説明

回転角度検出装置

【課題】回転角度の検出に用いる構成を利用して、回転体の軸ずれを検知可能とした回転角度検出装置を提供する。
【解決手段】円盤状の回転体20の回転角度を検出する回転角度検出装置において、回転体20の円盤面には、複数の溝Dを設け、回転体20が回転したとき、溝Dの有無によって変化する磁界に応じて誘起され交流電圧を生成する検出コイル32A,32B,32C,32Dを円盤面に対向して設け、検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧に基づき回転体20の回転角度を求めるとともに、回転体20の軸ずれの有無を検出する回転角度検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば自動車に搭載されるパワーステアリング装置やエアコンディショナなどでは、その駆動源となるモータとして、いわゆるブラシレスモータが使用されることが多い。このブラシレスモータは、一般に、永久磁石によって形成されるロータと、通電可能とされたコイルからなるステータとを有し、ステータに供給される電力に応じた電磁力をロータに作用させることでモータの回転軸を回転させるものである。そして、このブラシレスモータでは、通常、ロータの回転角度を検出する回転角度検出装置が設けられており、この回転角度検出装置を通じて検出されるロータの回転角度に基づいて上記ステータへの給電を制御し、これによってモータの回転軸の回転態様を制御するようにしている。
【0003】
このようなロータ、あるいは回転軸等の回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この回転角度検出装置は、回転体と一体となって回転するパルスリングと、同パルスリングの外周面に対向して配置される励磁コイル、及び励磁コイルの内側に配置される検出コイルとを有している。ここで、パルスリングは磁性材料からなる部材であって、その回転方向に所定間隔で溝が形成されている。このように構成された回転角度検出装置では、励磁コイルによってパルスリングに渦電流を発生させ、当該渦電流により発生する磁束を検出コイルによって検出する。パルスリングには、所定間隔で溝が形成されているので、パルスリングが回転すると溝の有無によって渦電流に変化が生じる。この渦電流の変化に伴い、検出コイルで検出される磁束も変化する。この回転角度検出装置では、磁束の変化に応じて変化する検出コイルに誘起される電圧に基づいて、回転体の回転角度を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−10366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の回転角度検出装置では、パルスリングが回転した際に、パルスリングに形成された溝の有無により変化する磁界を検出することによって、回転角度の角度検出を行っている。特許文献1では、この回転角度検出装置を軸受に利用しているため、回転体の軸ずれの想定はされていない。しかし、この構成の回転角度検出装置を軸ずれが起き得るもの、例えば、モータなどに適用した場合、励磁コイルとパルスリングとの距離、あるいは検出コイルとパルスリングとの距離が変化することが想定される。検出コイルに誘起される電圧は、励磁コイルとパルスリングとの距離、あるいは検出コイルとパルスリングとの距離が変化することによっても変化する。このような状況では、検出コイルに誘起される電圧の変化が、軸ずれによるものであるのか、パルスリングの回転に伴う溝の有無の検出によるものであるのかが不明となるおそれがある。従って、これを解消するためには、回転体の軸ずれを検知する他のセンサを設ける必要があった。しかし、他のセンサを設けることは、部品点数の増加を招く。そこで、回転体の軸ずれを検出できる回転角度検出装置の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、こうした実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、回転角度の検出に用いる構成を利用して、回転体の軸ずれを検知可能とした回転角度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、検出対象と一体回転する円盤状の回転体の回転角度を検出対象の回転角度として検出する回転角度検出装置において、前記回転体の円盤面には、複数のマークをその回転方向に角度間隔をおいて設け、前記回転体が回転したとき、前記マークの有無によって変化する前記回転体から発せられる磁界に応じた信号を生成する複数のセンサを前記円盤面に対向して設け、前記センサにより生成される信号に基づき前記回転体の回転角度を求めるとともに、前記回転体の軸ずれの有無を検出することを要旨とする。
【0008】
同構成によれば、円盤面に対向する複数のセンサを設けることにより、同センサは、回転体の軸ずれを検出することができる。また、この円盤面には径方向へ延びるマークが形成されている。センサは、このマークの有無の検出によって回転体の回転角度を検出する。さらに、センサは、回転体が軸ずれした場合には、センサとマークとの対向する位置関係が変化することにより、その軸ずれを検出することができる。すなわち、本構成によれば、回転体の回転角度を検出するのに必要な構成により、回転体の軸ずれを検出することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の回転角度検出装置において、前記回転体の第1の円盤面には、複数のマークを第1の角度間隔で設け、前記第1の円盤面と反対側の第2の円盤面には、複数のマークを前記第1の角度間隔とは異なる第2角度間隔で設け、前記センサは、前記第1及び第2の円盤面にそれぞれ複数個が対向して設けられてなることを要旨とする。
【0010】
同構成によれば、回転角度検出装置は、回転体の第1及び第2の円盤面に設けられる複数のマークの角度間隔が異なるため、双方から回転角度を検出することができる。このため、この回転角度検出装置では、回転体の1周(360°)における絶対角の算出が可能になる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の回転角度検出装置において、前記第1及び第2の円盤面に対向する前記センサは、それぞれ前記回転体の回転軸を挟んで互いに反対側に2つ設けられることを要旨とする。
【0012】
同構成によれば、回転体の回転軸が傾く軸ずれの場合、一方のセンサと回転体とが近接するとき、他方のセンサと回転体とは離間する。従って、一方のセンサには強い磁界が付与され、他方のセンサには弱い磁界が付与されることとなる。すなわち、同じ円盤面に対向する2つのセンサに付与される磁界の強さが異なる。このように、同じ円盤面に対向する2つのセンサが、回転体の回転軸を挟んで反対側に設けることによって、回転体の回転軸が傾く場合における軸ずれを、容易に検出することがきできる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の回転角度検出装置において、前記回転体の回転軸を挟んで設けられる2つのセンサの角度間隔は、円盤面に形成される溝の角度間隔と異なることを要旨とする。
【0014】
2つのセンサから出力される信号が一致する場合、片方のセンサは、回転体の軸ずれのみを検出するセンサとなる。同構成によれば、2つのセンサから出力される信号には、ずれが生じる。すなわち、これにより、同一面に形成される溝から2通りの方法でもって回転体の回転角度を検出することができるので、回転体の角度を精度良く検出することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転角度検出装置において、前記回転体が導電性材料からなるとともに、前記マークが溝又は突部からなり、前記センサは、前記回転体の円盤面に交番磁界を付与することにより同円盤面に渦電流を発生させる励磁コイルと、前記回転体の円盤面に発生した渦電流に起因して生じる磁界の変化を検出する検出コイルとを備え、前記検出コイルを通じて検出される磁界の変化に基づいて前記溝又は突部の近接を検知する渦電流探傷センサであることを要旨とする。
【0016】
同構成によれば、円筒状の導電性材料に溝を形成するのみで、回転角度の検出に適した回転体を容易に構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、回転角度の検出に用いる構成を利用して、回転体の軸ずれを検知可能とした回転角度検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における回転角度検出装置の一実施形態を示す概要図。
【図2】(a)は、同実施形態における回転体の左側の円盤面に対する渦電流探傷センサの搭載位置を示す平面図、(b)は、同実施形態における回転体の右側の円盤面に対する渦電流探傷センサの搭載位置を示す平面図。
【図3】(a)は、渦電流探傷センサの構造並びに渦電流の流れ態様を模式的に示す斜視図、(b)は、渦電流探傷センサの近傍に溝がある場合の渦電流の流れ態様を模式的に示す斜視図。
【図4】(a)は、回転体が軸ずれして同回転体と渦電流探傷センサとの距離が基準距離よりも離れた状態を示す斜視図、(b)は、回転体が軸ずれして同回転体と渦電流探傷センサとの距離が基準距離よりも近い状態を示す斜視図。
【図5】(a)は、渦電流探傷センサと回転体との距離が標準的な場合、(b)は、渦電流探傷センサと回転体との距離が離れた場合、又は渦電流探傷センサの近傍に溝がある場合、(c)は、渦電流探傷センサと回転体との距離が近づいた場合における検出コイルに誘起される交流電圧の波形を示す図。
【図6】(a)は、励磁コイルに出力する交流電圧の波形を示す図、(b)〜(e)は、検出コイルに誘起される交流電圧の波形を示す図。
【図7】制御装置に格納されて回転体の絶対角度の算出に用いられる角度対応を示す図。
【図8】同実施形態における回転体の軸ずれ態様を示す斜視図。
【図9】(a)〜(f)は、図8におけるA〜Fの各方向に回転体が軸ずれした場合の各検出コイルに誘起される交流電圧の波形を示す図。
【図10】(a)は、図8におけるE方向に回転体が軸ずれした場合の同回転体の右側円盤面の平面図、(b)は、図8におけるF方向に回転体が軸ずれした場合の同回転体の右側円盤面の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかる回転角度検出装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示されるように、ブラシレスモータ10のモータ軸11には、同モータ軸11と一体回転する回転体20が設けられている。この回転体20は導電性材料からなり円盤状をなす。図2(a)及び図2(b)に示すように、回転体20の左面(第1の円盤面)には、径方向に延びる5本の溝D(72°毎に1本)が、同じく右面(第2の円盤面)には、径方向に延びる6本の溝D(60°毎に1本)が、それぞれ形成されている。溝Dは、回転体20の左面及び右面において、回転方向に一定間隔をおいて設けられている。
【0020】
図1に示すように、回転体20の左方及び右方には、合計4つの渦電流探傷センサ30(30A,30B,30C,30D)が設けられている。渦電流探傷センサ30A,30Bは、回転体20の左面に、渦電流探傷センサ30C,30Dは、回転体20の右面にそれぞれ対向している。渦電流探傷センサ30A,30B及び渦電流探傷センサ30C,30Dは、モータ軸11を挟んで反対側に設けられている。
【0021】
渦電流探傷センサ30は、励磁コイル31とこれの内側に設けられる検出コイル32とにより構成され、それらの軸方向は、回転体20の円盤面(左面及び右面)に対して垂直方向(モータ軸11の軸方向と同一)となるように設けられている。励磁コイル31(31A,31B,31C,31D)は、交流電圧の供給に基づいて回転体20の円盤面に対して交番磁界を印加して、当該回転体20の表面(ここでは円盤面)に渦電流を発生させる。これに対して、検出コイル32(32A,32B,32C,32D)は、渦電流によって生じる磁界(交番磁界)に誘起されて交流電圧を出力する。検出コイル32が誘起される交流電圧は、回転体20の回転に伴う溝Dの有無により変化する。
【0022】
各渦電流探傷センサ30は、制御装置12と電気的に接続されている。制御装置12は、各励磁コイル31への交流電圧の供給制御と、各検出コイル32に誘起される交流電圧に基づき、回転体20、すなわちモータ軸11の回転角度の検出を行う。また、制御装置12は、各検出コイル32の検出結果に基づき、回転体20の軸ずれの検出も行う。
【0023】
図2(a)に示すように、励磁コイル31と検出コイル32とは、同心円状に設けられる。今、モータ軸11の上側に設けられる渦電流探傷センサ30Aの位置を回転体20の軸心(モータ軸11)に対して0°とすると、モータ軸11の下側の渦電流探傷センサ30Bは、162°(72°+72°+18°(=72°/4))の位置に設けられる。すなわち、渦電流探傷センサ30Bは、渦電流探傷センサ30Aに対して溝間隔(ここでは72°)から4分の1周期だけ時計方向へずらした位置(18°)に配置される。
【0024】
一方、図2(b)に示すように、モータ軸11の上側に設けられる渦電流探傷センサ30Cの位置を回転体20の軸心に対して0°とすると、モータ軸11の下側の渦電流探傷センサ30Dは、195°(60°+60°+60°+15°(=60°/4))の位置に設けられる。すなわち、渦電流探傷センサ30Dは、渦電流探傷センサ30Cに対して溝間隔(ここでは60°)から4分の1周期だけ時計方向へずらした位置(15°)に配置される。
【0025】
次に、 次に、各渦電流探傷センサ30A,30B,30C,30Dと回転体20との距離の検出原理、及び回転体20に設けられる溝Dの検出原理について説明する。ここでは、渦電流探傷センサ30Aについて代表的に説明する。
【0026】
図3(a)に示すように、この渦電流探傷センサ30Aでは、一定の周波数の交流電圧の供給を通じて励磁コイル31Aが交番磁界を被検出体(ここでは、回転体20)に付与する。これによって回転体20の外周面の表面には渦電流Iwが発生する。検出コイル32Aは、渦電流Iwによって誘起される交番磁界と、励磁コイル31Aに供給される交流電圧によって誘起される交番磁界との合成磁界により、交流電圧が誘起される。
【0027】
図3(a)に示すように、渦電流探傷センサ30Aの直下又はその近傍に溝Dが存在しない場合には、回転体20が回転した場合であっても、渦電流探傷センサ30Aと回転体20の外周面との距離は一定(基準距離)となる。励磁コイル31Aに交流電圧を印加すると、回転体20の表面に渦電流Iwが発生する。このとき、検出コイル32Aには、この渦電流Iwによって図5(a)に示す交流電圧が誘起される。すなわち、検出コイル32Aに誘起される交流電圧(振幅)は、渦電流探傷センサ30Aと回転体20の円盤面との距離に応じた一定の値に保たれる。
【0028】
図4(a)に示すように、回転体20が軸ずれして、当該回転体20の外周面と渦電流探傷センサ30Aとの距離が基準距離よりも大きくなる場合には、図5(b)に示すように、検出コイル32Aに誘起される交流電圧(振幅)は、小さくなる。反対に、図4(b)に示すように、回転体20の外周面と渦電流探傷センサ30Aとの距離が基準距離よりも小さくなる場合には、図5(c)に示すように、検出コイル32Aに誘起される交流電圧(振幅)は、大きくなる。
【0029】
制御装置12は、検出コイル32Aが誘起される交流電圧の大きさによって、回転体20の外周面と検出コイル32Aとの距離を検出して、回転体20の軸ずれを検出することができる。
【0030】
また、検出コイル32Aに誘起される交流電圧の大きさは、溝Dの有無によっても変化する。図4(b)に示すように、回転体20が図示矢印方向に回転して、渦電流探傷センサ30Aの直下又はその近傍に溝Dなどが存在している場合には、渦電流Iwの流れに変化が生じる。例えば、図3(a)に示す状態と比較すると、図3(b)に示す状態では、渦電流Iwの一部は溝Dによって遮断される。すなわち、渦電流Iwが好適に流れる面積が減少する。渦電流Iwによって生じる磁界の強さは、渦電流Iwが流れる面積の大きさに比例する。従って、図3(b)に示す状況では、検出コイル32Aに誘起される交流電圧(振幅)は、図5(b)に示すように小さくなる。
【0031】
このように、渦電流探傷センサ30Aでは、溝Dの有無を、検出コイル32Aに誘起される交流電圧の変化によって検出することができる。なお、回転体20の軸ずれの検出及び溝Dの有無の検出は、各渦電流探傷センサ30A,30B,30C,30Dのいずれにおいても可能である。
【0032】
次に、回転体20の軸ずれが起きない前提で、回転体20が回転したときの回転角度の検出態様について説明する。
制御装置12から、図6(a)に示す波形の交流電圧が印加された各励磁コイル31A,31B,31C,31Dは、各々が対おいする回転体20の表面(円盤面)に渦電流を発生させる。この場合において、検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の波形を、図6(b)、図6(c)、図6(d)、及び図6(e)にそれぞれ示す。
【0033】
回転体20の左面には、72°毎に溝Dが形成されているので、検出コイル32A,32Bに誘起される交流電圧の波形は、図6(b)及び図6(c)に示すように、72°毎に振幅が著しく小さくなる。また、検出コイル32Bは、検出コイル32Aに対して溝Dの間隔の4分の1周期だけずらして配置されているため、検出コイル32Bに誘起される交流電圧の波形は、検出コイル32Aに誘起される交流電圧の波形に対し、位相が4分の1周期分(18°)ずれたものとなる。
【0034】
回転体20の右面には、60°毎に溝Dが形成されているので、検出コイル32C,32Dに誘起される交流電圧の波形は、図6(d)及び図6(e)に示すように、60°毎に振幅が著しく小さくなる。また、検出コイル32Dは、検出コイル32Cに対して溝Dの間隔の4分の1周期だけずらして配置されているため、検出コイル32Dに誘起される交流電圧の波形は、検出コイル32Cに誘起される交流電圧の波形に対し、位相が4分の1周期分(15°)ずれたものとなる。
【0035】
制御装置12は、検出コイル32A,32B及び検出コイル32C,32Dに誘起された交流電圧の波形に基づき、回転体20の回転角度を算出する。制御装置12は、まず回転体20の左面及び右面において隣り合う2つの溝Dの間の角度範囲(72°,60°)における回転体20の回転角度θ1,θ2を算出する。
【0036】
本例では、検出コイル32A,32Bは4分の1周期ずれた交流電圧(正弦波、余弦波)を出力する。制御装置12は、これらから得られる電圧値Vを式(1)に適用することにより、回転方向において隣り合う2つの溝Dの間の角度範囲(72°)における回転体20の回転角度θ1を特定する。
【0037】
θ=arctanV・・・(1)
検出コイル32A,32Bに誘起される電圧の波形は、4分の1周期ずれているので、この周期のずれから角度θ1を正確に特定することができる。検出コイル32C,32Dに誘起される電圧からも同様にして回転体20の右面において隣り合う2つの溝Dの角度範囲(60°)における回転体20の回転角度θ2が求められる。
【0038】
制御装置12の記憶装置には、図7に示すような、角度対応表が格納されている。制御装置12は、検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の波形から特定された回転体20の左面及び右面における回転角度θ1,θ2と、図7に示す角度対応表とから、回転体20、すなわちモータ軸11の1回転(360°)中の回転角度θを絶対値で検出する。例えば、回転体20の左面における回転角度θ1が24°、回転体20の右面における回転角度θ2が36°であった場合には、モータ軸11の回転角度は96°である。このように、左面及び右面において溝間隔の異なる回転体20を採用することにより、モータ軸11の回転角度(絶対角)を正確に算出することができる。
【0039】
次に、モータ軸11の軸ずれ(回転体20の位置ずれ)が起きた場合について説明する。なお、図9(a)〜図9(f)に示す各グラフの横軸は回転角度を、縦軸は検出電圧をそれぞれ示す。
【0040】
図8に示すように、回転体20が矢印A方向に変位した場合には、当該回転体20と渦電流探傷センサ30A,30Bとの距離が近くなり、回転体20と、渦電流探傷センサ30C,30Dとの距離が遠くなる。この場合、回転体20の左面には、励磁コイル31A,31Bから印加される磁界により誘起される渦電流Iwが通常よりも多く流れる。従って、図9(a)の左側2列に示すように、この渦電流Iwによって検出コイル32A,32Bに誘起される交流電圧の電圧値は高くなる。一方、回転体20の右面には、励磁コイル31C,31Dから印加される磁界により誘起される渦電流Iwが通常よりも少なく流れる。従って、図9(a)の右側2列に示すように、この渦電流Iwによって検出コイル32A,32Bに誘起される交流電圧の電圧値は低くなる。すなわち、制御装置12は、各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の波形が図9(a)に示す波形となった場合に、回転体20が矢印A方向に変位(軸ずれ)したことを検出することができる。
【0041】
一方、回転体20が矢印A方向とは反対の矢印B方向に変位した場合には、当該回転体20と渦電流探傷センサ30A,30Bとの距離が遠くなり、回転体20と渦電流探傷センサ30C,30Dとの距離が近くなる。すなわち、図9(b)に示すように、検出コイル32A,32Bに誘起される交流電圧の電圧値は低くなるとともに、検出コイル32C,32Dに誘起される交流電圧の電圧値は高くなる。従って、制御装置12は、各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の波形が図9(b)に示す波形となった場合に、回転体20が矢印B方向に変位したことを検出することができる。
【0042】
図8に示すように、回転体20が矢印C方向に軸ずれ(傾斜)した場合には、当該回転体20と渦電流探傷センサ30B,30Cとの距離が近くなり、回転体20と、渦電流探傷センサ30A,30Dとの距離が遠くなる。すなわち、図9(c)に示すように、検出コイル32B,32Cに誘起される交流電圧の電圧値は低くなるとともに、検出コイル32A,32Dに誘起される交流電圧の電圧値は高くなる。従って、制御装置12は、各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の波形が図9(c)に示す波形となった場合に、回転体20が矢印C方向に軸ずれしたことを検出することができる。
【0043】
一方、回転体20が矢印C方向とは反対の矢印D方向に軸ずれした場合には、当該回転体20と渦電流探傷センサ30B,30Cとの距離が遠くなり、回転体20と渦電流探傷センサ30A,30Dとの距離が近くなる。すなわち、図9(d)に示すように、検出コイル32B,32Cに誘起される交流電圧の電圧値は低くなるとともに、検出コイル32A,32Dに誘起される交流電圧の電圧値は高くなる。従って、制御装置12は、各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の波形が図9(d)に示す波形となった場合に、回転体20が矢印D方向に軸ずれしたことを検出することができる。
【0044】
図8に示すように、回転体20が矢印E方向(上方)及び矢印F方向(下方)に軸ずれ(変位)した場合には、励磁コイル31によって誘起される渦電流Iwが流れることのできる面積が変化する。例えば、回転体20の右面において、回転体20が矢印E方向に変位した場合、図10(a)に示すように、渦電流探傷センサ30Cと回転体20の軸(モータ軸11)との距離が近くなる一方、渦電流探傷センサ30Dと回転体20の軸(モータ軸11)との距離が遠くなる。また、回転体20が矢印F方向に変位した場合、図10(b)に示すように、渦電流探傷センサ30Cと回転体20の軸(モータ軸11)との距離が遠くなる一方、渦電流探傷センサ30Dと回転体20の軸(モータ軸11)との距離が近くなる。
【0045】
回転体20の溝Dは、円盤の中心から径方向に放射状に延びるように形成されているので、渦電流探傷センサ30C,30Dが、回転体20の軸(モータ軸11)に近づくほど、渦電流Iwが流れる範囲が狭くなり、回転体20の軸から離れる(回転体20の縁部に近づく)ほど、渦電流Iwが流れる範囲が広くなる。すなわち、渦電流探傷センサ30C,30Dが、回転体20の軸に近づくほど、検出コイル32C,32Dに誘起される交流電圧の電圧値が低くなり、回転体20の軸から離れるほど、検出コイル32C,32Dに誘起される交流電圧の電圧値が高くなる。これは、回転体20の左面においても同様のことが言える。
【0046】
従って、回転体20が矢印E方向に軸ずれした場合には、図9(e)に示すように、検出コイル32A,32Cに誘起される交流電圧の電圧値は低くなるとともに、検出コイル32B,32Dに誘起される交流電圧の電圧値は高くなる。従って、制御装置12は、各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の波形が図9(e)に示す波形となった場合に、回転体20が矢印E方向に軸ずれしたことを検出することができる。
【0047】
一方、回転体20がE方向とは反対の矢印F方向へ軸ずれした場合には、各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の増減傾向は、矢印E方向に軸ずれした場合とは、反対となる。すなわち、図9(f)に示すように、検出コイル32B,32Dに誘起される交流電圧の電圧値は低くなるとともに、検出コイル32A,32Cに誘起される交流電圧の電圧値は高くなる。従って、制御装置12は、各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の波形が図9(f)に示す波形となった場合に、回転体20が矢印F方向に軸ずれしたことを検出することができる。
【0048】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)回転体20の左右両側の円盤面にそれぞれ異なる角度間隔を有し径方向に延びて形成される複数の溝Dと、この両円盤面にそれぞれ対向する2組の渦電流探傷センサ30A,30B及び渦電流探傷センサ30C,30Dとを備える。これら各渦電流探傷センサ30A,30B,30C,30Dを構成する各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧に基づき、回転体20の回転角度を検出するとともに、回転体20の軸ずれも検知することができる。
【0049】
(2)回転体20の円盤面に設けられる溝Dの角度間隔が左側の円盤面と右側の円盤面とで異なるため、回転体20の左側の円盤面に対向して設けられる検出コイル32A,32Bと、回転体20の右側の円盤面に対向して設けられる検出コイル32C,32Dとの双方に誘起される交流電圧から隣り合う溝Dの間における回転体20の回転角度を検出することができる。このため、この回転角度検出装置では、回転体の1周(360°)における絶対角の算出ができる。
【0050】
(3)検出コイル32A,32Bは、回転体20の回転軸を挟んで設けられる。また、検出コイル32C,32Dも回転体20の回転軸を挟んで設けられる。このため、回転体20の回転軸が傾いた場合、一方の検出コイル32A(32C)に誘起される交流電圧の電圧値(振幅)の大きさが増大すれば、他方の検出コイル32B(32D)に誘起される交流電圧の電圧値の大きさは減少する。これにより、回転体20の回転軸の傾きを、容易に検出することがきできる。
【0051】
(4)渦電流探傷センサ30Bは、渦電流探傷センサ30Aが設けられる位置から162°ずれた位置に、渦電流探傷センサ30Dは、渦電流探傷センサ30Cが設けられる位置から195°ずれた位置にそれぞれ設けられる。渦電流探傷センサ30Bは、渦電流探傷センサ30Aに対し回転体20の左側の円盤面に形成される溝Dの角度間隔72°の4分の1周期だけずれて配置される。渦電流探傷センサ30Dは、渦電流探傷センサ30Cに対し回転体20の右側の円盤面に形成される溝Dの角度間隔60°の4分の1周期だけずれて配置される。このため、検出コイル32A,32Bに誘起される交流電圧の波形は、4分の1周期ずれる。また、検出コイル32C,32Dに誘起される交流電圧の波形は、4分の1周期ずれる。従って、制御装置12は、2組の渦電流探傷センサ30A,30B及び渦電流探傷センサ30C,30Dから、回転体20の左面及び右面において、隣り合う溝Dの間における回転体20の2つの回転角度を算出する。そして、制御装置12は、これら2つの回転角度を組み合わせて、回転体20の1周(360°)における絶対角を算出することができる。
【0052】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、回転体20の左面及び右面にマークとしての複数の溝Dを設けた上で、この溝Dの有無を検出することのできる回転角度検出手段としての複数の渦電流探傷センサ30A,30B,30C,30Dを設けるようにした。しかし、溝Dに代えて磁石を、渦電流探傷センサ30A,30B,30C,30Dに代えて例えばホールセンサやMRセンサなどの磁気センサを利用してもよい。このように構成した場合でも、回転体20の軸ずれに伴い当該回転体20の円盤面(左面及び右面)と各渦電流探傷センサ30A,30B,30C,30Dとが近接したり離間したりすることにより、各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の大きさは変化する。従って、制御装置12は、各検出コイル32A,32B,32C,32Dに誘起される交流電圧の大きさから、回転体20の軸ずれを検出することができる。
【0053】
・上記実施形態において、回転体20に形成される溝Dは、突部に置換してもよい。
・上記実施形態では、回転体20の両側の円盤面に形成される溝Dの間隔は、一定間隔としたが、必ずしも一定でなくてもよい。
【0054】
・上記実施形態において、回転体20の左側の円盤面には5本、右側の円盤面には6本の溝Dを形成したが、溝Dの本数はこれに限らない。例えば、溝Dの本数を増やすほど、回転角度を検出できる分解能が増加するため、回転体20の回転角度をより細かく検出することが可能となる。
【0055】
・上記実施形態において、この回転角度検出装置は、モータ軸11に設けられるものに限らない。例えば、軸受、その他回転軸など、回転するものであれば、本発明を適用することができる。
【0056】
・上記実施形態において、回転体20の片側の円盤面を面一に形成してもよい。すなわち、溝Dを省略してもよい。この場合、面一に形成した円盤面と対向する渦電流探傷センサを省略してもよい。このように構成した場合であっても、制御装置12は、回転体20の隣り合う溝Dの間における回転角度及び軸ずれを検出することができる。
【0057】
・上記実施形態において、渦電流探傷センサ30Bは、渦電流探傷センサ30Aに対して162°、渦電流探傷センサ30Cは、渦電流探傷センサ30Aに対し195°、それぞれずれた位置に配置されたが、渦電流探傷センサ30B,30Cが配置される位置はこれに限らない。検出コイル32Aと検出コイル32B,32Cとが出力する波形に位相差がでるように配置すればよい。なお、上記実施形態で述べたように、検出コイル32B,32Cに誘起される交流電圧の波形と、検出コイル32Aに誘起される交流電圧の波形とを4分の1周期ずらすためには、検出コイル32Bは、検出コイル32Aから18°±72°×X(Xは整数)、検出コイル32Dは、検出コイル32Cから15°±60°×X(Xは整数)の位置に配置すればよい。
【符号の説明】
【0058】
θ…回転角度(絶対角)、θ1,θ2…回転角度、D…溝、V…電圧値、Iw…渦電流、10…ブラシレスモータ、11…モータ軸、12…制御装置、20…回転体、30,30A,30B,30C,30D…渦電流探傷センサ、31,31A,31B,31C,31D…励磁コイル、32,32A,32B,32C,32D…検出コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象と一体回転する円盤状の回転体の回転角度を検出対象の回転角度として検出する回転角度検出装置において、
前記回転体の円盤面には、複数のマークをその回転方向に角度間隔をおいて設け、
前記回転体が回転したとき、前記マークの有無によって変化する前記回転体から発せられる磁界に応じた信号を生成する複数のセンサを前記円盤面に対向して設け、
前記センサにより生成される信号に基づき前記回転体の回転角度を求めるとともに、前記回転体の軸ずれの有無を検出する回転角度検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転角度検出装置において、
前記回転体の第1の円盤面には、複数のマークを第1の角度間隔で設け、
前記第1の円盤面と反対側の第2の円盤面には、複数のマークを前記第1の角度間隔とは異なる第2角度間隔で設け、
前記センサは、前記第1及び第2の円盤面にそれぞれ複数個が対向して設けられてなることを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の回転角度検出装置において、
前記第1及び第2の円盤面に対向する前記センサは、それぞれ前記回転体の回転軸を挟んで互いに反対側に2つ設けられることを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の回転角度検出装置において、
前記回転体の回転軸を挟んで設けられる2つのセンサの角度間隔は、円盤面に形成される溝の角度間隔と異なることを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転角度検出装置において、
前記回転体が導電性材料からなるとともに、前記マークが溝又は突部からなり、
前記センサは、前記回転体の円盤面に交番磁界を付与することにより同円盤面に渦電流を発生させる励磁コイルと、前記回転体の円盤面に発生した渦電流に起因して生じる磁界の変化を検出する検出コイルとを備え、
前記検出コイルを通じて検出される磁界の変化に基づいて前記溝又は突部の近接を検知する渦電流探傷センサであることを特徴とする回転角度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−18091(P2012−18091A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156061(P2010−156061)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】