁のリフト量は変更されない。したがって、吸気2弁のリフト量を変更することなく吸気2弁の作用角を変更することができる。その結果、吸気2弁のリフト量を変更することなく吸気2弁の閉弁時期を進角させることができる。
【0037】
なお可変動弁機構50として、図2(a)〜図2(d)で説明した可変動弁機構に代えて、例えば特開平11−013437号公報(特願平9−171371)、特開2004−251166号公報(特願2003−41270)等に係る可変動弁機構を吸気2弁の可変動弁機構として応用したものを用いてもよい。この場合にも、吸気2弁のリフト量を変更することなく吸気2弁の作用角を変更することができる。
【0038】
続いて制御装置70の動作について説明する。制御装置70の制御部は、内燃機関10が低温始動時の場合には、内燃機関10が低温始動時でない場合に比較して、吸気2弁の閉弁時期が進角するように可変動弁機構50を制御する。さらに制御部は、吸気圧が小さくなるほど吸気2弁の閉弁時期の進角量(進角させた後の吸気2弁の閉弁時期と進角させる前の吸気2弁の閉弁時期との差)が小さくなるように可変動弁機構50を制御する。具体的には制御部は、吸気圧が所定値以上の場合には、吸気2弁の閉弁時期の進角量を第1の値に制御し、吸気圧が所定値より小さい場合には吸気2弁の閉弁時期の進角量を第1の値よりも小さい第2の値に制御する。
【0039】
図3は制御装置70のフローチャートの一例を示す図である。制御装置70は、図3のフローチャートを所定の周期で繰り返し実行する。なお図3に係るフローチャートの最初の実行は、内燃機関10の始動開始とともに開始される。まず制御装置70の制御部は、内燃機関10が低温始動時であるか否かを判定する(ステップS10)。制御部によるステップS10の具体的な実行手法は特に限定されるものではないが、本実施例に係る制御部は、温度センサ33の検出結果に基づいて内燃機関10が低温始動時であるか否かを判定する。
【0040】
具体的にはステップS10において、制御部は、温度センサ33の検出結果に基づいて取得した内燃機関10の冷却媒体の温度が所定温度より小さいか否かを判定することで、内燃機関10が低温始動時であるか否かを判定する。所定温度をどのように設定するかは、特に限定されるものではないが、本実施例においては一例として、以下のように所定温度を設定する。
【0041】
表1は所定温度の設定の一例を説明するための表である。具体的には表1は、冷却媒体の温度と内燃機関10の潤滑油の動粘度との関係を示している。内燃機関10が極寒冷地で使用される場合の低温始動時における冷却媒体の温度の一例として−25℃を想定し、内燃機関10が温帯地で使用される場合の低温始動時における冷却媒体の温度の一例として25℃を想定した。
【表1】

【0042】
本実施例においては所定温度の一例として、−5℃を用いる。この値は、動粘度が極寒冷地の場合(−25℃)の動粘度(1200mm/s)と温帯地の場合(25℃)の動粘度(200mm/s)との中間値(700mm/s)よりも所定量(100mm/s)小さい値である600mm/sに対応した冷却媒体の温度である。
【0043】
この所定温度は記憶部が記憶しておく。ステップS10において制御部は、温度センサ33の検出結果に基づいて取得した冷却媒体の温度が所定温度(−5℃)より低いか否かを判定し、低いと判定された場合、内燃機関10が低温始動時であると判定し、冷却媒体の温度が所定温度より低いと判定されなかった場合、内燃機関10が低温始動時でないと判定する。
【0044】
ステップS10において内燃機関10が低温始動時でないと判定された場合、制御部は、吸気2弁の閉弁時期の進角を行わない(ステップS20)。この場合、一例として、吸気2弁(吸気弁16aおよび吸気弁16b)は共に、−5°において開弁し、185°において閉弁するように設定されている(「°」はクランク角である)。この場合の吸気2弁の作用角は190°である。次いで制御部はフローチャートの実行を終了する。
【0045】
ステップS10において内燃機関10が低温始動時であると判定された場合、制御部は、内燃機関10の吸気圧が所定値より小さいか否かを判定する(ステップS30)。制御部によるステップS30の具体的な実行手法は特に限定されるものではないが、本実施例に係る制御部は、圧力センサ32の検出結果に基づいて内燃機関10の吸気圧が所定値より小さいか否かを判定する。ステップS30の所定値の具体的な値は、特に限定されるものではない。この所定値は、記憶部が記憶しておく。
【0046】
ステップS30において吸気圧が所定値より小さいと判定された場合、制御部は吸気2弁の閉弁時期の進角量が第2の値になるように可変動弁機構50を制御する(ステップS40)。具体的には制御部は、接続部材53の回転中心が駆動軸51の回転中心に対して偏心して吸気2弁の閉弁時期の進角量が第2の値になるようにアクチュエータ54を制御する。
【0047】
第2の値は特に限定されるものではないが、本実施例では一例として、76°を用いる。この場合、ステップS40が実行されることで、吸気2弁は−5°において開弁し、109°(=185°−76°)において閉弁する。その結果、吸気2弁の作用角は114°となる。この作用角114°は、ステップS20の吸気2弁の作用角である190°の60%の値になっている。すなわち、本実施例に係る第2の値は、ステップS40が実行されることで閉弁時期が進角した後の吸気2弁の作用角が、内燃機関10が低温始動時でない場合における吸気2弁の作用角の60%となるように設定されたものである。次いで制御部はフローチャートの実行を終了する。
【0048】
ステップS30において吸気圧が所定値より小さいと判定されなかった場合、制御部は吸気2弁の閉弁時期の進角量が第1の値(>第2の値)になるように可変動弁機構50のアクチュエータ54を制御する(ステップS50)。具体的には制御部は、接続部材53の回転中心が駆動軸51の回転中心に対して偏心して吸気2弁の閉弁時期の進角量が第1の値になるようにアクチュエータ54を制御する。
【0049】
第1の値は特に限定されるものではないが、本実施例では一例として、95°を用いる。この場合、ステップS50が実行されることで吸気2弁は−5°において開弁し、90°(=185°−95°)において閉弁する。その結果、吸気2弁の作用角は95°となる。この作用角95°は、ステップS20の吸気2弁の作用角である190°の50%の値になっている。すなわち、本実施例に係る第1の値は、ステップS50が実行されることで閉弁時期が進角した後の吸気2弁の作用角が、内燃機関10が低温始動時でない場合における吸気2弁の作用角の50%となるように設定されたものである。次いで制御部はフローチャートの実行を終了する。
【0050】
続いて可変動弁装置40の作用効果を説明する。まず、前述したように本実施例に係る可変動弁装置40に係る可変動弁機構50は、吸気2弁のリフト量を変更することなく吸気2弁の作用角を変更可能な可変動弁機構であり、制御装置70の制御部は、内燃機関10が低温始動時の場合には内燃機関10が低温始動時でない場合に比較して吸気2弁の閉弁時期が進角するように可変動弁機構50を制御している。図4は、制御装置70が吸気2弁の閉弁時期を進角させる前後における排気2弁および吸気2弁のバルブリフト曲線を示す図である。縦軸はリフト量を示し、横軸はクランク角を示している。曲線100が排気2弁のバルブリフト曲線であり、曲線101が進角前の吸気2弁のバルブリフト曲線であり、曲線102が進角後の吸気2弁のバルブリフト曲線である。
【0051】
曲線101と曲線102とを比較した場合、曲線102のリフト量の最大値は曲線101のリフト量の最大値と同一であり、曲線102に示す吸気2弁の閉弁時期は曲線101に示す吸気2弁の閉弁時期よりも進角している。その結果、曲線102に示す吸気2弁の作用角は曲線101に示す吸気2弁の作用角よりも減少している。
【0052】
このように可変動弁装置40によれば、内燃機関10が低温始動時の場合には内燃機関が低温始動時でない場合に比較して、吸気2弁のリフト量が変更されることなく、吸気2弁の閉弁時期を進角させて吸気2弁の作用角を減少させることができる。それにより、内燃機関10の低温始動時において内燃機関10に吸入される空気量の低下を抑制しつつ吸気2弁の作用角を内燃機関10が低温始動時でない場合に比較して減少させることができる。その結果、内燃機関10が低温始動時の場合におけるフリクションに対抗し得るトルクを確保しつつクランキング回転数(内燃機関10のクランクシャフトをモータ等の力で回転させたときのクランクシャフトの回転数)の低下を抑制することができる。それにより、内燃機関10の低温始動性を向上させることができる。
【0053】
また、一般に、内燃機関10の吸気圧が小さくなるほど内燃機関10に空気が入り難くなる傾向がある。内燃機関10に空気が入り難くなって内燃機関10に吸入される空気量が不足した場合、低温始動時におけるフリクションに対抗し得るトルクを確保できなくなるおそれがある。この場合、内燃機関10の低温始動性の向上が困難になるおそれがある。これに対して可変動弁装置40によれば、吸気圧が所定値以上の場合には吸気2弁の閉弁時期の進角量を第1の値に制御し、吸気圧が所定値より小さい場合には吸気2弁の閉弁時期の進角量を第1の値よりも小さい第2の値に制御しており、吸気圧が小さくなるほど吸気2弁の閉弁時期の進角量が小さくなるように可変動弁機構50を制御している。これにより、吸気圧が小さくなるほど低温始動時における吸気2弁の閉弁時期の進角量を小さくすることができる。その結果、吸気圧の減少に応じて吸気2弁の作用角の減少量を小さくして、低温始動時における内燃機関10に吸入される空気量を確保することができる。それにより、内燃機関10の低温始動性を吸気圧の減少に応じて適切に向上させることができる。
【0054】
(変形例1)
実施例1の図3のステップS30において制御装置70の制御部は、圧力センサ32の検出結果に基づいて吸気圧が所定値より小さいか否かを判定したが、これに限定されるものではない。例えばステップS30において制御部は、内燃機関10の使用場所の標高が所定値よりも高いか否かを判定してもよい。この場合、内燃機関10は、内燃機関10の使用場所の標高を検出する標高計を備えている。標高計は、検出結果を制御装置70の制御部に伝える。制御部は、ステップS30において、標高計の検出結果に基づいて内燃機関10の使用場所の標高が所定値よりも高いか否かを判定する。所定値をどのように定めるかは、特に限定されるものではないが、本変形例においては一例として、以下のように定める。
【0055】
表2は内燃機関10の使用場所の標高の所定値の設定手法の一例を説明するための表である。表2は、内燃機関10の使用場所(これは内燃機関10を搭載した車両が走行している場所でもある)の標高と大気圧との関係を示している。
【表2】

標高が0mの場合、大気圧は991.4hPaであり、標高が1000mの場合、大気圧は899.0hPaであり、標高が2000mの場合、大気圧は806.6hPaである。標高が1000mの場合の大気圧と標高が0mの場合の大気圧との差を百分率で表すと、−9.3%になる。標高が2000mの場合の大気圧と標高が0mの場合の大気圧との差を百分率で表すと、−18.6%になる。
【0056】
本変形例においてステップS30の所定値として、標高が0mの場合に比較して大気圧が約10%(10%±所定の値)減少する標高を用いる。具体的には所定値として、標高が0mの場合に比較して大気圧が9.3%減少する標高である標高1000mを用いる。この所定値は、記憶部が記憶しておく。ステップS30において制御部は、標高計の検出結果に基づいて取得した標高が記憶部に記憶された所定値(1000m)より高いか否かを判定する。ステップS30において内燃機関10の使用場所の標高が所定値(1000m)よりも高いと判定された場合、制御部はステップS40を実行し、ステップS30において内燃機関10の使用場所の標高が所定値よりも高いと判定されなかった場合(つまり内燃機関10の使用場所の標高が所定値以下の場合)、制御部はステップS50を実行する。
【0057】
この場合、内燃機関10の使用場所の標高が高くなるほど低温始動時における吸気2弁の閉弁時期の進角量が小さくなるように可変動弁機構50が制御されることになる。ここで、内燃機関10の使用場所の標高が高くなるほど、大気圧が小さくなる結果、吸気圧も小さくなる傾向がある。したがって、この場合においても、制御部は吸気圧が小さくなるほど低温始動時における吸気2弁の閉弁時期の進角量が小さくなるように可変動弁機構50を制御していることになる。すなわち、本変形例に係る制御装置70の制御部は、内燃機関10の使用場所の標高が高くなるほど低温始動時における吸気2弁の閉弁時期の進角量が小さくなるように可変動弁機構50を制御することで、吸気圧が小さくなるほど低温始動時における吸気2弁の閉弁時期の進角量を小さく制御している。本変形例に係る可変動弁装置40によっても、内燃機関10の低温始動性を吸気圧の減少に応じて適切に向上させることができる。
【0058】
(変形例2)
内燃機関10が、過給機(排気によって駆動されて吸気を過給する装置)を備えている場合、過給機の出力が小さいほど、吸気圧は小さくなる傾向になる。そこで、制御装置70の制御部は、過給機の出力が小さいほど低温始動時における吸気2弁の閉弁時期の進角量が小さくなるように可変動弁機構50を制御することで、吸気圧が小さくなるほど低温始動時における吸気2弁の閉弁時期の進角量を小さく制御してもよい。
【0059】
具体的には制御部は、過給機の運転状態に応じて図3のステップS40およびステップS50を切り替えて実行する。より具体的には制御部は、図3のステップS30において過給機の出力が所定の出力値より小さいか否かを判定する。所定の出力値の具体的値は特に限定されないが、一例として、吸気圧が実施例1に係る図3のステップS30における吸気圧の所定値となる過給機の出力値、あるいは吸気圧が実施例1の変形例1に係るステップS30の標高1000mのときの吸気圧となる過給機の出力値等を用いることができる。ステップS30において過給機の出力が所定の出力値よりも小さいと判定された場合、制御部はステップS40を実行し、ステップS30において過給機の出力が所定の出力値よりも小さいと判定されなかった場合(つまり過給機の出力が所定の出力値以上の場合)、制御部はステップS50を実行する。
【0060】
本変形例に係る可変動弁装置40によれば、制御装置70の制御部が過給機の出力が小さいほど低温始動時における吸気2弁の閉弁時期の進角量が小さくなるように可変動弁機構50を制御することで、吸気圧が小さくなるほど低温始動時における吸気2弁の閉弁時期の進角量を小さく制御していることから、内燃機関10の低温始動性を吸気圧の減少に応じて適切に向上させることができる。
【0061】
(変形例3)
実施例1において制御装置70の制御部は、吸気圧が小さくなるほど吸気2弁の閉弁時期の進角量が小さくなるように可変動弁機構50を制御するにあたり、吸気圧の減少に応じて吸気2弁の閉弁時期の進角量を第1の値および第2の値の2段階に減少させているが、これに限定されるものではない。例えば制御部は、吸気圧の減少に応じて吸気2弁の閉弁時期の進角量を3段階以上に分けて減少させてもよい。
【0062】
あるいは、制御部は、吸気圧の減少に応じて吸気2弁の閉弁時期の進角量を漸減させてもよい。制御部が吸気圧の減少に応じて吸気2弁の閉弁時期の進角量を漸減させるための具体的手法は、特に限定されないが、例えば以下の手法を用いることができる。まず、制御装置70の記憶部は、吸気2弁の閉弁時期の進角量を吸気圧に関連付けて複数規定したマップを記憶しておく。
【0063】
図5は、吸気2弁の閉弁時期の進角量を吸気圧に関連付けて複数規定したマップの一例を示す図である。縦軸は吸気2弁の閉弁時期の進角量を示し、横軸は吸気圧を示している。図5のマップにおいて、右肩上がりに傾斜した直線が、各吸気圧に対応した吸気2弁の閉弁時期の進角量を示す直線である。この直線において吸気2弁の閉弁時期の進角量は、吸気圧の減少に応じて漸減している。制御装置70の制御部は、圧力センサ32の検出結果に基づいて取得した吸気圧に対応する吸気2弁の閉弁時期の進角量を図5のマップから抽出し、吸気2弁の閉弁時期の進角量が抽出された閉弁時期の進角量になるように可変動弁機構50を制御する。この場合、吸気圧の減少に応じて吸気2弁の閉弁時期の進角量を漸減させることができる。その結果、内燃機関10の低温始動性を吸気圧の減少に応じて適切に向上させることができる。
【0064】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
5 内燃機関システム
10 内燃機関
16a,16b 吸気弁
40 可変動弁装置
50 可変動弁機構
51 駆動軸
52 カムシャフト
53 接続部材
56a,56b カム
70 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気弁のリフト量を変更することなく前記吸気弁の作用角を変更可能な可変動弁機構と、
前記内燃機関が所定温度よりも低温の状態で始動する低温始動時の場合には、前記内燃機関が前記低温始動時でない場合に比較して、前記吸気弁の閉弁時期が進角するように前記可変動弁機構を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする可変動弁装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記内燃機関に吸入される空気の圧力が小さくなるほど前記吸気弁の前記閉弁時期の進角量が小さくなるように前記可変動弁機構を制御する請求項1記載の可変動弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53610(P2013−53610A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194387(P2011−194387)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】