説明

吸音パネル

【課題】吸音性能に優れ、高い圧縮強度を有する吸音パネルを提供する。
【解決手段】吸音パネル10では、その内部に複数の空隙18が形成され、骨材14のうちの過半数の骨材14が局所的に当接し、骨材14の表面16の略全域が略均一の厚みを有するセメント17によって包被されている。空隙18は、互いに独立して存在する独立空隙19と、それら空隙18どうしが互いにつながることで一方向へ隣接する骨材14のうちの少なくとも3つの骨材14に跨って存在する連続空隙20とから形成されている。吸音パネル10では、連続空隙20が全空隙18のうちの過半を占めている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定量の水分を含有するセメントペーストと所定範囲の粒度を有する複数の骨材とを混合した混合物を養生することで作られた吸音パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポーラスコンクリートによってパネル状の吸音部材が形成され、その吸音部材の周囲を構造枠部材で覆うことで、吸音部材が構造枠部材に保持されたコンクリート吸音パネルがある(特許文献1参照)。構造枠部材は、普通コンクリートから作られている。吸音部材は、矩形の型枠内に複数の砕石を敷き詰めた後、水とセメントとを混合したセメントペーストを型枠内に流し込むことで作られている。吸音部材では、その下層に位置する砕石の粒径が一番小さく、その中間層に位置する砕石の粒径が下層に位置する砕石のそれよりも大きく、その上層に位置する砕石の粒径が中間層に位置する砕石のそれよりも大きい。
【特許文献1】特開2004−52480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記公報に開示の吸音部材のように、骨材(砕石)の粒度分布が下層から上層に向かって大きく変化すると、セメントと骨材との混練時における性状が著しく変化する。セメントと骨材との混練時における性状変化の一例として、セメントと骨材との混合割合が同一であって骨材の粗粒率が小さくなる(細粒分が多い)と、骨材の表面の湿気が減少し、セメントと骨材との接着強度が不十分となり、吸音部材の圧縮強度が低下する場合がある。また、セメントと骨材との混合割合が同一であって骨材の粗粒率が大きくなる(細粒分が少ない)と、骨材表面の湿気が増加し、吸音部材に形成されるべき空隙がセメントによって塞がれ、吸音率が著しく低下する場合がある。このような現象が生ずる原因の1つとして、骨材の粒度分布が変化することにより、骨材の単位質量当たりの表面積(比表面積)が変化し、骨材表面を包被するセメントの厚みが不均一になるためと考えられる。
【0004】
前記公報に開示の吸音部材では、下層に位置する砕石の粗粒率が上層や中間層に位置する砕石のそれよりも小さいから、下層におけるセメントと砕石との接着強度が不十分となり、下層における圧縮強度が上層および中間層のそれよりも低下し、吸音部材全体の強度バランスが不均一になる場合がある。また、上層や中間層に位置する砕石の粗粒率が下層に位置する砕石のそれよりも大きいから、上層や中間層においてそれら砕石の間にセメントペーストが容易に進入し、それら砕石の間に形成されるべき空隙がセメントによって塞がれ、上層や中間層における吸音率が低下する場合がある。
【0005】
本発明の目的は、吸音性能に優れ、高い圧縮強度を有する吸音パネルを提供することにある。本発明の他の目的は、骨材の粒度分布が大きく変化したとしても、骨材表面を包被するセメントの厚みを略一定にすることができ、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを保持した吸音パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の前提は、所定量の水分を含有するセメントペーストと所定範囲の粒度を有する複数の骨材とを混合した混合物を養生することで作られた吸音パネルである。
【0007】
前記前提における本発明の特徴として、吸音パネルでは、その内部に複数の空隙が形成され、それら骨材のうちの過半数の骨材が局所的に当接し、それら骨材表面の略全域が略均一の厚みを有するセメントによって包被されている。
【0008】
本発明の一例としては、空隙が、互いに独立して存在する独立空隙と、それら空隙どうしが互いにつながることで一方向へ隣接する骨材のうちの少なくとも3つの骨材に跨って存在する連続空隙とから形成され、吸音パネルでは、連続空隙が全空隙のうちの過半を占めている。
【0009】
本発明の他の一例としては、吸音パネルの吸音率が0.4〜0.75の範囲にある。
【0010】
本発明の他の一例としては、吸音パネルの単位体積当たりの空隙率が30〜50(%)の範囲にある。
【0011】
本発明の他の一例としては、吸音パネルの圧縮強度が1.1〜5.0(N/mm)の範囲にある。
【0012】
本発明の他の一例としては、吸音パネルの内部における空気流れ抵抗が1000〜150000(N・s/m)の範囲にある。
【0013】
本発明の他の一例としては、骨材の粗粒率が2.0〜5.0の範囲にある。
【0014】
本発明の他の一例としては、骨材の粒径中央値が0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、骨材のうちの10(mm)以下の粒径を有する骨材がすべての骨材のうちの90(%)以上を占めている。
【0015】
本発明の他の一例としては、セメントペーストを形成する水とセメントと混合割合(W/C)(%)が30〜80(%)の範囲にある。
【0016】
本発明の他の一例としては、吸音パネルの厚み寸法が50〜80(mm)の範囲にある。
【0017】
本発明の他の一例としては、骨材が、クリンカアッシュ、溶融スラグ、廃ガラスのうちの少なくとも1つである。
【0018】
本発明の他の一例としては、吸音パネルにおける骨材量(kg)とセメント量(kg)との混合割合が、各骨材表面におけるセメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、骨材の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定められ、その標準化比率(S/C)が、S/C=S/(C・R),R=SW2/SW1によって算出される。ここで、S/Cは骨材量(S)とセメント量(C)との実際の比率、SW1はあらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの比表面積(第1比表面積)(m/kg)であり、SW2は骨材の粒度分布の変化に対する見かけの比表面積(第2比表面積)(m/kg)、Rは第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率である。標準化比率(S/C)は、前記式に示すように、骨材量とセメント量との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に、あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を乗ずることによって算出される。比表面積比率(R)は、前記式に示すように、第2比表面積(SW2)を第1比表面積(SW1)で除することによって算出される。
【0019】
本発明の他の一例としては、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とが、SW1=SW2=ΣSi,Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri),Pi=M・(4・π・ri/3)・niによって算出される。ここで、Siは粒度1番〜n番の中から任意に抽出したi番目の粒度の骨材における見かけの比表面積(m/kg)、riは前記i番目の粒度の骨材における平均半径(m)であり、niは単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の粒子数(個/kg)である。Piは単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の質量(kg)であり、Mは前記i番目の粒度の骨材の表乾密度(kg/リットル)である。
【0020】
本発明の他の一例としては、第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められ、第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)が2.0〜4.0の範囲にある。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる吸音パネルによれば、それを形成する骨材表面の略全域が略均一の厚みを有するセメントに包被され、その内部に略均一に分布する複数の空隙が形成されているから、パネルの内部に進入した音がそれら空隙を拡散し、音のエネルギーが振動をともなった熱エネルギーに確実に変換される。吸音パネルは、その内部に略均一に分布する複数の空隙によって音を確実に吸収することができるから、パネルを透過する透過音エネルギーやパネルから反射する反射音エネルギーを小さくすることができ、優れた吸音性能を発揮する。この吸音パネルは、骨材表面を包被するセメントの厚みが略一定であり、骨材表面におけるセメントの厚みの偏りが少なく、略均一の接着強度で骨材どうしが連結されるから、パネルの圧縮強度が局所的に低下することはなく、優れた圧縮強度を有する。
【0022】
互いに独立して存在する独立空隙と、それら空隙どうしが互いにつながることで一方向へ隣接する骨材のうちの少なくとも3つの骨材に跨って存在する連続空隙とが形成され、それら連続空隙が全空隙のうちの過半を占める吸音パネルは、連続空隙において音を効率よく吸収させることができるから、それら連続空隙が全空隙の過半を占めることで、パネルを透過する透過音エネルギーやパネルから反射する反射音エネルギーを確実に小さくすることができる。この吸音パネルは、それに独立空隙が形成され、独立空隙において隣接する骨材どうしがセメントを介して互いに連結されるから、連続空隙のみが形成されたパネルと比較し、高い圧縮強度を維持することができる。
【0023】
吸音率が0.4〜0.75の範囲にある吸音パネルは、その内部に進入した音を確実に吸収することができ、パネルを透過する透過音エネルギーやパネルから反射する反射音エネルギーを確実に小さくすることができる。なお、圧縮強度が高いことはセメントが骨材どうしの間に十分に充填されて骨材どうしがセメントを介して確実に連結されていることであり、内部に空隙がわずかしか形成されておらず、その分吸音性能が低下する。しかし、この吸音パネルは、吸音率が0.4〜0.75の範囲にあり、高い圧縮強度を有するにもかかわらず、優れた吸音性能を備えている。
【0024】
単位体積当たりの空隙率が30〜50%の範囲にある吸音パネルは、パネルの単位体積当たりにおける空隙の占める割合を最適にすることができ、それら空隙において音を確実に拡散させることができるから、それら空隙を利用して音のエネルギーを熱エネルギーに確実に変換することができ、パネルを透過する透過音エネルギーやパネルから反射する反射音エネルギーを確実に小さくすることができる。この吸音パネルは、空隙率が前記範囲にあるから、パネル内部に必要以上の間隙が形成されておらず、高い圧縮強度を維持することができる。
【0025】
圧縮強度が1.1〜5.0(N/mm)の範囲にある吸音パネルは、パネルに衝撃が加えられたとしても、パネルが損壊することはなく、パネルの形態を確実に保持することができる。この吸音パネルは、高い圧縮強度を有するにもかかわらず、その内部に略均一に分布する複数の空隙が形成されているから、それら空隙を利用して音のエネルギーを熱エネルギーに確実に変換することができ、パネルを透過する透過音エネルギーやパネルから反射する反射音エネルギーを確実に小さくすることができる。
【0026】
吸音パネルの内部における空気流れ抵抗が1000〜150000(N・s/m)の範囲にある吸音パネルは、パネルに形成された空隙に音を確実に閉じ込めることができ、空隙において音を確実に拡散させることができる。この吸音パネルは、それら空隙を利用して音のエネルギーを熱エネルギーに確実に変換することができ、パネルを透過する透過音エネルギーやパネルから反射する反射音エネルギーを確実に小さくすることができる。
【0027】
骨材の粗粒率が2.0〜5.0の範囲にある吸音パネルは、粒度分布が略一定の範囲にある骨材を使用することで、骨材とセメントとの混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材表面を包被するセメントの厚みを略均一にすることができる。この吸音パネルは、その内部に略均一に分布する複数の空隙が形成されるから、パネルの内部に進入した音をそれら空隙で確実に拡散させることができ、音のエネルギーを熱エネルギーに確実に変換することができる。
【0028】
骨材の粒径中央値が0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、骨材のうちの10(mm)以下の粒径を有する骨材がすべての骨材のうちの90(%)以上を占めている吸音パネルは、粒径が前記範囲にあるとともに10mm以下の粒径の骨材が90%以上を占める骨材を使用することで、骨材とセメントとの混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材表面を包被するセメントの厚みを略均一にすることができる。この吸音パネルは、その内部に略均一に分布する複数の空隙が形成されるから、パネルの内部に進入した音をそれら空隙で確実に拡散させることができ、音のエネルギーを熱エネルギーに確実に変換することができる。
【0029】
セメントペーストを形成する水とセメントと混合割合(W/C)(%)が30〜80(%)の範囲にある吸音パネルは、セメントペーストが適度な流動性を有し、セメントが骨材の間に形成される間隙を塞ぐことがなく、かつ、骨材表面を略均一の厚みのセメントで包被することができる。この吸音パネルは、その内部に略均一に分布する複数の空隙が形成されるから、パネルの内部に進入した音をそれら空隙で確実に拡散させることができ、音のエネルギーを熱エネルギーに確実に変換することができる。
【0030】
厚み寸法が50〜80mmの範囲にある吸音パネルは、厚み寸法を前記範囲にすることで、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを保持しつつ、その重量が必要以上に大きくなることを防ぐことができる。
【0031】
骨材がクリンカアッシュ、溶融スラグ、廃ガラスのうちの少なくとも1つである吸音パネルは、骨材にそれら廃材を使用することで、廃材の再利用の促進を図ることができる。
【0032】
吸音パネルにおける骨材量(kg)とセメント量(kg)との混合割合が、各骨材表面におけるセメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、骨材の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定められる吸音パネルは、それら骨材の粒度分布が変化することによって、各骨材の単位質量当たりの比表面積が大きく変化した場合であっても、セメントと骨材との混合割合を所定の計算手順によって画一的に求めることができ、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、セメントと骨材との混合割合を誤ることはなく、骨材とセメントとの混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材表面を包被するセメントの厚みを略一定に保持することができる。この吸音パネルは、骨材の粒度分布の変化にともなう骨材の比表面積の変化の補正値として、あらかじめ基準として定めた基準骨材の単位質量当たりにおける見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を使用し、その比表面積比率(R)をセメント量(C)に乗ずることによって標準化比率(S/C)を求めるから、骨材の粒度分布の変化に対応したセメントと骨材との混合割合を確実かつ容易に算出することができる。
【0033】
第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とがSW1=SW2=ΣSi,Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri),Pi=M・(4・π・ri/3)・niの式で算出される吸音パネルは、簡易な篩い分け試験によって得られる粒度分布から第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とを求めることができるから、複雑な試験や複雑な計算を必要とせず、手間と時間とをかけずに第1および第2比表面積(SW1,SW2)を計算することができる。この吸音パネルは、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合が設計されるから、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、骨材とセメントとの混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材表面を包被するセメントの厚みを略一定に保持することができる。
【0034】
第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められ、第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)が2.0〜4.0の範囲にある吸音パネルは、その範囲の第2比表面積(SW2)を用いて標準化比率(S/C)を算出し、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計するから、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、骨材とセメントとの混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材表面を包被するセメントの厚みを略一定に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
添付の図面を参照し、本発明に係る吸音パネルの詳細を説明すると、以下のとおりである。図1は、一例として示す吸音パネル10の斜視図であり、図2は、図1の吸音パネル10のA−A線部分拡大断面図である。図1では、縦方向を矢印X、横方向を矢印Yで示し、上下方向を矢印Zで示す、吸音パネル10は、縦方向へ長い四角柱状を呈し、矩形の上壁11および下壁12と、上下壁11,12の間に位置する矩形の各側壁13とを有する六面体である。吸音パネル10は、セメントペースト(図示せず)と所定範囲の粒度を有する複数の骨材14とを混合した混合物を養生することで作られている。
【0036】
吸音パネル10では、それら骨材14のうちの過半が局所的に当接し、残りの骨材14が非当接状態にある。局所的に当接する骨材14どうしは、それらの当接部位15を除く表面16全域が略均一の厚みを有するセメント17によって包被され、固結したセメント17を介して互いに連結されている。非当接状態にある骨材14は、その表面16全域が略均一の厚みを有するセメント17によって包被され、固結したセメント17を介して局所的に当接する骨材14と連結されているとともに、固結したセメント17を介して非当接状態にある骨材14と連結されている。吸音パネル10は、骨材14の表面16を包被するセメント17が骨材14と結合し、かつ、固結したセメント17どうしが互いに結合することで、その形態が保持されている。
【0037】
吸音パネル10には、図2に示すように、骨材14やセメント17が存在しない多数の空隙18(空間)が形成されている。それら空隙18は、パネル10の内部に形成されているのみならず、各壁11,12,13の表面からパネル10の内部に向かって不規則に延びている。それら空隙18は、互いに独立して存在して不規則に延びる独立空隙19と、それら空隙18どうしが互いにつながって不規則に延びる連続空隙20とから形成されている。独立空隙19の1つは、互いに連結された3つの骨材14の間に画成され、それら骨材14に囲繞されている。独立空隙19の他の1つは、互いに連結された4つの骨材14の間に画成され、それら骨材14に囲繞されている。連続空隙20は、一方向へ隣接する骨材14のうちの少なくとも3つの骨材14に跨っている。吸音パネル10では、連続空隙20がすべての空隙18のうちの過半を占めている。具体的には、すべての空隙18に対する連続空隙20の割合は、55〜85%の範囲にある。なお、連続空隙20の好ましい割合は60〜80%であり、連続空隙20のより好ましい割合は65〜75%である。吸音パネル10は、上下方向の厚み寸法が50〜80mmの範囲にある。
【0038】
この吸音パネル10を製造する手順の一例は、セメントペーストと骨材14とを混合して混合物を作り、その混合物を所定形状の型枠(図示せず)に流し込み、充填直後に型枠を外すか、または、型枠を付けたまま混合物が硬化するまで養生する。なお、吸音パネル10を図示の四角柱状に限定するものではなく、型枠の形状によって円柱状や多角柱状等の他のあらゆる形状に成形することができる。セメントペーストは、原料セメントと水とを所定の割合で混合することで作られ、所定の粘度と流動性とを有する。原料セメントと水との混合やセメントペーストと骨材14との混合には、傾胴式ミキサや強制練りミキサ、水平2軸ミキサ糖のコンクリートミキサを使用することができる。
【0039】
原料セメントには、固化対象物に有効に作用する固化材が添加されている。原料セメントは、カルシウムイオン交換による土粒子の凝集団粒化、また、水を取り込んで水和反応を生じ、針状結晶エトリンガイト(CA・3CaSO・32HO)を含む多くの水和鉱物の生成等の複数の固化反応を連続的に促進する。原料セメントを水で錬り混ぜると、直ちに水和反応を起こし、セメント中の化合物が水と反応して新しい水和物が次々と生成されることで水和反応が促進される。時間が経過すると、流動性を失い凝結し、硬化が進み、強度が発現する。原料セメントには、プレミックスセメント,ポルトランドセメント,高炉セメント,フライアッシュセメント,シリカセメントのうちの少なくとも1つが使用されている。原料セメントには、それらのうちのいずれかを単独で用いてもよく、それらを所定の割合で混合した混合セメントを用いてもよい。水には、水道水、河川水、湖沼水、井戸水、地下水等を使用する。
【0040】
骨材14には、クリンカアッシュ,溶融スラグ,廃ガラスのうちの少なくとも1つが使用されている。それらの骨材14は、その形状が一定ではなく、多種多様な立体形状を有する骨材14の集合物である。骨材14としては、クリンカアッシュ,溶融スラグ,廃ガラスのうちのいずれかを単独で用いてもよく、それら骨材14を所定の割合で混合した混合骨材を用いてもよい。
【0041】
クリンカアッシュは、石炭火力発電所において微粉砕した石炭をボイラで燃焼させることによって作ることができる。ボイラの内部では、燃焼によって生じた石炭灰の粒子が相互に凝縮し、多孔質な塊となってボイラ底部のクリンカホッパに落下堆積する。その堆積物を破砕機によって砂状に破砕して所定粒度のクリンカアッシュを作る。クリンカアッシュは、高温(約1300℃)で焼成されているから、化学的に安定し、締め固まり難く、締圧に強いという性質を有するとともに、優れた通気性と保水性とを有する。
【0042】
溶融スラグは、1200℃以上の高温条件下において加熱された焼却灰等が溶融した後、冷却固化してできるガラス質の物質である。このガラス質の物質を粉砕機によって破砕して所定粒度の溶融スラグを作る。溶融スラグは、二酸化ケイ素,酸化アルミニウム,酸化カルシウムを主成分とし、重金属類(水銀,鉛,カドミウム等)の含有量が極めて少ない。溶融スラグに残存する重金属類は、溶融スラグの主成分である二酸化ケイ素のSi−O2の網目構造に包被されるから、その溶出が防止される。なお、焼却灰に含まれるダイオキシン類は、焼却灰溶融時の高温条件によって熱分解するから、溶融スラグ中に残存しない。廃ガラスは、使用済みのガラスを粉砕機によって所定粒度に粉砕して作ることができる。廃ガラスは、ガラスを一次粉砕した後、金属類を除き、さらに、二次粉砕して作られる。廃ガラスは、ふるい機で粒度毎に区分される。粉砕機には、ジョークラッシャ,ジャイレトリークラッシャ,コーンクラッシャ,ハンマークラッシャ,ロールクラッシャ等の粗粉砕機やボールミル,媒体攪拌ミル,ローラミル等の微粉砕機を使用することができる。
【0043】
原料セメントと骨材14とを用意した後は、骨材量(S)(kg)とセメント量(C)(kg)との混合割合を検討し、骨材14と原料セメントとの混合割合を設計する。なお、骨材量とセメント量との混合割合一定の条件下において、骨材14の粒度分布が変化すると、各骨材14の単位質量当たりの比表面積が変化し、骨材14の表面16を包被するセメントペーストの厚みが不均一になる。したがって、骨材14の粒度分布の変化とそれにともなう骨材14の比表面積の変化とに対応させて、骨材14と原料セメントとの混合割合を補正することにより、骨材14の表面16を包被するセメントペーストの厚みを略一定にすることができる。これをふまえ、吸音パネル10を作る場合の骨材量とセメント量との混合割合は、セメントペーストと骨材14とを混合した後、各骨材14の表面16におけるセメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、骨材14の比表面積を補正して求めた標準化比率S/Cに基づいて設計される。標準化比率S/Cは、以下の式によって算出される。
(1)S/C=S/(C・R
(2)R=SW2/SW1
(a)S/C:骨材量(S)とセメント量(C)との実際の比率
(b)SW1:あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの比表面積(第1比表面積)(m/kg)
(c)SW2:骨材の粒度分布の変化に対する見かけの比表面積(第2比表面積)(m/kg)
(d)R:第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率
【0044】
標準化比率S/Cは、前記式に示すように、骨材量(S)とセメント量(C)との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に、あらかじめ基準として定めた基準骨材の単位質量当たりにおける見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材14の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を乗ずることによって算出される。比表面積比率(R)は、前記式に示すように、第2比表面積(SW2)を第1比表面積(SW1)で除することによって算出される。
【0045】
第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とは、以下の式によって算出される。
(3)SW1=SW2=ΣSi
(4)Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri)
(5)Pi=M・(4・π・ri/3)・ni
(e)Si:粒度1番〜n番の中から任意に抽出したi番目の粒度の骨材(実際に用いる骨材)における見かけの比表面積(m/kg)
(f)ri:前記i番目の粒度の骨材における平均半径(m)
(g)ni:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の粒子数(個/kg)
(h)Pi:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の質量(kg)
(i)M:前記i番目の粒度の骨材の表乾密度(kg/リットル)
【0046】
第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との計算では、骨材14の形状を球形と仮定して計算する。骨材14の平均半径は、骨材14の粒径幅両端間長さの中間を2で除した値とする。たとえば、骨材14の粒径が0.6〜1.2mmの場合における平均半径(ri)は、ri=[〔{(0.6+1.2)/1000}/2〕/2]=0.00045(m)となる。また、同種類の骨材14であれば、同じ粒径範囲の比表面積は同じであると仮定し、粒度10mm以上の骨材14は、その粒度を10〜20mmとして計算する。このように定義した第1および第2比表面積(SW1,SW2)は、骨材14の実際の比表面積とは同一の値ではないが、比表面積に比例した値であると考えられるから、標準化比率S/Cを決定するパラメータとして利用することができる。
【0047】
それら式による標準化比率(S/C)の算出、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率の算出、第1比表面積(SW1)の算出には、CPUとメモリとを有するパーソナルコンピュータ(コンピュータ資源)(図示せず)が利用される。コンピュータのメモリには、前記式に基づいた各種の計算をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。アプリケーションプログラムは、それを記憶した記憶媒体からコンピュータのメモリにインストールされる。CPUは、ハードディスクに記憶されたオペレーティングシステムによる制御に基づいて、メモリからアプリケーションプログラムを起動し、起動したアプリケーションプログラムに従って、第1および第2比表面積(SW1,SW2)を算出し、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率を算出するとともに、標準化比率(S/C)を算出する。なお、それらの算出に必要な各数値は、コンピュータに接続されたキーボードやマウス等の入力装置を介してコンピュータに入力する。
【0048】
骨材14と原料セメントとの混合割合の設計では、第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められる。また、第1比表面積(SW1)が10×10(m2/kg)に設定されている。第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)は、2.0〜4.0の範囲にある。このように、粒度分布の異なる骨材14においてそれぞれ算出した各標準化比率(S/C)の値は略同一となる。第2比表面積(SW2)が2×10(m2/kg)未満かつ20×10(m2/kg)を超過すると、骨材14周囲のセメントペーストの形成状態や空隙18の形成状態が大きく変化し、骨材量とセメント量との混合割合を画一的に求めることができず、骨材14と原料セメントとの適正な混合割合を設計することができない。なお、第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)以外の数値に設定することもできる。
【0049】
骨材14と原料セメントとの混合割合の設計では、第2比表面積(SW2)を前記範囲に設定することで、標準化比率S/Cの値が略一定し、骨材量とセメント量との混合割合を画一的に求めることができ、骨材14と原料セメントとの適正な混合割合を確実に設計することができる。さらに、多様な粒度分布を有する骨材14を使用したとしても、骨材14と原料セメントとの混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材14の表面16を包被するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができる。
【0050】
セメントペーストを形成する水と原料セメントとの混合割合(W/C)(%)は、30〜80%の範囲にある。水セメント比(W/C)が30%未満では、骨材14とセメント17との結合力やセメント17どうしの結合力が弱く、吸音パネル10の圧縮強度が低下するから、耐衝撃性に優れたパネル10を作ることができない。水セメント比が80%を超過すると、セメントペーストによって骨材14どうしの間の空隙18が塞がれ、パネル10に複数の空隙18を形成することができず、パネル10の吸音性能が低下する。骨材14と原料セメントとの混合割合の設計では、前記標準化S/Cを採用しつつ、水セメント比(W/C)(%)を前記範囲にすることで、必要かつ十分な圧縮強度と耐衝撃性とを有するとともに、複数の独立空隙と複数の連続空隙とが形成された吸音パネル10を作ることができる。
【0051】
それら骨材14は、その粒径中央値が0.6〜2.5mmの範囲にあり、骨材14のうちの10mm以下の粒径を有する骨材14がすべての骨材14のうちの90%以上を占めている。骨材14と原料セメントとの混合割合の設計では、適切な粒度の骨材14を用いることで、複数の独立空隙19と複数の連続空隙20とが形成された吸音パネル10を作ることができ、かつ、固結したセメント17を介して骨材14どうしを確実に連結させることができる。粒度は、JIS A 1102「骨材の篩い分け試験」によって試験し、その結果を粒度曲線や粗粒率等で表す。篩い分け試験は、0.15,0.3,0.6,1.2,2.5,5.0mmの網ふるいを使用し、各ふるいにおける骨材試料の通過量または残留量を求める。吸音パネル10は、骨材14の粒径中央値が前記範囲にあるとともに10mm以下の粒径の骨材15が90%以上を占める骨材14を使用することで、骨材14と原料セメントとの混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材14の表面16を包被するセメント17の厚みを略均一にすることができる。
【0052】
骨材14は、その粗粒率が2.0〜4.0の範囲にある。骨材14の粗粒率が2.0未満かつ4.0を超過すると、骨材14の粒度分布が大きくなり、骨材14周囲のセメントペーストの形成状態や空隙18の形成状態が大きく変化し、骨材量とセメント量との混合割合を画一的に求めることができず、骨材14と原料セメントとの適正な混合割合を設計することができない。粗粒率は、80,40,20,10,5,2.5,1.2,0.6,0.3,0.15mmのふるいの一組を用いて篩い分け試験を行った場合、各ふるいを通らない全部の量の全骨材試料に対する質量百分率(整数)の和を100で除した値である。
【0053】
骨材14と原料セメントとの混合割合の設計では、骨材14の粗粒率が前記範囲にあるから、標準化比率S/Cの値が略一定し、骨材量とセメント量との混合割合を画一的に求めることができ、骨材14と原料セメントとの適正な混合割合を設計することができる。さらに、多様な粒度分布を有する骨材14を使用したとしても、骨材14と原料セメントとの混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材14の表面16に対するセメント17の厚みを略一定に保持することができる。
【0054】
図3は、吸音率測定システム21の一例を示すブロック図である。吸音パネル10は、その吸音率が0.4〜0.75の範囲にある。パネル10は、それに形成された連続空隙20が全空隙18の過半を占め、連続空隙20において音を拡散させて音を効率的に吸収することができるから、高い吸音率を発現する。吸音率の測定システム21は、図3に示すように、音響管22、FFTアナライザ(CF−900)23、コンピュータ(PC−9801T)24、パワーアンプ(BOSE1702)25とから形成される。吸音率の測定は、2マイクロホン法に基づいて行った。音響管22の中に入る大きさの吸音率測定用試験体パネルを作り、試験体パネルを試験体支持部の中心軸に垂直になるように音響管22の中に収容した後、音響管22の主管内にできる定常波の音圧の極大値と極小値との比(定在波比)を測定し、コンピュータ24を使用して定在波比から垂直入射吸音率を算出した。垂直入射吸音率をパネル10の吸音率とした。
【0055】
吸音パネル10は、その単位体積当たりの空隙率が30〜50%の範囲にある。空隙率が大きくなると、吸音する周波数帯域のピークが高周波側にシフトする。このパネル10は、その空隙率が前記範囲にあるから、発生する音の周波数にあわせてその空隙率を変えることで、低周波から高周波までの広い周波数帯域の音を吸収するように設計することができる。なお、空隙率は、以下の式によって算出した。
【0056】
空隙率=1−{Wc/(Mc+Wca)/[(Mca+Ww)/Mw]}
(j)Wc:1cm中に含まれる原料セメントの重量(g)
(k)Wca:1cm中に含まれる骨材の重量(g)
(l)Ww:1cm中に含まれる水の重量(g)
(m)Mc:原料セメントの密度=3.15(g/cm
(n)Mca:骨材の密度=1.82(g/cm
(o)Mw:水の密度=1.0(g/cm
【0057】
吸音パネル10は、その圧縮強度が1.1〜5.0N/mmの範囲、好ましくは0.8〜6.0N/mmの範囲にある。パネル10は、それに衝撃が加えられたとしても、損壊し難く、その形態を確実に保持する。圧縮強度は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験」に準拠して測定した。具体的には、JIS A 1132「コンクリートの強度試験用試験体の作り方」に準拠して直径約50mm、厚み約50〜53mmの円柱状に加工した圧縮強度測定用試験体パネルを作った。試験体パネルの円形上下面が圧縮試験機の可圧板に当接するように、それら可圧板で試験体パネルを挟持し、圧縮試験機の圧力を次第に上げ、試験体パネルが座屈する瞬間の圧力指示計の値を採用し、以下の式により算出した。算出した試験体パネルの圧縮強度をパネル10の圧縮強度とした。
【0058】
fc=P/π(d/2)
(p)fc:圧縮強度(N/mm
(q)P:圧力指示計から読み取った最大荷重(N)
(r)d:試験体パネルの直径(mm)
【0059】
図4は、空気流れ抵抗測定システム26の一例を示すブロック図である。吸音パネル10は、その内部における空気流れ抵抗が1000〜150000(N・s/m)の範囲にある。吸音パネル10は、空気流れ抵抗が前記範囲にあるから、それに形成された独立空隙19や連続空隙20に所定時間音を閉じ込めることができ、それら空隙19,20において音を十分に拡散させて音を吸収する。空気流れ抵抗は、ISO 9053の直流法に基づいて、測定システム26を構築し、そのシステム26を使用して測定を行った。空気流れ抵抗の測定システム26は、図4に示すように、デジタル微差圧計27、測定管28、マスフローコントローラ29、圧力計30、レギュレータ+エアーフィルタ31、エアータンク32、エアーコンプレッサー33とから形成される。具体的には、空気流れ抵抗測定用試験体パネルを複数個作り、試験体パネル2〜3個を空気漏れがないようにビニルテープで連結し、それを内径厚み10cmの測定管28に収容した。測定は、マスフローコントローラ29を用い、試験体パネルの内部を流れる単位時間当たりの空気流量を100〜500ml/minの範囲で、10〜50ml/min毎に変化させ、流量と試験体パネルの両面の微差圧をデジタル微差圧計27で測定し、下記の式に基づいて算出した。算出した試験体パネルの空気流れ抵抗をパネル10の空気流れ抵抗とした。
【0060】
R=Δρ/(q・v)
(s)R:空気流れ抵抗(N・s/m
(t)Δρ:試験体パネル両面の圧力差(N/m
(u)q:試験体パネルの厚み(m)
(v)v:試験体パネルを流れる空気の流速(m/s)
【0061】
図5,6は、吸音パネル10を取り付けた壁材34の斜視図である。吸音パネル10は、高速道路や鉄道の防音壁、無響室や半無響室の吸音壁として使用することができる。図5では、吸音パネル10の複数個が壁材34の内側に配置され、壁材34の表面にパネル10の下面12が当接した状態で、パネル10が壁材34に接着剤やビス(図示せず)によって固着されている。なお、パネル10は、壁材34の外側に配置され、壁材34に接着剤やビスによって固着されていてもよく、壁材34の間に収納した状態でそれら壁材34に固着されていてもよい。また、パネル10は、床や天井に取り付けられてもよい。図6では、壁材34の内側表面35に縦方向と横方向とへ延びる支持材36が取り付けられ、それら支持材36にパネル10の下面12が当接した状態で、パネル10が支持材36に接着剤やビスによって固着されている。図6の態様では、壁材34の表面35とパネル10の下面12との間に隙間37が形成され、パネル10を透過した透過音が壁材34の表面35で反射し、再度パネル10に進入するから、パネル10と支持材34との間で音を十分に減衰させることができる。
【0062】
この吸音パネル10は、それを形成する骨材14の表面16の略全域が略均一の厚みを有するセメント17に包被され、その内部に略均一に分布する複数の独立空隙19と連続空隙20とが形成されているから、パネル10の内部に進入した音がそれら空隙18を拡散し、音のエネルギーが振動をともなった熱エネルギーに確実に変換される。吸音パネル10は、その内部に略均一に分布するそれら空隙18によって音を確実に吸収することができる、パネル10を透過する透過音エネルギーやパネルから反射する反射音エネルギーを小さくすることができる。特に、連続空隙20において音を拡散させて音を効率よく吸収させることができるから、それら連続空隙20が全空隙18の過半を占めることで、優れた吸音性能を発揮する。
【0063】
吸音パネル10は、骨材14の表面16を包被するセメント17の厚みが略一定であり、骨材14の表面16におけるセメント17の厚みの偏りが少なく、略均一の接着強度で骨材14どうしが連結されるから、パネル10の圧縮強度が局所的に低下することはなく、優れた圧縮強度を有する。また、パネル10は、それに独立空隙19が形成され、独立空隙19において隣接する骨材14どうしがセメント17を介して互いに連結されるから、連続空隙20のみが形成されたパネル10と比較し、高い圧縮強度を維持することができる。
【0064】
吸音パネル10は、その吸音率が0.4〜0.75の範囲、単位体積当たりの空隙率が30〜50%の範囲にあり、その内部における空気流れ抵抗が1000〜150000N・s/mの範囲にあるから、パネル10に形成された空隙18に所定時間音を閉じ込めることができ、それら空隙18において音を確実に拡散させることができ、パネル10の内部に進入した音を確実に吸収することができる。なお、圧縮強度が高いことはセメントが骨材どうしの間に十分に充填されて骨材どうしがセメントを介して確実に連結されていることであり、内部に空隙がわずかしか形成されず、その分吸音性能が低下してしまう。しかし、この吸音パネル10は、その空隙率が前記範囲にあり、内部に空隙18が十分に形成されているにもかかわらず、圧縮強度が1.1〜5.0N/mmの範囲にあり、高い圧縮強度を有するとともに、吸音率が0.4〜0.75の範囲にあり、優れた吸音性能を備えている。パネル10は、厚み寸法が50〜80mmの範囲にあるから、優れた吸音性能と高い圧縮強度とを保持しつつ、その重量が必要以上に大きくなることはない。
【0065】
吸音パネル10の製造時には、骨材量(kg)とセメント量(kg)との混合割合が、各骨材14の表面16におけるセメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、骨材14の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定められる。ゆえに、それら骨材14の粒度分布が変化することによって、各骨材14の単位質量当たりの比表面積が大きく変化した場合であっても、骨材14と原料セメントとの混合割合を所定の計算手順によって画一的に求めることができ、骨材14と原料セメントとの混合割合を誤ることはない。この吸音パネル10では、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材14と原料セメントとの混合割合が設計されるから、多様な粒度分布を有する骨材14を使用したとしても、骨材14と原料セメントとの混練時における性状変化を防ぐことができ、かつ、骨材14の表面16を包被するセメント17の厚みを略一定に保持することができる。
【0066】
吸音パネル10の製造時では、骨材14の粒度分布の変化にともなう骨材14の比表面積の変化の補正値として、あらかじめ基準として定めた基準骨材の単位質量当たりにおける見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材14の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を使用し、その比表面積比率(R)をセメント量(C)に乗ずることによって標準化比率(S/C)を求めるから、骨材14の粒度分布の変化に対応した骨材14と原料セメントとの混合割合を確実かつ容易に算出することができる。また、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とがSW1=SW2=ΣSi,Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri),Pi=M・(4・π・ri/3)・niの式で算出され、簡易な篩い分け試験によって得られる粒度分布から第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とを求めることができるから、複雑な試験や複雑な計算を必要とせず、手間と時間とをかけずに第1および第2比表面積(SW1,SW2)を計算することができる。
【0067】
吸音パネル10の製造時では、第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められ、第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)が2.0〜4.0の範囲にあり、その範囲の第2比表面積(SW2)を用いて標準化比率(S/C)を算出し、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材14と原料セメントとの混合割合を設計する。ゆえに、多様な粒度分布を有する骨材14を使用したとしても、骨材14と原料セメントとの混練時における性状変化を確実に防ぐことができる。さらに、粒度分布の異なる骨材14において算出した各標準化比率(S/C)が略同一の値になることから、設計者の経験と感覚とに頼ることなく、現場において骨材14と原料セメントとの混合割合を容易に設計することができ、現場における作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】一例として示す吸音パネルの斜視図。
【図2】図1の吸音パネルのA−A線部分拡大断面図。
【図3】吸音率測定システムの一例を示すブロック図。
【図4】空気流れ抵抗測定システムの一例を示すブロック図。
【図5】セメント硬化物を取り付けた壁の斜視図。
【図6】セメント硬化物を取り付けた壁の斜視図。
【符号の説明】
【0069】
10 吸音パネル
14 骨材
15 当接部位
16 表面
17 セメント
18 空隙
19 独立空隙
20 連続空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の水分を含有するセメントペーストと所定範囲の粒度を有する複数の骨材とを混合した混合物を養生することで作られた吸音パネルにおいて、
前記吸音パネルでは、その内部に複数の空隙が形成され、それら骨材のうちの過半数の骨材が局所的に当接し、それら骨材表面の略全域が略均一の厚みを有するセメントによって包被されていることを特徴とする吸音パネル。
【請求項2】
前記空隙が、互いに独立して存在する独立空隙と、それら空隙どうしが互いにつながることで一方向へ隣接する骨材のうちの少なくとも3つの骨材に跨って存在する連続空隙とから形成され、前記吸音パネルでは、前記連続空隙が全空隙のうちの過半を占めている請求項1記載の吸音パネル。
【請求項3】
前記吸音パネルの吸音率が、0.4〜0.75の範囲にある請求項1または請求項2に記載の吸音パネル。
【請求項4】
前記吸音パネルの単位体積当たりの空隙率が、30〜50(%)の範囲にある請求項1ないし請求項3いずれかに記載の吸音パネル。
【請求項5】
前記吸音パネルの圧縮強度が、1.1〜5.0(N/mm)の範囲にある請求項1ないし請求項4いずれかに記載の吸音パネル。
【請求項6】
前記吸音パネルの内部における空気流れ抵抗が、1000〜150000(N・s/m)の範囲にある請求項1ないし請求項5いずれかに記載の吸音パネル。
【請求項7】
前記骨材の粗粒率が、2.0〜5.0の範囲にある請求項1ないし請求項6いずれかに記載の吸音パネル。
【請求項8】
前記骨材の粒径中央値が、0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、前記骨材のうちの10(mm)以下の粒径を有する骨材が、すべての骨材のうちの90(%)以上を占めている請求項1ないし請求項7いずれかに記載の吸音パネル。
【請求項9】
前記セメントペーストを形成する水とセメントと混合割合(W/C)(%)が、30〜80(%)の範囲にある請求項1ないし請求項8いずれかに記載の吸音パネル。
【請求項10】
前記吸音パネルの厚み寸法が、50〜80(mm)の範囲にある請求項1ないし請求項9いずれかに記載の吸音パネル。
【請求項11】
前記骨材が、クリンカアッシュ、溶融スラグ、廃ガラスのうちの少なくとも1つである請求項1ないし請求項10いずれかに記載の吸音パネル。
【請求項12】
前記吸音パネルにおける骨材量(kg)とセメント量(kg)との混合割合が、各骨材表面における前記セメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、前記骨材の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定められ、前記標準化比率(S/C)が、前記骨材量と前記セメント量との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に、あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と前記骨材の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を乗ずることによって算出され、前記比表面積比率(R)が、前記第2比表面積(SW2)を前記第1比表面積(SW1)で除することによって算出される請求項1ないし請求項11いずれかに記載の吸音パネル。
【請求項13】
前記第1比表面積(SW1)と前記第2比表面積(SW2)とが、
W1=SW2=ΣSi
Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri)
Pi=M・(4・π・ri/3)・ni
Si:粒度1番〜n番の中から任意に抽出したi番目の粒度の骨材における見かけの比表面積(m/kg)
ri:前記i番目の粒度の骨材における平均半径(m)
ni:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の粒子数(個/kg)
Pi:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の質量(kg)
M:前記i番目の粒度の骨材の表乾密度(kg/リットル)
によって算出される請求項12記載の吸音パネル。
【請求項14】
前記第2比表面積(SW2)が、2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定められ、前記第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、前記第2比表面積(SW2)を前記範囲で定めた場合における前記標準化比率(S/C)が、2.0〜4.0の範囲にある請求項12または請求項13に記載の吸音パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−150861(P2008−150861A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340014(P2006−340014)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】