説明

固体高分子形燃料電池用電解質材料、電解質膜及び膜電極接合体

【課題】軟化温度が高く、高温条件で使用した場合においても機械的強度が保持されうる重合体からなる固体高分子形燃料電池用の電解質材料を提供する。
【解決手段】ラジカル重合反応性を有する含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位を含むポリマーからなり、該繰り返し単位は、式(A)で表され(Q=炭素鎖長1〜6のペルフルオロアルキレン基、Ra1〜Ra5=ペルフルオロアルキル基又はフッ素原子、a=0〜1、R=ペルフルオロアルキル基、X=酸素原子等、Xが酸素原子の場合g=0)、ポリマーの軟化温度が120℃以上である固体高分子形燃料電池用電解質材料。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子形燃料電池の電解質膜を構成する電解質材料又は触媒層に含まれる電解質材料に関する。特に軟化温度が高く機械的強度の高いポリマーからなる電解質材料であって、燃料電池の高温での運転を可能とする電解質材料に関する。さらには該電解質材料の原料として有用な、含フッ素重合体と含フッ素モノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食塩電解用膜、固体高分子形燃料電池用の膜又は触媒層には、式CF=CF−(OCFCFRx1−Ox2−(CFx3−SOFで表される含フッ素モノマー(ただし、Rはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、x1は0〜3の整数であり、x2は0又は1であり、x3は1〜12の整数であり、x1+x2>0である。)とテトラフルオロエチレンとの共重合体を加水分解して得られるポリマー、又はさらに酸型化して得られるスルホン酸基を有するポリマー(以下、スルホン酸ポリマーという。)が用いられている。
【0003】
上記スルホン酸ポリマーは、軟化温度が80℃付近であるため、このポリマーを使用した燃料電池の運転温度は通常80℃以下である。しかし、メタノール、天然ガス、ガソリン等の有機化合物を改質して得られる水素を燃料電池の燃料ガスとして使用する場合、一酸化炭素が微量でも含まれると電極触媒が被毒して燃料電池の出力が低下しやすくなる。したがって、これを防止するため運転温度を高めることが要望されている。また、燃料電池の冷却装置を小型化するためにも運転温度を高めることが要望されており、好ましくは120℃以上で運転できる膜が望まれている。しかし、従来の上記スルホン酸ポリマーは軟化温度が低いためこれらの要望に対応できなかった。
【0004】
軟化温度が高い重合体としては、下式(y)で表されるモノマー(以下、単にモノマー(y)ともいう。)とテトラフルオロエチレンの共重合体が提案されている(特許文献1参照)。ただし、Qはフッ素化された2価有機基、Ry1〜Ry3は、それぞれ独立に、フッ素原子又はフッ素化された1価有機基を示す。
【0005】
【化1】

【0006】
また、特許文献2には下式(z)で表わされるモノマー(以下、モノマー(z)という。)が開示されている。ただし、XはF、Cl、−OC、−CN、−COF、−COORz1(ただし、Rz1は−CH、−Cまたは−CHCFを示す。)、−SOF、−SOCl等の種々の官能基を、Rはフッ素原子又はペルフルオロアルキル基を、Qはエーテル性酸素原子を含有してもよいペルフルオロアルキレン基を、示すとされている。
【0007】
【化2】

【0008】
しかし、Xが−SOF又は−SOClであるモノマー(z)については、合成例が記載されておらず、該モノマー(z)を重合させた重合体を燃料電池用途に使用する示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第03/037885号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4973714号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
燃料電池は、前述した通り高温条件で使用されることが好ましい。たとえば固体高分子形燃料電池は、除熱を容易にし発電効率を高めるために高温運転(例えば、120℃以上の温度での運転)されるのが望ましい。そのため固体高分子形燃料電池用の電解質膜等には、高温領域において高い機械的強度を示すスルホン酸ポリマーが求められる。
【0011】
しかし、特許文献1のモノマー(y)のQが−CFOCFCF−基等のペルフルオロ(エーテル性酸素原子含有アルキレン)基である場合、モノマー(y)を重合させた重合体は軟化温度が充分に高くなかった。またモノマー(y)のQの炭素数が大きくなるとモノマー(y)を重合させた重合体の軟化温度は低下すると考えられる。
【0012】
そこで本発明は、軟化温度が高く、高温条件で使用した場合においても機械的強度が保持されうる重合体からなる固体高分子形燃料電池用の電解質材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ラジカル重合反応性を有する含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位を含むポリマーからなり、該繰り返し単位は、式(A)で表され(ただし、Qは直鎖又は分岐構造を有する炭素鎖長1〜6のペルフルオロアルキレン基であり、Ra1〜Ra5はそれぞれ独立にペルフルオロアルキル基又はフッ素原子であり、aは0又は1であり、Rは、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい直鎖又は分岐のペルフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子又は炭素原子であって、Xが酸素原子の場合g=0であり、Xが窒素原子の場合g=1であり、Xが炭素原子の場合g=2である。)、前記ポリマーの軟化温度が120℃以上であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質材料、及び当該電解質材料からなる固体高分子形燃料電池用電解質膜を提供する。
【化3】

【0014】
上記−(SOX(SOで表されるイオン性基(以下、本イオン性基という)は、例えばスルホン酸基等の強酸性基であり、燃料電池用電解質材料のイオン性基として好適である。このポリマーの繰り返し単位である脂環式含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位は、本イオン性基を2以上含んでいてもよい。
【0015】
また本発明は、上述の電解質材料の製造方法であって、式(a)で表される化合物を、ラジカル開始源の存在下で、ラジカル重合した後、前記−SOF基を−(SOX(SOで表されるイオン性基(Rは、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい直鎖又は分岐のペルフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子又は炭素原子であって、Xが酸素原子の場合g=0であり、Xが窒素原子の場合g=1であり、Xが炭素原子の場合g=2である。)に変換することを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質材料の製造方法を提供する。
【化4】

【0016】
また本発明は、触媒と固体高分子電解質とを含む触媒層を有するカソード及びアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置される固体高分子電解質膜とを備える膜電極接合体であって、前記固体高分子電解質膜は、上述の固体高分子電解質材料からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を提供する。
【0017】
さらに本発明は、触媒と固体高分子電解質とを含む触媒層を有するカソード及びアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置される固体高分子電解質膜とを備える膜電極接合体であって、前記カソード及び前記アノードの少なくとも一方の触媒層に含まれる固体高分子電解質は、上述の電解質材料であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のペルフルオロスルホン酸ポリマーよりも軟化温度が高い電解質材料を提供できるので、従来よりも高温運転が可能な固体高分子形燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】例1、比較例1〜3の電解質材料についての貯蔵弾性率の温度依存性を示す図。
【図2】例1、比較例1〜3の電解質材料についての損失弾性率の温度依存性を示す図。
【図3】例3で得られたポリマーを用いた膜を組み込んだ膜電極接合体の120℃における電流−電圧特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書においては、式(a)で表される化合物を化合物(a)と記す。式(A)で表される単位は単位(A)と記す。単位(A)を含む重合体を重合体(A)と記す。他の式で表される化合物、単位、及び重合体においても同様に記す。
【0021】
重合体における単位とは、モノマーが重合することによって形成する該モノマーに由来するモノマー単位(繰り返し単位ともいう。)を意味する。本発明における単位は重合反応によって直接形成する単位であっても、重合反応後の化学変換によって形成する単位であってもよい。
【0022】
本明細書における有機基とは、炭素原子を1以上含む基をいう。有機基としては、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基、又はハロゲン化(ヘテロ原子含有炭化水素)基が挙げられる。炭化水素基とは炭素原子と水素原子とからなる基をいう。またハロゲン化炭化水素基は、炭素原子に結合した水素原子の1個以上がハロゲン原子によって置換された基をいう。ヘテロ原子含有炭化水素基は、ヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子等)及び/又はヘテロ原子団(−C−C(=O)−C−、−C−SO−C−等)を含む炭化水素基をいう。またハロゲン化(ヘテロ原子含有炭化水素)基は、上記ヘテロ原子含有炭化水素基における炭素原子に結合した水素原子の1個以上が、ハロゲン原子によって置換された基をいう。
【0023】
本発明の固体高分子形燃料電池用電解質材料(以下、本電解質材料という)を構成するポリマーは、ラジカル重合反応性を有する含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位を含む。
【0024】
該繰り返し単位は、少なくとも一つの炭素原子が前記ポリマーの主鎖に含まれる5員環(1又は2個の酸素原子を有していてもよい)と、該5員環に直鎖若しくは分岐構造を有するペルフルオロアルキレン基を介して結合するか又は前記5員環に直接結合しているイオン性基とを含む繰り返し単位(以下、本脂環式単位という)を含む。
【0025】
前記ペルフルオロアルキレン基の炭素鎖長は、1〜6が好ましく、2〜4が特に好ましい。
【0026】
前記イオン性基は、式−(SOX(SOで表される(R、Xおよびgの定義は上述のとおり。以下同様。)。
【0027】
イオン性基は、具体的には、スルホン酸基等の−SO基、スルホンイミド基(−SONSO又はスルホンメチド基(−SOC(SOが好ましい。ここでRの炭素数は1〜8であることが好ましく特に1〜6であることが好ましい。具体的にはペルフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基等が好ましい。スルホンメチド基の場合、2つのRは同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
このようなポリマーとしては、下記単位(A)を含むポリマーまたは下記単位(B)を含むポリマーが好ましい。
【0029】
【化5】

【0030】
ただし、Qは直鎖又は分岐構造を有するペルフルオロアルキレン基であり、Ra1〜Ra5はそれぞれ独立にペルフルオロアルキル基又はフッ素原子であり、aは0又は1である(以下同様。)。Qは直鎖又は分岐構造を有するペルフルオロアルキレン基であり、Rb1〜Rb3はそれぞれ独立にペルフルオロアルキル基又はフッ素原子であり、bは0又は1である(以下同様。)。
【0031】
単位(A)において、特に高い重合性を有するためには、Ra4、Ra5の少なくとも一方はフッ素原子であることが好ましい。特にRa4、Ra5ともにフッ素原子であることが好ましい。さらにRa1〜Ra3もフッ素原子であることが好ましい。また、Qの炭素鎖長としては1〜6が好ましく、特に2〜4が好ましい。具体的には下記単位(A1)が好ましい。ここでa1は0〜6であり、好ましくは2〜4である。
【0032】
【化6】

【0033】
単位(B)において、Rb1、Rb2の少なくとも一方はフッ素原子であることが好ましい。特にRb1、Rb2ともにフッ素原子であることが好ましい。Rb3はトリフルオロメチル基が好ましい。また、Qの炭素鎖長としては1〜6が好ましく、特に2〜4が好ましい。具体的には下記単位(B1)が好ましい。ここでb1は1〜6であり、好ましくは2〜4である。
【0034】
【化7】

【0035】
また単位(A)および単位(B)のほかに、下記単位(C)〜下記単位(E)も本脂環式単位として好ましい。
【0036】
【化8】

【0037】
ただし、Q、Q、QおよびQは、それぞれ独立に、直鎖又は分岐構造を有するペルフルオロアルキレン基であり、その炭素鎖長は1〜6であることが好ましい(以下同様。)。c、d、eおよびfは、それぞれ独立に、0又は1である(以下同様。)。Rc1〜Rc5、Rd1〜Rd3、Re1〜Re3およびRf1〜Rf3は、それぞれ独立に、ペルフルオロアルキル基又はフッ素原子である(以下同様。)。Rc1〜Rc5、Rd2、Rd3、Re1、Re2、およびRf1〜Rf3はそれぞれフッ素原子であることが好ましい。
【0038】
本電解質材料を構成するポリマー(以下、単に本ポリマーともいう。)は、本脂環式単位と他の単位の種以上からなる共重合体であっても単独重合体であってもよい。ただし、他の単位とは本脂環式単位以外の単位を意味する。
【0039】
たとえば、本ポリマーが重合体(A)からなる場合、ここでいう重合体(A)は単位(A)の1種以上からなる重合体であってもよく、単位(A)の1種以上と単位(A)以外の単位の1種以上からなる重合体であってもよい。後者の重合体(A)としては単位(A)の1種と単位(A)以外の単位の1種以上とからなる重合体であるのが好ましい。
【0040】
また、本ポリマーが重合体(B)からなる場合、ここでいう重合体(B)は単位(B)の1種以上からなる重合体であってもよく、単位(B)の1種以上と単位(B)以外の単位の1種以上からなる重合体であってもよい。後者の重合体(B)としては単位(B)の1種と単位(B)以外の単位の1種以上とからなる重合体であるのが好ましい。
【0041】
また本脂環式単位を含む重合体が2種以上の単位を含む共重合体の場合、各単位の並び方としては、ブロック状、グラフト状、及びランダム状が挙げられる。このうち本電解質材料の製造容易性の観点から各単位の並び方はランダム状であるのが好ましい。またこのポリマーは架橋されていてもよい。
【0042】
他の単位としては、下記化合物(w1)、下記化合物(w2)、又は下記化合物(w3)を重合させた単位が好ましい。
CHR11=CR1213 (w1)
CFR14=CR1516 (w2)
CR1718=CR19−Q−CR20=CF (w3)。
【0043】
ただし、R11、R12、及びR13は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、1価含フッ素飽和有機基を示す。R14、R15、及びR16は、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、又はエーテル性酸素原子を含有していてもよい1価含フッ素飽和有機基を示す。又は、R14、R15及びR16から選ばれる2つの基が共同で2価含フッ素有機基を形成し、かつ残余の1つの基はフッ素原子もしくは1価含フッ素飽和有機基を示す。R17、R18、R19、及びR20は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又は1価含フッ素有機基を示し、Qは2価の含フッ素有機基を示す。
【0044】
化合物(w1)の具体例としては、CHF=CF、CH=CF、CH=CHF、CH=CH、CH=CHCH、CH=CH(CFF、CH=CHCH(CFF等が挙げられる。
【0045】
化合物(w2)の具体例としては、CF=CF、CFCl=CF、CF=CFCF、下記化合物(w2−1)、下記化合物(w2−2)、及び下記化合物(w2−3)、CF=CFCFOCF等が挙げられる。
【0046】
ただし、tは0〜3の整数、Rt1はフッ素原子又はトリフルオロメチル基、Rt2は炭素鎖長1〜12のペルフルオロアルキル基を示す。また、Rt2は直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。Rt3及びRt4は、それぞれ独立に、フッ素原子又は炭素鎖長1〜3のペルフルオロアルキル基を示し、Rt5はフッ素原子又はトリフルオロメトキシ基を示す。Rt6及びRt7は、それぞれ独立に、フッ素原子又は炭素鎖長1〜7のペルフルオロアルキル基を示す。
【0047】
【化9】

【0048】
化合物(w3)の具体例としては、CF=CFOCFCFCF=CF、CF=CFOCF(CF)CFCF=CF、CF=CFOCFCF=CF等が挙げられる。
【0049】
本ポリマーは、耐久性の観点から他の単位は実質的に水素原子を含まないことが好ましい。実質的に水素原子を含まない単位としては、R14、R15、R16がフッ素原子又はペルフルオロ有機基である化合物(w2)又はR17、R18、R19、R20がフッ素原子でありQがエーテル性酸素原子を含有していてもよいペルフルオロアルキレン基である化合物(w3)を重合させた単位が好ましい。さらに膜状としたときに十分な強度を有し、かつ軟化温度が高くなることから、他の単位としてCF=CFを重合させた単位を含むか又はCF=CFを重合させた単位と化合物(w2−2)の1種であるペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)を重合させた単位とを含むことが特に好ましい。
【0050】
本ポリマー中の全単位に対する本脂環式単位の割合は、適宜選択できる。本ポリマーが非架橋のランダム共重合体からなる場合、低抵抗で高い発電効率が得られる観点から、本脂環式単位の割合は、5モル%以上が好ましく、10モル%以上が特に好ましい。また機械的物性の観点から、本脂環式単位の割合は50モル%以下が好ましく、35モル%以下がさらに好ましく、30モル%以下が特に好ましい。また本ポリマーがグラフトポリマーやブロックポリマーである場合には、当該ポリマー全体に占める本脂環式単位の割合が上記の範囲内であるのが好ましい。グラフトポリマーやブロックポリマーにおける本脂環式単位を含むセグメントは、本脂環式単位のみからなるものがあってもよい。
【0051】
本ポリマーが架橋された重合体からなる場合、架橋されていない場合と同様に低抵抗で高い発電効率が得られる観点から、本脂環式単位の割合は5モル%以上が好ましく、10モル%以上が更に好ましく、15モル%以上が特に好ましい。イオン交換容量を高く保持して機械的物性を改善する観点から、本ポリマー中の全単位に対する本脂環式単位の割合は、95モル%以下が好ましく、更に好ましくは75モル%以下であり、特に好ましくは50%以下である。
【0052】
本電解質材料のイオン交換容量(以下、Aという)は、0.5〜3.0ミリ当量/g乾燥樹脂(以下、meq/gとする)であることが好ましい。電解質材料のAが小さすぎると、電解質材料は含水率が低下してイオン伝導性が低くなり固体高分子形燃料電池の電解質膜として使用した場合、十分な電池出力を得にくくなる。同様の観点から0.7meq/g以上であるとより好ましく、0.9meq/g以上であるとさらに好ましい。一方、Aが大きくなりすぎると、電解質材料中のイオン交換基の密度が増大し、固体高分子電解質材料の強度が低くなりやすい。同様の観点から本電解質材料のAは、2.0meq/g以下であるとさらに好ましい。
【0053】
また、本電解質材料が、特に燃料電池の膜材料として用いるのに十分な強度を有するためには、以下に定めるΔTが40℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは60℃以上である。ポリマー強度という観点ではΔTの上限はないが、膜をキャスト法により成形したり、この電解質材料を触媒層に含有させる場合は、溶媒への溶解性又は分散性の観点と溶融成形する場合は電解質材料の前駆体の溶融成形性の観点から、ΔTは150℃以下が好ましく、さらに好ましくは120℃以下である。
ΔTは動的粘弾性の測定データを用いて下式で定義される。
ΔT=T−T
:貯蔵弾性率が1×10Paとなる温度、
:損失弾性率のピーク温度(軟化温度)。
【0054】
ポリマー強度とΔTの間に上述のような関係があるのは、ポリマーの分子量が大きくなるほどΔTが大きくなるからであると考えられる。動的粘弾性の測定は、貯蔵弾性率が1×10Paまで低下するまで昇温するが、ポリマーの分子量が非常に大きい場合には、ポリマー分解温度の350℃付近まで弾性率が1×10Paまで低下しない場合がある。この場合は、測定の最高温度をTmaxとすると、T>Tmaxとなる。例えばT=150℃、Tmax=340℃の場合、ΔT>190℃となる。
【0055】
本電解質材料は、軟化温度が120℃以上である。WO03/37885号にて具体的に実施例で開示されているような、イオン性基と5員環がエーテル性酸素原子含有ペルフルオロアルキレン基を介して結合している単位を含む重合体の場合は、軟化温度は100℃程度であり、本脂環式単位の構造により120℃以上の軟化温度が達成される。軟化温度が高いと燃料電池を高温で作動させることが可能である。なお、本発明における軟化温度とは、樹脂が軟化して貯蔵弾性率が急激に低下する温度領域において、昇温速度2℃/分、周波数1Hzでの動的粘弾性測定における損失弾性率が極大値を示す温度と定義する。すなわちこの軟化温度は先に述べたTと同一である。
【0056】
本電解質材料を構成するポリマーの製造方法において、1又は2個の酸素原子を有していてもよい5員環と、少なくとも1個の炭素原子が前記5員環に含まれる炭素−炭素二重結合と、直鎖若しくは分岐構造を有するペルフルオロアルキレン基を介して前記5員環に結合又は前記5員環に直接結合しているフルオロスルホニル基とを有する含フッ素モノマーを、ラジカル開始源の存在下で、ラジカル重合する。
【0057】
たとえば重合体(A)の製造方法としては、モノマーの重合反応による方法が挙げられる。より具体的には、下記化合物(a)の1種以上、該化合物の1種以上と他の単位を形成しうる化合物の1種以上を重合させる方法が挙げられる。また、他の単位をさらに別の構造に化学変換する反応を行ってもよい。これらの重合方法は、特に限定されず、WO03/37885号に記載される方法にしたがうのが好ましい。化合物(a)としては下記化合物(a1)が好ましく、後述の化合物(m)が特に好ましい。
【0058】
【化10】

【0059】
同様に重合体(B)の製造方法としては、下記化合物(b)の1種以上、または化合物(b)の1種以上と他の単位を形成しうる化合物の1種以上をラジカル重合させて製造される。化合物(b)としては、下記化合物(b1)が好ましく、後述の化合物(p)が特に好ましい。
【0060】
【化11】

【0061】
さらに、前記単位(C)を含む重合体の製造方法においては、下記化合物(c)をラジカル重合する。同様に前記単位(D)を含む重合体は下記化合物(d)を、前記単位(E)を含む重合体は下記化合物(e)を、前記単位(F)を含む重合体は下記化合物(f)を、それぞれラジカル重合することにより製造される。
【0062】
【化12】

【0063】
重合反応は、ラジカルが生起する条件のもとで行われるものであれば特に限定されない。例えば、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、液体又は超臨界の二酸化炭素中の重合等より行ってもよい。
【0064】
ラジカルを生起させる方法は特に限定されず、例えば、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法を用いることもできるし、通常のラジカル重合で用いられるラジカル開始剤を使用する方法も使用できる。重合反応の反応温度は特に限定されず、例えば、通常は15〜150℃程度である。ラジカル開始剤を使用する場合、ラジカル開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)パーオキシド類、ジアルキルパーオキシジカーボネート類、ジアシルパーオキシド類、パーオキシエステル類、アゾ化合物類、過硫酸塩類等が挙げられる。
【0065】
溶液重合を行う場合には、溶媒への連鎖移動が小さい溶媒が用いられる。そして、溶媒中に1種又は2種以上の上記含フッ素モノマーを所定量投入し、ラジカル開始剤等を添加してラジカルを生起させて重合を行う。ガスモノマー及び液体のモノマーは、一括添加でも逐次添加でも連続添加でもよい。
【0066】
ここで、使用可能な溶媒としては、ペルフルオロトリブチルアミン等のペルフルオロトリアルキルアミン類、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等のペルフルオロカーボン類、1H,4H−ペルフルオロブタン、1H−ペルフルオロヘキサン等のハイドロフルオロカーボン類、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、等のクロロフルオロカーボン類を例示することができる。分子量の調整には、ヘキサンやメタノール等の炭化水素系化合物を添加してもよい。
【0067】
懸濁重合は、水を分散媒として用いて、重合させるモノマーを添加し、ラジカル開始剤としてビス(フルオロアシル)パーオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)パーオキシド類、ジアルキルパーオキシジカーボネート類、ジアシルパーオキシド類、パーオキシエステル類、アゾ化合物類等の非イオン性の開始剤を用いることにより行うことができる。溶液重合の項で述べた溶媒を助剤として添加することもできる。また、懸濁粒子の凝集を防ぐために、適宜界面活性剤を分散安定剤として添加してもよい。
【0068】
架橋されている本ポリマーは、含フッ素モノマーと架橋性のモノマーを重合させて製造するのが好ましい。たとえば、重合体(A)が架橋されている場合の製造方法としては、化合物(a)と架橋性のモノマーとを重合させる方法によるのが好ましい。
【0069】
架橋性のモノマーとしては、下記化合物(w4)又は下記化合物(w5)(ただし、Qは単結合、酸素原子、又はエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素鎖長1〜10のペルフルオロアルキレン基を、Qはエーテル性酸素原子を含んでもよい炭素鎖長1〜10のペルフルオロアルキレン基を、示す。)が例示されうる。
【0070】
【化13】

【0071】
本ポリマーの製造方法において、含フッ素モノマーのラジカル重合により得たポリマー中の−SOF基は−(SOX(SOで表されるイオン性基に変換される。
【0072】
イオン性基がスルホン酸基である場合、−SOF基からスルホン酸基への変換は、公知の手法にしたがって実施できる。たとえば、アルカリ加水分解処理の後にさらに酸処理して−SO基とする方法が挙げられる。これらの方法は、WO03/37885号に記載される方法に従うのが好ましい。
【0073】
たとえば、他の単位を有する重合体である重合体(A)は、化合物(a)と共重合性の他のモノマーとを共重合させる方法により得た後、加水分解等の処理により−SOF基をイオン性基に変換して製造される。同様に重合体(B)は、化合物(b)の1種以上をラジカル重合させて得た重合体中の−SOF基を、加水分解等の処理によりイオン性基に変換して得るのが好ましい。
【0074】
たとえば、重合体(A1)の製造方法としては、化合物(a1)を重合後、−SOF基を−(SOX(SO基に変換して得るのが好ましい。
【0075】
さらに含フッ素モノマーまたは含フッ素モノマーのラジカル重合により得たポリマー中の、−SOF基は、RSONHM(Mはアルカリ金属又は1〜4級のアンモニウムを示す。以下、同様。)との反応、水酸化アルカリ、アルカリ金属炭酸塩、MF、アンモニア又は1〜3級アミンの存在下でのRSONHとの反応、又はRSONMSi(CHとの反応により、スルホンイミド基に変換することができる。これらの反応では、スルホンイミド基は使用した塩基由来の塩型で得られる。
【0076】
たとえば、化合物(a1)を用いた場合の反応スキームを以下に示す。Jは、Cl又はBrを示す。
【0077】
【化14】

【0078】
塩型のスルホンイミド基は、硫酸、硝酸、塩酸などの酸で処理することにより、酸型に変換することが可能である。
【0079】
また、化合物(a)を重合して−SOF基を有するポリマーを合成し、該ポリマーの−SOF基に対して同様の処理を行うことによってもスルホンイミド基を有する固体高分子電解質材料を得ることができる。
【0080】
さらに、本発明の固体高分子電解質材料を構成するポリマーは、耐久性改善等のため、重合した後にフッ素ガスでフッ素化したり、空気及び/又は水の存在下で加熱処理することによって、ポリマー末端等の不安定部位を安定化してもよい。これらの基の変換方法やポリマー処理は、公知の方法及び条件にしたがって実施できる。
【0081】
本電解質材料は、膜状に成形して固体高分子電解質膜として使用できる。膜状にする成形方法は特に限定されず、固体高分子電解質材料を溶媒に溶解又は分散させて得られる液を用いてキャスト製膜してもよいし、押し出し成形、延伸等の操作を経て得てもよい。押し出し成形には、溶融流動性に優れる点から、固体高分子電解質材料の前駆体である−SOF基を有するポリマーを用い、成形後加水分解により固体高分子電解質膜に変換することが好ましい。
【0082】
また、固体高分子電解質膜は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルコキシビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等の多孔体、繊維、織布、不織布等で補強されていてもよい。このようにして得られるイオン性基含有ポリマーや膜は、必要に応じて過酸化水素水で処理してもよい。
【0083】
また、電解質膜の耐久性をさらに向上させる方法として、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の原子を電解質膜に加えることも好ましい。セリウム、マンガンは電解質膜の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素を分解する作用があると考えられる。セリウム、マンガンは特にイオンとして膜中に存在することが好ましい。
【0084】
セリウムイオン、マンガンイオンは、イオンとして存在すれば電解質膜中でどのような状態で存在してもかまわないが、一つの方法として陽イオン交換膜中のスルホン酸基の一部がセリウムイオン又はマンガンイオンでイオン交換されて存在させることができる。電解質膜は、セリウムイオン、マンガンイオンを均一に含有している必要はない。したがって、スルホン酸基を有する高分子化合物からなる層が2層以上積層された陽イオン交換膜からなり、前記2層以上の少なくとも1層が、スルホン酸基の少なくとも一部がセリウムイオンやマンガンイオンによりイオン交換されている陽イオン交換膜からなってもよい。たとえば、特にアノード側について過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対する耐久性を高める必要がある場合は、アノードに一番近い層のみセリウムイオンやマンガンイオンを含有するイオン交換膜からなる層とすることもできる。
【0085】
電解質膜がセリウムイオンやマンガンイオンを含むことにより、過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対して優れた耐性を有する。この理由は明確ではないが、電解質膜中にセリウムイオン又はマンガンイオンを含むことにより、特にスルホン酸基の一部がセリウムイオン又はマンガンイオンでイオン交換されることにより、セリウムイオン又はマンガンイオンと−SOとの相互作用が、電解質膜の過酸化水素又は過酸化物ラジカル耐性を効果的に向上させていると推定される。その結果、電解質膜は過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対して優れた耐性を有するため、本発明の電解質膜を有する膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池は、耐久性に優れ、長期にわたって安定な発電が可能である。
【0086】
なお、セリウムやマンガンは酸化物やリン酸塩など粒子の状態で膜中に存在させても、電解質膜の耐久性を向上させる。
【0087】
また、セリウム原子やマンガン原子は、触媒層中に含まれても固体高分子形燃料電池の耐久性を向上させる効果がある。
【0088】
また、本発明の電解質膜には、シリカやリン酸ジルコニウム、リンモリブデン酸、リンタングステン酸等のヘテロポリ酸を乾燥を防ぐための保水剤として添加することもできる。
【0089】
本電解質材料は、水酸基を有する有機溶媒に良好に溶解又は分散することができる。水酸基を有する有機溶媒は特に限定されないが、アルコール性の水酸基を有する有機溶媒が好ましい。
【0090】
アルコール性の水酸基を有する有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ−1−ペンタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、3,3,3−トリフルオロ−1−プロパノール、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキサノール、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール等が挙げられる。また、アルコール以外の有機溶媒としては、酢酸等のカルボキシル基を有する有機溶媒も使用できる。
【0091】
ここで、水酸基を有する有機溶媒としては上記の溶媒を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよく、さらに、水又は他の含フッ素溶媒等と混合して用いてもよい。他の含フッ素溶媒としては、先に述べた固体高分子電解質材料の製造における溶液重合反応において、好ましい含フッ素溶媒として例示した含フッ素溶媒が挙げられる。なお、水酸基を有する有機溶媒を水又は他の含フッ素溶媒との混合溶媒として使用する場合、水酸基を有する有機溶媒の含有量は溶媒全質量に対して10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
【0092】
また、この場合、はじめから本電解質材料を混合溶媒中に溶解又は分散させてもよいが、本電解質材料を先ず水酸基を有する有機溶媒に溶解又は分散させた後、水又は他の含フッ素溶媒を混合してもよい。さらに、このような溶媒に対する本電解質材料の溶解又は分散は、大気圧下又はオートクレーブなどで密閉加圧した条件のもとで、0〜250℃の温度範囲で行うことが好ましく、20〜150℃の範囲で行うことがより好ましい。水よりも沸点が低い有機溶媒を含有する場合には、溶媒を留去した後に、又は留去しながら水添加を行うことにより溶媒を水へ置換することも可能である。
【0093】
このような溶媒を用いて得られる液状組成物は、固体高分子電解質材料からなるキャスト膜を作製したり、固体高分子形燃料電池の触媒層を作製する際に有用である。触媒層を作製する場合は、液状組成物に触媒を混合し得られた液を塗工すればよい。この場合、液状組成物中の固体高分子電解質材料の含有量は、液状組成物全質量に対して1〜50%であることが好ましく、3〜30%であるとより好ましい。1%未満であると、膜や触媒層を作製する際に所望の厚さとするためには塗工回数を多くする必要が生じ、また溶媒の除去にも時間が長くなる等、製造作業を効率よく行いにくい。一方、50%を超えると液状組成物の粘度が高くなりすぎて取扱いにくくなる。
【0094】
液状組成物は、本電解質材料の対イオンがH以外の一価の金属カチオン又は1以上の水素原子が炭化水素基と置換されていてもよいアンモニウムイオンに置換されていても製造可能であり、その場合は電解質膜や触媒層を形成後、塩酸、硝酸、硫酸等の酸で処理することにより、対イオンがHに変換される。一価の金属カチオンとしては、Li、Na、Kが例示され、アンモニウムイオンとしてはトリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン等が例示される。
【0095】
さらに、液状組成物には本電解質材料に加え、これとは別の固体高分子電解質材料となる樹脂を含有させることもできる。
【0096】
本発明の固体高分子電解質材料は、水素/酸素型の燃料電池のみならず、直接メタノール型燃料電池(DMFC)にも使用することができる。DMFCの燃料に用いるメタノールやメタノール水溶液は、液フィードであってもガスフィードであってもよい。
【0097】
また本発明は、下記モノマー単位(M)を含む重合体(以下、重合体Mという。)を提供する(ただし、m1は1〜6の整数を示す。以下同様。)。
【0098】
【化15】

【0099】
モノマー単位(M)の具体例としては、下記モノマー単位が挙げられる。
【0100】
【化16】

【0101】
重合体Mは、下記化合物(m)を重合させることによって製造できる。化合物(m)を重合させて得た重合体は、単位(M)を含む重合体である。化合物(m)の重合反応による方法は、WO03/37885号に記載される方法にしたがうのが好ましい。化合物(m)の製造方法は後述する。
【0102】
【化17】

【0103】
化合物(m)におけるm1は1〜6の整数を示し、1〜4の整数が好ましく、特に2〜4の整数が好ましい。本発明の化合物(m)は、ジオキソラン骨格と−SOF基とを隔てる基である式−(CF−で表される基のm1の数が小さく、かつ、ジオキソラン骨格に結合する式−(CFSOFで表される基以外の基がフッ素原子である点が特徴である。そのため化合物(m)を重合させて得た重合体は、高い軟化温度および高い機械的強度等の性能を実現できる。
【0104】
化合物(m)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0105】
【化18】

【0106】
本発明の重合体Mの質量平均分子量は、5×10〜5×10であるのが好ましく、1×10〜3×10であるのが特に好ましい。
【0107】
本発明の重合体Mは、単位(M)の1種以上からなる重合体であってもよく、単位(M)の1種以上と単位(M)以外の単位(以下、他単位Mという。)の1種以上からなる重合体であってもよい。後者の重合体(M)としては単位(M)の1種と他単位Mの1種以上とからなる重合体であるのが好ましい。
【0108】
重合体Mが2種以上の単位を含む共重合体の場合、各単位の並び方としては、ブロック状、グラフト状、およびランダム状が挙げられる。このうち重合体Mの有用性の観点から、各単位の並び方はランダム状であるのが好ましい。
【0109】
他単位Mを有する重合体である重合体Mは、化合物(m)と、化合物(m)と共重合性の他のモノマー(以下、他モノマーmという。)とを共重合させることによって製造するのが好ましい。他単位Mは、実質的に水素原子を含まない単位であってもよく、水素原子を含む単位であってもよい。重合体Mをイオン交換膜の材料に用いた場合の耐久性の観点から、他の単位は、実質的に水素原子を含まない単位が好ましい。実質的に水素原子を含まない単位は、CF=CF、CF=CFOCFCFCF=CFまたはペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)を重合させて得た単位がより好ましい。重合体の軟化温度が高くなる観点から、CF=CFまたはペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)を重合させて得た単位を含むのが特に好ましい。
【0110】
重合体(M)中の全単位に対する単位(M)の割合は、重合体Mの用途に応じて適宜変更されうる。通常の場合、重合体(M)中の全単位に対する単位(M)の割合は、0.1〜100モル%であるのが好ましく、他単位Mを必須とする場合には5〜90モル%であるのが好ましく、5〜50モル%が特に好ましい。他単位Mの割合は、99.9モル%以下であるのが好ましく、10〜95モル%であるのがより好ましい。
【0111】
重合体(M)をイオン交換膜の材料に用いる場合には、重合体(M)の構造または用途により、単位(M)の割合は下記の範囲に調整するのが好ましい。
【0112】
重合体(M)が架橋されていない重合体である場合には、低抵抗で高い発電効率が得られる観点から、重合体(M)中の全単位に対する単位(A)の割合は、5モル%以上が好ましく、10モル%以上が特に好ましい。また機械的物性の観点から、重合体(M)中の全単位に対する単位Mの割合は、50モル%以下が好ましく、35モル%以下が特に好ましい。
【0113】
重合体(M)をイオン交換膜用の材料として用いる場合には、該−SOF基の一部ないしは全部(好ましくは全部)を−SOH基としてから用いるのが好ましい。−SOF基の変換は、公知の手法にしたがって実施できる。たとえば、アルカリ加水分解処理し、さらに酸処理する方法が挙げられる。この方法は、WO03/37885号に記載される方法にしたがうのが好ましい。
【0114】
−SOF基が−SOH基に変換された重合体(M)は、主鎖を形成する炭素原子の1つがペルフルオロ(1,3−ジオキソラン)骨格を形成する炭素原子であり、該骨格の4位の炭素原子が式−(CFSOHで表される基(ただし、nは前記と同じ意味を示す。)に置換された構造を有する。該重合体(M)は、軟化温度と機械的強度に優れプロトン導電性を有する。したがって、本発明の重合体(M)は、前述の固体高分子形燃料電池用電解質材料、すなわち燃料電池の膜や触媒層に用いる電解質の材料として有用である。食塩電解用の膜にも使用可能である。
【0115】
化合物(m)の製造方法としては、下記化合物(m−3)を液相フッ素化反応させて下記化合物(m−2)とし、つぎに該化合物(m−2)をエステル分解反応させて下記化合物(m−1)とし、つぎに該化合物(m−1)を熱分解反応させる下記の製造方法が挙げられる(ただしREFは、含フッ素1価有機基を示す。)。
【0116】
【化19】

【0117】
液相フッ素化反応、エステル分解反応、および熱分解反応は、WO03/37885号に記載される方法にしたがって実施するのが好ましい。
EFとしては、−CFCF、−CF(CF)CFCF、−CF(CF、−CF(CF)O(CFF、−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFFが挙げられる。
【0118】
化合物(m−3)の製造方法は、特に限定されず、たとえば下記化合物(m−7)を出発原料とした下記反応ルートを経由した製造方法が挙げられる。
【0119】
【化20】

【0120】
前記の製造方法の出発原料である化合物(m−7)の製造方法は、特に限定されない。たとえば下記化合物(m−12)を出発原料に用いた下記反応ルートを経由して製造する方法が好ましい。
【0121】
【化21】

【0122】
化合物(m−12)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CH=CHCHSOF、
CH=CHCHCHSOF、
CH=CH(CHSOF。
【0123】
また、本発明は、下記モノマー単位(P)を含む重合体(以下、重合体Pという。)を提供する(ただし、p1は1〜6の整数を示し、特に2〜4が好ましい。以下同様。)。
【0124】
【化22】

【0125】
モノマー単位(P)の具体例としては、下記モノマー単位が挙げられる。
【0126】
【化23】

【0127】
重合体Pは、下記化合物(p)を重合させることによって製造するのが好ましい。化合物(p)の重合は、化合物(p)をラジカル開始剤の存在下に重合させる方法によるのが好ましい。ラジカル開始剤としては、過酸化物、アゾ化合物、過硫酸塩等が使用できる。化合物(p)の製造方法は後述する。
【0128】
【化24】

【0129】
化合物(p)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0130】
【化25】

【0131】
重合体Pは、モノマー単位(P)からなる重合体であっても、モノマー単位(P)とモノマー単位(P)以外のモノマー単位(以下、単に他モノマー単位Pという。)とを含む共重合体であってよく、共重合体であるのが好ましい。
【0132】
重合体Pが共重合体である場合、重合体P中の全モノマー単位に対するモノマー単位(P)の割合は、後述のフルオロポリマーの溶解性の向上、寸法安定性等の観点から5〜50モル%が好ましく、5〜40モル%がより好ましく、10〜30モル%が特に好ましい。また重合体P中の全モノマー単位に対する他のモノマー単位の割合は、50〜95モル%が好ましく、60〜95モル%がより好ましく、70〜90モル%が特に好ましい。
【0133】
共重合体は、化合物(p)と、化合物(p)以外の化合物(p)と共重合しうるモノマー(以下、単に他モノマーpという。)とを重合させて製造するのが好ましい。また共重合体中の各モノマー単位の並び方は、ランダム状であってもブロック状であってもよく、重合の簡便性の観点からランダム状であるのが好ましい。
【0134】
他モノマー単位Pは、フッ素原子を含んでいても含まなくてもよい。後述のフルオロポリマーの耐熱性、耐水性、耐溶剤性および耐久性の観点からは、フッ素原子を含む他モノマー単位Pが好ましい。成形加工性の観点ではフッ素原子を含まない他モノマー単位Pが好ましい。
【0135】
フッ素原子を含む他モノマー単位Pとしては、フッ素原子を含む他モノマーpの重合により形成されるモノマー単位が好ましい。
【0136】
フッ素原子を含む他モノマーpとしては、CF=CF、CH=CF、ペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造のモノマーまたはペルフルオロ(1,3−ジオキソール)構造のモノマーが好ましい。
【0137】
共重合体である重合体Pから合成される後述のフルオロポリマーを燃料電池用の固体高分子電解質に用いる場合、フッ素原子を含む他モノマーpとしては、耐久性の観点からは、CF=CFが好ましくい。ガス透過性と軟化温度の観点からは、ペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造のモノマー、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)構造のモノマーまたはCF=CFOCFCFCF=CFが好ましい。
【0138】
重合体Pが共重合体である場合の他モノマーp及び他モノマーpの組合せは、CF=CFのみ、又はCF=CFとペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造のモノマー、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)構造のモノマー又はCF=CFOCFCFCF=CFが好ましい。
【0139】
重合体Pの数平均分子量の下限は、機械的強度の観点から、好ましくは5000が好ましく、10000がより好ましく、20000が特に好ましい。重合体Pの数平均分子量の上限は、後述のフルオロポリマーの溶媒溶解性と成形加工性の観点から、500万が好ましく、200万がより好ましい。
【0140】
また重合体Pの分子量を−SOFの1個あたりの分子量に換算した値は、後述のフルオロポリマーの耐水性、耐久性、寸法安定性等の観点から500〜1500が好ましく、550〜1200がより好ましく、600〜900が特に好ましい。
【0141】
本発明の重合体Pは、−SOF基を必須とする重合体であり、−SOF基の一部または全部(好ましくは全部。)を−SOHに化学変換することによりイオン伝導性に優れる含フッ素重合体を得ることができる。該重合体は固体高分子電解質の材料(特に前述の固体高分子形燃料電池用の電解質材料。)として好ましく使用できる。
【0142】
化合物(p)の製造方法としては、下記化合物(p−6)を酸素ガスの存在下に反応させて下記化合物(p−5)を得て、つぎに該化合物(p−5)を塩化アルミニウムまたはフッ化塩化アルミニウムの存在下に反応させて下記化合物(p−4)を得て、つぎに該化合物(p−4)とCH(OH)CHClを反応させて下記化合物(p−3)を得て、つぎに該化合物(p−3)を塩素ガスと反応させて下記化合物(p−2)を得て、つぎに該化合物(p−2)を3フッ化アンチモンと5塩化アンチモンの存在下に反応させて下記化合物(p−1)を得て、つぎに該化合物(p−1)を亜鉛の存在下に脱塩素化反応させる製造方法が挙げられる。
【0143】
【化26】

【実施例】
【0144】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、以下において1,1,2−トリクロロトリフルオロエタンをR−113、CClFCFCHClFをR−225cbと、CF=CFをTFEと、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOFをPSVEと、((CHCHOC(O)O)をIPPと、アゾビスイソブチロニトリルをAIBNと、それぞれ略記する。圧力は、特に記載しない限りゲージ圧で示す。
【0145】
純度はガスクロマトグラフィー分析によるピーク面積比より求めた。含フッ素化合物の反応収率はペルフルオロベンゼンを基準とした19F−NMR分析より求めた。
【0146】
[化合物(m4)の製造例]
下記化合物(m4)を下記反応ルートを経由して製造した。
【0147】
【化27】

【0148】
[化合物(m4−11)の製造]
窒素ガス雰囲気下で滴下ロート、温度計、及び撹拌機を備えた4つ口丸底フラスコ(内容積2L)に、純度91%の化合物(m4−12)を100g、CHClを500g及びN(CHCHを112g仕込んだ。次に氷浴で4つ口丸底フラスコの内温を10〜20℃に保持しながら、115gのCHSOClを30分かけて滴下しながら撹拌した。さらに4つ口丸底フラスコの内温を25℃に保持しながら、2時間撹拌した。
【0149】
つづいて、4つ口丸底フラスコに500gのイオン交換水を添加して2層分離液を得た。2層分離液の下層を回収し、硫酸マグネシウムで脱水してから、減圧留去して粗生成物(174g)を得た。粗生成物をH−NMRとガスクロマトグラフィーで分析した結果、標記化合物(純度91%)の生成を確認した。
【0150】
[化合物(m4−10)の製造]
窒素ガス雰囲気下でジムロート冷却管、滴下ロート、温度計、及び撹拌機を備えた4つ口丸底フラスコ(内容積2L)に、上述の173gの粗生成物、及び350gのCHCOCHを仕込んだ。次に4つ口丸底フラスコの内温を20℃に保持しながら、169gのLiBrを少しずつ添加しながら撹拌した。さらにフラスコ内溶液を1時間、加熱還流した。
【0151】
フラスコ内溶液をろ過して得たろ液をフラスコに入れ、大気圧下でフラスコを加熱してろ液の溶媒を留去した。フラスコを冷却すると、結晶が析出したのでフラスコ内溶液をろ過して結晶とろ液を分離した。結晶に水を添加して2層分離液を得た。ろ液とこの2層分離液の上層の液を混合し、硫酸マグネシウムで脱水してから、減圧蒸留して71〜73℃/6.7kPa(絶対圧)の留分を101g得た。留分をH−NMRとガスクロマトグラフィーで分析した結果、標記化合物(純度91.5%)の生成を確認した。
【0152】
[化合物(m4−9)の製造]
ジムロート冷却管、温度計、及び撹拌機を備えた4つ口丸底フラスコ(内容積1L)に、イオン交換水を283g及びNaSOを68.6g仕込み、溶解するまで撹拌した。次に上述の蒸留の留分を88.5g添加して、フラスコ内溶液を6時間、加熱還流した。エバポレーターで大部分の水を減圧留去してから、トルエンを加え、さらに減圧留去を続けた。さらに12時間、真空乾燥(100℃)して標記化合物とNaBrを主成分とする白色固体を151g得た。白色固体をH−NMRで分析した結果、標記化合物の生成を確認した。
【0153】
[化合物(m4−8)の製造]
窒素ガス雰囲気下のジムロート冷却管、温度計、及び撹拌子を備えた4つ口丸底フラスコ(内容積1L)に、CHClを356g、上述の白色固体を70g及びジメチルホルムアミドを0.70g仕込んだ。4つ口丸底フラスコの内温を19〜22℃に保持しながら、144gのSOClを10分かけて滴下しながら撹拌した。さらにフラスコ内溶液を7.5時間、加熱還流した。
【0154】
次に4つ口丸底フラスコを氷水(約1.5L)に加えて2層分離液を得た。2層分離液の下層の液、及び上層の液をCHCl(350g)で抽出した抽出液を混合し、硫酸マグネシウムで脱水してから濃縮して濃縮物を得た。さらに濃縮物を25℃にて真空ポンプで溶媒を留去して液体(43g)を得た。液体をH−NMRで分析した結果、標記化合物の生成を確認した。
【0155】
[化合物(m4−7)の製造]
窒素ガス雰囲気下のジムロート冷却管、温度計、及び撹拌子を備えた4つ口丸底フラスコ(内容積300mL)に、上述の液体を42g及びCHCNを100g仕込んだ。4つ口丸底フラスコに27gのKF(森田化学社製、商品名:クロキャットF)を添加しながら撹拌して、さらに8時間、加熱還流した。
【0156】
フラスコ内溶液をろ過して得たろ液を濃縮した濃縮物に、イオン交換水100gを添加し、さらに撹拌して2層分離液を得た。2層分離液の下層の液を回収し、硫酸マグネシウムで脱水してから、蒸留して75℃/0.86kPa(絶対圧)の留分を24g得た。留分をH−NMR、19F−NMR、及びガスクロマトグラフィーで分析した結果、標記化合物(純度96.5%)の生成を確認した。
【0157】
[化合物(m4−6)の製造]
ジムロート冷却管、温度計、撹拌子を備えた300mLの四つ口丸底フラスコに、窒素雰囲気下で化合物(m4−7)の12.7g(77ミリモル)、ジクロロメタン150mLを加え、水浴にて撹拌しながらメタクロロ過安息香酸22g(80ミリモル)を添加した。終夜撹拌を行った後、粗液をろ過し、ろ液を100mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄しさらに100mLの飽和食塩水で1回洗浄した。洗浄後の粗液を硫酸ナトリウムで乾燥後ろ過しエバポレーターで溶媒を除去し、蒸留を行い標記化合物を12.88g(71ミリモル、GC純度95%)得た。沸点89℃/0.70kPa(絶対圧)。
【0158】
[化合物(m4−4)の製造]
ジムロート冷却管、温度計、撹拌子を備えた100mLの三つ口フラスコに、窒素雰囲気下で化合物(m4−6)を14g(78ミリモル)、アセトンを15mL仕込み、水浴にて撹拌しながらボロントリフルオリドエーテラートを40mg(28マイクロモル)を添加した。6時間後、反応率97%に達したことを確認した。
【0159】
次にヒドロキシアセトンを10g(140ミリモル)逐次添加し、67℃、13kPa(絶対圧)にて低沸点成分の抜き出しを行いながら10時間撹拌を行った。粗液は冷却後100mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加後、100mLのt−ブチルメチルエーテルで2回抽出し、さらに100mLの飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後ろ過し、エバポレーターで溶媒を留去し、さらに真空乾燥して化合物(m4−4)を15g得た。
【0160】
[化合物(m4−3)の製造]
滴下ロート、冷却管、温度計、撹拌子を備えた100mLの三つ口フラスコに、窒素雰囲気下でフッ化ナトリウム3.3g(79ミリモル)と化合物(m4−4)を10g(39ミリモル)加え、氷浴にて5分間撹拌を行い、続いてF(CFOCF(CF)COFを13g(39ミリモル)滴下した。反応粗液をジクロロペンタフルオロプロパンで希釈後、ろ過、濃縮して化合物(m4−3)を21g得た。
【0161】
[化合物(m4−2)の製造]
オートクレーブ(内容積3000mL、ニッケル製)に、1700gのR−113を入れて撹拌し、オートクレーブ内の温度を25℃に保った。オートクレーブのガス出口部には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層及び−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器からは凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。オートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、窒素ガスで20%に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスと記す。)を25℃で流速16.24L/hで1時間さらに吹き込んだ。
【0162】
次にオートクレーブに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、45gの化合物(m4−3)を650gのR−113に溶解させた溶液を、24.1時間かけて注入した。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブ内の圧力を0.15MPaまで昇圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃まで加熱しながら30mL注入した。つづいて、オートクレーブ内の圧力を0.15MPa、オートクレーブ内の温度を40℃に保ちながら、R−113を20mL送液し、配管内のベンゼン溶液をすべてオートクレーブ内に注入した。ベンゼンの注入総量は0.3g、R−113の注入総量は50mLであった。
【0163】
さらに、オートクレーブ内に20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。次に、オートクレーブ内の圧力を0MPa(ゲージ圧)にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。オートクレーブ内の内容物を19F−NMRで分析した結果、化合物(m4−2)の生成を確認した。収率は60%であった。
【0164】
[化合物(m4−1)の製造]
72.5gの化合物(m4−2)を含む反応液を、KF粉末2.05gとともにフラスコに仕込み、激しく撹拌しながら、オイルバス中に浸して80℃で1.5時間、90〜95℃で1.5時間加熱した。フラスコを冷却してから減圧蒸留して80〜84℃/4.0kPa(絶対圧)の留分36.7gを得た(以下、留分Xという)。化合物(m4−1)の収率は78.5%で純度は95%であった。
【0165】
[化合物(m4)の製造]
ガラスビーズを充填した流動層型の320℃に加熱したステンレス製の反応管(内径1.6cm、ガラスビーズ充填高40.5cm)を調整した。次に上記で得た留分X、ペルフルオロヘキサン(3M社製、商品名:FC−72)及び窒素ガスを、留分X:ペルフルオロヘキサン:窒素ガス=2:3:95の割合(モル比)で混合した混合ガスを、320℃に加熱して2.7cm/sの線速度で反応管に供給した。反応管の出口には冷却器を備えたトラップを設置した。
【0166】
留分Xとして11.0gに相当する量の混合ガスを流通させると、トラップに液体(19.4g)を得た。液体を19F−NMRにより分析した結果、液体は化合物(m4)とペルフルオロヘキサンが主成分であることを確認した。化合物(m4)の反応収率は52%であった。
【0167】
さらに、この液体と留分Xとして22.3gに相当する量の混合ガスを同様に反応管に流通させてトラップに得た液体とを混合した混合液(58.2g)にメタノールと水を順に添加して2層分離液を得た。2層分離液の有機層を回収し、モレキュラーシーブ4Aで乾燥してから、蒸留して52〜55℃/1.3kPa(絶対圧)の留分を得た。該留分を19F−NMRにより分析した結果、高純度の化合物(m4)の生成を確認した。
【0168】
化合物(m4)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm)46.3(1F)、−81.1(1F)、−88.1(1F)、−107.5(1F)、−108.6(1F)、−119.2〜−123.7(6F)、−124.8(1F)、−125.3(1F)、−126.1(1F)。
【0169】
[化合物(p2)の製造例]
下記化合物(p2)を、下記反応ルートを経由して製造した。
【0170】
【化28】

【0171】
[化合物(p2d)の製造]
(CHCSNaを100g、CFC(O)OCHCHClを166g、及び1500mLの1,4−ジオキサンをオートクレーブ(内容積2500mL)に仕込み、凍結脱気を行った。オートクレーブの内温を20〜30℃に保持しながら200gのTFEをオートクレーブに供給した。オートクレーブ内を20℃にして3時間撹拌し、さらに50℃にして2時間撹拌して反応を行った。つぎにオートクレーブを冷却しTFEを開放して反応を終了した。
【0172】
オートクレーブ内容物を水中に投入して得られた2層分離液の下層の液を回収した。同様の反応と回収を計2回行って得た下層の液を、水洗し硫酸マグネシウムで乾燥してから減圧蒸留して、(80〜85)℃/(267〜400)Pa(絶対圧)の留分(253g)を得た。留分を分析した結果、上記化合物(p2d)の生成を確認した。
【0173】
[化合物(p2c)の製造]
30℃以下に保持した75体積%のアセトニトリル水溶液(1L)中に、塩素ガスを導入しながら化合物(p2d)を105g含むアセトニトリルを200mL滴下した。滴下終了後、塩素ガスの導入を停止してからアセトニトリル水溶液中の塩素をパージした。つぎにアセトニトリル水溶液を過剰の水中に加えて得た2層分離液の下層の液211gを回収した。
【0174】
つぎに下層の液100gに、200gのアセトニトリルと150gの水を加えてから40gのKHFを加えて25℃にて48時間撹拌した。つぎに水を加えて得られた2層分離液の下層の液を回収した。さらに下層の液を水洗し硫酸マグネシウムで乾燥してから減圧蒸留して、(53〜54)℃/(533〜667)Pa(絶対圧)の留分41gを得た。留分を分析した結果、上記化合物(p2c)の生成を確認した。
【0175】
[化合物(p2a)の製造]
水銀UVランプの照射下、40〜50℃にて化合物(p2c)の製造と同様の方法で得た留分106gに塩素ガスをバブリングしてから、過剰の塩素ガスをパージしてから粗生成物を得た。粗生成物を減圧蒸留して、(74〜76)℃/(267〜400)Pa(絶対圧)の留分133gを得た。留分をガスクロマトグラフィー分析とH−NMRを用いた分析した結果、上記化合物(p2b)の生成を確認した。
【0176】
還流器を備えた反応器に、132gの留分、17gの5塩化アンチモン及び51gの3フッ化アンチモンを加えて、150℃にて4時間、加熱還流した。つぎに反応器内を減圧留去して得た粗生成物を、水で2回の洗浄し、さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回の洗浄してから硫酸マグネシウムで乾燥した。粗生成物を減圧蒸留して、62℃/2133Pa(絶対圧)の留分110gを得た。留分を分析した結果、上記化合物(p2a)の生成を確認した。
【0177】
[化合物(p2)の製造]
塩酸水溶液を用いて活性化した乾燥亜鉛を28gと90mLのN,N−ジメチルホルムアミドを反応器に加え、反応器の内温を50℃に保持しながら4gのジブロモエタンを反応器に除々に滴下した。滴下終了後、反応器の内温を60℃に保持しながら反応器の内圧を3.6kPaまで減圧し、上記留分30gを反応器に滴下した。
【0178】
反応器から留出する液体の留出が停止するまで留出液を補集した。さらに内圧を2kPaまで減圧し留出する液体を該留出液と併せて補集して反応粗液を得た。反応粗液を水洗し硫酸マグネシウムで乾燥してから反応液を得た。同様の反応を繰り返し行い、併せて315gの反応液を得た。
【0179】
反応液80gを、スピニングバンド型蒸留機を用いて減圧蒸留して(38〜39)℃/4kPa(絶対圧)の留分15gを得た。留分を分析した結果、化合物(p2)の生成を確認した。
【0180】
化合物(p2)の19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):46.07(1F)、−82.08(3F)、−108.12(2F)、−120.89(2F)、−158.02(2F)。
【0181】
[ポリマーの合成1]
[例1]
容積30cmのステンレス製オートクレーブに、化合物(m4)を1.49g、67mgのメタノールを含有するR−225cbを26.8g、IPPを1.6mg入れ、液体窒素で冷却して脱気した。TFEを導入した後、40℃で6時間反応を行った。この間ゲージ圧力は0.6MPaから0.5MPaに低下した。冷却後、系内のガスをパージし、ヘキサンに投入することでポリマーを沈殿させた。ヘキサンで洗浄した後、100℃で真空乾燥することにより、白色のポリマー1.7gを得た。
【0182】
滴定で求めたポリマーのAは、1.16meq/gであり、ポリマー中の下記単位(M4)と−CFCF−単位のモル比は19.8:80.2であった。
【0183】
【化29】

【0184】
次に、このポリマーの溶融流動性を評価した。フローテスタCFT−500A(島津製作所社製)を用いて、長さ1mm、内径1mmのノズルを用い、30kg/cmの押出し圧力の条件で、温度を変えて樹脂の溶融押出し試験を行い、容量流速が100mm/秒となる温度(以下、Tという)を測定したところ、333℃であった。
【0185】
ゲージ圧力で0.3MPaまで窒素ガスで希釈されたフッ素ガス(20体積%)を導入し、180℃で4時間保持した。このポリマーを300℃で加圧プレスし、厚さ約100μmのフィルムを作製した。このフィルムをジメチルスルホキシド(DMSO)30%、KOH11%、水59%からなる液に90℃で16時間浸漬してフルオロスルホニル基を−SOK基に変換した。水洗後、1mol/L硫酸に浸漬し、水洗することにより、−SOK基をスルホン酸基に変換し、さらに乾燥してスルホン酸基を有する膜を得た。
【0186】
この膜に対して軟化温度の測定を行った。アイティー計測社製動的粘弾性測定装置DVA200を用いて、試料幅0.5cm、つかみ間長2cm、測定周波数1Hz、昇温速度2℃/分にて動的粘弾性の測定を行った。損失弾性率の最大値から求めた軟化温度Tは124℃であった。また、Tは224℃であり、ΔTは100℃であった。
【0187】
[比較例1]
TFEとPSVEの共重合体(この順にモル比で82.2:17.8)であって、加水分解、酸型化した際のAが1.1meq/g、Tが220℃のポリマーを用いて、例1と同様にフッ素ガスで処理し、熱プレスによりフィルムを作製し、加水分解、酸型化処理を行ってスルホン酸基を有する膜を得た。例1と同様に動的粘弾性の測定を行って求めた軟化温度Tは73℃であり、Tは176℃であり、ΔTは103℃であった。
【0188】
[比較例2]
TFEとCF=CFOCFCFSOFの共重合体(この順にモル比で83.9:16.1)であって、加水分解、酸型化した際のAが1.25meq/g、Tが295℃のポリマーを用いて、実施例1と同様にフッ素ガスで処理し、熱プレスによりフィルムを作製し、加水分解、酸型化処理を行って酸型の膜を得た。例1と同様に動的粘弾性の測定を行って求めた軟化温度Tは110℃であり、貯蔵弾性率が1×10Paまで低下してきたときの温度Tは207℃であり、ΔTは97℃であった。
【0189】
[比較例3]
容積0.1Lのステンレス製オートクレーブに、下記化合物(z4)を8.48gと、17mgのメタノールを含有するR−225cbを76.3gと、ペルフルオロ過酸化ベンゾイル170mgとを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。TFEを導入した後、70℃で50分反応させた。この間ゲージ圧力は0.97MPaから0.43MPaに低下した。冷却後、系内のガスをパージし、ヘキサンに投入することでポリマーを沈殿させた。ヘキサンで洗浄した後、100℃で真空乾燥することにより、白色のポリマー14.1gを得た。元素分析で求めた硫黄の含有量から得られたポリマーのAは1.12meq/gであった。
このポリマーの300℃における容量流速をフローテスタCFT−500A(島津製作所製)を用いて測定したところ34mm/秒であり、Tは300℃より大であった。
【0190】
例1と同様にフッ素ガスで処理し、熱プレスによりフィルムを作製し、加水分解、酸型化処理を行って酸型の膜を得た。さらに、例1と同様に動的粘弾性の測定を行って求めた軟化温度Tは98℃であり、Tは247℃であり、ΔTは149℃であった。
【0191】
【化30】

【0192】
[例2]
容積100cmのステンレス製オートクレーブに、化合物(m4)を5.73g、11.4mgのメタノールを含有するR−225cbを108g、IPPを6.4mg入れ、液体窒素で冷却して脱気した。TFEを導入した後、40℃で2時間45分反応を行った。この間ゲージ圧力は0.5MPaから0.4MPaに低下した。冷却後、系内のガスをパージし、ヘキサンに投入することでポリマーを沈殿させた。ヘキサンで洗浄した後、100℃で真空乾燥することにより、白色のポリマー4.9gを得た。
ポリマーのAは1.26meq/gで、ポリマー中の単位(M4)と−CFCF−単位のモル比は23.0:77.0であった。
【0193】
[例3]
例2と同様の操作により化合物(m4)とTFEの共重合体を合成した。化合物(m4)を2.98g、メタノールを96.2mg、R−225cbを88.9g、IPP5.2mgをオートクレーブに仕込み、TFEを導入して9時間反応した。この間圧力は0.30MPaから0.24MPaに低下した。白色ポリマー2.4gを得た。
ポリマーのAは1.42meq/gで、ポリマー中の単位(M4)と−CFCF−単位のモル比は28.9:71.1であった。
【0194】
[例4]
例2と同様の操作により化合物(m4)とTFEの共重合体を合成した。化合物(m4)を4.82g、R−225cbを108g、IPP5.9mgをオートクレーブに仕込み、TFEを導入して3.5時間反応した。この間圧力は0.29MPaから0.22MPaに低下した。白色ポリマー3.0gを得た。
化合物(m4)とTFEのモル比は34.8:65.2であった。
【0195】
[ポリマー物性の評価1]
例2〜4及び比較例1のポリマーについて、例1と同様の処理をしてスルホン酸基を有する膜を得た。これらの膜についてA、軟化温度T、T、ΔT、及び以下の方法で測定される比抵抗の測定結果をまとめて表1に示す。比抵抗は、5mm幅のフィルムに5mm間隔で4端子電極が配置された基板を密着させ、公知の4端子法により80℃、95%RHの恒温恒湿条件下で交流10KHz、1Vの電圧で測定した。
【0196】
【表1】

【0197】
[膜・触媒層接合体の作製工程1]
比較例1で得られた−SOF基を有するポリマーを加水分解、酸型化して、スルホン酸基を有するポリマーを得た。これを、内面がハステロイC合金で作られた耐圧オートクレーブを用いてエタノールに分散させ、固形分濃度が質量比で10%のエタノール分散液を得た。これを電解質液Aとする。カーボンブラック粉末に白金を質量比で50%担持した触媒20gに水126gを添加し、超音波を10分かけて均一に分散させた。これに電解質液Aを80g添加し、さらに54gのエタノールを添加して固形分濃度を10%とし、これをカソード触媒層作製用塗工液Bとした。この塗工液BをETFE基材フィルム上に塗布乾燥し、白金量が0.5mg/cmのカソード触媒層を作製した。
【0198】
また、カーボンブラック粉末に白金とルテニウムの合金を質量比で53%(白金/ルテニウム比=30/23)担持した触媒20gに水124gを添加し超音波を10分かけて均一に分散させ、これに上記電解質液Aを75g添加し、さらに56gのエタノールを追加し固形分濃度を10%(質量比)とし、これをアノード触媒層作製用塗工液Cとした。この塗工液CをETFE基材フィルム上に塗布乾燥し、白金量が0.35mg/cmのアノード触媒層を作製した。
【0199】
例3で得られたポリマーを熱プレスして厚さ50μmのフィルムを作製し、例1と同様に加水分解、酸型化の処理を行うことにより、スルホン酸基を有する膜を得た。この膜をカソード触媒層及びアノード触媒層で挟み、加熱プレス(プレス条件:120℃、2分、3MPa)でプレスして両触媒層を膜に接合し、基材フィルムを剥離して電極面積25cmの膜・触媒層接合体を得た。
【0200】
[膜電極接合体の電池特性評価1]
上記膜・触媒層接合体を2枚のカーボンペーパーからなるガス拡散層で挟み込んで膜電極接合体を得た。ここで使用したカーボンペーパーは、片側の表面にカーボンとPTFEとからなる層を有しており、該層が膜・触媒層接合体の触媒層と接触するように配置した。この膜電極接合体を発電用セルに組み込み、水素(利用率50%)及び空気(利用率50%)を、圧力が0.2MPa、露点が100℃の加湿したガスとしてセル内に供給した。セル温度を120℃とし、電流密度を変えて電圧を記録した。結果を図3に示す。
【0201】
[ポリマーの合成と物性評価2]
[例5]
オートクレーブ(内容積30mL)に、3.6gの化合物(p2)、27gのR−225cb、及び15mgのIPPを仕込み、凍結脱気を行った。つぎにオートクレーブの内温を40℃に保持し、オートクレーブ内を撹拌しながら内圧が0.15MPaになるまでTFEを導入した。つづいて、内圧を0.15MPaに保持するようにTFEを連続的に導入しながら7時間、反応を行った。
【0202】
つぎにオートクレーブを冷却して内圧を開放し、直ちにオートクレーブにヘキサンを投入した。凝集したオートクレーブ内容物を回収しヘキサンで3回洗浄してから、80℃にて12時間、真空乾燥して重合体を3.4g得た。この重合体を19F−NMR(基準:ヘキサフルオロベンゼン)とIRにより解析した結果、全単位に対する下記単位(P2)の割合は26.4モル%であり、−CFCF−単位の割合は73.6モル%であった。
【0203】
【化31】

【0204】
この重合体を熱プレス法により膜厚100μmのフィルムに加工し、フィルムを、KOH/HO/DMSO=30/65/5(質量比)の割合で混合した水溶液に90℃にて17時間、浸漬させた。つぎに25℃にて水で3回洗浄し、2mol/Lの硫酸水溶液に2時間浸漬させた。水洗と硫酸浸漬を3回ずつ繰り返し、さらに3回水洗を行った。続いてフィルムを80℃にて16時間風乾し、さらに真空乾燥して淡褐色の乾燥フィルムを得た。動的粘弾性測定によるフィルムの軟化温度は152℃であった。
【0205】
恒温恒湿(80℃、95%RH)下の交流(10KHz、1ボルト)条件にて、5mm間隔で電極が配置された基盤に上記フィルム(5mm幅)を密着させる4端子法を用いて上記フィルム(5mm幅)の比抵抗を測定した結果、3.3Ω・cmであった。
【0206】
[例6]
オートクレーブ(内容積30mL)に、3.6gの化合物(p2)、27gのR−225cb、15mgのIPPを仕込み、凍結脱気を行った。つぎにオートクレーブの内温を40℃に保持し、オートクレーブ内を撹拌しながら内圧が0.16MPaになるまでTFEを導入した。続いて、内圧を0.16MPaに保持するようにTFEを連続的に導入して4時間、反応を行った。
【0207】
つぎにオートクレーブを冷却して内圧を開放し、直ちにオートクレーブにヘキサンを投入した。凝集したオートクレーブ内容物を回収しヘキサンで3回洗浄してから、80℃にて12時間の真空乾燥を行い、1.8gの重合体を得た。この重合体を19F−NMR(基準:ヘキサフルオロベンゼン)とIRにより解析した結果、全単位に対する単位(P2)の割合は22.2モル%であり、−CFCF−単位の割合は77.8モル%であった。
【0208】
この重合体を用いた以外は、例6と同様の方法により得たフィルムの動的粘弾性測定による乾燥フィルムの軟化温度は148℃であり、このフィルムの比抵抗は3.4Ω・cmであった。
【0209】
[例7]
オートクレーブ(内容積30mL)に、6.3gの化合物(p2)、8.9gのR−225cb、1.5mgのAIBNを仕込み、凍結脱気を行った。つぎにオートクレーブの内温を70℃に保持し、オートクレーブ内を撹拌しながら内圧が0.5MPaになるまでTFEを導入した。つづいて、内圧を0.5MPaに保持するようにTFEを連続的に導入して9.5時間、反応を行った。
【0210】
つぎにオートクレーブを冷却して内圧を開放し、直ちにオートクレーブにヘキサンを投入した。凝集したオートクレーブ内容物を回収し、ヘキサンで3回洗浄してから、80℃にて12時間、真空乾燥して重合体を3.1g得た。この重合体を19F−NMR(基準:ヘキサフルオロベンゼン)とIRにより解析した結果、全モノマー単位に対するモノマー単位(P2)の割合は33.8モル%であり、−CFCF−単位の割合は66.2モル%であった。この重合体の−SOF基の1個あたりの分子量は554であった。また、この重合体の分子量をGPC(展開溶媒:R−225cb、標準試料:ポリメタクリル酸メチル)を用いて測定した結果、重量平均分子量は31万であり数平均分子量は18万であった。
【0211】
この重合体を用いた以外は、例6と同様の方法により得たフィルムの動的粘弾性測定による乾燥フィルムの軟化温度は148℃であり、このフィルムの比抵抗は5.3Ω・cmであった。
【0212】
[例8]
オートクレーブ(内容積30mL)に、7.2gの化合物(p2)、10.2gのR−225cb、8.7mgのAIBNを仕込み、凍結脱気を行った。つぎにオートクレーブの内温を70℃に保持し、オートクレーブ内を撹拌しながら内圧が1.4MPaになるまでTFEを導入した。つづいて内圧が1.4MPaに保持する条件でTFEを連続的に導入し、2時間の反応を行った。
【0213】
つぎにオートクレーブを冷却して内圧を開放し、直ちにオートクレーブにヘキサンを投入した。凝集したオートクレーブ内容物を回収し、ヘキサンで3回洗浄してから、80℃にて12時間、真空乾燥して重合体を9.0g得た。
【0214】
この重合体を熱プレス法により膜厚100μmのフィルムに加工した。該フィルムの表面反射IRを測定した結果、−SOFに起因する1470cm−1の吸収と1,3−ジオキソラン構造を形成するCF構造に起因する1140cm−1の吸収とが確認された。2つの吸収と重合体1で確認された吸収を比較した結果、重合体4の全モノマー単位に対するモノマー単位(P2)は18モル%であり、−CFCF−単位の割合は82モル%であった。
【0215】
[膜・触媒層接合体の作製工程2]
膜・触媒層接合体の作製工程1と同様にして、カソード触媒層作製用塗工液B及びアノード触媒層作製用塗工液Cをそれぞれ作製し、それぞれETFE基材フィルム上に塗布乾燥することにより、カソード触媒層及びアノード触媒層を作製した。
【0216】
次に、例5で得られた重合体を熱プレス法により平均膜厚55μmのフィルムに加工してから、例5と同様の方法で処理して酸型フィルムを得た。
【0217】
このフィルムをカソード触媒層とアノード触媒層の間に挟み、120℃、3MPaで2分間加熱プレスすることにより、接合させて膜・触媒層接合体(電極面積:25cm)を得た。
【0218】
[膜電極接合体の電池特性評価2]
上記作製工程2で得た膜・触媒層接合体を用いた以外は膜電極接合体の電池特性評価1と同様にして膜電極接合体を作製し、発電用セルに組み込み、評価1同様にガスを供給した。セル内の温度を120℃、電流密度を0.2A/cmに保持して連続的に発電を行った結果、電圧は0.73Vであった。
【0219】
[膜電極接合体の耐久性評価]
[例9]
[膜・触媒層接合体の作製工程3]
膜・触媒層接合体の作製工程1と同様にして、カソード触媒層作製用塗工液B及びアノード触媒層作製用塗工液Cをそれぞれ作製し、それぞれETFE基材フィルム上に塗布乾燥することにより、カソード触媒層及びアノード触媒層を作製した。
【0220】
例2で得られた重合体を熱プレスして厚さ50μmのフィルムを作製し、例1と同様に加水分解、酸型化の処理を行うことにより、スルホン酸基を有する膜を得た。次に、この膜のスルホン酸基の15モル%に相当するセリウムイオン(+3価)を含むように、硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)6.0mgを500mLの蒸留水に溶解し、この中に上記イオン交換膜を浸漬し、室温で40時間、スターラーを用いて撹拌を行ってイオン交換膜のスルホン酸基の一部をセリウムイオンによりイオン交換した。なお、浸漬前後の硝酸セリウム水溶液をイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、このイオン交換膜中のスルホン酸基の15%がセリウムで置換されていることが判明した。この膜を上述のカソード触媒層とアノード触媒層とで挟み、120℃、3MPaで2分加熱プレスして、触媒層を膜に接合した後、基材フィルムを剥離して電極面積25cmの膜・触媒層接合体を得た。
【0221】
[膜電極接合体の耐久性評価]
上記作製工程3で得た膜・触媒層接合体を用いた以外は膜電極接合体の電池特性評価1と同様にして膜電極接合体を作製し、発電用セルに組み込み、評価1同様にガスを供給した。セル温度を120℃とし、電流密度を0.2A/cmに固定して電圧を記録した。初期のセル電圧及び0.5Vに低下するまでの時間を表2に示す。
【0222】
[例10]
例2で得られた重合体のかわりに、例5で得られた重合体を用いてスルホン酸基を有する膜を作製した以外は例9と同様にして膜電極接合体を作製し、例9と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0223】
[例11]
例9において、例2で得られた重合体からなるスルホン酸基を有する膜を、硝酸セリウム水溶液で処理せずにそのまま用いた以外は例9と同様にして膜電極接合体を作製し、例9と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0224】
[例12]
例10において、例5で得られた重合体からなるスルホン酸基を有する膜を、硝酸セリウム水溶液で処理せずにそのまま用いた以外は例9と同様にして膜電極接合体を作製し、例9と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0225】
【表2】

【0226】
表2より、本発明の固体高分子形燃料電池用電解質材料をセリウムイオンでイオン交換することにより、膜電極接合体の耐久性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0227】
本発明の固体高分子形燃料電池用電解質材料は、従来のものに比べ軟化温度が高いので、この電解質材料を備える固体高分子形燃料電池は、従来のものより高温で作動させることが可能となる。その結果、燃料電池の高出力化や冷却効率向上に寄与できる。

なお、本出願の優先権主張の基礎となる日本特許願2004−109869号(2004年4月2日に日本特許庁に出願)、日本特許願2004−319086号(2004年10月26日に日本特許庁に出願)及び日本特許願2004−311191号(2004年11月2日に日本特許庁に出願)の各明細書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合反応性を有する含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位を含むポリマーからなり、
該繰り返し単位は、式(A)で表され(ただし、Qは直鎖又は分岐構造を有する炭素鎖長1〜6のペルフルオロアルキレン基であり、Ra1〜Ra5はそれぞれ独立にペルフルオロアルキル基又はフッ素原子であり、aは0又は1であり、Rは、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい直鎖又は分岐のペルフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子又は炭素原子であって、Xが酸素原子の場合g=0であり、Xが窒素原子の場合g=1であり、Xが炭素原子の場合g=2である。)、
前記ポリマーの軟化温度が120℃以上である
ことを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質材料。
【化1】

【請求項2】
前記ポリマーが、ペルフルオロポリマーである請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用電解質材料。
【請求項3】
前記ポリマーは、テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位を含む共重合体である請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池用電解質材料。
【請求項4】
式(A)において、Ra4及びRa5がいずれもフッ素原子である請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用電解質材料。
【請求項5】
前記式(A)で表される含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位は、前記ポリマー中の全繰り返し単位の5〜50モル%含まれる請求項1〜4のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用電解質材料。
【請求項6】
前記ポリマーの動的粘弾性の測定により得られる、貯蔵弾性率が1×10Paとなる温度Tと損失弾性率のピーク温度Tとの差ΔT=T−Tが、40〜150℃である請求項1〜5のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用電解質材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電解質材料の製造方法であって、
式(a)で表される化合物を、
ラジカル開始源の存在下で、ラジカル重合した後、前記−SOF基を−(SOX(SOで表されるイオン性基(Rは、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい直鎖又は分岐のペルフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子又は炭素原子であって、Xが酸素原子の場合g=0であり、Xが窒素原子の場合g=1であり、Xが炭素原子の場合g=2である。)に変換することを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質材料の製造方法。
【化2】

【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の電解質材料からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項9】
セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の原子を含む請求項8に記載の固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項10】
セリウムイオン及びマンガンイオンからなる群から選ばれる1種以上を含む請求項9に記載の固体高分子形燃料電池用電解質膜。
【請求項11】
触媒と固体高分子電解質とを含む触媒層を有するカソード及びアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置される固体高分子電解質膜とを備える膜電極接合体であって、前記固体高分子電解質膜が請求項8〜10のいずれかに記載の電解質膜からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項12】
触媒と固体高分子電解質とを含む触媒層を有するカソード及びアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配置される固体高分子電解質膜とを備える膜電極接合体であって、前記カソード及び前記アノードの少なくとも一方の触媒層に含まれる固体高分子電解質は、請求項1〜6のいずれかに記載の電解質材料であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−109259(P2012−109259A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5373(P2012−5373)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2006−511865(P2006−511865)の分割
【原出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】