説明

可変容量型ベーンポンプ

【課題】可変容量型ベーンポンプの容量調整における応答性を向上すること。
【解決手段】カムリング4の外周の一部に臨んで画成される第一流体圧室31と、カムリング4を挟んで第一流体圧室31と対向して設けられカムリング4の外周の一部に臨んで画成される第二流体圧室32とを備え、第一流体圧室31と第二流体圧室32とが拡縮し、カムリング4がロータ2に対して偏心して吐出容量が変化し、カムリング4はロータ2の回転に伴ってポンプ室7の容積を収縮する吐出領域42を有し、吐出領域42におけるカム面4aは、ポンプ室7から吐出される吐出容量が大きくなる方向にカムリング4を偏心させる作動流体の圧力が作用する第一受圧部45と、ポンプ室7から吐出される吐出容量が小さくなる方向にカムリング4を偏心させる作動流体の圧力が作用する第二受圧部45とを有し、第一受圧部45と第二受圧部46との受圧面積に差を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧機器における流体圧供給源として用いられる可変容量型ベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の可変容量型ベーンポンプ(以下、単に「ベーンポンプ」と称する。)として、ロータに対するカムリングの偏心量を変化させることによって、ポンプ吐出容量を変化させるものがある。
【0003】
特許文献1には、カムリング内周のカム面に先端が摺接する複数のベーンがロータに往復動可能に設けられ、カムリングが外周上の一点を支点として揺動することで、ロータに対するカムリングの偏心量が変化して吐出容量が変化するベーンポンプが開示されている。
【0004】
特許文献1のベーンポンプでは、ポンプボディに固定されカムリングの外周を囲うアダプタリングの内周面と、カムリングの外周面との間に第一流体圧室と第二流体圧室とが区画され、第一流体圧室と第二流体圧室とに導かれる作動油の圧力差によってカムリングが揺動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−1810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のベーンポンプでは、カムリングは、第一流体圧室と第二流体圧室との圧力差によって揺動するため、吐出容量の応答性は、第一流体圧室と第二流体圧室との圧力差によって決定される。
【0007】
本発明は、可変容量型ベーンポンプの吐出容量の応答性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、駆動軸に連結されたロータと、前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って内周のカム面を前記ベーンの先端部が摺動し、前記ロータの中心に対して偏心可能なカムリングと、前記ロータと前記カムリングとの間に画成されたポンプ室と、前記カムリングの外周の一部に臨んで画成される第一流体圧室と、前記カムリングを挟んで前記第一流体圧室と対向して設けられ、前記カムリングの外周の一部に臨んで画成される第二流体圧室と、を備え、前記第一流体圧室と前記第二流体圧室とが、導かれる流体圧によって拡縮し、前記カムリングが前記ロータに対して偏心して前記ポンプ室から吐出される作動流体の吐出容量が変化する可変容量型ベーンポンプにおいて、前記カムリングは、前記ロータの回転に伴って前記ポンプ室の容積を収縮する吐出領域を有し、前記吐出領域における前記カム面は、前記ポンプ室から吐出される吐出容量が大きくなる方向に前記カムリングを偏心させる作動流体の圧力が作用する第一受圧部と、前記ポンプ室から吐出される吐出容量が小さくなる方向に前記カムリングを偏心させる作動流体の圧力が作用する第二受圧部と、を有し、前記第一受圧部と前記第二受圧部との受圧面積に差を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ポンプ室から吐出される吐出容量が大きくなる方向にカムリングを偏心させる作動流体の圧力が作用する第一受圧部と、吐出容量が小さくなる方向にカムリングを偏心させる作動流体の圧力が作用する第二受圧部との受圧面積に差を設けた。これにより、カムリングは、ポンプ室内の作動流体の圧力によって、吐出容量が大きくなる方向又は小さくなる方向に偏心する力を受けることとなる。
【0010】
したがって、第一流体圧室と第二流体圧室との圧力差によるカムリングの揺動が、ポンプ室内の作動流体の圧力によってアシストされ、可変容量型ベーンポンプの吐出容量の応答性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプにおける駆動軸に垂直な断面を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプにおける駆動軸に平行な断面を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るサイドプレートにカムリング及びアダプタリングを取り付けた状態を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るサイドプレートの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプ100について説明する。
【0014】
可変容量型ベーンポンプ(以下、単に「ベーンポンプ」と称する。)100は、車両に搭載される油圧機器(流体圧機器)、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の油圧(流体圧)供給源として用いられるものである。
【0015】
ベーンポンプ100は、駆動軸1にエンジン(図示省略)の動力が伝達され、駆動軸1に連結されたロータ2が回転するものである。図1では、ロータ2は反時計回りに回転する。
【0016】
ベーンポンプ100は、ロータ2に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン3と、ロータ2を収容すると共に、ロータ2の回転に伴って内周のカム面4aにベーン3の先端部が摺動しロータ2の中心に対して偏心可能なカムリング4とを備える。
【0017】
ロータ2には、外周面に開口部を有するスリット2bが所定間隔をおいて放射状に形成され、ベーン3は、スリット2bに摺動自在に挿入される。スリット2bの基端側には、ポンプ吐出圧が導かれる背圧室2aが画成される。ベーン3は、背圧室2aの圧力によってスリット2bから飛び出る方向に押圧される。
【0018】
図2に示すように、駆動軸1は、ブッシュ27を介してポンプボディ10に回転自在に支持される。ポンプボディ10には、カムリング4を収容するポンプ収容凹部10aが形成される。ポンプボディ10の端部には、駆動軸1外周とブッシュ27内周との間の潤滑油の漏れを防止するためのシール20が設けられる。
【0019】
ポンプ収容凹部10aの底面10bには、ロータ2及びカムリング4の一側部に当接するサイドプレート6が配置される。ポンプ収容凹部10aの開口部は、ロータ2及びカムリング4の他側部に当接するポンプカバー5によって封止される。ポンプカバー5には、ポンプ収容凹部10aに嵌合する円形のインロー部5aが形成され、インロー部5aの端面がロータ2及びカムリング4の他側部に当接する。ポンプカバー5は、ポンプボディ10のフランジ部10cにボルト8(図1参照)を介して締結される。
【0020】
このように、ポンプカバー5とサイドプレート6は、ロータ2及びカムリング4の両側面を挟んだ状態で配置される。これにより、ロータ2とカムリング4との間には、各ベーン3によって仕切られたポンプ室7が画成される。これらのポンプカバー5とサイドプレート6とが、サイド部材に該当する。この他にも、サイド部材は、カムリング4の側面に当接して設けられればよいため、例えば、サイドプレート6を設けずに、ポンプボディ10の一部をサイド部材としてもよい。
【0021】
図1に示すように、カムリング4は、環状の部材であり、後述する吸込ポート15に対応して形成されロータ2の回転に伴ってポンプ室7の容量を拡張する吸込領域41と、後述する吐出ポートに対応して形成されロータ2の回転に伴ってポンプ室7の容量を収縮する吐出領域42とを有する。また、カムリング4は、吸込領域41と吐出領域42との間をポンプ室7が遷移するときに、ポンプ室7内に作動油を閉じ込める閉込領域43,44を有する。
【0022】
ポンプ室7は、吸込領域41にて作動油(作動流体)を吸込み、吐出領域42にて作動油を吐出する。
【0023】
ポンプ収容凹部10aの内周面には、カムリング4を取り囲むようにして環状のアダプタリング11が嵌装される。また、アダプタリング11は、ロータ2及びカムリング4と同様に、両側面がポンプカバー5とサイドプレート6とによって挟まれる(図2参照)。
【0024】
アダプタリング11の内周面には、駆動軸1と平行に延在すると共に、両端部がそれぞれポンプカバー5及びサイドプレート6に挿入された支持ピン13が支持される。支持ピン13にはカムリング4が支持され、カムリング4はアダプタリング11の内部で支持ピン13を支点に揺動し、ロータ2の中心に対して偏心する。この支持ピン13が、カムリング4の揺動支点に該当する。
【0025】
支持ピン13は、両端部がそれぞれポンプカバー5及びサイドプレート6に挿入されると共にカムリング4を支持するため、カムリング4に対するポンプカバー5及びサイドプレート6の相対回転を規制する。
【0026】
アダプタリング11の内周面における支持ピン13と軸対称の位置には、駆動軸1と平行に延びる溝11aが形成される。溝11aには、カムリング4の揺動時にカムリング4の外周面が摺接するシール材14が装着される。
【0027】
このように、カムリング4外周の収容空間であるカムリング4の外周面とアダプタリング11の内周面との間には、支持ピン13とシール材14とによって、第一流体圧室31と第二流体圧室32とが画成される。
【0028】
カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32の作動油の圧力差によって、支持ピン13を支点に揺動する。カムリング4が支持ピン13を支点に揺動することによって、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が変化し、ポンプ室7の吐出容量が変化する。第一流体圧室31の圧力が第二流体圧室32の圧力よりも大きい場合には、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が小さくなり、ポンプ室7の吐出容量は小さくなる。これに対して、第二流体圧室32の圧力が第一流体圧室31の圧力よりも大きい場合には、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が大きくなり、ポンプ室7の吐出容量は大きくなる。このように、ベーンポンプ100は、第一流体圧室31と第二流体圧室32との圧力差によってロータ2に対するカムリング4の偏心量が変化し、吐出容量が変化する。
【0029】
第二流体圧室32内におけるアダプタリング11の内周面には、ロータ2に対する偏心量が小さくなる方向のカムリング4の移動を規制する膨出部12が形成される。膨出部12は、ロータ2に対するカムリング4の最小偏心量を規定するものであり、カムリング4の外周面が膨出部12に当接した状態において、ロータ2の軸心とカムリング4の軸心とはずれた状態を維持する。
【0030】
膨出部12は、ロータ2に対するカムリング4の偏心量がゼロとならないように、つまり、カムリング4の外周面が膨出部12に当接した状態でも、ロータ2に対するカムリング4の最小偏心量が確保され、ポンプ室7が作動油を吐出可能となるような形状に形成される。このように、膨出部12は、ポンプ室7の最小吐出容量を保障するものである。
【0031】
なお、膨出部12は、アダプタリング11の内周面に形成する代わりに、第二流体圧室32内におけるカムリング4の外周面に形成するようにしてもよい。また、アダプタリング11を設けず、第一流体圧室31と第二流体圧室32をカムリング4の外周面とポンプ収容凹部10aの内周面との間に画成する場合には、膨出部12は、ポンプ収容凹部10aの内周面に形成される。
【0032】
ポンプカバー5には、円弧状に開口して作動油を供給しポンプ室7内に作動油を導く吸込ポート15が形成される。また、サイドプレート6には、円弧状に開口してポンプ室7内の作動油を油圧機器に導く吐出ポート16が形成される。
【0033】
吸込ポート15は、サイドプレート6にも同一形状で形成され、ポンプ室7を介してポンプカバー5の吸込ポート15に連通している。同様に、吐出ポート16は、ポンプカバー5にも同一形状で形成され、ポンプ室7を介してサイドプレート6の吐出ポート16に連通している。吐出ポート16の具体的な形状については、図3及び図4を参照しながら後で詳細に説明する。
【0034】
カムリング4に対するポンプカバー5及びサイドプレート6の相対回転は支持ピン13によって規制されるため、ポンプ室7の吸込領域41及び吐出領域42に対する吸込ポート15及び吐出ポート16の位置ずれが防止される。
【0035】
図2に示すように、吸込ポート15は、ポンプカバー5に形成された吸込通路17に連通して形成され、吸込通路17の作動油をポンプ室7の吸込領域41へと導く。吐出ポート16は、ポンプボディ10に形成された高圧室18に連通して形成され、ポンプ室7の吐出領域42から吐出される作動油を高圧室18へと導く。
【0036】
高圧室18は、ポンプ収容凹部10aの底面10bに環状に開口して形成される溝部10dがサイドプレート6にて塞がれることによって画成される。高圧室18は、ポンプボディ10に形成され作動油をベーンポンプ100外部の油圧機器へと導く吐出通路(図示省略)に接続される。
【0037】
高圧室18は、絞り通路36(図1参照)を介して第二流体圧室32に連通しており、高圧室18の作動油は第二流体圧室32に常時導かれている。つまり、カムリング4は、第二流体圧室32によってロータ2に対する偏心量が大きくなる方向の圧力を常に受けている。
【0038】
また、ポンプボディ10には高圧室18が形成されるため、高圧室18に導かれる作動油の圧力によって、サイドプレート6はロータ2及びベーン3側に押し付けられる。これにより、ロータ2及びベーン3に対するサイドプレート6のクリアランスが小さくなり、作動油の漏れが防止される。このように、高圧室18は、ポンプ室7からの作動油の漏れを防止するためのプレッシャーローディング機構としても作用する。
【0039】
高圧室18は、サイドプレート6に形成される背圧流路50に連通し、この背圧流路50を介して、ベーン3をカム面4aに向けて付勢するための作動油を背圧室2aに供給する。 図1に示すように、ポンプボディ10には、駆動軸1の軸方向と直交する向きにバルブ収容穴29が形成される。バルブ収容穴29には、第一流体圧室31と第二流体圧室32の作動油の圧力を制御する制御バルブ21が収容される。
【0040】
制御バルブ21は、バルブ収容穴29に摺動自在に挿入されたスプール22と、スプール22の一端とバルブ収容穴29の底部との間に画成された第一スプール室24と、スプール22の他端とバルブ収容穴29を封止するプラグ23との間に画成された第二スプール室25と、第二スプール室25内に収装され第二スプール室25の容積を拡張する方向にスプール22を付勢するリターンスプリング26とを備える。
【0041】
スプール22は、バルブ収容穴29の内周面に沿って摺動する第一ランド部22a及び第二ランド部22bと、第一ランド部22aと第二ランド部22bとの間に形成された環状溝22cとを備える。
【0042】
第一スプール室24には、スプール22が第一スプール室24の容積を収縮する方向に移動した場合にバルブ収容穴29の底部に当接してスプール22の所定以上の移動を規制する第一ストッパ部22dが第一ランド部22aに結合して配置される。
【0043】
また、第二スプール室25には、スプール22が第二スプール室25の容積を収縮する方向に移動した場合にプラグ23に当接してスプール22の所定以上の移動を規制する第二ストッパ部22eが第二ランド部22bに結合して配置される。リターンスプリング26は、第二ストッパ部22eを取り囲んで第二スプール室25内に収装される。
【0044】
制御バルブ21には、第一流体圧室31及び第二流体圧室32にそれぞれ連通する第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34と、環状溝22cに連通すると共に吸込通路17に連通するドレン通路35と、第一スプール室24に連通すると共に高圧室18に連通する導圧通路(図示省略)とが接続されている。
【0045】
第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34は、ポンプボディ10の内部に形成されると共に、アダプタリング11を貫通して形成される。
【0046】
スプール22は、両端に画成された第一スプール室24及び第二スプール室25に導かれる作動油の圧力による荷重と、リターンスプリング26の付勢力とがバランスした位置で止まる。スプール22の位置によって、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34が、それぞれ第一ランド部22a及び第二ランド部22bによって開閉され、第一流体圧室31及び第二流体圧室32の作動油が給排される。
【0047】
第二スプール室25の圧力による荷重とリターンスプリング26の付勢力との合計荷重が第一スプール室24の圧力による荷重よりも大きい場合には、リターンスプリング26が伸長し、スプール22は第一ストッパ部22dがバルブ収容穴29の底部に当接した状態となる。この状態では、図1に示すように、第一流体圧通路33はスプール22の第一ランド部22aによって閉塞され、かつ第二流体圧通路34はスプール22の第二ランド部22bによって閉塞された状態となる。これにより、第一流体圧室31と高圧室18との連通は遮断されると共に、第二流体圧室32とドレン通路35との連通も遮断される。
【0048】
ここで、第一ランド部22aには環状溝22cに連通する連通路(図示省略)が形成されているため、第一流体圧通路33が第一ランド部22aによって閉塞された状態では、第一流体圧室31は、第一流体圧通路33、連通路、及び環状溝22cを通じてドレン通路35に連通した状態となる。また、第二流体圧室32には絞り通路36を介して高圧室18の作動油が常時導かれているため、第二流体圧室32の圧力は第一流体圧室31の圧力よりも大きくなり、ロータ2に対するカムリング4の偏心量は最大となる。
【0049】
これに対して、第一スプール室24の圧力による荷重が第二スプール室25の圧力による荷重とリターンスプリング26の付勢力との合計荷重よりも大きい場合には、リターンスプリング26が圧縮され、スプール22はリターンスプリング26の付勢力に抗して移動する。この場合には、第一流体圧通路33は第一スプール室24に連通し、その第一スプール室24を介して導圧通路に連通する。また、第二流体圧通路34はスプール22の環状溝22cに連通し、その環状溝22cを介してドレン通路35に連通する。これにより、第一流体圧室31は高圧室18に連通し、第二流体圧室32はドレン通路35に連通する。したがって、第二流体圧室32の圧力は第一流体圧室31の圧力よりも小さくなり、カムリング4はロータ2に対する偏心量が小さくなる方向に移動する。
【0050】
なお、第二流体圧通路34と環状溝22cの連通は、スプール22の第二ランド部22bに形成されたノッチ22fを介して行われる。したがって、スプール22の移動量に応じて第二流体圧室32に対するドレン通路35の開口面積が増減する。
【0051】
以上のように、制御バルブ21は、第一流体圧室31及び第二流体圧室32の作動油の圧力を制御するものであり、吐出通路に介装されたオリフィス(図示省略)の前後差圧によって動作する。第一スプール室24にはオリフィスの上流の作動油が導かれ、第二スプール室25にはオリフィスの下流の作動油が導かれる。
【0052】
つまり、高圧室18の作動油は、オリフィスを介さずに導圧通路を通じて直接第一スプール室24へと導かれると共に、オリフィスを介して第二スプール室25へと導かれる。なお、オリフィスは、ポンプ室7から吐出された作動油の流れに抵抗を付与するものであれば、可変型、固定型のどちらでもよい。
【0053】
以下、図3及び図4を参照して、本発明の実施の形態に係る吐出ポート16及び吸込ポート15について説明する。
【0054】
まず、吐出ポート16及び吸込ポート15の形状について説明する。
【0055】
図3に示すように、吸込ポート15及び吐出ポート16は、それぞれカム面4aの形状に対応する円弧状に形成される。吸込ポート15及び吐出ポート16は、カムリング4の中心点とロータ2(図1参照)の中心点が一致する状態、即ちカムリング4の偏心量が零の状態において、カム面4aに沿った円弧状に形成される。なお、図3に示す状態は、ポンプ室7の吐出容量が最大になるまでカムリング4が偏心している状態である。
【0056】
図4に示すように、吐出ポート16は、その周方向長さが、支持ピン13を中心として一方に偏るように形成される。具体的には、吐出ポート16は、支持ピン13に対応する位置を中点16aとすると、中点16aと端部16bとの間の周方向長さが、中点16aと端部16cとの間の周方向長さと比較して長くなるように形成される。即ち、吐出ポート16は、支持ピン13を中心として、第一流体圧室31が設けられる側が、第二流体圧室32が設けられる側と比較して長くなるように形成される。吐出ポート16は、図4においては支持ピン13を中心として左側に偏って形成される。
【0057】
次に、吐出ポート16及び吸込ポート15に対応してカムリング4に設けられる吐出領域42及び吸込領域41について説明する。
【0058】
吐出領域42におけるカム面4aは、ポンプ室7から吐出される吐出容量が大きくなる方向にカムリング4を偏心させる作動油の圧力が作用する第一受圧部45と、ポンプ室7から吐出される吐出容量が小さくなる方向にカムリング4を偏心させる作動油の圧力が作用する第二受圧部46とを有する。図3においては、支持ピン13を中心として左側が第一受圧部45であり、右側が第二受圧部46である。
【0059】
第一受圧部45は、ポンプ室7に臨んでカムリング4の内周に設けられる。カムリング4には、第一受圧部45に作用するポンプ室7内の作動油の圧力によって、ポンプ室7から吐出される吐出容量が大きくなる方向(図3では左側)に揺動する力が作用する。
【0060】
同様に、第二受圧部46は、ポンプ室7に臨んでカムリング4の内周に設けられる。第二受圧部46は、カム面4aにおける支持ピン13に対応する位置を中心として、第一受圧部45と連続して形成される。カムリング4には、第一受圧部45に作用するポンプ室7内の作動油の圧力によって、ポンプ室7から吐出される吐出容量が小さくなる方向(図3では右側)に揺動する力が作用する。
【0061】
よって、カムリング4には、第一受圧部45に作用する作動油の圧力と第一受圧部45の受圧面積との積によって一方に揺動する力が作用し、第二受圧部46に作用する作動油の圧力と第一受圧部46の受圧面積の積によって他方に揺動する力が作用することとなる。
【0062】
ここで、吐出領域42におけるポンプ室7内の作動油の圧力は、ポンプ室7が吐出ポート16を介して連通するため略一定である。よって、カムリング4は、第一受圧部45と第二受圧部46との受圧面積の差がある場合には、受圧面積の大きな方に作用する力が、受圧面積の小さな方に作用する力と比較して大きくなる。したがって、カムリング4は、第一受圧部45と第二受圧部46とのうち受圧面積が大きい方に支持ピン13を中心として揺動することとなる。
【0063】
第一受圧部45と第二受圧部46とは、吐出ポート16に対応して設けられる。つまり、第一受圧部45と第二受圧部46とは、ポンプ室7内の作動油の圧力が作用する受圧面積に差が設けられる。具体的には、第一受圧部45は、周方向の長さが第二受圧部46の周方向の長さと比較して長く形成され、ポンプ室7内の作動油の圧力が作用する受圧面積が第二受圧部46と比較して大きくなるように形成される。
【0064】
第一受圧部45と第二受圧部46との受圧面積差によって、カムリング4の内周に画成されるポンプ室7のうち、吐出ポート16に臨む高圧のポンプ室7が位置するカム面4aの範囲は、支持ピン13を中心として第一受圧部45に偏ることとなる。これにより、高圧のポンプ室7の作動油の圧力が作用する吐出領域42におけるカム面4aの受圧面積は、第一流体圧室31が設けられる側の方が、第二流体圧室32が設けられる側と比較して大きくなる。
【0065】
以下、主に図3を参照して、上記のような形状に形成される吐出ポート16の作用について説明する。
【0066】
制御バルブ21(図1参照)によって、第二流体圧室32内の作動油の圧力が、第一流体圧室31内の作動油の圧力より高くなるように調整されると、カムリング4は、ポンプ室7の吐出容量が大きくなる方向に揺動する。このように、カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32との間に圧力差が生じることによって揺動する。
【0067】
カムリング4のカム面4aには、ポンプ室7内の作動油の圧力が作用する。ポンプ室7内の作動油の圧力は、低圧である吸込領域41側よりも高圧である吐出領域42側の方が大きい。よって、ポンプ室7内の作動油の圧力によって、カムリング4には、吐出領域42に向けて(図3では下に向けて)押圧する力が作用している。
【0068】
ここで、吐出ポート16は、支持ピン13を中心として、第一流体圧室31が設けられる側の方が、第二流体圧室32が設けられる側と比較して大きく形成される。これに対応して、吐出領域42におけるカム面4aは、第一受圧部45の受圧面積が第二受圧部46の受圧面積と比較して大きくなるように形成される。これにより、ポンプ室7から吐出される吐出容量が大きくなる方向にカムリング4を揺動させる力が、吐出容量が小さくなる方向にカムリング4を揺動させる力と比較して大きくなる。よって、カムリング4は、ポンプ室7内の作動油によって、ポンプ室7から吐出される吐出容量が大きくなる方向に、支持ピン13を中心として揺動することとなる。
【0069】
これにより、カムリング4は、外周に作用する第一流体圧室31と第二流体圧室32との圧力差による力と、内周のカム面4aに作用するポンプ室7内の作動油の圧力による力とによって、第一流体圧室31が収縮する方向に揺動し、ポンプ室7の吐出容量が大きくなる。
【0070】
以上より、カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32との作動油の圧力差だけでなく、第一受圧部45に作用するポンプ室7内の作動油の圧力によっても揺動する。よって、ポンプ室7の吐出容量が大きくなる方向にカムリング4が揺動するときには、その揺動がアシストされる。したがって、ポンプ室7の吐出容量が大きくなるときの応答性を向上できる。
【0071】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0072】
吐出ポート16は、支持ピン13を中心として第一流体圧室31が設けられる側に偏って形成される。そのため、カム面4aに設けられる第一受圧部45の受圧面積は、第二受圧部46の受圧面積と比較して大きくなる。これにより、カムリング4は、ポンプ室7内の作動油の圧力によって、吐出容量が大きくなる方向に揺動する力を受けることとなる。
【0073】
したがって、第一流体圧室31と第二流体圧室32との圧力差によるカムリング4の揺動が、ポンプ室7内の作動油の圧力によってアシストされ、ポンプ室7の吐出容量が大きくなるときの応答性を向上できる。
【0074】
なお、ポンプ室7の吐出容量が小さくなるときの応答性を向上させたいのであれば、吐出ポート16を、第一流体圧室31が設けられる側に偏って設けるのではなく、第二流体圧室32が設けられる側に偏って設ければよい。吐出ポート16が第二流体圧室32が設けられる側に偏って設けられる場合、吸込ポート15は、第一流体圧室31が設けられる側に偏って設けられる。
【0075】
吐出ポート16が、第二流体圧室32に偏って設けられるのに伴い、ポンプ室7から吐出される吐出容量が小さくなる方向にカムリング4を偏心させる圧力が作用する第二受圧部46の受圧面積が、第一受圧部45の受圧面積と比較して大きくなる。これにより、ポンプ室7から吐出される吐出容量が小さくなる方向にカムリング4を揺動させる力が、吐出容量が大きくなる方向にカムリング4を揺動させる力と比較して大きくなる。よって、ポンプ室7の吐出容量を小さくする方向にカムリング4を揺動させるときに、その揺動がアシストされる。したがって、ポンプ室7の吐出容量を小さくするときの応答性を向上できる。
【0076】
以上より、吐出ポート16を支持ピン13を中心としていずれか一方に偏って形成することによって、カム面4aの第一受圧部45と第二受圧部46との受圧面積に差が設けられる。これにより、ポンプ室7の吐出容量を大きくするとき又は小さくするときの応答性を向上できる。
【0077】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係るベーンポンプは、パワーステアリング装置や変速機等の油圧供給源に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
100 可変容量型ベーンポンプ
1 駆動軸
2 ロータ
3 ベーン
4 カムリング
4a カム面
5 ポンプカバー
6 サイドプレート
7 ポンプ室
10 ポンプボディ
11 アダプタリング
13 支持ピン
15 吸込ポート
16 吐出ポート
31 第一流体圧室
32 第二流体圧室
41 吸込領域
42 吐出領域
45 第一受圧部
46 第二受圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に連結されたロータと、
前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、
前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って内周のカム面を前記ベーンの先端部が摺動し、前記ロータの中心に対して偏心可能なカムリングと、
前記ロータと前記カムリングとの間に画成されたポンプ室と、
前記カムリングの外周の一部に臨んで画成される第一流体圧室と、
前記カムリングを挟んで前記第一流体圧室と対向して設けられ、前記カムリングの外周の一部に臨んで画成される第二流体圧室と、を備え、
前記第一流体圧室と前記第二流体圧室とが、導かれる流体圧によって拡縮し、前記カムリングが前記ロータに対して偏心して前記ポンプ室から吐出される作動流体の吐出容量が変化する可変容量型ベーンポンプにおいて、
前記カムリングは、前記ロータの回転に伴って前記ポンプ室の容積を収縮する吐出領域を有し、
前記吐出領域における前記カム面は、
前記ポンプ室から吐出される吐出容量が大きくなる方向に前記カムリングを偏心させる作動流体の圧力が作用する第一受圧部と、
前記ポンプ室から吐出される吐出容量が小さくなる方向に前記カムリングを偏心させる作動流体の圧力が作用する第二受圧部と、を有し、
前記第一受圧部と前記第二受圧部との受圧面積に差を設けたことを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。
【請求項2】
前記カムリングの側面に当接して設けられるサイド部材を備え、
前記サイド部材は、前記ポンプ室内の作動流体を流体圧機器に導く吐出ポートを備え、
前記カムリングは、揺動支点を中心に揺動することによって、前記ロータの中心に対して偏心可能に設けられ、
前記吐出ポートが前記揺動支点を中心として一方に偏って形成されることによって、前記第一受圧部と前記第二受圧部との受圧面積に差が設けられることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項3】
前記第一受圧部の受圧面積は、前記第二受圧部と比較して大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の可変容量型ベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−7513(P2012−7513A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142611(P2010−142611)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】