説明

固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物

【課題】シリコン等の脆性材料の切断加工において、従来の市販水溶性加工油剤より優れた切断性能及び加工表面品位を示し、さらに低起泡性である、優れた固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤の提供。
【解決手段】(A)〜(E)成分を含有することを特徴とする固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。(A)グリコール類、(B)炭素数6〜14の脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族トリカルボン酸、(C)アミン化合物、(D)下記式(1)で表される化合物:R−O−(EO)x(PO)y−H(1)、(E)下記式(2)及び/又は(3)の化合物:R−O−(EO)x(PO)y−H(2)R(3−ZN(R−O−(EO)(PO)−H)(3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定砥粒ワイヤソーを用いた、脆性材料の切断加工に用いる水溶性加工油剤組成物に関する。詳しくは、固定砥粒ワイヤソーを用いた、サファイア、ガラス、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工において、従来市販品より優れた切断性能及び加工表面品位を示し、さらに低起泡性である、優れた水溶性加工油剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サファイア、ガラス、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工には内周刃砥石若しくは遊離砥粒を用いたバンドソー、遊離砥粒ワイヤソー等が使用されてきた。内周刃砥石を利用した切断加工は被削材の大きさに依存するため、切断加工装置の大型化への対応が難しく、作業効率の面からも満足のいくものではなかった。また、遊離砥粒を用いた切断加工においては、スラリーが被削材および工作機械に付着する為、被削材の洗浄性や作業性の低下が問題となっている。また近年において、被削材の切屑をリサイクルする事が望まれている。しかし、遊離砥粒による切断加工では砥粒と切屑の分離が困難であるという問題がある。これらの問題を解決する目的で、金属線に砥粒を電着もしくはレジン等で固定した固定砥粒ワイヤソーが開発された(特許文献1参照)。固定砥粒ワイヤソーを用いる事で被削材の洗浄性や作業性が改善されている。しかしながら、固定砥粒ワイヤソーを用いて脆性材料の切断加工を行う際に、従来の市販水溶性加工油剤を用いた場合、被削材が硬質であることや油剤の性能不良などから、目標とする切断性能が得られない、加工表面品位が不十分、泡立ちがある、切断加工能率が悪いなどの欠点が指摘されている。
【0003】
このような加工においては、(A)グリコール類(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)を含有し、また(B)カルボン酸と(C)塩基性化合物から形成される塩を含有する油剤が提案されている。さらに、硫黄系化合物を含有しても良いとする固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤が提案されている(例えば、特許文献2および3参照)。しかし、これらの水溶性加工油剤をサファイア、ガラス、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工油剤として用いた場合、目標とする切断性能が得られない、加工表面品位が不十分、泡立ちがある、切断加工能率が悪い等の欠点があり、未だユーザーの満足するものは得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−54850号公報
【特許文献2】特開2003−82334号公報
【特許文献3】特開2003−82335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、固定砥粒ワイヤソーを用いた、サファイア、ガラス、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工において、従来の市販水溶性加工油剤より優れた切断性能及び加工表面品位を示し、さらに低起泡性である、優れた固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤を提供することである。
本発明の他の目的は、本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤、水混合固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物、この水混合固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物を用いた脆性材料加工品の製造方法及び製造方法により得られる脆性材料加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示す固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物、水混合固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物、この水混合固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物を用いた脆性材料加工品の製造方法及び製造方法により得られる脆性材料加工品を提供するものである。
〔1〕(A)〜(E)成分を含有することを特徴とする固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(A)グリコール類、
(B)炭素数6〜14の脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族トリカルボン酸(但しヒドロキシカルボン酸を除く)、
(C)アミン化合物、
(D)下記式(1)で表される化合物:
1−O−(EO)x1(PO)y1−H (1)
(式中、R1は水素原子、又は炭素数2〜8の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基、又は炭素数3〜8の分岐アルキル基又は分岐アルケニル基を示す。EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を示す。x1及びy1はそれぞれEO及びPOの平均付加モル数を示し、x1+y1=6〜180の数であり、x1+y1を基準としてx1が60モル%以上である。)、
(E)下記式(2)で表される(E1)及び下記式(3)で表される(E2)の化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種:
(E1) R2−O−(EO)x2(PO)y2−H (2)
(式中、R2は水素原子又は炭素数2〜8の直鎖アルキレン基又は直鎖アルケニレン基、又は炭素数3〜8の分岐アルキレン基又は分岐アルケニレン基を示す。EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を示す。x2及びy2はそれぞれEO及びPOの平均付加モル数を示し、x2+y2=4〜170の数であり、x2+y2を基準としてy2が60モル%以上である。)、
(E2) R4(3-Z3)N(R3−O−(EO)X3(PO)Y3−H)Z3 (3)
(式中、R3は炭素数2〜3の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基、又は炭素数3の分岐アルキル基又は分岐アルケニル基を示す。z3は1〜3を示し、R4は水素原子又は炭素数1〜8の直鎖アルキル基若しくは直鎖アルケニル基、又は炭素数3〜8の分岐アルキル基を示す。但し、z3が1の場合、R4は同一でも良いし、異なっても良い。EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を示す。x3及びy3はそれぞれEO及びPOの平均付加モル数を示し、x3+y3=4〜170の数であり、x3+y3を基準としてy3が60モル%以上である。)
【0007】
〔2〕(B)が、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸及びテトラデカン二酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記〔1〕記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
〔3〕(C)が、アルカノールアミン及びアルキルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記〔1〕又は〔2〕記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
〔4〕(D)及び(E)の重量平均分子量がそれぞれ500〜7000である前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
〔5〕(A)成分が20〜80質量部、(B)成分が0.04〜10質量部、(C)成分が0.04〜10質量部、(D)成分が8〜40質量部、(E)成分が0.04〜20質量部の量で含まれる、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
〔6〕更に、1〜5000質量部の水を含む、前記〔1〕〜〔5〕記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
〔7〕組成物の25℃におけるpHが6〜9である前記〔6〕記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
〔8〕前記〔7〕記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物を用いて脆性材料を加工する工程を含む、脆性材料加工品の製造方法。
〔9〕脆性材料がシリコンである、前記〔8〕記載の製造方法。
〔10〕前記〔8〕又は〔9〕記載の製造方法により得られた脆性材料加工品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物は、ガラス、サファイア、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工において、従来品と比較して切断性に優れている。また、切断性との関連性が強い加工表面品位も優れた結果を示している。さらに、低起泡性であり切断加工能率が向上する。本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物は、切断開始前の暖機運転中のように、切屑が存在していないときはもちろん、作業中に切屑が混入しているときも低起泡性を示す。本発明の組成物はまた、洗浄性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(A)グリコール類
(A)成分は、潤滑性に寄与する。
(A)成分の具体例としては、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングルコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。これらは2種以上を任意の割合で併用して使用しても良い。このうち、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールが好ましい。ジエチレングリコール、プロピレングリコールが特に好ましい。プロピレングリコールが最も好ましい。
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物における(A)成分の含有量は、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは40〜60質量部である。20質量部未満では潤滑性が不足するため切断性能に劣り、さらに(D)、(E)成分の溶解性が低下し、油剤の製造が困難になることがある。80質量部を超えると原材料費の面から経済性が低下する。
【0010】
(B)炭素数6〜14の脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族トリカルボン酸
(B)成分は、潤滑性、消泡性に寄与する。但し、(B)成分はヒドロキシカルボン酸ではない。
(B)成分の炭素数6〜14の脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸及びテトラデカン二酸等があげられる。
炭素数6〜14の脂肪族トリカルボン酸としては、プロパントリカルボン酸、プロパン-1-エン-1,2,3-トリカルボン酸、ブタントリカルボン酸、ペンタントリカルボン酸、ヘキサントリカルボン酸、オクタントリカルボン酸、ノナントリカルボン酸、デカントリカルボン酸、ウンデカントリカルボン酸、モノメチルデカントリカルボン酸等があげられる。
(B)成分としては、炭素数6〜14の脂肪族ジカルボン酸が好ましい。このうち、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸がより好ましい。
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物における(B)成分の含有量は、好ましくは0.04〜10質量部、好ましくは0.04〜5質量部、より好ましくは0.2〜2質量部である。0.04質量部未満では潤滑性が不足するため切断性能に劣る。10質量部を超えると原材料費の面から経済性が低下する。
【0011】
(C)アミン化合物
(C)成分は、(B)成分の溶解性、消泡性に寄与する。
(C)成分としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエチルイソプロパノールアミン、モノメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モノブチルエタノールアミン、モノブチルジエタノールアミン等の炭素数2〜9のアルカノールアミン;炭素原子数8〜18の第一級又は第二級のアルキルアミン、例えば2−エチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等のアルキルアミンがあげられる。このうち、炭素数2〜6のアルカノールアミンが好ましく、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミンがより好ましい。トリエタノールアミンが最も好ましい。
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物における(C)成分の含有量は、好ましくは0.04〜10質量部、より好ましくは0.2〜8質量部である。0.04質量部未満では(B)成分の溶解性に劣る。10質量部を超えると、組成物のpHが高くなり、低起泡性が劣る。
【0012】
(D)下記式(1)で表される化合物
1−O−(EO)x1(PO)y1−H (1)
式中、R1は水素原子又は炭素数2〜8の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基、又は炭素数3〜8の分岐アルキル基を示す。EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を示す。x1及びy1はそれぞれEO及びPOの平均付加モル数を示し、x1+y1=6〜180の数であり、x1+y1を基準としてx1が60モル%以上である。x1が60モル%未満では、水への溶解性が劣るので好ましくない。前記式(1)中の−(EO)x1(PO)y1−におけるEO、POの付加形態はランダムでもブロックでもよい。
(D)成分は、潤滑性に寄与する。
(D)成分の重量平均分子量は、好ましくは500〜7000であり、より好ましくは1000〜6000であり、更に好ましくは1000〜3000である。重量平均分子量が500未満では潤滑性が不足するため切断性能に劣り、7000を超えると溶解性が劣る。なお、本明細書において、(D)及び(E)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)を用いて、測定することができる。
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物における(D)成分の含有量は、好ましくは8〜40質量部、より好ましくは12〜35質量部である。8質量部未満では潤滑性が不足するため切断性能が劣る。40質量部を超えると低起泡性が劣る。
【0013】
(E)下記式(2)で表される(E1)及び下記式(3)で表される(E2)の化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である:
(E1) R2−O−(EO)x2(PO)y2−H (2)
式中、R2は水素原子又は炭素数2〜8の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基、又は炭素数3〜8の分岐アルキル基又は分岐アルケニル基を示す。EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を示す。x2及びy2はそれぞれEO及びPOの平均付加モル数を示し、x2+y2=4〜170の数であり、x2+y2を基準としてy2が60モル%以上である。
(E2) R4(3-Z3)N(R3−O−(EO)X3(PO)y3−H)Z3 (3)
(式中、R3は炭素数2〜3の直鎖アルキレン基又は直鎖アルケニレン基、又は炭素数3の分岐アルキレン基又は分岐アルケニレン基を示す。z3は1〜3を示し、R4は水素原子又は炭素数1〜6の直鎖アルキル基若しくは直鎖アルケニル基、又は炭素数3〜8の分岐アルキル基を示す。但し、z3が1の場合、R4は同一でも良いし、異なっても良い。EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を示す。x3及びy3はそれぞれEO及びPOの平均付加モル数を示し、x3+y3=4〜170の数であり、x3+y3を基準としてy3が60モル%以上である。
2及びy3が60モル%未満では、低起泡性を十分に発揮できないため好ましくない。
前記式(2)中の−(EO)x2(PO)y2−及び前記式(3)中の−(EO)X3(PO)y3−におけるEO、POの付加形態はランダムでもブロックでもよい。
(E)成分は、潤滑性、低起泡性に寄与する。
(E)成分の重量平均分子量は、500〜7000であり、好ましくは1000〜3000である。
本発明の組成物における(E)成分の含有量は、好ましくは0.04〜20質量部、より好ましくは0.2〜10質量部である。0.04質量部未満では低起泡性に劣る。20質量部を超えると溶解性が低下する。
【0014】
本発明において、(D)成分と(E)成分とを併用することにより、潤滑性、泡立ち試験の泡高さと消泡時間に優れるので好ましい。(D)成分及び(E)成分に、さらに(A)成分を併用する事により、経済性を維持しつつ、潤滑性、低起泡性にも優れるのでより好適である。
【0015】
(F)水
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物は、更に1〜5000質量部の水を含んでもよい。水は、超純水、蒸留水、イオン交換水、水道水、市水、工業用水等のいずれを用いても良い。本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物における(F)成分の含有量は、好ましくは10〜2000質量部、より好ましくは50〜1000質量部である。
【0016】
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物の25℃におけるpH(JIS Z 8802)は6〜9、好ましくは8〜9である。pHが6未満では、切断加工装置を腐食させる場合があり、pHが9を超えると、切屑と油剤が反応して水素を発生させる場合があり、好ましくない。pHは(B)成分と(C)成分の量の割合いを調整することにより行うこともできる。尚、本明細書におけるpHは、組成物に1〜5000質量部の水を含んだ場合の値である。
【0017】
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物は、要求性能に応じて、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、防錆剤などの添加剤を使用することができる。この添加剤の使用量は、通常0.01〜5質量部程度である。
【0018】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記の実施例は本発明を制限するものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【実施例】
【0019】
表1実施例及び表2比較例に示すA〜E成分、D’成分、E’成分及びイオン交換水を質量部で配合し、水混合固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物(試験試料)を調製した。
固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物のpH測定は、JIS Z 8802に基づいて、ガラス電極を用いて25℃におけるpHを測定した。得られた実施例及び比較例の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物の潤滑性試験(切断性)、泡立ち試験(泡高さ、消泡時間)、シリコン切屑がなしとありの場合の泡立ち試験、洗浄性試験の試験方法及び判定基準を以下に示す。
〔潤滑性試験(切断性)〕
試験条件
試験装置:付着滑試験機(神鋼造機社製)
試験温度:25℃
試験試料:1〜2mL
試験片:シリコンウェーハ(φ3inch×厚さ0.8mm)
鋼球(材質:SUJ−2直径3/16inch)
荷重(W):0.2kgf
滑り速度:0.5mm/sec
摺動長さ:10mm
往復摺動回数:15回
試験方法
試験装置に対し、水平に配置した3インチシリコンウェーハ(以下ウェーハ)上に試験試料を1〜2mL滴下した。試験試料を滴下したウェーハに対して鋼球を接触させ、鋼球に荷重(W)0.2kgfを付与した状態でウェーハを水平方向に摺動(滑り速度:0.5mm/sec)させた時、鋼球にかかる摩擦力(F)を測定し、下式より摩擦係数(μ)を求めた。

μ=F/W

判定基準:往復摺動回数が15回の時の摩擦係数
○:0.38未満
×:0.38以上
【0020】
〔泡立ち試験〕
(シリコン切屑なし)
試験条件
攪拌装置:市販ミキサー(テスコム社製)
攪拌時間:1分、攪拌の回転数:12,000rpm(空運転時18,000rpm) 試験温度:25℃
試験試料:400mL
試験方法
試験試料400mLをミキサー容器に入れ、攪拌回転数12,000rpm(空運転時18,000rpm)で1分間攪拌した。攪拌終了後、ミキサーに取り付けた物差しで泡の高さを測定し、泡の消える時間を計測した。
結果を表1および表2に示す。
(シリコン切屑あり)
試験条件
攪拌装置:市販ミキサー(テスコム社製)
攪拌時間:1分、攪拌の回転数:12,000rpm(空運転時18,000rpm) 試験温度:25℃
試験試料:400mL
切屑添加量:シリコン切屑 16g
試験方法
試験試料400mLとシリコン切屑16gをミキサー容器に入れ、攪拌回転数12,000rpm(空運転時、18,000rpm)で1分間攪拌した。攪拌終了後ミキサーに取り付けた物差しで泡の高さを測定し、泡の消える時間を計測した。
なお、比較例1、2、3、4、10、は泡立ち試験の泡高さと消泡時間が劣るため潤滑試験を行わなかった。
判定基準(泡高さ)
○:0以上20mm未満
□:20以上30mm未満
△:30以上40mm未満
×:40mm以上
判定基準(消泡時間)
○:0以上20秒未満
□:20以上40秒未満
△:40以上60秒未満
×:60秒以上
○及び□を合格、△及び×を不合格とした。
【0021】
〔洗浄性試験〕
試験方法
切屑ありの泡立ち試験の後、直ちにミキサー容器を50mLのイオン交換水でシャワーリングし、ミキサー容器の汚れを目視にて確認した。
判定基準
○:汚れ少ない・・・合格
×:汚れ多い・・・・不合格
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)〜(E)成分を含有することを特徴とする固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(A)グリコール類、
(B)炭素数6〜14の脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族トリカルボン酸(但しヒドロキシカルボン酸を除く)、
(C)アミン化合物、
(D)下記式(1)で表される化合物:
1−O−(EO)x1(PO)y1−H (1)
(式中、R1は水素原子、又は炭素数2〜8の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基、又は炭素数3〜8の分岐アルキル基又は分岐アルケニル基を示す。EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を示す。x1及びy1はそれぞれEO及びPOの平均付加モル数を示し、x1+y1=6〜180の数であり、x1+y1を基準としてx1が60モル%以上である。)、
(E)下記式(2)で表される(E1)及び下記式(3)で表される(E2)の化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種:
(E1) R2−O−(EO)x2(PO)y2−H (2)
(式中、R2は水素原子、又は炭素数2〜8の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基、又は炭素数3〜8の分岐アルキル基又は分岐アルケニル基を示す。EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を示す。x2及びy2はそれぞれEO及びPOの平均付加モル数を示し、x2+y2=4〜170の数であり、x2+y2を基準としてy2が60モル%以上である。)、
(E2) R4(3-Z3)N(R3−O−(EO)X3(PO)Y3−H)Z3 (3)
(式中、R3は炭素数2〜3の直鎖アルキレン基又は直鎖アルケニレン基、又は炭素数3の分岐アルキレン基又は分岐アルケニレン基を示す。z3は1〜3を示し、R4は水素原子又は炭素数1〜8の直鎖アルキル基若しくは直鎖アルケニル基、又は炭素数3〜8の分岐アルキル基を示す。但し、z3が1の場合、R4は同一でも良いし、異なっても良い。EOはエチレンオキサイド基を、POはプロピレンオキサイド基を示す。x3及びy3はそれぞれEO及びPOの平均付加モル数を示し、x3+y3=4〜170の数であり、x3+y3を基準としてy3が60モル%以上である。)
【請求項2】
前記(B)が、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸及びテトラデカン二酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項3】
前記(C)が、アルカノールアミン及びアルキルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項4】
前記(D)及び(E)の重量平均分子量がそれぞれ500〜7000である請求項1〜3のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項5】
前記(A)成分が20〜80質量部、(B)成分が0.04〜10質量部、(C)成分が0.04〜10質量部、(D)成分が8〜40質量部、(E)成分が0.04〜20質量部の量で含まれる、請求項1〜4のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項6】
更に、1〜5000質量部の水を含有する、請求項1〜5記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項7】
組成物の25℃におけるpHが6〜9である請求項6記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項8】
請求項7記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物を用いて脆性材料を加工する工程を含む、脆性材料加工品の製造方法。
【請求項9】
脆性材料がシリコンである、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9記載の製造方法により得られた脆性材料加工品。

【公開番号】特開2011−256377(P2011−256377A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106667(P2011−106667)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】