説明

固体電解質型燃料電池システム

【課題】燃料電池の燃料枯れを防止しながら燃料使用量を削減することができる固体電解質型燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池モジュールと、需要電力に基づいて指令電流Isを設定する指令電力設定部と、設定された指令電流Isを生成できるように、燃料流量調整ユニット及び空気流量調整ユニットを制御し、生成された電力をインバータへ出力させる制御部と、を有し、制御部は、各時刻において燃料電池モジュールに供給される燃料供給量Fが、常に、その時刻において燃料電池モジュールからインバータへ出力される実発電電力に対応した基準燃料供給量F0以上になり、且つ燃料供給量Fと基準燃料供給量F0の差である燃料オフセットが固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化するように燃料流量調整ユニットを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、特に、電解質として酸化物イオン導電性固体電解質を用いた固体電解質型燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下「SOFC」とも言う)は、電解質として酸化物イオン導電性固体電解質を用い、その両側に電極を取り付け、一方の側に燃料ガスを供給し、他方の側に酸化剤(空気、酸素等)を供給して、比較的高温で発電反応を生じさせて発電を行う燃料電池である。
【0003】
このSOFCにおいては、酸化物イオン導電性固体電解質を通過した酸素イオンと燃料との反応によって水蒸気又は二酸化炭素を生成し、電気エネルギー及び熱エネルギーが発生する。電気エネルギーは、SOFC外部に取り出されて、各種電気的用途に使用される。一方、熱エネルギーは、燃料、SOFC及び酸化剤等に伝達され、これらの温度上昇に使用される。
【0004】
従来のSOFCは発電電力が一定に保たれた状態で運転されるのが一般的であったが、夜間に電気需要が殆どない施設や昼夜の電気需要が大きく変化する施設などへSOFCを設置する場合には、需要電力に応じて発電電力を変化させる必要がある。
このように、需要電力に応じて発電電力を変化させるSOFC等の燃料電池として、例えば特許文献1に記載されたものが提案されている。
【0005】
特許文献1に記載の燃料電池では、例えば需要電力が増加した場合には、一定の増加速度または減少速度で燃料供給量を増加させる。このとき、供給された燃料が改質器によって改質ガスに改質されて燃料電池セルに到達するまでには、ある程度の時間を要する。そこで、燃料を供給してから改質ガスが燃料電池セルに到達するまでに要する時間として一定の遅れ時間を予め設定し、燃料供給量を増加または減少させてから遅れ時間の経過後に、燃料電池から取り出す発電電力の増加を指示している。
【0006】
ここで、燃料電池は、通常の電池とは異なり電気化学反応によって発電電力を得る。このため、例えば適切な発電電力よりも多くの発電電力の出力を要求した場合にも、燃料電池の発電状態にかかわらず要求した発電電力を取り出せてしまうという燃料電池特有の性質がある。その結果、燃料電池内の燃料が不足するという「燃料枯れ」が起こる場合がある。燃料枯れが生じると、燃料電池セルが劣化して燃料電池の耐久性が低下してしまうという問題が生じる。
そこで、上記のような従来の燃料電池においては、燃料電池セルを劣化させない範囲で燃料電池を運転すべく、燃料供給量の増減速度及び遅れ時間を、燃料電池の安全な運転を確保できる予め設定された一定値に常に設定して、燃料枯れが発生しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−307163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、燃料電池において燃料枯れの発生を防止する別の方法として、要求される発電電力を得るのに必要とされる燃料供給量に余剰の燃料を増量する、燃料オフセットを設けることも考えられる。しかしながら、従来の燃料オフセットの設定では、燃料電池セルを劣化させない範囲で燃料電池を運転すべく、燃料電池のあらゆる運転条件において常に燃料電池の安全な運転を確保できるような、常に一定量の燃料オフセットを設定している。このため、燃料電池の運転状態によっては、燃料供給量が過剰に供給されて無駄が生じ、燃料が効率的に使用されない。
【0009】
本発明の目的は、燃料電池の燃料枯れを防止しながら、燃料使用量を削減することができる固体電解質型燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の固体電解質型燃料電池システムは、燃料と発電用の酸化剤ガスを反応させることにより、需要電力に基づいて可変の電力を発生する固体電解質型燃料電池システムであって、複数の固体電解質型燃料電池セルを備えた燃料電池モジュールと、燃料電池モジュールに燃料を供給する燃料供給手段と、燃料電池モジュールに発電用の酸化剤ガスを供給する発電用酸化剤ガス供給手段と、燃料電池モジュールによって発電された電力を受け入れ、交流に変換するインバータと、需要電力に基づいて、燃料電池モジュールが発電すべき指令電力を設定する指令電力設定部と、この指令電力設定部により設定された指令電力を生成できるように、燃料供給手段及び発電用酸化剤ガス供給手段を制御すると共に、燃料電池モジュールにおいて生成された電力をインバータへ出力させる制御部と、を有し、制御部は、インバータに指令を与えて燃料電池モジュールから実発電電力を取り出すと共に、各時刻において燃料電池モジュールに供給される燃料供給量が、常に、その時刻における実発電電力に対応した基準燃料供給量以上になり、且つ燃料供給量と基準燃料供給量の差である燃料余裕量が固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化するように燃料供給手段を制御することを特徴としている。
【0011】
このように構成された本発明においては、制御部が、燃料余裕量が固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化するように燃料供給手段を制御するので、例えば需要電力が増加して実発電電力を需要電力に追従させる場合には、燃料余裕量を大きく設定することによって、指令電力を速やかに増加させても燃料枯れ及び燃料電池セルの劣化が防止され、固体電解質型燃料電池システムの耐久性の低下を防止することが可能になる。
【0012】
また、例えば減少する需要電力に追従させて指令電力を減少させる場合には、燃料を減少させる方向であるので、燃料余裕量を大きく設定する必要がない。したがって、このような場合には、例えば燃料余裕量を小さく設定すれば、燃料の消費量を必要最小限に抑制することができ、燃料使用量を節約することができる。
このように、燃料余裕量を固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化させるようになっているので、燃料枯れの防止と燃料使用量の削減の両立を図ることが可能となる。
【0013】
本発明において、好ましくは、制御部は、燃料余裕量が、常に一定の固定オフセット部分と、固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化される可変オフセット部分から構成されるように、燃料供給手段を制御する。
【0014】
このように構成された本発明においては、燃料余裕量が、基準燃料供給量に対する燃料の増量分として設定される燃料オフセットの形態で設定され、この燃料オフセットが、常に一定の固定オフセット部分を有しているので、固体電解質型燃料電池システムに常に一定量の燃料余裕量が確保される。よって、指令電力が多少変動したり、各固体電解質型燃料電池セルの性能の個体差によって必要な燃料量にばらつきが生じた場合でも、固定オフセット部分で必要燃料供給量の不足分を吸収することも可能となるから、固体電解質型燃料電池システムの燃料枯れが確実に防止される。また、可変オフセット部分によって固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて燃料余裕量を変化させるので、燃料枯れが防止されるとともに、燃料使用量が必要最小限に抑制される。
【0015】
本発明において、好ましくは、制御部は、固体電解質型燃料電池システムの外部環境に応じて燃料余裕量が変化されるように、燃料供給手段を制御する。
このように構成された本発明においては燃料余裕量が、固体電解質型燃料電池システムの外部環境に応じて変化するので、例えば外気温や湿度等の外部環境の変化が固体電解質型燃料電池セルの発電効率に及ぼす影響を小さくすることが可能になる。
【0016】
本発明において、好ましくは、制御部は、外気温が低い場合には、外気温が高い場合よりも燃料余裕量が大きくなるように、燃料供給手段を制御する。
このように構成された本発明においては、外気温が低い場合には、外気温が高い場合よりも燃料余裕量を大きく設定する。ここで、外気温が低い場合には、固体電解質型燃料電池セルの放熱が増えるとともに、燃料ガス・酸化剤ガスの温度低下によって固体電解質型燃料電池セルの温度も低くなるため、外気温が高い場合に比べて、固体電解質型燃料電池セルにおける発電効率が悪く、また固体電解質型燃料電池セルの良好な発電効率を得るために温度を上昇させるのにより時間がかかる。一方、外気温が高い場合には、固体電解質型燃料電池セルの温度を上昇させるのも比較的容易となる。本発明においては、外気温が低い場合には、外気温が高い場合よりも多くの燃料余裕量を設定するので、燃料電池モジュールの温度上昇を助け、発電効率の向上、安定を図ることが可能になる。これにより、固体電解質型燃料電池システムの燃料枯れを防止しながら、追従性を向上させることができる。また、外気温が高い場合には、低い場合よりも少ない燃料余裕量が設定されるので、燃料使用量が節約される。これにより、燃料枯れの防止と、燃料使用量の節約の両立を図ることが可能になる。
【0017】
本発明において、好ましくは、制御部は、固体電解質型燃料電池セルの温度が低い場合には、固体電解質型燃料電池セルの温度が高い場合よりも燃料余裕量が大きくなるように、燃料供給手段を制御する。
このように構成された本発明においては、固体電解質型燃料電池セルの温度が低い場合に、固体電解質型燃料電池セルの温度が高い場合よりも燃料余裕量が大きくなるように制御する。ここで、通常、固体電解質型燃料電池セルの温度が低いと、固体電解質型燃料電池セルにおける発電効率が悪くなるが、本発明のような制御を行うことにより、迅速に固体電解質型燃料電池セルの発電効率の向上、安定を図ることが可能になるとともに、この場合にも燃料枯れの発生が防止される。また、固体電解質型燃料電池セルの温度に応じて燃料余裕量を可変に制御するので、固体電解質型燃料電池システム自体の運転状態をより直接的に把握することができ、より精度の高い燃料余裕量の制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムの燃料電池モジュールを示す正面断面図である。
【図3】図2のIII-III線に沿った断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムの燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムの燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
【図6】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムを示すブロック図である。
【図7】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムの起動時の動作を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムの運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
【図9】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおける燃料供給量の設定動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおける指令電流に対する燃料供給量の推移の例を示すタイムチャートである。
【図11】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおける指令電流に対する燃料供給量の推移の別の例を示すタイムチャートである。
【図12】本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおける燃料供給制御特性を示す図である。
【図13】本発明の第2実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおける指令電流に対する燃料供給量の推移の例を示すタイムチャートである。
【図14】本発明の第2実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおける指令電流に対するインバータ許可電流の推移の例を示すタイムチャートである。
【図15】本発明の第2実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおける指令電流に対するインバータ許可電流の推移の別の例を示すタイムチャートである。
【図16】本発明の第2実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおける指令電流に対するインバータ許可電流の推移のさらに別の例を示すタイムチャートである。
【図17】本発明の第3実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおけるインバータ許可電流の設定動作を示すフローチャートである。
【図18】本発明の変形例による固体電解質型燃料電池システムにおける指令電流に対する燃料供給量の推移例を示すタイムチャートである。
【図19】本発明の変形例による固体電解質型燃料電池システムにおける燃料供給量の設定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)システムを説明する。なお、第2実施形態以降では、第1実施形態と同様の構成には、図面に第1実施形態と同一符号を付し、その説明を簡略化または省略する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示す全体構成図である。この図1に示すように、本発明の第1実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
【0021】
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱材(図示せず)を介して密封空間8が形成されている。なお、断熱材は設けないようにしても良い。この密閉空間8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(図5参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
【0022】
燃料電池モジュール2の密封空間8の上述した発電室10の上方には、燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。
また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置され、上述した残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、燃焼熱を受けて空気を加熱するための空気用熱交換器22が配置されている。
【0023】
次に、補機ユニット4は、水道等の水供給源24からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料ガスを遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38(モータで駆動される「燃料ポンプ」等)を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤である空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44(モータで駆動される「空気ブロア」等)及び発電用空気流量調整ユニット45(モータで駆動される「空気ブロア」等)と、改質器20に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
【0024】
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。
また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。
さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
【0025】
次に、図2及び図3により、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールの内部構造を説明する。図2は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図2及び図3に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内の密閉空間8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
【0026】
改質器20は、その上流端側に純水を導入するための純水導入管60と改質される燃料ガスと改質用空気を導入するための被改質ガス導入管62が取り付けられ、また、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20aと改質部20bを形成され、改質部20bには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気(純水)が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。改質触媒としては、アルミナの球体表面にニッケルを付与したものや、アルミナの球体表面にルテニウムを付与したものが適宜用いられる。
【0027】
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホールド66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。
【0028】
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
【0029】
次に、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。この空気用熱交換器22は、上流側に空気集約室70、下流側に2つの空気分配室72を備え、これらの空気集約室70と空気分配室72は、6個の空気流路管74により接続されている。ここで、図3に示すように、3個の空気流路管74が一組(74a,74b,74c,74d,74e,74f)となっており、空気集約室70内の空気が各組の空気流路管74からそれぞれの空気分配室72へ流入する。
【0030】
空気用熱交換器22の6個の空気流路管74内を流れる空気は、燃焼室18で燃焼して上昇する排気ガスにより予熱される。
空気分配室72のそれぞれには、空気導入管76が接続され、この空気導入管76は、下方に延び、その下端側が、発電室10の下方空間に連通し、発電室10に余熱された空気を導入する。
【0031】
次に、マニホールド66の下方には、排気ガス室78が形成されている。また、図3に示すように、ハウジング6の長手方向に沿った面である前面6aと後面6bの内側には、上下方向に延びる排気ガス通路80が形成され、この排気ガス通路80の上端側は、空気用熱交換器22が配置された空間と連通し、下端側は、排気ガス室78と連通している。
また、排気ガス室78の下面のほぼ中央には、排気ガス排出管82が接続され、この排気ガス排出管82の下流端は、図1に示す上述した温水製造装置50に接続されている。
図2に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。
【0032】
次に図4により燃料電池セルユニット16について説明する。図4は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。この内側電極層90は、燃料ガスが通過する燃料極であり、(−)極となり、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であり、(+)極となっている。
【0033】
燃料電池セル16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が形成されている。
【0034】
内側電極層90は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体、の少なくとも一種から形成される。
【0035】
電解質層94は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレート、の少なくとも一種から形成される。
【0036】
外側電極層92は、例えば、Sr、Caから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀、などの少なくとも一種から形成される。
【0037】
次に図5により燃料電池セルスタック14について説明する。図5は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
図5に示すように、燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16を備え、これらの燃料電池セルユニット16の下端側及び上端側が、それぞれ、セラミック製の下支持板68及び上支持板100により支持されている。これらの下支持板68及び上支持板100には、内側電極端子86が貫通可能な貫通穴68a及び100aがそれぞれ形成されている。
【0038】
さらに、燃料電池セルユニット16には、集電体102及び外部端子104が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と電気的に接続される燃料極用接続部102aと、空気極である外側電極層92の外周面全体と電気的に接続される空気極用接続部102bとにより一体的に形成されている。空気極用接続部102bは、外側電極層92の表面を上下方向に延びる鉛直部102cと、この鉛直部102cから外側電極層92の表面に沿って水平方向に延びる多数の水平部102dとから形成されている。また、燃料極用接続部102aは、空気極用接続部102bの鉛直部102cから燃料電池セルユニット16の上下方向に位置する内側電極端子86に向って斜め上方又は斜め下方に向って直線的に延びている。
【0039】
さらに、燃料電池セルスタック14の端(図5では左端の奥側及び手前側)に位置する2個の燃料電池セルユニット16の上側端及び下側端の内側電極端子86には、それぞれ外部端子104が接続されている。これらの外部端子104は、隣接する燃料電池セルスタック14の端にある燃料電池セルユニット16の外部端子104(図示せず)に接続され、上述したように、160本の燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されるようになっている。
【0040】
次に図6により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)に取り付けられたセンサ類等について説明する。図6は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示すブロック図である。
図6に示すように、固体電解質型燃料電池1は、制御部110を備え、この制御部110には、使用者が操作するための「ON」や「OFF」等の操作ボタンを備えた操作装置112、発電出力値(ワット数)等の種々のデータを表示するための表示装置114、及び、異常状態のとき等に警報(ワーニング)を発する報知装置116が接続されている。
なお、この報知装置116は、遠隔地にある管理センタに接続され、この管理センタに異常状態を通知するようなものであっても良い。
【0041】
次に、制御部110には、以下に説明する種々のセンサからの信号が入力されるようになっている。
先ず、可燃ガス検出センサ120は、ガス漏れを検知するためのもので、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4に取り付けられている。
CO検出センサ122は、本来排気ガス通路80等を経て外部に排出される排気ガス中のCOが、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4を覆う外部ハウジング(図示せず)へ漏れたかどうかを検知するためのものである。
貯湯状態検出センサ124は、図示しない給湯器におけるお湯の温度や水量を検知するためのものである。
【0042】
電力状態検出センサ126は、インバータ54及び分電盤(図示せず)の電流及び電圧等を検知するためのものである。
発電用空気流量検出センサ128は、発電室10に供給される発電用空気の流量を検出するためのものである。
改質用空気流量センサ130は、改質器20に供給される改質用空気の流量を検出するためのものである。
燃料流量センサ132は、改質器20に供給される燃料ガスの流量を検出するためのものである。
【0043】
水流量センサ134は、改質器20に供給される純水(水蒸気)の流量を検出するためのものである。
水位センサ136は、純水タンク26の水位を検出するためのものである。
圧力センサ138は、改質器20の外部の上流側の圧力を検出するためのものである。
排気温度センサ140は、温水製造装置50に流入する排気ガスの温度を検出するためのものである。
【0044】
発電室温度センサ142は、図3に示すように、燃料電池セル集合体12の近傍の前面側と背面側に設けられ、燃料電池セルスタック14の近傍の温度を検出して、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の温度を推定するためのものである。
燃焼室温度センサ144は、燃焼室18の温度を検出するためのものである。
排気ガス室温度センサ146は、排気ガス室78の排気ガスの温度を検出するためのものである。
改質器温度センサ148は、改質器20の温度を検出するためのものであり、改質器20の入口温度と出口温度から改質器20の温度を算出する。
外気温度センサ150は、固体電解質型燃料電池(SOFC)が屋外に配置された場合、外気の温度を検出するためのものである。また、外気の湿度等を測定するセンサを設けるようにしても良い。
【0045】
これらのセンサ類からの信号は、制御部110に送られ、制御部110は、これらの信号によるデータに基づき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38、改質用空気流量調整ユニット44、発電用空気流量調整ユニット45に、制御信号を送り、これらのユニットにおける各流量を制御するようになっている。
また、制御部110は、インバータ54に、制御信号を送り、電力供給量を制御するようになっている。
【0046】
次に図7により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)による起動時の動作を説明する。図7は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の起動時の動作を示すタイムチャートである。
最初は、燃料電池モジュール2を温めるために、無負荷状態で、即ち、燃料電池モジュール2を含む回路を開いた状態で、運転を開始する。このとき、回路に電流が流れないので、燃料電池モジュール2は発電を行わない。
【0047】
先ず、改質用空気流量調整ユニット44から改質用空気を第1ヒータ46を経由して燃料電池モジュール2の改質器20へ供給する。また、同時に、発電用空気流量調整ユニット45から発電用空気を第2ヒータ48を経由して燃料電池モジュール2の空気用熱交換器22へ供給し、この発電用空気が、発電室10及び燃焼室18に到達する。
この直ぐ後、燃料流量調整ユニット38からも燃料ガスが供給され、改質用空気が混合された燃料ガスが、改質器20及び燃料電池セルスタック14、燃料電池セルユニット16を通過して、燃焼室18に到達する。
【0048】
次に、点火装置83により着火して、燃焼室18にある燃料ガスと空気(改質用空気及び発電用空気)とを燃焼させる。この燃料ガスと空気との燃焼により排気ガスが生じ、この排気ガスにより、発電室10が暖められ、また、排気ガスが燃料電池モジュール2の密封空間8内を上昇する際、改質器20内の改質用空気を含む燃料ガスを暖めると共に、空気熱交換器22内の発電用空気も暖める。
【0049】
このとき、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、改質用空気が混合された燃料ガスが改質器20に供給されているので、改質器20において、式(1)に示す部分酸化改質反応POXが進行する。この部分酸化改質反応POXは、発熱反応であるので、起動性が良好となる。また、この昇温した燃料ガスが燃料ガス供給管64により燃料電池セルスタック14の下方に供給され、これにより、燃料電池セルスタック14が下方から加熱され、また、燃焼室18も燃料ガスと空気が燃焼して昇温されているので、燃料電池セルスタック14は、上方からも加熱され、この結果、燃料電池セルスタック14は、上下方向において、ほぼ均等に昇温可能となっている。この部分酸化改質反応POXが進行しても、燃焼室18では継続して燃料ガスと空気との燃焼反応が持続される。
【0050】
mn+xO2 → aCO2+bCO+cH2 (1)
【0051】
部分酸化改質反応POXの開始後、改質器温度センサ148により改質器20が所定温度(例えば、600℃)になったことを検知したとき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、燃料ガスと改質用空気と水蒸気とを予め混合したガスを改質器20に供給する。このとき、改質器20においては、上述した部分酸化改質反応POXと後述する水蒸気改質反応SRとが併用されたオートサーマル改質反応ATRが進行する。このオートサーマル改質反応ATRは、熱的に内部バランスが取れるので、改質器20内では熱的に自立した状態で反応が進行する。即ち、酸素(空気)が多い場合には部分酸化改質反応POXによる発熱が支配的となり、水蒸気が多い場合には水蒸気改質反応SRによる吸熱反応が支配的となる。この段階では、既に起動の初期段階は過ぎており、発電室10内がある程度の温度まで昇温されているので、吸熱反応が支配的であっても大幅な温度低下を引き起こすことはない。また、オートサーマル改質反応ATRが進行中も、燃焼室18では燃焼反応が継続して行われている。
【0052】
式(2)に示すオートサーマル改質反応ATRの開始後、改質器温度センサ146により改質器20が所定温度(例えば、700℃)になったことを検知したとき、改質用空気流量調整ユニット44による改質用空気の供給を停止すると共に、水流量調整ユニット28による水蒸気の供給を増加させる。これにより、改質器20には、空気を含まず燃料ガスと水蒸気のみを含むガスが供給され、改質器20において、式(3)の水蒸気改質反応SRが進行する。
【0053】
mn+xO2+yH2O → aCO2+bCO+cH2 (2)
mn+xH2O → aCO2+bCO+cH2 (3)
【0054】
この水蒸気改質反応SRは吸熱反応であるので、燃焼室18からの燃焼熱と熱バランスをとりながら反応が進行する。この段階では、燃料電池モジュール2の起動の最終段階であるため、発電室10内が十分高温に昇温されているので、吸熱反応が進行しても、発電室10が大幅な温度低下を招くこともない。また、水蒸気改質反応SRが進行しても、燃焼室18では継続して燃焼反応が進行する。
【0055】
このようにして、燃料電池モジュール2は、点火装置83により点火した後、部分酸化改質反応POX、オートサーマル改質反応ATR、水蒸気改質反応SRが、順次進行することにより、発電室10内の温度が徐々に上昇する。次に、発電室10内及び燃料電池セル84の温度が燃料電池モジュール2を安定的に作動させる定格温度よりも低い所定の発電温度に達したら、燃料電池モジュール2を含む回路を閉じ、燃料電池モジュール2による発電を開始し、それにより、回路に電流が流れる。燃料電池モジュール2の発電により、燃料電池セル84自体も発熱し、燃料電池セル84の温度も上昇する。この結果、燃料電池モジュール2を作動させる定格温度、例えば、600℃〜800℃になる。
【0056】
この後、定格温度を維持するために、燃料電池セル84で消費される燃料ガス及び空気の量よりも多い燃料ガス及び空気を供給し、燃焼室18での燃焼を継続させる。なお、発電中は、改質効率の高い水蒸気改質反応SRで発電が進行する。
【0057】
次に、図8により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を説明する。図8は、本実施形態により固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
図8に示すように、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、先ず、燃料流量調整ユニット38及び水流量調整ユニット28を操作して、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させる。
【0058】
また、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させると同時に、改質用空気流量調整ユニット44による発電用空気の燃料電池モジュール2内への供給量を増大させて、燃料電池セル集合体12及び改質器20を空気により冷却し、これらの温度を低下させる。その後、発電室温度が所定温度、例えば、400℃まで低下したとき、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給を停止し、改質器20の水蒸気改質反応SRを終了する。この発電用空気の供給は、改質器20の温度が所定温度、例えば、200℃まで低下するまで、継続し、この所定温度となったとき、発電用空気流量調整ユニット45からの発電用空気の供給を停止する。
【0059】
このように、本実施形態においては、燃料電池モジュール2の運転停止を行うとき、改質器20による水蒸気改質反応SRと発電用空気による冷却とを併用しているので、比較的短時間に、燃料電池モジュールの運転を停止させることができる。
【0060】
ここで、本実施形態においては、前述の図1及び図6に示すように、インバータ54は、本実施形態の固体電解質型燃料電池システム1が設置される家庭等の施設56に接続されている。施設56には、固体電解質型燃料電池システム1とは別に、家庭用電源等の商用電源58も接続されており、商用電源58からも施設56に電力が供給されるようになっている。
【0061】
なお、本実施形態においては、固体電解質型燃料電池(SOFC)1によって固体電解質型燃料電池システム1が構成されている。また、本発明における発電用の酸化剤ガスは、本実施形態において酸化剤(空気)であり、本発明における燃料供給手段は、本実施形態において、燃料供給源30、ガス遮断弁32、脱硫器36、及び燃料流量調整ユニット38を備えて構成される。本発明における発電用酸化剤ガス供給手段は、本実施形態において、空気供給源40、電磁弁42、発電用空気流量調整ユニット45、及び第2ヒータ48を備えて構成される。
【0062】
更に、図6に示すように、固体電解質型燃料電池システム1は、施設56が必要とする需要電力(負荷)Pから決定された固体電解質型燃料電池システム1の要求電力に基づいて、固体電解質型燃料電池システム1が発電すべき電流量である指令電流Isを設定する、指令電力設定部としての指令電流設定部111を備える。
【0063】
ここで、本実施形態による固体電解質型燃料電池システム1が発生する電力は、住宅等の施設56が必要とする需要電力Pに基づいて制御されるが、需要電力Pが固体電解質型燃料電池システム1により発生させることができる最大定格電力を超えている場合には、不足分は商用電源58の電力(系統電力)から供給される。従って、需要電力Pから最大定格電力を超える部分を除いた電力が、固体電解質型燃料電池システム1に対する要求電力となる。また、要求電力は時間的な変動が激しいため、固体電解質型燃料電池システム1が発生する電力がこれに完全に追従することは困難である。このため、固体電解質型燃料電池システム1(燃料電池モジュール2)が生成する電力は、需要電力Pの変動を追従可能な程度に抑制した指令電力を目標値として制御される。さらに、燃料供給量等を指令電力に基づいて制御した場合においても、燃料電池モジュール2内で実際に電力を生成するには時間を要するので、制御部110がインバータ54に指令を出すことにより燃料電池モジュール2からインバータ54に実際に取り出される実発電電力は、指令電力に対して時間遅れがある。
なお、本実施形態においては、固体電解質型燃料電池システム1は、インバータ54の出力電圧が100V一定になるように作動するので、上述した需要電力、最大定格電力、指令電力、実発電電力は、夫々、需要電流、最大定格電流、指令電流、実発電電流に比例する。また、本実施形態の固体電解質型燃料電池システム1は、形式的にこれらの電流値に基づいて制御が行われているが、固体電解質型燃料電池システム1は、これらの「電流」を「電力」と置き換えても同様の制御を実施することができる。
【0064】
指令電流設定部111は、所定時間毎(例えば1秒毎)に需要電力Pを監視し、需要電力Pが全体として増加傾向にあったり、需要電力Pの傾向に対して要求電力が増加し、これに伴ってインバータ54へ出力される実発電電力Prを増加させる必要がある場合等には、指令電流Isを一定の増加率(例えば2A/min)で増加させるようになっている。また、需要電力Pが全体として減少傾向にあったり、需要電力Pの傾向に対して実発電電力Prが上回る場合等には、指令電流Isを需要電力Pに対応した値に設定するようになっている。そして、需要電力Pの傾向が全体として安定している場合や、実発電電力Prが固体電解質型燃料電池システム1の設定最大発電電力(例えば700W)に達した場合等には、指令電流Isを前回の指令電流Is-1と同じ値に設定するようになっている。
【0065】
制御部110は、指令電流設定部111で設定した指令電流Isに基づいて、インバータ54に実発電電力Prの取り出しを許可するインバータ許可電流Isinvの制御信号を送り、施設56に供給する電力供給量を制御するようになっている。なお、本実施形態による固体電解質型燃料電池システム1では、インバータ許可電流Isinvは、通常、実発電電流Irに対応する値となる。
【0066】
次に、施設56の需要電力に対応して、本実施形態による固体電解質型燃料電池システム1において、インバータ54で燃料電池モジュール2から取り出される実発電電流Irを変更して負荷追従するときの運転状態を説明する。
【0067】
本実施形態による固体電解質型燃料電池システム1は、以下に説明するように、固体電解質型燃料電池システム1に供給する燃料供給量Fを、指令電流Isの変化に応じて増大又は減少させて、要求された負荷に追従することができるようになっている。
燃料供給量Fは、インバータ54へ出力される実発電電流Irに対応した基準燃料供給量F0に、余剰の燃料供給量を燃料オフセットαとして加算して設定されるようになっている。基準燃料供給量F0は、インバータ許可電流Isinvまたは実発電電流Irを得るために固体電解質型燃料電池セル84において消費される必要燃料量と、改質器20を、改質反応が可能な温度に維持する燃焼熱を得るために燃焼室18において燃焼される燃料量との合計燃料量であり、即ち実発電電流Irを得るために必要な固体電解質燃料電池システム1全体における燃料量である。なお、基準燃料供給量F0は、インバータ許可電流Isinvまたは実発電電流Irを得るために固体電解質型燃料電池セル84において過不足なく消費される必要燃料量であって、燃料の全てが余らずに発電に使用されたときに得られる電流が、インバータ許可電流Isinvまたは実発電電流Irとなる場合の燃料量として設定してもよい。本実施形態において、この基準燃料供給量F0は、実発電電流Ir(インバータ許可電流Isinv)に対して予め決定されている。
【0068】
ここで、例えば需要電力Pが増大することによって指令電流Isが増大し、より多くの燃料ガスが必要となった場合に、増量された燃料ガスが改質器20で改質されて燃料電池モジュール2に到達するには、ある程度の時間が必要となる。十分な燃料ガスが供給されないうちに、インバータ54によって、増量した燃料ガスに対応した実発電電流の取り出しを行うと、燃料電池セル84において燃料ガスが足りなくなる「燃料枯れ」が発生する可能性がある。そこで、本実施形態では、基準燃料供給量F0に対して燃料オフセットαを加算することにより、燃料余裕量を設けて、燃料枯れを防止している。
【0069】
燃料オフセットαは、常に一定の固定量である固定オフセット部分α1と可変量の可変オフセット部分α2とで構成されている。固定オフセット部分α1は、固体電解質型燃料電池システム1の燃料電池セル84の発電効率等の個体差や指令電流Isの増減速度等を考慮して、指令電流Isの値や変化率にかかわらず、常に予め決定された一定量に設定されている。
【0070】
可変オフセット部分α2は、固体電解質型燃料電池システム1の運転状態に応じて変化するように設定されており、本実施形態では、指令電流の変化率に応じて変化するように設定されている。ここで、指令電力の変化率kとは、第1の電流である、その時刻における指令電流と、第2の電流である、過去に設定された指令電流との時間当たりの電流の変化であり、本実施形態では、指令電流の変化率kは、現在の指令電流とIs、前回の指令電流Is-1との時間当たりの変化であり、A/secの単位で表される。本実施形態では、具体的には、現在の指令電流Isと前回の指令電流Is-1との間の指令電流の変化率kが正である場合、可変オフセット部分α2は、一定の所定量F1に設定されている。したがって、燃料オフセットαは、α=α1+α2=α1+F1となる。
また、指令電流の変化率kが0である場合には、可変オフセット部分α2は0に設定されている。したがって、燃料オフセットαは、α=α1+α2=α1となる。
さらに、指令電流の変化率kが負である場合、可変オフセット部分α2は、燃料供給量Fが一定の減少率(例えば2A/min)で減少する電流に対応する減少率で減少するように設定されている。
【0071】
なお、本実施形態では、指令電流の変化率kに変化が生じた場合、例えば指令電流Isが一定の増加率で増加している状態(変化率kが正の状態)から指令電流Isが一定となった状態(変化率kが0の状態)へ移行した場合や、指令電流Isが一定である状態(変化率kが0の状態)から指令電流Isが減少する状態(変化率kが負の状態)へ移行した場合等には、固体電解質型燃料電池システム1の運転状態が過渡期であると判断して、可変オフセット部分α2の補正(過渡補正)を行うようになっている。
本実施形態では、指令電流の変化率kが0の状態となる場合、つまり指令電流Isが前回の指令電流Is-1と同じ値に設定される場合、指令電流の変化率kが0となってから最初の所定時間(例えば10秒)、可変オフセット部分α2を0ではなく、所定の固定量F1に設定するようになっている。このように、指令電流Isが一定の値で安定するまでは可変オフセット部分α2を固定値F1に設定することにより、固体電解質型燃料電池システム1の運転状態が過渡期にあるときの燃料ガス不足を防止することができる。
【0072】
さらに、指令電流Isが所定値(例えば3A)以上減少した場合には、前回の燃料供給量Fを所定時間(例えば2秒間)維持する補正を行うように設定されている。このように指令電流Isが比較的急激に減少する場合には、次の指令電流Is+1が急激に上昇する場合がある。そこで、このように前回の燃料供給量Fを所定時間維持するように設定することにより、次回の指令電流Is+1が急激に上昇(回復)してより多くの燃料ガスを必要とする場合でも、燃料電池セル84において燃料ガス不足となるのを防止することができる。
【0073】
次に、以上のような構成の第1実施形態による固体電解質型燃料電池システム1の動作を説明する。
まず、施設56の需要電力Pから、固体電解質型燃料電池システム1から施設56に供給する必要がある要求電力が決定され、この要求電力に基づいて、指令電流設定部111が、所定時間毎(例えば1秒毎)に指令電流Isを設定する。本実施形態では、前述のように、指令電流Isは、前回の指令電流Is-1を一定の増加率(例えば2A/min)で増加させた値か、前回の指令電流Is-1と同じか、現在の要求電力に応じた値のいずれかに設定される。
【0074】
次に、設定された指令電流Isに対して燃料ガスの燃料供給量Fを設定する制御について説明する。
図9は、本実施形態による固体電解質型燃料電池システム1の燃料供給量Fの設定動作を示すフローチャートである。
まず、制御部110は、ステップS11において、前回の指令電流Is-1と今回の指令電流Isとの変化率kを算出する。
【0075】
次に、ステップS12において、指令電流の変化率kが正であるか否かを判断する。指令電流の変化率kが正である場合には、指令電流Isが一定の増加率で増大している状態であり、このとき制御部110は、固定オフセット部分α1に一定の可変オフセット部分α2(所定値F1)を加算した量を燃料オフセットαとして設定する。制御部110は、基準燃料供給量F0にこの燃料オフセットαを加算して、燃料供給量Fを決定する(ステップS13)。従って、この場合の燃料供給量Fは、F=F0+α1+F1となる。
【0076】
一方、ステップS12において、指令電流の変化率kが正でない場合、制御部110は、ステップS14に進んで、指令電流の変化率kが0であるか否かを判断する。指令電流の変化率kが0である場合には、指令電流Isが一定値を維持している状態であるから、制御部110は、ステップS15において、指令電流の変化率kが0であった状態が10秒維持されているか、つまり、過去10回分の指令電流の変化率kが全て0であったか否かを判断する。
【0077】
ステップS15において、指令電流の変化率kが10秒間以上0に維持されていない場合には、制御部110は、固体電解質型燃料電池システム1の運転が定常状態に達していないと判断し、ステップS13の場合と同様に、固定オフセット部分α1に一定の可変オフセット部分α2(所定値F1)を加算した量を燃料オフセットαとして設定する(ステップS16)。制御部110は、基準燃料供給量F0にこの燃料オフセットαを加算して、燃料供給量Fを決定する。従って、この場合の燃料供給量Fは、F=F0+α1+F1となる。
ステップS15において、指令電流の変化率kが10秒間以上0に維持されている場合には、制御部110は、指令電流Isが安定し、つまり固体電解質型燃料電池システム1の運転が十分に安定して定常状態に達したと判断し、可変オフセット部分α2を0とし、固定オフセット部分α1のみを燃料オフセットαとして設定する。制御部110は、基準燃料供給量F0にこの燃料オフセットαを加算して、燃料供給量Fを決定する(ステップS17)。したがって、この場合の燃料供給量Fは、F=F0+α1となる。
【0078】
ステップS14において、指令電流の変化率kが0でない場合には、制御部110は、指令電流の変化率kが負であり、指令電流(即ち需要電力P)が減少していると判断する。この場合には、ステップS18において、制御部110は、指令電流の変化率kの絶対値が所定値(例えば3A)以上であるか否かを判断する。指令電流の変化率kの絶対値が所定値より小さい場合には、制御部110は、ステップS19に進み、燃料供給量F、即ち基準燃料供給量F0と燃料オフセットαとの合計が、指令電流Isの推移とは無関係に一定の減少率(例えば3A/minに対応する減少率)で減少するように、燃料オフセットα、つまり可変オフセット部分α2を設定する。この燃料供給量Fの減少は、減少した燃料供給量Fが、現在の指令電流Isに対して設定された燃料供給量FTに到達するまで行われる(ステップS19)。
【0079】
ステップS18において、指令電流の変化率kの絶対値が所定値(例えば3A)以上である場合には、制御部110は、需要電力Pに急激な減少があったと判断し、次に需要電力P(指令電流)の増大(回復)がある場合に備えて、所定時間(例えば2秒間)、前回の燃料供給量Fを維持する(ステップS21)。
所定時間燃料供給量Fを前回の燃料供給量Fで維持した後、制御部110は、現在の燃料供給量Fを、現在の指令電流Isに対して設定された燃料供給量FTと比較する(ステップS22)。ここで、指令電流Isが減少したままであれば、現在の燃料供給量Fは、現在の指令電流Isに対して設定された燃料供給量Fよりも多くなっている。この場合には、制御部110は、ステップS19において、燃料供給量Fを、指令電流Isの推移とは無関係に一定の減少率(例えば3A/minに対応する減少率)で減少するように設定する。この燃料供給量Fの減少は、減少した燃料供給量Fが、現在の指令電流Isに対して設定された燃料供給量FTに到達するまで行われる(ステップS19)。
【0080】
なお、本実施形態では、指令電流の変化率kが正の時には指令電流Isが一定の増加率、即ち2A/minで増加し、それに伴って燃料供給量Fも2A/minに対応する増加率で増加する。一方、指令電流の変化率kが負の時には、燃料供給量Fは、3A/minに対応する減少率で減少し、この減少率の絶対値は、指令電流が増加する場合の燃料量の増加率の絶対値よりも高く設定されている。ここで、指令電流Isが減少する場合には燃料電池セル84に既に必要な燃料量が供給されているから、このように燃料供給量の増減率を設定して指令電流Isの減少時により迅速に燃料供給量Fを減少させることにより、指令電流Isの減少時の無駄な燃料の供給を防止することが可能になる。
【0081】
次に、以上のような制御に基づいて燃料供給量Fを変化させた場合の燃料供給量Fの推移の例を図10及び図11に示す。図10及び図11において、横軸は時間であり、縦軸は指令電流Is及び燃料供給量Fである。
基準燃料供給量F0は、指令電流Isから導かれ、ここで、指令電流Isに対する燃料供給量の関係は、予め決定されている。図10に示すように指令電流Isが変化する場合、指令電流Isの増減と基準燃料供給量F0の増減の傾向は同様となるため、基準燃料供給量F0の推移は指令電流Isの推移に相似して変化する。ここで、図10及び図11において、実線は、基準燃料供給量F0の推移を示し、点線は、基準燃料供給量F0に固定オフセット部分α1を加算した燃料量の推移を示し、一点鎖線は、基準燃料供給量F0に固定オフセット部分α1及び可変オフセット部分α2を加算した、つまり、基準燃料供給量F0に燃料オフセットαを加算した、全体の燃料供給量Fの推移を示す。
【0082】
指令電流Isが一定の増加率で増加するとき(図中の領域A)、燃料供給量Fとしては、基準燃料供給量F0に対して一定の固定オフセット部分α1が加算され、さらに、所定の可変オフセット部分α2が加算される。その後、指令電流Isが一定となると(図中の領域B)、最初の10秒間は、燃料供給量Fとしては、基準燃料供給量F0に対して一定の固定オフセット部分α1及び所定の可変オフセット部分α2が加算される。10秒以降は、可変オフセット部分α2が0になり、燃料供給量Fとしては、基準燃料供給量F0に対して一定の固定オフセット部分α1のみが加算される。指令電流Isが一定の状態から所定値(図10の例では3A)より小さい量の減少があった場合には、燃料供給量Fを一定の減少率(指令電流Isが2A/minで減少する場合に対応した減少率)で減少させる。図10の例では、指令電流Isが減少後、また一定の増加率で増加しており(図中の領域C)、このとき、燃料供給量Fは、その時刻の指令電流Isに対応する基準燃料供給量F0に一定の固定オフセット部分と一定の可変オフセット部分α2とを加算した量の燃料供給量FTに達するまで(図中の点D)、一定の減少率で減少する。燃料供給量Fが点Dに達すると、燃料供給量Fは、指令電流Isの増加に伴って増加し、基準燃料供給量F0に一定の固定オフセット部分α1と一定の可変オフセット部分α2とを加算した量に設定される。
【0083】
また、図11に示す例おいては、図中の領域A及びBについては図10に示す燃料供給量Fの推移と同じであるが、指令電流Isが一定の状態から所定値(図11の例では3A)以上の減少があった場合に、前回の燃料供給量Fを2秒間維持し、その後、燃料供給量Fは、その時刻の指令電流Isに対応する基準燃料供給量F0に一定の固定オフセット部分α1と一定の可変オフセット部分α2とを加算した量の燃料供給量FTに達するまで(図中の点D’)、一定の減少率で減少する。燃料供給量Fが点D’に達すると、燃料供給量Fは、指令電流Isの増加に伴って増加し、基準燃料供給量F0に一定の固定オフセット部分α1と一定の可変オフセット部分α2とを加算した量に設定される。
【0084】
以上のようにして燃料供給量Fが設定されると、制御部110は、設定された燃料供給量Fの制御信号を燃料流量調整ユニット38に出力する。ここで、制御部110は、実際には、指令電流Isに対して、燃料余裕量に見合った発電電流値を加算して、燃料供給のための電流値として算出し、この電流値から、予め決定された電流と燃料供給量との関係に基づいて、燃料供給量Fを導く。
【0085】
また、制御部110は、発電用空気供給量の制御信号を、空気流量調整ユニット44に出力する。図12は本実施形態による固体電解質型燃料電池システム1における指令電流と発電用空気供給量との関係を示す図である。本実施形態においては、図12に示すように、指令電流Isと発電用空気供給量との関係が予め決定されている。燃料電池モジュール2による発電開始後、需要電力Pに対応して発電電流Isを変化させて負荷追従するとき、図12の指令電流と発電用空気供給量との関係に基づいて、指令電流設定値111で設定された指令電流Isに対応する発電用空気の供給量を決定することにより、指令電流Isの変更に応じて発電用空気の供給量を増大又は減少させて要求された負荷に追従することができるようになっている。
【0086】
また、制御部110は、インバータ54にインバータ許可電流Isinvの制御信号を出力する。なお、本実施形態では、インバータ許可電流Isinvは、指令電流Isの値に等しい。インバータ54では、インバータ許可電流Isinvに基づいて固体電解質型燃料電池システム1から実発電電力Prを取り出し、施設56に供給する。
【0087】
このように構成された本実施形態によれば、次のような優れた効果を得ることができる。
燃料供給量Fが、基準燃料供給量F0に加算される燃料オフセットαを有し、この燃料オフセットαを、固体電解質型燃料電池システム1の運転状態に応じて変化させるので、例えば指令電流Isを増加させる場合に燃料オフセットαを大きく設定すれば、燃料枯れの発生を防止することができる。したがって、固体電解質型燃料電池システム1の耐久性の低下を防止することができる。その一方で、例えば指令電流Isが一定の値に維持される場合に燃料オフセットαを小さく設定すれば、不要な燃料供給を省くことができるので、燃料ガス使用量を節約することができる。
【0088】
ここで、固体電解質型燃料電池システム1においては、電気化学反応により発電を行うので、通常の電池とは異なり、インバータ54によって、燃料供給量Fに適した実発電電力Prよりも多くの発電電力を取り出そうとすると取り出すことが可能であるという、固体電解質型燃料電池に特有の性質がある。このため、需要電力Pの増加に対応してインバータ54において実発電電力Prを急激に増加させた場合、燃料電池モジュール2内の燃料供給が間に合わないことがある。燃料電池モジュール2内の燃料ガスが不十分であると、燃料電池モジュール2が「燃料枯れ」の状態となり、燃料電池セル84を損傷し、その結果、固体電解質型燃料電池システム1の耐久性を低下させてしまう。
【0089】
このような燃料枯れを防止する方法として、従来では、燃料枯れを決して起こさない増加率でのみ実発電電力Prの増加を行ったり、燃料余裕量を十分すぎるほどに確保したりする等していた。しかしながら、実発電電力Prの増加速度を低く設定すると、固体電解質型燃料電池システムの負荷への追従性を向上させることができない。また、燃料余裕量を大量に設定すれば燃料枯れを防止することはできるものの、固体電解質型燃料電池システム1の運転状態によっては燃料の余裕量をそれほど必要としない場合もあるため、無駄な燃料供給を行わなければならなくなる場合がある。
【0090】
本実施形態では、上述のように、燃料オフセットαを固体電解質型燃料電池システム1の運転状態に応じて変化させるので、必要な部分で燃料オフセットαを多く設定することで燃料枯れを防止することができ、不要な部分で燃料余裕量を少なく設定することで燃料の使用量を節約することができる。
また、燃料オフセットαを可変にすることにより、必要な部分でより多くの燃料オフセットαを設定することができるから、燃料枯れを防止しながら従来より高い増加率で実発電電力Prを増加させることができる。したがって、需要電力Pに対する負荷追従性を良好にする制御も可能となる。このように負荷追従性を高めることができると、施設56に供給する電力のうち、固体電解質型燃料電池システム1で供給する電力の割合を増加させて商用電源58からの電力を少なくすることができるので、商用電源58からの電力の購入を削減することができる。
【0091】
燃料オフセットαが、常に一定の固定オフセット部分α1と固体電解質型燃料電池システム1の運転状態に応じて変化する可変オフセット部分α2とで構成されるので、固定オフセット部分α1を設けることにより、燃料電池セル84の個体差による発電効率のばらつきや各種センサでの測定値の誤差、外部環境または固体電解質型燃料電池システム1の環境等による実発電電力Prの変動を吸収して、燃料枯れを確実に防止することができ、固体電解質型燃料電池システム1の耐久性の低下を確実に防止することができる。
【0092】
本実施形態では、指令電流の変化率kが0となった場合、即ち指令電流Isが一定となった場合に可変オフセット部分α2を0にしている。ここで、指令電流の変化率kが0となる場合、これに応じて必要な燃料供給量Fも一定量となり変化がないため、各燃料電池セル84には燃料ガスが十分に行き渡っている状態である。したがって、可変オフセット部分α2を0に設定しても、燃料枯れを起こすことなく、良好な発電を行うことができ、必要な発電電流を得ることができる。また、可変オフセット部分α2を0に設定するので、燃料ガス使用量を節約することができる。
【0093】
燃料オフセットαを指令電流の変化率kに応じて変化させるので、固体電解質型燃料電池システム1の運転状況の変化を把握することができ、燃料供給量Fの正確な制御を行うことができ、より確実に燃料枯れを防止することができる。
【0094】
本実施形態では、指令電流Isが所定値以上減少した場合に、所定時間、前回の燃料供給量Fを維持することにより、燃料供給量Fを指令電流Isに対応した燃料供給量Fよりも増量している。ここで、例えば、指令電流Isが比較的急激に減少する場合、その後指令電流Isが再び増大して回復することがしばしばある。このような場合に、指令電流Isの急激な減少に応じて燃料供給量Fを減少させてしまうと、その後指令電流Isが回復したときに、指令電流Isの回復に合わせた燃料ガスの供給が間に合わなくなる虞がある。本実施形態では、前回の燃料供給量Fを所定時間維持するので、その後の指令電流Isの回復があった場合でも、指令電流Isの回復に合わせて燃料ガスを供給することができるから、負荷追従性を向上させることができる。また、このような制御により、燃料供給量Fの変動を抑制することにもなるので、固体電解質型燃料電池システム1の動作を安定させることができる。
【0095】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態による固体電解質型燃料電池システム1について説明する。第2実施形態による固体電解質型燃料電池システム1は、燃料オフセットαが固定オフセット部分及び可変オフセット部分で構成されず、燃料オフセットαが全体として可変である点が、第1実施形態による固体電解質型燃料電池システム1と異なる他は、第1実施形態による固体電解質型燃料電池システム1と同様の構成を備える。
【0096】
本実施形態の燃料オフセットαは、固体電解質型燃料電池システム1の運転状態に応じて変化するように設定されている。具体的には、指令電流の変化率kが正である場合、本実施形態では指令電流Isが一定の増加率で増加している状態であり、この場合には、燃料オフセットαは、一定の所定量F2に設定されている。
また、指令電流の変化率kが0である場合には、本実施形態では指令電流Isが不変の状態であり、この場合には、燃料オフセットαは所定値F2より小さい所定値F3に設定されている。
さらに、指令電流の変化率kが負である場合、本実施形態では指令電流Isが需要電力Pに対応する値まで減少する状態であり、この場合には、燃料オフセットαは所定値F3に設定されている。
【0097】
なお、本実施形態では、第1実施形態の可変オフセット部分α2と同様に、過渡補正を行うように構成されており、指令電流Isが不変の状態となる場合、最初の所定時間(例えば10秒)、燃料オフセットαを所定値F3ではなく、所定値F2とするように設定されている。また、指令電流Isが所定値(例えば3A)以上減少した場合には、前回の燃料供給量Fを所定時間(例えば2秒間)維持する補正を行うように設定されている。
【0098】
次に、第2実施形態による固体電解質型燃料電池システム1において指令電流Isが変化した場合の燃料供給量Fの推移の例を図13に示す。図13において、横軸は時間であり、縦軸は指令電流Is及び燃料供給量Fである。
図13に示すように、指令電流の変化率kが正である場合、つまり、本実施形態において指令電流Isが一定の増加率で増加している場合(図中の領域A)には、燃料供給量Fは、基準燃料供給量F0に燃料オフセットαの一定の所定量F2を加算したものとなっている。したがって、燃料供給量Fは、F=F0+F2となる。
次に、指令電流の変化率kが0の場合、つまり本実施形態において指令電流Isが不変の一定値となった場合(図中の領域B)には、最初の10秒間は、基準燃料供給量F0に燃料オフセットαの一定の所定値F2を加算したものを燃料供給量Fとして設定する。したがって、燃料供給量Fは、F=F0+F2となる。そして、指令電流Isが一定となって10秒後以降は、燃料供給量Fは、基準燃料供給量F0に燃料オフセットαの一定の所定値F3を加算したものとなる。したがって、このときの燃料供給量Fは、F=F0+F3である。
【0099】
指令電流の変化率kが負の場合、つまり、本実施形態において指令電流Isが減少した場合には、燃料オフセットαが所定値F3となり、燃料供給量Fは、基準燃料供給量F0に所定値F3を加算したものとなる。したがって、このときの燃料供給量Fは、F=F0+F3である。
なお、図示はしていないが、指令電流Isの減少が3A以上である場合には、第1実施形態の固体電解質型燃料電池システム1と同様に、前回の燃料供給量Fを2秒間維持し、その後、減少した指令電流Isに対応した基準燃料供給量F0に所定値F3の燃料オフセットαを加算した値を燃料供給量Fとして設定する。また、指令電流Isが再び増加する場合(図中の領域C)には、基準燃料供給量F0に燃料オフセットα(所定値F2)を加算した値を燃料供給量Fとして設定する。
【0100】
以上のような第2実施形態による固体電解質型燃料電池システム1によれば、次のような優れた効果が得られる。
燃料オフセットαが、固定オフセット部分及び可変オフセット部分で構成されず、全体が固体電解質型燃料電池システム1の運転状態に応じて変化するので、所望の場合に燃料枯れを防止することができるとともに、燃料ガスの使用量を必要最小限にすることができ、燃料ガス使用量を節約することができる。
【0101】
本実施形態では、指令電流の変化率kが正の時の方が、指令電流の変化率kが0以下の時よりも、燃料オフセットαを大きく設定している。ここで、指令電流Isが増加している場合、燃料電池セル84には、より多くの燃料ガスが必要となる。その一方で、指令電流Isが減少している場合、燃料電池セル84には、必要とする基準燃料供給量F0よりも多くの燃料ガスが供給された状態となっている。したがって、指令電流Isが増加している場合の方が、指令電流Isが減少している場合よりも、燃料枯れとなるリスクが大きい。そこで、本実施形態では、このように、指令電流の変化率kが正の場合に、指令電流の変化率kが0以下の場合よりも燃料オフセットαを多く設定することにより、燃料枯れを確実に防止することができる。また、不要な部分での燃料供給量Fを削減することができるから、燃料ガス使用量の節約を図ることができる。このように、指令電流の変化率kが正であるか0以下であるかによって燃料電池セル84における燃料ガスの使用状況が異なるから、それぞれの使用状況に合わせて、指令電流の変化率kが正であるか0以下であるかによって燃料オフセットαの設定を変更することにより、より固体電解質型燃料電池システム1の運転状況に即した燃料供給量の調整を行うことができる。
【0102】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態による固体電解質型燃料電池システムについて説明する。第3実施形態による固体電解質型燃料電池システムは、燃料余裕量を、インバータのインバータ許可電流Isinvの制御信号の出力タイミングの時間遅れによって設定する点が第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムと異なる他は、第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムと同様の構成を備える。
【0103】
本実施形態による固体電解質型燃料電池システム1では、燃料流量調整ユニット38に燃料供給量の制御信号を出力してから、インバータ54に変更された燃料供給量Fに応じたインバータ許可電流Isinvの制御信号を出力するまでに、所定時間の遅れ時間Tdを設定している。固体電解質型燃料電池システム1では、燃料ガスが改質器20に供給されてから、改質器20で改質されて燃料電池セル84に到達するまでに、ある程度の時間を要する。したがって、燃料流量調整ユニット38に燃料供給量Fを変更する旨の制御信号を出力すると同時にインバータ54にインバータ許可電流Isinvの制御信号を出力すると、インバータ許可電流Isinvに対応する燃料供給量が燃料電池セル84に到達していない場合があり、燃料枯れを起こす虞がある。そこで、本実施形態では、燃料供給量Fに変化があった場合、即ち、指令電流Isに変化があった場合に、インバータ54で実発電電力を取り出すタイミングに遅れ時間Tdを設定するようになっている。
【0104】
このように、燃料ガスを供給するタイミングとインバータ54にインバータ許可電流Isinvの制御信号を出力するタイミングとの間に遅れ時間Tdを設定するということは、特に指令電流Is及びそれに必要な燃料供給量Fが増加している場合には、供給した燃料ガスが燃料電池セル84に到達するのを待ってインバータ54で電力を取り出すということなる。したがって、遅れ時間Tdを設定することにより、遅れ時間Tdを設定しない場合よりも、インバータ54で取り出す電力に対する燃料ガス量に余裕ができるため、この遅れ時間Tdは、このような意味で燃料余裕量として見ることができる。本実施形態では、この遅れ時間Tdを、固体電解質型燃料電池システム1の運転状態に応じて変化させることにより、燃料余裕量を可変としている。
【0105】
本実施形態では、指令電流設定部111において、所定時間毎(本実施形態では1秒毎)に需要電力Pの変化傾向に基づいて指令電流Isが決定されているが、この指令電流Isに基づいて、制御部110は、過去所定回数分(例えば過去5回)の指令電流Isの値のうち、最低値をインバータ許可電流Isinvとして採用するようになっている。
このような制御方法による指令電流Isとインバータ許可電流Isinvとの推移の例を図14及び図15に示す。図14は、指令電流が所定時間以上上昇した場合のインバータ許可電流Isinvの推移を示す。この図14に示すように、指令電流IsがILからIHに上昇し、上昇した指令電流IHが5秒間維持される場合、指令電流がIHとなってから最初の5秒間は、過去5回分の指令電流Isの最低値がILとなるため、インバータ許可電流IsinvはILに維持される。その後、指令電流IsがIHとなってから5秒後には、過去5回分の指令電流Isの最低値はIHとなるため、インバータ許可電流IsinvはIHに設定される。このようにして、指令電流Isが上昇するとき、インバータ許可電流Isinvは所定時間(この例では5秒)遅れて指令電流Isに対応するインバータ許可電流Isinvを得ることとなるから、この場合の遅れ時間Tdは、5秒となる。
一方、指令電流IsがIHからILに減少する場合には、過去5回分の指令電流Isの最低値がILとなるため、インバータ許可電流Isinvは即座にILに設定され、この場合遅れ時間Tdは0秒となる。したがって、遅れ時間Tdは、固体電解質型燃料電池システム1の運転状態、具体的には指令電流Isの変化に応じて可変に設定されることとなる。
【0106】
次に、図15は、指令電流Isが断続的に変動する場合のインバータ許可電流Isinvの推移を示す。この図15に示すように、インバータ許可電流Isinvは、指令電流IsがIHとなってもその指令電流Isが5秒間以上維持されない場合、ILを維持し、指令電流IsがIHで5秒間以上維持されて初めて、IHに設定される。したがって、この場合のインバータ許可電流Isinvは、指令電流Isが断続的に増減している場合には指令電流Isに追従せず、指令電流Isが連続的に上昇した時に、5秒の遅れ時間Tdをもって指令電流Isに追従するようになっている。
【0107】
なお、本実施形態による固体電解質型燃料電池システム1では、遅れ時間Tdを設定することによって燃料余裕量を確保しているので、本実施形態においては、燃料オフセットαは、可変ではなく、常に一定の所定値に設定されている。
【0108】
このような第3実施形態による固体電解質型燃料電池システム1のインバータ許可電流Isinvの推移について説明する。
図16は、第3実施形態による固体電解質型燃料電池システム1の指令電流Isとインバータ許可電流Isinvの推移の例を示す。図16に示すように、指令電流Isが増加している場合には(図中の領域A)、指令電流Isから5秒遅れて、インバータ許可電流Isinvが設定され、その結果、インバータ許可電流Isinvは、その時刻の指令電流Isよりも低く設定される。次に、指令電流Isが一定値を維持する状態では(図中の領域B)、インバータ許可電流Isinvが5秒遅れて指令電流Isと同じ値となり、その後一定値を維持する。そして、指令電流Isが減少している場合には(図中の点E)、インバータ許可電流Isinvは指令電流Isと同じ値に減少し、遅れ時間Tdは0秒となる。その後、指令電流Isが再び増加する場合(図中の領域C)には、再び遅れ時間Tdが発生する。
【0109】
以上のような第3実施形態による固体電解質型燃料電池システムによれば、次のような優れた効果が得られる。
指令電流Isに対するインバータ許可電流Isinvの制御信号の出力タイミング、即ち燃料供給の制御信号の出力に対するインバータ許可電流Isinvの制御信号の出力タイミングに遅れ時間Tdを設定することにより、燃料余裕量を設定することができる。これにより、固体電解質型燃料電池システム1において十分な燃料が供給されることを保障して燃料枯れが発生するのを防止することができ、需要電力Pに応じて固体電解質型燃料電池システムを運転することができる。また、遅れ時間Tdを固体電解質型燃料電池システム1の運転状態に応じて変化させるので、不要な部分では遅れ時間Tdを短くすることができるから、燃料余裕量を少なく設定することができ、全体の燃料ガス使用量を節約することができる。
【0110】
本実施形態では、指令電流Isが増加しているときは遅れ時間Tdが設定され、指令電流Isが減少しているときは、遅れ時間Tdが0に設定される。このように指令電流の変化率が正であるときと負であるときとで遅れ時間Tdの設定を変更しているので、固体電解質型燃料電池システム1の運転状態に適した燃料余裕量を設定することができ、確実に燃料枯れを防止することができると共に、全体としての燃料使用量を節約することができる。
ここで、固体電解質型燃料電池システムにおいては、指令電流の変化率が正である場合、必要な燃料供給量Fも増加していくので、この場合の方が、指令電流の変化率が負である場合に比べて燃料枯れを起こすリスクが高い。したがって、指令電流の変化率が正である場合の遅れ時間Tdを、指令電流の変化率が負である場合の遅れ時間Td(0秒)よりも大きく設定することによって、多くの燃料余裕量を確保することができるので、燃料枯れを確実に防止することができる。また、指令電流の変化率が負である場合に、遅れ時間Tdを0秒に設定するので、指令電流Isに速やかに対応することができ、追従性を向上させることができると共に、燃料余裕量を少なく設定することとなるから、燃料使用量を削減できる。
【0111】
遅れ時間Tdを、過去5回分の指令電流Isのうちの最低値に設定するので、指令電流Isが5秒間以上増加して初めて、インバータ許可電流Isinvが増加する。このような制御により、過剰な指令電流Isの変動をカットすることができるので、固体電解質型燃料電池システムの運転を安定させることができる。
【0112】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態による固体電解質型燃料電池システムについて説明する。第4実施形態による固体電解質型燃料電池システムは、遅れ時間Tdの設定方法が第3実施形態による固体電解質型燃料電池システムと異なる他は、第3実施形態の固体電解質型燃料電池システムと同様の構成を備える。
【0113】
本実施形態による固体電解質型燃料電池システム1においては、制御部110は、遅れ時間Tdを以下のように設定するようになっている。
制御部110は、過去所定時間または過去所定回数分(本実施形態では過去5回分)の指令電流Isのうちの最低値から2番目の値を比較指令電流Icとして選択してこれを現在の指令電流Isと比較し、現在の指令電流Isが比較指令電流Ic以上である場合には、比較指令電流Ic、即ち過去所定時間中または過去所定回数分(本実施形態では過去5回分)の指令電流Isのうち、最低値から2番目の指令電流Isを、インバータ許可電流Isinvとして設定するようになっている。また、制御部110は、現在の指令電流Isが比較指令電流Icより小さい場合には、現在の指令電流Isをインバータ許可電流Isinvとして設定するようになっている。
【0114】
次に、第4実施形態による固体電解質型燃料電池システム1のインバータ許可電流Isinvの設定制御動作について説明する。
図17は、第4実施形態による固体電解質型燃料電池システム1のインバータ許可電流Isinvの設定動作を示すフローチャートである。図17に示すように、インバータ許可電流Isinvを設定する場合には、制御部110は、まず、ステップS31において、指令電流設定部111で設定された指令電流Isを入力する。
【0115】
次に、制御部110は、過去所定時間分または過去所定回数分(本実施形態では過去5回分)の指令電流Isのうちの最低値から2番目の値を比較指令電流Icとして選択する(ステップS32)。そして、現在の指令電流Isと比較指令電流Icとを比較し、現在の指令電流Isが比較指令電流Ic以上であるか否かを判断する(ステップS33)。現在の指令電流Isが比較指令電流Ic以上である場合には、指令電流Isが増加していることを意味するので、制御部110は、比較指令電流Ic、即ち、過去5回分の指令電流のうち最低値から2番目の値を、インバータ許可電流Isinvとして設定する(ステップS34)。
【0116】
一方、ステップS33において、現在の指令電流Isが比較指令電流Icより小さい場合には、指令電流Isが減少していることを意味するので、制御部110は、現在の指令電流Isをインバータ許可電流Isinvとして設定する(ステップS35)。
以上のようにしてインバータ許可電流Isinvを決定し、固体電解質型燃料電池システム1の運転を行う。
【0117】
以上のような第4実施形態による固体電解質型燃料電池システムによれば、次のような優れた効果が得られる。
本実施形態では、指令電流Isが増加している場合には、インバータ許可電流Isinvを過去所定時間または所定回数分の指令電流Isのうちの最低値から2番目の値に設定している。ここで、固体電解質型燃料電池システムでは、何らかの原因により、指令電流Isが極端に低い値に設定されてしまうことがある。この場合に、インバータ許可電流Isinvを最低値に設定する制御を採用していると、このような極端に低い指令電流Isの異常値を拾ってインバータ許可電流Isinvとして設定してしまう。本実施形態では、インバータ許可電流Isinvを過去数回分の指令電流Isのうちの最低値から2番目を採用することにより、上述のような異常値を排除することができる。したがって、指令電流Isの極端な変動(ノイズ)をキャンセルすることができ、固体電解質型燃料電池システムの運転を安定させることができる。
【0118】
以上のように、各実施形態について説明したが、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、例えば以下のように種々の変更が可能である。
【0119】
例えば、燃料余裕量は、第1及び第2実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおいては、燃料オフセットが変化するように設定され、第3及び第4実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおいては、遅れ時間が変化するように設定されたが、これに限らず、例えば燃料オフセット及び遅れ時間の両方を、指令電流の偏差や変化率等の、固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化するように設定してもよい。このような制御方法によれば、燃料オフセット及び遅れ時間の両方が可変となるので、固体電解質型燃料電池システムの運転状態に応じてより柔軟な燃料余裕量制御が可能となる。
【0120】
第1実施形態及び第2実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおいては、指令電流の推移の状態が過渡期であるときに、燃料余裕量の補正を行ったが、これらのような補正は必ずしも設けなくてもよい。
また、燃料余裕量の補正は、上記実施形態に記載した条件のみに限らず、例えば外気温度等の外部環境や燃料電池セルの温度等の固体電解質型燃料電池システム等、その他の様々な状態に応じて適宜設定してよい。
【0121】
上記実施形態においては、需要電力(負荷)に基づいて決定された指令電流の変化に応じて燃料余裕量を変化させたが、これに限らず、本発明の固体電解質型燃料電池システムでは、固体電解質型燃料電池システムの状態、または固体電解質型燃料電池システムの運転状態、より詳しくは固体電解質型燃料電池システムの負荷追従の状態に応じて燃料余裕量が変化するように制御すればよい。したがって、例えば需要電力またはその変化に直接対応して、あるいは発電電力またはその変化に応じて、あるいは燃料電池セルの温度等のその他の固体電解質型燃料電池システムの運転状態及びその変化に応じて燃料余裕量を変化させてもよい。また、外気温及び湿度等の外部環境及びそれらの変化に応じて燃料余裕量を変化させてもよい。
【0122】
外部環境、例えば外気温に応じて燃料余裕量を変化させる場合には、例えば、外気温度センサで測定された外気温を制御部において監視し、外気温が低い場合には、外気温が高い場合よりも燃料余裕量が大きくなるようにすればよい。固体電解質型燃料電池システムにおいては、外気温が低いと、燃料電池モジュールでの発電効率が低下すると共に、燃料電池モジュールの温度を上昇させるのに時間がかかる。そのため、外気温が低い場合には、より多くの燃料余裕量を設定することにより、燃料電池モジュールの温度上昇を助け、発電効率の向上、安定を図る。これにより、固体電解質型燃料電池システムの燃料枯れを防止しながら、追従性を向上させることができる。
【0123】
また、例えば、燃料電池セルの温度に応じて燃料余裕量を変化させる場合には、燃料室温度センサで測定された燃焼室温度を制御部において監視し、燃焼室温度、即ち燃料電池セルの温度が低い場合には、燃料電池セルの温度が高い場合よりも燃料余裕量が大きくなるようにすればよい。固体電解質型燃料電池システムにおいては、燃料電池セルの温度が低いと、燃料電池モジュールの発電効率が低い。そこで、燃料電池セルの温度が低い場合には、より多くの燃料余裕量を設定することにより、燃料電池セルの温度上昇を助け、発電効率の向上を図る。これにより、固体電解質型燃料電池システムの燃料枯れを防止しながら、追従性を向上させることができる。また、燃料室温度を直接測定して、この測定値に応じて燃料余裕量を変化させるので、固体電解質型燃料電池システムの状態をより直接的に把握することができるから、燃料余裕量の制御の精度を向上させることができる。
【0124】
第1実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおいては、燃料オフセットは、固定オフセット部分と可変オフセット部分とで構成されていたが、これに限らず、例えば燃料オフセットは、ベース部分FAとオフセット調整部分FBとで構成され、これらのベース部分及びオフセット補正部分の両方を変化させるように構成してもよい。
【0125】
図18は、本発明の変形例による固体電解質型燃料電池システムにおける指令電流に対する燃料供給量の推移の例を示すタイムチャートである。この図18に示すように、燃料オフセットのベース部分FAは、指令電流が増加しているときには一定の固定値F4であり、指令電流が一定となったときには、最初の所定時間(例えば5秒)は所定値F4を維持するが、その後、第1の所定値F4よりも小さい第2の所定値F5に減少する。そして、指令電流が減少するときには、減少前の燃料供給量を所定時間(例えば1秒)維持し、その後燃料オフセットのベース部分FAは、所定値F4に変化する。
また、オフセット調整FB部分も可変に構成され、図18に示すように、指令電流が増加しているときには一定の固定値F6をとり、指令電流が一定となったときには、最初の所定時間(例えば10秒)は所定値F6を維持し、その後所定値F6よりも小さい所定値F7に減少する。指令電流が減少するときには、減少前の燃料供給量を所定時間(例えば2秒)維持し、その後、所定値F6に変化する。
このように、燃料オフセットを、ベース部分FAとオフセット調整部分FBとで構成し、これらのベース部分FA及びオフセット調整部分FBの両方を、固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化させてもよい
【0126】
第1及び第2実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおいては、指令電流の変化率が負であり且つ指令電流の変化率の絶対値が所定値以上である場合には、前回の燃料供給量を所定時間維持することによって、燃料オフセットを基準燃料供給量に対して増加させていたが、これに限らず、例えば、その場合には、設定された燃料供給量を一定量増加させる補正を行うようにしてもよい。
図19は、本発明の変形例による固体電解質型燃料電池システムにおける燃料供給量の設定方法を示すフローチャートである。この図19に示すように、まず、ステップS41において、前回の指令電流と現在の指令電流とを比較し、現在の指令電流の方が前回の指令電流よりも大きい場合には、指令電流が増加している状態であるから、燃料供給量の補正を行わない(ステップS42)。一方、ステップS41において、前回の指令電流の方が現在の指令電流よりも大きい場合には、指令電流が減少している状態である。このような場合には、ステップS43において、前回の指令電流と現在の指令電流の偏差が所定値(例えば3A)よりも大きいか否かを判断する。指令電流の偏差が所定値よりも大きい場合には、指令電流の減少が急激であると判断し、次の指令電流の回復の可能性に備えて、現在の指令電流に対応した燃料供給量に所定量のオフセット補正量βを加算し、この加算量を補正した燃料供給量として設定する(ステップS44)。一方、ステップS43において、指令電流の偏差が所定値以下である場合には、燃料供給量の補正は行わず、現在の指令電流に基づいて算出された燃料供給量Fをそのまま設定する(ステップS42)。
このように燃料供給量を一定量増量する補正を行うことにより、指令電流が急激に減少した直後に再び増大(回復)した場合でも、適切な燃料供給量を確保することができ、指令電流、即ち需要電力Pへの追従性が良好となる。
【0127】
第3実施形態においては、過去所定時間または所定回数分の指令電流のうちの最低値を指令電流として採用することにより、遅れ時間Tdを設定し、また第4実施形態においては、過去所定時間又は所定回数分の指令電流のうちの最低値から2番目の値を指令電流として採用することによって遅れ時間Tdを設定していたが、これに限らず、例えば固体電解質型燃料電池システムの状況に応じて変化するように予め所定の遅れ時間を設定しておいてもよい。この場合には、例えば、指令電流の変化率が正であり且つ変化率の絶対値が所定値より大きい場合には、遅れ時間を10秒に設定し、指令電流の変化率の絶対値が所定値以内である場合には、遅れ時間を0秒に設定するように設定してもよい。また、指令電流の変化率が負であり且つ変化率の絶対値が所定値より大きい場合には、遅れ時間を0秒に設定するように設定してもよい。
また、遅れ時間は、常に一定の固定遅れ時間と、固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化する可変遅れ時間とで構成されていてもよい。
【0128】
第4実施形態による固体電解質型燃料電池システムにおいては、指令電流を、過去所定時間または所定回数分の指令電流のうち、最低値から2番目の指令電流に設定したが、これに限らず、例えば最低値から3番目以降の値に設定してもよい。ただし、このとき、指令電流は、過去所定時間または所定回数分の指令電流の平均値よりも低い値のものを採用することが望ましい。
【0129】
上記実施形態では、指令電流を増加させる場合に一定の増加率で増加させ、減少させる場合には減少した指令電流まで減少させていたが、これに限らず、例えば指令電流を減少させるときにも一定の減少率で減少させてもよい。また指令電流の増減は、固体電解質型燃料電池システムの運転状態に応じて、増加率または減少率を変化させてもよい。
また、上記実施形態では、指令電流の増減率が一定であったため、これに伴って、燃料オフセットや遅れ時間等の燃料余裕量も段階的に設定されていたが、本発明ではこれに限らず、例えば指令電流の増減率が変化する場合には、燃料余裕量を指令電流の変化率等に応じて連続的に可変に設定していてもよい。
【0130】
第2実施形態では、燃料オフセットは指令電流の変化率が0のとき、所定値F2に設定されていたが、これに限らず、例えば、指令電流の変化率が0のとき、または固体電解質型燃料電池システムの運転状態が定常状態となったとき、燃料オフセットを0に設定してもよい。また、例えば、燃料オフセットは、指令電流の変化率kが負の時に、0に設定してもよい。このような設定により、燃料ガス使用量の節約の効果を最大限に得ることができる。
第1実施形態では、燃料余裕量は、指令電流の変化率に応じて変化するように設定されていたが、これに限らず、指令電力の変化率に応じて変化するように設定されていてもよく、この場合には、指令電力の変化率の単位は例えばW/secで表される。また、燃料余裕量は、指令電流、指令電力、需要電流、または需要電力の偏差に応じて変化するように設定されてもよく、その時刻の指令電流及びそれより過去の指令電流に応じて変化するように設定されてもよい。
【符号の説明】
【0131】
1 固体電解質型燃料電池システム
2 燃料電池モジュール
4 補機ユニット
8 密封空間
10 発電室
12 燃料電池セル集合体
14 燃料電池セルスタック
16 燃料電池セルユニット
18 燃焼室
20 改質器
22 空気用熱交換器
24 水供給源
26 純水タンク
28 水流量調整ユニット
30 燃料供給源
38 燃料流量調整ユニット
40 空気供給源
44 改質用空気流量調整ユニット
45 発電用空気流量調整ユニット
46 第1ヒータ
48 第2ヒータ
50 温水製造装置
52 制御ボックス
54 インバータ
56 施設
58 商用電源
83 点火装置
84 燃料電池セル
110 制御部
111 指令電流設定部
112 操作装置
114 表示装置
116 報知装置
126 電力状態検出センサ
142 発電室温度センサ
150 外気温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と発電用の酸化剤ガスを反応させることにより、需要電力に基づいて可変の電力を発生する固体電解質型燃料電池システムであって、
複数の固体電解質型燃料電池セルを備えた燃料電池モジュールと、
上記燃料電池モジュールに燃料を供給する燃料供給手段と、
上記燃料電池モジュールに発電用の酸化剤ガスを供給する発電用酸化剤ガス供給手段と、
上記燃料電池モジュールによって発電された電力を受け入れ、交流に変換するインバータと、
需要電力に基づいて、上記燃料電池モジュールが発電すべき指令電力を設定する指令電力設定部と、
この指令電力設定部により設定された指令電力を生成できるように、上記燃料供給手段及び上記発電用酸化剤ガス供給手段を制御すると共に、上記燃料電池モジュールにおいて生成された電力を上記インバータへ出力させる制御部と、を有し、
上記制御部は、上記インバータに指令を与えて上記燃料電池モジュールから実発電電力を取り出すと共に、各時刻において上記燃料電池モジュールに供給される燃料供給量が、常に、その時刻における実発電電力に対応した基準燃料供給量以上になり、且つ上記燃料供給量と上記基準燃料供給量の差である燃料余裕量が上記固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化するように上記燃料供給手段を制御することを特徴とする固体電解質型燃料電池システム。
【請求項2】
上記制御部は、上記燃料余裕量が、常に一定の固定オフセット部分と、上記固体電解質型燃料電池システムの状態に応じて変化される可変オフセット部分から構成されるように、上記燃料供給手段を制御する請求項1記載の固体電解質型燃料電池システム。
【請求項3】
上記制御部は、上記固体電解質型燃料電池システムの外部環境に応じて上記燃料余裕量が変化されるように、上記燃料供給手段を制御する請求項1記載の固体電解質型燃料電池システム。
【請求項4】
上記制御部は、外気温が低い場合には、外気温が高い場合よりも上記燃料余裕量が大きくなるように、上記燃料供給手段を制御する請求項3記載の固体電解質型燃料電池システム。
【請求項5】
上記制御部は、上記固体電解質型燃料電池セルの温度が低い場合には、上記固体電解質型燃料電池セルの温度が高い場合よりも上記燃料余裕量が大きくなるように、上記燃料供給手段を制御する請求項1記載の固体電解質型燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−76945(P2011−76945A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228735(P2009−228735)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】