説明

固体充填フロー型高温高圧液相反応装置およびオリゴペプチドの合成方法

【課題】従来高温高圧下での液相反応の結果物を得るマイクロリアクターが提案されているが、実際に生じている若しくは扱われる高温高圧溶液反応は、固体を伴う不均一系が一般的であり、従来のマイクロリアクターでは、不均一系の反応を実現できなかった。
【解決手段】リアクター部のキャピラリー中に粉砕して粒度を揃えた固体を充填し、両端をフィルタで蓋をし、リアクター部の下流に複数の背圧管を選択できる流路切替器を配置する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管型マイクロリアクターに関し、特に管内に粒径20〜1000μm程度の固体を充填した固体充填フロー型高温高圧液相反応装置に関する。また、この装置を用いたオリゴペプチドの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温高圧下における液相での化学反応の解明は、基礎分野や応用分野において重視されている。例えば、基礎分野では深海底熱水中噴出孔での生命探査や、鉱物の成因などに関わる地球化学、温泉学、溶液化学といった分野で、まさに高温高圧下での溶液の反応が生じている。また、応用分野としては、高温で行う多くの有機合成、無機材料の水熱合成などの工業化学や、ダイオキシン・廃プラスチックなどの熱水分解による環境技術分野においても、高温高圧下での溶液反応が応用されている。
【0003】
しかし、高温高圧下での液相での化学反応は、直接監視するのが容易でなく、また反応時間も短時間であるため、反応解析のための装置の作製は非常に困難である。例えば、反応させる環境を実現するには、耐熱耐圧性のオートクレープが考えられるが、オートクレープ自体の加熱時間が必要であり、短時間での反応を追うことはできない。また、オートクレーブは容量が大きく扱いが容易でない。さらに必要な試料量が多く、多種類の反応を解析するには不向きである。
【0004】
このような課題に対して、従来はマイクロリアクターと呼ばれる装置が開発されていた(特許文献1参照)。マイクロリアクターは、ステンレススチール、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテル−エーテルケトン樹脂:登録商標)といった、高温高圧に耐える細管(キャピラリー)を反応炉(リアクター)とし、これに流体供給器、高圧定流量ポンプ、反応試料注入器、圧力調節器、温度制御装置を組み合わせた装置である。
【0005】
そして、このリアクターを所定の温度に制御しておき、その細管の中を所定の圧力と流速で溶液を通過させることで、高温高圧で短時間反応した反応物を得る。その反応物を分析することで、高温高圧下での液相での化学反応を解析する。
【0006】
また、特許文献2では、リアクターに透明な細管を用い、リアクターの中心箇所となる部分に光ファイバーで光線を通し、まさに反応中の物性を調べるための装置も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−199764号
【特許文献2】特開2003−098091号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に開示されているのは、高温高圧下での液相反応の結果物を得ることができる点で優れたものであるといえる。しかし、上記の分野で実際に生じている若しくは扱われる高温高圧溶液反応は、固体を伴う不均一系が一般的である。例えば、古典的な化学合成プラントや環境浄化反応装置を高効率、省エネルギー、省資源型の方法に改良するには、固体触媒の開発が重要になる。また、深海底熱水中噴出孔での生命探査においても、地球化学においても、鉱物(固相)と熱水(液相)が共存する系が一般的であるからである。
【0009】
従来開発されている装置は、このような不均一系における高温高圧下での反応を調べることはできなかった。本発明はかかる課題に鑑み想到されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に対して、本発明は、反応炉となるキャピラリー中に固体を封入し、キャピラリーを加熱して、高圧の液体を流すことで、不均一系での短時間での反応を実施並びに解析する装置およびそれを用いたオリゴペプチドの合成方法を提供するものである。
【0011】
より具体的には、
試料溶液を貯蔵する溶液保存容器と、
前記溶液保存容器から試料溶液を送り出す高圧ポンプと、
前記高圧ポンプからの試料溶液の流量を制御する試料注入器と、
固体が封入され前記試料注入器からの試料を反応させるリアクター部と、
前記リアクター部からの流路に連結され複数の流出口を切り替える流路切替器と、
前記流路を冷却する冷却槽と、
前記冷却槽中にある前記流路中に配置されたフィルタと、
前記流路切替器の前記流出口毎に連結された背圧調節器と
前記各背圧調節器に連結された試料採取部とを有する固体充填フロー型高温高圧液相反応装置を提供するものである。
【0012】
また、本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置では、前記固体は、粒径が20乃至1000μmに粒径がそろったことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置を用いた熱水中でのオリゴペプチドの合成方法は、粒径20〜1000μmのカルサイト又はドロマイトが充填された空間内を200〜350℃に加熱する工程と、
前記空間内を10〜30MPaに加圧する工程と、
前記加熱および加圧された空間内にプライマーオリゴペプチドを含む溶液を通過させる工程を有するオリゴペプチドの合成方法である。
【0014】
なお、本明細書および特許請求の範囲を含め、プライマーオリゴペプチドとは、本発明のオリゴペプチドの合成方法の原料となるオリゴペプチドを意味する。
【0015】
また、この合成方法では、前記空間を前記プライマーオリゴペプチドとアミノ酸分子を混合した溶液を通過させる時間が20秒乃至40秒であることを特徴とするものである。特に本発明の合成方法では、前記プライマーオリゴペプチドが、テトラアラニンである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の装置は、管型反応部中に固体を封入して、高温にしておき、高圧の液体を所定の流速で流すので、高温高圧下で、しかも短時間の反応の生成物を得ることができる。また、加熱炉を抜けたキャピラリーが冷却槽に入った部分にフィルタを配置するため、フィルタには温度の下がった反応液しか接しない。従って、耐熱性のない素材のフィルタを利用することができる。
【0017】
また、本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置を用いると、プライマーオリゴペプチドとアミノ酸を混合した水溶液からプライマーオリゴペプチドより鎖長の長いオリゴペプチドを高い収率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置の構成を示す図である。
【図2】フィルタの固定部分の一例を示す図である。
【図3】本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置を用いた実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置1の構成を示す。固体充填フロー型高温高圧液相反応装置1は、試料溶液を保存する溶液保存容器2と、溶液を高圧で送出する高圧ポンプ3と、リアクター部に試料を注入する試料注入器4と、固体を充填したキャピラリーが加熱器中に配置されたリアクター部5と、リアクター部で反応を終えた溶液を流す配管6bと、配管6bを冷却する冷却槽15と、冷却槽15から出た配管から流路を切り替える流路切替器12と、各流路に連結する背圧調節器13と、各背圧調節器に連結する試料採取部14からなる。リアクター部5は加熱器7と管型反応部6aからなり、管型反応部6aは試料注入器4および配管6bとステンレス鋼製チューブで結合される。管型反応部6aは内径の小さな金属製チューブからなり前後にフィルタ11aおよびフィルタ11bを設置しており、流路の下流にあるフィルタ11bは、加熱器から外部に突出させ配置しそこを冷却槽で冷却する構造である。
【0020】
溶液保存容器2は、溶液反応系の反応媒体、例えば水を保存しておくための容器である。また、試料は試料注入器4から導入できるが、溶液保存容器2に試料溶液を入れリアクター部5に導入する方法も可能である。管型反応部6aでの反応は微小空間で生じるため、ほこりなどの微小な不純物が入らないように、蓋がされていることが望ましい。なお、本発明の高温高圧液相反応装置1では、反応媒体やキャリアとなる溶液は、本システムで設定できる温度と圧力の制限内で液相状態を有すれば利用することができる。具体的には、水の他、メタノールやエタノールなどのアルコール類,長鎖長の脂肪族炭化水素・芳香族炭化水素,ケトン類.酸,油脂等が好適に利用できる。
【0021】
高圧定流量ポンプ3は、反応媒体を所定の流速を得るために加圧するためのポンプである。例えば高速液体クロマトフラフィー(HPLC)用のポンプが好適に利用できる。反応試料注入器4は、高圧定流量ポンプ3とリアクター部5の間に配置し、高温高圧下の高速溶液反応を追跡する反応試薬を供給する装置である。
【0022】
リアクター部5は加熱器7と加熱器の温度を制御する温度制御装置9と加熱器の中に配置した固体を充填した管型反応部6aを有する。加熱器7は例えばバンドヒーターのような電熱加熱器からなり、その電熱加熱器を温度調節器9によって制御することで、管型反応部の加熱を容易に実現することができるが、他の方法を用いて温度制御を行ってもよい。なお、本発明の高温高圧液相反応装置では、加熱器の能力および下流側の冷却槽の冷却能力に応じた温度まで昇温させることができる。少なくとも、100℃乃至400℃程度の温度範囲で温度制御できることが望ましい。
【0023】
管型反応部6aは、PTFE、PEEK(登録商標)、ステンレス鋼、ハステロイ、耐熱・耐圧硝子といった高温高圧に耐え液相による腐食に耐える素材であればよい。管型反応部6aの所定加熱温度の部分を通過する試料溶液の滞在時間はポンプ流速(単位時間あたりの体積流量)に比例し、管型反応部の内径の2乗に比例する。従って、ポンプ流速あるいは管型反応部の内径を調節することにより、管型反応部を通過する試料の滞在時間を適宜調節することで、目的とする反応がどの程度進行しているかを経時的に調べることができる。
【0024】
管型反応部6aの内径は大きすぎると、管内の温度分布が大きくなること、あるいは滞在時間の分布が試料の拡散によって大きくなることによって、反応物の反応条件を特定できない。一方、管型反応部6aの内径が小さすぎると、管型反応部6a内での圧力損失がポンプの耐圧、各配管部等の耐圧性を越えて大きくなるため送液することが困難になる。従って、0.7mm以上4.6mmであるのがよい。
【0025】
管型反応部6a内に充填される固体は、さまざまな鉱物や、触媒の候補物質が好適に用いられる。これらの存在下での溶液反応を調べるためだからである。固体は粒子状に成形されて用いられる。管型反応部6a中に充填する必要があるからである。粒径は20乃至1000μm程度が好適に用いられる。発明者による検討では、これらの固体粒子は篩で粒径を揃えると目詰まりが生じにくい。
【0026】
目詰まりは、大きな粒子同士が作る隙間に小さな粒子がはまり込み、流路をふさぐことで生じる。従って、篩で粒子の粒径を所定の値付近に揃えることによって、大きな粒子同士が作る隙間にはより小さな粒子が入り込みにくくなり、結果として流路が確保されるからだと考えられる。
【0027】
固体が充填された管型反応部6aは少なくとも一部が加熱器の中に配置されていればよい。管型反応部6aの両端は固体粒子を管型反応部中に保持しておくために、管型反応部6aの入口と出口の両端にフィルタ11a、11bが配置される。
【0028】
フィルタ11bは、溶液による化学反応に対して安定で、耐熱性があれば好適であるが、固体粒子を安定に保持することができ、目詰まりを生じないものが望ましい。耐熱性のステンレス鋼製焼結フィルタ(孔径0.5μmあるいは2μm)、セルロース製ろ紙(孔径10から30μm程度)、金属製メッシュ(孔径20μm程度)などが利用できる。充填する固体粒子の粒径が大きい場合にはより孔径の大きなフィルタを用いることもできる。また、固体粒子の粒径が小さい場合にはより孔径の小さなフィルタを用いることが好適である。
【0029】
フィルタ11bの配置位置は加熱器7の外になっているのが好ましい。フィルタ11bは材質によって耐熱性がない場合もあり、加熱器の中で高温にさらされると、破壊される場合もあるからである。
【0030】
特に溶液の流れ方向で下流側にあたるフィルタ11bは、リアクター部5で高温にされた溶液が流れてくるので加熱器7の外に配置されている場合には高温に曝される。そこで、加熱器7を出た直後に溶液を冷却する冷却槽15を配置し、冷却槽15中でフィルタ11bが配置されるようにする。なお、上流側のフィルタ11aは、試料注入器4から加熱器7の間であって、加熱器7からの熱の影響を受けない程度(数mm)の距離だけ加熱器7から離れていれば、いずれに配置されていてもよい。
【0031】
図2に管型反応部6a下流側のフィルタ11bの固定方法の一例を示す。管型反応部6aの両端は、管の長軸方向に垂直に切断されている。フィルタ11bは、雌型キャップ22と雄型キャップ23での間に固定する。このとき雌型キャップの底にフェラル25を狭持して液漏れのないように密閉する。なお、ここでは、フィルタの固定方法の一例を示したが、フィルタは、固体粒子の流出を防止できれば、流路に対する固定の方法に制限はない。なお、図2では、方向40側から方向41側に向かって溶液が流れる。またフィルタ11bの方向40側には固体が充填されているが、表示を省略した。
【0032】
冷却槽を通過した配管は、バルブを介して背圧調節器に連結される。冷却槽は加熱反応器を通過した流体を冷却することによって蒸気圧を下げ、背圧調節器で圧力調節することを可能にするために不可欠である。背圧調節器は背圧管あるいは簡易型圧力調節器などが好適に利用できる。簡易型圧力調節器として例えばアップチャーチ社製(P−880)などが用いられる。
【0033】
キャピラリー中に固体粒子が充填されていない場合は、リアクター部にはほとんど圧力損失は生じない。しかし、本発明の固体充填型リアクターの場合は、キャピラリー中に固体粒子が充填されているので、リアクター部で圧力損失が生じる。粒径20〜1000μmの粒子を充填すると流速1ミリリットル/分の場合に、およそ5から15MPaの圧力損失が生じた。
【0034】
すなわち、管型反応部6a中に固体粒子が充填されている場合は、固体粒子によって生じる圧力損失以外に内部を流れる流体の蒸気圧以上に管型反応部6a内部にかかる圧力を、圧力調節器によってかけることで、内部の流体を液体に保つことができる。従って、流速の調整をするためには圧力調節が必要である。
【0035】
圧力調節にはリアクター部の下流に圧力調節器を設置することが必要である。このため背圧の異なる背圧管13を複数用意し、切替器12で背圧管13を選択し、選択された背圧管13によって圧力調整する。
【0036】
より具体的には、本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置1では、内径1.5mmで長さ150mm程度の管型リアクター部を用いる際には0.05〜2.0ミリリットル/分程度に流速を制御するが、その際に所定の長さと内径をもつ背圧管13を選択することよって圧力を調節する。結果、試料が管型リアクター部を通過する加熱滞在時間は流速を調節することで決定されるが、その際には背圧管13を選択することによって背圧を流体の蒸気圧以上にする。なお、本明細書では、背圧管13は背圧調節器13と同義で用いる。
【0037】
全ての背圧調節器13の後段には試料採取部14が連結される。試料採取部14は、反応後の溶液を回収する容器であって、硝子製の試験管や樹脂製容器などが使用できる。
【0038】
次に本発明の固体充填型フロー型高温高圧液相反応装置の運転方法を説明する。リアクター部中の管型反応部を構成するキャピリラリー中に、粒度を揃えた固体を充填しておく。また、溶液保存容器には、キャリアとなる溶液を注入しておく。管型反応部で反応させる試料も試料注入器部分に準備しておく。
【0039】
次に、加熱器でリアクター部を所定の温度まで加熱する。リアクター部が所定の温度になったら、高圧ポンプでキャリアを流し、管型反応部を所定の圧力にする。ここで、管型反応部を通過する溶液の流速で、反応時間を調節する。従って、管型反応部を通過する溶液の流速は、高圧ポンプの圧力と背圧調節器によって調整する。なお、リアクター部の加熱と加圧は同時に行ってもよい。
【0040】
管型反応部を通過する溶液の流速が決まったら、試料注入器から試料を注入し、試料採取部で反応生成物を採取する。以上のような手順によって本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置は運転される。
【実施例】
【0041】
以下のように本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置を構成し、鉱物によるオリゴペプチドの熱水伸張反応を行った。溶液保存容器は、1リットル入りのポリタンクを用いた。キャリアとして使ったのはイオン交換器を通過させた超純水を0.2μmのフィルタでろ過して使った。高圧ポンプは日本分光社製のPU−2080あるいは島津製作所社製のLC−10ADで、定格は最大圧力それぞれ50MPaおよび39MPa、流量は0.001mL(リットル)/分〜10mL/分である。
【0042】
試料注入器は、レオダイン製(7725i)あるいはフロム社製(VI−11)を用いた。なお、溶液保存容器から高圧ポンプまでの配管には、内径1〜2mmのテフロン(登録商標)製チューブを使用した。高圧ポンプから試料注入器までは、内径0.1ないし0.25mmのステンレス鋼製チューブを用いた。また、溶液保存容器に入れるテフロン(登録商標)製チューブの溶液を取り込む先端にはステンレス製焼結フィルタを取り付け、また試料注入器とリアクター部の間の配管の途中にステンレス製焼結フィルタ(孔径2μm)を取り付け、溶液保存容器内の溶液および試料から微粒子等の異物が混入することを防止した。これは管型管型反応部6aの充填物に異物がつまり高圧となり溶液を遅れなくなることとを防ぐためである。
【0043】
管型反応部6aとしてステンレス鋼製で内径0.7mm〜4.6mmで長さ150mmのGLサイエンス社製のものを用いた。
【0044】
フィルタは図2に示した方法で、上流側および下流側のフィルタを固定した。フィルタとしては、アドバンテック(ろ紙5A)あるいは孔径26μmのステンレス製金網を直径3mmの円形に切断してはめ込んで用いた。
【0045】
管型反応部6aの上流側のフィルタ11aも同様に配置した。上流側フィルタにはステンレス製焼結フィルタ(孔径0.5μm)をテフロン(登録商標)リングで固定した市販のフィルタを用いた。両端をフィルタおよびキャップで液漏れのないように蓋をした管型反応部6aには、充填すべき固体として広島原産のカルサイトおよびセブ島産のドロマイトを充填したものを用意した。
【0046】
キャピラリーに充填する固体は粉砕機で粉砕した後、篩でふるっておよそ20μm〜1000μmの範囲で、例えば40〜75μm、75〜150μm、150〜250μmなどに粒径分布を狭める用にして粒径になるようにした。この粉体をマイクロピペットにプラスチック製のチップを付けて管型反応部6aに充填可能な最大量を充填し、フィルタで封止した。この管型反応部6aに通液した後に管型反応部6aの両端に空間がないことを確認した。
【0047】
ここで、広島原産のカルサイトとは、成分分析値がCaCO3(カルサイト成分):98.1%,アルカリ金属およびマグネシウム(2%以下),Fe:0.02%以下,Cl:0.005%以下,重金属40ppm、以下(日東粉化工業(株))であり、50mg/1mLに分散して1時間後のpH9.7であった。粒度分布は、粒径150〜75μm58%、粒径75〜40μm:27%、そして粒径40μm以下:15%であった。
【0048】
また、セブ島産のドロマイトとは、成分分析値がCaMg(CO32(ドロマイト成分):99.67%,Fe23:0.03%,SiO2:0.11%,Al23:0.15%:P25:0.05%(JFEミネラル(株))であり、50mg/1mLに分散して1時間後のpH9.8である。また、MgとCaの比は理論的なドロマイトは1:1であるが、セブ島産のドロマイトは1.4:1.0であった。
【0049】
カルサイトあるいはドロマイトを充填するために、セルロースあるいはステンレス鋼製金網をフィルタとして用いた場合には、管型反応部6aのフィルタ11bが詰まり圧力損失が大きくなり液ができなくなることはなかった。粒子をフィルタの孔径よりも大きくし、かつ粒度分布を狭くすることで概ねフィルタは詰まることはなかった。しかし、ゼオライトやモンモリロナイトのように水で膨潤するタイプの鉱物や、パイライトのような鋭角な角をもち削れたときに細かな破片を生じやすい鉱物では目詰まりしやすかった。
【0050】
冷却槽は、容量1Lの水槽に氷水を入れたものを使用した。リアクター部内では300℃程度になるが、冷水槽を出た部分では溶液温度はほぼ0℃に保持できた。
【0051】
背圧調節器は、内径0.05mmあるいは0.025mmで長さ5〜200cm程度の異なる背圧管を10種類ほど用意した。従って、流路切替器として三方高圧バルブを使い、2種類の異なる背圧管を結合し、必要な長さと内径の背圧管を交互に切り替えることによって用いた。冷水槽から流路切替器までは、ステンレス鋼製チューブで配管を行ったが、流路切替器からはテフロン(登録商標)チューブあるいはピークチューブを用いた。また、流路切替器から背圧調節器まではテフロン(登録商標)チューブあるいはピークチューブを用いて配管した。また、背圧調節器の出口の下には、プラスチック製のバイアルを配置した。
【0052】
以上のように具体的に構成した固体充填フロー型高温高圧液相反応装置で以下のような熱水伸長反応を行った。
【0053】
プライマーオリゴペプチドとして、テトラアラニン(図3(a)中では(Ala)4)を含む混合水溶液を試料注入器を用いて導入した。次にリアクター部を200〜350℃の範囲の所定温度に設定した。管型反応部6aを流通する流体を液体の状態に保つためには、管型反応部6a内の圧力をその流体の蒸気圧よりも高く設定しなければならない。本反応装置では、管内の圧力は加熱あるいは測定の途中で上昇することがあったが10MPa〜30MPa以下とした。そして、試料注入器から管型リアクターに混合水溶液を導入して反応時間3〜200秒で反応させた。
【0054】
試料注入量を0.1mLとしポンプの流速を0.05mL〜1mL/分の範囲で変え、試料採取部から所定時間後にリアクター部を通過した試料を採取した。試料を採取する時間は、あらかじめ0.01〜0.1Mの塩酸を試料注入器から注入して試料採取部でのpH変化を測定することで試料注入器から採取部までを通過する時間とその容量を明らかにして決定した。
【0055】
この反応では、反応生成物中に、元のオリゴペプチドであるテトラアラニンに対し1鎖長分だけ伸長反応したペンタアラニン((Ala)5)が含まれる。そこで、反応環境中に固体が存在する場合に、この熱水伸張反応がどの程度影響を受けるかを、ペンタアラニンの収率を調べることで比較してみた。
【0056】
実施例としては、キャピラリーに充填する固体粒子を広島産カルサイト、セブ島産ドロマイトを使い、比較例としては、固体粒子なしの3つについて反応を調べた。
【0057】
図3(a)には予想される反応式を示す。図3(b)は反応生成物中のペンタアラニンの収率と反応時間の関係を示したグラフである。縦軸はペンタアラニンの収率(%)であり、横軸は反応時間(秒)を表す。グラフ中、白丸(○)は鉱物なしの場合であり、広島産のカルサイトは黒丸(●)であり、セブ島産のドロマイトは黒四角である。
【0058】
鉱物がない場合は、最大収率が約30秒の反応時間で得ることができ、約10%であった。これに対して、広島産のカルサイト(●)やセブ島産のドロマイト(黒四角)は約14%の収率があった。すなわち、鉱物の存在によってオリゴペプチドの熱水伸張反応が促進されることが示された。また、鉱物が存在する場合は、鉱物なしだけの場合と比較して、反応時間が20秒乃至40秒の間で、収率が高くなった。
【0059】
以上のように、液相での化学反応においては、液相および固相が共存する場合に、反応の効率が変わる場合がある。従来のマイクロリアクターは、液相での化学反応を実現するものであり、液相・固相の不均一系を実現することはできない。しかし、本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置は、液相・固相が共存する不均一系を実現することができ、固体が介在する場合の高温高圧下で短時間の化学反応を分析することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の固体充填フロー型高温高圧液相反応装置は、深海底熱水中噴出孔での生命探査や、鉱物の成因などに関わる地球化学、温泉学、溶液化学といった分野における熱水反応や、高温で行う多くの有機合成、無機材料の水熱合成などの工業化学や、ダイオキシン・廃プラスチックなどの熱水分解による環境技術分野における高温高圧下での溶液反応の解析に利用することができる。特に、生命探査での分野では、地球上に初めて生命が誕生する際の化学反応の解析に有用であり、また、応用分野では、触媒による化学反応の状態変化のリサーチに有用であると考えられる。
【符号の説明】
【0061】
1 固体充填フロー型高温高圧液相反応装置
2 溶液保存容器
3 高圧ポンプ
4 試料注入器
5 リアクター部
6a 管型反応部
6b 配管
7 加熱器
8 温度検出器
9 温度制御装置
10 電線
11a、11b フィルタ
12 流路切替器
13 背圧調節器
14 試料採取部
22 雌型キャップ
23 雄型キャップ
25 フェラル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液を貯蔵する溶液保存容器と、
前記溶液保存容器から試料溶液を送り出す高圧ポンプと、
前記高圧ポンプからの試料溶液の流量を制御する試料注入器と、
固体が封入され前記試料注入器からの試料を反応させるリアクター部と、
前記リアクター部からの流路に連結され複数の流出口を切り替える流路切替器と、
前記流路を冷却する冷却槽と、
前記冷却槽中にある前記流路中に配置されたフィルタと、
前記流路切替器の前記流出口毎に連結された背圧調節器と
前記各背圧調節器に連結された試料採取部とを有する固体充填フロー型高温高圧液相反応装置。
【請求項2】
前記固体は、粒径が20乃至1000μmに粒径がそろった請求項1に記載された固体充填フロー型高温高圧液相反応装置。
【請求項3】
粒径20〜1000μmのカルサイト又はドロマイトが充填された空間内を200〜350℃に加熱する工程と、
前記空間内を10〜30MPaに加圧する工程と、
前記加熱および加圧された空間内にプライマーオリゴペプチドを含む溶液を通過させる工程を有するオリゴペプチドの合成方法。
【請求項4】
前記空間を前記プライマーオリゴペプチドとアミノ酸分子を混合した溶液を通過させる時間が20秒乃至40秒である請求項3のオリゴペプチドの合成方法。
【請求項5】
前記プライマーオリゴペプチドは、テトラアラニンである請求項3又は4の何れか1の請求項に記載されたオリゴペプチドの合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−116731(P2011−116731A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21576(P2010−21576)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】