説明

回転速度検出装置付車輪用軸受装置

【課題】組立・搬送作業性を向上させると共に、組立現場での省スペース化を図って低コスト化を達成した回転速度検出装置付車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】カバー14が、外方部材10のインナー側の端部内周に嵌合される円筒状の嵌合部14aと、この円筒部14aから径方向外方に重合されて端面に密着される鍔部14bと、この鍔部14bから軸方向に延びる円筒部14c、および底部14dを備え、この底部14dに回転速度センサ15が固定される装着孔17が形成されると共に、円筒部14cの外径D4が嵌合部14aの外径D3よりも小径に設定されているので、組立時や搬送時にカバー14の単体を積み重ねた場合、円筒部14cに嵌合部14aを外挿して重ね合わせ、底部14dに鍔部14bを載置して積層することができ、荷崩れを防止しつつ、同じ個数でも設置スペースを低くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置、特に、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置が内蔵された回転速度検出装置付車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承すると共に、アンチロックブレーキシステム(ABS)を制御し、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置が内蔵された回転速度検出装置付車輪用軸受装置として、従来から種々の構造のものが知られている。この従来構造の一例として、図7に示すものがある。
【0003】
この回転速度検出装置付車輪用軸受装置は、外周に懸架装置(図示せず)に取り付けられる車体取付フランジ50bを一体に有し、内周に複列の外側転走面50a、50aが形成され、固定側部材となる外方部材50と、外周に複列の外側転走面50a、50aに対向する内側転走面51a、52aが形成され、回転側部材となる内方部材53と、両転走面50a、51aおよび50a、52a間に保持器54を介して転動自在に収容された複列のボール55、55と、外方部材50と内方部材53との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシール56、57とを備えている。
【0004】
内方部材53は、一端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ58を一体に有し、外周に内側転走面51aと、この内側転走面51aから軸方向に延びる小径段部51bが形成されたハブ輪51と、このハブ輪51の小径段部51bに圧入され、外周に内側転走面52aが形成された内輪52とからなる。内輪52は、小径段部51bの内端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部51cによって軸方向に固定されている。そして、内輪52の外径に固定され、円周方向に亙る特性を交互に、かつ等間隔に変化させた円環状のエンコーダ59と、外方部材50の内端開口部に固定された鋼板製のカバー60と、このカバー60に装着され、エンコーダ59と対向するセンサ(図示せず)が保持されたホルダ61とを備えている。エンコーダ59は、内輪52の外径に圧入された鋼板製の芯金62と、この芯金62に添着され、円周方向にS極とN極とが、交互に、かつ等間隔に着磁された永久磁石63とからなる。
【0005】
カバー60は、外方部材50の内端部に圧入された円筒部64と、この円筒部64の底部をなす底板部65とからなる有底円筒状に形成されている。そして、円筒部64の一部を径方向外方に重合して形成された鍔部66を外方部材50の端面に突き当てて、カバー60の軸方向の位置決めを図っている。
【0006】
カバー60の底板部65には、図8に示すように、挿入孔67と貫通孔68が形成され、挿入孔67には、ホルダ61のうち、その先端部にセンサを保持した挿入部69が挿入されている。また、ホルダ61には取付孔70が形成された取付フランジ71が設けられ、貫通孔68部分で、取付孔70を挿通したボルト72を螺合させるためのナット73が、底板部65の一部を塑性変形させることにより固定されている。これにより、カバー60の変形を防止し、回転速度検出を正確に行なえる構造を低コストで実現することができる。
【特許文献1】特開2005−249180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
然しながら、このような従来の回転速度検出装置付車輪用軸受装置では、カバー60の円筒部64が外方部材50の内端部に圧入される構造のため、図9(a)に示すように、円筒部64のうち、嵌合部となる外径D1と、ホルダ61の挿入部69が挿入される部位の外径D2とが等しく設定されている。これでは、(b)に示すように、組立時や搬送時にカバー60の単体を積み重ねた場合、設置スペースが嵩むだけでなく、荷崩れが発生して作業性が著しく低下すると言った問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を鑑みてなされたもので、組立・搬送作業性を向上させると共に、組立現場での省スペース化を図って低コスト化を達成した回転速度検出装置付車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールと、前記外方部材のインナー側の端部に嵌合されて開口部を塞ぐカバーと、前記内輪の外径に圧入されたパルサーリングと、このパルサーリングに対峙し、前記カバーに支持固定された回転速度センサとを備えた回転速度検出装置付車輪用軸受装置において、前記カバーが、前記外方部材のインナー側の端部内周に嵌合される円筒状の嵌合部と、この円筒部から径方向外方に重合されて前記外方部材の端面に密着される鍔部と、この鍔部から軸方向に延びる円筒部、および底部を備え、この底部に前記回転速度センサが固定される装着孔が形成されると共に、前記円筒部の外径が前記嵌合部の外径よりも小径に設定されている。
【0010】
このように、外方部材のインナー側の端部に嵌合されて開口部を塞ぐカバーと、内輪の外径に圧入されたパルサーリングと、このパルサーリングに対峙し、カバーに支持固定された回転速度センサとを備えた回転速度検出装置付車輪用軸受装置において、カバーが、外方部材のインナー側の端部内周に嵌合される円筒状の嵌合部と、この円筒部から径方向外方に重合されて外方部材の端面に密着される鍔部と、この鍔部から軸方向に延びる円筒部、および底部を備え、この底部に回転速度センサが固定される装着孔が形成されると共に、円筒部の外径が嵌合部の内径よりも小径に設定されているので、組立時や搬送時にカバーの単体を積み重ねた場合、円筒部の外径が嵌合部の外径よりも小径に形成されているので、円筒部に嵌合部を外挿して重ね合わせ、底部に鍔部を載置して積層することができ、荷崩れを防止しつつ、同じ個数でも設置スペースを低くすることができ、組立現場での省スペース化を図り、組立作業性を改善して低コスト化を図ることができる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記カバーの底部に取付ボルトが嵌挿される円孔が形成され、この円孔に対応する前記底部の内側面にナットが固定され、前記回転速度センサが、略長円形をなす取付金具を介してこのナットに螺合する取付ボルトによって締結されていれば、回転速度センサの回動や抜け出しを防止してカバーの底部に確実に固定することができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明のように、前記カバーが防錆能を有する鋼板からプレス加工により形成されていれば、カバーが塩水等に曝されても耐候性が高く劣化する恐れがない。したがって、耐久性と信頼性を向上させることができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明のように、前記カバーの嵌合部の長さが円筒部の長さよりも小さく設定されていれば、円筒部に嵌合部を外挿して重ね合わせ、底部と鍔部とが当接し、嵌合部と鍔部との間に軸方向のすきまが形成された状態で積層することができ、嵌合部の先端が鍔部に当接して傷付いたり表面処理が剥れるのを防止することができる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明のように、前記嵌合部の長さが円筒部の長さよりも大きく設定されていれば、円筒部に嵌合部を外挿して重ね合わせ、鍔部に嵌合部を載置して積層することができ、荷崩れを防止しつつ、設置スペースをさらに低くすることができる。
【0015】
また、請求項6に記載の発明のように、前記嵌合部の先端に面取りが形成されていても良いし、また、請求項7に記載の発明のように、前記嵌合部の先端にエラストマからなる弾性部材が接合されていても良い。これにより、嵌合部の先端が鍔部に当接しても、傷の発生や剥がれを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る回転速度検出装置付車輪用軸受装置は、外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールと、前記外方部材のインナー側の端部に嵌合されて開口部を塞ぐカバーと、前記内輪の外径に圧入されたパルサーリングと、このパルサーリングに対峙し、前記カバーに支持固定された回転速度センサとを備えた回転速度検出装置付車輪用軸受装置において、前記カバーが、前記外方部材のインナー側の端部内周に嵌合される円筒状の嵌合部と、この円筒部から径方向外方に重合されて前記外方部材の端面に密着される鍔部と、この鍔部から軸方向に延びる円筒部、および底部を備え、この底部に前記回転速度センサが固定される装着孔が形成されると共に、前記円筒部の外径が前記嵌合部の外径よりも小径に設定されているので、鍔部の面積が増大し、カバーを外方部材に圧入する際、この鍔部に圧入治具を当接させて容易に押圧することができ、組立作業性を向上させると共に、鍔部を外方部材の端面に確実に密着させることができ、位置決め精度を向上させることができる。したがって、回転速度センサとエンコーダとの正確なエアギャップ調整ができる。
【0017】
さらに、組立時や搬送時にカバーの単体を積み重ねた場合、円筒部の外径が嵌合部の外径よりもに小径に形成されているので、円筒部に嵌合部を外挿して重ね合わせ、底部に鍔部を載置して積層することができ、荷崩れを防止しつつ、同じ個数でも設置スペースを低くすることができ、組立現場での省スペース化を図り、組立作業性を改善して低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールと、前記外方部材のインナー側の端部に嵌合されて開口部を塞ぐカバーと、前記内輪の外径に圧入されたパルサーリングと、このパルサーリングに対峙し、前記カバーに支持固定された回転速度センサとを備えた回転速度検出装置付車輪用軸受装置において、前記カバーが防錆能を有する鋼板からプレス加工により形成され、前記外方部材のインナー側の端部内周に嵌合される円筒状の嵌合部と、この円筒部から径方向外方に重合されて前記外方部材の端面に密着される鍔部と、この鍔部から軸方向に延びる円筒部、および底部を備え、この底部に前記回転速度センサが固定される装着孔が形成されると共に、前記円筒部の外径が前記嵌合部の外径よりも小径に設定されている。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る回転速度検出装置付車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の要部拡大図、図3は、図1のカバー単体を示す断面図、図4は、図3のカバーを積層させた状態を示す説明図、図5は、図3のカバーの変形例のカバーで、それを積層させた状態を示す説明図、図6(a)は、図3の要部拡大図、(b)は(a)の変形例を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0020】
この回転速度検出装置付車輪用軸受装置は第3世代構造と呼称され、内方部材1と外方部材10と、この両部材1、10間に収容された複列の転動体(ボール)6、6とを備えている。内方部材1は、ハブ輪2と、このハブ輪2に外嵌固定された別体の内輪3とからなる。
【0021】
ハブ輪2は、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ4を一体に有し、この車輪取付フランジ4の円周等配位置に車輪を固定するためのハブボルト5が植設されている。また、ハブ輪2の外周には一方(アウター側)の内側転走面2aと、この内側転走面2aから軸方向に延びる小径段部2bが形成されている。そして、外周に他方(インナー側)の内側転走面3aが形成された内輪3がこの小径段部2bに所定のシメシロを介して圧入され、さらに、小径段部2bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部2cにより、ハブ輪2に対して内輪3が軸方向へ抜けるのを防止している。本実施形態では、このようなセルフリテイン構造を採用することにより、従来のようにナット等で強固に緊締して予圧量を管理する必要がないため、車両への組込性を簡便にすることができると共に、かつ長期間その予圧量を維持することができる。
【0022】
外方部材10は外周に車体(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ10bを一体に有し、内周に前記内方部材1の内側転走面2a、3aに対向する複列の外側転走面10a、10aが一体に形成されている。そして、それぞれの転走面10a、2aと10a、3a間に複列の転動体6、6が収容され、保持器7、7によりこれら複列の転動体6、6が転動自在に保持されている。
【0023】
また、外方部材10と内方部材1との間に形成される環状空間の開口部にはシール8、9が装着され、軸受内部に封入した潤滑グリースの漏洩を防止すると共に、外部からの雨水やダスト等の侵入を防止している。なお、ここでは転動体6、6をボールとした複列アンギュラ玉軸受を例示したが、これに限らず転動体6に円すいころを使用した複列円すいころ軸受であっても良い。
【0024】
ハブ輪2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、アウター側の内側転走面2aをはじめ、アウター側のシール8のシールランド部となる基部4aから小径段部2bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを54〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、加締部2cは、鍛造後の素材表面硬さ24HRC以下の未焼入れ部としている。一方、内輪3および転動体6は、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで54〜64HRCの範囲で硬化処理されている。
【0025】
また、外方部材10はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、複列の外側転走面10a、10aをはじめ、シール8、9が嵌合する端部内径面に亙って高周波焼入れによって表面硬さを54〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0026】
内輪3の大径側端部には、パルサーリング11が圧入されている。このパルサーリング11は、芯金12と、この芯金12に接合されたエンコーダ13とからなる。芯金12は、強磁性体の鋼鈑、例えば、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)や、防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)をプレス加工によって形成され、インナー側の端部が一旦径方向外方に折曲され、重合されて径方向内方に延びる重合部12aを備え、断面が略L字に成形されている。
【0027】
また、エンコーダ13は、ゴム等からなるエラストマにフェライト等からなる強磁性体粉を混入させ、周方向交互に磁極N、Sが周方向に所定の等間隔ピッチとなるように着磁された磁気エンコーダを構成している。エンコーダ13は、芯金12の重合部12aのインナー側の側面に加硫接着によって一体に接合されている。なお、ここでは、エンコーダ13をエラストマ製としたものを例示したが、これに限らず、周方向に関する特性が交互にかつ等間隔に変化するものであれば良く、例えば、フェライト等からなる強磁性体粉を金属バインダーで固めた燒結金属製であっても良いし、また、周方向に等間隔にポケットが開口された円板状のものであっても良い。
【0028】
外方部材10のインナー側の端部内周にはカバー14が圧入固定されている。このカバー14は、耐食性を有する鋼鈑、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)をプレス加工によってカップ状に成形され、図2に拡大して示すように、外方部材10に固定される円筒状の嵌合部14aと、この嵌合部14aから径方向外方に重合して形成され、外方部材10のインナー側の端部10cに密着する鍔部14bと、この鍔部14bから軸方向に延びる円筒部14c、および底部14dを備えている。このように、カバー14が防錆能を有する鋼板で形成したので、カバー14が塩水等に曝されても耐候性が高く劣化する恐れがない。したがって、耐久性と信頼性を向上させることができる。
【0029】
ここで、底部14dには、回転速度センサ15が固定される装着孔17と、取付ボルト16が嵌挿される円孔18がそれぞれ打ち抜き加工によって形成されている。また、円孔18に対応する底部14dの内側面にはナット19が固定され、回転速度センサ15は、略長円形をなす取付金具20を介してこのナット19に螺合する取付ボルト16によって締結されている。そして、エンコーダ13に所定の軸方向すきま(エアギャップ)を介して対峙している。これにより、回転速度センサ15の回動や抜け出しを防止してカバー14の底部14dに確実に固定することができる。なお、回転速度センサ15は、Oリング等からなるシールリング21を介して装着孔17に嵌挿され、外部から泥水等がカバー14内に侵入するのを防止している。また、泥水等がカバー14内に侵入しても容易に外部に排出できるよう、底部14dの径方向外方の路面から最も近い部位にはドレーン孔22が開口されている(図1参照)。
【0030】
本実施形態では、図3に示すように、カバー14の円筒部14cの外径D4は、嵌合部14aの外径D3よりも小径に形成されている(D4<D3)。これにより、鍔部14bの面積が増大し、カバー14を外方部材10に圧入する際、この鍔部14bに圧入治具(図示せず)を当接させて容易に押圧することができ、組立作業性を向上させると共に、鍔部14bを外方部材10の端面に確実に密着させることができ、位置決め精度を向上させることができる。したがって、回転速度センサ15とエンコーダ13との正確なエアギャップ調整ができる。
【0031】
さらに、図4に示すように、組立時や搬送時にカバー14の単体を積み重ねた場合、円筒部14cの外径D4が嵌合部14aの外径D3よりも小径に形成されている(D4<D3)ので、円筒部14cに嵌合部14aを外挿して重ね合わせ、底部14dと鍔部14bとが当接し、嵌合部14aと鍔部14bとの間に軸方向のすきまが形成された状態で積層することができ、荷崩れを防止しつつ、同じ個数でも設置スペースを低くすることができ、組立現場での省スペース化を図り、組立作業性を改善して低コスト化を図ることができる。また、
【0032】
図5は前述したカバー14の変形例である。このカバー23は、外方部材10に固定される円筒状の嵌合部23aと、この嵌合部23aから外方部材10のインナー側の端部10cに密着する鍔部23bと、この鍔部23bから軸方向に延びる円筒部23c、および底部23dを備えている。前述したカバー14と基本的には嵌合部23aと円筒部23cとの寸法関係が異なるだけで、その他は同じ構成である。すなわち、前述したカバー14の嵌合部14aの長さL1が円筒部14cの長さL2よりも小さい(L1<L2)のに対し、ここでは、嵌合部23aの長さL3が円筒部23cの長さL4よりも大きく設定されている。これにより、円筒部23cに嵌合部23aを外挿して重ね合わせ、鍔部23bに嵌合部23aを載置して積層することができ、前述した実施形態と同様、荷崩れを防止しつつ、設置スペースをさらに低くすることができる。
【0033】
図5に示すカバー23を積層させた場合、嵌合部23aの先端が鍔部23bに当接して傷付いたり表面処理が剥れたりする恐れがあるが、図6(a)に示すように、嵌合部23aの先端に面取り24を形成することにより、それを防止することができる。なお、(b)に示すように、嵌合部23aの先端に樹脂またはゴム等のエラストマからなる弾性部材25を加硫接着で接合させることにより、嵌合部23aの先端が鍔部23に当接しても、傷の発生や剥がれを防止することができる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る回転速度検出装置付車輪用軸受装置は、回転速度センサを保持するカバーが外方部材の端部に圧入固定される回転速度検出装置付車輪用軸受装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る回転速度検出装置付車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図1のカバー単体を示す断面図である。
【図4】図3のカバーを積層させた状態を示す説明図である。
【図5】図3のカバーの変形例のカバーで、それを積層させた状態を示す説明図である。
【図6】(a)は、図5のカバーの要部拡大図である。 (b)は、(a)のカバーの変形例を示す要部拡大図である。
【図7】従来の回転速度検出装置付車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図8】図7の要部拡大図である。
【図9】(a)は、図7のカバー単体を示す縦断面図である。 (b)は、(a)のカバーを積層させた状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1・・・・・・・・・内方部材
2・・・・・・・・・ハブ輪
2a、3a・・・・・内側転走面
2b・・・・・・・・小径段部
2c・・・・・・・・加締部
3・・・・・・・・・内輪
4・・・・・・・・・車輪取付フランジ
5・・・・・・・・・ハブボルト
6・・・・・・・・・転動体
7・・・・・・・・・保持器
8・・・・・・・・・アウター側のシール
9・・・・・・・・・インナー側のシール
10・・・・・・・・外方部材
10a・・・・・・・外側転走面
10b・・・・・・・車体取付フランジ
10c・・・・・・・インナー側の端面
11・・・・・・・・パルサーリング
12・・・・・・・・芯金
12a・・・・・・・重合部
13・・・・・・・・エンコーダ
14、23・・・・・カバー
14a、23a・・・嵌合部
14b、23b・・・鍔部
14c、23c・・・円筒部
14d、23d・・・底部
15・・・・・・・・回転速度センサ
16・・・・・・・・取付ボルト
17、18・・・・・装着孔
19・・・・・・・・ナット
20・・・・・・・・取付金具
21・・・・・・・・シールリング
22・・・・・・・・ドレーン孔
24・・・・・・・・面取り
25・・・・・・・・弾性部材
50・・・・・・・・外方部材
50a・・・・・・・外側転走面
50b・・・・・・・車体取付フランジ
51・・・・・・・・ハブ輪
51a、52a・・・内側転走面
51b・・・・・・・小径段部
51c・・・・・・・加締部
52・・・・・・・・内輪
53・・・・・・・・内方部材
54・・・・・・・・保持器
55・・・・・・・・ボール
56、57・・・・・シール
58・・・・・・・・車輪取付フランジ
59・・・・・・・・エンコーダ
60・・・・・・・・カバー
61・・・・・・・・ホルダ
62・・・・・・・・芯金
63・・・・・・・・永久磁石
64・・・・・・・・円筒部
65・・・・・・・・底板部
66・・・・・・・・鍔部
67・・・・・・・・挿入孔
68・・・・・・・・貫通孔
69・・・・・・・・挿入部
70・・・・・・・・取付孔
71・・・・・・・・取付フランジ
72・・・・・・・・ボルト
73・・・・・・・・ナット
D1、D2、D4・・円筒部の外径
D3・・・・・・・・嵌合部の外径
L1、L3・・・・・嵌合部の長さ
L2、L4・・・・・円筒部の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールと、
前記外方部材のインナー側の端部に嵌合されて開口部を塞ぐカバーと、
前記内輪の外径に圧入されたパルサーリングと、
このパルサーリングに対峙し、前記カバーに支持固定された回転速度センサとを備えた回転速度検出装置付車輪用軸受装置において、
前記カバーが、前記外方部材のインナー側の端部内周に嵌合される円筒状の嵌合部と、この円筒部から径方向外方に重合されて前記外方部材の端面に密着される鍔部と、この鍔部から軸方向に延びる円筒部、および底部を備え、この底部に前記回転速度センサが固定される装着孔が形成されると共に、前記円筒部の外径が前記嵌合部の外径よりも小径に設定されていることを特徴とする回転速度検出装置付車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記カバーの底部に取付ボルトが嵌挿される円孔が形成され、この円孔に対応する前記底部の内側面にナットが固定され、前記回転速度センサが、略長円形をなす取付金具を介してこのナットに螺合する取付ボルトによって締結されている請求項1に記載の回転速度検出装置付車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記カバーが防錆能を有する鋼板からプレス加工により形成されている請求項1または2に記載の回転速度検出装置付車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記カバーの嵌合部の長さが円筒部の長さよりも短く設定されている請求項1乃至3いずれかに記載の回転速度検出装置付車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記カバーの嵌合部の長さが円筒部の長さよりも長く設定されている請求項1乃至3いずれかに記載の回転速度検出装置付車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記嵌合部の先端に面取りが形成されている請求項5に記載の回転速度検出装置付車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記嵌合部の先端にエラストマからなる弾性部材が接合されている請求項5に記載の回転速度検出装置付車輪用軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−68670(P2009−68670A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240709(P2007−240709)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】