説明

固体酸化物形燃料電池用電解質シートおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池用単セル

【課題】強度平均値とワイブル係数が高くて安定した機械的強度特性を有する電解質シートを提供するものである。
【解決手段】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、少なくとも片面に複数の陥没及び/又は凸起を有し、前記陥没及び凸起の基底面形状が、円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体であり、前記陥没及び前記凸起の基底面の平均円相当径が250μm超10000μm以下、前記陥没の平均深さ及び前記凸起の平均高さが5μm以上200μm以下であり、かつ、平均厚さが100μm以上400μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用電解質シートおよびその製造方法ならびに当該電解質シートの製造に好適に使用されるエンボス型、当該電解質シートを用いた固体酸化物形燃料電池用単セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、耐熱性や耐摩耗性等の機械的性質に加えて電気的・磁気的特性にも優れたものであることから、多くの分野で活用されている。中でもジルコニアを主体とするセラミックスは優れた酸素イオン伝導性、耐熱性、耐食性、靭性、化学的安定性等を有していることから、酸素センサーや湿度センサーのセンサー用固体電解質膜や固体酸化物形燃料電池用の電解質シートとして活用されている。
【0003】
このような固体酸化物形燃料電池用の電解質シートについて、その表面を粗化する技術が提案されている。例えば、電解質シート表面自体をブラスト加工やエッチング処理によって粗面化する方法(特許文献1)が提案されている。また、電解質シート表面に適度の凹凸を形成する試みがなされており、電解質シートの前駆体であるグリーンシート表面に金属メッシュを押し当てて粗化し、焼成する方法(特許文献2);粗化用シートで挟んだあと押圧して粗化面をグリーンシートに転写して粗化し、焼成する方法(特許文献3);粗面化した高分子フィルム上に電解質材料を含むスラリーをキャステングして得られるグリーンシートを粗化後、焼成する方法(特許文献4);等が提案されている。さらには、電解質シートを粗化する目的でなされたものではないが、電解質シートの表面積を大きくして電極有効面積を大きくする目的で、電解質グリーンシート両面にプレス型等でディンプル成形した後焼成する方法(特許文献5)も開示されている。
【0004】
また、電解質シートの製造方法に係る技術ではないが、例えば、微小粒を接着させたテープやシート、又は、機械加工などにより表面に陥没を形成させた樹脂シートを用いて、プレス成形などにより、成形体表面を陥没させるか、又は突起を形成させた後、焼成することを特徴とする焼成用セッターの製造方法(特許文献6);表面を機械加工などにより凹凸形状に加工した金型パンチを用いてプレス成形した後、焼成したことを特徴とする焼成用セッターの製造方法(特許文献7)も提案されている。ところで、電解質シートはその表面にキズが無いことが好ましいが、セラミックシートのキズ発生を抑制する技術として、例えば、焼成時に使用するスペーサー等に球状のセラミック粒子を使用することが提案されている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−227362号公報
【特許文献2】特開平9−55215号公報
【特許文献3】特開2007−313650号公報
【特許文献4】特開2002−42831号公報
【特許文献5】特開平7−73887号公報
【特許文献6】特開平9−278517号公報
【特許文献7】特開平11−79852号公報
【特許文献8】国際公開第99/55639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の固体酸化物形燃料電池用の電解質シートで、表面をブラスト加工やエッチング処理する方法で得られたものは、形成されたシート表面の粗化程度にばらつきがあるとともに、粗化表面の凹部の先端を基点としてクラックが入りやすい。また、他の製法で得られたものも、形成された突起や陥没の立体形状は半球状などのような角のない滑らかな形状に形成されていなかった。
また、従来の電解質シートの製造方法では、グリーンシート表面の粗化程度にばらつきがあり、凹凸が形成されていない部分も多く残存することとなる。このようにグリーンシート表面に凹凸を有さない部分が存在すると、該グリーンシートを焼成する際に、この部分と焼成台との接触面積が大きくなる。
ここで、一般的に、グリーンシートは焼成台に載せて焼成するが、グリーンシートが焼成時に収縮するのに対して、焼成台はほぼ収縮しないため、焼成中にグリーンシートが焼成台と擦れることとなる。そのため、グリーンシートと焼成台との接触面積が大きい場合、焼成時の擦れによって、得られる電解質シートにキズが発生することがある。
よって、上述のようにグリーンシート表面に凹凸を有さない部分が多く存在する場合、該グリーンシートを焼成する際に、多くのキズが発生することとなる。このようにしてキズが発生すると、該キズの最深部を起点としてクラックが入り易くなる。
【0007】
本発明は上記のような粗化電解質シート表面に発生するクラックに着目してなされたものであって、強度平均値とワイブル係数が高くて安定した機械的強度特性を有する電解質シートを提供するものである。また、本発明は、このような高性能の電解質シートを効率よく製造することのできる技術を確立すること、および、当該製造方法に好適に使用できるエンボス型を提供することも目的とする。さらに、上記のような高性能の電解質シートを用いて長時間発電性能を維持できる固体酸化物形燃料電池用単セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、電解質シートに形成される陥没または凸起の形状を所定の形状および大きさとすることにより、クラックの発生を抑制することができ、より高強度の電解質シートが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の第一発明は、少なくとも片面に複数の陥没及び/又は凸起を有し、前記陥没及び凸起の基底面形状が、円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体であり、前記陥没及び前記凸起の基底面の平均円相当径が250μm超10000μm以下、前記陥没の平均深さ及び前記凸起の平均高さが5μm以上200μm以下であり、かつ、平均厚さが100μm以上400μm以下であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質シートである。電解質シートに形成される陥没又は凸起の形状および大きさを上記範囲内とすることにより、機械的強度に優れた電解質シートとなる。
【0010】
片面における前記陥没の平均深さ及び前記凸起の平均高さは、シート厚さを100としたとき、3以上50以下であることが好ましい。陥没の平均深さ及び凸起の平均高さが上記範囲内であれば、電解質シートの機械的強度がより向上する。また、前記電解質シートに凸起が形成される場合、凸起が形成される面の面積に対する凸起の基底面の総面積の比率は30%以上99%以下が好ましい。凸起の基底面の面積比率が上記範囲内であれば、焼成時に発生する電解質シート表面のキズをより抑制することができる。
【0011】
前記電解質シートは、ジルコニウム、セリウム、ランタンおよびガリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有することが好ましい。前記陥没の深さのばらつきの値(深さの標準偏差/平均深さ)及び前記凸起の平均高さのばらつきの値(高さの標準偏差/平均高さ)は、いずれも0.25以下であることが好ましい。前記陥没及び凸起の基底面の円相当径のばらつきの値(円相当径の標準偏差/平均円相当径)は、いずれも0.25以下であることが好ましい。前記陥没の平均深さと平均円相当径の比(平均深さ/平均円相当径)及び前記凸起の平均高さと平均円相当径の比(平均高さ/平均円相当径)は、いずれも0.01以上0.5以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の第二発明は、第一発明に係る固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法であって、電解質グリーンシートの片面または両面に、基底面形状が円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体の突起又は陥没を有し、前記突起及び陥没の円相当径が380μm超13000μm以下、かつ前記突起の高さ及び前記陥没の深さが10μm以上2000μm以下であるエンボス型を押圧する工程を含むことを特徴とする製造方法である。上記エンボス型を押圧して陥没又は凸起を形成すれば、電解質シート表面に所望とする形状及び大きさを有する陥没又は凸起を確実に形成することができる。また、エンボス型に形成される突起又は陥没を規則正しく配列しておくことで、電解質グリーンシート表面により均一に凸起形状又は陥没形状を付与することができ、該電解質グリーンシートを焼成する際に、キズの発生を抑制できる。
【0013】
前記エンボス型を押圧する際の温度における、前記電解質グリーンシートの最大応力は1.96MPa以上19.6MPa以下、かつ、最大応力負荷時の伸び率が5%以上500%未満であることが好ましい。前記電解質グリーンシートを形成するためのスラリーは、電解質シート材料として、ジルコニア、セリアおよびランタンガレート酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含むものが好ましい。前記電解質グリーンシートを形成するためのスラリーは、有機質バインダーを前記電解質シート材料100質量部に対して12質量部以上30質量部以下含有することが好ましい。
【0014】
本発明の第三発明は、電解質グリーンシートに、陥没及び/又は凸起を形成するためのエンボス型であって、少なくとも片面に、基底面形状が円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体の突起又は陥没を有し、前記突起及び陥没の円相当径が380μm超13000μm以下、かつ、前記突起の高さ及び前記陥没の深さが10μm以上2000μm以下であることを特徴とするエンボス型である。
【0015】
本発明の第四発明は、第一発明に係る固体酸化物形燃料電池用電解質シートを有することを特徴とする固体酸化物形燃料電池用単セルである。本発明の第五発明は、第四発明に係る固体酸化物形燃料電池用単セルと、インターコネクターとを有する固体酸化物形燃料電池スタックであって、前記インターコネクターは、その表面に平行に形成された複数の突条を有しており、該突条が、前記固体酸化物形燃料電池用電解質シートに形成された凸起と対向する、または、固体酸化物形燃料電池用電解質シートに形成された陥没と対向しないように形成されていることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用スタックである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強度平均値とワイブル係数が高くて安定した機械的強度特性を有する固体酸化物形燃料電池用電解質シートが得られる。また、当該電解質シートを用いることによって、長時間発電性能を維持できる固体酸化物形燃料電池用単セルとすることができ、燃料電池システムに組み込んでも割れを生じにくい固体酸化物形燃料電池用単セルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】エンボス型を電解質グリーンシートに押圧した状態を示す模式図であり、(a)は(b)におけるJ−J線断面図、(b)は平面図(エンボス型は図示せず)である。
【図2】ベースラインの求め方を説明する模式図であり、(a)は電解質グリーンシートの平面図、(b)は(a)の一点鎖線Kを走査した際の陥没形状プロファイルである。
【図3】突起又は陥没のピッチを説明するための模式図である。
【図4】ロール状エンボス型を用いてエンボス加工を施すための装置の模式図である。
【図5】固体酸化物形燃料電池用単セルと、インターコネクターとの積層状態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り以下の態様に限定されるものではない。本発明の第一発明に係る固体酸化物形燃料電池用電解質シートについて、充足すべき要件を詳細に説明する。
【0019】
1−1.電解質シートの物性
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シート(以下、単に「電解質シート」と称する場合がある。)は、少なくとも片面に複数の陥没及び/又は凸起を有し、前記陥没及び凸起の基底面形状が、円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体であり、前記陥没及び前記凸起の基底面の平均円相当径が250μm超10000μm以下、前記陥没の平均深さ及び前記凸起の平均高さが5μm以上200μm以下であり、かつ、平均厚さが100μm以上400μm以下であることを特徴とする。電解質シートに形成される陥没又は凸起の形状および大きさを上記範囲内とすることにより、機械的強度に優れた電解質シートとなる。
【0020】
前記陥没及び凸起の基底面形状は、円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形である。ここで、円形、楕円形には、いわゆる略円形、略楕円形も含む。また、「頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形」とは、凸多角形又は凹多角形を基本形状とし、その多角形が有する頂点部分が、曲率半径0.1μm以上の曲線で表される形状に形成されたものをいう。なお、前記角丸多角形を採用する場合、その多角形が有する全ての頂点部分が、曲率半径0.1μm以上の曲線で表される形状に形成されていることが好ましい。陥没及び凸起の基底面形状を、角のない形状とすることにより、電解質シートのクラックの発生をより低減することができる。前記基底面形状は、円形または楕円形が好ましく、円形がより好ましい。なお、基底面形状とは、陥没又は凸起の最外周の輪郭(陥没又は凸起とベースラインとの境界)の形状であり、レーザー顕微鏡を用いて確認することができる。また、ベースラインは、例えば、後述するようにエンボス型を用いて陥没を形成した場合には、エンボス型の押し跡の一番高い位置をベースラインとし、エンボス型を用いて凸起を形成した場合には、エンボス型の押し跡の一番低い位置をベースラインとすればよい。
【0021】
ここで、例えば、突起を有するエンボス型を用いて電解質グリーンシートに陥没を設けた場合のベースラインについて、図1及び図2を参考して説明する。図1は、エンボス型を電解質グリーンシートに押圧した状態を示す模式図であり、(a)は(b)におけるJ−J線断面図、(b)は平面図(エンボス型は図示せず)である。図2はベースラインの求め方を説明する模式図であり、(a)は電解質シートの平面図、(b)は(a)の一点鎖線Kを走査した際の陥没形状プロファイルである。
【0022】
図1に示すように、電解質グリーンシート1にエンボス型2を押圧すると、エンボス型2が接触した部分に押し跡3が残る。そして、この押し跡3は焼成後の電解質シート4にもそのまま残っており、レーザー顕微鏡を用いて容易に確認することができる。従って、レーザー顕微鏡を用いて、電解質シート4を観察し押し跡3を確認して(図2(a))、この電解質シート4をレーザー顕微鏡を用いて得られた陥没形状プロファイル(図2(b))と照らし合わせることにより、ベースラインを求めることができる。
【0023】
また、前記陥没及び凸起の立体形状は、半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体である。ここで、半球形、半楕円球形には略半球形、略半楕円球形も含む。また、「頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体」とは、円柱、円錐、円錐台、角柱、角錐、角錐台又はこれらの組合せなどの多面体を基本形状とし、その多面体が有する頂点部分及び稜部分の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線で表される形状に形成されたものをいう。なお、前記多面体形状を採用する場合、その多面体が有する全ての頂点及び稜の断面形状が、曲率半径0.1μm以上の曲線で表される形状に形成されていることが好ましい。陥没及び凸起の立体形状を、角のない形状とすることにより、電解質シートのクラックの発生をより低減することができる。前記立体形状は、半球形又は半楕円球形が好ましく、半球形がより好ましい。
【0024】
前記陥没及び前記凸起の基底面の平均円相当径は、250μm超、好ましくは300μm以上、より好ましくは350μm以上であり、10000μm以下、好ましくは9000μm以下、より好ましくは8000μm以下である。前記平均円相当径が250μm以下では、クラック発生の原因となり得るキズの発生が増え、電解質シートの強度及びワイブル係数が低下し、一方、10000μmを超えると電解質シートと電極との密着性が悪くなり、長期的な使用での電極の剥離が生じ易くなる。本発明において、平均円相当径とは、電解質シート表面における2mm〜80mm四方の領域(少なくとも電解質シート表面の中心を含む領域であり、該領域内に陥没又は凸起が少なくとも50個存在する領域)について、該領域に存在する全ての陥没及び凸起について基底面形状面積を測定し、それらの平均面積を求め、該平均面積から算出される円相当径である。
【0025】
前記陥没及び凸起の基底面の円相当径のばらつきの値(円相当径の標準偏差/平均円相当径)は、いずれも0.25以下が好ましく、より好ましくは0.20以下、さらに好ましくは0.15以下である。前記ばらつきの値が上記範囲内であれば、電解質シートの平均強度とワイブル係数を高くすることができ、また、電解質シート表面に形成された電極の電解質シートからの界面剥離をより抑制することができる。なお、前記ばらつきの値の下限値は0である。ここで、円相当径の標準偏差は下記式により求めることができる。なお、式中、σは標準偏差、xは個々の陥没又は凸起の基底面形状の円相当径、xaveは平均円相当径、nは陥没及び凸起の測定個数を示す。
【0026】
【数1】

【0027】
前記陥没の平均深さは、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。陥没の平均深さが5μm未満では、クラック発生の原因となり得るキズの発生が増え、電解質シートの強度及びワイブル係数が低下し、一方、200μmを超えるとエンボス加工時に電解質グリーンシートにかかる応力が十分に緩和されず、エンボス加工後の電解質グリーンシートにひずみが残り、得られる電解質シートの強度が低下する。本発明において、陥没の平均深さとは、電解質シート表面における2mm〜80mm四方の領域(少なくとも電解質シート表面の中心を含む領域であり、該領域内に陥没又は凸起が少なくとも50個存在する領域)について、該領域に存在する全ての陥没について深さを測定し、これらの値から算出される平均値である。また、陥没の深さとは、ベースラインから最も高さの低い位置までの距離である。
【0028】
片面における前記陥没の平均深さは、シート厚さを100としたとき、3以上が好ましく、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上であり、50以下が好ましくは、より好ましくは40以下、さらに好ましくは30以下である。シート厚さに対する陥没の平均深さの比を上記範囲とすることにより、クラック発生の原因となり得るキズや、電解質シートの残留ひずみを抑え、結果として電解質シートの平均強度とワイブル係数を高くすることができる。
【0029】
前記凸起の平均高さは、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。凸起の平均高さが5μm未満では、クラック発生の原因となり得るキズの発生が増え、電解質シートの強度及びワイブル係数が低下し、一方、200μmを超えるとエンボス加工時に電解質グリーンシートにかかる応力が十分に緩和されず、エンボス加工後の電解質グリーンシートにひずみが残り、得られる電解質シートの強度が低下する。本発明において、凸起の平均高さとは、電解質シート表面における2mm〜80mm四方の領域(少なくとも電解質シート表面の中心を含む領域であり、該領域内に陥没又は凸起が少なくとも50個存在する領域)について、該領域に存在する全ての凸起について高さを測定し、これらの値から算出される平均値である。また、凸起の高さとは、ベースラインから最も高さの高い位置までの距離である。
【0030】
片面における前記凸起の平均高さは、シート厚さを100としたとき、3以上が好ましく、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上であり、50以下が好ましくは、より好ましくは40以下、さらに好ましくは30以下である。シート厚さに対する陥没の平均高さの比を上記範囲とすることにより、クラック発生の原因となり得るキズや、電解質シートの残留ひずみを抑え、結果として電解質シートの平均強度とワイブル係数を高くすることができる。
【0031】
前記陥没の深さのばらつきの値(深さの標準偏差/平均深さ)及び前記凸起の平均高さのばらつきの値(高さの標準偏差/平均高さ)は、いずれも0.25以下が好ましく、より好ましくは0.20以下、さらに好ましくは0.15以下である。前記ばらつきの値が上記範囲内であれば、電解質シートの平均強度とワイブル係数を高くすることができ、また、電解質シート表面に形成された電極の電解質シートからの界面剥離をより抑制することができる。なお、前記ばらつきの値の下限値は0である。ここで、陥没深さの標準偏差および凸起高さの標準偏差は、前記円相当径の標準偏差と同様にして求めることができる。
【0032】
前記陥没の平均深さと平均円相当径の比(平均深さ/平均円相当径)及び前記凸起の平均高さと平均円相当径の比(平均高さ/平均円相当径)は、いずれも0.01以上が好ましく、より好ましくは0.02以上、さらに好ましくは0.03以上であり、0.5以下が好ましく、より好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.40以下である。前記比(平均深さ/平均円相当径)及び前記比(平均高さ/平均円相当径)が上記範囲内であれば、電解質シートの平均強度とワイブル係数を高くすることができ、また、電解質シート表面に形成された電極の電解質シートからの界面剥離をより抑制することができる。
【0033】
前記陥没の最低点の間隔(隣接する2つの陥没の最低点の間隔)又は凸起の頂点の間隔(隣接する2つの凸起の頂点の間隔)は、一定であっても不定であってもよいが、一定間隔であることが好ましい。前記間隔は陥没又は凸起の平均円相当形を考慮し、各陥没又は凸起が重ならないようにすることが好ましい。そのため、前記間隔と陥没又は凸起の平均円相当径との差(間隔−平均円相当径)が、1μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、5000μm以下が好ましく、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。なお、陥没又は凸起の立体形状が多面体であって、陥没の最低点又は凸起の頂点が平面である場合(例えば、円柱、円錐台、角柱、角錐台)、該平面の中心点を最低点又は頂点とする。
【0034】
前記電解質シート表面上の陥没及び凸起は、不規則に配されていてもよいし、規則的に配されていてもよい。なお、電解質シートの表面粗さをより均一とするために、前記陥没及び凸起は規則的に配されていることが好ましい。この場合、陥没及び凸起の配列態様としては、格子状、千鳥状などが挙げられる。
【0035】
前記電解質シートに陥没が形成される場合、陥没が形成される面の面積に対する陥没の基底面の総面積の比率が1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上であり、70%以下が好ましく、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下である。一方、電解質シートに凸起が形成される場合、凸起が形成される面の面積に対する凸起の基底面の総面積の比率が30%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上であり、99%以下が好ましく、より好ましくは95%以下、さらに好ましくは90%以下である。陥没又は凸起の基底面の面積比率が上記範囲内であれば、焼成時に発生する電解質シート表面のキズをより抑制することができる。
【0036】
電解質シートの平均厚さは100μm以上、好ましくは120μm以上、より好ましくは140μm以上であり、400μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。電解質シートの平均厚さが100μm未満では、電解質シートの機械的強度が弱くなり、ハンドリング性が低下し、セル化時に割れが生じやすくなり、一方、400μmを超えると電解質シート自体のイオン導電性が低下するため、セル化した時の発電性能が悪くなる。本発明において電解質シートの厚さとは、表面のベースラインと裏面のベースラインとの間隔である。
【0037】
本発明の電解質シートの態様としては、片面に複数の陥没を有する態様;片面に複数の凸起を有する態様;片面に複数の陥没及び凸起を有する態様;両面に複数の陥没を有する態様;両面に複数の凸起を有する態様;両面に複数の陥没及び凸起を有する態様が挙げられる。これらの中でも、片面又は両面に複数の陥没を有する態様が好ましく、両面に複数の陥没を有する態様がより好ましい。
【0038】
本発明の電解質シートの面積は50cm2以上が好ましく、より好ましくは100cm2以上であり、1000cm2以下が好ましく、より好ましくは600cm2以下である。本発明の技術は、面積が50cm2以上1000cm2以下、厚みが100μm以上400μm以下のような、大判で薄膜の電解質シートにおいて、より効果を発揮するものである。
【0039】
1−2.電解質シート材料
本発明の電解質シートを構成する材料としては、酸素イオン伝導性を有するセラミックであれば特に制限されないが、好ましくはジルコニア、セリアおよびランタンガレート酸化物からなる群から選択される少なくとも1種である。すなわち、前記電解質シートは、ジルコニウム、セリウム、ランタンおよびガリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有することが好ましい。
【0040】
上記ジルコニアを用いる場合には、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化イッテルビウム等で安定化されたジルコニア;上記セリアを用いる場合にはイットリア、サマリア、ガドリニア等でドープされたセリア;ランタンガレート酸化物を用いる場合には、ランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部が、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅等で置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物等を使用することができる。
【0041】
特に、3モル%以上10モル%以下の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上15モル%以下の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニアを用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアに、アルミナ、シリカ、チタニア等を焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0042】
2.電解質シートの製造方法
次いで、本発明の第二発明に係る電解質シートの製造方法について、充足すべき要件を詳細に説明する。
【0043】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法は、電解質グリーンシートの片面または両面に、基底面形状が円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体の突起又は陥没を有し、前記突起及び陥没の円相当径が380μm超13000μm以下、かつ前記突起の高さ及び前記陥没の深さが10μm以上2000μm以下であるエンボス型を押圧する工程を含むことを特徴とする。上記エンボス型を押圧して陥没又は凸起を形成すれば、電解質シート表面に所望とする形状及び大きさを有する陥没又は凸起を確実に形成することができる。また、エンボス型に形成される突起又は陥没を規則正しく配列しておくことで、電解質グリーンシート表面により均一に凸起形状又は陥没形状を付与することができ、該電解質グリーンシートを焼成する際に、キズの発生を抑制できる。
【0044】
2−1.電解質グリーンシートの作製
前記電解質グリーンシートは、電解質シート材料、バインダー、溶剤、分散剤、可塑剤等からなるスラリーをシート状に成形した後、乾燥することで得られる。
【0045】
前記バインダーとしては、特に制限はなく、従来から知られている有機質バインダーを適宜選択して使用できる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系および/またはメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース等のセルロース系樹脂等が例示される。これらのバインダーは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、グリーンシート表面への陥没孔形成等の加工性、グリーンシート成形性、焼成時の熱分解性等の点から、熱可塑性で、且つ数平均分子量が20,000以上250,000以下、ガラス転移温度が−40℃以上20℃以下の(メタ)アクリレート系共重合体が好ましいものとして推奨される。かかる数平均分子量は、常法により測定できる。しかし、市販のバインダーでカタログ値がある場合には、それを参照すればよい。
【0046】
電解質シート材料とバインダーの使用比率は、電解質シート材料100質量部に対してバインダー12質量部以上が好ましく、より好ましくは16質量部以上であり、30質量部以下が好ましく、より好ましくは24質量部以下である。バインダーの使用量が不足する場合は、グリーンシートの成形性が低下し、また、強度や柔軟性が不十分となる。逆に、バインダーの使用量が多過ぎる場合は、スラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、焼成時のバインダー成分の分解放出が多く且つ激しくなって収縮率のバラツキも大きくなり、さらに、バインダーが残留カーボンとして残留し易くなる。
【0047】
前記溶剤としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等が挙げられ、これらから適宜選択して使用する。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、電解質グリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して適当に調節するのがよく、好ましくはスラリー粘度が1Pa・s以上50Pa・s以下、より好ましくは2Pa・s以上20Pa・s以下の範囲となる様に調整するのがよい。
【0048】
前記分散剤としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質;クエン酸、酒石酸等の有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩等を用いることができる。分散剤を用いることで、電解質シート材料の解膠や分散を促進することかできる。
【0049】
前記可塑剤とてしは、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸エステル類;プロピレングリコール等のグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステル等のポリエステル類を用いることができる。可塑剤を用いることで、電解質シート材料の解膠や分散を促進することかできる。
【0050】
なお、前記スラリーには、上記の成分の他に、必要に応じて界面活性剤や消泡剤等を添加することができる。
【0051】
前記スラリーをシート状に成形する方法は特に制限されず、ドクターブレード法や押出成形法等の常法を用いればよい。そして、シート状に成形したスラリーを乾燥することにより電解質グリーンシートとする。
【0052】
当該電解質グリーンシートの厚さは適宜調整すればよいが、100μm以上400μm以下が好適である。また、任意の方法で適当な大きさに打抜き若しくは切断加工してもよい。当該電解質グリーンシートの大きさは、正方形の場合は50mm角以上400mm角以下、円形の場合は50mmφ以上400mmφ以下である。
【0053】
得られる当該グリーンシート特性としては、エンボス型を押圧する際の温度における引張試験での最大応力が1.96MPa(20kgf/cm2)以上であることが好ましく、より好ましくは2.45MPa(25kgf/cm2)以上であり、19.6MPa(200kgf/cm2)以下が好ましく、より好ましくは17.6MPa(180kgf/cm2)以下、さらに好ましくは14.7MPa(150kgf/cm2)以下である。また、エンボス型を押圧する際の温度における引張試験での最大応力負荷時の伸び率が5%以上であることが好ましく、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは10%以上であり、500%以下が好ましく、より好ましくは400%以下、さらに好ましくは300%以下である。
【0054】
また、当該グリーンシート特性としては、23℃の温度における、引張試験時での最大応力が3.0MPa以上が好ましく、より好ましくは4.0MPa以上、さらに好ましくは5.0MPa以上であり、20.0MPa以下が好ましく、より好ましくは18.0MPa以下、さらに好ましくは15.0MPa以下である。また、23℃の温度における最大応力負荷時の伸び率が、5.0%以上が好ましく、より好ましくは7.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上であり、30.0%未満が好ましく、より好ましくは25.0%以下、さらに好ましくは20.0%以下である。
【0055】
最大応力と最大応力負荷時の伸び率を測定するには、先ず、引張試験機などを用いてグリーンシート試料に引張応力を与え、当該応力と歪みを測定することによりSSカーブ(応力(Stress)歪み(Strain)との関係をグラフにしたもの)を測定する。次いで、得られたSSカーブより、グリーンシート試料が破断するまでに負荷される最大の応力を最大応力、最大応力が負荷される点におけるグリーンシート試料の伸び率を最大応力負荷時の伸び率として求める。
【0056】
上記物性のグリーンシートを製造するためには、前記バインダーとして、数平均分子量が50,000以上200,000以下、ガラス転移温度が−30℃以上10℃以下である(メタ)アクリレート系共重合体を用いることが特に好ましい。また、バインダーとしての当該共重合体の含有量を、固形分換算で、前記電解質シート材料100質量部に対して12質量部以上30質量部以下とすることが好ましい。
【0057】
2−2.エンボス型
前記電解質グリーンシートに陥没及び/又は凸起を形成するために用いるエンボス型について説明する。前記エンボス型は少なくとも片面に、基底面形状が円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体の突起又は陥没を有し、前記突起及び陥没の円相当径が380μm超13000μm以下、かつ、前記突起の高さ及び前記陥没の深さが10μm以上2000μm以下であることを特徴とする。
【0058】
前記突起及び陥没の基底面形状は、円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形である。なお、前記角丸多角形を採用する場合、その多角形が有する全ての頂点部分が、曲率半径0.1μm以上の曲線で表される形状に形成されていることが好ましい。陥没及び突起の基底面形状をこれらの形状とすることにより、電解質シートに角のない形状を有する陥没又は凸起を形成できる。前記基底面形状は、円形または楕円形が好ましく、円形がより好ましい。また、前記突起及び陥没の立体形状は、半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体である。なお、前記多面体形状を採用する場合、その多面体が有する全ての頂点及び稜の断面形状が、曲率半径0.1μm以上の曲線で表される形状に形成されていることが好ましい。突起及び陥没の立体形状をこれらの形状とすることにより、電解質シートに角のない形状を有する陥没及び凸起を形成できる。前記立体形状は、半球形又は半楕円球形が好ましく、半球形がより好ましい。
【0059】
前記突起及び陥没の基底面の円相当径は、380μm超、好ましくは460μm以上、より好ましくは530μm以上であり、13000μm以下、好ましくは11500μm以下、より好ましくは10000μm以下である。前記円相当径が上記範囲内であれば、電解質シートに基底面形状が所望の平均円相当径を有する陥没又は凸起を容易に形成することができる。なお、突起及び陥没は、異なる円相当径を有するものを複数種類有していてもよいが、全ての突起及び陥没の円相当径が同じであることが好ましい。
【0060】
前記突起の高さ及び陥没の深さは、10μm以上が好ましく、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは40μm以上であり、2000μm以下が好ましく、より好ましくは1500μm以下、さらに好ましくは1000μm以下である。前記突起の高さ及び陥没の深さが上記範囲内であれば、電解質シートに所望の深さ又は高さを有する陥没又は凸起を容易に形成することができる。なお、突起又は陥没は、異なる高さ又は深さを有するものを複数種類有していてもよいが、全ての突起又は陥没の高さ又は深さが同じであることが好ましい。
【0061】
前記突起又は陥没のピッチは0.6mm以上が好ましく、より好ましくは0.7mm以上、さらに好ましくは0.8mm以上であり、20000mm以下が好ましく、より好ましくは17000mm以下、さらに好ましくは15000mm以下である。前記突起又は陥没のピッチが上記範囲内であれば、電解質シートの突起等が形成される面の総面積に対する突起等の基底面の総面積の比率を、所望の好適に容易に調整できる。突起又は陥没のピッチとは、突起又は陥没が一定の間隔で形成されている場合において、その配列中の所定の方向における最小の繰り返し単位を規定する指標である。ここで、突起又は陥没のピッチについて図3を参照して説明する。図3は突起又は陥没のピッチを説明するための模式図であり、エンボス型に形成された突起を示している。例えば、図3において、突起の上下方向のピッチXは、突起aの上端から突起bの上端までの距離であり、左右方向のピッチYは、突起cの右端から突起dの右端までの距離である。なお、本発明のエンボス型においては、突起又は陥没のピッチは、ロール状エンボス型であれば、ロール回転方向又はロール軸方向、シート状(平板状)エンボス型においてはシートの辺方向について規定した。
【0062】
前記エンボス型に突起が形成される場合、圧着面積比は1%以上が好ましく、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上であり、70%以下が好ましく、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下である。一方、エンボス型に陥没が形成される場合、圧着面積比は30%以上が好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上であり、99%以下が好ましく、より好ましくは95%以下、さらに好ましくは90%以下である。前記圧着面積比が上記範囲内であれば、電解質シートの突起等が形成される面の総面積に対する突起等の基底面の総面積の比率を、所望の好適に容易に調整できる。なお、圧着面積比とは、エンボス型の面積に対する突起又は陥没の基底面の総面積の比率を百分率で表したものである。
【0063】
前記エンボス型の突起頂点の間隔(隣接する2つの突起頂点の間隔)又は陥没の最低点の間隔(隣接する2つの陥没の最低点の間隔)は、一定であっても不定であってもよいが、一定間隔であることが好ましい。前記間隔は陥没又は突起の平均円相当形を考慮し、各陥没又は突起が重ならないようにすることが好ましい。そのため、前記間隔と陥没又は突起の平均円相当径との差(間隔−平均円相当径)が、1.5μm以上が好ましく、より好ましくは7.5μm以上であり、7500μm以下が好ましく、より好ましくは1500μm以下である。さらに、突起又は陥没の基底面付近には、径方向外方に向けてテーパーが設けられている方が、離型性に優れるので好ましい。なお、陥没又は突起の立体形状が多面体であって、陥没の最低点又は突起の頂点が平面である場合(例えば、円柱、円錐台、角柱、角錐台)、該平面の中心点を最低点又は頂点とする。
【0064】
前記エンボス型に突起又は陥没を形成する方法としては、金属製材料または樹脂製材料に突起又は陥没を形成することができれば何れの方法であっても良いが、例えば、エンボス型がロール状の場合には、ミールと呼ばれるマザーロールを用いて彫刻することで作製でき、エンボス型がシート状の場合には、ミール彫刻と同様に、機械的な加工によって形成するか、若しくは、金属板を部分的に腐食させるエッチングにより形成することができる。前記エンボス型の材質は金属製もしくは樹脂製のものが好ましい。また金属製材料と樹脂製材料との組合せ、もしくは同一材料から構成されていても良い。また、エンボス型は、基板部と、突起及び/又は陥没が形成された押圧部とから構成されるものであってもよい。この場合、基板部と押圧部は、異なる材料であってもよいし、同一材料から構成されていてもよい。
【0065】
金属製材料としては、超硬タングステン、ステンレス鋼、ステライト、ニッケル系金属、ニッケル系合金、特殊鋼、超硬合金等の金属材料を挙げることができる。また、樹脂製材料としては、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等のエンジニアリングプラスチックや、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素樹脂を挙げることができる。特に、エンボス型を基板部と押圧部から構成する場合、押圧部は陥没孔形成後のグリーンシートからの型を剥離する際の離型性に優れたフッ素樹脂が好適である。また、押圧部に金属製材料を用いる場合は、当該グリーンシートから金属製型の剥離性をよくするために、押圧部を上記フッ素樹脂で表面処理することが好ましい。
【0066】
2−3.陥没及び/又は凸起の形成
前記エンボス型を電解質グリーンシートに押圧する方法は、特に限定されず、公知のプレス機に取り付けたエンボス型を電解質グリーンシートに押圧すればよい。具体的には、ロール状のエンボス型を電解質グリーンシートに押圧しつつ転がす方法;ロール状のエンボス型と平板との間に電解質グリーンシートを通過させる方法;ロール状のエンボス型少なくとも2本を互いの回転軸が平行となるように配置し、これらのロール間に電解質グリーンシートを通過させる方法;電解質グリーンシートを2枚のシート状エンボス型の間に挟み、あるいは、電解質グリーンシートをシート状エンボス型の上に載置し、これらをプレス機の下側ステージに載置して、上側ステージから加圧することによって陥没及び/又凸起を形成する方法;電解質グリーンシートをエンボス型で挟んだものを、さらにアクリル板、木板、金属板等で挟み、これを積み重ねることによって、多数の電解質グリーンシートを同時に複数押圧処理する方法;などが挙げられる。
【0067】
なお、ロール状のエンボス型を用いてエンボス加工を施すための装置としては、例えば、図4に示すように、巻出ロール5、巻取ロール6、及び、これらの巻出ロール5と巻取ロール6との間に、2本のロール状エンボス型7が互いの回転軸が平行となるように配された装置が挙げられる。
【0068】
ここで、いずれの方法においても電解質グリーンシートを20℃以上100℃以下に加温することが好ましい。例えば、電解質グリーンシートを加温する方法としては、ロールへ搬送する電解質シートを加温する方法;ロール状のエンボスシートを支持する軸中にヒーターを備え、ロールで挟む際に加温する方法;電解質グリーンシートを載せるステージにヒーターを備え、加温する方法などが挙げられる。この時、電解質グリーンシートに形成される陥没の深さ、円相当径や凸起の高さ、円相当径は、押圧力、押圧時間、押圧温度(グリーンシート温度)などにより調節することができる。即ち、押圧力が高いほど、押圧時間が長いほど、押圧温度が高いほど、グリーンシートの陥没及び/又は凸起を容易に形成することが出来る。
【0069】
エンボス型がロール状で、グリーンシートが160mm幅の場合、エンボスロールに掛ける荷重は、4.9kN(0.5tf)以上、さらに好ましくは9.8kN(1tf)以上、さらに好ましくは14.7kN(1.5tf)以上であり、196kN(20tf)以下が好ましく、より好ましくは98kN(10tf)以下、さらに好ましくは49kN(5tf)以下である。グリーンシートをエンボスロールに通す処理スピードは、0.5m/分以上が好ましく、より好ましくは0.75m/分以上、さらに好ましくは1m/分以上であり、10m/分以下が好ましく、より好ましくは7.5m/分以下、さらに好ましくは5m/分以下である。前記荷重が、4.9kN以上、処理スピードが0.5m/分以上であれば、電解質グリーンシートに陥没等を十分形成することができる。また、前記荷重が196kN以下、処理スピードが10m/分以下であればエネルギーや時間の無駄が少なく、エンボス処理後に陥没などが形成された電解質グリーンシートをエンボスロールから剥離できないという問題が生じ難い。さらに、かかる範囲でエンボス処理を行えば、それぞれ荷重または処理スピードに応じて得られるグリーンシートの粗度を調整し易くなるという利点もある。なお、突起を有するエンボスロールを押圧する際は、図1に示すように、突起のみが電解質グリーンシートに押圧されるようにする事が好ましい。
【0070】
エンボス型がシート状である場合、エンボス型を押圧する押圧力は1.96MPa(20kgf/cm2)以上が好ましく、より好ましくは2.94MPa(30kgf/cm2)以上、さらに好ましくは9.81MPa(100kgf/cm2)以上であり、49.0MPa(500kgf/cm2)以下が好ましく、より好ましくは39.2MPa(400kgf/cm2)以下、さらに好ましくは29.4MPa(300kgf/cm2)以下である。エンボス型を押圧する際の押圧時間は、0.5秒間以上が好ましく、より好ましくは1秒間以上、さらに好ましくは2秒間以上であり、300秒間以下が好ましく、より好ましくは180秒間以下、さらに好ましくは120秒間である。前記押圧力が1.96MPa以上、押圧時間が0.5秒間以上であれば、電解質グリーンシートに陥没等を十分形成することができる。また、前記押圧力が49.0MPa以下、合計押圧時間が300秒間以下であればエネルギーや時間の無駄が少なく、押圧処理後に陥没等が形成された電解質グリーンシートをエンボス型から剥離できないという問題が生じ難い。さらに、かかる範囲で押圧処理を行なえば、それぞれ押圧力または押加時間に応じて得られるグリーンシートの粗度を調節し易くなるという利点もある。なお、突起を有するエンボス型を押圧する際は、図1に示すように、突起のみが電解質グリーンシートに押圧されるようにすることが好ましい。
【0071】
また、エンボス型を押圧する際の電解質グリーンシート温度が高くなるほどグリーンシートの柔軟性が増し、陥没等が型どおりの形状に転写され易くなる。しかし温度制御による粗度の調節は、温度の制御手段が必要となるだけでなく、温度を上げ過ぎるとエンボス型がグリーンシートに接着されて、押圧後にグリーンシートからエンボス型を剥離し難くなるなど、制御が難しい場合がある。よって、押圧時における電解質グリーンシートの温度は20℃以上が好ましく、より好ましくは30℃以上であり、80℃以下が好ましく、より好ましくは60℃以下である。
【0072】
押圧処理後は、エンボス型からの電解質グリーンシートの剥離を、好適には3時間以内、より好ましくは1時間以内、さらに好ましくは10分以内に行う。必要以上に放置すると、剥離できなくなる場合がある。
【0073】
また、エンボス型を用いる方法以外の陥没等の形成方法として、
(a)有機樹脂やセラミック製の球状微粒子を電解質グリーンシート上に均一に散布してから押圧して電解質グリーンシート中に球状微粒子の一部を、好ましくは半分程度埋め込み、得られた球状微粒子埋没電解質グリーンシートと同時に焼成して球状微粒子を除去(セラミック球状微粒子の場合は焼成後除去)して陥没を形成する方法;
(b)上記球状微粒子付着テープを、上記電解質グリーンシートの上面側と下面側に配置し、あるいは上面側もしくは下面側の一方に配置して押圧加工して電解質グリーンシートに陥没を形成する方法;
(c)上記球状微粒子が接着したテープを金型等に貼り付けて陥没形状になる突起を有する型とし、この型を電解質グリーンシートに押圧して陥没を形成する方法;
(d)上記球状微粒子接着テープ上に、上記電解質原料スラリーを塗布して得られた電解質グリーンシートに陥没を形成する方法;
等があり、適宜実施することも可能である。
【0074】
上記球状微粒子を用いて陥没を形成させる(a)の場合、球状微粒子を電解質グリーンシートの片面または両面に散布後、押圧する方法;あるいは球状微粒子を接着させたテープを電解質グリーンシートの片面または両面に押圧する方法がある。球状微粒子を散布する方法としては、液晶表示装置上に粉体(スペーサー)を散布するため、第1の微細孔を有するマスクと第2の微細孔を有するマスクの2種類を重ね合わせて使用する粉体散布装置(特開平6−194616)や、焼結用敷粉の平均粒径と開口径の比を特定した散布用板材を備えた焼結用敷粉散布装置(特開2007−217741)等の公知の装置を用いて散布することによって均一に散布できる。散布方法はグリーンシート全面にわたって均一に散布することができれば特に制限されないが、所定の形状に切断された電解質グリーンシートを一定速度で移動させつつ、その上で球状微粒子が投入されたホッパーを一定の振動数で振動させることによって、該グリーンシートごとに一定量の球状微粒子を散布することが好ましい。
【0075】
該グリーンシートを一定速度で移動させる手段としてはベルトコンベアやローラーコンベアを挙げることができる。具体的には、所定形状に切断された電解質グリーンシートが一定速度で移動できるローラーコンベアの上部にホッパーを設け、該ホッパーにはホッパー内の球状微粒子量がほぼ一定になるように粉体溜めを設ける。該粉体溜めから配管で当該ホッパーに球状微粒子が一定量になるように投入しつつ、該ホッパーを一定の振動数で振動させ、100メッシュ以上400メッシュ以下の排出口フィルターを備えた長方形の排出口から球状微粒子を一定割合で該グリーンシート上へ散布する。
【0076】
上記粉体溜めからホッパーへの粉体供給速度を、該グリーンシートへのより均一な散布をするために、有機樹脂からなる球状微粒子の場合は0.1g/分以上1g/分以下、好ましくは0.2g/分以上0.8g/分以下に調整することが有効である。また、当該ホッパー内には、球状微粒子とともに直径2mm以上20mm以下のジルコニア、アルミナなどの球体を投入し、ホッパーを50Hz以上500Hz以下、より好ましくは80Hz以上300Hz以下の振動数で上下方向、水平方向、上下方向と水平方向の組合せのいずれかで振動させることによってホッパーから一定量の球状微粒子を散布することが出来る。その散布量としては該グリーンシート面積100cm2当たり2mg以上200mg以下、好ましくは10mg以上150mg以下、特に好ましくは20mg以上100mg以下が好ましい。また、グリーンシート陥没形成に寄与しない球状有機微粒子がある場合は、グリーンシート上に散布した球状有機微粒子を刷毛や空気ブローによって除去することが可能である。
【0077】
ここで、使用される球状微粒子とは、平均粒子径が0.01μm以上50μm以下、好ましくは0.1μm以上20μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上10μm以下、より好ましくは0.3μm以上5μm以下の球状微粒子である。その粒子径が揃っていても、粒子径分布が広くてもよく、形状は必ずしも真球である必要はなく、球形であっても楕円球形であっても良が、電解質シートに均一な陥没を形成するためには、粒子径の揃った球状形微粒子が好ましい。球状微粒子としては有機樹脂からなる球状微粒子、有機・無機複合微粒子、無機球状微粒子がある。
【0078】
有機樹脂からなる球状微粒子としては、ポリメタクリル酸メチル系架橋物(日本触媒社製、商品名「エポスター(登録商標)MA」、平均粒子径:2μm以上15μm以下)、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物(日本触媒社製、商品名「エポスター」、平均粒子径:1μm以上15μm以下)、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物(日本触媒社製、商品名「エポスター」、平均粒子径:2.5μm以上4μm以下)、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物(日本触媒社製、商品名「エポスター」、平均粒子径:1μm以上2μm以下)、架橋ポリスチレン(積水化成品工業社製、グレード「SBXシリーズ」、平均粒子径:6μm以上17μm以下)等が例示される。
【0079】
また、有機・無機複合微粒子としては、シリカ・アクリル複合化合物(日本触媒社製、商品名「ソリオスター(登録商標)」、平均粒子径:1.1μm以上6.5μm以下)が例示される。
【0080】
無機球状微粒子としては、アモルファスシリカ(日本触媒社製、商品名「シーホスター(登録商標)」、平均粒子径:0.08μm以上2.75μm以下)、ジルコニアビーズ(東レ社製、商品名「トレセラム(登録商標)TZB」、平均粒子径:30μm)等が例示される。
【0081】
また、ジルコニアおよび/またはアルミナからなる酸化物粒子やその前駆体粒子を噴霧乾燥により直径が0.8μm以上80μm以下程度の球状に成形し、次いで800℃以上1400℃以下で1時間以上10時間以下熱処理することによって得られる、直径が0.5μm以上50μm以下、好ましくは1μm以上30μm以下の球状酸化物微粒子を使用することも可能である。特に好ましくは、グリーンシート焼成によって同時に除去でき、そのとき発熱反応を起こさない平均粒子径が1μm以上15μm以下のポリメタクリル酸メチル系架橋物からなる樹脂球状微粒子である。
【0082】
また、上記球状微粒子を接着させたテープを用いる(b)、(c)、(d)の場合、上記(a)の方法において、電解質グリーンシートの代わりに接着剤が塗布されたテープを用いれば、同様にして製造できる。テープ材質としてはPETフィルム、ステンレスシート、ジルコニアシートなどがあり、その表面に塗布される接着剤としては特に制限されないが、アクリル樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン−酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン系接着剤等の有機系接着剤や、シリカ系接着剤、アルミナ系接着剤、ジルコニア系接着剤、シリカ−アルミナ系接着剤、シリカ−ジルコニア系接着剤等の無機系接着剤が使用できる。
【0083】
上記のようにして得られた陥没等が形成された電解質グリーンシート、あるいは球状微粒子埋没電解質グリーンシートを焼成することにより電解質シートとすることができる。具体的な焼結の条件は特に制限されず、常法によればよい。例えば、電解質グリーンシートからバインダーや可塑剤等の有機成分や有機樹脂球状微粒子を除去するために150℃以上600℃以下、好ましくは250℃以上500℃以下で、5時間以上80時間以下程度処理する。次いで、1000℃以上1600℃以下、好ましくは1200℃以上1500℃以下で、2時間以上10時間以下保持焼成することによって、陥没等が形成された電解質シートを得る。
【0084】
3.固体酸化物形燃料電池用単セル
次いで、本発明の第四発明に係る固体酸化物形燃料電池用単セルについて説明する。本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルは、前記第1発明に係る電解質シートを用いたことを特徴とする。
【0085】
本発明の電解質シートは、その表面に所定の大きさ、形状を有する陥没及び/又は凸起が形成されている。従って、本発明の電解質シートを固体酸化物形燃料電池単セルの電解質膜とした場合、電極との接触面積が大きいことから効率的な発電が可能になり、また、電極との密着性が高いことから長期にわたる安定的な発電が可能になる。さらに、クラック発生の起点と成る箇所が少ないことから、シート強度とそのワイブル係数も高まり、電解質シートの信頼性が向上する。
【0086】
本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルは、電解質シートの一方の面に燃料極を形成し、他方の面に空気極をスクリーン印刷等で形成することで得られる。ここで、燃料極、空気極の形成の順序は特に制限されないが、必要焼成温度の低い電極を先に電解質シート上に製膜して焼成した後、他方の電極を成膜して焼成してもよいし、あるいは燃料極、空気極を同時に焼成してもよい。また、電解質シートと空気極との固相反応による高抵抗成分が生成するのを防止するために、電解質シートと空気極との間にバリア層としてのセリア中間層を形成してもよい。この場合は、中間層を形成した面または形成すべき面とは逆の面上に燃料極を形成し、中間層の上に空気極を形成する。ここで、中間層と燃料極の形成の順序は特に制限されず、また、電解質シートの各面にそれぞれ中間層ペーストと燃料極ペーストを塗布乾燥した後に焼結することによって、中間層と燃料極を同時に形成してもよい。
【0087】
燃料極および空気極の材料、さらには中間層材料、また、これらを形成するためのペーストの塗布方法や乾燥条件、焼成条件等は、従来公知の方法に準じて実施できる。
【0088】
電解質シートに燃料極および空気極と中間層が形成された本発明に係る固体酸化物形燃料電池単セルは、電解質と電極・中間層との接触面積が大きいことから耐久性と発電性能に極めて優れる。よって本発明は、性能に優れた固体酸化物形燃料電池の電解質膜として利用可能な電解質シートを製造できるものとして、燃料電池の実用化に寄与し得るものである。
【0089】
4.固体酸化物形燃料電池スタック
次いで、本発明の第五発明に係る固体酸化物形燃料電池スタックについて説明する。本発明の固体酸化物形燃料電池用スタックは、前記第4発明に係る固体酸化物形燃料電池用単セルとインターコネクターとを有するものである。具体的には、前記固体酸化物形燃料電池単セルをインターコネクター介して、複数積層したものである。前記固体酸物形燃料電池単セルの積層数は、適宜調節すればよいが、一般的に、30〜200層である。
【0090】
前記インターコネクターに要求される物性としては、高温状態での高い耐熱性、耐酸化性、耐還元性、熱膨張特性、高い電子導電性、ガスタイト性等が挙げられる。このような物性を満足する材料として、例えば、ランタンクロマイト系の導電性セラミックスや鉄とクロムを主成分とする特殊な耐熱合金が通常使用される。近年は、コスト、加工性、軽量化、薄膜化への対応で、金属系インターコネクターの使用が増えている。この場合、耐酸化性を向上させる為に、導電性セラミックスをコーティングする場合もある。
【0091】
前記インターコネクターの形状としては、平板型では主に正方形、長方形、円形などが多く、またガスマニホールドの設計などによって、インターコネクターにガスを通す為の穴が開けられることもある。また、使用するセルの熱膨張率によって、それにあわせたインターコネクターが使用される。一方、空気や燃料ガスをセルに流配するため、及びセルと接触している部分から電気を取り出すために、通常インターコネクター表面には、突条(溝)が形成されており、その配列の良し悪しにより、セル性能に大きな影響を与える事がある。
【0092】
そのため、本発明の固体酸化物形燃料電池スタックは、前記インターコネクターがその表面に平行に形成された複数の突条を有しており、該突条が、前記固体酸化物形燃料電池用電解質シートに形成された凸起と対向する、または、固体酸化物形燃料電池用電解質シートに形成された陥没と対向しないように形成されていることを特徴とする。
【0093】
図5を参照して、上記構成について説明する。図5は、固体酸化物形燃料電池用単セルと、インターコネクターとの積層状態を示す断面模式図である。上述のように固体酸化物形燃料電池用単セル8は、電解質シート4の一方の面に燃料極9、他方面に空気極10が形成されている。そして、固体酸化物形燃料電池用単セル8が平板である場合には、前記インターコネクター11には、ガスを流通させるために、その表面に突条11aが形成されている。ここで、単セルにより発生した電気はインターコネクターを通して外部へと取り出されることとなるが、この際、インターコネクターとセルとが接触している部分が電気の通り道となる。ところで上述のように、本発明の電解質シート4にはその表面に陥没又は凸起が形成されており(図5では陥没が形成されている。)、この電解質シートを用いた固体酸化物形燃料電池用単セル8の表面にもこの凹凸が残存することとなる。よって、表面に凹凸を有するセルとインターコネクターとを積層した場合、互いに接触する部分(電気の通り道)が少なくなるという問題が生じる。
【0094】
そのため、本発明の固体酸化物形燃料電池スタックでは、固体酸化物形燃料電池用単セル8の突出部分(図5では陥没が形成されていない部分)とインターコネクターの突条11aが対向するように、すなわち、該突条が、前記電解質シートに形成された凸起と対向する、または、電解質シートに形成された陥没と対向しないように形成している。こうすることにより、固体酸化物形燃料電池用スタックの電気抵抗をより低くすることができる。
【0095】
なお、単セルの突出部分とインターコネクターの突条とを対向させる方法としては、例えば、電解質シート表面の凸起が、一定の基底面積形状、立体形状を有しており、且つ、一定のピッチで形成されている場合には、インターコネクターの突条の幅を該凸起の幅と同じ幅に形成し、且つ、突条のピッチを該凸起のピッチと同じ長さあるいは整数倍の長さとする方法が挙げられる。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。評価方法は、以下の通りである。
【0097】
1.評価方法
1−1.最大応力、最大応力負荷時の伸び率
SD型レバー式試料裁断器(スーパーダンベルカッターSDK−200、ダンベル社製)を用い、各長尺グリーンシートから下記大きさの試験片を得、下記条件でSSカーブを測定した。なお、グリーンシートは測定前に1時間以上試験室に置き、温度や湿度を馴染ませた。得られたSSカーブより、グリーンシート試料が破断するまでに負荷された最大の応力、最大応力が負荷された点におけるグリーンシート試料の伸び率を求めた。
測定機器: インストロン・ジャパン社製,万能材料試験機4301型
測定時湿度: 60%
試験片: 試料長さ:100mm、平行部分(最細部幅):10mm、つかみ部分幅:25mm
つかみ具間隔: 70mm
引張速度: 10mm/分
【0098】
1−2.陥没又は凸起の平均円相当径、平均深さ、平均高さおよび曲率半径
電解質シート表面における2mm〜80mm四方の領域(少なくとも電解質シート表面の中心を含む領域であり、該領域内に陥没又は凸起が50個以上存在する領域)における、該領域に存在する全ての陥没について、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(キーエンス社製、型番:VK−9500)用い、観察アプリケーション(キーエンス社製、「VK VIEWER」)でシート表面のカラー超深度画像を撮影し、同時に該画像を解析アプリケーション(キーエンス社製、「VK ANALYZER」)でシート表面プロファイルの形状解析により陥没の形状計測を行った。
【0099】
具体的には、シート表面の撮影画像(XY軸に相当)と陥没形状プロファイルデータ(Z軸に相当)を、複数の陥没の中心を通るラインをベースにして重ね合わせて、陥没の撮影画像上の最外周輪郭部と陥没形状プロファイルの交点を通る面を基底面とした。基底面形状は陥没の最外周輪郭の形状から特定し、陥没の基底面形状が円の場合は撮影画像の最外周輪郭と陥没形状プロファイルの2つの交点間距離を基底面の円相当径とした。基底面形状が円以外の形状の場合は、まず基底面形状の面積を測定または算出し、次いで当該面積を円と仮定して半径を算出し、その2倍を円相当径とした。
さらに、陥没深さを求めるために、Z軸に相当する基底面として、上記のように設定した複数の陥没の中心を通るラインをベースラインとして、陥没プロファイルでベースラインから最も低い点までの法線距離を陥没深さとした。前記領域に存在する全ての陥没の円相当径と陥没深さについて、それらの平均値を算出し平均円相当径、平均陥没深さとした。凸起についても陥没と同様にして平均円相当径、平均凸起高さを求めた。
曲率半径は、上記陥没プロフィールの縦軸・横軸のスケールを等しく、かつスムージングして、プロフィール曲線のR(アール)から、当該Rと重なり最小の円となる箇所を特定して、その円の半径を測定して求めた。
なお、超深度カラー3D形状測定顕微鏡は、測定部、制御部、コンソール部、およびモニタから構成されており、測定部には、波長が408nm、最大出力0.9mWのレーザー光源と、その受光素子として光電子倍増管、および100Wハロゲンランプの光学観察用光源、1/3型カラーCCDイメージセンサを撮像素子とした光学観察用カラーカメラ、試料台を備えている。
【0100】
1−3.シート厚さ
シート厚さは、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(キーエンス社製、型番:VK−9500)を用い、上記「1−2.陥没又は凸起の平均円相当径、平均深さ、平均高さおよび曲率半径」と同様にして、観察アプリケーション(キーエンス社製、「VK VIEWER」)でシート断面のカラー超深度画像を撮影し、同時に該画像を解析アプリケーション(キーエンス社製、「VK ANALYZER」)でシート表面プロファイルの形状解析により陥没の形状計測を行った。得られたシートの一方の側の基底面と他方の側の基底面を特定し、2つの基底面間の間隔をシート厚さとした。
【0101】
詳細には、前記「1−2.陥没又は凸起の平均円相当径、平均深さ、平均高さおよび曲率半径」に記載のようにベースラインを求め、ベースラインよりも高くなっている部分について、その部分のベースラインからの高さを測定し、平均値を求める。次に、マイクロメーターにより見掛けの厚さを測定し、上記で得た平均値を見掛けの厚さから差し引いた値をシート厚さとした。なお、電解質シートの両面に陥没が形成されている場合には、その両面についてベースラインよりも高くなっている部分のベースラインからの平均高さを求め、これらの合計を見掛けの厚さから差し引いた値をシート厚さとした。
【0102】
1−4.キズ有りシートの割合
各製造例において、得られた電解質シート50枚について、その表面のキズの有無を目視により評価し、キズ有りシートの割合を算出した。ここで、電解質シート表面における、長さが50μm以上、幅5μm以上の凹みであって、本発明で規定する陥没に該当しないものをキズとみなした。
【0103】
1−5.曲げ強度、ワイブル係数
曲げ強度の測定は、JIS R 1601に準じて行った。製造例の各電解質シートと同じグリーンシートを用いて、同条件で焼成して長さ50mm、幅5mmの試験片を各20本作製した。全ての試験片を室温で測定してその平均値を曲げ強度とし、その強度結果からワイブル係数を算出した。
【0104】
2.ロール状エンボス型の製造
ロール状エンボス型は、ミールと呼ばれるマザーロールを用いて、彫刻により陥没又は突起を形成した。製造されたロール状エンボス型の詳細を表1に示した。
【0105】
【表1】

【0106】
3.電解質シートの製造
3−1.製造例1
6モル%スカンジウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「6ScSZ」、比表面積:11m2/g、平均粒子径:0.5μm、以下「6ScSZ」と記す。)100質量部に対して、メタクリレート系共重合体(数平均分子量:100,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)からなるバインダーを固形分換算で17質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部を、トルエン/イソプロパノール(質量比:3/2)の混合溶剤と共にナイロンポットに投入し、60rpmで20時間ミリングして原料スラリーを調製した。このスラリーを減圧脱泡容器へ移し、3.99kPa〜21.3kPa(30Torr〜160Torr)に減圧して濃縮・脱泡し、粘度が2.5Pa・sの塗工用スラリーとした。
【0107】
得られた塗工用スラリーを塗工装置のスラリーダムに移して、塗工部のドクターブレードによってPETフィルム上に連続的に塗工し、塗工部に続く110℃の乾燥炉に0.15m/分の速度で通過させて溶剤を蒸発させ、乾燥させることにより、塗工幅約160mm、厚さ約180μmの6ScSZグリーンシートを成形した。得られたグリーンシートは、23℃における引張試験による最大応力が13.9MPa(142kgf/cm2)、最大応力負荷時の伸び率が15%であった。
【0108】
当該6ScSZグリーンシートを図4に示すような巻出装置を備えたエンボス装置を用いてエンボス加工を施した。具体的には、前記幅300mmのロール状エンボス型No.1を使用し、グリーンシートからPETフィルムを剥がしながらエンボスロール間へと供給し、グリーンシートの供給速度を3m/分とし、エンボスロールの押圧荷重10kN、押圧温度23℃の条件でグリーンシートの両面にエンボスをかけた。両面がエンボス加工されたグリーンシートは、巻取装置で、別途用意した厚さ0.3mmの厚紙とともに巻き取り、陥没が形成された6ScSZグリーンシートを得た。
【0109】
陥没が形成された6ScSZグリーンシートを所定のサイズに切断し、樹脂球状微粒子(「エポスター(登録商標)MA1002」、日本触媒製)をグリーンシートの表裏に約5mgずつ振りかけてから、14cm角、厚さ300μm、密度2.5g/cm3のアルミナ多孔質スペーサーの間に挟み、焼成セッターに載置して、1400℃で3時間焼成することにより、10cm角、厚さ160μmの6ScSZ電解質シートを得た。得られた6ScSZ電解質シートの物性を評価し、結果を表2に示した。
【0110】
3−2.製造例2
8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「HSY−8.0」、比表面積:10m2/g、平均粒子径:0.5μm)100質量部に対して、メタクリレート系共重合体(数平均分子量:150,000、ガラス転移温度:5℃、固形分濃度:45質量%)からなるバインダーを固形分換算で18質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3.8質量部およびトルエン/イソプロパノール混合溶媒(質量比:3/2)から製造例1と同様にしてスラリーを調製し、ドクターブレード法で、塗工幅約160mm、厚さ約250μmの8YSZグリーンシートに成形した。得られたグリーンシートは、23℃における引張試験による最大応力が13.0MPa、最大応力負荷時の伸び率が18%であり、35℃における引張試験による最大応力が11.3MPa(115kgf/cm2)、最大応力負荷時の伸び率が48%であった。
【0111】
当該8YSZグリーンシートを、エンボス型をロール状エンボス型No.2に変更し、押圧荷重を20kN、押圧温度35℃に変更したこと以外は製造例1と同様にしてエンボス加工を施した。
陥没が形成された8YSZグリーンシートを所定のサイズに切断し、樹脂球状微粒子(「エポスター(登録商標)MA1002」、日本触媒製)をグリーンシートの表裏に約5mgずつ振りかけてから、14cm角、厚さ300μm、密度2.5g/cm3のアルミナ多孔質スペーサーの間に挟み、焼成セッターに載置して、1450℃で3時間焼成することにより、10cm角、厚さ220μmの8YSZ電解質シートを得た。得られた8YSZ電解質シートの物性を評価し、結果を表2に示した。
【0112】
3−3.製造例3
電解質粉末として市販のLa0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.23-δ粉末(平均粒子径:0.7μm、比表面積:10m2/g、以下LSGMと記す)100質量部に対して、メタクリレート系共重合体(数平均分子量:80,000、ガラス転移温度:−15℃、固形分濃度:50質量%)からなるバインダーを固形分換算で20質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2.2質量部、およびトルエン/イソプロパノール混合溶媒(質量比:3/2)から製造例1と同様にしてスラリーを調製し、ドクターブレード法で、塗工幅約160mm、厚さ約300μmのLSGMグリーンシートに成形した。得られたグリーンシートは、23℃における引張試験による最大応力が11.5MPa、最大応力負荷時の伸び率が25%であり、45℃における引張試験による最大応力が9.02MPa(92kgf/cm2)、最大応力負荷時の伸び率が108%であった。
【0113】
当該LSGMグリーンシートを、エンボス型をロール状エンボス型No.3に変更し、押圧荷重を50kN、押圧温度45℃に変更したこと以外は製造例1と同様にしてエンボス加工を施した。
陥没が形成されたLSGMグリーンシートを所定のサイズに切断し、樹脂球状微粒子(「エポスター(登録商標)MA1002」、日本触媒製)をグリーンシートの表裏に約5mgずつ振りかけてから、14cm角、厚さ300μm、密度2.5g/cm3のアルミナ多孔質スペーサーの間に挟み、焼成セッターに載置して、1480℃で3時間焼成することにより、10cm角、厚さ250μmのLSGM電解質シートを得た。得られたLSGM電解質シートの物性を評価し、結果を表2に示した。
【0114】
3−4.製造例4
市販のスカンジア安定化ジルコニア未焼結粉末(第一稀元素社製、商品名「10Sc1CeSZ」、比表面積:10.8m2/g、平均粒子径:0.60μm、以下10Sc1CeSZと記す。)100質量部に対して、溶媒としてトルエン50質量部、分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部、メタクリレート系共重合体(数平均分子量:100,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)からなるバインダーを固形分換算で19質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部を、ナイロンポットに投入し、60rpmで20時間ミリングして原料スラリーを調製した。このスラリーを減圧脱泡容器へ移し、3.99kPa〜21.3kPa(30Torr〜160Torr)に減圧して濃縮・脱泡し、粘度が3Pa・sの塗工用スラリーとした。
【0115】
得られた塗工用スラリーを、塗工装置のスラリーダムに移して、塗工部のドクターブレードによってPETフィルム上に連続的に塗工し、塗工部に続く50℃、80℃および110℃の3つの温度域を有する乾燥機中を0.2m/分の速度で通過させた後、塗工幅約160mm、厚さ280μmの10Sc1CeSZグリーンシートを成形した。得られたグリーンシートは23℃における引張試験による最大応力8.0MPa(81.7kgf/cm2)、最大応力負荷時の伸び率が20%であった。
【0116】
当該10Sc1CeSZグリーンシートを、エンボス型をロール状エンボス型No.4に変更し、押圧荷重を50kN、押圧温度23℃に変更したこと以外は製造例1と同様にしてエンボス加工を施した。
陥没径が形成された10Sc1CeSZグリーンシートを所定のサイズに切断し、樹脂球状微粒子(「エポスター(登録商標)MA1002」、日本触媒製)をグリーンシートの表裏に約5mgずつ振りかけてから、14cm角、厚さ300μm、密度2.5g/cm3のアルミナ多孔質スペーサーの間に挟み、焼成セッターに載置して、1400℃で3時間焼成することにより、10cm角、厚さ210μmの10Sc1CeSZ電解質シートを得た。得られた10Sc1CeSZ電解質シートの物性を評価し、結果を表2に示した。
【0117】
3−5.製造例5
上記製造例1で得た6ScSZグリーンシートを切断した後、1420℃で3時間焼成して10cm角、厚さ160μmの6ScSZ電解質シートを得た。この電解質シートをブラスト加工により表面を粗化した。製造例1と同様に、物性を評価し、結果を表2に示した。得られた6ScSZ電解質シートはブラスト加工により表面は粗化されているものの、陥没は形成されなかった。また、ブラスト加工により形成されたシート表面の凹部を観察したところ、その先端は鋭角になっていた。
【0118】
【表2】

【0119】
3−6.製造例6
上記製造例1で得た6ScSZグリーンシートを、エンボス型をロール状エンボス型No.5に変更し、押圧荷重を40kN、押圧温度23℃に変更したこと以外は製造例1と同様にしてエンボス加工を施した。
【0120】
陥没が形成された6ScSZグリーンシートを所定のサイズに切断し、樹脂球状微粒子(「エポスター(登録商標)MA1002」、日本触媒製)をグリーンシートの表裏に約5mgずつ振りかけてから、14cm角、厚さ300μm、密度2.5g/cm3のアルミナ多孔質スペーサーの間に挟み、焼成セッターに載置して、1400℃で3時間焼成することにより、10cm角、厚さ160μmの6ScSZ電解質シートを得た。得られた6ScSZ電解質シートの物性を評価し、結果を表3に示した。
【0121】
3−7.製造例7
上記製造例1で得た6ScSZグリーンシートを、エンボス型をロール状エンボス型No.6に変更し、押圧荷重を50kN、押圧温度23℃に変更したこと以外は製造例1と同様にしてエンボス加工を施した。
【0122】
陥没が形成された6ScSZグリーンシートを所定のサイズに切断し、樹脂球状微粒子(「エポスター(登録商標)MA1002」、日本触媒製)をグリーンシートの表裏に約5mgずつ振りかけてから、14cm角、厚さ300μm、密度2.5g/cm3のアルミナ多孔質スペーサーの間に挟み、焼成セッターに載置して、1400℃で3時間焼成することにより、10cm角、厚さ160μmの6ScSZ電解質シートを得た。得られた6ScSZ電解質シートの物性を評価し、結果を表3に示した。
【0123】
【表3】

【0124】
表2、3のように、グリーンシートにエンボス加工を施した後、焼成して得られた電解質シートでは、キズ発生の割合が小さくなっている。また、同様の材質、厚さである製造例1、6、7と製造例5とを比較すると、エンボス加工を施した電解質シートの方が曲げ強度が優れており、ワイブル係数が大きくなっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用の電解質シートとして、その表面形状と表面粗さ等を特定した強度特性に優れた固体酸化物形燃料電池用の電解質シートおよびその製造方法、並びに当該電解質シートを用いた、優れた発電性能を有する固体酸化物形燃料電池用セルに関するものである。
【符号の説明】
【0126】
1:電解質グリーンシート、2:エンボス型、3:押し跡、4:電解質シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に複数の陥没及び/又は凸起を有し、
前記陥没及び凸起の基底面形状が、円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体であり、
前記陥没及び前記凸起の基底面の平均円相当径が250μm超10000μm以下、
前記陥没の平均深さ及び前記凸起の平均高さが5μm以上200μm以下であり、かつ、
平均厚さが100μm以上400μm以下であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項2】
片面における前記陥没の平均深さ及び前記凸起の平均高さが、シート厚さを100としたとき、3以上50以下である請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項3】
前記電解質シートに凸起が形成される場合、凸起が形成される面の面積に対する凸起の基底面の総面積の比率が30%以上99%以下である請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項4】
前記電解質シートが、ジルコニウム、セリウム、ランタンおよびガリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項5】
前記陥没の深さのばらつきの値(深さの標準偏差/平均深さ)及び前記凸起の平均高さのばらつきの値(高さの標準偏差/平均高さ)が、いずれも0.25以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項6】
前記陥没及び凸起の基底面の円相当径のばらつきの値(円相当径の標準偏差/平均円相当径)が、いずれも0.25以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項7】
前記陥没の平均深さと平均円相当径の比(平均深さ/平均円相当径)及び前記凸起の平均高さと平均円相当径の比(平均高さ/平均円相当径)が、いずれも0.01以上0.5以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項8】
固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法であって、
電解質グリーンシートの片面または両面に、
基底面形状が円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体の突起又は陥没を有し、
前記突起及び陥没の円相当径が380μm超13000μm以下、かつ
前記突起の高さ及び前記陥没の深さが10μm以上2000μm以下であるエンボス型を押圧する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項9】
前記エンボス型を押圧する際の温度における、前記電解質グリーンシートの最大応力が1.96MPa以上19.6MPa以下、かつ、最大応力負荷時の伸び率が5%以上500%未満である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記電解質グリーンシートを形成するためのスラリーが、電解質シート材料として、ジルコニア、セリアおよびランタンガレート酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含むものである請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記電解質グリーンシートを形成するためのスラリーが、有機質バインダーを前記電解質シート材料100質量部に対して12質量部以上30質量部以下含有する請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
電解質グリーンシートに、陥没及び/又は凸起を形成するためのエンボス型であって、
少なくとも片面に、基底面形状が円形、楕円形または頂点部の形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である角丸多角形であり、及び/又は、その立体形状が半球形、半楕円球形または頂点及び稜の断面形状が曲率半径0.1μm以上の曲線である多面体の突起又は陥没を有し、
前記突起及び陥没の円相当径が380μm超13000μm以下、かつ、
前記突起の高さ及び前記陥没の深さが10μm以上2000μm以下であることを特徴とするエンボス型。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートを有することを特徴とする固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項14】
請求項13に記載の固体酸化物形燃料電池用単セルと、インターコネクターとを有する固体酸化物形燃料電池スタックであって、
前記インターコネクターは、その表面に平行に形成された複数の突条を有しており、
該突条が、前記固体酸化物形燃料電池用電解質シートに形成された凸起と対向する、または、固体酸化物形燃料電池用電解質シートに形成された陥没と対向しないように形成されていることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−69418(P2012−69418A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214146(P2010−214146)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】