説明

回転電機

【課題】回転電機において、ステータとケースの間の締結に影響を与えずに、ステータを接地することである。
【解決手段】回転電機は、ロータとステータとケース42を含んで構成され、ステータコア23のコア取付部24の外周壁と、ステータが固定され接地部材として働く金属製のケース42の内周壁との間を電気的に接続する導電性ピン50を備える。具体的には、ステータコア23の外周側に突き出して設けられるコア取付部24の外周壁は、ステータコア23の軸方向に沿って延びるピン挿入切欠を有し、導電性ピン50は、ピン挿入切欠とケース内周壁とで構成される挿入穴部32に圧入される。ステータをケース42に取り付けるためのボルト44は、挿入穴部32とは独立のボルト穴28に挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に係り、特に、ステータコアとモータケースとを電気的に接続する回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機には、ステータのコイルに駆動信号が供給されるため、駆動信号に含まれるノイズがステータに伝播される。ステータがモータケースと電気的に接続されていて、モータケースが接地に接続されていれば、このノイズは接地に逃がされる。ステータが接地に接続されていないと、ステータに伝達されたノイズがロータおよびその出力軸を介して、回転電機の負荷側の装置等に伝播する。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両用電動機において、積層コアを構成する各層の上下面は絶縁皮膜が形成され、外周面と、貫通穴を開ける場合のその穴の内周面が露出していることが述べられ、従来は、外周面にレーザ溶接して、各層を電気的に導通させていることが述べられている。その場合でも、積層コアは接地していないので、ここでは、貫通穴に通すボルトと、スリーブが用いられることが開示される。スリーブは、周面に軸方向に沿ってスリットが設けられ、後端内周面にボルトと組み合わされるメネジが設けられ、ボルトのオネジをスリーブのメネジと組み合わせて締め付けると、スリーブが変形し、貫通穴の内周面に接触し、ボルトと積層コアが電気的に導通することが述べられている。
【0004】
特許文献2には、ステータコアの固定構造として、ステータコアを構成する積層鋼板の外周に向かって突き出す耳部に設けられる穴に、導電性のカラーを圧入し、これにボルトを通して、ボルトとカラーと積層鋼板の電気的導通を取ることが述べられている。他の実施の形態として、耳部とは別の突出部を設け、そこに導電性ピンを挿入し、そのピンとボルトを導線と丸端子を用いて接続する方法、ステータコアの外周面の溶接部にはんだ付けで導線を取り付け、この導線が丸端子を介してボルトに接続される方法が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−177917号公報
【特許文献2】特開2009−142079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
平板面が絶縁被覆されるコア材を所定の形状に打ち抜き、これを積層してステータコアとして用いるときは、従来技術に述べられているように、コア材の打ち抜き端面等が露出する。この露出面を接地に接続すればステータを接地に接続することができる。従来技術では、積層されたコア材をモータケースに取り付けるために打ち抜かれた取付穴に挿入されるボルトを介してコア材を接地することが提案されている。
【0007】
ところで、締結用ボルトは、積層される個々のコア材同士を相互に固定する機能と、積層されたコア材をモータケースに締め付け固定する機能を有するが、コア材を含めた各部材の製造ばらつき、締結力のばらつき等から、この機械的締結状態を管理するのは容易ではない。仮に、締結用ボルトが緩むと、ステータが脱落し、高電圧が漏電して、回転電機の動作を停止することになる。このように、締結用ボルトは、回転電機にとって、最も重要な締結部品であるので、これに接地接続機能も持たせるのは品質管理上から適切でない。
【0008】
本発明の目的は、ステータとケースの間の締結に影響を与えずに、ステータを接地することを可能とする回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る回転電機は、出力軸を有するロータと、ロータの外周側に配置され、平板面が絶縁被覆されるコア材を所定の形状に成形して複数枚積層して構成されるステータコアを含むステータと、ステータコアの外周側に設けられるコア取付部を介してステータが固定されるケースと、コア取付部の外周壁とケース内周壁との間を電気的に接続する導電性ピンと、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る回転電機において、コア取付部は、ステータコアの外周側に突き出して設けられ、コア取付部の外周壁は、ステータコアの軸方向に沿って延びるピン挿入切欠を有し、導電性ピンは、ピン挿入切欠とケース内周壁とで構成される挿入穴部に挿入されることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る回転電機において、回転電機は車両搭載用であり、ケースは、車両の車体と電気的に接続されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成によれば、回転電機は、ステータコアのコア取付部の外周壁と、ステータが固定されるケースの内周壁との間を電気的に接続する導電性ピンを備える。導電性ピンはステータコアをケースに取り付ける締結用ボルトとは独立であるので、ステータの締結に影響を与えずに、ステータを接地することが可能となる。
【0013】
また、回転電機において、ステータコアの外周側に突き出して設けられるコア取付部の外周壁は、ステータコアの軸方向に沿って延びるピン挿入切欠を有し、導電性ピンは、ピン挿入切欠とケース内周壁とで構成される挿入穴部に挿入される。このように、コア取付部に切欠を設けるだけで、ステータを接地することができるので、ステータの締結に影響を与えない。
【0014】
また、回転電機において、車両に搭載されるときにケースは、車両の車体と電気的に接続される。車両の車体の電位は、車両全体の電位の基準とされる。すなわち、車体の電位は、車両全体における接地電位と考えることができる。したがって、導電ピンを用いることで、ステータを車両全体の接地電位と同じにできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施の形態の回転電機の正面図と断面図である。
【図2】本発明に係る実施の形態におけるコア材の形状と絶縁被覆および露出面を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、導電ピンの近傍を拡大した図である。
【図4】本発明に係る実施の形態における作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、回転電機として、車両に搭載され高電圧大電力で動作する回転電機を説明するが、車両搭載以外に用いられるものでもよい。以下では、回転電機について電磁鋼板を積層したステータを用いるものとして説明するが、ロータの構成は特に限定がない。例えば、電磁鋼板を積層したロータを用いるものとしてもよい。また、コア材として電磁鋼板を説明するが、コア材に適したこれ以外の材質の薄板を用いてもよい。また、以下で説明する枚数、個数等は例示であって、回転電機の仕様に応じて適宜変更が可能である。
【0017】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0018】
図1は、車両搭載用の回転電機10の構成を説明する図である。図1の右側の図は断面図で、左側の図が正面図である。回転電機10は、出力軸12を有するロータ14と、ロータ14の外周側に配置されるステータ20と、ステータ20を固定する金属製のケース42を含んで構成される。ケース42は、適当なアース線を用いて接地され、接地部材として働く。図1には、XYZ軸の方向が示されているが、出力軸12の軸方向がZ軸方向で、正面図はXY平面で見た様子を示す図である。
【0019】
ステータ20は、回転電機10の固定子で、複数のコア材22を積層したステータコア23と、ステータコア23に巻回されるコイルを含んで構成される。図1の断面図では、ステータコア23の軸方向の両端部に張り出したコイル部分がコイルエンド部40として示されている。なお、正面図ではコイルエンド部40の図示を省略したので、ステータコア23の最も外側のコア材22が示されている。
【0020】
コア材22は、平面部が絶縁被覆された電磁鋼板を所定の形状に成形したものである。成形はプレス加工等の打ち抜きで行うことができる。ステータコア23は、コア材22を複数個積層したものである。このようにステータコア23を、1つの磁性体で構成せずに、複数の薄板であるコア材22を積層して構成するのは、ステータコア23の鉄損を抑制するためである。すなわち、ステータコア23に磁束が流れるときに渦電流損失が生じるが、ステータコア23を適当な厚さに分割することで、全体としての渦電流損失を低減できる。
【0021】
その場合に、各コア材22は渦電流の流れる平面が電気的に分離されることが必要であるので、各コア材22の平面部が絶縁被覆される。各コア材22の断面は絶縁被覆されなくてもよい。したがって、コア材22がプレス加工によって成形されるとき、外形を形作る端部の断面は、絶縁被覆がない露出面のままで構わない。
【0022】
図1の正面図に示されるように、コア材22は、円環状の部分と、円環状部分から突き出したコア取付部24を含む形状を有している。コア取付部24は、図1の例では3つ設けられるが、勿論3つ以外の数であっても構わない。
【0023】
1枚のコア材22について、コア取付部24の部分の形状とケース42との位置関係を図2に示す。また、コア取付部24の近傍について、図1のA−A線に沿った断面図を図3に示す。
【0024】
図2に示されるように、1枚のコア材22のコア取付部24には、ステータコア23をケース42に取り付けるためのボルト44を挿入するボルト穴28が設けられる。また、コア取付部24の外周壁には、ピン挿入切欠26が設けられる。ピン挿入切欠26は、ステータコア23がケース42に取り付けられるときに、ピン挿入切欠26とケース42の内周壁との間で、導電性ピン50を挿入できる挿入穴部32が形成されるような形状とされる。
【0025】
また、1枚のコア材22の表裏の平面部のそれぞれには、絶縁被覆25が設けられる。絶縁被覆25は、塗装、コーティング等によって、電気的絶縁性のある皮膜を形成することで得られる。図2では、コア材22の表側のみが示されているが、裏側にも同様に絶縁被覆25が設けられる。絶縁被覆25は、コア材22の原材料である電磁鋼板帯材において既に設けられている。したがって、電磁鋼板帯材をコア材22の形状に打ち抜くと、その打ち抜き形状の端面には絶縁被覆25がないことになる。図2では、ボルト穴28の穴内壁と、ピン挿入切欠26の端面壁30に絶縁被覆25がないことが示されている。
【0026】
図3は、図1において、コア材22−コア取付部24−挿入穴部32−ケース42についての断面の様子を示す図である。挿入穴部32に挿入して設けられる導電性ピン50は、ステータコア23とケース42との間の電気的接続を行うための部材である。挿入穴部32において、ステータコア23の側は、各コア材22のピン挿入切欠26の絶縁被覆25がない端面壁で、ケース42の側は、内周壁である。ケース42は金属製であるが、絶縁処理等の表面処理が行われているときは、必要に応じて、金属面が露出するように適当な加工が行われる。
【0027】
上記では、コア材22にピン挿入切欠26を設け、ケース42の内周壁がそのままの形状を利用するものとして説明した。これに代えて、ピン挿入切欠をケース42の内周壁側に設け、コア材22のコア取付部24の外周壁の形状をそのまま利用するものとしてもよい。
【0028】
導電性ピン50としては、外周部が少なくとも金属製で構成される丸ピンを用いることができる。挿入穴部32への挿入は、圧入によって行われる。これによって、ステータコア23とケース42の間の電気的接続が導電性ピン50によって行われる。導電性ピン50は、コア取付部24におけるボルト穴28に挿入されるボルト44とは独立に設けられる。これによって、ステータ20のケース42への締結に影響を及ぼすことなく、ステータコア23とケース42との電気的接続を行うことができる。
【0029】
上記構成の作用について、回転電機10を車両60に搭載した場合を例として、図4を用いて説明する。図4は、車両60における主要要素の配置図を示す図である。車両60の車体62は、アース線68によってケース42と接続される。また、回転電機10の駆動を行うためのパワーコントロールユニット(Power Control Unit:PCU)64は、高圧ケーブル66を介して、回転電機10のステータ20のコイルと接続される。
【0030】
ケース42の内部には、図1で説明した回転電機10の他に、減速機構70,72が設けられる。減速機構70,72は、回転電機10の出力軸12からの出力を適当に減速して、所望の出力トルクと回転数として、ドライブシャフト74に伝達する動力伝達機構である。ドライブシャフト74には、車両の駆動輪76,78が接続される。
【0031】
車両60に搭載される回転電機10の場合、昇圧コンバータやインバータを含むパワーコントロールユニット64から高周波の電磁ノイズ80が発生する。その電磁ノイズ80は、高圧ケーブル66を介して、ステータ20のコイルからステータコア23に伝播する。導電性ピン50は、ステータコア23とケース42とを電気的に接続するので、この電磁ノイズ80は、ステータコア23からロータ14側に向かわずに、ケース42に伝播される。ケース42はアース線68によって車体62に接続されているので、この電磁ノイズ80は車体62に伝播される。車体62は、車両60における基準電位を有し、車両60における接地として働くので、電磁ノイズ80は接地に吸収されて、他の構成要素に影響を与えない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る回転電機は、車両に搭載され駆動用モータ、発電機として利用される。
【符号の説明】
【0033】
10 回転電機、12 出力軸、14 ロータ、20 ステータ、22 コア材、23 ステータコア、24 コア取付部、25 絶縁被覆、26 ピン挿入切欠、28 ボルト穴、30 端面壁、32 挿入穴部、40 コイルエンド部、42 ケース、44 ボルト、50 導電性ピン、60 車両、62 車体、64 パワーコントロールユニット、66 高圧ケーブル、68 アース線、70,72 減速機構、74 ドライブシャフト、76,78 駆動輪、80 電磁ノイズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸を有するロータと、
ロータの外周側に配置され、平板面が絶縁被覆されるコア材を所定の形状に成形して複数枚積層して構成されるステータコアを含むステータと、
ステータコアの外周側に設けられるコア取付部を介してステータが固定されるケースと、
コア取付部の外周壁とケース内周壁との間を電気的に接続する導電性ピンと、
を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
コア取付部は、ステータコアの外周側に突き出して設けられ、
コア取付部の外周壁は、ステータコアの軸方向に沿って延びるピン挿入切欠を有し、
導電性ピンは、ピン挿入切欠とケース内周壁とで構成される挿入穴部に挿入されることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機において、
回転電機は車両搭載用であり、
ケースは、車両の車体と電気的に接続されることを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−249404(P2012−249404A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118672(P2011−118672)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】