説明

吸着装置の製造方法

【課題】グラディエント力と真空吸着力の両方が大きい吸着装置を提供する。
【解決手段】基体21上に絶縁性の下地膜22を形成し、下地膜22上に第一、第二の電極23a、23bを形成する。第一、第二の電極23a、23b間の下地膜22を表面側から途中まで除去し、吸着溝26を形成する。第一、第二の電極23a、23bや、その表面の保護膜24の膜厚が薄くても、吸着溝26の深さを深くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着装置とそれを用いた真空処理装置にかかり、特に、絶縁性の基板を吸着できる吸着装置と、その吸着装置を用いた真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真空装置内で基板を保持するために吸着装置が使用されている。導電性の基板(半導体基板など)を保持する場合は保持対象物との間にコンデンサを形成し、その静電容量で保持することができる。
【0003】
しかし、液晶表示装置の基板ような絶縁性基板(ガラス基板など)の場合はコンデンサを形成できないため、絶縁性基板を電極が形成する不均一電界中に置き、グラディエント力(gradient力)によって保持している(特開2001−35907)。
静電吸着力を用いた吸着装置は既に大型基板の液晶表示装置の生産に用いられており、液晶滴下貼り合せ装置の中の重要な構成となっている(特開2002−229044の図8)。
【0004】
実際の装置では、先ず、大気中で真空吸着によってガラス基板を吸着保持し、真空槽内に搬入した後、真空槽内を真空雰囲気にするまでに、ガラス基板の保持力を真空吸着力から静電気力又はグラディエント力に切換える必要がある。従って、一台の吸着装置で二種類の吸着力を発生させる必要がある。
最近は液晶表示装置等の表示装置が増々大型化し、大型ガラス基板の保持するための強い保持力が要求されている。
【0005】
図9の符号111は、従来技術の吸着装置を示している。符号111aは、内部構造を説明するための平面図、符号111b、111cは、それぞれF−F線、G−G線切断断面図である。
この吸着装置111は、絶縁性の基板121上に第一、第二の電極123a、123bが配置されている。
【0006】
第一、第二の電極123a、123bは、所定間隔で離間されており、吸着装置111には、第一、第二の電極123a、123bの表面と、その間に位置する絶縁性の基板121の表面とを覆う絶縁性の保護膜124が形成されている。
保護膜124には、有底の溝から成る吸着溝126が形成されている。
吸着溝126の一部底面には、基板121の裏面まで貫通する排気孔127が形成されている。
【0007】
排気孔127を真空排気系に接続し、吸着装置111の第一、第二の電極123a、123bが形成された面を鉛直下方に向けそれら表面の保護膜124をガラス基板等の吸着対象物に密着させる。そして、排気孔127から吸着溝126内の大気を真空排気すると、吸着対象物は吸着装置111の表面に真空吸着され、真空吸着力によって保持される。
【0008】
第一、第二の電極123a、123b間に電圧を印加すると、吸着対象物は第一、第二の電極123a、123b間に形成される電界の中に置かれ、グラディエント力によって吸着装置111に吸着される。
【0009】
次に、真空槽内を真空排気すると真空吸着力は消滅し、吸着対象物はグラディエント力によって保持された状態になる。
グラディエント力を発生させる場合、吸着対象のガラス基板と電極の間の距離は短い程有利であるが、吸着溝126のパターンと第一、第二の電極123a、123bのパターンとは、相互に独立に設計されていたため、吸着溝126と第一、第二の電極123a、123bとが交差していた。
【0010】
図10(a)は吸着溝126のパターン、同図(b)は第一、第二の電極123a、123bのパターンである。
吸着溝126の深さは深い方が真空吸着力は強くなるが、そのために保護膜124の膜厚を厚くするとグラディエント力が弱くなってしまう。
【0011】
第一、第二の電極123a、123bには高電圧が印加されるため、絶縁性の保護膜124で覆っておく必要があるが、第一、第二の電極123a、123bが吸着溝126の底面に露出せず、第一、第二の電極123a、123b上の保護膜124の膜厚T12が確保されるためには、吸着溝126の深さD11は、第一、第二の電極123a、123b上の保護膜124の膜厚T11よりも十分浅くする必要がある。
【0012】
吸着溝126の深さは最低でも30μmが必要であるが、充分な真空吸着力を得るには、100〜150μmの深さが望ましいのに対し、グラディエント力を強くするため、保護膜124の膜厚を300μm以下にすると、吸着溝126の深さは50μm程度になり、真空吸着力が弱くなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−35907号公報
【特許文献2】特開2002−229044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために創作されたものであり、絶縁性の基板に対するグラディエント力と真空吸着力を大きくできる吸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、表面が絶縁性を有する基板と、前記基板の平坦な表面上に配置された導電性材料と、前記導電性材料で構成され、互いに異なる電圧が印加される第一、第二の電極と、前記第一、第二の電極表面を被覆する絶縁性の保護膜と、前記第一、第二の電極間に位置する吸着溝と、前記吸着溝に接続され、前記吸着溝を真空排気系に接続する排気孔とを有し、前記保護膜上に吸着対象物を配置し、前記排気孔から前記吸着溝内の気体を真空排気すると前記吸着対象物は真空吸着力によって前記保護膜上に吸着され、前記第一、第二の電極間に電圧を印加するとグラディエント力によって前記吸着対象物は前記保護膜上に吸着されるように構成された吸着装置であって、前記吸着溝の底面は、前記第一、第二の電極の底面よりも低く、前記基板の内部に位置するように構成された吸着装置である。
また、本発明は、基板と、前記基板の平坦な表面上に配置された導電性材料と、前記導電性材料で構成され、互いに異なる電圧が印加される第一、第二の電極と、前記第一、第二の電極表面を被覆する絶縁性の保護膜と、前記第一、第二の電極間に位置する吸着溝と、前記吸着溝に接続され、前記吸着溝を真空排気系に接続する排気孔とを有し、前記保護膜上に吸着対象物を配置し、前記排気孔から前記吸着溝内の気体を真空排気すると前記吸着対象物は真空吸着力によって前記保護膜上に吸着され、前記第一、第二の電極間に電圧を印加するとグラディエント力によって前記吸着対象物は前記保護膜上に吸着されるように構成された吸着装置であって、前記基板は金属製の基板本体と、前記基板本体の表面に形成された絶縁性の下地膜とを有し、前記第一、第二の電極は前記下地膜に密着配置され、
前記吸着溝の底部には、前記下地膜が露出された吸着装置である。
また、本発明は、前記吸着溝の底部は前記下地膜表面よりも低く、前記吸着溝の下部は前記基板の内部に位置するように構成された吸着装置である。
また、本発明は、前記吸着溝は前記導電性材料で囲まれた吸着装置である。
また、本発明は、前記吸着溝は前記第一又は前記第二の電極で囲まれた吸着装置である。
また、本発明は、上記いずれかの吸着装置を製造する製造方法であって、表面が絶縁性を有する基板の表面に前記導電性材料の膜を形成する工程と、前記導電性材料の膜をパターニングして前記第一、第二の電極を形成する工程と、前記第一、第二の電極膜の表面に前記保護膜を形成する工程と、前記保護膜と前記基板とをパターニングし、前記第一、第二の導電膜の間の位置に、底部が前記基板の表面よりも低い吸着溝を形成し、前記吸着溝の下部を前記基板の内部に位置させる吸着装置の製造方法である。
また、本発明は、基板と、前記基板表面に形成された表面が平坦な絶縁性の下地膜と、前記下地膜上の表面に配置された導電性材料と、前記導電性材料で構成され、互いに異なる電圧が印加される第一、第二の電極と、前記第一、第二の電極表面を被覆する絶縁性の保護膜と、前記第一、第二の電極間に位置する吸着溝と、前記吸着溝に接続され、前記吸着溝を真空排気系に接続する排気孔とを有し、前記保護膜上に絶縁性の吸着対象物を配置し、前記排気孔から前記吸着溝内の気体を真空排気すると前記吸着対象物は真空吸着力によって前記保護膜上に吸着され、前記第一、第二の電極間に電圧を印加するとグラディエント力によって真空雰囲気中の前記吸着対象物は前記保護膜上に吸着されるように構成された吸着装置を製造する吸着装置の製造方法であって、前記基板上に前記下地膜を形成し、前記下地膜の表面に前記導電性材料の膜を形成し、前記導電性材料の前記膜をパターニングして前記第一、第二の電極を形成し、前記第一、第二の電極の表面に前記保護膜を形成し、前記保護膜の一部を厚み方向全部エッチングして前記下地膜を露出させた後、前記下地膜を厚み方向にエッチングし、前記第一、第二の電極の間の位置に、底面が前記下地膜の表面よりも下方に位置する前記吸着溝を形成する吸着装置の製造方法である。
また、本発明は、前記第一、第二の電極の表面に前記保護膜を形成する工程では、前記保護膜の厚みを100μm以下にする吸着装置の製造方法である。
また、本発明は、底面が前記下地膜の表面よりも下方に位置する前記吸着溝を形成する工程では、前記吸着溝の深さを50μm以上にする吸着装置の製造方法である。
また、本発明は、前記第一又は第二の電極のうち、いずれか一方によって前記吸着溝を取り囲む吸着装置の製造方法である。
また、本発明は、前記導電性材料の前記膜をパターニングするときに、第一、第二の電極と前記吸着溝とを取り囲む第三の電極を、前記導電性材料によって、前記第一、第二の電極とは非接触で形成する吸着装置の製造方法である。
【0016】
本発明は、真空槽と、上記いずれかの吸着装置を有し、前記吸着装置は、前記真空槽内に出入り可能に構成されたハンドラーから前記吸着対象物を受け取る真空処理装置である。
【発明の効果】
【0017】
真空吸着力とグラディエント力の両方が強い吸着装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一例の吸着装置
【図2】本発明の第二例の吸着装置
【図3】本発明の第三例の吸着装置
【図4】(a)〜(g):本発明の吸着装置の製造工程を説明するための図
【図5】下地膜をエッチングしない吸着装置の例
【図6】(a)、(b):吸着溝の底面に保護膜を残す場合の工程を説明するための図
【図7】本発明の吸着装置を用いた真空処理装置を説明するための図(1)
【図8】本発明の吸着装置を用いた真空処理装置を説明するための図(2)
【図9】従来技術の吸着装置
【図10】(a):その吸着溝のパターン (b):その電極パターン
【発明を実施するための形態】
【0019】
図7の符号10は、本発明の真空処理装置を示している。
この真空処理装置10は、真空槽41と、本発明の第一例の吸着装置1(又は後述する他の例の吸着装置2、3)を有している。
【0020】
真空槽41の外部には、高真空排気系42と低真空排気系43が設けられている。真空槽41は、バルブ45を介して高真空排気系42に接続されており、高真空排気系42を動作させてバルブ45を開状態にすると、真空槽41の内部を高真空雰囲気まで真空排気できるように構成されている。
【0021】
吸着装置1は切替器44を介して高真空排気系42と低真空排気系43に接続されている。切替器44内には三方弁が設けられており、三方弁を切換えることで、真空槽41は高真空排気系42と低真空排気系43のいずれか一方に接続されるように構成されている。
【0022】
吸着装置1の構造を図1に示す。同図符号1aは内部構造を説明するための平面図、符号1b、1cは、それぞれそのA−A線、B−B線切断断面図である。
この吸着装置1は、板状の基板20を有している。
基板20は、金属製の板から成る基体21と、該基体21の表面に形成された絶縁性の下地膜22とで構成されており、基板20の表面が絶縁性を有するようにされている。
【0023】
基板20の表面には、パターニングされた導電性材料膜から成る第一〜第三の電極23a、23b、23cが配置されている。第一〜第三の電極23a〜23cの底面は、下地膜22の表面に密着されている。
【0024】
第一〜第三の電極23a〜23cは、電気導電性を有する導電性材料の膜を塗布して形成したり、スパッタリンや蒸着法で形成した後、エッチング等でパターニングして構成することができる。また、スクリーン印刷によって直接パターニングした導電性材料膜を塗布し、第一〜第三の電極23a〜23cを構成させることもできる。
【0025】
第一〜第三の電極23a〜23cは互いに所定間隔を開けて配置されており、その間には基板20の表面(ここでは下地膜22)が位置している。
前記第一〜第三の電極23a〜23cの間隔は2mm以下であり、第一〜第三の電極23a〜23cの幅は4mm以下である。
【0026】
第一、第二の電極23a、23bは例えば櫛の歯状であり、互いにかみ合うように配置されている。第三の電極23cはリング状であり、第一、第二の電極23a、23bとは非接触で、第一、第二の電極23a、23bを取り囲んでいる。
【0027】
第一〜第三の電極23a〜23cの表面には、絶縁性の保護膜24が形成されており、第一〜第三の電極23a〜23cの間には吸着溝26が配置されている。
吸着溝26は、基板20の表面の、第一〜第三の電極23a〜23cの間に位置する部分を一部除去することで形成されており、吸着溝26の底面は下地膜22の内部に位置している。
【0028】
即ち、吸着溝26の底面は、第一〜第三の電極23a〜23cの底面よりも低くされており、従って、下地膜22を厚く形成し、吸着溝26の底面を深くすることで、第一〜第三の電極23a〜23cや保護膜24を薄くしても、50μm以上の深さの吸着溝26が得られる。
【0029】
吸着溝26の一部は、第一、第二の電極23a、23b間の最短距離よりも幅広に形成されており、幅広に形成された部分の底面には、基板20の裏面まで貫通する排気孔27が設けられている。
この排気孔27は、基板20の裏面部分で配管に接続されており、その配管によって上述の切替器44に接続されている。
【0030】
図7の符号15は、ガラス基板等の絶縁性の吸着対象物であり、吸着の手順を説明すると、先ず、保護膜24が鉛直下方を向くようにして吸着装置1を真空槽41内に配置し、吸着対象物をハンドラー19上に乗せて真空吸着して移動させ、真空槽41内に搬入し、吸着装置1の下方で静止させる。
そしてハンドラ19を上昇させ、吸着対象物15を吸着装置1に近づけ、吸着装置1に接触させる。
【0031】
第一〜第三の電極23a〜23c上の保護膜24の高さは互いに等しくなっており、吸着装置1の第一〜第三の電極23a〜23c上の保護膜24は、吸着対象物15の表面に同時に接触する。
【0032】
吸着溝26の周囲は第三の電極23cで取り囲まれており、吸着対象物15が吸着装置1に密着した状態では、吸着溝26は吸着対象物15によって蓋がされた状態になり、吸着溝26の内部は吸着装置1の周囲の雰囲気から遮断される。
【0033】
切替器44によって吸着装置1を低真空排気系43に接続しておき、吸着対象物15と吸着装置1が密着した状態で低真空排気系43によって吸着溝26の内部を真空排気すると、吸着溝26の内部の気体が真空排気され、数分の一気圧に減圧される。
【0034】
吸着対象物15及び吸着装置1の周囲雰囲気は大気圧であり、吸着溝26の内部との差圧により、吸着対象物15は吸着装置1に真空吸着される。
ハンドラ19の真空吸着を解除して降下させると、吸着装置1の真空吸着力によって、吸着対象物15は吸着装置1に保持される(図8)。
【0035】
基板20には裏面又は側面から不図示の配線が挿通されており、第一〜第三の電極23a〜23cは、その配線を介して電源装置48に接続されている。
真空槽41は接地電位に接続されており、電源装置48を動作させ、第一、第二の電極23a、23bに電圧を印加する。
【0036】
第一、第二の電極23a、23bには、互いに逆極性の電圧を印加する。即ち、第一の電極23aに正電圧を印加する場合には第二の電極23bには負電圧、逆に第一の電極23aに負電圧を印加する場合には第二の電極23bには正電圧を印加する。
第三の電極23cは、第一の電極23a又は第二の電極23bのいずれか一方と短絡されており、第一又は第二の電極23a、23bと同じ電圧が印加される。
【0037】
第一、第二の電極23a、23b間に電圧が印加されると、その間に形成される電界によってグラディエント力が発生する。絶縁性の吸着対象物15には、真空吸着力に加えてグラディエント力も加わる。
【0038】
ここで形成されたグラディエント力は単独でも吸着対象物15を保持可能な大きさであり、吸着対象物15にグラディエント力が印加された後、真空槽41を高真空排気系42に接続し、高真空排気系42によって真空槽41内を真空排気する。
【0039】
高真空排気系42によって真空槽41内が真空排気され、圧力が低下すると、吸着溝26の内部と吸着装置1の周囲との間の差圧が小さくなり、吸着装置1の真空吸着力は消滅する。
【0040】
真空排気により、真空槽41の内部の圧力が吸着溝26の内部の圧力よりも低くなった場合は、吸着溝26内の残留気体により、吸着力ではなく、吸着対象物15を吸着装置1から離間させる反発力が発生してしまう。
【0041】
本発明では、真空槽41の内部を高真空排気系42によって真空排気する際、切替器44によって、吸着装置1の接続を低真空排気系43から高真空排気系42に切り換え、吸着溝26内を真空槽41内と共に高真空排気系42によって真空排気する。この場合、低真空排気系43によるよりも吸着溝26の内部を低圧力まで真空排気でき、真空槽41と吸着溝26の内部を同じ高真空排気系42によって一緒に真空排気するので、大きな反発力は発生せず、グラディエント力によって吸着対象物15は吸着装置1に保持された状態が維持される。
【0042】
真空処理装置10がスパッタ装置や蒸着装置の場合、真空槽41内にターゲットや蒸着源が配置されており、吸着対象物15は吸着装置1に保持された状態で薄膜が形成される。
【0043】
真空処理装置10がパネル封止装置である場合、吸着装置1に保持された吸着対象物15は、真空槽41内に配置された他の基板と位置合わせされ、貼り合わされる。
【0044】
以上説明したように、本発明の吸着装置1では、第一〜第三の電極23a〜23cや、その上の保護膜24を薄くした場合であっても、下地膜22を厚くし、吸着溝26の、下地膜22の表面よりも下の部分を深くすることで、吸着溝26を50μm以上に深くすることができる。通常は100μm〜150μmである。
【0045】
吸着溝26を深くすることによって強い真空吸着力が発現され、また、高真空排気系42によって吸着溝26の内部の残留気体が真空排気され易くなり、反発力が生じにくくなる。
他方、保護膜24を薄くするとグラディエント力は強くなるので、真空吸着力とグラディエント力の両方が強い吸着装置1が得られる。
【0046】
また、第三の電極23cによって吸着溝26が囲まれているので、吸着溝26が外部雰囲気と遮断され、吸着溝26内に外部雰囲気から気体が侵入しない。この場合、第一、第二の電極23a、23b上の保護膜24の表面高さは、第三の電極23c上の保護膜24の表面高さよりも低くしてもよい。
第一、第二の電極23a、23b間の電界強度は絶縁破壊が起こらない範囲で大きい方がよく、3×106V/m以上の強度の電場を形成することが望ましい。
保護膜24については、厚い方が寿命が長くなるがグラディエント力は弱くなってしまうため、100μm以下の厚みが好ましい。
【0047】
次に、本発明の他の例について説明する。
下記第二例及び第三例の吸着装置2、3については、第一例の吸着装置1と同じ部材には同じ符号を付して説明を省略する。
【0048】
第一例の吸着装置1では、第一、第二の電極23a、23bとは離間した第三の電極23cを有しており、吸着溝26は第三の電極23cによって囲まれていた。
【0049】
図2の第二例の吸着装置2では、第三の電極は設けられておらず、吸着溝26は第一又は第二の電極(この吸着装置12では第二の電極23b)で囲まれている。
図2の符号2aは、第二例の吸着装置2の内部構造を説明するための平面図、同図符号2b、2cは、C−C線、D−D線切断断面図である。
【0050】
上記第一、第二例の吸着装置1、2は、吸着対象物15で蓋をされた状態では吸着溝26の内部は外部雰囲気から分離されていたが、真空吸着力が低下しなければ外部雰囲気と接続されていてもよい。
【0051】
図3の第三例の吸着装置3では、吸着溝26が電極で囲まれておらず、吸着溝26の周囲は、第一、第二の電極23a、23bが位置する部分よりも、第一、第二の電極23a、23bの膜厚分だけ薄くなっている。
【0052】
しかし、スパッタ法や蒸着法によって形成した金属薄膜をパターニングして第一、第二の電極23a、23bを形成すれば、その膜厚は非常に薄くできる。例えば1μm以下にできる。従って、この吸着装置3上に吸着対象物15を配置して吸着溝26の内部を真空排気したときに、吸着溝26の周囲から吸着溝26内に流入する気体は僅かであり、真空吸着力は低下しない。
【0053】
第三例の吸着装置3では、吸着溝26を取り囲む領域の高さが第1、第2の電極23a、23bが位置する部分の高さよりも低くなっていたが、第一、第二の電極23a、23bの内側だけ溝を形成すれば、第一、第二の電極23a、23bで挟まれた領域の端部28が吸着溝26の端部となり、周囲ではなく、この端部28だけから気体が流入するため、流入量は一層少くなる。
排気孔27は、気体が流入する領域からできるだけ遠い位置に設け、気体流入のコンダクタンスを小さくしておくとよい。
【0054】
次に、本発明の吸着装置1〜3の製造工程の一例について説明する。
図4(a)に示すように、先ず、金属製の板から成る基体21上に絶縁性の下地膜22を形成し、基板20を構成させる。下地膜22は、アルミナ、二酸化ケイ素や窒化ケイ素等のセラミックスの板やポリイミド樹脂の板又はフィルムを用いることができる。
【0055】
次に、同図(b)に示すように、下地膜22上に導電性膜33を形成する。この導電性膜33は導電性ペーストの塗布、金属箔の貼付、スパッタリング法や蒸着法等によって形成することができる。金属に限定されず、導電性を有すれば有機膜でも無機膜でもよい。
【0056】
次に、導電性膜33を所望形状にパターニングし、第一、第二の電極(及び必要に応じて第三の電極)を形成する。同図(c)はその状態を示しており、符号23は、第一〜第三の電極を示している。第一〜第三の電極23間には、下地膜22が露出している。
【0057】
次に、同図(d)に示すように、基板20の第一〜第三の電極23が配置された表面に絶縁性の保護膜34を形成する。
上記保護膜34上にレジスト膜を形成し、該レジスト膜をパターニングし、同図(e)に示すように、第一〜第三の電極23間に位置する保護膜34は露出させ、第一〜第三の電極23上の保護膜34はレジスト35で覆う。
レジスト35をマスクとし、保護膜34の露出部分をエッチングする。
【0058】
ここでは同図(f)に示すように、保護膜34の厚み方向全部と、その真下の下地膜22の深さ方向表面側途中までをエッチングによって除去した後、同図(g)に示すようにレジスト35を除去すると、底面が下地膜22の表面よりも下方に位置する吸着溝26が得られる。吸着溝26の底面は基体21には達しておらず、その底面には下地膜22が露出している。
なお、保護膜24をエッチングした後、レジスト35を除去し、保護膜24をマスクとして下地膜22をエッチングしてもよい。
【0059】
また、下地膜22表面から第一、又は第二の電極23上の保護膜24の表面までの高さ、即ち、第一、第二の電極23の膜厚とその上の保護膜24の膜厚の合計膜厚が厚い場合は、図5に示すように、下地膜22はエッチングせず、底面に下地膜22を露出させても深い吸着溝26'が得られる。
【0060】
第一、第二の電極23と保護膜24の合計膜厚が更に厚い場合は、図6(a)に示すように、保護膜24を深さ方向途中までエッチングして吸着溝26を形成した後、レジスト35を除去し、同図(b)に示すように、底面に保護膜24が露出する深い吸着溝26”を形成することができる。
上記各例では基板20を、金属製の基体21と下地膜22の積層体で構成させたが、絶縁性の板によって基板を構成してもよい。
【0061】
膜厚の厚い保護膜24を形成した後、第一〜第三の電極23a〜23c上の部分を残して保護膜をエッチングすると、一層深い吸着溝26を形成することもできる。
なお、上記各例の吸着装置1〜3の平面図では、第一〜第三の電極23a〜23cのパターンは、実際よりも簡略化してある。
【符号の説明】
【0062】
10……真空処理装置
1〜3……吸着装置
15……吸着対象物
20……基板
21……基体
22……下地膜
23a……第一の電極
23b……第二の電極
24……保護膜
26……吸着溝
27……排気孔
42、43……真空排気系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が絶縁性を有する基板と、
前記基板の平坦な表面上に配置された導電性材料と、
前記導電性材料で構成され、互いに異なる電圧が印加される第一、第二の電極と、
前記第一、第二の電極表面を被覆する絶縁性の保護膜と、
前記第一、第二の電極間に位置する吸着溝と、
前記吸着溝に接続され、前記吸着溝を真空排気系に接続する排気孔とを有し、
前記保護膜上に吸着対象物を配置し、前記排気孔から前記吸着溝内の気体を真空排気すると前記吸着対象物は真空吸着力によって前記保護膜上に吸着され、
前記第一、第二の電極間に電圧を印加するとグラディエント力によって前記吸着対象物は前記保護膜上に吸着されるように構成された吸着装置であって、
前記吸着溝の底面は、前記第一、第二の電極の底面よりも低く、前記基板の内部に位置するように構成された吸着装置。
【請求項2】
基板と、
前記基板の平坦な表面上に配置された導電性材料と、
前記導電性材料で構成され、互いに異なる電圧が印加される第一、第二の電極と、
前記第一、第二の電極表面を被覆する絶縁性の保護膜と、
前記第一、第二の電極間に位置する吸着溝と、
前記吸着溝に接続され、前記吸着溝を真空排気系に接続する排気孔とを有し、
前記保護膜上に吸着対象物を配置し、前記排気孔から前記吸着溝内の気体を真空排気すると前記吸着対象物は真空吸着力によって前記保護膜上に吸着され、
前記第一、第二の電極間に電圧を印加するとグラディエント力によって前記吸着対象物は前記保護膜上に吸着されるように構成された吸着装置であって、
前記基板は金属製の基板本体と、
前記基板本体の表面に形成された絶縁性の下地膜とを有し、
前記第一、第二の電極は前記下地膜に密着配置され、
前記吸着溝の底部には、前記下地膜が露出された吸着装置。
【請求項3】
前記吸着溝の底部は前記下地膜表面よりも低く、前記吸着溝の下部は前記基板の内部に位置するように構成された請求項2記載の吸着装置。
【請求項4】
前記吸着溝は前記導電性材料で囲まれた請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の吸着装置。
【請求項5】
前記吸着溝は前記第一又は前記第二の電極で囲まれた請求項4記載の吸着装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の吸着装置を製造する製造方法であって、
表面が絶縁性を有する基板の表面に前記導電性材料の膜を形成する工程と、
前記導電性材料の膜をパターニングして前記第一、第二の電極を形成する工程と、
前記第一、第二の電極膜の表面に前記保護膜を形成する工程と、
前記保護膜と前記基板とをパターニングし、前記第一、第二の導電膜の間の位置に、底部が前記基板の表面よりも低い吸着溝を形成し、前記吸着溝の下部を前記基板の内部に位置させる吸着装置の製造方法。
【請求項7】
真空槽と、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の吸着装置を有し、前記吸着装置は、前記真空槽内に出入り可能に構成されたハンドラーから前記吸着対象物を受け取る真空処理装置。
【請求項8】
基板と、
前記基板表面に形成された表面が平坦な絶縁性の下地膜と、
前記下地膜上の表面に配置された導電性材料と、
前記導電性材料で構成され、互いに異なる電圧が印加される第一、第二の電極と、
前記第一、第二の電極表面を被覆する絶縁性の保護膜と、
前記第一、第二の電極間に位置する吸着溝と、
前記吸着溝に接続され、前記吸着溝を真空排気系に接続する排気孔とを有し、
前記保護膜上に絶縁性の吸着対象物を配置し、前記排気孔から前記吸着溝内の気体を真空排気すると前記吸着対象物は真空吸着力によって前記保護膜上に吸着され、
前記第一、第二の電極間に電圧を印加するとグラディエント力によって真空雰囲気中の前記吸着対象物は前記保護膜上に吸着されるように構成された吸着装置を製造する吸着装置の製造方法であって、
前記基板上に前記下地膜を形成し、
前記下地膜の表面に前記導電性材料の膜を形成し、
前記導電性材料の前記膜をパターニングして前記第一、第二の電極を形成し、
前記第一、第二の電極の表面に前記保護膜を形成し、
前記保護膜の一部を厚み方向全部エッチングして前記下地膜を露出させた後、前記下地膜を厚み方向にエッチングし、前記第一、第二の電極の間の位置に、底面が前記下地膜の表面よりも下方に位置する前記吸着溝を形成する吸着装置の製造方法。
【請求項9】
前記第一、第二の電極の表面に前記保護膜を形成する工程では、前記保護膜の厚みを100μm以下にする請求項8記載の吸着装置の製造方法。
【請求項10】
底面が前記下地膜の表面よりも下方に位置する前記吸着溝を形成する工程では、前記吸着溝の深さを50μm以上にする請求項8又は請求項9のいずれか1項記載の吸着装置の製造方法。
【請求項11】
前記第一又は第二の電極のうち、いずれか一方によって前記吸着溝を取り囲む請求項8乃至請求項10のいずれか1項記載の吸着装置の製造方法。
【請求項12】
前記導電性材料の前記膜をパターニングするときに、第一、第二の電極と前記吸着溝とを取り囲む第三の電極を、前記導電性材料によって、前記第一、第二の電極とは非接触で形成する請求項8乃至請求項11のいずれか1項記載の吸着装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−181940(P2011−181940A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88812(P2011−88812)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【分割の表示】特願2005−244258(P2005−244258)の分割
【原出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】