説明

回転角度検出センサ

【課題】回転角度検出センサに円柱型の永久磁石を採用しつつ、芯ずれによる角度誤差を防止する。
【解決手段】円柱型の永久磁石1を、軸方向に磁気異方性をもつ円柱型の成形体に対して軸方向に両面4極着磁された異方性磁石とし、永久磁石1の一端面から軸方向に離れた位置で同一円周上に配置される複数の磁気センサ2,3を、永久磁石1と同心の中心から永久磁石半径rの55%〜80%の半径方向領域A内に配置し、かつ複数の磁気センサ2,3と永久磁石1の一端面との間に、1.5mm〜3mmの間隔gを軸方向に設けることにより、軸方向の磁束密度分布の変化が緩やかな領域で複数の磁気センサ2,3による検出を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、永久磁石と磁気センサを用いて2部材間の相対的な回転角度を検出可能な非接触型の回転角度検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の回転角度検出センサとして、円柱型の永久磁石と、この永久磁石の一端面から軸方向に離れた位置で同一円周上に配置される複数の磁気センサとを備えたものがある。永久磁石は、この一端面の半円域にN極を有すると共に残り半円域にS極を有する。この種の回転角度検出センサは、複数の磁気センサと永久磁石の相対的な同心回転の回転角度を複数の磁気センサ間の出力差を利用した演算で求める処理回路を備えている。使用に際しては、相対的な回転角度を検出したい2部材のうち、一方の部材に対して永久磁石が固定され、他方の部材に対して複数の磁気センサが固定される。前記の固定に際しては、可能な限り、永久磁石の中心線、複数の磁気センサが配置される円周の中心、及び2部材の相対回転の回転中心軸が同一直線上にあるように配置される(特許文献1)。
【0003】
従来、永久磁石として、円柱型の成形体に径方向着磁されたものが用いられている。この種の永久磁石は、円柱状の中心線を含むアキシアル平面を境として、その半分にN極を有し、残り半分にS極を有する。その軸方向の磁束密度分布を考えたとき、磁束密度のピークは、永久磁石の一端面外縁と交わる軸方向の直線上にある。なるべく磁束密度の大きい空間に複数の磁気センサを配置した方が、分解能の確保や外来磁場の影響を受け難い。このため、複数の磁気センサは、通常、永久磁石の一端面外縁と軸方向に対向するように配置される(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−191101号公報
【特許文献2】特開2005−291942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、径方向着磁された永久磁石の軸方向の磁束密度は、ピーク付近で急に変化する。このため、使用に際し、複数の磁気センサが配置される円周の中心と永久磁石の中心とが相対的に偏心すると(芯ずれ)、実際の回転角度に相当する磁気センサの出力と異なった出力となり、回転角度検出センサが求めた回転角度と2部材間の実際の回転角度との間の角度誤差が大きくなり易い。この角度誤差を低減するため、特許文献2に開示された回転角度検出センサは、円柱型の永久磁石に代えて、永久磁石の一端部を円すい台形状や段付き状に形成したものを採用しているが、特殊形状化によって永久磁石の設計が難しくなる。
【0006】
上記の事情に鑑み、この発明の課題は、回転角度検出センサに円柱型の永久磁石を採用しつつ、芯ずれによる角度誤差を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明は、円柱型の永久磁石と、前記永久磁石の一端面から軸方向に離れた位置で同一円周上に配置される複数の磁気センサとを備え、前記永久磁石は、この一端面の半円域にN極を有すると共に残り半円域にS極を有する回転角度検出センサにおいて、前記永久磁石は、円柱型であって全体が均質な材料で形成され、かつ軸方向に異方性をもった成形体に対して軸方向に両面4極着磁された異方性磁石からなり、前記複数の磁気センサは、前記永久磁石と同心の中心から永久磁石半径の40%〜80%の半径方向領域内に配置される構成を採用した。ここで、「軸方向」とは、永久磁石の中心線に沿った方向をいう。「円柱型」とは、軸方向全域で同一外径をもった中実体であることをいう。「軸方向に異方性をもった成形体」とは、材料を円柱型に固める際に材料中の磁石結晶の磁化容易方向を軸方向に揃えた成形体をいう。「軸方向に両面4極着磁された」とは、円柱状の一端面の半円域に第1のN極、第1のN極と軸方向に対向する他端面の半円域に第1のS極、他端面の残り半円域に第2のN極、及び第2のN極と軸方向に対向する一端面の残り半円域に第2のS極を有するように軸方向に磁化されたことをいう。「磁気センサ」とは、軸方向の磁束密度を電気信号に変換する機能部位をいう。
【0008】
種々の円柱型の永久磁石における軸方向の磁束密度分布を検討した結果、上記の異方性磁石においては、永久磁石の一端面から軸方向に離れ、かつ永久磁石と同心の中心から永久磁石半径の40%〜80%の半径方向領域内で、磁束密度の変化が緩やかなことを見出した。係る領域内に複数の磁気センサを配置すれば、円柱型の永久磁石を採用しても、芯ずれによる角度誤差を防止することができる。
【0009】
前記複数の磁気センサは、前記永久磁石半径の55%〜80%の半径方向領域内に配置されることが好ましい。この領域は、角度誤差の防止に好適である。
【0010】
前記複数の磁気センサと前記永久磁石の一端面との間に、軸方向に少なくとも1mmの間隔が設けられていることが好ましい。この領域は、角度誤差の防止に好適である。なお、間隔の最大間隔は、磁気センサの検出限界で定まるため、1mm〜検出限界の間で適宜に設定することができる。
【0011】
特に、前記間隔が1.5mm〜3mmであることがより好ましい。この領域は、磁束密度のピークからの落ち込みが特に少なく、磁束密度の検出に有利である。なお、3mmを超えて離すことは、磁束密度が小さくなるだけでなく、磁束密度の変化が緩和される恩恵も小さくなり、回転角度検出センサの設置空間が不用に軸方向に大型化するため、好ましくない。
【0012】
前記複数の磁気センサが一体にまとめられたセンサアレイを備え、前記永久磁石半径は、前記複数の磁気センサの最小ピッチ半径に対して1.25倍以上であり、かつ最大ピッチ半径に対して2.5倍以下であることが好ましい。ここで、「複数の磁気センサの最小ピッチ半径」とは、複数の磁気センサの1つを他の磁気センサに重ね合わせる仮想回転移動の中心(すなわち、複数の磁気センサが配置される同一円周の中心)を考えたとき、その1つの磁気センサが中心から最も近いところに描く回転軌跡円の半径をいい、「最大ピッチ半径」とは、その仮想的回転移動において1の磁気センサが中心から最も遠いところに描く回転軌跡円の半径をいう。複数の磁気センサが一体にまとめられたセンサアレイは、磁気センサを個々に配置する手間がなく、便利である。その代わり、複数の磁気センサは、センサアレイに固有の配置中心をもった同一円周上に固定される。永久磁石半径を前記最小ピッチ半径に対して1.25倍以上であり、かつ最大ピッチ半径に対して2.5倍以下にすれば、センサアレイを採用しても前記半径方向領域内に複数の磁気センサを配置することができる。
【0013】
この発明は、永久磁石、複数の磁気センサ等をハウジング内に組み込み、軸をハウジングに対して転がり軸受で回転自在に支持したセンサユニットに構成することもできる。このセンサユニットは、軸を同心の相対回転を行う2部材の一方の部材とし、ハウジングを、他方の部材とした回転角度検出センサを内蔵する。このセンサユニットは、例えば、一般産業機械、建設機械の駆動軸と機体間のように、相対回転を行う他の2部材間の回転角度検出に利用される。他の2部材の一方にセンサユニットの軸を固定し、他の2部材の他方にセンサユニットのハウジングを固定すれば、他の2部材間の相対的な回転角度を検出することができる。
【0014】
具体的には、軸と、ハウジングと、前記軸と前記ハウジング間に組み込まれた転がり軸受と、前記複数の磁気センサを実装された回路基板とを備え、前記永久磁石は、前記ハウジング内に位置する前記軸の一端に対して固定され、前記軸の他端は前記ハウジングの外部に露出し、前記ハウジングは、前記転がり軸受に予圧を与えるハウジング蓋を一端側に有し、前記回路基板は、前記ハウジング蓋の他端中央部に固定されている構成とすることができる。これにより、ハウジングを相対回転する2部材の一方に対して固定し、軸を他方に対して固定することが可能なセンサユニットに構成することができる。このセンサユニットは、転がり軸受に予圧を与えることで軸受剛性を高め、軸の芯ずれを防止し、予圧用の蓋を複数の磁気センサの支持に利用することができる。
【0015】
具体的には、前記ハウジング蓋、前記軸、並びに前記転がり軸受の内外輪及び転動体が強磁性材料で形成され、前記ハウジング蓋の他端中央部の周囲に前記外輪との接触部が設けられ、前記複数の磁気センサは、前記ハウジング蓋、前記軸及び前記転がり軸受により形成された磁気シールド空間内に配置されることが好ましい。ハウジング蓋、軸、並びに転がり軸受の内外輪及び転動体を強磁性材料で形成し、ハウジング蓋を外輪に接触させると、ハウジング蓋、軸及び転がり軸受で磁気シールドの一種である強磁性シールドを形成することができる。ハウジング蓋、軸の一端及び外輪の位置関係から、この強磁性シールドを、ハウジング外部から磁気センサへ一直線に向かう磁力線の全てがハウジング蓋等のいずれかと交わるように設けることができる。この強磁性シールドが有効な前記磁気シールド空間内へ外部磁界の磁力線が真直ぐに達することはできず、ハウジング蓋、外輪、転動体、内輪及び軸が一連に形成する迂回路へ導かれる。その磁気シールド空間内に複数の磁気センサが配置されるため、外部磁界による磁束密度の検出誤差を防止することができる。磁気シールドがハウジング蓋、軸及び転がり軸受により形成されるため、ハウジング蓋を取り付けるハウジング本体の素材を自由に選択することができる。例えば、ハウジング本体を樹脂射出成形やアルミニウム合金等で形成することにより、ハウジングを軽量化することも可能になる。
【0016】
また、前記永久磁石を保持する磁石ホルダを備え、前記転がり軸受の内輪は、その嵌め合い面の一端部が前記軸の一端よりも突き出るように設けられ、前記磁石ホルダを前記嵌め合い面の一端部に嵌合することにより前記永久磁石を半径方向に位置決め可能であることが好ましい。ここで、半径方向は、軸の軸心に直交する方向をいう。内輪の嵌め合い面の一端部に磁石ホルダを嵌合すれば、磁石ホルダを十分な精度で半径方向に位置決めし、ひいては、磁石ホルダに保持された永久磁石を簡単に半径方向に位置決めすることができる。
【0017】
また、前記磁石ホルダは、前記永久磁石の外径面を嵌め込む筒部と、該筒部に嵌め込まれた該永久磁石の一端面に掛かる抜止め部とで該永久磁石を保持し、前記抜止め部は、前記永久磁石半径の80%を超えた半径方向領域部分に掛かるようにすることが好ましい。永久磁石を筒部で半径方向に位置決めし、永久磁石の一端面に掛かる抜止め部により、永久磁石と複数の磁気センサ間の間隔を維持することができる。抜止め部は、永久磁石半径の80%を超えた半径方向領域部分に掛かるため、前記間隔の設定に際して支障にならない。
【0018】
また、前記ハウジング蓋の他端中央部は、前記転がり軸受の外輪との接触部よりも一端側に凹み、前記回路基板は、前記複数の磁気センサを構成する素子よりも一端側で樹脂封止されていることが好ましい。ここで、複数の磁気センサを構成する素子とは、1の磁気センサを有する素子、センサアレイ、少なくとも1つの磁気センサと他の回路とを一体にまとめた集積回路をいい、複数の磁気センサが2以上の素子からなる場合、それら2以上の素子の全てをいう。ハウジング蓋の他端中央部を一端側へ凹入させると、その凹内壁を型として回路基板の樹脂封止を容易に行うことができる。その樹脂封止層は、複数の磁気センサを構成する素子よりも一端側に形成される。このため、樹脂封止層は、永久磁石と素子との間の間隔設定に際して支障にならず、結果的に永久磁石と複数の磁気センサとの間隔設定の支障にならない。
【発明の効果】
【0019】
上述のように、この発明は、円柱型の永久磁石を採用しつつ、磁束密度の変化が緩やかな領域内に複数の磁気センサを配置し、芯ずれによる角度誤差を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、第1実施形態に係る回転角度検出センサの正面図、(b)は、前記(a)中に示したb−b線の断面図
【図2】永久磁石の一例において中心線を含む一平面上の磁束分布図
【図3】図2の永久磁石による軸方向の磁束密度分布図
【図4】永久磁石の他例において中心線を含む一平面上の磁束分布図
【図5】図4の永久磁石による軸方向の磁束密度分布図
【図6】第2実施形態に係る回転角度検出センサの正面図
【図7】第3実施形態に係る回転角度検出センサを軸の回転中心軸を含む一平面上で示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、第1実施形態に係る回転角度検出センサ(以下、単に「第1実施形態」と称する)は、円柱型の永久磁石1と、永久磁石1の一端面から軸方向に離れた位置で同一円周上に配置される複数の磁気センサ2,3とを備える。
【0022】
永久磁石1は、円柱型の成形体に対して軸方向に両面4極着磁された異方性磁石からなる。成形体は、外径>軸方向長さの円柱型であって、全体が均質な材料で形成され、かつ軸方向に異方性をもつ。その成形体に対して両面4極着磁された結果、永久磁石1は、円柱状の一端面の半円域に第1のN極、第1のN極と軸方向に対向する他端面の半円域に第1のS極、他端面の残り半円域に第2のN極、及び第2のN極と軸方向に対向する一端面の残り半円域に第2のS極を有している。永久磁石1の材料の種類や製造方法は特に限定されず、フェライト磁石、ネオジム磁石、焼結磁石、鋳造磁石等を採用することができる。
【0023】
永久磁石1の一例として、永久磁石半径rを5mmかつ軸方向長さ4mmとして軸4の一端に支持し、その磁束分布を図2に示し、その軸方向の磁束密度分布を図3に示す。別例として、永久磁石半径rを7.5mmかつ軸方向長さ4mmとして軸4の一端に支持し、その磁束分布を図4に示し、その軸方向の磁束密度分布を図5に示す。図2〜図5の各図中、横軸は、永久磁石1の中心線を含む直線L上を「0」位置とし、直線Lから該直線Lと直交する直線方向に離れた距離(mm)を示している。図2、図4の各図中、縦軸は、永久磁石1の一端面を軸方向の「0」位置とし、その「0」位置から軸方向に離れた距離(mm)を示している。図3、図5の各図中、縦軸は、軸方向の磁束密度(Wb)の値を目盛りで示す。図2、図4に示す永久磁石1の一端面から軸方向に1mm離れた位置における磁束密度分布を図3、図5中に実線で示し、同1.5mm離れた位置における磁束密度分布を図3、図5中に破線で示し、同2mm離れた位置における磁束密度分布を図3、図5中に一点鎖線で示し、同3mm離れた位置における磁束密度分布を図3、図5中に二点鎖線で示す。前記磁束分布及び磁束密度分布は、周知の磁場解析プログラムを用いたコンピュータ解析で求めた。
【0024】
図1、図3、図5から明らかなように、永久磁石1の一端面から軸方向に離れ、かつ軸方向と直交する平面上において、永久磁石1の軸方向の磁束密度分布は、永久磁石1と同心の中心(直線L)から永久磁石半径rの40%〜80%の半径方向領域A内で磁束密度の変化が緩やかである。結果的に、半径方向領域A内は、磁束密度のピークからの落ち込みも緩やかである。40%未満の半径方向領域及び80%を超えた半径方向領域では、磁束密度の変化が比較的に急である。半径方向領域A内のうち、永久磁石半径rの55%〜80%の半径方向領域A1内で磁束密度の変化が特に緩やかである。また、永久磁石1の一端面から軸方向に1mm離れた位置、同1.5mm、同2mm、同3mmの順に、すなわち永久磁石1の一端面から軸方向に近いほどに、磁束密度が大きくなり、磁束密度の変化が急になる。特に、1mmと1.5mm以上とを比較すると、1.5mm以上では、半径方向領域A内で磁束密度の変化率が緩やかでありながら磁束密度のピークからの落ち込みが少ない。
【0025】
上述のような磁束密度分布は図3、図5に共通していることから、永久磁石1において、外径と軸方向長さの比(10:4,15:4)を変更しても同様の磁束密度分布を得られることが分かる。
【0026】
図1に示す磁気センサ2,3は、軸方向の磁束密度を電気信号に変換する機能部位である。磁気センサ2,3は、例えば、ホール素子、MR(Magneto−Resistive)素子、MI(Magneto−Impedance)素子等の磁気検出素子の感磁部からなる。ホール素子の感磁部は、例えば、半導体薄膜部からなる。MR素子の感磁部は、例えば、強磁性薄膜部、又は一軸異方性強磁性薄膜部の導電路からなる。MI素子の感磁部は、例えば、微小高周波電流を流してインピーダンス変化を検出される磁性導体部からなる。複数の磁気センサ2,3が一体にまとめられたセンサアレイや、少なくとも1つの磁気センサの他に、適宜に信号増幅回路、AD変換回路、記憶回路、信号処理回路等と一体にまとめられた集積回路を採用することもできる。
【0027】
相対回転する関係の2部材(図示省略)のうち、一方の部材に対して永久磁石1が固定され、他方の部材に対して複数の磁気センサ2,3が固定される。その結果、複数の磁気センサ2,3は、永久磁石1の一端面から軸方向に離れた位置で同一円周上に配置され、かつ同一円周の中心L回りに90°の回転角度差をもつように配置される。永久磁石1、複数の磁気センサ2,3、及び2部材は、可能な限り永久磁石1の中心線、複数の磁気センサ2,3が配置された同一円周の中心、及び2部材の相対回転の回転中心軸が直線L上にあるように配置される。勿論、これらを同一直線L上に配置することが理想的である。
【0028】
上述の配置において、複数の磁気センサ2,3と永久磁石1の一端面との間には、軸方向に1.5mm〜3mmの間隔gが設けられる。また、複数の磁気センサ2,3は、永久磁石1と同心の中心(直線L)から永久磁石半径rの55%〜80%の半径方向領域A1内に配置される。複数の磁気センサ2,3は、仮に任意の一方向に芯ずれ量δが生じても半径方向領域A内に位置するように、半径方向領域Aの境界から余裕をもって配置される。芯ずれ量δは、永久磁石1の中心線と、複数の磁気センサ2,3が配置された同一円周の中心との間に生じる相対的な半径方向の最大許容ずれ量である。芯ずれ量δは、一方の部材の回転中心と他方の部材の回転中心間に許容する相対的な半径方向のずれ量、永久磁石1の中心線と、一方の部材の回転中心間に許容する相対的な半径方向のずれ量、前記同一円周の中心と他方の部材の回転中心間に許容する相対的な半径方向のずれ量により定まる。複数の磁気センサ2,3は、係る芯ずれ量δを見越した余裕をもって半径方向領域A内に配置されるため、半径方向領域A内で検出を行うことができる。
【0029】
前記一方の部材と他方の部材は、永久磁石1による軸方向の磁束密度分布において半径方向領域Aに悪影響を及ぼさない限り、素材、形状等を適宜に設ければよい。例えば、図2〜図5の各例では、軸4が強磁性材料の鋼として定義されている。図2、図4の磁束分布から明らかなように、軸4を強磁性材料で形成しても、軸4の一端がヨークとして殆ど機能せず、永久磁石1の磁界への影響を無視することができる。
【0030】
なお、第1実施形態は、上述の90°配置により、複数の磁気センサ2,3間で90°の位相差をもった出力を得られるようになっている。複数の磁気センサ2,3と永久磁石1の相対的な同心回転の回転角度を複数の磁気センサ2,3間の出力差を利用した演算で求める信号処理回路(図示省略)を備えている。前記相対的な同心回転の中心線は、永久磁石1の中心線と、複数の磁気センサ2,3が配置される同一円周の中心とを含む直線Lになっている。前記の信号処理回路は、適宜に採用することができる。例えば、磁気センサ2の出力:Vx、磁気センサ3の出力:Vy、回転角度:θとしたとき、|Vx|?|Vy|では、θ=arctan(Vx/Vy)、|Vx|?|Vy|では、θ=arccot(Vx/Vy)で求めることができる。特許文献1に開示されたベクトル回転方式でもよい。複数の磁気センサ2,3は、上述のような90°配置に限定されず、検出に支障がない範囲で適宜に回転角度差を決めればよい。なお、温度補償のため、磁気センサ2と180°の位相差をもった磁気センサ、磁気センサ3と180°の位相差をもった磁気センサを追加することもできる。
【0031】
上述のような第1実施形態によれば、使用に際し、図1に示すように、半径方向領域A内に位置する複数の磁気センサ2,3は、常に磁束密度の変化の緩やかな半径方向領域A内で検出を行うことになる。したがって、第1実施形態は、円柱型の永久磁石1を採用しつつ、芯ずれによる角度誤差を防止することができる。
【0032】
また、第1実施形態は、複数の磁気センサ2,3を特に磁束密度の変化が緩やかな半径方向領域A1内に配置したため、角度誤差をより防止することができる。
【0033】
また、第1実施形態は、複数の磁気センサ2,3と永久磁石1の一端面との間に軸方向に少なくとも1mmの間隔gを設けたため、半径方向領域A内でも磁束密度の変化が特に急な軸方向域を避けて複数の磁気センサ2,3を配置することができる。
【0034】
また、第1実施形態は、前記間隔gを1.5mm〜3mmにしたため、半径方向領域A内で磁束密度のピークからの落ち込みが少ない位置に複数の磁気センサ2,3を配置することができる。このため、第1実施形態は、分解能の確保や外来磁場の影響を受け難くするのに有利である。
【0035】
図6に第2実施形態を示す。なお、以下では第1実施形態との相違点を述べる。図示のように、第2実施形態は、複数の磁気センサ2,3が樹脂モールドで一体にまとめられたセンサアレイ5を備える。永久磁石1は想像線で図示し、センサアレイ5の他端を軸方向から図示した。
【0036】
複数の磁気センサ2,3は、ホール素子の半導体薄膜、MR素子の強磁性薄膜部等のような静止感磁部からなる。複数の磁気センサ2,3は、モールドにより同一円周上に固定されている。同一円周の中心は、複数の磁気センサ2,3のうち、1の磁気センサ2を他の磁気センサ3に重ね合わせる仮想回転移動の回転中心軸である。図示された正規の固定状態において、同一円周の中心は直線Lと考えてよい。
【0037】
永久磁石半径rは、複数の磁気センサ2,3の最小ピッチ半径r1に対して1.25倍以上であり、かつ複数の磁気センサ2,3の最大ピッチ半径r2に対して2.5倍以下である。永久磁石半径rを最小ピッチ半径r1に対して1.25倍以上にすることは、磁気センサ2,3を前記永久磁石半径rの40%以上の半径方向領域A内に配置することと等価である。永久磁石半径rを最大ピッチ半径r2に対して2.5倍以下にすることは、磁気センサ2,3を永久磁石半径rの80%以下の半径方向領域A内に配置することと等価である。したがって、第2実施形態は、センサアレイ5の採用により磁気センサ2,3を個々に配置する手間がなく、実装が容易でありながら、半径方向領域A内に複数の磁気センサ2,3を配置することができる。ひいては、市販品や既存品のセンサアレイ5を使用しても、この発明を実施することができる。
【0038】
第3実施形態を図7に示す。図示のように、第3実施形態は、軸4と、ハウジング6と、軸4とハウジング6間に組み込まれた転がり軸受7,7と、複数の磁気センサ2,3を実装された回路基板8とを備える。永久磁石1は、ハウジング6内に位置する軸の一端に対して固定されている。軸4の他端は、ハウジング6の外部に露出している。ハウジング6は、転がり軸受7,7に予圧を与えるハウジング蓋9を一端側に有する。回路基板8は、ハウジング蓋9の他端中央部9aに固定されている。図示された正規のユニット組立状態において、軸4の軸心は、永久磁石1の中心線等を含む直線L上にあると考えてよい。
【0039】
ハウジング蓋9は、転がり軸受7,7の外輪を支持する軸受座を形成されたハウジング本体10の一端側に取り付けられる。ハウジング蓋9をハウジング本体10にねじ締結すると、そのねじ締結力により転がり軸受7,7がハウジング本体10の肩部とハウジング蓋9間に挟まれ、所定の予圧が与えられるようになっている。転がり軸受7,7に予圧を与えられるので、軸受剛性を高め、軸4の芯ずれを防止することができる。図示のように、転がり軸受7をハウジング蓋9で直接に押して予圧を与える場合、他端中央部9aの周囲に外輪11との接触部9bが設けられる。なお、予圧は、転がり軸受7をハウジング蓋9で直接に軸方向に押す態様に限定されず、転がり軸受とハウジング蓋間にスペーサを介して押すこともできる。単純な平板状のハウジング蓋にしたい場合は、スペーサを採用すればよい。
【0040】
ハウジング蓋9の他端中央部9aは、ハウジング6内に位置する軸4の一端の軸方向延長上に位置する部分を含む。永久磁石1を軸4の一端に対して固定すれば、他端中央部9aを複数の磁気センサ2,3の支持に利用することができる。予圧用のハウジング蓋9は、複数の磁気センサ2,3を実装された回路基板8の固定に十分な取付け精度や剛性をもつ。
【0041】
ハウジング6を他の部材へ容易に取り付けるため、ハウジング本体10に外フランジ10aを設けることが好ましい。外フランジ10aにねじ締結用の貫通孔が設けられる。
【0042】
ハウジング本体10の他端側の内周と軸4との間をシール12で密封することが好ましい。磁性粉のハウジング6内への侵入をシール12で防止することができる。同じ目的から、スリンガ13をシール12の外側に設けることがより好ましい。又はハウジング蓋9とハウジング本体10との間をOリング14により密封することも好ましい。
【0043】
第3実施形態は、永久磁石1を保持する磁石ホルダ15を備える。内輪16は、その嵌め合い面の一端部16aが軸4の一端よりも突き出るように設けられている。内輪16の嵌め合い面の一端部16aが軸4の一端よりも突き出るため、その一端部16aに磁石ホルダ15の外周部15aを嵌合することができる。この嵌合により、磁石ホルダ15に保持された永久磁石1を半径方向に位置決め可能である。したがって、永久磁石1を簡単に半径方向に位置決めすることができる。
【0044】
磁石ホルダ15は、永久磁石1の外径面を嵌め込む筒部15bと、筒部15bに嵌め込まれた永久磁石1の一端面に掛かる抜止め部15cとで永久磁石1を保持する。永久磁石1の外径面を筒部15bに嵌め込むと、永久磁石1を磁石ホルダ15の外周部15aに対して半径方向に位置決めすることができる。軸4は、転がり軸受7,7の支持によりハウジング6に対して軸方向に位置決めされている。磁石ホルダ15を軸4の一端に固定した状態では、軸4の一端に支持された永久磁石1が他端側へ変位することはない。したがって、永久磁石1の一端面に掛かる抜止め部15cにより、永久磁石1とハウジング蓋9に固定された磁気センサ2,3間の間隔gを維持することができる。
【0045】
抜止め部15cは、永久磁石1の一端面のうち、永久磁石半径rの80%を超えた半径方向領域部分に掛かる。このため、抜止め部15cが間隔gを設定する際に支障とならず、抜止め部15cの中心方向厚と無関係に間隔gを自由に狭く設定することができる。
【0046】
上述のような磁石ホルダ15は、樹脂射出成形により簡単に製造することができる。前記磁束密度分布の乱れを防止するため、磁性を無視し得る素材で磁石ホルダ15を形成することは勿論である。
【0047】
磁石ホルダ15の最終的な固定手段として、軸4の一端に対するねじ締結を採用することができる。軸4の一端やねじは、永久磁石1の磁束分布を乱さない限り、素材、形状等を適宜に決定することができる。
【0048】
複数の磁気センサ2,3は、集積回路17の一部にセンサアレイとして一体にまとめられている。回路基板8は、集積回路17を他端側の基板面に片面実装され、ケーブル18を接続された状態でハウジング蓋9の他端中央部9aに固定される。回路基板8に接続されたケーブル18は、ハウジング蓋9のケーブル口から外部に取り出される。回路基板8の他端側の基板面に片面実装することにより、回路基板8の一端側の基板面を他端中央部9aに対して直接に支持することができる。このため、回路基板8をねじ締結する際のスペーサを省略することができる。
【0049】
ハウジング蓋9の他端中央部9aは、外輪11との接触部9bよりも一端側に凹む。他端中央部9aを一端側へ凹入させることにより、その他端中央部9aの凹内壁を型として、回路基板8の樹脂封止を容易に行うことができる。なお、他端中央部9aを軸4の一端から突き出た内輪16の一端側の側面と接触しないように接触部9bよりも凹ませることにより、外輪11と内輪16の幅が同一でも、内輪16とハウジング蓋9とが接触しないようになっている。
【0050】
回路基板8は、集積回路17の他端よりも一端側で樹脂封止されている。この樹脂封止後、ハウジング蓋9はハウジング本体10に取り付けられる。集積回路17は、複数の磁気センサ2,3を構成する素子に相当する。その集積回路17の他端は、樹脂モールド部の他端になっている。樹脂封止層19は、集積回路17の他端よりも一端側に形成されるため、永久磁石1と集積回路17の他端間の軸方向間隔を設定する際の支障にならない。したがって、永久磁石1と複数の磁気センサ2,3との間隔gを自由に設定することができる。
【0051】
なお、ハウジング蓋9のケーブル口も樹脂封止層20により閉塞されている。他端中央部9aにねじ締結された回路基板8でケーブル口が覆われているため、回路基板8やケーブル口の封止用樹脂の充填を行い易い。回路基板8用の樹脂充填とケーブル口用の樹脂充填とを分けることが可能なため、両樹脂封止層19,20を相異なる種類の樹脂で形成することができる。特に、回路基板8用の樹脂封止層19は、ハウジング6内に位置するため、ケーブル口用の樹脂封止層20よりも振動吸収性に優れたものを採用することが好ましい。ケーブル口用の樹脂封止層20は、ハウジング6外に位置するため、回路基板8用の樹脂封止層19よりも機械的強度、耐候性、防水性に優れたものを採用することが好ましい。
【0052】
回路基板8の樹脂封止後、ハウジング本体10に軸4、転がり軸受7,7等を組み込み、ハウジング蓋9をハウジング本体10に取り付けることができる。この取付けにより、複数の磁気センサ2,3は、永久磁石1の一端面から軸方向に間隔gをもって、半径方向領域A内の所定位置に配置される。
【0053】
ハウジング蓋9、軸4、並びに転がり軸受7の外輪11、内輪16及び転動体21のそれぞれは、適宜の強磁性材料で形成されている。ハウジング蓋9の取付けにより、一端側の転がり軸受7の外輪11と接触部9bとの接触が確保され、強磁性材料製の転がり軸受7、ハウジング蓋9及び軸4により磁気シールドが形成される。磁気シールドは、ハウジング6の外部から磁気センサ2,3へ一直線に向かう磁力線の全てがハウジング蓋9、軸4、内外輪16,11のいずれかと交わるように設けられた強磁性シールドからなる。複数の磁気センサ2,3は、その磁気シールドの有効な磁気シールド空間内に配置される。外部磁界の磁力線は、複数の磁気センサ2,3へ真直ぐに達することはできず、ハウジング蓋9、外輪11、転動体21、内輪16及び軸4が一連に形成する迂回路へ導かれる。このため、外部磁界による磁束密度の検出誤差を防止することができる。
【0054】
前記強磁性材料は、特に限定されない。例えば、軸受鋼を採用することにより、従来から標準的な軸受鋼製の内外輪及び転動体を有する転がり軸受、一般構造用の軸及びハウジング蓋を用いて磁気シールド空間を形成することができる。なお、ハウジング本体10は、軽量化のため、アルミニウム合金や樹脂等の非磁性材料で形成されている。
【0055】
この発明の範囲は、上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載と均等の範囲内での全ての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0056】
1 永久磁石
2,3 磁気センサ
4 軸
5 センサアレイ
6 ハウジング
7 転がり軸受
8 回路基板
9 ハウジング蓋
9a 他端中央部
9b 接触部
10 ハウジング本体
11 外輪
16 内輪
16a 嵌め合い面の一端部
17 集積回路
19,20 樹脂封止層
21 転動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱型の永久磁石と、前記永久磁石の一端面から軸方向に離れた位置で同一円周上に配置される複数の磁気センサとを備え、
前記永久磁石は、この一端面の半円域にN極を有すると共に残り半円域にS極を有する回転角度検出センサにおいて、
前記永久磁石は、円柱型であって全体が均質な材料で形成され、かつ軸方向に異方性をもった成形体に対して軸方向に両面4極着磁された異方性磁石からなり、
前記複数の磁気センサは、前記永久磁石と同心の中心から永久磁石半径の40%〜80%の半径方向領域内に配置されることを特徴とする回転角度検出センサ。
【請求項2】
前記複数の磁気センサは、前記永久磁石半径の55%〜80%の半径方向領域内に配置されることを特徴とする請求項1に記載の回転角度検出センサ。
【請求項3】
前記複数の磁気センサと前記永久磁石の一端面との間に、軸方向に少なくとも1mmの間隔が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角度検出センサ。
【請求項4】
前記間隔が1.5mm〜3mmであることを特徴とする請求項3に記載の回転角度検出センサ。
【請求項5】
前記複数の磁気センサが一体にまとめられたセンサアレイを備え、
前記永久磁石半径は、前記複数の磁気センサの最小ピッチ半径に対して1.25倍以上であり、かつ最大ピッチ半径に対して2.5倍以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の回転角度検出センサ。
【請求項6】
軸と、ハウジングと、前記軸と前記ハウジング間に組み込まれた転がり軸受と、前記複数の磁気センサを実装された回路基板とを備え、
前記永久磁石は、前記ハウジング内に位置する前記軸の一端に対して固定され、
前記軸の他端は前記ハウジングの外部に露出し、
前記ハウジングは、前記転がり軸受に予圧を与えるハウジング蓋を一端側に有し、
前記回路基板は、前記ハウジング蓋の他端中央部に固定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の回転角度検出センサ。
【請求項7】
前記ハウジング蓋、前記軸、並びに前記転がり軸受の内外輪及び転動体が強磁性材料で形成され、
前記ハウジング蓋の他端中央部の周囲に前記外輪との接触部が設けられ、
前記複数の磁気センサは、前記ハウジング蓋、前記軸及び前記転がり軸受により形成された磁気シールド空間内に配置されることを特徴とする請求項6に記載の回転角度検出センサ。
【請求項8】
前記永久磁石を保持する磁石ホルダを備え、
前記転がり軸受の内輪は、その嵌め合い面の一端部が前記軸の一端よりも突き出るように設けられ、
前記磁石ホルダを前記嵌め合い面の一端部に嵌合することにより前記永久磁石を半径方向に位置決め可能であることを特徴とする請求項6又は7に記載の回転角度検出センサ。
【請求項9】
前記磁石ホルダは、前記永久磁石の外径面を嵌め込む筒部と、該筒部に嵌め込まれた該永久磁石の一端面に掛かる抜止め部とで該永久磁石を保持し、
前記抜止め部は、前記永久磁石半径の80%を超えた半径方向領域部分に掛かることを特徴とする請求項8に記載の回転角度検出センサ。
【請求項10】
前記ハウジング蓋の他端中央部は、前記転がり軸受の外輪との接触部よりも一端側に凹み、前記回路基板は、前記複数の磁気センサを構成する素子よりも一端側で樹脂封止されていることを特徴とする請求項6から9のいずれか1つに記載の回転角度検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−276574(P2010−276574A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132041(P2009−132041)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】