説明

回転角度検出装置の初期設定方法

【課題】初期設定作業の簡素化を図りつつ、しかも当該作業精度に依存することなく検出誤差を低減することができる回転角度検出装置の初期設定方法を提供する。
【解決手段】初期設定時には、まず主動歯車が正方向へ任意の角度だけ回転される。このときサンプリングされる第1及び第2の従動歯車の回転角度αn,βnと、これらに基づき算出される主動歯車の仮回転角度θLから逆算される第1及び第2の従動歯車の回転角度αL,βLとの関係に基づき、2つの回帰直線Y1,Y2が求められる。同様にして、主動歯車が逆方向へ任意の角度だけ回転されたときの2つの回帰直線Y3,Y4が求められる。つぎに、各回帰直線Y1〜Y4と、サンプリングされる第1及び第2の従動歯車の各回転角度αn,βnとの差分の平均値が、実際にサンプリングされる第1及び第2の従動歯車の回転角度に加算される補正データとして初期設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の角度を検出する回転角度検出装置の初期設定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、車両の高機能化に伴い、車両には車両安定性制御システム及び電子制御サスペンションシステム等の走行安定性を向上させるための種々のシステムが搭載されつつある。これらシステムは、ステアリングの操舵角を車両の姿勢情報の一つとして取得し、その姿勢情報に基づいて車両の姿勢が安定的な状態になるように制御する。ステアリングの操舵角は、例えばステアリングコラム内に設けられる回転角度検出装置を通じて取得される。
【0003】
回転角度検出装置としては、例えば特許文献1に示されるように、ステアリングシャフトと一体的に回転する主動歯車に歯数の異なる2つの従動歯車を噛合させて、これら従動歯車の回転角度に基づき主動歯車の回転角度を求める構成が知られている。詳述すると、2つの従動歯車にそれぞれ固定された磁石に対応して2つの磁気センサが設けられる。これら磁気センサは、対応する従動歯車の回転に伴う磁界方向の変化に応じて正弦信号及び余弦信号を生成する。これら信号に基づく逆正接値が2つの従動歯車の回転角度として算出され、これら回転角度に基づき主動歯車の回転角度が絶対値で算出される。
【0004】
ここで、主動歯車の回転角度の変化に対して、磁気センサの検出範囲(1周期)における従動歯車の回転角度は、図9(a)のグラフに示されるように変化する。すなわち、主動歯車の回転角度の増大に伴い従動歯車の回転角度は、その歯数に応じて、所定の周期で立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。なお、図9(a)では、一方の従動歯車の回転角度の変化のみ示されているところ、他方の従動歯車の回転角度についても同様に変化する。ただし、2つの従動歯車の歯数の違いに応じて周期は異なる。
【0005】
ところが、このタイプの回転角度検出装置では、主動歯車に2つの従動歯車を噛み合わせた構成とされているため、検出される2つの従動歯車の回転角度には、主動歯車と2つの従動歯車との間のバックラッシに起因する誤差が含まれている。したがって、2つの従動歯車の回転角度に基づいて求められるステアリングシャフトの回転角度にも潜在的に誤差(初期操舵誤差)が含まれている。
【0006】
そこで、特許文献1では、主動歯車と従動歯車との間のバックラッシに起因する検出誤差を低減するべく、次のような初期設定方法を採用している。
すなわち、まず主動歯車をステアリングの操作角度が0°となる基準位置に合わせる。そしてつぎに、主動歯車を一定角度だけ正回転させた後に同じ角度だけ逆回転させる。このときサンプリングされる2つの従動歯車の回転角度について、図9(a)に実線で示される理論値(理想直線)と、同図に二点鎖線で示される実際の検出値(実波形)との差がそれぞれ求められる。これら回転角度は、主動歯車を正回転させた場合における主動歯車と2つの従動歯車との間の誤差(正方向誤差)である。
【0007】
同様にして今度は、主動歯車を一定角度だけ逆回転させた後に同じ角度だけ正回転させる。このときサンプリングされる2つの従動歯車の回転角度について、理論値と実際の検出値との差がそれぞれ求められる。これら回転角度は、主動歯車を逆回転させた場合における主動歯車と2つの従動歯車との間の誤差(逆方向誤差)である。
【0008】
つぎに、それら正方向誤差と逆方向誤差との平均値が求められて、これら平均値と理論値との差が、主動歯車の回転角度の補正値として初期設定される。この補正値は、主動歯車の回転角度を求める際に、実際に検出された2つの従動歯車の回転角度に加算される。すなわち、バックラッシに起因する誤差が主動歯車の正逆回転方向において均等に割り付けられる。このようにして誤差特性の均一化が図られることにより、2つの従動歯車の回転角度に基づき算出される主動歯車の回転角度の検出誤差は低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−232617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1の回転角度検出装置の初期設定方法では、次のような問題があった。すなわち、正方向誤差を求める際に、主動歯車を正方向へ一定角度だけ回転させた後に同じ角度だけ逆方向へ回転させる必要がある。さらに逆方向誤差を求めるために、同様の作業を繰り返す必要がある。そしてこれら作業の際には、主動歯車を正確に一定角度だけ回転させて位置決めする必要がある。この位置決め精度は、補正後の主動歯車の回転角度の精度に影響するため、初期設定時においては主動歯車の回転角度を厳密に管理する必要がある。
【0011】
初期設定時において、主動歯車が定められた角度だけ正確に回転された場合には、前述したように、主動歯車並びに2つの従動歯車の間の正逆回転方向における誤差は均等に割り付けられる。すなわち、図10に示されるように、複数のサンプリング箇所における実波形と理想直線との間のすべての差の値の中間値を理想直線が通るかたちで、主動歯車の回転角度が補正される理想的な状態となる。
【0012】
しかし、初期設定時における主動歯車の実際の回転角度が本来回転させるべき一定角度に対してずれた場合には、そのずれた分の角度に応じて主動歯車並びに2つの従動歯車の間の正逆回転方向における誤差は、正回転方向あるいは逆回転方向に偏って割り付けられる。このため、例えば図9(a)に示されるように、実波形において理想直線との差が最も大きなポイントPaの値を理論値に合わせるかたちで、主動歯車の回転角度が補正されることも想定される。この場合、ポイントPa付近の値は理論値に近似する値となるものの、図9(b)に示されるように、実波形のポイントPa以外の部分の値と理想直線との差の値は逆に大きくなる。
【0013】
このように、従来の初期設定作業は煩雑であるばかりか、その作業精度に主動歯車の検出誤差の低減度合いは大きく依存するものであった。
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、初期設定作業の簡素化を図りつつ、しかも当該作業精度に依存することなく検出誤差を低減することができる回転角度検出装置の初期設定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明は、検出対象と一体的に回転する主動歯車に歯数の異なる2つの従動歯車を噛合させて前記主動歯車の回転に伴う前記2つの従動歯車の回転角度をそれぞれ検出し、これら検出した回転角度に基づいて前記検出対象の回転角度を求める回転角度検出装置の初期設定方法であって、前記主動歯車を正方向及び逆方向へ回転させたときにそれぞれサンプリングされる前記2つの従動歯車の回転角度に基づく回帰分析を通じて4つの回帰直線を求める段階と、前記各回帰直線と、サンプリングされた2つの従動歯車の各回転角度との差分の平均値を求める段階と、前記検出対象の回転角度を求めるに際して実際にサンプリングされる2つの従動歯車の回転角度に加算される補正データとして前記平均値を記憶する段階と、を備えたことをその要旨とする。
【0015】
本発明の回転角度検出装置は、主動歯車に2つの従動歯車を噛み合わせた構成とされているため、サンプリングされる2つの従動歯車の回転角度には、主動歯車と2つの従動歯車との間のバックラッシに起因する誤差が含まれている。したがって、2つの従動歯車の回転角度に基づいて求められる検出対象の回転角度にも潜在的に誤差が含まれている。また、主動歯車と2つの従動歯車との位置関係によっては、それらの間のバックラッシの大きさは、主動歯車の正逆回転方向において異なる。この場合、前記バックラッシの偏りに起因して、検出対象の回転角度に含まれる誤差も、当該検出対象の正逆回転時において異なる。
【0016】
このような背景にあって、本発明によれば、回転角度検出装置の初期設定段階においては、まず主動歯車を正方向及び逆方向へ回転させたときにそれぞれサンプリングされる2つの従動歯車の回転角度に基づき第1及び第2の回帰直線が理想直線として求められる。つぎに、第1及び第2の回帰直線と、サンプリングされた2つの従動歯車の回転角度とのすべての差分の平均値が求められる。そして、この平均値が、実際に検出される2つの従動歯車の回転角度の補正データとして記憶される。この補正データは、回転角度検出装置が実際に検出対象の回転角度を求める場合に、サンプリングされる2つの従動歯車の回転角度に加算され、当該加算された値に基づき検出対象の回転角度が算出される。
【0017】
前記補正データが加算された2つの従動歯車の回転角度は、主動歯車及び2つの従動歯車との間のバックラッシに起因する正逆回転時における誤差が均等な状態においてサンプリングされる2つの従動歯車の回転角度に近似したものとなる。すなわち、正逆回転時における誤差が均等でなく偏りがある状態において検出される2つの従動歯車の回転角度に基づいて算出された検出対象の回転角度に比べて、検出誤差は小さくなる。また、回帰分析を利用して理想直線である回帰直線が求められるので、初期設定作業の際に主動歯車の回転角度を厳密に管理する必要ない。このため、初期設定作業の簡素化が図られる。また、当該初期設定作業の際の主動歯車の回転精度が、検出対象の回転角度の検出精度に影響することもない。このように、本発明によれば、初期設定作業の簡素化を図りつつ、しかも当該作業精度に依存することなく検出誤差を低減することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の回転角度検出装置の初期設定方法において、前記回帰直線を求める段階は、前記主動歯車を回転させたときにサンプリングされる前記2つの従動歯車の回転角度と、これら回転角度に基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度から逆算される前記2つの従動歯車の回転角度との関係に基づき、前記各回帰直線を求める段階であることをその要旨とする。
【0019】
初期設定作業の際、主動歯車を回転させたときにサンプリングされる2つの従動歯車の回転角度は、純粋に主動歯車の実際の回転角度と、2つの従動歯車それぞれとの関係だけで決まる値である。すなわち、サンプリングされる一の従動歯車の回転角度は、当該一の従動歯車と主動歯車との関係だけで決まり、他の従動歯車の影響を受けない。これに対して、サンプリングされる2つの従動歯車の回転角度に基づき算出される主動歯車の仮回転角度から逆算して求められる2つの従動歯車の回転角度は、互いの影響を受ける値である。
【0020】
そこで、本発明によるように、サンプリングされる従動歯車の回転角度と、主動歯車の仮回転角度から逆算して得られる従動歯車の回転角度との相関を取ることにより、サンプリングされる2つの従動歯車の回転角度について部分的に大きなばらつきがある場合であれ、その影響を緩和することが可能になる。このため、主動歯車と2つの従動歯車との位置関係にかかわらず、サンプリングされる従動歯車の回転角度と、これら回転角度に基づき算出される主動歯車の仮回転角度から逆算される従動歯車の回転角度との関係に基づき求められる第1及び第2の回帰直線(回帰式)の精度が確保される。したがって、これら回帰直線とサンプリングされた従動歯車の回転角度との比較を通じて求められる補正データの精度も確保される。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の回転角度検出装置の初期設定方法において、前記主動歯車の仮回転角度は、サンプリングされる一の従動歯車の回転角度にのみ基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度と、同じく他の従動歯車の回転角度にのみ基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度との平均値を使用して求められることをその要旨とする。
【0022】
本発明によれば、サンプリングされる一の従動歯車の回転角度にのみ基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度と、同じく他の従動歯車の回転角度にのみ基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度との平均値が求められる。これにより、逆算される主動歯車の仮回転角度は、サンプリングされる従動歯車の回転角度のばらつきの影響が緩和されたものとなる。当該影響が緩和された主動歯車の仮回転角度から逆算されて得られる従動歯車の回転角度についてもサンプリングされる従動歯車の回転角度のばらつきの影響が緩和されたものとなる。したがって、このばらつきの影響が緩和された主動歯車の仮回転角度から逆算される従動歯車の回転角度と、サンプリングされる従動歯車の回転角度との関係に基づき回帰直線を求めることにより、当該回帰直線の精度のいっそうの向上が図られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、初期設定作業の簡素化を図りつつ、しかも当該作業精度に依存することなく回転角度検出装置の検出誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】回転角度検出装置の平断面図。
【図2】図1の1−1線断面図。
【図3】回転角度検出装置の電気的な構成を示すブロック図。
【図4】第1及び第2の従動歯車の回転角度(電気角)と主動歯車の回転角度(機械角)との関係を示すグラフ。
【図5】回転角度検出装置の初期設定の処理手順を示すフローチャート。
【図6】(a)は、初期設定作業時において、主動歯車を正回転させたときの仮舵角から逆算して得られた第1の従動歯車の回転角度と、同じくこのときの第1の従動歯車の回転角度(電気角)との関係を示すグラフ、(b)は、初期設定作業時において、主動歯車を正回転させたときの仮舵角から逆算して得られた第2の従動歯車の回転角度と、同じくこのときの第2の従動歯車の回転角度(電気角)との関係を示すグラフ。
【図7】(a)は、初期設定作業時において、主動歯車を逆回転させたときの仮舵角から逆算して得られた第1の従動歯車の回転角度と、同じくこのときの第1の従動歯車の回転角度(電気角)との関係を示すグラフ、(b)は、初期設定作業時において、主動歯車を逆回転させたときの仮舵角から逆算して得られた第2の従動歯車の回転角度と、同じくこのときの第2の従動歯車の回転角度(電気角)との関係を示すグラフ。
【図8】ステアリングシャフトの回転角度の演算手順を示すフローチャート。
【図9】(a)は、2つの従動歯車の回転角度(電気角)と主動歯車の回転角度(機械角)との関係について、その実波形及び理想波形をそれぞれ示すグラフ、(b)は、従来の初期設定方法による主動歯車の回転角度の補正例を説明するための、2つの従動歯車の回転角度(電気角)と主動歯車の回転角度(機械角)との関係を示すグラフ。
【図10】理想的な主動歯車の回転角度の補正例を説明するための、2つの従動歯車の回転角度(電気角)と主動歯車の回転角度(機械角)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を、ステアリングの操舵角を検出する回転角度検出装置に具体化した一実施の形態を図1に基づいて説明する。
<機械的な構成>
まず回転角度検出装置の機械的な構成を概略的に説明する。図1に示すように、回転角度検出装置11は、図示しないステアリングに一体回転可能に連結されたステアリングシャフト12に装着されている。回転角度検出装置11は、ステアリングシャフト12の周囲の図示しないステアリングコラム等の構造体に固定される箱体状のハウジング13を備えている。このハウジング13内には、ステアリングシャフト12に一体回転可能に外嵌された主動歯車14が収容されるとともに、当該主動歯車14に噛合する第1及び第2の従動歯車15,16が回転可能に支持されている。第1及び第2の従動歯車15,16の歯数は互いに異なる。したがって、ステアリングシャフト12が回転すると、主動歯車14は一体的に回転し、これに伴い第1及び第2の従動歯車15,16もそれぞれ回転する。第1及び第2の従動歯車15,16は歯数が異なっているので、主動歯車14の回転角度に対する第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度はそれぞれ異なる。また、第1及び第2の従動歯車15,16には、第1及び第2の磁石(永久磁石)17,18が一体回転可能に設けられている。
【0026】
図2に示すように、第1及び第2の磁石17,18は、第1及び第2の従動歯車15,16の下部に形成された開口部を介して下方を臨むように設けられている。また、ハウジング13の内部において、第1及び第2の従動歯車15,16の下方には、プリント基板19が第1及び第2の従動歯車15,16の回転中心軸に対して直交するように配設されている。そして、当該プリント基板19の上面には、第1及び第2の磁気センサ20,21が第1及び第2の磁石17,18に対向するように配設されている。また、ハウジング13の内部おいて、プリント基板19の下方には、他のプリント基板22がプリント基板19に対して直交するように配設されている。そして、当該プリント基板22の表面には、マイクロコンピュータ23が設けられている。
【0027】
<電気的な構成>
つぎに、回転角度検出装置11の電気的な構成を説明する。図3に示すように、回転角度検出装置11は、前述した第1及び第2の磁気センサ20,21、並びにマイクロコンピュータ23に加えて、電源回路24を備えている。電源回路24は図示しない車両のバッテリから入力される電圧を、第1及び第2の磁気センサ20,21、並びにマイクロコンピュータ23等の回転角度検出装置11の各部に応じた所定レベルの電圧に変換し、それら変換した電圧を回転角度検出装置11の各部に供給する。第1及び第2の磁気センサ20,21、並びにマイクロコンピュータ23等はそれぞれ電源回路24から安定して供給される所定レベルの電圧を動作電源として動作する。
【0028】
第1及び第2の磁気センサ20,21は、それぞれ四つの異方性磁気抵抗素子(AMR素子)をブリッジ状に接続した回路を備えている。この異方性磁気抵抗素子は、異方性磁気抵抗効果を有するNi−Co等の強磁性体からなり、その抵抗値は印加される磁界の向きに応じて変化する。そして、第1及び第2の磁気センサ20,21は、それらに印加される磁界の向きの変化に応じて前記ブリッジ状の回路の中点電位を磁束の検出信号として出力する。
【0029】
第1の磁気センサ20は、第1の従動歯車15の回転に伴う第1の磁石17からの磁界の方向変化を検出し、第1の従動歯車15の回転角度αに応じて連続的に変化するアナログ信号、すなわち正弦関数に準ずる正弦信号及び余弦関数に準ずる余弦信号をそれぞれ生成する。また、第2の磁気センサ21は、第2の従動歯車16の回転に伴う第2の磁石18からの磁界の方向変化を検出し、第2の従動歯車16の回転角度βに応じて連続的に変化するアナログ信号、すなわち正弦関数に準ずる正弦信号及び余弦関数に準ずる余弦信号をそれぞれ生成する。
【0030】
マイクロコンピュータ23は、CPU(中央処理装置)25、EEPROM(電気的に書き換えできるROM)26及びRAM(書き込み読み出し専用メモリ)27等を備えている。
【0031】
EEPROM26には、回転角度検出装置11を統括的に制御するための各種の制御プログラム及びデータが予め格納されている。RAM27は、EEPROM26に格納された制御プログラムを展開してCPU25が各種処理を実行するためのデータを一時的に記憶する作業領域である。
【0032】
EEPROM26に格納される制御プログラムとしては、例えば補正データ演算プログラム及び回転角度演算プログラムがある。補正データ演算プログラムは、主動歯車14と第1及び第2の従動歯車15,16との間のバックラッシに起因する主動歯車14の回転角度θの検出誤差、正確には、第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを補正するための角度データを求めるプログラムである。当該補正データ演算プログラムは、回転角度検出装置11の組み立て初期段階において実行され、当該プログラムにより算出された補正データは、EEPROM26に格納される。また、回転角度演算プログラムは、第1及び第2の磁気センサ20,21において生成されるアナログ信号に基づき第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを求め、これら回転角度α,βに基づきステアリングシャフト12の回転角度θを絶対値で求めるプログラムである。
【0033】
CPU25は、角度演算部28及び補正データ演算部29を備えている。補正データ演算部29は、回転角度検出装置11の組み立て初期段階において、EEPROM26に格納された補正データ演算プログラムに従って、前述の補正データを求める。この補正データの演算方法については、後に詳述する。
【0034】
角度演算部28は、EEPROM26に格納された回転角度演算プログラムに従って、ステアリングシャフト12の回転角度θを求める。
すなわち、角度演算部28は、主動歯車14の回転角度θを求めるに際して、まず第1及び第2の磁気センサ20,21からのアナログ信号を図示しないA/D変換器を通じて取得する。そして角度演算部28は、この取得されるA/D変換後の信号に基づき、第1及び第2の磁気センサ20,21の検出範囲(1周期)における第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを求める。回転角度αは、第1の磁気センサ20からの正弦信号及び余弦信号の逆正接として、また回転角度βは、第2の磁気センサ21からの正弦信号及び余弦信号の逆正接としてそれぞれ算出される。これら算出される回転角度α,βはRAM27に格納される。
【0035】
主動歯車14の実際の回転角度θの変化に対して、第1及び第2の磁気センサ20,21の検出範囲(1周期)における第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βは、図4のグラフに示されるように、のこぎり波状に変化する。当該グラフにおいて、横軸は主動歯車14の回転角度θを、縦軸は第1及び第2の磁気センサ20,21の検出範囲における第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを示す。また、本例では、第1及び第2の磁気センサ20,21の検出範囲(1周期)は180°とされている。なお、当該グラフは、主動歯車14を正回転させたときのものである。
【0036】
当該グラフに示されるように、主動歯車14の回転角度θの増大に伴い、第1及び第2の磁気センサ20,21の検出範囲における第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βは、第1及び第2の従動歯車15,16の歯数の違いに応じて、それぞれ所定の周期で直線的な立ち上がりと急峻な立ち下がりとを繰り返す。例えば主動歯車14の歯数をTA、第1の従動歯車15の歯数をTB、第2の従動歯車16の歯数をTCとした場合(TB<TC<TA)、第1及び第2の磁気センサ20,21の検出範囲をΩとする。この場合、第1の磁気センサ20の検出範囲における第1の従動歯車15の回転角度αは主動歯車14がTB*Ω/TAだけ回転する毎に、第2の磁気センサ21の検出範囲における第2の従動歯車16の回転角度βは主動歯車14がTC*Ω/TAだけ回転する毎に、それぞれ直線的な立ち上がりと急峻な立ち下がりとを繰り返す。なお、「/」は除算を、「*」は乗算を示す(以下、同じ。)。
【0037】
そしてこのように、第1及び第2の磁気センサ20,21の検出範囲における第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βの周期が異なるため、ステアリングが回転操作された場合には、当該操作角度の変化に対して、第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βの差は直線的に変化する。すなわち、ステアリングシャフト12の回転角度θと、第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βの差とは比例関係にあることから、当該回転角度α,βの差は主動歯車14の回転角度θに対して固有の値となる。したがって、当該回転角度α,βの差に基づいて主動歯車14、すなわちステアリングシャフト12の回転角度θ(絶対値)の即時検出が可能となる。
【0038】
具体的には、ステアリングシャフト12の回転角度θは、第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βの差の関数として次式のように表される。
θ=f{(α−β)} …(A)
CPU25の角度演算部28は、EEPROM26に格納された前記補正データを使用して、算出した第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを補正する。そして、角度演算部28は、補正後の回転角度α,βの差を使用して、(A)式に基づいて主動歯車14、すなわちステアリングシャフト12の回転角度θを算出する。そしてマイクロコンピュータ23は、算出した回転角度θを、車両安定性制御システム及び電子制御サスペンションシステム等の走行安定性を向上させるための種々のシステム(正確には、それらの制御装置)に送る。
【0039】
<回転角度θの検出誤差について>
ここで、前述したように、第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βには、主動歯車14と第1及び第2の従動歯車15,16との間のバックラッシに起因する誤差が含まれている。すなわち、第1及び第2の磁気センサ20,21の検出範囲における第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βの値は、実際には理論値とずれる。したがって、第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βに基づいて求められるステアリングシャフト12の回転角度θにも潜在的に誤差(舵角誤差)が存在する。
【0040】
主動歯車14と第1及び第2の従動歯車15,16との間の誤差は、これらの位置関係によって、主動歯車14が正方向へ回転したときの値と、同じく逆方向へ回転したときの値とが不均一となる。そして、回転角度検出装置11の組み立て初期段階においては、主動歯車14並びに第1及び第2の従動歯車15,16の位置関係は製品間でばらばらである。すなわち、主動歯車14を正回転させたときの誤差である正回転誤差、及び同じく逆回転させたときの誤差である逆回転誤差についても製品間で異なる。
【0041】
ここで、正回転誤差及び逆回転誤差が均等である状態が正逆両方向における誤差が最も小さくなり、また主動歯車14の回転角度θの検出誤差が最も安定する。このため、正回転誤差及び逆回転誤差が均等である状態が製品としては好ましい。そこで本例では、主動歯車14、第1及び第2の従動歯車15,16の実際の位置関係がどのような状態であれ、正回転誤差及び逆回転誤差が均等である状態にあるときの回転角度θが算出されるように、回転角度検出装置11の初期設定が行われる。
【0042】
<回転角度検出装置の初期設定方法>
つぎに、回転角度検出装置11の初期設定の処理手順を図5に示すフローチャートに従って説明する。当該フローチャートは、EEPROM26に格納された補正データ演算プログラムに従い実行される。なお、回転角度検出装置11の組み立て初期段階においては、主動歯車14、第1及び第2の従動歯車15,16の位置関係は不明である。
【0043】
回転角度検出装置11の初期設定を行うに際しては、まず回転角度検出装置11へ検査信号等の外部的なトリガ信号を与える(ステップS101)。第1及び第2の磁気センサ20,21は、当該トリガ信号を動作電源として、このとき第1及び第2の磁石17,18から発せられる磁界の方向に応じた信号(正弦信号及び余弦信号)を生成する。
【0044】
つぎに、マイクロコンピュータ23は、第1及び第2の磁気センサ20,21により生成される正弦信号及び余弦信号の逆正接を演算することにより、初期設定開始時の第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α0,β0(電気角)を求める。そして、マイクロコンピュータ23は、これら回転角度α0,β0の差に基づき、主動歯車14の仮回転角度θ0を絶対値で求める(ステップS102)。なお、この仮回転角度θ0は、最終的なものではなく、一時的に算出されるものである。
【0045】
<正転時の回帰直線算出処理>
つぎに、作業者により、主動歯車14が正方向(右回転方向)へ任意の角度だけ回転される。マイクロコンピュータ23は、このときの第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βn(電気角)を所定のサンプリング周期でそれぞれ求める(ステップS103)。
【0046】
そしてマイクロコンピュータ23は、これらサンプリングされた回転角度αn,βnを使用して主動歯車14の現在の仮回転角度θLを求める(ステップS104)。この現在の仮回転角度θLは、次式のように表される。なお、この仮回転角度θLも、最終的なものではなく、一時的に算出されるものである。
【0047】
θL=θ0+{(θα+θβ)/2} …(B)
ここで、θ0は、初期設定開始時の主動歯車14の仮回転角度、θαは第1の従動歯車15の回転角度αのみに基づき算出される主動歯車14の仮回転角度、θβは第2の従動歯車16の回転角度βのみに基づき算出される主動歯車14の仮回転角度である。なお、これら仮回転角度θα,θβは、それぞれ次式のように表される。
【0048】
θα={(TB*180)/(TA*360)}*(αn−α0) …(C)
θβ={(TC*180)/(TA*360)}*(βn−β0) …(D)
ここで、TAは主動歯車14の歯数、TBは第1の従動歯車15の歯数、TCは第2の従動歯車16の歯数である。αn,βnは、先のステップS103において主動歯車14が任意の角度だけ回転されたときの第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度である。α0,β0は、初期設定開始時の第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度である。(C)式の第1項は主動歯車14及び第1の従動歯車15の歯数比、(D)式の第1項は主動歯車14及び第2の従動歯車16の歯数比である。
【0049】
つぎに、マイクロコンピュータ23は、(B)式を使用して算出される仮回転角度θLから第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αL,βLを逆算して求める(ステップS105)。これら回転角度αL,βLは、次のように表される。
【0050】
αL={(TA*360)/(TB*180)}*θL …(E)
βL={(TA*360)/(TC*180)}*θL …(F)
ここで、所定のサンプリング周期で算出される回転角度αLと、先のステップS103においてサンプリングされる第1の従動歯車15の回転角度αn(電気角)との関係は、図6(a)のグラフで示される。当該グラフに示されるように、横軸に回転角度αLを、縦軸に回転角度αnをプロットしたとき、回転角度αLの増大に対して回転角度αnは比例的に増大する。ただし、これら回転角度αL,αnは誤差を含むので、回転角度αLの増大に対して回転角度αnは折れ線的に変化する。
【0051】
また、所定のサンプリング周期で算出される回転角度βLと、先のステップS103においてサンプリングされる第2の従動歯車16の回転角度βn(電気角)との関係は、図6(b)のグラフで示される。当該グラフに示されるように、横軸に回転角度βLを、縦軸に回転角度βnをプロットしたとき、回転角度βLの増大に対して回転角度βnは全体的には比例的に増大する。ただし、これら回転角度βL,βnも誤差を含むので、回転角度βLの増大に対して回転角度βnは折れ線的に変化する。
【0052】
つぎに、マイクロコンピュータ23は、第1の従動歯車15に係る2つの回転角度αL,αn、並びに第2の従動歯車16に係る2つの回転角度βL,βnに基づき、それぞれ回帰分析を行う。そしてマイクロコンピュータ23は、第1の従動歯車15に係る2つの回転角度αL,αnに基づき回帰直線Y1を、第2の従動歯車16に係る2つの回転角度βL,βnに基づき回帰直線Y2を求める(ステップS106)。これら回帰直線Y1,Y2は、図6(a),(b)に二点鎖線で示されるような直線になる。これら回帰直線Y1,Y2は、自身と各サンプリングポイントにおける回転角度αn,βn(実波形)との差の値が最も小さくなる理想的な直線である。
【0053】
ここで、回帰分析とは、原因となる数値である説明変数と結果となる数値である被説明変数との関連性を、統計的手法を使用して調べる方法をいう。本例において、説明変数は主動歯車14の現在の仮回転角度θLから逆算して求められる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αL,βL、被説明変数はサンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnである。このように本例では、説明変数が回転角度αL又は回転角度βLの1つだけであるので単回帰分析が行われる。ちなみに、単回帰分析を2次元のグラフに示す場合には、一般的に、説明変数をX軸、被説明変数をY軸にとる。このため、先の図6(a),(b)のグラフに示されるように、説明変数である回転角度αLは横軸(X軸)に、被説明変数である回転角度αnは縦軸(Y軸)にプロットされる。そして単回帰分析では、「被説明変数の平均値と、個々の被説明変数との差の2乗」の総和が最小になるような近似直線である回帰直線が求められる。当該回帰直線は、次の(G)式で示される一次関数である。
【0054】
Y=aX+b …(G)
ただし、a,bは定数である。またa≠0である。
<逆転時の回帰直線算出処理>
つぎに、主動歯車14を逆方向(左回転方向)へ回転させた場合について、先のステップS103〜ステップS106と同様の処理が行われる。これは、バックラッシの影響の出方が、主動歯車14を正方向へ回転させた場合と異なることが多いからである。
【0055】
すなわちまず、作業者により、主動歯車14が逆方向(左回転方向)へ任意の角度だけ回転される。マイクロコンピュータ23は、このときの第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βn(電気角)を所定のサンプリング周期でそれぞれ求める(ステップS107)。
【0056】
そしてマイクロコンピュータ23は、これらサンプリングされた回転角度αn,βnを使用して主動歯車14の現在の仮回転角度θLを求める(ステップS108)。この現在の仮回転角度θLは、先の(B)式で表される。
【0057】
つぎに、マイクロコンピュータ23は、(B)式を使用して算出される仮回転角度θLから第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αL,βLを逆算して求める(ステップS109)。これら回転角度αL,βLは、先の(E)式及び(F)式で表される。
【0058】
ここで、所定のサンプリング周期で算出される回転角度αLと、先のステップS107においてサンプリングされる第1の従動歯車15の回転角度αn(電気角)との関係は、図7(a)のグラフのようになる。当該グラフは、先の図6(a)のグラフとは、傾きが逆になる。すなわち、回転角度αLの増大に対して回転角度αnは比例的に減少する。
【0059】
また、所定のサンプリング周期で算出される回転角度βLと、先のステップS107においてサンプリングされる第2の従動歯車16の回転角度βn(電気角)との関係は、図7(b)のグラフのようになる。当該グラフは、先の図6(b)のグラフとは、傾きが逆になる。すなわち、回転角度βLの増大に対して回転角度βnは比例的に減少する。
【0060】
つぎに、マイクロコンピュータ23は、第1の従動歯車15に係る2つの回転角度αL,αn、並びに第2の従動歯車16に係る2つの回転角度βL,βnに基づき、それぞれ回帰分析を行う。そしてマイクロコンピュータ23は、第1の従動歯車15に係る2つの回転角度αL,αnに基づき回帰直線Y3を、第2の従動歯車16に係る2つの回転角度βL,βnに基づき回帰直線Y4を求める(ステップS110)。これら回帰直線Y3,Y4は、図7(a),(b)に二点鎖線で示されるような直線になる。これら回帰直線Y3,Y4は、自身と各サンプリングポイントにおける回転角度αn,βn(実波形)との差の値が最も小さくなる理想的な直線である。
【0061】
<差分平均処理>
つぎに、マイクロコンピュータ23は、差分平均処理を行う(ステップS111)。すなわち、マイクロコンピュータ23は、図6(a),(b)のグラフ及び図7(a),(b)のグラフにそれぞれ上下の矢印で示されるように、サンプリングされた第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnと、4つの回帰直線Y1〜Y4とのすべての差分を求める。そしてマイクロコンピュータ23は、これら差分値の平均値を求める。
【0062】
そしてマイクロコンピュータ23は、先のステップS111において求めた平均値を、回転角度検出装置11の実際の使用時においてサンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βの補正データΔα,ΔβとしてEEPROM26に格納して(ステップS112)、処理を終了する。
【0063】
以上で、回転角度検出装置11の初期設定は完了となる。当該初期設定が完了した以降、回転角度検出装置11が起動される度に、マイクロコンピュータ23は、EEPROM26に記憶された補正データΔα,Δβを読み出し、その読み出した値を使用してサンプリングされた回転角度αn,βnを補正する。そしてマイクロコンピュータ23は、これら補正後の回転角度を使用して主動歯車14、すなわちステアリングシャフト12の回転角度θを求める。
【0064】
<回転角度θの演算処理>
つぎに、回転角度検出装置11によるステアリングシャフト12の回転角度θの演算処理について図8に示すフローチャートに従って説明する。このフローチャートは、EEPROM26に格納された回転角度演算プログラムに従い実行される。
【0065】
回転角度検出装置11の実際の使用時(起動時)には、マイクロコンピュータ23の角度演算部28は、EEPROM26に格納された補正データΔα,Δβを読み出す。そして、角度演算部28は、当該読み出した補正データΔα,Δβを使用して第1及び第2の磁気センサ20,21からの検出信号に基づいて算出する第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを補正する。そして、角度演算部28は、この補正した回転角度α,βに基づいてステアリングシャフト12の回転角度θを求める。
【0066】
すなわち、角度演算部28は、ステアリング操作に伴って回転する第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを所定のサンプリング周期で算出する(ステップS201)。
【0067】
そして、角度演算部28は、次式(H),(I)に示されるように、ステップ201において算出した回転角度α,βに、EEPROM26に記憶されている補正データΔα,Δβを加算することにより、回転角度θの算出に実際に使用する第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αrev,βrevを求める(ステップS202)。
【0068】
αrev=α+Δα …(H)
βrev=β+Δβ …(I)
そして、次の(J)式に示されるように、角度演算部28は、ステップS202において算出した補正後の回転角度αrev,βrevを、先の(A)式に代入することにより、ステアリングシャフト12の回転角度θを絶対値で求める(ステップS203)。
【0069】
θ=f{αrev−βrev} …(J)
以上の処理により、回転角度検出装置11の起動時において主動歯車14、第1及び第2の従動歯車15,16の実際の位置関係がどの状態にある場合であれ、舵角誤差が正回転方向及び逆回転方向で均一な状態での回転角度θが得られる。このように、ステアリングの左右回転時におけるバックラッシに起因する誤差の均一化が図られるので、ステアリングシャフト12の回転角度θを、より正確に求めることができる。
【0070】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)回帰分析を利用して理想直線である回帰直線Y1〜Y4が求められるので、初期設定作業の際に主動歯車14の回転角度を厳密に管理する必要ない。このため、初期設定作業の簡素化が図られる。ひいては、タクトタイム(製品1個当たりの生産速度)の短縮にもつながる。また、当該初期設定作業の際の主動歯車14の回転精度が、検出対象であるステアリングシャフト12の回転角度θの検出精度に影響することもない。このため、回転角度検出装置11の製造業者などでなくとも、回転角度検出装置11の再キャリブレーション(調整)を行うことが可能になる。
【0071】
(2)また、補正データが加算された第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αrev,βrevは、正逆回転時における誤差が均等な状態においてサンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βに近似したものとなる。すなわち、正逆回転時における誤差が均等でなく偏りがある状態において検出される第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βに基づいて算出されたステアリングシャフト12の回転角度θに比べて、回転角度検出装置11の検出誤差は小さくなる。すなわち、初期設定作業の精度に依存することなく回転角度検出装置11の検出誤差を低減することができる。
【0072】
(3)主動歯車14を回転させたときにサンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnは、純粋に主動歯車14と、第1及び第2の従動歯車15,16それぞれとの関係だけで決まる値である。すなわち、サンプリングされる一の従動歯車の回転角度は、当該一の従動歯車と主動歯車との関係だけで決まり、他の従動歯車の誤差の影響を受けない。これに対して、サンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnに基づき算出される主動歯車14の仮回転角度θLから逆算して求められる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αL,βLは、互いの誤差の影響を受ける値である。
【0073】
このため、サンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnと、主動歯車14の仮回転角度θLから逆算して得られる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αL,βLとの相関を取ることにより、サンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnについて部分的に大きなばらつきがある場合であれ、その影響を緩和することが可能になる。したがって、主動歯車14と第1及び第2の従動歯車15,16との位置関係にかかわらず、サンプリングされる回転角度αn,βnと、主動歯車14の仮回転角度θLから逆算される回転角度αL,βLとの関係に基づき算出される回帰直線(回帰式)Y1〜Y4の精度が確保される。ひいては、これら回帰直線Y1〜Y4とサンプリングされた第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnとの比較を通じて求められる補正データΔα,Δβの精度も確保される。
【0074】
(4)サンプリングされる第1の従動歯車15の回転角度αnにのみ基づき算出される主動歯車14の仮回転角度θαと、同じく第2の従動歯車16の回転角度βnにのみ基づき算出される主動歯車14の仮回転角度θβとの平均値を使用して、主動歯車14の仮回転角度θLが求められる。これにより、主動歯車14の仮回転角度θLは、サンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnのばらつきの影響が緩和されたものとなる。当該影響が緩和された主動歯車14の仮回転角度θLから逆算されて得られる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αL,βLについてもサンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnのばらつきの影響が緩和されたものとなる。したがって、このばらつきの影響が緩和された主動歯車14の仮回転角度θLから逆算される第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αL,βLと、サンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnとの関係に基づき各回帰直線Y1〜Y4を求めることにより、これら回帰直線Y1〜Y2の精度のいっそうの向上が図られる。
【0075】
(5)CPU25には、初期設定段階において補正データΔα,Δβを演算してEEPROM26に格納する補正データ演算手段として機能する補正データ演算部29を備えた。補正データΔα,Δβの演算を補正データ演算部29で行うことにより、回転角度検出装置11の初期設定を例えば車両のシステム側と連係して行う必要はない。このため、回転角度検出装置11の初期設定に係る処理が簡単になる。
【0076】
(6)第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを検出するための手段として、これら従動歯車と一体回転する第1及び第2の磁石17,18から発せられる磁界方向の変化に応じた検出信号を生成する第1及び第2の磁気センサ20,21を採用した。これにより、回転角度検出装置11の構成の簡素化が図られる。
【0077】
すなわち、第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを、例えば光学式のロータリエンコーダを使用して求めることも可能である。しかし、ロータリエンコーダは、検出対象である回転体(ここでは、第1及び第2の従動歯車15,16)と一体回転するスリット円板、並びに当該円板をその厚み方向において挟み込むように配設される発光素子及び受光素子等が必要となる。このため、ロータリエンコーダを採用した場合には、部品点数の低減、ひいては構成の簡素化には自ずと限界がある。なお、構成の簡素化の点で問題にならないのであれば、光学式のロータリエンコーダを使用して第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度α,βを求めるようにしてもよい。
【0078】
(7)EEPROM26に記憶された補正データΔα,Δβを使用して、実際にサンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の各回転角度α,βを補正するようにした。このため、主動歯車14、第1及び第2の従動歯車15,16の実際の位置関係がどうであれ、バックラッシに起因する誤差(舵角誤差)が正逆回転方向において均等に割り付けられるとともに、誤差特性の均一化が図られる。すなわち、主動歯車14、第1及び第2の従動歯車15,16の実際の位置関係に関わらず、回転角度θの検出誤差を低減させることができる。したがって、回転角度検出装置11を工場等で組み立てる際に、主動歯車14、並びに第1及び第2の従動歯車15,16を全て任意位置でステアリング操作角度を0°として組み付けることができる。このため、回転角度検出装置11の組み立て作業効率を向上させることができる。
【0079】
<他の実施の形態>
なお、前記実施の形態は、次のように変更して実施してもよい。
・本例では、補正データ等の各種のデータの記憶手段として、EEPROM26を使用するようにしたが、他の種類の不揮発メモリ(ROM)を使用するようにしてもよい。例えば、フラッシュメモリ、EPROM(消去及び書き込み可能なROM)等が記憶手段として採用可能である。
【0080】
・本例では、第1及び第2の磁石17,18を永久磁石としたが、通電することにより磁力(磁界)を発生する電磁石としてもよい。
・本例では、第1及び第2の磁気センサ20,21として、異方性磁気抵抗素子(AMR素子)を備えたAMRセンサを使用するようにしたが、他の磁気センサを採用するようにしてもよい。例えば、ホール素子を備えたホールセンサ、及び巨大磁気抵抗素子を備えたGMRセンサ等を使用する。ホールセンサは、第1及び第2の従動歯車15,16の回転に伴い変化する第1及び第2の磁石17,18の磁界の強度(大きさ)の変化に応じた検出信号を生成する。GMRセンサは、前記AMRセンサと同様に磁界の方向の変化に応じた検出信号を生成する。すなわち、第1及び第2の従動歯車15,16の回転に伴う第1及び第2の磁石17,18の磁界の変化に応じた出力信号を生成するセンサであれば、どのようなタイプの磁気センサであれ使用可能である。
【0081】
・本例では、補正データΔα,Δβの演算をCPU25の補正データ演算部29で行うようにしたが、回転角度検出装置11の初期設定を例えば車両の制御システムと連係して行うようにしてもよい。
【0082】
・図5のフローチャートに示される処理において、ステップS103〜ステップS106の処理群(正回転時の回帰直線算出処理)と、ステップS107〜ステップS110の処理群(逆回転時の回帰直線算出処理)との処理順序を入れ替えるようにしてもよい。
【0083】
・本例では、図5のステップS104において、仮回転角度θLは、第1の従動歯車15に係る仮回転角度θαと、同じく第2の従動歯車16に係る仮回転角度θβとの平均値を使用して求めるようにしたが、例えばこれら仮回転角度θα,θβのいずれか一方のみ使用して、仮回転角度θLを求めるようにしてもよい。このようにしても、初期設定作業時に主動歯車14の回転角度を厳密に管理する必要はなく、またトータル的には、回転角度検出装置11の検出誤差の低減が図られる。
【0084】
・本例では、サンプリングされる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnと、主動歯車14の仮回転角度θLから逆算して得られる第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αL,βLとの相関に基づき、各回帰直線Y1〜Y4を得るようにしたが、次のようにしてもよい。すなわち、サンプリングされる複数のデータ群、すなわち第1及び第2の従動歯車15,16の回転角度αn,βnに基づく回帰分析を通じて各回帰直線Y1〜Y4を求めるようにしてもよい。このようにしても、初期設定作業時に主動歯車14の回転角度を厳密に管理する必要はなく、またトータル的には、回転角度検出装置11の検出誤差の低減が図られる。
【0085】
・本実施の形態では、回転角度検出装置11をステアリングシャフト12の回転角度θを検出するために使用したが、例えばエンジンのクランクシャフト、産業用ロボットのアーム部等の他の回転体(検出対象)の回転角度を求めるために使用してもよい。
【0086】
<他の技術的思想>
次に、前記実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の回転角度検出装置の初期設定方法を通じて算出される前記補正データが記憶される記憶手段と、前記記憶手段に記憶された補正データを実際にサンプリングされる2つの従動歯車の回転角度に加算するとともに、当該加算後の回転角度に基づいて前記検出対象の回転角度を求める制御手段と、を備えた回転角度検出装置。
【0087】
回転角度検出装置の実際の使用時には、制御手段は、記憶手段に予め記憶された補正データが、サンプリングされる2つの従動歯車の実際の回転角度に加算され、それら加算された後の値(角度)に基づいて検出対象の回転角度が求められる。前記補正データが加算された2つの従動歯車の回転角度は、主動歯車と2つの従動歯車との間のバックラッシに起因する正逆回転時における誤差が均等な状態において検出される2つの従動歯車の回転角度に近似したものとなる。すなわち、主動歯車と2つの従動歯車との間のバックラッシに起因する正逆回転時における誤差が均等でなく偏りがある状態において検出される2つの従動歯車の回転角度に基づいて算出された検出対象の回転角度に比べて、検出誤差は小さくなる。したがって、検出対象の回転角度は、より正確に検出される。
【0088】
(ロ)前記(イ)項に記載の回転角度検出装置において、前記制御手段は、初期設定段階において前記補正データを演算して前記記憶手段に格納する補正データ演算手段を備えた回転角度検出装置。
【0089】
この思想によれば、補正データの演算を回転角度検出装置の補正データ演算手段で行うことが可能となる。このため、回転角度検出装置の初期設定を、例えば他のコンピュータシステム等と連係して行う必要はない。したがって、回転角度検出装置の初期設定作業の簡素化が図られる。
【0090】
(ハ)前記(イ)項又は前記(ロ)項に記載の回転角度検出装置において、前記2つの従動歯車の回転角度を検出する検出手段は、前記2つの従動歯車に一体回転可能に設けられる磁石と、前記磁石に対向して配設されるとともに当該磁石から発せられる磁界の方向の変化又は磁界の強度の変化に応じた検出信号を生成する磁気センサと、を備えた回転角度検出装置。
【0091】
この思想によれば、2つの従動歯車の回転に伴う磁石から発せられる磁界方向の変化又は磁界強度の変化が前記磁気センサにより検出されるとともに、当該磁気センサは前記磁界方向の変化又は磁界強度の変化に応じた検出信号を生成する。そして、制御手段は、磁気センサにおいて生成される検出信号、及び記憶手段に記憶された補正データに基づいて、検出対象の回転角度を求める。このように、2つの従動歯車の回転角度の検出を、磁気センサを通じて行うことにより、回転角度検出装置の構成の簡素化が図られる。
【0092】
(ニ)検出対象と一体的に回転する主動歯車に歯数の異なる2つの従動歯車を噛合させて前記主動歯車の回転に伴う前記2つの従動歯車の回転角度をそれぞれ検出し、これら検出した回転角度に基づいて前記検出対象の回転角度を求める回転角度検出装置の初期設定方法であって、前記主動歯車を正方向へ回転させたときにサンプリングされる前記2つの従動歯車の回転角度と、これら回転角度に基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度から逆算される前記2つの従動歯車の回転角度との関係に基づき、第1及び第2の回帰直線を求める段階と、前記主動歯車を逆方向へ回転させたときにサンプリングされる前記2つの従動歯車の回転角度と、これら回転角度に基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度から逆算される前記2つの従動歯車の回転角度との関係に基づき、第3及び第4の回帰直線を求める段階と、前記第1〜第4の回帰直線と、前記主動歯車を正逆両方向へ回転させたときにサンプリングされる2つの従動歯車の各回転角度との差分の平均値を求める段階と、前記検出対象の回転角度を求めるに際して実際にサンプリングされる2つの従動歯車の回転角度に加算される補正データとして前記平均値を記憶する段階と、を備えた回転角度検出装置の初期設定方法。
【0093】
この思想によれば、請求項1及び請求項2と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0094】
11…回転角度検出装置(検出対象)、14…主動歯車、15…第1の従動歯車、16…第2の従動歯車、17…第1の磁石、18…第2の磁石、20…第1の磁気センサ、21…第2の磁気センサ、26…EEPROM(記憶手段)、29…補正データ演算部(補正データ演算手段)、Y1〜Y4…回帰直線、α…第1の従動歯車の回転角度、β…第2の従動歯車の回転角度、θ…主動歯車の回転角度、θα,θβ,θL…主動歯車の仮回転角度、Δα,Δβ…補正データ(平均値)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象と一体的に回転する主動歯車に歯数の異なる2つの従動歯車を噛合させて前記主動歯車の回転に伴う前記2つの従動歯車の回転角度をそれぞれ検出し、これら検出した回転角度に基づいて前記検出対象の回転角度を求める回転角度検出装置の初期設定方法であって、
前記主動歯車を正方向及び逆方向へ回転させたときにそれぞれサンプリングされる前記2つの従動歯車の回転角度に基づく回帰分析を通じて4つの回帰直線を求める段階と、
前記各回帰直線と、サンプリングされた2つの従動歯車の各回転角度との差分の平均値を求める段階と、
前記検出対象の回転角度を求めるに際して実際にサンプリングされる2つの従動歯車の回転角度に加算される補正データとして前記平均値を記憶する段階と、を備えた回転角度検出装置の初期設定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の回転角度検出装置の初期設定方法において、
前記回帰直線を求める段階は、前記主動歯車を回転させたときにサンプリングされる前記2つの従動歯車の回転角度と、これら回転角度に基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度から逆算される前記2つの従動歯車の回転角度との関係に基づき、前記各回帰直線を求める段階である回転角度検出装置の初期設定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の回転角度検出装置の初期設定方法において、
前記主動歯車の仮回転角度は、サンプリングされる一の従動歯車の回転角度にのみ基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度と、同じく他の従動歯車の回転角度にのみ基づき算出される前記主動歯車の仮回転角度との平均値を使用して求められる回転角度検出装置の初期設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−252840(P2011−252840A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128017(P2010−128017)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】