回転角検出装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置
【課題】故障などにより異常となった出力信号を特定可能な回転角検出装置を提供する。
【解決手段】ブリッジ回路11、12は、被検出部87の回転に応じて変化する回転磁界によりインピーダンスが変化するセンサ素子21〜28により構成されるハーフブリッジ14〜17を有する。信号取得手段は、ハーフブリッジ14〜17の中点31〜34から出力される出力信号をハーフブリッジ14〜17ごとに取得する。回転角算出手段は、信号取得手段により取得された出力信号に基づき、被検出の回転角度θを算出する。異常特定手段は、信号取得手段によって取得される少なくとも4つの出力信号に基づく値である演算値が所定の範囲から外れた場合、当該演算値に対応する出力信号を異常出力信号として特定する。これにより、故障などによりどの出力信号が異常となったかを特定することができる。
【解決手段】ブリッジ回路11、12は、被検出部87の回転に応じて変化する回転磁界によりインピーダンスが変化するセンサ素子21〜28により構成されるハーフブリッジ14〜17を有する。信号取得手段は、ハーフブリッジ14〜17の中点31〜34から出力される出力信号をハーフブリッジ14〜17ごとに取得する。回転角算出手段は、信号取得手段により取得された出力信号に基づき、被検出の回転角度θを算出する。異常特定手段は、信号取得手段によって取得される少なくとも4つの出力信号に基づく値である演算値が所定の範囲から外れた場合、当該演算値に対応する出力信号を異常出力信号として特定する。これにより、故障などによりどの出力信号が異常となったかを特定することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角検出装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータなどの回転軸の回転角度を検出する回転角検出装置として、センサ素子から出力される出力信号に基づいて回転角を算出する技術が公知である。また、センサ素子から出力される信号に異常が発生した場合に、異常が発生したことを判定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−49097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、ブリッジ回路の出力信号であるsinθと−sinθとを加算器に送り、sin成分を減算した信号Aを生成している。また、同様にブリッジ回路の出力信号であるcosθと−cosθとを加算器に送り、cos成分を減算した信号Bを生成している。これら生成された信号A及びBが上限閾値を上回る、或いは、下限閾値を下回る場合、異常が発生したと判定している。しかしながら、特許文献1の技術では、加算器により生成された信号AまたはBにより故障を判定しているので、どの出力信号が故障したかを特定することはできなかった。また、特許文献1の技術では、故障により1つでも信号が失われるとcos信号もしくはsin信号だけとなり、回転角度を検出することができなかった。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、故障などにより異常となった出力信号を特定可能であるとともに、一部の故障が生じても継続して回転角度が検出可能な多重系の回転角検出装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の回転角検出装置は、複数のブリッジ回路部と、制御部と、を備える。それぞれのブリッジ回路部は、被検出部の回転に応じて変化する回転磁界によりインピーダンスが変化するセンサ素子により構成される複数のハーフブリッジを有する。センサ素子は、例えば磁気抵抗素子である。制御部は、信号取得手段、回転角算出手段、および、異常特定手段を有する。信号取得手段は、ハーフブリッジの中点から出力される出力信号をハーフブリッジごとに取得する。例えば、ハーフブリッジが2つのセンサ素子により構成される場合、2つのセンサ素子の接続点を中点とする。なお、信号取得手段により取得される信号は、ハーフブリッジの中点から出力される出力信号そのものに限らず、オペアンプ等による増幅処理やオフセット処理がそれぞれの出力信号ごとに行われた信号値であってもよい。また、信号取得手段により取得された出力信号について、出力信号ごとに制御部内にてオフセット消去等を行ったものも、本発明の「出力信号」に含まれるものとする。回転角算出手段は、信号取得手段により取得された出力信号に基づき、被検出部の回転角度を算出する。
【0006】
本発明は、異常が生じている出力信号を特定する異常特定手段に特徴を有している。異常特定手段は、信号取得手段によって取得される少なくとも4つの出力信号に基づく値である演算値が所定の範囲から外れた場合、当該演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。本発明の信号取得手段は、ハーフブリッジの中点から出力される出力される出力信号を、信号同士の加算処理や差動増幅処理等を行わず、ハーフブリッジごとに取得している。そして、ハーフブリッジごとに取得された出力信号に基づく値である演算値に基づいて、故障などによりどの出力信号が異常となったかを特定することができる。なお、本発明における「演算値」は、例えば請求項11に記載の発明のように、信号取得手段により取得された出力信号そのものであってもよい。以下、異常が生じている出力信号を、適宜「異常出力信号」という。
【0007】
請求項2に記載の発明では、少なくとも4つの出力信号は、正常時において、sin信号、−sin信号、cos信号、および、−cos信号である。
請求項3に記載の発明では、演算値は、出力信号の2乗値または出力信号同士を減算した減算値の2乗値である複数の第1演算値のうちの2つの値を加算した複数の第2演算値である。異常特定手段は、第2演算値が所定の範囲である第1の範囲から外れた場合、第1の範囲から外れた第2演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。請求項3に記載の発明では、4つの出力信号がsin信号、−sin信号、cos信号、および、−cos信号であることを利用し、2乗和を算出することにより、容易な計算で異常が生じている出力信号を特定することができる。
【0008】
請求項4に記載の発明では、第2演算値がK×(sin2θ+cos2θ)となるように2つの第1演算値を用いて算出される。sin2θ+cos2θ=1であるので、第2演算値は、理論上定数Kとなる。この定数Kは、例えば出力信号の振幅の2乗に比例する値である。これにより、定数Kを中心とする所定の範囲から第2演算値が逸脱しているか否かを容易に特定することができる。なお、所定の範囲の幅は、センサ素子の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。
【0009】
具体的には、以下のような演算が行われる。
請求項5に記載の発明では、第2演算値は、sin信号の2乗値または−sin信号の2乗値と、cos信号の2乗値または−cos信号の2乗値と、の組み合わせから算出される。
請求項6に記載の発明では、減算値は、sin信号または−sin信号(以下、sin信号と−sin信号の総称として「sin系信号」という。)と、cos信号または−cos信号(以下、cos信号と−cos信号の総称として「cos系信号」という。)と、の組み合わせで減算して算出される。2つの出力信号を減算しているので、センサ素子の温度特性等による誤差を消去することができる。
【0010】
請求項7に記載の発明では、第1演算値は少なくとも4つ算出される。また、第2演算値は、算出された第1演算値の全てを少なくとも1回ずつ用いて、少なくとも4通りの第1演算値の組み合わせから算出される。これにより、どの出力信号に異常が生じているかを確実に特定することができる。
【0011】
請求項8に記載の発明では、演算値は、sin信号および−sin信号から算出されるsin信号演算値である。異常特定手段は、sin信号演算値が所定の範囲である第2の範囲から外れた場合、sin信号演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。これにより、sin信号演算値に対応する出力信号に異常が生じていることを容易に特定することができる。
請求項9に記載の発明では、演算値は、cos信号および−cos信号から算出されるcos信号演算値である。異常特定手段は、cos信号演算値が所定の範囲である第3の範囲から外れた場合、cos信号演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。これにより、cos信号演算値に対応する出力信号に異常が生じていることを容易に特定することができる。
【0012】
請求項10に記載の発明では、1つのブリッジ回路部から出力される出力信号は、sin信号または−sin信号と、cos信号または−cos信号と、からなる。例えば、sin系信号をcos系信号で除した値、または、cos系信号をsin系信号で除した値に基づき、arctanから被検出部の回転角度θを算出する場合、1つのブリッジ回路部が故障したとしても、正常なブリッジ回路部から出力されるsin系信号とcos系信号を用いて、被検出部の回転角度を算出することができる。このような構成は、特に請求項14に記載の発明のように、ブリッジ回路部ごとに電源を有している場合、特に好ましい。
【0013】
請求項11に記載の発明では、演算値は、出力信号そのものである。異常特定手段は、出力信号が所定の範囲である第4の範囲から外れた場合、当該出力信号に異常が生じていると特定する。これにより、容易に異常出力信号を特定することができる。
【0014】
請求項12に記載の発明では、回転角算出手段は、異常特定手段により特定された異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づいて回転角度を算出できるとき、異常特定手段により特定された異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づき、回転角度を算出する。故障などによりどの出力信号に異常が生じているかが異常特定手段により特定されるので、異常が生じていると特定された出力信号以外の出力信号に基づいて回転角度の算出を継続することができる。なお、例えば請求項2に記載の構成を採用した場合、sin系信号のうちの少なくとも1つと、cos系信号のうちの少なくとも1つと、が正常であれば、正常であるsin系信号とcos系信号とに基づいて回転角度を算出可能である。
【0015】
請求項13に記載の発明では、回転角算出手段は、異常特定手段により特定された異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づいて回転角度を算出できないとき、外部から取得される外部信号に基づいて回転角度を算出する。これにより、出力信号から回転角度を算出できない場合、外部信号を用いることにより被検出部の回転角度の算出を継続することができる。なお、例えば請求項2に記載の構成を採用した場合、全てのsin系信号、または、全てのcos系信号が異常となった場合、出力信号に基づいて回転角度を算出することができない。また例えば、請求項15に記載のように、回転角検出装置を電動パワーステアリング装置に用いた場合、外部信号として、ステアリングセンサにより検出されるステアリング角が好適に用いられる。
【0016】
請求項14に記載の発明では、ブリッジ回路部は、それぞれ別の電源に接続される。これにより、1つの電源が故障したとしても、他の電源に接続されるブリッジ回路部から出力される出力信号に基づき、回転角度の算出を継続することができる。なお、上述の通り、請求項11に記載の構成と併用することが好ましい。
【0017】
請求項15に記載の発明は、請求項1〜14に記載の回転角検出装置を用いた電動パワーステアリング装置である。例えば請求項12に記載の構成を採用すれば、出力信号の一部に異常が生じたとしても、異常が生じている出力信号以外の信号によって略正確に回転角度が算出されるので、電動パワーステアリング装置によるアシストが継続可能であるとともに、操舵感の悪化を抑制することができる。また例えば請求項13に記載の構成を採用すれば、回転角検出装置による回転角度の算出が不可能になった場合においても、ステアリングセンサからの信号に基づいて回転角度を算出することにより、電動パワーステアリング装置の駆動を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態による電動パワーステアリング装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるモータの構成を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による回転角検出装置の回路構成を示す回路図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるブリッジ回路から出力される出力信号を示す説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態による増幅部を説明する回路図である。
【図6】本発明の第1実施形態の増幅部によって増幅された出力信号を説明する説明図である。
【図7】本発明の第1実施形態による回転角算出処理を説明するフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態による被検出部の回転角度の算出に係り、角度範囲の分割を説明する説明図であって、(a)は回転角検出装置側から見た被検出部を模式的に示す図であり、(b)はsin信号およびcos信号を説明する図である。
【図9】本発明の第1実施形態による被検出部の回転角度の算出方法を説明する説明図である。
【図10】本発明の第1実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する説明図である。
【図11】本発明の第1実施形態による異常時処理を説明する説明図である。
【図12】本発明の第1実施形態において、2つ目以降の異常出力信号の特定方法および異常時処理を説明する説明図である。
【図13】本発明の第2実施形態による回転角検出装置の回路構成を示す回路図である。
【図14】本発明の第2実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する説明図である。
【図15】本発明の第3実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する説明図である。
【図16】本発明の第3実施形態による異常時処理を説明する説明図である。
【図17】本発明の変形例による回転角検出装置の回路構成を示す回路図である。
【図18】本発明の変形例による回転角検出装置の回路構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による回転角検出装置を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態による回転角検出装置10は、車両のステアリング操作をアシストするための電動パワーステアリング装置1(以下、適宜「EPS」という。)に設けられる。
【0020】
図1は、電動パワーステアリング装置1を備えたステアリングシステム90の全体構成を示す図である。ステアリングホイール91に接続されたステアリングシャフト92には、ステアリングセンサ94およびトルクセンサ95が設けられている。ステアリングセンサ94は、ステアリングシャフト92の回転角を検出する。トルクセンサ95は、ステアリングホイールに加えられた操舵トルクを検出する。ステアリングシャフト92の先端は、ギア96を介してラック軸97に連結されている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対のタイヤ(ホイール)98がそれぞれ連結されている。ステアリングシャフト92の回転運動は、ギア96によってラック軸97の直線運動に変換され、ラック軸97の直線運動変位に応じた角度分、左右のタイヤ98が転舵される。
【0021】
電動パワーステアリング装置1は、補助操舵トルクを発生するモータ80、モータ80の回転角度を検出する回転角検出装置10、及び、モータ80の回転を減速してステアリングシャフト92に伝達するギア89を備える。モータ80は、ギア89を正逆回転させる三相ブラシレスモータである。電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール91の操舵方向および操舵トルクに応じた操舵補助トルクをステアリングシャフト92に伝達する。
【0022】
モータ80の概略構成を、図2に示す。モータ80は、ステータ81、ロータ82、および、シャフト83等を有している。ロータ82は、シャフト83とともに回転する筒状の部材であり、その表面に永久磁石が貼り付けられ、磁極を有している。ステータ81は、ロータ82を内部に収容するとともに、回転可能に支持している。ステータ81は、径内方向へ所定角度毎に突出する突出部を有し、この突出部にコイル84が巻回されている。コイル84への通電によって生じる回転磁界により、ロータ82はシャフト83とともに回転する。ステータ81、ロータ82、シャフト83、コイル84は、ハウジング85に収容される。シャフト83は、ハウジング85の両端から突出し、カバー86側の端部に被検出部87を有する。被検出部87は、円板状に形成される2極磁石であり、シャフト83と一体となって回転する。カバー86の被検出部87と対向する位置には、回転角検出装置10が設けられる。本形態では、回転角検出装置10は、カバー86の一箇所に設けられているが、複数箇所に設けるように構成してもよい。
【0023】
回転角検出装置1の回路構成を、図3に示す。図3に示すように、回転角検出装置10は、第1ブリッジ回路11、第2ブリッジ回路12、増幅部40、制御部50等を有している。
第1ブリッジ回路11は、第1ハーフブリッジ14および第2ハーフブリッジ15を有する。第1ハーフブリッジ14は、2つのセンサ素子21、22から構成される。第2ハーフブリッジ15は、2つのセンサ素子23、24から構成される。第2ブリッジ回路12は、第3ハーフブリッジ16および第4ハーフブリッジ17を有する。第3ハーフブリッジ16は、2つのセンサ素子25、26から構成される。第4ハーフブリッジ17は、2つのセンサ素子27、28から構成される。本形態のセンサ素子21〜28は、いずれも被検出部87の回転に応じて変化する回転磁界によりインピーダンスが変化する磁気抵抗素子である。第1ブリッジ回路11と第2ブリッジ回路12とは、それぞれ別々の電源に接続されている。第1ブリッジ回路11が接続される電源および第2ブリッジ回路12が接続される電源は、共に5Vである。なお、第1ブリッジ回路11および第2ブリッジ回路12が、「複数のブリッジ回路部」を構成している。
【0024】
第1ハーフブリッジ14のセンサ素子21、22の中点31からは、図4(a)に実線で示すように、振幅Aの−cos信号が出力される。第2ハーフブリッジ15のセンサ素子23、24の中点32からは、図4(a)に波線で示すように、振幅Aの−sin信号が出力される。第3ハーフブリッジ16のセンサ素子25、26の中点33からは、図4(b)に実線で示すように、振幅Aのcos信号が出力される。第4ハーフブリッジ17のセンサ素子27、28の中点34からは、図4(b)に波線で示すように、sin信号が出力される。4つの出力信号は、増幅部40にて増幅される。
【0025】
図5に基づいて増幅部40の回路構成について説明する。なお、図5においては、第2ハーフブリッジ15から出力される出力信号の増幅処理について説明するが、他のハーフブリッジ14、16、17から出力された信号についても、同様に増幅される。
第2ハーフブリッジ15の中点32から出力された出力信号は、バッファ41及び抵抗R1を経由して、オペアンプ42のマイナス側に入力される。また、オフセット部43にて2.5V出力が作出され、オペアンプ42のプラス側に入力される。そして、第2ハーフブリッジ15の中点32から出力された出力信号は、オペアンプ42によって増幅され、中心値2.5V、振幅B=1.5Vの正弦波信号として制御部50に入力される(図6参照)。すなわち、第2ハーフブリッジ15の中点32から出力される出力信号−Asinθは、増幅部40による増幅により、Vy1=Bsinθ+2.5となる。
【0026】
同様に、第1ハーフブリッジ14の中点31から出力される出力信号−cosθは、増幅部40による増幅により、Vx1=Bcosθ+2.5となる。第3ハーフブリッジ16の中点33から出力される出力信号cosθは、増幅部40による増幅により、Vx2=−Bcosθ+2.5となる。第4ハーフブリッジ17の中点34から出力されるsinθは、増幅部40による増幅により、Vy2=−Bsinθ+2.5となる。本形態では、出力信号Vx1およびVx1からオフセットを消去したVx1aが「cos信号」に対応し、出力信号Vx2およびVx2からオフセットを消去したVx2aが「−cos信号」に対応し、出力信号Vy1およびVy1からオフセットを消去したVy1aが「sin信号」に対応し、出力信号Vy2およびVy2からオフセットを消去したVy2aが「−sin信号」に対応している。
なお、本形態においては、振幅B=1.5V、オフセット値=2.5Vに設定されているが、振幅やオフセット値は、制御部50にて取得可能な範囲で適宜設定可能である。
【0027】
制御部50は、通常のマイクロコンピュータによって構成され、各ハーフブリッジ14〜17のそれぞれの中点31〜34から出力された出力信号をそれぞれ取得し、取得された出力信号に基づき、被検出部87の回転角度を算出する。なお、本形態においては、ハーフブリッジ14〜17のそれぞれの中点31〜34から出力される出力信号は、いずれも別個に増幅部40にて増幅された後に制御部50に入力されている。本形態では、制御部50が出力信号を取得する段階において、出力信号同士が加算処理或いは差動増幅処理等されていることはない。
【0028】
制御部50における回転角度算出処理を図7に示すフローチャートに基づいて説明する。なお、この回転角度算出処理は、EPS動作時に所定の間隔、例えば200μsごと、に行われるものである。
はじめのステップS10(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す。)では、出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を取得する。
S11では、出力信号に異常が生じているか否かを判断する。判断方法の詳細については、後述する。出力信号に異常が生じていると判断された場合(S11:YES)、S13へ移行する。出力信号に異常が生じていないと判断された場合(S11:NO)、S12へ移行する。
【0029】
S12では、4つのハーフブリッジ14〜17の中点31〜34から出力された4つの出力信号を用いて、被検出部87の回転角度θを算出する。
出力信号に異常が生じていると判断された場合に移行するS13では、異常が生じている出力信号を特定する。特定方法の詳細については、後述する。
【0030】
S14では、異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出可能か否かを判断する。本形態では、被検出部87の回転角度θは、arctanの値から算出されるため、sin系信号の全て、または、cos系信号の全てが異常となった場合、被検出部87の回転角度θを算出することができない。すなわち、sin系信号の全て、または、cos系信号の全てが異常となった場合、被検出部87の回転角度θが算出できないと判断される。異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できると判断された場合(S14:YES)、S15へ移行する。異常出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できないと判断された場合(S14:NO)、S16へ移行する。
【0031】
異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できると判断された場合(S14:YES)に移行するS15では、異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θを算出する。
異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できないと判断された場合(S14:NO)に移行するS16では、ステアリングセンサ94(図1参照)により検出されたステアリング角θStから被検出部87の回転角度θを算出する。なお、本形態では、ステアリングセンサ94により検出されたステアリング角θStが「外部信号」に対応するが、外部信号はステアリング角θstに限らない。
なお、本形態では、制御部50が「信号取得手段」、「異常特定手段」、および「回転角算出手段」を構成する。また、S10が「信号取得手段」の機能としての処理に相当し、S13が「異常特定手段」の機能としての処理に相当し、S12、S15、S16が「回転角算出手段」の機能としての処理に相当する。
【0032】
ここで、被検出部87の回転角度θの算出方法を説明する。
まず、S16における回転角度θの算出方法を説明する。異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できない場合(S14:NO)、すなわち全てのsin系信号、または、全てのcos系信号が異常となった場合、に移行するS16では、被検出部87の回転角度θを以下のように算出する。ステアリングセンサ94により取得されるステアリング角をθSt、モータ80の機械角をθMech、モータ80の極対数をPn、減速比をGとすると、以下の式が成立し、被検出部87の回転角度θを算出することができる。
θMech=(1/Pn)×θ …(1)
θSt=(1/G)×θMech …(2)
(1)式を(2)式に代入すると、以下の式が得られる。
θ=G×Pn×θSt …(3)
【0033】
次に、S12における回転角度θの算出方法を説明する。全ての出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2に異常がない場合(S11:NO)に移行するS12では、以下の式に示すように、sin系信号同士、または、cos系信号同士を減算することにより、オフセット値を消去する。なお、2つの信号を減算することにより、オフセット値だけでなく、温度特性等による誤差を消去することができる。
Vx1−Vx2=2Bcosθ …(4)
Vy1−Vy2=2Bsinθ …(5)
被検出部87の回転角度θは、(4)式、(5)式を用いて算出されるarctanである角度φに基づいて算出される。角度φから被検出部87の回転角度θを算出する方法については、図8および図9に基づいて後述する。
φ=arctan{(Vy1−Vy2)/(Vx1−Vx2)} …(6)
φ=arctan{(Vx1−Vx2)/(Vy1−Vy2)} …(7)
【0034】
続いて、S15における回転角度θの算出方法を説明する。ここでは、Vx1=Bcosθ+2.5が異常出力信号である場合を例に説明する。なお、他の出力信号が異常である場合も同様にして算出することができる。全ての出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2に異常がない場合、上述の通り、sin系信号同士、または、cos系信号同士を減算することにより、オフセット値を消去することができたが、Vx1が異常出力信号である場合、cos系信号同士を減算することによるオフセット値の消去ができない。そこで、異常のないcos系信号であるVx2=−Bcosθ+2.5のオフセット値を制御部50内で消去する。
Vx2a=Vx2−2.5=−Bcosθ
−2Vx2a=2Bcosθ …(8)
被検出部87の回転角度θは、(5)式、(8)式を用いて算出されるarctanである角度φに基づいて算出される。
φ=arctan{(Vy1−Vy2)/(−2Vx2a)} …(9)
φ=arctan{(−2Vx2a)/(Vy1−Vy2)} …(10)
【0035】
ここで、sin系信号およびcos系信号に基づいて算出されたarctanである角度φから被検出部87の回転角度θを算出する方法について、図8および図9に基づいて説明する。図8は回転角度θの算出に係り、角度範囲の分割を説明する図であって、(a)は回転角検出装置1側から被検出部87側を見たときの角度範囲の分割を示す図であり、(b)はsin信号およびcos信号を説明する図である。図9は、角度φに基づいて回転角度θを算出する算出方法を説明する図である。なお、図8および図9では、0°〜360°を8つに分割しており、図中の1〜8の数字は、分割された角度範囲であるエリア1〜エリア8を示している。また、図9中において、sin信号を「Vy」、cos信号を「Vx」と記載した。
まず、角度演算に用いるsin信号の振幅とcos信号の振幅とが異なる場合、適宜振幅を合わせておく(例えば(8)式参照)。また、sin信号またはcos信号が−信号である場合、例えば−1等を乗じたりすることにより、+信号となるようにしておく(例えば(8)式参照)。
上記(6)式、(7)式、(9)式、(10)式に示したように、角度φは、sin信号をcos信号で除した値(以下、「tan値」という。)、または、cos信号をsin信号で除した値(以下、「cot値」という。)のarctanとして算出される。sin信号およびcos信号は0となる角度があるので、0で除することを避けるため、sin信号が0となる角度を含む角度範囲においては、cos信号で除するtan値に基づいて角度φを算出し、cos信号が0となる角度を含む角度範囲においては、sin信号で除するcot値に基づいて角度φを算出する。
また、回転角度θを0〜360°とすると、異なる回転角度θでtan値またはcot値が同じになる場合があるので、sin信号の絶対値とcos信号の絶対値との大小関係、sin信号の符号、およびcos信号の符号に基づき、回転角度θの範囲を特定した上で、tan値またはcot値のarctanに基づき、回転角度θを算出する。
具体的には、図8および図9に示すように、振幅を合わせたsin信号の絶対値とcos信号の絶対値との大小関係、sin信号の符号、およびcos信号の符号に基づき、回転角度θの0〜360°を8つの角度範囲であるエリア1〜エリア8のどこに該当するかを特定する。そして、sin信号の絶対値およびcos信号の絶対値を比較し、絶対値の大きい方が分母となるようにtan値またはcot値を用い、tan値またはcot値のarctanである角度φを算出する。なお、図9中の「φの算出方法」においては、φの算出に係り、tan値またはcot値のどちらを用いてarctanを求めるかを示している。回転角度θが該当するエリア1〜8が特定されているので、図9に示すように、基準となる0°(=360°)、90°、180°または270°に算出された角度φを加算または減算することにより、回転角度θを算出する。
【0036】
次に、異常となった出力信号を特定する異常特定手段について説明する。
異常特定手段は、制御部50により取得された4つの出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を用いて演算することにより、異常となった出力信号を特定する。
まず、4つの出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2からオフセット値を制御部50内で消去し、以下のように、Vx1a、Vx2a、Vy1a、Vy2aを算出する。
Vx1a=Vx1−2.5= Bcosθ
Vx2a=Vx2−2.5=−Bcosθ
Vy1a=Vy1−2.5= Bsinθ
Vy2a=Vy2−2.5=−Bsinθ
【0037】
算出されたVx1a、Vx2a、Vy1a、Vy2aの2乗値である第1演算値を算出する。そして、sin系信号の2乗値とcos系信号の2乗値との和となるような第1演算値の組み合わせにより、第2演算値を算出する。すなわち、第2演算値は、以下に示す(11)〜(14)式により算出される。
Vx1a2+Vy1a2=B2cos2θ+B2sin2θ=B2(sin2θ+cos2θ)
…(11)
Vx1a2+Vy2a2=B2cos2θ+B2sin2θ=B2(sin2θ+cos2θ)
…(12)
Vx2a2+Vy1a2=B2cos2θ+B2sin2θ=B2(sin2θ+cos2θ)
…(13)
Vx2a2+Vy2a2=B2cos2θ+B2sin2θ=B2(sin2θ+cos2θ)
…(14)
【0038】
4つの出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2が正常である場合、sin2θ+cos2θ=1であるから、第2演算値は、いずれも理論上B2となる。したがって、図10に示すように、B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせに基づき、どの出力信号が異常であるかを特定することができる。なお、所定の範囲の幅は、センサ素子21〜28の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。また本形態では、B2を中心とする所定の範囲が、「第1の範囲」に対応し、B2が「K」に対応している。
図10に、B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせと、特定される異常出力信号と、の関係を示す。図10においては、B2を中心とする所定の範囲から第2演算値が外れる場合を記号「○」で示した。また、図10にて特定された異常出力信号に基づいて決定される被検出部87の回転角度θの算出方法を図11に示した。
【0039】
図10に示すように、(11)式、(12)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx1以外の出力信号Vx2、Vy1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードA)。
(13)式、(14)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx2が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx2以外の出力信号Vx1、Vy1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードB)。
(11)式、(13)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy1が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vy1以外の出力信号Vx1、Vx2、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードC)。
(12)式、(14)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy2が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vy2以外の出力信号Vx1、Vx2、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードD)。
【0040】
また、(14)式以外の3式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1およびVy1が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx1、Vy1以外の出力信号Vx2、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードE)。
(13)式以外の3式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1およびVy2が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx1、Vy2以外の出力信号Vx2、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードF)。
(12)式以外の3式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx2およびVy1が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx2、Vy1以外の出力信号Vx1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードG)。
(11)式以外の3式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx2およびVy2が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx2、Vy2以外の出力信号であるVx1、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードH)。
【0041】
(11)〜(14)式により算出される全ての第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、全てのsin系信号(Vy1およびVy2)、または、全てのcos系信号(Vx1およびVx2)が異常であると特定される。このとき、arctanの値を算出することができないので、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する(モードI)。
なお、モードA〜Hは、図7中のS15と対応し、モードIは、図7中のS16と対応する。
【0042】
ここで、Vx1が異常となり、Bcosθ=5Vとなる場合の具体例を説明する。なお、本形態における振幅Bは、上述の通り1.5Vである。
このとき、制御部50により取得される出力信号は、以下の式で示される。
Vx1=5+2.5=7.5 …(15)
(15)式のオフセット値を制御部50内で消去すると、
Vx1a=5
となる。
ここで、(11)〜(14)式により第2演算値を算出すると、(13)、(14)式により算出される第2演算値は、B2=2.25となるが、(11)、(12)式により算出される第2演算値は、25〜27.5の間で変動し、B2とならない。これにより、(11)、(12)式により算出される第2演算値がB2とはならないので、出力信号Vx1が異常であると特定することができる。
【0043】
次に、1つの出力信号が異常である状態(モードA〜D)から、さらに他の出力信号が異常となった場合について説明する。ここでは、出力信号Vx1が異常である状態(モードA)から、出力信号Vx1以外の他の出力信号が異常となった場合について、図12に基づいて説明する。
出力信号Vx1が異常であるので、(11)式および(12)式により算出される第2演算値は、B2を中心とする所定の範囲から外れている。図12(a)に示すように、さらに(13)式および(14)式により算出される第2演算値がいずれもB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1に加え、Vx2が異常になったと特定できる。この場合、全てのcos系信号が異常であり、arctanの値を算出することができないので、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する(モードI)。
【0044】
また、(11)式および(12)式により算出される第2演算値に加え、(13)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1に加え、Vy1が異常になったと特定できる。このとき、異常出力信号Vx1、Vy1以外の出力信号Vx2、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードE)。
さらにまた、(11)式および(12)式により算出される第2演算値に加え、(14)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1に加え、Vy2が異常になったと特定できる。このとき、異常出力信号Vx1、Vy2以外の出力信号Vx2、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードF)。
【0045】
ここで、上述の例のように、出力信号Vx1に加え、Vy1またはVy2が異常であると特定され(モードE、F)、さらに他の出力信号が異常になる場合について説明する。
図12(b)に示すように、(11)式および(12)式により算出される第2演算値に加え、(13)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れ、さらに(14)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れた場合、Vx1、Vy1に加えてVx2またはVy2が異常になったと特定できる。このとき、全てのsin系信号(Vy1およびVy2)、または、全てのcos系信号(Vx1およびVx2)が異常であり、arctanの値を算出することができないので、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する(モードI)。
また、(11)式および(12)式により算出される第2演算値に加え、(14)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れ、さらに(13)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れた場合、Vx1、Vy2に加えてVx2またはVy1が異常になったと特定できる。このとき、全てのsin系信号(Vy1およびVy2)、または、全てのcos系信号(Vx1およびVx2)が異常であり、arctanの値を算出することができないので、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する(モードI)。
なお、図12に示す例では、最初に出力信号Vx1が異常となった場合について説明したが、他の出力信号が最初に異常となった場合においても、同様にしてさらに異常となった出力信号を特定することにより、異常が生じていない出力信号またはステアリング角θStに基づいて、回転角度θを算出することができる。
【0046】
以上詳述したように、本形態の回転角検出装置10は、電動パワーステアリング装置1に用いられる。制御部50の信号取得手段は、ハーフブリッジ14〜17の中点31〜34から取得される出力信号を、出力信号同士の加算処理や差動増幅処理等をすることなく、ハーフブリッジ14〜17ごとに取得している。信号取得手段は、4つのハーフブリッジ14〜17の中点31〜34から出力される4つの出力信号を取得している。また、回転角算出手段は、取得された4つの出力信号に基づき、被検出部87の回転角度θを算出する。
制御部50の異常特定手段は、取得された4つの出力信号に基づく値である演算値が所定の範囲から外れた場合、当該演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。本形態では、ハーフブリッジ14〜17ごとに取得された出力信号に基づく値である演算値に基づいて故障などによりどの出力信号が異常となったかを特定することができ、誤った角度を検出しないようにすることができるとともに、一部の出力信号に故障が生じても継続して回転角度が検出可能な多重系の回転角検出装置となる。また、異常が生じている出力信号が特定されるので、故障原因や故障部品の特定に寄与する。
【0047】
制御部50により取得される4つの出力信号は、正常時において、いずれも振幅B=1.5のsin信号、−sin信号、cos信号、および、−cos信号である。すなわち、第1ハーフブリッジ14の中点31から出力され制御部50にて取得される出力信号Vx1がBcosθ+2.5であり、第2ハーフブリッジ15の中点32から出力され制御部50にて取得される出力信号Vy1がBsinθ+2.5であり、第3ハーフブリッジ16の中点33から出力され制御部50にて取得される出力信号Vx2が−Bcosθ+2.5であり、第4ハーフブリッジ16の中点34から出力され制御部50にて取得される出力信号Vy2が−Bsinθ+2.5である。
【0048】
本形態では、制御部50にて取得された出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2について、制御部50内でそれぞれオフセット値を消去した出力信号であるVx1a、Vx2a、Vy1a、Vy2aを算出し、第1演算値Vx1a2、Vx2a2、Vy1a2、Vy2a2を算出する。そして、(11)〜(14)式に示すように、4つの第1演算値をそれぞれ少なくとも1回ずつ用い、cos系信号の2乗値であるVx1a2、Vx2a2のいずれか一方と、sin系信号の2乗値であるVy1a2、Vy2a2のいずれか一方とを加算した第2演算値を、(11)〜(14)式により算出する。そして、(11)〜(14)式により算出される第2演算値のうち、B2を中心とする所定の範囲から外れた第2演算値の組み合わせに基づき、異常が生じている出力信号を特定する。(11)〜(14)式により算出される第2演算値は、いずれもB2×(sin2θ+cos2θ)であるので、出力信号に異常がない場合の第2演算値は理論上、定数B2となる。したがって、容易な演算によって異常が生じている出力信号を特定することができる。
【0049】
また、異常が生じていると特定された出力信号以外の出力信号に基づいて被検出部87の回転角度θを算出できる場合(図7中のS14:YES)、すなわち本形態ではsin系信号およびcos系信号が少なくとも1つずつ正常である場合、異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づき、被検出部87の回転角度θを算出する(S15)。本形態では、どの出力信号が異常となったかが特定されるので、異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づいて回転角度θの算出を継続することができる。これにより、電動パワーステアリング装置1による操舵のアシストが継続可能であるとともに、操舵感の悪化を抑制することができる。
さらに、異常が生じていると特定された出力信号以外の出力信号に基づいて被検出部87の回転角度θを算出できない場合(S14:NO)、すなわち本形態では全てのsin系信号系信号、または、全てのcos系信号が異常となった場合、ステアリングセンサ94から取得されるステアリング角θSt基づき、被検出部87の回転角度θを算出する(S16)。これにより、出力信号から回転角度θが算出できない場合、ステアリング角θstを用いることにより被検出部87の回転角度θの算出を継続することができる。特に、本形態では、回転角検出装置10を電動パワーステアリング装置1に用いているので、ステアリングセンサ94により検出されるステアリング角θStに基づいて回転角度θを算出することにより、電動パワーステアリング装置1の駆動を継続することができ、操舵感の悪化を防ぐことができる。
【0050】
また、本形態の第1ブリッジ回路11のハーフブリッジ14の中点31から増幅部40を経由して出力される出力信号Vx1はcos信号であり、ハーフブリッジ15の中点32から出力される増幅部40を経由して出力信号Vy1はsin信号である。第2ブリッジ回路12のハーフブリッジ16の中点33から出力される増幅部40を経由して出力信号Vx2は−cos信号であり、ハーフブリッジ17の中点34から出力される増幅部40を経由して出力信号Vy2は−sin信号である。また、第1ブリッジ回路11と第2ブリッジ回路12とは、それぞれ別々の電源に接続されている。これにより一方のブリッジ回路または電源が故障したとしても、他方のブリッジ回路から出力されるsin系信号およびcos系信号を用い、被検出部87の回転角度θを算出することができる。
【0051】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する。なお、以下、複数の実施形態において、第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、以下の実施形態においては、第1実施形態と異なる部分、および、異常出力信号の特定方法を中心に説明し、回転角度θの算出方法等については第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
図13に示すように、本形態の回転角検出装置100は、第1ハーフブリッジ14の中点31から2つの出力信号が出力される点において第1実施形態と異なっている。
【0052】
第1ハーフブリッジ14の中点31から出力された2つの出力信号はいずれも振幅Aの−cos信号であり、それぞれ増幅部40にて増幅され、Vx11=Bcosθ+2.5、Vx12=Bcosθ+2.5となる。また、第3ハーフブリッジ16の中点33から出力される出力信号は、増幅部40による増幅により、Vx13=−Bcosθ+2.5となる。第2ハーフブリッジ15の中点32から出力される出力信号は、増幅部40による増幅により、Vy11=Bsinθ+2.5となる。第4ハーフブリッジ17の中点34から出力されるsinθは、増幅部40による増幅により、Vy12=−Bsinθ+2.5となる。すなわち、本形態の制御部50は、Vx11、Vx12、Vx13、Vy11、Vy12の5つの出力信号を取得する。本形態では、出力信号Vx11、Vx12、およびVx11、Vx12からオフセットを消去したVx11a、Vx12aが「cos信号」に対応し、出力信号Vx13およびVx13からオフセットを消去したVx13aが「−cos信号」に対応し、出力信号Vy11およびVy11からオフセットを消去したVy11aが「sin信号」に対応し、出力信号Vy12およびVy12からオフセットを消去したVy12aが「−sin信号」に対応している。
なお、第1ハーフブリッジ14の中点31から2つの信号が出力される以外の回路構成等は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0053】
異常特定手段は、制御部50により取得された5つの出力信号Vx11、Vx12、Vx13、Vy11、Vy12を用いて演算することにより、異常となった出力信号を特定する。
まず、5つの出力信号Vx11、Vx12、Vx13、Vy11、Vy12からオフセット値を制御部50内で消去し、以下のようにVx11a、Vx12a、Vx13a、Vy11a、Vy12aを算出する。
Vx11a=Vx11−2.5= Bcosθ
Vx12a=Vx12−2.5= Bcosθ
Vx13a=Vx13−2.5=−Bcosθ
Vy11a=Vy11−2.5= Bsinθ
Vy12a=Vy12−2.5=−Bsinθ
【0054】
このようにして算出されたVx11a、Vx12a、Vx13a、Vy11a、Vy12aの2乗値である第1演算値を算出する。そして、sin系信号の2乗値とcos系信号の2乗値との和となるような第1演算値の組み合わせにより、第2演算値を算出する。すなわち、第2演算値は、以下に示す(21)〜(24)式により算出される。
Vx11a2+Vy11a2=B2cos2θ+B2sin2θ
=B2(sin2θ+cos2θ) …(21)
Vx11a2+Vy12a2=B2cos2θ+B2sin2θ
=B2(sin2θ+cos2θ) …(22)
Vx12a2+Vy11a2=B2cos2θ+B2sin2θ
=B2(sin2θ+cos2θ) …(23)
Vx13a2+Vy12a2=B2cos2θ+B2sin2θ
=B2(sin2θ+cos2θ) …(24)
【0055】
5つの出力信号Vx11、Vx12、Vx13、Vy11、Vy12が正常である場合、sin2θ+cos2θ=1であるから、(21)〜(24)式により算出される値は、いずれも理論上B2となる。したがって、図14に示すように、B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせに基づき、どの出力信号が異常であるかを特定することができる。なお、上記実施形態と同様、所定の範囲の幅は、センサ素子の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。また本形態では、B2を中心とする所定の範囲が、「第1の範囲」に対応し、B2が「K」に対応している。
図14に、B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせと、特定される異常出力信号と、の関係を示す。図14においては、B2を中心とする所定の範囲から第2演算値が外れる場合を記号「○」で示した。
【0056】
図14に示すように、(21)式、(22)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx11が異常であると特定され、異常出力信号Vx11以外の出力信号Vx12、Vx13、Vy11、Vy12を用いて回転角度θを算出する。この場合、Vx12、Vx13が正常なので、この2つを(4)式のように減算することによりオフセット値、および、温度特性等による誤差を消去することができる。
(23)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx12が異常であると特定され、異常出力信号Vx12以外の出力信号Vx11、Vx13、Vy11、Vy12を用いて回転角度θを算出する。この場合、Vx11、Vx13が正常なので、この2つを(4)式のように減算することによりオフセット値、および、温度特性等による誤差を消去することができる。
【0057】
(24)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx13が異常であると特定され、異常出力信号Vx13以外の出力信号Vx11またはVx12、Vy11、Vy12を用いて回転角度θを算出する。
(21)式、(23)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy11が異常であると特定され、異常出力信号Vy11以外の出力信号Vx11またはVx12、Vx13、Vy12を用いて回転角度θを算出する。
(22)式、(24)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy12が異常であると特定され、異常出力信号Vy12以外の出力信号Vx11またはVx12、Vx13、Vy11を用いて回転角度θを算出する。
【0058】
制御部50により取得される信号が5つである場合、異常出力信号が1つであれば、4つの計算を行うことにより、異常出力信号を特定することができる。なお、制御部50により取得される信号数が4〜8であり、異常出力信号が1つであれば、4つの計算を行うことにより、異常出力信号を特定することができる。また、sin系信号とcos系信号との全ての組み合わせを計算することにより、複数の出力信号が同時に故障した場合であっても異常出力信号を特定することができる。なお、本形態におけるsin系信号とcos系信号の全ての組み合わせは、6通りである。
これにより、上記実施形態と同様の効果を奏する他、制御部50により取得される信号数が増えることにより、回転角検出装置100の信頼性が向上する。
【0059】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する。回路構成、制御部50により取得される信号等は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
本形態の異常特定手段では、制御部50により取得された4つの出力信号Vx1=Bcosθ+2.5、Vx2=−Bcosθ+2.5、Vy1=Bsinθ+2.5、Vy2=−Bsinθ+2.5を用いて演算することにより、異常となった出力信号を特定する。
まず、4つの出力信号のsin系信号とcos系信号との組み合わせで減算した減算値Vx1y1、Vx1y2、Vx2y1、Vx2y2を算出する。2つの信号を減算することにより、オフセット値だけでなく、温度特性等による誤差を消去することができる。
Vx1y1=Vx1−Vy1= Bcosθ−Bsinθ
Vx1y2=Vx1−Vy2= Bcosθ+Bsinθ
Vx2y1=Vx2−Vy1=−Bcosθ−Bsinθ
Vx2y2=Vx2−Vy2=−Bcosθ+Bsinθ
【0060】
このようにして算出された減算値Vx1y1、Vx1y2、Vx2y1、Vx2y2の2乗値である第1演算値を算出する。そして、2つの第1演算値を加算してK×(sin2θ+cos2θ)となるような第1演算値の組み合わせにより、第2演算値を算出する。すなわち、第2演算値は、以下に示す(31)〜(34)式により算出される。
Vx1y12+Vx1y22=2B2(sin2θ+cos2θ) …(31)
Vx2y12+Vx2y22=2B2(sin2θ+cos2θ) …(32)
Vx1y12+Vx2y12=2B2(sin2θ+cos2θ) …(33)
Vx1y22+Vx2y22=2B2(sin2θ+cos2θ) …(34)
【0061】
4つの出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2が正常である場合、sin2θ+cos2θ=1であるから、第2演算値は、いずれも理論上2B2となる。したがって、図15に示すように、2B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせに基づき、どの出力信号が異常であるかを特定することができる。なお、上記実施形態と同様、所定の範囲の幅は、センサ素子の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。また本形態では、2B2を中心とする所定の範囲が、「第1の範囲」に対応し、2B2が「K」に対応している。
図15に、2B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせと、特定される異常出力信号と、の関係を示す。図15においては、2B2を中心とする所定の範囲から第2演算値が外れた場合を記号「○」で示した。また、図15にて特定された異常出力信号に基づいて決定される被検出部87の回転角度θの算出方法を図16に示す。
【0062】
図15に示すように、(31)式、(33)式、(34)式により算出される第2演算値が、2B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1が異常であると特定され、図16に示すように、異常出力信号Vx1以外の出力信号Vx2、Vy1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードA)。
(32)式、(33)式、(34)式により算出される第2演算値が、2B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx2が異常であると特定され、図16に示すように、異常出力信号Vx2以外の出力信号Vx1、Vy1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードB)。
(31)式、(32)式、(33)式により算出される第2演算値が、2B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy1が異常であると特定され、図16に示すように、異常出力信号Vy1以外の出力信号Vx1、Vx2、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードC)。
(31)式、(32)式、(34)式により算出される第2演算値が、2B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy2が異常であると特定され、図16に示すように、異常出力信号Vy2以外の出力信号Vx1、Vx2、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードD)。
なお、回転角度θの算出方法は、第1実施形態と同様である。また、本形態では、(31)〜(34)式により算出される全ての第2演算値が所定の範囲から外れる場合、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する。
【0063】
本形態では、異常特定手段は、出力信号同士を減算した4つの減算値のVx1y1、Vx1y2、Vx2y1、Vx2y2である第1演算値を算出している。減算値は、sin系信号とcos系信号との組み合わせで減算して算出されることにより、センサ素子の温度特性等による誤差が消去されている。また、4つの第1演算値をそれぞれ少なくとも1回ずつ用い、第1演算値の2つを加算した4つの第2演算値を算出する。そして、(31)〜(34)式により算出される第2演算値のうち、2B2を中心とする所定の範囲から外れた式の組み合わせに基づき、異常出力信号を特定する。(31)〜(34)式は、いずれも2B2×(sin2θ+cos2θ)であるので、出力信号に異常がない場合の第2演算値は理論上、定数2B2となる。したがって、容易な演算によって異常出力信号を特定することができる。
また、異常特定手段により異常出力信号が特定されるので、上記第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0064】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する。回路構成、制御部50により取得される信号等は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
本形態の異常特定手段では、制御部50により取得された4つの出力信号Vx1=Bcosθ+2.5、Vx2=−Bcosθ+2.5、Vy1=Bsinθ+2.5、Vy2=−Bsinθ+2.5を用いて演算することにより、異常となった出力信号を特定する。
本形態では、出力信号Vx1とVx2とを加算してcos信号演算値を算出し、出力信号Vy1とVy2とを加算してsin信号演算値を算出する。cos信号演算値の算出式を(41)式、sin信号演算値の算出式を(42)式に示す。
Vx1+Vx2=Bcosθ−Bcosθ+5 …(41)
Vy1+Vy2=Bsinθ−Bcosθ+5 …(42)
【0065】
出力信号Vx1とVx2とは、互いに位相が180°ずれている信号なので、出力信号Vx1およびVx2が正常である場合、cos信号演算値は所定値P1、本形態では5、となる。したがって、cos信号演算値が所定値P1を中心とする所定の範囲から外れる場合、cos系信号に異常が生じていることを容易に特定することができる。
【0066】
同様に、出力信号Vy1とVy2とは、互いに位相が180°ずれている信号なので、出力信号Vy1およびVy2が正常である場合、sin信号演算値は所定値P2、本形態では5、となる。したがって、sin信号演算値が所定値P2を中心とする所定の範囲から外れる場合、sin系信号に異常が生じていることを容易に特定することができる。
【0067】
なお、上記実施形態と同様、所定の範囲の幅は、センサ素子の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。また本形態では、所定値P1を中心とする所定の範囲が、「第3の範囲」に対応し、所定値P2を中心値する所定の範囲が、「第2の範囲」に対応している。本形態では、2つのsin系信号のどちらに異常が生じているか、または、2つのcos系信号のどちらに異常が生じているかまでは特定できないため、図7中のS14では必ず否定判断される。
【0068】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
(変形例)
(ア)回路構成
上記実施形態では、回転角検出装置は増幅部を備えていたが、図17に示すように、回転角検出装置110は、増幅部40を備えず、それぞれのハーフブリッジの中点から出力される出力信号が、そのまま制御部50によって取得されるように構成してもよい。また、図18に示すように、回転角検出装置120は、2つのブリッジ回路が、同一の電源に接続されていてもよい。また、一方のブリッジ回路から取得される出力信号が、cos信号および−cos信号であり、他方のブリッジ回路から取得される出力信号が、sin信号および−sin信号であってもよい。
また、ブリッジ回路は2つに限らず、3つ以上であってもよい。また、ハーフブリッジの中点から出力され、制御部にて取得される出力信号は、4つ以上であれば、いくつであってもよい。また、出力信号は、cos信号およびsin信号に限らない。
【0069】
(イ)異常検出手段
他の実施形態では、演算値は、出力信号そのものであってもよい。異常特定手段は、出力信号が所定の範囲である第4の範囲から外れた場合、当該出力信号に異常が生じていると特定してもよい。例えば、上記実施形態のように、出力信号が正弦波信号であり、正常時における最小値が1V、最大値が4Vである場合、所定の範囲の上限値を4.5V、所定の範囲の下限値を0.5Vに設定し、出力信号が4.5Vを上回った場合、または、0.5Vを下回ったとき、異常であると特定する。すなわち、この例では、0.5V〜4.5Vが「第4の範囲」に対応している。これにより、容易に異常出力信号を特定することができる。
【0070】
上記実施形態では、異常検出手段により異常出力信号が特定されたとき、他の出力信号や外部信号に基づいて回転角度を検出したが、他の実施形態では、回転角検出装置による角度検出を停止してもよい。
また、上記実施形態では、ハーフブリッジから出力されるsin信号、−sin信号、cos信号、−cos信号の振幅は等しかったが、他の実施形態では、出力される信号の振幅は、ハーフブリッジごとに異なっていてもよい。この場合、それぞれのハーフブリッジから出力される信号の振幅がわかっていれば、制御部において演算処理を行い、振幅を補正することにより、上記実施形態と同様にして異常出力信号を特定することができる。
また、上記実施形態では、回転角検出装置を電動パワーステアリング装置に用いたが、これに限らず、他の分野へ適用することはもちろん可能である。
【符号の説明】
【0071】
1:電動パワーステアリング装置、10:回転角検出装置、11:第1ブリッジ回路(ブリッジ回路部)、12:第2ブリッジ回路(ブリッジ回路部)、14〜17:ハーフブリッジ、21〜28:センサ素子、31〜34:ハーフブリッジの中点、40:増幅部、41:バッファ、42:オペアンプ、43:オフセット部、50:制御部(信号取得手段、回転角算出手段、異常特定手段)、80:モータ、81:ステータ、82:ロータ、83:シャフト、84:コイル、85:ハウジング、86:カバー、87:被検出部、89:ギア、90:ステアリングシステム、91:ステアリングホイール、92:ステアリングシャフト、94:ステアリングセンサ、95:トルクセンサ、96:ギア、97:ラック軸、98:タイヤ、100、110、120:回転角検出装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角検出装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータなどの回転軸の回転角度を検出する回転角検出装置として、センサ素子から出力される出力信号に基づいて回転角を算出する技術が公知である。また、センサ素子から出力される信号に異常が発生した場合に、異常が発生したことを判定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−49097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、ブリッジ回路の出力信号であるsinθと−sinθとを加算器に送り、sin成分を減算した信号Aを生成している。また、同様にブリッジ回路の出力信号であるcosθと−cosθとを加算器に送り、cos成分を減算した信号Bを生成している。これら生成された信号A及びBが上限閾値を上回る、或いは、下限閾値を下回る場合、異常が発生したと判定している。しかしながら、特許文献1の技術では、加算器により生成された信号AまたはBにより故障を判定しているので、どの出力信号が故障したかを特定することはできなかった。また、特許文献1の技術では、故障により1つでも信号が失われるとcos信号もしくはsin信号だけとなり、回転角度を検出することができなかった。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、故障などにより異常となった出力信号を特定可能であるとともに、一部の故障が生じても継続して回転角度が検出可能な多重系の回転角検出装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の回転角検出装置は、複数のブリッジ回路部と、制御部と、を備える。それぞれのブリッジ回路部は、被検出部の回転に応じて変化する回転磁界によりインピーダンスが変化するセンサ素子により構成される複数のハーフブリッジを有する。センサ素子は、例えば磁気抵抗素子である。制御部は、信号取得手段、回転角算出手段、および、異常特定手段を有する。信号取得手段は、ハーフブリッジの中点から出力される出力信号をハーフブリッジごとに取得する。例えば、ハーフブリッジが2つのセンサ素子により構成される場合、2つのセンサ素子の接続点を中点とする。なお、信号取得手段により取得される信号は、ハーフブリッジの中点から出力される出力信号そのものに限らず、オペアンプ等による増幅処理やオフセット処理がそれぞれの出力信号ごとに行われた信号値であってもよい。また、信号取得手段により取得された出力信号について、出力信号ごとに制御部内にてオフセット消去等を行ったものも、本発明の「出力信号」に含まれるものとする。回転角算出手段は、信号取得手段により取得された出力信号に基づき、被検出部の回転角度を算出する。
【0006】
本発明は、異常が生じている出力信号を特定する異常特定手段に特徴を有している。異常特定手段は、信号取得手段によって取得される少なくとも4つの出力信号に基づく値である演算値が所定の範囲から外れた場合、当該演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。本発明の信号取得手段は、ハーフブリッジの中点から出力される出力される出力信号を、信号同士の加算処理や差動増幅処理等を行わず、ハーフブリッジごとに取得している。そして、ハーフブリッジごとに取得された出力信号に基づく値である演算値に基づいて、故障などによりどの出力信号が異常となったかを特定することができる。なお、本発明における「演算値」は、例えば請求項11に記載の発明のように、信号取得手段により取得された出力信号そのものであってもよい。以下、異常が生じている出力信号を、適宜「異常出力信号」という。
【0007】
請求項2に記載の発明では、少なくとも4つの出力信号は、正常時において、sin信号、−sin信号、cos信号、および、−cos信号である。
請求項3に記載の発明では、演算値は、出力信号の2乗値または出力信号同士を減算した減算値の2乗値である複数の第1演算値のうちの2つの値を加算した複数の第2演算値である。異常特定手段は、第2演算値が所定の範囲である第1の範囲から外れた場合、第1の範囲から外れた第2演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。請求項3に記載の発明では、4つの出力信号がsin信号、−sin信号、cos信号、および、−cos信号であることを利用し、2乗和を算出することにより、容易な計算で異常が生じている出力信号を特定することができる。
【0008】
請求項4に記載の発明では、第2演算値がK×(sin2θ+cos2θ)となるように2つの第1演算値を用いて算出される。sin2θ+cos2θ=1であるので、第2演算値は、理論上定数Kとなる。この定数Kは、例えば出力信号の振幅の2乗に比例する値である。これにより、定数Kを中心とする所定の範囲から第2演算値が逸脱しているか否かを容易に特定することができる。なお、所定の範囲の幅は、センサ素子の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。
【0009】
具体的には、以下のような演算が行われる。
請求項5に記載の発明では、第2演算値は、sin信号の2乗値または−sin信号の2乗値と、cos信号の2乗値または−cos信号の2乗値と、の組み合わせから算出される。
請求項6に記載の発明では、減算値は、sin信号または−sin信号(以下、sin信号と−sin信号の総称として「sin系信号」という。)と、cos信号または−cos信号(以下、cos信号と−cos信号の総称として「cos系信号」という。)と、の組み合わせで減算して算出される。2つの出力信号を減算しているので、センサ素子の温度特性等による誤差を消去することができる。
【0010】
請求項7に記載の発明では、第1演算値は少なくとも4つ算出される。また、第2演算値は、算出された第1演算値の全てを少なくとも1回ずつ用いて、少なくとも4通りの第1演算値の組み合わせから算出される。これにより、どの出力信号に異常が生じているかを確実に特定することができる。
【0011】
請求項8に記載の発明では、演算値は、sin信号および−sin信号から算出されるsin信号演算値である。異常特定手段は、sin信号演算値が所定の範囲である第2の範囲から外れた場合、sin信号演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。これにより、sin信号演算値に対応する出力信号に異常が生じていることを容易に特定することができる。
請求項9に記載の発明では、演算値は、cos信号および−cos信号から算出されるcos信号演算値である。異常特定手段は、cos信号演算値が所定の範囲である第3の範囲から外れた場合、cos信号演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。これにより、cos信号演算値に対応する出力信号に異常が生じていることを容易に特定することができる。
【0012】
請求項10に記載の発明では、1つのブリッジ回路部から出力される出力信号は、sin信号または−sin信号と、cos信号または−cos信号と、からなる。例えば、sin系信号をcos系信号で除した値、または、cos系信号をsin系信号で除した値に基づき、arctanから被検出部の回転角度θを算出する場合、1つのブリッジ回路部が故障したとしても、正常なブリッジ回路部から出力されるsin系信号とcos系信号を用いて、被検出部の回転角度を算出することができる。このような構成は、特に請求項14に記載の発明のように、ブリッジ回路部ごとに電源を有している場合、特に好ましい。
【0013】
請求項11に記載の発明では、演算値は、出力信号そのものである。異常特定手段は、出力信号が所定の範囲である第4の範囲から外れた場合、当該出力信号に異常が生じていると特定する。これにより、容易に異常出力信号を特定することができる。
【0014】
請求項12に記載の発明では、回転角算出手段は、異常特定手段により特定された異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づいて回転角度を算出できるとき、異常特定手段により特定された異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づき、回転角度を算出する。故障などによりどの出力信号に異常が生じているかが異常特定手段により特定されるので、異常が生じていると特定された出力信号以外の出力信号に基づいて回転角度の算出を継続することができる。なお、例えば請求項2に記載の構成を採用した場合、sin系信号のうちの少なくとも1つと、cos系信号のうちの少なくとも1つと、が正常であれば、正常であるsin系信号とcos系信号とに基づいて回転角度を算出可能である。
【0015】
請求項13に記載の発明では、回転角算出手段は、異常特定手段により特定された異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づいて回転角度を算出できないとき、外部から取得される外部信号に基づいて回転角度を算出する。これにより、出力信号から回転角度を算出できない場合、外部信号を用いることにより被検出部の回転角度の算出を継続することができる。なお、例えば請求項2に記載の構成を採用した場合、全てのsin系信号、または、全てのcos系信号が異常となった場合、出力信号に基づいて回転角度を算出することができない。また例えば、請求項15に記載のように、回転角検出装置を電動パワーステアリング装置に用いた場合、外部信号として、ステアリングセンサにより検出されるステアリング角が好適に用いられる。
【0016】
請求項14に記載の発明では、ブリッジ回路部は、それぞれ別の電源に接続される。これにより、1つの電源が故障したとしても、他の電源に接続されるブリッジ回路部から出力される出力信号に基づき、回転角度の算出を継続することができる。なお、上述の通り、請求項11に記載の構成と併用することが好ましい。
【0017】
請求項15に記載の発明は、請求項1〜14に記載の回転角検出装置を用いた電動パワーステアリング装置である。例えば請求項12に記載の構成を採用すれば、出力信号の一部に異常が生じたとしても、異常が生じている出力信号以外の信号によって略正確に回転角度が算出されるので、電動パワーステアリング装置によるアシストが継続可能であるとともに、操舵感の悪化を抑制することができる。また例えば請求項13に記載の構成を採用すれば、回転角検出装置による回転角度の算出が不可能になった場合においても、ステアリングセンサからの信号に基づいて回転角度を算出することにより、電動パワーステアリング装置の駆動を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態による電動パワーステアリング装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるモータの構成を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による回転角検出装置の回路構成を示す回路図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるブリッジ回路から出力される出力信号を示す説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態による増幅部を説明する回路図である。
【図6】本発明の第1実施形態の増幅部によって増幅された出力信号を説明する説明図である。
【図7】本発明の第1実施形態による回転角算出処理を説明するフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態による被検出部の回転角度の算出に係り、角度範囲の分割を説明する説明図であって、(a)は回転角検出装置側から見た被検出部を模式的に示す図であり、(b)はsin信号およびcos信号を説明する図である。
【図9】本発明の第1実施形態による被検出部の回転角度の算出方法を説明する説明図である。
【図10】本発明の第1実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する説明図である。
【図11】本発明の第1実施形態による異常時処理を説明する説明図である。
【図12】本発明の第1実施形態において、2つ目以降の異常出力信号の特定方法および異常時処理を説明する説明図である。
【図13】本発明の第2実施形態による回転角検出装置の回路構成を示す回路図である。
【図14】本発明の第2実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する説明図である。
【図15】本発明の第3実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する説明図である。
【図16】本発明の第3実施形態による異常時処理を説明する説明図である。
【図17】本発明の変形例による回転角検出装置の回路構成を示す回路図である。
【図18】本発明の変形例による回転角検出装置の回路構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による回転角検出装置を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態による回転角検出装置10は、車両のステアリング操作をアシストするための電動パワーステアリング装置1(以下、適宜「EPS」という。)に設けられる。
【0020】
図1は、電動パワーステアリング装置1を備えたステアリングシステム90の全体構成を示す図である。ステアリングホイール91に接続されたステアリングシャフト92には、ステアリングセンサ94およびトルクセンサ95が設けられている。ステアリングセンサ94は、ステアリングシャフト92の回転角を検出する。トルクセンサ95は、ステアリングホイールに加えられた操舵トルクを検出する。ステアリングシャフト92の先端は、ギア96を介してラック軸97に連結されている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対のタイヤ(ホイール)98がそれぞれ連結されている。ステアリングシャフト92の回転運動は、ギア96によってラック軸97の直線運動に変換され、ラック軸97の直線運動変位に応じた角度分、左右のタイヤ98が転舵される。
【0021】
電動パワーステアリング装置1は、補助操舵トルクを発生するモータ80、モータ80の回転角度を検出する回転角検出装置10、及び、モータ80の回転を減速してステアリングシャフト92に伝達するギア89を備える。モータ80は、ギア89を正逆回転させる三相ブラシレスモータである。電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール91の操舵方向および操舵トルクに応じた操舵補助トルクをステアリングシャフト92に伝達する。
【0022】
モータ80の概略構成を、図2に示す。モータ80は、ステータ81、ロータ82、および、シャフト83等を有している。ロータ82は、シャフト83とともに回転する筒状の部材であり、その表面に永久磁石が貼り付けられ、磁極を有している。ステータ81は、ロータ82を内部に収容するとともに、回転可能に支持している。ステータ81は、径内方向へ所定角度毎に突出する突出部を有し、この突出部にコイル84が巻回されている。コイル84への通電によって生じる回転磁界により、ロータ82はシャフト83とともに回転する。ステータ81、ロータ82、シャフト83、コイル84は、ハウジング85に収容される。シャフト83は、ハウジング85の両端から突出し、カバー86側の端部に被検出部87を有する。被検出部87は、円板状に形成される2極磁石であり、シャフト83と一体となって回転する。カバー86の被検出部87と対向する位置には、回転角検出装置10が設けられる。本形態では、回転角検出装置10は、カバー86の一箇所に設けられているが、複数箇所に設けるように構成してもよい。
【0023】
回転角検出装置1の回路構成を、図3に示す。図3に示すように、回転角検出装置10は、第1ブリッジ回路11、第2ブリッジ回路12、増幅部40、制御部50等を有している。
第1ブリッジ回路11は、第1ハーフブリッジ14および第2ハーフブリッジ15を有する。第1ハーフブリッジ14は、2つのセンサ素子21、22から構成される。第2ハーフブリッジ15は、2つのセンサ素子23、24から構成される。第2ブリッジ回路12は、第3ハーフブリッジ16および第4ハーフブリッジ17を有する。第3ハーフブリッジ16は、2つのセンサ素子25、26から構成される。第4ハーフブリッジ17は、2つのセンサ素子27、28から構成される。本形態のセンサ素子21〜28は、いずれも被検出部87の回転に応じて変化する回転磁界によりインピーダンスが変化する磁気抵抗素子である。第1ブリッジ回路11と第2ブリッジ回路12とは、それぞれ別々の電源に接続されている。第1ブリッジ回路11が接続される電源および第2ブリッジ回路12が接続される電源は、共に5Vである。なお、第1ブリッジ回路11および第2ブリッジ回路12が、「複数のブリッジ回路部」を構成している。
【0024】
第1ハーフブリッジ14のセンサ素子21、22の中点31からは、図4(a)に実線で示すように、振幅Aの−cos信号が出力される。第2ハーフブリッジ15のセンサ素子23、24の中点32からは、図4(a)に波線で示すように、振幅Aの−sin信号が出力される。第3ハーフブリッジ16のセンサ素子25、26の中点33からは、図4(b)に実線で示すように、振幅Aのcos信号が出力される。第4ハーフブリッジ17のセンサ素子27、28の中点34からは、図4(b)に波線で示すように、sin信号が出力される。4つの出力信号は、増幅部40にて増幅される。
【0025】
図5に基づいて増幅部40の回路構成について説明する。なお、図5においては、第2ハーフブリッジ15から出力される出力信号の増幅処理について説明するが、他のハーフブリッジ14、16、17から出力された信号についても、同様に増幅される。
第2ハーフブリッジ15の中点32から出力された出力信号は、バッファ41及び抵抗R1を経由して、オペアンプ42のマイナス側に入力される。また、オフセット部43にて2.5V出力が作出され、オペアンプ42のプラス側に入力される。そして、第2ハーフブリッジ15の中点32から出力された出力信号は、オペアンプ42によって増幅され、中心値2.5V、振幅B=1.5Vの正弦波信号として制御部50に入力される(図6参照)。すなわち、第2ハーフブリッジ15の中点32から出力される出力信号−Asinθは、増幅部40による増幅により、Vy1=Bsinθ+2.5となる。
【0026】
同様に、第1ハーフブリッジ14の中点31から出力される出力信号−cosθは、増幅部40による増幅により、Vx1=Bcosθ+2.5となる。第3ハーフブリッジ16の中点33から出力される出力信号cosθは、増幅部40による増幅により、Vx2=−Bcosθ+2.5となる。第4ハーフブリッジ17の中点34から出力されるsinθは、増幅部40による増幅により、Vy2=−Bsinθ+2.5となる。本形態では、出力信号Vx1およびVx1からオフセットを消去したVx1aが「cos信号」に対応し、出力信号Vx2およびVx2からオフセットを消去したVx2aが「−cos信号」に対応し、出力信号Vy1およびVy1からオフセットを消去したVy1aが「sin信号」に対応し、出力信号Vy2およびVy2からオフセットを消去したVy2aが「−sin信号」に対応している。
なお、本形態においては、振幅B=1.5V、オフセット値=2.5Vに設定されているが、振幅やオフセット値は、制御部50にて取得可能な範囲で適宜設定可能である。
【0027】
制御部50は、通常のマイクロコンピュータによって構成され、各ハーフブリッジ14〜17のそれぞれの中点31〜34から出力された出力信号をそれぞれ取得し、取得された出力信号に基づき、被検出部87の回転角度を算出する。なお、本形態においては、ハーフブリッジ14〜17のそれぞれの中点31〜34から出力される出力信号は、いずれも別個に増幅部40にて増幅された後に制御部50に入力されている。本形態では、制御部50が出力信号を取得する段階において、出力信号同士が加算処理或いは差動増幅処理等されていることはない。
【0028】
制御部50における回転角度算出処理を図7に示すフローチャートに基づいて説明する。なお、この回転角度算出処理は、EPS動作時に所定の間隔、例えば200μsごと、に行われるものである。
はじめのステップS10(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す。)では、出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を取得する。
S11では、出力信号に異常が生じているか否かを判断する。判断方法の詳細については、後述する。出力信号に異常が生じていると判断された場合(S11:YES)、S13へ移行する。出力信号に異常が生じていないと判断された場合(S11:NO)、S12へ移行する。
【0029】
S12では、4つのハーフブリッジ14〜17の中点31〜34から出力された4つの出力信号を用いて、被検出部87の回転角度θを算出する。
出力信号に異常が生じていると判断された場合に移行するS13では、異常が生じている出力信号を特定する。特定方法の詳細については、後述する。
【0030】
S14では、異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出可能か否かを判断する。本形態では、被検出部87の回転角度θは、arctanの値から算出されるため、sin系信号の全て、または、cos系信号の全てが異常となった場合、被検出部87の回転角度θを算出することができない。すなわち、sin系信号の全て、または、cos系信号の全てが異常となった場合、被検出部87の回転角度θが算出できないと判断される。異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できると判断された場合(S14:YES)、S15へ移行する。異常出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できないと判断された場合(S14:NO)、S16へ移行する。
【0031】
異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できると判断された場合(S14:YES)に移行するS15では、異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θを算出する。
異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できないと判断された場合(S14:NO)に移行するS16では、ステアリングセンサ94(図1参照)により検出されたステアリング角θStから被検出部87の回転角度θを算出する。なお、本形態では、ステアリングセンサ94により検出されたステアリング角θStが「外部信号」に対応するが、外部信号はステアリング角θstに限らない。
なお、本形態では、制御部50が「信号取得手段」、「異常特定手段」、および「回転角算出手段」を構成する。また、S10が「信号取得手段」の機能としての処理に相当し、S13が「異常特定手段」の機能としての処理に相当し、S12、S15、S16が「回転角算出手段」の機能としての処理に相当する。
【0032】
ここで、被検出部87の回転角度θの算出方法を説明する。
まず、S16における回転角度θの算出方法を説明する。異常が生じている出力信号以外の出力信号で被検出部87の回転角度θが算出できない場合(S14:NO)、すなわち全てのsin系信号、または、全てのcos系信号が異常となった場合、に移行するS16では、被検出部87の回転角度θを以下のように算出する。ステアリングセンサ94により取得されるステアリング角をθSt、モータ80の機械角をθMech、モータ80の極対数をPn、減速比をGとすると、以下の式が成立し、被検出部87の回転角度θを算出することができる。
θMech=(1/Pn)×θ …(1)
θSt=(1/G)×θMech …(2)
(1)式を(2)式に代入すると、以下の式が得られる。
θ=G×Pn×θSt …(3)
【0033】
次に、S12における回転角度θの算出方法を説明する。全ての出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2に異常がない場合(S11:NO)に移行するS12では、以下の式に示すように、sin系信号同士、または、cos系信号同士を減算することにより、オフセット値を消去する。なお、2つの信号を減算することにより、オフセット値だけでなく、温度特性等による誤差を消去することができる。
Vx1−Vx2=2Bcosθ …(4)
Vy1−Vy2=2Bsinθ …(5)
被検出部87の回転角度θは、(4)式、(5)式を用いて算出されるarctanである角度φに基づいて算出される。角度φから被検出部87の回転角度θを算出する方法については、図8および図9に基づいて後述する。
φ=arctan{(Vy1−Vy2)/(Vx1−Vx2)} …(6)
φ=arctan{(Vx1−Vx2)/(Vy1−Vy2)} …(7)
【0034】
続いて、S15における回転角度θの算出方法を説明する。ここでは、Vx1=Bcosθ+2.5が異常出力信号である場合を例に説明する。なお、他の出力信号が異常である場合も同様にして算出することができる。全ての出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2に異常がない場合、上述の通り、sin系信号同士、または、cos系信号同士を減算することにより、オフセット値を消去することができたが、Vx1が異常出力信号である場合、cos系信号同士を減算することによるオフセット値の消去ができない。そこで、異常のないcos系信号であるVx2=−Bcosθ+2.5のオフセット値を制御部50内で消去する。
Vx2a=Vx2−2.5=−Bcosθ
−2Vx2a=2Bcosθ …(8)
被検出部87の回転角度θは、(5)式、(8)式を用いて算出されるarctanである角度φに基づいて算出される。
φ=arctan{(Vy1−Vy2)/(−2Vx2a)} …(9)
φ=arctan{(−2Vx2a)/(Vy1−Vy2)} …(10)
【0035】
ここで、sin系信号およびcos系信号に基づいて算出されたarctanである角度φから被検出部87の回転角度θを算出する方法について、図8および図9に基づいて説明する。図8は回転角度θの算出に係り、角度範囲の分割を説明する図であって、(a)は回転角検出装置1側から被検出部87側を見たときの角度範囲の分割を示す図であり、(b)はsin信号およびcos信号を説明する図である。図9は、角度φに基づいて回転角度θを算出する算出方法を説明する図である。なお、図8および図9では、0°〜360°を8つに分割しており、図中の1〜8の数字は、分割された角度範囲であるエリア1〜エリア8を示している。また、図9中において、sin信号を「Vy」、cos信号を「Vx」と記載した。
まず、角度演算に用いるsin信号の振幅とcos信号の振幅とが異なる場合、適宜振幅を合わせておく(例えば(8)式参照)。また、sin信号またはcos信号が−信号である場合、例えば−1等を乗じたりすることにより、+信号となるようにしておく(例えば(8)式参照)。
上記(6)式、(7)式、(9)式、(10)式に示したように、角度φは、sin信号をcos信号で除した値(以下、「tan値」という。)、または、cos信号をsin信号で除した値(以下、「cot値」という。)のarctanとして算出される。sin信号およびcos信号は0となる角度があるので、0で除することを避けるため、sin信号が0となる角度を含む角度範囲においては、cos信号で除するtan値に基づいて角度φを算出し、cos信号が0となる角度を含む角度範囲においては、sin信号で除するcot値に基づいて角度φを算出する。
また、回転角度θを0〜360°とすると、異なる回転角度θでtan値またはcot値が同じになる場合があるので、sin信号の絶対値とcos信号の絶対値との大小関係、sin信号の符号、およびcos信号の符号に基づき、回転角度θの範囲を特定した上で、tan値またはcot値のarctanに基づき、回転角度θを算出する。
具体的には、図8および図9に示すように、振幅を合わせたsin信号の絶対値とcos信号の絶対値との大小関係、sin信号の符号、およびcos信号の符号に基づき、回転角度θの0〜360°を8つの角度範囲であるエリア1〜エリア8のどこに該当するかを特定する。そして、sin信号の絶対値およびcos信号の絶対値を比較し、絶対値の大きい方が分母となるようにtan値またはcot値を用い、tan値またはcot値のarctanである角度φを算出する。なお、図9中の「φの算出方法」においては、φの算出に係り、tan値またはcot値のどちらを用いてarctanを求めるかを示している。回転角度θが該当するエリア1〜8が特定されているので、図9に示すように、基準となる0°(=360°)、90°、180°または270°に算出された角度φを加算または減算することにより、回転角度θを算出する。
【0036】
次に、異常となった出力信号を特定する異常特定手段について説明する。
異常特定手段は、制御部50により取得された4つの出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を用いて演算することにより、異常となった出力信号を特定する。
まず、4つの出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2からオフセット値を制御部50内で消去し、以下のように、Vx1a、Vx2a、Vy1a、Vy2aを算出する。
Vx1a=Vx1−2.5= Bcosθ
Vx2a=Vx2−2.5=−Bcosθ
Vy1a=Vy1−2.5= Bsinθ
Vy2a=Vy2−2.5=−Bsinθ
【0037】
算出されたVx1a、Vx2a、Vy1a、Vy2aの2乗値である第1演算値を算出する。そして、sin系信号の2乗値とcos系信号の2乗値との和となるような第1演算値の組み合わせにより、第2演算値を算出する。すなわち、第2演算値は、以下に示す(11)〜(14)式により算出される。
Vx1a2+Vy1a2=B2cos2θ+B2sin2θ=B2(sin2θ+cos2θ)
…(11)
Vx1a2+Vy2a2=B2cos2θ+B2sin2θ=B2(sin2θ+cos2θ)
…(12)
Vx2a2+Vy1a2=B2cos2θ+B2sin2θ=B2(sin2θ+cos2θ)
…(13)
Vx2a2+Vy2a2=B2cos2θ+B2sin2θ=B2(sin2θ+cos2θ)
…(14)
【0038】
4つの出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2が正常である場合、sin2θ+cos2θ=1であるから、第2演算値は、いずれも理論上B2となる。したがって、図10に示すように、B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせに基づき、どの出力信号が異常であるかを特定することができる。なお、所定の範囲の幅は、センサ素子21〜28の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。また本形態では、B2を中心とする所定の範囲が、「第1の範囲」に対応し、B2が「K」に対応している。
図10に、B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせと、特定される異常出力信号と、の関係を示す。図10においては、B2を中心とする所定の範囲から第2演算値が外れる場合を記号「○」で示した。また、図10にて特定された異常出力信号に基づいて決定される被検出部87の回転角度θの算出方法を図11に示した。
【0039】
図10に示すように、(11)式、(12)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx1以外の出力信号Vx2、Vy1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードA)。
(13)式、(14)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx2が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx2以外の出力信号Vx1、Vy1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードB)。
(11)式、(13)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy1が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vy1以外の出力信号Vx1、Vx2、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードC)。
(12)式、(14)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy2が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vy2以外の出力信号Vx1、Vx2、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードD)。
【0040】
また、(14)式以外の3式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1およびVy1が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx1、Vy1以外の出力信号Vx2、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードE)。
(13)式以外の3式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1およびVy2が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx1、Vy2以外の出力信号Vx2、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードF)。
(12)式以外の3式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx2およびVy1が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx2、Vy1以外の出力信号Vx1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードG)。
(11)式以外の3式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx2およびVy2が異常であると特定される。そして、図11に示すように、異常出力信号Vx2、Vy2以外の出力信号であるVx1、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードH)。
【0041】
(11)〜(14)式により算出される全ての第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、全てのsin系信号(Vy1およびVy2)、または、全てのcos系信号(Vx1およびVx2)が異常であると特定される。このとき、arctanの値を算出することができないので、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する(モードI)。
なお、モードA〜Hは、図7中のS15と対応し、モードIは、図7中のS16と対応する。
【0042】
ここで、Vx1が異常となり、Bcosθ=5Vとなる場合の具体例を説明する。なお、本形態における振幅Bは、上述の通り1.5Vである。
このとき、制御部50により取得される出力信号は、以下の式で示される。
Vx1=5+2.5=7.5 …(15)
(15)式のオフセット値を制御部50内で消去すると、
Vx1a=5
となる。
ここで、(11)〜(14)式により第2演算値を算出すると、(13)、(14)式により算出される第2演算値は、B2=2.25となるが、(11)、(12)式により算出される第2演算値は、25〜27.5の間で変動し、B2とならない。これにより、(11)、(12)式により算出される第2演算値がB2とはならないので、出力信号Vx1が異常であると特定することができる。
【0043】
次に、1つの出力信号が異常である状態(モードA〜D)から、さらに他の出力信号が異常となった場合について説明する。ここでは、出力信号Vx1が異常である状態(モードA)から、出力信号Vx1以外の他の出力信号が異常となった場合について、図12に基づいて説明する。
出力信号Vx1が異常であるので、(11)式および(12)式により算出される第2演算値は、B2を中心とする所定の範囲から外れている。図12(a)に示すように、さらに(13)式および(14)式により算出される第2演算値がいずれもB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1に加え、Vx2が異常になったと特定できる。この場合、全てのcos系信号が異常であり、arctanの値を算出することができないので、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する(モードI)。
【0044】
また、(11)式および(12)式により算出される第2演算値に加え、(13)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1に加え、Vy1が異常になったと特定できる。このとき、異常出力信号Vx1、Vy1以外の出力信号Vx2、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードE)。
さらにまた、(11)式および(12)式により算出される第2演算値に加え、(14)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1に加え、Vy2が異常になったと特定できる。このとき、異常出力信号Vx1、Vy2以外の出力信号Vx2、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードF)。
【0045】
ここで、上述の例のように、出力信号Vx1に加え、Vy1またはVy2が異常であると特定され(モードE、F)、さらに他の出力信号が異常になる場合について説明する。
図12(b)に示すように、(11)式および(12)式により算出される第2演算値に加え、(13)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れ、さらに(14)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れた場合、Vx1、Vy1に加えてVx2またはVy2が異常になったと特定できる。このとき、全てのsin系信号(Vy1およびVy2)、または、全てのcos系信号(Vx1およびVx2)が異常であり、arctanの値を算出することができないので、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する(モードI)。
また、(11)式および(12)式により算出される第2演算値に加え、(14)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れ、さらに(13)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れた場合、Vx1、Vy2に加えてVx2またはVy1が異常になったと特定できる。このとき、全てのsin系信号(Vy1およびVy2)、または、全てのcos系信号(Vx1およびVx2)が異常であり、arctanの値を算出することができないので、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する(モードI)。
なお、図12に示す例では、最初に出力信号Vx1が異常となった場合について説明したが、他の出力信号が最初に異常となった場合においても、同様にしてさらに異常となった出力信号を特定することにより、異常が生じていない出力信号またはステアリング角θStに基づいて、回転角度θを算出することができる。
【0046】
以上詳述したように、本形態の回転角検出装置10は、電動パワーステアリング装置1に用いられる。制御部50の信号取得手段は、ハーフブリッジ14〜17の中点31〜34から取得される出力信号を、出力信号同士の加算処理や差動増幅処理等をすることなく、ハーフブリッジ14〜17ごとに取得している。信号取得手段は、4つのハーフブリッジ14〜17の中点31〜34から出力される4つの出力信号を取得している。また、回転角算出手段は、取得された4つの出力信号に基づき、被検出部87の回転角度θを算出する。
制御部50の異常特定手段は、取得された4つの出力信号に基づく値である演算値が所定の範囲から外れた場合、当該演算値に対応する出力信号に異常が生じていると特定する。本形態では、ハーフブリッジ14〜17ごとに取得された出力信号に基づく値である演算値に基づいて故障などによりどの出力信号が異常となったかを特定することができ、誤った角度を検出しないようにすることができるとともに、一部の出力信号に故障が生じても継続して回転角度が検出可能な多重系の回転角検出装置となる。また、異常が生じている出力信号が特定されるので、故障原因や故障部品の特定に寄与する。
【0047】
制御部50により取得される4つの出力信号は、正常時において、いずれも振幅B=1.5のsin信号、−sin信号、cos信号、および、−cos信号である。すなわち、第1ハーフブリッジ14の中点31から出力され制御部50にて取得される出力信号Vx1がBcosθ+2.5であり、第2ハーフブリッジ15の中点32から出力され制御部50にて取得される出力信号Vy1がBsinθ+2.5であり、第3ハーフブリッジ16の中点33から出力され制御部50にて取得される出力信号Vx2が−Bcosθ+2.5であり、第4ハーフブリッジ16の中点34から出力され制御部50にて取得される出力信号Vy2が−Bsinθ+2.5である。
【0048】
本形態では、制御部50にて取得された出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2について、制御部50内でそれぞれオフセット値を消去した出力信号であるVx1a、Vx2a、Vy1a、Vy2aを算出し、第1演算値Vx1a2、Vx2a2、Vy1a2、Vy2a2を算出する。そして、(11)〜(14)式に示すように、4つの第1演算値をそれぞれ少なくとも1回ずつ用い、cos系信号の2乗値であるVx1a2、Vx2a2のいずれか一方と、sin系信号の2乗値であるVy1a2、Vy2a2のいずれか一方とを加算した第2演算値を、(11)〜(14)式により算出する。そして、(11)〜(14)式により算出される第2演算値のうち、B2を中心とする所定の範囲から外れた第2演算値の組み合わせに基づき、異常が生じている出力信号を特定する。(11)〜(14)式により算出される第2演算値は、いずれもB2×(sin2θ+cos2θ)であるので、出力信号に異常がない場合の第2演算値は理論上、定数B2となる。したがって、容易な演算によって異常が生じている出力信号を特定することができる。
【0049】
また、異常が生じていると特定された出力信号以外の出力信号に基づいて被検出部87の回転角度θを算出できる場合(図7中のS14:YES)、すなわち本形態ではsin系信号およびcos系信号が少なくとも1つずつ正常である場合、異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づき、被検出部87の回転角度θを算出する(S15)。本形態では、どの出力信号が異常となったかが特定されるので、異常が生じている出力信号以外の出力信号に基づいて回転角度θの算出を継続することができる。これにより、電動パワーステアリング装置1による操舵のアシストが継続可能であるとともに、操舵感の悪化を抑制することができる。
さらに、異常が生じていると特定された出力信号以外の出力信号に基づいて被検出部87の回転角度θを算出できない場合(S14:NO)、すなわち本形態では全てのsin系信号系信号、または、全てのcos系信号が異常となった場合、ステアリングセンサ94から取得されるステアリング角θSt基づき、被検出部87の回転角度θを算出する(S16)。これにより、出力信号から回転角度θが算出できない場合、ステアリング角θstを用いることにより被検出部87の回転角度θの算出を継続することができる。特に、本形態では、回転角検出装置10を電動パワーステアリング装置1に用いているので、ステアリングセンサ94により検出されるステアリング角θStに基づいて回転角度θを算出することにより、電動パワーステアリング装置1の駆動を継続することができ、操舵感の悪化を防ぐことができる。
【0050】
また、本形態の第1ブリッジ回路11のハーフブリッジ14の中点31から増幅部40を経由して出力される出力信号Vx1はcos信号であり、ハーフブリッジ15の中点32から出力される増幅部40を経由して出力信号Vy1はsin信号である。第2ブリッジ回路12のハーフブリッジ16の中点33から出力される増幅部40を経由して出力信号Vx2は−cos信号であり、ハーフブリッジ17の中点34から出力される増幅部40を経由して出力信号Vy2は−sin信号である。また、第1ブリッジ回路11と第2ブリッジ回路12とは、それぞれ別々の電源に接続されている。これにより一方のブリッジ回路または電源が故障したとしても、他方のブリッジ回路から出力されるsin系信号およびcos系信号を用い、被検出部87の回転角度θを算出することができる。
【0051】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する。なお、以下、複数の実施形態において、第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、以下の実施形態においては、第1実施形態と異なる部分、および、異常出力信号の特定方法を中心に説明し、回転角度θの算出方法等については第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
図13に示すように、本形態の回転角検出装置100は、第1ハーフブリッジ14の中点31から2つの出力信号が出力される点において第1実施形態と異なっている。
【0052】
第1ハーフブリッジ14の中点31から出力された2つの出力信号はいずれも振幅Aの−cos信号であり、それぞれ増幅部40にて増幅され、Vx11=Bcosθ+2.5、Vx12=Bcosθ+2.5となる。また、第3ハーフブリッジ16の中点33から出力される出力信号は、増幅部40による増幅により、Vx13=−Bcosθ+2.5となる。第2ハーフブリッジ15の中点32から出力される出力信号は、増幅部40による増幅により、Vy11=Bsinθ+2.5となる。第4ハーフブリッジ17の中点34から出力されるsinθは、増幅部40による増幅により、Vy12=−Bsinθ+2.5となる。すなわち、本形態の制御部50は、Vx11、Vx12、Vx13、Vy11、Vy12の5つの出力信号を取得する。本形態では、出力信号Vx11、Vx12、およびVx11、Vx12からオフセットを消去したVx11a、Vx12aが「cos信号」に対応し、出力信号Vx13およびVx13からオフセットを消去したVx13aが「−cos信号」に対応し、出力信号Vy11およびVy11からオフセットを消去したVy11aが「sin信号」に対応し、出力信号Vy12およびVy12からオフセットを消去したVy12aが「−sin信号」に対応している。
なお、第1ハーフブリッジ14の中点31から2つの信号が出力される以外の回路構成等は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0053】
異常特定手段は、制御部50により取得された5つの出力信号Vx11、Vx12、Vx13、Vy11、Vy12を用いて演算することにより、異常となった出力信号を特定する。
まず、5つの出力信号Vx11、Vx12、Vx13、Vy11、Vy12からオフセット値を制御部50内で消去し、以下のようにVx11a、Vx12a、Vx13a、Vy11a、Vy12aを算出する。
Vx11a=Vx11−2.5= Bcosθ
Vx12a=Vx12−2.5= Bcosθ
Vx13a=Vx13−2.5=−Bcosθ
Vy11a=Vy11−2.5= Bsinθ
Vy12a=Vy12−2.5=−Bsinθ
【0054】
このようにして算出されたVx11a、Vx12a、Vx13a、Vy11a、Vy12aの2乗値である第1演算値を算出する。そして、sin系信号の2乗値とcos系信号の2乗値との和となるような第1演算値の組み合わせにより、第2演算値を算出する。すなわち、第2演算値は、以下に示す(21)〜(24)式により算出される。
Vx11a2+Vy11a2=B2cos2θ+B2sin2θ
=B2(sin2θ+cos2θ) …(21)
Vx11a2+Vy12a2=B2cos2θ+B2sin2θ
=B2(sin2θ+cos2θ) …(22)
Vx12a2+Vy11a2=B2cos2θ+B2sin2θ
=B2(sin2θ+cos2θ) …(23)
Vx13a2+Vy12a2=B2cos2θ+B2sin2θ
=B2(sin2θ+cos2θ) …(24)
【0055】
5つの出力信号Vx11、Vx12、Vx13、Vy11、Vy12が正常である場合、sin2θ+cos2θ=1であるから、(21)〜(24)式により算出される値は、いずれも理論上B2となる。したがって、図14に示すように、B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせに基づき、どの出力信号が異常であるかを特定することができる。なお、上記実施形態と同様、所定の範囲の幅は、センサ素子の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。また本形態では、B2を中心とする所定の範囲が、「第1の範囲」に対応し、B2が「K」に対応している。
図14に、B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせと、特定される異常出力信号と、の関係を示す。図14においては、B2を中心とする所定の範囲から第2演算値が外れる場合を記号「○」で示した。
【0056】
図14に示すように、(21)式、(22)式により算出される第2演算値が、B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx11が異常であると特定され、異常出力信号Vx11以外の出力信号Vx12、Vx13、Vy11、Vy12を用いて回転角度θを算出する。この場合、Vx12、Vx13が正常なので、この2つを(4)式のように減算することによりオフセット値、および、温度特性等による誤差を消去することができる。
(23)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx12が異常であると特定され、異常出力信号Vx12以外の出力信号Vx11、Vx13、Vy11、Vy12を用いて回転角度θを算出する。この場合、Vx11、Vx13が正常なので、この2つを(4)式のように減算することによりオフセット値、および、温度特性等による誤差を消去することができる。
【0057】
(24)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx13が異常であると特定され、異常出力信号Vx13以外の出力信号Vx11またはVx12、Vy11、Vy12を用いて回転角度θを算出する。
(21)式、(23)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy11が異常であると特定され、異常出力信号Vy11以外の出力信号Vx11またはVx12、Vx13、Vy12を用いて回転角度θを算出する。
(22)式、(24)式により算出される第2演算値がB2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy12が異常であると特定され、異常出力信号Vy12以外の出力信号Vx11またはVx12、Vx13、Vy11を用いて回転角度θを算出する。
【0058】
制御部50により取得される信号が5つである場合、異常出力信号が1つであれば、4つの計算を行うことにより、異常出力信号を特定することができる。なお、制御部50により取得される信号数が4〜8であり、異常出力信号が1つであれば、4つの計算を行うことにより、異常出力信号を特定することができる。また、sin系信号とcos系信号との全ての組み合わせを計算することにより、複数の出力信号が同時に故障した場合であっても異常出力信号を特定することができる。なお、本形態におけるsin系信号とcos系信号の全ての組み合わせは、6通りである。
これにより、上記実施形態と同様の効果を奏する他、制御部50により取得される信号数が増えることにより、回転角検出装置100の信頼性が向上する。
【0059】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する。回路構成、制御部50により取得される信号等は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
本形態の異常特定手段では、制御部50により取得された4つの出力信号Vx1=Bcosθ+2.5、Vx2=−Bcosθ+2.5、Vy1=Bsinθ+2.5、Vy2=−Bsinθ+2.5を用いて演算することにより、異常となった出力信号を特定する。
まず、4つの出力信号のsin系信号とcos系信号との組み合わせで減算した減算値Vx1y1、Vx1y2、Vx2y1、Vx2y2を算出する。2つの信号を減算することにより、オフセット値だけでなく、温度特性等による誤差を消去することができる。
Vx1y1=Vx1−Vy1= Bcosθ−Bsinθ
Vx1y2=Vx1−Vy2= Bcosθ+Bsinθ
Vx2y1=Vx2−Vy1=−Bcosθ−Bsinθ
Vx2y2=Vx2−Vy2=−Bcosθ+Bsinθ
【0060】
このようにして算出された減算値Vx1y1、Vx1y2、Vx2y1、Vx2y2の2乗値である第1演算値を算出する。そして、2つの第1演算値を加算してK×(sin2θ+cos2θ)となるような第1演算値の組み合わせにより、第2演算値を算出する。すなわち、第2演算値は、以下に示す(31)〜(34)式により算出される。
Vx1y12+Vx1y22=2B2(sin2θ+cos2θ) …(31)
Vx2y12+Vx2y22=2B2(sin2θ+cos2θ) …(32)
Vx1y12+Vx2y12=2B2(sin2θ+cos2θ) …(33)
Vx1y22+Vx2y22=2B2(sin2θ+cos2θ) …(34)
【0061】
4つの出力信号Vx1、Vx2、Vy1、Vy2が正常である場合、sin2θ+cos2θ=1であるから、第2演算値は、いずれも理論上2B2となる。したがって、図15に示すように、2B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせに基づき、どの出力信号が異常であるかを特定することができる。なお、上記実施形態と同様、所定の範囲の幅は、センサ素子の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。また本形態では、2B2を中心とする所定の範囲が、「第1の範囲」に対応し、2B2が「K」に対応している。
図15に、2B2を中心とする所定の範囲から外れる第2演算値の組み合わせと、特定される異常出力信号と、の関係を示す。図15においては、2B2を中心とする所定の範囲から第2演算値が外れた場合を記号「○」で示した。また、図15にて特定された異常出力信号に基づいて決定される被検出部87の回転角度θの算出方法を図16に示す。
【0062】
図15に示すように、(31)式、(33)式、(34)式により算出される第2演算値が、2B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx1が異常であると特定され、図16に示すように、異常出力信号Vx1以外の出力信号Vx2、Vy1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードA)。
(32)式、(33)式、(34)式により算出される第2演算値が、2B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vx2が異常であると特定され、図16に示すように、異常出力信号Vx2以外の出力信号Vx1、Vy1、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードB)。
(31)式、(32)式、(33)式により算出される第2演算値が、2B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy1が異常であると特定され、図16に示すように、異常出力信号Vy1以外の出力信号Vx1、Vx2、Vy2を用いて回転角度θを算出する(モードC)。
(31)式、(32)式、(34)式により算出される第2演算値が、2B2を中心とする所定の範囲から外れる場合、出力信号Vy2が異常であると特定され、図16に示すように、異常出力信号Vy2以外の出力信号Vx1、Vx2、Vy1を用いて回転角度θを算出する(モードD)。
なお、回転角度θの算出方法は、第1実施形態と同様である。また、本形態では、(31)〜(34)式により算出される全ての第2演算値が所定の範囲から外れる場合、ステアリング角θStを用いて回転角度θを算出する。
【0063】
本形態では、異常特定手段は、出力信号同士を減算した4つの減算値のVx1y1、Vx1y2、Vx2y1、Vx2y2である第1演算値を算出している。減算値は、sin系信号とcos系信号との組み合わせで減算して算出されることにより、センサ素子の温度特性等による誤差が消去されている。また、4つの第1演算値をそれぞれ少なくとも1回ずつ用い、第1演算値の2つを加算した4つの第2演算値を算出する。そして、(31)〜(34)式により算出される第2演算値のうち、2B2を中心とする所定の範囲から外れた式の組み合わせに基づき、異常出力信号を特定する。(31)〜(34)式は、いずれも2B2×(sin2θ+cos2θ)であるので、出力信号に異常がない場合の第2演算値は理論上、定数2B2となる。したがって、容易な演算によって異常出力信号を特定することができる。
また、異常特定手段により異常出力信号が特定されるので、上記第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0064】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態による異常出力信号の特定方法を説明する。回路構成、制御部50により取得される信号等は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
本形態の異常特定手段では、制御部50により取得された4つの出力信号Vx1=Bcosθ+2.5、Vx2=−Bcosθ+2.5、Vy1=Bsinθ+2.5、Vy2=−Bsinθ+2.5を用いて演算することにより、異常となった出力信号を特定する。
本形態では、出力信号Vx1とVx2とを加算してcos信号演算値を算出し、出力信号Vy1とVy2とを加算してsin信号演算値を算出する。cos信号演算値の算出式を(41)式、sin信号演算値の算出式を(42)式に示す。
Vx1+Vx2=Bcosθ−Bcosθ+5 …(41)
Vy1+Vy2=Bsinθ−Bcosθ+5 …(42)
【0065】
出力信号Vx1とVx2とは、互いに位相が180°ずれている信号なので、出力信号Vx1およびVx2が正常である場合、cos信号演算値は所定値P1、本形態では5、となる。したがって、cos信号演算値が所定値P1を中心とする所定の範囲から外れる場合、cos系信号に異常が生じていることを容易に特定することができる。
【0066】
同様に、出力信号Vy1とVy2とは、互いに位相が180°ずれている信号なので、出力信号Vy1およびVy2が正常である場合、sin信号演算値は所定値P2、本形態では5、となる。したがって、sin信号演算値が所定値P2を中心とする所定の範囲から外れる場合、sin系信号に異常が生じていることを容易に特定することができる。
【0067】
なお、上記実施形態と同様、所定の範囲の幅は、センサ素子の温度特性等による測定誤差や増幅率等によって、適宜設定可能である。また本形態では、所定値P1を中心とする所定の範囲が、「第3の範囲」に対応し、所定値P2を中心値する所定の範囲が、「第2の範囲」に対応している。本形態では、2つのsin系信号のどちらに異常が生じているか、または、2つのcos系信号のどちらに異常が生じているかまでは特定できないため、図7中のS14では必ず否定判断される。
【0068】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
(変形例)
(ア)回路構成
上記実施形態では、回転角検出装置は増幅部を備えていたが、図17に示すように、回転角検出装置110は、増幅部40を備えず、それぞれのハーフブリッジの中点から出力される出力信号が、そのまま制御部50によって取得されるように構成してもよい。また、図18に示すように、回転角検出装置120は、2つのブリッジ回路が、同一の電源に接続されていてもよい。また、一方のブリッジ回路から取得される出力信号が、cos信号および−cos信号であり、他方のブリッジ回路から取得される出力信号が、sin信号および−sin信号であってもよい。
また、ブリッジ回路は2つに限らず、3つ以上であってもよい。また、ハーフブリッジの中点から出力され、制御部にて取得される出力信号は、4つ以上であれば、いくつであってもよい。また、出力信号は、cos信号およびsin信号に限らない。
【0069】
(イ)異常検出手段
他の実施形態では、演算値は、出力信号そのものであってもよい。異常特定手段は、出力信号が所定の範囲である第4の範囲から外れた場合、当該出力信号に異常が生じていると特定してもよい。例えば、上記実施形態のように、出力信号が正弦波信号であり、正常時における最小値が1V、最大値が4Vである場合、所定の範囲の上限値を4.5V、所定の範囲の下限値を0.5Vに設定し、出力信号が4.5Vを上回った場合、または、0.5Vを下回ったとき、異常であると特定する。すなわち、この例では、0.5V〜4.5Vが「第4の範囲」に対応している。これにより、容易に異常出力信号を特定することができる。
【0070】
上記実施形態では、異常検出手段により異常出力信号が特定されたとき、他の出力信号や外部信号に基づいて回転角度を検出したが、他の実施形態では、回転角検出装置による角度検出を停止してもよい。
また、上記実施形態では、ハーフブリッジから出力されるsin信号、−sin信号、cos信号、−cos信号の振幅は等しかったが、他の実施形態では、出力される信号の振幅は、ハーフブリッジごとに異なっていてもよい。この場合、それぞれのハーフブリッジから出力される信号の振幅がわかっていれば、制御部において演算処理を行い、振幅を補正することにより、上記実施形態と同様にして異常出力信号を特定することができる。
また、上記実施形態では、回転角検出装置を電動パワーステアリング装置に用いたが、これに限らず、他の分野へ適用することはもちろん可能である。
【符号の説明】
【0071】
1:電動パワーステアリング装置、10:回転角検出装置、11:第1ブリッジ回路(ブリッジ回路部)、12:第2ブリッジ回路(ブリッジ回路部)、14〜17:ハーフブリッジ、21〜28:センサ素子、31〜34:ハーフブリッジの中点、40:増幅部、41:バッファ、42:オペアンプ、43:オフセット部、50:制御部(信号取得手段、回転角算出手段、異常特定手段)、80:モータ、81:ステータ、82:ロータ、83:シャフト、84:コイル、85:ハウジング、86:カバー、87:被検出部、89:ギア、90:ステアリングシステム、91:ステアリングホイール、92:ステアリングシャフト、94:ステアリングセンサ、95:トルクセンサ、96:ギア、97:ラック軸、98:タイヤ、100、110、120:回転角検出装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出部の回転に応じて変化する回転磁界によりインピーダンスが変化するセンサ素子により構成される複数のハーフブリッジを有する複数のブリッジ回路部と、
前記ハーフブリッジの中点から出力される出力信号を前記ハーフブリッジごとに取得する信号取得手段、前記信号取得手段により取得された前記出力信号に基づいて前記被検出部の回転角度を算出する回転角算出手段、および、異常が生じている前記出力信号を特定する異常特定手段を有する制御部と、
を備え、
前記異常特定手段は、前記信号取得手段によって取得される少なくとも4つの前記出力信号に基づく値である演算値が所定の範囲から外れた場合、当該演算値に対応する前記出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする回転角検出装置。
【請求項2】
前記少なくとも4つの出力信号は、正常時において、sin信号、−sin信号、cos信号、及び、−cos信号であることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記演算値は、前記出力信号の2乗値または前記出力信号同士を減算した減算値の2乗値である複数の第1演算値のうちの2つの値を加算した複数の第2演算値であって、
前記異常特定手段は、前記第2演算値が前記所定の範囲である第1の範囲から外れた場合、前記第1の範囲から外れた前記第2演算値に対応する前記出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記第2演算値がK×(sin2θ+cos2θ)となるように2つの前記第1演算値を用いて算出されることを特徴とする請求項3に記載の回転角検出装置。
【請求項5】
前記第2演算値は、前記sin信号の2乗値または前記−sin信号の2乗値と、前記cos信号の2乗値または−cos信号の2乗値と、の組み合わせから算出されることを特徴とする請求項4に記載の回転角検出装置。
【請求項6】
前記減算値は、前記sin信号または前記−sin信号と、前記cos信号または前記−cos信号と、の組み合わせで減算して算出されることを特徴とする請求項4に記載の回転角検出装置。
【請求項7】
前記第1演算値は、少なくとも4つ算出され、
前記第2演算値は、算出された前記第1演算値の全てを少なくとも1回ずつ用いて、少なくとも4通りの前記第1演算値の組み合わせから算出されることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項8】
前記演算値は、前記sin信号および前記−sin信号から算出されるsin信号演算値であって、
前記異常特定手段は、前記sin信号演算値が前記所定の範囲である第2の範囲から外れた場合、前記sin信号演算値に対応する前記出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項9】
前記演算値は、前記cos信号および前記−cos信号から算出されるcos信号演算値であって、
前記異常特定手段は、前記cos信号演算値が前記所定の範囲である第3の範囲から外れた場合、前記cos信号演算値に対応する前記出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする請求項2または8に記載の回転角検出装置。
【請求項10】
1つの前記ブリッジ回路部から出力される前記出力信号は、前記sin信号または前記−sin信号と、前記cos信号または前記−cos信号と、からなることを特徴とする請求項2〜9のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項11】
前記演算値は、前記出力信号そのものであって、
前記異常特定手段は、前記出力信号が前記所定の範囲である第4の範囲から外れた場合、当該出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする請求項1または2に記載の回転角検出装置。
【請求項12】
前記回転角算出手段は、前記異常特定手段により特定された前記異常が生じている出力信号以外の前記出力信号に基づいて前記回転角度を算出できるとき、前記異常特定手段により特定された前記異常が生じている出力信号以外の前記出力信号に基づき、前記回転角度を算出することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項13】
前記回転角算出手段は、前記異常特定手段により特定された前記異常が生じている出力信号以外の前記出力信号に基づいて前記回転角度を算出できないとき、外部から取得される外部信号に基づき、前記回転角度を算出することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項14】
前記ブリッジ回路部は、それぞれ別の電源に接続されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の回転角検出装置を用いた電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
被検出部の回転に応じて変化する回転磁界によりインピーダンスが変化するセンサ素子により構成される複数のハーフブリッジを有する複数のブリッジ回路部と、
前記ハーフブリッジの中点から出力される出力信号を前記ハーフブリッジごとに取得する信号取得手段、前記信号取得手段により取得された前記出力信号に基づいて前記被検出部の回転角度を算出する回転角算出手段、および、異常が生じている前記出力信号を特定する異常特定手段を有する制御部と、
を備え、
前記異常特定手段は、前記信号取得手段によって取得される少なくとも4つの前記出力信号に基づく値である演算値が所定の範囲から外れた場合、当該演算値に対応する前記出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする回転角検出装置。
【請求項2】
前記少なくとも4つの出力信号は、正常時において、sin信号、−sin信号、cos信号、及び、−cos信号であることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記演算値は、前記出力信号の2乗値または前記出力信号同士を減算した減算値の2乗値である複数の第1演算値のうちの2つの値を加算した複数の第2演算値であって、
前記異常特定手段は、前記第2演算値が前記所定の範囲である第1の範囲から外れた場合、前記第1の範囲から外れた前記第2演算値に対応する前記出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記第2演算値がK×(sin2θ+cos2θ)となるように2つの前記第1演算値を用いて算出されることを特徴とする請求項3に記載の回転角検出装置。
【請求項5】
前記第2演算値は、前記sin信号の2乗値または前記−sin信号の2乗値と、前記cos信号の2乗値または−cos信号の2乗値と、の組み合わせから算出されることを特徴とする請求項4に記載の回転角検出装置。
【請求項6】
前記減算値は、前記sin信号または前記−sin信号と、前記cos信号または前記−cos信号と、の組み合わせで減算して算出されることを特徴とする請求項4に記載の回転角検出装置。
【請求項7】
前記第1演算値は、少なくとも4つ算出され、
前記第2演算値は、算出された前記第1演算値の全てを少なくとも1回ずつ用いて、少なくとも4通りの前記第1演算値の組み合わせから算出されることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項8】
前記演算値は、前記sin信号および前記−sin信号から算出されるsin信号演算値であって、
前記異常特定手段は、前記sin信号演算値が前記所定の範囲である第2の範囲から外れた場合、前記sin信号演算値に対応する前記出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項9】
前記演算値は、前記cos信号および前記−cos信号から算出されるcos信号演算値であって、
前記異常特定手段は、前記cos信号演算値が前記所定の範囲である第3の範囲から外れた場合、前記cos信号演算値に対応する前記出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする請求項2または8に記載の回転角検出装置。
【請求項10】
1つの前記ブリッジ回路部から出力される前記出力信号は、前記sin信号または前記−sin信号と、前記cos信号または前記−cos信号と、からなることを特徴とする請求項2〜9のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項11】
前記演算値は、前記出力信号そのものであって、
前記異常特定手段は、前記出力信号が前記所定の範囲である第4の範囲から外れた場合、当該出力信号に異常が生じていると特定することを特徴とする請求項1または2に記載の回転角検出装置。
【請求項12】
前記回転角算出手段は、前記異常特定手段により特定された前記異常が生じている出力信号以外の前記出力信号に基づいて前記回転角度を算出できるとき、前記異常特定手段により特定された前記異常が生じている出力信号以外の前記出力信号に基づき、前記回転角度を算出することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項13】
前記回転角算出手段は、前記異常特定手段により特定された前記異常が生じている出力信号以外の前記出力信号に基づいて前記回転角度を算出できないとき、外部から取得される外部信号に基づき、前記回転角度を算出することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項14】
前記ブリッジ回路部は、それぞれ別の電源に接続されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の回転角検出装置を用いた電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−99846(P2011−99846A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208040(P2010−208040)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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