説明

回折格子作製用位相マスク

【課題】0次光成分を極力少なくし、透過±1次光の回折効率を極力多くして、転写した光ファイバー等の光導波路の回折格子の反射スペクトル中にノイズが発生しないようにした回折格子作製用位相マスクを提供する。
【解決手段】光ファイバー22に対して、相互に平行で断面略矩形の凹溝26と凸条27の繰り返しパターン面28を向けて配置され、繰り返しパターン面28とは反対側の面から露光光23を照射し、0次光25Aを5%以下に抑え、透過±1次光25B、25Cによる所定ピッチの干渉縞を露光して回折格子を作製する。凹溝26の深さdが露光光の位相を3πラジアン近傍にずらすようにすることにより、その位相をπラジアン近傍にずらす場合より、透過±1次光の回折効率あるいは透過0次光に対するコントラストを高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子作製用位相マスクに関し、特に、フォトレジスト等の感光性材料の表面又は内部に微細な回折格子を作製するための位相マスクや、光通信等に用いられる光ファイバー内に紫外線レーザ光を用いて回折格子を作製するための位相マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下は、光ファイバーの回折格子の作製を例にして述べる。
【0003】
光ファイバーは地球規模の通信に大革新をもたらし、高品質、大容量の大洋横断電話通信を可能にしたが、従来より、この光ファイバーに沿ってコア内に周期的に屈折率分布を作り出し、光ファイバー内にブラック回折格子を作り、その回折格子の周期と長さ、屈折率変調の大きさによって回折格子の反射率の高低と波長特性の幅を決めることにより、その回折格子を光通信用の波長多重分割器、レーザやセンサーに使用される狭帯域の高反射ミラー、光ファイバーアンプにおける余分なレーザ波長を取り除く波長選択フィルター等として利用できることが知られている。
【0004】
しかし、石英光ファイバーの減衰が最小となり、長距離通信システムに適している波長は1.55μmであることにより、この波長で光ファイバー回折格子を使用するためには、格子間隔を約500nmとする必要があり、このような細かい構造をコアの中に作ること自体が当初は難しいとされており、光ファイバーのコア内にブラック回折格子を作るのに、側面研磨、フォトレジストプロセス、ホログラフィー露光、反応性イオンビームエッチング等からなる何段階もの複雑な工程がとられていた。このため、作製時間が長く、歩留まりも低かった。
【0005】
しかし、最近、紫外線を光ファイバーに照射し、直接コア内に屈折率の変化をもたらし回折格子を作る方法が知られるようになり、この紫外線を照射する方法は複雑なプロセスを必要としないため、周辺技術の進歩と共に次第に実施されるようになってきた。
【0006】
この紫外光を用いる方法の場合、上記のように格子間隔が約500nmと細かいため、2本の光束を干渉させる干渉方法、(エキシマレーザからのシングルパルスを集光して回折格子面を1枚ずつ作る)1点毎の書き込みによる方法、グレーティングを持つ位相マスクを使って照射する方法等がとられている。
【0007】
上記の2光束を干渉させる干渉方法には、横方向のビームの品質、すなわち空間コヒーレンスに問題があり、1点毎の書き込みによる方法には、サブミクロンの大きさの緻密なステップ制御が必要で、かつ光を小さく取り込み多くの面を書き込むことが要求され、作業性にも問題があった。
【0008】
このため、上記問題に対応できる方法として、位相マスクを用いる照射方法が注目されるようになってきたが、この方法は図1(a)に示すように、石英基板の1面に凹溝を所定の繰り返し周期で所定の深さに設けた位相マスク21を用いて、KrFエキシマレーザ光(波長:248nm)23をそのマスク21に照射し、光ファイバー22のコア22Aに直接屈折率の変化をもたらし、グレーティング(格子)を作製するものである。なお、図1(a)には、コア22Aにおける干渉縞パターン24を分かりやすく拡大して示してある。図1(b)、図1(c)はそれぞれ位相マスク21の断面図、それに対応する上面図の一部を示したものである。位相マスク21は、その1面に繰り返し周期Λで深さdの
凹溝26を設け、凹溝26間に略同じ幅の凸条27を設けてなるバイナリー位相型回折格子状の構造を有するものである。
【0009】
位相マスク21の凹溝26の深さ(凸条27と凹溝26との高さの差)dは、露光光であるエキシマレーザ光(ビーム)23の位相をπラジアンだけ変調するように選択されており、0次光(ビーム)25Aは位相マスク21により5%以下に抑えられ、マスク21から出る主な光(ビーム)は、回折光の35%以上を含むプラス1次の回折光25Bとマイナス1次の回折光25Cに分割される。このため、このプラス1次の回折光25Bとマイナス1次の回折光25Cによる所定ピッチの干渉縞の照射を行い、このピッチでの屈折率変化を光ファイバー22内にもたらすものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−103786号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“SPIE”Vol.883(1988),pp.8〜11
【非特許文献2】辻内順平著「ホログラフィー」(1997年11月5日発行、(株)裳華房)、p.55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような位相マスク21の断面形状寸法は、凹溝26の深さdが上記のように波長λの露光光23の位相をπラジアンだけずらせ、かつ、凸条27の幅wと繰り返し周期Λの比w/Λで定義される凸条27のデューティ比fが0.5のときに、0次光成分25Aの回折効率が最小になるとされている(スカラー回折理論)。
【0013】
ところが、繰り返し周期の微細化によりその周期が波長オーダーになると、0次光成分25Aが数%以上透過してしまい、そのため、0次光成分25Aが転写の際のノイズとなり、転写した光導波路回折格子の反射スペクトル中にノイズが発生してしまう問題があった。
【0014】
さらに、特にピッチが露光波長に近付いたり、位相マスク材料に高い屈折率を使用したりすると、透過0次光25Aを0%にできなかったり、透過±1次光25B、25Cが低減する問題がある。すなわち、ピッチが露光波長に近付くと、段々透過0次光25Aを0%にできなくなったり、透過±1次光25B、25Cが低減するため、特許文献1では位相マスク材料に高い屈折率を使用して改善しているが、反面、反射光の効率が増えて透過±1次光25B、25Cが低減したり、さらに小さいピッチでは再び透過0次光が0%にできなくなる問題がある。
【0015】
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、回折されないで透過する0次光成分を極力少なくし、透過±1次光の回折効率を極力多くして、転写した光ファイバー等の光導波路の回折格子の反射スペクトル中にノイズが発生しないようにした回折格子作製用位相マスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する本発明の回折格子作製用位相マスクは、透明基板の1面に格子状の断面略矩形の凹溝と凸条の繰り返しパターンが設けられ、その繰り返しパターンによる透過±1次光の干渉により感光性材料中に回折格子を形成する位相マスクにおいて、凹溝と凸条の繰り返しパターンの断面形状寸法が、d:凹溝の溝深さ、w:凸条の幅、Λ:繰り
返し周期、λ:露光波長、n2 :透明基板の屈折率、n1 :周囲(雰囲気又は液体)の屈折率、d0 =λ/{2(n2 −n1 )}、f=w/Λ、Λ’=Λ/λとするとき、n1 Λ' 、n2 /n1 、d/d0 、fが次の条件式(1)〜(3)、(5)、(6)を同時に満たすことを特徴とするものである。
【0017】
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲の区間1:1.0 <n1 Λ' ≦1.5 では、
-23.150 (n1 Λ' )5 + 83.283 (n1 Λ' )4 −65.102(n1 Λ' )3
−78.080(n1 Λ' )2 +131.966 n1 Λ' −46.905
≦n2 /n1 ≦118.085 (n1 Λ' )5 −510.61(n1 Λ' )4
+638.55(n1 Λ' )3 +78.771(n1 Λ' )2 −642.31n1 Λ' +321.06
・・・(1)
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲の区間2:1.5 <n1 Λ' ≦1.9 では、
13.239(n1 Λ' )3 −64.220(n1 Λ' )2 +103.117 n1 Λ' −53.40
≦n2 /n1 ≦61.5374 (n1 Λ' )6 −385.3323(n1 Λ' )5
+328.953 (n1 Λ' )4 +2844.835(n1 Λ' )3 −8978.233(n1 Λ' )2
+10245.56n1 Λ' −4207.135 ・・・(2)
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲の区間3:1.9 <n1 Λ' <2.2 では、
10.443(n1 Λ' )2 −42.926n1 Λ' +45.36
≦n2 /n1 ≦-8.393(n1 Λ' )2 +32.374n1 Λ' −29.674 ・・・(3)
かつ、
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲で、
2.8090+0.7790/{(n1 Λ' +4.7488)(n2 /n1 −1.1687)}
≦d/d0
3.6885+0.1488/{(n1 Λ' +2.6126)(n2 /n1 −1.1233)}・・・(5)
かつ、
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲で、
0.7123−3.8871/{(n1 Λ' +1.7055)(n2 /n1 +0.7117)}
≦f≦0.7740−1.7142/{(n1 Λ' +1.7095)(n2 /n1 −0.3275)}
・・・(6)。

【0018】
この場合に、 1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲で、
2 /n1 =-1.5543 (n1 Λ' )5 +8.1107(n1 Λ' )4
−13.048(n1 Λ' )3 +3.248 (n1 Λ' )2 +7.476 n1 Λ'
−2.141 ・・・(4)
を満たすことが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の回折格子作製用位相マスクによると、凹溝と凸条の繰り返しパターンの断面形状が略矩形状で、凹溝と凸条の繰り返しパターンの断面形状寸法が、位相差が3πラジアン近傍で透過0次光回折効率が最小になり、透過0次光に対する透過±1次光のコントラストが最大になるように最適化されてなるので、この回折格子作製用位相マスクに紫外線露光光を照射してその±1次の回折光相互の干渉により光ファイバー等の感光性材料中に所定ピッチの干渉縞の露光を行い、その干渉縞のピッチの屈折率変化を感光性材料中に発生させて回折格子を作製することにより、回折光にノイズが発生しない高特性の回折格子を作製することができる。特に、位相マスクに高屈折材料を用いることで、雰囲気中の回折角若しくは雰囲気中に換算した回折角が大きく取れるので、レジストや光ファイバーグレーティングのような露光される側により細かい干渉縞を記録することができる。
【0020】
また、露光光の位相差がπラジアン近傍で透過0次光が0%にできない屈折率と繰り返
し周期の領域で、透過0次光を低減することができ、透過±1次光の回折効率、及び、透過0次光に対する透過±1次光のコントラストを改善することができる。これにより、露光時間を短くできて、省エネルギーや振動等の影響の抑制等が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】光ファイバー加工に用いられる本発明の位相マスクを説明するための図である。
【図2】本発明の回折格子作製用位相マスクを用いて回折格子を作製する場合の基本配置を示す断面図である。
【図3】本発明による最適化範囲を横軸にn1 Λ' 、縦軸にn2 /n1 としてグラフにプロットした図である。
【図4】本発明による最適化範囲となるd/d0 をn2 /n1 とn1 Λ’を変数としてとった図である。
【図5】本発明による最適化範囲となるfをn2 /n1 とn1 Λ’を変数としてとった図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、回折格子作製用位相マスクの凹溝の深さが露光光の位相を3πラジアン近傍にずらすようにすることにより、その位相をπラジアン近傍にずらす場合より、透過±1次光の回折効率あるいは透過0次光に対するコントラストを高くすることができることを発見して完成されたものである。
【0023】
図2は、本発明の回折格子作製用位相マスクを用いて回折格子を作製する場合の基本配置を示す断面図である。本発明の回折格子作製用位相マスク21は、干渉縞パターン24(図1)を露光する光ファイバー等の感光性材料22に対して、相互に平行で断面略矩形の凹溝26と凸条27の繰り返しパターン面28を向けて配置されるものであり、干渉縞パターン24が露光される光ファイバー等の感光性材料22と位相マスク21の繰り返しパターン面28の間に位相マスク21の透明基板の屈折率と異なる気体又は液体29で充填し、この状態で位相マスク21の繰り返しパターン面28とは反対側の面からKrFエキシマレーザ光等の露光光23を照射し、凹溝26と凸条27の繰り返しパターン面28を回折されないで透過する0次光25Aを5%(繰り返しパターン面28での0次光の回折効率T0 。位相マスク21の透明基板の繰り返しパターン面28とは反対の面での減衰、透明基板内での減衰は含まない。)以下に抑え、繰り返しパターン面28でプラス1次の回折光25Bとマイナス1次の回折光25Cに分割し、このプラス1次の回折光25Bとマイナス1次の回折光25Cによる所定ピッチの干渉縞の照射を感光性材料22に行い、その中に回折格子を露光して屈折率変化等により回折格子を作製するのに用いるものである。
【0024】
このような相互に平行で断面略矩形の凹溝26と凸条27の繰り返しパターン面28を持つバイナリー位相型回折格子には、d:凹溝26の溝深さ、w:凸条27の幅、Λ:繰り返し周期、λ:露光波長、n2 :透明基板の屈折率、n1 :周囲(気体又は液体)の屈折率、f=w/Λ、Λ’=Λ/λ、d0 =λ/{2(n2 −n1 )}として、Q値が定まり、Q=2πλd/(nΛ2 )で定義される(非特許文献2)。図2のような位相マスクの場合、平均屈折率n=fn2 +(1−f)n1 となり、Λ’=Λ/λを代入すると、Q=(2πd/λ)/{fn2 +(1−f)n1 }Λ'2と書ける。ここで、Q≦1であると、その回折格子はスカラー回折理論で精度良い回折格子を得ることができるので、本発明ではスカラー回折理論で精度良く対応できないQ>1、すなわち、
2πd/λ>{fn2 +(1−f)n1 }Λ'2 ・・・(1)
を満たすバイナリー位相型回折格子(位相マスク)21を対象とする。
【0025】
スカラー理論で適用困難なQ>1を対象として、d/d0 =3,5,7,・・・(3以上の奇数)の近傍とすると、透過±1次光25B、25Cの回折効率T1 を比較的多くすることができることが分かった。その物理的意味としては、回折格子の深溝化によって反射防止効果が生じ、反射光だった分をT1 に振分けられるためと考えられる。また、d/d0 =1付近で透過0次光25Aの効率T0 を0%にできない(n2 /n1 ,n1 Λ' )領域で、d/d0 を3近傍より大きくすることで、d/d0 が1近傍の場合より透過0次光25Aを低減し得る。このようなことから、コントラストT0 /T1 及びT1 を改善することができる。ただし、実際には、d/d0 =5,7,・・・(5以上の奇数)においては、このような解の存在が波打っていてあったりなかったりすることから、d/d0 =3付近で検討する。
【0026】
上記したように、図2に示したようなバイナリー位相型回折格子(位相マスク)21の各回折次数の回折効率は、ベクトル回折理論(非特許文献1)により厳密に求めることができる。なお、回折効率は、位相マスク21の回折格子直前の内部から回折格子を通って回折格子直後の外部に回折する際の回折効率であって、それ以前の基板外部から基板内部へ入射する際の反射や、基板が異なる屈折率の材料の積層体からなる場合の界面での反射等は考慮していない。
【0027】
そこで、まず、ベクトル回折理論を用いて、d/d0 が3近傍と1近傍で、n1 Λ' とn2 /n1 の組に対して、d/d0 とfをパラメータとして、T0 を極小化し、その極小化したときのT0 (%)、T0 /T1 、T1 (%)を求めた。その結果をそれぞれ次の表1と表2に示す。d/d0 が3近傍の場合には、T0 を極小化したときのd/d0 とfの値も表示した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

ただし、T0 、T1 の値は、計算誤差のため、また作製誤差で0.1%程度の誤差が生じるため、0.01(%)の桁で四捨五入している。
【0030】
表1と表2を比較すると、d/d0 が3近傍の場合が1近傍の場合に比べてT0 が小さく、T1 が大きい場合がある。
【0031】
そこで、
[1] d/d0 =1付近の対応する(n1 Λ' ,n2 /n1 )に比べて、d/d0 =3付近のコントラストが同等以上(T0 /T1 が同等以下)、
[2] T0 ≦5%(表1、表2共にT0 が白黒反転した値以外)、
[3] T0 =0%である場合には、d/d0 =1付近の各n1 Λ' でT0 =0%であるときの最大のT1 (表2のT1 が白黒反転した値)に対して、d/d0 =3付近のT1 がこれと同等以上、
[4] 各n1 Λ' でn2 /n1 の小さい側から連続した1つの領域、
の条件を満たす範囲は、表1の二重枠で囲った範囲となる(T0 ≠0%である場合には、[1] かつ[2] で、T0 =0%である場合には、[1] かつ[2] かつ[3] で、何れも[4] を満たす範囲)。
【0032】
表1の二重枠で囲った範囲を横軸にn1 Λ' 、縦軸にn2 /n1 としてグラフにプロットすると図3のようになる。それぞれのn1 Λ' のときのn2 /n1 の最大値と最小値を示してあり、その最大値と最小値の間では、d/d0 が3付近の方が1付近に比べて、T0 ≠0%のときはT0 /T1 が小さくコントラストが大きく、T0 =0%のときはT1 が大きい。また、その最大値と最小値の間でT0 /T1 が最小(T0 =0%のときはT1 が最大)になる点も示してある。
【0033】
図3の最大値、最小値となる点をそれぞれ結ぶ曲線を多項式で近似すると次のようになる。ただし、横軸n1 Λ' を1.0 <n1 Λ' ≦1.5 (区間1)、1.5 <n1 Λ' ≦1.9 (区間2)、1.9 <n1 Λ' <2.2 (区間3)と区切って曲線近似している。
【0034】
区間1:1.0 <n1 Λ' ≦1.5 では、
最小値:n2 /n1 =-23.150 (n1 Λ' )5 + 83.283 (n1 Λ' )4
−65.102(n1 Λ' )3 −78.080(n1 Λ' )2 +131.966 n1 Λ' −46.905
最大値:n2 /n1 =118.085 (n1 Λ' )5 −510.61(n1 Λ' )4
+638.55(n1 Λ' )3 +78.771(n1 Λ' )2 −642.31n1 Λ' +321.06
すなわち、
区間1:1.0 <n1 Λ' ≦1.5 では、
-23.150 (n1 Λ' )5 + 83.283 (n1 Λ' )4 −65.102(n1 Λ' )3
−78.080(n1 Λ' )2 +131.966 n1 Λ' −46.905
≦n2 /n1 ≦118.085 (n1 Λ' )5 −510.61(n1 Λ' )4
+638.55(n1 Λ' )3 +78.771(n1 Λ' )2 −642.31n1 Λ' +321.06
・・・(1)
区間2:1.5 <n1 Λ' ≦1.9 では、
最小値:n2 /n1 =13.239(n1 Λ' )3 −64.220(n1 Λ' )2
+103.117 n1 Λ' −53.40
最大値:n2 /n1 =61.5374 (n1 Λ' )6 −385.3323(n1 Λ' )5
+328.9526(n1 Λ' )4 +2844.835(n1 Λ' )3
−8978.233(n1 Λ' )2 +10245.557 n1 Λ' −4207.134
すなわち、
区間2:1.5 <n1 Λ' ≦1.9 では、
13.239(n1 Λ' )3 −64.220(n1 Λ' )2 +103.117 n1 Λ' −53.40
≦n2 /n1 ≦61.5374 (n1 Λ' )6 −385.3323(n1 Λ' )5
+328.953 (n1 Λ' )4 +2844.835(n1 Λ' )3 −8978.233(n1 Λ' )2
+10245.56n1 Λ' −4207.135 ・・・(2)
区間3:1.9 <n1 Λ' <2.2 では、
最小値:n2 /n1 =10.443(n1 Λ' )2 −42.926n1 Λ' +45.359
最大値:n2 /n1 =-8.3928 (n1 Λ' )2 +32.374n1 Λ' −29.672
すなわち、
区間3:1.9 <n1 Λ' <2.2 では、
10.443(n1 Λ' )2 −42.926n1 Λ' +45.36
≦n2 /n1 ≦-8.393(n1 Λ' )2 +32.374n1 Λ' −29.674 ・・・(3)
となる。
【0035】
また、T0 /T1 が最小になる点を結ぶ曲線を多項式で近似すると次のようになる。この場合は(横軸n1 Λ' は 1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲)、
2 /n1 =-1.5543 (n1 Λ' )5 +8.1107(n1 Λ' )4
−13.048(n1 Λ' )3 +3.248 (n1 Λ' )2 +7.476 n1 Λ'
−2.141 ・・・(4)
となる。
【0036】
ところで、(n1 Λ' ,n2 /n1 )が表1の二重枠で囲った範囲(T0 ≠0%である場合には、[1] かつ[2] で、T0 =0%である場合には、[1] かつ[2] かつ[3] で、何れも[4] を満たす範囲)にある場合、すなわち、条件式(1)〜(3)を満たす場合に、d/d0 とfが如何なる範囲を満たせばよいかを示したのがそれぞれ図4、図5である。
【0037】
図4の「元データ」として示したグラフは、表1の二重枠で囲った範囲にある場合に、
d/d0 をn2 /n1 とn1 Λ’を変数としてとった図であり、また、「最大側包絡面」、「最小側包絡面」として示したグラフは、「元データ」の曲面をそれぞれd/d0 の上側、下側から接して誤差が小さくなるように近似曲面を定めた図である。図4においては、縦軸にd/d0 を、横軸の一方にn2 /n1 を、他方にn1 Λ’をとって3次元的に図示してある。
【0038】
この図4の場合の最小側包絡面と最大側包絡面の間に挟まれるd/d0 の範囲は次の通りである。
【0039】
2.8090+0.7790/{(n1 Λ' +4.7488)(n2 /n1 −1.1687)}
≦d/d0
3.6885+0.1488/{(n1 Λ' +2.6126)(n2 /n1 −1.1233)}・・・(5)
となる。
【0040】
また、図5の「元データ」として示したグラフは、表1の二重枠で囲った範囲にある場合に、fをn2 /n1 とn1 Λ’を変数としてとった図であり、また、「最大側包絡面」、「最小側包絡面」として示したグラフは、「元データ」の曲面をそれぞれfの下側、上側から接して誤差が小さくなるように近似曲面を定めた図である。図5においては、縦軸にfを、横軸の一方にn2 /n1 を、他方にn1 Λ’をとって3次元的に図示してある。
【0041】
この図5の場合の最小側包絡面と最大側包絡面の間に挟まれるfの範囲は次の通りである。
【0042】
0.7123−3.8871/{(n1 Λ' +1.7055)(n2 /n1 +0.7117)}
≦f≦0.7740−1.7142/{(n1 Λ' +1.7095)(n2 /n1 −0.3275)}
・・・(6)
以上から明らかなように、条件式(1)〜(3)、(5)、(6)を同時に満たす場合に、位相マスク21の凹溝26の深さdが露光光の位相をπラジアン近傍にずらすようにするより3π近傍にずらすようにする方が、T0 /T1 が小さく0次光25Aに対する透過±1次光25B、25Cのコントラストを大きくすることができる(T0 ≠0%のとき)か、透過±1次光25B、25Cの回折効率T1 を大きくすることができる(T0 =0%のとき)。
【0043】
次に、本発明に基づく回折格子作製用位相マスクのいくつかの実施例を示す。次の表3に示す実施例1−1、2−1、3−1、4−1、5−1、6−1は本発明に基づく実施例であり、実施例1−2、2−2、3−2、4−2、5−2、6−2は比較例である。それらの実施例、比較例の使用する偏光と、パラメータn1 、n2 、Λ、f、d/λ、d/d0 、T0 、T1 、TRT、Qを示す。ただし、TRTは反射回折成分の総和である。ここで、T0 、T1 、TRTの単位は%である。
〔表3〕
実施例 偏光 n1 2 Λ f d/λ d/d0 0 1 RT
1−1 S 1.00 1.834 1.1 0.354 1.756 2.928 2.2 34.6 28.7 7.04
1−2 S 1.00 1.834 1.1 0.291 0.618 1.031 3.1 29.4 38.2 2.58

2−1 S 1.00 2.00 1.1 0.345 1.487 2.975 0.0 37.5 25.1 5.74
2−2 S 1.00 2.00 1.1 0.281 0.543 1.085 0.3 29.9 39.8 2.20

3−1 S 1.00 2.00 1.4 0.389 1.640 3.279 0.0 38.7 22.5 3.78
3−2 S 1.00 2.00 1.4 0.390 0.551 1.102 0.0 37.4 25.2 1.27

4−1 P 1.00 1.80 1.2 0.409 2.311 3.698 3.9 45.7 4.7 7.60
4−2 P 1.00 1.80 1.2 0.403 0.777 1.243 4.3 43.8 8.0 2.56

5−1 S 1.50 2.80 0.7 0.331 1.125 2.925 0.3 38.1 23.5 7.47
5−2 S 1.50 2.80 0.7 0.315 0.386 1.002 3.2 25.0 46.8 2.59

6−1 P 1.50 2.70 0.8 0.409 1.541 3.698 3.9 45.7 4.7 7.60
6−2 P 1.50 2.70 0.8 0.403 0.518 1.243 4.3 43.8 8.0 2.56

【0044】
実施例1−1、2−1、3−1、4−1、5−1、6−1は本発明に基づいてd/d0 が3近傍で最適化した場合であり、比較例1−2、2−2、3−2、4−2、5−2、6−2はd/d0 が1近傍で最適化した場合であり、何れの場合も、本発明の実施例が比較例に比べてT0 がより小さく、T1 がより大きくなっていることが分かる。
【0045】
なお、本発明による回折格子作製用位相マスク21を用いて干渉縞パターン24を光ファイバー等の感光性材料22に露光する場合、相互に干渉する透過±1次光25B、25Cの電場の向きを考慮すると、P偏光を用いるよりS偏光を用いる方が露光効率が良くなる。
【0046】
以上、本発明の回折格子作製用位相マスクをその原理と実施例に基づいて説明してきたが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の回折格子作製用位相マスクによると、凹溝と凸条の繰り返しパターンの断面形状が略矩形状で、凹溝と凸条の繰り返しパターンの断面形状寸法が、位相差が3πラジアン近傍で透過0次光回折効率が最小になり、透過0次光に対する透過±1次光のコントラストが最大になるように最適化されてなるので、この回折格子作製用位相マスクに紫外線露光光を照射してその±1次の回折光相互の干渉により光ファイバー等の感光性材料中に所定ピッチの干渉縞の露光を行い、その干渉縞のピッチの屈折率変化を感光性材料中に発生させて回折格子を作製することにより、回折光にノイズが発生しない高特性の回折格子を作製することができる。特に、位相マスクに高屈折材料を用いることで、雰囲気中の回折角若しくは雰囲気中に換算した回折角が大きく取れるので、レジストや光ファイバーグレーティングのような露光される側により細かい干渉縞を記録することができる。
【0048】
また、露光光の位相差がπラジアン近傍で透過0次光が0%にできない屈折率と繰り返し周期の領域で、透過0次光を低減することができ、透過±1次光の回折効率、及び、透過0次光に対する透過±1次光のコントラストを改善することができる。これにより、露光時間を短くできて、省エネルギーや振動等の影響の抑制等が可能になる。
【符号の説明】
【0049】
21…位相マスク(回折格子作製用位相マスク)
22…光ファイバー(感光性材料)
22A…光ファイバーコア
23…露光光
24…干渉縞パターン
25A…0次光
25B…プラス1次の回折光
25C…マイナス1次の回折光
26…凹溝
27…凸条
28…繰り返しパターン面
29…気体又は液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の1面に格子状の断面略矩形の凹溝と凸条の繰り返しパターンが設けられ、その繰り返しパターンによりる透過±1次光の干渉により感光性材料中に回折格子を形成する位相マスクにおいて、凹溝と凸条の繰り返しパターンの断面形状寸法が、d:凹溝の溝深さ、w:凸条の幅、Λ:繰り返し周期、λ:露光波長、n2 :透明基板の屈折率、n1 :周囲(雰囲気又は液体)の屈折率、d0 =λ/{2(n2 −n1 )}、f=w/Λ、Λ’=Λ/λとするとき、n1 Λ' 、n2 /n1 、d/d0 、fが次の条件式(1)〜(3)、(5)、(6)を同時に満たすことを特徴とする回折格子作製用位相マスク。
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲の区間1:1.0 <n1 Λ' ≦1.5 では、
-23.150 (n1 Λ' )5 + 83.283 (n1 Λ' )4 −65.102(n1 Λ' )3
−78.080(n1 Λ' )2 +131.966 n1 Λ' −46.905
≦n2 /n1 ≦118.085 (n1 Λ' )5 −510.61(n1 Λ' )4
+638.55(n1 Λ' )3 +78.771(n1 Λ' )2 −642.31n1 Λ' +321.06
・・・(1)
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲の区間2:1.5 <n1 Λ' ≦1.9 では、
13.239(n1 Λ' )3 −64.220(n1 Λ' )2 +103.117 n1 Λ' −53.40
≦n2 /n1 ≦61.5374 (n1 Λ' )6 −385.3323(n1 Λ' )5
+328.953 (n1 Λ' )4 +2844.835(n1 Λ' )3 −8978.233(n1 Λ' )2
+10245.56n1 Λ' −4207.135 ・・・(2)
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲の区間3:1.9 <n1 Λ' <2.2 では、
10.443(n1 Λ' )2 −42.926n1 Λ' +45.36
≦n2 /n1 ≦-8.393(n1 Λ' )2 +32.374n1 Λ' −29.674 ・・・(3)
かつ、
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲で、
2.8090+0.7790/{(n1 Λ' +4.7488)(n2 /n1 −1.1687)}
≦d/d0
3.6885+0.1488/{(n1 Λ' +2.6126)(n2 /n1 −1.1233)}・・・(5)
かつ、
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲で、
0.7123−3.8871/{(n1 Λ' +1.7055)(n2 /n1 +0.7117)}
≦f≦0.7740−1.7142/{(n1 Λ' +1.7095)(n2 /n1 −0.3275)}
・・・(6)。
【請求項2】
請求項1において、
1.0<n1 Λ' <2.2 の範囲で、
2 /n1 =-1.5543 (n1 Λ' )5 +8.1107(n1 Λ' )4
−13.048(n1 Λ' )3 +3.248 (n1 Λ' )2 +7.476 n1 Λ'
−2.141 ・・・(4)
を満たすことを特徴とする回折格子作製用位相マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−39094(P2011−39094A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183484(P2009−183484)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】