説明

回路定数調整器及びそれを用いた低雑音増幅装置

【課題】 安定した発振抑制効果が得られると共に高精度に発振が抑制できるように回路定数が調整できるようにする。
【解決手段】 回路定数を調整する回路定数調整器16であって、終端が開放端に形成されたスタブ16eと、一端17bがスタブ16eに接続されると共に、他端17aが回路定数調整対象の回路12に接続され、かつ、抵抗値が設定可能に設けられた可変抵抗器16aと、可変抵抗器16aに制御信号を出力して、当該可変抵抗器16aの抵抗値を設定する抵抗値設定器16cと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路定数を調整する回路定数調整器及びそれを用いた低雑音増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低雑音増幅装置においては、例えばミリ波帯の発振防止を目的として、バイアスラインやスタブラインに固定の低抵抗器を入れることが行われている。
【0003】
しかし、抵抗器の個体差や製造プロセスの誤差等の要因により抵抗器の抵抗値は設計値からずれることがある。そして、抵抗値が設計値よりも小さくなった場合には発振を防止することができず、逆に抵抗値が大きくなった場合には発振防止には効果があるものの雑音特性が劣化することがある。
【0004】
従って、低雑音増幅装置において発振が発生したり雑音特性が劣化したりすると、製品の歩留まりが悪くなってしまう。
【0005】
そこで、例えば、特開2003−283263号公報においては、製造工程のばらつきや寄生成分などによって負帰還用のインダクタ要素のインダクタンス値が設計値からばらつくので、複数のインダクタ要素を設け、パッケージング後に増幅特性を測定した結果に応じて、制御回路が切換え回路によって、それらを択一的に選択して、高周波増幅用トランジスタに接続する高周波増幅回路が開示されている。
【0006】
また、特開2005−244539号公報においては、モノリシック低雑音増幅装置のチップを気密パッケージに実装して用いる場合に、不要発振の原因となる帯域外の高域の利得を低減した高周波増幅回路が開示されている。この高周波増幅回路は、増幅素子と、増幅器の入力端に、一端が接続された入力整合回路と、増幅器の出力端に、一端が接続された出力整合回路と、入力整合回路の他端に接続された入力バイアス回路と、出力整合回路の他端に接続された出力バイアス回路と、出力バイアス回路の他端に接続され、所望帯域の所要帯域より高域の周波数帯で信号減衰作用を有した帯域外高域減衰回路を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−283263号公報
【特許文献2】特開2005−244539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特開2003−283263号公報にかかる構成は、予めインダクタ要素を複数設ける必要があるため、回路の大面積化をもたらす問題があると共に、複数のインダクタ用の値が離散的となるため、状況に応じて精度良く発振を抑制することができない問題がある。
【0009】
また、特開2005−244539号公報にかかる構成は、帯域外高域減衰回路は、外付け回路であるため、外付け状態により安定した発振抑制効果が得られない場合がある。
【0010】
そこで、本発明の主目的は、安定した発振抑制効果が得られると共に高精度に発振が抑制できるように回路定数が調整できる回路定数調整器及びそれを用いた低雑音増幅装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明にかかる回路定数調整器は、終端が開放端に形成されたスタブと、一端がスタブに接続されると共に、他端が回路定数調整対象の回路に接続され、かつ、抵抗値が設定可能に設けられた可変抵抗器と、可変抵抗器に制御信号を出力して、当該可変抵抗器の抵抗値を設定する抵抗値設定器と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、低雑音増幅装置は、信号を増幅する増幅器と、該増幅器により増幅される信号又は増幅された信号が伝送する伝送回路と、伝送回路を回路定数調整対象の回路として、該回路に接続された上記の回路定数調整器と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回路定数を雑音特性の劣化を極力抑えつつ発振を抑圧する値に設定できるため、歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかる低雑音増幅装置のブロック図である。
【図2】低雑音増幅装置の出力信号の計測例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を説明する。図1は、本実施形態にかかる低雑音増幅装置2の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
低雑音増幅装置2は、第1整合回路11、第2整合回路12、第3整合回路13を備えると共に、第1整合回路11と第2整合回路との間に設けられた第1増幅器14、第2整合回路12と第3整合回路との間に設けられた第2増幅器15を備える。また、第2整合回路12には、回路定数調整器16が接続されている。
【0017】
第1整合回路11は、第1増幅器14に対するインピーダンス整合等を目的として設けられ、第2整合回路12は、第2増幅器15に対するインピーダンス整合等を目的として設けられている。また、第3整合回路13は、増幅した信号の出力先とのインピーダンス整合等のために設けられている。
【0018】
第1整合回路11、第2整合回路12、第3整合回路13は、線路等の種々の要素により構成された回路定数調整対象の回路である。また、図1においては、第2整合回路12を構成する要素として、線路12a〜12eが図示され、またコンデンサ12f,12gが図示されているが、このような構成を要件とするものではない。線路12a〜12e及びコンデンサ12f,12gは、第1増幅器14で増幅された信号が伝送される伝送路をなしている。
【0019】
なお、本発明においては、少なくとも回路定数が規定され、この回路定数により発振が起きる回路が回路定数調整対象の回路であり、図1等に記載した回路及びその要素を必須要件とするものではない。
【0020】
本実施形態にかかる低雑音増幅装置2は、第1整合回路11、第2整合回路12、第3整合回路13の各整合回路を必須とするものではないが、回路定数調整器16を必須要素としている。一般に、増幅装置には、インピーダンス整合等を目的とした回路(図1では、第1〜第3整合回路)又はこの回路に代わる要素が用いられる。このような要素に起因して発振が起きる場合には、本発明にかかる回路定数調整器16を適用することが可能である。
【0021】
回路定数調整器16は、可変抵抗器16a、アイソレーション抵抗器16b、抵抗値設定器16c、線路16d,16f、スタブ16e等を備えている。線路16d、16fは、第2整合回路12からの信号をスタブ16eに導くための伝送路である。このため、線路16dは、第2整合回路12における線路12cと可変抵抗器16aとを接続するように設けられている。
【0022】
可変抵抗器16aは、印加電圧値により抵抗値が変化する抵抗器で、一方の端子17aが線路16dに接続され、他方の端子17bがスタブ16eに接続されている。また、可変抵抗器16aの抵抗制御端子17cはアイソレーション抵抗器16bに接続されている。このような可変抵抗器16aとしては、例えばMIS型トランジスタのようなFET(Field Effect Transistor)等を用いることができる。そして、MIS型トランジスタを用いた場合には、端子17aや端子17bはドレインやソースに対応し、抵抗制御端子17cはゲートに対応する。
【0023】
アイソレーション抵抗器16bは、可変抵抗器16aと抵抗値設定器16cとを電気的にアイソレーションするための固定抵抗器である。
【0024】
抵抗値設定器16cは、制御信号を出力する。この制御信号の電圧値は、ユーザにより設定され、その設定値は記憶されるようになっている。即ち、ユーザが制御信号の電圧値を設定すると、その後はこの電圧値の制御信号が継続して出力されるようになっている。抵抗値設定器16cから出力された制御信号は、アイソレーション抵抗器16bを介して可変抵抗器16aの抵抗制御端子17cに入力する。
【0025】
この可変抵抗器16aの端子17bにはスタブ16eが接続されている。このスタブ16eは、一方の端部が開放端に形成されている。また、スタブ16eの長さは、発振を防止したい信号の周波数をλとしたときに、λ/4に設定されている。このようにスタブ16eを形成することにより、開放端でのインピーダンスは無限大となる。また、開放端でインピーダンスが無限大となるため、線路16dのインピーダンスはゼロに近い値を示す。
【0026】
これにより発振を抑圧したい周波数の電流は、可変抵抗器16aを介して等価的にスタブ16eに流れる。この際、電流は可変抵抗器16aにより減衰する。従って、可変抵抗器16aにより発振を抑圧したい周波数の電流値(利得)が抑制できるようになる。
【0027】
しかしながら、可変抵抗器16aの抵抗値が、減衰に適した値からずれていると、十分な抑圧効果が得られない。そこで、抵抗値設定器16cからの制御信号に応じて可変抵抗器16aの抵抗値が変えることができるようになっている。
【0028】
以下、かかる低雑音増幅装置の詳細な構成を出荷検査における動作説明と共に行う。信号が第1整合回路11を介して第1増幅器14に入力し、この第1増幅器14で増幅されて第2整合回路12に入力する。第2整合回路からの信号は、第2増幅器15で増幅され、第3整合回路を経て負荷に供給される。ユーザは、負荷に供給される信号をスペクトルアナライザ等によりモニタして、低雑音増幅装置2において発振が起きているか否かを判断する。かかる判断は、種々の負荷に対して行われ、図2に示すようなモニタ結果を得る。
【0029】
図2は、信号の周波数fに対して、安定係数Kを示したグラフである。なお、安定係数は、低雑音増幅装置2の発振に対する安定性を示す特性値である。図2における実線曲線C1は、可変抵抗器16aが設計した抵抗値を持つ場合の安定係数を示し、点線曲線C2は負荷試験により観測された安定係数を示している。以下、実線曲線C1に用いられた可変抵抗器16aの抵抗値を標準抵抗値、点線曲線C2を示したときの可変抵抗器16aの抵抗値を実測抵抗値と記載する。
【0030】
実線曲線C1と点線曲線C2とは、約40GHz以上の周波数帯域でズレが生じ、かつ、この帯域で点線曲線C2が実線曲線C1より小さいくなっている。即ち、安定係数は約40GHz以上の周波数で標準抵抗値を用いた場合の安定係数より小さくなり、約48GHzで極小値を示している。
【0031】
ユーザは約48GHzにおける安定係数から、標準抵抗値に対する実測抵抗値のズレを算出する。このズレ量を抵抗値ずれ量δと記載する。図2においては、この抵抗値ズレ量δがδ=−30%であったとして図示している。そこで、ユーザは、抵抗値ズレ量δを用いて、抵抗値設定器16cが出力する制御信号の電圧値を設定する。
【0032】
抵抗値ズレ量δと制御信号の電圧値との関係は予め取得されている。従って、ユーザは抵抗値ズレ量δから電圧値を求めて、抵抗値設定器16cに設定することになる。
【0033】
なお、標準抵抗値の安定係数(図2における実線曲線C1)を抵抗値設定器16cに記憶しておき、負荷試験により得られた実測抵抗値における安定係数の最小値を、抵抗値設定器16cに入力するようにしてもよい。この場合は、予め抵抗値設定器16cに標準抵抗値における安定係数のデータを基準データとして格納しておき、ユーザにより実測抵抗値における安定係数の最小値のデータが入力されると、基準データとの差分から抵抗値ズレ量δを演算し、その演算結果に基づき制御信号の電圧値を設定するようにしても良い。
【0034】
このようにして抵抗値設定器16cから電圧値の設定された制御信号がアイソレーション抵抗器16bを介して可変抵抗器16aの抵抗制御端子17cに出力される。可変抵抗器16aがMIS型トランジスタの場合には、抵抗制御端子17cはゲートに対応するので、制御信号の電圧値に応じたゲート電圧が印加されることになる。可変抵抗器16aのチャネル抵抗(ソース−ドレイン間の抵抗)はゲート電圧に応じて変化する。即ち、可変抵抗器16aの抵抗値はゲート電圧に応じて変化する。これにより、第2整合回路12のインピーダンスが調整されて、発振を起こしている周波数成分の信号が抑圧される。
【0035】
なお、MIS型トランジスタのゲート入力インピーダンスは非常に大きい。従って、抵抗値設定器16cから出力された制御信号の電流値は小電流でよい。このことは、抵抗値設定器16cの小型化が可能であることを意味している。
【0036】
MIS型トランジスタの端子17aと抵抗制御端子17cとは、ゲート絶縁膜を誘電体としたコンデンサを形成している。そして、第2整合回路12に流れる信号が高周波信号であるため、第2整合回路12から可変抵抗器16aに入力した信号が、抵抗値設定器16c側に流れることがある。かかる電流を抑制するために、高抵抗値のアイソレーション抵抗器16bが用いられている。
【0037】
なお、可変抵抗器16aをメカニカルな可変抵抗器にすることも原理的には可能であるが、以下の理由によりかかる構成の低雑音装置を製造することができない。即ち、第2整合回路12は、一般的に半導体基板に形成された半導体装置である。そして、半導体装置の製造プロセスとの互換性から、回路定数調整器16も第2整合回路12と同時に製造することが好ましい。
【0038】
しかし、メカニカルな可変抵抗器は半導体プロセスにより製造することができないため、このメカニカル可変抵抗器を第2整合回路12又は回路定数調整器16と別体に設けて、これらに対し外付けする必要が生じる。このときボンデングワイヤ等による外付けのための配線が必要になる。かかる配線は、インピーダンス等を持ち、かつ、中空配線の場合には外部振動によりインピーダンスが変化する。従って、インピーダンス調整は、非常に難しくなり、コストアップの要因となる。しかしながら、可変抵抗器16aをMIS型トランジスタで形成するならば、上述した不都合が発生しない利点がある。
【0039】
このように、低雑音増幅装置を構成する各要素の特性値が設計値からずれても、そのずれが補償できるので、製品の歩留まりを向上させることが可能になる。
【0040】
なお、本発明は、マイクロ波を使用した装置に使用される低雑音増幅装置MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)のみならず、他のMMIC増幅器全般へも応用可能である。
【符号の説明】
【0041】
2 低雑音増幅装置
11 第1整合回路
12 第2整合回路
13 第3整合回路
14 第1増幅器
15 第2増幅器
16 回路定数調整器
16a 可変抵抗器
16b アイソレーション抵抗器
16c 抵抗値設定器
16e スタブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路定数を調整する回路定数調整器であって、
終端が開放端に形成されたスタブと、
一端が前記スタブに接続されると共に、他端が回路定数調整対象の回路に接続され、かつ、抵抗値が設定可能に設けられた可変抵抗器と、
前記可変抵抗器に制御信号を出力して、当該可変抵抗器の抵抗値を設定する抵抗値設定器と、を備えることを特徴とする回路定数調整器。
【請求項2】
請求項1に記載の回路定数調整器であって、
前記可変抵抗器と前記抵抗値設定器との間に設けられて、これらの間を流れる電流値を抑制するアイソレーション抵抗器を備えることを特徴とする回路定数調整器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回路定数調整器であって、
前記スタブは、抑制したい信号成分の周波数をλとしたとき、λ/4の長さに設定されていることを特徴とする回路定数調整器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回路定数調整器であって、
前記可変抵抗器はMIS型トランジスタで、該MIS型トランジスタのゲートに前記抵抗値設定器からの前記制御信号が入力することを特徴とする回路定数調整器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の回路定数調整器であって、
前記抵抗値設定器には、入力されたデータに基づき出力する前記制御信号の電圧値を演算する基準データが格納されていることを特徴とする回路定数調整器。
【請求項6】
請求項5に記載の回路定数調整器であって、
前記抵抗値設定器は、前記入力されたデータと基準データとの差が最も大きくなる周波数の信号成分を抑制するに適した電圧値の前記制御信号を演算することを特徴とする回路定数調整器。
【請求項7】
信号を増幅する増幅器と、
該増幅器により増幅される信号又は増幅された信号が伝送する伝送回路と、
前記伝送回路を回路定数調整対象の回路として、該回路に接続された請求項1乃至6のいずれか1項に記載の回路定数調整器とを備えることを特徴とする低雑音増幅装置。
【請求項8】
請求項7に記載の低雑音増幅装置であって、
前記回路定数調整対象の回路と前記回路定数調整回路とは、同一の半導体基板に形成されていることを特徴とする低雑音増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−26975(P2013−26975A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162311(P2011−162311)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(301072650)NEC東芝スペースシステム株式会社 (62)
【Fターム(参考)】