説明

回転変動吸収クランクプーリ

【課題】通常トルクの入力時には良好な回転変動吸収機能を発揮し、過大トルクの入力時にはプーリの振れ回りを規制し、よってベルトのスリップ現象が発生するのを抑制する。
【解決手段】駆動軸に発生する回転変動を吸収すべくハブとプーリをカップリング部を介して連結してなる回転変動吸収クランクプーリであって、カップリング部は、ハブに固定されるハブ側構成部材と、プーリに固定されるプーリ側構成部材と、ハブ側構成部材に設けた突起およびプーリ側構成部材に設けた突起間に円周上挟み込まれる非環状のカップリングゴムとを有する。通常トルク入力時は、両突起間でカップリングゴムが円周方向に圧縮されながらトルクを伝達し、過大トルク入力時は、両突起間でカップリングゴムが円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮された状態でトルクを伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジンのクランクシャフト等の駆動軸から各種の補機等の他の回転装置へ無端ベルトを介して回転トルクを伝達する際に、前記駆動軸に発生する回転変動(トルク変動)を吸収する機能を発揮する回転変動吸収クランクプーリに関する。本発明の回転変動吸収クランクプーリは例えば、自動車関連の分野で用いられ、またはその他の分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から図6に示すように、クランクシャフト等の駆動軸(図示せず)に発生する回転変動を吸収すべくハブ62とプーリ63をカップリングゴム64を介して連結してなる回転変動吸収クランクプーリ61が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながらこの従来技術によると、カップリングゴム64が円周上エンドレスの環状体として成形されていて、特にその捩れ変形を一定量までに制限する機構が設けられていないために、以下の不都合がある。
【0004】
すなわちエンジン等の駆動源が起動停止する際、駆動軸の回転数がカップリングゴム64の共振点を通過することから、このとき却って回転変動が増大し、これがそのままプーリ63およびベルト(図示せず)間へ伝えられるため、ベルトのスリップ現象が発生することがある。また、駆動軸の常用回転域においても急激な回転変動が発生した場合には同様にベルトのスリップ現象が発生することがある。ベルトのスリップ現象が発生すると、これに伴って異音(ベルト鳴き)が発生したり、ベルトの耐久性が低下したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−107637号公報(図8)
【特許文献2】特開2001−63303号公報
【特許文献3】特表2004−510111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、通常トルクの入力時には良好な回転変動吸収機能を発揮し、過大トルクの入力時にはプーリの振れ回りを規制し、よってベルトのスリップ現象が発生するのを抑制することができる回転変動吸収クランクプーリを提供することを目的とする。またこれに加えて、カップリングゴムが摺動摩耗するのを抑制することができ、ハブに対するプーリの軸方向位置決め精度を向上させることができ、バックラッシュを抑制することもできる回転変動吸収クランクプーリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による回転変動吸収クランクプーリは、駆動軸に発生する回転変動を吸収すべくハブとプーリをカップリング部を介して連結してなる回転変動吸収クランクプーリであって、前記カップリング部は、前記ハブに固定されるハブ側構成部材と、前記プーリに固定されるプーリ側構成部材と、前記ハブ側構成部材に設けた突起および前記プーリ側構成部材に設けた突起間に円周上挟み込まれる非環状のカップリングゴムと、を有し、通常トルク入力時は、前記両突起間で前記カップリングゴムが円周方向に圧縮されながら前記ハブ側構成部材から前記プーリ側構成部材へトルクを伝達し、過大トルク入力時は、前記両突起間で前記カップリングゴムが円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮された状態で前記ハブ側構成部材から前記プーリ側構成部材へトルクを伝達することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2による回転変動吸収クランクプーリは、上記した請求項1記載のクランクプーリにおいて、前記カップリングゴムが円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮されたときにバネ定数が大きく変化するように前記カップリングゴムに蛇腹構造、中空構造またはポーラス構造による円周方向空隙が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3による回転変動吸収クランクプーリは、上記した請求項1または2記載のクランクプーリにおいて、前記ハブ側構成部材に接触する低摩擦摺動部材が前記カップリングゴムの軸方向一方の側面に円周上点在して設けられるとともに、前記プーリ側構成部材に接触する低摩擦摺動部材が前記カップリングゴムの軸方向他方の側面に円周上点在して設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4による回転変動吸収クランクプーリは、上記した請求項3記載のクランクプーリにおいて、前記両低摩擦摺動部材が前記ハブ側構成部材またはプーリ側構成部材に接触することにより前記カップリングゴムは軸方向に予圧縮された状態とされ、前記予圧縮に伴って発生する反力が前記ハブに対し前記プーリを軸方向に位置決めするための軸方向押し付け力として用いられることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5による回転変動吸収クランクプーリは、上記した請求項1、2、3または4記載のクランクプーリにおいて、一の前記突起から見て前記カップリングゴムと円周上反対側に、バックラッシュ用弾性体が配置されていることを特徴とする。
【0012】
更にまた、本発明の請求項6による回転変動吸収クランクプーリは、上記した請求項5記載のクランクプーリにおいて、前記両突起、カップリングゴムおよびバックラッシュ用弾性体は円周上複数組が配置されていることを特徴とする。
【0013】
上記構成を備える本発明においては、ハブとプーリを連結するカップリング部が、環状ゴムではなく、ハブに固定されるハブ側構成部材と、プーリに固定されるプーリ側構成部材と、ハブ側構成部材に設けた突起およびプーリ側構成部材に設けた突起間に円周上挟み込まれる非環状のカップリングゴムとを有するものとされ、すなわちカップリングゴムが円周方向に捩り変形ではなく圧縮変形するものとされているため、カップリングゴムがその限度もしくは限度近くまで円周方向に圧縮されると云う状態が発生する。したがって駆動軸の常用回転域など通常トルクの入力時には、両突起間でカップリングゴムが円周方向に圧縮されながらトルクを伝達することにより良好な回転変動吸収機能を発揮することが可能となり、共振点通過時など過大トルクの入力時には、両突起間でカップリングゴムが円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮された状態でトルクを伝達することによりプーリはそれ以上振れ回らず(それ以上ハブに対し相対変位せず)、よってベルトのスリップ現象が発生するのを抑制することが可能となる。非環状のカップリングゴムとしては例えばこれを軸方向から見て円弧形に成形され、円弧の両端に突起が配置される。
【0014】
また、この非環状のカップリングゴムについては、これが円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮されたときにバネ定数が大きく変化する(極端に高くなる)ようにこれに蛇腹構造、中空構造またはポーラス構造による円周方向空隙を設定するのが好適であり、これによれば円周方向空隙が潰れる前後でバネ定数がそれぞれ最適化される。したがって駆動軸の常用回転域など通常トルクの入力時には低バネのもとで良好な回転変動吸収機能を発揮することが可能となり、共振点通過時など過大トルクの入力時には高バネのもとでプーリの振れ回りおよびこれに基づくベルトスリップ現象の発生を有効に抑制することが可能となる。
【0015】
また、このカップリングゴムについては、これがハブ側構成部材およびプーリ側構成部材間に介装されるので摺動摩耗の発生が懸念されるところ、低摩擦摺動部材を付設することにより摺動摩耗の発生を抑制することが可能となる。低摩擦摺動部材としては、カップリングゴムが非環状であって円周方向に変形せしめられるものであるため、カップリングゴムの軸方向一方の側面に円周上点在して設けられる部材と、カップリングゴムの軸方向他方の側面に円周上点在して設けられる部材との組み合わせよりなるものとし、これらの摺動部材がゴムに代わって摺動する。
【0016】
また、このように低摩擦摺動部材を付設する場合には、これらの摺動部材はハブ側構成部材およびプーリ側構成部材間に接触することが容認されるので、これを利用して、カップリングゴムに軸方向の予圧縮を設定し、これに伴って発生する反力を、ハブに対しプーリを軸方向に位置決めするための軸方向押し付け力として用いることが考えられ、これによれば位置決め専用のバネ手段を設置することなく、ハブに対するプーリの軸方向位置決め精度を向上させることが可能となる。これによりプーリは軸方向ガタが低減され、ベルトが円滑に回転する。
【0017】
また、カップリングゴムが例えば円弧状とされるのに伴って、円周上の残余の部位を有効活用できる状況が発生するので、これを利用して例えば、一の突起から見てカップリングゴムと円周上反対側の部位にバックラッシュ用弾性体を配置することが考えられ、これによればエンジン等の駆動源の起動停止時、補機慣性力によってベルトを介してプーリがハブより軸正回転方向に進角する場合に発生するバックラッシュを緩衝することが可能となる。
【0018】
両突起、カップリングゴムおよびバックラッシュ用弾性体は同一円周上に並べられる。また、これらは円周上複数組(例えば2等配、3等配もしくは4等配など)を配置するのが好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0020】
すなわち、以上説明したように本発明によれば、駆動軸の常用回転域など通常トルクの入力時には、両突起間でカップリングゴムが円周方向に圧縮されながらトルクを伝達することにより良好な回転変動吸収機能が発揮され、共振点通過時など過大トルクの入力時には、両突起間でカップリングゴムが円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮された状態でトルクを伝達することによりプーリがそれ以上振れ回らず、よってベルトのスリップ現象が抑制される。したがってベルトのスリップ現象に伴って異音が発生したり、ベルトの耐久性が低下したりするのを抑制することができる。
【0021】
また、非環状のカップリングゴムに蛇腹構造などによる円周方向空隙を設定することにより空隙が潰れる前後でバネ定数をそれぞれ最適化することができ、カップリングゴムに低摩擦摺動部材を付設することによりカップリングゴムが摺動摩耗するのを抑制することができる。また、カップリングゴムに軸方向の予圧縮を設定してその反力を利用することによりハブに対するプーリの位置決め精度を向上させることができ、バックラッシュ用弾性体を付設することによりバックラッシュを緩衝することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係る回転変動吸収クランクプーリの断面図
【図2】図1の一部拡大図であってカップリング部の一部断面図
【図3】カップリング部の説明図
【図4】カップリング部の説明図
【図5】カップリングゴムの説明図
【図6】従来例に係る回転変動吸収クランクプーリの断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)本発明では、カップリングゴムとして円周状に蛇腹状のゴムをプーリ内に内装し、その一端はハブ側構成部材の突起に端面接触し、他端はプーリ側構成部材の突起に端面接触させる。エンジンが正回転する際、ハブ側構成部材の突起は蛇腹状ゴムの端面を円周方向に圧縮し、ゴムを介してプーリ側構成部材の突起にトルクを伝達し、プーリを正回転させる。尚、蛇腹状ゴムについてはこれに限定されず、形状要素的に空隙を有したリング状の弾性体や、ミクロ的に多孔質素材から成る弾性体など、圧縮方向に柔らかい弾性体形状もしくは材質を用いてトルク伝達の際に容易に変形し、バネ定数の低いカップリングを形成することを特徴とする。
(2)カップリングゴムの両側面には摩擦係数の低いPTFE等の樹脂を埋め込み、この樹脂を内装ハブ・プーリ構成部材の内壁面と摺動接触させ、カップリングゴム本体が摺動摩耗することを防止する。
(3)カップリングゴムに埋め込まれた樹脂は、カップリングゴムを軸方向に予圧縮し、ハブ・プーリ構成部材に内装する。ゴムの軸方向反力は埋め込まれ樹脂を介し、ハブ・プーリ構成部材を軸方向に拡張させる力を発生し、プーリをスラストベアリングに押し付け、プーリとハブの軸方向位置を規制する。
(4)カップリングゴムを円周方向に圧縮するハブ構成部材の突起とプーリ側構成部材の突起のエンジン逆回転方向には、ゴムなどの適当な弾性を有する弾性体を内装し、ハブとプーリのバックラッシュによる突起同士の衝突を緩衝させる。以下の実施例では、円周方向への初期可撓性が柔らかく、圧縮変更後の可撓性が硬くなるよう、リング状のゴム弾性体を事例として記載する。
(5)ハブとプーリはラジアルベアリングによって径方向位置を規制し、且つ相対的な回転可能を可能とする。
(6)以下の実施例ではハブ外周にトーショナルダンパーを記載しているが、本発明はトーショナルダンパーの有無に関わらず、カップリング機能の構成に関するものである。
【0024】
(7)エンジン正回転方向のトルク伝達はカップリングゴムを円周方向に圧縮し、カップリングゴムを介してプーリにトルクを伝達する。カップリングゴムはエンジントルクに合わせて適当なバネ定数を有し、通常のトルク伝達では更なる可撓性変位量を残しトルク伝達が行われる。過大トルク入力の際はカップリングゴムが変形し、蛇腹形状が密着し、確実なトルク伝達が行われる。
(8)エンジンの起動停止等、補機慣性力によってベルトを介してプーリがクランクシャフトより進角した場合、バックラッシュゴムによってハブとプーリの相対変位を緩衝する。
(9)カップリングゴムの両側面に埋め込まれた樹脂によって内装隔壁との摺動を滑らかにし、ゴムの摩耗を防止し、蛇腹形状等のゴム形状によって長大な圧縮変位に対してもゴム歪みを緩和し、ゴム本体の耐久性が、従来案の円柱状もしくは円盤状カップリングゴムに比べ高くなる。
(10)カップリングゴムを内装する際に、カップリングにゴムに埋め込んだ樹脂を介してカップリングゴムを予圧縮し、反力によってプーリをスラストベアリングに押し付け、ハブ・プーリの相対的な軸方向位置を規制し、クランクプーリの位置精度を向上させる。
【0025】
(11)蛇腹形状等による可撓性の高いカップリングゴムを円周方向に設けること、カップリングゴムの両側面に耐摩耗性の摺動部材を施工すること、カップリングゴムの両側面に施工した摺動部材はカップリングゴムを軸方向に予圧縮し、クランクプーリに内装すること、エンジン逆回転方向に緩衝ゴムを設けること、を特徴とする。
【0026】
(12)弾性体の周囲に弾性体を内装する構造部材と摺動する摺動部材を設け、弾性体の圧縮変形に伴う軸方向および径方向への拡張変形を抑制すると共に弾性体の摩耗を防止する。上記特許文献2記載の発明では、保形部材の強度によって弾性体の変形を抑制しているが、本発明は、摺動部材を介して周囲の構造部材の強度によって弾性体を保形する点が異なる。本発明の摺動部材はベアリング機能に特化している。また上記特許文献3記載の発明では、大変位時に弾性体がカミ込み、摩擦抵抗によって固着するおそれがあるが、本発明では、固着の懸念がない(弾性体の固着防止)。
(13)本発明では、摺動材を介して軸方向に予圧縮し周囲構造部材に内装し、プーリをスラストベアリングに押し付け、プーリの軸方向位置精度を高める。本発明の弾性体はトルク伝達のカップリング機能の他にプーリの位置精度を高める機能を有する点が先行技術と大きく異なる(カップリングによるプーリ位置精度向上の兼務)。
(14)本発明では、弾性体を圧縮するため、変形量が増すにつれて実施例で図示する三角形状のスグリ(スリット、円周方向空隙)が潰れ、中実角柱状の形態に変形し、バネ定数が高まる。したがって大変形時は更なる変位増加を抑制するストッパとして機能する(カップリングによる回転方向ストッパ機能の兼務)。
【実施例】
【0027】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施例に係る回転変動吸収クランクプーリ1の断面を示しており、その一部が図2に拡大して示されている。また、図2は当該クランクプーリ1に備えられるカップリング部31の一部断面を示しており、このカップリング部31を図1におけるA−A線に沿って裁断すると図3に示すようになる。また、図4はカップリング部31からハブ側構成部材32を取り外した状態を示している。図5はカップリングゴム38の単品図であって、図5(A)は低摩擦摺動材46を組み付ける前の状態、図5(B)は低摩擦摺動部材46を組み付けた後の状態をそれぞれ示している。尚、図1において、カップリング部31は図3におけるB−O−B線に沿って裁断されている。
【0029】
当該実施例に係る回転変動吸収クランクプーリ1は、自動車エンジンのクランクシャフト等の駆動軸から各種の補機等の他の回転装置へ無端ベルトを介して回転トルクを伝達する際に、駆動軸に発生する回転変動(トルク変動)を吸収すべくハブ11とプーリ21をカップリング部31を介して連結したものであって、カップリング部31としては、環状のゴムではなく、ハブ11に固定される剛性環よりなるハブ側構成部材(カップリング部ハブ側ケース)32と、プーリ21に固定される同じく剛性環よりなるプーリ側構成部材(カップリング部プーリ側ケース)35と、ハブ側構成部材32の円周上に設けた突起33およびプーリ側構成部材35の円周上に設けた突起36間に円周上挟み込まれる非環状のカップリングゴム38とを有するものとされている。そして通常トルクの入力時には、両突起33,36間でカップリングゴム38が円周方向に圧縮されながらハブ側構成部材32からプーリ側構成部材35、延いてはハブ11からプーリ21へトルクを伝達し、過大トルクの入力時には、両突起33,36間でカップリングゴム38が円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮された状態でハブ側構成部材32からプーリ側構成部材35、延いてはハブ11からプーリ21へトルクを伝達するように構成されている。
【0030】
各構成要素は、以下のように構成されている。
【0031】
すなわち先ず、ハブ11は、所定の金属によって環状に成形され、駆動軸に固定されるボス部11aおよび径方向の立ち上がり部(平面部)11bを一体に備え、径方向立ち上がり部11bから軸方向一方(図では左方)へ向けて内周筒部11cおよび外周筒部11dが一体に成形されている。内周筒部11cは外周筒部11dの内周側に配置されるとともに外周筒部11dは内周筒部11cの外周側に配置され、よって両筒部11c,11d間にカップリング部31などの収容スペースが設定されている。
【0032】
プーリ21は、所定の金属によって環状に成形され、ハブ11の内周筒部11cの外周側に配置される内周筒部21aを備え、この内周筒部21aの軸方向一方の端部から径方向外方へ向けて径方向立ち上がり部21bが一体成形され、径方向立ち上がり部21bの外周端部から軸方向他方(図では右方)へ向けて外周筒部21cが一体成形され、外周筒部21cの外周面にプーリ溝21dが形成されている。プーリ21はハブ11に対し非接触であって円周方向に相対変位可能に組み合わされ、プーリ21の内周筒部21aとハブ11の内周筒部11cの間に樹脂製のラジアルベアリング51が介装され、これにより両者11,21の同軸度が確保されている。
【0033】
また、ハブ11の内周筒部11cの先端に断面略L字形を呈する剛性環よりなるストッパ(ベアリングホルダ)52が嵌着され、これによりハブ11に対しプーリ21が軸方向に抜け止めされている。ストッパ52とプーリ21の径方向立ち上がり部21bの間には樹脂製のスラストベアリング53が介装されている。
【0034】
ハブ11の外周筒部11dの外周側に環状のマス(振動リング)54が配置され、外周筒部11dとマス54の間にダンパゴム55が圧入されている。したがってこの構成はハブ11にダンパゴム55を介してマス54を連結したものであって、これにより駆動軸に発生する捩り振動を低減するトーショナルダンパー部が構成されている。このトーショナルダンパー部はプーリ21の外周筒部21cの内周側に非接触で配置されているが、プーリ21の外周筒部21cとマス54との間にラジアルベアリング(図示せず)を介装するようにしても良い。
【0035】
カップリング部31は上記したように、ハブ11に固定されるハブ側構成部材32と、プーリ21に固定されるプーリ側構成部材35と、ハブ側構成部材32に設けた突起33およびプーリ側構成部材35に設けた突起36間に円周上挟み込まれる非環状のカップリングゴム38とを有している。
【0036】
このうち先ず、ハブ側構成部材32は、所定の金属によって環状に成形され、ハブ11の外周筒部11dの内周面に嵌合される筒状部32aを備え、この筒状部32aの軸方向他方の端部から径方向内方へ向けてフランジ部32bが一体成形されている。また図3に示すように、筒状部32aの内周面に径方向内方へ向けて内向きの突起33が設けられ、当該実施例ではこの内向きの突起33が円周上2等配で設けられている(3等配、4等配などでも可)。2つの突起33は同形同大であるが、説明の便宜上、以下、第1突起33Aおよび第3突起33Bとも称する。
【0037】
プーリ側構成部材35は、所定の金属によって環状に成形され、プーリ21の内周筒部21aの外周面に嵌合される筒状部35aを備え、この筒状部35aの軸方向一方の端部から径方向外方へ向けてフランジ部35bが一体成形されている。また図3に示すように、筒状部35aの外周面に径方向外方へ向けて外向きの突起36が設けられ、当該実施例ではこの外向きの突起36が円周上2等配で設けられている(3等配、4等配などでも可)。2つの突起36は同形同大であるが、説明の便宜上、以下、第2突起36Aおよび第4突起36Bとも称する。第1ないし第4突起33A,36A,33B,36Bは円周上番号順に並べられている。
【0038】
ハブ側構成部材32とプーリ側構成部材35は、互いに非接触であって円周方向に相対変位可能に組み合わされている。またこの両部材32,35は、両部材32,35が囲む内部空間にカップリングゴム38などを収容するケーシングをなしている。
【0039】
すなわち図2および図3に示すように、両構成部材32,35に囲まれる内部空間であって第1および第2突起33A,36A間にカップリングゴム38が収容(配置)され、第3および第4突起33B,36B間にもカップリングゴム38が収容(配置)され、当該実施例ではこのカップリングゴム38が円周上2等配で設けられている(3等配、4等配などでも可)。
【0040】
カップリングゴム38はそれぞれ非環状であって、軸方向からこれを見て円弧形のブロック状に成形されている。
【0041】
また、カップリングゴム38は、その大きさとして円周方向長さが、一対の突起33A,36A、33B,36B間の円周方向長さ(間隔)と略同じに設定されている。したがってトルク入力無しの初期状態において、カップリングゴム38の円周方向一方の端部38a(図5参照)は一方の突起33A、33Bに接触し、他方の端部38b(図5参照)は他方の突起36A、36Bに接触している。
【0042】
また、カップリングゴム38は、当該カップリングゴム38が円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮されたときに円周方向バネ定数が大きく変化する(極端に高くなる)ように蛇腹構造40を備えており、具体的には、カップリングゴム38の内周面38cおよび外周面38dに互いに対をなす切欠状の円周方向空隙41,42が円周方向に変位して設けられることにより径方向厚みの比較的小さな薄肉部43が設けられ、この薄肉部43が蛇腹構造40のベローとされ、当該カップリングゴム38が円周方向に圧縮されて円周方向空隙41,42が潰されると(暫時消失すると)、円周方向バネ定数が大きく変化する(極端に高くなる)ように設定されている。当該実施例では1つのカップリングゴム38に薄肉部(ベロー)43が4箇所設けられ、この4箇所設けられた薄肉部(ベロー)43と5箇所設けられた全厚部44が円周方向に交互に並べられている。
【0043】
また、カップリングゴム38の軸方向一方(図では右方)の側面に、ハブ側構成部材32のフランジ部32bに摺動可能に接触する低摩擦摺動部材46が円周上点在して組み付けられ、カップリングゴム38の軸方向他方(図では左方)の側面部に、プーリ側構成部材35のフランジ部35bに摺動可能に接触する低摩擦摺動部材46が円周上点在して組み付けられている。したがってこれらの低摩擦摺動部材46が各フランジ部32b,35bに接触するためカップリングゴム38は各フランジ部32b,35bに直接接触せず、よってカップリングゴム38と各フランジ部32b,35bの間に軸方向間隙が設定されている。
【0044】
低摩擦摺動部材46はそれぞれ、PTFE等の低摩擦摺動材によってポペット状に成形され、すなわち差し込み脚部46aおよび頭部46bを一体に備え、カップリングゴム38に予め設けた差し込み穴45に差し込み固定されている。差し込み後、頭部46bはその先端がカップリングゴム38の軸方向側面より突出するものとされ、当該実施例では頭部46bの先端は球面状に成形されている。
【0045】
低摩擦摺動部材46は各全厚部44の両側面中央に1つずつ配置されている。上記したように当該実施例では1つのカップリングゴム38に全厚部44が5箇所設けられているので、低摩擦摺動部材46は両側面に5つずつ計10個が配置されている。尚、カップリングゴム38の軸方向一方の側面に配置された低摩擦摺動部材46と、カップリングゴム38の軸方向他方の側面に配置された低摩擦摺動部材46はそれぞれ対をなして円周上同一位置に配置され(差し込み穴45は軸方向に貫通して共用化されている)、これによりカップリングゴム38を軸方向に予圧縮しやすい構成とされている(予圧縮については後述)。
【0046】
また、ハブ側構成部材32およびプーリ側構成部材35に囲まれる内部空間であって第1および第4突起33A,36B間にバックラッシュ用弾性体48が収容(配置)され、第2および第3突起36A,33B間にもバックラッシュ用弾性体48が収容(配置)され、当該実施例ではこのバックラッシュ用弾性体48が円周上2等配で設けられている(3等配、4等配などでも可)。
【0047】
バックラッシュ用弾性体48はそれぞれ、カップリングゴム38よりも高硬度のゴム状弾性体によって小さな円筒状に成形され、円筒の中心軸線を当該クランクプーリの軸方向に向けて配置されている。
【0048】
上記構成のハブ側構成部材32、プーリ側構成部材35、低摩擦摺動部材46付きカップリングゴム38およびバックラッシュ用弾性体48を組み立てて、これらの部材よりなる組立体をハブ11およびプーリ21間に装着すると図1に示すようになり、このときカップリングゴム38は以下の理由(寸法諸元)によって軸方向に予圧縮される。
【0049】
すなわち、装着前における当該組立体の軸方向幅w1は、以下の(イ)式によって表される。
w1=w2+w4+w3+w4+w5・・・・(イ)式
ただし、w2:ハブ側構成部材32のフランジ部32bの厚み
w3:カップリングゴム38の軸方向幅
w4:カップリングゴム38の軸方向側面から突出する低摩擦摺動部材46の突出幅
w5:プーリ側構成部材35のフランジ部35bの厚み
【0050】
一方、図1において、ハブ11の径方向立ち上がり部11bおよびプーリ21の径方向立ち上がり部21b間の軸方向間隔w6は、上記組立体の軸方向幅w1よりも小さく設定されており(w6<w1)、またカップリングゴム38以外の部材はいずれも硬性部材であるので、組立体をハブ11およびプーリ21間に装着すると、カップリングゴム38が軸方向に挟み込まれるかたちにて同方向に予圧縮された状態となる。したがって予圧縮されたカップリングゴム38に反力が発生し、この反力がハブ11に対しプーリ21を軸方向に位置決めするための軸方向押し付け力として用いられ、具体的には、低摩擦摺動部材46およびプーリ側構成部材35のフランジ部35bを介してプーリ21の軸方向立ち上がり部21bが、ストッパ52に保持されたスラストベアリング53に押し付けられ、これによりハブ11に対しプーリ21が軸方向に位置決めされる構成とされている。
【0051】
上記構成を備えるクランクプーリ1においては、ハブ11とプーリ21を連結するカップリング部31が、環状のゴムではなく、ハブ11に固定されるハブ側構成部材32と、プーリ21に固定されるプーリ側構成部材35と、ハブ側構成部材32に設けた突起33およびプーリ側構成部材35に設けた突起36間に円周上挟み込まれる非環状(円弧形)のカップリングゴム38とを有するものとされ、これによりカップリングゴム38が円周方向に捩り変形ではなく圧縮変形するものとされているために、当該クランクプーリ1の作動時にカップリングゴム38がその限度もしくは限度近くまで円周方向に圧縮されると云う状態が発生する。したがって駆動軸の常用回転域など通常トルクの入力時には、両突起33,36間でカップリングゴム38が円周方向に圧縮されながらトルクを伝達することにより良好な回転変動吸収機能を発揮することができ、共振点通過時など過大トルクの入力時には、両突起33,36間でカップリングゴム38が円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮された状態でトルクを伝達することによりプーリ21はそれ以上振れ回らず(それ以上ハブ11に対し相対変位せず)、よってベルトのスリップ現象が発生するのを抑制することができる。
【0052】
また、カップリングゴム38が円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮されたときにバネ定数が大きく変化する(極端に高くなる)ようにカップリングゴム38に蛇腹構造40が設けられているために、この蛇腹構造40が潰れる前後でバネ定数をそれぞれ最適化することが可能とされている。したがって駆動源の常用回転域など通常トルクの入力時には低バネのもとで良好な回転変動吸収機能を発揮することができ、共振点通過時など過大トルクの入力時には高バネのもとでプーリ21の振れ回りおよびこれに基づくベルトスリップ現象の発生を有効に抑制することができる。
【0053】
また、カップリングゴム38の軸方向両側面に低摩擦摺動部材46が組み付けられ、これが各構成部材32,35に接触してカップリングゴム38は接触しないように構成されているために、カップリングゴム38に作動に伴う摺動摩耗が発生するのを抑制することができる。
【0054】
また、カップリングゴム38が軸方向に予圧縮され、これに伴って発生する反力がハブ11に対しプーリ21を軸方向に位置決めするための軸方向押し付け力として用いられるために、ハブ11に対するプーリ21の軸方向位置決め精度を向上させることができる。
【0055】
また、カップリング部31にカップリングゴム38と共にバックラッシュ用弾性体48が組み込まれているために、当該クランクプーリ1に発生するバックラッシュを有効に緩衝することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 回転変動吸収クランクプーリ
11 ハブ
11a ボス部
11b,21b 径方向立ち上がり部
11c,21a 内周筒部
11d,21c 外周筒部
21 プーリ
21d プーリ溝
31 カップリング部
32 ハブ側構成部材
32a,35a 筒状部
32b,35b フランジ部
33,36 突起
35 プーリ側構成部材
38 カップリングゴム
38a,38b 円周方向端部
38c 内周面
38d 外周面
40 蛇腹構造
41,42 円周方向空隙
43 薄肉部
44 全厚部
45 差し込み穴
46 低摩擦摺動部材
46a 差し込み脚部
46b 頭部
48 バックラッシュ用弾性体
51 ラジアルベアリング
52 ストッパ
53 スラストベアリング
54 マス
55 ダンパゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に発生する回転変動を吸収すべくハブとプーリをカップリング部を介して連結してなる回転変動吸収クランクプーリであって、
前記カップリング部は、前記ハブに固定されるハブ側構成部材と、前記プーリに固定されるプーリ側構成部材と、前記ハブ側構成部材に設けた突起および前記プーリ側構成部材に設けた突起間に円周上挟み込まれる非環状のカップリングゴムと、を有し、
通常トルク入力時は、前記両突起間で前記カップリングゴムが円周方向に圧縮されながら前記ハブ側構成部材から前記プーリ側構成部材へトルクを伝達し、
過大トルク入力時は、前記両突起間で前記カップリングゴムが円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮された状態で前記ハブ側構成部材から前記プーリ側構成部材へトルクを伝達することを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。
【請求項2】
請求項1記載のクランクプーリにおいて、
前記カップリングゴムが円周方向に限度もしくは限度近くまで圧縮されたときにバネ定数が大きく変化するように前記カップリングゴムに蛇腹構造、中空構造またはポーラス構造による円周方向空隙が設けられていることを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。
【請求項3】
請求項1または2記載のクランクプーリにおいて、
前記ハブ側構成部材に接触する低摩擦摺動部材が前記カップリングゴムの軸方向一方の側面に円周上点在して設けられるとともに、前記プーリ側構成部材に接触する低摩擦摺動部材が前記カップリングゴムの軸方向他方の側面に円周上点在して設けられていることを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。
【請求項4】
請求項3記載のクランクプーリにおいて、
前記両低摩擦摺動部材が前記ハブ側構成部材またはプーリ側構成部材に接触することにより前記カップリングゴムは軸方向に予圧縮された状態とされ、前記予圧縮に伴って発生する反力が前記ハブに対し前記プーリを軸方向に位置決めするための軸方向押し付け力として用いられることを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載のクランクプーリにおいて、
一の前記突起から見て前記カップリングゴムと円周上反対側に、バックラッシュ用弾性体が配置されていることを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。
【請求項6】
請求項5記載のクランクプーリにおいて、
前記両突起、カップリングゴムおよびバックラッシュ用弾性体は円周上複数組が配置されていることを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36530(P2013−36530A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172727(P2011−172727)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】