説明

含フッ素エラストマー組成物およびそれからなるシール材

【課題】本発明は、架橋時間の短い含フッ素エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】テトラフルオロエチレン単位、パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)およびニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を有するモノマー単位(b)を有するパーフルオロエラストマー(A)であって、パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)の含有量の異なる2種以上のパーフルオロエラストマー(A)を含む含フッ素エラストマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパーフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量の異なるパーフルオロエラストマーを用いた含フッ素エラストマー組成物および該組成物からなるシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素エラストマー、特にテトラフルオロエチレン(TFE)単位を中心とするパーフルオロエラストマーは、優れた耐薬品性、耐溶剤性、耐熱性を示すことから、過酷な環境下でのシール材などとして広く使用されている。
【0003】
しかし、技術の進歩に伴い要求される特性はさらに厳しくなり、航空宇宙分野や半導体製造装置分野、化学プラント分野では300℃以上の高温環境下におけるシール性が要求されている。
【0004】
そのため、硬化速度を向上させるために特許文献1では、パーフルオロエラストマーと硬化剤の混合物に有機または無機アンモニウム塩などの硬化促進剤を配合した硬化組成物が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特表2001−504885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、架橋時間の短い含フッ素エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、パーフルオロエラストマーにおいて、パーフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量の低いものを用いた場合、架橋時間が長くなるという問題があることに着目した。
【0008】
すなわち本発明は、テトラフルオロエチレン単位、パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)およびニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を有するモノマー単位(b)を有するパーフルオロエラストマー(A)であって、
パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)の含有量の異なる2種以上のパーフルオロエラストマー(A)を含む含フッ素エラストマー組成物に関する。
【0009】
2種以上のパーフルオロエラストマー(A)におけるいずれか2種のパーフルオロエラストマー(A)のパーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)の含有量の差が5〜25モル%であることが好ましい。
【0010】
モノマー単位(b)がニトリル基含有モノマー単位であることが好ましい。
【0011】
パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)がパーフルオロメチルビニルエーテル単位であることが好ましい。
【0012】
さらに、モノマー単位(b)におけるニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種と架橋反応可能な架橋剤(B)を含むことが好ましい。
【0013】
架橋剤(B)の配合量が、全パーフルオロエラストマー100質量部に対して、0.3〜10.0質量部であることが好ましい。
【0014】
架橋剤(B)が、式(1):
【化1】

(式中、R1は、同じかまたは異なり、−NH2、−NHR2、−OHまたは−SHであり、R2は、1価の有機基である)で示される架橋性反応基を少なくとも2個含む化合物、
式(2):
【0015】
【化2】

で示される化合物、
式(3):
【0016】
【化3】

(式中、Rf1は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基)で示される化合物、および
式(4):
【0017】
【化4】

(式中、nは1〜10の整数)で示される化合物
であることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記の含フッ素エラストマー組成物を用いた半導体製造装置用シール材にも関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、架橋時間の短い架橋ゴム成形品を与える架橋用エラストマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、パーフルオロアルキルビニルエーテル(以下、PAVEともいう)単位(a)の含有量の異なる2種以上のパーフルオロエラストマー(A)を含む含フッ素エラストマー組成物に関する。
【0021】
2種以上のパーフルオロエラストマー(A)におけるいずれか2種のパーフルオロエラストマー(A)のうち、PAVE単位(a)の含有量の差は、架橋物の硬度調整が容易であるという点から5モル%以上が好ましく、8モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。また、PAVE単位(a)の含有量の差は、PAVE単位(a)の含有量の小さい方のパーフルオロエラストマーのガラス転移点を上昇させないという点から25モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。
【0022】
また、2種以上のパーフルオロエラストマー(A)におけるいずれか2種のパーフルオロエラストマー(A)のうち、PAVE単位(a)の含有量のPAVE単位(a)の含有量の大きい方をパーフルオロエラストマー(A1)、PAVE単位(a)の含有量の小さい方をパーフルオロエラストマー(A2)とすると、パーフルオロエラストマー(A1)中のPAVE単位(a)の含有量は、組成物の架橋速度が速いという点からパーフルオロエラストマー(A1)中に、38モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましい。また、パーフルオロエラストマー(A1)中のPAVEの含有量は、ポリマー合成時の重合速度が速いという点からパーフルオロエラストマー(A1)中に、50モル%以下が好ましく、45モル%以下がより好ましく、42モル%以下がさらに好ましい。
【0023】
パーフルオロエラストマー(A2)中のPAVEの含有量は、ガラス転移点が低く、低湿性が良好であるという点からパーフルオロエラストマー(A2)中に、18モル%以上が好ましく、21モル%以上がより好ましく、25モル%以上がさらに好ましい。また、パーフルオロエラストマー(A2)中のPAVEの含有量は、架橋物の硬度を上げて、シール材のシール性を上げる点からパーフルオロエラストマー(A2)中に、35モル%以下が好ましく、32モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。
【0024】
なお、パーフルオロエラストマー(A1)およびパーフルオロエラストマー(A2)以外の第三のパーフルオロエラストマーを混合してもよい。
【0025】
PAVE単位の含有量が低いパーフルオロエラストマーのみを用いれば架橋時間が長くなるのに対し、本発明によれば、前記のようにPAVE単位の含有量の大きいパーフルオロエラストマーと小さいパーフルオロエラストマーの少なくとも2種を組み合わせることにより、架橋時間の短縮化を図ることができる。さらにこのような2種のパーフルオロエラストマーを組み合わせることにより、得られる成形品の硬度調整を簡単に行うことも可能である。
【0026】
この場合のPAVEとしては、たとえばパーフルオロメチルビニルエーテル(以下PMVEともいう)、パーフルオロプロピルビニルエーテルなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。
【0027】
これらのなかで、硬化物の機械強度が優れるという点から、PMVEが好ましい。
【0028】
また、パーフルオロエラストマー(A)は、さらにニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を有するモノマー単位(b)を有することが好ましい。
【0029】
モノマー単位(b)は、架橋エラストマーの架橋性を向上させる点から、パーフルオロエラストマー(A)中に0.1モル%以上であり、0.2モル%以上が好ましく、0.3モル%以上がより好ましい。また、モノマー単位(b)の含有量は、高価であるモノマー単位(b)の使用量を減らせる点から、パーフルオロエラストマー(A)中に2.0モル%以下であり、1.0モル%以下が好ましく、0.5モル%以下がより好ましい。
【0030】
モノマー単位(b)としては、たとえば、式(5):
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X1 (5)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数、X1はニトリル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基)
で表されるような単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、任意に組み合わせて用いることができる。
【0031】
このニトリル基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基が、架橋点として機能することができる。また、架橋反応性に優れる点から、モノマー単位(b)における架橋点がニトリル基であるニトリル基含有モノマーであることが好ましい。
【0032】
モノマー単位(b)の具体例としては、式(6)〜(22):
CY2=CY(CF2n−X2 (6)
(式中、Yは水素原子またはフッ素原子、nは1〜8の整数である)
CF2=CFCF2f2−X2 (7)
(式中、Rf2は−(OCF2n−、−(OCF2n−であり、nは0〜5の整数である)
CF2=CFCF2(OCF(CF3)CF2m
(OCH2CF2CF2nOCH2CF2−X2 (8)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)
CF2=CFCF2(OCH2CF2CF2m
(OCF(CF3)CF2nOCF(CF3)−X2 (9)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))mO(CF2n−X2 (10)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜8の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m−X2 (11)
(式中、mは1〜5の整数)
CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2nCF(−X2)CF3 (12)
(式中、nは1〜4の整数)
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)−X2 (13)
(式中、nは2〜5の整数)
CF2=CFO(CF2n−(C64)−X2 (14)
(式中、nは1〜6の整数)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))nOCF2CF(CF3)−X2 (15)
(式中、nは1〜2の整数)
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)−X2 (16)
(式中、nは0〜5の整数)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X2 (17)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数である)
CH2=CFCF2OCF(CF3)OCF(CF3)−X2 (18)
CH2=CFCF2OCH2CF2−X2 (19)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)mCF2CF(CF3)−X2 (20)
(式中、mは0以上の整数である)
CF2=CFOCF(CF3)CF2O(CF2n−X2 (21)
(式中、nは1以上の整数)
CF2=CFOCF2OCF2CF(CF3)OCF2−X2 (22)
(一般式(6)〜(22)中、X2は、ニトリル基(−CN基)、カルボキシル基(−COOH基)またはアルコキシカルボニル基(−COOR5基、R5は炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基)である)で表される単量体などがあげられる。これらの中で、パーフルオロエラストマー(A)の耐熱性が優れ、また、パーフルオロエラストマーを重合反応により合成する際に、連鎖移動による分子量低下を抑えるために、水素原子を含まないパーフルオロ化合物が好ましい。また、テトラフルオロエチレンとの重合反応性に優れる点からCF2=CFO−構造を持つ化合物が好ましい。
【0033】
かかるパーフルオロエラストマー(A)の具体例としては、特表平9−512569号公報、国際公開00/29479号パンフレット、特開平11−92529号公報などに記載されているものがあげられる。
【0034】
これらのパーフルオロエラストマー(A)は、常法により製造することができる。
【0035】
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、従来からフッ素ゴムの重合に使用されているものであればよく、たとえば、有機および無機の過酸化物ならびにアゾ化合物がある。典型的な開始剤として過硫酸塩類、過酸化カーボネート類、過酸化エステル類などがあり、好ましい開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)があげられる。APSは単独で使用してもよく、またサルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0036】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖、またはフルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が望ましい。乳化剤の使用量は、添加された水の約0.05〜2質量%が好ましく、とくに0.2〜1.5質量%が好ましい。
【0037】
本発明で使用するモノマー混合ガスは、カルブ(G.H.Kalb)ら、アドヴァンシーズ・イン・ケミストリー・シリーズ(Advances in Chemistry Series.),129,13(1973)に記載されるように、爆発性を有するので、重合装置には着火源となるスパークなどが発生しないように工夫する必要がある。
【0038】
重合圧力は、広い範囲で変化させることができる。一般には、0.5〜7MPaの範囲である。重合圧力は、高い程重合速度が大きくなるため、生産性の向上の観点から、0.7MPa以上であることが好ましい。
【0039】
本発明で用いる含フッ素エラストマーにニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基からなる群から選択される少なくとも1つの基を導入する方法としては、前述のように、含フッ素エラストマー製造時に、架橋部位を有する単量体を添加して共重合することにより導入することができるが、その他の方法として、たとえば、重合生成物を酸処理することにより、重合生成物に存在しているカルボン酸の金属塩やアンモニウム塩などの基をカルボキシル基に変換する方法もあげることができる。酸処理法としては、たとえば塩酸、硫酸、硝酸などにより洗浄するか、これらの酸で重合反応後の混合物の系をpH3以下にする方法が適当である。
【0040】
また、ヨウ素や臭素を含有する架橋性エラストマーを発煙硝酸により酸化してカルボキシル基を導入することもできる。
【0041】
本発明の含フッ素エラストマー組成物は、前述した含フッ素エラストマーが有する架橋部位として作用可能な基と架橋反応可能な架橋剤(B)を有することが好ましい。
【0042】
本発明で用いる架橋剤(B)は、オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤、トリアジン架橋剤、アミドキシム系架橋剤、およびアミドラゾン系架橋剤よりなる群から選ばれる1種以上の架橋剤であり、これらの中でも機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐寒性に優れ、特に耐熱性と耐寒性にバランスよく優れた架橋物を与えることができる点から、イミダゾール架橋剤がより好ましい。
【0043】
オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤、トリアジン架橋剤とし
ては、式(1):
【化5】

(式中、R1は、同じかまたは異なり、−NH2、−NHR2、−OHまたは−SHであり、R2は、1価の有機基である)で示される架橋性反応基を少なくとも2個含む化合物、
式(2):
【0044】
【化6】

で示される化合物、
式(3):
【0045】
【化7】

(式中、Rf1は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基)で示される化合物、および
式(4):
【0046】
【化8】

(式中、nは1〜10の整数)で示される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることが、耐熱性の点から好ましい。
【0047】
これらのなかでも、架橋後の形態が、芳香族環により安定化されるために耐熱性が向上する点から、式(1)で示される架橋性反応基を少なくとも2個有する化合物が好ましい。
【0048】
式(1)で示される架橋性反応基を少なくとも2個有する化合物は、式(1)で示される架橋性反応基を2〜3個有することが好ましく、より好ましくは2個有するものである。なお、式(1)で示される架橋性反応基が2個未満であると、架橋することができない。
【0049】
式(1)で示される架橋性反応基における置換基R1に含まれるR2は、水素原子以外の1価の有機基である。N−R2結合は、N−H結合よりも耐酸化性が高いため置換基R1においては−NHR2を用いることが好ましい。
【0050】
1価の有機基としては、限定されるものではないが、脂肪族炭化水素基、フェニル基またはベンジル基があげられる。具体的には、たとえば、R2の少なくとも1つが−CH3、−C25、−C37などの炭素数1〜10、特に1〜6の低級アルキル基;−CF3、−C25、−CH2F、−CH2CF3、−CH225などの炭素数1〜10、特に1〜6のフッ素原子含有低級アルキル基; フェニル基; ベンジル基;−C65、−CH265などのフッ素原子で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基;−C65-n(CF3n、−CH265-n(CF3n(nは1〜5の整数)などの−CF3で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基などがあげられる。
【0051】
これらのうち、耐熱性が特に優れており、架橋反応性が良好であり、さらに合成が比較的容易である点から、フェニル基、−CH3が好ましい。
【0052】
架橋剤(B)としては、式(1)で示される架橋性反応基を2個有する式(23):
【化9】

(式中、R1は前記と同じ、R6は、−SO2−、−O−、−CO−、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基、単結合手、または
【0053】
【化10】

で示される基である)で示される化合物が合成が容易な点から好ましい。
【0054】
炭素数1〜6のアルキレン基の好ましい具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などをあげることができ、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基としては、
【化11】

などがあげられる。なお、これらの化合物は、特公平2−59177号公報、特開平8−120146号公報などで、ビスジアミノフェニル化合物の例示として知られているものである。
【0055】
これらの中でもより好ましい架橋剤(B)としては、式(24):
【化12】

(式中、R7は、同じかまたは異なり、いずれも水素原子、炭素数1〜10のアルキ; フッ素原子を含有する炭素数1〜10のアルキル基;フェニル基;ベンジル基;フッ素原子および/または−CF3で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基である)で示される化合物である。
【0056】
具体例としては、限定的ではないが、たとえば、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−パーフルオロフェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−ベンジルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどがあげられる。これらの中でも、耐熱性が優れている点から、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、が好ましく、耐熱性が、特に優れる点から、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0057】
これらのビスアミドキシム系架橋剤、ビスアミドラゾン系架橋剤、ビスアミノフェノール系架橋剤、ビスアミノチオフェノール系架橋剤またはビスジアミノフェニル系架橋剤などは、含フッ素エラストマーが有するニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基と反応し、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアジン環を形成し、架橋物を与える。
【0058】
架橋剤(B)の配合量は、組成物の架橋性を向上させるという点から、エラストマー100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、0.7質量部以上がさらに好ましい。また、架橋剤(B)の配合量は、エラストマー100質量部に対して、10.0質量部以下が好ましく、2.0質量部以下がより好ましい。
【0059】
本発明においては、前記架橋剤とともに、上記以外の架橋剤を併用することができる。
【0060】
また、本発明の含フッ素エラストマー組成物において、含フッ素エラストマーがニトリル基を有する場合には、テトラフェニルスズ、トリフェニルスズなどの有機スズ化合物を含有させることにより、ニトリル基がトリアジン環を形成し、トリアジン架橋させることもできる点から、該有機スズ化合物を含んでいてもよい。
【0061】
本発明において有機スズ化合物は、含フッ素エラストマー100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましく、1〜5質量部であることがより好ましい。有機スズ化合物が、0.05質量部より少ないと、含フッ素エラストマーが充分架橋されない傾向があり、10質量部を超えると、架橋物の物性を悪化させる傾向がある。
【0062】
本発明の含フッ素エラストマー組成物において、必要に応じて架橋性エラストマー組成物に配合される通常の添加物、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤などを配合することができる。また、前記のものとは異なる常用の架橋剤や架橋促進剤を1種またはそれ以上配合してもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲において、別種のエラストマーを混合して使用してもよい。
【0063】
充填剤としては、有機フィラーがあげられ、耐熱性、耐プラズマ性(プラズマ照射時の低パーティクル性、低重量減少率)の点から有機顔料;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのイミド構造を有するイミド系フィラー;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)などのケトン系エンジニアプラスチックが好ましく、特に有機顔料が好ましい。
【0064】
有機顔料としては、縮合アゾ系顔料、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料などがあげられるが、それらの中でも、耐熱性、耐薬品性に優れ、成形体特性に与える影響が少ない点から、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料が好ましく、キナクリドン系顔料がより好ましい。
【0065】
さらに、本発明の含フッ素架橋性組成物は、一般的な充填剤を含有してもよい。
【0066】
一般的な充填剤としては、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシベンゾエート、ポリテトラフルオロエチレン粉末などのエンジニアリングプラスチック製の有機物フィラー;酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウム、酸化チタンなどの金属酸化物フィラー;炭化ケイ素、炭化アルミニウムなどの金属炭化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物フィラー;フッ化アルミニウム、フッ化カーボン、硫酸バリウム、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルクなどの無機物フィラーがあげられる。
【0067】
これらの中でも、各種プラズマの遮蔽効果の点から、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ケイ素、ポリイミド、フッ化カーボンが好ましい。
【0068】
また、前記無機フィラー、有機フィラーを単独で、または2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0069】
本発明の組成物は、上記の各成分を、通常のゴム用加工機械、たとえば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて混合することにより調製することができる。この他、密閉式混合機を用いる方法やエマルジョン混合から共凝析する方法によっても調製することができる。
【0070】
本発明の含フッ素エラストマーを架橋して得られる架橋物の硬度は、本発明のエラストマー組成物を用いたシール材におけるシール性が良好であるという点から、shoreAで50以上が好ましく、55以上がより好ましく、60以上がさらに好ましい。また、架橋物の硬度は、本発明のエラストマー組成物を用いたシール材におけるシール性が良好であるという点から、95以下が好ましく、90以下がより好ましく、85以下がさらに好ましい。
【0071】
本発明の含フッ素エラストマー組成物を架橋成形して得られる架橋物は、耐薬品性、機械的強度、耐熱性に優れる。また、本発明によれば2種のパーフルオロエラストマーを組み合わせることにより硬度調整を行うことができるため、充填剤を添加せずとも所望の硬度に調整することも可能である。この場合には、硬化物から発生するアウトガス成分が低減されるため、使用環境を汚染の点から、例えば半導体装置の封止用のシール材などとして好適である。シール材としてはO−リング、角−リング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ベアリングシール、リップシールなどがあげられる。
【0072】
なお、本発明でいう半導体製造装置は、特に半導体を製造するための装置に限られるものではなく、広く、液晶パネルやプラズマパネルを製造するための装置など、高度なクリーン度が要求される半導体分野において用いられる製造装置全般を含むものであり、たとえば次のようなものをあげることができる。
【0073】
(1)エッチング装置
ドライエッチング装置
プラズマエッチング装置
反応性イオンエッチング装置
反応性イオンビームエッチング装置
スパッタエッチング装置
イオンビームエッチング装置
ウェットエッチング装置
アッシング装置
(2)洗浄装置
乾式エッチング洗浄装置
UV/O3洗浄装置
イオンビーム洗浄装置
レーザービーム洗浄装置
プラズマ洗浄装置
ガスエッチング洗浄装置
抽出洗浄装置
ソックスレー抽出洗浄装置
高温高圧抽出洗浄装置
マイクロウェーブ抽出洗浄装置
超臨界抽出洗浄装置
(3)露光装置
ステッパー
コータ・デベロッパー
(4)研磨装置
CMP装置
(5)成膜装置
CVD装置
スパッタリング装置
(6)拡散・イオン注入装置
酸化拡散装置
イオン注入装置
【実施例】
【0074】
つぎに本発明を実験例をあげて説明するが、本発明はかかる実験例のみに限定されるものではない。
【0075】
実施例で用いた化合物を以下に示す。
【0076】
架橋剤として、以下に示す化合物(NPh−AF)を用いた。
【0077】
【化13】

【0078】
製造例1(パーフルオロエラストマー1の合成)
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水2.34リットルおよび乳化剤として
【0079】
【化14】

を23.4g、(NH42CO30.21gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、52℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=22/78モル比)を、内圧が0.78MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、CF2=CFO(CF25CN0.82gを窒素で圧入した後、過硫酸アンモニウム(APS)12.3gを水30gに溶解し窒素で圧入して反応を開始した。
【0080】
重合の進行に伴い、槽内圧力が低下するので、圧力が0.78MPa・Gになるように、TFEおよびPMVEを圧入し、重合終了までにTFEを323gおよびPMVE356gを、一定の比率で圧入した。反応途中、CF2=CFO(CF25CN14.67gを17分割して圧入し、固形分濃度21.2質量%の水性分散体2989gを得た。
【0081】
この水性分散体のうち500gを水500gで希釈し、3.5質量%塩酸水溶液2800g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後5分間撹拌した後、凝析物をろ別し、得られたポリマーをさらに2kgのHCFC−141b中にあけ、5分間撹拌し、再びろ別した。この後このHCFC−141bによる洗浄、ろ別の操作をさらに4回繰り返したのち、60℃で72時間真空乾燥させ、110gのポリマー(パーフルオロエラストマー1)を得た。
【0082】
得られたパーフルオロエラストマー1は、表1に示すF−NMRにて分析した各モノマーの単位量となった。
【0083】
製造例2(パーフルオロエラストマー2の合成)
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水2.34リットルおよび乳化剤として
【0084】
【化15】

を23.4g、(NH42CO30.21gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、52℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=41/59モル比)を、内圧が0.78MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、CF2=CFO(CF25CN0.87gを窒素で圧入した後、過硫酸アンモニウム(APS)12.3gを水30gに溶解し窒素で圧入して反応を開始した。
【0085】
重合の進行に伴い、槽内圧力が低下するので、圧力が0.78MPa・Gになるように、TFEおよびPMVEを圧入し、重合終了までにTFEを400gおよびPMVE284gを一定の比率で圧入した。反応途中、CF2=CFO(CF25CN14.72gを17分割して圧入し、固形分濃度22.5質量%の水性分散体3087gを得た。
【0086】
この水性分散体のうち500gを水500gで希釈し、3.5質量%塩酸水溶液2800g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後5分間撹拌した後、凝析物をろ別し、得られたポリマーをさらに2kgのHCFC−141b中にあけ、5分間撹拌し、再びろ別した。この後このHCFC−141bによる洗浄、ろ別の操作をさらに4回繰り返したのち、60℃で72時間真空乾燥させ、110gのポリマー(パーフルオロエラストマー2)を得た。
【0087】
得られたパーフルオロエラストマー2は、表1に示すF−NMRにて分析した各モノマーの単位量となった。
【0088】
【表1】

【0089】
実施例1
製造例1で得られたパーフルオロエラストマー1、製造例2で得られたパーフルオロエラストマー2および架橋剤としてNPh−AFを表2で示す配合量にて混合し、オープンロールにて混練して架橋可能な含フッ素エラストマー組成物を調製した。
【0090】
この含フッ素エラストマー組成物を180℃20分間プレスして架橋を行ったのち、さらに290℃で18時間のオーブン架橋を施し、O−リング(P−24)の被験サンプルを作製した。この被験サンプルの架橋時の架橋性、および常態物性を以下の方法にて測定した。結果を表2に示す。
【0091】
(架橋性)
各架橋用組成物についてJSR型キュラストメーターII型により、180℃にて加硫曲線を求め、最低トルク(ML)、最大トルク(MH)、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を求める。
【0092】
(常態物性)
JIS K6301に準じて厚さ2mmの架橋物の常態(25℃)での100%モジュラス(M100)、引張強度(TB)、伸び(EB)および硬度(Hs)を測定する。
【0093】
比較例1
パーフルオロエラストマーとして実施例1で用いたパーフルオロエラストマー1およびパーフルオロエラストマー2の代わりにパーフルオロエラストマー1のみを用いた以外は、実施例1と同様にして調製し、架橋時の架橋性および常態物性を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0094】
比較例2
パーフルオロエラストマーとして実施例1で用いたパーフルオロエラストマー1およびパーフルオロエラストマー2の代わりにパーフルオロエラストマー2のみを用いた以外は、実施例1と同様にして調製し、架橋時の架橋性および常態物性を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0095】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位、パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)およびニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を有するモノマー単位(b)を有するパーフルオロエラストマー(A)であって、
パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)の含有量の異なる2種以上のパーフルオロエラストマー(A)を含む含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
2種以上のパーフルオロエラストマー(A)におけるいずれか2種のパーフルオロエラストマー(A)のパーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)の含有量の差が5〜25モル%である請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項3】
モノマー単位(b)がニトリル基含有モノマー単位である請求項1または2記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項4】
パーフルオロアルキルビニルエーテル単位(a)がパーフルオロメチルビニルエーテル単位である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項5】
さらに、モノマー単位(b)におけるニトリル基、カルボキシル基およびアルコキシカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種と架橋反応可能な架橋剤(B)を含む請求項1〜4のいずれかに記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項6】
架橋剤(B)の配合量が、全パーフルオロエラストマー100質量部に対して、0.3〜10.0質量部である請求項1〜5のいずれかに記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項7】
架橋剤(B)が、式(1):
【化1】

(式中、R1は、同じかまたは異なり、−NH2、−NHR2、−OHまたは−SHであり、R2は、1価の有機基である)で示される架橋性反応基を少なくとも2個含む化合物、
式(2):
【化2】

で示される化合物、
式(3):
【化3】

(式中、Rf1は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基)で示される化合物、および
式(4):
【化4】

(式中、nは1〜10の整数)で示される化合物
である請求項5または6記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の含フッ素エラストマー組成物を用いた半導体製造装置用シール材。

【公開番号】特開2008−266368(P2008−266368A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107457(P2007−107457)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(505283588)グリーン, ツイード オブ デラウェア, インコーポレイテッド (17)
【Fターム(参考)】