説明

周波数追尾装置

【課題】異なるコヒーレント加算時間で算出した積算パワーの平方根の差分によって周波数ずれ量を算出することで、高精度な周波数ずれ量を算出する。
【解決手段】 所望の衛星信号yを加算時間Mでコヒーレント加算し、N回ノンコヒーレント加算をして、積算パワー|yを算出する積算器17と、衛星信号yを加算時間Mと異なる加算時間Mでコヒーレント加算し、N回ノンコヒーレント加算をして、積算パワー|yを算出する積算器18と、積算器17によって算出される積算パワーの平方根|y|と、積算器18によって算出される積算パワーの平方根|y|との差分から、周波数ずれ量Δfを算出する周波数ずれ演算器20と、を備え、周波数ずれ演算器20で算出された周波数ずれ量Δfに基づいて、所望の衛星信号yを追尾する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、衛星信号の搬送波周波数を追尾する周波数追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、GPS(Global Positioning System)やGalileoなどの衛星信号受信装置においては、衛星信号を捕捉し、車両や歩行者などの地上の受信者の位置や速度などを求めている。このようにして求めた測位結果(受信者の位置や速度)は、カーナビゲーションシステムやITS(Intelligent Transportation Systems、高度道路交通システム)などに利用されるため、高い信頼性が要求される。ところが、木々などに囲まれているような衛星の信号強度が劣化しやすい環境に受信者が位置する場合は、衛星信号の搬送波周波数を高い信頼性で追尾することが困難になる。搬送波周波数の追尾が困難になれば、測位結果の精度が劣化したり、非測位状態になったりしてしまう。このような場合であっても、衛星信号の搬送波周波数を高度に追尾するために衛星信号受信装置は周波数追尾装置を備える。
【0003】
周波数追尾装置は、所望衛星のローカル周波数信号(ベースバンド処理部で本装置が扱いやすい所定の周波数に変換したローカル信号)と本装置内で生成するレプリカ信号との周波数ずれ量を算出し、算出した周波数ずれ量に基づいてキャリアNCO(Numerically Controlled Oscillator)がレプリカ信号の周波数を周波数ずれ量を最小化するように補正し、補正を繰り返すことによって、所望衛星のローカル信号とレプリカ信号とを同期させ、衛星信号の搬送波周波数を追尾するものである。従来の周波数追尾装置100は、図3に示すように、フェーズローテータ101、積算器102とディスクリミネータ103とループフィルタ104とエッジ情報発生器105とキャリアNCO106とを備えることが知られている。周波数追尾装置100は、フェーズローテータ101で所望衛星のローカル信号とレプリカ信号とを複素数乗算し、複素数乗算した信号に重畳する高周波雑音を抑圧するために積算器102によって積算(フィルタリング)し、ディスクリミネータ103で所望衛星のローカル信号とレプリカ信号との周波数ずれ量を算出し、ループフィルタ104で周波数ずれ量に重畳する雑音をさらに抑圧し、雑音が抑圧された周波数ずれ量に基づいてキャリアNCO106がレプリカ信号の周波数を補正する。そして、このようにして所望衛星のローカル信号の周波数と、レプリカ信号の周波数との周波数ずれ量がゼロとなるように制御する。また、エッジ情報発生器105は、所望衛星のローカル信号に重畳している航法データやセカンダリーコードによる符合反転情報(エッジ情報)を積算器102に通知するものである。例えば、GPS L1C/Aの航法データの符合反転は、航法データのボーレートが50bpsなので20ms毎に符合反転する可能性がある箇所が現れる。積算器102は符合反転境界を跨がないように積算することで、最大利得の積算結果を得ることができる。
【0004】
ところで、衛星の信号強度が劣化しやすい環境において、衛星の搬送波位相(以下、「位相」と記す)が不安定になることが知られている。例えば、衛星と受信者間に葉っぱなどの障害物が突然割り込むことで衛星信号が屈折や反射し、これにより位相の突発的なオフセット変化やサイクルスリップが発生し、位相が不安定になる。ディスクリミネータ103では、位相を離散時間微分することによって周波数ずれ量を算出しているため、位相が不安定な場合には、算出する周波数ずれ量に位相不安定に起因する誤差が含まれ、このため周波数追尾が不安定になったり、誤った周波数を追尾したりするおそれがあった。
【0005】
信号強度やノイズに時間的な変動があっても、誤った周波数を追尾することがないようにする周波数推定装置(周波数追尾装置)として特許文献1の技術が知られている。この周波数推定装置は推定周波数(周波数ずれ量)を求めるために2つ以上の受信チャンネル(受信回路)を使用して評価用周波数を取得し、取得した2つ以上の評価用周波数から周波数ずれ量を算出するものである。受信チャンネルは、図3に示した従来の周波数追尾装置100と同等な回路で構成され、1つの衛星の周波数を追尾する場合には、2つ以上の受信チャンネルを使用するために、従来の2倍以上の回路規模や消費電流が必要になってしまうという欠点があった。また、回路規模や消費電流の増大を抑制した衛星信号追尾装置(周波数追尾装置)に関する技術として特許文献2の技術が知られている。この衛星信号追尾装置は、周波数ずれ量を信号パワー(積算パワー)比によって求めるものであるため、分子の積算パワーと分母の積算パワーとが同等な倍率になるような周波数ずれ(周波数シフト)が発生した場合、積算パワーの比の計算では周波数ずれ量を正確に検出できないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3924500号
【特許文献2】特開2008−111684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、回路規模や消費電力の増加を最小限に抑え、周波数ずれ量を正確に検出するために、異なるコヒーレント加算時間で算出した積算パワーの平方根の差分によって周波数ずれ量を算出することで、高精度な周波数ずれ量を算出することができる周波数追尾装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、所望の衛星信号とキャリアNCOからのレプリカ信号とをフェーズローテータによって複素数乗算し、前記複素数乗算値に基づき積算器によって信号を積算した後に、周波数ずれ量を算出し、前記周波数ずれ量をフィードバックすることにより、前記衛星信号の搬送波周波数と前記レプリカ信号の周波数の周波数ずれ量がゼロとなるように制御する周波数追尾装置であって、前記所望の衛星信号を第1の所定加算時間でコヒーレント加算し、第1の所定回数のノンコヒーレント加算をして、第1の積算パワーを算出する第1の積算器と、前記所望の衛星信号を第1の所定加算時間と異なる第2の所定加算時間でコヒーレント加算し、第2の所定回数のノンコヒーレント加算をして、第2の積算パワーを算出する第2の積算器と、前記第1の積算パワーの平方根と前記第2の積算パワーの平方根との差分から、周波数ずれ量を算出する周波数ずれ演算器と、を備え、前記周波数ずれ演算器で算出された周波数ずれ量に基づいて、所望の衛星信号を追尾する、ことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、第1の積算器によって算出される第1の積算パワーの平方根と、第2の積算器によって算出される第2の積算パワーの平方根との差分から、周波数ずれ量が算出される。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の周波数追尾装置において、前記所望の衛星信号の位相ずれ量を離散時間微分することによって周波数ずれ量を算出するディスクリミネータと、前記周波数ずれ演算器で算出された周波数ずれ量と、前記ディスクリミネータで算出された周波数ずれ量とに基づいて最適な周波数ずれ量を算出する加重平均器と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、周波数ずれ量を、第1の所定加算時間でコヒーレント加算した第1の積算パワーの平方根と、第1の所定加算時間と異なる第2の所定加算時間でコヒーレント加算した第2の積算パワーの平方根との差分から算出するので、算出する周波数ずれ量にオフセットが加わることはない。つまり、第1の所定加算時間と第2の所定加算時間とが異なっているので、第1の積算パワーの平方根と第2の積算パワーの平方根との差分から必ず周波数ずれ量を算出できる。算出された周波数ずれ量は、従来のディスクリミネータのように位相ずれ量を離散時間微分するという演算を用いていないので、位相の突発的なオフセット変化やサイクルスリップが多発する場合であっても、周波数ずれ量を精度よく求められる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、前記周波数ずれ演算器で算出した周波数ずれ量と、前記ディスクリミネータで算出した周波数ずれ量とに基づいて、加重平均器で、衛星信号の受信状態などに応じて適正な周波数ずれ量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態に係る周波数追尾装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の周波数追尾装置における第1の積算器、第2の積算器で算出する周波数ずれ量と積算パワーの劣化度の関係を示す図である。周波数ずれ量と積算パワーの劣化度の関係の関係はsinc関数になる。
【図3】従来の周波数追尾装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0015】
図1および図2は、この発明の実施の形態を示している。
【0016】
周波数追尾装置1は、GPSやGalileoなどの衛星信号受信装置(図示略)に複数が備えられている。つまり、周波数追尾装置1は、衛星信号受信装置が受信する複数の衛星信号毎に備えられ、それぞれの周波数追尾装置1はそれぞれ異なる所望の衛星信号yの搬送波周波数Fを追尾する。また、衛星信号yは、衛星信号受信装置のアンテナ(図示略)で受信され、周波数追尾装置1に伝達される。周波数追尾装置1は当該衛星信号yのレプリカ信号を生成することで当該衛星信号yを追尾対象とする。この周波数追尾装置1は、図1に示すように、主として、フェーズローテータ11、キャリアNCO12、エッジ情報発生器13、積算器14、17、18、19、ディスクリミネータ(周波数弁別器)15、ループフィルタ16、周波数ずれ演算器20、加重平均器31とを備える。この周波数追尾装置1は、所望の衛星信号y(ロカール信号)とキャリアNCO12からのレプリカ信号とをフェーズローテータ11によって複素数乗算し、積算器14、17、18、19によって複素数乗算値を積算し、ディスクリミネータ15及び周波数ずれ演算器20によって積算値から周波数ずれ量ΔfとΔfとを算出し、加重平均器31によって周波数ずれ量Δfを算出してキャリアNCO12にフィードバックすることにより、衛星信号yの搬送波周波数Fとレプリカ信号の周波数Fの周波数ずれ量がゼロとなるように制御するものである。ここで、周波数追尾装置1に入力される衛星信号yは、雑音を無視すると、周波数ずれ量Δf、コード誤差Δτによって次式で表せる。
【0017】
【数1】

【0018】
数1式において、衛星信号yの捕捉後は、コード誤差Δτがほぼ0となるので、コード相関関数R(Δτ)=1とし、航法データDを無視すると、衛星信号yは次式で表せる。
【0019】
【数2】

また、位相差を除去するために、衛星信号yのノルムを算出する。
【0020】
【数3】

【0021】
フェーズローテータ11は、衛星信号yの搬送波とレプリカ信号とを複素数乗算することにより生成されるI、Q信号(Inphase、Quadrature信号)IQを積算器14、17、18、19に出力する。
【0022】
キャリアNCO12は、後述する周波数ずれ量Δfに基づいて所望の衛星信号yの搬送波の周波数Fとほぼ同一な周波数Fのレプリカ信号を生成し、フェーズローテータ11に出力する。
【0023】
エッジ情報発生器13は、衛星信号yをコヒーレント加算する際に最大利得を得るためのエッジ情報Eを発生させ、発生させたエッジ情報Eを積算器14、17、18に出力する。ここで、エッジ情報Eとは、航法データやセカンダリーコードによる符合反転タイミングを示すもので、積算器14、17、18はこのエッジ情報Eを使用して符合反転タイミングを含まないようにコヒーレント加算することによって、最大利得を得ることができるようになる。エッジ情報Eは、一度、データビットのビット境界である符合反転タイミングを検出すれば既知情報となり、以後は符合反転タイミングを検出する必要はない。符合反転タイミングは、衛星の軌道を求めるためのパラメータ(エフェメリス)が取得済みで測位していれば、エフェメリス及び測位情報から算出することも可能である。Galileoの場合には、E1−B/C信号はチップ周期とセカンダリーコードのデータビット同期が同一で、同期しているので、信号を捕捉していれば、捕捉したチップからセカンダリーコードの符合反転タイミングを算出できる。
【0024】
第3の積算器としての積算器14は、フェーズローテータ11から出力されたI、Q信号IQと所望の衛星信号yとの位相ずれ量の離散時間微分を算出し、ディスクリミネータ15に出力する。
【0025】
ディスクリミネータ15は、所望の衛星信号yとI、Q信号IQとから周波数ずれ量、位相ずれ量を算出し、算出した各種ずれ量をループフィルタ16に出力する。
【0026】
ループフィルタ(ローパスフィルタ)16は、ディスクリミネータ15から出力された周波数ずれ量に重畳する雑音をフィルタリングして、周波数ずれ量Δfを加重平均器31へ出力する。また、ディスクリミネータ15の各種ずれ量から周波数ずれ量Δfの補正方向(符号情報)Cを算出し、演算器26に出力する。
【0027】
第1の積算器としての積算器17は、所望の衛星信号yをコヒーレント加算時間(第1の所定加算時間)Mでコヒーレント加算し、ノンコヒーレント加算回数(第1の所定回数)Nのノンコヒーレント加算をして、第1の積算パワーを算出するものである。つまり、この積算器17は、エッジ情報発生器13から出力されたエッジ情報Eと、衛星信号yの1ms相関値であるI、Q相関値とに基づいてコヒーレント加算時間Mでコヒーレント加算し、ノンコヒーレント加算回数Nだけノンコヒーレント加算し、積算パワー(第1の積算パワー)|yを算出する。積算器17は、算出した積算パワー|yを平方根演算器21へ出力する。ここで、コヒーレント加算は、I、Q信号IQをそのまま加算するものである。ノンコヒーレント加算は、I、Q信号IQの絶対値またはこれらをコヒーレント加算した信号の信号パワー(I+Q、(I+Q1/2)を加算するものである。
【0028】
第2の積算器としての積算器18は、所望の衛星信号yをコヒーレント加算時間Mと異なるコヒーレント加算時間(第2の所定加算時間)Mでコヒーレント加算し、ノンコヒーレント加算回数(第2の所定回数)Nのノンコヒーレント加算をして、積算パワー(第2の積算パワー)|yを算出する。つまり、この積算器18は、エッジ情報発生器13から出力されたエッジ情報Eと、衛星信号yの1ms相関値であるI、Q相関値とに基づいてコヒーレント加算時間Mでコヒーレント加算し、ノンコヒーレント加算回数Nだけノンコヒーレント加算し、積算パワー|yを算出する。積算器18は、算出した積算パワー|yを平方根演算器22へ出力する。
【0029】
ここで、積算器17、18から出力される積算パワー|y、|yは、次式で算出される。
【0030】
【数4】

【0031】
【数5】

【0032】
積算器19は、衛星信号の1ms相関値であるI、Q相関値をN回ノンコヒーレント加算し、平方根演算器24へ出力する。
【0033】
周波数ずれ演算器20は、積算器17、18から出力された積算パワーの平方根|y|、|y|の差分(劣化度)と、積算器19から出力された情報Pcと、ループフィルタ16から出力された周波数ずれの符号情報Cとから周波数ずれ量を算出する。この周波数ずれ演算器20は、主として、平方根演算器21、22、24、加算器23、ローパスフィルタ25、演算器26とを備える。
【0034】
平方根演算器21は、衛星信号のノルムyを算出し、加算器23に出力する。数3式と数4式からノルムyは次式で表される。
【0035】
【数6】

【0036】
平方根演算器22は、衛星信号のノルムyを算出し、加算器23に出力する。数3式と数5式からノルムyは次式で表される。
【0037】
【数7】

ここで、コヒーレント加算時間T=M、T=Mである。
【0038】
加算器23は、平方根演算器21、22で算出された積算パワー|yのノルム(平方根)と積算パワー|yのノルムの差分を算出し、演算器26に出力する。つまり、加算器23が算出するのは、数6式、数7式においてコヒーレント加算時間T、Tは異なる値であるので、図2に示すように、積算器17、18が出力するsinc関数の波形の差分(積算パワーの平方根の劣化度、|y|−|y|)である。ここで、図2に示すように、例えば、積算パワーの平方根の劣化度が約3.6dB(=−1.4−(−5))の場合は、周波数ずれ量は約28Hzまたは約−28Hzのいずれかとなり、周波数ずれ量の符号情報は不明である。このため、加算器23は周波数ずれ量の絶対値を演算器26に出力する。
【0039】
平方根演算器24は、積算器19から出力される情報Pcのノルムを算出し、ローパスフィルタ25に出力する。ローパスフィルタ25が出力する正規化情報Sを次式で表す。
【0040】
【数8】

数8式は、コヒーレント加算を行っていないので、周波数ずれによる積算値の劣化は無視可能である。
【0041】
ローパスフィルタ25は、平方根演算器24で出力された正規化情報Sの雑音をフィルタリングして、演算器26へ出力する。
【0042】
演算器26は、加算器23から出力された積算パワーの平方根の劣化度P、ローパスフィルタ25から出力された正規化情報S、ループフィルタ16から出力された符号情報Cから、周波数ずれ量Δfを算出する。まず、数6式、数7式、数8式から劣化度P(|y|−|y|)は次式で表せる。
【0043】
【数9】

これにより、周波数ずれ量Δfは次式で求まる。
【0044】
【数10】

さらに、符号情報Cを加味することによって、周波数ずれ量Δfが求まる。
【0045】
【数11】

ここで、α=1/6・π(T−T)(T+T)とした。TとTは既知の情報であるため、αは予め算出できる。また、数9式には次の近似式を使用した。sincθ≡sinθ/θ≒1−θ/6 この式は、sinθを0まわりでテイラー展開した式である。また、符号情報Cは周波数ずれ量Δfの補正方向を示す値であり、値は+1又は−1である。
【0046】
加重平均器31は、周波数ずれ演算器20で算出された周波数ずれ量Δfと、ディスクリミネータ15で算出された周波数ずれ量Δfとに基づいて最適な周波数ずれ量を算出するもので、周波数ずれ量ΔfとΔfとの重み付き平均を計算する。そして、算出した周波数ずれ量ΔfをキャリアNCO12にフィードバックする。ここで、加重平均器31の加重は、サイクルスリップが多発している場合には、ディスクリミネータ15で算出した周波数ずれ量Δfは精度が劣化しているため、ディスクリミネータ15の周波数ずれ量Δfの重みを小とし、周波数ずれ演算器20で算出した周波数ずれ量Δfの重みを大にする。また、周波数ずれ量Δfが数Hz以下と小さく、位相が不安定になる状況でなければ、離散時間微分により、瞬間的な周波数ずれ量が求められるディスクリミネータ15を使用した方が良い場合もあるので、ディスクリミネータ15で算出した周波数ずれ量Δfの重みを大とし、周波数ずれ演算器20で算出した周波数ずれ量Δfの重みを小にする。
【0047】
このようにして、周波数追尾装置1は、追尾対象(追尾チャネル)の衛星信号を追尾する。そして、衛星信号受信装置は、このようにして追尾した各追尾チャネルの追尾情報、衛星データ、ユーザ概略位置、受信時刻に基づいてユーザ位置を算出する。
【0048】
次に、周波数追尾装置1の周波数追尾の始動の仕方について説明する。
【0049】
まず、衛星信号受信装置及び周波数追尾装置1の電源がONされ、衛星信号受信装置のアンテナで受信している衛星信号yがサーチされる。そして、サーチによって衛星信号yを捕捉すると、捕捉した衛星信号yを追尾するために、捕捉情報が追尾チャネル毎に振り分けられ、追尾チャネルに対応する周波数追尾装置1が上述の通りに周波数追尾を開始する。
【0050】
以上のように、この周波数追尾装置1によれば、周波数ずれ演算器20は異なるコヒーレント加算時間M、Mで算出した積算パワーの平方根|y|、|y|の差分(劣化度)から周波数ずれ量Δfを算出するので、位相が不安定でも高精度な周波数ずれ量Δfを算出できる。つまり、コヒーレント加算時間M、Mが異なっているので、積算パワーの平方根|y|、|y|の劣化度から必ず周波数ずれ量Δfを算出できる。このため、位相の突発的なオフセット変化やサイクルスリップが多発する場合は、ディスクリミネータ15が出力する周波数ずれ量Δfは、位相ずれ量の離散時間微分から算出しているので精度が落ちてしまうが、周波数ずれ量Δfは位相ずれ量を離散時間微分するという演算を用いていないので、周波数ずれ量Δfによって周波数追尾を高精度に継続することができる。
【0051】
また、周波数ずれ量Δfは、周波数ずれ演算器20で算出した周波数ずれ量Δfと、ディスクリミネータ15で算出した周波数ずれ量Δfとに基づいて、加重平均器31で加重平均して算出するので、衛星信号yの受信状態などに応じて最適な周波数ずれ量Δfを算出できる。つまり、制御に用いる周波数ずれ量に関し、特徴の異なる2系統の情報を用いるため、周波数追尾の性能が向上する。
【0052】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、最適な周波数ずれ量Δfを算出するために加重平均器31ではなく、カルマンフィルタを使用して算出してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 周波数追尾装置
11 フェーズローテータ
12 キャリアNCO
13 エッジ情報発生器
14 積算器(第3の積算器)
15 ディスクリミネータ
17 積算器(第1の積算器)
18 積算器(第2の積算器)
19 積算器
20 周波数ずれ演算器
26 演算器
31 加重平均器
Δf 周波数ずれ量
搬送波周波数
レプリカ信号の周波数
|y 第1の積算パワー
|y 第2の積算パワー
S 正規化情報
コヒーレント加算時間(第1の所定加算時間)
コヒーレント加算時間(第2の所定加算時間)
ノンコヒーレント加算回数(第1の所定回数)
ノンコヒーレント加算回数(第2の所定回数)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の衛星信号とキャリアNCOからのレプリカ信号とをフェーズローテータによって複素数乗算し、前記複素数乗算値に基づき積算器によって信号を積算した後に、周波数ずれ量を算出し、前記周波数ずれ量をフィードバックすることにより、前記所望の衛星信号の搬送波周波数と前記レプリカ信号の周波数の周波数ずれ量がゼロとなるように制御する周波数追尾装置であって、
前記所望の衛星信号を第1の所定加算時間でコヒーレント加算し、第1の所定回数のノンコヒーレント加算をして、第1の積算パワーを算出する第1の積算器と、
前記所望の衛星信号を第1の所定加算時間と異なる第2の所定加算時間でコヒーレント加算し、第2の所定回数のノンコヒーレント加算をして、第2の積算パワーを算出する第2の積算器と、
前記第1の積算パワーの平方根と前記第2の積算パワーの平方根との差分から、周波数ずれ量を算出する周波数ずれ演算器と、を備え、
前記周波数ずれ演算器で算出された周波数ずれ量に基づいて、所望の衛星信号を追尾する、
ことを特徴とする周波数追尾装置。
【請求項2】
前記所望の衛星信号の位相ずれ量を離散時間微分することによって周波数ずれ量を算出するディスクリミネータと、
前記周波数ずれ演算器で算出された周波数ずれ量と、前記ディスクリミネータで算出された周波数ずれ量とに基づいて最適な周波数ずれ量を算出する加重平均器と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の周波数追尾装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−173153(P2012−173153A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35842(P2011−35842)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】