説明

回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置および製造方法

【課題】回転炉床式還元炉での還元鉄ペレット製造過程で発生し、未利用のまま捨てられていたペレット顕熱を、原料ペレットの乾燥工程で有効に活用する。
【解決手段】原料ペレットを熱風で乾燥させる乾燥手段と、乾燥後のペレットを回転炉床式還元炉で還元する還元手段と、還元鉄のホットペレットの顕熱をロータリークーラー冷却水の顕熱として回収する冷却手段と、冷却水の顕熱を回収し乾燥工程の熱風を製造する熱風製造手段と、温度上昇した冷却水を熱風製造手段へと搬送し温度低下した冷却水を複数のスプレーノズルへと循環する冷却水循環経路と、製造された熱風を乾燥手段へと搬送する熱風搬送経路とを有し、冷却手段は、複数のスプレーノズルと冷却水回収槽とを備え、熱風製造手段は、冷却水の顕熱を回収するケミカルヒートポンプと、回収顕熱を用いて熱交換により空気を熱風とする熱交換器とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料ペレットを、熱風を使用した乾燥工程、回転炉床式還元炉を使用した還元工程、ロータリークーラーを使用した冷却工程に通して、冷却された還元鉄ペレットを製造するための製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
還元鉄を製造するプロセスとして、石炭などの炭素還元剤で還元を行う、回転炉床法が実施されている。この技術では、酸化鉄を含む粉体と炭素粉を混合後、所定の水分を添加し、ペレットに成形する。成形された原料ペレットは、回転炉床式還元炉(回転炉床炉とも称する)内での水分の急激な蒸発により爆裂することを抑制するために、事前に保有する水分をほとんどゼロ近くまで乾燥後、回転炉床式還元炉内に投入されて1100℃以上の温度で加熱される。これにより、原料ペレット内の酸化鉄と炭素を反応させて、酸化鉄を還元し、還元鉄ペレットが製造されている。
【0003】
回転炉床炉にて還元された直後の高温の還元鉄ペレット(還元鉄のホットペレットと称する)は、還元後の使用先に応じた処理が必要である。例えば、高炉での使用の場合は、常温まで冷却した後に使用するのが一般的であり、電気炉で使用する場合は、熱の有効利用の観点から、還元鉄のホットペレットは高温のまま使用されることが多い。
【0004】
高炉にて使用する場合は、還元鉄ペレットには、高い強度が要求されることから、冷却時の急冷により強度が低下することを配慮した冷却が必要とされる。合わせて、冷却時においては還元鉄ペレットの再酸化を抑制することが必要である。
【0005】
また、電気炉やその他の溶融炉においても、回転炉床炉からの距離が遠い場合には、ベルトコンベアや車両での搬送が必要となるため、ハンドリングのし易さから常温まで冷却されて搬送される。この場合も、高炉での使用の際と同様に、冷却時においては還元鉄ペレットの再酸化を抑制することが必要である。
そのため、高炉向けや常温搬送必要時の還元鉄製造の際には、還元直後で1000℃以上と高温の還元鉄のホットペレットを不活性ガス雰囲気下においてロータリークーラーで再酸化しない温度(300℃)以下まで冷却して再酸化を防止する方法が取られている。
【0006】
例えば、特許文献1では、回転炉床式の還元炉から排出された還元鉄のホットペレットを、空気中での酸化(再酸化)を抑制するため、内部が無酸化雰囲気ガスに保持されたロータリークーラー中を通過させて、水をロータリークーラーの外周にスプレーすることにより、水への温度上昇によるロータリークーラーからの抜熱により、ペレットは、ロータリークーラーを介して間接的に冷却される。ロータリークーラーの外周からの熱により加熱された温水は、入水槽に集められた後、クーラーにより35℃以下に冷却された後、再びドラムにスプレーされることにより循環利用される。
【0007】
しかしながら、ロータリークーラーによる冷却において、温水となった冷却水に蓄えられた熱エネルギーは、温度が40〜60℃程度と低く、利用が難しいことから、従来は未利用のまま排熱として大気中へ放出されたままであった。
【0008】
また、原料ペレットの乾燥工程においては、水分を約10質量%も保有する原料ペレットを、水分を0質量%近くにまで乾燥するため、重油やコークス炉ガス等の化石燃料を燃焼して150〜200℃程度の熱風を製造し、これをバンド乾燥機などに送入して乾燥を行っていた(特許文献2等、参照)。そのため、回転炉床炉本体以外でも燃料を多量に消費して、ランニングコストを上昇させる要因となっていた。また、化石燃料の燃焼により回転炉床炉本体以外の付帯設備においてもCOを発生させているという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−255077号公報
【特許文献2】特開2001−263947号公報
【特許文献3】特開平9−79686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者等は、このようにロータリークーラーによる冷却において、未利用のまま大気放散されていた、元々還元鉄のホットペレットが保有していた顕熱量と、多量に燃料消費していた原料ペレットの乾燥工程に必要な熱量とを検討して比較したところ、前者の還元鉄のホットペレット保有の顕熱量は、後者の原料ペレットの乾燥工程に必要な熱量の約2倍にもなることが判った。
【0011】
例えば、還元ペレットを30トン/hr生産する製造ラインにおいては、還元ペレット保有の顕熱を1100℃から80℃まで冷却する際にペレットから奪われる熱量は、下記の表1に示す通り、7.7Gcal/hrとなる。
【0012】
一方、原料をペレットに成形する際に水分を添加して造粒することが必要であり、造粒後の原料ペレットには約10重量%の水分が含まれる。この水分が未乾燥のまま、還元炉内に投入されると加熱により急激に水分が蒸発することとなり、原料ペレットが爆裂するため製品としての歩留が著しく低下する。従って、還元処理前に含有する水分量をほぼゼロまで乾燥させる必要がある。
【0013】
還元鉄ペレットを30トン/hr生産する製造ラインにおいては、この乾燥に必要な熱量は、下記の表に示す通り、3.6Gcal/hrとなる。
【0014】
このように、これまで未利用の排熱であった還元鉄ペレットの冷却に伴い発生する熱量は、原料ペレット乾燥工程で必要な熱量に対し、ほぼ2倍の熱量であることが判る。
【0015】
【表1】

【0016】
本発明は、このように、ロータリークーラーによるペレット冷却工程で未利用のまま大気放散により捨てられている元々還元鉄のホットペレットが保有していた顕熱を、多量に燃料消費していたペレットの乾燥工程に有効に活用するための装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者等は、この冷却工程における未利用エネルギーを乾燥工程に活用することで、乾燥工程にて使用する燃料の削減が可能となり、ランニングコストを低減し、且つ、化石燃料の使用により発生するCOを削減することが可能であると考えた。そのためには、両工程ができるだけ近接した方が熱の有効利用には好ましいと言える。
【0018】
ところで、回転炉床炉を使用した還元鉄ペレットの製造プロセスにおいて、回転炉床炉本体は、その形状がドーナツ状であることから、乾燥後の原料ペレットの投入口と、炉内を回転炉床と共に回転しながら加熱され還元されて生じた還元ペレットの排出口とは、近接することとなる。そのため、工場におけるレイアウトとしては、乾燥工程は還元炉の入口部近傍に位置し、冷却工程は還元炉の出口部近傍に位置するようになる。
【0019】
本発明者等は、この両工程が隣接することになるレイアウトを有効活用し、更に、冷却工程で捨てられている未利用顕熱を、ケミカルヒートポンプを用いて有効活用することを見出して、発明を為すに至った。
【0020】
冷却工程において、ロータリークーラーから排出される冷却水(スプレー水の回収水)の温度は、従来は40〜60℃と低温であり、このままでは乾燥工程での150〜200℃程度の熱風へと熱交換することはできない。そのため、本発明では、ケミカルヒートポンプを活用して、この低温の冷却水排熱を回収し、高温にした後に、乾燥用の空気と熱交換して、150〜200℃程度の熱風を製造することを図る。
【0021】
但し、ケミカルヒートポンプで回収できる低温側の熱源の温度は、最低でも80℃程度は必要であり、本発明においては、まず、還元ペレット冷却後の冷却水の温度が、従来の40〜60℃から80〜90℃へと上昇させて安定化する制御を行うことを特徴の一つとする。
【0022】
ケミカルヒートポンプは、化学反応を利用して温度上昇した冷却水から熱を回収できるものであれば、特にその反応系は限定されるものではない。好ましくは、プロパノール−アセトン/水素系を用いることができる。すなわち、外部から供給された低温熱エネルギーにより、第1の有機物(プロパノール)を脱水素吸熱反応させ、第2の有機物(アセトン)及び水素を生成し、前記第2の有機物(アセトン)および前記水素を水素化発熱反応させ、前記第1の有機化合物(プロパノール)を生成し、前記水素化発熱反応によって発生した反応熱を高温熱エネルギーとして出力するケミカルヒートポンプである(例えば、特許文献3、参照)。このケミカルヒートポンプを用いることで、80〜90℃の低温熱エネルギーを150〜200℃の高温熱エネルギーへ変換することができる。
【0023】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0024】
(1)原料ペレットを熱風で乾燥させる乾燥手段と、乾燥後のペレットを回転炉床式還元炉で還元する還元手段と、還元手段で生じた還元鉄のホットペレットを冷却水が散水されたロータリークーラー内で移動させながら冷却する冷却手段と、
前記ホットペレットの有する顕熱により温度上昇した冷却水を回収する冷却水回収手段と、
前記温度上昇した冷却水の顕熱を回収し前記乾燥工程に使用する熱風を製造する熱風製造手段と、
前記冷却手段で生じた温度上昇した冷却水を前記熱風製造手段へと搬送し、前記熱風製造手段で顕熱回収されて温度低下した冷却水を前記複数のスプレーノズルへと循環する冷却水循環経路と、
前記熱風製造手段で製造された熱風を前記乾燥手段へと搬送する熱風搬送経路と、
を有する回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置であって、
前記冷却手段は、前記ロータリークーラーの外周に前記ロータリークーラーの長手方向に亘って冷却水を散水する複数のスプレーノズルを備え、
前記冷却水回収手段は、前記散水された冷却水と前記ロータリークーラー内を移動する前記還元鉄のホットペレットとが前記ロータリークーラーを介して熱交換されて生じる温度上昇した冷却水を集めて回収する前記ロータリークーラーの下部に配置された冷却水回収槽を備え、
前記熱風製造手段は、前記冷却水送水ポンプで送られてきた温度上昇した冷却水の顕熱を回収するケミカルヒートポンプと、当該回収した顕熱を用いて熱交換により空気を熱風とする熱交換器とを備える、
ことを特徴とする回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【0025】
(2)前記乾燥手段は、前記熱風製造手段にて製造する熱風の熱量が、前記原料ペレットの乾燥に不足する際に、その熱量を補う補助用の熱風発生器を備えることを特徴とする(1)に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【0026】
(3)前記ケミカルヒートポンプは、前記温度上昇した冷却水の顕熱によりプロパノールを脱水素吸熱反応させてアセトンと水素を生成させる脱水素反応器と、前記生成したアセトンと水素および未反応で残ったプロパノールの混合ガスを蒸留してアセトンと水素をプロパノールから分離してプロパノールを脱水素反応器へ戻す蒸留器と、分離されたアセトンと水素を水素化発熱反応させてプロパノールを生成すると共に熱を発生させる水素化反応器とを備えることを特徴とする(1)又は(2)に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【0027】
(4)前記冷却水回収槽には温度センサーが設置され、前記温度センサーで検知した温度が、80〜90℃になるように、前記複数のスプレーノズルから散水する冷却水の流量を制御する冷却水温度制御装置を更に備えることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【0028】
(5)前記複数のスプレーノズルと前記冷却水回収槽は、それぞれ、前記ロータリークーラーの長手方向に上流段と下流段の2段に分割され、前記上流段と前記下流段はそれぞれ別々に前記冷却水温度制御装置により温度制御されることを特徴とする(4)に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【0029】
(6)前記上流段と下流段の前記ロータリークーラーの長手方向における分割位置は、ロータリークーラー内のペレット温度が400〜600℃の範囲となる位置とすることを特徴とする(5)に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【0030】
(7)前記ロータリークーラーは、冷却水の蒸発による大気への飛散を防止するためのカバーで覆われていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ロータリークーラーによるペレット冷却工程で未利用のまま大気放散により捨てられていた元々還元ペレットが保有していた顕熱を、多量に燃料消費していたペレットの乾燥工程に有効に活用することができる。
【0032】
また、上記有効利用により、乾燥に使う燃料(例えば、製鉄所ではコークス炉ガスや重油など)を削減することが可能となる。 更にまた、化石燃料を使用しないことにより、COの削減が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1に係る還元用回転炉床法の原料ペレットの乾燥設備と回転炉とその冷却設備の実施形態を示す全体の概略図。
【図2】本発明の試験用冷却装置におけるペレットの冷却を示す図。
【図3】本発明の冷却装置におけるペレットの冷却を示す図。
【図4】本発明の実施例2に係る還元用回転炉床法の実施形態を示す全体の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、高炉向けや常温搬送必要時の還元鉄製造の際に、製造された原料ペレットを熱風で乾燥した後に、回転炉床式還元炉にて、炭素源等の還元剤により、酸化鉄を固体状態で還元して還元鉄のホットペレットを生成し、その後、ホットペレットを、再酸化が発生しない温度(300℃以下)まで、又は更に、高炉へ搬送(トラックなどでの輸送を含む)が可能な温度(例えば100℃以下)まで、冷却水が外壁面に散水されたロータリークーラー内で移動させながら冷却して、高強度の還元鉄ペレットを製造する装置と方法に関するものである。
【0035】
図1の設備は、本発明に係る回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造設備構成の例である。本設備構成例では、原料ペレット乾燥装置1(原料ペレットを熱風で乾燥させる乾燥手段)、回転炉床式還元炉2(乾燥後のペレットの還元手段)、還元鉄ペレット冷却装置(ロータリークーラー)3およびその下部に配置された冷却水回収槽12(還元手段で生じた還元鉄のホットペレットを冷却水が散水されたロータリークーラー内で移動させながら冷却し、ホットペレットの有する顕熱を温度上昇した冷却水の顕熱として回収する冷却手段)、ケミカルヒートポンプ4及び熱風製造用の熱交換器5(温度上昇した冷却水の顕熱を回収し前記乾燥工程に使用する熱風を製造する熱風製造手段)、冷却手段で生じた温度上昇した冷却水を熱風製造手段へと搬送し、熱風製造手段で顕熱回収されて温度低下した冷却水を前記複数のスプレーノズルへと循環する冷却水循環経路13、熱風製造手段で製造された熱風を前記乾燥手段へと搬送する熱風搬送経路14、から構成されている。
【0036】
ペレットに形成された製鉄所発生ダストや粉鉄鉱石等の原料は、原料ペレット乾燥装置1に送られ乾燥させた後、回転炉床式還元炉2に供給され、炉内にて1200〜1400℃程度まで加熱され還元反応を起こし、還元鉄ペレットとして製造される。
【0037】
還元直後の還元鉄ペレットは、1000℃前後の高温であり、還元鉄のホットペレットと言う。還元鉄のホットペレットは、再酸化を防止するため、内部の雰囲気の酸素濃度を調整(Nなどの不活性ガスを導入して不活性ガス雰囲気とすることで酸素濃度を3%程度まで低下)したロータリークーラーからなる還元鉄のホットペレットの冷却装置3にて、冷却される。ロータリークーラーは、横置きされた円筒形状であり、その外壁へ散水される冷却水により、ロータリークーラー自体が冷却され、ロータリークーラーの壁を通した伝導伝熱にてホットペレットは冷却水により、間接的に冷却される。300℃まで冷却されると、還元鉄のホットペレットは再酸化されにくくなることから、本温度以下までは、酸素濃度を制御した冷却装置の内部にて冷却される必要がある。
【0038】
ロータリークーラー3では、再酸化されない温度(300℃)、並びに次工程である高炉へ搬送(トラックなどでの輸送を含む)が可能な温度(100℃以下)まで冷却することが可能である。300℃以下の温度域では、ドラム外周を水で冷却する際の冷却速度が低くなることから、冷却装置の寸法が大きくなる。従って、再酸化しない温度(300℃前後)までをロータリークーラーで冷却し、それ以下の温度域(300℃前後から100℃以下まで)では、再酸化が起こらないことがわかっているので、水を直接散水する冷却することが、ロータリークーラーの長さを抑えることができて設備コストを考えた場合には効果的である。
【0039】
本発明においても、設備コストの低減を優先する場合は、300℃前後まではロータリークーラーで冷却して熱回収し、300℃以下においては、直接散水により冷却のみ行うことが望ましいが、熱回収量を増加させてランニングコストを下げることを優先する場合には、ロータリークーラーにて搬送可能な温度(100℃以下)まで冷却し、熱回収することが好ましい。
【0040】
還元鉄のホットペレットの冷却において、ペレットが比較的高温の場合(ロータリークーラー上流側)は、回転ドラムの表面温度が高くなり、主としてスプレーした水が蒸発することで、気化熱によりロータリークーラーが冷却され、この冷却されたロータリークーラー内面にペレットが接触して抜熱されることにより、ペレットは冷却される。冷却に伴ってペレットが低温になるに従いロータリークーラー下流側では、回転ドラムの表面温度は低下し、スプレー水による対流熱伝達により熱は水に持ち去られることになる。
【0041】
図2にロータリークーラー試験装置にて、実施したペレットの冷却試験結果を示す。試験装置は、実機と同様に円筒のロータリークーラーで、直径1000mm、長さ1450mmの寸法からなり、加熱したペレットを装置内へ投入し、外周よりスプレーで冷却、この時のペレットの温度を熱電対にて測定する。その際に冷却される熱量から、所定の温度における熱流束(単位:W/m2・K)を求めた結果が、図2に示されている。 従って、本試験結果の各温度とは、実機の長手方向の各位置における温度を示している。
【0042】
本結果から、ペレットが高温側(500℃以上)では、約70W/m2・K以上の熱流束を示し、低温側(500℃未満)では、約60W/m2・Kの一定となっており、400〜600℃を境に抜熱が変化するポイントがあることが判る。
【0043】
従来の設備では、ロータリークーラー外周部に水をスプレーすることで冷却した際に、結果的に高温側(500℃以上)では、水が蒸発しやすく、低温側(500℃未満)では、水流の対流熱伝達にてペレットを冷却する考えで運転していた。
【0044】
これに対して、本発明では、高温部にて蒸発させた場合に、回収する熱量が蒸発潜熱として大気へ放出してしまうため、スプレーする水量を増加させ、ドラム表面に一定の水流が確保される様にスプレー水量を調整し、伝熱を促進することにして、高温(80〜90℃)の温水で、排熱を回収することが効率的に可能な方式とした。そのために、好ましくは、冷却水回収槽には温度計15を設置し、排熱を回収するための目的温度(80〜90℃)となるように、ロータリークーラーに設置された複数のスプレーノズルから散水する冷却水の流量を制御する冷却水温度制御装置を設置するとよい。
【0045】
また、前記の通り、ペレットが400〜600℃付近を境に高温側(例えば、500℃以上)と低温側(例えば、500℃未満)では、抜熱の様子が変化するポイントがあることへの対応として、冷却水の散水及び回収槽の系統をロータリークーラーの長手方向に上流側と下流側に2分割し、それぞれの冷却水温度が目的温度の80〜90℃となるように制御する制御装置を有することが望ましい。これにより、上流の高温側においても、水の蒸発を抑制することができ、蒸発潜熱による熱エネルギーロスを抑えることができる。
【0046】
図4は、ロータリークーラー3の冷却系等を2分割した場合の設備の概略構成図を示す。 クーラーへの冷却水の散水系統は、ペレットの温度が400〜600℃となる場所を境目として、上流側(500℃以上)と下流側(500℃未満)に分け、それぞれ冷却水流量の調整バルブ17,18を有する。冷却水回収槽12には、上流側と下流側を仕切る仕切板19を設置し、それぞれの槽内には、温度計15、16を設置し、事前に試験にて、上流側及び下流側の回収した冷却水が、目的温度の80〜90℃となる流量を求め、初期の設定値とする必要がある。
【0047】
ここで、回収槽内の仕切板19は、基本的には、槽内を区別するために設置するが、双方の水が通過出来る開口部を設け、ケミカルヒートポンプ4に送る冷却水循環経路13の系統が、単一系統とすることで、ケミカルヒートポンプ4での熱交換制御がシンプルな設備構成をとっている。また、還元鉄のホットペレットの処理量の増減により、ロータリークーラー3内のペレットの500℃の位置は前後することから、仕切板19の位置は、この500℃となる位置に合わせて、前後に調整できる構造としておくことが好ましい。
【0048】
散水ノズルの設置の考え方は、基本として上流側と下流側とで、ノズル1本当りの水量は同じとし、その設置本数を下流側に対し、上流側の本数を多くすることで単位面積当たりの水量を増加して、冷却能力を上流側でアップすることとしている。制御系等を1系統として制御する場合(図1)では、処理量の変動時に目的温度に対して制御がきめ細やかに対応できないため十分に冷却できない場合や目的温度から外れることが発生するため、回収槽12の上流側及び下流側にそれぞれ温度計15、16を設け、各冷却水量の調整バルブ17、18を目的温度となる様に、個別に制御することが効率よく熱を回収上で必要である。
【0049】
尚、ロータリークーラーや冷却水回収槽において冷却水の散水部や貯留部に大気開放された部分があると、雨水の混入や外気(特に冬場)による温度低下や、粉塵等の混入による冷却水循環系統における操業トラブル等が考えられることから、ロータリークーラーと冷却水回収槽の外周を覆うカバーを設置することが望ましい。
【0050】
更に、ロータリークーラーでの熱回収の効率を高めるために、クーラーの外周に突起(フィン)構造、並びに溝構造を設けることで熱交換のための面積を広くすることが望ましいと考えられる。但し、実際の製造装置においては、複雑な構造となるために設備費用がアップすること、熱負荷がかかる突起や溝のメンテにかかる費用負担なども加味した上で、装置の構造を決める必要がある。
【0051】
また、図3にロータリークーラー3でのペレットの冷却温度の一例を示す。時間の経過とともに、1100℃のペレットが徐々に冷却され300℃以下に冷却されることが分かる。この結果からも、ドラム表面から外部への熱の移動の熱流束を計算すると、ほぼ500℃を境に、ペレットが高温側(500℃以上)では、70W/m2・K 、低温側(500℃未満)では、60W/m2・Kとなることが確認できた。
【0052】
ケミカルヒートポンプ4は、脱水素反応器9、蒸留塔10、および水素化反応器11の3つの主要な部分から構成されている。
【0053】
まず、脱水素反応器9において触媒下で、ロータリークーラー3で発生する80℃の低温熱エネルギーが供給されることによって、第1の有機物(プロパノール)が加熱され、ガス状の第2の有機物(アセトン)と水素とに分解される。生成されたガス状のアセトンと水素には未反応のガス状プロパノールも含まれており、これらの混合ガスは蒸留塔10へ導入される。
【0054】
次に、蒸留塔10において、脱水素反応器9より導入された混合ガスおよび後述する水素化反応器11から発生する混合ガスは、分離され、プロパノールは再び脱水素反応器9へ戻され、アセトンおよび水素ガスは次工程の水素化反応器11へ導入される。
【0055】
水素化反応器11では、触媒下で、アセトンガスと水素ガスとからプロパノールが生成される。この水素化反応は、発熱反応であり、この反応によって150〜200℃の反応熱が発生し、高温熱エネルギーとして回収される。ここでも生成されたガス状のプロパノールは、未反応のアセトンガスおよび水素ガスを含んでおり、これらは蒸留塔10で分離され、各々脱水素反応器9、および水素化反応器11へ送られる。
【0056】
発生した150〜200℃の高温熱エネルギーは、例えば蒸気に変換する形で回収され、熱交換器5にて熱風発生させる。この熱風は、ペレット乾燥装置1へ送られて乾燥に使用される。ここでは、熱エネルギーを有効に利用する目的から乾燥装置においては、低温から高温へ複数のゾーンからなる装置の高温度にまず導入し、低温側へカスケードさせて循環使用する。
【0057】
乾燥装置1の最終ゾーンには、還元ペレットの冷却にて発生する熱エネルギーが、乾燥に必要な熱エネルギーに満たない場合や、例えば還元ペレットの生産量の変動によりロータリークーラー3からの発熱量が低下した場合への対応として、補助用の熱風発生装置20を設ける必要がある。これに対応するためには、ロータリークーラー3の回収温水の温度と流量を計測し、予め設定した熱量を満足する温度と流量の条件を低熱両側へ外れた場合に自動連動にて作動するシステムが具備されるべきである。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
図1に示す原料ペレットの乾燥設備1、回転炉床式還元炉2、および還元ペレットの冷却設備3に、プロパノール−アセトン/水素系のケミカルヒートポンプ4を組み合わせた設備を用いて、本発明を適用した結果を実施例1として示す。
【0059】
回転炉床式還元炉2は、高炉向け還元鉄ペレットを製造するもので、毎時30トンを還元処理する装置である。1200℃にて還元され、得られた還元鉄のホットペレットを、Nを吹きこむことで不活性雰囲気としたロータリ−クーラー方式の還元鉄ペレット冷却装置3にて、平均温度(金属性容器に複数回サンプリングした還元鉄ペレットを温度測定し平均を算出)として、300℃まで冷却した。尚、ペレットの温度は、ロータリークーラー3の排出部にて、採取したペレットを温度測定(放射温度計)して、当該温度以下であることを確認した。
【0060】
このとき、ロータリークーラー3にて冷却後の水温は、フィードバック制御により、冷却水回収槽12内の冷却水温度を85℃になるように冷却水流量を増減させて調整し、80〜90℃の範囲で一定に保つことができた。また、この際に、ロータリークーラーの上流側(高温側)の冷却水の散水量を、下流側(低温側)の散水量に比べて、増加することによって、上流側での冷却水の蒸発を抑えて、蒸発潜熱ロスを抑えた操業を行った。
【0061】
本実施例におけるケミカルヒートポンプ4を含めた熱回収のトータルの効率は約40%であったが、冷却設備3で発生する熱量7.7Gcal/hを40%の効率で回収した結果は、3.1Gcal/hとなり、本来必要な乾燥装置1における熱エネルギー3.6Gcal/hに対して、3.1/3.6×100=約86%であったため、乾燥に足りない分の熱量を補助用熱風発生器20にて補充した。
還元ペレットの冷却装置で発生する熱エネルギーに対し、ケミカルヒートポンプを含むトータルの回収効率(40%)を加味した発生熱エネルギーは、7.7Gcal/hr×0.4=3.1Gcal/hrであり、年間当り
3.1Gcal/hr×24hr/日×320日/年=23,800Gcal/hr /年
のエネルギーの削減効果が得られることが判った。
【0062】
なお、カバーを取り除いた以外は上記と同条件でも試験した結果、回収熱量は○Gcal/hに減少した。
(実施例2)
図4に示す装置を用いて、本発明を適用した結果を実施例2として示す。
【0063】
還元ペレットの冷却において、400〜600℃付近を境に高温側(500℃以上)と低温側(500℃未満)では、前記の通り、抜熱の様子が変化することがあることへの対応として、冷却水の散水する系統をロータリークーラーの長手方向に上流側と下流側に2分割し2段に分けた実施例を示している。冷却するペレットの処理量が変動する場合、高温側(上流側)と低温側(下流側)を同一の散水系統で制御するとペレットの冷却不足や、目的温度からの温度外れが発生するため、散水する系統は、高温側と低温側とに2分割してフィードバック制御により、冷却水回収槽12内の冷却水温度が85℃になるように、冷却水流量を増減させて調整した。
【0064】
具体的には、図4に示す様に、回収槽には上流側と下流側を区分する仕切り板19を設け、上流側温度計15と下流側温度計16にて各温度を計測し、供給する水量の上流側調整バルブ17及び下流側調整バルブ18をそれぞれ個別に制御した。これにより、処理量の変動時においても、目的のペレットの冷却温度(300℃以下)を満足すると共に、目的の冷却水温度(80〜90℃)を満足することが出来た。
【0065】
この際、ケミカルヒートポンプ4への冷却水循環経路14への系統を単一系統とすることで、熱風の発生がシンプルな制御とするために、回収槽12からの冷却水からの取り出し、熱風発生手段への冷却水の循環経路13を1系統とした結果、安定な操業が可能なった。
【0066】
その結果、冷却設備3で発生した熱量7.7Gcal/hに対し、ヒートポンプを含むトータルの熱効率は42%となって、3.2Gcal/hとなり、本来必要な乾燥装置1における熱エネルギー3.6Gcal/hに対して、3.2/3.6×100=約89%となった。乾燥に足りない分の熱量は補助用熱風発生器20にて補充した。
【符号の説明】
【0067】
1 原料ペレット乾燥装置
2 回転炉床式還元炉
3 還元鉄ペレット冷却装置(ロータリークーラー)
4 ケミカルヒートポンプ
5 熱交換器
6 ファン
7 クーラーカバー
8 冷却水循環槽
9 脱水素反応器
10 蒸留塔
11 水素化反応器
12 冷却水回収槽
13 冷却水循環経路
14 熱風搬送経路
15 冷却水温度計
16 冷却水温度計
17 冷却水流量調整バルブ
18 冷却水流量調整バルブ
19 回収槽の仕切板
20 補助用熱風発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ペレットを熱風で乾燥させる乾燥手段と、
乾燥後のペレットを回転炉床式還元炉で還元する還元手段と、
還元手段で生じた還元鉄のホットペレットを冷却水が散水されたロータリークーラー内で移動させながら冷却する冷却手段と、
前記ホットペレットの有する顕熱により温度上昇した冷却水を回収する冷却水回収手段と、
前記温度上昇した冷却水の顕熱を回収し前記乾燥工程に使用する熱風を製造する熱風製造手段と、
前記冷却手段で生じた温度上昇した冷却水を前記熱風製造手段へと搬送し、前記熱風製造手段で顕熱回収されて温度低下した冷却水を前記複数のスプレーノズルへと循環する冷却水循環経路と、
前記熱風製造手段で製造された熱風を前記乾燥手段へと搬送する熱風搬送経路と、
を有する回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置であって、
前記冷却手段は、前記ロータリークーラーの外周に前記ロータリークーラーの長手方向に亘って冷却水を噴霧する複数のスプレーノズルを備え、
前記冷却水回収手段は、前記噴霧された冷却水と前記ロータリークーラー内を移動する前記還元鉄のホットペレットとが前記ロータリークーラーを介して熱交換されて生じる温度上昇した冷却水を集めて回収する前記ロータリークーラーの下部に配置された冷却水回収槽を備え、
前記熱風製造手段は、前記冷却水送水ポンプで送られてきた温度上昇した冷却水の顕熱を回収するケミカルヒートポンプと、当該回収した顕熱を用いて熱交換により空気を熱風とする熱交換器とを備える、
ことを特徴とする回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【請求項2】
前記乾燥手段は、前記熱風製造手段にて製造する熱風の熱量が、原料ペレットの乾燥に不足する際にその熱量を補う補助用の熱風発生器を備えることを特徴とする請求項1に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【請求項3】
前記ケミカルヒートポンプは、前記温度上昇した冷却水の顕熱によりプロパノールを脱水素吸熱反応させてアセトンと水素を生成させる脱水素反応器と、前記生成したアセトンと水素および未反応で残ったプロパノールの混合ガスを蒸留してアセトンと水素をプロパノールから分離してプロパノールを脱水素反応器へ戻す蒸留器と、分離されたアセトンと水素を水素化発熱反応させてプロパノールを生成すると共に熱を発生させる水素化反応器とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【請求項4】
前記冷却水回収槽には温度センサーが設置され、前記温度センサーで検知した温度が、80〜90℃になるように、前記複数のスプレーノズルから散水する冷却水の流量を制御する冷却水温度制御装置を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【請求項5】
前記複数のスプレーノズルと前記冷却水回収槽は、それぞれ、前記ロータリークーラーの長手方向に上流段と下流段の2段に分割され、前記上流段と前記下流段はそれぞれ別々に前記冷却水温度制御装置により温度制御されることを特徴とする請求項4に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【請求項6】
前記上流段と下流段の前記ロータリークーラーの長手方向における分割位置は、ロータリークーラー内のペレット温度が400〜600℃の範囲となる位置とすることを特徴とする請求項5に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。
【請求項7】
前記ロータリークーラーは、冷却水の蒸発による大気への飛散を防止するためのカバーで覆われていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転炉床式還元炉を使用した還元鉄ペレットの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−122184(P2011−122184A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278631(P2009−278631)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】