説明

固体電池モジュール

【課題】 容易に過充電制御が可能であり、各単電池が過充電状態となることを適切に防止することが可能な固体電池モジュールを提供する。
【解決手段】 一対の集電体の間に発電部と過充電防止部とを備えた固体電池を、複数積層してなり、過充電防止部が、所定電圧以上で電気伝導率が上昇する高分子材料からなり、且つ、発電部の外周の少なくとも一部に設けられるとともに、一対の集電体の双方に接触するように設けられている、固体電池モジュールとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解質を含む固体電池を複数積層してなる固体電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、低公害車としての電気自動車やハイブリッド自動車等に適用するべく、高性能な二次電池が必要とされている。また、二次電池の高出力化及び高容量化に伴って、安全性の向上も一層要求されている。
【0003】
二次電池は、正極及び負極と、これらの間に配置される電解質層とが備えられた発電部における電気化学反応によって、外部に電気エネルギーが取り出し可能とされる。電解質層は、非水系の液体電解質又は固体電解質によって構成されており、このうち、特に固体電解質を用いた場合、当該固体電解質が本質的に不燃であるため、安全性の向上を図り易い。
【0004】
また、二次電池を高出力化及び高容量化するためには、複数の単電池を接続することが考えられる。例えば、複数の単電池を直列に接続しつつ積層し、電池モジュールとすることにより、二次電池を高出力化及び高容量化することができる。特に単電池を同一ケース内で直列に接続して収納することで、別々のケースに収納した場合と比較し、ケース内のデッドスペースを少なくすることができ、二次電池のエネルギー密度を増大させることができる。
【0005】
電池モジュールを構成する場合、例えば、各単電池が過充電状態となることを防止するため、各単電池についてそれぞれ独立して電圧制御を行うことが好ましい。しかしながら、複数の単電池を同一ケース内で直列に接続し、電池モジュールとした場合、単電池毎の電圧をモニタリングするためには、単電池毎にリード線等を取り付け、それらをケース外に取り出す必要があり、構造が複雑となってしまう。一方、単電池毎にリード線等を設けず、単に直列に接続して同一ケース内に収納した場合、ケース外部においては複数の単電池全体としての電圧をモニタリングすることとなり、単電池毎の電圧を制御することができない。このような場合において、各単電池の内部抵抗にばらつきがあると、内部抵抗に比例して印加する電圧が大きくなり、単電池が過充電状態となって劣化してしまう虞がある。
【0006】
この問題を解決する手段として、例えば特許文献1には、バイポーラ型導電性高分子等を用いてセパレータを構成し、これを正極と負極との間に介在させた非水電解質電池が開示されている。このような形態とすると、電池が所定電圧以上となった場合に、セパレータが導電化し、電池が意図的に短絡されるため、電池がそれ以上充電されることがない。すなわち、単電池が過充電状態となることを防ぐことができるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−165051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に係る技術は、非水電解質電池等の液系電解質を有する電池には好適に適用できるものと考えられる。しかしながら、固体電解質を有する固体電池に当該技術を適用した場合、電極間にセパレータ及び固体電解質を介在させることとなり、電極間のイオン伝導抵抗が高くなり、十分な電池性能が得られない虞があった。そのため、固体電池モジュールにおいて各単電池が過充電状態となることを防止可能な新たな技術が必要とされていた。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、容易に過充電制御が可能であり、各単電池が過充電状態となることを適切に防止することが可能な固体電池モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
本発明は、一対の集電体の間に発電部と過充電防止部とを備えた固体電池を、複数積層してなり、過充電防止部が、所定電圧以上で電気伝導率が上昇する高分子材料からなり、且つ、発電部の外周の少なくとも一部に設けられるとともに、一対の集電体の双方に接触するように設けられている、固体電池モジュールである。
【0011】
本発明において、「発電部」とは、固体電池を構成する発電部であれば特に限定されるものではなく、正極層、負極層及びこれらの間に介在する固体電解質層を備えたものを例示することができる。「一対の集電体の間に発電部と過充電防止部とを備えた」とは、一対の集電体(正極集電体と負極集電体)の間に介在するように、発電部が設けられ、且つ、一対の集電体の間に介在するように、過充電防止部が設けられていることを意味する。「固体電池」とは、固体電解質を有する単電池を意味する。「所定電圧」とは、固体電池が過充電となる前の電圧であれば特に限定されるものではないが、例えば、固体電池の充電率(SOC)が100%の場合における固体電池の電圧をVとした場合、1.05〜1.5Vを上記「所定電圧」とすることができる。「発電部の外周」とは、正極層、負極層及び固体電解質層を積層してなる発電部において、当該積層方向に沿って形成される発電部の側面をいう。「過充電防止部が、…発電部の外周の少なくとも一部に設けられ」とは、過充電防止部が、発電部の上記側面と接して設けられた形態の他、発電部の側面からは離隔して設けられた形態をも含む。「過充電防止部が、…一対の集電体の双方に接触するように設けられ」とは、過充電防止部の電気伝導率が上昇した場合において一対の集電体間で短絡が生じるように、過充電防止部が、一対の集電体の間において、一対の集電体の双方に接触して設けられていることを意味する。
【0012】
本発明において、高分子材料が、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリパラフェニレン又はポリパラフェニレンビニレンのいずれかから選ばれることが好ましい。これら材料はいずれも、所定電圧以上で電気伝導率が上昇する材料であり、且つ、固体電池(単電池)が過充電状態となる前に、固体電池を適切に短絡させることができる材料だからである。
【0013】
本発明において、所定電圧が、固体電池の発電部に用いられる正極材料の酸化・還元電位よりも高い電位であることが好ましい。固体電池が過充電状態となる前に適切に固体電池を短絡させることができるとともに、適切に固体電池を充電することができるからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固体電池モジュールにおいて単電池毎に過充電防止部が備えられ、当該過充電防止部が、所定電圧以上で電気伝導率が上昇する高分子材料からなるとともに、単電池の一対の集電体の双方に接触するように設けられて、所定電圧以上において単電池を短絡させることができる。また、過充電防止部は、発電部の外周の少なくとも一部に備えられており、発電部における電気化学反応に影響を与えることがない。すなわち、本発明によれば、単電池毎の過充電制御が容易で、各単電池が過充電状態となることを適切に防止することが可能な固体電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る固体電池モジュールに備えられる固体電池(単電池)の形態を概略的に示す図である。
【図2】本発明に係る固体電池モジュールを概略的に示す図である。
【図3】比較例に係る固体電池(単電池)の形態を概略的に示す図である。
【図4】実施例及び比較例に係る固体電池の充放電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を、リチウム固体電池を積層してなる固体電池モジュールに適用した場合を中心に説明する。ただし、本発明は、この形態に限定されるものではなく、その他固体電池モジュールに適用することができる。以下、本発明に係る固体電池モジュールを構成するための固体電池(単電池)について説明し、その後、当該固体電池を積層してなる固体電池モジュールについて説明する。
【0017】
<固体電池10>
図1は、本発明に係る固体電池モジュールを構成するための、固体電池10の形態を概略的に示す図である。図1に示すように、固体電池10は、正極層1、負極層2及びこれらの間に介在する固体電解質層3を有する発電部4と、正極層1の集電を行う正極集電体5と、負極層2の集電を行う負極集電体6とを備えている。また、正極集電体5と負極集電体5との間(すなわち、一対の集電体の間)であって、発電部4の外周(積層方向側面)の少なくとも一部に、さらに、過充電防止部7が備えられている。
【0018】
(正極層1、負極層2)
固体電池10に備えられる正極層1及び負極層2は、活物質や電解質を含み、任意に導電助剤及び結着剤等を含んでなる層であり、それぞれ正極集電体5又は負極集電体6上に設けられて、正極又は負極を構成している。固体電池をリチウム固体電池とした場合、活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiV、Li1+xNi1/3Mn1/3Co1/3、LiMn、Li1+xMn2−x−y(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni、Znのいずれか)で表される異種元素置換Li−Mnスピネル、LiTiO、LiMPO(MはFe、Mn、Co、Niのいずれか)、V、MoO、TiS、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料、LiCoN、LiSi、リチウム金属又はリチウム合金(LiM、MはSn、Si、Al、Ge、Sb、P等のいずれか)、リチウム貯蔵性金属間化合物(MgM、MはSn、Ge、Sbのいずれか、或いは、NSb、NはIn、Cu、Mnのいずれか)や、これらの誘導体等を用いることができる。ここで、正極活物質と負極活物質には明確な区別はなく、2種類の化合物の充放電電位を比較して貴な電位を示すものを正極層1に、卑な電位を示すものを負極層2に用いて、任意の電圧のリチウム固体電池を構成することができる。また、固体電池がリチウム固体電池である場合、電解質としては、固体電解質が用いられる。具体的には、LiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B−ZnO等の酸化物系非晶質固体電解質、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P、LiS−P等の硫化物系非晶質固体電解質、或いは、LiI、LiI−Al、LiN、LiN−LiI−LiOH等や、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、Li1+x+yTi2−xSi3−y12(AはAl又はGa、0≦x≦0.4、0<y≦0.6)、[(B1/2Li1/21−z]TiO(BはLa、Pr、Nd、Smのいずれか、CはSr又はBa、0≦z≦0.5)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、LiPO(4−3/2w)(w<1)、Li3.6Si0.60.4等の結晶質酸化物・酸窒化物を用いることができる。一方、導電助剤としては、従来のものを特に限定されることなく用いることができ、例えば、アセチレンブラック等の炭素材料を用いることが好ましい。結着剤についても、従来のものを特に限定されることなく用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂やスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム性状樹脂等を用いることが好ましい。正極層1や負極層2に含まれる各物質の混合比については、固体電池10を適切に作動可能な比率であれば、特に限定されるものではない。例えば、質量比で、活物質:電解質:導電助剤:結着剤=99〜40:1〜50:0〜5:0〜5の混合比とすることができる。また、正極層1や負極層2は、後述する正極集電体5や負極集電体6上に、適切に形成されていれば、厚みや形状等は特に限定されるものではない。例えば、5〜500μm程度の厚みとすることができる。正極層1及び負極層2は、上記活物質等を含むペーストを正極集電体5、負極集電体6上にドクターブレード等によって塗布・乾燥することにより、或いは、粉体状の上記活物質等をプレス成型することにより、形成・作製することができる。尚、正極集電体5や負極集電体6上に正極ペースト或いは負極ペーストを塗布する場合、後述する過充電防止部7を形成するための未塗工部を集電体上に残しておくことが好ましい。
【0019】
(正極集電体5、負極集電体6)
正極集電体5及び負極集電体6は、固体電池10に適用できる集電体であれば、その材質等は特に限定されるものではない。例えば、金属箔や金属メッシュ、金属蒸着フィルム等を用いることができる。具体的には、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Zn、Ge、In、ステンレス鋼等の金属箔やメッシュ、或いは、ポリアミド、ポリイミド、PET、PPS、ポリプロピレンなどのフィルムやガラス、シリコン板等の上に上記金属を蒸着したもの等を用いることができる。正極集電体5及び負極集電体6の厚みや大きさは特に限定されるものではない。例えば、5〜500μm程度の厚みとすることができる。
【0020】
(固体電解質層4)
固体電池10に備えられる固体電解質層4は、固体電解質と任意に結着剤等を含む層である。固体電池10が、リチウム固体電池である場合には、固体電解質としては、上記した固体電解質を用いることができる。結着剤についても上記と同様のものを用いることができる。固体電解質層4に含まれる各物質の混合比については、固体電池10を適切に作動可能な比率であれば、特に限定されるものではない。例えば、質量比で、電解質:結着剤=100〜70:0〜30の混合比とすることができる。また、固体電解質層4は、正極層1及び負極層2の間に適切に設けられ、正極層1と負極層2との間のイオン伝導に寄与することができる形態であれば、厚みや形状等は特に限定されるものではない。例えば、0.1〜500μm程度の厚みとすることができる。固体電解質層4は、上記電解質等を含むペーストを正極層1或いは負極層2上にドクターブレード等によって塗布・乾燥することにより、或いは、粉体状の上記固体電解質等をプレス成型することにより、形成・作製することができる。
【0021】
(過充電防止部7)
過充電防止部7は、正極集電体5及び負極集電体6の間において、当該正極集電体5及び負極集電体6の双方に接触するように設けられるとともに、発電部4の外周に設けられている。過充電防止部7は、固体電池10が所定電圧以上となった場合において、電気伝導率が上昇し、固体電池10を意図的に短絡させることができる導電性高分子からなる。所定電圧とは固体電池10が過充電状態となる前の電圧であれば特に限定されるものではないが、例えば、固体電池10の充電率(SOC)が100%の場合における固体電池10の電圧をVとした場合において、1.05〜1.5V程度となる電圧を当該所定電圧とすることができる。また、当該所定電圧は、固体電池10の発電部4に用いられる正極材料(活物質等)の酸化・還元電位よりも高い電位であることが好ましい。固体電池10が過充電状態となる前に適切に固体電池10を短絡させることができるとともに、適切に固体電池10を充電することができるからである。
【0022】
過充電防止部7は、固体電池10が上記所定電圧未満の場合、電気伝導率が10−5S/cm以下程度であり、固体電池10が上記所定電圧以上となった場合、10−1S/cm以上程度に上昇するものが好ましい。
【0023】
過充電防止部7を構成する具体的な材料は、上記所定電圧以上において電気伝導率が上昇するような導電性の高分子材料であればよく、具体的には、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリパラフェニレン又はポリパラフェニレンビニレン等を用いることができる。このなかでもポリチオフェン、特にポリヘキシルチオフェンを用いることが好ましい。
【0024】
過充電防止部7は、例えば導電性高分子を適当な溶媒に溶解させてペーストとし、当該ペーストを上記正極集電体5或いは負極集電体6の上に塗布・乾燥することによって形成することができる。過充電防止部7の大きさは、固体電池10の過充電時において正極集電体5及び負極集電体6間を適切に短絡可能な程度の大きさであれば特に限定されるものではないが、例えば、正負極集電体5、6の表面において、正極層1等の塗布面積に対して1〜20%となる程度の面積を占めるように、ペーストが塗布・乾燥され、過充電防止部7が形成されることが好ましい。このようにすれば、十分な電池性能が得られるとともに、必要時に適切に短絡が行われ得る形態とすることができる。また、過充電防止部7を形成する位置については、正負極集電体5、6の双方に接触し、且つ、固体電池10の過充電時において正極集電体5及び負極集電体6間を適切に短絡可能な位置であり、図1に示されるように、発電部4の外周(側面)の少なくとも一部に、過充電防止部7を設ける形態とすればよい。このようにすれば、過充電防止部7が発電部の電気化学反応に悪影響を及ぼすことがなく、また、簡易な構成にて固体電池10を作製することができる。充電防止部7の厚みは発電部4の厚みと同等とすればよい。
【0025】
上記構成を備えた固体電池10は、例えば下記のように作製することができる。すなわち、まず、正極集電体5を用意し、その上に、過充電防止部7を形成するための未塗工部を残して、正極材料を含むペーストを塗布・乾燥させ、正極層1を形成する。このとき、未塗工部は、正極層1の外周の少なくとも一部に設ける。そして、当該正極層1の上に固体電解質等を含むペーストを塗布・乾燥させ、固体電解質層3を形成する。また、未塗工部に、過充電防止部7を構成する導電性高分子を含むペーストを塗布・乾燥させ、過充電防止部7を形成する。これにより、正極集電体5の上に正極層1、固体電解質層3が積層され、且つ、正極集電体5の上であって正極層1及び固体電解質層3の外側に、過充電防止部7が形成された状態となる。一方、負極集電体6を用意し、その上に、過充電防止部7を形成するための未塗工部を残して、負極材料を含むペーストを塗布・乾燥させ負極層2を形成する。このとき、未塗工部は、負極層2の外周の少なくとも一部に設ける。その後、過充電防止部7が負極集電体6の未塗工部に接するように、且つ、正極層1及び負極層2の間に固体電解質層4が配置されるように、正極集電体5と負極集電体6とを重ね合わせ、任意にプレス処理等を施すことによって、固体電池10を作製することができる。尚、固体電解質層3は、正極層1の上に形成される形態に限定されず、負極層2の上に形成されてもよい。また、過充電防止部7は正極集電体5の未塗工部に形成される形態に限定されず、負極集電体6の未塗工部に形成されてもよい。
【0026】
このように固体電池10は、一対の正負極集電体5、6の間に発電部4と過充電防止部7とを備えており、且つ、過充電防止部7が、所定電圧以上で電気伝導率が上昇する高分子材料からなるとともに、一対の正負極集電体6、7の双方に接触するように設けられているので、固体電池10が所定電圧以上にとなった場合に、過充電防止部7の導電性によって意図的に短絡を生じさせることができ、固体電池10が所定電圧以上に過充電されることを防止することができる。また、過充電防止部7は、発電部4の外周の少なくとも一部に備えられており、発電部4における電気化学反応に悪影響を及ぼすことがない。本発明に係る固体電池モジュールは、このような固体電池10が複数積層されてなる。
【0027】
<固体電池モジュール100>
図2は、固体電池10が複数積層されてなる固体電池モジュール100を概略的に示す外観斜視図である。尚、図2においては、電池ケース等を適宜省略して示している。固体電池モジュール100は、4つの固体電池10、10、10、10が直列に接続されつつ積層され、これが一つの電池ケース(不図示)内に収容されてなるものである。また、積層体の積層方向両端面に設けられた正極集電体5、負極集電体6は、外部に電気エネルギーを取り出し可能に形成されており、具体的には、積層体の集電を行うため積層面に接触するように設けられた集電部5a、6aと、電池ケースの外部に取り出される端子部5b、6bとを備えたものとされている。固体電池モジュール100においては、上述したように、各固体電池10、10、…に、過充電防止部7、7、…が設けられているので、各固体電池10、10、…が所定電圧以上となった場合、当該固体電池10、10、…が意図的に短絡されるように構成されている。従って、固体電池モジュール100においては、固体電池10、10、…毎に端子部5b、6b、…を設けずとも、固体電池10、10、…のそれぞれについて独立して過充電制御を行うことができる。すなわち、本発明に係る固体電池モジュール100によれば、固体電池10、10、…毎の過充電制御が容易で、各固体電池10、10、…が過充電状態となることを適切に防止することが可能な固体電池モジュールとすることができる。
【0028】
尚、上記説明においては、固体電池10を作製し、これを積層して固体電池モジュール100とする形態について説明したが、本発明に係る固体電池モジュールはこの形態に限定されるものではない。例えば、過充電防止部7を設けない固体電池を複数作製し、当該固体電池を直列に接続しつつ積層して積層体とし、さらに、当該積層体の積層方向側面から正負極集電体5、6、5、6、…間の隙間に、導電性高分子を含むペーストを塗布・乾燥させ、正負極集電体5、6、5、6、…間を接続するように、且つ、発電部4の外周の少なくとも一部に、過充電防止部7、7、…が形成された固体電池モジュール100とすることもできる。
【実施例】
【0029】
以下実施例に基づいて、本発明に係る固体電池モジュールを構成する固体電池(単電池)につき、さらに具体的に説明する。下記に示すように、実施例に係る固体電池と、比較例に係る固体電池とを用意し、それぞれの充放電特性を評価した。
【0030】
(実施例)
正極集電体としてのアルミニウム箔(50×50mm、厚み20μm)に、正極活物質としてのLiVと硫化物固体電解質としてのLiS−Pとを、質量比で、正極活物質:固体電解質=50:50となるように混合した正極材を、未塗工部(5×50mm)を残したうえで塗布し、正極層とした。未塗工部は正極層の外周の一部に設けた。さらに、塗工した正極層の上に、固体電解質:LiS−Pを塗布し、固体電解質層を形成した。続いて、上記未塗工部に、クロロホルム溶剤にポリヘキシルチオフェン(PHT)を溶解させてなるペースト(PHT濃度3wt%)を塗布し、乾燥させ、過充電防止部とした。乾燥後の正極層の厚みは50μm、固体電解質層の厚みは300μmであった。
【0031】
負極集電体としての銅箔(50×52mm、厚み15μm)に、負極活物質としてグラファイトを、未塗工部(5×52mm)を残したうえで塗布し、負極層とした。未塗工部は負極層の外周の一部に設けた。乾燥後の負極層の厚みは50μmであった。
【0032】
アルミニウム集電箔上に設けられたPHT塗工部分が、銅箔状の未塗工部に対向するように、且つ、正極層と負極層との間に固体電解質層が介在するように、上記アルミニウム箔と銅箔とを配設し、評価用の固体電池を作製した。
【0033】
(比較例)
PHTを塗工せず、図3に示されるような構成とした以外は、実施例に係る固体電池と同様に、評価用の固体電池を作製した。
【0034】
実施例及び比較例に係る固体電池の充放電特性を図4に示す。図4から明らかなように、電池容量を超えて充電を継続した場合、正・負極集電体間にPHTを介在させた実施例に係る固体電池においては、電圧が3.7V付近で飽和し、それ以上上昇していないのに対し、比較例に係る固体電池においては、4V以上まで電圧が上昇していることが分かる。これは、実施例に係る固体電池においては、PHTが3.7V付近で絶縁体から導電体に変化することで、電池電圧が3.7V以上では短絡状態となって充放電反応が進まなくなったためと考えられる。このように、本発明に係る固体電池は、電池容量を超えて充電を継続した場合であっても、過充電状態となることを防止することができる。したがって、本発明に係る固体電池を積層し固体電池モジュールとした場合であっても、単電池毎の過充電制御を容易に行うことができ、各単電池が過充電状態となることを適切に防止することができる。
【0035】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う固体電池モジュールもまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る固体電池モジュールは、携帯機器等の小型電源から、電気自動車、ハイブリッド車等の大型電源まで、様々な産業分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 正極層
2 負極層
3 固体電解質層
4 発電部
5 正極集電体
6 負極集電体
5a、6a 集電部
5b、6b 端子部
7 過充電防止部
10 固体電池
100 固体電池モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の集電体の間に発電部と過充電防止部とを備えた固体電池を、複数積層してなり、
前記過充電防止部が、所定電圧以上で電気伝導率が上昇する高分子材料からなり、且つ、前記発電部の外周の少なくとも一部に設けられるとともに、前記一対の集電体の双方に接触するように設けられている、固体電池モジュール。
【請求項2】
前記高分子材料が、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリパラフェニレン又はポリパラフェニレンビニレンのいずれかから選ばれる、請求項1に記載の固体電池モジュール。
【請求項3】
前記所定電圧が、前記固体電池の前記発電部に用いられる正極材料の酸化・還元電位よりも高い電位である、請求項1又は2に記載の固体電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−142040(P2011−142040A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2910(P2010−2910)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】