説明

噴射反応性が高い内燃エンジン用の燃料噴射方法、およびこのような方法を用いているエンジン

【課題】 排出量を大幅に減らしつつエンジンの出力をかなり高くすることを可能にする。
【解決手段】 シリンダ10の壁と、シリンダヘッド12と、内側に乳首状部28が配置された窪み26を有しているピストン22とによって形成されている、直噴内燃エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する方法において、本発明によれば、燃料を、380mm3/30s以上のエンジンの噴射反応性を得ることを可能にし、かつCDをシリンダ10の直径、Fを燃料ジェットの原点と上死点TDCに対して50°のクランクシャフト角に対応するピストンの位置との間の距離であるとして、2Arctg(CD/2F)以下のナッペ角a1を有している噴射ノズル24によって噴射する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジンの噴射反応性を高くすることを可能にする燃料噴射ノズルを有している、特にディーゼル型の直噴内燃エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する方法に関する。
【0002】本発明は、このような方法を用いている内燃エンジンに関するものでもある。
【0003】
【従来の技術】専門家に概ね認められているように、総排気量と噴射装置が異なるエンジン同士の比較は、エンジンの噴射反応性(mm3/30s)を求めるのを可能にする以下の公式によって一般になされる。
【0004】
【数1】


【0005】ここで、「通気性」は噴射ノズルの通気性を表し(mm3/30s単位)、「出力」はエンジンの1リットル当たりの出力を表し(kW/l単位)、「L_cyl」はエンジンの総排気量を表し(リットル単位)、「P_inj」は噴射装置の最大圧力を表している(バール単位)。
【0006】この反応性を選択することによって、全負荷(トルクおよび出力)での要求性能と部分負荷での環境汚染に関する要求との間の兼ね合いが図られる。
【0007】したがって、反応性の値が380mm3/30sを下回るエンジンは、一般に、汚染規制に関連する制約を考慮して十分な出力を発生させるために用いられる。
【0008】一例として、図4は、縦座標に示されたこのエンジンの出力(P)の推移を、横座標に示されたエンジンの噴射反応性(S)(mm3/30s単位)の関数として示している。
【0009】エンジンの出力は、点Cまでは、噴射反応性が高くなるのにしたがってほぼ線形に高くなり、次に、点Cから点Dまでは、エンジンの出力の増大は最小限になるが噴射反応性は著しく高くなり、点Dからは、反応性は高くなるがエンジンの出力は低くなることが分かる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】部分負荷では、多くの場合に実証されているように、噴射反応性が高くなると排出量(NOx、粒子、およびCO)が増える。
【0011】汚染物質に関して、この場合も一例として、図5は、都市部での運転条件の典型的な実用段階での、縦座標に示されたg/kWh単位の排出量(E)(NOx/10または粒子)の推移を、横座標に示された噴射反応性(S)の関数として示している。
【0012】噴射反応性が点Aから点Bまで約40mm3/30sだけ高くなると排出量が0.15g/kW程度増え、この点Bを超えると、排出量が著しく増えることが分かる。
【0013】図6は、部分負荷での排出量(E)(NOx/10または粒子)が横座標に示され、エンジンの出力(P)が縦座標に示されたグラフ上での噴射反応性の推移を示している。汚染規制に従うには、噴射反応性を、このグラフの点Gに対応する380mm3/30sよりも低く維持する必要があることが分かる。
【0014】出願人は、前述の欠点を克服し、特に汚染防止規制とエンジン性能(出力およびトルク)との妥協点を打破するために、排出量を大幅に減らしつつエンジンの出力をかなり高くすることを可能にする燃料噴射方法を開発した。
【0015】
【課題を解決するための手段】このエンジンは、2つの燃焼モードで作動する。燃焼上死点近くでの燃料噴射と拡散燃焼とを備えた通常のディーゼル型の燃焼モードが、好ましくは高負荷で用いられる。
【0016】エンジンは、噴射方式を変えることによって、低負荷で用いられる、均一モードと呼ばれる別の燃焼モードで作動する。
【0017】したがって、本発明は、シリンダの壁と、シリンダヘッドと、内側に乳首状部が配置された窪みを有しているピストンとによって形成されている、直噴内燃エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する方法において、燃料を、380mm3/30s以上のエンジンの噴射反応性を得ることを可能にし、かつCDをシリンダの直径、Fを燃料ジェットの原点と上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に対応するピストンの位置との間の距離であるとして、2Arctg(CD/2F)以下のナッペ角を有している噴射ノズルによって噴射することを特徴とする、直噴内燃エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する方法に関する。
【0018】反応性は380mm3/30sから520mm3/30sの間の範囲であることが有利である。
【0019】燃料を120°以下の燃料ジェットナッペ角で噴射させてもよい。
【0020】燃料を40°から100°の間の範囲のナッペ角で噴射させてもよい。
【0021】本発明はまた、シリンダと、シリンダヘッドと、このシリンダ内を摺動するピストンと、燃料噴射ノズルと、シリンダヘッドの方を向いており、窪み内に配置された乳首状部を有しているピストンの上面によって一方の側が形成されている燃焼室とを有する内燃エンジンにおいて、このエンジンは、380mm3/30s以上の噴射反応性を得ることを可能にし、かつCDをシリンダの直径、Fを燃料ジェットの原点と上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に対応する前記ピストンの位置との間の距離であるとして、2Arctg(CD/2F)以下のナッペ角を有している噴射ノズルを有していることを特徴とする内燃エンジンに関する。
【0022】噴射ノズルのナッペ角を0°から120°の間、好ましくは40°から100°の間に選択することができる。
【0023】乳首状部の頂部での角度を、ナッペ角よりも0°から30°の範囲内の値だけ大きい角度に選択することができる。
【0024】燃料ジェットの複数の軸が、乳首状部の側面に対して5°程度の交差角度をなしていてもよい。
【0025】窪みは傾斜した横壁を有していてもよく、この壁の傾斜角は45°未満である。
【0026】本発明の他の特徴および利点は、非制限的な例として与えられる以下の説明を、添付図面を参照して読むことによって明らかになるであろう。
【0027】
【発明の実施の形態】図1は、特にディーゼル型の内燃エンジンを示している。このエンジンは、軸XX’および直径CDからなるシリンダ10と、シリンダヘッド12と、開閉が吸気弁16等の手段によって制御される、空気や再循環ガス(EGR)と空気との混合物等の少なくとも1つの気体流体用の少なくとも1つの吸気マニホールド14と、開閉が排気弁20等の手段によって同様に制御される、少なくとも1つの燃焼ガス排気マニホールド18と、シリンダ10内を摺動するピストン22と、エンジンの燃焼室内に燃料を噴霧する、好ましくはマルチジェット型の燃料噴射ノズル24とを少なくとも有している。
【0028】したがって、燃焼室は、シリンダヘッド12の内面、シリンダ10の円形の壁、およびピストン22の上面によって形成されている。
【0029】ピストンのこの上面は、シリンダヘッド12の方を向いており、窪み26の中央に配置された乳首状部28が内部に収容された凹形の窪み26を有している。
【0030】先端が概ね切断された乳首状部28は、好ましくは丸められた頂部を有しており、実質的に直線状の傾斜した側面32のそばで窪みの底部30の方向に延び、さらに、ピストンの上面の実質的に水平な表面36に接する実質的に直線状の傾斜した横壁34のその底部から延びている。
【0031】燃料噴射ノズルは、小さなナッペ角a1を有するタイプのものであり、そのナッペ角a1は、αが上死点(TDC)に対して選択される噴射相に関するクランシャフト角度を表し、この角度αは均一燃焼を得るために50°よりも大きく180°以下になっている場合、+50°と+αとの間または−50°と−αとの間の範囲のピストンの任意の位置に関してシリンダ10の壁が燃料で濡れることがないように選択されている。
【0032】CDがシリンダ10の直径(mm単位)を表し、Fが燃料ジェットの原点と50°のクランクシャフト角度に対応するピストンの位置との間の距離(mm単位)を表す場合、ナッペ角a1(度単位)は2Arctg(CD/2F)以下である。
【0033】ナッペ角は、仮想の周囲壁が燃料ジェットのすべての軸を通る噴射ノズル24からの円錐形によって形成される頂部での角度であると考えられる。
【0034】ナッペ角a1の代表的な角度範囲は、120°以下、好ましくは40°から100°の範囲である。
【0035】乳首状部の頂部での角度が燃料ジェットのナッペ角a1よりも0°から30°の範囲の値だけ大きくなるように選択され、窪み26の横壁34の傾斜角度は45°未満であることが有利である。
【0036】燃料ジェットの軸が、乳首状部28の側面32に対して5°程度の交差角度をなすことが好ましい。
【0037】乳首状部28の頂部での角度および窪み26の横壁34の傾斜角度は、燃料が、乳首状部の側面32に実質的に沿って噴射され、次に横壁34に沿って環流するように、燃料ジェットのナッペ角a1に実質的に適合している。
【0038】図示した例では、窪み26の主軸、噴射ノズル24の軸、および乳首状部28の軸はシリンダの軸XX’と同一であるが、もちろん、窪み、噴射ノズル、および乳首状部の各軸はシリンダの軸と同軸でなくてもよく、噴射ノズル24からの燃料ジェットナッペの主軸、乳首状部28の軸、および窪み26の軸が同軸であるような構成であることが重要である。
【0039】燃焼を実現するために、燃料は、上記に定義した小さなナッペ角を有する、エンジンの噴射反応性が380mm3/30s以上になるように構成されている噴射ノズルによって燃焼室内に噴射される。
【0040】高い噴射反応性と小さなナッペ角とを組み合わせるこの噴射方法によって、エンジンの出力を高め、部分負荷での排出量を減らすことができる。
【0041】この燃焼プロセスによれば、縦座標に示された排出量(E)(NOx/10または粒子)の推移が、横座標に示された噴射反応性(S)の関数として示されている図2を見ると分かるように、噴射反応性の値が380mm3/30sを超えても排出量はそれほど増えない。
【0042】したがって、噴射反応性の値を、全負荷条件のみの関数として、すなわち380mm3/30sよりもずっと大きい値に選択することが可能である。
【0043】同様に、部分負荷における排出量(E)(NOx/10または粒子)が横座標に示され、エンジンの出力(P)が縦座標に示されている、噴射反応性の推移を示す曲線である図3を見ると分かるように、エンジンの噴射反応性が380mm3/30sから520mm3/30sまで、すなわち点Lから点Mまで高くなると、エンジンの出力は排出量をそれほど増やさずに10kW/l程度高くなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による方法を用いている直噴内燃エンジンの軸方向の部分断面図である。
【図2】本発明の方法による、排出量の推移を噴射反応性の関数として示すグラフである。
【図3】本発明による、噴射反応性の推移を排出量とエンジンの出力の関数として示す別のグラフである。
【図4】縦座標に示されたこのエンジンの出力(P)の推移を、横座標に示されたエンジンの噴射反応性(S)の関数として示すグラフである。
【図5】都市部での運転条件の典型的な実用段階での、縦座標に示されたg/kWh単位の排出量(E)の推移を、横座標に示された噴射反応性(S)の関数として示すグラフである。
【図6】部分負荷での排出量(E)を横座標に示し、エンジンの出力(P)を縦座標に示したグラフである。
【符号の説明】
10 シリンダ
12 シリンダヘッド
14 吸気マニホールド
16 吸気弁
18 排気マニホールド
20 排気弁
22 ピストン
24 噴射ノズル
26 窪み
28 乳首状部
30 底部
32 側面
34 横方向の壁
36 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリンダ(10)の壁と、シリンダヘッド(12)と、内側に乳首状部(28)が配置された窪み(26)を有しているピストン(22)とによって形成されている、直噴内燃エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する方法において、前記燃料を、380mm3/30s以上のエンジンの噴射反応性を得ることを可能にし、かつCDをシリンダ(10)の直径、Fを燃料ジェットの原点と上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に対応する前記ピストンの位置との間の距離であるとして、2Arctg(CD/2F)以下のナッペ角(a1)を有している噴射ノズル(24)によって噴射することを特徴とする、直噴内燃エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する方法。
【請求項2】 前記反応性は380mm3/30sから520mm3/30sの間の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記燃料を120°以下の燃料ジェットナッペ角(a1)で噴射する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】 前記燃料を40°から100°の間の範囲のナッペ角(a1)で噴射する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】 シリンダ(10)と、シリンダヘッド(12)と、このシリンダ内を摺動するピストン(22)と、燃料噴射ノズル(24)と、シリンダヘッド(12)の方を向いており、窪み(26)内に配置された乳首状部(28)を有しているピストン(22)の上面によって一方の側が形成されている燃焼室とを有する内燃エンジンにおいて、このエンジンは、380mm3/30s以上の噴射反応性を得ることを可能にし、かつCDをシリンダ(10)の直径、Fを燃料ジェットの原点と上死点(TDC)に対して50°のクランクシャフト角に対応する前記ピストンの位置との間の距離であるとして、2Arctg(CD/2F)以下のナッペ角(a1)を有している噴射ノズル(24)を有していることを特徴とする内燃エンジン。
【請求項6】 噴射ノズル(24)のナッペ角(a1)は0°から120°の間に選択されている、請求項5に記載のエンジン。
【請求項7】 噴射ノズル(24)のナッペ角(a1)は40°から100°の間に選択されている、請求項6に記載のエンジン。
【請求項8】 乳首状部(28)の頂部での角度が、ナッペ角(a1)よりも0°から30°の範囲内の値だけ大きい角度に選択されている、請求項5から7のいずれか1項に記載のエンジン。
【請求項9】 燃料ジェットの複数の軸が、乳首状部(28)の側面(32)に対して5°程度の交差角度をなしている、請求項5から8のいずれか1項に記載のエンジン。
【請求項10】 横壁(34)の傾斜角が45°未満であることを特徴とする、窪み(26)が傾斜した横壁(34)を有している請求項5に記載のエンジン。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【公開番号】特開2003−293909(P2003−293909A)
【公開日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−88311(P2003−88311)
【出願日】平成15年3月27日(2003.3.27)
【出願人】(591007826)アンスティテュ フランセ デュ ペトロール (261)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DU PETROL
【Fターム(参考)】