説明

含硫化合物を含有する水溶液

【課題】
ユリ科植物に含有される含硫化合物を高含有する水溶液を提供すること。
【解決手段】
ユリ科植物に含有される含硫化合物を含有する水溶液を提供する。より具体的には、ユリ科植物を水溶液に浸漬し、酸性条件下で抽出することによって得られる。この含硫化合物を含有する水溶液は、ユリ科植物の植物体から含硫化合物が溶液中に効率よく抽出し得るため、例えば、アリシン等のユリ科植物に特有の含硫化合物を高含有し得る。このような水溶液を得るためには、含硫化合物を豊富に含むユリ科アリウム属の植物が好ましく、ニンニクやタマネギを用いることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液へユリ科植物を浸漬し、酸性条件下で抽出して得られる、含硫化合物を含有する水溶液に関する。より詳細には、ユリ科植物はニンニクである。
【背景技術】
【0002】
ユリ科植物、例えば、ニンニクやタマネギは、ビタミンやミネラルの他に含硫化合物が含まれており、様々な保健機能を有することが知られており、健康食品の原料として用いられている。特に、ニンニクやタマネギ等から得られる含硫化合物のアリシンについては、その抽出方法、加工方法について、様々な検討がされている。
【特許文献1】特開2005−089419号公報
【特許文献2】特開2002−186449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、今までの抽出方法では、ユリ科植物から得られる含硫化合物は、熱によって、分解又は揮発しやすい成分であるため、効率よく抽出し、含硫化合物を高含有する溶液を得ることが難しいといった問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、上記課題を鑑み、鋭意検討を行った。その結果、酸性水溶液に非加熱処理のユリ科植物を浸漬することによって、含硫化合物を高含有する溶液が得られることを見出し、本発明に至った。
【0005】
すなわち本発明は、水溶液へユリ科植物を浸漬し、酸性条件下で抽出して得られる、含硫化合物を含有する水溶液に関する。
【0006】
好ましい実施様態は、前記、ユリ科植物が、ニンニクである。
【0007】
より好ましい実施形態は、前記含硫化合物はアリシンである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の含硫化合物を含有する水溶液は、ユリ科植物を水溶液に浸漬し、酸性条件下で抽出することによって得られ、含硫化合物、例えば、アリシンを高含有する溶液を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の水溶液へユリ科植物を浸漬し、酸性条件下で抽出して得られる、含硫化合物を含有する水溶液における実施形態について説明する。なお、本発明は、下記の実施形態で制限されない。つまり、特許請求の範囲に記載されている内容の範囲内において、本発明は変更が可能である。
【0010】
(ユリ科植物)
本発明に用いるユリ科植物とは、ネギ、タマネギ、ニンニク、ニラ、ユリ根等が挙げられ、ユリ科植物に属するものであれば特に限定はないが、好ましくは、含硫化合物を豊富に含むユリ科アリウム属の植物が好ましく、より好ましくは、ニンニク、タマネギである。
【0011】
本発明の含硫化合物とは、ユリ科植物に含有される含硫有機化合物であり、例えば、タマネギやニンニクに含まれるアリイン、イソアリイン、サイクロアリイン、アリシン、プロペニルスルフェン酸等が挙げられる。特に本発明においては、揮発性を有する含硫化合物、例えば、アリシンやプロペニルスルフェン酸等を効率よくユリ科植物の植物体から抽出することができる。
【0012】
本発明の水溶液に浸漬するユリ科植物は、そのままでもよく、加工して得られた加工物であってもよい。加工物としては、乾燥して得られた乾燥物、破砕して得られた破砕物等を用いることができ、特に制限はないが、好ましくは、ユリ科植物をそのまま乾燥せずに破砕して得られる破砕物を用いることが好ましい。
【0013】
破砕は、当業者が通常用いる方法で破砕すればよく、マスコロイダーやホモジェナイザー、クラッシャー、スライサーなどを用いることができる。破砕の大きさについても特に制限ないが、好ましくは、破砕物の短辺が10cm以下、好ましくは、1cm以下、より好ましくは、0.01cm〜1cmとなるように破砕することが好ましい。
【0014】
また、本発明に用いるユリ科植物の加工物としては、炒める、乾熱処理、湿熱処理等の加熱処理を行わずに用いることが好ましい。加熱処理を行うと、ユリ科植物に含まれる含硫化合物が揮発又は分解してしまうためである。なお、酸性水溶液に浸漬する前に加熱処理を行い、加熱処理物とする必要がある場合(例えば、アリインやイソアリインを含有する溶液を得る場合等)は、ユリ科植物を破砕する前に行うことで、含硫化合物の分解または揮発を最小限に抑えることが可能である。
【0015】
なお本発明の「ユリ科植物」には、上述のユリ科植物の加工物、すなわち、乾燥物や破砕物、加熱処理を施した加熱処理物等も包含するものとする。
【0016】
(含硫化合物を含有する水溶液)
本発明の含硫化合物を含有する水溶液は、上述のユリ科植物を水溶液に浸漬して、酸性条件下で抽出することによって得られる。
【0017】
本発明の水溶液としては、水や含水アルコール、アルコール以外にも予め酸性の溶液となっているレモンやオレンジなどの柑橘類果汁や梅の搾汁、酢等を用いても良い。特に酢としては、糖化・アルコール発酵・酢酸発酵を陶器製の壺等の同一容器で連続的に行う静置発酵法によって得られる栄養価に富んだ黒酢を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の酸性条件とは、水溶液へユリ科植物を浸漬した後のpHが6.5未満となれば特に制限はないが、好ましくは、pH6.0以下、より好ましくはpH5.0以下、最も好ましくは、pH4.0以下となるように調製されていることが好ましい。例えば、予め水溶液を酸性条件に調整しておき、ユリ科植物を浸漬してもよいし、ユリ科植物を水溶液へ浸漬した後に、酸性条件に調製しても良い。酸性条件に調製する調整方法については特に制限はなく、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸や、塩酸、硫酸を水へ添加して調製したり、酸性電解水を用いてもよい。
【0019】
このようにして、ユリ科植物を酸性条件の溶液中に浸漬することで、ユリ科植物に含有される含硫化合物が植物体から溶液中に効率よく抽出される。抽出する時間、すなわち、酸性条件下で浸漬する時間は特に制限はないが、含硫化合物が溶液中に充分溶解する時間であればよく、その下限値は好ましくは0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは6時間以上である。また、浸漬する時間の上限値についても、酸性溶液自身が腐食しなければ特に制限はないが、好ましくは6ヶ月以内、より好ましくは3ヶ月以内、さらに好ましくは1ヶ月以内、最も好ましくは2週間以内である。
【0020】
また、水溶液とユリ科植物との配合比率は特に制限はないが、水溶液100質量部に対し、ユリ科植物を乾燥せずに用いる場合は、0.001〜60質量部、好ましくは0.01〜50質量部となるようにすればよい。また、ユリ科植物を乾燥させた乾燥物を用いる場合は、0.0001〜30質量部、好ましくは0.001〜25質量部となるようにすればよい。
【0021】
さらに、浸漬中の温度についても、水溶液が液状を有していれば特に制限はないが、溶液中の酸(例えば酢酸など)や含硫化合物が揮発しない程度の温度であれば良い。このような温度としては、例えば0℃〜80℃、好ましくは0℃〜60℃、より好ましくは0℃〜50℃である。
【0022】
このようにして、ユリ科植物中の含硫化合物が抽出された、含硫化合物を含有する水溶液を得ることができる。得られた含硫化合物を含有する水溶液は、このまま食品や医薬品等の原料として用いても良いが、必要に応じて遠心分離またはろ過を行い、溶液部分を回収して用いても良い。また、濃縮して濃縮物やペーストとしたり、乾燥粉末としたりして利用しても良い。
【0023】
本発明の含硫化合物を含有する水溶液は、ユリ科植物由来の含硫化合物を効率よく抽出しており、溶液中に含硫化合物を高含有する。この含有量は、酸性条件下の代わりに中性付近の条件下(例えば、pH6.8〜pH7.5)で抽出した場合よりも含有量が高く、中性条件下で抽出した場合に比べ2倍以上、好ましくは2.5倍以上の濃度を有する。
【0024】
また、本発明の含硫化合物を含有する水溶液は、溶液中の含硫化合物を安定化し、例えば、溶液を減圧濃縮や加熱による濃縮を行って濃縮物としたとしても、濃縮による含硫化合物の損失が少なく、濃縮物中に残存するため、含硫化合物を含有する濃縮物、乾燥粉末とすることも可能である。よって、含硫化合物を濃縮した濃縮液を得ることが可能なだけでなく、殺菌が必要な場合は、ろ過殺菌以外にも加熱を必要とする気流式殺菌、高圧殺菌、加熱殺菌などを行うことができ、例えば、60℃〜95℃、好ましくは65℃〜85℃で3分〜60分間で行うことができる。もちろん、乾燥して粉末とすることも可能である。
【0025】
本発明の含硫化合物を含有する水溶液は必要に応じて、他の食品原料や動植物の抽出物と混ぜることも可能であり、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール類、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、カラギーナン、アラビアガム、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、ペクチン、デキストリン、澱粉等他の増粘剤、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料の他に香料やビタミン、ミネラル、アミノ酸等、用途に応じて添加することが可能である。
【0026】
また、本発明の含硫化合物を含有する水溶液は、そのまま飲料として利用したり、さらにソフトカプセルなどに封入したり、ゲル化剤や増粘剤を用いてゲルやペーストとすることも可能である。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明がこの実施例により制限されないことはいうまでもない。
【0028】
(試料の調整)
生のニンニクをすりつぶして、ペースト状にした10.0gの破砕物を調製し、以下の実施例に供した。
【0029】
(実施例1)
市販の黒酢(福山酢醸造株式会社)40mLに破砕物を0.2gを浸漬した。浸漬後のpHを測定したところ、3.3であった。そして、20℃で1週間静置した後に遠心分離を行い、上清を回収して水溶液Aを得た。得られた水溶液Aを以下の条件にてアリシン含有量をHPLCにて測定した。なお、標準物質は45μgのアリシン(和光純薬工業株式会社製)を10mLのメタノールに溶解した溶液を用いた。結果を表1に示す。
【0030】
(HPLC条件)
カラム:Eclipse XDB−C18
(4.6mm×150mm、Zorbax社)
移動相:25容量%アセトニトリル水溶液
流速 :0.7mL/分
検出波長:210nm
カラム温度:40℃
【0031】
(実施例2)
精製水40mLに破砕物を0.2g浸漬した後に、酢酸を用いてpHを3.3に調製した後に、20℃で1週間静置した。次いで、実施例1と同様にして上清を回収し、水溶液Bを得、アリシン含有量を測定した。結果を表1に合わせて示す。
【0032】
(実施例3)
実施例2の酢酸の代わりにクエン酸を用いたこと以外は、実施例2と同様にして水溶液Cを得、アリシン含有量を測定した。結果を表1に合わせて示す。
【0033】
(実施例4)
実施例2の酢酸の代わりに塩酸を用いたこと以外は、実施例2と同様にして水溶液Dを得、アリシン含有量を測定した。結果を表1に合わせて示す。
【0034】
(比較例1)
実施例2の酢酸を用いなかったこと以外は、実施例2と同様にして水溶液Eを得、アリシン含有量を測定した。なお、水溶液に浸漬した後のpHは6.8であった。結果を表1に合わせて示す。
【0035】
(比較例2)
精製水40mLに破砕物を0.2g浸漬した後に、100℃で加熱還流を30分行った。なお、水溶液に浸漬した後のpHは7.1であった。次いで、遠心分離で上清を回収し、水溶液Fを得、実施例1と同様にしてHPLCにてアリシン含有量を測定した。結果を表1に合わせて示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果から、酸性条件下で抽出した実施例1〜4で得られた水溶液A〜Dは、比較例1、2で得られた水溶液E、Fに比べ、水溶液中のアリシン含有量が約2.5倍以上高い含有量であることが分かる。すなわち、本発明のユリ科植物を水溶液に浸漬し、酸性条件下で抽出することによって得られた含硫化合物を含有する水溶液は、含硫化合物を高含有する溶液であることが分かった。
【0038】
(実施例5)
実施例1で得られた水溶液A10mL(アリシンを6.9μg含有)を50℃で1mLとなるまで減圧濃縮して濃縮液を得た。この濃縮液中のアリシン含有量を実施例1と同様の方法でHPLCにて測定したところ、5.5μg/mLであり、1mLの濃縮液中に5.5μgのアリシンが含有されることが分かった。すなわち、濃縮前のアリシン量に対し、約80質量%が残存していることが分かった。
【0039】
なお、比較例2にて得られた水溶液Fを実施例5と同様にして濃縮して濃縮後アリシン量を測定したところ、濃縮前のアリシン量に対し、約20%しか残存していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、ユリ科植物を水溶液に浸漬し、酸性条件下で抽出することによって得られる含硫化合物を含有する水溶液は、含硫化合物、例えば、アリシンを高含有し得るため有用である。このような水溶液を得るためには、ユリ科アリウム属の植物が好ましく、ニンニクやタマネギを用いることがより好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液へユリ科植物を浸漬し、酸性条件下で抽出して得られる、含硫化合物を含有する水溶液。
【請求項2】
前記、ユリ科植物が、ニンニクである、請求項1に記載の含硫化合物を含有する水溶液。
【請求項3】
前記含硫化合物はアリシンである、請求項1または2の何れかに記載の含硫化合物を含有する水溶液。

【公開番号】特開2006−290852(P2006−290852A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117687(P2005−117687)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】