説明

圧延ラインの芯出し装置と芯ずれ測定方法

【課題】 レーザー光源と受光器を用いて圧延ラインの芯出しを行なう際に、レーザービームに欠けを生じないようにしてその重心位置を正確に検出し、前記芯出しおよび芯ずれ量の測定を精度よく行なう装置と方法を提供することである。
【解決手段】 照射方向調整手段2bを備えたレーザー投光部2を、予め、圧延ラインの入側と出側の方向にレーザービームが同一軸上で照射されるように光軸調整をした後に前記入側と出側の中央部に配置し、圧延ラインの中心軸CLに沿った入側と出側の基準点に受光器3a、3bを配置し、前記照射方向調整手段2bにより、レーザー投光部2から受光器3aおよび3bにレーザービームを順番に照射して芯出しを行なうようにした。それにより、レーザービームの伝播距離が半分になるため、レーザービームの広がりが半減されてビーム欠けを生じず、レーザービーム強度の重心位置の検出精度(芯出し精度)が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、この発明は、線材、棒鋼などの鋼材の圧延工場で、圧延ラインを形成している圧延機や水冷帯などの装置の芯だし作業工程で使用する芯出し装置とそれを用いた芯ずれ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、線材の仕上げ圧延ラインでは、仕上げ圧延機をはじめ、水冷帯、圧延材のガイド類などが多数存在し、その長さは全長で30m以上に達する。この仕上げ圧延ラインでの圧延工程で、一般に、直径5mm〜20mmの線材を製造している。前記仕上げ圧延ラインに芯ずれが発生していると、加熱炉から抽出されて順調に圧延されてきた圧延材が芯ずれ発生位置で曲がってしまい、ミスロールが発生したりして安定して圧延することが難しくなる。一旦、ミスロールが発生すると、その復旧作業に多大な労力と時間を要し、生産面での大きな機会損失を招くことになる。また、圧延が安定しないと、大量の品質不良が発生するおそれがあり、この場合にも多大な損失を受けることになる。このため、仕上げ圧延ラインなど、圧延ラインの芯ずれをなくすことが安定な生産をする上で非常に重要となる。
【0003】
従来から、圧延ラインの芯ずれをなくすために用いる方法として、(a)圧延ラインの入側と出側に基準点を設け、その間にピアノ線を張り、この基準点間に張設したピアノ線を基準として個々の装置の芯出しをする方法、(b)建築や土木分野でよく使用されるトランシット測量法を用いて、圧延ラインの個々の装置についてその中心座標を計測し、適正な位置に合わせて芯出しを行なう方法、などが知られている。
【0004】
一方、前記従来法(a)、(b)のほかに、芯出し方法として、多段圧延機の第1スタンド入側に近接してレーザー照射部を、最終スタンド出側に近接してレーザー照射部の発射ビーム検出部を設け、レーザービームのセンターを基準線として各スタンドの圧延ロールの芯出しを行なう方法が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭57−121810号公報(第1頁〜第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来法(a)では、長さが30m以上もの仕上げ圧延ラインの端から端までピアノ線を張ると、撓みが生じて水平方向でも芯出し精度が出難く、まして垂直方向では自重で撓みがより顕著となり、尚更芯出し精度が出難くなる。また、このピアノ線を張設する方法では、測定および準備に時間がかかるため、必要に応じて頻繁に実施することは困難である。また、前記従来法(b)では、線材の最小直径が5mmと極めて細い上に、複雑に機材が組み合わさった仕上げ圧延ラインの中でトランシットを使用して測量することは不可能である。このため、仕上げ圧延機や水冷帯などの測定対象物ごとに別個に芯出し基準を設け、この基準に基づいて芯出しをする必要がある。この場合、実際に圧延ラインに組み込まれた状態で測定されていないため、芯出し基準がずれていても把握できず、信頼性の面で問題がある。さらに、従来法(a)の場合と同様に、測定および準備に時間がかかり、必要に応じて頻繁に実施することは困難である。
【0006】
前記特許文献1に開示された、芯出し方法では、圧延ライン全長ではなく、多段鋼管圧延機のみを対象としている。一般に、多段圧延機は長くても10m以下である。それに対し、仕上げ圧延ラインは、前述のように、30m以上の長さがある。前記レーザービームは横方向の広がりを有するため、30m以上もの距離を照射するのであれば、この横方向の広がりの影響を考慮する必要がある。一般に、図1に示すように、レーザービームの広がり角(半角)θとビーム径Dは以下のように表される。
【0007】
【数1】

【0008】
ここに、λ:レーザーの波長 D0:照射部出側(元々の)ビーム直径
L:レーザービーム伝播距離
レーザー光を一般的なHe−Neレーザー光で、その波長λを633nmとし、元々のビーム径W0を一般的な数値であるφ1mmとすると、上記式(2)により、レーザー光源から30m先でのレーザービーム径はφ13mmに広がるため、芯出し対象物と干渉してレーザービームに欠けを生じるおそれがある。一般に、レーザービームを受光する検出器としては、ビデオカメラ、CCD撮像素子や位置検出等が用いられ、レーザービーム強度の重心を求めることで芯出し測定を行うが、レーザービームに欠けを生じると、レーザービーム強度の正確な重心位置を検出できなくなり、圧延ラインの中心位置を1mm程度の高精度で導出することは困難となる。また、レーザービームを圧延ラインの中心軸に沿って、30mの距離間で中心軸からのずれ量(芯ずれ量)を1mm以下の精度で保つためには、回転角度で、
atan(0.001m/30m)≒0.002度≒7秒
の精度でレーザー投光部の回転角度を合わせる必要があり、角度調整が非常に難しく、芯出し測定が困難となる。
【0009】
そこで、この発明の課題は、レーザー光源と受光器を用いて線材の仕上げ圧延ラインなど、長い圧延ラインでの芯出しを行なう際に、レーザービームに欠けを生じないようにしてその重心位置を正確に検出し、圧延ラインの芯出しおよび圧延ラインの芯出し対象物の芯ずれ量の測定を精度よく行なう装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、この発明では以下の構成を採用したのである。
【0011】
即ち、請求項1に係る圧延ラインの芯出し装置は、レーザー光源と、このレーザー光源から照射されたレーザービームを検出する受光器と、前記レーザー光源の照射方向の調整を可能とする照射方向調整手段とを備え、前記受光器から出力される出力映像信号を処理して検出したレーザービームの中心位置に基づいて芯出しを行なう圧延ラインの芯出し装置であって、前記レーザー光源が圧延ラインの入側と出側の間に配置され、前記受光器が圧延ラインの入側および/または出側に圧延ラインの中心軸に沿って配置され、前記照射方向調整手段が、レーザービームを前記入側と出側の対向する2方向に順番に照射してそれらの光軸が一致するように調整可能な機能を有し、この調整された2方向のレーザービームの光軸をそれぞれ前記中心軸に合致させ、この光軸を基準線として芯出しを行なうようにしたことを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、圧延ラインの入側と出側の間、例えば、入出側間の中央部にレーザー光源を配置し、照射方向調整手段によりレーザー光源を反転させて圧延ラインの入側方向および出側方向に順番にレーザービームを照射することにより、圧延ライン内のレーザービームの伝播距離が1/2に短縮されるため、レーザービーム径の広がりが低減する。この広がりの低減によって、例えば、線材の仕上げ圧延ラインでは、仕上げ圧延機〜サイジングミル間等全長30m以上に亘って、穿孔直径5〜30mmのロール孔型やガイドなどが配置された中を、これらの芯出し対象物と干渉せずに、即ち、欠けを生じずにレーザービームを伝播させることが可能となる。
【0013】
請求項2に係る圧延ラインの芯出し装置は、レーザー光源と、このレーザー光源から照射されたレーザービームを検出する受光器と、前記レーザー光源の照射方向の調整を可能とする照射方向調整手段とを備え、前記受光器から出力される出力映像信号を処理して検出したレーザービームの中心位置に基づいて芯出しを行なう圧延ラインの芯出し装置であって、前記レーザー光源が圧延ラインの入側と出側の間に配置され、前記受光器が圧延ラインの入側および/または出側に圧延ラインの中心軸に沿って配置され、前記照射方向調整手段が、ビームスプリッタを備えてレーザービームを前記入側と出側の対向する2方向に分岐・照射し、それらの光軸が一致するように調整可能な機能を有し、この調整された2方向のレーザービームの光軸を圧延ラインの中心軸に合致させ、この光軸を基準線として芯出しを行なうようにしたことを特徴とする。
【0014】
このように、ビームスプリッタを用いることにより、1つのレーザー光源からのレーザービームを180°相反させて、即ち圧延ラインの入側および出側に分岐させて照射できるため、前記照射方向調整手段にレーザー光源を180°反転させる回転機構が不要となり、また、反転動作が不要となる分だけ方向調整も容易となる。
【0015】
請求項3に係る圧延ラインの芯出し装置は、レーザー光源と、このレーザー光源から照射されたレーザービームを検出する受光器と、前記レーザー光源の照射方向の調整を可能とする照射方向調整手段とを備え、前記受光器から出力される出力映像信号を処理して検出したレーザービームの中心位置に基づいて芯出しを行なう圧延ラインの芯出し装置であって、前記レーザー光源が圧延ラインの入側と出側の間に配置され、前記受光器が圧延ラインの入側および/または出側に圧延ラインの中心軸に沿って配置され、前記レーザー光源が、同一軸上の反対方向に照射可能な一対のレーザー投光ユニットを備え、このレーザー投光ユニットの少なくとも一方に前記照射方向調整手段(4a)を設けて互いに反対方向に照射されたレーザービームのそれぞれの光軸を一致させ、前記一対のレーザー投光ユニットに、さらに前記照射方向調整手段(4b)を設けて、互いに反対方向に照射されたレーザービームのそれぞれの光軸を前記中心軸に対して調整できるようにしたことを特徴とする。
【0016】
このような装置構成にすれば、後述するように、レーザー光源の光軸を必ずしも厳密に圧延ラインの中心軸上に合致させなくても、対象とする装置類の芯ずれ量の測定が可能となり、測定操作が簡便化され、測定時間の短縮も可能となる。
【0017】
請求項4に係る圧延ラインの芯ずれ測定方法は、レーザー光源の照射方向の調整を可能とする照射方向調整手段を備えたレーザー光源を圧延ラインの入側と出側の間に配置し、このレーザー光源から照射されたレーザービームを検出する受光器を圧延ラインの入側および/または出側にその中心軸に沿って配置し、まず、前記レーザー光源からレーザービームを圧延ラインの出側または入側方向に照射し、その光軸を前記照射方向調整手段により前記中心軸に合致させた後、前記照射方向調整手段により、前記レーザー光源の照射方向を反転させてレーザービームを圧延ラインの入側または出側方向に照射してそのレーザービームの光軸を圧延ラインの中心軸に合致させ、これらの合致させたレーザービームの光軸を基準線として圧延ラインの対象物の芯ずれ量を測定するようにした測定方法である。
【0018】
請求項5に係る圧延ラインの芯ずれ測定方法は、レーザービームの照射方向調整手段(4a)を少なくとも一方に設けて同一軸上の反対方向に照射を可能とした一対のレーザー投光ユニットを備え、前記一対のレーザー投光ユニットにその光軸を同時に調整する照射方向調整手段(4b)を設けて形成したレーザー光源を圧延ラインの入側と出側の間に配置し、前記レーザー光源から照射されたレーザービームを受光する受光器を圧延ラインの出側および/または入側にその中心軸に沿った基準点に配置し、まず、前記照射方向調整手段(4a)により、前記一対のレーザー投光ユニットから互いに反対方向に照射されたレーザービームの光軸を一致させた後、前記照射方向調整手段(4b)により、前記一方のレーザー投光ユニットから照射したレーザービームの中心を圧延ラインの出側または入側に設けた基準点に一致させた後、他方のレーザー投光ユニットから照射したレーザービームの中心を圧延ラインの入側または出側に設けた基準点に一致させ、この一致させる過程で、前記方向調整手段(4b)を水平方向および垂直方向に回転させた角度を測定し、これらの回転角度を用いてレーザービームの中心からの芯出し対象物の水平方向および垂直方向のずれ量をそれぞれ算出し、このずれ量を補正して芯出し対象物の圧延ラインの中心軸からの芯ずれ量を求める測定方法である。
【発明の効果】
【0019】
この発明では、レーザー光源を圧延ラインの入側と出側間、例えば、入出側間の中央部に配置して、レーザービームを反転または分岐させて入側および出側方向に照射するようにしたので、圧延ライン内のレーザービームの伝播距離を半減させることが可能となる。伝播距離が短くなるため、レーザービーム径の広がりも低減し、線材の仕上げ圧延ラインの場合、全長30m以上に亘って、ロール孔型やガイドなど内径が5〜30mmの芯出し対象物の中を、それらと干渉せずに伝播させることが可能となる。その結果、レーザービームに欠けを生ぜず、またビーム径自体が小さくなるため、レーザービーム強度の重心位置の検出精度、即ち、芯出し精度が向上する。
【0020】
また、圧延ラインの入側と出側間に、180°相反する方向にビームを照射できる一対のレーザー投光ユニットと照射方向調整手段とを備えたレーザー光源を配置することにより、その位置が、即ち光軸が圧延ラインの中心軸に一致していなくても、ビーム径の広がりを抑えてビーム重心の検出精度(芯出し精度)の向上が可能であり、測定操作が簡便化され、測定時間の短縮等、測定効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、この発明の実施形態を添付の図1〜図10に基づいて説明する。
【0022】
図2(a)は、線材の仕上げ圧延ライン1の装置(芯出し対象物)の配置を模式的に示したもので、仕上げ圧延機5、5aの出側に、圧延材を調整冷却する水冷帯6、および水冷された圧延材を誘導するガイド7が設置されている。仕上げ圧延ラインの入側および出側、即ち仕上げ圧延機5の入側およびガイド7の出側には、基準点8および基準点8aがそれぞれ設けられている。ここで、基準点8と8aとを結ぶ直線が圧延ラインの中心軸CL(パスライン)である。仕上げ圧延機5aと水冷帯6との間に、レーザー光源、即ちレーザービームを投光するレーザー投光部2が配置され、前記基準点8および8aの位置に、受光器3aおよび3bとして、二次元分解能力を有する受光器のCCDカメラがその受光部の中心を前記圧延軸CLに合致させてそれぞれ設置されている。このCCDカメラには、例えば、1インチ型の撮像素子が組み込まれ、この撮像素子の前面に、減光効果があるNDフィルタが取り付けられ、CCDカメラの輝度出力が最大値の約50%になるようにして、CCDカメラが飽和しないようにしている。そしてCCDカメラは、その出力映像信号を処理してレーザー投光ユニット2aから出射されるレーザービーム強度の中心位置を検出する画像処理ボードを組み込んだパソコンなどの信号処理装置(図示省略)に接続されている。
【0023】
前記レーザー投光部2は、図2(b)に示すように、レーザー投光ユニット2aと、照射されるレーザービームの光軸を変更および調整する照射方向調整手段である回転ステージ2bからなり、このレーザー投光ユニット2aにはビームエキスパンダ光学系が組み込まれている。レーザー投光部2はHe−Neレーザー(波長:λ=633nm、ビーム径:φ1mm)を光源とし、出射ビームをビームエキスパンダ光学系で4倍に拡大して出射ビーム径(D0)をφ4mmとした平行(コリメート)光がレーザー投光ユニット2aから照射される。レーザー投光ユニット2aを回転ステージ2bにより、圧延機の入側方向または出側方向から、出側方向または入側方向へ180°回転させることにより、レーザー投光ユニット2aから出射されたレーザービームは、入側および出側の2方向に順番に照射される。この2方向のレーザービームの光軸が一致するように予めオフラインで光軸調整をした後に、レーザー投光部2が、図2(a)に示したように、仕上げ圧延機5aと水冷帯6の中央部に配置される。配置後、入側および出側の2方向の光軸が、前記受光器3a、3bの中心にそれぞれ一致するように、即ち仕上げ圧延ライン1の圧延中心軸CLに一致するように、回転ステージ2bを回転させて光軸調整を行なうことによって、仕上げ圧延ライン1の入側から出側に至る芯出しのための直線基準が得られる。このようにして、レーザービーム投光部2とその受光部3a、3bからなるレーザービーム光学系を用いて、仕上げ圧延ライン1の芯出しが可能となる。なお、前記2方向のレーザービームの光軸を一致させるための光軸調整は必ずしも予め調整しておく必要はなく、仕上げ圧延ライン1の中央部、即ち圧延機5aと水冷帯6の中央部に配置した後に、受光器3a、3bの中心に一致するように光軸調整を行なえば、必然的に2方向の光軸は一致するが、予め光軸調整をしておくと、前記中央部に配置した後の光軸調整に要する操作が簡単になる。
【0024】
前記直線基準からの、ロールやガイドなどの測定対象物の芯ずれ量を、例えば、仕上げ圧延ライン1の入側から中央部の間、即ち受光器3aからレーザービーム投光部2の間の対象物について測定する場合には、まず、前記光軸調整によって、レーザービーム投光ユニット2aから出射(照射)されるレーザービームの中心を受光器3aの中心に一致させる。そして、圧延機5の入側のロールユニットのロール孔型の中心と一致する、このロール孔型よりも小さな孔を設けた測定治具をロールユニットに装着し、この測定治具の孔の中心とレーザービームの中心とのずれ(芯ずれ量)を受光器3aからの出力映像信号を画像処理することにより求める。この芯ずれ量に基づいて、ロールユニットに装備された調整装置によって補正するなどして、圧延機5の入側のロールユニットの芯出しを行なうことができ、それによって、仕上げ圧延ライン1での圧延機5の芯出し基準が得られる。同様にして、後段側の圧延機5aの入側のールユニットの芯出しを行なうことができ、仕上げ圧延ライン1での圧延機5aの芯出し基準が得られる。
【0025】
次に仕上げ圧延ライン1の出側から中央部の間、即ち受光器3bからレーザー投光部2の間の対象物について測定する場合には、前記光軸調整によって、レーザー投光ユニット2aから照射されるレーザービームの中心を受光器3bの中心に一致させる。そして、ガイド7の個々の誘導筒および水冷帯6の各水冷ノズルの芯ずれ量を受光器3bからの出力映像信号を画像処理することにより求めることができ、この芯ずれ量に基づいて仕上げ圧延ライン1の出側から中央部にかけての芯出しを行なうことができる。
【0026】
上記のように、レーザービーム投光部2を、芯出し対象物の間に配置することによる作用について以下に説明する。例えば、線材の仕上げ圧延ラインで、前記仕上げ圧延ライン1での芯出し対象区間の長さを30mとし、この対象区間の中央部にレーザー投光部2を配置し、芯出し対象区間の入側の受光器3aおよび出側の受光器3bの中心にレーザービームを照射した場合、前記芯出し対象区間の入側または出側までの投光(照射)距離(L)は全長30mの1/2となる。前述のように、出射ビーム(D0)を、ビームエキスパンダ光学系で4倍に拡大してφ4mmとすると、レーザービームの広がり角(半角)θおよび直径Dは、前記式(1)および式(2)から次のようになる。
【0027】
θ=2λ/(π×D0)=2×633nm/(π×4mm)≒0.1mrad
D=4+2×0.1×10-3×15×103=7mm
従来技術では、全長が30m以上におよぶ線材の仕上げ圧延ラインなどでは、レーザービーム直径Dが10mmよりも小さくならず、ロール孔型やガイド内径など、穿孔直径が10mm以下の測定対象物がある場合に、レーザービームに欠けを生じるため、レーザービームの中心位置(重心位置)を正しく測定できない。しかし、本発明によれば、レーザービーム直径を10mm以下と従来よりも小さくでき、レーザービームが測定対象物と干渉せずに、即ち、レーザービームを欠けを生じずに伝播させることが可能となるため、レーザービームの中心位置を正しく測定でき、芯ずれ量の測定精度が向上する。
【0028】
図3は、前記回転ステージ2bの代わりに、ビームスプリッタ2cを用いて、レーザー投光ユニット2aからのレーザービームLBを圧延ラインの出側方向および入側方向のビームLB1、LB2にそれぞれ分岐させるようにした芯出し装置のレーザー投光部を示したものである。レーザー投光ユニット2aを回転ステージ2bに組み込んだレーザー投光部2を有する前記芯出し装置では、圧延ライン、即ち芯出し対象区間の入側および出側の2方向に投光されるレーザービームの光軸が一致するように回転ステージ2bを回転させて光軸調整を行なった後に、芯出し対象区間の入側および出側の中央部に配置される。この場合、レーザー投光ユニット2aと回転ステージ2bを組み込んだ後、可動部(回転機構)の経時変化による芯ずれがあった場合、2方向のレーザービームの光軸がずれてしまい、芯出しの直線基準とならない虞がある。前記レーザー投光部2では、可動部を有することにより直線基準を保証できず、芯ずれ量測定の信頼性に欠ける問題が生じる。図3に示したように、レーザー投光部2に、前記回転ステージ2bを設けるかわりに、端面Fをアルミ蒸着することにより全反射ミラー面が形成されたビームスプリッタ2cを用いると、直角プリズムの特性により回転機構を必要とせずに入側および出側の2方向にレーザービームが投光され、2方向のレーザービームの光軸を一致させることができる。即ち、レーザー投光ユニット2aからのレーザービームの平行(コリメート)光をビームスプリッタ2cに投光すると、対向する2方向、即ち180°相反する方向に分割されたレーザービームLB1、LB2が形成される。このように、レーザー投光部2から出射したレーザービームを、それぞれ、入側および出側の受光器3a、3bの中心方向の2方向に分岐させることにより、可動部(回転機構)の経時変化による軸ずれを生じずに芯出しの直線基準が得られ、信頼性の高い芯ずれ量の測定を実現できる。なお、ビームスプリッタ2cを用いる場合のレーザー投光ユニット2aは、図2に示した回転ステージ2bを用いる場合と同じ特性のHe−Neレーザー光源を使用し、ビームエキスパンダにより出射ビーム径を、例えば、4倍に拡大することができる。
【0029】
図2の回転ステージ2bを用いた場合について、前述のように、式(1)および式(2)を用い、レーザー投光部2の出射ビームを平行(コリメート)光として、全長30mの芯出し対象区間の中央にレーザー投光部2を配置した場合の、レーザービームの広がり直径を7mmと試算した。平行(コリメート)光の場合、レーザー投光ユニット2aから出射されたレーザービームは、図4(a)に示すように、伝播距離が長くなるとともに単調に拡がるが、この出射ビームとしてこの平行(コリメート)光を用いる代わりに、図4(b)に示すように、集光レーザービームを用いることもできる。この集光レーザービームは、前記レーザー投光ユニット2aに長焦点距離の集光レンズ系を装着することによって得られ、伝播距離L1で集光される場合、焦点位置でのレーザービーム直径D1(ビームウェスト)は、次式で求めることができる。
【0030】
【数2】

【0031】
線材の仕上げ圧延ラインで、前記多段圧延機をふくむ芯出し対象区間の長さを30mとし、この対象区間の中央部に前記レーザー投光部2を設置(配置)し、入側の受光器3aおよび出側の受光器3bの中心に前記集光レーザービームを投光(照射)した場合、圧延ラインの入側または出側までの投光(照射)距離L1は全長30mの1/2となる(L=15m)。出射レーザービーム(D0)を、前記測定対象区間の中央部と入側または出側の中間点(L1=L/4=7.5m)を焦点位置とする集光レーザービームとした場合、出射ビーム径D0をビームエキスパンダ光学系で3倍に拡大してD0=3mmとすると、上記式(3)により、集光レーザービーム直径(ビームウェスト)D1は、D1=2mmとなる。このビームウェスト直径D1が2mmに集光されたレーザービームは、図4に示したように、再び広がり、前記測定対象区間の入側または出側で、出射ビーム径D0と同じビーム径の3mmとなる。この試算例から、圧延ラインの芯ずれ量測定対象物の中を、レーザービームを2〜3mmのビーム直径で伝播させることも可能なことがわかる。
【0032】
図5は、圧延ラインの入側と出側の間に配置する他の実施形態の芯出し装置のレーザー投光部を示したもので、このレーザー投光部2は、同一軸上の反対方向に照射可能な一対のレーザー投光ユニット2d、2eを備え、このレーザー投光ユニット2d、2eの一方の投光ユニット2eに、レーザービームの照射方向の調整を可能とするために、水平方向と垂直方向に回転可能な2軸の回転機構を有する照射方向調整手段4aが設けられている。この照射方向調整手段4aによって、前記投光ユニット2d、2eからレーザービームが同一軸上で反対方向に照射されるように光軸調整される。このように光軸調整された前記投光ユニット2d、2eの光軸方向を一体に調整可能なように、照射方向調整手段4aと同様の2軸の回転機構を有する揺する方向調整手段4bが、前記照射方向調整手段4aの下側に設けられている。
【0033】
図6(a)は、線材の仕上げ圧延ライン1の装置(芯出し対象物)の配置を模式的に示したもので、図2(b)と同様の配置であるため、装置等の説明は省略する。図6(b)に示すように、仕上げ圧延ライン1の仕上げ圧延機5aと水冷帯6との中央部に、図5に示したレーザー投光部2を配置した。このレーザー投光部2は、照射方向調整手段4aにより、レーザー投光ユニット2dと2eとの光軸を同一軸上で反対方向に照射できるように光軸調整された後、圧延ラインの入側と出側の間の位置、例えば、圧延機5aと水冷帯6との間に配置されている。なお、レーザー投光部2を、その光軸が、必ずしも圧延ラインの中心軸CLに合致するように設置しなくてもよいが、レーザービームが芯出し対象物の内部を欠けが生じずに通過できる程度のずれ量に抑えておく必要がある。具体的には、圧延材の最小線径がおよそ5mmであるため、ずれ量は半径5mm以内にしておく必要がある。
【0034】
図6(b)に示したように、レーザー投光ユニット2dおよび2eの光軸を一体同時に調整する照射方向調整手段4bにより、出側のレーザー投光ユニット2dの光軸を、出側基準点8aに設置した受光器3bの中心に一致させる。このとき、レーザー投光部2の配置は圧延ラインの中心軸CLからややずれているため、レーザー投光ユニット2dの光軸LB1と圧延ラインの中心軸CLとは、図7に示すように、水平面内でxa、垂直面内でyaの角度をなす。次に、図6(c)に示すように、照射方向調整手段4bにより、レーザー投光ユニット2eの光軸LB2を入側の基準点8に設置した受光器3aの中心に一致させる。レーザー投光ユニット2dの光軸LB1が出側の基準点8aに一致した状態から、レーザー投光ユニット2eの光軸LB2を入側の基準点8に一致させるために、図7に示したように、水平面内でx(rad)、垂直面内でy(rad)の角度調整を行ない、このときの、入側の基準点8に一致した光軸LB2と圧延ラインの中心軸CLとのなす角度を、水平面内でxb(rad)、垂直面内でyb(rad)とする。レーザー投光部2から入側の基準点8および出側の基準点8aまでの距離をそれぞれa(m)、b(m)とすると、レーザー投光ユニット2d、2eの中心軸CLからの水平方向のずれ量c(m)、垂直方向のずれ量d(m)は、それぞれ次のようになる(図7参照)。
【0035】
【数3】

【0036】
入側の基準点8とレーザー投光部2との間にある芯ずれ量の測定対象物については、図8に示すように、基準点8からの距離をe(m) とすると、前記測定対象物がある位置でのレーザービームの中心軸CLからの水平方向のずれ量をf1(m)、垂直方向のずれ量g1(m)は、それぞれ次のようになる。
【0037】
【数4】

【0038】
また、出側の基準点6aとレーザー投光部2との間にある芯ずれ量の測定対象物については、図9に示すように、入側の基準点8からの距離をe(m) とすると、前記測定対象物がある位置でのレーザービームの中心軸CLからの水平方向のずれ量をf2(m)、垂直方向のずれ量g2(m)は、それぞれ次のようになる。
【0039】
【数5】

【0040】
図10に示すように、測定対象物を、例えば、入側の基準点8からe(m)の距離にある圧延機5aとし、この圧延機5aとレーザービームの水平方向のずれ量がh(m)であるとき、圧延機5aの中心軸CLからの水平方向の実際のずれ量ha(m)は、式(6)のレーザービームの中心軸CLからの水平方向のずれ量f1(m)を用いて、ha=h−f1で求めることができる。同様にして、圧延機5aの中心軸CLからの垂直方向の実際のずれ量垂直方向のずれ量も求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明は、金属材料の圧延ラインや多段圧延機などの芯出しに利用でき、とくに線材の仕上げ圧延ラインのように、その入側と出側の距離が長い場合および複数の多段圧延機が設置されている場合など、簡便で精度のよい芯出しに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】レーザービームの広がり角θとビーム直径Dとの関係を示す説明図である。
【図2】(a)実施形態の芯出し装置を多段圧延機に配置した説明図である。(b)上記芯出し装置のレーザー投光部の装置構成を示す説明図である。
【図3】他の実施形態のレーザー投光部の装置構成を示す説明図である。
【図4】(a)レーザービームの広がりを示す説明図である(コリメート光の場合)。(b)同上(集光レーザービームの場合)
【図5】他の実施形態のレーザービーム投光部の装置構成を示す説明図である。
【図6】(a)芯出しを行なう圧延ラインの装置構成を示す説明図である。(b)ビーム照射方向を出側基準点に一致させた状態を示す説明図である。(c)ビーム照射方向を入側基準点に一致させた状態を示す説明図である。
【図7】基準点に照射されたレーザービームの中心軸からのずれを示す説明図である。
【図8】測定対象物の位置(入側基準点側)でのレーザービームの中心軸からのずれを示す説明図である。
【図9】測定対象物の位置(出側基準点側)でのレーザービームの中心軸からのずれを示す説明図である。
【図10】測定対象物の芯ずれ量を示す説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1・・・多段圧延機
2・・・レーザー投光部
2a、2d、2e・・・レーザー投光ユニット
3a、3b・・・受光器
4a、4b・・・照射方向調整手段
5、5a・・・圧延機
6・・・水冷帯
7・・・ガイド
8、8a・・・基準点
CL・・・中心軸
LB、LB1、LB2・・・レーザービーム



【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源と、
このレーザー光源から照射されたレーザービームを検出する受光器と、
前記レーザー光源の照射方向の調整を可能とする照射方向調整手段とを備え、
前記受光器から出力される出力映像信号を処理して検出したレーザービームの中心位置に基づいて芯出しを行なう圧延ラインの芯出し装置であって、
前記レーザー光源が圧延ラインの入側と出側の間に配置され、前記受光器が圧延ラインの入側および/または出側に圧延ラインの中心軸に沿って配置され、前記照射方向調整手段が、レーザービームを前記入側と出側の対向する2方向に順番に照射してそれらの光軸が一致するように調整可能な機能を有し、この調整された2方向のレーザービームの光軸をそれぞれ前記中心軸に合致させ、この光軸を基準線として芯出しを行なうようにしたことを特徴とする圧延ラインの芯出し装置。
【請求項2】
レーザー光源と、
このレーザー光源から照射されたレーザービームを検出する受光器と、
前記レーザー光源の照射方向の調整を可能とする照射方向調整手段とを備え、
前記受光器から出力される出力映像信号を処理して検出したレーザービームの中心位置に基づいて芯出しを行なう圧延ラインの芯出し装置であって、
前記レーザー光源が圧延ラインの入側と出側の間に配置され、前記受光器が圧延ラインの入側および/または出側に圧延ラインの中心軸に沿って配置され、前記照射方向調整手段が、ビームスプリッタを備えてレーザービームを前記入側と出側の対向する2方向に分岐・照射し、それらの光軸が一致するように調整可能な機能を有し、この調整された2方向のレーザービームの光軸を圧延ラインの中心軸に合致させ、この光軸を基準線として芯出しを行なうようにしたことを特徴とする圧延ラインの芯出し装置。
【請求項3】
レーザー光源と、
このレーザー光源から照射されたレーザービームを検出する受光器と、
前記レーザー光源の照射方向の調整を可能とする照射方向調整手段とを備え、
前記受光器から出力される出力映像信号を処理して検出したレーザービームの中心位置に基づいて芯出しを行なう圧延ラインの芯出し装置であって、
前記レーザー光源が圧延ラインの入側と出側の間に配置され、前記受光器が圧延ラインの入側および/または出側に圧延ラインの中心軸に沿って配置され、前記レーザー光源が、同一軸上の反対方向に照射可能な一対のレーザー投光ユニットを備え、このレーザー投光ユニットの少なくとも一方に前記照射方向調整手段(4a)を設けて互いに反対方向に照射されたレーザービームのそれぞれの光軸を一致させ、前記一対のレーザー投光ユニットに、さらに前記照射方向調整手段(4b)を設けて、互いに反対方向に照射されたレーザービームのそれぞれの光軸を前記中心軸に対して調整できるようにしたことを特徴とする圧延ラインの芯出し装置。
【請求項4】
レーザー光源の照射方向の調整を可能とする照射方向調整手段を備えたレーザー光源を圧延ラインの入側と出側の間に配置し、このレーザー光源から照射されたレーザービームを検出する受光器を圧延ラインの入側および/または出側にその中心軸に沿って配置し、まず、前記レーザー光源からレーザービームを圧延ラインの出側または入側方向に照射し、その光軸を前記照射方向調整手段により前記中心軸に合致させた後、前記照射方向調整手段により、前記レーザー光源の照射方向を反転させてレーザービームを圧延ラインの入側または出側方向に照射してそのレーザービームの光軸を圧延ラインの中心軸に合致させ、これらの合致させたレーザービームの光軸を基準線として圧延ラインの対象物の芯ずれ量を測定するようにした圧延ラインの芯ずれ測定方法。
【請求項5】
レーザービームの照射方向調整手段(4a)を少なくとも一方に設けて同一軸上の反対方向に照射を可能とした一対のレーザー投光ユニットを備え、前記一対のレーザー投光ユニットにその光軸を同時に調整する照射方向調整手段(4b)を設けて形成したレーザー光源を圧延ラインの入側と出側の間に配置し、前記レーザー光源から照射されたレーザービームを受光する受光器を圧延ラインの出側および/または入側にその中心軸に沿った基準点に配置し、まず、前記照射方向調整手段(4a)により、前記一対のレーザー投光ユニットから互いに反対方向に照射されたレーザービームの光軸を一致させた後、前記照射方向調整手段(4b)により、前記一方のレーザー投光ユニットから照射したレーザービームの中心を圧延ラインの出側または入側に設けた基準点に一致させた後、他方のレーザー投光ユニットから照射したレーザービームの中心を圧延ラインの入側または出側に設けた基準点に一致させ、この一致させる過程で、前記照射方向調整手段(4b)を水平方向および垂直方向に回転させた角度を測定し、これらの回転角度を用いてレーザービームの中心からの芯出し対象物の水平方向および垂直方向のずれ量をそれぞれ算出し、このずれ量を補正して芯出し対象物の圧延ラインの中心軸からの芯ずれ量を求める圧延ラインの芯ずれ測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−55861(P2006−55861A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237489(P2004−237489)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】