説明

回折格子を変えることによって、基板上に形成された半導体素子を分離する方法、装置および回折格子

本発明は、一次レーザービーム(2)を発生するレーザー装置(1)を使用することによって、半導体材料のウェハ(12)内に形成された半導体素子を分離する方法に関する。前記ウェハ(12)に対する少なくとも第1格子構造を有する第1回折格子(4、14)を使用し、少なくとも1つの一次レーザービーム(2)を前記第1格子構造(4、14)に衝突させることによって、前記少なくとも1つの一次レーザービーム(2)を複数の二次レーザービーム(5)に分割する。前記レーザー装置(1)を前記ウェハ(12)に対し第1方向に移動させることによって、少なくとも1つの第1切込み溝を形成する。この方法は更に、前記レーザー装置(1)を前記ウェハ(12)に対し第2方向に移動させることによって、少なくとも1つの第2切込み溝を形成する工程を有する。この方法は、前記レーザー装置(1)を前記ウェハ(12)に対し第2方向に移動させる工程の前に、前記第1格子構造(4、14)を前記ウェハにする第2格子構造(4、14)に変える工程を含む。本発明では、この方法に用いる装置および回折格子(4、14)をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、レーザー装置を使用することによって、基板上に形成された半導体素子、例えば半導体材料のウェハ内に形成された半導体素子を分離するための方法、装置および回折格子に関する。本発明は、特に、一次レーザービームを発生するレーザー装置を用い半導体材料のウェハ内に形成された半導体素子を分離するための方法、装置および回折格子であって、少なくとも第1格子構造を有する第1回折格子を用いて前記一次レーザービームを前記第1格子構造に衝突させることによって、前記一次レーザービームを複数の二次レーザービームに分割し、前記レーザー装置を前記ウェハに対し第1方向に移動させることによって、少なくとも1つの第1切込み溝を形成する方法、装置および回折格子に関するものであり、前記方法は更に、前記レーザー装置を前記ウェハに対し第2方向に移動させることによって、少なくとも1つの第2切込み溝を形成する工程を含む。
【背景技術】
【0002】
半導体素子、例えばダイオード、トランジスタ、複数のダイオードおよびトランジスタを有する集積回路、並びに受動素子、例えばキャパシタを、半導体材料からなるウェハ上に形成することは、産業界において一般的に行われている。これらの半導体素子は、通常、ダイヤモンド切断または他の機械的な切断方式によって相互に分離され、場合によっては、レーザーダイシングまたはレーザカット技術が使用される。これら類似した分離技術が、例えば、CCDデバイスのような半導体デバイスを製造するのに用いられており、この場合、半導体素子(例えば、半導体セル)は、セラミック材料(ガラス)によってコーティングされ、更に全体として分離される。
【0003】
米国特許第5922224号明細書(特許文献1)には、レーザーによる分離技術が開示されており、これによると、レーザー装置が発生する放射を利用した加熱による半導体材料の局所蒸発および/または溶融排出により、半導体材料からなるウェハの表面に切込み溝が形成される。従って、一次レーザービームは、回折格子に向かって進み、この一次レーザービームが複数の二次レーザービームに分割される。これらの二次レーザービームは、ウェハに向けられ、1つ以上の焦点に集束される。ウェハおよびレーザービーム間の相対移動により、焦点の数に応じて1つ以上の切込み溝が形成される。形成される切込み溝それぞれは、ウェハの表面上の焦点に対応する。相対移動は、周知のように、レーザー装置の移動、ウェハの移動またはレーザー装置およびウェハの双方の移動によって実現できる。
【特許文献1】米国特許第5922224号明細書
【0004】
上述した方法によると、1つよりも多い二次レーザービームを1つの焦点に向けることができる点に留意されたい。ウェハに形成される切込み溝または条溝の深さおよび空間的な形状は、1つ以上の二次レーザービームの向きに依存しうる。この二次レーザービームが傾斜した表面に衝突すると、表面に対して(垂直ではなく)傾斜した側壁を有する条溝を形成することができる。
【0005】
一般に、ウェハ上に形成される半導体素子は、レーザー装置およびウェハ間で適切な相対移動を行うことにより、直線的な切断を可能にするある表面パターンに従って、表面上に分布されている。このようなパターンは、例えば、マトリクスパターンとすることができ、この場合、第1方向に、例えば半導体素子の各行間に複数の平行な切込み溝を形成し、次に第2方向に、例えば半導体素子の各列間に複数の平行な切込み溝を形成することによって、ウェハをダイシングすることができる。半導体素子がマトリクス分布されている場合、ウェハを第1方向へカッティングした際に、第2方向に切込み溝を形成するには、第1方向とは直交する方向でレーザー装置とウェハとの間を相対移動させる必要があることを理解されたい。
【0006】
一次レーザービームを複数の二次レーザービームに分割し、これらの二次レーザービームをウェハ面上に再集束させる結果、ウェハ面に対する二次レーザービームの向きおよび焦点のパターンは、カッティング方向に依存する。例えば、第1方向において相互に一定の距離だけ離間された2つの切込み溝をウェハに形成するために、表面上に2つの焦点を形成した場合には、切込み溝の間のこの一定の距離を維持して、ウェハ面上の2つの焦点のパターンを、第2方向に合わせる必要がある。同様に、1つ以上の二次ビームを、このビームに対して傾斜したウェハ面上に衝突させる場合、第2方向に形成すべき切込み溝に対して二次ビームの向きを維持するように、二次ビームのこの向きを保つ必要がある。
【0007】
このことは、ウェハをレーザー装置に対して回転させ、レーザー装置をウェハに対して移動させることにより第2方向で平行な所望の複数の切込み溝が形成されるように、二次レーザービームおよび1つ以上の焦点を適切に整列させることによって達成させることができる。半導体素子をマトリクス分布させた例では、第2方向の切込み溝を形成する前に、ウェハを90度の角度分だけ回転させることによって、上述したことを達成することができる。
【0008】
ウェハの回転は、所望の角度に亘って充分正確に実行させる必要がある。しかし、回転角度にある程度の偏差が生じることは、不可避である。ウェハの回転角度の誤差が、カッティング方向の誤差に帰着するため、回転角度の誤差が前記方法の有効性の限界を決定する。レーザー装置をウェハに対して移動させるため、実際に形成される切込み溝は、所望の、または意図した切込み溝からずれ、このずれは、レーザー装置をウェハに対して移動させる距離に応じて大きくなる。
【0009】
工業的には、いわゆるけがき線を設けることによって、上述した問題に対処しうる。けがき線は、切込み溝が形成されるウェハ上に形成された、半導体素子のそれぞれの行および列の間の領域である。けがき線の幅を充分広く選択すれば、カッティング方向の後差は、半導体素子の損失に直接つながらない。しかしながら、けがき線の寸法(幅)は、ある程度、ウェハの表面上に形成することができる半導体素子の数を決定する。従って、周知のように、けがき線は可能な限り狭くする必要がある。従って、回転角度の誤差が可能な限り小さくなるように、ウェハの正確な回転に多くの労力が割かれることが理解されるであろう。このことにより、分離処理を遅くする。
【0010】
また、ウェハ面に対する二次レーザービームの向きおよび焦点のパターンが、回折格子の特性によって決定されるという他の欠点もある。従って、処理を中断して回折格子を置き換えない限り、処理中にこのパターンを修正するのは不可能である。
【発明の開示】
【0011】
本発明の目的は、半導体素子を分離するための方法であって、前記の問題を緩和し、いずれ方向においても切込み溝を正確に形成でき、処理中に二次レーザービームの焦点のパターンを修正しうる方法を提供することにある。
【0012】
本発明によれば、少なくとも1つの一次レーザービームを発生するレーザー装置を使用することによって、半導体材料のウェハ内に形成された半導体素子のような、基板上の半導体素子を分離する方法であって、少なくとも第1格子構造を有する第1回折格子を用いて前記少なくとも1つの一次レーザービームを前記第1格子構造に衝突させることによって、前記少なくとも1つの一次レーザービームを複数の二次レーザービームに分割し、前記レーザー装置を前記基板に対し第1方向に移動させることによって、少なくとも1つの第1切込み溝を形成し、前記方法は、更に、前記レーザー装置を前記基板に対し第2方向に移動させることによって少なくとも1つの第2切込み溝を形成する工程を含む前記方法において、該方法が、前記レーザー装置を前記基板に対し前記第2方向に移動させる工程の前に、前記第1格子構造を第2格子構造に変える工程を含むことを特徴とする方法を提供することによって上述した目的を達成する。
【0013】
第1格子構造を、第2方向で使用するための第2格子構造に変えることによって、第1および第2方向の双方に対して、もはや同一の回折格子構造を用いなくて済む。従って、第1方向に対してある適切な格子構造を使用し、かつ第2方向に対して他の適切な格子構造を使用することができる。つまり、第1および第2格子構造のそれぞれを、使用される際に課される方向の条件に適合させることができる。第2格子構造は、例えば、単に第1格子構造を回転させた数学的イメージとすることができで、あるいはまた、これとは全く異なる格子構造であってもよい。これによって、最初にウェハをレーザー装置に対して回転させたり、回折格子を交換したりする必要なく、ウェハ(またはレーザー装置)を異なる方向(例えば前後に代えて横方向)に移動させることが可能になる。この場合、処理中にある素子を他の素子に対して回転させることによって生じる回転角度および/またはカッティング方向の誤差が回避される。従って、ウェハダイシング方法において形成されるべき切込み溝を、より正確に位置決めすることができ、かつ必要なけがき線を、従来のウェハダイシング方法における場合と比較して、より細くすることができる。その結果、ウェハ面上における半導体素子の密度を増大させることができ、これにより製造コストが減少する。
【0014】
本発明の方法は、半導体素子を半導体材料のウェハから分離するための方法に応用することができる。更に、本発明の方法は、CCDデバイスを製造するために利用することができる。あるいは、本発明の方法は、絶縁材料からなる基板上に形成された半導体素子のような、半導体素子を含む基板を分離するのに応用することができる。
【0015】
種々の方法によって、第1格子構造を第2格子構造に変えることができる。本発明のある実施態様においては、前記第1格子構造を第2格子構造に変える前記工程は、前記少なくとも1つの一次レーザービームが前記第2格子構造に衝突するように、前記第1回折格子を平行移動させる工程を含むようにする。
【0016】
当業者にとって明らかなように、回折格子を平行移動させることによって、比較的容易に第1格子構造を第2格子構造に変えることができる。レーザー装置に対して直交する平面において、第1および第2格子構造を予め正確に整列させることができるので、二次レーザービームの方向および焦点のなすパターンを正確に調整することができる。前記平面における前記回折格子の平行移動は、第1および第2格子構造の相互の、およびウェハ面に対する整列に変更を加えない。
【0017】
第2格子構造は、例えば第1回折格子に、異なる格子構造を有する異なる表面領域を設けた場合には、第1回折格子に設けることができ、または第2格子構造は第2回折格子に設けることもできる。
【0018】
前記第2格子構造は、前記第1格子構造とは異なる格子構造であってもよいし、あるいは、本発明のある実施態様では、前記第1および第2格子構造は、前記第2格子構造が前記第1格子構造をある回転角度だけ回転させることによって得られる前記第1格子構造の数学的イメージとなるように選択する。
【0019】
これによって、第1および第2方向において類似する切込み溝を形成する場合、例えば切込み溝相互間の距離や深さなどが類似する切込み溝を形成する場合、例えば格子が存在する平面において第1格子構造をある角度だけ数学的に回転させることによって得られる、第1格子構造の数学的イメージを第2格子構造として使用することができるという利点が得られる。わかりやすい例としては、ウェハ上に半導体素子がマトリクス分布され、これら半導体素子がマトリクスの各列および各行において等距離に配置されている場合がある。実際上、列それぞれの間において(第1方向に)切込み溝を形成するために使用される格子構造は、この格子構造が存在する平面においてこの格子構造を90°の角度だけ数学的に回転させることによって、行それぞれの間において(第2方向に)切込み溝を形成するために使用することができる(この回転角は、第1方向と第2方向との間の距離に等しいことに注意すべきである)。
【0020】
上述した実施態様を実施するには、いくつかの手法がある。例えば第1の手法では、第1および第2回析格子構造を有する単一の回折格子を使用することができ、この場合、第1および第2回析構造は同一ではあるが、ある角度で(例えば直交するように)整列させる。この例としてはフィッシュボーン(魚骨)構造が考えられ、この場合、第1格子構造は、第1方向で平行な多数のラインから構成され、第2格子構造は、第1方向に対して直交する第2方向で平行な多数のラインから構成されている。
【0021】
他の実施態様では、第1回折格子を一次レーザービームに対して直交する回転軸船を中心として回転させる。還元すれば、この第1格子構造を「ひっくり返す」。
【0022】
一次レーザービームに対して直交する回転軸線は、第1回折格子をこの回転軸線を中心として180°だけ回転させることによって、第2格子構造が得られるように選択することができることは明らかであろう。この場合、第2格子構造の格子ラインは、一次レーザービームに対して直交する平面において、第1格子構造の格子ラインに対して直交している。
【0023】
第1格子構造を第2格子構造に変える他の可能性には、前記第1回折格子を、前記一次レーザービーム対して平行な回転軸線に対して回転させる手法が含まれることは明らかであろう。この回転は、所望の回転角度に亘って正確に実行する必要がある。
【0024】
本発明の他の観点によれば、半導体材料のウェハ内に形成された半導体素子のような、基板上に形成された半導体素子を分離するための分離装置であって、少なくとも1つの一次レーザービームを発生するように構成されたレーザー装置と、少なくとも第1格子構造を有する第1回折格子であって、前記少なくとも1つの一次レーザービームを前記第1格子構造に衝突させることによって、この少なくとも1つの一次レーザービームを複数の二次レーザービームに分割するように構成された当該第1回折格子と、前記基板を前記レーザー装置に対し少なくとも第1方向に移動させることによって第1切込み溝を形成するように構成された移動手段であって、更に前記基板を前記レーザー装置に対し第2方向に移動させることによって第2切込み溝を形成するように構成されている移動手段とを具える分離装置において、この分離装置が更に、前記第1格子構造を第2格子構造に変えるように構成された手段を有していることを特徴とする分離装置を提供する。
【0025】
本発明の更に他の観点によれば、前述の方法または装置において使用される回折格子であって、その第1部分が第1格子構造を有し、その第2部分が第2格子構造を有する回折格子を提供する。
【0026】
以下の図面に関する説明において、ウェハの表面上に形成された半導体素子を分離するための方法および装置に関する本発明の好適な実施例を更に詳細に説明する。本発明の実施例では、半導体素子は第1方向および第2方向が前述のように互いに直交するように、ウェハ上にマトリクス分布されている。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。すなわち、これらの実施例は、単なる説明のためのものに過ぎない。
【0027】
図1は、本発明の方法を利用するための装置を示し、この場合、レーザー装置1は複数の一次レーザービーム2を出力し、これらのビームは、反射鏡3により回折格子4に衝突するように向けられる。回折格子4は、一次レーザービーム2を複数の二次レーザービーム5に分割する。二次レーザービーム5は、光学素子(対物レンズ)によって、ウェハ12の表面における複数の焦点10および11に集束される。ウェハ12は、テーブル13によって支持されている。軸線15が、一次レーザービームと平行なウェハに対して垂直な光軸を示す点に注意されたい。
【0028】
ウェハ面から半導体素子を分離するために、一次レーザービーム2を、テーブル13によって支持されたウェハ12に対して移動させ、焦点10および11の位置に複数の切込み溝を形成する。この工程は、テーブル13をウェハ12と共に移動させ、光学部品(1、3、4、6および14)をその場に維持するか、もしくは光学部品を移動させ、テーブル13をその場に維持するか、またはテーブル13および光学部品の双方を移動させることによって実行する。
【0029】
複数の切込み溝を第1方向でウェハ面に形成し、かつレーザー装置をウェハに対し第1方向で移動し終えた際に、一次レーザービーム2をウェハ面12に対して第2方向、つまり第1方向に対して垂直な方向に移動させ、第2方向の複数の切込み溝を形成する。方向転換するには、何れかの方法により焦点10および11を異なる位置に形成する必要があることは、明らかであろう。例えば、一次レーザービーム2に対するウェハ12の第1方向が、図1の紙面に対して垂直な方向であり、かつ第2方向が、矢印17によって示されるように紙面に対して平行である場合、第2方向においては、焦点11が焦点10の経路を追従し、一方、第1方向においては、焦点10および11が互いに平行でかつ互いにある距離だけ離れた軌道を通ることは明らかであろう。このことは望ましい状況ではないことは、理解されるであろう。例えば、レーザー装置がウェハに対して第1方向に移動する際に、第2方向に移動する場合とまったく同様に、焦点11が焦点10を追従するようにすることが望ましい。あるいは、第1方向においては、二次レーザービーム5を、第2方向に比べてまったく異なる向きにし、ウェハ面上で焦点が異なるパターンを生じるようにすることが望ましい。
【0030】
焦点10および11の位置の変更は、例えば、第2格子構造を有する第2回析格子14を設け、かつ、第1格子構造4を一次レーザービーム2の当たらない位置に移し、代わりに、回折格子14を一次レーザービーム2の当たる位置に移し、従って一次レーザービーム2が第2格子構造に衝突するようにすることによって、実行可能である。第2回折格子14に形成される第2格子構造は、回折格子4上の第1格子構造と異ならせることができる。従って、一次レーザービーム2が第2格子構造に衝突することによって形成される複数の二次レーザービーム5は、第2格子構造によって、異なる方向に指向させることができる。回折格子14に形成される第2格子構造は、これによって形成される焦点が、第2方向における複数の(等距離の)切込み溝を形成するように、選択することができる。
【0031】
それぞれ第1および第2格子構造を含む回折格子4および14は、図1に示されるように、2個の異なる回折格子から構成することができ、あるいは、第1および第2格子構造をその表面の異なる領域に含む1個の回折格子によって形成することもできる。このような回折格子のいくつかの実施例を、図2A、2Bおよび2Cに示す。
【0032】
図2Aはいわゆるフィッシュボーン格子を示し、この格子は、その表面に配置された2つの格子構造を有している。フィッシュボーン格子20の表面の第1格子構造21および第2格子構造22は、多数の平行な格子線間における距離に関して、互いに類似している。しかしながら、第2格子構造22は、ちょうど90度だけ回転させると、第1格子構造21と完全に正確に一致する数学的イメージとなる。
【0033】
図2Aに示すフィッシュボーン格子は、ウェハの表面に形成されているとともに、マトリクス分布パターンに従って分布されている複数の半導体素子を分離するのに使用される。これらの半導体素子の各々は、四角形の形状にすることができ、マトリクスの各列および各行は、これら半導体素子のうち複数を含む。各列および各行の間には、切込み溝を形成するためのけがき線が設けられている。図2Aに示すようなフィッシュボーン格子20を用いることによって、装置を第1方向に移動させた際に、ウェハを一次レーザービームに対して回転させる必要がなくなることは、明らかであろう。この場合、一次レーザービームがいずれか所望の格子構造21または22に衝突するように、格子20の位置を変えればよい。
【0034】
図2Bは、本発明で使用することのできる回折格子の別の実施例を示しており、この場合、第1格子構造25および第2格子構造26を、回折格子24の表面に形成する。第1格子構造25によって形成される二次レーザービームのパターンが、第2格子構造26よって形成される二次レーザービームのパターンとは全く異なることは、明らかであろう。更に、ウェハをダイシングする条件が異なる場合、異なる回折格子を設計しうることも明らかであろう。ウェハが、図2Aに関連して上述したようなマトリクス分布に従って分布されない複数の半導体素子を有する場合には、第1格子構造および第2格子構造(場合によっては第3、第4格子構造)の任意の集合体を形成し、いずれか所望の方向にカッティングを行うように固定された適切なパターンの二次レーザービームを出力するようにすることができる。
【0035】
図2Cには、更に他の実施例のフィッシュボーン格子28が示されおり、この場合、第1格子構造29は複数の平行な格子線を含み、かつ第2格子構造30は第1格子構造に対して垂直な複数の格子線を含む。第1格子構造の格子構造線は、第2格子構造の格子線と比較して、互いにより密接している点に留意されたい。
【0036】
図3に示されるように、従来の回折格子を、「ひっくり返す」ことによっても、第1格子構造を第2格子構造に変換することが可能である。図3の上半分は、第1格子構造36を有する従来の回折格子35を示す。格子の表面に平行な回転軸線37は、回転軸線37と第1格子構造36の格子線との間の角度αが、第1格子構造36により第2格子構造40を形成するために紙面の平面においてこの第1格子構造36を回転させるべき角度の半分と等しくなるように選択する。この場合、第2格子構造40は、回折格子35を回転軸線37を中心として180度に等しい角度θだけ回転させることによって得られる。この回転を矢印38によって示す。図3の下半分は、この回転の結果を示す。ここには、格子35と同一の(符号35′を付した)格子が示されており、この格子は第2格子構造40を有するものである。実際には、第2格子構造40は、回折格子35を回転軸線37を中心として、格子の「裏」面が「表」面になるかまたは「表」面が「裏」面になるように回転させることによって得られる。参考として、図3の下半分にも回転軸線37を示す。
【0037】
上述した技術を考慮することによって、本発明に種々の修正および変更を加えることが可能であることは明らかである。従って特許請求の範囲の技術範囲内において、上述したのとは異なる本発明の実施が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は本発明による装置を示す説明図である。
【図2】図2A〜Cは、本発明において用いられるいくつかの回折格子の説明図である。
【図3】図3は、回折格子を回転させることによって第1格子構造を第2格子構造に変える工程に関する説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの一次レーザービームを発生するレーザー装置を使用することによって、半導体材料のウェハ内に形成された半導体素子のような、基板上の半導体素子を分離する方法であって、少なくとも第1格子構造を有する第1回折格子を用いて前記少なくとも1つの一次レーザービームを前記第1格子構造に衝突させることによって、前記少なくとも1つの一次レーザービームを複数の二次レーザービームに分割し、前記レーザー装置を前記基板に対し第1方向に移動させることによって、少なくとも1つの第1切込み溝を形成し、前記方法は、更に、前記レーザー装置を前記基板に対し第2方向に移動させることによって少なくとも1つの第2切込み溝を形成する工程を含む前記方法において、該方法が、前記レーザー装置を前記基板に対し前記第2方向に移動させる工程の前に、前記第1格子構造を第2格子構造に変える工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記第1格子構造を第2格子構造に変える前記工程が、前記少なくとも1つの一次レーザービームが前記第2格子構造に衝突するように、前記第1回折格子を平行移動させる工程を含む方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記第1回折格子が前記第2格子構造を有するようにする方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法において、前記第2格子構造が第2回折格子に形成されているようにする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法において、前記第2格子構造が前記第1格子構造をある回転角度だけ回転させることによって得られる前記第1格子構造の数学的イメージとなるように、前記第1および第2格子構造を選択する方法。
【請求項6】
請求項1を引用する請求項5に記載の方法において、前記第1格子構造を第2格子構造に変える前記工程が、前記第2格子構造を形成するために前記第1回折格子を回転させる工程を含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記第1回折格子を回転させる前記工程が、前記少なくとも1つの一次レーザービームと直交する回転軸線に対して前記第1回折格子を回転させる工程を含む方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法において、前記第1回折格子を回転させる前記工程が、前記少なくとも1つの一次レーザービームと平行な回転軸線に対して前記第1回折格子を回転させる工程を含む方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法において、前記第2方向を前記第1方向と直交させる方法。
【請求項10】
半導体材料のウェハ内に形成された半導体素子のような、基板上に形成された半導体素子を分離するための分離装置であって、少なくとも1つの一次レーザービームを発生するように構成されたレーザー装置と、少なくとも第1格子構造を有する第1回折格子であって、前記少なくとも1つの一次レーザービームを前記第1格子構造に衝突させることによって、この少なくとも1つの一次レーザービームを複数の二次レーザービームに分割するように構成された当該第1回折格子と、前記基板を前記レーザー装置に対し少なくとも第1方向に移動させることによって第1切込み溝を形成するように構成された移動手段であって、更に前記基板を前記レーザー装置に対し第2方向に移動させることによって第2切込み溝を形成するように構成されている移動手段とを具える分離装置において、この分離装置が更に、前記第1格子構造を第2格子構造に変えるように構成された手段を有していることを特徴とする分離装置。
【請求項11】
請求項10に記載の分離装置において、前記第1格子構造を第2格子構造に変えるように構成された前記手段が、前記少なくとも1つの一次レーザービームが前記第2格子構造に衝突するように、前記回折格子を前記少なくとも1つの一次レーザービームに対して平行移動させるように構成されている分離装置。
【請求項12】
請求項11に記載の分離装置において、前記第1回折格子が前記第2格子構造を有している分離装置。
【請求項13】
請求項11に記載の分離装置において、この分離装置が更に、前記第2格子構造を含む第2回折格子を具えている分離装置。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか一項に記載の分離装置において、前記第2格子構造を、前記第1格子構造をある回転角度だけ回転させることによって得られる、前記第1格子構造の数学的イメージとした分離装置。
【請求項15】
請求項14に記載の分離装置において、前記第1格子構造を第2格子構造に変えるように構成された前記手段が、前記少なくとも1つの一次レーザービームと直交する回転軸線を中心として、前記第1回折格子を回転させるように構成されている分離装置。
【請求項16】
請求項1〜9のうちいずれか一項に記載の方法に用いる回折格子であって、この回折格子が、第1格子構造を有する第1部分と、第2格子構造を有する第2部分とを具える当該回折格子。
【請求項17】
請求項16に記載の回折格子において、前記第2格子構造が、前記第1格子構造をある回転角度だけ回転させることによって得られる、前記第1格子構造の数学的イメージである回折格子。
【請求項18】
請求項17に記載の回折格子において、前記回転角度が平角である回折格子。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−516840(P2007−516840A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546876(P2006−546876)
【出願日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000922
【国際公開番号】WO2005/063434
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(504031528)アドヴァンスド レーザー セパレイション インターナショナル ベー ヴェー (1)
【Fターム(参考)】