説明

回転角度検出装置

【課題】回転角度検出装置の部品点数を削減できると共に、検出回路の出力信号の誤差要因が少なくなるため、ロジック回路や増幅回路を簡略化でき、回転角度検出装置のコストダウンを達成する。
【解決手段】コイル及び抵抗体からなる検出素子部を含む検出回路と、コイルのインダクタンスを被測定回転体の回転に応じて変化させるインダクタンス変化手段とを有する角度検出手段を備え、さらに検出回路に出力信号を発生させるための基準パルス電圧発生手段と、検出回路の出力信号を演算する演算手段とを備えている回転角度検出装置であって、演算手段は、基準パルス電圧発生手段で発生した基準パルス電圧を前記検出回路に入力した際に生じる過渡現象的出力電圧を所定時間積分して積分値を求め、該積分値に基づいて前記被測定回転体の回転角度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体に取り付けてこの回転体の回転角度を検出するのに好適に利用可能な回転角度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のステアリングシャフトなどの回転シャフトに取り付けてこのシャフトと一体になったハンドルの回転角度を検出するのにいわゆる回転角度検出装置が使用される。
【0003】
かかる回転角度検出装置の一例として、ロータに対して固定コアを所定間隔隔てて対向配置したものがある。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この回転角度検出装置は、特許文献1に示すように、回転するシャフトに取り付けられるロータと、絶縁磁性材からなるコア本体及びコア本体内に収容される少なくとも1つの励磁コイルを有する固定コアと、回転角度検出部を備えている。なお、励磁コイルは、2個の励磁コイルからなり、それぞれロータの周方向に例えば90度などの所定の中心角度をなして配置されている。また、固定コアは、シャフトの近傍に位置する固定部材に取り付けられ、それぞれ交流磁界の遮蔽性を有する金属又は絶縁磁性材からなるケースにロータと共に収納されている。
【0005】
ロータは、絶縁磁性材のロータ取り付け部及びこれと支持部を介して連結され周方向にわたって幅が連続的に変化するロータシールド部材とからなる。なお、ロータシールド部材は、幅が最小の幅狭部と、この幅狭部と半径方向反対側に幅が最大の幅広部とを有した導電性を有する金属からなり、ロータの回転角度に対応してロータシールド部材の半径方向の幅が変化するように形成され、交流磁界によって回転に伴う幅に対応した大きさの渦電流が誘起されるようになっている。そして、このような構成の回転角度検出装置を用いて、この渦電流の発生に伴う励磁コイルのインピーダンス変動を利用してロータの回転角度を検出するようになっている。
【特許文献1】特開2003−202240号公報(第4−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、本発明の先行技術における回転角度検出装置の角度検出の方法について図8に基づいて説明する。この回転角度検出装置の回路ブロック図は、図8に示す構成を有している。この構成は特許文献1(特開2003−202240号公報)の図5とほぼ同様の構成である。
【0007】
具体的には、この回路ブロック図において、図8の下部に示される発振回路201で矩形状の基準パルス電圧P1を発生させる。この発振回路201で発生した基準パルス電圧P1は2つの位相シフト検出回路210,220にそれぞれ供給され、位置検出用の基本信号として使用される。
【0008】
位相シフト検出回路210は、図8に示すように、ロータシールド部材の周方向一方に対向配置された励磁コイルと回路基板上に実装されたコンデンサ、排他的論理和ゲート211、及び積分回路212により構成され、排他的論理和ゲート211には、発振回路201から直接加えられたa11点の基準パルス電圧P1と励磁コイルを通過したa12点の電圧が印加されるようになっている。そして、これらのa11点とa12点の電圧の排他的論理和が排他的論理和ゲート211で取られてa13点の電圧となり、これを積分回路212で積分してa14点のアナログ出力信号を得るようになっている。その後、a14点のアナログ出力信号はアンプ213で増幅されてa15点のアナログ出力信号となる。
【0009】
同様に、別の位相シフト位相検出回路220も、ロータシールド部材の周方向他方に対向配置された励磁コイルと回路基板上に実装されたコンデンサ、排他的論理和ゲート221、及び積分回路222により構成され、排他的論理和ゲート221には、発振回路201から直接加えられたb11点の基準パルス電圧P1と励磁コイルを通過したb12点の電圧が印加されるようになっている。そして、これらのb11点とb12点の電圧の排他的論理和が排他的論理和ゲート221で取られてb13点の電圧となり、これを積分回路222で積分してb14点のアナログ出力信号を得るようになっている。その後、b14点のアナログ出力信号はアンプ223で増幅されてb15点のアナログ出力信号となる。
【0010】
そして、増幅された2つのアナログ出力信号a15及びb15はA/Dコンバータ部230に加えられ、それぞれデジタル信号である直流検出電圧として演算部240に送られ、後述するステアリングシャフトSの各角度位置を逐次検出するための位置検出信号A,B(図8では図示せず)となる。
【0011】
なお、図9は、位相シフト検出回路210に関する出力電圧のタイミングチャートを示し、(1)がa11点における出力電圧を示すタイミングチャートで、(2)がa12点における出力電圧を示すタイミングチャートで、中央部の横軸がa12点における電圧を0か1の論理値に分けるための閾値を示している。また、(3)がa13点における出力電圧を示すタイミングチャートであり、(4)がa14点における出力電圧を示すタイミングチャートである。
【0012】
同様に、図10は、位相シフト検出回路220に関する出力電圧のタイミングチャートを示し、(1)がb11点における出力電圧を示すタイミングチャートで、(2)がb12点における出力電圧を示すタイミングチャートで、中央部の横軸がb12点における電圧を0か1の論理値に分けるための閾値を示している。また、(3)がb13点における出力電圧を示すタイミングチャートであり、(4)がb14点における出力電圧を示すタイミングチャートである。
【0013】
しかしながら、このような回転角度検出装置の回路基板上にコンデンサを備えると共に排他的論理和(EX−OR)ゲートを備えた回路構成によると、温度変化による検出角度の誤差が大きくなってしまうと共に、回転角度検出部を構成する部品点数が多くなり、回路センサ自体のコスト高につながってしまう課題がある。この課題が発生する理由は、初期の特性上のバラツキや回転角度検出装置周囲の温度変化に依存する温度特性を有したコンデンサと、入力電圧に温度特性をもつ排他的論理和からなるロジックICを検出回路に使用していることであると考えられる。
【0014】
そして、このような回転角度検出装置を温度変化の激しい使用環境下で使わざるを得ない例えば車両等に装着した場合、実装されるコンデンサの初期特性のばらつきや温度変化に伴うコンデンサの出力特性のずれに基づく検出出力誤差が無視できなくなり、この要因に起因してステアリングシャフトSの回転角度検出にあたって高精度の出力特性を得られなくなる。
【0015】
本発明の目的は、少ない部品点数で構成されるにも関わらず、温度変化の激しい環境下においても広範囲の回転角度に亘って検出精度に優れた回転角度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するために、本発明にかかる回転角度検出装置は、
コイルおよび抵抗体からなる検出素子部を含む検出回路と、前記コイルのインダクタンスを被測定回転体の回転に応じて変化させるインダクタンス変化手段とを有する角度検出手段を備え、さらに前記検出回路に出力信号を発生させるための基準パルス電圧発生手段と、前記検出回路の出力信号を演算する演算手段とを備えている回転角度検出装置であって、
前記演算手段は、前記基準パルス電圧発生手段で発生した基準パルス電圧を前記検出回路に入力した際に生じる過渡現象的出力電圧を所定時間積分して積分値を求め、該積分値に基づいて前記被測定回転体の回転角度を検出することを特徴としている。
【0017】
本発明にかかる回転角度検出装置は、抵抗とコイルとコンデンサを組み合わせたRLC回路を検出素子部として備えることなく、抵抗とコイルを組み合わせたRL回路からなる検出素子部を含む検出回路を角度検出手段に備えた構成を有し、基準パルス電圧発生器で発生した基準パルス電圧を検出回路のコイルを通じて放電させ、この放電波形(過渡現象的波形)を演算手段で積分して、その積分値の変化を回転角度の検出情報としている。
【0018】
これによって、初期の特性上のバラツキや温度特性による出力信号の誤差要因となりうるコンデンサを検出素子部に使用しなくて済むようになり、回転角度検出装置周囲の温度変化による回転角度誤差を小さくできる。その結果、例えば、車両等の温度変化の激しい環境下において回転角度検出装置を装着した場合であっても、安定した精度で回転角度を検出できる。
【0019】
また、検出回路の検出素子部にコンデンサを使用しないことで回転角度検出装置の部品点数を削減できると共に、検出回路の出力信号の誤差要因が少なくなるため、ロジック回路や増幅回路を簡略化または省略でき、回転角度検出装置のコストダウンを達成できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、少ない部品点数で構成されるにも関わらず、温度変化の激しい環境下においても広範囲の回転角度に亘って検出精度に優れた回転角度検出装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態にかかる回転角度検出装置を図面に基いて説明する。なお、この説明においては自動車のステアリング装置においてこの回転角度検出装置をステアリングシャフトに取り付けてハンドルの回転角度を検出する場合について説明する。
【0022】
本発明の一実施形態にかかる回転角度検出装置1は、図1に示すように、測定すべき回転体であるステアリングシャフトS(以下、単に「シャフトS」とする)に嵌め込まれかつ外周部に第1歯車11と噛合する歯車部10aを備えたロータ10と、第1歯車11と同心をなし一体に回転する第2歯車12と、第2歯車12と噛合する第3歯車13と、ロータ10及び第1歯車11乃至第3歯車13を回転可能に支持する下ケース21と、下ケース21と嵌合して箱状のケース20をなす上ケース(図示せず)と、本発明に係る回転角度検出を行う回転角度検出部30を備えている。
【0023】
ロータ10は、強度と成型性に優れた合成樹脂でできている。ロータ10の周囲には例えば板厚0.5mm程度の板状のロータシールド部材15が配置されている。このロータシールド部材15の内周側所定位置から支持部15aがロータ10の回転軸方向へ延在した状態でロータ10に取り付けられている。または、ロータ10の周囲所定位置から支持部15aが延在し、板状のロータシールド部材15がこの支持部15aを介してロータ10の周囲にリング状に備わっている。なお、ロータシールド部材15は、真鍮、銀、アルミニウム、銅などの導電性部材でできており、本実施形態では周方向に120度ずつその幅が例えば2mmから5mmまで規則的に変化するようになっている。
【0024】
また、図示しない上ケースと下ケース21は、強度に優れかつ交流磁界の遮蔽性を有する金属又は絶縁磁性材からなる遮蔽材でできており、上ケースと下ケース21とが協働して箱体をなしてロータ10やロータシールド部材15、第1歯車11乃至第3歯車13を収容するようになっている。また、下ケース21には、回転角度検出装置1に電力を供給したり、回転角度検出装置1の検出信号を外部に伝達したりするためのコネクタ(図示せず)が備わっている。
【0025】
また、上ケース及び下ケース21には、図1に示すように、2つの対のコイル部材50,60が設けられている。各対のコイル部材50,60は、一方の対のコイル部材50が回転軸に垂直な面の周方向所定の角度をなして配置されたコイル部材51,52からなり、このコイル部材51,52はそれぞれロータ10のロータシールド部材15の回転軸に垂直な面に対して所定間隔隔てて対向配置するように取り付けられている。ここで、ロータシールド部材15とコイル部材50(51,52)との位置関係は、前述の特許文献1(特開2003−202240号公報)の図14および図16に示されている位置関係とほぼ同様である。
【0026】
なお、ロータシールド部材15とコイル部材51,52が協働して第1の角度検出手段を構成している。このロータシールド部材15は、コイル部材50,60のコイルのインダクタンスを、被測定回転体であるロータ10の回転に応じて変化させるインダクタンス変化手段に相当する。ここで、前述のように周方向に120度ずつロータシールド部材15の幅を変化させることで、ロータ10の実際の回転角度に対するコイル部材50からの検出信号の変化を大きくとるようにしている。
【0027】
また、他方の対のコイル部材60も回転軸に垂直な面の周方向所定の角度をなして配置されたコイル部材61,62からなり、このコイル部材61,62もそれぞれロータ10のロータシールド部材15の回転軸に垂直な面に対して所定間隔隔てて対向配置するように取り付けられている。ロータシールド部材15とコイル部材61,62が協働して、前述のロータシールド部材15とコイル部材51,52で構成される第1の角度検出手段と同様の手段を構成している。このように第1の角度検出手段を構成することで、角度検出手段の冗長系を構成することも可能である。
【0028】
この2組のコイル部材50,60は、図1に示すように、後述するそれぞれのコイル部材に関して各位相シフト量の出力値が互いに30度ずれるように(前記インダクタンス変化手段による出力が異なる位置に)それぞれのコイル部材50,60がロータシールド部材15の周方向に関して所定の角度で取り付けられている。コイル部材50,60は、図1に示すように、各外周縁が図1に示す平面視でいわゆる陸上競技のトラック形状をなしている。
【0029】
このように一方の対のコイル部材50と他方の対のコイル部材60を2組配置した理由は、一方の対のコイル部材50の出力信号と他方の対のコイル部材60の出力信号を比較して回転角度検出装置1の異常検知を迅速に行ったり、ロータシールド部材15の周方向一部に備わった支持部15aの部分で形成される回転角度検出不能領域を回転角度検出時に互いに補完したりするためである。
【0030】
本実施の形態においては、後述するようにロータシールド部材15の一周期が120度であるが、30度だけ位相がずれるように一方の対のコイル部材50(51,52)を配置すると共に、同様に周方向所定の角度だけずらして他方の対のコイル部材60(61,62)を配置している。なお、一方の対のコイル部材50と他方の対のコイル部材60とは基本的構成が共通するので、以下の材質や構造に関する説明では一方の対のコイル部材50(51,52)についてのみ行う。
【0031】
コイル部材50は、プラスチックマグネット(例えばPPS(ポリフェニレンスルフィド)にMn−Zn系軟磁性フェライトを混入した混合軟磁性材等)などの絶縁性の軟磁性材でできたコア本体と、コア本体の外周部に沿って形成されたトラック状の内周溝に巻回されてコア本体内に収容された励磁コイルとを備えている。
【0032】
また、コイル部材50の励磁コイル同士はロータシールド部材15を挟んで対向するようになっており、かつそれぞれ直列に接続され、ケース内でここでは回転角度検出部30の搭載されたプリント基板の導体パターンに電気的に接続されている。そして、対向する励磁コイルに交流励磁電流が流されることで周囲に交流磁界を形成し、それぞれ対となっているコア本体間でロータシールド部材の回転軸に垂直な面に対して交流磁界を交差させている。
【0033】
そして、コイル部材50から発生した交流磁界によって導電性部材のロータシールド部材15には渦電流が発生するが、ロータ10の回転に応じたロータシールド部材15の幅の変化に対応してこの発生した渦電流が変化し、これに基づくインピーダンス変動を検出して各コイル部材50がロータ10の回転角度を120度周期で検出するようになっている。
【0034】
なお、コイル部材50が各組ごとにロータシールド部材15を挟んで対向配置される理由は、振動等によりロータ10の位置がシャフトSの軸方向に変動すると、これに伴い各々のコイル部材50からの出力も変動するが、ロータシールド部材15を挟んで一側に配置されてコイル部材からの出力が増加した分、ロータシールド部材15を挟んで他側に配置されたコイル部材からの出力は減少するので、対向する2つのコイル部材からの出力を検出すれば各々のコイル部材50の出力変動を相殺できるからである。
【0035】
そして、まず、例えば一方のコイル部材50の各励磁コイルに交流励磁電流が流されると、コイル部材51,52の各励磁コイルは周囲に交流磁界を形成し、このとき、磁界がロータシールド部材15を横切ると、ロータシールド部材15の表面には渦電流が誘起され、各励磁コイルのインピーダンスを変動させる。即ち、コイル部材51,52に対応するロータシールド部材15の面積(ロータシールド部材15の回転軸に垂直な面と直交する方向から見てロータシールド部材15のコイル部材51,52に対する投影面積、即ち「ロータシールド部材の固定コアへの投影面積」)により変動する渦電流が変化し、コイル部材50を流れる励磁コイルの電流変化として検出される。このインピーダンスの変動量は、ロータシールド部材15の表面に誘起される渦電流量の変動に対応する。
【0036】
回転角度検出装置1の回転角度検出部30は、図2の回路ブロック図に示すような回路を一部に有し、この回路に入力される信号に基づき回転角度を検出するようになっている。なお、本実施形態では、本発明の作用を特に発揮し易いロータ10、ロータシールド部材15とコイル部材50(60)との組み合わせからロータ10即ちステアリングシャフトSの回転角度を検出する方法についてのみ説明し、第3歯車13とMR素子72との組み合わせによる第3歯車13の回転角度検出方法に関しては他の実施形態において説明する。
【0037】
回転角度検出部30は、2つの検出回路110,120の出力を処理する演算手段を含んでいる。また、図2の下部に示される発振回路101を含んでおり、この発振回路101で矩形状の基準パルス電圧を発生させる。この発振回路101によって発生した基準パルス電圧は2つの検出回路110,120にそれぞれ供給されるようになっている。
【0038】
一方の検出回路110は、コイル部材51(61)の励磁コイルと抵抗から構成され、検出回路110に入力されて発生したa点の電圧をA/Dコンバータ部130でデジタル信号に変換するようになっている。
【0039】
同様に他方の検出回路120もコイル部材52(62)と抵抗から構成され、基準パルス電圧が検出回路120に入力されてb点の発生した電圧をA/Dコンバータ部130でデジタル信号に変換するようになっている。そして、2つのデジタル化された電圧は演算部140にロータ10が回転している間中回転角度位置情報検出のための信号として逐次加えられるようになっている。
【0040】
ここで、回転角度検出装置1の回転角度検出部30は、図3の回路ブロック図に示すような回路を一部に有していてもよい。図3の回路ブロック図が図2の回路ブロック図と異なる点は、2つの検出回路110,120のa点、b点の出力を強制的に放電させてGNDレベルとする放電回路111,121を含んでいる点である。この放電回路111,121は、発振回路102からのパルスにより動作するが、発振回路102からのパルスは、検出回路110,120の動作前後に発生し、検出回路110,120の動作中には発生しないようになっている。このことにより、発振回路101からのパルスにより検出回路110,120はGNDレベルから動作するため、回転角度の検出精度がより高まる効果がある。なお、放電回路111,121として、FET等の能動素子を利用することが可能である。
【0041】
本実施形態においては、図2および図3に図示される回転角度検出装置1のブロック図において、検出回路110、120の構成に特徴を有する。すなわち、検出素子部を構成する検出素子として抵抗とコイルのみを用いており、初期の特性上のバラツキや回転角度検出装置周囲の温度変化に依存する温度特性を有したコンデンサを用いていない。また、検出回路110,120には、入力電圧に温度特性をもつ排他的論理和(EX−OR)からなるロジックICを用いていない。
【0042】
このことで、検出回路の出力信号の誤差要因が少なくなり、回転角度検出装置周囲の温度変化による回転角度誤差を小さくすることができる。
【0043】
続いて、この回転角度検出の具体的な信号処理方法について説明する。本実施形態における回転角度検出方法は、いわゆる積分方式の位置検出方法となっており、検出回路を構成するコイルのインダクタンスの値の変化による過渡現象電圧変化を応用したもので、2つのコイル部材51,52の励磁コイルに現れるパルスP1の過渡現象的電圧値をマイコンの演算部140により積分してステアリングシャフトSの位置を計算するものである。
【0044】
まず、一方の検出回路110に関連した回転角度の検出方法を説明する。図4において発振回路101から基準パルス電圧P1が加えられる(タイミングチャート(1)参照)。この場合、実際にはタイミングチャート(2)に示すようにc点の電圧を監視して、信号がONになったタイミングからa点の信号を一定時間毎にサンプリングする。そして、一方のコイル部材51(61)の励磁コイルを経て現れるa点の電圧を図4のタイミングチャート(3)のように一定のサンプリング間隔でサンプリングすると共にA/Dコンバータ部130でA/D変換し、ロータ10の各回転角度における電圧を演算部140に加え、図4のタイミングチャート(4)のように演算部140で一定の積分期間Tだけ積分して積分値Aを算出し、この積分値Aに基づきステアリングの位置を後に詳述する方法により演算部140で演算するようになっている。ここで、図4のタイミングチャート(3)の波形の立ち上がりが、タイミングチャート(1)の波形の立ち上がりと同期しており、図4のタイミングチャート(3)の波形に、検出回路110の検出素子部を抵抗とコイルで構成した(コンデンサを排除した)効果が現れていることになる。また、図4のタイミングチャート(4)の波形および積分値Aにも図4のタイミングチャート(3)の波形改善の効果が現れていることになる。
【0045】
また、他方の検出回路120に関連した回転角度の検出方法についても同様に行われる。具体的には、図5において発振回路101から基準パルス電圧P1が加えられる(タイミングチャート(1)参照)。この場合、実際にはタイミングチャート(2)に示すようにc点の電圧を監視して、信号がONになったタイミングからb点の信号を一定時間毎にサンプリングする。そして、一方のコイル部材52(62)の励磁コイルを経て現れる電圧aを図5のタイミングチャート(3)のように一定のサンプリング間隔でサンプリングすると共にA/Dコンバータ部130でA/D変換し、所定のロータ回転角度における電圧を演算部140に加え、図5のタイミングチャート(4)のように演算部140で一定の積分期間Tで積分して積分値Bを算出して、この積分値Bに基づきステアリングの位置を後に詳述する方法により演算部で演算するようになっている。ここでも、検出回路110と同様、検出回路120の検出素子部を抵抗とコイルで構成した効果が現れていることになる。
【0046】
なお、c点の電圧も積分期間内に1回または複数回サンプリングしてc点電圧を示す基準パルス電圧P1の振幅を求める。そして、基準パルス電圧P1の振幅の変動をキャンセルするために、a点及びb点の電圧に基づいて求めた上述の積分値A,Bをc点における基準パルス電圧の振幅でそれぞれ割って補正する。ここで、図4のタイミングチャート(3)の波形改善および図5のタイミングチャート(3)の波形改善を図っているため、上記積分値A,Bおよびこれらの補正の値について、それぞれ理想的な値との誤差が小さくなる。すなわち、測定誤差が小さくなることになる。
【0047】
図4、図5から分かるように、特定のロータ回転角度においてはコイル部材51,52に投影するロータシールド部材15の面積が異なるので、ロータシールド部材15に発生する渦電流も異なり、これに伴ってコイル部材51,52をそれぞれ含む検出回路110,120のインピーダンスが異なって、a点、b点の電圧の積分値A,Bも常に異なるようになる。
【0048】
このようにロータ10の或る特定の角度における積分値A,Bを演算部140に入力してロータ10の回転角度毎に逐次演算部140のメモリに記憶すると、横軸がロータ即ちステアリングシャフトSの回転角度となる図6に示すような互いに位相が30度ずれた略sin波形に近似した出力SAと出力SBが得られる。即ち、本実施形態では、各コイル部材50とロータシールド部材15とが協働することで得られる位相シフト量出力信号の位相が30度ずれるようにコイル部材50をロータシールド部材15の周方向に対応させてケース20に配置しているので、上述のような信号処理によって、図6に示すように、一方のコイル部材51の位相シフト量出力値SAと他方のコイル部材52の位相シフト量出力値SBのように互いに30度位相のずれた120度周期の位相シフト量の出力値が得られる。
【0049】
このようにして得られた位相シフト量の出力値からロータ10の回転角度を120度周期で検出する方法は以下の通りである。
【0050】
図5に示すように、各コイル部材50から得られるロータ10の回転角度の出力値(SA,SB)とこれらをそれぞれ反転させた出力値(RSA,RSB)とを演算部140において重畳させる。そして、各位相シフト量検出値の大小関係からロータ10の回転角度が0度〜30度、30度〜60度、60度〜90度、90度〜120度、のいずれの範囲にあるかを判断する。そして、これら4つの位相シフト量検出値の直線部分を用いると共に、この直線部分同士をジョイント(連結)処理する。次いで、上述した4つの角度範囲の何れの角度範囲にあるかの判断結果に基づき、図7に示す120度ごとの周期で変化する鋸歯状波形の出力信号からロータ10の回転角度を120度周期で求めるようになっている。
【0051】
一方、下ケース21には、図1に示すように、第3歯車13の中心部分に第3歯車13と一体に回転する磁石71を備えるとともに、磁石71に対向する下ケース21の部分にこの磁石71の磁束を検出するMR素子(磁束検出素子)72を備えている。そして、この磁石71とMR素子72とが協働して第2の検出手段を構成している。
【0052】
MR素子72は、その検出出力がsin曲線状の検出出力とcos曲線状の検出出力として得られ、これらの検出出力をtan関数の検出出力に換算して、ここでは特に図示しないが、−112.5度〜+112.5度、即ち225度ごとの周期で変化する鋸歯状波形の出力信号として出力するようになっている。
【0053】
なお、この信号処理方法は、例えば特開2004−53444号公報において記載されているように公知である。MR素子72の検出出力の周期がこのように225度となっている理由は、本実施形態の場合、ロータ10の外周部に備わった歯数、これに噛合する第1歯車11の歯数、第1歯車11と同心をなし一体に回転する第2歯車12の歯数、第2歯車12と噛合する第3歯車13の歯数の各減速比を予め規定しておくことによる。そして、これらの歯車比の関係から、第2歯車12の回転に応じて検出されるMR素子72の検出信号の周期が225度となっている。
【0054】
このように、本実施形態にかかる回転角度検出装置1では、コイル部材50とロータシールド部材15が協働して構成する第1の検出手段から得られる第1の検出信号がロータ10の回転に対応して120度の周期で出力され(図7参照)、かつ磁石71とMR素子72が協働して構成する第2の検出手段から得られる第2の検出信号が第2歯車12の回転に対応して225度の周期で出力されるようになる。即ち、本実施形態では、被測定回転体であるシャフトSの回転に伴ってコイル部材50の出力信号が増加(減少)する場合はMR素子72の出力信号も増加(減少)するようになっている。そして、本発明にかかる回転角度検出装置1においては、ここではその算出アルゴリズムを詳細には説明しないが、これら検出信号の周期の最小公倍数である0度〜1800度(−900度〜+900度)の測定可能範囲内での絶対回転角度を求めるようになっている。
【0055】
なお、本実施形態のように固定コアはロータシールド部材の周方向に必ずしも2つだけ配置されているとは限定されず、例えば特開2003−202240号公報に記載された回転角度検出装置のように、これより多い個数の固定コアがロータシールド部材の周方向に配置されている場合であっても、本発明は適用可能である。この場合、各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相を全て互いに異ならしめるのが良い。
【0056】
また、固定コア同士は、上述した実施形態にかかる回転角度検出装置のようにロータのロータシールド部材を挟んで対向配置された固定コア対(本実施形態では詳細には図示せず)として配置されていることを必ずしも必要としない。しかしながら、各固定コア同士がロータのロータシールド部材を挟んで対向配置していることで、各固定コア対が振動に対する出力特性の変動を相殺することができ、耐振動性に優れた回転角度の検出を行うことが可能となるので、このようなロータのロータシールド部材を挟んで各固定コア同士の対向配置が好ましい配置態様と言える。
【0057】
また、本実施形態のように広範囲の回転角度を求める必要がなければ、コイル部材1組だけロータシールド部材に備えた構成の回転角度検出装置としても良い。この場合、図2に示した検出回路も本実施形態のように2組とすることなく、1組だけで済ませることができる。
【0058】
また、ロータシールド部材の支持部を導電性の材質で構成しないようにすれば、コイル部材による回転角度検出不能領域がなくなるので、コイル部材を本実施形態のように2組設けることなく、1組だけにすることができるようになる。
【0059】
以上説明したように、本発明にかかる回転角度検出装置は、抵抗とコイルとコンデンサを組み合わせたRLC回路を検出素子部として備えることなく、抵抗とインダクタンスを組み合わせた検出回路からなるRL回路を検出素子部として角度検知回路に備えた構成を有し、基準パルス電圧発生器で発生した基準パルス電圧を検出回路で放電させ、この放電波形を積分回路で積分して、その積分値の変化を回転角度の検出情報としている。
【0060】
これによって、初期の特性上のバラツキや温度特性による出力信号の誤差要因となりうるコンデンサを検出素子部に使用しなくて済むようになり、回転角度検出装置周囲の温度変化による回転角度誤差を小さくできる。その結果、例えば、車両等の温度変化の激しい環境下において回転角度検出装置を装着した場合であっても、安定した精度で回転角度を検出できる。
【0061】
また、コンデンサを検出素子部に使用しないことで回転角度検出装置の部品点数を削減できると共に、検出回路の出力信号の誤差要因が少なくなるため、ロジック回路や増幅回路を簡略化または省略でき、回転角度検出装置のコストダウンを達成できる。
【0062】
そして、本実施形態による回転角度検出装置がこのような構成を有することで、構成部品点数を削減しつつ広範囲の回転角度にわたって高い検出精度を維持できるようになる。
【0063】
なお、本実施形態における回転角度検出方法については、ロータ、ロータシールド部材、及びコイル部材の組合せによる回転角度検出方法に基づいて説明したが、本発明の作用を発揮するものであれば必ずしもこのような構成要素の組み合わせに限定されず、回転角度検出に適していれば他の構成要素の組合せであっても良いことは言うまでもない。
【0064】
本発明にかかる回転角度検出装置は、振動の影響をかなり受け易い車両用ステアリング装置の回転角度検出に特に適している。しかしながら、本発明にかかる回転角度検出装置は、例えば、ロボットアームのように振動しながら回転する回転軸間の相対回転角度や回転トルクを求めるものであれば、どのようなものにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態にかかる回転角度検出装置の内部構造を、上カバーを取った状態で示した平面図である。
【図2】図1に示した回転角度検出装置の回転角度検出部の回路ブロック図の一例、
【図3】図1に示した回転角度検出装置の回転角度検出部の回路ブロック図の他の一例、
【図4】図1に示した一方のコイル部材に関する回転角度検出部における回転角度の検出処理の仕方を説明するタイミングチャート、
【図5】図4とは異なるコイル部材に関する回転角度検出部における回転角度の検出処理の仕方を説明するタイミングチャート、
【図6】図4及び図5でそれぞれ得られた検出出力を横軸をステアリングシャフトの回転角度とし、縦軸を各回転角度に伴う各コイル部材に対応する回転角度検出部で得られる出力を示した出力特性図、
【図7】図6の出力特性図をさらにそれぞれの出力特性を信号処理して鋸刃状に出力特性とした図であり、横軸がステアリングシャフトの回転角度を示し、縦軸が回転角度検出部で得られた出力を示す図、
【図8】従来の回転角度検出装置における回転角度検出部における回路ブロック図、
【図9】従来の回転角度検出装置の一方のコイル部材に関する回転角度検出部における回転角度の検出処理の仕方を説明するタイミングチャート、
【図10】図9とは異なるコイル部材に関する回転角度検出部における回転角度の検出処理の仕方を説明するタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 回転角度検出装置
10 ロータ
10a 歯車部
11 第1歯車
12 第2歯車
13 第3歯車
15 ロータシールド部材
15a 支持部
20 ケース
21 下ケース
30 回転角度検出部
50,51,52 一方の対のコイル部材
60,61,62 他方の対のコイル部材
71 磁石
72 MR素子(磁束検出素子)
101,102 発振回路
110 検出回路
111 放電回路
120 検出回路
121 放電回路
130 A/Dコンバータ部
140 演算部
201 発振回路
210,220 位相シフト検出回路
211 排他的論理和ゲート
212 積分回路
213 アンプ
221 排他的論理和ゲート
222 積分回路
223 アンプ
230 A/Dコンバータ部
240 演算部
A,B 積分値
P1 基準パルス電圧
S シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルおよび抵抗体からなる検出素子部を含む検出回路と、前記コイルのインダクタンスを被測定回転体の回転に応じて変化させるインダクタンス変化手段とを有する角度検出手段を備え、さらに前記検出回路に出力信号を発生させるための基準パルス電圧発生手段と、前記検出回路の出力信号を演算する演算手段とを備えている回転角度検出装置であって、
前記演算手段は、前記基準パルス電圧発生手段で発生した基準パルス電圧を前記検出回路に入力した際に生じる過渡現象的出力電圧を所定時間積分して積分値を求め、該積分値に基づいて前記被測定回転体の回転角度を検出することを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項2】
前記検出回路は、前記インダクタンス変化手段による出力が異なる位置に少なくとも2つ設けられていることを特徴とする、請求項1記載の回転角度検出装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記検出回路からの第1の検出信号と、前記被測定回転体の回転に応じて前記検出回路が発生する信号の周期とは異なる周期の第2の検出信号とにより前記被測定回転体の回転角度を検出することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の回転角度検出装置。
【請求項4】
コイルおよび抵抗体からなる検出素子部を含む検出回路と、前記コイルのインダクタンスを被測定回転体の回転に応じて変化させるインダクタンス変化手段とを有する角度検出手段を備え、さらに前記検出回路に出力信号を発生させるための基準パルス電圧発生手段と、前記検出回路の出力信号を演算する演算手段とを備えている回転角度検出装置を用いた回転角度検出方法であって、
基準パルスを発生させるステップと、前記検出回路が発生する前記基準パルスによる信号を前記基準パルスの幅より短い一定時間毎にサンプリングするステップと、前記サンプリングされた信号をA/D変換するステップと、前記A/D変換された信号を一定の積分期間Tだけ積分して積分値を算出するステップと、算出された積分値に基づきステアリングの角度位置を演算するステップを備えていることを特徴とする回転角度検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−139300(P2008−139300A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292633(P2007−292633)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】