説明

圧縮成形機の制御方法

【課題】 オーバロードの防止による油圧ポンプの無用な停止の回避,油圧ポンプの耐久性向上及び制御の安定化を図るとともに、油圧ポンプの小型化,コストダウン,設置スペースの縮小及び消費電力の低下を実現する。
【解決手段】 油圧ポンプ3に、少なくとも大流量の固定吐出流量Qmとこの大流量よりも小さい小流量の固定吐出流量Qsを設定可能な油圧ポンプを使用し、予め、加圧工程Spにおける目標圧力Psを設定するとともに、加圧工程Spにおける加圧圧力Ppに対して固定吐出流量Qm又はQsを切換えるための切換条件を設定し、加圧工程Sp中に、加圧圧力Ppを監視し、当該加圧圧力Ppが切換条件を満たさないときは、大流量の固定吐出流量Qmに切換えて加圧圧力Ppに対する圧力制御を行い、かつ当該加圧圧力Ppが切換条件を満たしたときは、小流量の固定吐出流量Qsに切換えて加圧圧力Ppに対する圧力制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型のキャビティに充填した成形材料を油圧ポンプの油圧により加圧して圧縮成形を行う際に用いて好適な圧縮成形機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金型のキャビティに充填した成形材料を油圧ポンプの油圧により加圧して圧縮成形を行う加圧工程を有する圧縮成形機としては、特許文献1に開示される圧縮成形機が知られている。
【0003】
同文献1に開示される圧縮成形機は、型締シリンダのラムの位置制御と型締シリンダ内の圧力制御を行うことにより、金型内に供給した熱硬化性樹脂を加熱して流動性を与え、圧縮延伸及びガス抜きをしながら硬化させ、成形を行う竪型の型締装置よりなる油圧制御回路、特に、可変容量型ポンプと方向流量制御弁の組合わせによるロードセンシング制御の回路を用いて上記の位置制御を行う油圧回路を搭載したものである。そして、成形時には、原料(樹脂)が供給された金型を閉鎖しながら樹脂を圧縮し延伸させて成形品を形成するとともに、その後、一旦型を少し開いて硬化時に副生する揮発性のガスを抜き、再度型締して再加圧するという、いわば加圧圧力に対しては圧力の多段制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3014863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の圧縮成形機(油圧回路)の制御方法は、次のような問題点があった。
【0006】
第一に、圧縮成形機の全動作に対して一台の油圧ポンプを使用するため、油圧ポンプの能力(容量)は圧縮成形機の全動作(最大負荷)に対応させる必要があり、例えば、可動型を含む可動盤等の昇降動作に要求される応答性等を含む駆動能力を確保できる能力(容量)が必要になる。したがって、大型の油圧ポンプが必要になり、コストアップ,設置スペースの拡大及び消費電力の増加を招く。特に、油圧ポンプの駆動にサーボモータを使用する場合には、サーボモータが高価になるのみならず、付属のサーボ回路(サーボアンプ)が大容量化(大電流化)し、サーボ回路の耐電力性等の確保により全体のコストが累進的に増大する。
【0007】
第二に、一台の油圧ポンプを圧縮成形機の全動作に使用することから、動作に対して油圧ポンプの能力が適合しない領域が発生しやすい。即ち、モータは高出力(定格出力の130〔%〕)であっても短時間であれば問題を生じないとともに、一方、油圧ポンプに大流量が要求される領域は短時間であることも多いため、通常、この点を考慮して、油圧ポンプは必要最小限の容量に選定されるが、型締シリンダのラムがほとんど移動せず、かつ加圧圧力が所定時間維持される保圧領域等の時間が長くなったような場合には、油圧ポンプのモータがオーバロードとなり、制御の不安定化、油圧ポンプの無用な停止(トリップ)、更には油圧ポンプの耐久性(寿命)低下を招く虞れがある。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した圧縮成形機の制御方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る圧縮成形機Mの制御方法は、上述した課題を解決するため、金型2のキャビティCに充填した成形材料Rを油圧ポンプ3の油圧により加圧して圧縮成形を行う加圧工程Spにおいて、油圧ポンプ3に、少なくとも大流量の固定吐出流量Qmとこの大流量よりも小さい小流量の固定吐出流量Qsを設定可能な油圧ポンプを使用し、予め、加圧工程Spにおける目標圧力Psを設定するとともに、加圧工程Spにおける加圧圧力Ppに対して固定吐出流量Qm又はQsを切換えるための切換条件を設定し、加圧工程Sp中に、加圧圧力Ppを監視し、当該加圧圧力Ppが切換条件を満たさないときは、大流量の固定吐出流量Qmに切換えて加圧圧力Ppに対する圧力制御を行い、かつ当該加圧圧力Ppが切換条件を満たしたときは、小流量の固定吐出流量Qsに切換えて加圧圧力Ppに対する圧力制御を行うことを特徴とする。
【0010】
この場合、発明の好適な態様により、切換条件は、加圧圧力Ppが、予め設定したリミット圧力PLよりも低い圧力に設定した切換設定圧力Pcを超えたことを条件に設定することができる。この際、切換設定圧力Pcは、リミット圧力PLの75〜95〔%〕の範囲から選定することができるとともに、目標圧力Psは、時間に対して多段に設定することができる。また、切換条件は、加圧継続時間が、設定した切換設定時間Tcを超えることを条件に設定することもできる。さらに、油圧ポンプ3には、斜板角Ksの変更により固定吐出流量Qm,Qsを設定可能な可変吐出型油圧ポンプ3sを用いてもよいし、或いは、固定吐出流量Qm,Qsをそれぞれ設定可能な複数の油圧ポンプ部3a,3bを用いてもよい。なお、加圧圧力Ppに対する圧力制御は、油圧ポンプ3を駆動するサーボモータ4の回転数を可変制御して行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
このような手法による本発明に係る圧縮成形機Mの制御方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0012】
(1) 加圧工程Sp中に、加圧圧力Ppが切換条件を満たさないときは、大流量の固定吐出流量Qmに切換えて加圧圧力Ppに対する圧力制御を行い、かつ当該加圧圧力Ppが切換条件を満たしたときは、小流量の固定吐出流量Qsに切換えて加圧圧力Ppに対する圧力制御を行うようにしたため、大流量の固定吐出流量Qmにより加圧圧力Ppが長く継続する動作を回避することができる。これにより、油圧ポンプ3のモータにおけるオーバロードを防止し、油圧ポンプ3の無用な停止(トリップ)を回避できるとともに、油圧ポンプ3の耐久性(寿命)向上及び制御の安定化を図ることができる。
【0013】
(2) 油圧ポンプ3に、少なくとも大流量の固定吐出流量Qmとこの大流量よりも小さい小流量の固定吐出流量Qsを設定可能な油圧ポンプを使用するため、加圧工程Spにおける加圧状態に対応して、大流量の固定吐出流量Qm(大容量ポンプ)と小流量の固定吐出流量Qs(小容量ポンプ)の使い分けが可能になる。この結果、これらに対応できる必要最小限の能力(容量)を有する油圧ポンプ3で足り、油圧ポンプ3の小型化、更には、コストダウン,設置スペースの縮小及び消費電力の低下を実現することができる。
【0014】
(3) 好適な態様により、切換条件として、加圧圧力Ppが、予め設定したリミット圧力PLよりも小さい圧力に設定した切換設定圧力Pcを超えたことを条件に設定すれば、目標圧力Psの手前で切換可能となるため、圧力制御の安定性向上に寄与できる。特に、切換設定圧力Pcを、リミット圧力PLの75〜95〔%〕の範囲から選定すれば、目標圧力Psの手前で切換える際の最適化を図ることができる。
【0015】
(4) 好適な態様により、目標圧力Psを、時間に対して多段に設定すれば、本発明に係る制御方法を実施した際に、本発明の有効性を確保する観点からより高いパフォーマンスを得ることができる。
【0016】
(5) 好適な態様により、切換条件として、加圧継続時間が、設定した切換設定時間Tcを超えたことを条件に設定すれば、油圧ポンプ3を駆動するモータのオーバロードをより確実に防止することができるとともに、加圧圧力Ppを付加する際のモータの時間的な使用限界を設定できるため、応答性及び制御性等を高める観点からより最適化を図ることができる。
【0017】
(6) 好適な態様により、油圧ポンプ3に、斜板角Ksの変更により固定吐出流量Qm,Qsを設定可能な可変吐出型油圧ポンプ3sを用いれば、一台の可変吐出型油圧ポンプ3sにより実施できるため、固定吐出流量QmとQsの切換を円滑に行うことができるとともに、本発明に係る制御方法の実施に用いる油圧回路全体の小型化に寄与できる。
【0018】
(7) 好適な態様により、油圧ポンプ3に、固定吐出流量Qm,Qsをそれぞれ設定可能な複数の油圧ポンプ部3a,3bを用いれば、単純構造の油圧ポンプ部3a,3bの組合わせにより実施できるため、全体の低コスト化及び制御の多様化に寄与できる。
【0019】
(8) 好適な態様により、加圧圧力Ppに対する圧力制御を、油圧ポンプ3を駆動するサーボモータ4の回転数を可変制御して行うようにすれば、インバータ制御と同様の効果(作用)により省エネルギ性を高めることができるとともに、本発明に係る制御方法を容易かつ確実に実施することができ、もって、同制御方法による作用効果をより有効に享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の好適実施形態に係る圧縮成形機の制御方法を用いた際の時間に対する加圧圧力の変化と固定吐出流量の関係を示す特性図、
【図2】同制御方法の処理手順を説明するためのフローチャート、
【図3】同制御方法を実施できる圧縮成形機の油圧駆動部を含む構成図、
【図4】同圧縮成形機における油圧駆動部のブロック回路図、
【図5】本発明の変更実施形態に係る制御方法の実施に用いる圧縮成形機の油圧駆動部を抽出して示す構成図、
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
まず、本実施形態に係る制御方法を実施できる圧縮成形機の構成について、図3及び図4を参照して説明する。
【0023】
図3において、Mは圧縮成形機であり、上側に配した固定盤11と下側に配した可動盤12を備える。また、2は、固定型(上型)2cと可動型(下型)2mからなる金型であり、固定型2cは固定盤11の下面に取付けるとともに、可動型2mは可動盤12の上面に取付ける。さらに、13は機台であり、この機台13の上に設置した型締シリンダユニット14を備える。型締シリンダユニット14は上端面から上方に突出するラム部15を備え、このラム部15の上端により可動盤12の下面が支持される。型締シリンダユニット14は、最外郭に位置するアウタシリンダ部22s及びこのアウタシリンダ部22sの内部に挿通させた上記ラム部15からなる高圧シリンダ22と、ラム部15の内部に形成したインナシリンダ部23s及びこのインナシリンダ部23sの内部に挿通させたブースタラム23rからなる高速シリンダ23とにより構成する。なお、ブースタラム23rは、内部に貫通した油通路23fを有する。
【0024】
これにより、可動盤12は型締シリンダユニット14により昇降移動し、上昇した際には可動型2mが固定型2cに当接(圧接)する型閉(型締)が行われるとともに、下降した際には可動型2mが固定型2cから離間する型開が行われる。その他、下降した可動型2mの近傍には、成形材料Rを計量して可動型2m側のキャビティCに供給する材料供給部25を配設するとともに、成形後に型開した可動型2m側のキャビティCから成形品を取出す成形品取出部26を配設する。さらに、可動型2mに付着した成形品の突き出しを行う図示を省略した突出し機構等を備えている。
【0025】
一方、31は油圧駆動部であり、主要部として、油圧駆動源となる可変吐出型油圧ポンプ3s(油圧ポンプ3)及び切換バルブ回路32を備える。可変吐出型油圧ポンプ3sは、ポンプ部33とこのポンプ部33を回転駆動するサーボモータ4を備え、このサーボモータ4の回転数を可変制御して吐出流量及び吐出圧力を制御できる。この場合、サーボモータ4はサーボ回路(サーボアンプ)4a(図4)に接続した交流サーボモータを用いるとともに、サーボモータ4には、このサーボモータ4の回転数を検出するロータリエンコーダ4eが付設されている。このように、油圧ポンプ3を駆動するサーボモータ4の回転数を可変制御して吐出流量及び吐出圧力、更には金型2(可動型2m)に付加する加圧圧力Ppを制御するようにすれば、インバータ制御と同様の効果(作用)により省エネルギ性を高めることができるとともに、本発明に係る制御方法を容易かつ確実に実施することができ、もって、同制御方法による作用効果をより有効に享受できる利点がある。
【0026】
また、ポンプ部33は、斜板型ピストンポンプにより構成するポンプ機体34を内蔵する。したがって、ポンプ部33は、斜板35を備え、斜板35の傾斜角となる斜板角Ksを大きくすれば、ポンプ機体34におけるポンプピストンのストロークが大きくなり、吐出流量が増加するとともに、斜板角Ksを小さくすれば、同ポンプピストンのストロークが小さくなり、吐出流量が減少する。よって、斜板角Ksを所定の角度に設定することにより、吐出流量が所定の大きさに固定される固定吐出流量Qm,Qs、即ち、大流量の固定吐出流量Qmとこの大流量よりも小さい小流量の固定吐出流量Qsを設定することができる。このため、斜板35には、斜板切換シリンダ36及び戻しスプリング37を付設するとともに、斜板切換シリンダ36は、切換バルブ(電磁バルブ)38を介してポンプ部33(ポンプ機体34)の吐出口に接続する。これにより、斜板35の角度は、斜板切換シリンダ36により切換えることができる。さらに、ポンプ部33の吐出口には当該ポンプ部33の吐出圧力を検出する圧力センサ51を接続するとともに、アウタシリンダ部22sの後油室22srには、当該後油室22srの圧力、即ち、加圧圧力Ppを検出する圧力センサ52を絞り39を介して接続する。
【0027】
ところで、可変吐出型油圧ポンプ3sは、サーボモータ4の回転数を可変制御して吐出流量及び吐出圧力を可変するため、斜板角Ksにより設定する固定吐出流量Qm,Qsは、制御時に変動しないように固定する必要があるとともに、他方、固定吐出流量の切換は、非制御時における僅かな期間に行う必要がある。このため、上述したように、斜板切換シリンダ36を切換バルブ38を介してポンプ部33(ポンプ機体34)の吐出口に接続し、この切換バルブ38の開閉制御により斜板角Ksの変更を行っており、この場合、選択できる斜板角Ksは大小二つの角度となる。このような可変吐出型油圧ポンプ3sを使用すれば、一台の可変吐出型油圧ポンプ3sにより実施できるため、固定吐出流量QmとQsの切換を円滑に行うことができるとともに、本発明に係る制御方法の実施に用いる油圧回路全体の小型化に寄与できる利点がある。
【0028】
他方、ポンプ部33の吐出口は、切換バルブ回路32の一次側流入ポートに接続するとともに、ポンプ部33の吸入口は、オイルタンク40に接続する。さらに、切換バルブ回路32の一次側流出ポートは、図3に示すように、フィルタ部41を介してオイルタンク40に接続する。一方、切換バルブ回路32の複数の二次側ポートは、型締シリンダユニット14における高圧シリンダ22(アウタシリンダ部22s)の前油室22sf及び後油室22sr、更に、高速シリンダ23(ブースタラム23r)の油通路23fにそれぞれ接続する。したがって、切換バルブ回路32には、図4に示すように、主要なバルブとして、高圧シリンダ22に接続した切換バルブ(電磁バルブ)32x,高速シリンダ23に接続した切換バルブ(電磁バルブ)32y,高圧シリンダ22及び高速シリンダ23と油圧ポンプ3s間に接続した切換バルブ(電磁バルブ)32zを備えている。なお、各切換バルブ32x,32y及び32zは、それぞれ一又は二以上のバルブ部品をはじめ、必要な付属油圧部品等により構成され、少なくとも、高圧シリンダ22及び高速シリンダ23に対する作動油の供給,停止,排出に係わる切換機能を有する。
【0029】
また、61は成形機コントローラを示す。図4に示すように、成形機コントローラ61には、サーボ回路4aを介してサーボモータ4を接続するとともに、サーボモータ4に付設されたロータリエンコーダ4eは、サーボ回路4aに接続する。さらに、各切換バルブ32x,32y及び32zは成形機コントローラ61に接続するとともに、圧力センサ51,52及び切換バルブ38も成形機コントローラ61に接続する。成形機コントローラ61は圧縮成形機M全体の制御を司るコンピュータ機能を備えており、各種シーケンス制御を含む制御処理及び演算処理を実行するとともに、特に、本発明に係る制御方法を実行するための制御プログラム(処理プログラム)を格納する。
【0030】
次に、本実施形態に係る圧縮成形機Mの制御方法について、図1〜図4を参照して具体的に説明する。
【0031】
まず、予め、異なる二つの固定吐出流量Qm,Qs、即ち、大流量の固定吐出流量Qmとこの大流量よりも小さい小流量の固定吐出流量Qsを設定する。二つの固定吐出流量Qm,Qsにおいて、小流量の固定吐出流量Qsは、標準となる吐出流量を設定する。したがって、斜板角Ksは、比較的小さい角度(小容量側)に設定される。これに対して、大流量の固定吐出流量Qmは、小流量の固定吐出流量Qsよりも大きく設定、具体的には、固定吐出流量Qsの2倍程度に設定できる。したがって、斜板角Ksは、比較的大きい角度(大容量側)に設定される。特に、大流量の固定吐出流量Qmを用いる動作は、短時間で終了する場合も少なくないため、比較的長時間続く場合には、サーボモータ4に対して悪影響を与える虞れがあっても、比較的短時間(数秒程度)であれば、サーボモータ4に対してはほとんど悪影響を与えない吐出流量を設定可能であり、具体的には、サーボモータ4の出力が定格出力の130〔%〕程度となる大容量側に設定できる。
【0032】
また、加圧工程中における加圧圧力Ppの大きさに対応して固定吐出流量Qm又はQsを切換えるための切換条件を設定する。切換条件は、加圧圧力Ppがリミット圧力PLよりも低い圧力に設定した切換設定圧力Pcを超えることを条件に設定する。切換条件として、このような切換設定圧力Pcにより設定すれば、目標圧力Psの手前で切換可能となるため、圧力制御の安定性向上に寄与できる利点がある。この切換設定圧力Pcは、リミット圧力PLの75〜95〔%〕の範囲から選定することが望ましい。これにより、目標圧力Psの手前で切換える際の最適化を図ることができる。図1のPpは、加圧工程の時間〔秒〕に対する加圧圧力Pp〔MPa〕(検出値)の変化特性を示す。例示の場合、リミット圧力PLを20〔MPa〕、目標圧力Psを18〔MPa〕、切換設定圧力Pcを17〔MPa〕にそれぞれ設定している。したがって、切換設定圧力Pcはリミット圧力PLの85〔%〕となる。さらに、例示の場合、目標圧力Psは、時間に対して多段に設定する。即ち、一段目は、目標圧力Psを設定し、二段目は、圧抜きを行うとともに、加圧解除時間を設け、三段目は、目標圧力Psよりも低い予備圧力Psfを設定し、四段目は、目標圧力Psを設定する。
【0033】
以下、本実施形態に係る制御方法を用いた加圧工程を含む圧縮成形機Mの成形工程の処理手順について、各図を参照しつつ図2に示すフローチャートに従って説明する。
【0034】
まず、金型2は、図3に示すように、可動型2mが下降した型開位置にあり、可動型2m及び固定型2cは、共に不図示の加熱装置により樹脂溶融温度に加熱されている。最初に、材料供給部25において、成形材料(熱硬化性樹脂等)Rが計量されるとともに、この材料供給部25から可動型2m側のキャビティC内に、計量された成形材料Rが供給される(ステップS1)。次いで、成形機コントローラ61により、切換バルブ回路32が切換制御され、高速シリンダ23が駆動制御されることにより、可動型2mが高速で上昇する型閉工程が行われる(ステップS2)。そして、可動型2mが設定された所定の型閉位置に達すれば、成形機コントローラ61により、切換バルブ回路32が切換制御され、高圧シリンダ22が駆動制御されることにより、金型2(可動型2m)が加圧される加圧工程Sp(ステップS3〜S7)が行われる。加圧工程Spでは、基本的な動作として、金型2内に充填された成形材料Rが加圧圧力Ppにより加圧されることにより圧縮成形される。
【0035】
この場合、加圧工程Spが開始する時点(図1中、ts時点)では、加圧圧力Ppは0付近である。したがって、切換条件である、「加圧圧力Ppがリミット圧力PLよりも低い圧力に設定した切換設定圧力Pcを超えること」の条件を満たしていないため、可変吐出型油圧ポンプ3sは、大流量となる固定吐出流量Qmに切換えられている(ステップS3)。即ち、成形機コントローラ61から切換バルブ38に対して切換信号が付与され、斜板35の角度が大きい斜板角Ks(大流量側)に切換えられている。これにより、可変吐出型油圧ポンプ3sは、大流量となる固定吐出流量Qmを吐出する大容量の油圧ポンプ3として作動し、加圧圧力Ppに対して応答性の高い安定した圧力制御が可能となる。
【0036】
一方、加圧工程Spが進行する従って可動型2m(金型2)が加圧される。これにより、加圧圧力Ppは上昇し、目標圧力Psに達する手前で切換設定圧力Pcに達する(ステップS4)。図1中、t1時点が切換設定圧力Pcに達した時点を示している。これにより、「加圧圧力Ppが切換設定圧力Pcを超えること」の条件が満たされるため、成形機コントローラ61から切換バルブ38に対して切換信号が付与され、斜板35の角度が小さい斜板角Ks(小流量側)に切換えられる。よって、可変吐出型油圧ポンプ3sは、小流量となる固定吐出流量Qsに設定された小容量の油圧ポンプ3として作動する(ステップS5)。この後、加圧圧力Ppは目標圧力Psに達するため、小容量の可変吐出型油圧ポンプ3sにより加圧圧力Ppに対する圧力制御が行われ、加圧圧力Ppは目標圧力Psとなるように一定に維持される。
【0037】
また、目標圧力Psによる圧縮成形は、予め設定した加圧時間に従って行われるため、この加圧時間が経過すれば、加圧圧力Ppが下降する圧力制御が行われるとともに、加圧圧力Ppは直後に切換設定圧力Pcに到達する。図1中、t2時点が切換設定圧力Pcに達した時点を示している。これにより、「加圧圧力Ppが切換設定圧力Pcを超えること」の条件を満たさなくなるため、成形機コントローラ61から切換バルブ38に対して切換信号が付与され、斜板35の角度が大きい斜板角Ks(大流量側)に切換えられる(ステップS6,S7,S3)。これにより、可変吐出型油圧ポンプ3sは、大流量となる固定吐出流量Qmを吐出する大容量の油圧ポンプ3として作動する。この後、加圧圧力Ppは目標の下降圧力まで低下する。これにより、一段目の圧縮成形処理が終了する。
【0038】
そして、この後、僅かな型開を行い、必要なガス抜き処理等を行うとともに(二段目)、予め設定した加圧解除時間が経過すれば、三段目の圧縮成形処理が行われる。三段目の圧縮成形処理では、最初に目標圧力Psよりも低圧となる予備圧力Psfが付与される。三段目における加圧圧力Ppは、切換設定圧力Pcまでは到達しないため、大流量となる固定吐出流量Qmが設定されたままとなる(ステップS3〜S6)。この後、予め設定した加圧時間が経過すれば、四段目の圧縮成形処理が行われる(ステップS6,S7,S3)。この場合、基本的には、一段目の圧縮成形処理と同様の処理が行われる(ステップS3〜S6)。図1中、t3時点は、加圧圧力Ppが上昇して切換設定圧力Pcに達した時点を示すとともに、t4時点は、加圧圧力Ppが目標圧力Psから下降して切換設定圧力Pcに達した時点を示す。このように、目標圧力Psを、時間に対して多段に設定すれば、本発明に係る制御方法を実施した際に、本発明の有効性を確保する観点からより高いパフォーマンスを得ることができる。特に、加圧時間の経過により設定段数が変更になる場合、このタイミングで大流量となる固定吐出流量Qmが設定されるため、制御の応答性が高められる。
【0039】
一方、加圧工程Spが終了すれば、成形機コントローラ61により切換バルブ回路32が切換制御され、高速シリンダ23が駆動制御されることにより、可動型2mが高速で下降する型開工程が行われる(ステップS8)。そして、可動型2mが所定の型開位置に達すれば、停止制御が行われる。この後、成形品の取出工程が行われる(ステップS9)。成形品の取出工程では、不図示の突出し機構により成形品の突き出しが行われ、成形品取出部26により、型開した可動型2m側のキャビティCから成形品の取出しが行われる。以降は、生産計画が終了するまで、同様の動作(処理)が繰り返される(ステップS10,S1…)。
【0040】
よって、このような本実施形態に係る制御方法によれば、加圧工程Sp中に、加圧圧力Ppが切換条件を満たさないときは、大流量の固定吐出流量Qmに切換えて加圧圧力Ppに対する圧力制御を行い、かつ当該加圧圧力Ppが切換条件を満たしたときは、小流量の固定吐出流量Qsに切換えて加圧圧力Ppに対する圧力制御を行うようにしたため、大流量の固定吐出流量Qmにより加圧圧力Ppが長く継続する動作を回避することができる。これにより、油圧ポンプ3のモータにおけるオーバロードを防止し、油圧ポンプ3の無用な停止(トリップ)を回避できるとともに、油圧ポンプ3の耐久性(寿命)向上及び制御の安定化を図ることができる。また、油圧ポンプ3に、少なくとも大流量の固定吐出流量Qmとこの大流量よりも小さい小流量の固定吐出流量Qsを設定可能な油圧ポンプを使用するため、加圧工程Spにおける加圧状態に対応して、大流量の固定吐出流量Qm(大容量ポンプ)と小流量の固定吐出流量Qs(小容量ポンプ)の使い分けが可能になる。この結果、これらに対応できる必要最小限の能力(容量)を有する油圧ポンプ3で足り、油圧ポンプ3の小型化、更には、コストダウン,設置スペースの縮小及び消費電力の低下を実現することができる。
【0041】
他方、図5は本発明の変更実施形態に係る圧縮成形機M(制御方法)の特に油圧駆動部を抽出して示す。図3及び図4は、油圧ポンプ3として、斜板角Ksの変更により固定吐出流量Qm,Qsを設定可能な可変吐出型油圧ポンプ3sを用いた場合を示したが、図5は、油圧ポンプ3に、固定吐出流量Qm,Qsをそれぞれ設定可能な二つの油圧ポンプ部3a,3bを用いた場合を示す。したがって、例示の場合、油圧ポンプ部3aに固定吐出流量Qmが設定され、油圧ポンプ部3bに固定吐出流量Qsが設定される。そして、この油圧ポンプ部3aと3bの選択又は合流は切換バルブ回路32で行われる。図5に示す油圧ポンプ3の構成は図3の可変吐出型油圧ポンプ3sを二台使用した場合を示している。このため、各斜板35…の斜板角Ksを変更することにより油圧ポンプ部3a…単位で固定吐出流量を設定することも可能であり、油圧ポンプ3全体として、より細分化した固定吐出流量を設定できる。その他、図5において、図3と同一部分には同一符号を付してその構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。このように、油圧ポンプ3に、固定吐出流量Qm,Qsをそれぞれ設定可能な複数の油圧ポンプ部3a,3bを用いれば、単純構造の油圧ポンプ部3a,3bの組合わせにより実施できるため、全体の低コスト化及び制御の多様化に寄与できる利点がある。なお、サーボモータ4を一台使用し、一台のサーボモータ4の回転をそれぞれ各ポンプ機体34,34の回転軸に伝達するように構成することも可能である。
【0042】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,手法,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、二つの固定吐出流量Qm,Qsを設定する場合を例示したが、三つ以上の固定吐出流量Qm…に設定する場合を排除するものではない。また、切換条件として、加圧圧力Ppが目標圧力Psよりも低い圧力に設定した切換設定圧力Pcを超えることを条件に設定した場合を示したが、他の切換条件としては、加圧継続時間が、設定した切換設定時間Tcを超えることを条件に設定してもよい。切換条件を、切換設定時間Tcにより設定すれば、油圧ポンプ3を駆動するモータのオーバロードをより確実に防止することができるとともに、加圧圧力Ppを付加する際のモータの時間的な使用限界を設定できるため、応答性及び制御性等を高める観点からより最適化を図ることができる利点がある。さらに、切換条件を満たすか否かを監視する加圧圧力Ppは、実際の検出値が望ましいが、設定値を利用することも可能である。なお、例示した二台の油圧ポンプ部3a,3bは容量が異なってもよいし同一であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る制御方法は、金型のキャビティに充填した成形材料を油圧ポンプの油圧により加圧して圧縮成形を行う圧縮成形機に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
M:圧縮成形機,2:金型,3:油圧ポンプ,3s:可変吐出型油圧ポンプ,3a:油圧ポンプ部,3b:油圧ポンプ部,4:サーボモータ,R:成形材料,C:キャビティ,Sp:加圧工程,Pp:加圧圧力,Ps:目標圧力,Pc:切換設定圧力,PL:リミット圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティに充填した成形材料を油圧ポンプの油圧により加圧して圧縮成形を行う加圧工程における圧縮成形機の制御方法において、前記油圧ポンプに、少なくとも大流量の固定吐出流量とこの大流量よりも小さい小流量の固定吐出流量を設定可能な油圧ポンプを使用し、予め、加圧工程における目標圧力を設定するとともに、加圧工程における加圧圧力に対して前記固定吐出流量を切換えるための切換条件を設定し、加圧工程中に、加圧圧力を監視し、当該加圧圧力が前記切換条件を満たさないときは、前記大流量の固定吐出流量に切換えて加圧圧力に対する圧力制御を行い、かつ当該加圧圧力が前記切換条件を満たしたときは、前記小流量の固定吐出流量に切換えて加圧圧力に対する圧力制御を行うことを特徴とする圧縮成形機の制御方法。
【請求項2】
前記切換条件は、加圧圧力が、予め設定したリミット圧力よりも低い圧力に設定した切換設定圧力を超えたことを条件に設定することを特徴とする請求項1記載の圧縮成形機の制御方法。
【請求項3】
前記切換設定圧力は、前記リミット圧力の75〜95〔%〕の範囲から選定することを特徴とする請求項2記載の圧縮成形機の制御方法。
【請求項4】
前記目標圧力は、時間に対して多段に設定することを特徴とする請求項2又は3記載の圧縮成形機の制御方法。
【請求項5】
前記切換条件は、加圧継続時間が、設定した切換設定時間を超えたことを条件に設定することを特徴とする請求項1記載の圧縮成形機の制御方法。
【請求項6】
前記油圧ポンプは、斜板角の変更により前記固定吐出流量を設定可能な可変吐出型油圧ポンプを用いることを特徴とする請求項1記載の圧縮成形機の制御方法。
【請求項7】
前記油圧ポンプは、前記固定吐出流量をそれぞれ設定可能な複数の油圧ポンプ部を用いることを特徴とする請求項1記載の圧縮成形機の制御方法。
【請求項8】
前記加圧圧力に対する圧力制御は、前記油圧ポンプを駆動するサーボモータの回転数を可変制御して行うことを特徴とする請求項1,6又は7記載の圧力成形機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−93139(P2011−93139A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247449(P2009−247449)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】