説明

可変容量型斜板式圧縮機

【課題】小型化された簡単な構成によりクランク室内の温度上昇を防止する。
【解決手段】クランク室7にオイルが過剰に貯留され、また貯留されたオイルが回転する斜板16によって撹拌されることによりオイル自体が高温になり、クランク室7内が異常な高温状態となる。クランク室7内の温度が第2抽気通路37に装着した低融点部材38の融点以上に達すると、低融点部材38が溶融し、第2抽気通路37を開放する。クランク室7内の冷媒ガスは比較的高圧状態であるため、第2抽気通路37から積極的に流出し、吸入室8へ流れる冷媒ガスの流量が圧縮機の正常時よりも拡大される。このため、クランク室7内に貯留したオイルは冷媒ガスに随伴し、吸入室8へ共に流出する。従って、クランク室7内のオイル量が減少するため、温度上昇が防止され、圧縮機は適温状態に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、クランク室内の温度上昇を防止する手段を備えた可変容量型斜板式圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可変容量型斜板式圧縮機(以下、単に圧縮機という)においては、抽気通路、給気通路及び容量制御弁を用いてクランク室への冷媒ガスの給気とクランク室からの冷媒ガスの抽気を適宜制御し、冷媒ガスの吐出容量制御を行なっている。クランク室内に給気される冷媒ガスは、吐出容量制御機能の他に、冷媒ガス中に含まれるオイルによる圧縮機内部に設けられた回転部や摺動部の潤滑機能を有している。
【0003】
圧縮機は、通常冷媒ガスによる吐出容量制御と潤滑が効率よく行なわれ、問題を生じることが無い。しかし、クランク室内には、何らかの原因により必要以上に多量のオイルが貯留される場合がある。オイルの過剰な貯留はクランク室内の異常な温度上昇を招き、さらにクランク室内で回転する斜板や斜板を駆動する回転体によりオイルが撹拌されると、撹拌抵抗により圧縮機全体が異常な高温状態となる。
【0004】
このため、圧縮機の回転軸に設けられた軸受部や冷媒ガスの漏洩防止用に設けられたリップシール等が高温により故障や損傷を生じる恐れがある。特に、軸受部の故障はリップシールの劣化によりグリースが流出し、焼き付を生じるため、回転軸及び回転軸に固定したプーリーの回転が阻害され、圧縮機への動力伝達系に影響を及ぼす恐れがある。
【0005】
特許文献1は、可変容量型斜板式圧縮機のクランク室内における潤滑油の過剰な貯留を防止する手段が開示されている。特許文献1の課題は、次のような点におかれている。即ち、クランク室から吸入室への冷媒ガスの流出が少ない低容量時においてクランク室内に潤滑油が溜まり易く、特にクラッチレス式の場合、潤滑油の過剰な貯留が生じ易い。過剰に貯留された潤滑油は斜板により撹拌されるため、その撹拌抵抗により圧縮機が高温になり、冷媒ガスの漏洩を防止するリップシールの劣化が早まるという問題がある。
【0006】
特許文献1は前記課題を解決するため、次のような構成が開示されている。例えば、特許文献1の図6及び図7には、容量制御のために使用される抽気通路とは別に第2の抽気通路が設けられ、第2の抽気通路に感温手段であるバイメタル及び前記バイメタルに接触させたボール弁が設けられた構成が示されている。
【0007】
クランク室内の温度が通常であればバイメタルが動作しないため、ボール弁は第2の抽気通路を閉鎖し、低容量時にクランク室内が高温になるとバイメタルが屈曲してボール弁の移動を許容するため、第2の抽気通路が開放される。クランク室内の高圧の冷媒ガスは第2の抽気通路から吸入室へ流れるため、これに伴い潤滑油が吸入室へ流出し、クランク室内の温度が低下する。クランク室内の温度が低下するとバイメタルの復帰動作によりボール弁は第2の抽気通路を閉鎖する。このように、バイメタルとボール弁からなる第2の抽気通路の閉鎖手段は、圧縮機の低容量時に繰り返し動作し、クランク室内における潤滑油の過剰な貯留を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−123946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された発明は、圧縮機の低容量時に発生するクランク室内の温度上昇を抑制するために、バイメタルとボール弁からなる手段を用いている。即ち、クランク室内の温度上昇は繰り返し生じるため、温度上昇の抑制手段は繰り返し使用できるように構成する必要がある。このため、温度上昇の抑制手段は大型で複雑な構成にせざるを得ず、その結果圧縮機が大型化し、また高コストになるという問題がある。
【0010】
本願発明者等は、クランク室における温度上昇の発生原因を詳細に解析し、次のような結論が得られた。クランク室内における過剰なオイルの貯留は、冷媒ガス中に封入されるオイル量が規定値よりも過剰に混入された場合、あるいは冷媒ガスが規定量よりも過多、又は過少であった場合に発生し、冷媒ガス量やオイルの混入量が適正であれば生じないということを見いだした。従って、本願発明は前記した温度上昇の原因に適切に対処できるように、より小型化された簡単な構成によりクランク室内の温度上昇を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の本願発明は、駆動軸に傾斜角度の変更可能に設けられた斜板を収容するクランク室と、前記斜板により往復移動されるピストンを収容するシリンダボアと、前記シリンダボアに吸入弁を介して連通する冷媒ガスの吸入室及び吐出弁を介して連通する冷媒ガスの吐出室とをハウジング内に備え、前記ハウジングの一部に形成された前記クランク室と前記吸入室とを連通する抽気通路及び前記クランク室と前記吐出室とを連通する給気通路を設けた可変容量型斜板式圧縮機において、前記抽気通路の一部に前記抽気通路が形成されるハウジング材の融点よりも低温で溶融可能な材料からなる低融点部材を装着し、前記低融点部材の融解により前記抽気通路の開度が増大することを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載の本願発明によれば、クランク室内が一定温度に上昇すると低融点部材が溶融して抽気通路の開度が増大し、抽気通路から吸入室へ流れる冷媒ガスの流量を積極的に拡大し、潤滑油の過剰貯留によるクランク室内の温度上昇を迅速に防止することができる。また、ハウジング材の融点よりも低い融点を有する低融点部材を抽気通路に装着するという簡単な構成で温度上昇の防止を図ることができ、本願発明の構成を小型化、低コスト化することができる。
【0013】
請求項2に記載の本願発明は、前記抽気通路を少なくとも2箇所形成し、一方の抽気通路を常時開通し、他方の抽気通路を前記低融点部材の装着により常時閉塞したことを特徴とする。従って、吐出容量制御用の内部循環回路と温度上昇防止用の内部循環回路とを個別に構成することができるため、それぞれの機能を充分に発揮させることができる。
【0014】
請求項3に記載の本願発明は、前記抽気通路を1箇所形成し、前記抽気通路に装着した低融点部材に前記抽気通路と連通する絞り通路を形成したことを特徴とする。従って、吐出容量制御用の抽気通路を温度上昇防止用と兼用することができ、構成をより簡略化することができる。
【0015】
請求項4に記載の本願発明は、前記給気通路中に容量制御弁を介在し、前記抽気通路中に前記抽気通路の開度が調整可能なスプール弁を収容するスプール収容孔を介在し、前記スプール弁の一端側が位置する前記スプール収容孔の空間を前記抽気通路に連通にするとともに前記吸入室に連通可能に構成し、前記スプール弁の他端側が位置する前記スプール収容孔の空間を前記容量制御弁より下流の給気通路に連通し、前記スプール弁を前記低融点部材により形成したことを特徴とする。従って、始動時における圧縮機の立ち上げを迅速に行なうために抽気通路に設けられているスプール弁を利用することができるので、クランク室内の温度上昇防止用の手段を簡単に構成することができる。
【0016】
請求項5に記載の本願発明は、前記低融点部材により常時閉塞された抽気通路を複数形成し、各抽気通路の低融点部材の融点を異ならせたことを特徴とする。従って、温度上昇に応じて抽気通路を順次開放することができるため、温度上昇の抑制に必要な冷媒ガスの流通量を必要最小限に抑えることができ、吐出容量制御への影響を少なくすることができる。
【0017】
請求項6に記載の本願発明は、前記低融点部材の装着位置よりも前記吸入室側の抽気通路は、前記低融点部材よりも大径に形成されていることを特徴とする。従って、溶融後に球状に成った低融点部材を抽気通路内に詰まらせること無く、吸入室内へ確実に排出することができる。
【0018】
請求項7に記載の本願発明は、前記低融点部材の装着位置よりも前記吸入室側の抽気通路は、前記低融点部材と同体積である球体の直径よりも大径に形成されていることを特徴とする。従って、溶融後に球状に成った低融点部材を抽気通路内に詰まらせること無く、吸入室内へ確実に排出することができる。
【0019】
請求項8に記載の本願発明は、前記低融点部材の装着位置は前記抽気通路の前記クランク室と接続する位置であることを特徴とする。従って、低融点部材はクランク室に直接露出させた構成となるため、温度センサーとしての機能をより高めることができる。
【0020】
請求項9に記載の本願発明は、前記低融点部材は、全体を100質量%としたときに、7.5質量%以上12.0質量%以下の亜鉛(Zn)と、6.0質量%以上12.0質量%以下のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物とからなることを特徴とする。従って、161℃未満では保形のための機械的強度を有し、190℃を超える温度では確実に溶解する低融点部材を提供することができる。
【0021】
請求項10に記載の本願発明は、前記インジウム(In)は、6.0質量%以上10.0質量%以下であることを特徴とする。従って、170℃未満では保形のための機械的強度を有し、190℃を超える温度では確実に溶解することができるほか、速やかな相転移を可能とする低融点部材を提供することができる。
【0022】
請求項11に記載の本願発明は、溶融した前記低融点部材を前記抽気通路内に滞留させるための滞留手段が、前記抽気通路における前記低融点部材の装着位置よりも吸入室側に設けられていることを特徴としている。
【0023】
請求項11に記載の本願発明によれば、クランク室内の温度上昇により溶融した低融点部材は抽気通路内を吸入室側に向かって移動する。そして、抽気通路において低融点部材の装着位置よりも吸入室側に設けられた滞留手段は低融点部材を抽気通路内に滞留させる。これにより、低融点部材を滞留手段によって抽気通路内に滞留させるので、圧縮機の外部へ低融点部材が流出することがない。
【0024】
請求項12に記載の本願発明は、前記滞留手段は前記抽気通路に設けられた下方にくぼむくぼみ部であることを特徴とする。
【0025】
請求項12に記載の本願発明によれば、溶融した低融点部材は抽気通路内を移動し、低融点部材の自重によりくぼみ部へと入り、低融点部材がくぼみ部に滞留する。これにより、抽気通路内にくぼみ部を設けるという簡単な構成で低融点部材を抽気通路内に滞留させることができる。
【0026】
請求項13に記載の本願発明は、前記くぼみ部に前記低融点部材を吸収する吸収部材を配置したことを特徴とする。
【0027】
請求項13に記載の発明によれば、くぼみ部に入った低融点部材はくぼみ部の内部に存在する吸収部材によって吸収される。これにより、低融点部材が吸収部材に吸収されるので、低融点部材を確実に抽気通路内に滞留させることができる。
【0028】
請求項14に記載の発明は、前記滞留手段は前記低融点部材を吸収する帯状の吸収部材であり、前記吸収部材は前記抽気通路における前記低融点部材の装着位置よりも吸入室側で、前記抽気通路を横断するように設けたことを特徴とする。
【0029】
請求項14に記載の発明によれば、溶融した低融点部材は抽気通路を移動し、抽気通路を横断するように設けた吸収部材に吸収される。これにより、抽気通路を横断するように吸収部材を設ければよいので、吸収部材の設置及び固定が簡単にできる。
【発明の効果】
【0030】
本願発明は、クランク室内の温度上昇を小型化された簡単な構成により確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施形態を示す可変容量型斜板式圧縮機の縦断面図である。
【図2】(イ)は抽気通路の閉鎖状態を示す部分断面図、(ロ)は抽気通路の開放状態を示す部分断面図である。
【図3】(イ)は第2の実施形態における抽気通路の閉鎖状態を示す部分断面図、(ロ)は抽気通路の開放状態を示す部分断面図である。
【図4】第3の実施形態を示す要部の部分断面図である。
【図5】第4の実施形態を示す要部の部分断面図である。
【図6】第5の実施形態を示す要部の部分断面図である。
【図7】第6の実施形態を示す要部の部分断面図である。
【図8】(イ)は第7の実施形態を示す要部の部分断面図、(ロ)は第7の実施形態の変形例を示す要部の部分断面図である。
【図9】第8の実施形態を示す要部の部分断面図である。
【図10】(a)、(b)、(c)は本発明の第10の実施形態に係る可変容量型斜板式圧縮機の要部を示す断面図である。
【図11】(a)は本発明の第11の実施形態に係る可変容量型斜板式圧縮機の要部を示す断面図、(b)はクランク室側から見た第2抽気通路の正面図である。
【図12】本発明のその他の実施形態に係る可変容量型斜板式圧縮機の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1の実施形態)
第1の実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。なお、本願明細書においては、便宜上、図1の左側を前、右側を後とし、上側及び下側をそれぞれ上、下として説明する。図1はクラッチレス方式を採用した片側斜板式の可変容量型斜板式圧縮機(以下、単に圧縮機という)を示す。
【0033】
圧縮機のハウジングは、中央のシリンダブロック1、シリンダブロック1の前側に接合されたフロントハウジング2及びシリンダブロック1の後方に弁形成体4を介在して接合されたリヤハウジング3から構成され、通しボルト5によって固定されている。シリンダブロック1、フロントハウジング2及びリヤハウジング3はアルミ系金属材料により形成され、軽量化されている。また、弁形成体4は弁座板、吸入弁及び吐出弁等から構成される。シリンダブロック1には、複数のシリンダボア6が形成され、フロントハウジング2には、クランク室7が形成され、リヤハウジング3には、吸入室8と吐出室9が形成されている。
【0034】
フロントハウジング2には、回転自在な駆動軸10がクランク室7の中央付近を貫通するように備えられている。駆動軸10はフロントハウジング2に設けたラジアル軸受11と、シリンダブロック1の中央付近に穿設された軸受孔12に設けたラジアル軸受13により支持されている。また、駆動軸10の前部を支持するラジアル軸受11の前方には、駆動軸10の周面に亘って摺接する軸封機構14が備えられている。軸封機構14はリップシール部材及びリップシール部材を保持する保持金具から構成され、クランク室7内の冷媒ガスがフロントハウジング2と駆動軸10の間から漏洩することを防止している。駆動軸10の前端は動力伝達系である図示しない動力伝達機構及びエンジン等の駆動源と連結されている。動力伝達機構はベルト及びプーリーを組み合わせたクラッチレス機構で構成され、動力が常時伝達されている。
【0035】
クランク室7内において、駆動軸10には鋳鉄製のラグプレート15が一体回転可能に固定されている。ラグプレート15の後方側には、斜板16が駆動軸10の軸線方向へスライド可能及び揺動可能に駆動軸10上に遊嵌されている。斜板16はラグプレート15とヒンジ機構17によって連結され、駆動軸10との同期回転及び駆動軸10上での揺動ができるように構成されている。
【0036】
ラグプレート15とフロントハウジング2との間には、スラスト軸受18が介在され、また、スラスト軸受18を潤滑する潤滑流路19が形成されている。潤滑流路19はその一端がクランク室7に開口し、他端が前記スラスト軸受18から直接軸封機構14に至る流路と、スラスト軸受18及び駆動軸10の前部を支持するラジアル軸受11を経て軸封機構14に至る流路とを備えている。また、潤滑流路19は駆動軸10の軸芯に穿設された図示しない軸孔流路を介してシリンダブロック1の中心側に形成した軸受孔12に連通している。
【0037】
駆動軸10におけるラグプレート15と斜板16との間にはコイルスプリング20が巻装されているほか、コイルスプリング20により後方へ付勢される筒状体21が摺動可能に駆動軸10に嵌挿されている。斜板16はコイルスプリング20の付勢力により筒状体21を介して常に後方へ、即ち斜板16の傾斜角度が減少する方向(斜板が立つ方向)へ押圧されている。なお、斜板16の傾斜角度とは、駆動軸10に直交する仮想面と斜板16の面とにより成す角度である。
【0038】
傾斜角度が変更可能な斜板16の前部にはストッパ部22が突設されている。ストッパ部22はラグプレート15と当接することにより、斜板16の最大傾斜角度の位置を規定している。斜板16の後方における駆動軸10にはサークリップ23が取り付けられ、サークリップ23の前方において斜板16との間に位置するようにコイルスプリング24が巻装されている。コイルスプリング24はその前部が斜板16の後面と当接することにより、斜板16の最小傾斜角度の位置を規定している。また、コイルスプリング24は圧縮機の最小容量運転から中間容量運転への切り替え時に、斜板16を傾斜する方向へ復帰させる機能を有する。
【0039】
シリンダブロック1の各シリンダボア6には、片頭型のピストン25がそれぞれ往復移動可能に収容され、ピストン25の頭部側はシリンダボア6内における圧縮室27を区画形成する。各ピストン25の頚部26は、シュー28を介して斜板16の外周面を跨ぐ様に斜板16に連結されている。駆動軸10の回転に伴う斜板16の回転は、シュー28を介して各ピストン25を前後方向に往復移動する。なお、ピストン25における頚部26の外周面はピストン25頭部の外周面より駆動軸10側に僅かに変位した段差を有し、シリンダボア6の内壁面との間に隙間を形成している。
【0040】
リヤハウジング3内の中心側に形成された吸入室8は弁形成体4に設けた吸入ポート29により圧縮室27と連通している。なお、吸入室8に連通する吸入通路30は外部冷媒回路300に接続している。また、リヤハウジング3内の外周側に形成した吐出室9は、弁形成体4に設けた吐出ポート31により圧縮室27と連通している。吸入室8の冷媒ガスはピストン25が上死点位置から下死点位置へ移動することにより、吸入ポート29を介して圧縮室27内に吸入される。圧縮室27内に吸入された冷媒ガスは、ピストン25が下死点位置から上死点位置へ移動することにより圧縮され、所定の圧力に高められた状態で吐出ポート31から吐出室9へ吐出される。吐出室9内の冷媒ガスは吐出通路32を介して外部冷媒回路300に供給される。
外部冷媒回路300は、凝縮器301と膨張弁302及び蒸発器303、蒸発器303の出口と吸入通路30とをつなぐ吸入流通管304と、吐出通路32と凝縮器301とをつなぐ吐出流通管305とから構成されている。
【0041】
斜板16の傾斜角度は、斜板16の遠心力に起因する回転運動のモーメントと、ピストン25の往復慣性力によるモーメントと、冷媒ガスの圧力によるモーメント等の各モーメントとの相互バランスに基づき決定される。冷媒ガスの圧力によるモーメントは、圧縮室27内の圧力とピストン25の前面に作用するクランク室7内の圧力との相関に基づいて発生するモーメントであり、クランク室7内の圧力変動に応じて斜板16の傾斜角度を増大する方向又は減少する方向に作用する。
【0042】
圧縮機では、クランク室7内の圧力を調節するため、例えば電磁弁等の容量制御弁33がクランク室7と吐出室9とを繋ぐ給気通路34の途中に配設されている。容量制御弁33はクランク室7内の冷媒ガスを調整して冷媒ガスの圧力によるモーメントを変更し、斜板16の傾斜角度を最小傾斜角度から最大傾斜角度までの間の任意の角度に設定する。容量制御弁33により傾斜角度を変更された斜板16はその傾斜角に応じてピストン25のストロークを変更し、吐出室9へ吐出する冷媒ガスの容量を変更する。
【0043】
一方、シリンダブロック1には、クランク室7と吸入室8との間を連通する第1抽気通路35が形成されている。第1抽気通路35は途中に絞り通路36を有し、容量制御弁33とともに内部循環回路を形成し、冷媒ガスの吐出容量制御を行なう。シリンダブロック1には、さらに第1抽気通路35と平行に第2抽気通路37が形成されている。
【0044】
第2抽気通路37は図2(イ)に拡大図にて示したように、クランク室7と接続する位置に低融点部材38を装着したクランク室7内の異常な温度上昇を防止するための内部循環回路を形成する。低融点部材38は第2抽気通路37を形成したアルミ系金属材料からなるシリンダブロック1の融点よりも、低温で溶融可能な材料により構成され、本実施形態では、はんだ材を用いている。
【0045】
低融点部材38は第2抽気通路37の径よりも大径の栓状に形成され、第2抽気通路37に圧入される。このため、第2抽気通路37は低融点部材38によって完全な閉塞構造体として構成され、低融点部材38が溶融しない限り常時閉塞されている。なお、低融点部材38は融点が120°C〜220°Cのものを使用することが好ましい。また、低融点部材38はシリンダブロック1を形成する材料の融点よりも低い融点であれば、はんだ材に限らず他の材料を使用することが可能である。
【0046】
シリンダブロック1の2箇所に第1抽気通路35及び第2抽気通路37を形成した第1の実施形態の作用を以下に説明する。
圧縮機は正常な状態において、公知のように、吸入室8の冷媒ガスがピストン25の運動により圧縮室27において吸入、圧縮された後、吐出室9に吐出され、外部冷媒回路300を循環する。また、圧縮機は容量制御弁33と第1抽気通路35との協働作用によりクランク室7の給気及び抽気を行い、クランク室7内の冷媒ガス圧力を調整して吐出室9への冷媒ガスの吐出容量制御を行なう。冷媒ガスは適正に混入されたオイルを含有しており、クランク室7内に滞留する間に圧縮機に設けられているラジアル軸受11、13、軸封機構14及びスラスト軸受18等を適宜潤滑し、各部の性能維持を図っている。
【0047】
通常、圧縮機の冷媒ガスには、規定値に基づくオイル量が混入され、また規定値に基づく冷媒ガス量が圧縮機に封入されている。しかし、何らかの原因により、規定値を超える過剰なオイル量が混入され、あるいは規定値よりも多すぎる冷媒ガス量が封入されるか、逆に規定値よりも少なすぎる冷媒ガス量が封入される場合がある。このような冷媒ガスの異常な状態で圧縮機が運転されると、クランク室7には、オイルが過剰に貯留される現象が生じる。
【0048】
運転中オイルが大量に貯留されるとオイル自体の温度が上昇し、クランク室7内が異常な高温状態となる恐れがある。また、クランク室7では、回転する斜板16が大量に貯留されたオイルを撹拌するため、撹拌抵抗によってオイル自体がさらに高温となり、圧縮機全体が異常な高温状態となる恐れがある。前記のような原因によるクランク室7内の温度上昇時に、その温度が低融点部材38の融点以上に達すると、低融点部材38が溶融し、第2抽気通路37を開放する(図2(ロ)参照)。従って、第1抽気通路35及び第2抽気通路37を合わせた抽気通路全体の開度が増大する。クランク室7内の冷媒ガスは比較的高圧状態であるため、第2抽気通路37から積極的に流出し、吸入室8へ流れる冷媒ガスの流量が圧縮機の正常時よりも拡大される。
【0049】
このため、クランク室7内に貯留したオイルは冷媒ガスに随伴し、吸入室8へ共に流出する。従って、クランク室7内のオイル量が減少するため、温度上昇が防止され、圧縮機は適温状態に維持される。なお、低融点部材38は溶融状態で吸入室8へ放出されるため、第2抽気通路37は開放状態を維持される。また、第2抽気通路37の開放により抽気量が増加するため、容量制御弁33による吐出容量制御機能が若干低下するが、軸受の焼き付き等の問題が無いため、圧縮機の運転に支障を来たすことはない。
【0050】
前記した第1の実施形態は以下の作用効果を有する。
(1)第2抽気通路37に低融点部材38を装着するだけの簡単な構成であるが、低融点部材38はクランク室7内の感温センサーの機能と第2抽気通路37の開放弁の機能を併せ持ち、圧縮機の小型化を維持しながら、前記した課題を適切に克服することができる。
(2)はんだ材という一般的な市販の材料を使用することができるため、低コスト化に寄与することができる。
(3)低融点部材38をクランク室7と第2抽気通路37との接続部に配設するため、クランク室7内の温度上昇を敏感に感知し、迅速に対処することができる。
【0051】
(第2の実施形態)
図3に示す第2の実施形態は、第1の実施形態における第2抽気通路37の形態を変更したもので、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。第2の実施形態は図3(イ)に示したように、第2抽気通路39が吸入室8に接続する大径の通路40とクランク室7に接続する小径の通路41とから形成されている。低融点部材42は第1の実施形態と同様に栓状に構成され、小径の通路41においてクランク室7と接続する位置に圧入により装着されている。
【0052】
低融点部材42はクランク室7の温度が融点以上に達すると溶融する。低融点部材42は一般に、図3(ロ)に42aで示したように、溶融すると球体になり易く、吸入室8へ至る前に通路中に詰まる可能性がある。しかし、第2の実施形態では、第2抽気通路39の吸入室8側の通路40が低融点部材42と同体積の溶融した球体の低融点部材42aの直径よりも大径に形成されているため、溶融時の球体の低融点部材42aは通路40の壁面に干渉されること無く、吸入室8へ確実に排出される。従って、第1抽気通路35及び第2抽気通路39を合わせた抽気通路全体の開度が増大する。このため、開放された第2抽気通路39は冷媒ガスの流出量の拡大とオイルの積極的な流出を許容し、クランク室内の温度上昇を防止することができる。なお、本実施形態では、少なくとも吸入室8側の通路40の径を低融点部材42よりも大径となるように構成すれば、溶融した低融点部材42aを吸入室8へ確実に排出することができる。
【0053】
(第3の実施形態)
図4に示す第3の実施形態は、第1の実施形態における低融点部材38の装着位置を変更したもので、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。第3の実施形態では、シリンダブロック1に第1抽気通路43が一箇所のみ形成されている。リヤハウジング3には、吸入室8の外方位置にスプール収容孔44が形成され、スプール収容孔44内には低融点部材として機能するスプール弁45が嵌挿されている。
【0054】
スプール弁45は第1の実施形態と同様に、はんだ材からなり、ばね46により後方、即ち後述の背圧室48側へ付勢される有底円筒状の形態で構成されている。スプール弁45の一端側が位置する空間、即ちスプール弁45の内部空間は第1抽気通路43と接続する。スプール弁45の前端には連通溝47が形成されている。連通溝47はスプール弁45の一端側が弁形成体4の後壁面に接触した状態にある時、スプール弁45の内部空間と吸入室8とを連通する絞り通路として機能する。また、スプール弁45が後方に摺動すると、連通溝47は絞り機能を有しない広い通路となってスプール弁45の内部空間と吸入室8とを連通可能なように構成されている。スプール弁45の底部より後方側におけるスプール収容孔44の空間は、背圧室48として形成されている。背圧室48は容量制御弁33の下流に当たる給気通路34に連通する。
【0055】
従って、スプール弁45は、ばね46の付勢力と背圧室48の給気圧力とのバランスにより前後方向に摺動される。スプール弁45は圧縮機の始動時における速やかな立ち上げを目的としたものである。容量制御弁33の制御によりクランク室7への給気が停止されると、背圧室48内の圧力が低下するため、スプール弁45はばね46の付勢力により後方へ移動され、吸入室8を開放する。クランク室7内の液化した冷媒ガスは第1抽気通路43から吸入室8へ積極的に流出されるため、圧縮機の再起動時においてクランク室内の液冷媒の気化によりクランク室内の圧力が過大になることなく、斜板16の傾斜角度を速やかに大きくすることができる。圧縮機の始動後は、スプール弁45が背圧室48の給気圧力により前方へ移動して吸入室8を閉鎖し、連通溝47によってのみ吸入室8と第1抽気通路43とを連通する。従って、圧縮機の通常運転中は連通溝47によって絞られた通路を備えた第1抽気通路43と容量制御弁33との協働作用により吐出容量制御が行われる。
【0056】
クランク室7が第1の実施形態に記載した原因により過剰なオイルを貯留し、異常な高温状態になると、特に熱が伝わり易いスプール弁45の前端側が溶融し、連通溝47付近の位置において吸入室8が大きく開放される。従って、第1抽気通路43の開度が増大し、クランク室7内の冷媒ガスが流量を拡大された状態で第1抽気通路43から吸入室8へ積極的に流出するとともに増大した冷媒ガスの流出に随伴してクランク室7内に貯溜されたオイルが流出する。このため、クランク室7の温度を低下することができ、第1の実施態様と同様の作用効果を得ることができる。また、第1抽気通路43のみで構成することができ、しかも圧縮機の立ち上げを迅速に行なう第1抽気通路43におけるスプール弁45の構成を利用したため、クランク室7の温度上昇防止装置の構成をより簡略化することができる。なお、第3の実施形態において、スプール弁45は必ずしも全体をはんだ材で構成する必要は無く、前端部のみをはんだ材によって形成しても良い。
【0057】
(第4の実施形態)
図5に示す第4の実施形態は、第3の実施形態における第1抽気通路43とスプール弁45の関係を変更したもので、第3の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。第4の実施形態では、シリンダブロック1の2箇所に第1抽気通路49及び第2抽気通路50が形成されている。第1抽気通路49は絞り機能を持たせた通路で、吸入室8へ直接接続し、常時連通している。第2抽気通路50は、第3の実施形態と同様に有底円筒状に形成されたスプール弁51の内部空間に接続されている。スプール弁51は前記各実施形態と同じはんだ材で構成されることにより低融点部材の機能を備え、ばね46の付勢力と背圧室48内の給気圧力とのバランスによりスプール収容孔44内を前後方向に摺動することができる。また、スプール弁51は通常の運転時、背圧室48内の給気圧力により前方へ移動し、前端面が弁形成体4の後壁面に接触して第2抽気通路50と吸入室8との連通を完全に遮断している。
【0058】
圧縮機の正常な状態において、第1抽気通路49は容量制御弁33と協働して吐出容量制御を行い、スプール弁51は圧縮機の始動時にのみ作動して第2抽気通路50を吸入室8と連通し、第3の実施形態と同様に起動直後の圧縮機の速やかな立ち上げを行なうことができる。
【0059】
クランク室7が第1の実施形態に記載した原因によりオイルを過剰に貯留し、異常な高温状態になると、スプール弁51の前端側が溶融し、吸入室8を開放する。従って、第1抽気通路49及び第2抽気通路50を合わせた抽気通路全体の開度が増大する結果、クランク室7内の冷媒ガスは第2抽気通路50から吸入室8へ積極的に流出し、増大した冷媒ガスの流出に随伴してクランク室7内のオイルを放出する。このため、クランク室7の温度を低下することができ、第3の実施態様と同様の作用効果を得ることができる。なお、第4の実施形態において、スプール弁51は必ずしも全体をはんだ材で構成する必要は無く、前端部のみをはんだ材によって形成しても良い。
【0060】
(第5の実施形態)
図6に示す第5の実施形態は、第1の実施形態における低融点部材38の形状を変更したもので、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。第5の実施形態における第2抽気通路52は、クランク室7と接続する位置に第2抽気通路52よりも大径の通路53を形成する。低融点部材54は、はんだ材を第2抽気通路52よりも大径であり、かつ通路53よりも小径な円板形状に構成され、通路53に挿入されて第2抽気通路52の段差部に当接される。また、低融点部材54は通路53の内周面の溝に嵌合したサークリップ55によって第2抽気通路52の段差部に機械的に圧着固定される。従って、第5の実施形態は、圧縮機の通常運転中に、低融点部材54がクリープによって緩み、第2抽気通路の閉塞機能を損なう等の恐れを確実に無くすことができる。クランク室7が前記した異常な高温状態を発生した場合は、低融点部材54が溶融して第2抽気通路52を開放するため、前記各実施形態と同様にクランク室7内のオイルを冷媒ガスと共に放出し、クランク室7内の温度上昇を防止することができる。
【0061】
(第6の実施形態)
図7に示す第6の実施形態は、第1の実施形態における低融点部材38の形状を変更したもので、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。第6の実施形態における第2抽気通路56はクランク室7との接続位置近傍の内周面に環状溝57を形成する。はんだ材からなる低融点部材58は、第2抽気通路56の内径に近似した外径を有する円柱状本体と環状溝57に嵌合する環状突起59とを備えた構成である。環状溝57と環状突起59とを密着させた状態で低融点部材58を第2抽気通路56に装着するには、溶融された液状のはんだ材を第2抽気通路56及び環状溝57に注入し、その後冷却、固化する方法を利用することにより、容易に実現することができる。低融点部材58は環状溝57と環状突起59との嵌合により機械的に結合されるため、第5の実施形態と同様に第2抽気通路56との間の緩みを防止することができる。
【0062】
(第7の実施形態)
図8に示す第7の実施形態は、第1の実施形態における低融点部材38の形状を変更したもので、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図8(イ)に示した第7の実施形態は、クランク室7と接続する側の第2抽気通路60の内周面にねじ溝61を形成し、円柱状の低融点部材62の外周にねじ山63を形成した構成である。低融点部材62はねじ山63を第2抽気通路60のねじ溝61にねじ込むことによって機械的に固定される。従って、第7の実施形態は第5及び第6の実施形態と同様に、第2抽気通路56との間の緩みを防止することができる。なお、低融点部材62の装着は第6の実施形態と同様に、溶融された液状のはんだ材を第2抽気通路60及びねじ溝61に注入し、その後冷却、固化する方法を利用しても良い。
【0063】
図8(ロ)は第7の実施形態の変形例を示したもので、第2抽気通路64のクランク室7との接続側の内周面に複数の環状溝65を形成し、低融点部材66の外周面に環状溝65と嵌合する複数の環状突起67を形成することにより構成されている。低融点部材66の装着は、第6の実施形態と同様に、溶融された液状のはんだ材を第2抽気通路64及び複数の環状溝65に注入し、その後冷却、固化する方法により行なうことができ、低融点部材66を第2抽気通路64に機械的に固定することができる。従って、第7の実施形態の変形例は第5及び第6の実施形態と同様の作用効果を有する。
【0064】
(第8の実施形態)
図9に示す第8の実施形態は、シリンダブロック1に1箇所のみ形成された第1抽気通路68が同一径の通路として形成されている。はんだ材からなる低融点部材69は第1抽気通路68の内径よりも大径の筒状に形成され、中心側に低融点部材69を貫通する細孔70が形成されている。細孔70は絞り通路としての機能を有する。低融点部材69は第1抽気通路68に圧入により固定されている。圧縮機の正常な運転中、第1抽気通路68は容量制御弁33と協働し、従来と同様に吐出容量制御を行なうことができる。クランク室7内にオイルが過剰に貯留することにより温度が上昇し、異常な高温になると、低融点部材69が溶融し、細孔70が消滅する。このため、第1抽気通路68の開度が増大して第1抽気通路68から吸入室8へ流れる冷媒ガスの流量が正常時に比して拡大され、これに伴いクランク室7内のオイルが吸入室8へ流出するので、クランク室7の温度上昇を防止することができる。また、吐出容量制御用の第1抽気通路68を温度上昇防止用に兼用することができ、構成をより簡略化することができる。
【0065】
(第9の実施形態)
第9の実施形態に係る低融点部材について説明する。第1〜第8の実施形態では、低融点部材の融点が120℃〜220℃とするものを使用することが好ましいとしたが、この実施形態に係る低融点部材は、190℃以上で確実に溶解し、かつ、161℃未満では保形のための機械的強度を備える。この実施形態の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、7.5質量%以上12.0質量%以下の亜鉛(Zn)と、6.0質量%以上12.0質量%以下のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物とからなる。
【0066】
この実施形態の低融点部材はSn−Zn系の合金であり、この合金において亜鉛(Zn)およびインジウム(In)は、この合金の溶解温度を下げる成分である。低融点部材の全体を100質量%としたときに、亜鉛(Zn)の含有量が7.5質量%以上12.0質量%以下であり、インジウム(In)の含有量が6.0質量%以上12.0質量%以下であって、残部の殆どが錫(Sn)である条件では、この合金の低融点化が確認されている。
【0067】
低融点部材の元素の選択基準は、低融点部材の固相点を161℃〜184℃の範囲とすることと、低融点部材の液相点を182℃〜190℃の範囲とすることと、さらに、固相点と液相点との差である固液温度差(以下「固液差」と表記する)を可能な限り小さくすることにある。また、環境汚染防止の配慮から鉛(Pb)を含まない材料組成が望まれていることも元素の選択基準の要件として挙げられる。
【0068】
この実施形態に係る低融点部材の固相点は、圧縮機の通常運転時における温度上昇の実情に基づき、161℃〜184℃の範囲としている。圧縮機の通常の運転時には、圧縮機の温度が161℃未満まで上昇する可能性があるため、少なくとも圧縮機が161℃未満に達しても低融点部材は形状を保つ機械的強度を備えている必要があり、低融点部材の固相点を161℃以上としている。この実施形態では、固相点が184℃となる組成を有する低融点部材の場合、液相点は190℃となる。
【0069】
一方、低融点部材の液相点は、圧縮機の異常運転時における温度上昇の実情に基づき、182℃〜190℃の範囲としている。圧縮機の温度が190℃以上の場合には、圧縮機は異常運転の状態にあり、このとき軸封機構のリップシール部材の熱による損傷を回避できない。このため、圧縮機の温度が190℃以上の場合には、低融点部材は確実に溶解している必要があり、低融点部材の液相点を190℃以下としている。この実施形態では、液相点が182℃となる組成を有する低融点部材の場合、固相点は161℃となる。
【0070】
また、固液差が小さいほど、低融点部材が固相から液相へ直ちに相転移し易い性質を示すことになり、低融点部材としては所定の温度に達したら速やかに溶解して液相化することが好ましい。従って、低融点部材としては、固液差の小さい材料組成が好適である。上記の理由から、低融点部材を形成する材料として、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)が選択されている。この低融点部材は、固相点(161℃〜184℃)に達すると保形のための機械的強度が損なわれはじめ、液相点(182℃〜190℃)に達すると確実に溶解し、160℃未満では熱より機械的強度が損なわれることはない。なお、低融点部材の固相点と液相点が同じ温度(固液差なし)の可能性は存在するが、特定の組成により構成される低融点部材の固相点が液相点を上回る温度になることはない。
【0071】
なお、低融点部材は、全体を100質量%としたときに、7.5質量%以上12.0質量%以下の亜鉛(Zn)と、6.0質量%以上12.0質量%以下のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物とすることにより、低融点部材の固相点を161℃〜184℃の範囲とし、液相点を182℃〜190℃の範囲とした。低融点部材は、より好ましくは、全体を100質量%としたときに、7.5質量%以上12.0質量%以下の亜鉛(Zn)と、6.0質量%以上10.0質量%以下のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物とすればよい。
【0072】
この場合、インジウム(In)の含有量を6.0質量%以上10.0質量%以下とすることにより、低融点部材の固相点が170℃〜184℃の範囲であって、液相点が185℃〜190℃の範囲となる。これにより、圧縮機の温度が170℃未満では通常運転であると設定することができる。従って、この低融点部材を用いることで、圧縮機の170℃未満までの温度上昇については、圧縮機の通常運転の範囲として設定され、圧縮機の温度が190℃を超えている時点では、異常運転として設定することができる。
【0073】
さらに言うと、最も好適な低融点部材としては、固相点が184℃であって液相点が190℃である。この場合の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、9.0質量%の亜鉛(Zn)と、6.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物とからなる。この低融点部材では、少なくとも170℃では低融点部材としての機械的強度を確実に備え、190℃に達した時点で溶融する。そして、この組成の低融点部材では、亜鉛(Zn)を9.0質量%とすることで、固液差を6℃とすることができ、固液差のない共晶タイプの合金に近い性質を持たせることができる。この組成を持つ低融点部材では固液差6℃であるから固相から液相への相転移が速やかである。この低融点部材を用いることで、圧縮機の170℃までの温度上昇については、圧縮機の通常運転の範囲として設定され、圧縮機の温度が190℃を超えている時点では、異常運転として設定することができる。従って、通常運転として170℃まで温度上昇する圧縮機を提供することができる。
【0074】
低融点部材は、錫(Sn)、亜鉛(Zn)およびインジウム(In)の各粉末を配合して加熱溶解し、鋳込成形により所望の形状に形成される。これにより、第1〜第8の実施形態において示した低融点部材38、42、54、58、62、66及びスプール弁45、51の形状を得ることができる。なお、加熱溶解した材料をシリンダブロックの装着先に充填して冷却固化することにより低融点部材を形成するようにしてもよい。
【0075】
実施形態に係る材料組成を有した低融点部材を用いることにより、運転中の圧縮機の温度が所定の温度(160℃未満又は170℃未満)まで上昇しても、低融点部材は溶解することなく圧縮機は通常運転を行う。一方、圧縮機の軸受部に用いられるリップシールの損傷が確実となる過度の高温(190℃以上)では、圧縮機は異常運転にあり、低融点部材は確実に溶解する。
【実施例】
【0076】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。亜鉛(Zn)とインジウム(In)と錫(Sn)の含有量を変更した試験用の低融点部材を複数(実施例1〜13および比較例)製作し、特性を評価した。各実施例に係る低融点部材は、錫(Sn)、亜鉛(Zn)およびインジウム(In)の各粉末を配合して加熱溶解することにより所定の形状に成形されており、各実施例に係る低融点部材の質量は10mgである。低融点部材(実施例1〜13および比較例)の特性については、相転移に係る固相点および液相点により評価される。低融点部材の固相点および液相点は、JIS(JIS K 0129)に示される示差走査熱量分析法(DSC)による熱分析により得られる。低融点部材(実施例1〜13および比較例)の分析結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
<実施例1>
実施例1の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、7.5質量%の亜鉛(Zn)と、8.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例1の低融点部材は、固相点が178℃、液相点188℃で固液差10℃である。このため、実施例1の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0079】
<実施例2>
実施例2の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、7.5質量%の亜鉛(Zn)と、10.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例2の低融点部材は、固相点が172℃、液相点187℃で固液差15℃である。このため、実施例2の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0080】
<実施例3>
実施例3の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、7.5質量%の亜鉛(Zn)と、12.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例3の低融点部材は、固相点が166℃、液相点183℃で固液差17℃である。このため、実施例3の低融点部材は、160℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0081】
<実施例4>
実施例4の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、9.0質量%の亜鉛(Zn)と、6.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例4の低融点部材は、固相点が184℃、液相点190℃で固液差6℃である。このため、実施例4の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0082】
<実施例5>
実施例5の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、9.0質量%の亜鉛(Zn)と、8.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例5の低融点部材は、固相点が177℃、液相点188℃で固液差11℃である。このため、実施例5の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0083】
<実施例6>
実施例6の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、9.0質量%の亜鉛(Zn)と、10.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例6の低融点部材は、固相点が171℃、液相点186℃で固液差15℃である。このため、実施例6の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0084】
<実施例7>
実施例7の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、9.0質量%の亜鉛(Zn)と、12.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例7の低融点部材は、固相点が164℃、液相点183℃で固液差19℃である。このため、実施例7の低融点部材は、160℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0085】
<実施例8>
実施例8の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、10.5質量%の亜鉛(Zn)と、8.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例8の低融点部材は、固相点が178℃、液相点188℃で固液差10℃である。このため、実施例8の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0086】
<実施例9>
実施例9の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、10.5質量%の亜鉛(Zn)と、10.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例9の低融点部材は、固相点が170℃、液相点185℃で固液差15℃である。このため、実施例9の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0087】
<実施例10>
実施例10の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、10.5質量%の亜鉛(Zn)と、12.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例10の低融点部材は、固相点が162℃、液相点183℃で固液差21℃である。このため、実施例10の低融点部材は、160℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0088】
<実施例11>
実施例11の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、12.0質量%の亜鉛(Zn)と、8.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例11の低融点部材は、固相点が176℃、液相点188℃で固液差12℃である。このため、実施例11の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0089】
<実施例12>
実施例12の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、12.0質量%の亜鉛(Zn)と、10.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例12の低融点部材は、固相点が170℃、液相点186℃で固液差16℃である。このため、実施例12の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0090】
<実施例13>
実施例13の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、12.0質量%の亜鉛(Zn)と、12.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。実施例13の低融点部材は、固相点が161℃、液相点182℃で固液差21℃である。このため、実施例13の低融点部材は、160℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。
【0091】
<比較例>
比較例の低融点部材は、全体を100質量%としたときに、9.0質量%の亜鉛(Zn)と、3.0質量%のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物としている。比較例の低融点部材は、固相点が191℃、液相点195℃で固液差4℃である。このため、比較例の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備えるが190℃では溶解しない。このため190℃の温度上昇で異常運転とする設定には不適な低融点部材の例である。
【0092】
実施例1〜13の低融点部材は、160℃未満では保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する。そして、実施例1、2、4〜6、8、9、11、12に係る低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ190℃以上では溶解する。中でも実施例4に係る低融点部材は、固液差が最も小さく低融点部材として最適である。他方、比較例の低融点部材は、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備えるが190℃では溶解しない。なお、表1では各実施例および比較例について、低融点部材としての適否を示した。表1におけるZn/Snは亜鉛(Zn)と錫(Sn)との質量比であり、In/Snはインジウム(In)と錫(Sn)との質量比であり、便宜上、不可避不純物は錫(Sn)に含まれているものとしている。
【0093】
低融点部材(実施例1〜13および比較例)について、亜鉛(Zn)とインジウム(In)の含有量の関係をプロットしたグラフを表2に示す。表2ではグラフの横軸を亜鉛の質量%、縦軸をインジウムの質量%として、実施例1〜13および比較例についてプロットされている。グラフにおいてプロットされた点の近傍に表示された2つの数値のうち、左側の数値は固相点を示し、右側の数値は液相点を示す。プロットされた点だけでなくグラフにおいて示す点線領域(Zn:7.5〜12.0質量%、In:6.0〜12.0質量%)内に含まれるような亜鉛(Zn)とインジウム(In)の含有量の関係があれば、160℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解する有効な低融点部材として採用可能である。さらに言うと、破線領域(Zn:7.5〜12.0質量%、In:6.0〜10.0質量%)内に含まれるような亜鉛(Zn)とインジウム(In)の含有量の関係があれば、170℃未満で保形に必要な機械的強度を備え、かつ、190℃以上では溶解するより好ましい低融点部材である。
【0094】
【表2】

【0095】
(第10の実施形態)
図10に示す第10の実施形態は、第1の実施形態において溶解した低融点部材38aを滞留させるための滞留手段をさらに備えたもので、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0096】
第2抽気通路71内における低融点部材38が装着されている位置よりも吸入室8側、すなわち低融点部材38の装着位置より吸入室8寄りに、溶融した低融点部材38aを滞留させるための滞留手段としてのくぼみ部72が設けられている。
くぼみ部72は、第2抽気通路71において下方にくぼんだ形状をしており、図10(a)に示すような断面視凹形状をしている。このくぼみ部72の容積は、溶融した低融点部材38aが全てくぼみ部72に入ってもくぼみ部72からあふれることがない容積となるように設定されている。
そして、くぼみ部72内には低融点部材38を吸収するための吸収手段としての吸収部材73が配置されている。吸収部材73は、溶融した低融点部材38aを吸収し、内部に留める作用を有するものであり、例えば、複数本の細い銅線を編組して管状の編組線を形成したもので構成される。この構成では、編組された細い銅線のまわりに溶融した低融点部材38aが付着し、吸収される。
そして、吸収部材73をくぼみ部72に入る形状となるように成形し(図10では2つ折り)、くぼみ部72に配置している。
【0097】
クランク室7内の温度上昇時に、その温度が低融点部材38の融点以上に達すると、低融点部材38が溶融し、図10(b)に示すように第2抽気通路71を開放する。
したがって、第1抽気通路35及び第2抽気通路71をあわせた抽気通路全体の開度が増大する。クランク室7内の冷媒ガスは比較的高圧状態であるため、第2抽気通路71から積極的に流出し、吸入室8へ流れる冷媒ガスの流量が圧縮機の正常時よりも拡大される。
このため、クランク室7内に貯留したオイルは冷媒ガスに随伴し、吸入室8へ共に流出する。したがって、クランク室7内のオイル量が減少するため、温度上昇が防止され圧縮機は適温状態に維持される。
【0098】
一方、溶融した低融点部材38aは、図10に示すように第2抽気通路71内で底面に広がる。そして、第2抽気通路71内をクランク室7側から吸入室8側へと流れる冷媒ガスの作用によって低融点部材38aもクランク室7側から吸入室8側に向かって第2抽気通路71の底面を流れ移動する。そして、図10(c)に示すように、低融点部材38aがくぼみ部72に到達すると、低融点部材38aの自重によって、くぼみ部72内へと低融点部材38aは落下する。
くぼみ部72の内部には低融点部材38aを吸収するための吸収部材73が配置されているため、くぼみ部72内へと落下した低融点部材38は吸収部材73に吸収される。そして、低融点部材38aは吸収部材73の内部で滞留する。
【0099】
上記第10の実施形態によれば以下の効果を有する。
(1)低融点部材38を装着した位置よりも吸入室8側に低融点部材38を滞留するための滞留手段を設けた。これにより、溶融した低融点部材38aを第2抽気通路71内に滞留させ、低融点部材38は吸入室8へ流出することがない。つまり、圧縮機から外部冷媒回路300に低融点部材38が流出することがない。
(2)低融点部材38の装着した位置よりも吸入室8側に下方にくぼんだくぼみ部72を設けた。これにより、溶融した低融点部材38aは第2抽気通路71をクランク室7側から吸入室8側へと移動し、くぼみ部72に達すると自重でくぼみ部72内に落下して、くぼみ部72内に滞留する。したがって、第2抽気通路71内にくぼみ部72を設けるという簡単な構成で低融点部材38を第2抽気通路71内に滞留させることができる。
(3)くぼみ部72の内部に低融点部材38を吸収するための吸収部材73を配置した。これにより、くぼみ部72内に落下した低融点部材38は直ちに吸収部材73へと吸収される。したがって、低融点部材38は吸収部材73に吸収され、吸収部材73の内部で滞留するので、より確実に低融点部材38を第2抽気通路71内に滞留させることができる。
【0100】
(第11の実施形態)
図11に示す第11の実施形態では、第10の実施形態における低融点部材38を滞留させるための滞留手段を変更したものである。第11の実施形態を同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
図11(a)に示すように第2抽気通路80において、低融点部材38が装着されている位置よりも吸入室8側の位置に、第2抽気通路80を上下に横断するように帯状の滞留手段としての吸収部材81が設けられている。そして、図11(b)に示すように帯状の吸収部材81の両側には、冷媒ガス及びオイルが通り抜けるための開口部82が設けられている。吸収部材81は、第11実施形態と同様に、複数本の細い銅線を編組して管状の編組線を形成したものを、帯状にしたものである。
吸収部材81の取り付けは、弁形成体4に対向しているシリンダブロック1の端部において、第2抽気通路80の上下に切欠き83を設け、吸収部材73の上部と下部をそれぞれ切欠き83においてねじ84によって固定している。
次に作用について説明する。
溶融した低融点部材38は、第2抽気通路80内をクランク室7側から吸入室8側へと流れる冷媒ガスの作用によってクランク室7側から吸入室8側へと第2抽気通路80の底面を移動する。そして、低融点部材38は上下に横断するように設けた吸収部材81に当接し、吸収部材81に吸収される。そして、低融点部材38は吸収部材81の内部で滞留する。
一方、冷媒ガスとオイルは、吸収部材81が横断していても左右両側に設けた開口部から吸入室8へと通過する。
【0101】
上記第11の実施形態によれば以下のような効果を奏する。
(1)低融点部材38の装着した位置よりも吸入室8側に低融点部材38を滞留するための吸収部材81を設けた。これにより、溶融した低融点部材38aは吸収部材81に吸収され、第2抽気通路80内に滞留し、吸入室8へ流出することがない。つまり、圧縮機の外部の300に低融点部材38が流出することがない。
(2)シリンダブロック1に切欠き83を設け、吸収部材81の上部と下部をねじ84で固定する構成とした。これにより、シリンダブロック1に切欠き83を設け、その切欠き83においてねじ84で止めるだけでよいので、簡単に吸収部材81を取り付けることができる。
【0102】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく、本願発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0103】
(1)第1、第2及び第5〜第7の実施形態に示した低融点部材38、42、54、58、62及び66により閉塞される第2抽気通路37、39、52、56、60及び64は1通路に限らず、複数の通路で構成することができる。また、前記複数の第2抽気通路をそれぞれ、異なる融点を有する低融点部材で閉塞した構成とすることにより、温度上昇に応じて抽気通路を順次開放することができ、温度上昇の抑制に必要な冷媒ガスの流通量を必要最小限に抑えることができるとともに吐出容量制御への影響を少なくすることができる。
(2)低融点部材38、42、54、58、62、66及び69は前記各実施形態の形状に限らず、他の種々の形状を採用することができる。
(3)第3及び第4の実施形態におけるスプール弁45は、その摺動方向を図4のように圧縮機の前後方向にした構成に限らず、図4の上下方向や左右方向(図4の紙面に直角な方向)にした構成とすることができる。また、スプール弁45は有底円筒状の構成に限らず、円柱状の構成とすることができる。また、スプール弁45はばね46による一方向の付勢を必ずしも必要とせず、スプール弁45の両側に掛かる静圧及び動圧による圧力バランスによって摺動するように構成することができる。
(4)第10の実施形態では、くぼみ部72に吸収部材73を配設した構成で説明したが、図12に示すように、くぼみ部85のみの構成であってもよい。
(5)第10及び第11の実施形態では、吸収部材73、81は複数本の細い銅線を編組して管状の編組線を形成したものとして説明したが、低融点部材38を吸収することができる材質及び構成であればよく、例えば、銅を焼結した金属を板状に加工したものであっても良い。
(6)第10及び第11の実施形態では、第1の実施形態において溶解した低融点部材38を滞留させるための滞留手段を備えることとしたが、第2、第5〜第8の実施形態に示す低融点部材42、54、58、62、66、69を滞留させるための滞留手段としてもよい。
(7)第11の実施形態では、吸収部材81を上下に横断するように設けたが、第2抽気通路80の断面下部分を覆うように横断させてもよい。この場合、低融点部材38は、第2抽気通路80の断面下部を覆う吸収部材に吸収され、一方、冷媒ガスは第2抽気通路80の断面上部の開口部から吸入室8へ向けて通りぬけることができる。
(8)第11の実施形態では、吸収部材81の固定にねじ84を使用したが、吸収部材81を固定出来ればよく、接着剤などで固定しても良い。
(9)本願発明を実施する可変容量型斜板式圧縮機はクラッチレス式に限らず、クラッチ式を採用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1 シリンダハウジング
2 フロントハウジング
3 リヤハウジング
7 クランク室
8 吸入室
9 吐出室
11、13 ラジアル軸受
14 軸封機構
16 斜板
33 容量制御弁
34 給気通路
35、43、49、68 第1抽気通路
36 絞り通路
37、39、50、52、56、60、64、71、80 第2抽気通路
38、42、54、58、62、66、69 低融点部材
45、51 スプール弁
55 サークリップ
57、65 環状溝
59、67 環状突起
61 ねじ溝
63 ねじ山
70 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に傾斜角度の変更可能に設けられた斜板を収容するクランク室と、前記斜板により往復移動されるピストンを収容するシリンダボアと、前記シリンダボアに吸入弁を介して連通する冷媒ガスの吸入室及び吐出弁を介して連通する冷媒ガスの吐出室とをハウジング内に備え、前記ハウジングの一部に形成された前記クランク室と前記吸入室とを連通する抽気通路及び前記クランク室と前記吐出室とを連通する給気通路を設けた可変容量型斜板式圧縮機において、
前記抽気通路の一部に前記抽気通路が形成されるハウジング材の融点よりも低温で溶融可能な材料からなる低融点部材を装着し、前記低融点部材の融解により前記抽気通路の開度が増大することを特徴とする可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項2】
前記抽気通路を少なくとも2箇所形成し、一方の抽気通路を常時開通し、他方の抽気通路を前記低融点部材の装着により常時閉塞したことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項3】
前記抽気通路を1箇所形成し、前記抽気通路に装着した低融点部材に絞り通路を形成したことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項4】
前記給気通路中に容量制御弁を介在し、前記抽気通路中に前記抽気通路の開度が調整可能なスプール弁を収容するスプール収容孔を介在し、前記スプール弁の一端側が位置する前記スプール収容孔の空間を前記抽気通路に連通にするとともに前記吸入室に連通可能に構成し、前記スプール弁の他端側が位置する前記スプール収容孔の空間を前記容量制御弁より下流の給気通路に連通し、前記スプール弁を前記低融点部材により形成したことを特徴する請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項5】
前記低融点部材により常時閉塞された抽気通路を複数形成し、各抽気通路の低融点部材の融点を異ならせたことを特徴とする請求項2又は請求項4に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項6】
前記低融点部材の装着位置よりも前記吸入室側の抽気通路は、前記低融点部材よりも大径に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項7】
前記低融点部材の装着位置よりも前記吸入室側の抽気通路は、前記低融点部材と同体積である球体の直径よりも大径に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項8】
前記低融点部材の装着位置は前記抽気通路の前記クランク室と接続する位置であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項9】
前記低融点部材は、全体を100質量%としたときに、7.5質量%以上12.0質量%以下の亜鉛(Zn)と、6.0質量%以上12.0質量%以下のインジウム(In)と、を含み、残部が錫(Sn)と不可避不純物とからなることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項10】
前記インジウム(In)は、6.0質量%以上10.0質量%以下であることを特徴とする請求項9に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項11】
溶融した前記低融点部材を前記抽気通路内に滞留させるための滞留手段が、前記抽気通路における前記低融点部材の装着位置よりも吸入室側に設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項12】
前記滞留手段は前記抽気通路に設けられた下方にくぼむくぼみ部であることを特徴とする請求項11に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項13】
前記くぼみ部に前記低融点部材を吸収する吸収部材を配置したことを特徴とする請求項12に記載の可変容量型斜板式圧縮機。
【請求項14】
前記滞留手段は前記低融点部材を吸収する帯状の吸収部材であり、前記吸収部材は前記抽気通路における前記低融点部材の装着位置よりも吸入室側で、前記抽気通路を横断するように設けたことを特徴とする請求項11記載の可変容量型斜板式圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−122572(P2011−122572A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287023(P2009−287023)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】