説明

吸音材およびこれを用いた構造体

【課題】難燃性を有し、100Hz周辺の低周波側の騒音を効果的に吸収し、また、製品形態の自由度を向上させる。
【解決手段】本発明の吸音材1は、シリコーンゴムから成る第1の膜11と、第1の膜11の前面側に積層される第1の多孔質体層12と、第1の膜の背面側に積層される第2の多孔質体層13と、第1の多孔質体層12の前面側に積層されるシリコーンゴムから成る第2の膜14と、第2の膜14の前面側に積層される第3の多孔質体層15とを備えている。
第1、第2の膜11、14は、それぞれ難燃性を有し、かつ燃焼時に有害ガスを発生しない材料、例えば、シリコーンゴムに無機化合物および/または炭素繊維を混入したもので形成されている。
第1、第2、第3の多孔質体層12、13、15は、難燃性を有する材料、例えばグラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成るもので形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材およびこれを用いた構造体に係り、特に、100Hz周辺の低周波側の騒音を効果的に吸収し、また、製品形態の自由度を向上させることができる吸音材およびこれを用いた構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の吸音材として、(a)グラスウールやロックウール等から成る多孔質体層を使用するもの、(b)吸音材の前面側に空気層を設けて成るもの、(c)通気度が5〜100倍異なる高密度と低密度の繊維集合体を少なくとも2層以上積層して成るものなどが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、(a)の吸音材においては、100Hz以下の低周波領域の騒音を効果的に吸収するためには、多孔質体層の肉厚を厚くする必要があるところ、多孔質体層の肉厚を厚くすると、吸音材の重量が全体的に重くなるという難点があった。また、(b)の吸音材においては、吸音材の前面側に空気層が存在するため、吸音材の重量が重くなり、また、スペースを広くとらなければならないという難点があった。一方、(c)の吸音材は、空気の粘性抵抗を利用し、音波のエネルギーを熱エネルギーに変換して吸音する多孔質吸音構造体に、さらに密度が異なる繊維集合体を積層することで、高密度部分が付加質量、低密度部分がバネの役割を担う、いわゆる動吸振機を構成させて特に低周波領域の吸音率を向上させるものであるが、このような構成の吸音材においては、特に100Hz以下の低周波領域においては、十分な吸音効果が得られないという難点があった。また、低周波領域の音や振動は空気伝搬音だけではなく、建物や窓のがたつきなども発生するため、固体伝搬音および振動防止に対する対策を同時に行う必要があり、従来の吸音材ではその対策が困難であった。
【0004】
このため、本出願人は、先に、空気の粘性抵抗を利用し、音波のエネルギーを熱エネルギーに変換して吸音する多孔質吸音構造体に、さらに密度が異なる繊維集合体を積層した第1、第2の吸音材を開発し、出願している(特開2003−316364号公報、特願2004−57089号明細書)。
【0005】
ここで、特開2003−316364号公報において開示されている第1の吸音材は、前面側に配置される第1の発泡体層と、この第1の発泡体層の背面側に積層される多孔質体層とを備えており、第1の発泡体層は、分子量500〜5000の第1のジオール、分子量500以下の第2のジオール、無機充填材、発泡剤としての水、およびイソシアネートの各成分を含有する発泡体で形成され、また、多孔質体層は、汎用のグラスウールで形成されている。
【0006】
このような構成の第1の吸音材によれば、高密度部分が付加質量、低密度部分がバネの役割を担う、いわゆる動吸振機を構成させて、特に低周波数帯域の吸音率を向上させることができるものの、第1に、多孔質体層を構成するグラスウールは、100Hz以下の低周波領域では吸音効果が弱くなるという難点があり、第2に、第1の発泡体層と多孔質体層とが一体成型され、この一体成型に際して第1の発泡体層の前面側に表面皮膜が形成されるため、製品の自由度を向上させることができないという難点があった。すなわち、第1の発泡体層と多孔質体層との一体成形の際に表面皮膜が同時に形成されるため、所要の吸音特性を発揮させるためには、第1の発泡体層の前面側や多孔質体層の背面側を変更しなければならないという難点があった。
【0007】
次に、特願2004−57089号明細書において開示されている第2の吸音材は、第1の発泡体層と、第1の発泡体層の前面側に積層される第1の多孔質体層と、第1の発泡体層の背面側に積層される第2の多孔質体層とを備えており、第1の発泡体層は、分子量500〜5000の第1のジオール、分子量500以下の第2のジオール、無機充填材、発泡剤としての水、およびイソシアネートの各成分を原料成分としている。
【0008】
このような構成の第2の吸音材によれば、150Hz以下の低周波領域のみならず150Hzを超える高周波領域の広帯域の騒音を効果的に吸収することができるものの、特に、100Hz周辺の低周波側の騒音を効果的に吸収することができないという難点があった。
【0009】
【特許文献1】特開平8−152890号公報
【特許文献2】特開2003−316364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、100Hz周辺の低周波側の騒音を効果的に吸収し、また、製品形態の自由度を向上させることができる吸音材およびこれを用いた構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様である吸音材は、ゴムまたはアクリル樹脂から成る第1の膜と、第1の膜の前面側に積層される第1の多孔質体層と、第1の膜の背面側に積層される第2の多孔質体層と、第1の多孔質体層の前面側に積層される第2の膜と、第2の膜の前面側に積層される第3の多孔質体層とを備えるものである。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様である吸音材において、ゴムは、シリコーンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、ポリオレフィンのうちから選択された何れかのゴムとされているものである。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様である吸音材において、第1の膜および第2の膜の少なくとも一方の燃焼発熱量は、8MJ/m以下とされているものである。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様の何れかの態様である吸音材において、第1の膜および第2の膜の少なくとも一方の燃焼発熱速度は、[200kW/m]・10sec以下とされているものである。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様の何れかの態様である吸音材において、第1の膜および第2の膜の少なくとも一方は、無機化合物および/または炭素繊維を含むものである。
【0016】
本発明の第6の態様は、第5の態様である吸音材において、無機化合物は、Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物または前記Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物の混合物から成るものである。
【0017】
本発明の第7の態様は、第5の態様である吸音材において、炭素繊維は、繊維径が10〜30μm、長さの平均値が0.3〜2mm、添加量が主剤のゴムまたはアクリル樹脂に対し0.5〜10部とされているものである。
【0018】
本発明の第8の態様は、第1の態様乃至第7の態様の何れかの態様である吸音材において、第1の多孔質体層、第2の多孔質体層および第3の多孔質体層の少なくとも何れか一方は、難燃性を有する材料で形成されているものである。
【0019】
本発明の第9の態様は、第1の態様乃至第7の態様の何れかの態様である吸音材において、第1の多孔質体層、第2の多孔質体層および第3の多孔質体層の少なくとも何れか一方は、グラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成るものである。
【0020】
本発明の第10の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第1の膜は、第1の多孔質体層および第2の多孔質体層の少なくとも一方と一体化しているものである。
【0021】
本発明の第11の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第2の膜は、第1の多孔質体層および第3の多孔質体層の少なくとも一方と一体化しているものである。
【0022】
本発明の第12の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第1の膜は、接着により第1の多孔質体層および第2の多孔質体層の少なくとも一方と一体化しているものである。
【0023】
本発明の第13の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第2の膜は、接着により第1の多孔質体層および第3の多孔質体層の少なくとも一方と一体化しているものである。
【0024】
本発明の第14の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第1の膜は、熱融着により第1の多孔質体層および第2の多孔質体層の少なくとも一方と一体化しているものである。
【0025】
本発明の第15の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第2の膜は、熱融着により第1の多孔質体層および第3の多孔質体層の少なくとも一方と一体化しているものである。
【0026】
本発明の第16の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第1の膜は、シリコーングラフト反応により第1の多孔質体層および第2の多孔質体層の少なくとも一方と一体化しているものである。
【0027】
本発明の第17の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第2の膜は、シリコーングラフト反応により第1の多孔質体層および第3の多孔質体層の少なくとも一方と一体化しているものである。
【0028】
本発明の第18の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第1の膜は、第1の膜の一部が第1の多孔質体層および第2の多孔質体層の少なくとも一方の孔部に入り込むことで第1の多孔質体層および/または第2の多孔質体層と一体化しているものである。
【0029】
本発明の第19の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音材において、第2の膜は、第2の膜の一部が第1の多孔質体層および第3の多孔質体層の少なくとも一方の孔部に入り込むことで第1の多孔質体層および/または第3の多孔質体層と一体化しているものである。
【0030】
本発明の第20の態様である構造体は、第1の態様乃至第19の態様の何れかの態様の吸音材と、剛壁とを備え、吸音材は、吸音材を構成する第2の多孔質体層を剛壁側に向けて、剛壁と平行に設置されているものである。
【0031】
本発明の第21の態様である構造体は、第1の態様乃至第19の態様の何れかの態様の吸音材と、遮音板とを備え、吸音材は、吸音材を構成する第2の多孔質体層を遮音板側に向けて、遮音板と平行に設置されているものである。
【0032】
本発明の第22の態様である構造体は、第1の態様乃至第19の態様の何れかの態様の吸音材と、剛壁とを備え、吸音材は、空気層を介して吸音材を構成する第2の多孔質体層を剛壁側に向けて、剛壁と平行に設置されているものである。
【0033】
本発明の第23の態様である構造体は、第1の態様乃至第19の態様の何れかの態様の吸音材と、遮音板とを備え、吸音材は、空気層を介して吸音材を構成する第2の多孔質体層を遮音板側に向けて、遮音板と平行に設置されているものである。
【0034】
本発明の第24の態様である構造体は、第1の態様乃至第19の態様の何れかの態様の吸音材を備え、吸音材の燃焼発熱量は、8MJ/m以下、燃焼発熱速度が[200kW/m]・10sec以下とされているものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明の第1の態様乃至第24の態様の吸音材およびこれを用いた構造体によれば、次のような効果がある。
【0036】
第1に、吸音材自身に建築基準法における難燃の規格に適合する難燃性が付与されているので、当該吸音材を難燃性が必要とされる場所に配設することがでる。
【0037】
第2に、難燃剤として、ハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、燃焼時に有毒ガスが発生する虞がなく、環境保全対策を施した吸音材を提供することができる。
【0038】
第3に、ゴムまたはアクリル樹脂から成る第1の膜の両面に多孔質体層を備えた従来の吸音材に、さらに別体のゴムまたはアクリル樹脂から成る第2の膜および多孔質体層をそれぞれ一層追加することで、100Hz周辺の低周波側の騒音、特に、80Hz程度の低周波領域の騒音を効果的に吸収することができる。
【0039】
第4に、ゴムまたはアクリル樹脂から成る第1の膜の両面に多孔質体層を備えた従来の吸音材のうち、何れか一方の多孔質体層中に、例えば剛壁側の多孔質体層中にゴムまたはアクリル樹脂から成る第2の膜を1層追加することで、100Hz周辺の低周波側の騒音を効果的に吸収することができることから、従来の吸音材と略同等の厚みに形成することができ、ひいてはその重量も従来の吸音材と略同等にすることができる。
【0040】
第5に、第1の膜を第1の多孔質体層および第2の多孔質体層の少なくとも一方と一体化し、若しくは第2の膜を第1の多孔質体層および第3の多孔質体層の少なくとも一方と一体化することにより、製品形態の自由度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の吸音材およびこれを用いた構造体を適用した実施の形態例について、図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明における吸音材の第1の実施の形態を示す断面図である。
【0042】
同図において、本発明の吸音材1は、例えばパネル状に形成されて、例えば100Hz以下の高調波騒音を発生する変圧器(不図示)などを収容する電気室のコンクリートの壁体などから成る剛壁2の前面側(変圧器(音源)側)に剛壁2と平行に配置されている。
【0043】
吸音材1は、シリコーンゴムから成る第1の膜11と、第1の膜11の前面側に積層される第1の多孔質体層12と、第1の膜の背面側に積層される第2の多孔質体層13と、第1の多孔質体層12の前面側に積層されるシリコーンゴムから成る第2の膜14と、第2の膜14の前面側に積層される第3の多孔質体層15とを備えている。
【0044】
ここで、第1、第2の膜11、14の両面側に、多孔質体層12、13、14を積層するのは、第1、第2の膜11、14の部分が付加質量、すなわち錘の役割として作用し、多孔質体層12、13、14の部分がバネ、すなわち空気バネの役割として作用し、膜振動による吸音を行わせるためである。
【0045】
このような構成の吸音材1は、剛壁2に対して、第2の多孔質体層13を剛壁2側に向けて、かつ剛壁2と平行に設置されることで、本発明の構造体3が形成されることになる。
【0046】
第1、第2の膜11、14は、それぞれ難燃性を有し、かつ燃焼時に有害ガスを発生しない材料で形成されている。具体的には、後述するようにシリコーンゴムに無機化合物および/または炭素繊維を混入したもので形成されている。
【0047】
次に、このような構成の第1、第2の膜11、14に要求される諸性能について説明する。
【0048】
第1に、第1、第2の膜11、14としては単位体積当たりの燃焼発熱量が8MJ/m以下のものを使用することが好ましい。第1、第2の膜11、14の単位体積当たりの燃焼発熱量が8MJ/mを越えると、本実施例による製品の適用法規である建築基準法第2条第9号に規定される不燃グレードに適合できないからである。なお、第1、第2の膜11、14の燃焼発熱量は第1、第2の膜11、14の原料用樹脂に配合させる無機フィラーの種類や配合量などにより調節することができる。
【0049】
このような構成のシリコーンゴムから成る第1、第2の膜11、14によれば、幅100mm、長さ100mm、厚さ3〜50mmの試験片において、ISO5660で規定する燃焼発熱量試験において、単位体積当たりの燃焼発熱量を8MJ/m以下にすることができる。
【0050】
第2に、第1、第2の膜11、14としては燃焼発熱速度が[200kW/m] ・10sec以下のもの使用することが好ましい。第1、第2の膜11、14の燃焼発熱速度が[200kW/m] ・10secを越えると、建築基準法第2条第9号に規定の不燃グレードに適合しないからである。
【0051】
このような構成のシリコーンゴムから成る第1、第2の膜11、14によれば、幅100mm、長さ100mm、厚さ3〜50mmの試験片において、ISO5660で規定する燃焼発熱速度試験において、燃焼発熱速度を[200kW/m] ・10sec以下にすることができる。
【0052】
次に、第1、第2、第3の多孔質体層12、13、15は、それぞれ難燃性を有する材料で形成されている。具体的には、グラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成るもので形成されている。
【0053】
ここで、製品形態の自由度を向上させ、現場における施工を簡単にするため、接着やシリコーングラフト反応等により、第1の膜11を第1、第2の多孔質体層12、13と一体化し、第2の膜14を第1、第3の多孔質体層12、15と一体化することが好ましい。
【0054】
以上のように、このような構成の吸音材1を用いた構造体3によれば、吸音材自身に建築基準法における難燃の規格に適合する難燃性が付与されているので、当該吸音材を難燃性が必要とされる場所に設置することができ、また、難燃剤としてハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、吸音材が燃焼しても燃焼時に有毒ガスを発生する虞がなく、さらに、第1の膜11を第1、第2の多孔質体層12、13と一体化し、第2の膜14を第1、第3の多孔質体層12、15と一体化することで、現場における施工を簡単に行なうことができる。
【0055】
ここで、前述の実施例では、第1、第2の膜11、14をシリコーンゴムのみで形成した場合について述べているが、第1、第2の膜11、14は、シリコーンゴムに2:1〜1:1の比で、Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物またはSi、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物の混合物から成る無機化合物を混入したもので形成してもよい。
【0056】
このような構成の第1、第2の膜11、14においては、ネットワーク構造のシリコーンゴムの多孔室部分に嵩さ密度が高くかつ粒径の小さい硫酸バリウム等を混入することで、不燃性でかつ柔軟性がある上、所定の面密度を有する膜を形成することができる。
【0057】
図2は、本発明の実施例における第1、第2の膜11、14の吸音率、面密度、膜厚、発熱量、発熱速度を比較例とともに示した説明図である。
【0058】
ここで、本実施例における第1、第2の膜11、14は、シリコーンゴムに2:1の比でシリカ、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、硫酸バリウムを混入したもの形成されており、比較例としてウレタンから成る膜が使用されている。
【0059】
なお、発熱量は建築基準法第2条第9号に規定する方法により、発熱速度はISO5660に規定する方法により測定した。
【0060】
同図より、本実施例における第1、第2の膜11、14は、その膜厚を比較例の膜厚より略1/3程度薄くしても、比較例と同等の吸音率および面密度を得ることができる。また、建築基準法第2条第9号に規定する不燃グレードに適合させることができ、さらに、燃焼発熱速度を[200kW/m]・10sec未満にすることができる。
【0061】
図3は、第1の実施の形態における吸音材1の吸音特性を示している。ここで、図中、L1は、厚さ0.5mmのシリコーンゴムから成る膜の両面にグラスウールから成る多孔質体層を積層した従来の吸音材の吸音特性、L2は、シリコーンゴムから成る第1、第2の膜11、14の厚さをそれぞれ0.5mm、グラスウールから成る第1の多孔質体層12の厚さを25mm、グラスウールから成る第2の多孔質体層13の厚さを50mm、グラスウールから成る第3の多孔質体層15の厚さを25mmとした本発明の吸音材の吸音特性を示している。
【0062】
同図より、従来の吸音材と同等の厚みに形成しても、本発明の吸音材が100Hz周辺の低周波側の騒音、特に、80Hz程度の低周波領域において優れた吸音特性を示していることが分かる。従って、第1の実施の形態における吸音材を使用すれば、変圧器などから発生する高調波騒音を効果的に吸収することができる。
[第2の実施の形態]
前述の実施例では、第1、第2の膜11、14をシリコーンゴムで形成した場合について述べているが、アクリル樹脂のみで、若しくはアクリル樹脂に2:1〜1:1の比で、Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物またはSi、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物の混合物から成る無機化合物、並びに次に示す炭素繊維を混入したもので形成してもよい。
【0063】
このような構成の第1、第2の膜11、14においては、アクリル樹脂に炭素繊維を添加することで、不燃性でかつ柔軟性がある上、所定の面密度を有する樹脂膜を形成することができる。
【0064】
ここで炭素繊維としては、繊維径が10〜30μm、長さの平均値が0.3〜2mm、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5〜10部のものを使用することが好ましい。ここで、繊維径を10〜30μmとしたのは、繊維径を10μm未満にすると樹脂間の結合が低下するからであり、繊維径が30μmを超えると樹脂の柔軟性が低下するからである。また、長さの平均値が0.3〜2mmとしたのは、長さの平均値を0.3mm未満にすると樹脂間の結合が低下するからであり、長さの平均値が2mmを超えると樹脂の柔軟性が低下するからである。さらに、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5〜10部としたのは、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5部未満では樹脂間の結合が低下するからであり、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し10部を超えると樹脂の柔軟性が低下するからである。
【0065】
図4は、本発明の実施例における樹脂膜の吸音率、面密度、膜厚、発熱量、発熱速度を比較例とともに示した説明図である。
【0066】
ここで、本実施例における第1、第2の膜11、14は、アクリル樹脂に2:1の比でシリカ、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを混入したもので形成されており、比較例としてウレタンから成る樹脂膜が使用されている。
【0067】
なお、発熱量は建築基準法第2条第9号に規定する方法により、発熱速度はISO5660に規定する方法により測定した。
【0068】
同図より、本実施例における第1、第2の膜11、14は、その膜厚を比較例の膜厚より略1/3程度薄くしても、比較例と同等の吸音率および面密度を得ることができる。また、建築基準法第2条第9号に規定する不燃グレードに適合させることができ、さらに、燃焼発熱速度を[200kW/m]・10sec未満にすることができる。
【0069】
また、本実施例の吸音材を従来の吸音材と同等の厚みに形成しても、第1の実施例と同様に、本実施例の吸音材が100Hz周辺の低周波側の騒音、特に、80Hz程度の低周波領域において優れた吸音特性を示していることが分かる。従って、第2の実施の形態における吸音材を使用しても、変圧器などから発生する高調波騒音を効果的に吸収することができる。
[第3の実施の形態]
図5は、第1、若しくは第2の実施の形態における吸音材1を使用した膜状吸音構造の構造体の断面図を示している。なお、同図において、図1と共通する部分に同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0070】
図5において、本発明の構造体3aは、剛壁2と、剛壁2の音源側に、第2の多孔質体層13を剛壁2側に向けて、一対の支持部材4a、4bを介して剛壁2と平行に設置される膜状の吸音材1と、吸音材1と剛壁2により区画される背後空気層5とを備えている。
【0071】
このような構成の膜状吸音構造の構造体3aにおいては、膜状の吸音材1の質量に対して背後空気層5がバネとして作用し、単一共振系を形成し、音波の周波数がこの単一共振系の共振周波数と一致したとき膜状の吸音材1が振動し内部摩擦により吸音されることになる。従って、第3の実施の形態における構造体3aによれば、前述と同様に、難燃性が必要とされる場所に設置することができ、また、難燃剤としてハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、吸音材が燃焼しても燃焼時に有毒ガスを発生する虞がなく、さらに、第1、第2の膜11、14が多孔質体層12、13、15と一体化されているので、現場における施工を簡単に行なうことができる上、第1、若しくは第2の実施の形態における構造体3よりもさらに吸音率を向上させることができる。
[第4の実施の形態]
図6は、第1、若しくは第2の実施の形態における吸音材1を遮音壁に適用した構造体の断面図を示している。なお、同図において、図1と共通する部分に同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0072】
図6において、本発明の構造体3bは、例えば建物内部の床上に簡易間仕切りとして設けられた中空二重壁体6を備えている。
【0073】
中空二重壁体6は、音源側に配設される第1の壁部材6aと、受音側に第1の壁部材6aから所定長離間した位置に第1の壁部材6aと平行に配設される第2の壁部材6bとを備えており、これらの第1、第2の壁部材6a、6b間に、前述の吸音材1が第1の壁部材6a(若しくは第2の壁部材6b)と平行に配設されている。
【0074】
このような構成の構造体によれば、第1、第2の壁部材6a、6b間に吸音材自身に建築基準法における難燃の規格に適合する難燃性が付与された吸音材1が配設されているので、前述と同様に、難燃性が必要とされる場所に設置することができ、また、難燃剤としてハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、吸音材が燃焼しても燃焼時に有毒ガスを発生する虞がなく、さらに、第1、第2の膜11、14が多孔質体層12、13、15と一体化されているので、現場における施工を簡単に行なうことができる。
【0075】
[第5の実施の形態]
図7は、第1若しくは第2の実施の形態における吸音材1を遮音壁に適用した他の構造体の断面図を示している。なお、同図において、図1、図4〜図6と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0076】
図7において、本発明の構造体3cは、それ自身の第2の多孔質体層13を第2の壁部材6b側に向けて、一対の支持部材4a、4bを介して第2の壁部材6bと平行に設置される第1若しくは第2の実施の形態における吸音材1と、吸音材1と第2の壁部材6bにより区画される背後空気層5とを備えている。
【0077】
このような構成の膜状吸音構造の構造体3cにおいては、前述と同様に、膜状の吸音材1の質量に対して背後空気層5がバネとして作用し、単一共振系を形成し、音波の周波数がこの単一共振系の共振周波数と一致したとき膜状の吸音材1が振動し内部摩擦により吸音されることになる。従って、第5の実施の形態における構造体3cによれば、前述と同様に、難燃性が必要とされる場所に設置することができ、また、難燃剤としてハロゲン系難燃剤や鉛系化合物が使用されていないので、吸音材が燃焼しても燃焼時に有毒ガスを発生する虞がなく、さらに、第1の膜11が第2の多孔質体層13と一体化されているので、現場における施工を簡単に行なうことができる上、また、第4の実施の形態における構造体3よりもさらに吸音率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
前述の実施例においては、図面に示した特定の実施の形態をもって本発明を説明しているが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、次のように構成してもよい。
【0079】
第1に、前述の実施例においては、第1、第2の膜としてシリコーンゴムを使用した場合について説明しているが、シリコーンゴムに代えて、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、ポリオレフィンのうちから選択された何れかのゴムを使用してもよい。
【0080】
第2に、前述の実施例においては、多孔質体層中に2つのゴムまたはアクリル樹脂から成る膜を離間して形成した場合について述べているが、多孔質体層中に3または4以上のゴムまたはアクリル樹脂から成る膜を離間して形成してもよい。
【0081】
第3に、前述の実施例においては、第1、第2の膜11、14を接着やシリコーングラフト反応等の手段により第1、第2、第3の多孔質体層12、13、15のうち、すくなくとも何れか一方と一体化させる場合について述べているが、第1、第2の膜11、14および/または第1、第2、第3の多孔質体層12、13、15を加熱し、第1、第2の膜11、14および/または第1、第2、第3の多孔質体層12、13、15が軟化する温度(例えば、80℃)になったときに、多少の圧力を付与することで両者を一体化させてもよい。
【0082】
第4に、前述の実施例においては、第1、第2の膜11、14の燃焼発熱量および燃焼発熱速度について述べているが、吸音材自身の燃焼発熱量を8MJ/m以下、燃焼発熱速度を[200kW/m]・10sec以下としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1の実施の形態における吸音材およびこれを用いた構造体の断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態における膜の他の実施例を示す説明図。
【図3】本発明の第1の実施の形態における吸音材の吸音特性を示す説明図。
【図4】本発明の第2の実施の形態における膜の他の実施例を示す説明図。
【図5】本発明の第1若しくは第2の実施の形態における吸音材を使用した膜状吸音構造の構造体の断面図。
【図6】本発明の第1若しくは第2の実施の形態における吸音材を遮音壁に適用した構造体の断面図。
【図7】本発明の第1若しくは第2の実施の形態における吸音材を遮音壁に適用した他の構造体の断面図。
【符号の説明】
【0084】
1・・・吸音材
11・・・第1の膜
12・・・第1の多孔質体層
13・・・第2の多孔質体層
14・・・第2の膜
15・・・第3の多孔質体層
2・・・剛壁
3、3a、3b、3c・・・構造体
4a、4b・・・支持部材
5・・・背後空気層
6・・・中空二重壁体
6a・・・第1の壁部材
6a・・・第2の壁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムまたはアクリル樹脂から成る第1の膜と、前記第1の膜の前面側に積層される第1の多孔質体層と、前記第1の膜の背面側に積層される第2の多孔質体層と、前記第1の多孔質体層の前面側に積層される第2の膜と、前記第2の膜の前面側に積層される第3の多孔質体層とを備えることを特徴とする吸音材。
【請求項2】
前記ゴムは、シリコーンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、ポリオレフィンのうちから選択された何れかのゴムであることを特徴とする請求項1記載の吸音材。
【請求項3】
前記第1の膜および前記第2の膜の少なくとも一方の燃焼発熱量は、8MJ/m以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の吸音材。
【請求項4】
前記第1の膜および前記第2の膜の少なくとも一方の燃焼発熱速度は、[200kW/m]・10sec以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の吸音材。
【請求項5】
前記第1の膜および前記第2の膜の少なくとも一方は、無機化合物および/または炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項記載の吸音材。
【請求項6】
前記無機化合物は、Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物または前記Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物の混合物から成ることを特徴とする請求項5記載の吸音材。
【請求項7】
前記炭素繊維は、繊維径が10〜30μm、長さの平均値が0.3〜2mm、添加量が主剤のゴムまたはアクリル樹脂に対し0.5〜10部であることを特徴とする請求項5記載の吸音材。
【請求項8】
前記第1の多孔質体層、前記第2の多孔質体層および前記第3の多孔質体層の少なくとも何れか一方は、難燃性を有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7何れか1項記載の吸音材。
【請求項9】
前記第1の多孔質体層、前記第2の多孔質体層および前記第3の多孔質体層の少なくとも何れか一方は、グラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項7何れか1項記載の吸音材。
【請求項10】
前記第1の膜は、前記第1の多孔質体層および前記第2の多孔質体層の少なくとも一方と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項11】
前記第2の膜は、前記第1の多孔質体層および前記第3の多孔質体層の少なくとも一方と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項12】
前記第1の膜は、接着により前記第1の多孔質体層および前記第2の多孔質体層の少なくとも一方と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項13】
前記第2の膜は、接着により前記第1の多孔質体層および前記第3の多孔質体層の少なくとも一方と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項14】
前記第1の膜は、熱融着により前記第1の多孔質体層および前記第2の多孔質体層の少なくとも一方と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項15】
前記第2の膜は、熱融着により前記第1の多孔質体層および前記第3の多孔質体層の少なくとも一方と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項16】
前記第1の膜は、シリコーングラフト反応により前記第1の多孔質体層および前記第2の多孔質体層の少なくとも一方と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項17】
前記第2の膜は、シリコーングラフト反応により前記第1の多孔質体層および前記第3の多孔質体層の少なくとも一方と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項18】
前記第1の膜は、前記第1の膜の一部が前記第1の多孔質体層および前記第2の多孔質体層の少なくとも一方の孔部に入り込むことで前記第1の多孔質体層および/または前記第2の多孔質体層と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項19】
前記第2の膜は、前記第2の膜の一部が前記第1の多孔質体層および前記第3の多孔質体層の少なくとも一方の孔部に入り込むことで前記第1の多孔質体層および/または前記第3の多孔質体層と一体化していることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音材。
【請求項20】
請求項1乃至請求項19の何れか1項記載の吸音材と、剛壁とを備え、前記吸音材は、前記吸音材を構成する第2の多孔質体層を前記剛壁側に向けて、前記剛壁と平行に設置されていることを特徴とする構造体。
【請求項21】
請求項1乃至請求項19の何れか1項記載の吸音材と、遮音板とを備え、前記吸音材は、前記吸音材を構成する第2の多孔質体層を前記遮音板側に向けて、前記遮音板と平行に設置されていることを特徴とする構造体。
【請求項22】
請求項1乃至請求項19の何れか1項記載の吸音材と、剛壁とを備え、前記吸音材は、空気層を介して前記吸音材を構成する第2の多孔質体層を前記剛壁側に向けて、前記剛壁と平行に設置されていることを特徴とする構造体。
【請求項23】
請求項1乃至請求項19の何れか1項記載の吸音材と、遮音板とを備え、前記吸音材は、空気層を介して前記吸音材を構成する第2の多孔質体層を前記遮音板側に向けて、前記遮音板と平行に設置されていることを特徴とする構造体。
【請求項24】
請求項1乃至請求項19の何れか1項記載の吸音材を備え、前記吸音材の燃焼発熱量は、8MJ/m以下、燃焼発熱速度が[200kW/m]・10sec以下であることを特徴とする構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−47567(P2007−47567A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233210(P2005−233210)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(306013119)昭和電線デバイステクノロジー株式会社 (118)
【Fターム(参考)】