説明

回折格子及びその調整方法、並びに放射線撮影システム

【課題】複数枚の回折格子を使用して位相コントラスト画像を撮影する放射線撮影システムにおいて、高精度な測定器を使用せずに各回折格子の位置や傾きを調整する。
【解決手段】1枚目の格子である第3の吸収型格子25は、FPD20の検出面に直交するz軸上に配置され、第3の吸収型格子25を通過するX線量に基づいて、z軸に直交するx軸、y軸上の回転位置θx、θyが調整される。2枚目の格子である第1の吸収型格子21は、モアレパターンが生じるようにz軸上に配置され、FPD20により検出したモアレパターンの周波数が面内において一律になるように、θx、θyが調整される。3枚目の格子である第2の吸収型格子22は、2枚目の格子である第1の吸収型格子21と同様にモアレパターンに基づいてθx、θyが調整され、その後にモアレパターンがFPD20により検出されなくなるように、z軸位置またはz軸周りのθzが調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の回折格子を用いて被検体の位相コントラスト画像を撮影する放射線撮影システムにおいて、複数枚の回折格子の位置や傾きを調整する方法と、調整に適した回折格子とに関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、物質を構成する元素の原子番号と、物質の密度及び厚さとに依存して減衰するといった特性を有することから、被検体の内部を透視するためのプローブとして用いられている。X線を用いた撮影は、医療診断や非破壊検査等の分野において広く普及している。
【0003】
一般的なX線撮影システムでは、X線を放射するX線源とX線を検出するX線画像検出器との間に被検体を配置して、被検体の透過像を撮影する。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射されたX線は、X線画像検出器までの経路上に存在する物質の特性(原子番号、密度、厚さ)の差異に応じた量の減衰(吸収)を受けた後、X線画像検出器の各画素に入射する。この結果、被検体のX線吸収像がX線画像検出器により検出され画像化される。X線画像検出器としては、X線増感紙とフイルムとの組み合わせや輝尽性蛍光体のほか、半導体回路を用いたフラットパネル検出器(FPD:Flat Panel Detector)が広く用いられている。
【0004】
ただし、X線吸収能は、原子番号が小さい元素からなる物質ほど低くなるため、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線吸収像としての十分な画像の濃淡(コントラスト)が得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線の吸収量の差が少ないため、濃淡差が得られにくい。
【0005】
このような問題を背景に、近年、被検体によるX線の強度変化に代えて、被検体によるX線の位相変化(角度変化)に基づいた画像(以下、位相コントラスト画像と称する)を得るX線位相イメージングの研究が盛んに行われている。一般に、X線が物体に入射したとき、X線の強度よりも位相のほうが高い相互作用を示すため、位相差を利用したX線位相イメージングでは、X線吸収能が低い弱吸収物体であっても高コントラストの画像を得ることができる。このようなX線位相イメージングの一種として、2枚の透過型回折格子とX線画像検出器とからなるX線タルボ干渉計を用いたX線撮影システムが考案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0006】
X線タルボ干渉計は、被検体の背後に第1の回折格子を配置し、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長で決まる特定距離(タルボ干渉距離)だけ下流に第2の回折格子を配置し、その背後にX線画像検出器を配置することにより構成される。上記タルボ干渉距離とは、第1の回折格子を通過したX線が、タルボ干渉効果によって自己像(縞画像)を形成する距離であり、この自己像は、X線源と第1の回折格子との間に配置された被検体とX線との相互作用(位相変化)により変調を受ける。
【0007】
X線タルボ干渉計では、第1の回折格子の自己像と第2の回折格子との重ね合わせにより強度変調された縞画像の被検体による変化(位相ズレ)から被検体の位相コントラスト画像を取得する。この縞走査法とは、第1の回折格子に対して第2の回折格子を、第1の回折格子の面にほぼ平行で、かつ第1の回折格子の格子方向(条帯方向)にほぼ垂直な方向に、格子ピッチを等分割した走査ピッチで並進移動させながら複数回の撮影を行い、X線画像検出器で得られる各画素の画素データの位相のズレ量(被検体Hがある場合とない場合とでの位相のズレ量)から位相微分像(被検体で屈折したX線の角度分布に対応)を取得する方法であり、この位相微分像を、上記の縞走査方向に沿って積分することにより被検体の位相コントラスト画像が得られる。なお、画素データは、走査ピッチに対して周期的に強度が変調された信号であるため、以下、「強度変調信号」と称することもある。この縞走査法は、レーザ光を利用した撮影装置においても用いられている(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
X線源の焦点サイズが大きいと第1の回折格子の自己像にボケが生じ、位相コントラスト画像の画質が低下することがある。これを防止するため、X線源の直後に第3の回折格子(線源格子)を配置し、X線源からのX線を部分的に遮蔽して実効的な焦点サイズを縮小するとともに、幅の狭い多数の線光源の集合を(分散光源)を形成することにより、第1の回折格子の自己像のボケを抑制したX線撮影システムも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−200359号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】C. David, et al., Applied Physics Letters, Vol.81, No.17, 2002年10月,3287頁
【非特許文献2】Hector Canabal, et al., Applied Optics, Vol.37, No.26, 1998年9月,6227頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
位相コントラスト像を撮影するには、X線源、第1〜第3の回折格子、X線画像検出器が正確に配置されている必要がある。特に、第1〜第3の回折格子の相対的な回転角度の調整は、僅かなずれが位相コントラスト画像の画質に影響を及ぼすので、困難が予想される。研究レベルのX線撮影システムでは、高精度な測定器を使用すれば当然位置決めが可能であるが、位相コントラスト画像を撮影するX線撮影システムを製品化して設置する場合を想定すると、高度な測定器の使用を前提とするのは現実的でなく、何らかの位置決め手法の確立が求められる。
【0012】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、複数枚の回折格子を使用して位相コントラスト画像を撮影する放射線撮影システムにおいて、高精度な測定器を使用せずに、複数枚の回折格子の位置や傾きを調整する方法と、調整に適した回折格子とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の回折格子の調整方法は、1枚目の回折格子の調整と2枚目以降の回折格子の調整とからなり、1枚目の回折格子の調整は、放射線画像検出器の検出面に直交するz軸上に前記1枚目の回折格子を配置するステップと、1枚目の回折格子をz軸に直交するx軸の周りθxと、z軸及びx軸に直交するy軸の周りθyとに回転させながら1枚目の回折格子を通過した放射線量を測定し、放射線量が最大となるθx及びθyの回転位置を求めるステップとからなる。また、2枚目以降の回折格子の調整は、放射線にモアレパターンが生じるようにz軸上に2枚目以降の回折格子を配置するステップと、2枚目以降の回折格子をθx及びθy方向に回転させながら放射線画像検出器によってモアレパターンを検出し、モアレパターンの周波数が面内で一律になるθx及びθy方向の回転位置を求めるステップと、モアレパターンが放射線画像検出器によって検出されなくなるように、各回折格子間のz軸方向の相対位置とz軸の周りθz方向の相対位置との少なくとも一方を調整するステップとから構成している。
【0014】
モアレパターンが前記放射線検出器によって検出されなくなるようにするステップは、複数のモアレパターン間の間隔であるモアレパターンの周期が、放射線画像検出器の検出範囲よりも長くなるように、各回折格子間のz軸方向の相対位置とz軸周りのθz方向の相対位置との少なくとも一方が調整されることが好ましい。
【0015】
複数枚の回折格子は、放射線を通過させて縞画像を生成する第1の回折格子と、縞画像の周期パターンに対して位相が異なる複数の相対位置で縞画像に強度変調を与える第2の回折格子からなる。
【0016】
また、複数枚の回折格子には、放射線源と第1の回折格子との間に配置され、放射線源から照射された放射線を領域選択的に遮蔽して複数の線光源とする第3の回折格子を含めてもよい。この第3の回折格子は、放射線源の焦点を小さくしてモアレパターンを生じやすくさせる機能を有するため、1枚目または2枚目の回折格子として調整されるのが好ましい。
【0017】
また、2枚目以降の回折格子をz軸上に配置する際には、意図的にモアレパターンを生じさせるため、z軸方向の位置またはθz方向の位置が調整目標位置からずれるように配置するのが好ましい。
【0018】
本発明の回折格子は、一方向に延伸されかつ前記延伸方向に直交する配列方向に沿って配列された複数の放射線遮蔽部を有し、放射線を照射する放射線源と放射線に担持された画像を検出する放射線画像検出器との間に複数配置され、位相コントラスト画像の撮影に用いられる回折格子である。この回折格子の少なくとも1つには、複数の放射線遮蔽部からなる本格子パターンとともに、本格子パターンとは異なる格子パターンからなるアライメントパターンが設けられている。
【0019】
アライメントパターンは、本格子パターンに対し、放射線遮蔽部の間隔である格子ピッチ、または放射線遮蔽部の角度である格子角度が異なっていることが好ましい。
【0020】
また、アライメントパターンには、本格子パターンよりも格子ピッチが狭くされた第1のアライメントパターンと、本格子パターンよりも格子ピッチが広くされた第2のアライメントパターンとを含めてもよい。更にアライメントパターンには、本格子パターンに対し、格子面に直交する軸周りで第1の方向に回転された第3のアライメントパターンと、第1の方向と反対側の第2の方向に回転された第3のアライメントパターンとを含めてもよい。アライメントパターンには、本格子パターンからなる第5のアライメントパターンを含めてもよい。更に、アライメントパターンは、矩形状とされた回折格子の四隅に配置されていることが好ましい。
【0021】
本発明の放射線撮影システムは、放射線を照射する放射線源と、放射線に担持された画像を検出する放射線画像検出器と、放射線源と放射線画像検出器との間に配置された複数枚の上記回折格子とを有し、アライメントパターンと、アライメントパターンが設けられた回折格子とは異なる別の回折格子の本格子パターンとによって放射線に生じたモアレパターンを放射線画像検出器により検出し、モアレパターンに応じて、複数枚の回折格子の相対位置が調整されるようにしている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高精度な測定器を用いなくとも測定可能な通過放射線量と、モアレパターンとに基づいて、複数枚の回折格子の位置及び傾きを精度よく調整することができ、高画質な位相コントラスト画像を得ることができる。また、回折格子に位置ずれ状態や位置ずれ方向を確認するためのアライメントパターンを設けたので、同様に複数枚の回折格子の位置及び傾きを精度よく調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態のX線撮影システムの構成を示す模式図である。
【図2】フラットパネル検出器の構成を示す模式図である。
【図3】第1及び第2の吸収型格子の構成を示す概略側面図である。
【図4】第1の吸収型格子の回転ずれ方向を示す説明図である。
【図5】第1〜第3の吸収型格子の調整手順を示すフローチャートである。
【図6】第3の吸収型格子のθx方向のずれによるX線透過率の変化を示す説明図である。
【図7】第3の吸収型格子のθy方向のずれによるX線透過率の変化を示す説明図である。
【図8】第2の吸収型格子のずれによるモアレパターンを示す説明図である。
【図9】第2の吸収型格子の位置調整により周期が長くされたモアレパターンを示す説明図である。
【図10】縞走査法を説明するための説明図である。
【図11】縞走査に伴って変化する画素データ(強度変調信号)を例示するグラフである。
【図12】本発明の第2実施形態のX線撮影システムの構成を示す模式図である。
【図13】アライメント部の構成を示す説明図である。
【図14】各格子の相対位置が最適なときに撮影されたアライメント部の画像である。
【図15】各格子のz位置がずれているときに撮影されたアライメント部の画像である。
【図16】各格子のθz位置がずれているときに撮影されたアライメント部の画像である。
【図17】第2実施形態の第1〜第3の吸収型格子の調整手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
図1において、本発明のX線撮影システム10は、被検体HにX線を照射するX線源11と、X線源11に対向配置され、X線源11から被検体Hを透過したX線を検出して画像データを生成する撮影部12と、撮影部12から読み出された画像データを記憶するメモリ13と、メモリ13に記憶される複数の画像データを画像処理して位相コントラスト画像を生成する画像処理部14と、画像処理部14により生成された位相コントラスト画像が記録される画像記録部15と、X線源11及び撮影部12の制御を行う撮影制御部16と、操作部やモニタからなるコンソール17と、コンソール17から入力される操作信号に基づいてX線撮影システム10の全体を統括的に制御するシステム制御部18とから構成されている。
【0025】
X線源11は、高電圧発生器、X線管、コリメータ(いずれも図示せず)等から構成されており、撮影制御部16の制御に基づいて、被検体HにX線を照射する。例えば、X線管は、回転陽極型であり、高電圧発生器からの電圧に応じて、フィラメントから電子線を放出し、所定の速度で回転する回転陽極に電子線を衝突させることによりX線を発生する。回転陽極は、電子線が固定位置に当り続けることによる劣化を軽減するために回転しており、電子線の衝突部分が、X線を放射するX線焦点となっている。また、コリメータは、X線管から発せられたX線のうち、被検体Hの検査領域に寄与しない部分を遮蔽するように照射野を制限するものである。
【0026】
撮影部12には、半導体回路からなるフラットパネル検出器(FPD)20、被検体HによるX線の位相変化(角度変化)を検出し位相イメージングを行うための第1の吸収型格子21及び第2の吸収型格子22が設けられている。FPD20は、X線源11から照射されるX線の光軸Aに沿う方向(以下、z方向いう)に検出面が直交するように配置されている。
【0027】
第1の吸収型格子21は、z方向に直交する面内の一方向(以下、y方向という)に延伸した複数のX線遮蔽部21aが、z方向及びy方向に直交する方向(以下、x方向という)に所定のピッチpで配列されたものである。同様に、第2の吸収型格子22は、y方向に延伸した複数のX線遮蔽部22aが、x方向に所定のピッチpで配列されたものである。X線遮蔽部21a,22aの材料としては、X線吸収性に優れる金属が好ましく、例えば、金、白金、鉛、タングステン等が好ましい。
【0028】
また、撮影部12には、第2の吸収型格子22を格子方向に直交する方向(x方向)に並進移動させることにより、第1の吸収型格子21に対する第2の吸収型格子22との相対位置を変化させる走査機構23が設けられている。走査機構23は、例えば、圧電素子等のアクチュエータにより構成される。走査機構23は、後述する縞走査の際に、撮影制御部16の制御に基づいて駆動されるものである。詳しくは後述するが、メモリ13には、縞走査の各走査ステップで撮影部12により得られる画像データがそれぞれ記憶される。なお、第2の吸収型格子22と走査機構23とが特許請求の範囲に記載の強度変調手段を構成している。
【0029】
X線源11と第1の吸収型格子21との間であって、X線源11の直後には、第3の吸収型格子25が配置されている。第3の吸収型格子25は、撮影部12に設けられた第1及び第2の吸収型格子21,22と同様な構成の吸収型格子であり、一方向(本実施形態では、y方向)に延伸した複数のX線遮蔽部25aが、第1及び第2の吸収型格子21,22のX線遮蔽部21a,22aと同一方向(本実施形態では、x方向)に周期的に配列されている。
【0030】
第3の吸収型格子25は、X線源11からの放射線をX線遮蔽部25aによって部分的に遮蔽することにより、x方向に関する実効的な焦点サイズを縮小し、x方向に多数の線光源(分散光源)を形成する。これにより、X線源11の実効的な焦点サイズを縮小することができるので、第1の吸収型格子21の自己像に生じるボケを抑制することができる。なお、第3の吸収型格子25は、X線源11内に組み込まれていてもよい。
【0031】
画像処理部14は、縞走査の各走査ステップで撮影部12により撮影され、メモリ13に記憶された複数の画像データに基づいて位相微分像を生成し、位相微分像をx方向に沿って積分することにより、位相コントラスト画像を生成する。位相コントラスト画像は、画像記録部15に記録された後、コンソール17に出力されてモニタ(図示せず)に表示される。
【0032】
コンソール17は、モニタの他、操作者が撮影指示やその指示内容を入力する入力装置(図示せず)を備えている。この入力装置としては、例えば、スイッチ、タッチパネル、マウス、キーボード等が用いられ、入力装置の操作により、X線管の管電圧やX線照射時間等のX線撮影条件、撮影タイミング等が入力される。モニタは、液晶ディスプレイやCRTディスプレイからなり、X線撮影条件等の文字や、上記位相コントラスト画像を表示する。
【0033】
図2において、FPD20は、X線を電荷に変換して蓄積する複数の画素40が、x方向及びy方向に沿ってアクティブマトリクス基板上に2次元配列されてなる受像部41と、受像部41からの電荷の読み出しタイミングを制御する走査回路42と、各画素40に蓄積された電荷を読み出し、電荷を画像データに変換して記憶する読み出し回路43とから構成されている。なお、走査回路42と各画素40とは、行毎に走査線44によって接続されており、読み出し回路43と各画素40とは、列毎に信号線45によって接続されている。画素40の配列ピッチは、x方向及びy方向にそれぞれ100μm程度である。
【0034】
画素40は、アモルファスセレン等の変換層(図示せず)によりX線を電荷に直接変換し、変換された電荷を変換層の下部の電極に接続されたキャパシタ(図示せず)に蓄積する直接変換型のX線検出素子として構成することができる。各画素40には、TFTスイッチ(図示せず)が接続され、TFTスイッチのゲート電極が走査線44、ソース電極がキャパシタ、ドレイン電極が信号線45に接続される。走査回路42からの駆動パルスによってTFTスイッチがON状態になると、キャパシタに蓄積された電荷が信号線45に読み出される。
【0035】
なお、画素40は、酸化ガドリニウム(Gd)やヨウ化セシウム(CsI)等からなるシンチレータ(図示せず)でX線を一旦可視光に変換し、変換された可視光をフォトダイオード(図示せず)で電荷に変換して蓄積する間接変換型のX線検出素子として構成することも可能である。また、本実施形態では、放射線画像検出器としてTFTパネルをベースとしたFPDを用いているが、これに限られず、CCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子をベースとした各種の放射線画像検出器を用いることも可能である。
【0036】
読み出し回路43は、積分アンプ、補正回路、A/D変換器(いずれも図示せず)等により構成されている。積分アンプは、各画素40から信号線45を介して出力された電荷を積分して電圧信号(画像信号)に変換する。A/D変換器は、積分アンプにより変換された画像信号を、デジタルの画像データに変換する。補正回路は、画像データに対して、オフセット補正、ゲイン補正、及びリニアリティ補正等を行い、補正後の画像データをメモリ13に入力する。
【0037】
図3において、第1の吸収型格子21のX線遮蔽部21aは、x方向に所定のピッチpで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。同様に、第2の吸収型格子22のX線遮蔽部22aは、x方向に所定のピッチpで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。また、第3の吸収型格子25のX線遮蔽部25aも、x方向に所定のピッチpで、互いに所定の間隔d空けて配列されている。X線遮蔽部21a,22a,25aは、それぞれ不図示のX線透過性基板(例えば、ガラス基板)上に配置されたものである。第1〜第3の吸収型格子21,22,25は、入射X線に位相差を与えるものでなく、強度差を与えるものであるため、振幅型格子とも称される。なお、スリット部(上記間隔d,d,dの領域)は空隙でなくてもよく、高分子や軽金属等のX線低吸収材が充填されていてもよい。
【0038】
第1及び第2の吸収型格子21,22は、タルボ干渉効果の有無に係らず、スリット部を通過したX線を線形的に投影するように構成されている。具体的には、間隔d,dを、X線源11から照射されるX線のピーク波長より十分大きな値とすることで、照射X線に含まれる大部分のX線をスリット部で回折させずに、直進性を保ったまま通過するように構成する。例えば、前述のX線管の回転陽極としてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線のピーク波長は、約0.4Åである。この場合には、間隔d,dを、1〜10μm程度とすれば、スリット部で大部分のX線が回折されずに線形的に投影される。この場合、格子ピッチp,pは、2〜20μm程度の大きさである。
【0039】
X線源11から照射されるX線は、平行ビームではなく、X線焦点を発光点としたコーンビームであるため、第1の吸収型格子21を通過して射影される投影像(以下、この投影像をG1像または縞画像と称する)は、実質的にX線焦点となる第3の吸収型格子25からの距離に比例して拡大される。第2の吸収型格子22の格子ピッチp及び間隔dは、そのスリット部が、第2の吸収型格子22の位置におけるG1像の明部の周期パターンとほぼ一致するように決定されている。すなわち、第3の吸収型格子25から第1の吸収型格子21までの距離をL、第1の吸収型格子21から第2の吸収型格子22までの距離をLとした場合に、格子ピッチp及び間隔dは、次式(1)及び(2)の関係を満たすように決定される。
【0040】
【数1】

【0041】
【数2】

【0042】
また、第3の吸収型格子25の格子ピッチpは、次式(3)を満たすように設定される。
【0043】
【数3】

【0044】
第1の吸収型格子21から第2の吸収型格子22までの距離Lは、タルボ干渉計の場合には、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長とで決まるタルボ干渉距離に制約されるが、本実施形態の撮影部12では、第1の吸収型格子21が入射X線を回折させずに投影させる構成であって、第1の吸収型格子21のG1像が、第1の吸収型格子21の後方のすべての位置で相似的に得られるため、該距離Lを、タルボ干渉距離と無関係に設定することができる。
【0045】
上記のように本実施形態の撮影部12は、タルボ干渉計を構成するものではないが、第1の吸収型格子21でX線の回折が生じ、タルボ干渉効果が生じていると仮定した場合のタルボ干渉距離Zは、第1の吸収型格子21の格子ピッチp、第2の吸収型格子22の格子ピッチp、X線波長(ピーク波長)λ、及び正の整数mを用いて、次式(4)で表される。
【0046】
【数4】

【0047】
式(4)は、X線源11から照射されるX線がコーンビームである場合のタルボ干渉距離を表す式であり、「Atsushi Momose, et al., Japanese Journal of Applied Physics, Vol.47, No.10, 2008年10月, 8077頁」により知られている。
【0048】
本実施形態では、前述のように距離Lをタルボ干渉距離と無関係に設定することができるため、撮影部12のz方向への薄型化を目的とし、距離Lを、m=1の場合の最小のタルボ干渉距離Zより短い値に設定する。すなわち、距離Lは、次式(5)を満たす範囲の値に設定される。
【0049】
【数5】

【0050】
X線遮蔽部21a,22a,25aは、コントラストの高い周期パターン像を生成するためには、X線を完全に遮蔽(吸収)することが好ましいが、上記したX線吸収性に優れる材料(金、白金、鉛、タングステン等)を用いたとしても、吸収されずに透過するX線が少なからず存在する。このため、X線の遮蔽性を高めるためには、X線遮蔽部21a,22a,25aのそれぞれの厚み(z方向の厚さ)をできるだけ厚くすること(すなわち、アスペクト比を高めること)が好ましい。例えば、X線管の管電圧が50kVの場合に、照射X線の90%以上を遮蔽することが好ましく、この場合には、X線遮蔽部21a,22a,25aの厚みは、金(Au)換算で30μm以上であることが好ましい。
【0051】
以上のように構成された第1及び第2の吸収型格子21,22では、第1の吸収型格子21のG1像(縞画像)と第2の吸収型格子22との重ね合わせにより強度変調された縞画像がFPD20によって撮像される。第2の吸収型格子22の位置におけるG1像のパターン周期と、第2の吸収型格子22の格子ピッチpとは、製造誤差や配置誤差により若干の差異が生じており、この微小な差異により、強度変調された縞画像にはモアレ縞が生じる。また、第1及び第2の吸収型格子21、22の格子配列方向に誤差が生じ、配列方向が同一でない場合には、いわゆる回転モアレが発生する。しかし、縞画像にこのようなモアレ縞が発生した場合でも、モアレ縞のx方向またはy方向の周期が画素40の配列ピッチよりも大きい範囲であれば特に問題が生じることはない。理想的にはモアレ縞を発生させないことが好ましいが、モアレ縞は、後述するように、縞走査の走査量8dai2の吸収型格子22の並進距離)を確認するために利用することができる。
【0052】
X線源11と第1の吸収型格子21との間に被検体Hを配置すると、FPD20により検出される縞画像は、被検体Hにより変調を受ける。この変調量は、被検体Hによる屈折効果によって偏向したX線の角度に比例する。したがって、FPD20で検出された縞画像を解析することによって、被検体Hの位相コントラスト画像を生成することができる。
【0053】
次に、第1〜第3の吸収型格子21、22、25の調整方法について説明する。本実施形態のX線撮影システム10において、位相コントラスト画像を適切に撮影するには、第1〜第3の吸収型格子21、22、25が上記式(1)、(3)を満たすように配置されていること、第1〜第3の吸収型格子21、22、25の格子面がxy平面に対して平行であること、かつ第1〜第3の吸収型格子21、22、25の光軸A周りでの回転位置が一致していることが必要となる。このとき、第1〜第3の吸収型格子21、22、25のx,y方向のずれは位相コントラスト画像に影響を与えないので、おおよその位置が合っていれば問題ない。したがって、第1〜第3の吸収型格子21、22、25について調整すべき位置は、z軸方向の位置と、図4(A)〜(C)に示すθx、θy、θzとなる。
【0054】
図5のフローチャートに示すように、本実施形態では、1枚目の格子と2枚目以降の格子とでその調整方法が異なっている。例えば、1枚目の格子として第3の吸収型格子25の調整を行なう場合、まず、第3の吸収型格子25をX線源11とFPD20との間のz軸上で適切な位置に配置する(S1)。次いで、第3の吸収型格子25のθx位置とθy位置とを調整する(S2)。θx位置とθy位置の調整は、第3の吸収型格子25をθx方向及びθy方向に回転させながら第3の吸収型格子25を通過するX線の線量を測定することにより行なう。
【0055】
図6(A)、図7(A)に示すように、第3の吸収型格子25の格子面がxy平面と平行であるときには、X線遮蔽部25aを通過するX線の通過距離sがX線遮蔽部25aの厚みtと等しくなり、光軸A方向から見たX線遮蔽部25aの隙間uの長さが間隔dと等しくなる。しかし、図6(B)、図7(B)に示すように、第3の吸収型格子25の格子面がxy平面と平行でないときには、通過距離sが厚みtよりも大きくなり、隙間uが間隔dよりも狭くなるので、第3の吸収型格子25の見かけ上のX線透過率が低下する。したがって、第3の吸収型格子25を通過するX線量が最大となるθx位置及びθy位置を特定すれば、第3の吸収型格子25の格子面をxy平面と平行に調整することができる。なお、通過X線量の測定には、X線量測定器を用いてもよいし、FPD20を用いてもよい。
【0056】
2枚目以降の格子の調整には、複数枚の格子をX線が通過することにより発生するモアレパターンが用いられる。これは、複数枚の格子の相対位置関係が最適であった場合、x方向の位置関係によってFPD20に到達するX線の線量は、最大から最小の任意の値を取りうるので、線量情報では位置決めできないからである。
【0057】
例えば、2枚目の格子として第1の吸収型格子21の調整を行なう場合、まず、第1の吸収型格子21を第3の吸収型格子25とFPD20との間のz軸上で適切な位置に配置する(S3)。このとき、第1の吸収型格子21と第3の吸収型格子25とを通過したX線にモアレパターンが生じるようにするため、第1の吸収型格子21のz位置もしくはθz位置を意図的にずらして配置する。
【0058】
次いで、FPD20により検出されたモアレパターンに基づいて、第1の吸収型格子21のθx位置とθy位置とを調整する(S4)。図8(A)に示すように、第1の吸収型格子21のz軸方向の位置がずれているときには、太さがほぼ均一で周波数が面内で一律なモアレパターン50が検出される。モアレパターン51が検出されたときには、第1の吸収型格子21のθx位置及びθy位置の調整は不要となる。
【0059】
また、図8(B)に示すように、第1の吸収型格子21のθx位置がずれているときには、幅方向の一端が他端に対して放射線状に変化したモアレパターン52が検出される。このモアレパターン52が検出されたときには、同図(A)のモアレパターン51のように太さがほぼ均一で周波数が面内で一律なモアレパターンになるように、第1の吸収型格子21のθx位置が調整される。
【0060】
図8(C)に示すように、第1の吸収型格子21のθy位置がずれているときには、太さと周波数とが徐々に変化したモアレパターン53が検出される。このモアレパターン53が検出されたときには、同図(A)のモアレパターン51のように太さがほぼ均一で周波数が面内で一律なモアレパターンになるように、第1の吸収型格子21のθy位置が調整される。
【0061】
図8(D)に示すように、第1の吸収型格子21のθz位置がずれているときには、太さがほぼ均一で周波数が面内で一律であり、かつ幅方向で傾斜したモアレパターン54が検出される。このモアレパターン54が検出されたときには、第1の吸収型格子21のθx位置及びθy位置の調整は不要となる。
【0062】
なお、第1の吸収型格子21には、上述したz軸方向、θx、θy、θz方向の位置ずれがそれぞれ単独で生じる以外に、各々の方向が複合的に組み合わさって生じる場合もある。その場合には、検出したモアレパターンから第1の吸収型格子21の複合的な位置ずれ方向を解析して、θx位置及びθy位置が調整される。
【0063】
図5に示すように、第1の吸収型格子21のθx位置とθy位置との調整後、図8(A)のモアレパターン51、または同図(D)のモアレパターン54がFPD20によって検出されなくなるように、第1の吸収型格子21のz軸位置及びθz位置が調整される(S5)。この調整では、第1の吸収型格子21をz軸方向またはθz軸方向に移動させることにより、モアレパターン51間の間隔である周期C1、またはモアレパターン54のx方向の間隔である周期C2を変化させる。そして、例えば図9に示すように、周期C1をFPD20のx方向の検出範囲Tよりも十分に長くすることにより、FPD20によってモアレパターン51または54が検出されなくなるような、第1の吸収型格子21のz軸位置及びθz位置が特定される。
【0064】
これにより、位相コントラスト画像がモアレパターンから影響を受けることを防止することができる。なお、図9に示すように、FPD20の検出範囲T内には長周期のモアレパターンによる連続的な濃度変化が生じているが、検出範囲Tよりもモアレパターンの周期が長いことによりモアレパターンが視認されないようになっている。逆に、モアレパターンの周期を極端に短くすることによってもモアレパターンが視認できないようにすることもできるが、この周期がFPD20の画素40の配列ピッチと同程度となってしまうと位相コントラスト画像が影響を受けるため、モアレパターンの周期を長くすることが好ましい。
【0065】
3枚目の格子である第2の吸収型格子22の調整は、第1の吸収型格子21の調整と同様に、第2の吸収型格子22の配置(S6)、第2の吸収型格子22のθx、θyの調整(S7)、第2の吸収型格子22のz位置、θzの調整(S8)からなるため、詳しい説明は省略する。
【0066】
次に、縞画像の解析方法について説明する。図3には、被検体Hのx方向に関する位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折される1つのX線が例示されている。符号60は、被検体Hが存在しない場合に直進するX線の経路を示しており、この経路60を進むX線は、第1及び第2の吸収型格子21,22を通過してFPD20に入射する。符号61は、被検体Hが存在する場合に、被検体Hにより屈折されて偏向したX線の経路を示している。この経路61を進むX線は、第1の吸収型格子21を通過した後、第2の吸収型格子22のX線遮蔽部22aにより遮蔽される。
【0067】
被検体Hの位相シフト分布Φ(x)は、被検体Hの屈折率分布をn(x,z)、zをX線の進む方向として、次式(6)で表される。ここで、説明の簡略化のため、y座標は省略している。
【0068】
【数6】

【0069】
第1の吸収型格子21から第2の吸収型格子22の位置に投射されたG1像は、被検体HでのX線の屈折により、その屈折角φに応じた量だけx方向に変位することになる。この変位量Δxは、X線の屈折角φが微小であることに基づいて、近似的に次式(7)で表される。
【0070】
【数7】

【0071】
ここで、屈折角φは、X線波長λと被検体Hの位相シフト分布Φ(x)を用いて、次式(8)で表される。
【0072】
【数8】

【0073】
このように、被検体HでのX線の屈折によるG1像の変位量Δxは、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)に関連している。そして、この変位量Δxは、FPD20で検出される各画素40の強度変調信号の位相ズレ量ψ(被検体Hがある場合とない場合とでの各画素40の強度変調信号の位相のズレ量)に、次式(9)のように関連している。
【0074】
【数9】

【0075】
したがって、各画素40の強度変調信号の位相ズレ量ψを求めることにより、式(8)から屈折角φが求まり、式(7)を用いて位相シフト分布Φ(x)の微分量が求まるから、これをxについて積分することにより、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)、すなわち被検体Hの位相コントラスト画像を生成することができる。本実施形態では、上記位相ズレ量ψを、下記に示す縞走査法を用いて算出する。
【0076】
縞走査法では、第1及び第2の吸収型格子21,22の一方を他方に対して相対的にx方向に並進移動させながら撮影を行う(すなわち、両者の格子周期の位相を変化させながら撮影を行う)。本実施形態では、前述の走査機構23により第2の吸収型格子22を移動させる。第2の吸収型格子22の移動に伴って、モアレ縞が移動し、並進距離(x方向への移動量)が、第2の吸収型格子22の格子周期の1周期(格子ピッチp)に達すると(すなわち、位相変化が2πに達すると)、モアレ縞は元の位置に戻る。このように、格子ピッチpを整数分の1ずつ第2の吸収型格子22を移動させながら、FPD20で縞画像を撮影し、撮影した複数の縞画像から各画素の強度変調信号を取得し、前述の画像処理部14で演算処理することにより、各画素の強度変調信号の位相ズレ量ψを得る。この位相ズレ量ψの2次元分布が位相微分像に相当する。
【0077】
図10は、格子ピッチpをM(2以上の整数)個に分割した走査ピッチ(p/M)ずつ第2の吸収型格子22を移動させる様子を模式的に示している。走査機構23は、k=0,1,2,・・・,M−1のM個の各走査位置に、第2の吸収型格子22を順に並進移動させる。なお、同図では、第2の吸収型格子22の初期位置を、被検体Hが存在しない場合における第2の吸収型格子22の位置でのG1像の暗部が、X線遮蔽部22aにほぼ一致する位置(k=0)としているが、この初期位置は、k=0,1,2,・・・,M−1のうちいずれの位置としてもよい。
【0078】
まず、k=0の位置では、主として、被検体Hにより屈折されなかったX線が第2の吸収型格子22を通過する。次に、k=1,2,・・・と順に第2の吸収型格子22を移動させていくと、第2の吸収型格子22を通過するX線は、被検体Hにより屈折されなかったX線の成分が減少する一方で、被検体Hにより屈折されたX線の成分が増加する。特に、k=M/2の位置では、主として、被検体Hにより屈折されたX線のみが第2の吸収型格子22を通過する。k=M/2の位置を超えると、逆に、第2の吸収型格子22を通過するX線は、被検体Hにより屈折されたX線の成分が減少する一方で、被検体Hにより屈折されなかったX線の成分が増加する。
【0079】
k=0,1,2,・・・,M−1の各位置で、FPD20により撮影を行うと、各画素40について、M個の画素データが得られる。以下に、このM個の画素データから上記各画素40の強度変調信号の位相ズレ量ψを算出する方法を説明する。第2の吸収型格子22の位置kにおける各画素40の画素データをI(x)と標記すると、I(x)は、次式(10)で表される。
【0080】
【数10】

【0081】
ここで、xは、画素のx方向に関する座標であり、Aは入射X線の強度であり、Aは強度変調信号のコントラストに対応する値である(ここで、nは正の整数である)。また、φ(x)は、上記屈折角φを画素40の座標xの関数として表したものである。
【0082】
次いで、次式(11)の関係式を用いると、上記屈折角φ(x)は、式(12)のように表される。
【0083】
【数11】

【0084】
【数12】

【0085】
ここで、arg[ ]は、偏角の抽出を意味しており、上記位相ズレ量ψに対応する。したがって、各画素40で得られたM個の画素データ(強度変調信号)から、式(11)に基づいて位相ズレ量ψを算出することにより、屈折角φ(x)が求まり、位相シフト分布Φ(x)の微分量が求まる。
【0086】
具体的には、各画素40で得られたM個の画素データは、図11に示すように、第2の吸収型格子22の位置kに対して、格子ピッチpの周期で周期的に変化する。同図中の破線は、被検体Hが存在しない場合の画素データの変化を示しており、同図中の実線は、被検体Hが存在する場合の画素データの変化を示している。この両者の波形の位相差が上記位相ズレ量ψに対応する。
【0087】
以上の説明では、画素40のy方向に関するy座標を考慮していないが、各y座標について同様の演算を行うことにより、x方向及びy方向に関する2次元的な位相ズレの分布ψ(x,y)が得られる。この位相ズレの分布ψ(x,y)が位相微分像に対応する。なお、屈折角φと位相ズレ量ψとは、上記式(8)で示されるように比例関係にあるため、共に位相シフト分布Φ(x)の微分量に対応する物理量である。
【0088】
画像処理部14は、以上のように求めた位相微分像をx軸に沿って積分することにより、被検体Hの位相シフト分布Φ(x,y)を生成し、これを位相コントラスト画像として画像記憶部15に記録する。画像記憶部15に記録された位相コントラスト画像は、コンソール17のモニタに表示される。
【0089】
上記実施形態では、第3の吸収型格子25、第1の吸収型格子21、第2の吸収型格子22の順に調整を行なったが、第3の吸収型格子25、第2の吸収型格子22、第1の吸収型格子21の順、または第1の吸収型格子21、第3の吸収型格子25、第2の吸収型格子22の順、あるいは第2の吸収型格子22、第3の吸収型格子25、第1の吸収型格子21の順に調整してもよい。なお、いずれの順番を用いて調整するにしても、X線焦点を小さくしないとモアレパターンが生じないため、第3の吸収型格子25の調整を最後にすることはできない。
【0090】
また、上記実施形態では、第3の吸収型格子25を用いたが、X線焦点11aが十分に小さいX線源11を使用する場合には、第3の吸収型格子25を省略してもよい。この場合には、第1の吸収型格子21、第2の吸収型格子22の順、または第2の吸収型格子22、第1の吸収型格子21の順に調整することができる。
【0091】
上記実施形態では、第1及び第2の吸収型格子21,22を、そのスリット部を通過したX線を線形的に投影するように構成しているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、スリット部でX線を回折することにより、いわゆるタルボ干渉効果が生じる構成(国際公開WO2004/058070号公報等に記載の構成)としてもよい。ただし、この場合には、第1及び第2の吸収型格子21,22の間の距離Lをタルボ干渉距離に設定する必要がある。また、この場合には、第1の吸収型格子21に代えて、位相型格子(位相型回折格子)を用いることが可能であり、第1の吸収型格子21に代えて用いた位相型格子は、タルボ干渉効果により生じる縞画像(自己像)を、第2の吸収型格子22に射影する。
【0092】
さらに、上記実施形態では、被検体HをX線源11と第1の吸収型格子21との間に配置しているが、被検体Hを第1の吸収型格子21と第2の吸収型格子22との間に配置した場合にも同様に位相コントラスト画像の生成が可能である。
【0093】
[第2実施形態]
次に、格子に位置調整に用いるアライメント部を設けた本発明の第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成については、同符号を用いて詳しい説明は省略する。図12に示すように、第2実施形態のX線撮影システム60は、第2の吸収型格子22の撮影に使用しない四隅にアライメント部61a〜61dがそれぞれ設けられている。図13に示すように、アライメント部61aは、その中心を通るxy軸に沿って分割した4つの領域と、中央部に設けた領域とに第1〜第5のアライメントパターン62〜66が設けられている。なお、アライメント部61b〜61dは、アライメント部61aと同じものであるため、詳しい説明は省略する。
【0094】
第1のアライメントパターン62は、第2の吸収型回折22のX線遮蔽部22aからなる本格子パターンの格子ピッチpに対し、格子ピッチp2aが狭くされたものである。また、第2のアライメントパターン63は、本格子パターンの格子ピッチpに対し、格子ピッチp2aが広く狭くされたものである。第3のアライメントパターン64は、本格子パターンに対し、X線遮蔽部の格子角度が+θz方向に回転されたものである。更に、第4のアライメントパターン65は、本格子パターンに対し、X線遮蔽部の格子角度が−θz方向に回転されたものである。第5のアライメントパターン66は、本格子パターンと同じパターンであり、格子ピッチはpである。
【0095】
例えば、第2の吸収型格子22の本格子パターンの格子ピッチpが5μmであるとき、第1及び第2のアライメントパターン62及び63の格子ピッチp2a、p2bは、それぞれ4.8μm及び5.2μmである。また、第3及び第4のアライメントパターン64及び65の格子角度は、それぞれ+θz方向及び−θz方向に1°ずつ回転されている。
【0096】
これにより、アライメント部61を通過したX線には、各アライメントパターン62〜66によってモアレパターンが生じるので、そのモアレパターンを確認することによって、第1〜第3の吸収型格子21、22、25の位置ずれ状態及び位置ずれ方向を知ることができる。
【0097】
例えば、第1の吸収型格子21と第2の吸収型格子22との相対位置関係において両者が最適な位置にあるときには、X線画像検出器20によって、図14に示すようなアライメント部60a〜60dの画像68が検出される。この画像68は、第1〜第4のアライメントパターン62〜65に相当する領域39〜72にモアレパターンが発生し、本格子パターンからなる第5のアライメントパターン66に相当する領域73には、モアレが発生しないものとなる。
【0098】
また、第2の吸収型格子22に対して第1の吸収型格子21が+z方向に位置ずれしているときには、X線画像検出器20によって、図15に示すようなアライメント部60a〜60dの画像75が検出される。この画像75には、第2〜第5のアライメントパターン63〜66に相当する領域70〜73にモアレパターンが発生し、第1のアライメントパターン62に相当する領域69には、モアレが発生しないものとなる。また、図示しないが、第1の吸収型格子21が−z方向に位置ずれしているときには、第2のアライメントパターン63に相当する領域70にモアレパターンが発生しなくなるので、z軸での位置ずれ方向が容易に判断できる。
【0099】
第2の吸収型格子22に対して、第1の吸収型格子21が+θz方向に位置ずれしているときには、X線画像検出器20によって、図16に示すようなアライメント部60a〜60dの画像77が検出される。この画像77には、第1、第2、第4、第5のアライメントパターン62、63、65、66に相当する領域69、70、72、73にモアレパターンが発生し、第3のアライメントパターン64に相当する領域71には、モアレパターンが発生しない。また、図示しないが、第1の吸収型格子21が−θz方向に位置ずれしているときには、第4のアライメントパターン65に相当する領域72にモアレパターンが発生しなくなるので、θz軸での位置ずれ方向が容易に判断できる。
【0100】
また、アライメント部61a〜61dは、第2の吸収型格子22の四隅に設けられているので、各アライメント部61a〜61dの画像を比較することにより、第2の吸収型格子22に対する第1の吸収型格子21のθx及びθyの位置ずれ方向も容易に判断することができる。なお、第1の吸収型格子21と同様であるため詳しくは説明しないが、第3の吸収型格子25も、アライメント部61a〜61dの画像を用いて、第2の吸収型格子22に対する相対位置を調整することができる。
【0101】
次に、アライメント部61a〜61dを用いた第1〜第3の吸収型格子21、22、25の位置調整について説明する。図17に示すように、X線撮影システム60には、最初に第2の吸収型格子22がz軸上に配置される(Sa1)。第2の吸収型格子22は、第1の実施形態の1枚目の回折格子と同様に、通過X線量に基づいてθx及びθyが調整される(Sa2)。
【0102】
次に、X線撮影システム60のz軸上には、第1の吸収型格子21が配置され(Sa3)、第2の吸収型格子22に対する第1の吸収型格子21のθz、θx、θy及びz方向位置が調整される(Sa4)。この調整ステップでは、まず、X線源11から照射されて第1及び第2の吸収型格子21及び22を通過したX線が、X線画像検出器20により検出される。
【0103】
X線画像検出器20により検出されたアライメント部61a〜61dの画像は、第2の吸収型格子22に対する第1の吸収型格子21の位置ずれ方向に応じて、図14〜16に示すように、第1〜第5のアライメントパターン62〜66に相当する領域のいずれかにモアレパターンのない領域が発生する。このモアレパターンがない領域が、第1の吸収型格子21の位置ずれ状態または位置ずれ方向を表しているので、第1の吸収型格子21が位置ずれしている場合には、その方向に第1の吸収型格子21が移動される。
【0104】
また、各アライメント部61a〜61dの画像を比較することにより、第2の吸収型格子22に対する第1の吸収型格子21のθx及びθyの位置ずれ方向が判断され、その位置ずれ方向に第1の吸収型格子21が回転される。なお、アライメント部61a〜61dの画像に差がない場合には、第1の吸収型格子21がθx及びθy方向に位置ずれしていないことになるので、第1の吸収型格子21のθx及びθyの調整は不要になる。
【0105】
第1の吸収型格子21の調整終了後、X線撮影システム60のz軸上に第3の吸収型格子25が配置され(Sa5)、第1の吸収型格子21と同様に、アライメント部61a〜61dの画像に基づいて、第2の吸収型格子22に対する第3の吸収型格子25のθz、θx、θy及びz方向位置が調整される(Sa6)。
【0106】
このように、本実施形態では、第1の実施形態のように2枚目以降に配置される格子を回転させなくても格子の位置ずれ量を判断することができるので、調整時間を短くすることができる。なお、第2の吸収型格子22にのみアライメント部61a〜61dを設けたが、第1及び第3の吸収型格子21及び25にもアライメント部61a〜61dを設けてもよい。
【0107】
上記第1実施形態では、コーンビーム状のX線を発するX線源11を用いた場合を例示しているが、これに代えて、平行X線を発するX線源を用いることも可能である。この場合には、上記式(1)、(2)、(4)、(5)は、それぞれ次式(13)〜(16)に変形される。
【0108】
【数13】

【0109】
【数14】

【0110】
【数15】

【0111】
【数16】

【0112】
以上説明した実施形態は、医療診断用の放射線撮影システムのほか、工業用や、非破壊検査等のその他の放射線撮影システムに適用することが可能である。また、放射線として、X線以外に、ガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0113】
10、60 X線撮影システム
11 X線源(放射線源)
12 撮影部
14 画像処理部
16 撮影制御部
18 システム制御部
20 フラットパネル検出器(FPD)
21 第1の吸収型格子
22 第2の吸収型格子
23 走査機構
25 第3の吸収型格子
40 画素
51〜54 モアレパターン
61a〜61d アライメント部
62〜66 第1〜第5のアライメントパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する放射線源と放射線に担持された画像を検出する放射線画像検出器との間に複数枚の回折格子を配置して位相コントラスト画像を撮影する放射線撮影システムに用いられる回折格子の調整方法において、
前記回折格子の調整は、1枚目の回折格子の調整と2枚目以降の回折格子の調整とからなり、前記1枚目の回折格子の調整は、
前記放射線画像検出器の検出面に直交するz軸上に前記1枚目の回折格子を配置するステップと、
前記1枚目の回折格子を前記z軸に直交するx軸の周りθxと、前記z軸及びx軸に直交するy軸の周りθyとに回転させながら前記1枚目の回折格子を通過した放射線量を測定し、前記放射線量が最大となるθx及びθyの回転位置を求めるステップとからなり、
前記2枚目以降の回折格子の調整は、
前記放射線にモアレパターンが生じるように前記z軸上に前記2枚目以降の回折格子を配置するステップと、
前記2枚目以降の回折格子を前記θx及びθy方向に回転させながら前記放射線画像検出器によって前記モアレパターンを検出し、前記モアレパターンの周波数が面内で一律になる前記θx及びθy方向の回転位置を求めるステップと、
前記モアレパターンが前記放射線画像検出器によって検出されなくなるように、前記各回折格子間のz軸方向の相対位置と、前記z軸周りのθz方向の相対位置との少なくとも一方を調整するステップとからなることを特徴とする回折格子の調整方法。
【請求項2】
前記モアレパターンが前記放射線検出器によって検出されなくなるようにするステップは、複数のモアレパターン間の間隔である前記モアレパターンの周期が、前記放射線画像検出器の検出範囲よりも長くなるように、前記各回折格子間のz軸方向の相対位置と前記z軸周りのθz方向の相対位置との少なくとも一方が調整されることを特徴とする請求項1記載の回折格子の調整方法。
【請求項3】
前記複数枚の回折格子は、前記放射線を通過させて縞画像を生成する第1の回折格子と、前記縞画像の周期パターンに対して位相が異なる複数の相対位置で前記縞画像に強度変調を与える第2の回折格子からなることを特徴とする請求項1または2記載の回折格子の調整方法。
【請求項4】
前記複数枚の回折格子には、前記放射線源と前記第1の回折格子との間に配置され、前記放射線源から照射された放射線を領域選択的に遮蔽して複数の線光源とする第3の回折格子が含まれることを特徴とする請求項3記載の回折格子の調整方法。
【請求項5】
前記第3の回折格子は、1枚目または2枚目の回折格子として調整されることを特徴とする請求項4記載の回折格子の調整方法。
【請求項6】
前記2枚目以降の回折格子は、前記z軸上に配置される際に、z軸方向の位置またはθz方向の位置が調整目標位置からずれるように配置されることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の回折格子の調整方法。
【請求項7】
一方向に延伸されかつ前記延伸方向に直交する配列方向に沿って配列された複数の放射線遮蔽部を有し、放射線を照射する放射線源と放射線に担持された画像を検出する放射線画像検出器との間に複数配置され、位相コントラスト画像の撮影に用いられる回折格子であって、
前記回折格子の少なくとも1つには、前記複数の放射線遮蔽部からなる本格子パターンとともに、前記本格子パターンとは異なる格子パターンからなるアライメントパターンが設けられていることを特徴とする回折格子。
【請求項8】
前記アライメントパターンは、前記本格子パターンに対し、前記放射線遮蔽部の間隔である格子ピッチ、または前記放射線遮蔽部の角度である格子角度が異なっていることを特徴とする請求項7記載の回折格子。
【請求項9】
前記アライメントパターンは、前記本格子パターンよりも格子ピッチが狭くされた第1のアライメントパターンと、前記本格子パターンよりも格子ピッチが広くされた第2のアライメントパターンとを含むことを特徴とする請求項8記載の回折格子。
【請求項10】
前記アライメントパターンは、前記本格子パターンに対し、格子面に直交する軸周りで第1の方向に回転された第3のアライメントパターンと、前記第1の方向と反対側の第2の方向に回転された第3のアライメントパターンとを含むことを特徴とする請求項9記載の回折格子。
【請求項11】
前記アライメントパターンは、前記本格子パターンからなる第5のアライメントパターンを含むことを特徴とする請求項10記載の回折格子。
【請求項12】
前記アライメントパターンは、矩形状とされた前記回折格子の四隅に配置されていることを特徴とする請求項11記載の回折格子。
【請求項13】
放射線を照射する放射線源と、
前記放射線に担持された画像を検出する放射線画像検出器と、
前記放射線源と前記放射線画像検出器との間に配置された請求項7〜12いずれか記載の複数枚の回折格子とを有し、
前記アライメントパターンと、前記アライメントパターンが設けられた回折格子とは異なる別の回折格子の本格子パターンとによって前記放射線に生じたモアレパターンを前記放射線画像検出器により検出し、前記モアレパターンに応じて、前記複数枚の回折格子の相対位置が調整されることを特徴とする放射線撮影システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−227041(P2011−227041A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216753(P2010−216753)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】