説明

可変容量型タービン

【課題】可変ノズルを用いた可変容量型タービンにおいて、簡略小型な構成でタービン翼に掛かる加振力を低減し、タービン翼の共振を抑制する。
【解決手段】タービン翼18が設けられたタービンホイール11の周囲にノズルベーン21を配置する。ノズルベーン21をベーンシャフト26で軸支して回動可能とし、ノズルベーン21の翼角を調整しノズルの開口面積を調整する。ベーンシャフト26をピッチ半径Rの円周上にピッチ角θpで配列する。ピッチ半径Rの中心Onをタービンホイール11の回転中心Oから径方向に距離ΔR偏心させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量型タービンにおけるタービン翼の振動低減に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ過給機などのタービンとして、過給効果を高めるために、エンジンの回転数に応じてタービン翼の周囲に配置されたノズルの開口面積を制御し、タービン翼に向けて送り込まれる排気ガスの流速を変化させるものが知られている。ノズルの開口面積はノズルを構成するノズルベーンの翼角を変更することにより調整される。ノズルベーンはエンジン回転数が低いときにはノズルの開口面積を小さくするように制御され過給効率を高める。一方、エンジン回転数が高いときにはノズルベーンはノズルの開口面積を大きくするように制御されて排気圧力を下げる。これにより可変容量型タービンを用いたターボ過給機ではエンジン回転数に関わらず最適な過給圧を発生させる。
【0003】
しかしノズルベーンを用いた構成では、ノズルの後流においては絞り効果により流速が高められるが、ノズルベーンのウェークでは流速が低く、タービンホイールの周りには流速の速い領域と、流速の遅い領域とが交互に周期的に発生する。したがって、タービン翼には周期的に変動する流体力が働くこととなり、タービン翼に加振力として作用する。特にこの周期が共振周波数近くにあると、タービン翼の振動は顕著となり、ターボ過給機の信頼性を低下させる。
【0004】
このような問題に対して、ノズルベーンの回転中心をベーン後縁からベーンのコード長さの1/3よりも後縁側に配置し、ノズルベーンの翼角の変化に対するベーン後縁の位置の変化量を抑制することにより、ウェークの影響を抑制して加振力を低減し、タービン翼の振動を低減したものが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−205340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の構成では、ノズルベーンの回転中心を後縁近くに配置するために、ベーンの回転に大きな力を必要とし、アクチュエータの大型化を招き搭載性の悪化やコスト高を招く。また、ベーン回転力の増大により耐久性の観点からも不利である。
【0006】
本発明は、可変ノズルを用いた可変容量型タービンにおいて、簡略小型な構成でタービン翼に掛かる加振力を低減し、タービン翼の共振を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の可変容量型タービンは、翼角が調整可能なノズルベーンをタービンホイールの周囲に配列した可変容量型タービンであって、ノズルベーンを円に沿って所定のピッチで配列し、この円の中心をタービンホイールの回転中心から径方向に偏心させたことを特徴としている。
【0008】
加振周波数が共振域にあるときにも十分にタービン翼の共振を抑制するには、偏心により分散される加振周波数の変動幅が、タービンホイールにおけるタービン翼の共振域よりも広いことが好ましく、このとき偏心量は、例えば上記円の半径の1.5%以上である。
【0009】
また本発明のターボ過給機は、上記可変容量型タービンを用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、可変ノズルを用いた可変容量型タービンにおいて、簡略小型な構成でタービン翼に掛かる加振力を低減し、タービン翼の共振を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である可変容量型タービンを用いたターボ過給機の断面図である。
【0012】
ターボ過給機10は、内燃機関(図示せず)からの排気により回転されるタービンホイール11と、タービンホイール11の回転力により回転され内燃機関への吸気を加圧するコンプレッサホイール12とを備え、タービンホイール11とコンプレッサホイール12は、シャフト13を介して連結される。シャフト13は、センタハウジング14に設けられた軸受部15によって回転自在に保持され、タービンホイール11、コンプレッサホイール12はそれぞれタービンハウジング16、コンプレッサハウジング17内に収容される。
【0013】
タービンホイール11には多数のタービン翼18が設けられ、スクロール通路19から供給される排気がタービンホイール11の周囲からタービン翼18へと吹き付けられ、排気出口20から排出される。これによりタービンホイール11は排気の流体エネルギを利用して回転される。なお排気は、スクロール通路19からタービン翼18へ向けて流れる際、タービンホイール11の周囲に配置され、その翼角が可変とされた多数のノズルベーン21の間を通り抜けて流速が調整される。
【0014】
タービンホイール11の回転力は、シャフト13を介してコンプレッサホイール12へと伝達される。コンプレッサホイール12には多数のインペラ22が設けられ、コンプレッサホイール12が回転されることにより、吸入口23から吸入されたエアが、遠心力によりコンプレッサ通路24へと送り出され、加圧された状態で内燃機関へと供給される。
【0015】
次に図1、図2を参照して、本実施形態の可変容量型タービン40に用いられる可変ノズル機構の構成について説明する。なお、図2は、タービンホイール11に対するノズルベーン21の配置を示すもので、タービンホイール11の一部と、タービンホイール11を取り囲むノズルベーン21の一部が平面図として示される。
【0016】
可変ノズル機構25は、ノズルベーン21の各々を軸支する環状のノズルバックプレート25を備え、ノズルバックプレート25はノズルベーン21の各々が、タービンホイール11の周囲を取り囲むように、センタハウジング14とタービンハウジング16との間に配置される。ノズルベーン21はコード長さ方向の略中心に取り付けられたベーンシャフト26を介してノズルバックプレート25に保持され、ノズルバックプレート25の円環に沿って、半径R、ピッチ角θpで配列される。すなわち、ベーンシャフト26の軸心は、点Onを中心にピッチ半径Rの円周上に、ピッチ角θpで配列される。
【0017】
ノズルベーン21の翼角は、ベーンシャフト26の回転により調整可能であり、隣り合うノズルベーン21によって構成されるノズルの開口面積は、ノズルベーン21の翼角を制御することにより調整される。なお、図2には、ノズルが閉じられたときのノズルベーン21の配置が実線で示され、ノズルが最大に開かれたときのノズルベーン21の配置が破線で示される。
【0018】
ベーンシャフト26は、ノズルバックプレート25に設けられた軸受穴を挿通してノズルバックプレート25の裏面へと達し、その先端はノズルバックプレート25の裏面から延出する。ノズルバックプレート25から延出するベーンシャフト26の先端にはレバー27の一端が取り付けられ、レバー27の他端にはリングプレート28に設けられたピボット29が係合する。
【0019】
リングプレート28はノズルベーン21の配列の中心である点Onを中心に回転可能であり、リングプレート28の回転により、レバー27を介して各ベーンシャフト26が回転され、ノズルベーン21が各々回転される。なおリングプレート28には、アクチュエータ(図示せず)により駆動されるレバー機構30が取り付けられ、アクチュエータの駆動により、リングプレート28の回転が制御される。
【0020】
図2に示されるように、本実施形態では、ノズルベーン21の配列の中心(ノズルベーンのピッチ径中心)Onが、タービンホイール11の回転中心Oから径方向にΔRだけ偏心した状態でノズルベーン21が配置される。
【0021】
次に、図3を参照して、ノズルベーン21のピッチ径中心Onをタービンホイール11の回転中心OからΔR偏心させたことによる作用および効果について説明する。
【0022】
ピッチ径中心Onがタービンホイール11の回転中心OからΔR偏心されたことにより、タービン翼18に対するノズルのピッチは偏心方向においては狭くなり、その逆方向では広くなる。タービン翼18は、偏心された方向のノズルからは、周波数f1=2π(R+ΔR)N/(Rθp)の加振力を受け、その反対側では周波数f2=2π(R−ΔR)N/(Rθp)の加振力を受ける。すなわち、加振力は周方向に沿って周波数f1、f2の間で変動し、その平均周波数は偏心していないときの周波数f0=2πN/θpとなる。なお、ここでNはタービンホイール11の回転数である。
【0023】
周波数の変動幅をΔf=f1−f2とすると、Δf/f0=2ΔR/Rとなり、加振周波数は偏心量ΔRに比例してΔfの幅で分散される。これにより、各周波数における加振力は低減される。
【0024】
図3には、周波数に対する加振力とタービン翼の振幅の変化が示され、図3(a)に偏心がないとき、図3(b)に偏心があるときの状態が模式的に示される。なお図3では、タービン翼の共振周波数frに加振力の周波数が一致する場合が例示されているが、加振力の分布は回転数によって異なる。
【0025】
図3(a)に示されるように、偏心がないときには、加振力は一定の周波数に集中し、加振周波数がタービン翼の共振域(例えば共振周波数を中心にタービン翼の振幅が半減する範囲;図3(a)では共振幅Wとして表される)内にあると、タービン翼の振幅は極めて大きくなる。したがって、本実施形態では、加振周波数の一回転当たりの変動幅Δfがタービン翼の共振幅Wよりも大きくなるように偏心量ΔRが設定される。すなわち、ΔRはΔR>W・R/(2・f0)に設定される。このとき、図3(b)に示されるように、加振力はΔfの幅に分散され、加振周波数がタービン翼の共振幅W内にあっても、タービン翼の振幅は抑制される。
【0026】
共振幅はタービン翼の減衰率によって決定され、減衰率はタービン翼を構成する材料の物性によって決定される。共振域を振幅が半減するまでの範囲とするとともに、タービン翼(タービンホイール)に一般的な材料を使用するとき、偏心量ΔRはピッチ半径Rの1.5%以上であることが好ましく、このとき加振周波数の分散幅Δfは、共振幅Wよりも大きくなる。
【0027】
以上のように、本実施形態によれば、ノズルベーンを同一円周上に配置するとともに、この円をタービンホイールの回転中心から偏心させることにより、極めて簡略な構成で、加振周波数を分散させ、各周波数における加振力を低減し、タービン翼の共振を抑制することができる。また、可変ノズル機構は、タービンホイールの回転軸から偏心して配置されるだけであるので、従来のリンク機構を用いることができ、組み付けも容易であり生産コストも抑えることができる。
【0028】
なお、本実施形態では過給機を例に説明を行ったが、本発明は、過給機に限定されるものではなく、可変ノズル機構を用いた可変容量型タービンを用いた構成であれば如何なるものにも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態である可変容量型タービンを用いたターボ過給機の断面図である。
【図2】タービンホイールに対するノズルベーンの配置を示す平面図である。
【図3】周波数に対する加振力とタービン翼の振幅の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
10 ターボ過給機
11 タービンホイール
12 コンプレッサホイール
13 シャフト
18 タービン翼
19 スクロール通路
21 ノズルベーン
25 ノズルバックプレート
26 ベーンシャフト
27 レバー
28 リングプレート
29 ピボット
30 リンク機構
On ピッチ径中心
O タービンホイール回転中心
R ピッチ半径
ΔR 偏心量
θp ピッチ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼角が調整可能なノズルベーンをタービンホイールの周囲に配列した可変容量型タービンであって、前記ノズルベーンを円に沿って所定のピッチで配列し、前記円の中心を前記タービンホイールの回転中心から径方向に偏心させたことを特徴とする可変容量型タービン。
【請求項2】
前記偏心により分散される加振周波数の変動幅が、前記タービンホイールにおけるタービン翼の共振域よりも広いことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型タービン。
【請求項3】
偏心量が前記円の半径の1.5%以上であることを特徴とする請求項2に記載の可変容量型タービン。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の可変容量型タービンを用いたことを特徴とするターボ過給機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−185686(P2009−185686A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26329(P2008−26329)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】