説明

固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置

【課題】低コスト・高耐久型の固体高分子型燃料電池に適用でき、加工後の捻れやうねりが極めて少ない密閉性に優れた燃料電池用セパレータの製造装置を提供する。
【解決手段】上下一対のロールの軸方向中央部に、第1凹凸部(11a、11b)と、前記第1凹凸部(11a、11b)より外側で、前記第1凹凸部(11a、11b)のコーナー部近傍の4箇所のみに、それぞれエンボス状凹凸部(12a−1、12a−2、12a−3、12a−4、12b−1、12b−2、12b−3、12b−4)を有する1段目の圧下ロールと、上下一対のロール軸方向中央部に前記第1凹凸部と対応する第2凹凸部を有する2段目の圧下ロールからなるロール列を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力を駆動源とする自動車、小規模の発電システムなどに用いられる固体高分子型燃料電池に用いられるセパレータの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全に対する意識の高まりにより、化石燃料を利用した現行の内燃機関から水素を利用した固体高分子型燃料電池による電気駆動型の自動車や、分散型コジェネシステムへの移行が世界的に検討されている。これらの新技術を広く一般に利用できるようにするためには、低コスト化と高信頼化に関わる技術開発を燃料供給システムも含めて推進する必要がある。
【0003】
近年、固体高分子材料の開発成功を契機に自動車用燃料電池の開発が急速に進展し始めている。固体高分子型燃料電池とは、従来のアルカリ型燃料電池、燐酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体電解質型燃料電池などと異なり、水素イオン選択透過型の有機物膜を電解質として用いることを特徴とする燃料電池であり、燃料には純水素のほか、アルコール類の改質によって得た水素ガスなどを用い、空気中の酸素との反応を電気化学的に制御することによって電力を取り出すシステムである。固体高分子膜は薄くても十分に機能し、電解質が膜中に固定されていることから、電池内の露点を制御すれば電解質として機能するため、水溶液系電解質や溶融塩系電解質など流動性のある媒体を使う必要がなく、電池自体をコンパクトに単純化して設計できることも特徴である。
【0004】
固体高分子型燃料電池は、水素の流路を持つセパレータ、燃料極、固体高分子膜、空気(酸素)極、空気(酸素)の流路を持つセパレータよりなるサンドイッチ構造を単セルとして、実際にはこの単セルを積層したスタックが用いられる。したがって、セパレータの両面は独立した流路を持ち、片面が水素、もう一方の片面が空気および生成した水の流路となる。冷却用水溶液の沸点以下の領域で稼働する固体高分子型燃料電池の構成材料としては、温度がさほど高くないこと、その環境下で耐食性・耐久性を十分に発揮させることが可能であること、さらに、任意の流路形状を形成するため炭素系の材料を切削加工などにより加工して使用されてきているが、より低コスト化や小型化、すなわちセパレータの薄肉化を目指してステンレス鋼やチタンの適用に関する技術開発が進んでいる。
【0005】
セパレータは、反応効率を高めるため固体高分子膜全面に燃料である水素および空気を均一に供給する必要があり、極力細かな流路形状が形成される。流路の幅は通常1mm以下で流路パターンは微細となり、数ミクロンオーダーの加工精度が要求される。
そこで、本発明者らは、特許文献1において、セパレータの凸部及び凹部の形状と相似形の凹凸加工を表面に施した上下一対の圧下ロールを有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置を開示した。本加工法を用いることにより、低コスト・高耐久型の固体高分子型燃料電池に適用できる、割れ、破断が生じない安定した成形加工が可能であると共に、プレス荷重を軽減し、凹凸部を均一に成形することができる。
【0006】
しかしながら、セパレータ加工は、板面の中央部にのみ流路パターンとなる凹凸部を形成する強加工であるため、前述の成形法においても、加工後に強加工部と非加工部での歪み量の差異が生じて残留応力が発生し、ねじれや局部的なうねりとなる形状不良の問題がある。燃料電池に用いられるセパレータは数百枚積み重ねて使用するため、それらのねじれや局所的なうねりはセパレータ積層工程の弊害となるほか、セパレータの表面における接触抵抗を低減する目的で行うメッキなどの表面改質工程など、セパレータ製造工程での作業性や材料の搬送性を損ねることになる。
【0007】
特許文献2には、金属板素材に凹凸状の微小形状を予め付加して予形状素材とし、該予形状素材のプレス成形時に前記微小形状を潰すことによって、プレス加工品内の残留応力を調整して該プレス加工品のスプリングバックを制御することを特徴とするプレス加工品のスプリングバック制御方法が開示されている。また、特許文献3には、自動車用遮光パネルを製造する方法において、少なくとも二枚以上のパネルが成形されるロールボンド元板をその元板周縁部を除く中央部全体を一体的に片面膨管し、中央部膨管部から複数枚のパネル部を姿抜きして全面が片面膨管部をなす各パネル部を得、その周辺膨管部をプレスで潰した後、さらに二次元もしくは三次元曲げ形成および端部曲げ加工を施す方法が開示されている。これらの手段では、素材全面に凹凸部を設けて潰すため、板面中央部に成形される微細な流路形状を確保できないこと、形状不良の原因となる残留応力が生ずる部位を選択的に凹凸部を施し対策できず、全面に圧痕が残る問題がある。
【0008】
また、本発明者の一部は、特許文献4に、全周に凹凸形状を有する上下のロールで金属板に凹凸形状を付与した後、後段のロールで凹凸形状版の一部を圧延するか、もしくは、プレスして潰し、固体電解質型燃料電池用セパレータを製造する方法を開示した。
しかし、特許文献4に開示した方法では、強度の高いチタン板を成形した場合に、セパレータの反り、捩れが大きくなることがある。また、後段のロールで凹凸形状版の一部を圧延する場合は、製造対象が、ロールの周方向と流路溝が平行なパラレルタイプのセパレータに限定されていること、また、後工程でプレスして潰す場合は、プレス成形時に残留応力が生じ、反り、捩れが大きくなる問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開2002−190305号公報
【特許文献2】特開2006−35245号公報
【特許文献3】特開2000−247143号公報
【特許文献4】特開2006−75900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
セパレータの凸部及び凹部の形状と相似形の凹凸加工を表面に施した上下一対の圧下ロールを有する[ことを特徴とする]固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置において、板面の中央部にのみ流路パターンとなる凹凸部を形成する強加工であるため、加工後に強加工部と非加工部での歪み量の差異が生じて残留応力が発生し、ねじれや局部的なうねりとなる形状不良の問題がある。
本発明は、前記の問題に鑑み、低コスト・高耐久型の固体高分子型燃料電池に適用できる、加工後のねじれやうねりが極めて少なく密閉性に優れた燃料電池用セパレータの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
係る課題を解決するため、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)上下一対のロールの軸方向中央部であって、圧延方向の長さL(mm)、軸方向の幅W(mm)からなる四角形状の領域にそれぞれ第1凹凸部(11a、11b)を有し、更に軸方向で前記第1凹凸部(11a、11b)より外側で、前記第1凹凸部(11a、11b)のコーナー部近傍の4箇所のみに、それぞれエンボス状凹凸部(12a−1、12a−2、12a−3、12a−4、12b−1、12b−2、12b−3、12b−4)を有する1段目の圧下ロールと、上下一対のロール軸方向中央部であって、前記第1凹凸部と対応する位置に、それぞれ前記第1凹凸部と同等の形状からなる第2凹凸部(63a、63b)を有し、前記第2凹凸部の周囲は前記1段目の圧下ロールのエンボス状凹凸部で形成されたセパレータのエンボス状凹凸部を潰すための平滑面からなる2段目の圧下ロールからなるロール列を有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
【0012】
(2)圧延方向で前記1段目の圧下ロールの軸方向片側に存在する1組のエンボス状凹凸部(12a−1と12a−2、12a−3と12a−4、12b−1と12b−2、12b−3と12b−4)の先端から後端までの合計長さa(mm)が、それぞれa≧Lを満たすことを特徴とする(1)記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
【0013】
(3)前記1段目の圧下ロールにおいて、前記第1凹凸部(11a、11b)のコーナー部から、圧延方向に沿って前記第1凹凸部(11a、11b)の内側に存在する前記エンボス状凹凸部(12a−1、12a−2、12a−3、12a−4、12b−1、12b−2、12b−3、12b−4)の長さb(mm)が、それぞれL/4≧b≧L/8を満たすことを特徴とする(1)又は(2)記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、セパレータの凸部及び凹部の形状と相似形の凹凸加工を表面に施した上下一対の圧下ロールを有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置において、低コスト・高耐久型の固体高分子型燃料電池に適用できる、加工後のねじれやうねりが極めて少なく密閉性に優れた燃料電池用セパレータの製造装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に関し、図面を用いて具体的に説明する。
図1は、セパレータ23のねじれの形態を示した図である。板成形品のねじれやうねりなどの形状不良は、一般的に成形後の残留応力分布に起因すると言われている。図2に示すようにセパレータ形状となる凹凸部21が板の内部に成形加工されると、四隅のコーナー部24に材料が流れ込んでいくため、縮みフランジ変形となって圧縮残留応力が発生する。
【0016】
そこで、コーナー部近傍に後述のエンボス状凹凸部がない従来の種々のセパレータについて、周囲平坦部の残留応力測定を行った。成形直後の状態を模擬するため、ねじれを生じた成形品を押し付け金具によって周囲をフラットな状態に維持して、微小焦点X線応力測定装置で残留応力を測定調査した。図3は残留応力分布の測定例であり、圧延方向(紙面左右方向)に平行な周辺の平坦部の二辺(図3の凹凸部21の上側及び下側の周辺部)において圧延方向に測定した。図3中のA測定ラインおよびB測定ラインは、測定箇所を示しており、凹凸部21の端部から圧延直角方向に約5mm離れた位置とした。本測定調査から、周辺平坦部の残留応力分布データが得られ、コーナー部近傍に縮みフランジ変形に起因する圧縮残留応力の存在が明らかになった。
【0017】
発明者らは、この調査結果から残留応力が存在する領域にエンボス状の凹凸部22(図5参照)を形成して、残留応力を緩和し、ねじれやうねりなどの形状不良を低減することを着想した。図5は、1段目の圧下ロールで成形加工されたセパレータ形状例を示す。
成形されたセパレータ23は、水素や空気(酸素)の流路となる連続した凹凸部21からなる溝が形成され、固体高分子膜やシール板を介して数百枚積層されて水素や空気(酸素)を固体高分子膜に供給する燃料極の役割を果たすことから、密閉性を保つ必要がある。
【0018】
図4は、燃料電池スタックの構造の例を示す。セパレータ23、シール板43、電極である炭素繊維集電体42の積層構造で、両面に電極触媒が塗布された固体高分子膜41を重ね合わせることで、単セルが形成される。図中のAサイクルを繰り返し積層することで燃料電池スタックが構成される。シール板の材質は、適度な弾性を有し、冷却水の沸点以下で分解・塑性変形が起きない材料であればよく、シリコン樹脂、ブタジエンゴム系樹脂、フッ素系樹脂などが適用可能で、溝高さより僅かに厚いシール板を締め付けることによりガスがシールされる。シール板は適度な弾性を有することで、セパレータ等の微小な変形にも追従することが可能となり、ある程度密閉性を保つことが出来るが、エンボス状凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4(図5参照)が凹凸部水素や空気(酸素)の流路となる凹凸部21を有する四角形状の領域のコーナー部近傍に存在するとシール板で密閉構造を保持するのは困難である。従って、周囲平坦部は、シール板が密着するように、最終的には予めエンボス状の凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4を圧延加工により潰して残さないようにする必要がある。
【0019】
以上のことから、図6に示すように、1段目の上下の圧下ロール61a、61bでセパレータの四角形状の領域にガス流路となる凹凸部を形成すると共に、この領域の幅方向の外側であって、四隅コーナー部近傍にそれぞれエンボス状の凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4を成形して、残留応力を緩和し、さらに、2段目の圧下ロール62a、62bにより、セパレータのエンボス状凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4を含めた凹凸部の周囲を一様に圧延成形して(潰して)所定の製品形状を得ることを見出した。
【0020】
本成形法を実現すべく、周辺に平坦部を有し、周辺を除く部分は長さL(mm)、幅W(mm)の四角形状の領域にガス流路となる凹凸部を有する固体高分子型燃料電池用セパレータの製造装置において、上下一対のロールの軸方向中央部であって、圧延方向の長さL(mm)、軸方向の幅W(mm)からなる四角形状の領域にそれぞれ第1凹凸部11a、11bを有し、更に、軸方向で前記第1凹凸部11a、11bより外側で、前記第1凹凸部11a、11bのコーナー部近傍の4箇所のみに、それぞれエンボス状凹凸部12a−1、12a−2、12a−3、12a−4、12b−1、12b−2、12b−3、12b−4を有する1段目の圧下ロールと、上下一対のロール軸方向中央部であって、前記第1凹凸部と対応する位置に、それぞれ前記第1凹凸部と同等の形状からなる第2凹凸部63a、63bを有し、前記第2凹凸の周囲は、前記第1段目の圧下ロールのエンボス状凹凸部で形成されたセパレータのエンボス状の凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4を圧延して潰すための平滑面からなる2段目の圧下ロールからなるロール列を構成させた(前記(1)に係る発明)。
ここで、コーナー部近傍とは、第1凹凸部11a、11bを有する四角形状の領域のコーナー部から圧延方向に±L/4(mm)以内の領域を指している。
【0021】
図5は、1段目の圧下ロールで成形加工されたセパレータ形状例を示す。図3の測定結果が示す残留応力が存在する領域を勘案し、圧延方向(紙面上下方向)に平行な一辺に存在する1組のエンボス状凹凸部(例えば、22−1と22−2)の先端から後端までの合計長さa(mm)(すなわち、セパレータの圧延方向の前方側のエンボス状凹凸部22−1の先端から、後方側のエンボス状凹凸部22−2の後端までの長さ)は、確実に圧縮残留応力を緩和するため、圧延方向に平行な凹凸部21の一辺の長さLより大きい方が望ましい。
【0022】
このため、前記上下一対の1段目の圧下ロールにおいて、圧延方向で、軸方向の片側に存在する1組のエンボス状凹凸部12a−1と12a−2、12a−3と12a−4、12b−1と12b−2、12b−3と12b−4の先端から後端までの合計長さa(mm)が、それぞれa≧Lを満たすようにすることが好ましい。(前記(2)に係る発明)
【0023】
また、2段目の圧下ロール62a、62bでセパレータのエンボス状凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4を潰した後は、圧痕が存在し表面が粗くなり外観が損なわれる。その圧痕は燃料電池スタックの密閉性を損なう場合もあることから、セパレータに形成するエンボス状凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4の領域は、極力最小限度にすること、すなわち、1段目の圧下ロールに設けるエンボス状凹凸部12a−1、12a−2、12a−3、12a−4、12b−1、12b−2、12b−3、12b−4の領域は極力最小限にした方がよい。
【0024】
図5に示すように、b(mm)を、セパレータの凹凸部21のコーナー部から圧延方向に沿って凹凸部21の内側に存在するエンボス状凹凸部(例えば22−1)の長さとすると、図3の残留応力測定結果から、コーナー部近傍の残留応力はL/4≧b≧L/8の付近まで存在していることが認められる。
【0025】
従って、1段目の圧下ロールにおいて、第1凹凸部11a、11bのコーナー部から、圧延方向に沿って第1凹凸部11a、11bの内側に存在するエンボス状凹凸部12a−1、12a−2、12a−3、12a−4、12b−1、12b−2、12b−3、12b−4の長さb(mm)は、確実に圧縮残留応力を緩和するため、少なくともL/8以上であることが好ましく、また、セパレータ内での圧痕領域を極力小さくするため、長さb(mm)はL/4以下であることが好ましい(前記(3)に係る発明)。
【0026】
本発明に係るセパレータ製造装置の例を図6に示す。本装置は2段のロール列から構成されており、各ロール列の上下圧下ロールは同期駆動されている。1段目の圧下ロール61a、61bはロールの軸方向中央部に前記セパレータの凹凸部の形状と相似形の第1凹凸部11a、11bと、ロール軸方向の外側であって、前記第1凹凸部11a、11bのコーナー部近傍、すなわち圧延方向に平行な二辺で、第1凹凸部のコーナー部近傍において、エンボス状凹凸部12a−1、12a−2(図示せず)、12a−3、12a−4(図示せず)、12b−1、12b−2(図示せず)、12b−3(図示せず)、12b−4(図示せず)を有し、2段目の圧下ロール62a、62bは第1凹凸部と対応する位置に、第1凹凸部と同一形状の第2凹凸部63a、63bを有しており、第2凹凸部63a、63bの周囲は、1段目の圧下ロール61a、61bのエンボス状凹凸部で形成されたセパレータのエンボス状凹凸部を潰すための平滑面からなっている。
【0027】
つまり、2段目の圧下ロール62a、62bは、セパレータのコーナー部周辺に存在するエンボス状凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4を圧延して潰すために用いられ、セパレータの凹凸部21は潰れないように第2凹凸部63a、63bが配置されている。この第2凹凸部63a、63bはセパレータの凹凸部を有する四角形状の領域と対応する形状、すなわち、第1凹凸部11a、11bの輪郭形状と同等な寸法となっており、その凹部の深さは、第1凹凸部11a、11bの溝高さよりも大きい。従って、2段目の圧下ロールでは、セパレータの凹凸部21の領域は圧延加工は施されず、凹部63a、63bの周囲平坦部によりセパレータのエンボス状凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4のみが圧延加工されて潰される。
【0028】
なお、この2段目の圧下ロールの第2凹凸部63a、63bの位置は、一段目のロールの凹凸11a、11bの位置と対応するように軸方向および圧延方向(ロールの周方向)位置が調整されることはいうまでもない。
また、図5で示したセパレータの凹凸の形状、配置、寸法などは、これを形成するための図6に示した上下ロールの凹凸の形状、配置、寸法と対応する関係にあるものであり、本明細書において、セパレータ或いはロールで説明した凹凸の形状、配置、寸法などは相互に対応するものである。
【実施例】
【0029】
本発明を実施例により、以下に説明する。
【0030】
(実施例1)
本発明において実験を行ったセパレータ形状については、厚み0.15mmのオーステナイト系ステンレス鋼板を使用し、セパレータの外形は縦400mm、横250mmであり、凹凸部21のサイズは圧延方向の長さLが320mm、圧延直角方向の長さWが150mmである。凹凸部21の流路溝は圧延方向に平行に形成され、その断面形状は矩形の繰り返し断面であり、溝深さ0.6mm、溝幅1.4mmである。各圧下ロールの材質は金型用合金工具鋼を用いて製作した。
【0031】
図7は本発明に係る1段目の圧下ロールにより成形されたエンボス状凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4の拡大部を示したものである。エンボス25は、図7に示すように、円筒状の形状で、直径dは1.4mm、深さhは0.6mmであり、ピッチ長さpは2.8mmで圧延方向及び圧延直角方向に等間隔に配置されている。図5に示すようにエンボス状凹凸部22−1、22−2、22−3、22−4は凹凸部21の各コーナー部近傍に4箇所あり、その領域の圧延直角方向の長さを50mmとし、圧延方向の長さについては表1のa(mm)及びb(mm)に示すとおりである(表1のNo.1〜8参照)。比較例として、コーナー部近傍にエンボス状の凹凸部がない従来のセパレータの試作も行った(表1のNo.9参照)。
【0032】
製品の評価は、ねじり量H(mm)を評価項目とし、図1に示すようにセパレータのコーナー部の一箇所を固定した上で、変位量の最大値をねじり量H(mm)とし、0.5mm以下を◎、0.5mmよりも大きく、かつ1.0mm以下を○、それ以外(1.0mm超)を×とした。
比較例であるNo.9のセパレータは凹凸部のコーナー部近傍にエンボス状凹凸部が形成されずコーナー部近傍の残留応力が緩和されていないため、ねじりが顕著に発生し、3.0mmのねじり量となった。それに対して、本発明例はコーナー部の残留応力が緩和されることにより、ねじり量が低減され、寸法精度に優れるセパレータを得ることが出来た。
【0033】
【表1】

【0034】
一方、ガス密閉性については、本発明例のセパレータを用いて燃料電池スタックを組み上げて確認を行った。図8は組み上げた燃料電池スタックの概観である。図4に示す単セルを合計200段積み上げる構成とした。固体高分子膜41、炭素繊維集電体42、シール板43は、それぞれパーフルオロスルホン酸系イオン交換膜、多孔質カーボンペーパー、シリコン樹脂を用いて、燃料電池スタックを試作した。各構成部材には、水素及び空気(酸素)の流入口、流出口を設け、燃料ガスを供給できる構造とした。各部材の四周に位置決めと全圧をかける目的でボルト穴を配し、高張力ボルトと剛性のある終端板を用いて燃料電池スタックの締め付けを行った(ボルト穴、高張力ボルトは図示せず)。実際に、水素、酸素を供給し、水素濃度計及び酸素濃度計でリーク量を測定したところ、漏えい検出されず良好な密閉性が保たれており、寸法精度に優れ、エンボス状凹凸も密閉性を損なわない程に潰されたセパレータとなっていることが確認された。
【0035】
(実施例2)
本発明の一実施例について以下に示す。
本発明において実験を行ったセパレータ形状については、厚み0.15mmのJIS規格H4600相当のチタン板を使用し、セパレータの外形は縦400mm、横250mmであり、凹凸部21のサイズは圧延方向の長さLが320mm、圧延直角方向の長さWが150mmである。凹凸部21の流路溝は圧延方向に平行に形成され、その断面形状は矩形の繰り返し断面であり、溝深さ0.5mm、溝幅1.4mmである。各圧下ロールの材質は金型用合金工具鋼を用いて製作した。
【0036】
エンボス25は、図5に示すように、円筒状の形状で、直径dは1.4mm、深さhは0.5mmであり、ピッチ長さpは2.8mmで圧延方向及び圧延直角方向に等間隔に配置されている。図5に示すように、エンボス状の凹凸部22は凹凸部21の各コーナー部近傍に4箇所あり、その領域の圧延直角方向の長さを50mmとし、圧延方向の長さについては表1のa(mm)及びb(mm)に示すとおりである(表2のNo.1〜8参照)。比較例として、コーナー部近傍にエンボス状の凹凸部がない従来のセパレータの試作も行った(表2のNo.9参照)。
【0037】
製品の評価は、実施例1と同様にねじり量H(mm)を評価項目とし、図1に示すようにセパレータのコーナー部の一箇所を固定した上で、変位量の最大値をねじり量H(mm)とし、0.5mm以下を◎、0.5mmよりも大きく、かつ1.0mm以下を○、それ以外(1.0mm超)を×とした。
比較例であるNo.9のセパレータはコーナー部近傍の残留応力が緩和されていないため、ねじりが顕著に発生し、2.5mmのねじり量となった。それに対して、本発明例はコーナー部の残留応力が緩和されることにより、ねじり量が低減され、寸法精度に優れるセパレータを得ることが出来た。
【0038】
【表2】

【0039】
一方、ガス密閉性についても実施例1と同様に、本発明例のセパレータを用いて燃料電池スタックを組み上げて確認を行った。単セルを合計200段積み上げる構成とし、固体高分子膜41、炭素繊維集電体42、シール板43は、それぞれパーフルオロスルホン酸系イオン交換膜、多孔質カーボンペーパー、シリコン樹脂を用いて、燃料電池スタックを試作した。各構成部材には、水素及び空気(酸素)の流入口、流出口を設け、燃料ガスを供給できる構造とした。各部材の四周に位置決めと全圧をかける目的でボルト穴を配し、高張力ボルトと剛性のある終端板を用いて燃料電池スタックの締め付けを行った(ボルト穴、高張力ボルトは図示せず)。実際に、水素、酸素を供給し、水素濃度計及び酸素濃度計でリーク量を測定したところ、漏えい検出されず良好な密閉性が保たれており、寸法精度に優れ、エンボス状凹凸も密閉性を損なわない程に潰されたセパレータとなっていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】セパレータのねじれの形態を示す概観図である。
【図2】セパレータの平面図を示す図である。
【図3】セパレータ周囲平坦部の残留応力分布の測定例を示す図である。
【図4】燃料電池スタックの構造の例を示す概念図である。
【図5】本発明の1段目の圧下ロールで成形加工されたセパレータの形状例を示す平面図である。
【図6】本発明のセパレータ製造装置の例を示す概観図である。
【図7】本発明の1段目の圧下ロールにより成形されたエンボス状凹凸部12を示す平面図および断面図である。
【図8】燃料電池スタックを示す概観図である。
【符号の説明】
【0041】
11a、11b セパレータの形状と相似形のロールの第1凹凸部
12a−1、12a−2、12a−3、12a−4、12b−1、12b−2、12b−3、12b−4 ロールのエンボス状凹凸部
21 セパレータの凹凸部
22−1、22−2、22−3、22−4 セパレータのエンボス状凹凸部
23 セパレータ
24 流路凹凸部のコーナー部
25 エンボス
41 固体高分子膜
42 炭素繊維集電体(電極)
43 シール板
61a、61b 1段目の圧下ロール
62a、62b 2段目の圧下ロール
63a、63b 第2凹凸部
83 水素(燃料ガス)導入口
84 空気(酸素)導入口
85 水素(燃料ガス)排出口
86 空気(酸素)排出口
87 上型
88 下型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対のロールの軸方向中央部であって、圧延方向の長さL(mm)、軸方向の幅W(mm)からなる四角形状の領域に、それぞれ第1凹凸部(11a、11b)を有し、更に幅方向で前記第1凹凸部(11a、11b)より外側で、前記第1凹凸部(11a、11b)のコーナー部近傍の4箇所のみに、それぞれエンボス状凹凸部(12a−1、12a−2、12a−3、12a−4、12b−1、12b−2、12b−3、12b−4)を有する1段目の圧下ロールと、上下一対のロールの軸方向中央部であって、前記第1凹凸部と対応する位置に、それぞれ前記第1凹凸部と同等の形状からなる第2凹凸部(63a、63b)を有し、前記第2凹凸部の周囲は前記第1段目の圧下ロールのエンボス状凹凸部で形成されたセパレータのエンボス状凹凸部を潰すための平滑面からなる2段目の圧下ロールからなるロール列を有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
【請求項2】
圧延方向で前記1段目の圧下ロールの軸方向片側に存在する1組の前記エンボス状凹凸部(12a−1と12a−2、12a−3と12a−4、12b−1と12b−2、12b−3と12b−4)の先端から後端までの合計長さa(mm)が、それぞれa≧Lを満たすことを特徴とする請求項1記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
【請求項3】
前記1段目の圧下ロールにおいて、前記第1凹凸部(11a、11b)のコーナー部から、圧延方向に沿って前記第1凹凸部(11a、11b)の内側に存在する前記エンボス状凹凸部(12a−1、12a−2、12a−3、12a−4、12b−1、12b−2、12b−3、12b−4)の長さb(mm)が、それぞれL/4≧b≧L/8を満たすことを特徴とする請求項1又は2記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−283251(P2009−283251A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133307(P2008−133307)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】