説明

回転機の制御装置

【課題】モデル予測制御によりスイッチング状態の切替数が増大すること。
【解決手段】現在の操作状態を表現する電圧ベクトルV(n)について、予測電流ベクトルIdqeと指令電流ベクトルIdqrとの誤差ベクトルedqのノルム|edq|が閾値ethよりも大きい場合、この一連の処理を実行する。ここで、現在の操作状態を表現する電圧ベクトルV(n)が有効電圧ベクトルである場合(ステップS34:YES)、平均電圧ベクトルVaとのなす角度が規定角度A(≦20°)以下のものがあるか否かを判断する(ステップS38:YES)。そして、肯定判断される場合、ゼロ電圧ベクトルの優先度が高いとし(ステップS40)、これに関する誤差ベクトルedqのノルム|edq|が閾値eth以下と判断される場合(ステップS42)、ゼロ電圧ベクトルを採用する(ステップS46)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機の端子に直流電源の正極および負極のそれぞれを電気的に接続するスイッチング素子を備える電力変換回路の出力電圧を操作することで前記回転機の制御量を制御すべく、前記電力変換回路の操作状態を設定した場合の前記回転機の制御量を予測する予測手段と、前記予測された制御量に基づき、前記電力変換回路の実際の操作状態を決定し、該決定された操作状態となるように前記電力変換回路を操作する操作手段とを備える回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、例えば下記特許文献1に見られるように、モデル予測制御を行うものもある。この装置では、まず、各サンプリングタイミングk、k+1、…k+N−1(N≧1)のスイッチング状態のシーケンスを仮設定した場合のサンプリングタイミングk〜k+Nにおけるトルクの軌跡を予測する。次に、サンプリングタイミングk+N−1〜k+Nにおけるトルクの軌跡に基づき、外挿によってトルクのその後の軌跡を予測する。次に、外挿によって予測されるトルクが所定の範囲から外れるまでに要するサンプリング回数nに基づき、上記スイッチングシーケンスの仮設定によって定まるスイッチング状態の切替数を除算する。そして、この除算値が最小となるスイッチングシーケンスにおけるサンプリングタイミングkのスイッチング状態をサンプリングタイミングkの実際のスイッチング状態として決定する。これにより、スイッチング状態の切替数を制限することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−174697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記除算値は、トルクの外挿値が所定の範囲から外れるようになるまでの期間が長いほど小さい値となる。このため、サンプリングタイミングk〜k+N−1におけるスイッチング状態の切替総数が多いスイッチングシーケンスであっても、サンプリング回数nが大きい場合には上記除算値が小さくなる。このため、上記装置では、スイッチング状態の切替数を必ずしも十分に制限できることにはならない。特に、外挿によるトルクの挙動の予測精度が必ずしも高くないことなどから、上記装置では、トルクについての精度の低い予測に基づきスイッチング状態の切替数を評価する重み付けを可変としていることとなり、スイッチング状態の切替数を抑制する処理として信頼性に問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、モデル予測制御によるスイッチング状態の切替数を好適に抑制することのできる回転機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、回転機の端子に直流電源の正極および負極のそれぞれを電気的に接続するスイッチング素子を備える電力変換回路の出力電圧を操作することで前記回転機の制御量を制御すべく、前記電力変換回路の操作状態を設定した場合の前記回転機の制御量を予測する予測手段と、前記予測された制御量に基づき、前記電力変換回路の実際の操作状態を決定し、該決定された操作状態となるように前記電力変換回路を操作する操作手段とを備える回転機の制御装置において、前記電力変換回路の平均的な出力電圧ベクトルの方向を算出する平均電圧方向算出手段を備え、前記操作手段は、前記操作状態を表現する有効電圧ベクトルの中に前記平均電圧方向算出手段によって算出される方向とのなす角度が20度以下の規定角度以下となるものがあることを条件に、ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態を前記実際の操作状態の決定に関する優先度を最も高いとするゼロ電圧ベクトル優先手段を備えることを特徴とする。
【0008】
平均的な出力電圧ベクトルは、制御量を制御する上で適切な出力電圧ベクトルであると考えられる。一方、平均的な出力電圧ベクトルとのなす角度が小さい有効電圧ベクトルがある場合、平均的な有効電圧ベクトルを実現する上で有効電圧ベクトルの寄与は小さくなる。上記発明では、この点に鑑み、こうした状況下においてゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態を優先することで、スイッチング状態の切り替えを抑制する。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記電力変換回路の操作状態として現在の操作状態を設定した場合の前記制御量の予測値と前記制御量の指令値との差が許容範囲から外れるか否かを判断する許容範囲判断手段を更に備え、前記操作手段は、前記許容範囲判断手段によって許容範囲内にあると判断される場合、前記電力変換回路の現在の操作状態の優先度が高いとする状態維持優先手段を更に備え、前記ゼロ電圧ベクトル優先手段は、前記許容範囲から外れると判断されることと前記規定角度以下となるものがあることとの論理積が真となる場合、前記ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態の優先度を最も高いとすることを特徴とする。
【0010】
上記発明では、上記差が許容範囲内にあると判断されることを条件に現在の操作状態の優先度が高いとされるため、制御量の制御性を維持しつつも操作状態の切り替えを抑制することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記ゼロ電圧ベクトル優先手段は、前記ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態の優先度を最も高いとする場合、前記ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態を前記予測手段の予測対象に設定して且つ、その予測値と指令値との差が前記許容範囲内にある場合、前記ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態を実際の操作状態に決定することを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項2または3記載の発明において、前記操作手段は、前記許容範囲から外れると判断されるときに予測対象とされた操作状態を表現する電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルである場合、前記平均的な出力電圧ベクトルとのなす角度が小さい一対の有効電圧ベクトルにて表現される操作状態の少なくとも一方の優先度を最も高いとする有効電圧ベクトル優先手段を更に備えることを特徴とする。
【0013】
ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態によって上記差が許容範囲から外れる場合、上記差を許容範囲とするために有効電圧ベクトルにて表現される操作状態を用いることが望まれる。この差を許容範囲とすることは制御量を制御する上で適切な操作状態を選択することを意味するが、制御量を制御する上で適切な出力電圧ベクトルは、平均的な出力電圧ベクトルであると考えられる。そして、この平均的な出力電圧ベクトルを実現するために必要な最小限の有効電圧ベクトルは、上記一対の有効電圧ベクトルである。上記発明では、この点に着目することで、上記差を許容範囲とするうえで特に適切な有効電圧ベクトルを優先することができる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路の実際の操作状態を決定するに際し、スイッチング状態が切り替えられる前記スイッチング素子に接続される前記回転機の端子数が1よりも大きくなることを禁止する禁止手段を更に備えることを特徴とする。
【0015】
上記発明では、スイッチング状態の切り替え数を抑制することができる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記予測手段は、前記禁止手段によって禁止される操作状態を前記予測手段による予測対象から除外するものであることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、演算負荷を好適に低減することができる。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記予測手段は、前記優先度の低い操作状態を前記予測手段による予測対象から除外するものであり、前記操作手段は、前記予測対象とされたものの中から実際の操作状態を決定することを特徴とする。
【0019】
上記発明では、優先度の低い操作状態を予測対象から除外することで、演算負荷を低減することができる。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記予測手段は、前記電力変換回路の操作状態を設定する場合の前記制御量を予測する第1予測手段と、前記操作手段によって用いられることが既に決定された操作状態を入力として前記第1予測手段による予測に用いる初期値を予測する第2予測手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
電力変換回路の操作状態を設定した場合の設定期間における制御量を高精度に予測する上では、上記設定の採用時点(操作状態の更新タイミング)に極力近似した時点での予測処理の初期値(制御量又は制御量を算出可能な物理量)を得ることが望まれる。ただし、制御量の予測を実際に操作がなされる時点よりも前に行う必要があるため、この時点又はこの時点に極力近似した時点での初期値を検出によって求めることは不可能又は困難である。この点、上記発明では、第2予測手段を備えることで、第1予測手段の予測に用いられる初期値を極力適切な値とすることができる。このため、制御量の予測を高精度に行うことができる。このため、特に上記許容範囲判断手段を備える場合等にあっては、許容範囲判断手段による判断に基づきなされる制御を適切なものとすることができる。
【0022】
ちなみに、第2予測手段を備えない場合、制御量の予測は、複数制御先については第2予測手段を備える場合の予測精度に近似してくるものの、次回の更新タイミングから1制御周期先の制御量の予測精度については第2予測手段を備える場合と比較して劣ったものとなることが発明者らによって見出されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】インバータの操作状態を表現する電圧ベクトルを示す図。
【図3】モデル予測制御の問題点を示すタイムチャート。
【図4】三角波比較PWM制御とモデル予測制御とのスイッチングパターンを比較する図。
【図5】上記実施形態にかかる規範スイッチング遷移を示す図。
【図6】同実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す流れ図。
【図7】上記モデル予測制御における電流の予測処理の手順を示す流れ図。
【図8】同実施形態にかかる平均電圧ベクトルの領域を特定する処理を示す図。
【図9】上記モデル予測制御における電圧ベクトルの変更検討処理の手順を示す流れ図。
【図10】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図11】同実施形態の効果を示す図。
【図12】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図13】第2の実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す流れ図。
【図14】同実施形態にかかる電圧ベクトルの変更検討処理の許可条件を示す図。
【図15】第3の実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる回転機の制御装置をハイブリッド車の制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1に、本実施形態にかかるモータジェネレータの制御システムの全体構成を示す。モータジェネレータ10は、3相の永久磁石同期モータである。また、モータジェネレータ10は、突極性を有する回転機(突極機)である。詳しくは、モータジェネレータ10は、埋め込み磁石同期モータ(IPMSM)である。
【0026】
モータジェネレータ10は、インバータIVを介して高電圧バッテリ12に接続されている。インバータIVは、スイッチング素子Sup,Sunの直列接続体と、スイッチング素子Svp,Svnの直列接続体と、スイッチング素子Swp,Swnの直列接続体とを備えており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらスイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnとして、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。そして、これらにはそれぞれ、ダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnが逆並列に接続されている。
【0027】
本実施形態では、モータジェネレータ10やインバータIVの状態を検出する検出手段として、以下のものを備えている。まずモータジェネレータ10の回転角度(電気角θ)を検出する回転角度センサ14を備えている。また、モータジェネレータ10の各相を流れる電流iu,iv,iwを検出する電流センサ16を備えている。更に、インバータIVの入力電圧(電源電圧VDC)を検出する電圧センサ18を備えている。
【0028】
上記各種センサの検出値は、図示しないインターフェースを介して低電圧システムを構成する制御装置20に取り込まれる。制御装置20では、これら各種センサの検出値に基づき、インバータIVを操作する操作信号を生成して出力する。ここで、インバータIVのスイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnを操作する信号が、操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwnである。
【0029】
上記制御装置20は、モータジェネレータ10のトルクを要求トルクTrに制御すべく、インバータIVを操作する。詳しくは、要求トルクTrを実現するための指令電流となるようにインバータIVを操作する。すなわち、本実施形態では、モータジェネレータ10のトルクが最終的な制御量となるものであるが、トルクを制御すべく、モータジェネレータ10を流れる電流を直接の制御量としてこれを指令電流に制御する。特に、本実施形態では、モータジェネレータ10を流れる電流を指令電流に制御すべく、インバータIVの操作状態を仮設定した場合についてのモータジェネレータ10を流れる電流を予測し、予測電流と指令電流との差に基づきインバータIVの実際の操作状態を決定するモデル予測制御を行う。
【0030】
詳しくは、電流センサ16によって検出された相電流iu,iv,iwは、dq変換部22において、回転座標系の実電流id,iqに変換される。また、角度センサ14によって検出される電気角θは、速度算出部23の入力となり、これにより、回転速度(電気角速度ω)が算出される。一方、指令電流設定部24は、要求トルクTrを入力とし、dq座標系での指令電流idr,iqrを出力する。これら指令電流idr,iqr、実電流id,iq、及び電気角θは、モデル予測制御部30の入力となる。モデル予測制御部30では、これら入力パラメータに基づき、インバータIVの操作状態を規定する電圧ベクトルViを決定し、操作部26に入力する。操作部26では、入力された電圧ベクトルViに基づき、上記操作信号を生成してインバータIVに出力する。
【0031】
ここで、インバータIVの操作状態を表現する電圧ベクトルは、図2に示す8つの電圧ベクトルとなる。例えば、低電位側のスイッチング素子Sun,Svn,Swnがオン状態となる操作状態(図中、「下」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV0であり、高電位側のスイッチング素子Sup,Svp,Swpがオン状態となる操作状態(図中、「上」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV7である。これら電圧ベクトルV0,V7は、モータジェネレータ10の全相を短絡させるものであり、インバータIVからモータジェネレータ10に印加される電圧がゼロとなるものであるため、ゼロ電圧ベクトルと呼ばれている。これに対し、残りの6つの電圧ベクトルV1〜V6は、上側アーム及び下側アームの双方にオン状態となるスイッチング素子が存在する操作状態によって規定されるものであり、有効電圧ベクトルと呼ばれている。なお、ゼロ電圧ベクトルV0,V7を原点として有効電圧ベクトルV1〜V6を固定2次元座標系に変換したものが図2(b)である。図示されるように、電圧ベクトルV1、V3,V5のそれぞれがU相、V相、W相の正側にそれぞれ対応している。
【0032】
次に、モデル予測制御部30の処理の詳細について説明する。先の図1に示す操作状態設定部31では、インバータIVの操作状態を設定する。ここでは、先の図2に示した電圧ベクトルV0〜V7をインバータIVの操作状態として設定する。dq変換部32では、操作状態設定部31によって設定された電圧ベクトルをdq変換することで、dq座標系の電圧ベクトルVdq=(vd,vq)を算出する。こうした変換を行うべく、操作状態設定部31における電圧ベクトルV0〜V7を、例えば、先の図2において、「上」を「VDC/2」として且つ「下」を「−VDC/2」とすることで表現すればよい。この場合、例えば、電圧ベクトルV0は、(−VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となり、電圧ベクトルV1は、(VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となる。
【0033】
予測部33では、電圧ベクトル(vd、vq)と、実電流id,iqと、電気角速度ωとに基づき、インバータIVの操作状態を操作状態設定部31によって設定される状態とした場合の電流id,iqを予測する。ここでは、下記(c1)、(c2)にて表現される電圧方程式を、電流の微分項について解いた下記の状態方程式(式(c3)、(c4))を離散化し、1ステップ先の電流を予測する。
vd=(R+pLd)id −ωLqiq …(c1)
vq=ωLdid (R+pLq)iq +ωφ …(c2)
pid
=−(R/Ld)id +ω(Lq/Ld)iq +vd/Ld …(c3)
piq
=−ω(Ld/Lq)id−(Rd/Lq)iq+vq/Lq−ωφ/Lq…(c4)
ちなみに、上記の式(c1)、(c2)において、抵抗R、微分演算子p、d軸インダクタンスLd,q軸インダクタンスLq及び電機子鎖交磁束定数φを用いた。
【0034】
上記電流の予測は、操作状態設定部31によって設定される複数通りの操作状態のそれぞれについて行われる。
【0035】
一方、操作状態決定部34では、予測部33によって予測された電流ide,iqeと、指令電流idr,iqrとを入力として、インバータIVの操作状態を決定する。この決定処理の1つでは、評価関数Jを用いる。すなわち、操作状態設定部31によって設定された操作状態のそれぞれを評価関数Jによって評価し、評価のもっとも高かった操作状態を選択する。この評価関数Jとして、本実施形態では、評価が低いほど値が大きくなるものを採用する。具体的には、評価関数Jを、指令電流ベクトルIdqr=(idr,iqr)と、予測電流ベクトルIdqe=(ide,iqe)との差の内積値に基づき算出する。これは、指令電流ベクトルIdqrと予測電流ベクトルIdqeとの各成分の偏差が正、負の双方の値となりうることに鑑み、値が大きいほど評価が低いことを表現するための一手法である。これにより、指令電流ベクトルIdqrと予測電流ベクトルIdqeとの各成分の差が大きいほど、評価が低くなる評価関数Jを構築することができる。
【0036】
上記評価関数Jを用いるなら、都度の制御周期Tcにおいて、予測電流ベクトルIdqeと指令電流ベクトルIdqrとの差が最も小さくなる操作状態を選択することができる一方、スイッチング状態の切り替えが同時になされるモータジェネレータ10の相数が増大するおそれがある。そしてこの場合には、サージが大きくなることから、スイッチング素子に要求される耐圧が上昇する。
【0037】
ここで、発明者らは当初、スイッチング状態が同時に切り替えられる相数を1以下に制限する制御を考えた。詳しくは、指令電流への制御性を維持すべく、指令電流と予測電流との誤差が許容範囲内にある場合には上記制限を行って且つ、許容範囲から外れる場合には全ての操作状態のうち評価関数Jによる評価が最も高いものを選択する処理を考えた。このときのスイッチング状態の切り替え例を図3に示す。図示されるように、この場合、互いに相違する有効電圧ベクトルにて表現される操作状態間の切り替え頻度が高く、結果、単位時間当たりのスイッチング状態の切り替え数が大きくなることが見出された。この際のスイッチング状態の切り替え例と、従来の三角波比較PWM処理によるスイッチング状態の切り替え例とを図4に対比して示す。
【0038】
図4(a)に示されるように、三角波比較PWM処理では、2つの有効電圧ベクトルと1つのゼロ電圧ベクトルが周期的に切り替えられるパターンによって、指令電流ベクトルIdqrから実際の電流ベクトルIdqを減算した誤差ベクトルedqの終点(誤差ベクトルedqの始点を原点とした場合の座標成分)が変位するものとなる。図には、平均電圧ベクトルVaを併せ示している。
【0039】
ここで、平均電圧ベクトルVaとは、インバータIVの出力電圧のうち電気角周波数を有する基本波成分のことである。すなわち、インバータIVは、1電気角周期よりも短い時間間隔でスイッチング状態を切り替えることで、その出力電圧が、電気角周波数成分を有する正弦波形状の電圧を模擬したものとなっている。インバータIVの模擬する上記正弦波形状の電圧が平均電圧ベクトルVaである。ちなみに、この平均電圧ベクトルVaのノルムは、変調率や電圧利用率と比例関係にある物理量である。ここで、変調率は、インバータIVの出力電圧についての基本波成分のフーリエ係数のことである。なお、このフーリエ係数の算出に際しては、基本波の振幅中心とインバータIVの出力電圧の変動幅の中央値とを一致させる。
【0040】
上記誤差ベクトルedqの終点は、図示される平均電圧ベクトルVaからインバータIVの操作状態を表現する電圧ベクトルを減算したベクトル方向に変位する。したがって、操作状態を表現するベクトルがゼロ電圧ベクトルである場合、誤差ベクトルedqの終点は、平均電圧ベクトルVa方向に変位する。特に、三角波比較PWM処理では、誤差ベクトルedqの終点が、有効電圧ベクトルと平均電圧ベクトルVaとの始点を誤差ベクトルedqの始点とした場合の平均電圧ベクトルVaとのなす角度が小さい一対の有効電圧ベクトル(図では、V3,V4)によって囲われる領域と「180°」反転した領域内にある場合にゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態が選択されることで、ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態とされる期間が長くなっている。しかも、ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態によって誤差ベクトルedqの終点が上記一対の有効電圧ベクトルによって囲われる領域を変位し誤差ベクトルedqのノルムがある程度大きくなることで有効電圧ベクトルにて表現される操作状態に切り替えられるため、指令電流よりも実際の電流の方が大きい期間と指令電流よりも実際の電流の方が小さい期間とが交互に訪れる。このため、このパターンの1周期に渡る平均的な電流を指令電流に好適に追従させることができる。
【0041】
これに対し、図4(b)に示すモデル予測制御の例では、スイッチング状態が頻繁に切り替えられている。これは、評価関数Jによって最高の評価を得られる操作状態が都度選択されることに起因している。このように、モデル予測制御を用いる場合、微視的なタイムスケールにおける最適解が選択されることでスイッチング状態の切り替え数が増加する傾向がある。もっともこれはモデル予測制御に必然的に生じるものではない。例えば次回の制御周期Tcにおける操作状態を、複数の制御周期Tc先までの予測電流に基づき予測する等、予測期間を伸長させることで、微視的なタイムスケールにおける最適解が選択される傾向を抑制することはできると考えられる。ただし、この場合には、制御装置20の演算負荷が増大する。ちなみに、図4(b)での誤差ベクトルedqは、指令電流ベクトルIdqrから実際の電流ベクトルIdqを減算したものである。
【0042】
そこで本発明者は、次回の制御周期Tcにおける操作状態の決定に際し、平均電圧ベクトルVaを参照することを考えた。ここで、平均電圧ベクトルVaは、モータジェネレータ10を流れる実際の電流を指令電流idr,iqrとするうえで適切なものであると考えられる。このため、平均電圧ベクトルVaを参照するなら、予測期間を伸長させることなく制御周期Tcよりも長いタイムスケールにおける最適な操作状態の選択をモデル予測制御によって実現することができると考えたのである。
【0043】
図5(a)に、本実施形態におけるモデル予測制御によって優先される操作状態の推移を示す。図示されるように、電流誤差が許容範囲から外れる(誤差ベクトルedqのノルムが閾値ethよりも大きくなる)点P1において、平均電圧ベクトルVaとのなす角度の小さい一対の有効電圧ベクトルのうちの一方(図では、V3)が選択される。その後、点P2において一対の有効電圧ベクトルのうちの他方(図では、V4)が選択される。そして、電流誤差が許容範囲から再度外れる(誤差ベクトルedqのノルムが閾値ethよりも大きくなる)点P3において、ゼロ電圧ベクトル(図では、V7)が選択される。これにより、三角波比較PWM処理と同様、ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態とされる期間を長くすることができ、スイッチング状態の切り替え数を低減することができる。
【0044】
上記点P2としては、点P3を、平均電圧ベクトルVaとのなす角度の小さい一対の有効電圧ベクトルによって囲われる領域とは「180°」反転させた領域に制御するうえで適切な点を選択すべきである。この点に鑑み、本実施形態では、図5(b)に示されるように、指令電流ベクトルIdqrのノルム|Idqr|と予測電流ベクトルIdqeのノルム|Idqe|との大小関係が反転する時点を点P2とする。
【0045】
図6に、本実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置20によって、制御周期Tcで繰り返し実行される。
【0046】
この一連の処理では、まずステップS10において、制御周期Tc毎に訪れる更新タイミングのうち次回の更新タイミングにおける操作状態を表現する電圧ベクトルV(n+1)として、現在(今回)の操作状態を表現する電圧ベクトルV(n)を仮設定する。続くステップS12においては、次回の更新タイミングにおいて電圧ベクトルV(n+1)にて表現される操作状態が採用された場合のそれから1制御周期Tc先の予測電流ベクトルIdqe(n+2)を予測する処理を行なう。
【0047】
図7に、この処理の詳細を示す。
【0048】
この一連の処理では、まずステップS12aにおいて、電気角θ(n)と、実電流id(n),iq(n)とを検出するとともに、前回の制御周期Tcで決定された電圧ベクトルV(n)を出力する。続くステップS12bにおいては、1制御周期先における電流(ide(n+1),iqe(n+1))を予測する。これは、上記ステップS12aによって出力された電圧ベクトルV(n)によって、1制御周期先の電流がどうなるかを予測する処理である。ここでは、上記の式(c3)、(c4)にて表現されたモデルを前進差分法にて制御周期Tcで離散化したものを用いて、電流ide(n+1)、iqe(n+1)を算出する。この際、電流の初期値として、上記ステップS12aにおいて検出された実電流id(n),iq(n)を用いるとともに、dq軸上の電圧ベクトルとして、電圧ベクトルV(n)を、上記ステップS12aにおいて検出されたθ(n)によってdq変換したものを用いる。
【0049】
続くステップS12cでは、次回の更新タイミングにおける電圧ベクトルV(n+1)を設定した場合について、2制御周期先の電流を予測する処理を行う。すなわち、上記ステップS12bと同様にして予測電流ide(n+2)、iqe(n+2)を算出する。ただし、ここでは、電流の初期値として、上記ステップS12bにおいて算出された予測電流ide(n+1),iqe(n+1)を用いるとともに、dq軸上の電圧ベクトルとして、電圧ベクトルV(n+1)を、上記ステップS12aにおいて検出された電気角θ(n)にωTcを加算した角度によってdq変換したものを用いる。ステップS12cの処理が完了する場合、先の図6の処理に戻る。
【0050】
図6のステップS14では、指令電流ベクトルIdqrから予測電流ベクトルIdqe(n+2)を減算した誤差ベクトルedqを算出する。続くステップS16では、平均電圧ベクトルVaを算出する。ここでは、上記の式(c1)、(c2)において微分演算子pを除去したものに、指令電流ベクトルIdqrを入力することで平均電圧ベクトルVaを算出する。すなわち、スイッチング状態の切り替えによる電流のリプルを除けばモータジェネレータ10に流れる平均的な電流が指令電流idr,iqrであることに鑑み、モータジェネレータ10に指令電流idr,iqrが定常的に流れる場合にこれに印加される電圧として平均電圧ベクトルVaを算出する。
【0051】
続くステップS18では、電流の誤差が許容範囲内にあるか否か(誤差ベクトルedqのノルム|edq|が閾値eth以下であるか否か)を判断する。ここで閾値ethは、モータジェネレータ10の状態量(電流の振幅、電気角速度ω等)によって可変設定することが望ましい。そして、許容範囲内にあると判断される場合、ステップS20において、指令電流ベクトルIdqrのノルム|Idqr|と予測電流ベクトルIdqeのノルム|Idqe|との大小関係が反転したか否かを判断する。そして、反転した場合には、状態遷移許可フラグFを「1」とする。ただし、状態遷移許可フラグFを「1」とする条件には、現在の電圧ベクトルV(n)が、平均電圧ベクトルVaとのなす角度の小さい一対の有効電圧ベクトルのうちのいずれか一方である旨の条件をさらに加える。すなわち、状態遷移許可フラグFは、現在の電圧ベクトルV(n)が、上記いずれか一方である旨の条件と上記反転した旨の条件との論理積が真である場合に「1」とされる。
【0052】
ここで、上記いずれか一方であるか否かの判断は、平均電圧ベクトルVaの存在領域を特定する処理に基づき行なうことができる。すなわち、図8に示すように、平均電圧ベクトルVaと有効電圧ベクトルV1〜V6との始点を共通とした場合に、隣接する一対の有効電圧ベクトルV1〜V6によって囲われる領域S1〜S6のいずれに平均電圧ベクトルVaが存在するかに基づき行なうことができる。ここでは、平均電圧ベクトルVaの回転2次元座標系の成分を、固定2次元座標系(αβ座標系)の成分に変換したもの(Vαa,Vβa)によって、平均電圧ベクトルVaと電圧ベクトルV1とのなす角度θvaを算出することで、領域S1〜S6のいずれに存在するかを特定する。図示されるように、これら領域S1〜S6は、いずれも「π/3」の角度領域を有するものである。
【0053】
こうして領域S1〜S6のいずれに存在するかが特定されれば、平均電圧ベクトルVaとのなす角度の小さい一対の有効電圧ベクトルは自ずと定まる。
【0054】
先の図6のステップS18において否定判断される場合や、ステップS20において肯定判断される場合には、ステップS22に移行し、次回の更新タイミングにおける電圧ベクトルV(n+1)の変更を検討する処理を行なう。これに対し、ステップS22の処理が完了する場合や、ステップS20において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0055】
図9に、上記ステップS22の処理の詳細を示す。
【0056】
この一連の処理では、まずステップS30において、状態遷移許可フラグFが「1」であるか否かを判断する。そして状態遷移許可フラグFが「1」であると判断される場合、ステップS32において、平均電圧ベクトルVaとのなす角度が小さい一対の有効電圧ベクトルのうち現在の電圧ベクトルV(n)ではないもの(図中、実線)にて表現される操作状態の優先度が最も高いとして、これを検討対象とする。
【0057】
これに対し、ステップS30において否定判断される場合、ステップS34において、現在の電圧ベクトルV(n)が有効電圧ベクトルであるか否かを判断する。この処理は、先の図5における点P1において特定の有効電圧ベクトルを優先するためのものである。すなわち、ステップS34において否定判断される場合、ステップS36において、平均電圧ベクトルVaとのなす角度が小さい一対の有効電圧ベクトルのうちの現在の電圧ベクトルV(n)からのスイッチング状態の切り替え相数が「1」以下となる方にて表現される操作状態の優先度が最も高いとして、これを検討対象とする。例えば一対の有効電圧ベクトルが有効電圧ベクトルV3、V4であって且つ現在の電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルV0である場合、有効電圧ベクトルV3への切り替え相数は「1」である一方、有効電圧ベクトルV4への切り替え相数は「2」であるため、有効電圧ベクトルV3が検討対象とされる。
【0058】
これに対し、ステップS34において肯定判断される場合、ステップS38において、平均電圧ベクトルVaとのなす角度がA(≦20°)以下となる有効電圧ベクトルViが存在することと、現在の電圧ベクトルV(n)へ切り替える直前における電圧ベクトルが有効電圧ベクトルであることとの論理和が真であるか否かを判断する。ここで、第2の条件は、先の図5の点P3においてゼロ電圧ベクトルを優先するためのものである。また、第1の条件は、平均電圧ベクトルVaとのなす角度が小さい有効電圧ベクトルViがある場合、平均電圧ベクトルVaを生成する上で有効電圧ベクトルViはほとんど寄与しないことに鑑みてゼロ電圧ベクトルを優先するためのものである。上記論理和が真である場合、ステップS40において、現在の電圧ベクトルV(n)からのスイッチング状態の切り替え相数が「1」以下となるゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態の優先度が最も高いとして、これを検討対象とする。例えば、現在の電圧ベクトルV(n)がV4である場合、ゼロ電圧ベクトルV7にて表現される操作状態が検討対象とされ、現在の電圧ベクトルV(n)がV3である場合、ゼロ電圧ベクトルV0にて表現される操作状態が検討対象とされる。
【0059】
上記ステップS32、S36,S40の処理が完了する場合、ステップS42に移行する。ステップS42においては、検討対象とされた電圧ベクトルにて表現される操作状態を仮に設定した場合についての予測電流Idqeベクトル(n+2)を算出し、これについての誤差ベクトルedqのノルム|edq|が閾値eth以下であるか否かを判断する。そして、閾値eth以下であると判断される場合、ステップS46において検討対象とされた電圧ベクトルを採用する。
【0060】
これに対し、ステップS42や上記ステップS38において否定判断される場合には、ステップS44において、現在の電圧ベクトルV(n)からのスイッチング状態の切り替え相数が「1」以下となるもの全てのうち、評価関数Jによる評価が最も高いものを採用する。例えば現在の電圧ベクトルV(n)が有効電圧ベクトルV3である場合、有効電圧ベクトルV2,V3,V4とゼロ電圧ベクトルV0とのうちの評価関数Jによる評価が最も高いものを採用する。
【0061】
なお、上記ステップS46,S44の処理が完了する場合、この一連の処理を一旦終了する。
【0062】
図10に、本実施形態の効果を示す。詳しくは、図10(a)に、本実施形態にかかるモータジェネレータ10のU相を流れる電流と電圧ベクトルの遷移とを示し、図10(b)に、比較例として、先の図3で説明した制御を行った場合を示す。図示されるように、本実施形態ではスイッチング状態の切り替え数を好適に低減することができる。
【0063】
図11に、複数の計測点における本実施形態および三角波比較PWM処理の比較結果を示す。ここで、図11(a)は、計測点を示し、図11(b)は、各計測点のスイッチング回数を示し、図11(c)は、各計測点の高調波電流の実効値を示す。ここで、図11(b)および図11(c)は、図11(a)における互いに相違する4つのトルク値における3箇所の計測点での平均値を示している。また、図11(c)における高調波電流の実効値は、モータジェネレータ10のU相を流れる実際の電流と指令値との差の2乗の平方根を電気角の1周期に渡って積分したものである。
【0064】
図示されるように、スイッチング状態の切り替え回数については、いずれの計測点においても三角波比較PWM処理よりも少なくなっている。また、高調波電流の実効値についても三角波比較PWM処理と同等以上に低減できている。
【0065】
図12に、本実施形態にかかるスイッチング状態の切り替え例を示す。図示されるように、本実施形態では、三角波比較PWM処理と同じように電圧ベクトルの遷移がなされることもあれば、三角波比較PWM処理よりも電圧ベクトルの遷移数が少なくなることもある。
【0066】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0067】
(1)平均電圧ベクトルVaの方向に基づき、インバータIVの各操作状態の実際の操作状態の決定に関する優先度を設定した。これにより、制御周期Tcのタイムスケールよりも大きいタイムスケールにおける最適な操作状態を簡易に把握することができる。
【0068】
(2)電流誤差が許容範囲内にあると判断される(誤差ベクトルedqのノルム|edq|が閾値eth以下であると判断される)ことを条件に、現在の操作状態の優先度が最も高いとした。これにより、電流の制御性を維持しつつも操作状態の切り替えを抑制することができる。
【0069】
(3)電流誤差が許容範囲から外れると判断される(誤差ベクトルedqのノルム|edq|が閾値ethよりも大きいと判断される)ときに予測対象とされた操作状態を表現する電圧ベクトルが有効電圧ベクトルである旨の条件と、現在の操作状態への切り替え前の操作状態を表現する電圧ベクトルが有効電圧ベクトルである旨の条件との論理積が真である場合、ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態の優先度を最も高いとした。これにより、ゼロ電圧ベクトルを用いて誤差を許容範囲内に長時間とどめる制御を行なうことが可能となる。
【0070】
(4)電流誤差が許容範囲から外れると判断される(誤差ベクトルedqのノルム|edq|が閾値ethよりも大きいと判断される)ときに予測対象とされた操作状態を表現する電圧ベクトルが有効電圧ベクトルである旨の条件と、有効電圧ベクトルの中に平均電圧ベクトルVaとのなす角度が規定角度A以下であるものが存在する旨の条件との論理積が真である場合、ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態の優先度を最も高いとした。これにより、ゼロ電圧ベクトルを用いて誤差を許容範囲内に長時間とどめる制御を行なうことが可能となる。
【0071】
(5)電流誤差が許容範囲から外れると判断される(誤差ベクトルedqのノルム|edq|が閾値ethよりも大きいと判断される)ときに予測対象とされた操作状態を表現する電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルである場合、平均電圧ベクトルVaとのなす角度が小さい一対の有効電圧ベクトルにて表現される操作状態のうちスイッチング状態の切り替え相数が「1」以下となるものの優先度を最も高いとした。これにより、電流誤差を許容範囲とするうえで特に適切な有効電圧ベクトルを優先することができる。
【0072】
(6)指令電流ベクトルIdqrのノルム|Idqr|と予測電流ベクトルIdqeのノルム|Idqe|との大小関係が反転した場合に、平均電圧ベクトルVaに隣接する一対の有効電圧ベクトルであって且つ現在の操作状態に対応しないものの優先度を最も高いとした。これにより、誤差ベクトルedqの終点を、平均電圧ベクトルVaの存在領域と「180°」反転した領域側へと制御することができる。
【0073】
(7)許容範囲から外れると判断されて且つ優先度が最も高いとされる操作状態に関する予測値と指令値との差が許容範囲内とならない場合、スイッチング状態が切り替えられるモータジェネレータ10の相数が1以下となる操作状態のうち、評価関数Jによる評価が最も高いものを次回の操作状態に設定した。これにより、優先度が最も高いとされる操作状態によっては誤差を許容範囲内に収めることができない場合に、スイッチング状態の切り替え数を抑制しつつ適切な操作状態を選択することができる。
【0074】
(8)状態遷移許可フラグFが「1」となることで検討対象とされた操作状態に関する予測値と指令値との差が許容範囲内とならない場合、スイッチング状態が切り替えられるモータジェネレータ10の相数が1以下となる操作状態のうち、評価関数Jによる評価が最も高いものを次回の操作状態に設定した。これにより、想定外の挙動が生じた場合に、スイッチング状態の切り替え数を抑制しつつ適切な操作状態を選択することができる。
【0075】
(9)スイッチング状態が切り替えられるモータジェネレータ10の相数が1よりも大きくなることを禁止した。これにより、スイッチング状態の切り替えに起因するサージの大きさを低減することができる。
【0076】
(10)スイッチング状態が切り替えられるモータジェネレータ10の相数が1よりも大きくなる操作状態を予測対象から除外した。これにより、演算負荷を好適に低減することができる。
【0077】
(11)指令電流idr,iqrを入力として平均電圧ベクトルVaを算出した。これにより、平均的な出力電圧ベクトルの方向を適切に算出することができる。
【0078】
(12)インバータIVの操作状態として用いられることが既に決定された操作状態を入力として電流の初期値を予測した。これにより、モデル予測制御による電流の予測を高精度に行うことができる。
【0079】
(13)電流の検出値(id(n),iq(n))を入力とし、次回の操作状態の更新タイミング(更新タイミングn+1)における電流の初期値(ide(n+1),iqe(n+1))を予測した。これにより、電流をより高精度に予測することができる。
【0080】
(14)次回の操作状態の更新タイミングn+1から1制御周期Tc経過時の電流の予測値に基づき、更新タイミングn+1における操作状態を決定した。これにより、インバータIVの操作状態を好適に決定することができる。
【0081】
(15)次回の更新タイミングにおける操作状態の設定に応じた電流予測の初期値の予測処理に用いる電流を、今回の更新タイミングにおいて検出された電流(id(n),iq(n))とした。これにより、次回の更新タイミングにおける操作状態の設定に伴う電流の予測処理と、その予測に用いる電流の初期値の予測処理とを、略同一とすることが可能となる。このため、予測処理手段の設計が容易となったり、処理手段(演算プログラム)を一部共有化したりするメリットがある。
【0082】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0083】
図13に、本実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図13において、先の図6に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0084】
この一連の処理では、状態遷移許可フラグFを「1」とする条件が相違する。すなわち、上記指令電流ベクトルIdqrのノルム|Idqr|と予測電流ベクトルIdqeのノルム|Idqe|との大小関係が反転する旨の条件に代えて、ステップS20aにおいて、始点を原点とする誤差ベクトルedqの終点が、平均電圧ベクトルVaに直交して且つ原点を通る直線(図14の2点鎖線)に到達する旨の条件を採用する。
【0085】
以上説明した本実施形態によっても、先の第1の実施形態の上記各効果に準じた効果を得ることができる。
【0086】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0087】
図15に、本実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図15において、先の図6に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0088】
この一連の処理では、平均電圧ベクトルVaを算出する処理が相違する。すなわち、ステップS16aにおいて、前回の更新タイミングまでの過去N(>2)回の更新タイミングにおいて実際に採用された操作状態を表現する電圧ベクトルV(n)、V(n−1),…V(n−N)の単純移動平均処理によって平均電圧ベクトルVaを算出する。ここで、回数Nは、電気角速度ωに応じて可変設定させる。これは制御周期Tcが一定であることに対応した設定である。すなわち、平均電圧ベクトルVaは、基本波周波数相当の電圧ベクトルであるため、これを時系列的に並ぶ複数個の電圧ベクトルの単純移動平均によって表現する場合、その移動平均処理を行なう期間(時間)は、基本波周波数に応じて可変設定することが望ましい。
【0089】
以上説明した本実施形態によっても、先の第1の実施形態の上記各効果に準じた効果を得ることができる。
【0090】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
<ゼロ電圧ベクトル優先手段について>
先の図9のステップS38における条件を、誤差ベクトルedqのノルムが閾値ethよりも大きくなったときの実際の操作状態を表現するベクトルが有効電圧ベクトルである旨の条件と有効電圧ベクトルの中に平均電圧ベクトルVaとのなす角度が規定角度A以下となるものが存在する旨の条件のみとしてもよい。
【0091】
また、ゼロベクトル優先手段としては、上記各実施形態の要領で構築されるものにも限らない。例えば、評価関数Jを、ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態の評価が高くなりやすいように構築する手段であってもよい。これは例えば、上記実施形態において例示した評価関数Jに重み係数を乗算したものを最終的な評価関数Jとして、上記条件が成立する場合に、ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態に関する評価関数Jに乗算される重み係数を最も小さくすることで行なうことができる。
【0092】
ゼロ電圧ベクトルを優先する条件としては、「誤差ベクトルedqのノルムが閾値ethよりも大きくなった」旨の条件を含むものに限らない。例えば誤差ベクトルedqの始点を通って且つ平均電圧ベクトルVaの方向に伸びる直線に誤差ベクトルedqの終点(ベクトルの座標成分)が到達することを条件とするものであってもよい。特にこの条件は、インバータIVの変調率が1を超える過変調領域において有効である。これは、先の図5に示したP2以降、誤差ベクトルedqの終点が原点付近へ向けて変位しやすくなり、誤差ベクトルedqのノルムが閾値ethよりも大きくなる際、上記平均電圧ベクトルVaの方向に伸びる直線から大きく離間するようになるためである。
【0093】
また例えば、平均電圧ベクトルVaに近い一対の有効電圧ベクトルとは方向が逆の一対の有効電圧ベクトルによって囲われる領域に誤差ベクトルedqの終点が入ったことを条件とするものであってもよい。
<状態維持優先手段について>
状態維持優先手段としては、誤差ベクトルedqのノルムが閾値eth以下であって且つ状態遷移許可フラグFがオフである場合に現在の操作状態を維持するものに限らない。例えば、所定の条件が成立する場合の評価関数Jを、現在の操作状態の評価が高くなりやすいように構築する手段であってもよい。これは例えば、上記実施形態において例示した評価関数Jに重み係数を乗算したものを最終的な評価関数Jとして、現在の操作状態に関する評価関数Jに乗算される重み係数を最も小さくすることで行なうことができる。
【0094】
もっとも、状態維持優先手段自体を備えない構成であってもよい。
<有効電圧ベクトル優先手段について>
有効電圧ベクトル優先手段としては、上記各実施形態で例示したものに限らない。例えば、誤差ベクトルedqのノルムが閾値ethよりも大きくて且つ、そのときの操作状態を表現する電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルであることを条件に、平均電圧ベクトルVaとのなす角度の小さい有効電圧ベクトルにて表現される操作状態に関する評価が高くなりやすいように評価関数Jを構築する手段であってもよい。これは例えば、上記実施形態において例示した評価関数Jに重み係数を乗算したものを最終的な評価関数Jとして、上記条件の成立時には、上記有効電圧ベクトルにて表現される操作状態に関する評価関数Jに乗算される重み係数を最も小さくすることで行なうことができる。
<禁止手段について>
スイッチング状態が切り替えられるスイッチング素子に接続される回転機の端子数が1よりも大きくなることを禁止する禁止手段としては、先の図8に例示したロジックにて構成されるものに限らない。例えば、スイッチング状態が切り替えられるスイッチング素子に接続される回転機の端子数が1以下となる操作状態の全てを都度の制御周期における制御量の予測対象として且つ、予測対象としない操作状態への切り替えを禁止するロジックであってもよい。この場合であっても、ゼロ電圧ベクトル優先手段や有効電圧ベクトル優先手段等を備えることで、先の図8の処理と同様の制御を行なうことが可能である。
【0095】
また、スイッチング状態が切り替えられるスイッチング素子に接続される回転機の端子数が1よりも大きくなることを禁止する禁止手段を備えなくてもよい。この際、例えば、スイッチング状態が切り替えられるスイッチング素子に接続される回転機の端子数が2よりも大きくなることを禁止してもよい。もっともこうした禁止を一切設けなくてもよい。
<平均電圧方向算出手段について>
1.電流に関するパラメータを入力とするもの
平均電圧方向算出手段としては、電流の微分演算項を除去した電圧方程式に、指令電流を入力するものに限らない。例えばモータジェネレータ10を流れる電流の検出値を入力としてもよい。ただし、この際、電流の検出値をフィルタ処理することが望ましい。
【0096】
また、dq軸上の電圧方程式において電流の微分演算値を含む項を削除したものから算出されるdq軸上の平均電圧ベクトルをαβ変換するものに限らない。例えばdq軸上での平均電圧ベクトルを算出する電圧方程式をαβ変換したものとしてもよい。これは、入力がαβ軸上の電流となり、出力がαβ座標系の成分を有する平均電圧ベクトルとなる。ちなみに、この際の入力電流は、指令電流idr,iqrをαβ変換したものとすることが望ましい。もっとも、実電流のαβ成分であってもよい。
【0097】
同様に、3相の電流を入力とし、出力を3次元固定座標系での平均電圧ベクトルの成分とする手段を備えて構成されるものとしてもよい。ちなみに、この際の入力電流は、指令電流idr,iqrを3相変換したものとすることが望ましい。もっとも、実電流の3相成分であってもよい。
【0098】
また、平均電圧方向算出手段としては、電圧方程式の電流微分項を削除したものに限らない。例えば、αβ軸上での指令電流Iαβr=(iαr、iβr)の微分演算項を含む以下の式(c5)であってもよい。
【0099】
【数1】

【0100】
ちなみに、上記の式(c5)は、電流ベクトルIαβと現在の電圧ベクトルViとの関係を示す下記の式(c6)において、電流ベクトルIαβを除去し、また、電圧ベクトルViをゼロ電圧ベクトルとしたものである。
【0101】
【数2】

【0102】
さらに、電流に関するパラメータを入力とする平均電圧方向算出手段としては、指令電流ベクトルIdqrから検出電流ベクトルIdqを減算した誤差ベクトルedqについてのインバータIVの操作状態がゼロ電圧ベクトルである期間における変化方向を算出するものであってもよい。
2.電圧に関するパラメータを入力とするもの
電圧に関するパラメータを入力とする平均電圧方向算出手段としては、インバータIVの実際の操作状態を表現する電圧ベクトルの単純移動平均処理によって算出するものに限らない。例えば所定回数以上前のものについては小さい重み係数をつけた指数移動平均によって算出するものであってもよい。もっとも、平均電圧ベクトルの方向を特定する上では、平均化処理自体は必須ではない。
3.平均電圧ベクトルVaの定義について
平均電圧ベクトルVaとしては、インバータIVの出力電圧のうち電気角周波数を有する基本波成分に限らない。例えば、基本波成分であるか否かに限らず、一般に、電流等の制御量の指令値を実現する上で要求されるインバータIVの出力電圧についての1電気角周期よりも短く且つ制御周期Tcよりも長いタイムスケールにおける平均値としてもよい。具体的には例えば、過変調領域において、基本波を前提とする電流の指令値(上記指令電流idr,iqr)に第6次高調波電流を重畳したものを実現するための電圧の平均値としてもよい。なお、過変調領域において第6次高調波を指令値に重畳することについては、例えば「インバータの過変調領域を考慮したモデル予測制御に基づくPMSMの高応答トルク制御系:穂積、石田、道木、大熊、平成21年電気学会産業応用部門大会」に記載がある。
<制御量について>
・指令値と予測値とに基づきインバータIVの操作を決定するために用いる制御量としては、電流に限らない。例えば、トルクおよび磁束であってもよい。この場合、磁束指令値は、例えば最大トルク制御を実現可能なように設定すればよい。こうした処理を行なう場合であっても、トルクや磁束が許容範囲から外れる場合に操作状態の変更を平均電圧ベクトルVaに基づき検討することは有効である。
【0103】
また、例えば電流とトルクとしてもよい。ここで、d軸の電流およびq軸の電流との双方が定まればトルクは一義的に定まるものであるが、これら双方を予測対象とすることも可能である。これにより、例えば状態遷移許可フラグFの値を設定する処理に限って電流の予測値を用いて且つ、それ以外の処理については、誤差ベクトルedqのノルムと閾値ethとの大小比較に代えて、トルクの予測値と指令値との差とトルク偏差用の閾値との大小比較を行うことなどができる。
【0104】
・上記各実施形態では、回転機の究極の制御量(予測対象であるか否かにかかわらず、最終的に所望の量とされることが要求される制御量)を、トルクとしたが、これに限らず、例えば回転速度等としてもよい。
<予測手段について>
・上記各実施形態では、電流の検出タイミングをインバータIVの操作状態の更新タイミングに同期させたがこれに限らない。例えば、時系列的に隣接する各一対の更新タイミング間の中央のタイミングにおいて電流を検出するようにしてもよい。この場合であっても、次回の更新タイミングにおける操作状態の設定に伴う電流の予測の初期値として、次回の更新タイミングにおける電流を上記検出された電流に基づき予測することは有効である。
【0105】
・上記各実施形態では、電気角θの検出タイミングをインバータIVの操作状態の更新タイミングに同期させたがこれに限らない。例えば、時系列的に隣接する各一対の更新タイミング間の中央のタイミングにおいて電気角θを検出するようにしてもよい。
【0106】
・上記各実施形態では、インバータIVの操作状態の更新タイミングから1制御周期先の制御量を予測したがこれに限らない。例えば、操作状態の更新タイミングから1制御周期経過するまでの期間内の中間の時点における制御量を予測してもよい。
【0107】
・連続系でのモデルを離散化する手法としては、前進差分法等の差分法を用いるものに限らない。例えば、N(≧2)段階の線形多段階法や、ルンゲ・クッタ型公式等を用いるものであってもよい。
【0108】
・電流を予測するために用いるモデルとしては、鉄損を無視したモデルに限らず、これを考慮したモデルであってもよい。
【0109】
・電流等を予測するために用いるモデルとしては、基本波を前提としたモデルに限らない。例えば、インダクタンスや誘起電圧について高次成分を含むモデルを用いてもよい。また、電流等の予測手段としては、モデル式を用いるものに限らず、マップを用いるものであってもよい。この際、マップの入力パラメータとしては、電圧(vd、vq)および電気角速度ωであってもよく、また温度等を更に含めてもよい。なお、ここでマップとは、入力パラメータについての離散的な値に対応した出力パラメータの値が記憶された記憶手段のこととする。
【0110】
・上記各実施形態では、インバータIVの操作状態についての次の更新タイミング(1制御周期先のタイミング)におけるインバータIVの操作による制御量を予測したがこれに限らない。例えば数制御周期先の更新タイミングにおけるインバータIVの操作による制御量まで順次予測することで、1制御周期先の更新タイミングにおける操作状態を決定してもよい。この処理は、先の図9のステップS44において用いることができる。ちなみに、この場合、評価関数Jは、例えば、各更新タイミングでの操作状態を用いた誤差ベクトルedqを入力とする評価関数Jの和とすればよい。この際、誤差ベクトルedqのノルムが同一である場合の評価関数Jの評価を全ての更新タイミングについて同等としてもよいが、例えば遠い未来ほど最終的な評価への寄与率を小さくしてもよい。
<その他>
・状態遷移許可フラグFをオンとする所定の条件としては、上記各実施形態で例示したものに限らない。例えば誤差ベクトルedqがゼロとなる点を始点とした有効電圧ベクトルのうち平均電圧ベクトルVaとのなす角度の小さい一対の有効電圧ベクトルによって囲われる領域の中から外に誤差ベクトルedqの終点が変位することを条件としてもよい。また例えば、上記一対の有効電圧ベクトルによって囲われる領域の中から外に誤差ベクトルedqの終点が変位した後、さらにその領域から外に誤差ベクトルedqが変位することを条件としてもよい。
【0111】
・状態遷移許可フラグFを用いた処理を行わなくても、上記第1の実施形態の上記(4)の効果に準じた効果を得ることはできる。
【0112】
・回転機としては、埋め込み磁石同期機に限らず、表面磁石同期機や、界磁巻線型同期機等、任意の同期機であってよい。更に、同期機にも限らず、誘導モータ等、誘導回転機であってもよい。
【0113】
・回転機としては、ハイブリッド車に搭載されるものに限らず、電気自動車に搭載されるものであってもよい。また、回転機としては車両の主機として用いられるものに限らない。
【0114】
・直流電源としては、高電圧バッテリ12に限らず、例えば高電圧バッテリ12の電圧を昇圧するコンバータの出力端子であってもよい。
【符号の説明】
【0115】
10…モータジェネレータ、20…制御装置、IV…インバータ、Swp,Swn…スイッチング素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機の端子に直流電源の正極および負極のそれぞれを電気的に接続するスイッチング素子を備える電力変換回路の出力電圧を操作することで前記回転機の制御量を制御すべく、前記電力変換回路の操作状態を設定した場合の前記回転機の制御量を予測する予測手段と、前記予測された制御量に基づき、前記電力変換回路の実際の操作状態を決定し、該決定された操作状態となるように前記電力変換回路を操作する操作手段とを備える回転機の制御装置において、
前記電力変換回路の平均的な出力電圧ベクトルの方向を算出する平均電圧方向算出手段を備え、
前記操作手段は、前記操作状態を表現する有効電圧ベクトルの中に前記平均電圧方向算出手段によって算出される方向とのなす角度が20度以下の規定角度以下となるものがあることを条件に、ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態を前記実際の操作状態の決定に関する優先度を最も高いとするゼロ電圧ベクトル優先手段を備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
前記電力変換回路の操作状態として現在の操作状態を設定した場合の前記制御量の予測値と前記制御量の指令値との差が許容範囲から外れるか否かを判断する許容範囲判断手段を更に備え、
前記操作手段は、前記許容範囲判断手段によって許容範囲内にあると判断される場合、前記電力変換回路の現在の操作状態の優先度が高いとする状態維持優先手段を更に備え、
前記ゼロ電圧ベクトル優先手段は、前記許容範囲から外れると判断されることと前記規定角度以下となるものがあることとの論理積が真となる場合、前記ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態の優先度を最も高いとすることを特徴とする請求項1記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
前記ゼロ電圧ベクトル優先手段は、前記ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態の優先度を最も高いとする場合、前記ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態を前記予測手段の予測対象に設定して且つ、その予測値と指令値との差が前記許容範囲内にある場合、前記ゼロ電圧ベクトルにて表現される操作状態を実際の操作状態に決定することを特徴とする請求項2記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
前記操作手段は、前記許容範囲から外れると判断されるときに予測対象とされた操作状態を表現する電圧ベクトルがゼロ電圧ベクトルである場合、前記平均的な出力電圧ベクトルとのなす角度が小さい一対の有効電圧ベクトルにて表現される操作状態の少なくとも一方の優先度を最も高いとする有効電圧ベクトル優先手段を更に備えることを特徴とする請求項2または3記載の回転機の制御装置。
【請求項5】
前記電力変換回路の実際の操作状態を決定するに際し、スイッチング状態が切り替えられる前記スイッチング素子に接続される前記回転機の端子数が1よりも大きくなることを禁止する禁止手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項6】
前記予測手段は、前記禁止手段によって禁止される操作状態を前記予測手段による予測対象から除外するものであることを特徴とする請求項5記載の回転機の制御装置。
【請求項7】
前記予測手段は、前記優先度の低い操作状態を前記予測手段による予測対象から除外するものであり、
前記操作手段は、前記予測対象とされたものの中から実際の操作状態を決定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項8】
前記予測手段は、
前記電力変換回路の操作状態を設定する場合の前記制御量を予測する第1予測手段と、
前記操作手段によって用いられることが既に決定された操作状態を入力として前記第1予測手段による予測に用いる初期値を予測する第2予測手段と
を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図3】
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【図5】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−200000(P2011−200000A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63040(P2010−63040)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】