説明

呼吸指示装置

【課題】心拍に同期して呼吸を行うように被検者や患者、使用者を促す呼吸指示装置、および、このような制御装置を備えた医療用計測装置、医療用治療装置および健康器具を提供する。
【解決手段】本発明の呼吸指示装置は、対象者の心拍に関する情報を取得する心拍情報取得部101と、心拍に関する情報を解析し、心拍の特定位相に同期する信号を出力する心拍解析部102と、心拍の特定位相に同期する信号に基づいて、対象者の好ましい呼吸のタイミング示す呼吸指示信号を出力する呼吸指示信号出力部103とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍に同期して呼吸を行うように被検者や患者、使用者を促す呼吸指示装置、および呼吸指示装置を備えた血圧計や超音波診断装置、X線CT装置、MRI装置などの医療用計測装置、あるいは超音波治療装置や放射線治療装置、温熱治療装置、結石破砕装置などの医療用治療装置、あるいはウォーキングマシンやジョギングマシン、筋力トレーニングマシン、乗馬マシン、マッサージ機、低周波治療器、酸素供給装置、酸素濃縮装置などの健康器具に関する。
【背景技術】
【0002】
血圧計や超音波診断装置、X線CT装置、MRI装置などの医療用計測装置や、超音波治療装置や放射線治療装置、温熱治療装置、結石破砕装置などの医療用治療装置、ウォーキングマシンやジョギングマシン、筋力トレーニングマシン、乗馬マシン、マッサージ機、低周波治療器、酸素供給装置、酸素濃縮装置などの健康器具では、被検者や患者、使用者の呼吸に関する情報または心拍に関する情報に同期させて装置を制御する場合がある。
【0003】
まず、医療用計測装置について述べる。非特許文献1(35ページ、43ページ、123ページなど)は、超音波診断装置を用いて被検者や患者の観察を行う場合、適切な観察のために、観察部位に応じて、被検者や患者にどのような呼吸方法を指示すべきか記載している。具体的には、肋骨弓下走査による肝臓の観察では深呼気により肝臓を下方へ移動させると記載している。また、肋間走査による心臓の観察では心臓の前方に位置する肺の影響を少なくするためには、浅い呼吸を行わせると記載している。
【0004】
一般的に、心臓の診断では、心拡張末期の体積と心収縮末期の体積との差である駆出血流量が重要な診断指標となっている。駆出血流を正確に計測するためには、被検者への呼吸の指示とともに、心拍を正確に計測して心拡張末期と心収縮末期を特定し、心拍に同期させて計測することが重要である。しかし、被検者への呼吸の指示は検査者が口頭で指示し、心拍は心電を使って同期させているのが実情であり、双方を同時かつ自動で行う装置はない。
【0005】
特許文献1は、音楽を聞かせるなどの患者の呼吸の乱れを制御する手段を備える、呼吸同期核磁気共鳴イメージング装置を開示している。これにより、撮像中の患者の呼吸状態を定常状態に近づけ、体動により生じる画質の劣化を軽減できると記載している。しかし、この方法では呼吸を安定させることはできるが、検査者が望む任意の呼吸を患者にさせることはできない。また、心拍に関しての記載も無い。
【0006】
特許文献2は、周期的呼吸運動を検出する手段を備え、呼吸運動の特定の基準時刻から任意時間遅延された断層像を形成する呼吸同期式の超音波診断装置を開示している。これにより、呼吸を止める必要がなく、呼吸による生体臓器の運動に関わらず、超音波断層画像を得ることができ、バイオプシ、ハイパーサーミアなどの治療を行うことができると記載されている。しかしながら、心拍に関しての記載は無い。
【0007】
特許文献3は、静磁場、勾配磁場およびRF磁場を被検者に印加して磁気共鳴信号を収集する信号収集手段と、被検者の呼吸を検出する呼吸検出手段と、磁気共鳴信号と呼吸検出信号に基づいて予め定められた呼吸位相における画像を再構成する画像再構成手段と、呼吸検出信号に基づいて呼吸状態を被検者に表示する表示手段を備えたMRI装置を開示している。特許文献3の装置によれば、呼吸検出信号に基づいて呼吸状態を被検者に表示する表示手段を備えるため、被検者は表示された呼吸状態に基づいて自ら呼吸状態を調整することができ、これによって呼吸同期撮影を能率良く行うことができると記載されている。しかし、このような呼吸は周期ゆれのない一定周期で行われるものではなく、また特許文献2または3に記載された方法では、心拍は考慮されていない。
【0008】
特許文献4は、心電波形とともに呼吸波形を取り込み、心拍と呼吸の双方に同期したマルチゲートイメージを作成可能とした核医学データ処理方法を開示している。これにより、呼吸同期によるマルチゲートイメージを作成し、心機能の判定に必要な駆出率などのパラメータの精度を大きく向上させることができると記載されている。
【0009】
特許文献5は、心電波形および呼吸波形のいずれかを計測する手段を備え、特定の心電位相や呼吸位相のときのみ撮像するX線コンピュータ断層撮像装置を開示している。特許文献5によれば、被曝量を軽減しながら、所望の心電位相や呼吸位相の断層像だけを観察することができると記載されている。
【0010】
特許文献6は、呼吸センサおよび心電計の両出力に基づいて、内蔵の動きが比較的小さい安定期間に、少なくとも1心拍周期と、1枚の画像再構成に必要なデータが得られる収集期間との合計時間にわたって、投影データを収集するX線コンピュータ断層撮像装置を開示している。特許文献6によれば、呼吸による上下動の影響無く画像を撮影することができると記載されている。
【0011】
しかし、心拍周期と呼吸周期とは本来異なるものであり、また一定周期ですらないため、特許文献4から6に記載された方法では、必要な心時相と呼吸位相とが一致することは少なく、計測時間が長くなることが予想される。
【0012】
次に、医療用治療装置について述べる。特許文献7は、入力された呼吸の情報を解析してその情報から治療が可能かどうかを判定する解析モジュールと、その解析結果に応じて同期信号をオンオフする出力モジュールとを備える放射線治療や結石破砕などの治療システムにおける呼吸同期装置を開示している。この解析モジュールには、入力された呼吸信号の正規化を行う信号正規化モジュールと、正規化された信号レベルから治療すべき位相を判定して治療期間を出力する治療期間判定モジュールと、入力された信号波形から呼吸状態の異常を検出する異常判定モジュールとを備える。この異常判定モジュールが治療時における呼吸情報から異常波形を検出した場合、上記同期信号をオフにする。特許文献7によれば、これにより、呼吸情報に基づいて治療を行う場合に、この呼吸情報の中に異常波形が含まれたときには、これを検出して治療を禁止することができると記載されている。しかし、この装置は、受動的に呼吸の異常を検出して治療を停止するのみで、積極的に呼吸を制御することはできず、また、心拍は考慮されていない。
【0013】
特許文献8は、呼吸性移動臓器の平静時の呼吸による移動のみならず、生理的条件や精神的条件に支配されて変動する呼吸による移動に対しても、その移動に伴い移動する標的を外すことなく常に放射線照射を可能とする定位的放射線治療装置を開示している。しかし、この装置も受動的に呼吸の位相を検出して治療を制御するのみで、積極的に呼吸を制御することはできず、また、心拍は考慮されていない。
【0014】
次に、健康器具について述べる。特許文献9は、エアロビクス運動の呼吸間隔に合わせて調整可能な呼吸音発生装置を備えたエアロビ用酸素濃縮装置を開示している。これにより、初心者でもリズムに合わせて充分な酸素を取り入れ、優れたエアロビクス運動を行えると記載されている。
【0015】
特許文献10は、ほぼ吸気期間に合せて酸素発生装置又は酸素濃縮器から酸素を吐出させ、ほぼ呼気期間に合せて酸素発生装置又は酸素濃縮器からの酸素の吐出を停止又は減少させることを特徴とする酸素発生装置又は酸素濃縮器を開示している。特許文献10によれば、酸素吸入効果を従来とほぼ同等に維持しつつ、使用酸素発生装置又は酸素濃縮器を軽量化し、かつ、低消費電力化することができ、経済的に有利な酸素吐出方法及び酸素吐出装置を提供することができると記載されている。
【0016】
特許文献11は、利用者が自発的に呼吸を行う際に、呼吸動作を誘導して同期させるべき指標として施療子の駆動、および、外的刺激信号の提示の少なくともいずれか一方を行う呼吸誘導指標提供手段を備えたマッサージ機を開示している。呼吸誘導指標提供手段は、誘導しようとする呼吸動作に対応して施療子の駆動状態及び外的刺激信号を制御する呼吸誘導指標制御手段を含んでいる。特許文献11によれば、簡単な構成により、利用者に無理なく、自発的な呼吸を行わせることができると記載されている。
【0017】
しかし、特許文献9から11に記載された装置は、装置が定めた周期で使用者に自発呼吸をさせるものであり、心拍をはじめとする使用者の身体の状況は一切考慮されていない。
【非特許文献1】秀潤社「ポケット超音波アトラス正常画像編」伊藤武雄&高坂登共著、ISBN4−87962−072−6
【特許文献1】特開平1−097445号公報
【特許文献2】特開昭62−275441号公報
【特許文献3】特開2006−158762号公報
【特許文献4】特開昭60−068839号公報
【特許文献5】特開平7−194588号公報
【特許文献6】特開2000−262513号公報
【特許文献7】特開平11−333007号公報
【特許文献8】特開平7−246245号公報
【特許文献9】特開平1−249604号公報
【特許文献10】特開2000−157635号公報
【特許文献11】特開2002−143251号公報
【特許文献12】WO2004/103185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献4から6に開示された医療用計測装置や医療用治療装置では、心拍と呼吸の双方に同期させる手段として、心拍および呼吸の両方のデータを取得し、双方に設定された条件をともに満足したときに、計測や治療を行なうようにしている。しかし、心拍周期と呼吸周期は本来異なるものであり、また一定周期ですらないため、これら従来の方法では、計測や治療を行なうことができる期間は限られ、計測時間や治療時間が長くなりがちである。
【0019】
また、健康器具のように、定められた周期で自発呼吸を促すようにしたものもあるが、これら従来の方法は被検者や患者、使用者の心拍など身体の状態を無視した一方的な周期で呼吸させるものであった。
【0020】
本発明は、このような従来技術の解決を解決し、心拍に同期して呼吸を行うように被検者や患者、使用者を促す呼吸指示装置、および、このような制御装置を備えた医療用計測装置、医療用治療装置および健康器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の呼吸指示装置は、対象者の心拍に関する情報を取得する心拍情報取得部と、前記心拍に関する情報を解析し、前記心拍の特定位相に同期する信号を出力する心拍解析部と、前記心拍の特定位相に同期する信号に基づいて、前記対象者の好ましい呼吸のタイミングまたは方法を示す呼吸指示信号を出力する呼吸指示信号出力部とを備える。
【0022】
ある好ましい実施形態において、呼吸指示装置は、前記対象者の呼吸に関する情報を取得する呼吸監視部と、前記心拍に関する情報と、前記呼吸に関する情報とに基づいて、前記心拍と前記呼吸とが同期したかどうかを判定する同期判定部とをさらに備える。
【0023】
ある好ましい実施形態において、呼吸指示装置は、前記同期判定部の出力である同期判定信号を前記対象者または装置の操作者に対して出力する同期判定結果出力部をさらに備える。
【0024】
ある好ましい実施形態において、前記呼吸監視部は、呼吸気流を検出する気流センサ、呼吸音を検出する呼吸音マイク、被検体の呼吸に伴う体動を検出する速度センサまたは加速度センサまたは位置センサ、のいずれかである。
【0025】
ある好ましい実施形態において、前記呼吸監視部は、前記対象者が口に含む部分または口に咥える部分を含む。
【0026】
ある好ましい実施形態において、前記心拍情報取得部は心電計、心音計、実時間血圧計、脈波計のいずれかであり、心電波形、心音波形、血圧波形、脈波波形のいずれかから前記心拍に関する情報を取得する。
【0027】
ある好ましい実施形態において、前記呼吸指示信号は音響信号、音声信号、発光信号、表示信号、触覚刺激信号、味覚刺激信号、嗅覚刺激信号のいずれかであり、前記呼吸指示信号出力部は、前記心拍の特定位相に同期する信号に基づいて前記音響信号、前記音声信号、前記発光信号、前記表示信号、前記触覚刺激信号、前記味覚刺激信号、前記嗅覚刺激信号のいずれかを変化させる。
【0028】
ある好ましい実施形態において、前記呼吸指示信号はポンプを駆動させる駆動信号であり、前記呼吸指示信号出力部は前記心拍の特定位相に同期する信号に基づいて前記ポンプの吐出または吸引する気体の流量が変化するように前記駆動信号を変化させる。
【0029】
ある好ましい実施形態において、前記同期判定結果出力部の出力信号は音響信号、音声信号、発光信号、表示信号、触覚刺激信号、味覚刺激信号、嗅覚刺激信号のいずれかであり、前記同期判定結果出力部は、前記同期判定信号に基づいて前記音響信号、前記音声信号、前記発光信号、前記表示信号、前記触覚刺激信号、前記味覚刺激信号、前記嗅覚刺激信号のいずれかを変化させる。
【0030】
本発明の医療用計測装置は、上記いずれかに規定される呼吸指示装置を備える。
【0031】
本発明の医療用計測装置は、前記同期判定部を含む呼吸指示装置を備え、前記同期判定部の出力に基づいて計測を行うタイミング、速度または計測出力を制御する。
【0032】
ある好ましい実施形態において、前記医療用計測装置は、血圧計、核磁気共鳴画像診断装置、X線撮像装置、X線CT装置、超音波診断装置のいずれかである。
【0033】
ある好ましい実施形態において、医療用計測装置は、超音波を送受信する送受信部をさらに備え、前記心拍情報取得部は、前記送受信部から送信し対象物において反射した超音波を前記送受信部において受信することによって生成した超音波受信信号から前記心拍に関する情報を取得する。
【0034】
本発明の医療用治療装置は、上記いずれかに規定される呼吸指示装置を備える。
【0035】
本発明の医療用治療装置は、前記同期判定部を含む呼吸指示装置を備え、前記同期判定部の出力によって、治療を行うタイミング、速度または出力を制御する。
【0036】
ある好ましい実施形態において、前記医療用治療装置は、放射線治療装置、超音波治療装置、温熱治療装置、結石破砕装置のいずれかである。
【0037】
本発明の健康器具は、上記いずれかに規定される呼吸指示装置を備える。
【0038】
本発明の健康器具は、前記同期判定部を含む呼吸指示装置を備え、前記同期判定部の出力に基づいて、動作のタイミング、速度または出力を制御する。
【0039】
ある好ましい実施形態において、前記健康器具は、酸素供給装置、酸素濃縮装置、ジョギングマシン、ウォーキングマシン、筋力トレーニングマシン、乗馬マシン、マッサージ機、低周波治療器のいずれかである。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、対象者が呼吸指示信号に合わせて呼吸を行うため、対象者の心拍と呼吸とを容易にかつ確実に同期させることができる。また、対象者の心拍と呼吸とが同期しているかどうかを確認できるため、確認結果に基づき、対象者が心拍と呼吸とをより確実に同期させることができる。さらに、確認結果に基づいて正確な計測または治療を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、心拍に同期して呼吸を行うように被検者や使用者を促す呼吸指示装置、および、呼吸指示装置を備えた医療用計測装置、医療用治療装置および健康器具に関する。
健康器具の場合、使用者自身の心拍に同期して、使用者が所定のタイミングで呼吸を行う。これに対し、医療用計測装置や医療用治療装置などの場合、被検者あるいは患者の心拍に同期して、被検者あるいは患者が所定のタイミングで呼吸を行い、装置の使用者あるいは操作者は、被検者の計測を行ったり、患者の治療を目的として、医療用治療装置を用いて患者に物理的作用を及したりする。以下、本願明細書では、心拍に同期して呼吸を行うように促される被検者や患者、使用者を対象者と呼ぶ。
【0042】
(第1の実施形態)
図1は本発明による呼吸指示装置の第1の施形態を示すブロック図である。図1に示す呼吸指示装置100は、心拍情報取得部101と、心拍情報解析部102と、呼吸指示信号出力部103と、制御部110とを備えている。
【0043】
心拍情報取得部101は、対象者の心拍に関する情報を取得する。心拍に関する情報とは、心臓の拍動によって生じる対象者の身体の変化についての情報であり、例えば、心電波形、心音波形、血圧波形、脈波波形などに関する情報である。これらの情報は、心電計、心音計、実時間血圧計、脈波計などによって取得される。したがって、心拍情報取得部101は、具体的には、心電計、心音計、実時間血圧計、脈波計などである。また、心拍情報取得部101は対象者から心電波形、心音波形、血圧波形、脈波波形などの情報を取得するために対象者に取り付けられる心電電極、心音マイク、血圧測定用カフ、脈波計測用センサなどを含む。
【0044】
心拍情報取得部101は、これらの計測機器の1つであってもよいし、これらの計測機器を2つ以上含んでいてもよい。心拍情報取得部101は対象者の心拍に関する情報を電気信号に変換し、例えば、心電波形や心音波形、血圧波形、脈波波形を心拍情報解析部102へ出力する。
【0045】
心拍情報解析部102は、心電波形や心音波形、血圧波形、脈波波形など、心拍に関する情報を解析して、心拍の特定位相に同期する信号を出力する。具体的には、心拍情報解析部102は、例えば、心拍の特定位相を検出し、所定間後に、アクティブを示す信号、ハイレベルの信号、または、検出したことを示すパルス波を生成する。その他の期間では、非アクティブ、ローレベルまたは基準電位となる信号を出力する。所定の時間は、0を含む一心拍よりも短い一定時間でも、一心拍の何%といった相対時間でもよい。
【0046】
特定位相とは、心拡張末期や心収縮末期といった心臓の状態を表すものであってもよいし、P波やR波といった心電のタイミングによるものであってもよい。また、I音やII音といった心音のタイミングによるものであってもよい。あるいは、心周期を特定等分した何番目といった表現でもよいし、1周期を2πと見立てた角度で表してもよい。また、検出する心拍の特定位相は1心拍に1回である必要はなく、複数回であってもよいし、出力信号が複数系統存在してもよい。
【0047】
呼吸指示信号出力部103は、心拍情報解析部102から出力される心拍の特定位相に同期する信号に基づいて、対象者の好ましい呼吸のタイミングや方法を示す呼吸指示信号を出力する。対象者にはこの呼吸指示信号に合わせて呼吸を行わせる。好ましくは、呼吸指示信号は、対象者に吸気の期間、あるいは、吸気開始のタイミング、並びに、呼気の期間、あるいは、呼気開始のタイミングを示す信号成分を含んでいる。さらに、息を吸うことも吐くことも行なわない呼吸停止期間を示す信号成分を含んでいてもよい。
【0048】
人の安静時における平均的な一分間あたりの心拍数および呼吸数は、それぞれ年齢によって異なり、また、性別によっても異なる。例えば成人男性の心拍数は通常60〜100回(平均72回)であり、呼吸数は12〜20回(平均16回)である。このため、対象者が安静にしている状態である場合、呼吸指示信号出力部103が出力する呼吸指示信号は、3心拍〜8心拍に一致した周期を有していることが好ましい。前述したように性別や対象者の年齢により、呼吸指示信号の周期と一致する心拍数は異なる。また、呼吸指示装置100が健康器具に用いられる場合や、医療用計測装置に用いられる場合であって、対象者に運動負荷がかけられている場合には、呼吸指示信号の周期と一致する心拍数は3〜8以外の整数であってもよい。呼吸による体動が抑制された時間を長くとり、体動が抑制された状態で対象者の計測や治療を行なう場合には、例えば、呼吸指示信号の周期は9心拍以上であってもよい。
【0049】
呼吸指示信号は、音響や音声などの聴覚に訴えるものであってもよいし、発光や表示などの視覚に訴えるものであってもよいし、触覚や嗅覚や味覚に訴えるものであってもよい。呼吸指示信号出力部103は、呼吸指示信号の種類に応じて、発光素子、画像表示装置、音声合成装置や音響発生装置およびスピーカー、刺激装置、臭気発生装置、あるいは物質放出装置などを含む。
【0050】
呼吸指示信号が音響信号である場合には、音響の音質や音程、音量などの違いによって、呼気と吸気あるいは呼吸停止を表す。呼吸指示信号が音声信号である場合には、発声内容によって、呼気と吸気あるいは呼吸停止を表す。呼吸指示信号が光信号である場合には、発光の輝度や色彩、点滅回数や点滅速度などの違いによって、呼気と吸気あるいは呼吸停止を表す。表示を使用する場合には、文字や記号、絵柄などによって、呼気と吸気あるいは呼吸停止を表す。また、意識のない重篤な患者などに呼吸指示装置を使用する場合には、呼吸指示信号は、ポンプを駆動させる駆動信号であり、吸気の期間および呼気の期間にそれぞれポンプが空気を吐出および吸引するように駆動信号を変化させる。
【0051】
制御部110は、呼吸指示装置100の全体を制御する。具体的には、心拍情報取得部101の利得や感度などのパラメータを制御する。また、複数の心拍情報取得部101が接続されている場合、実際に使用する1つまたは複数の心拍情報取得部101を選択する。制御部110は、ユーザーインターフェースを備えていてもよい。制御部110は、ユーザーインターフェースを用いて複数の心拍情報取得部101から実際に使用する1つまたは複数の心拍情報取得部を選択してもよいし、複数の心拍情報取得部101からそれぞれ取得される心拍に関する情報の信号の振幅やS/N比を検出し、振幅の大きい信号やS/N比の良い信号を出力する心拍情報取得部101を選択するようにしてもよい。
【0052】
また、心拍情報解析部102が心拍の特定位相を検出するアルゴリズムを複数有していたり、検出すべき特定位相が複数ある場合、制御部110は、ユーザーインターフェースを用いて実際に使用するアルゴリズムや特定位相を選択するようにしてもよいし、心拍に関する情報の信号の振幅やS/N比を検出し、検出結果に基づいて、最適なアルゴリズムや特定位相を選択するようにしてもよい。同様に、呼吸指示信号出力部103が、呼気や吸気のタイミングを決定するアルゴリズムを複数備えている場合、制御部110は、ユーザーインターフェースを用いて実際に使用するアルゴリズムや特定位相を選択するようにしてもよいし、心拍に関する情報の信号の振幅やS/N比を検出し、検出結果に基づいて、最適なアルゴリズムや特定位相を選択するようにしてもよい。一般に1分間あたりの平均呼吸回数および平均心拍回数は性別や年齢によって異なるため、ユーザーインターフェースから入力された年齢や性別に基づいて、呼気や吸気のタイミングを決定するように制御部110が呼吸指示装置100を制御してもよいし、ユーザーインターフェースから心拍と呼吸の比率を入力し、それに基づいて制御部110が呼吸指示装置100を制御してもよい。また、呼吸指示装置100が複数の呼吸指示信号出力部103を備えている場合、ユーザーインターフェースからの入力に基づいて、選択された呼吸指示信号出力部103を動作させてもよい。
【0053】
次に図2から図4を参照しながら、呼吸指示装置100の動作を説明する。
【0054】
図2は、心拍情報取得部101で検出された通常の状態にある対象者の心電波形と実際の呼吸状態を表す波形(以下、呼吸波形)を示している。図2の心電波形では、図中Rと記した上に尖った部分がR波であり、その前後の下に尖った部分がQ波およびS波である。P波、T波、U波は省略している。R波は心臓の収縮の開始を表しているとされる。図2の呼吸波形は、肺中の空気量を示しており、増加している部分は吸気期間、減少している部分は呼気期間、平らな部分は呼吸停止期間である。
【0055】
図2に示すように、通常の状態では、心電波形と呼吸波形の位相は一致していない。具体的には、図2では呼気を終了した時点を縦点線で示しているが、左側の縦点線はS波の直後であるが、中央の縦点線はS波のかなり後、右側の縦点線はQ波の直前と、全く心電波形と同期していないことがわかる。
【0056】
これに対し、図3は、心電波形の位相と呼吸波形の位相とが同期した状態を示している。具体的には、呼気の終了時点を示す縦点線が、全てQ波に一致している。本発明の呼吸指示装置100は呼吸指示信号を出力し、対象者が呼吸指示信号に合わせて呼吸を行うことによって、図3に示すように心拍と呼吸とを同期させる。
【0057】
図4は、心電波形および呼吸波形に加え、呼吸指示装置100が出力する呼吸指示信号を示している。図4の呼吸指示信号は、心電波形のR波のタイミングで、呼気、停止、吸気、停止をこの順で対象者が行なうように、繰り返して対象者の知覚を刺激する信号成分を含む。このように呼吸指示信号は心電に同期して出力される。ただし、呼気、停止、吸気、停止等の切り替えのタイミングはR波に限るものではなく、また、呼気、吸気、停止の各期間は1拍毎に限るものではない。停止期間は設けなくてもよい。
【0058】
図4の呼吸波形は、呼吸指示信号にあわせて呼吸を開始した直前から直後を示している。期間Aは呼吸指示信号にあわせて呼吸を開始する直前であり、まだ心拍と呼吸は同期していない。期間Bは呼吸指示信号に合わせて呼吸を開始した直後であり、心拍と呼吸とは同期している。
【0059】
このように、本実施形態の呼吸指示装置によれば、対象者が呼吸指示信号に合わせて呼吸を行うため、心拍と呼吸とを容易にかつ確実に同期させることができる。
【0060】
(第2の実施形態)
図5は本発明による呼吸指示装置の第2の実施形態を示すブロック図である。図5に示す呼吸指示装置100’は、心拍情報取得部101と、心拍情報解析部102と、呼吸指示信号出力部103と、呼吸監視部104と、同期判定部105と、同期判定結果出力部106と、制御部110’とを備えている。
【0061】
本実施形態の呼吸指示装置100’は対象者の呼吸状態を監視し、検査者または対象者へ呼吸と心拍とが同期しているかを知らせるために、呼吸監視部104、同期判定部105および同期判定結果出力部106を備えている点で第1の実施形態の呼吸指示装置100と異なっている。このため、第1の実施形態と同じ機能を有し、同様に動作するブロックの説明は省略する。
【0062】
呼吸監視部104は、対象者の呼吸に関する情報を取得する。具体的には、呼吸監視部104は、呼吸気流を検出する気流センサ、呼吸音を検出する呼吸音マイク、呼吸に伴う体動を検出する速度センサまたは加速度センサまたは位置センサなどである。呼吸に伴う気流や体動を検出できるセンサであれば他のものであってもよい。これらは単独で使用してもよいし、複数を組み合わせて使用してもよい。呼吸監視部104は、対象者の呼吸に関する情報を取得し、電気信号に変換して同期判定部105へ出力する。
【0063】
同期判定部105は、心拍に関する情報と、呼吸に関する情報とに基づいて、前記心拍と前記呼吸とが同期しているかどうかを判定する。具体的には、心拍情報取得部101の出力である心電波形や心音波形、血圧波形、脈波波形などの心拍に関する情報と、呼吸監視部104の出力である気流や呼吸音、体動などの呼吸に関する情報を解析して、心拍と呼吸が同期しているかどうか判定し、同期判定信号を出力する。
【0064】
同期しているかどうかを判定する方法は種々考えられる。最も簡単な方法として、例えば、気流波形や呼吸音波形、体動波形の周期が、心電波形や心音波形、血圧波形、脈波波形の周期の整数倍または整数分の1である場合を同期していると判定すればよい。または、心電波形、あるいは心音波形、血圧波形、脈波波形の所定のタイミング(例えば心電波形のR波や心音波形のI音など)における呼吸の状態が呼気期間、停止期間、吸気期間のいずれかであるかを判定し、判定結果が呼吸指示信号出力部103の出力と一致している場合を同期していると判定してもよい。
【0065】
同期判定結果出力部106は、同期判定部105の出力である同期判定信号を、音響や音声など聴覚に訴えるもの、発光や表示など視覚に訴えるもの、あるいは触覚や嗅覚、味覚に訴える知覚信号に変換して、対象者に表示する。同期判定結果出力部106の出力は、呼吸指示信号出力部103と同様に様々な種類の信号や刺激を用いることが可能である。
【0066】
制御部110’は、第1の実施形態で説明した制御のほか、呼吸監視部104、同期判定部105および同期判定結果出力部106を制御する。具体的には、呼吸監視部104の利得や感度などのパラメータを制御する。また、呼吸指示装置100’が複数の呼吸監視部104を備えている場合には、複数の呼吸監視部104のうち、実際に使用する1つまたは複数の呼吸監視部104を選択する。制御部110’は、ユーザーインターフェースを用いて実際に使用する呼吸監視部104を選択するようにしてもよいし、複数の呼吸監視部104からそれぞれ取得される呼吸に関する情報の信号の振幅やS/N比を検出し、振幅の大きい信号やS/N比の良い信号を出力する呼吸監視部104を選択するようにしてもよい。同期判定部105が、心拍に関する情報と呼吸に関する情報とを解析するアルゴリズムを複数有している場合、制御部110’は、ユーザーインターフェースを用いて実際に使用するアルゴリズムを選択するようにしてもよいし、心拍または呼吸に関する情報の信号の振幅やS/N比を検出し、検出結果に基づいて、最適なアルゴリズムを選択するようにしてもよい。また、呼吸指示装置100’が複数の同期判定結果出力部106を備えている場合、ユーザーインターフェースからの入力に基づいて、選択された1つまたは複数の呼吸指示信号出力部103を動作させてもよい。
【0067】
次に図6を参照しながら、呼吸指示装置100’の動作を説明する。
【0068】
図6は、図4に示した心電波形、呼吸波形、呼吸指示信号に加え、呼吸監視部104で検出された気流波形と、同期判定部105の出力である同期判定信号を示している。気流波形は、点線のレベルが気流のないレベルであり、上方向が吸気、つまり肺へ流入する気流量であり、下方向が呼気、つまり肺から流出する気流量である。図4と同様、期間Aはまだ心拍と呼吸とが同期していない状態であり、期間Bは心拍と呼吸とが同期している状態を示している。同期判定信号Aは、上述したように心拍と呼吸の周期が一致しない期間Aでは非アクティブ、ローレベルまたは基準電位となり、心拍と呼吸の周期が一致する期間Bではアクティブまたはハイレベルとなる。
【0069】
また、同期判定信号Bは、呼吸に関する情報である気流波形が、気流のない呼吸停止期間にあり、かつ心拍に関する情報である心電波形が心収縮期である場合に、アクティブ、または、ハイレベルとなり、それ以外の場合には、非アクティブ、ローレベルまたは基準電位となる。同期判定信号はこれら以外の条件によって判定した信号であってもよい。例えば、吸気後の呼吸停止期間でかつR波のタイミング、あるいは呼気期間でかつ心拡張期である場合、心拍と呼吸が同期していると判定し、アクティブ、または、ハイレベルとなってもよい。
【0070】
このように本実施形態によれば、対象者が呼吸指示信号に合わせて呼吸を行うため、心拍と呼吸とを容易にかつ確実に同期させることができる。また、対象者が、心拍と呼吸とが同期しているかどうかを確認できるため、確認結果に基づき、対象者が心拍と呼吸とをより確実に同期させることができる。
【0071】
(第3の実施形態)
図7は本発明による医療用計測装置の実施形態を示すブロック図であり、第1の実施形態で説明した呼吸指示装置100を備えた超音波診断装置200を示している。図7に示すように、超音波診断装置200は、探触子201、送受信部202、信号処理部203、表示部204、US制御部205および呼吸指示装置100を備えている。図7では、呼吸指示装置100に含まれる心電電極206およびスピーカー207を呼吸指示装置100とは別に示している。US制御部205は超音波診断装置200全体を制御する。
【0072】
送受信部202はUS制御部205の指令を受けて、指定されたタイミングで探触子201を駆動する高圧の送信電気信号を発生する。探触子201は、内部に配置された圧電変換素子によって、送信部202で発生した送信電気信号を超音波に変換して被計測物である対象者に放射する。また、対象者から反射してきた超音波エコーを電気信号である受信信号に変換する。送受信部202は、探触子201で受信された受信信号を増幅するとともに、定められた位置または方向からの超音波のみを検出する。
【0073】
信号処理部203は、US制御部205の指令を受けて、受信信号から断層画像を作成するとともに、血流速度を検出したり、組織の性状を算出したりする。表示部204は、断層画像や血流情報、組織性状情報をモニタ画面に表示する。
【0074】
第1の実施形態で説明したように、呼吸指示装置100は、心拍情報取得部101の心電電極206によって対象者の心電を検出し、検出した心電波形を解析して、呼吸指示信号を出力する。呼吸指示信号は、スピーカー207から音声または音響として出力される。あるいは、表示部204に呼吸指示信号を表示してもよい。
【0075】
心拍に関する情報は超音波受信信号から検出してもよい。具体的には、信号処理部203において、超音波受信信号から血流情報や心拍に伴う組織変位を検出し、それを心拍情報解析部102に入力する。超音波受信信号から心拍に関する情報を取得する詳細な手順は、例えば、特許文献12に示されている。呼吸指示装置100の詳細な構成および動作は第1の実施形態で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0076】
US制御部205は、制御部110を介して心拍と呼吸との同期方法などを呼吸指示装置100に指令する。例えば、R波を切り替えのタイミングとし、1心拍単位で呼気、停止、吸気、停止の順でこれらの動作を繰り返す呼吸指示信号を呼吸指示装置100に出力させる。呼気の期間および吸気の期間を1心拍期間とし、その間の呼吸停止は2心拍期間などとしてもよいし、呼吸停止を入れずに、呼気および吸気の期間を繰り返してもよい。
【0077】
一例として、頚動脈エコーの内中膜複合体厚(IMT)を計測する場合について説明する。IMT計測は、心拡張末期の血管、つまり血管半径が一番小さく、血管厚が一番大きくなっている画像で行うのが一般的である。しかし、気道は頚動脈の近傍に存在するので、呼吸による体動の影響を受ける。したがって、呼吸による体動の影響を避けるため、呼気あるいは吸気後の呼吸停止を長くし、呼吸停止中の心拡張末期を計測することが好ましい。
【0078】
超音波診断装置200によれば、呼吸指示装置100が、心周期に同期したタイミングで呼吸を行うように対象者を促す。このため、対象者が呼吸指示装置100の呼吸指示信号に従って呼吸を行うことにより、呼吸が停止された心拡張末期の状態を容易に実現可能となる。これにより、IMTの計測に最適な条件を容易に実現することができ、超音波診断装置200の操作者にとって少ない労力で、再現性がよく、安定かつ正確な診断を短時間に行うことができる。
【0079】
(第4の実施形態)
図8は本発明による医療用計測装置の他の実施形態を示すブロック図であり、第2の実施形態で説明した呼吸指示装置100’を備えた超音波診断装置200’を示している。図8に示すように、超音波診断装置200’は、探触子201、送受信部202、信号処理部203、表示部204、気流センサ208、US制御部205’、心電電極206、呼吸指示装置100’およびスピーカー207を備えている。図8では、呼吸指示装置100’に含まれる心電電極206、気流センサ208およびスピーカー207を呼吸指示装置100’とは別に示している。US制御部205’は超音波診断装置200’全体を制御する。第3の実施形態の超音波診断装置200と同じ機能を有する構成要素には同じ参照符号を付している。
【0080】
第2の実施形態で説明したように呼吸指示装置100’は、呼吸監視部104の気流センサ208を用いて検出した気流波形と、心電電極206を用いて検出した心電波形とを解析して、心拍と呼吸が同期しているかどうか判定し、同期判定信号をUS制御部205’、表示部204あるいはスピーカー207に出力する。
【0081】
US制御部205’は、同期判定信号に基づいて、計測タイミングを計ったり、出力の周波数やパワーなどの条件を変化させたりできる。一例として、心臓の診断指標である駆出血流量を計測する場合について述べる。
【0082】
まず、呼吸指示装置100’は、心拍情報を検出し、心拍情報と同期し、かつ呼気後の呼吸停止期間が1心拍期間以上となるように呼吸指示信号を出力する。同期判定信号は2系統用意し、第1の同期判定信号は、呼気後の呼吸停止期間であり、かつ、心拡張末期である場合にアクティブとなり、第2の同期判定信号は、呼気後の呼吸停止期間であり、かつ、心収縮末期でアクティブとなるようにする。超音波診断装置200’は、第1の同期判定信号のタイミングで第1の心臓内腔体積を計測し、続く第2の同期判定信号のタイミングで第2の心臓内腔体積を計測する。第1の心臓内腔体積と第2の心臓内腔体積の差が駆出血流量である。
【0083】
このようにすることで、心拡張末期の心臓の体積と心収縮末期の心臓の体積を正確にかつ容易に計測することが可能となり、これらの体積差である駆出血流量を正確に求めることができる。これにより、駆出血流量の計測に最適な条件を容易に実現することができ、超音波診断装置200’の操作者にとって少ない労力で、再現性がよく、安定かつ正確な診断を短時間に行うことができる。
【0084】
なお、心拍と呼吸の周期あるいは周波数を検出し、心拍の周期あるいは周波数が、呼吸の周期あるいは周波数の整数倍または整数分の1になった場合にアクティブとなるような、第3の同期判定信号を検出し、同期判定結果出力部106から音響または音声、あるいは発光や表示として、対象者に示すことで、対象者はより確実に心拍と呼吸を同期させることができる。
【0085】
なお、本実施形態では気流センサ208は、被検者の鼻または口付近に設置するが、気流センサ208は、対象者の口に含ませる部分または口に咥えさせる部分を含んでいてもよく、これにより、上述の頚動脈エコーや甲状腺検査のときなどに、被検者の呼吸による口または顎の動きを制限でき、より正確な診断を行うことができる。なお、呼吸監視部104は気流センサに限るものではない。
【0086】
また、第3および第4の実施形態では超音診断装置を例に挙げて、本発明による計測装置を説明したが、本発明の医療用計測測定装置は、超音波診断装置以外の装置にも好適に用いることができる。例えば、血圧計や、X線撮像装置、X線CT装置、核磁気共鳴画像診断装置など、多くの医療用診断装置に適用可能である。この場合にも、超音波診断装置と同様、第1の実施形態や第2の実施形態として説明したような本発明による呼吸指示装置をこれらの医療用診断装置に搭載することによって、心拍と呼吸とを容易にかつ確実に同期させることができる。また第4の実施形態では同期したかどうかを確実に検出することができるため、操作者の少ない労力で、安定した正確な診断を短時間に再現性よく行なうことができる。さらにX線撮像装置、X線CT装置では、検査時間を短縮することができるために、放射線被爆量を減少させることができるという効果も得られる。
【0087】
上記第1から第4の実施形態で説明した本発明は、放射線治療装置や、超音波治療装置、温熱治療装置、結石破砕装置など、多くの医療用治療装置にも適用可能である。これらの治療装置では、病変組織のみに放射線や超音波、衝撃波などの治療用波動が集中するように制御することによって、周辺の正常組織に損傷を与えずに、病変組織のみを死滅あるいは破壊させる。しかし、呼吸や心拍などの影響で病変領域が動いていると、波動を集中させるのが難しい。
【0088】
そこで、第1の実施形態の呼吸指示装置100を備え、心拍情報を検出し、心拍情報と同期した呼吸を患者にさせることによって、心拍による動きおよび呼吸による動きを同期させ、これら2つの動きが少ない時間を容易に得られるようにする。具体的には、心拍を検出し、心拍に同期し、かつ呼吸停止期間ができるだけ長くなるように呼吸指示信号を出力する。例えば、1心拍を吸気期間、3心拍間を呼吸停止期間、1心拍を吸気期間および3心拍間を呼吸停止期間とする周期を繰り返す呼吸指示信号を出力する。これにより、心拍と呼吸のいずれを起因とする体動が抑制された期間を、8心拍間に6回確実に得ることができる。
【0089】
また、第2の実施形態の呼吸指示装置100’を用いる場合には、同期判定信号は、例えば、呼吸が停止しており、かつ心拍による動きの比較的少ない心拡張期後半でアクティブを出力するように設定する。このように設定した呼吸指示装置100’を用い、同期判定信号のタイミングで治療用波動を出力するようにしたり、出力を強めたりすればよい。これにより、心拍と呼吸を容易かつ確実に同期させることができる。また、第2の実施形態の呼吸指示装置100’を用いた場合、同期したかどうかを患者が確実に検出することができるため、同期判定信号を確認することによって、患者がより呼吸のタイミングを呼吸指示信号に一致させることができる。したがって、操作者の少ない労力で、安定した正確な治療を短時間に再現性よく安全に行なうことができる。
【0090】
なお、第1および第2の実施形態で説明したような本発明の呼吸指示装置は、ウォーキングマシンやジョギングマシン、筋力トレーニングマシン、乗馬マシン、マッサージ機、低周波治療器、酸素供給装置、酸素濃縮装置など、多くの健康器具に適用可能である。これらの器具では、呼吸を安定させるために、音響や音声によって呼吸指示を行なうものがあるが、従来技術で説明したように、装置が定めた周期で使用者に呼吸をさせるものであり、使用者の身体の状況は一切考慮されていない。
【0091】
これに対し、第1の実施形態の呼吸指示装置100をこれらの健康器具に搭載すれば、心拍に同期した呼吸を容易に行なわせることができ、使用者の身体の状態にあった、無理のない運動を行なわせたり、治療を行なったりすることができる。また、第2の実施形態の呼吸指示装置100’をこれらの健康器具に搭載した場合、同期判定信号を利用して使用者の身体状態を把握することもできる。例えば同期判定信号が心拍と呼吸の周期が一致している場合にアクティブを出力するように設定すれば、同期判定信号が非アクティブである場合、使用者が疲れている、あるいは不快な気分であると判断し、健康器具の出力、あるいはスピードを下げるなどして、使用者が楽に運動でき、あるいは治療を受けることができるように制御する。これにより、使用者の身体の状態にあった健康器具の制御が実現する。
【0092】
このように、本発明の呼吸指示装置を健康器具に用いた場合、使用者の身体の状態にあった、無理のない運動を行なわせたり、治療を行なったりすることができる。また、使用者の身体の状態を把握できるため、最適な運動、あるいは治療を安全に行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、種々の医療用計測装置、医療用治療装置、および健康器具に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明による呼吸指示装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図2】通常の状態にある対象者の心電波形および呼吸波形を示している。
【図3】対象者の心拍と呼吸とが同期した状態にある心電波形および呼吸波形を示している。
【図4】図1の呼吸指示装置から出力される呼吸指示信号と対象者の心電波形および呼吸波形とを示している。
【図5】本発明による呼吸指示装置の第2の実施形態を示すブロック図である。
【図6】図5の呼吸指示装置から出力される呼吸指示信号および同期判定信号と対象者の心電波形および呼吸波形とを示している。
【図7】本発明による第3の実施形態である超音波診断装置のブロック図である。
【図8】本発明による第4の実施形態である超音波診断装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0095】
100 呼吸指示装置
101 心拍情報取得部
102 心拍情報解析部
103 呼吸指示信号出力部
104 呼吸監視部
105 同期判定部
106 同期判定結果出力部
110 制御部
200 超音波診断装置
201 探触子
202 送受信部
203 信号処理部
204 表示部
205 US制御部
206 心電電極
207 スピーカー
208 気流センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の心拍に関する情報を取得する心拍情報取得部と、
前記心拍に関する情報を解析し、前記心拍の特定位相に同期する信号を出力する心拍解析部と、
前記心拍の特定位相に同期する信号に基づいて、前記対象者の好ましい呼吸のタイミングまたは方法を示す呼吸指示信号を出力する呼吸指示信号出力部と、
を備えた呼吸指示装置。
【請求項2】
前記対象者の呼吸に関する情報を取得する呼吸監視部と、
前記心拍に関する情報と、前記呼吸に関する情報とに基づいて、前記心拍と前記呼吸とが同期したかどうかを判定する同期判定部と、
をさらに備える請求項1に記載の呼吸指示装置。
【請求項3】
前記同期判定部の出力である同期判定信号を前記対象者または装置の操作者に対して出力する同期判定結果出力部をさらに備える請求項2に記載の呼吸指示装置。
【請求項4】
前記呼吸監視部は、呼吸気流を検出する気流センサ、呼吸音を検出する呼吸音マイク、被検体の呼吸に伴う体動を検出する速度センサまたは加速度センサまたは位置センサ、のいずれかである請求項2に記載の呼吸指示装置。
【請求項5】
前記呼吸監視部は、前記対象者が口に含む部分または口に咥える部分を含む請求項4に記載の呼吸指示装置。
【請求項6】
前記心拍情報取得部は心電計、心音計、実時間血圧計、脈波計のいずれかであり、心電波形、心音波形、血圧波形、脈波波形のいずれかから前記心拍に関する情報を取得する請求項1に記載の呼吸指示装置。
【請求項7】
前記呼吸指示信号は音響信号、音声信号、発光信号、表示信号、触覚刺激信号、味覚刺激信号、嗅覚刺激信号のいずれかであり、前記呼吸指示信号出力部は、前記心拍の特定位相に同期する信号に基づいて前記音響信号、前記音声信号、前記発光信号、前記表示信号、前記触覚刺激信号、前記味覚刺激信号、前記嗅覚刺激信号のいずれかを変化させる請求項1に記載の呼吸指示装置。
【請求項8】
前記呼吸指示信号はポンプを駆動させる駆動信号であり、前記呼吸指示信号出力部は前記心拍の特定位相に同期する信号に基づいて前記ポンプの吐出または吸引する気体の流量が変化するように前記駆動信号を変化させる請求項1記載の呼吸指示装置。
【請求項9】
前記同期判定結果出力部の出力信号は音響信号、音声信号、発光信号、表示信号、触覚刺激信号、味覚刺激信号、嗅覚刺激信号のいずれかであり、前記同期判定結果出力部は、前記同期判定信号に基づいて前記音響信号、前記音声信号、前記発光信号、前記表示信号、前記触覚刺激信号、前記味覚刺激信号、前記嗅覚刺激信号のいずれかを変化させる請求項3に記載の呼吸指示装置。
【請求項10】
請求項1または3に規定される呼吸指示装置を備えた医療用計測装置。
【請求項11】
請求項2に規定される呼吸指示装置を備え、前記同期判定部の出力に基づいて計測を行うタイミング、速度または計測出力を制御する医療用計測装置。
【請求項12】
前記医療用計測装置は、血圧計、核磁気共鳴画像診断装置、X線撮像装置、X線CT装置、超音波診断装置のいずれかである請求項10または11記載の医療用計測装置。
【請求項13】
超音波を送受信する送受信部をさらに備え、
前記心拍情報取得部は、前記送受信部から送信し対象物において反射した超音波を前記送受信部において受信することによって生成した超音波受信信号から前記心拍に関する情報を取得する請求項12に記載の医療用計測装置。
【請求項14】
請求項1または3に規定される呼吸指示装置を備える医療用治療装置。
【請求項15】
請求項2に規定される呼吸指示装置を備え、前記同期判定部の出力によって、治療を行うタイミング、速度または出力を制御する医療用治療装置。
【請求項16】
前記医療用治療装置は、放射線治療装置、超音波治療装置、温熱治療装置、結石破砕装置のいずれかである請求項14または15に記載の医療用治療装置。
【請求項17】
請求項1または3に規定される呼吸指示装置を備えた健康器具。
【請求項18】
請求項2に規定される呼吸指示装置を備え、前記同期判定部の出力に基づいて、動作のタイミング、速度または出力を制御する健康器具。
【請求項19】
前記健康器具は、酸素供給装置、酸素濃縮装置、ジョギングマシン、ウォーキングマシン、筋力トレーニングマシン、乗馬マシン、マッサージ機、低周波治療器のいずれかである請求項17または18に記載の健康器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−213773(P2010−213773A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61107(P2009−61107)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】