回転軸のロック装置
【課題】回転軸の正／逆双方向の回転駆動を可能としながらも、必要に応じて回転軸をロックすることのできるロック装置を得る。
【解決手段】クラッチ部材５２は回転軸３２ａと一体的に回転するとともに回転軸３２ａの軸線方向に変位可能であり、ロック部材５３はクラッチ部材５２と係合してクラッチ部材５２の回転を規制する。コイルばね５４はクラッチ部材５２をロック部材５３に向けて付勢し、トルク伝達部材５５は、モータから回転トルクが伝達されて回転するとともにクラッチ部材５２の外周部に設けられたカム溝５２ｂ内に遊挿されるボス５５ａを備え、当該ボス５５ａを介してクラッチ部材５２に回転トルクを伝達する。トルク伝達部材５５が回転方向を切り換えると、カム溝５２ｂ内でボス５５ｂが変位することにより、回転３２ａの回転を許容するロック解除状態と、回転を規制するロック状態と、が切り換わる。
【解決手段】クラッチ部材５２は回転軸３２ａと一体的に回転するとともに回転軸３２ａの軸線方向に変位可能であり、ロック部材５３はクラッチ部材５２と係合してクラッチ部材５２の回転を規制する。コイルばね５４はクラッチ部材５２をロック部材５３に向けて付勢し、トルク伝達部材５５は、モータから回転トルクが伝達されて回転するとともにクラッチ部材５２の外周部に設けられたカム溝５２ｂ内に遊挿されるボス５５ａを備え、当該ボス５５ａを介してクラッチ部材５２に回転トルクを伝達する。トルク伝達部材５５が回転方向を切り換えると、カム溝５２ｂ内でボス５５ｂが変位することにより、回転３２ａの回転を許容するロック解除状態と、回転を規制するロック状態と、が切り換わる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、回転軸のロック／ロック解除の切り換えを行うロック装置に関する。
【背景技術】
【０００２】
ファクシミリやプリンタ等に代表される記録装置において、用紙のスキュー（斜行）を解消させる為の制御方法として、特許文献１に示されるような食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御がある。
【０００３】
このスキュー取り制御は、下流側ローラと上流側ローラとを利用し、用紙先端を下流側ローラに食い付かせて所定量下流側に送り出した後、上流側ローラを停止させた状態で下流側ローラを逆転させ、用紙先端を下流側ローラの上流側に吐き出す。これにより用紙は上流側ローラと下流側ローラとの間で撓ませられるが、その復帰習性により用紙先端が下流側ローラに倣い、結果的にスキューが矯正される。
【０００４】
しかしながら厚紙などの剛性の高い（コシの強い）用紙に対して上記スキュー取り制御を行う場合、用紙先端を下流側ローラから吐き出す際に上流側ローラを回転させようとする力が大きくなり、場合によっては上流側ローラを逆転させてしまうことによって、スキューが良好に解消されない虞がある。
【０００５】
この様な不具合を解消するためには、上流側ローラが逆転しないように、上流側ローラとこれを駆動するモータとの間に、例えば特許文献２に示されるような一方向回転のみを許容するクラッチを介在させて、上流側ローラが逆転方向には回転しないようにロックする必要がある。
【特許文献１】特開２００７−８４２２４号公報
【特許文献２】特開平１０−３３１９４１号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
しかしながら用紙の両面に記録を行う記録装置などのように、用紙を上流側に向けて戻すためにローラを逆転駆動したい場合がある。従ってこの様な場合においては上記のように一方向回転のみを許容するクラッチをそのまま適用することができず、従って正／逆双方向の回転駆動と、必要時における確実な逆転防止（回転のロック）と、のいずれをも満たすことのできるロック装置の開発が望まれていた。
【０００７】
また上流側ローラと下流側ローラとで共通の駆動モータを利用する場合、食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行う為には、下流側ローラを所定量逆転させる間において上流側ローラが逆転しないようロックされていなければならず、この様な動作条件を満たすことのできるロック装置であることも望まれる。
【０００８】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、回転軸の正／逆双方向の回転駆動を可能としながらも、必要に応じて回転軸をロックすることのできるロック装置を得ることにあり、更には駆動モータの回転方向を切り換える際に、所定期間回転軸のロック状態を介在させることのできるロック装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
上記課題を解決するために、本発明の第１の態様に係る回転軸のロック装置は、回転軸と一体的に回転するとともに前記回転軸の軸線方向に変位可能に設けられるクラッチ部材と、前記クラッチ部材と係合して前記クラッチ部材の回転を規制する、固定状態に設けられるロック部材と、前記クラッチ部材を前記ロック部材に向けて付勢する付勢部材と、動力源から回転トルクが伝達されて回転するとともに前記クラッチ部材の外周部に設けられたカム溝内に遊挿されるボスを備え、当該ボスを介して前記クラッチ部材に回転トルクを伝達するトルク伝達部材と、を備え、前記トルク伝達部材の回転／停止の切り換え、或いは回転方向の切り換えに伴って前記カム溝内で前記ボスが変位することにより、前記ボスが前記付勢部材の付勢力に抗して前記クラッチ部材を前記ロック部材から離間させるロック解除状態と、前記ボスが前記クラッチ部材の変位を許容して前記クラッチ部材を前記ロック部材に係合させるロック状態と、が切り換わることを特徴とする。
【００１０】
本態様によれば、トルク伝達部材の回転／停止の切り換え、或いは回転方向の切り換えに伴ってカム溝内でボスが変位することにより、クラッチ部材（即ち回転軸）の回転が許容されるロック解除状態と、クラッチ部材（回転軸）がロックされるロック状態と、が切り換わるので、クラッチ部材（回転軸）の正／逆双方向の回転駆動を可能としながらも、必要に応じて回転軸をロックすることができる。またカム溝の形状を調整することにより、前記ロック状態の継続期間を容易に調整することができる。
【００１１】
本発明の第２の態様に係る回転軸のロック装置は、第１の態様に係るロック装置において、前記カム溝が、前記クラッチ部材の変位を許容する為の規制解除領域の両側に、前記クラッチ部材を前記ロック部材から離間した位置に拘束する為の規制領域を備え、前記トルク伝達部材の回転方向切り換えに伴い、前記ロック解除状態、前記ロック状態、前記ロック解除状態、の順に切り換わることを特徴とする。
【００１２】
本態様によれば、トルク伝達部材の回転方向の切り換えに伴い、クラッチ部材（回転軸）のロック解除状態、ロック状態、ロック解除状態、の順に切り換わるので、駆動モータの回転方向を切り換える際に、所定期間回転軸のロック状態を介在させることができ、そのような要請に対応することができる。
【００１３】
本発明の第３の態様に係る回転軸のロック装置は、第１のまたは第２の態様に係るロック装置において、前記ロック部材と前記クラッチ部材との係合部が、噛み合い歯により構成されていることを特徴とする。本態様によれば、ロック部材とクラッチ部材との係合部が、噛み合い歯により構成されているので、ロック状態においてクラッチ部材（回転軸）が回転しないよう確実にロックすることができる。
【００１４】
本発明の第４の態様に係る回転軸のロック装置は、第３の態様に係るロック装置において、前記噛み合い歯の歯形が、前記クラッチ部材の一方側の回転方向に対する圧力角δ１が０°＜δ１＜９０°であり、他方側の回転方向に対する圧力角δ２が０°であることを特徴とする。
【００１５】
本態様によれば、ロック部材とクラッチ部材との係合部を構成する噛み合い歯の歯形が、クラッチ部材（回転軸）の一方側の回転方向に対する圧力角δ１が０°＜δ１＜９０°であるので、当該回転方向に対しては回転軸が外力により無理に回されようとした際に所定の回転トルクを超えた時点でクラッチ部材（回転軸）が回ることができ、回転軸が外力により無理に回されようとした際の装置の破損を防止できるとともに、非常時の手段として回転軸に外力を加えて回したい場合にその様な要請に応えることができる。また他方側の回転方向に対する圧力角δ２が０°であるので、当該回転方向に対してはクラッチ部材（回転軸）の回転を確実にロックすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１６】
以下、図１乃至図１５を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。図１は記録装置の一実施形態であるインクジェットプリンタ（以下「プリンタ」と言う）１の用紙搬送経路を示す側断面図、図２は本発明の第１実施形態に係るロック装置５０の正面図、図３及び図４はロック装置５０の分解斜視図、図５は回転軸３２ａ及びクラッチ部材５２の斜視図、図６〜図８の（Ａ）はロック装置５０を回転軸３２ａの軸線方向に平行な面で切断した断面図、図６〜図８の（Ｂ）はロック装置５０を回転軸３２ａの軸線方向に直交する面で切断した断面図、図９（Ａ）〜（Ｂ）は噛み合い歯の各種実施形態を示す図である。
【００１７】
また図１０〜図１２は本発明の第２実施形態に係るロック装置７０の正面図、図１３は同分解斜視図、図１４は同要部拡大斜視図（一部断面図）、図１５（Ａ）、（Ｂ）はロック装置７０を回転軸７１ａの軸線方向に平行な面で切断した断面図である。
【００１８】
＜＜１．記録装置の構成＞＞
以下、図１を参照しつつプリンタ１の全体構成について概説する。尚、図１はプリンタ１の用紙搬送経路上に配置されるローラを図示する為に、ほぼ全てのローラを同一面上に描いているが、その奥行き方向（図１の紙面表裏方向）の位置は必ずしも一致しているとは限らない（一致している場合もある）。
【００１９】
プリンタ１は、装置底部に給送装置２を備え、当該給送装置２から被記録媒体としての記録用紙Ｐを１枚ずつ給送し、記録手段４においてインクジェット記録を行い、装置前方側（図１において左側）に設けられた図示しない排紙スタッカへ向けて排出する構成を備えている。またプリンタ１は装置後部に両面ユニット７を着脱自在に備えており、最初に記録の行われた用紙Ｐの第１面に対し反対側の第２面が記録ヘッド４２と対向するよう湾曲反転させ、これにより用紙Ｐの両面に記録が実行可能となっている。
【００２０】
以下、各構成要素について更に説明する。給送装置２は、用紙カセット１１と、ピックアップローラ１６と、ガイドローラ２０と、分離手段２１と、を備えている。複数枚の用紙Ｐを積層状態で収容可能な用紙カセット１１は、給送装置２の装置本体に対し、装置前方側から装着及び取り外し可能に構成されており、図示しないモータによって回転駆動されるピックアップローラ１６は、揺動軸１８を中心に揺動する揺動部材１７に設けられ、用紙カセット１１に収容された用紙と接して回転することにより、当該最上位の用紙Ｐを用紙カセット１１から送り出す。
【００２１】
用紙カセット１１に収容された用紙先端と対向する位置には分離部材１２が設けられており、給送されるべき最上位の用紙Ｐの先端が分離部材１２に摺接しつつ下流側に進むことで、次位以降の用紙Ｐとの第１段階分離が行われる。分離部材１２の下流側には自由回転可能なガイドローラ２０が設けられ、更にその下流側には、分離ローラ２２と駆動ローラ２３とを備えて構成された、用紙Ｐの第２段階分離を行う分離手段２１が設けられている。
【００２２】
分離手段２１の下流側には、図示を省略するモータにより回転駆動される駆動ローラ２６と、駆動ローラ２６との間で用紙Ｐをニップして従動回転するアシストローラ２７と、を備えて構成された第１中間送り部２５が設けられており、この第１中間送り部２５により、用紙Ｐが更に下流側へと送られる。尚、符号２９は、用紙Ｐが湾曲反転経路を通過する際の（特に用紙後端が通過する際の）通紙負荷を軽減する従動ローラを示している。
【００２３】
従動ローラ２９の下流側には図示を省略するモータにより回転駆動される駆動ローラ３２と、駆動ローラ３２との間で用紙Ｐをニップして従動回転するアシストローラ３３と、を備えて構成された第２中間送り部３１が設けられており、この第２中間送り部３１により、用紙Ｐが更に下流側へと送られる。
【００２４】
第２中間送り部３１の下流側には、記録手段４が配置されている。記録手段４は、搬送手段５と、記録ヘッド４２と、紙案内前３９と、排出手段６と、を備えている。搬送手段５は、図示を省略するモータによって回転駆動される搬送駆動ローラ３５と、該搬送駆動ローラ３５に圧接して従動回転するよう紙案内上３７に軸支される搬送従動ローラ３６とを備えて構成され、この搬送手段５により用紙Ｐが記録ヘッド４２と対向する位置に向けて精密送りされる。
【００２５】
尚、給送装置２から給送された記録用紙Ｐのスキューは、第２中間送り部３１及びその下流側の搬送手段５を利用した食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御により除去される。具体的には、記録用紙Ｐの先端を搬送駆動ローラ３５と搬送従動ローラ３６との間に食い付かせて所定量下流側に送り出した後、上流側の駆動ローラ３２を停止させた状態で搬送駆動ローラ３５を逆転させ、用紙先端を搬送駆動ローラ３５の上流側に吐き出す。これにより用紙先端が搬送駆動ローラ３５と搬送従動ローラ３６とのニップ点に倣い、スキューが矯正される。
【００２６】
続いて記録ヘッド４２はキャリッジ４０の底部に設けられ、当該キャリッジ４０は主走査方向（図１の紙面表裏方向）に延びるキャリッジガイド軸４１にガイドされながら、図示を省略するモータによって主走査方向に往復動する様に駆動される。記録ヘッド４２と対向する位置には紙案内前３９が設けられ、当該紙案内前３９によって、用紙Ｐと記録ヘッド４２との距離が規定されるようになっている。
【００２７】
紙案内前３９の下流側に設けられた排出手段６は、図示を省略するモータによって回転駆動される排出駆動ローラ４４と、当該排出駆動ローラ４４に接して従動回転する排出従動ローラ４５とを備えて構成され、記録手段４によって記録の行われた用紙Ｐは、排出手段６により、装置前方側に設けられた図示を省略するスタッカへと排出される。
【００２８】
両面ユニット７は、大径の反転ローラ４６と、当該反転ローラ４６との間で用紙Ｐをニップして従動回転するアシストーラ４７、４８を備えている。用紙カセット１１から繰り出されて第１面に記録の行われた用紙Ｐは、第２中間送り部３１、搬送手段５、排出手段６、のこれらによる逆送り動作によって、第１面に記録が実行された際に用紙後端となっていた側が先端となって、反転ローラ４６とアシストローラ４８との間に誘い込まれる。
【００２９】
反転ローラ４６は図示を省略するモータにより図１の反時計回り方向に回転駆動されており、反転ローラ４６とアシストローラ４８との間に誘い込まれた用紙は、反転ローラ４６とアシストローラ４７との間を通って再び第２中間送り部３１に到達し、記録手段４に導かれ、以降同様に記録が実行される。
【００３０】
尚、以上説明した用紙搬送経路中に設けられるピックアップローラ１６、駆動ローラ２３、２６、３２、搬送駆動ローラ３５、排出駆動ローラ４４、反転ローラ４６、のこれら回転駆動されるローラは、全て共通の駆動モータにより回転駆動されるよう構成されている。この中で第２中間送り部３１を構成する駆動ローラ３２と駆動モータとの間に、本発明に係るロック装置が設けられ、必要時に駆動ローラ３２の回転がロックされることとなる。
【００３１】
＜＜２．ロック装置の第１実施形態＞＞
以下、図２乃至図９を参照しながら本発明の第１実施形態について説明する。図２において符号６０は用紙搬送方向に平行な面を形成するサイドフレーム（プリンタ１の基体を構成する）を示しており、ロック装置５０はこのサイドフレーム６０に設けられる。
【００３２】
図２において符号９０は搬送駆動ローラ３５の軸端に設けられる歯車を示しており、この歯車９０から、歯車９１、９２、９３を介してロック装置５０へとモータの回転トルクが伝達される。尚、図２のギア部５５ｂから更に左側には、図示を省略する歯車輪列が設けられており、ロック装置５０を介して搬送駆動ローラ３５（駆動モータ）の回転トルクが反転装置７（反転ローラ４６）へと更に伝達されるようになっている。
【００３３】
図２において符号３２ａは上述した駆動ローラ３２の回転軸を示しており、ロック装置５０は、この回転軸３２ａの回転を許容するロック解除状態と、回転しないようロックするロック状態と、を切り換える。
このロック装置５０は、図３及び図４に示すようにクラッチ部材５２と、ロック部材５３と、付勢部材としてのコイルばね５４と、トルク伝達部材５５と、を備えて構成されている。
【００３４】
クラッチ部材５２は、回転軸３２ａを挿通させる穴部が形成されるとともに、回転軸３２ａに形成されたキー溝３２ｂ（図５）を介して回転軸３２ａに回転トルクを伝達するよう構成され、即ち回転軸３２ａと一体的に回転するように構成される。またキー溝３２ｂにガイドされながら、回転軸３２ａの軸線方向にスライド変位可能に設けられ、即ち回転軸３２ａの軸線方向に対しては非拘束状態に設けられる。
【００３５】
このクラッチ部材５２には、その外周部に、カム溝５２ｂが周方向に延びるように形成されており、またロック装置５０の組み立て状態においてロック部材５３と対向する位置には噛み合い歯５２ａが形成されている。
【００３６】
ロック部材５３は、回転軸３２ａを挿通させる穴部が形成されるとともに、ロック装置５０の組み立て状態においてクラッチ部材５２に形成された噛み合い歯５２ａと対向する位置に、噛み合い歯５３ａが形成されている。尚このロック部材５３は、サイドフレーム６０に固定状態に設けられる。
【００３７】
コイルばね５４はトルク伝達部材５５とクラッチ部材５２との間に介在し、クラッチ部材５２をロック部材５３に向けて付勢する。
トルク伝達部材５５は、ロック装置５０の組み立て状態において内部にコイルばね５４及びクラッチ部材５２を収容する円筒形状を成すとともに、ギア部５５ｂを一体的に備えている。そしてギア部５５ｂが歯車９３（図２）と噛合することにより、駆動モータからの回転トルクが伝達されて、回転軸３２ａを回転軸として回転する。
【００３８】
尚、上述したようにクラッチ部材５２は回転軸３２ａと一体的に回転するよう設けられるが、トルク伝達部材５５は、クラッチ部材５２とは異なり回転軸３２ａに対しては一定の回転量だけ相対的に回転可能なように設けられる（後に詳述）。
【００３９】
トルク伝達部材５５の内周面にはボス５５ａが２箇所、配置間隔が１８０°の位相を成すように内周において対向する位置に形成されており、ロック装置５０の組み立て状態においてボス５５ａが、クラッチ部材５２に形成されたカム溝５２ｂ（ボス５５ａと同様に２箇所形成されている）に遊挿されるようになっている。
【００４０】
カム溝５２ｂは、図５及び図６〜図８に示すように、回転軸３２ａの軸線方向におけるボス５５ａとの間の相対的な移動を許容する規制解除領域αと、その両側に位置する、前記移動を規制する規制領域βと、を備えている。そしてこれにより、ボス５５ａが規制解除領域αにいるときは、クラッチ部材５２の回転軸３２ａの軸線方向への移動が許容され、ボス５５ａが規制領域βにいるときは、クラッチ部材５２の前記軸線方向への移動が規制されるようになっている。
【００４１】
以上のように構成されたロック装置５０の動作について以下図６〜図８を参照しながら説明する。図６はトルク伝達部材５５に図６（Ｂ）の時計回り方向の回転トルクが伝達されている状態を示しており、この状態では、トルク伝達部材５５のボス５５ａがカム溝５２ｂの規制領域βにあり、ボス５５ａがカム溝５２ｂの一方側端面５２ｄを押してクラッチ部材５２に回転トルクを伝達している。
【００４２】
このとき、図６（Ａ）に示すようにボス５５ａがコイルばね６４の付勢力に抗してクラッチ部材５２をロック部材５３から離間させるので、クラッチ部材５２の噛み合い歯５２ａとロック部材５３の噛み合い歯５３ａとは噛合していない。従ってクラッチ部材５２はその回転が許容されたロック解除状態となっており、トルク伝達部材５５、クラッチ部材５２、回転軸３２ａ、の順に回転トルクが伝達されることにより回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）が回転する。
【００４３】
この状態からトルク伝達部材５５の回転方向が図６（Ｂ）の反時計回り方向に切り替わると、図７（Ｂ）に示すようにボス５５ａがカム溝５２ｂの規制解除領域αに移動し、ボス５５ａがクラッチ部材５２に回転トルクを伝達しない状態となる。
【００４４】
このとき、図７（Ａ）に示すようにボス５５ａがクラッチ部材５２の変位を許容するので、コイルばね５４の付勢力によりクラッチ部材５２がロック部材５３と係合し、即ちクラッチ部材５２の噛み合い歯５２ａとロック部材５３の噛み合い歯５３ａとが噛合する。従ってクラッチ部材５２はその回転が規制されたロック状態となり、回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）に外力を加えて回転させようとしても、噛み合い歯５２ａと噛み合い歯５３ａとの噛合によって回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）は回転しない。
【００４５】
この状態からトルク伝達部材５５が更に図７（Ｂ）の反時計回り方向に回転すると、図８（Ｂ）に示すようにボス５５ａがカム溝５２ｂの規制領域βに移動し、ボス５５ａがカム溝５２ｂの他方側端面５２ｃを押してクラッチ部材５２に回転トルクを伝達するようになる。
【００４６】
このとき、図８（Ａ）に示すようにボス５５ａがコイルばね６４の付勢力に抗してクラッチ部材５２をロック部材５３から離間させるので、クラッチ部材５２の噛み合い歯５２ａとロック部材５３の噛み合い歯５３ａとの噛合が解除される。従ってクラッチ部材５２はその回転が許容されたロック解除状態に移行し、トルク伝達部材５５、クラッチ部材５２、回転軸３２ａ、の順に回転トルクが伝達され、回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）が回転する。
【００４７】
尚、この状態から再度トルク伝達部材５５の回転方向を切り換えると、上記とは逆の順に各構成要素が動き、即ち図８に示すロック解除状態から、図７に示すロック状態、そして図６に示すロック解除状態へと切り換わる。
【００４８】
また、図６或いは図８のロック解除状態からトルク伝達部材５５が回転を停止すると、図５に示すようにカム溝５２ｂの規制領域βにおけるカム面５２ｅがボス５５ａを規制解除領域αの側へ案内するような曲面により形成されているので、クラッチ部材５２ａ（回転軸３２ａ）が僅かに回転した後に図７に示したロック状態に切り換わることになる。
【００４９】
以上のようにロック装置５０は、トルク伝達部材５５の回転方向の切り換え、或いは回転／停止の切り換えに伴って、カム溝５２ｂ内でボス５５ａが変位することにより、クラッチ部材５２（回転軸３２ａ）の回転が許容されるロック解除状態と、クラッチ部材５２（回転軸３２ａ）がロックされるロック状態と、が切り換わるようになっている。
【００５０】
以下、上記のように構成されたロック装置５０の作用効果について説明すると、図２において歯車９０（即ち、搬送駆動ローラ３５）が正転すると（同図時計回り方向）、これにより歯車９１〜９３を介してロック装置５０のトルク伝達部材５５へと回転トルクが伝達されて、回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）が正転し、記録用紙Ｐが下流側へ搬送される。尚、このときのロック装置５０の状態は、図６に示すロック解除状態である。
【００５１】
ここで、上述した食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行うべく、搬送駆動ローラ３５が正転駆動から逆転駆動へと切り換えられると、これに伴いロック装置５０のトルク伝達部材５５の回転方向が切り替わる。
【００５２】
このとき、搬送駆動ローラ３５が所定量逆転する間は、図６から図８に示した変化のようにロック装置５０においてボス５５ａがカム溝５２ｂ内を変位するので回転軸３２ａ（即ち駆動ローラ３２）には逆転方向の回転トルクが伝達されず、しかもボス５５ａが規制解除領域αを移動する間は回転軸３２ａ（即ち駆動ローラ３２）がロック状態となる。
【００５３】
このため、搬送駆動ローラ３５の逆転駆動により用紙先端が搬送駆動ローラ３５の上流側に吐き出される際、当該用紙が駆動ローラ３２を逆転させようとしても、上記の通り駆動ローラ３２は確実にロックされているので、用紙が搬送駆動ローラ３５と駆動ローラ３２との間で確実に撓むことになり、スキューが確実に解消される。
【００５４】
即ち駆動ローラ３２は、正転駆動、逆転駆動いずれも可能であるとともに、必要時において確実に逆転防止（ロック）されることになり、つまりロック装置５０は単に回転軸の一方向回転のみ許容するワンウェイクラッチとは異なり、正／逆双方向の回転駆動と、必要時における確実な逆転防止（ロック）と、のいずれをも満たすことが可能となる。
【００５５】
しかも搬送駆動ローラ３５と駆動ローラ３２とで共通の駆動源を利用する構成において、両ローラにより食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行う場合には、下流側の搬送駆動ローラ３５を所定量逆転させる間において上流側の駆動ローラ３２が逆転しないようロックされている必要があるが、その様な要請にも応えることができる。
【００５６】
特にカム溝５２ｂの形状を調整することにより、具体的には規制解除領域αの長さを調整することにより、トルク伝達部材５５の回転方向切り換わり時におけるロック状態の継続期間を調整することができ、駆動ローラ３２をロックする期間を容易に調整することができる。
【００５７】
尚、本実施形態ではクラッチ部材５２とロック部材５３との係合部を噛み合い歯により形成し、図３〜図８に示した噛み合い歯５２ａ、５３ａのそれぞれの歯形は、図９（Ａ）に示すように回転方向Ｙ１に対する圧力角δ１と回転方向Ｙ２に対する圧力角δ２とが、０°＜δ１＜９０°、０°＜δ２＜９０°に設定されている。
【００５８】
これを、例えば図９（Ｂ）の噛み合い歯５２ａ’、５３ａ’のようにδ１＝δ２＝０°に設定することもできる。このように噛み合い歯を形成することで、クラッチ部材５２をより一層確実にロックすることができる。
【００５９】
また図９（Ｃ）の噛み合い歯５２ａ”、５３ａ”のように、一方側の回転方向Ｙ１に対する圧力角δ１を０°＜δ１＜９０°に設定し、他方側の回転方向Ｙ２に対する圧力角δ２をδ２＝０°に設定することもできる。この様に構成すれば、一方側の回転方向Ｙ１に対してはクラッチ部材５２をより一層確実にロックすることができる。また他方側の回転方向Ｙ１に対しては、クラッチ部材５２を外力により無理に回転させようとした際に、所定以上の回転トルクを与えれば歯面が滑り、クラッチ部材５２が回転することができる。
【００６０】
従って例えば、駆動ローラ３２に適用する場合、回転方向Ｙ２を逆転方向に設定すれば、食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行う際に駆動ローラ３２の逆転を確実に防止できるとともに、正転方向（回転方向Ｙ１）には所定以上の回転トルクを与えれば駆動ローラ３２は回転するので、紙ジャム発生時などの際に用紙を引き抜きたい場合に、そのような要請に応えることができる。
【００６１】
＜＜３．ロック装置の第２実施形態＞＞
以下、図１０乃至図１５を参照しながら本発明の第２実施形態に係るロック装置７０について説明する。図１０に示すように本実施形態に係るロック装置７０は、上述した第１実施形態と異なり、駆動ローラ３２の回転軸３２ａからは独立して配置される。また遊星歯車機構を介して、歯車９０からの回転トルクが伝達される。
【００６２】
図中符号７５ｂは、上述した第１実施形態のギア部５５ｂに相当する歯車であり、ロック装置７０は上述したロック装置５０と同様に、歯車７５ｂが第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６からの回転トルクを受けるとこれに応じて回転軸７１ａ（歯車７１）に回転トルクを伝達し、当該回転軸７１ａ（歯車７１）を回転させる。そして第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６からの回転トルクの伝達が切断されると、これに応じて回転軸７１ａ（歯車７１）をロックする。
【００６３】
以下、更に詳説する。図１０及び図１３に示すように、サイドフレーム６１には、太陽歯車９４と、第１遊星歯車９５と、第１遊星レバー７７と、第２遊星歯車９６と、第２遊星レバー７８と、ロック装置７０と、が設けられる。
【００６４】
またロック装置７０は、歯車７１と、クラッチ部材７２と、ロック部材７３と、付勢部材としてのコイルばね７４と、トルク伝達部材７５と、を備えている。尚、クラッチ部材７２、ロック部材７３、コイルばね７４、トルク伝達部材７５、のこれら構成要素は、それぞれ第１実施形態におけるクラッチ部材５２、ロック部材５３、コイルばね５４、トルク伝達部材５５、のこれらに相当するものであり、各々の役割は概ね同じである。
【００６５】
第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６は、太陽歯車９４の回転中心を中心にして揺動可能な第１遊星レバー７７及び第２遊星レバー７８にそれぞれ回転可能に軸支されており、それぞれ太陽歯車９４と噛合している。そして太陽歯車９４の回転に伴って第１遊星レバー７７及び第２遊星レバー７８が揺動動作を行うことにより、太陽歯車９４の周囲を遊星運動するように設けられている。
【００６６】
そしてこの遊星運動によって、それぞれが歯車７５ｂと噛合する噛合位置と、歯車７５ｂから離間する離間位置との間を変位可能となっている。図１０は第１遊星歯車９５が噛合位置にあり、第２遊星歯車９６が離間位置にある様子を示しており、図１２はその逆に第１遊星歯車９５が離間位置にあり、第２遊星歯車９６が噛合位置にある様子を示している。この様に第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６は、いずれか一方が噛合位置にあるときは他方が離間位置に位置するようになっている。
【００６７】
尚、本実施形態においては便宜上、搬送駆動ローラ３５（歯車９０）は、図１０の時計回り方向に回転するとき（用紙Ｐを下流側へ搬送するとき）を正転とし、図１０の反時計回り方向に回転するとき（用紙Ｐを上流側へ搬送するとき）を逆転とする。
【００６８】
そして第１遊星歯車９５は、搬送駆動ローラ３５の正転（太陽歯車９４の第１方向回転）に伴い図１０に示すように噛合位置に変位し、伝達歯車７５ｂを図１０の反時計回り方向に回転駆動する。また搬送駆動ローラ３５の逆転（太陽歯車９４の第２方向回転）に伴い図１２に示すように離間位置に変位する。
【００６９】
その逆に第２遊星歯車９６は、搬送駆動ローラ３５の逆転（太陽歯車９４の第２方向回転）に伴い図１２に示すように噛合位置に変位して伝達歯車７５ｂを図１２の時計回り方向に回転駆動する。また搬送駆動ローラ３５の正転（太陽歯車９４の第１方向回転）に伴い図１０に示すように離間位置に変位する。
【００７０】
尚、図１０〜図１２において歯車７１及び歯車７５ｂは外径が同じであるとともに同じ回転中心を中心に回転する為、重なって描かれているが、実際には図１３に示すように歯車７１は図１０の手前側に位置しており、歯車７５ｂは図１０の奥側に位置している。即ち、図１０において歯車７１は歯車９７とのみ噛合し、後述する第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６とは噛合していない。また歯車７５ｂは第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６とのみ噛合しており、歯車９７とは噛合していない。
【００７１】
次にクラッチ装置７０において、クラッチ部材７２は、図１０及び図１３に示すように歯車７１と一体的に形成された回転軸７１ａを挿通させる穴部７２ｅを備えている。回転軸７１ａは断面視十字型の形状を成しており、これを挿通させる穴部７２ｅは、この断面形状に沿うように回転軸７１ａと同様に十字型の形状をなすように形成されている。従ってクラッチ部材７２が回転すると、歯車７１はクラッチ部材７２から回転トルクを受け、クラッチ部材７２とともに一体的に回転するようになっている。
【００７２】
尚、回転軸７１ａと穴部７２ｅは、回転軸７１ａの軸線方向には互いに非拘束の関係となっており、即ちクラッチ部材７２が回転軸７１ａの軸線方向にスライド変位可能に設けられている。
【００７３】
このクラッチ部材７２には、その外周部にカム溝７２ｂが形成されており、またクラッチ装置７０の組み立て状態においてロック部材７３と対向する位置には噛み合い歯７２ａが形成されている（図１４も参照）。
【００７４】
回転軸７１ａは、先端部に至る途中までは断面十字形状を成しているが、その先端部は円柱形状に形成されており、ロック部材７３には、この回転軸７１ａの先端部を回転自在に受け入れる穴部７３ｂが形成されている。そしてクラッチ装置７０の組み立て状態においてクラッチ部材７２に形成された噛み合い歯７２ａと対向する位置には、噛み合い歯７３ａが形成されている。尚このロック部材７３は、サイドフレーム６１に固定状態に設けられる。
【００７５】
コイルばね７４は歯車７１とクラッチ部材７２との間に介在し、クラッチ部材７２をロック部材７３に向けて付勢する。
トルク伝達部材７５は、クラッチ装置７０の組み立て状態において内部にクラッチ部材７２を収容する円環形状を成すとともに、その外周部に歯車７５ｂを一体的に備えており、歯車７５ｂが第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６と噛合することにより、駆動モータからの回転トルクが伝達されて回転するようになっている。
【００７６】
尚、上述したようにクラッチ部材７２は回転軸７１ａ（歯車７１）と一体的に回転するよう設けられるが、トルク伝達部材７５は、クラッチ部材７２及び回転軸７１ａ（歯車７１）に対しては相対的に一定の回転角度だけ回転可能となっている（後に詳述）。
【００７７】
トルク伝達部材７５の内周面にはボス７５ａが２箇所、配置間隔が１８０°の位相を成すように内周において対向する位置に形成されており、クラッチ装置７０の組み立て状態においてボス７５ａが、図１４において仮想線で示すようにクラッチ部材７２に形成されたカム溝７２ｂ（ボス７５ａと同様に２箇所形成されている）に遊挿されるようになっている。
【００７８】
カム溝７２ｂは、カム溝内におけるボス７５ａの周方向への一定量の移動（トルク伝達部材７５の一定量の回転）を許容するとともに、ボス７５ａの、回転軸７１ａの軸線方向（図１４の上下方向）への移動を許容する形状を成している。より具体的には、回転軸７１ａの軸線方向にほぼ垂直な面を成す側壁７２ｃ、７２ｃと、これに対して傾斜する斜面７２ｄ、７２ｄとを有している。
【００７９】
以上のように構成されたロック装置７０の動作について以下図１５を参照しながら説明する。図１５（Ａ）はトルク伝達部材７５（歯車７５ｂ）に第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６から回転トルクが伝達されていない状態（例えば、第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６のいずれもが歯車７５ｂに噛合していない状態）を示している。
【００８０】
この状態では、コイルばね７４の付勢力によりクラッチ部材７２がロック部材７３と係合し、即ちクラッチ部材７２の噛み合い歯７２ａとロック部材７３の噛み合い歯７３ａとが噛合する（図１４に示す状態）。
【００８１】
従ってクラッチ部材７２はその回転が規制されたロック状態となり、回転軸７１ａ（歯車７１）に外力を加えて回転させようとしても、噛み合い歯７２ａと噛み合い歯７３ａとの噛合によって回転軸７１ａ（歯車７１）は回転しない。尚このとき、トルク伝達部材７５に形成されたボス７５ａは、図１４に示すように斜面７２ｄ、７２ｄの交差場所に位置している。
【００８２】
この状態から、トルク伝達部材７５（歯車７５ｂ）に第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６から回転トルクが伝達されると、ボス７５ａがカム溝７２ｂの斜面７２ｄに押し当たり、コイルばね７４の付勢力に抗してカム溝７２ｂ（即ちクラッチ部材７２）を図１４の上方に押し上げる。
【００８３】
これにより、図１５（Ｂ）に示すようにクラッチ部材７２の噛み合い歯７２ａとロック部材７３の噛み合い歯７３ａとの噛合が解除され、即ちクラッチ部材７２はその回転が許容されたロック解除状態となる。そして引き続きトルク伝達部材７５が回転すると、ボス７５ａがカム溝７２ｂの斜面７２ｄとの当接位置から側壁７２ｃとの当接位置に移動しているので、当該側壁７２ｃを押すことで、トルク伝達部材７５、クラッチ部材７２、回転軸７１ａ（歯車７１）、のこれらが一体的に回転する。
【００８４】
以上説明したロック装置７０の動作は、カム溝７２ｂが左右対称に形成されているので、歯車７５ｂ（トルク伝達部材７５）がいずれの方向に回転しても、図１５（Ａ）のロック状態から図１５（Ｂ）のロック解除状態に切り換わり、そしてまた歯車７５ｂが停止すれば、図１５（Ｂ）のロック解除状態から図１５（Ａ）のロック状態に切り換わる。
【００８５】
以上の通りロック装置７０は、トルク伝達部材７５の回転／停止の切り換えに伴って、カム溝７２ｂ内でボス７５ａが変位することにより、クラッチ部材７２（回転軸７１ａ、歯車７１）の回転が許容されるロック解除状態と、前記回転がロックされるロック状態と、を切り換えるようになっている。
【００８６】
続いて第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６を含めた全体的な動作について説明する。図１０において、第１遊星レバー７７はサイドフレーム６１と対向する側にボス７７ａを有しており、このボス７７ａがサイドフレーム６１に形成された円弧状のガイド溝６２に遊挿されることにより、第１遊星レバー７７の揺動可能範囲がガイド溝６２によって規制されるようになっている。
【００８７】
また同様に、第２遊星レバー７８はサイドフレーム６１と対向する側にボス７８ａを有しており、このボス７８ａがサイドフレーム６１に形成された円弧状のガイド溝６３に遊挿されることにより、第２遊星レバー７８の揺動可能範囲がガイド溝６３によって規制されるようになっている。
【００８８】
ここで符号γ１は第１遊星レバー７７の揺動可能角度を示しており、同様に符号γ２は第２遊星レバー７８の揺動可能角度を示している。図から明かなように、本実施形態においてはγ１＜γ２に設定されており、これにより第１遊星歯車９５が噛合位置と離間位置との間を変位する際の変位量が、第２遊星歯車９６が噛合位置と離間位置との間を変位する際の変位量よりも小さくなっている。
【００８９】
図１０は搬送駆動ローラ３５（歯車９０）の正転状態を示しており、この状態では第１遊星歯車９５がロック装置７０の歯車７５ｂを同図矢印方向に回転駆動し、ロック装置７０の歯車７１が、歯車９７すなわち駆動ローラ３２を同図矢印方向に回転駆動している。即ちこの状態では、記録用紙Ｐが上流側から下流側に向かって搬送され得る状態となっている。
【００９０】
この状態から、上述した食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行う為に搬送駆動ローラ３５（歯車９０）が逆転駆動されると、図１１に示すように第１遊星歯車９５が歯車７５ｂから離れ、伝達歯車７５が第１遊星歯車９５と第２遊星歯車９６のいずれとも噛合しない動力切断状態となる。
【００９１】
従ってこれによりロック装置７０は、回転軸７１ａ（歯車７１）が回転しないようロックするロック状態となる。このとき、駆動ローラ３２はロック装置７０によりその回転がロックされているが、下流側の搬送駆動ローラ３５はひきつづき逆転駆動されるので、記録用紙Ｐは駆動ローラ３２と搬送駆動ローラ３５との間で撓み、用紙先端が搬送駆動ローラ３５の上流側に吐き出され、スキューが除去される。
【００９２】
そして図１２に示すように第２遊星歯車９６が噛合位置に変位して、歯車７５ｂに回転トルクを伝達すれば、上述したようにロック装置７０は回転軸７１ｂ（歯車７１）のロックを解除し、そして回転軸７１ｂ（歯車７１）に回転トルクを伝達し、駆動ローラ３２が逆転駆動される。
【００９３】
以上のように第１遊星歯車９５と第２遊星歯車９６のいずれもが歯車７５ｂと噛合しない動力切断時間を利用して、ロック装置７０による回転軸７１ｂ（歯車７１、ひいては駆動ローラ３２）のロックが行われる。
【００９４】
尚、図１３に示す状態から再び搬送駆動ローラ３５（歯車９０）が正転駆動に切り換えられたとき、第１遊星歯車９５が噛合位置に戻るまでの変位量は小さく設定されているので、搬送駆動ローラ３５の逆転駆動から正転駆動への切り換え後、大きなタイムラグが生じることなく、速やかに駆動ローラ３２の正転駆動を開始することができる。
【００９５】
従って駆動ローラ３２が停止した状態のまま搬送駆動ローラ３５が正転する時間を短縮できるので、記録用紙Ｐが駆動ローラ３２と搬送駆動ローラ３５との間で引っ張られ、駆動ローラ３２と記録用紙Ｐとの間でスリップが生じて記録面にダメージを与えることを防止できる。
【００９６】
以上説明したように本実施形態に係るロック装置７０は、トルク伝達部材７５の回転／停止の切り換えに伴って、カム溝７２ｂ内でボス７５ａが変位することにより、クラッチ部材７２（回転軸７１ａ）の回転が許容されるロック解除状態と、クラッチ部材７２（回転軸７１ａ）がロックされるロック状態と、が切り換わるようになっている。
【００９７】
従って先に説明した第１実施形態に係るロック装置５０と同様に、食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行うべく、搬送駆動ローラ３５が正転駆動から逆転駆動へと切り換えられると、駆動ローラ３２の回転を確実にロックするので、用紙が搬送駆動ローラ３５と駆動ローラ３２との間で確実に撓むことになり、スキューが確実に解消される。
【００９８】
またカム溝７２ｂの形状を調整することによりロック状態の継続期間を調整できることに加え、第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６のいずれもが平歯車９３と噛合しない期間（第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６の変位量）を調整することで、ロック状態の継続期間を調整できるので、駆動ローラ３２をロックする期間の調整をより一層柔軟に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【００９９】
【図１】本発明に係るプリンタの用紙搬送経路を示す側断面図。
【図２】本発明の第１実施形態に係るロック装置の正面図。
【図３】本発明の第１実施形態に係るロック装置の分解斜視図。
【図４】本発明の第１実施形態に係るロック装置の分解斜視図。
【図５】回転軸及びクラッチ部材の斜視図。
【図６】（Ａ）は本発明の第１実施形態に係るロック装置を回転軸の軸線方向に平行な面で切断した断面図、（Ｂ）は回転軸の軸線方向に直交する面で切断した断面図。
【図７】（Ａ）は本発明の第１実施形態に係るロック装置を回転軸の軸線方向に平行な面で切断した断面図、（Ｂ）は回転軸の軸線方向に直交する面で切断した断面図。
【図８】（Ａ）は本発明の第１実施形態に係るロック装置を回転軸の軸線方向に平行な面で切断した断面図、（Ｂ）は回転軸の軸線方向に直交する面で切断した断面図。
【図９】（Ａ）〜（Ｃ）は噛み合い歯の各種実施形態を示す図。
【図１０】本発明の第２実施形態に係るロック装置の正面図。
【図１１】本発明の第２実施形態に係るロック装置の正面図。
【図１２】本発明の第２実施形態に係るロック装置の正面図。
【図１３】本発明の第２実施形態に係るロック装置の分解斜視図。
【図１４】本発明の第２実施形態に係るロック装置の要部拡大斜視図（一部断面図）。
【図１５】（Ａ）、（Ｂ）はロック装置を回転軸の軸線方向に平行な面で切断した断面図。
【符号の説明】
【０１００】
１ インクジェットプリンタ、３ 給送装置、４ 記録手段、５ 搬送手段、６ 排出手段、１１ 用紙カセット、１２ 分離部材、１６ ピックアップローラ、１７ 揺動部材、１８ 揺動軸、２０ 従動ローラ、２１ 分離手段、２２ 分離ローラ、２３ 駆動ローラ、２５ 第１中間送り部、２６ 駆動ローラ、２７ アシストローラ、２９ 従動ローラ、３１ 第２中間送り部、３２ 駆動ローラ、３３ アシストローラ、３５ 搬送駆動ローラ、３６ 搬送従動ローラ、３７ 紙案内上、３９ 紙案内前、４０ キャリッジ、４１ キャリッジガイド軸、４２ 記録ヘッド、４４ 排出駆動ローラ、４５ 排出従動ローラ、４６ 反転ローラ４７、４８ アシストローラ、
５０ ロック装置、５２ クラッチ部材、５２ａ 噛み合い歯、５２ｂ カム溝、５３ ロック部材、５３ａ 噛み合い歯、５４ コイルばね、５５ トルク伝達部材、５５ａ ボス、５５ｂ ギア部、６０、６１ サイドフレーム、６２、６３ ガイド溝、７０ ロック装置、７２ クラッチ部材、７２ａ 噛み合い歯、７２ｂ カム溝、７２ｃ 側壁、７２ｄ 斜面、７３ ロック部材、７３ａ 噛み合い歯、７４ コイルばね、７５ トルク伝達部材、７５ａ ボス、７５ｂ 歯車、７７ 第１遊星レバー、７７ａ ボス、７８ 第２遊星レバー、７８ａ ボス、９０〜９３ 歯車、９４ 太陽歯車、９５ 第１遊星歯車、
９６ 第２遊星歯車、９７ 歯車、Ｐ 記録用紙
【技術分野】
【０００１】
本発明は、回転軸のロック／ロック解除の切り換えを行うロック装置に関する。
【背景技術】
【０００２】
ファクシミリやプリンタ等に代表される記録装置において、用紙のスキュー（斜行）を解消させる為の制御方法として、特許文献１に示されるような食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御がある。
【０００３】
このスキュー取り制御は、下流側ローラと上流側ローラとを利用し、用紙先端を下流側ローラに食い付かせて所定量下流側に送り出した後、上流側ローラを停止させた状態で下流側ローラを逆転させ、用紙先端を下流側ローラの上流側に吐き出す。これにより用紙は上流側ローラと下流側ローラとの間で撓ませられるが、その復帰習性により用紙先端が下流側ローラに倣い、結果的にスキューが矯正される。
【０００４】
しかしながら厚紙などの剛性の高い（コシの強い）用紙に対して上記スキュー取り制御を行う場合、用紙先端を下流側ローラから吐き出す際に上流側ローラを回転させようとする力が大きくなり、場合によっては上流側ローラを逆転させてしまうことによって、スキューが良好に解消されない虞がある。
【０００５】
この様な不具合を解消するためには、上流側ローラが逆転しないように、上流側ローラとこれを駆動するモータとの間に、例えば特許文献２に示されるような一方向回転のみを許容するクラッチを介在させて、上流側ローラが逆転方向には回転しないようにロックする必要がある。
【特許文献１】特開２００７−８４２２４号公報
【特許文献２】特開平１０−３３１９４１号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
しかしながら用紙の両面に記録を行う記録装置などのように、用紙を上流側に向けて戻すためにローラを逆転駆動したい場合がある。従ってこの様な場合においては上記のように一方向回転のみを許容するクラッチをそのまま適用することができず、従って正／逆双方向の回転駆動と、必要時における確実な逆転防止（回転のロック）と、のいずれをも満たすことのできるロック装置の開発が望まれていた。
【０００７】
また上流側ローラと下流側ローラとで共通の駆動モータを利用する場合、食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行う為には、下流側ローラを所定量逆転させる間において上流側ローラが逆転しないようロックされていなければならず、この様な動作条件を満たすことのできるロック装置であることも望まれる。
【０００８】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、回転軸の正／逆双方向の回転駆動を可能としながらも、必要に応じて回転軸をロックすることのできるロック装置を得ることにあり、更には駆動モータの回転方向を切り換える際に、所定期間回転軸のロック状態を介在させることのできるロック装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
上記課題を解決するために、本発明の第１の態様に係る回転軸のロック装置は、回転軸と一体的に回転するとともに前記回転軸の軸線方向に変位可能に設けられるクラッチ部材と、前記クラッチ部材と係合して前記クラッチ部材の回転を規制する、固定状態に設けられるロック部材と、前記クラッチ部材を前記ロック部材に向けて付勢する付勢部材と、動力源から回転トルクが伝達されて回転するとともに前記クラッチ部材の外周部に設けられたカム溝内に遊挿されるボスを備え、当該ボスを介して前記クラッチ部材に回転トルクを伝達するトルク伝達部材と、を備え、前記トルク伝達部材の回転／停止の切り換え、或いは回転方向の切り換えに伴って前記カム溝内で前記ボスが変位することにより、前記ボスが前記付勢部材の付勢力に抗して前記クラッチ部材を前記ロック部材から離間させるロック解除状態と、前記ボスが前記クラッチ部材の変位を許容して前記クラッチ部材を前記ロック部材に係合させるロック状態と、が切り換わることを特徴とする。
【００１０】
本態様によれば、トルク伝達部材の回転／停止の切り換え、或いは回転方向の切り換えに伴ってカム溝内でボスが変位することにより、クラッチ部材（即ち回転軸）の回転が許容されるロック解除状態と、クラッチ部材（回転軸）がロックされるロック状態と、が切り換わるので、クラッチ部材（回転軸）の正／逆双方向の回転駆動を可能としながらも、必要に応じて回転軸をロックすることができる。またカム溝の形状を調整することにより、前記ロック状態の継続期間を容易に調整することができる。
【００１１】
本発明の第２の態様に係る回転軸のロック装置は、第１の態様に係るロック装置において、前記カム溝が、前記クラッチ部材の変位を許容する為の規制解除領域の両側に、前記クラッチ部材を前記ロック部材から離間した位置に拘束する為の規制領域を備え、前記トルク伝達部材の回転方向切り換えに伴い、前記ロック解除状態、前記ロック状態、前記ロック解除状態、の順に切り換わることを特徴とする。
【００１２】
本態様によれば、トルク伝達部材の回転方向の切り換えに伴い、クラッチ部材（回転軸）のロック解除状態、ロック状態、ロック解除状態、の順に切り換わるので、駆動モータの回転方向を切り換える際に、所定期間回転軸のロック状態を介在させることができ、そのような要請に対応することができる。
【００１３】
本発明の第３の態様に係る回転軸のロック装置は、第１のまたは第２の態様に係るロック装置において、前記ロック部材と前記クラッチ部材との係合部が、噛み合い歯により構成されていることを特徴とする。本態様によれば、ロック部材とクラッチ部材との係合部が、噛み合い歯により構成されているので、ロック状態においてクラッチ部材（回転軸）が回転しないよう確実にロックすることができる。
【００１４】
本発明の第４の態様に係る回転軸のロック装置は、第３の態様に係るロック装置において、前記噛み合い歯の歯形が、前記クラッチ部材の一方側の回転方向に対する圧力角δ１が０°＜δ１＜９０°であり、他方側の回転方向に対する圧力角δ２が０°であることを特徴とする。
【００１５】
本態様によれば、ロック部材とクラッチ部材との係合部を構成する噛み合い歯の歯形が、クラッチ部材（回転軸）の一方側の回転方向に対する圧力角δ１が０°＜δ１＜９０°であるので、当該回転方向に対しては回転軸が外力により無理に回されようとした際に所定の回転トルクを超えた時点でクラッチ部材（回転軸）が回ることができ、回転軸が外力により無理に回されようとした際の装置の破損を防止できるとともに、非常時の手段として回転軸に外力を加えて回したい場合にその様な要請に応えることができる。また他方側の回転方向に対する圧力角δ２が０°であるので、当該回転方向に対してはクラッチ部材（回転軸）の回転を確実にロックすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１６】
以下、図１乃至図１５を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。図１は記録装置の一実施形態であるインクジェットプリンタ（以下「プリンタ」と言う）１の用紙搬送経路を示す側断面図、図２は本発明の第１実施形態に係るロック装置５０の正面図、図３及び図４はロック装置５０の分解斜視図、図５は回転軸３２ａ及びクラッチ部材５２の斜視図、図６〜図８の（Ａ）はロック装置５０を回転軸３２ａの軸線方向に平行な面で切断した断面図、図６〜図８の（Ｂ）はロック装置５０を回転軸３２ａの軸線方向に直交する面で切断した断面図、図９（Ａ）〜（Ｂ）は噛み合い歯の各種実施形態を示す図である。
【００１７】
また図１０〜図１２は本発明の第２実施形態に係るロック装置７０の正面図、図１３は同分解斜視図、図１４は同要部拡大斜視図（一部断面図）、図１５（Ａ）、（Ｂ）はロック装置７０を回転軸７１ａの軸線方向に平行な面で切断した断面図である。
【００１８】
＜＜１．記録装置の構成＞＞
以下、図１を参照しつつプリンタ１の全体構成について概説する。尚、図１はプリンタ１の用紙搬送経路上に配置されるローラを図示する為に、ほぼ全てのローラを同一面上に描いているが、その奥行き方向（図１の紙面表裏方向）の位置は必ずしも一致しているとは限らない（一致している場合もある）。
【００１９】
プリンタ１は、装置底部に給送装置２を備え、当該給送装置２から被記録媒体としての記録用紙Ｐを１枚ずつ給送し、記録手段４においてインクジェット記録を行い、装置前方側（図１において左側）に設けられた図示しない排紙スタッカへ向けて排出する構成を備えている。またプリンタ１は装置後部に両面ユニット７を着脱自在に備えており、最初に記録の行われた用紙Ｐの第１面に対し反対側の第２面が記録ヘッド４２と対向するよう湾曲反転させ、これにより用紙Ｐの両面に記録が実行可能となっている。
【００２０】
以下、各構成要素について更に説明する。給送装置２は、用紙カセット１１と、ピックアップローラ１６と、ガイドローラ２０と、分離手段２１と、を備えている。複数枚の用紙Ｐを積層状態で収容可能な用紙カセット１１は、給送装置２の装置本体に対し、装置前方側から装着及び取り外し可能に構成されており、図示しないモータによって回転駆動されるピックアップローラ１６は、揺動軸１８を中心に揺動する揺動部材１７に設けられ、用紙カセット１１に収容された用紙と接して回転することにより、当該最上位の用紙Ｐを用紙カセット１１から送り出す。
【００２１】
用紙カセット１１に収容された用紙先端と対向する位置には分離部材１２が設けられており、給送されるべき最上位の用紙Ｐの先端が分離部材１２に摺接しつつ下流側に進むことで、次位以降の用紙Ｐとの第１段階分離が行われる。分離部材１２の下流側には自由回転可能なガイドローラ２０が設けられ、更にその下流側には、分離ローラ２２と駆動ローラ２３とを備えて構成された、用紙Ｐの第２段階分離を行う分離手段２１が設けられている。
【００２２】
分離手段２１の下流側には、図示を省略するモータにより回転駆動される駆動ローラ２６と、駆動ローラ２６との間で用紙Ｐをニップして従動回転するアシストローラ２７と、を備えて構成された第１中間送り部２５が設けられており、この第１中間送り部２５により、用紙Ｐが更に下流側へと送られる。尚、符号２９は、用紙Ｐが湾曲反転経路を通過する際の（特に用紙後端が通過する際の）通紙負荷を軽減する従動ローラを示している。
【００２３】
従動ローラ２９の下流側には図示を省略するモータにより回転駆動される駆動ローラ３２と、駆動ローラ３２との間で用紙Ｐをニップして従動回転するアシストローラ３３と、を備えて構成された第２中間送り部３１が設けられており、この第２中間送り部３１により、用紙Ｐが更に下流側へと送られる。
【００２４】
第２中間送り部３１の下流側には、記録手段４が配置されている。記録手段４は、搬送手段５と、記録ヘッド４２と、紙案内前３９と、排出手段６と、を備えている。搬送手段５は、図示を省略するモータによって回転駆動される搬送駆動ローラ３５と、該搬送駆動ローラ３５に圧接して従動回転するよう紙案内上３７に軸支される搬送従動ローラ３６とを備えて構成され、この搬送手段５により用紙Ｐが記録ヘッド４２と対向する位置に向けて精密送りされる。
【００２５】
尚、給送装置２から給送された記録用紙Ｐのスキューは、第２中間送り部３１及びその下流側の搬送手段５を利用した食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御により除去される。具体的には、記録用紙Ｐの先端を搬送駆動ローラ３５と搬送従動ローラ３６との間に食い付かせて所定量下流側に送り出した後、上流側の駆動ローラ３２を停止させた状態で搬送駆動ローラ３５を逆転させ、用紙先端を搬送駆動ローラ３５の上流側に吐き出す。これにより用紙先端が搬送駆動ローラ３５と搬送従動ローラ３６とのニップ点に倣い、スキューが矯正される。
【００２６】
続いて記録ヘッド４２はキャリッジ４０の底部に設けられ、当該キャリッジ４０は主走査方向（図１の紙面表裏方向）に延びるキャリッジガイド軸４１にガイドされながら、図示を省略するモータによって主走査方向に往復動する様に駆動される。記録ヘッド４２と対向する位置には紙案内前３９が設けられ、当該紙案内前３９によって、用紙Ｐと記録ヘッド４２との距離が規定されるようになっている。
【００２７】
紙案内前３９の下流側に設けられた排出手段６は、図示を省略するモータによって回転駆動される排出駆動ローラ４４と、当該排出駆動ローラ４４に接して従動回転する排出従動ローラ４５とを備えて構成され、記録手段４によって記録の行われた用紙Ｐは、排出手段６により、装置前方側に設けられた図示を省略するスタッカへと排出される。
【００２８】
両面ユニット７は、大径の反転ローラ４６と、当該反転ローラ４６との間で用紙Ｐをニップして従動回転するアシストーラ４７、４８を備えている。用紙カセット１１から繰り出されて第１面に記録の行われた用紙Ｐは、第２中間送り部３１、搬送手段５、排出手段６、のこれらによる逆送り動作によって、第１面に記録が実行された際に用紙後端となっていた側が先端となって、反転ローラ４６とアシストローラ４８との間に誘い込まれる。
【００２９】
反転ローラ４６は図示を省略するモータにより図１の反時計回り方向に回転駆動されており、反転ローラ４６とアシストローラ４８との間に誘い込まれた用紙は、反転ローラ４６とアシストローラ４７との間を通って再び第２中間送り部３１に到達し、記録手段４に導かれ、以降同様に記録が実行される。
【００３０】
尚、以上説明した用紙搬送経路中に設けられるピックアップローラ１６、駆動ローラ２３、２６、３２、搬送駆動ローラ３５、排出駆動ローラ４４、反転ローラ４６、のこれら回転駆動されるローラは、全て共通の駆動モータにより回転駆動されるよう構成されている。この中で第２中間送り部３１を構成する駆動ローラ３２と駆動モータとの間に、本発明に係るロック装置が設けられ、必要時に駆動ローラ３２の回転がロックされることとなる。
【００３１】
＜＜２．ロック装置の第１実施形態＞＞
以下、図２乃至図９を参照しながら本発明の第１実施形態について説明する。図２において符号６０は用紙搬送方向に平行な面を形成するサイドフレーム（プリンタ１の基体を構成する）を示しており、ロック装置５０はこのサイドフレーム６０に設けられる。
【００３２】
図２において符号９０は搬送駆動ローラ３５の軸端に設けられる歯車を示しており、この歯車９０から、歯車９１、９２、９３を介してロック装置５０へとモータの回転トルクが伝達される。尚、図２のギア部５５ｂから更に左側には、図示を省略する歯車輪列が設けられており、ロック装置５０を介して搬送駆動ローラ３５（駆動モータ）の回転トルクが反転装置７（反転ローラ４６）へと更に伝達されるようになっている。
【００３３】
図２において符号３２ａは上述した駆動ローラ３２の回転軸を示しており、ロック装置５０は、この回転軸３２ａの回転を許容するロック解除状態と、回転しないようロックするロック状態と、を切り換える。
このロック装置５０は、図３及び図４に示すようにクラッチ部材５２と、ロック部材５３と、付勢部材としてのコイルばね５４と、トルク伝達部材５５と、を備えて構成されている。
【００３４】
クラッチ部材５２は、回転軸３２ａを挿通させる穴部が形成されるとともに、回転軸３２ａに形成されたキー溝３２ｂ（図５）を介して回転軸３２ａに回転トルクを伝達するよう構成され、即ち回転軸３２ａと一体的に回転するように構成される。またキー溝３２ｂにガイドされながら、回転軸３２ａの軸線方向にスライド変位可能に設けられ、即ち回転軸３２ａの軸線方向に対しては非拘束状態に設けられる。
【００３５】
このクラッチ部材５２には、その外周部に、カム溝５２ｂが周方向に延びるように形成されており、またロック装置５０の組み立て状態においてロック部材５３と対向する位置には噛み合い歯５２ａが形成されている。
【００３６】
ロック部材５３は、回転軸３２ａを挿通させる穴部が形成されるとともに、ロック装置５０の組み立て状態においてクラッチ部材５２に形成された噛み合い歯５２ａと対向する位置に、噛み合い歯５３ａが形成されている。尚このロック部材５３は、サイドフレーム６０に固定状態に設けられる。
【００３７】
コイルばね５４はトルク伝達部材５５とクラッチ部材５２との間に介在し、クラッチ部材５２をロック部材５３に向けて付勢する。
トルク伝達部材５５は、ロック装置５０の組み立て状態において内部にコイルばね５４及びクラッチ部材５２を収容する円筒形状を成すとともに、ギア部５５ｂを一体的に備えている。そしてギア部５５ｂが歯車９３（図２）と噛合することにより、駆動モータからの回転トルクが伝達されて、回転軸３２ａを回転軸として回転する。
【００３８】
尚、上述したようにクラッチ部材５２は回転軸３２ａと一体的に回転するよう設けられるが、トルク伝達部材５５は、クラッチ部材５２とは異なり回転軸３２ａに対しては一定の回転量だけ相対的に回転可能なように設けられる（後に詳述）。
【００３９】
トルク伝達部材５５の内周面にはボス５５ａが２箇所、配置間隔が１８０°の位相を成すように内周において対向する位置に形成されており、ロック装置５０の組み立て状態においてボス５５ａが、クラッチ部材５２に形成されたカム溝５２ｂ（ボス５５ａと同様に２箇所形成されている）に遊挿されるようになっている。
【００４０】
カム溝５２ｂは、図５及び図６〜図８に示すように、回転軸３２ａの軸線方向におけるボス５５ａとの間の相対的な移動を許容する規制解除領域αと、その両側に位置する、前記移動を規制する規制領域βと、を備えている。そしてこれにより、ボス５５ａが規制解除領域αにいるときは、クラッチ部材５２の回転軸３２ａの軸線方向への移動が許容され、ボス５５ａが規制領域βにいるときは、クラッチ部材５２の前記軸線方向への移動が規制されるようになっている。
【００４１】
以上のように構成されたロック装置５０の動作について以下図６〜図８を参照しながら説明する。図６はトルク伝達部材５５に図６（Ｂ）の時計回り方向の回転トルクが伝達されている状態を示しており、この状態では、トルク伝達部材５５のボス５５ａがカム溝５２ｂの規制領域βにあり、ボス５５ａがカム溝５２ｂの一方側端面５２ｄを押してクラッチ部材５２に回転トルクを伝達している。
【００４２】
このとき、図６（Ａ）に示すようにボス５５ａがコイルばね６４の付勢力に抗してクラッチ部材５２をロック部材５３から離間させるので、クラッチ部材５２の噛み合い歯５２ａとロック部材５３の噛み合い歯５３ａとは噛合していない。従ってクラッチ部材５２はその回転が許容されたロック解除状態となっており、トルク伝達部材５５、クラッチ部材５２、回転軸３２ａ、の順に回転トルクが伝達されることにより回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）が回転する。
【００４３】
この状態からトルク伝達部材５５の回転方向が図６（Ｂ）の反時計回り方向に切り替わると、図７（Ｂ）に示すようにボス５５ａがカム溝５２ｂの規制解除領域αに移動し、ボス５５ａがクラッチ部材５２に回転トルクを伝達しない状態となる。
【００４４】
このとき、図７（Ａ）に示すようにボス５５ａがクラッチ部材５２の変位を許容するので、コイルばね５４の付勢力によりクラッチ部材５２がロック部材５３と係合し、即ちクラッチ部材５２の噛み合い歯５２ａとロック部材５３の噛み合い歯５３ａとが噛合する。従ってクラッチ部材５２はその回転が規制されたロック状態となり、回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）に外力を加えて回転させようとしても、噛み合い歯５２ａと噛み合い歯５３ａとの噛合によって回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）は回転しない。
【００４５】
この状態からトルク伝達部材５５が更に図７（Ｂ）の反時計回り方向に回転すると、図８（Ｂ）に示すようにボス５５ａがカム溝５２ｂの規制領域βに移動し、ボス５５ａがカム溝５２ｂの他方側端面５２ｃを押してクラッチ部材５２に回転トルクを伝達するようになる。
【００４６】
このとき、図８（Ａ）に示すようにボス５５ａがコイルばね６４の付勢力に抗してクラッチ部材５２をロック部材５３から離間させるので、クラッチ部材５２の噛み合い歯５２ａとロック部材５３の噛み合い歯５３ａとの噛合が解除される。従ってクラッチ部材５２はその回転が許容されたロック解除状態に移行し、トルク伝達部材５５、クラッチ部材５２、回転軸３２ａ、の順に回転トルクが伝達され、回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）が回転する。
【００４７】
尚、この状態から再度トルク伝達部材５５の回転方向を切り換えると、上記とは逆の順に各構成要素が動き、即ち図８に示すロック解除状態から、図７に示すロック状態、そして図６に示すロック解除状態へと切り換わる。
【００４８】
また、図６或いは図８のロック解除状態からトルク伝達部材５５が回転を停止すると、図５に示すようにカム溝５２ｂの規制領域βにおけるカム面５２ｅがボス５５ａを規制解除領域αの側へ案内するような曲面により形成されているので、クラッチ部材５２ａ（回転軸３２ａ）が僅かに回転した後に図７に示したロック状態に切り換わることになる。
【００４９】
以上のようにロック装置５０は、トルク伝達部材５５の回転方向の切り換え、或いは回転／停止の切り換えに伴って、カム溝５２ｂ内でボス５５ａが変位することにより、クラッチ部材５２（回転軸３２ａ）の回転が許容されるロック解除状態と、クラッチ部材５２（回転軸３２ａ）がロックされるロック状態と、が切り換わるようになっている。
【００５０】
以下、上記のように構成されたロック装置５０の作用効果について説明すると、図２において歯車９０（即ち、搬送駆動ローラ３５）が正転すると（同図時計回り方向）、これにより歯車９１〜９３を介してロック装置５０のトルク伝達部材５５へと回転トルクが伝達されて、回転軸３２ａ（駆動ローラ３２）が正転し、記録用紙Ｐが下流側へ搬送される。尚、このときのロック装置５０の状態は、図６に示すロック解除状態である。
【００５１】
ここで、上述した食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行うべく、搬送駆動ローラ３５が正転駆動から逆転駆動へと切り換えられると、これに伴いロック装置５０のトルク伝達部材５５の回転方向が切り替わる。
【００５２】
このとき、搬送駆動ローラ３５が所定量逆転する間は、図６から図８に示した変化のようにロック装置５０においてボス５５ａがカム溝５２ｂ内を変位するので回転軸３２ａ（即ち駆動ローラ３２）には逆転方向の回転トルクが伝達されず、しかもボス５５ａが規制解除領域αを移動する間は回転軸３２ａ（即ち駆動ローラ３２）がロック状態となる。
【００５３】
このため、搬送駆動ローラ３５の逆転駆動により用紙先端が搬送駆動ローラ３５の上流側に吐き出される際、当該用紙が駆動ローラ３２を逆転させようとしても、上記の通り駆動ローラ３２は確実にロックされているので、用紙が搬送駆動ローラ３５と駆動ローラ３２との間で確実に撓むことになり、スキューが確実に解消される。
【００５４】
即ち駆動ローラ３２は、正転駆動、逆転駆動いずれも可能であるとともに、必要時において確実に逆転防止（ロック）されることになり、つまりロック装置５０は単に回転軸の一方向回転のみ許容するワンウェイクラッチとは異なり、正／逆双方向の回転駆動と、必要時における確実な逆転防止（ロック）と、のいずれをも満たすことが可能となる。
【００５５】
しかも搬送駆動ローラ３５と駆動ローラ３２とで共通の駆動源を利用する構成において、両ローラにより食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行う場合には、下流側の搬送駆動ローラ３５を所定量逆転させる間において上流側の駆動ローラ３２が逆転しないようロックされている必要があるが、その様な要請にも応えることができる。
【００５６】
特にカム溝５２ｂの形状を調整することにより、具体的には規制解除領域αの長さを調整することにより、トルク伝達部材５５の回転方向切り換わり時におけるロック状態の継続期間を調整することができ、駆動ローラ３２をロックする期間を容易に調整することができる。
【００５７】
尚、本実施形態ではクラッチ部材５２とロック部材５３との係合部を噛み合い歯により形成し、図３〜図８に示した噛み合い歯５２ａ、５３ａのそれぞれの歯形は、図９（Ａ）に示すように回転方向Ｙ１に対する圧力角δ１と回転方向Ｙ２に対する圧力角δ２とが、０°＜δ１＜９０°、０°＜δ２＜９０°に設定されている。
【００５８】
これを、例えば図９（Ｂ）の噛み合い歯５２ａ’、５３ａ’のようにδ１＝δ２＝０°に設定することもできる。このように噛み合い歯を形成することで、クラッチ部材５２をより一層確実にロックすることができる。
【００５９】
また図９（Ｃ）の噛み合い歯５２ａ”、５３ａ”のように、一方側の回転方向Ｙ１に対する圧力角δ１を０°＜δ１＜９０°に設定し、他方側の回転方向Ｙ２に対する圧力角δ２をδ２＝０°に設定することもできる。この様に構成すれば、一方側の回転方向Ｙ１に対してはクラッチ部材５２をより一層確実にロックすることができる。また他方側の回転方向Ｙ１に対しては、クラッチ部材５２を外力により無理に回転させようとした際に、所定以上の回転トルクを与えれば歯面が滑り、クラッチ部材５２が回転することができる。
【００６０】
従って例えば、駆動ローラ３２に適用する場合、回転方向Ｙ２を逆転方向に設定すれば、食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行う際に駆動ローラ３２の逆転を確実に防止できるとともに、正転方向（回転方向Ｙ１）には所定以上の回転トルクを与えれば駆動ローラ３２は回転するので、紙ジャム発生時などの際に用紙を引き抜きたい場合に、そのような要請に応えることができる。
【００６１】
＜＜３．ロック装置の第２実施形態＞＞
以下、図１０乃至図１５を参照しながら本発明の第２実施形態に係るロック装置７０について説明する。図１０に示すように本実施形態に係るロック装置７０は、上述した第１実施形態と異なり、駆動ローラ３２の回転軸３２ａからは独立して配置される。また遊星歯車機構を介して、歯車９０からの回転トルクが伝達される。
【００６２】
図中符号７５ｂは、上述した第１実施形態のギア部５５ｂに相当する歯車であり、ロック装置７０は上述したロック装置５０と同様に、歯車７５ｂが第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６からの回転トルクを受けるとこれに応じて回転軸７１ａ（歯車７１）に回転トルクを伝達し、当該回転軸７１ａ（歯車７１）を回転させる。そして第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６からの回転トルクの伝達が切断されると、これに応じて回転軸７１ａ（歯車７１）をロックする。
【００６３】
以下、更に詳説する。図１０及び図１３に示すように、サイドフレーム６１には、太陽歯車９４と、第１遊星歯車９５と、第１遊星レバー７７と、第２遊星歯車９６と、第２遊星レバー７８と、ロック装置７０と、が設けられる。
【００６４】
またロック装置７０は、歯車７１と、クラッチ部材７２と、ロック部材７３と、付勢部材としてのコイルばね７４と、トルク伝達部材７５と、を備えている。尚、クラッチ部材７２、ロック部材７３、コイルばね７４、トルク伝達部材７５、のこれら構成要素は、それぞれ第１実施形態におけるクラッチ部材５２、ロック部材５３、コイルばね５４、トルク伝達部材５５、のこれらに相当するものであり、各々の役割は概ね同じである。
【００６５】
第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６は、太陽歯車９４の回転中心を中心にして揺動可能な第１遊星レバー７７及び第２遊星レバー７８にそれぞれ回転可能に軸支されており、それぞれ太陽歯車９４と噛合している。そして太陽歯車９４の回転に伴って第１遊星レバー７７及び第２遊星レバー７８が揺動動作を行うことにより、太陽歯車９４の周囲を遊星運動するように設けられている。
【００６６】
そしてこの遊星運動によって、それぞれが歯車７５ｂと噛合する噛合位置と、歯車７５ｂから離間する離間位置との間を変位可能となっている。図１０は第１遊星歯車９５が噛合位置にあり、第２遊星歯車９６が離間位置にある様子を示しており、図１２はその逆に第１遊星歯車９５が離間位置にあり、第２遊星歯車９６が噛合位置にある様子を示している。この様に第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６は、いずれか一方が噛合位置にあるときは他方が離間位置に位置するようになっている。
【００６７】
尚、本実施形態においては便宜上、搬送駆動ローラ３５（歯車９０）は、図１０の時計回り方向に回転するとき（用紙Ｐを下流側へ搬送するとき）を正転とし、図１０の反時計回り方向に回転するとき（用紙Ｐを上流側へ搬送するとき）を逆転とする。
【００６８】
そして第１遊星歯車９５は、搬送駆動ローラ３５の正転（太陽歯車９４の第１方向回転）に伴い図１０に示すように噛合位置に変位し、伝達歯車７５ｂを図１０の反時計回り方向に回転駆動する。また搬送駆動ローラ３５の逆転（太陽歯車９４の第２方向回転）に伴い図１２に示すように離間位置に変位する。
【００６９】
その逆に第２遊星歯車９６は、搬送駆動ローラ３５の逆転（太陽歯車９４の第２方向回転）に伴い図１２に示すように噛合位置に変位して伝達歯車７５ｂを図１２の時計回り方向に回転駆動する。また搬送駆動ローラ３５の正転（太陽歯車９４の第１方向回転）に伴い図１０に示すように離間位置に変位する。
【００７０】
尚、図１０〜図１２において歯車７１及び歯車７５ｂは外径が同じであるとともに同じ回転中心を中心に回転する為、重なって描かれているが、実際には図１３に示すように歯車７１は図１０の手前側に位置しており、歯車７５ｂは図１０の奥側に位置している。即ち、図１０において歯車７１は歯車９７とのみ噛合し、後述する第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６とは噛合していない。また歯車７５ｂは第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６とのみ噛合しており、歯車９７とは噛合していない。
【００７１】
次にクラッチ装置７０において、クラッチ部材７２は、図１０及び図１３に示すように歯車７１と一体的に形成された回転軸７１ａを挿通させる穴部７２ｅを備えている。回転軸７１ａは断面視十字型の形状を成しており、これを挿通させる穴部７２ｅは、この断面形状に沿うように回転軸７１ａと同様に十字型の形状をなすように形成されている。従ってクラッチ部材７２が回転すると、歯車７１はクラッチ部材７２から回転トルクを受け、クラッチ部材７２とともに一体的に回転するようになっている。
【００７２】
尚、回転軸７１ａと穴部７２ｅは、回転軸７１ａの軸線方向には互いに非拘束の関係となっており、即ちクラッチ部材７２が回転軸７１ａの軸線方向にスライド変位可能に設けられている。
【００７３】
このクラッチ部材７２には、その外周部にカム溝７２ｂが形成されており、またクラッチ装置７０の組み立て状態においてロック部材７３と対向する位置には噛み合い歯７２ａが形成されている（図１４も参照）。
【００７４】
回転軸７１ａは、先端部に至る途中までは断面十字形状を成しているが、その先端部は円柱形状に形成されており、ロック部材７３には、この回転軸７１ａの先端部を回転自在に受け入れる穴部７３ｂが形成されている。そしてクラッチ装置７０の組み立て状態においてクラッチ部材７２に形成された噛み合い歯７２ａと対向する位置には、噛み合い歯７３ａが形成されている。尚このロック部材７３は、サイドフレーム６１に固定状態に設けられる。
【００７５】
コイルばね７４は歯車７１とクラッチ部材７２との間に介在し、クラッチ部材７２をロック部材７３に向けて付勢する。
トルク伝達部材７５は、クラッチ装置７０の組み立て状態において内部にクラッチ部材７２を収容する円環形状を成すとともに、その外周部に歯車７５ｂを一体的に備えており、歯車７５ｂが第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６と噛合することにより、駆動モータからの回転トルクが伝達されて回転するようになっている。
【００７６】
尚、上述したようにクラッチ部材７２は回転軸７１ａ（歯車７１）と一体的に回転するよう設けられるが、トルク伝達部材７５は、クラッチ部材７２及び回転軸７１ａ（歯車７１）に対しては相対的に一定の回転角度だけ回転可能となっている（後に詳述）。
【００７７】
トルク伝達部材７５の内周面にはボス７５ａが２箇所、配置間隔が１８０°の位相を成すように内周において対向する位置に形成されており、クラッチ装置７０の組み立て状態においてボス７５ａが、図１４において仮想線で示すようにクラッチ部材７２に形成されたカム溝７２ｂ（ボス７５ａと同様に２箇所形成されている）に遊挿されるようになっている。
【００７８】
カム溝７２ｂは、カム溝内におけるボス７５ａの周方向への一定量の移動（トルク伝達部材７５の一定量の回転）を許容するとともに、ボス７５ａの、回転軸７１ａの軸線方向（図１４の上下方向）への移動を許容する形状を成している。より具体的には、回転軸７１ａの軸線方向にほぼ垂直な面を成す側壁７２ｃ、７２ｃと、これに対して傾斜する斜面７２ｄ、７２ｄとを有している。
【００７９】
以上のように構成されたロック装置７０の動作について以下図１５を参照しながら説明する。図１５（Ａ）はトルク伝達部材７５（歯車７５ｂ）に第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６から回転トルクが伝達されていない状態（例えば、第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６のいずれもが歯車７５ｂに噛合していない状態）を示している。
【００８０】
この状態では、コイルばね７４の付勢力によりクラッチ部材７２がロック部材７３と係合し、即ちクラッチ部材７２の噛み合い歯７２ａとロック部材７３の噛み合い歯７３ａとが噛合する（図１４に示す状態）。
【００８１】
従ってクラッチ部材７２はその回転が規制されたロック状態となり、回転軸７１ａ（歯車７１）に外力を加えて回転させようとしても、噛み合い歯７２ａと噛み合い歯７３ａとの噛合によって回転軸７１ａ（歯車７１）は回転しない。尚このとき、トルク伝達部材７５に形成されたボス７５ａは、図１４に示すように斜面７２ｄ、７２ｄの交差場所に位置している。
【００８２】
この状態から、トルク伝達部材７５（歯車７５ｂ）に第１遊星歯車９５或いは第２遊星歯車９６から回転トルクが伝達されると、ボス７５ａがカム溝７２ｂの斜面７２ｄに押し当たり、コイルばね７４の付勢力に抗してカム溝７２ｂ（即ちクラッチ部材７２）を図１４の上方に押し上げる。
【００８３】
これにより、図１５（Ｂ）に示すようにクラッチ部材７２の噛み合い歯７２ａとロック部材７３の噛み合い歯７３ａとの噛合が解除され、即ちクラッチ部材７２はその回転が許容されたロック解除状態となる。そして引き続きトルク伝達部材７５が回転すると、ボス７５ａがカム溝７２ｂの斜面７２ｄとの当接位置から側壁７２ｃとの当接位置に移動しているので、当該側壁７２ｃを押すことで、トルク伝達部材７５、クラッチ部材７２、回転軸７１ａ（歯車７１）、のこれらが一体的に回転する。
【００８４】
以上説明したロック装置７０の動作は、カム溝７２ｂが左右対称に形成されているので、歯車７５ｂ（トルク伝達部材７５）がいずれの方向に回転しても、図１５（Ａ）のロック状態から図１５（Ｂ）のロック解除状態に切り換わり、そしてまた歯車７５ｂが停止すれば、図１５（Ｂ）のロック解除状態から図１５（Ａ）のロック状態に切り換わる。
【００８５】
以上の通りロック装置７０は、トルク伝達部材７５の回転／停止の切り換えに伴って、カム溝７２ｂ内でボス７５ａが変位することにより、クラッチ部材７２（回転軸７１ａ、歯車７１）の回転が許容されるロック解除状態と、前記回転がロックされるロック状態と、を切り換えるようになっている。
【００８６】
続いて第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６を含めた全体的な動作について説明する。図１０において、第１遊星レバー７７はサイドフレーム６１と対向する側にボス７７ａを有しており、このボス７７ａがサイドフレーム６１に形成された円弧状のガイド溝６２に遊挿されることにより、第１遊星レバー７７の揺動可能範囲がガイド溝６２によって規制されるようになっている。
【００８７】
また同様に、第２遊星レバー７８はサイドフレーム６１と対向する側にボス７８ａを有しており、このボス７８ａがサイドフレーム６１に形成された円弧状のガイド溝６３に遊挿されることにより、第２遊星レバー７８の揺動可能範囲がガイド溝６３によって規制されるようになっている。
【００８８】
ここで符号γ１は第１遊星レバー７７の揺動可能角度を示しており、同様に符号γ２は第２遊星レバー７８の揺動可能角度を示している。図から明かなように、本実施形態においてはγ１＜γ２に設定されており、これにより第１遊星歯車９５が噛合位置と離間位置との間を変位する際の変位量が、第２遊星歯車９６が噛合位置と離間位置との間を変位する際の変位量よりも小さくなっている。
【００８９】
図１０は搬送駆動ローラ３５（歯車９０）の正転状態を示しており、この状態では第１遊星歯車９５がロック装置７０の歯車７５ｂを同図矢印方向に回転駆動し、ロック装置７０の歯車７１が、歯車９７すなわち駆動ローラ３２を同図矢印方向に回転駆動している。即ちこの状態では、記録用紙Ｐが上流側から下流側に向かって搬送され得る状態となっている。
【００９０】
この状態から、上述した食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行う為に搬送駆動ローラ３５（歯車９０）が逆転駆動されると、図１１に示すように第１遊星歯車９５が歯車７５ｂから離れ、伝達歯車７５が第１遊星歯車９５と第２遊星歯車９６のいずれとも噛合しない動力切断状態となる。
【００９１】
従ってこれによりロック装置７０は、回転軸７１ａ（歯車７１）が回転しないようロックするロック状態となる。このとき、駆動ローラ３２はロック装置７０によりその回転がロックされているが、下流側の搬送駆動ローラ３５はひきつづき逆転駆動されるので、記録用紙Ｐは駆動ローラ３２と搬送駆動ローラ３５との間で撓み、用紙先端が搬送駆動ローラ３５の上流側に吐き出され、スキューが除去される。
【００９２】
そして図１２に示すように第２遊星歯車９６が噛合位置に変位して、歯車７５ｂに回転トルクを伝達すれば、上述したようにロック装置７０は回転軸７１ｂ（歯車７１）のロックを解除し、そして回転軸７１ｂ（歯車７１）に回転トルクを伝達し、駆動ローラ３２が逆転駆動される。
【００９３】
以上のように第１遊星歯車９５と第２遊星歯車９６のいずれもが歯車７５ｂと噛合しない動力切断時間を利用して、ロック装置７０による回転軸７１ｂ（歯車７１、ひいては駆動ローラ３２）のロックが行われる。
【００９４】
尚、図１３に示す状態から再び搬送駆動ローラ３５（歯車９０）が正転駆動に切り換えられたとき、第１遊星歯車９５が噛合位置に戻るまでの変位量は小さく設定されているので、搬送駆動ローラ３５の逆転駆動から正転駆動への切り換え後、大きなタイムラグが生じることなく、速やかに駆動ローラ３２の正転駆動を開始することができる。
【００９５】
従って駆動ローラ３２が停止した状態のまま搬送駆動ローラ３５が正転する時間を短縮できるので、記録用紙Ｐが駆動ローラ３２と搬送駆動ローラ３５との間で引っ張られ、駆動ローラ３２と記録用紙Ｐとの間でスリップが生じて記録面にダメージを与えることを防止できる。
【００９６】
以上説明したように本実施形態に係るロック装置７０は、トルク伝達部材７５の回転／停止の切り換えに伴って、カム溝７２ｂ内でボス７５ａが変位することにより、クラッチ部材７２（回転軸７１ａ）の回転が許容されるロック解除状態と、クラッチ部材７２（回転軸７１ａ）がロックされるロック状態と、が切り換わるようになっている。
【００９７】
従って先に説明した第１実施形態に係るロック装置５０と同様に、食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御を行うべく、搬送駆動ローラ３５が正転駆動から逆転駆動へと切り換えられると、駆動ローラ３２の回転を確実にロックするので、用紙が搬送駆動ローラ３５と駆動ローラ３２との間で確実に撓むことになり、スキューが確実に解消される。
【００９８】
またカム溝７２ｂの形状を調整することによりロック状態の継続期間を調整できることに加え、第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６のいずれもが平歯車９３と噛合しない期間（第１遊星歯車９５及び第２遊星歯車９６の変位量）を調整することで、ロック状態の継続期間を調整できるので、駆動ローラ３２をロックする期間の調整をより一層柔軟に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【００９９】
【図１】本発明に係るプリンタの用紙搬送経路を示す側断面図。
【図２】本発明の第１実施形態に係るロック装置の正面図。
【図３】本発明の第１実施形態に係るロック装置の分解斜視図。
【図４】本発明の第１実施形態に係るロック装置の分解斜視図。
【図５】回転軸及びクラッチ部材の斜視図。
【図６】（Ａ）は本発明の第１実施形態に係るロック装置を回転軸の軸線方向に平行な面で切断した断面図、（Ｂ）は回転軸の軸線方向に直交する面で切断した断面図。
【図７】（Ａ）は本発明の第１実施形態に係るロック装置を回転軸の軸線方向に平行な面で切断した断面図、（Ｂ）は回転軸の軸線方向に直交する面で切断した断面図。
【図８】（Ａ）は本発明の第１実施形態に係るロック装置を回転軸の軸線方向に平行な面で切断した断面図、（Ｂ）は回転軸の軸線方向に直交する面で切断した断面図。
【図９】（Ａ）〜（Ｃ）は噛み合い歯の各種実施形態を示す図。
【図１０】本発明の第２実施形態に係るロック装置の正面図。
【図１１】本発明の第２実施形態に係るロック装置の正面図。
【図１２】本発明の第２実施形態に係るロック装置の正面図。
【図１３】本発明の第２実施形態に係るロック装置の分解斜視図。
【図１４】本発明の第２実施形態に係るロック装置の要部拡大斜視図（一部断面図）。
【図１５】（Ａ）、（Ｂ）はロック装置を回転軸の軸線方向に平行な面で切断した断面図。
【符号の説明】
【０１００】
１ インクジェットプリンタ、３ 給送装置、４ 記録手段、５ 搬送手段、６ 排出手段、１１ 用紙カセット、１２ 分離部材、１６ ピックアップローラ、１７ 揺動部材、１８ 揺動軸、２０ 従動ローラ、２１ 分離手段、２２ 分離ローラ、２３ 駆動ローラ、２５ 第１中間送り部、２６ 駆動ローラ、２７ アシストローラ、２９ 従動ローラ、３１ 第２中間送り部、３２ 駆動ローラ、３３ アシストローラ、３５ 搬送駆動ローラ、３６ 搬送従動ローラ、３７ 紙案内上、３９ 紙案内前、４０ キャリッジ、４１ キャリッジガイド軸、４２ 記録ヘッド、４４ 排出駆動ローラ、４５ 排出従動ローラ、４６ 反転ローラ４７、４８ アシストローラ、
５０ ロック装置、５２ クラッチ部材、５２ａ 噛み合い歯、５２ｂ カム溝、５３ ロック部材、５３ａ 噛み合い歯、５４ コイルばね、５５ トルク伝達部材、５５ａ ボス、５５ｂ ギア部、６０、６１ サイドフレーム、６２、６３ ガイド溝、７０ ロック装置、７２ クラッチ部材、７２ａ 噛み合い歯、７２ｂ カム溝、７２ｃ 側壁、７２ｄ 斜面、７３ ロック部材、７３ａ 噛み合い歯、７４ コイルばね、７５ トルク伝達部材、７５ａ ボス、７５ｂ 歯車、７７ 第１遊星レバー、７７ａ ボス、７８ 第２遊星レバー、７８ａ ボス、９０〜９３ 歯車、９４ 太陽歯車、９５ 第１遊星歯車、
９６ 第２遊星歯車、９７ 歯車、Ｐ 記録用紙
【特許請求の範囲】
【請求項１】
回転軸と一体的に回転するとともに前記回転軸の軸線方向に変位可能に設けられるクラッチ部材と、
前記クラッチ部材と係合して前記クラッチ部材の回転を規制する、固定状態に設けられるロック部材と、
前記クラッチ部材を前記ロック部材に向けて付勢する付勢部材と、
動力源から回転トルクが伝達されて回転するとともに前記クラッチ部材の外周部に設けられたカム溝内に遊挿されるボスを備え、当該ボスを介して前記クラッチ部材に回転トルクを伝達するトルク伝達部材と、を備え、
前記トルク伝達部材の回転／停止の切り換え、或いは回転方向の切り換えに伴って前記カム溝内で前記ボスが変位することにより、前記ボスが前記付勢部材の付勢力に抗して前記クラッチ部材を前記ロック部材から離間させるロック解除状態と、前記ボスが前記クラッチ部材の変位を許容して前記クラッチ部材を前記ロック部材に係合させるロック状態と、が切り換わることを特徴とする回転軸のロック装置。
【請求項２】
請求項１に記載の回転軸のロック装置において、前記カム溝が、前記クラッチ部材の変位を許容する為の規制解除領域の両側に、前記クラッチ部材を前記ロック部材から離間した位置に拘束する為の規制領域を備え、前記トルク伝達部材の回転方向切り換えに伴い、前記ロック解除状態、前記ロック状態、前記ロック解除状態、の順に切り換わる、
ことを特徴とする回転軸のロック装置。
【請求項３】
請求項１または２に記載の回転軸のロック装置において、前記ロック部材と前記クラッチ部材との係合部が、噛み合い歯により構成されている、
ことを特徴とする回転軸のロック装置。
【請求項４】
請求項３に記載の回転軸のロック装置において、前記噛み合い歯の歯形が、前記クラッチ部材の一方側の回転方向に対する圧力角δ１が０°＜δ１＜９０°であり、他方側の回転方向に対する圧力角δ２が０°であることを特徴とする回転軸のロック装置。
【請求項１】
回転軸と一体的に回転するとともに前記回転軸の軸線方向に変位可能に設けられるクラッチ部材と、
前記クラッチ部材と係合して前記クラッチ部材の回転を規制する、固定状態に設けられるロック部材と、
前記クラッチ部材を前記ロック部材に向けて付勢する付勢部材と、
動力源から回転トルクが伝達されて回転するとともに前記クラッチ部材の外周部に設けられたカム溝内に遊挿されるボスを備え、当該ボスを介して前記クラッチ部材に回転トルクを伝達するトルク伝達部材と、を備え、
前記トルク伝達部材の回転／停止の切り換え、或いは回転方向の切り換えに伴って前記カム溝内で前記ボスが変位することにより、前記ボスが前記付勢部材の付勢力に抗して前記クラッチ部材を前記ロック部材から離間させるロック解除状態と、前記ボスが前記クラッチ部材の変位を許容して前記クラッチ部材を前記ロック部材に係合させるロック状態と、が切り換わることを特徴とする回転軸のロック装置。
【請求項２】
請求項１に記載の回転軸のロック装置において、前記カム溝が、前記クラッチ部材の変位を許容する為の規制解除領域の両側に、前記クラッチ部材を前記ロック部材から離間した位置に拘束する為の規制領域を備え、前記トルク伝達部材の回転方向切り換えに伴い、前記ロック解除状態、前記ロック状態、前記ロック解除状態、の順に切り換わる、
ことを特徴とする回転軸のロック装置。
【請求項３】
請求項１または２に記載の回転軸のロック装置において、前記ロック部材と前記クラッチ部材との係合部が、噛み合い歯により構成されている、
ことを特徴とする回転軸のロック装置。
【請求項４】
請求項３に記載の回転軸のロック装置において、前記噛み合い歯の歯形が、前記クラッチ部材の一方側の回転方向に対する圧力角δ１が０°＜δ１＜９０°であり、他方側の回転方向に対する圧力角δ２が０°であることを特徴とする回転軸のロック装置。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【図１３】
【図１４】
【図１５】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【図１３】
【図１４】
【図１５】
【公開番号】特開２００９−２７０７０２（Ｐ２００９−２７０７０２Ａ）
【公開日】平成２１年１１月１９日（２００９．１１．１９）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００８−１２４３９９（Ｐ２００８−１２４３９９）
【出願日】平成２０年５月１２日（２００８．５．１２）
【出願人】（０００００２３６９）セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２１年１１月１９日（２００９．１１．１９）
【国際特許分類】
【出願日】平成２０年５月１２日（２００８．５．１２）
【出願人】（０００００２３６９）セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Ｆターム（参考）】
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